(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、内部電極層と異なる層に応力緩和層を形成された従来の圧電素子の例として、
図9、
図10に示すような圧電素子が挙げられる。
図9および
図10において、(a)、(b)は、それぞれ斜視図および側断面図を示している。
図9に示す圧電素子800は、圧電層810と内部電極820、825とが交互に積層されて形成されている。応力緩和層840は、異なる極性の内部電極820と内部電極825との間に、圧電素子800の外周に接してその一周にわたり設けられている。内部電極820は、応力緩和層840が接する外部電極850に接続され、内部電極825は、外部電極850とは異なる極性の外部電極855に接続されている。
【0006】
一方、
図10に示す圧電素子900は、圧電層910と内部電極920、925とが交互に積層されて形成されている。積層方向に隣り合う内部電極925の間に、圧電素子900の外周の一周にわたり応力緩和層940が設けられている。いずれの内部電極925も、同じ外部電極955に接続されている。
【0007】
上記のような応力緩和層はポーラスな材質であったり、あらかじめ亀裂を生成したものである。そして、このような応力緩和層をまたいで圧電素子の側面上に外部電極が形成されている。したがって、外部電極をスクリーン印刷で形成する場合、電極ペーストが応力緩和層に入り込む危険性がある。また、その後外部電極にリード線を接続するときの半田にクリーム半田を使用した場合、半田が応力緩和層に入り込む危険性がある。
【0008】
応力緩和層に導電性材料が入り込んだ場合、応力緩和層は外部電極と同極の極性を持ち、上下の内部電極との間でマイグレーションを起こしやすくなり、マイグレーションを起こせばそこが破壊の起点となってしまう。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、応力緩和層からのマイグレーションを防止でき、そこが破壊の起点となるのを防止できる圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の圧電素子は、圧電層と内部電極とが交互に積層され、電圧の印加により伸縮する圧電素子であって、積層面に平行な層面を有し、外周に接して形成され、複数の圧電層あたりに1層の割合で設けられて駆動による応力を緩和する応力緩和層を備え、前記応力緩和層は、全内部電極を積層方向に投影して得られる活性領域に一部が含まれ、前記応力緩和層の積層方向の一方に一部でも重なりを有する直近の内部電極および積層方向の他方に一部でも重なりを有する直近の内部電極のいずれもが、前記応力緩和層に接する外部電極と同じ極性であることを特徴としている。
【0011】
これにより、応力緩和層に接する外部電極から電極ペーストや半田等の導電性物質が入り込んでも直近の内部電極との間に電界がかからないため、マイグレーションを防止でき、そこが破壊の起点となるのを防止できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、応力緩和層とその直近の内部電極との間に電界がかからないためマイグレーションを防止でき、そこが破壊の起点となるのを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
[第1の実施形態]
(圧電素子の構成)
図1(a)〜(c)は、それぞれ圧電素子100を示す斜視図および平断面図である。
図2は、圧電素子100を示す側断面図である。圧電素子100は、矩形体に形成され、圧電層110と内部電極120、125とが交互に積層され、電圧の印加により伸縮する。
【0018】
圧電素子100は、駆動による応力を緩和するための応力緩和層140、145を有している。応力緩和層140、145は、複数の圧電層あたりに1層の割合で設けられており、積層面に平行な層面を有し、外周に接して形成されている。なお、積層面とは、圧電素子の積層方向(伸縮方向)に垂直な面を指す。
【0019】
応力緩和層140は、側面101に接して設けられ、応力緩和層145は、側面101とは反対側の側面102に接して設けられている。応力緩和層140、145は、24層の圧電層に1層の割合以上、2層の圧電層に1層の割合以下であることが好ましい。24層の圧電層に1層の割合以上10層の圧電層に1層の割合以下であればさらに好ましい。
【0020】
図1(b)に示すように、内部電極120は、外周の内側に基本的に外周の形状と相似形の矩形に形成され、一方の側面101に外部電極150に接続するための取り出し電極部が形成されている。同様に、内部電極125は、基本的に外周の形状と相似形の矩形に形成され、他方の側面102に外部電極155に接続するための取り出し電極部が形成されている。
【0021】
また、
図1(c)に示すように、応力緩和層140は、側面101、正面103および背面104に接するように外周に沿って設けられており、平断面図ではコ字状である。同様に、応力緩和層145は、側面102、正面103および背面104に接するように外周に沿って設けられており、平断面図ではコ字状である。
【0022】
図2に示すように、応力緩和層140、145は、電圧の印加により変位する活性領域に一部が含まれる。すなわち、応力緩和層140、145の先端部は、
図2の境界Aの内部側に入っている。活性領域は、全内部電極120、125を積層方向(伸縮方向)に投影して得られる領域(
図2の境界Aより内部側)であり、異なる電位の内部電極が積層方向に重なり合う領域に一致する。
【0023】
図2に示すように、応力緩和層140の積層方向の一方(図中の上側方向)に一部でも重なりを有する直近の内部電極120は、応力緩和層140に接する外部電極150と同極である。また、応力緩和層140の積層方向の他方(図中の下側方向)に一部でも重なりを有する直近の内部電極120も、応力緩和層に接する外部電極150と同極である。
【0024】
これにより、応力緩和層140に接する外部電極150から電極ペーストや半田等の導電性物質が入り込んでも直近の内部電極120との間に電界がかからないため、マイグレーションを防止でき、そこが破壊の起点となるのを防止できる。このような構造は、側面102の側に設けられた応力緩和層145および内部電極125の配置についても同様に設けられている。このように、圧電素子100では、同じ極性の内部電極に挟まれた不活性層に応力緩和層が形成されている。
【0025】
(圧電素子の作製方法)
次に、上記のように構成された圧電素子100の製造方法について説明する。まず、PZT等の圧電体を含むスラリーを用い、引き上げ成形、ドクターブレード成形、押出成形等の方法によってグリーンシートを形成する。
【0026】
圧電体のグリーンシートを準備し、内部電極または応力緩和層が設けられる位置の各グリーンシートに対して、内部電極用および応力緩和層用のパターンをスクリーン印刷等により塗布する。その際には、内部電極用として電極ペースト(Ag−Pd合金等)を塗布し、その後、乾燥させて焼成前電極膜を形成する。
【0027】
応力緩和層用としては、非焼結材料(チタン酸鉛等)のペーストを塗布する。非焼結材料は、圧電素子の焼成温度過程では焼結しない材料である。非焼結材料のペーストは、非焼結材料の粉末、バインダ、可塑剤および有機溶剤を所定の割合で混合して得られる。たとえば、非焼結材料にはチタン酸鉛、バインダにはエチルセルロース、可塑剤にはフタル酸ジオクチル、有機溶剤にはブチルカルビトールが挙げられる。なお、非焼結材料にはカーボン等、焼成時に焼き飛んで応力緩和層を形成するものが含まれる。
【0028】
次に、電極膜および非焼結材料膜が形成された複数のグリーンシートを積層する。なお、積層体の作製前に、予め、応力緩和層が、内部電極の何層かに1箇所の所定の割合で形成されるように設計しておく。その際には、応力緩和層の積層方向の一方に一部でも重なりを有する直近の内部電極と、応力緩和層の積層方向の他方に一部でも重なりを有する直近の内部電極とが、応力緩和層に接する外部電極と同極になるように設計する。
【0029】
次に、積層されたグリーンシートをプレス成形した後、加熱して、グリーンシート、電極ペーストおよび非焼結材料ペースト中の有機成分を脱脂する。有機成分は加熱によって分解され気体となってグリーンシートやペースト膜から抜ける。
【0030】
このようにして脱脂された積層体を焼成する。このとき、非焼結材料は焼結せず、非焼結材料を塗布した箇所には応力緩和層140、145が形成される。そして、焼結体を適宜加工し、圧電素子100を作製できる。
【0031】
(圧電アクチュエータ)
上記のような圧電素子100を用いて圧電アクチュエータを構成できる。圧電アクチュエータは、圧電素子100を直列に接着し、圧電素子100の内部電極120、125に接続された外部電極150、155をリード線で接続して構成される。これにより、応力緩和層140、145が破壊の起点にならない圧電アクチュエータを提供できる。
【0032】
例えば、複数の圧電素子100を積層方向に接着して多連化し、多連化された圧電素子100に分極処理を行い、キャップを被せることで圧電素子100が多連化されたポジショナ用アクチュエータを作製できる。
【0033】
[
参考例]
図3は、活性層に応力緩和層が設けられた
参考例の圧電素子200を示す斜視図である。
図4(a)〜(c)は、いずれも
参考例の圧電素子200を示す平断面図である。
図5は、
参考例の圧電素子200を示す側断面図である。圧電素子200は、矩形体に形成され、圧電層210と内部電極220、220a、225、225aとが交互に積層され、電圧の印加により伸縮する。
【0034】
図4(a)に示すように、内部電極220は、外周の内側に基本的に外周の形状と相似形の矩形に形成され、側面201に外部電極250に接続するための取り出し電極部が形成されている。同様に、内部電極225は、基本的に外周の形状と相似形の矩形に形成され、他方の側面202に外部電極255に接続するための取り出し電極部が形成されている。
【0035】
また、
図4(b)、
図5に示すように、応力緩和層240は、側面201、202、正面203および背面204に接するように外周に沿って設けられており、平断面図ではロ字状である。
【0036】
一方、
図4(c)、
図5に示すように、内部電極225aは、外周の内側に矩形に形成され、側面202側に、外部電極255に接続するための取り出し電極部が形成されている。内部電極225aは、側面201側の端部が応力緩和層240より内側の位置になるように形成されている。同様に、内部電極220aは、外周の内側に矩形に形成され、側面201側に、外部電極250に接続するための取り出し電極部が形成されている。内部電極220aは、側面202側の端部が応力緩和層240より内側の位置になるように形成されている。
【0037】
このような配置において、内部電極225aは、応力緩和層240に接する外部電極250とは異なる極性の電極として応力緩和層240の積層面に直近の積層面の位置に設けられている。そして、内部電極225aは、電圧印加時に隣合う内部電極220aに対して生じる電界が、応力緩和層240にかからない位置に設けられている。このような配置は、内部電極220aと応力緩和層240との位置についても同様である。
【0038】
これにより、応力緩和層240を活性層に設けるとともに、活性層を多く設けることができ、効率の良い圧電素子を構成できる。また、電界が応力緩和層240の先端部に集中せず、応力緩和層240の先端を起点とする破壊を防止できる。
【0039】
[
参考例]
上記参考例では、応力緩和層が活性層に設けられているが、さらに応力緩和層に接する外部電極とは異なる極性の電極として応力緩和層の積層面に直近の積層面の位置に設けられた内部電極が応力緩和層と同一の積層面に設けられてい
る。
【0040】
図6(a)〜(c)は、それぞれ
参考例の圧電素子300を示す斜視図および平断面図である。
図7は、
参考例の圧電素子300を示す側断面図である。圧電素子300は、矩形体に形成され、圧電層310と内部電極320、325とが交互に積層され、電圧の印加により伸縮する。
【0041】
圧電素子300は、駆動による応力を緩和するための応力緩和層340、345を有している。応力緩和層340、345は、複数の圧電層あたりに1層の割合で設けられており、積層面に平行な層面を有し、外周に接して形成されている。
【0042】
図6(b)に示すように、内部電極320は、外周の内側に基本的に外周の形状と相似形の矩形に形成され、一方の側面301側に外部電極350に接続するための取り出し電極部が形成されている。同様に、内部電極325は、基本的に外周の形状と相似形の矩形に形成され、他方の側面302側に外部電極355に接続するための取り出し電極部が形成されている。
【0043】
図6(c)に示すように、応力緩和層340は、側面301、正面303および背面304に接するように外周に沿って設けられており、平断面図ではコ字状である。内部電極325aは、矩形に形成され、側面302側に外部電極355に接続するための取り出し電極部が形成されている。内部電極325aは、応力緩和層340と同一の積層面に設けられており、応力緩和層340との間には十分な間隙が空けられている。
【0044】
このように、応力緩和層340に接する外部電極350とは異なる極性の電極として、応力緩和層340の積層面に直近の積層面の位置に設けられた内部電極325aは、応力緩和層340と同一の積層面に設けられている。これにより、活性層を多く設けられるとともに、バランス良く応力緩和層を配置した圧電素子を構成できる。
【0045】
同様に、応力緩和層345は、側面302および正面303、背面304に接するように外周に沿って設けられており、平断面図ではコ字状である。内部電極320aは、矩形に形成され、側面301側に外部電極350に接続するための取り出し電極部が形成されている。内部電極320aは、応力緩和層345と同一の積層面に設けられており、応力緩和層345との間には十分な間隙が空けられている。
【0046】
[実施例、比較例]
図1〜2、
図6〜7に示す形態の圧電素子100、300をそれぞれ実施例1、2として作製した。また、
図9、
図10に示す形態の圧電素子800、900をそれぞれ比較例1、2として作製した。6×6×10mmの寸法で内部電極を120層、応力緩和層を11層有する圧電素子を実施例1、2および比較例1、2として作製した。
【0047】
作製した圧電素子に同じ電圧を印加したところ、実施例1の変位は11μm、実施例2の変位は10μmであった。一方、比較例1の変位は、10μmであり、比較例2の変位は、11μmであった。
【0048】
また、各圧電素子を5Hzで0−150Vの矩形波で駆動した。
図8(a)は、各圧電素子の故障確率をワイブルプロットしたグラフである。
図8(b)は、各圧電素子の平均圧電印加時間およびワイブル係数を示す表である。
図8(a)、(b)によれば、比較例1、2に対して、実施例1、2では明らかに圧電印加時間あたりの故障確率が低減していることが分かった。また、特に実施例1より実施例2の方がさらに故障し難いことが分かった。