(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6274415
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
H02K 29/00 20060101AFI20180129BHJP
B25F 5/00 20060101ALI20180129BHJP
H02K 3/46 20060101ALI20180129BHJP
H02K 3/52 20060101ALI20180129BHJP
H02K 3/38 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
H02K29/00
B25F5/00 G
H02K3/46 C
H02K3/52 E
H02K3/38 A
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-37384(P2014-37384)
(22)【出願日】2014年2月27日
(65)【公開番号】特開2015-162985(P2015-162985A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2016年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】日立工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079290
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100136375
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 弘実
(72)【発明者】
【氏名】吉田 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】倉賀野 慎治
【審査官】
マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−228136(JP,A)
【文献】
特開2000−232745(JP,A)
【文献】
特開昭63−294242(JP,A)
【文献】
特開2013−236432(JP,A)
【文献】
特開2013−111734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 29/00
B25F 5/00
H02K 3/38
H02K 3/46
H02K 3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシレスモータを備える電動工具であって、
前記ブラシレスモータは、複数の相を有し、かつ各相に並列接続された複数の固定子コイルを含み、
各相の前記複数の固定子コイルは渡り線部によって相互に電気的に接続され、
前記複数の固定子コイルは、表面が絶縁被覆で覆われており、
各相の前記渡り線部は、前記ブラシレスモータの軸方向の一端側で前記ブラシレスモータの回転軸周りに延び、
複数の前記渡り線部は、少なくとも一部が前記ブラシレスモータの回転軸方向に重なっていると共に、当該重なった部分に前記絶縁被覆が除去された絶縁被覆除去部を有し、
前記絶縁被覆除去部によって、複数の相の前記渡り線部が相互に電気的に接続されている、電動工具。
【請求項2】
全ての相の前記渡り線部が1箇所で相互に電気的に接続されている、請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
ある組合せに属する複数の相の前記渡り線部が相互に電気的に接続されている場所とは別の位置で他の組合せに属する複数の相の前記渡り線部が相互に電気的に接続され、全ての相の前記渡り線部が相互に電気的に接続されている、請求項1に記載の電動工具。
【請求項4】
複数の相の前記渡り線部が導電性線材で束ねられている、請求項1から3のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項5】
複数の相の前記渡り線部の前記導電性線材で束ねられた部分が半田付けされている、請求項4に記載の電動工具。
【請求項6】
前記半田付けされている部分の表面が絶縁材で覆われている、請求項5に記載の電動工具。
【請求項7】
前記ブラシレスモータの固定子コアの一端面にインシュレータが設けられ、各相の前記渡り線部は、前記インシュレータの前記固定子コアとは反対側の面上で前記ブラシレスモータの回転軸周りに延び、前記インシュレータの前記面上で相互に電気的に接続されている、請求項1から6のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項8】
前記インシュレータは、複数の相の前記渡り線部の前記導電性線材で束ねられた部分の両側をそれぞれ持ち上げる凸部を有する、請求項7に記載の電動工具。
【請求項9】
各固定子コイルの前記渡り線部とは反対側の端部が引出し線部によって前記ブラシレスモータの軸方向の一方側に引き出され、前記渡り線部は前記軸方向の他方側に存在する、請求項1から8のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項10】
前記ブラシレスモータの前記軸方向の前記一方側に、前記引出し線部と電気的に接続されるスイッチング基板が設けられている、請求項9に記載の電動工具。
【請求項11】
前記ブラシレスモータは三相であって固定子コイルがY結線されている、請求項1から10のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項12】
前記絶縁被膜除去部は、前記渡り線部における前記ブラシレスモータの径方向外方面上に設けられ、前記ブラシレスモータの回転軸方向に並んでいる、請求項7に記載の電動工具。
【請求項13】
ブラシレスモータを備える電動工具であって、
前記ブラシレスモータは、複数の相を有し、かつ各相に並列接続された複数の固定子コイルを含み、
各相の前記複数の固定子コイルは渡り線部によって相互に電気的に接続され、
各固定子コイルの前記渡り線部とは反対側の端部は引出し線部によって引き出され、
前記ブラシレスモータの固定子コアの一端面にインシュレータが設けられ、
ある相の前記渡り線部と他の相の前記引出し線部が、前記ブラシレスモータの軸方向の一端側にある前記インシュレータの前記固定子コアとは反対側の面上で前記ブラシレスモータの回転軸周りに延び、導電性線材で束ねられて相互に電気的に接続されている、電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータを駆動源とする電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ドリルやドライバ等の先端工具をモータによって回転駆動して所要の作業を行う電動工具において、ブラシレスモータの採用が進んでいる。ブラシレスモータは、通常、Y結線(スター結線)あるいはΔ結線された三相巻線を有する。三相巻線への通電はインバータにより行う。インバータは、各相の巻線(固定子コイル)のプラス側及びマイナス側にそれぞれ1つずつ、合計6個のスイッチング素子を有し、所定の固定子コイルに順次通電する。固定子コイルの発生する磁界により、マグネットを有する回転子が回転駆動される。インバータを構成する各スイッチング素子は、ブラシレスモータ近傍のスイッチング基板上に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えばブラシレスモータが三相で固定子が6極の場合、各相に固定子コイルが2つ設けられる。従来の電動工具のブラシレスモータでは、各相の固定子コイルが直列接続されているため、電源電圧に対して固定子コイルの抵抗(銅損)が大きく、高出力化に不利であった。固定子コイルの線径を大きくすれば抵抗を小さくすることは可能であるが、巻線スロットの幅は限られており、線径を大きくするにも限界がある。
【0005】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、その目的は、従来と比較して高出力化が可能なブラシレスモータを備える電動工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、ブラシレスモータを備える電動工具であって、
前記ブラシレスモータは、複数の相を有し、かつ各相に並列接続された複数の固定子コイルを含み、
各相の前記複数の固定子コイルは渡り線部によって相互に電気的に接続され、
前記複数の固定子コイルは、表面が絶縁被覆で覆われており、
各相の前記渡り線部は、前記ブラシレスモータの軸方向の一端側で前記ブラシレスモータの回転軸周りに延び、
複数の前記渡り線部は、少なくとも一部が前記ブラシレスモータの回転軸方向に重なっていると共に、当該重なった部分に前記絶縁被覆が除去された絶縁被覆除去部を有し、
前記絶縁被覆除去部によって、複数の相の前記渡り線部が相互に電気的に接続されている。
【0007】
全ての相の前記渡り線部が1箇所で相互に電気的に接続されていてもよい。
【0008】
ある組合せに属する複数の相の前記渡り線部が相互に電気的に接続されている場所とは別の位置で他の組合せに属する複数の相の前記渡り線部が相互に電気的に接続され、全ての相の前記渡り線部が相互に電気的に接続されていてもよい。
【0010】
複数の相の前記渡り線部が導電性線材で束ねられていてもよい。
【0011】
複数の相の前記渡り線部の前記導電性線材で束ねられた部分が半田付けされていてもよい。
【0012】
前記半田付けされている部分の表面が絶縁材で覆われていてもよい。
【0013】
前記ブラシレスモータの固定子コアの一端面にインシュレータが設けられ、各相の前記渡り線部は、前記インシュレータの前記固定子コアとは反対側の面上で前記ブラシレスモータの回転軸周りに延び、前記インシュレータの前記面上で相互に電気的に接続されていてもよい。
【0014】
前記インシュレータは、複数の相の前記渡り線部の前記導電性線材で束ねられた部分の両側をそれぞれ持ち上げる凸部を有してもよい。
【0015】
各固定子コイルの前記渡り線部とは反対側の端部が引出し線部によって前記ブラシレスモータの軸方向の一方側に引き出され、前記渡り線部は前記軸方向の他方側に存在してもよい。
【0016】
前記ブラシレスモータの前記軸方向の前記一方側に、前記引出し線部と電気的に接続されるスイッチング基板が設けられていてもよい。
【0017】
前記ブラシレスモータは三相であって固定子コイルがY結線されていてもよい。
前記絶縁被膜除去部は、前記渡り線部における前記ブラシレスモータの径方向外方面上に設けられ、前記ブラシレスモータの回転軸方向に並んでいてもよい。
【0018】
本発明のもう1つの態様は、ブラシレスモータを備える電動工具であって、
前記ブラシレスモータは、複数の相を有し、かつ各相に並列接続された複数の固定子コイルを含み、
各相の前記複数の固定子コイルは渡り線部によって相互に電気的に接続され、
各固定子コイルの前記渡り線部とは反対側の端部は引出し線部によって引き出され、
前記ブラシレスモータの固定子コアの一端面にインシュレータが設けられ、
ある相の前記渡り線部と他の相の前記引出し線部が、前記ブラシレスモータの軸方向の一端側
にある前記インシュレータの前記固定子コアとは反対側の面上で前記ブラシレスモータの回転軸周りに延び、導電性線材で束ねられて相互に電気的に接続されている。
【0021】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法やシステムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、従来と比較して高出力化が可能なブラシレスモータを備える電動工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態1に係るコードレス丸鋸の平面図。
【
図5】前記コードレス丸鋸の、一部を断面とした第1の平面図。
【
図8】前記コードレス丸鋸のブラシレスモータ9の固定子の正面図。
【
図13】ブラシレスモータ9の各相の固定子コイル9fの巻線模式図。
【
図15】ブラシレスモータ9の固定子の製造の流れを示すフローチャート。
【
図16】比較例に係るブラシレスモータの各相の固定子コイルの巻線模式図。
【
図18】本発明の実施の形態2に係るコードレス丸鋸のブラシレスモータの固定子の正面図。
【
図19】本発明の実施の形態3に係るコードレス丸鋸のブラシレスモータの各相の固定子コイル9fの巻線模式図。
【
図21】本発明の実施の形態4に係るコードレス丸鋸のブラシレスモータの各相の固定子コイル9fの結線説明図。
【
図22】同実施の形態における固定子コイル9fの結線部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0025】
実施の形態1
図1は、本発明の実施の形態1に係る電動工具としてのコードレス丸鋸の平面図、
図2は同側面図、
図3は同背面図、
図4は同正面図である。
図5は、前記コードレス丸鋸の、一部を断面とした第1の平面図である。
図6は、同第2の平面図である。
図7は、
図1のA−A断面図である。
【0026】
本実施の形態のコードレス丸鋸は、ベース1と、本体2とを備える。ベース1は、例えばアルミ等の金属製の略長方形の板材である。ベース1の長手方向は、切断方向と一致する。ベース1の底面は、被削材との摺動面である。本体2は、後述のようにベース1に前後2箇所で連結され、ベース1に対して回動可能かつ左右に傾動可能である。本体2は、モータハウジング3と、ハンドル部4と、ギヤカバー5と、ソーカバー6と、保護カバー7と、丸鋸刃8とを含む。モータハウジング3は、例えば樹脂製であり、ブラシレスモータ9(
図5及び
図6)を内蔵する。ブラシレスモータ9は、丸鋸刃8を回転駆動する。ハンドル部4は、モータハウジング3と同材質かつ一体であり、モータハウジング3の上方において前後方向に延びる。ハンドル部4には、使用者がブラシレスモータ9の駆動を制御するためのスイッチ18が設けられる。ハンドル部4は
図2に示すようにモータハウジング3と一体的に設けられた左側部品と、モータハウジング3とギヤカバー5との間に挟持される右側部品とによって構成され、この左側部品と右側部品との組合せで後述する電池パック取付部4aが構成されると共に、丸鋸刃8側に位置するハンドル部4の右側部品に後述する制御回路基板収納部4bが設けられている。なお、ハンドル部4の左側部品と右側部品との境界は、
図1、
図3、
図4などでハンドル部4の中央に表れているラインである。
【0027】
ハンドル部4の後端下部には、電池パック取付部4a(電池取付部)と、制御回路基板収納部4bが一体に設けられる。電池パック取付部4aには、電池パック20(蓄電池)が、後方からスライドさせることで着脱自在に装着される。電池パック取付部4aの上面にはタクトスイッチ16が設けられる。電池パック20は、ブラシレスモータ9に駆動電力を供給する。
図1に示すように、電池パック取付部4aに装着された電池パック20の左側面と、モータハウジング3の左側面は、略同一平面上に存在する。これは、丸鋸刃8からモータハウジング3の左側面の距離と、丸鋸刃8から電池パック20の左側面の距離が略同じであり、電池パック20の左側面とモータハウジング3の左側面を下にしてコードレス丸鋸を載置することができ、丸鋸刃8の交換作業を容易に行うことができる。制御回路基板収納部4bは、電池パック20の右側に設けられる。制御回路基板収納部4bには、制御回路基板21が収納保持される。制御回路基板21は、ブラシレスモータ9の動作を制御するコントローラを搭載している。制御回路基板21は、ブラシレスモータ9の回転軸(丸鋸刃8の回転軸)と略垂直である。制御回路基板21の左側、すなわち制御回路基板21と電池パック20との間は、例えば樹脂製のコントローラカバー22によって仕切られる。
【0028】
ギヤカバー5は、ハンドル部4の右側に設けられる。ギヤカバー5は、例えば金属製であり、ブラシレスモータ9と丸鋸刃8との間の回転伝達機構を内蔵する。回転伝達機構は周知の減速機構等からなる。ソーカバー6は、ギヤカバー5に取り付けられ、ギヤカバー5と共に丸鋸刃8の上半分を覆う。ソーカバー6はギヤカバー5と同材質かつ一体に形成されても良い。ギヤカバー5及びソーカバー6の前端部は、回動支持部14によって回転自在に連結される。保護カバー7は、例えば樹脂製であり、ギヤカバー5の後方側に、ギヤカバー5及びソーカバー6の外縁に沿って回動可能に設けられる。ギヤカバー5と保護カバー7との間には図示しないバネが介在する。このバネは、ギヤカバー5に対して保護カバー7を、ギヤカバー5及びソーカバー6の円周方向であって丸鋸刃8の下半分を覆う方向(
図2中、反時計回り)に付勢する。よって、切断作業を行っていない状態では、保護カバー7は、丸鋸刃8の下半分(ベース1の底面から下方に突出した部分)を、前方の一部を除いて覆う。
【0029】
ベース1の前方には、ベベルプレート12が立設される。ベベルプレート12は、切断方向と略直交する短手方向に直立する。ベベルプレート12には長孔13が設けられる。長孔13は、切断方向に延びる第1傾動軸部15aを中心とし、かつ第1傾動軸部15aと直交する円弧状である。回動支持部14は、第1傾動軸部15aを中心としてベース1に対して左右に傾動可能に支持される。回動支持部14の傾動位置は、傾斜角度調整レバー11を緩めた状態で調整し、傾斜角度調整レバー11を締め付けることで固定する。回動支持部14は、ブラシレスモータ9の回転軸(丸鋸刃8の回転軸)と平行な軸でソーカバー6の前端部を回動可能に支持する。ソーカバー6の回動位置の調整及び固定については後述する。
【0030】
ベース1の後方には、リンク10が、第1傾動軸部15aと同軸の傾動軸部15bを中心に回動可能に設けられ、ギヤカバー5の左側面に沿う。リンク10は、例えばアルミ等の金属製である。切込み深さ調整レバー19を緩めた状態では、リンク10とギヤカバー5とは相互にスライド可能であり、ベース1に対するソーカバー6の回動位置、すなわち切込み深さを調整することができる。そして、切込み深さ調整レバー19を締め付けることで、ギヤカバー5の回動位置を固定できる。
【0031】
図6に示すように、ブラシレスモータ9は、出力軸9aの周囲に回転子コア9bを有する。出力軸9aは丸鋸刃8の回転軸と平行である。回転子コア9bは出力軸9aと一体に回転する。回転子コア9bには回転子マグネット9cが挿入支持される。固定子コア9dは、回転子コア9bの外周面を囲むように設けられる。固定子コア9dには、一対のインシュレータ9eを挟んで固定子コイル9fが設けられる。固定子コア9dに取り付けられた一方のインシュレータ9eの端面には、スイッチング基板23が固定される。スイッチング基板23は出力軸9aと略垂直である。
図7に示すように、スイッチング基板23には、6つのスイッチング素子23a(FET等)が、本体部を倒した状態で搭載される。スイッチング素子23aは、電池パック20からの供給電圧をスイッチングする。
図5に示すように、電池パック20の端子部20aとスイッチング基板23は、配線24によって相互に電気的に接続されている。配線25は、電池パック20の端子部20aと制御回路基板21とを相互に電気的に接続する。配線26は、制御回路基板21とスイッチング基板23とを相互に電気的に接続する。制御回路基板21のコントローラからの制御信号が配線26によりスイッチング基板23上のスイッチング素子23aの制御端子(ゲート)に印加され、スイッチング素子23aのオンオフが制御される。ブラシレスモータ9の出力軸9aには冷却ファン33が取り付けられて出力軸9aと共に回転する。冷却ファン33の発生する気流によって、ブラシレスモータ9及びスイッチング素子23aが冷却される。
【0032】
図8は、
図5及び
図6に示すブラシレスモータ9の固定子の正面図であり、
図9は同右側面図、
図10は同背面図である。
図11は、
図9の要部拡大図である。
図12は、
図10の要部拡大図である。
図13は、ブラシレスモータ9の各相の固定子コイル9fの巻線模式図(固定子コア9dを展開して外周側から見た状態に相当)である。
図14は、同結線説明図である。
【0033】
図14に示すように、ブラシレスモータ9は三相であり、U相、V相、W相の固定子コイル9f(図中、U1,U2,V1,V2,W1,W2)がY結線されている。固定子コイル9fは、各相に2つずつ並列に設けられている。各相の固定子コイル9fは、中性点9hにおいて相互に接続される。
【0034】
図13に示すように、各相の2つの固定子コイル9fは、外周側から見た巻線方向が同一であり、渡り線部9iによって相互に電気的に接続される。また、全ての相の渡り線部9iは、1箇所で相互に電気的に接続され、中性点9hを成している。
図9及び
図10に示すように、固定子コア9dのスイッチング基板23とは反対側の端面にインシュレータ9eが設けられ、各相の渡り線部9iは、当該インシュレータ9eの固定子コア9dとは反対側の面上でブラシレスモータ9の出力軸(回転軸)9a周りに延び、当該インシュレータ9eの前記面上で相互に電気的に接続される。インシュレータ9eの前記面上にはブラシレスモータ9の出力軸9a周りに沿って複数のガイドリブ9tが設けられ、各相の渡り線部9iをガイドする。
【0035】
図11及び
図12に拡大して示すように、3つの渡り線部9iは、一部がブラシレスモータ9の出力軸9aと平行な方向に重なっており(
図11)、この重なり部分において導電性線材9j(例えば錫メッキ線等)を数回巻くことによって束ねられ、この束ねられた部分が半田付けによって固定される。なお、固定子コイル9fを成す線材は絶縁被覆線であるが、各々の渡り線部9iは、導電性線材9jで束ねられる部分(導電性線材9j及び半田9nと接触する部分)に絶縁被覆除去部9mを有し、相互に導通できるようになっている。半田9nの表面は、絶縁材9pによって覆われる。
【0036】
図9及び
図11に示すように、インシュレータ9eは一対の凸部9kを有し、この一対の凸部9kは、渡り線部9iの導電性線材9jで束ねられる部分の両側をそれぞれ持ち上げる。これにより、渡り線部9iとインシュレータ9eとの間に隙間9s(
図11)ができ、導電性線材9jによって渡り線部9iを束ねるときの作業性が良くなる。各固定子コイル9fの渡り線部9iとは反対側の端部は、
図7及び
図9に示すように引出し線部9rによってスイッチング基板23上に引き出され、スイッチング基板23上の導電パターンと電気的に接続される。
【0037】
図15は、ブラシレスモータ9の固定子の製造の流れを示すフローチャートである。まず、固定子コア9dの各巻線スロットに絶縁被覆線を巻回し、各相の固定子コイル9fを形成する(S1)。次に、各相の渡り線部9iのうち、他の相の渡り線部9iと電気的に接続される部分の絶縁被覆を除去する(S2)。次に、3つの渡り線部9iを導電性線材9jによって束ねて結合し(S3)、結合箇所を半田付けで更に固定し(S4)、半田表面を絶縁被覆する(S5)。その後、各々の固定子コイル9fの引出し線部9rをスイッチング基板23上の導電パターンに電気的に接続する(S6)。なお、引出し線部9rのスイッチング基板23への接続を、
図15のステップS1,S2の間に行ってもよい。
【0038】
本実施の形態によれば、下記の効果を奏することができる。
【0039】
(1) 各相の2つの固定子コイル9fが並列接続されるため、
図16及び
図17に示す比較例のように各相の2つの固定子コイル9fを直列接続した場合と比較して、各相の抵抗が小さくなり、ブラシレスモータ9の高出力化が可能となる。
【0040】
(2) 各相の2つの固定子コイル9fを渡り線部9iにより相互に電気的に接続し、渡り線部9i同士を電気的に接続することで中性点9hを成す構成のため、渡り線部9iによらず6つの固定子コイル9fの端末(6本)を別々に引き出して結線する場合と比較して、結線する線材の本数を少なくて済み、作業性が良い。
【0041】
(3) 3つの渡り線部9iを1箇所で相互に電気的に接続して中性点9hを構成するため、工数削減の観点で優れている。
【0042】
(4) 各々の渡り線部9iをインシュレータ9e上でブラシレスモータ9の出力軸9a周りに延ばして(引き回して)出力軸9aと平行な方向に重ね、この重なり部分で渡り線部9i同士を電気的に接続するため、渡り線部9i同士の結線工程が容易である。
【0043】
(5) 導電性線材9jによって複数の渡り線部9iを束ねるため、渡り線部9i同士の物理的な固定や電気的接続の信頼性が高い。また、前述のようにインシュレータ9eの一対の凸部9kによって浮かせた部分を導電性線材9jで束ねるため、束ねるときの作業性が良い。
【0044】
(6) 導電性線材9jによって束ねた部分を半田付けするため、渡り線部9i同士の物理的な固定や電気的接続の信頼性を更に高められると共に、半田9nにより結線部の電流経路の断面積を大きく確保して結線部の抵抗を小さくすることができ、ブラシレスモータ9の高出力化に有利である。
【0045】
(7) 各固定子コイル9fの引出し線部9rによる引出し方向を渡り線部9iの反対側としているため、渡り線部9iをブラシレスモータ9の出力軸9a周りに引き回す工程において渡り線部9iが引出し線部9rと干渉せず、作業性が良い。また、スイッチング基板23の固定用のネジ座と渡り線部9iのガイド用のリブ(ガイドリブ9t)を同じ側のインシュレータ9eに設けなくてよいため、渡り線部9iをガイドするためにインシュレータ9eの径方向寸法を大きくする必要がない。従って、インシュレータ9e、渡り線部9iを固定子コア9dよりも突出させない構成とすることができ、電動工具の小型化を達成することができる。
【0046】
(8) 半田9nの表面を絶縁材9pで覆うため、中性点9hと固定子コア9dとの絶縁を確実にできる。
【0047】
実施の形態2
図18は、本発明の実施の形態2に係るコードレス丸鋸のブラシレスモータの固定子の正面図である。本実施の形態では、例えばU1相の固定子コイル9fの引出し線部9rはそのまま溝部9uを通して外周側に引き出し、U2相の固定子コイル9fの引出し線部9rは絶縁被覆を被せてU1相側に這いまわしてからU1相の固定子コイル9fの引出し線部9rと共に溝部9uを通して外周側に引き出している。これによれば、U1相とU2相のスイッチング基板23への接続を一箇所で行うことが可能で工数低減の観点で優れている。V相、W相についても同様である。本実施の形態のその他の点は実施の形態1と同様であり、同様の効果を奏することができる。
【0048】
実施の形態3
図19は、本発明の実施の形態3に係るコードレス丸鋸のブラシレスモータの各相の固定子コイル9fの巻線模式図である。
図20は、前記ブラシレスモータの固定子の背面図である。本実施の形態では、U相の渡り線部9iとW相の渡り線部9iを1箇所で相互に電気的に接続し、V相の渡り線部9iとW相の渡り線部9iを別の1箇所で相互に電気的に接続している。これによれば、渡り線部9i同士の接続箇所が増えて工数が多くなるものの、ブラシレスモータ9の出力軸9aと平行な方向に重なる渡り線部9iの本数を2本に減らすことができ、ブラシレスモータ9の軸方向寸法を小さくしたい場合には有利である。本実施の形態のその他の点は実施の形態1と同様であり、同様の効果を奏することができる。
【0049】
実施の形態4
図21は、本発明の実施の形態4に係るコードレス丸鋸のブラシレスモータの各相の固定子コイル9fの結線説明図である。
図22は、同実施の形態における固定子コイル9fの結線部拡大図である。本実施の形態では、
図21に示すように、U相、V相、W相の固定子コイル9f(図中、U1,U2,V1,V2,W1,W2)がΔ結線されている。このため、実施の形態1のように渡り線部9i同士を電気的に接続することに替えて、
図22に示すように、ある相の2つの固定子コイル9fの引出し線部9rと、他の相の固定子コイル9fの渡り線部9iとを、実施の形態1と同様にインシュレータの面上でブラシレスモータの回転軸周り引き回し、スイッチング基板23と接続されるリード線9xと共に相互に電気的に接続する。ここでの接続は、実施の形態1と同様に、導電性線材9jによる束ねと半田付けにより行える。
図22に示す結線部は合計3箇所に設けられる。本実施の形態のその他の点は実施の形態1と同様であり、同様の効果を奏することができる。
【0050】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。以下、変形例について触れる。
【0051】
各相の固定子コイル9fは、3つ以上であってもよい。結線部の固定は、導電性線材9jによる結束と半田付けのいずれか一方のみであってもよく、また他の電気的接続方法であってもよい。本発明を適用する電動工具は、実施の形態で例示したコードレス丸鋸に限定されず、ドリルやドライバ等の先端工具を取り付ける電動工具(ドリルドライバ等)や、先端工具のない電動工具(集塵機や空気圧縮機)等の他の種類のものであってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 ベース、2 本体、3 モータハウジング、4 ハンドル部、4a 電池パック取付部、4b 制御回路基板収納部、5 ギヤカバー、6 ソーカバー、7 保護カバー、8 丸鋸刃、9 ブラシレスモータ、9a 出力軸、9b 回転子コア、9c 回転子マグネット、9d 固定子コア、9e インシュレータ、9f 固定子コイル、9h 中性点、9i 渡り線部、9j 導電性線材、9k 凸部、9m 絶縁被覆除去部、9n 半田、9p 絶縁材、9r 引出し線部、9s 隙間、9t ガイドリブ、9u 溝部、9x リード線、10 リンク、11 傾斜角度調整レバー、12 ベベルプレート、13 長孔、14 回動支持部、15a 傾動軸部、15b 傾動軸部、16 タクトスイッチ、18 スイッチ、19 切込み深さ調整レバー、20 電池パック、20a 端子部、21 制御回路基板、22 コントローラカバー、23 スイッチング基板、23a スイッチング素子、24〜26 配線、33 冷却ファン