特許第6274417号(P6274417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6274417ポリマー、光吸収材料、光電変換材料、電荷輸送材料、有機太陽電池用材料および化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6274417
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】ポリマー、光吸収材料、光電変換材料、電荷輸送材料、有機太陽電池用材料および化合物
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/12 20060101AFI20180129BHJP
   C07D 513/04 20060101ALI20180129BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   C08G61/12
   C07D513/04 325
   H01L31/04 152G
   H01L31/04 152D
   H01L31/04 152B
   H01L31/04 152H
   H01L31/04 152J
【請求項の数】21
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2014-48097(P2014-48097)
(22)【出願日】2014年3月11日
(65)【公開番号】特開2015-172131(P2015-172131A)
(43)【公開日】2015年10月1日
【審査請求日】2017年3月10日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム『活力ある生涯のためのLast 5X イノベーション』委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】若宮 淳志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 基
(72)【発明者】
【氏名】村田 靖次郎
【審査官】 藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0137848(US,A1)
【文献】 特表2011−528383(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/000755(WO,A1)
【文献】 特表2014−519185(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/149189(WO,A2)
【文献】 国際公開第2010/114116(WO,A1)
【文献】 特開2014−027177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
・IPC
C08G 61/12
C07D 513/04
H01L 51/46
・DB
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリマー。
【化1】
(一般式(1)において、Ar1、Ar2およびAr3は、各々独立に、置換もしくは無置換のアリーレン基、置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基、あるいは、2種以上の置換もしくは無置換のアリーレン基または置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基が連結した連結基を表す。Zは、O、S、SeまたはTeを表す。*は結合位置を表す。)
【請求項2】
下記一般式(2)で表される構造単位を有する請求項1に記載のポリマー。
【化2】
(一般式(2)において、Ar1〜Ar5は、各々独立に、置換もしくは無置換のアリーレン基、置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基、あるいは、2種以上の置換もしくは無置換のアリーレン基または置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基が連結した連結基を表す。Zは、O、S、SeまたはTeを表す。*は結合位置を表す。)
【請求項3】
前記構造単位内に置換もしくは無置換の炭素数4以上のアルキル基を有する請求項1または2に記載のポリマー。
【請求項4】
下記一般式(3)で表される繰り返し単位を有するポリマー。
【化3】
(一般式(3)において、Ar1、Ar2は、各々独立に、置換もしくは無置換のアリーレン基、置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基、あるいは、2種以上の置換もしくは無置換のアリーレン基または置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基が連結した連結基を表す。Ar3’は置換もしくは無置換のアリール基、または、置換もしくは無置換のヘテロアリール基を表す。Zは、O、S、SeまたはTeを表す。Dはドナー連結基を表す。mは0または1を表す。nは繰り返し単位数を表す。)
【請求項5】
下記一般式(4)で表される繰り返し単位を有する請求項1に記載のポリマー。
【化4】
(一般式(4)において、Ar1〜Ar5は、各々独立に、置換もしくは無置換のアリーレン基、置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基、あるいは、2種以上の置換もしくは無置換のアリーレン基または置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基が連結した連結基を表す。Zは、O、S、SeまたはTeを表す。D1、D2は、各々独立にドナー連結基を表す。m1、m2は、各々独立に0または1を表す。n1、n2は、各々独立に繰り返し単位数を表す。)
【請求項6】
前記繰り返し単位内に置換もしくは無置換の炭素数4以上のアルキル基を有する請求項4または5に記載のポリマー。
【請求項7】
一般式(1)のAr2がチアゾールの残基である請求項1に記載のポリマー。
【請求項8】
前記一般式(1)〜(4)のZがSである請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項9】
ドナー連結基が、下記式で表される基である請求項4〜6のいずれか1項に記載のポリマー。
【化5】
(式において、R12、R13は、各々独立に、水素原子または置換基を表す。)、
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリマーからなる光吸収材料。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリマーからなる光電変換材料。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリマーからなる電荷輸送材料。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリマーからなる有機太陽電池用材料。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリマーからなる有機トランジスタ用材料。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリマーからなる有機電界発光素子用材料。
【請求項16】
下記一般式(5)で表される化合物。
【化6】
(一般式(5)において、Ar11、Ar12およびAr13は、各々独立に、置換もしくは無置換のアリール基、または、置換もしくは無置換のヘテロアリール基を表す。Zは、O、S、SeまたはTeを表す。)
【請求項17】
置換もしくは無置換の炭素数4以上のアルキル基を有する請求項16に記載の化合物。
【請求項18】
前記一般式(5)のAr12がチアゾールの残基である請求項16または17に記載の化合物。
【請求項19】
前記一般式(5)のZがSである請求項16〜18のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項20】
請求項16〜19のいずれか1項に記載の化合物のAr11およびAr12に反応性基を導入し、重合させることにより請求項1に記載のポリマーを合成するポリマーの製造方法。
【請求項21】
ドナー連結基を有する共重合性モノマーと共重合させる請求項20に記載のポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収材料や光電変換材料、電荷輸送材料として有用なポリマーと、それを合成するための中間体である化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機トランジスタ、有機エレクトロルミネッセンス素子、有機太陽電池に代表される、有機材料を用いた電子素子(有機電子素子)への注目が集まっており、これら有機電子素子に用いられる有機材料について盛んに研究がおこなわれている。ここで、有機電子素子に用いられる有機材料は、具体的には光吸収性や電荷輸送性、光電変換特性等の機能を有する有機材料であり、そのような機能性有機材料としてベンゾチアジアゾール骨格を有する化合物やベンゾチアジアゾール骨格を構造単位に有するポリマーが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、下記一般式で表される構造単位を有する化合物の電荷移動度が優れていることが記載されている。下記の一般式におけるR1は酸素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリールアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シクロアルキル基、シクロアルキルオキシ基、ヘテロアリール基、アシル基、スルホニル基、またはカルバメート基を表すものと規定され、Ar1およびAr2は、芳香環、ヘテロ芳香環、またはヘテロ芳香環を含む多環縮合環を表すと規定されている。しかし、同文献には、この化合物の光物性(特に光吸収特性)についてはまったく言及されておらず、下記一般式で表される構造単位を有する化合物やその類似化合物の光物性については不明である。また、特許文献1で実際に合成しているポリマーは、下記式で表される、ベンゾチアジアゾール骨格にチアゾール環が縮環した三環構造と4つのチオフェン環が連結した構造の構造単位からなるポリマーのみであり、特許文献1には他のポリマーの合成例は記載されていない。
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許公報US2013/0137848号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、特許文献1にはチアゾール環が縮環したベンゾチアジアゾール骨格に4つのチオフェン環が連結した構造の構造単位からなるポリマーが記載されている。しかしながら、本発明者らがこのポリマーの光物性を評価したところ、幅広い波長領域を満遍なく吸収するものではなく、吸収波長領域に偏りがあることが判明した。
ここで、例えば有機太陽電池に用いる有機材料は、太陽光エネルギーを効率良く補集して光電変換に利用するため、可視光から近赤外の波長領域(400〜1000nm)をできるだけ満遍なく吸収するものであることが好ましい。このような点から見たときに、特許文献1に記載のポリマーは吸収波長領域に偏りがあるため、有機太陽電池の材料としては不十分である。
一方、有機太陽電池の材料としてはPoly(3-hexyilthiophene-2,6-diyl(P3HT)が周知であり、分子内にドナーとアクセプターを併せもつドナー・アクセプター型ポリマーも知られている。しかし、P3HTは長波長領域に吸収がないという欠点がある。また、ドナー・アクセプター型ポリマーは、長波長領域に吸収を示すものの、550nm近辺の最も太陽光強度が強い領域で吸収の谷(吸収が弱い領域)があるため、実用性の面で改善の余地がある。
このように、これまで提案されている機能性有機材料は、いずれも吸収波長領域に偏りがあり、どのような構造の材料が、幅広い光吸収特性と高い電荷輸送特性を併せもつものであるかは明らかでないのが実情である。
【0006】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、幅広い光吸収特性と高い電荷輸送特性を併せ持つ材料を提供することを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
鋭意検討を進めた結果、本発明者らは、チアゾール環が縮環したベンゾチアジアゾール骨格を有し、該骨格の4位、6位および8位にアリール基またはヘテロアリール基が連結した構造の構造単位を有するポリマーが幅広い光吸収特性と高い電荷輸送特性を有し、光吸収材料、光電変換材料および電荷輸送材料として有用性が高いことを見出した。これらの知見に基づいて、上記の課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
【0008】
[1] 下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリマー。
【化2】
(一般式(1)において、Ar1、Ar2およびAr3は、各々独立に、置換もしくは無置換のアリーレン基、置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基、あるいは、2種以上の置換もしくは無置換のアリーレン基または置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基が連結した連結基を表す。Zは、O、S、SeまたはTeを表す。*は結合位置を表す。)
[2] 下記一般式(2)で表される構造単位を有する[1]に記載のポリマー。
【化3】
(一般式(2)において、Ar1〜Ar5は、各々独立に、置換もしくは無置換のアリーレン基、置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基、あるいは、2種以上の置換もしくは無置換のアリーレン基または置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基が連結した連結基を表す。Zは、O、S、SeまたはTeを表す。*は結合位置を表す。)
[3] 前記構造単位内に置換もしくは無置換の炭素数4以上のアルキル基を有する[1]または[2]に記載のポリマー。
[4] 下記一般式(3)で表される繰り返し単位を有する[1]に記載のポリマー。
【化4】
(一般式(3)において、Ar1、Ar2は、各々独立に、置換もしくは無置換のアリーレン基、置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基、あるいは、2種以上の置換もしくは無置換のアリーレン基または置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基が連結した連結基を表す。Ar3’は置換もしくは無置換のアリール基、または、置換もしくは無置換のヘテロアリール基を表す。Zは、O、S、SeまたはTeを表す。Dはドナー連結基を表す。mは0または1を表す。nは繰り返し単位数を表す。)
[5] 下記一般式(4)で表される繰り返し単位を有する[1]に記載のポリマー。
【化5】
[6] 前記繰り返し単位内に置換もしくは無置換の炭素数4以上のアルキル基を有する[4]または[5]に記載のポリマー。
[7] 一般式(1)のAr2がチアゾールの残基である[1]に記載のポリマー。
[8] 前記一般式(1)〜(4)のZがSである[1]〜[7]のいずれか1項に記載のポリマー。
[9] ドナー連結基が、下記式で表される基である[4]〜[6]のいずれか1項に記載のポリマー。
【化6】
[10] [1]〜[9]のいずれか1項に記載のポリマーからなる光吸収材料。
[11] [1]〜[9]のいずれか1項に記載のポリマーからなる光電変換材料。
[12] [1]〜[9]のいずれか1項に記載のポリマーからなる電荷輸送材料。
[13] [1]〜[9]のいずれか1項に記載のポリマーからなる有機太陽電池用材料。
[14] [1]〜[9]のいずれか1項に記載のポリマーからなる有機トランジスタ用材料。
[15] [1]〜[9]のいずれか1項に記載のポリマーからなる有機電界発光素子用材料。
【0009】
[16] 下記一般式(5)で表される化合物。
【化7】
[17] 置換もしくは無置換の炭素数4以上のアルキル基を有する[16]に記載の化合物。
[18] 前記一般式(5)のAr12がチアゾールの残基である[16]または[17]に記載の化合物。
[19] 前記一般式(5)のZがSである[16]〜[18]のいずれか1項に記載の化合物。
[20] [16]〜[19]のいずれか1項に記載の化合物のAr11およびAr12に反応性基を導入し、重合させることにより[1]に記載のポリマーを合成するポリマーの製造方法。
[21] ドナー連結基を有する共重合性モノマーと共重合させる[20]に記載のポリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリマーは、幅広い光吸収特性と高い電荷輸送特性を有し、光吸収材料、光電変換材料および電荷輸送材料として有用である。このため、本発明のポリマーは、有機太陽電池や有機トランジスタ、有機電界発光素子の有機材料として効果的に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ポリマー1のジクロロメタン分画およびトルエン分画の1H−NMRスペクトルである。
図2】化合物1、化合物2および比較化合物Aの各ジクロロメタン溶液の光物理特性を示すグラフである。
図3】化合物1〜3および比較化合物A、BのそれぞれとTBAPF6の各ジクロロメタン溶液のサイクリックボルタンモグラムである。
図4】実施例1のポリマー1のオルソジクロロベンゼン溶液および薄膜の光物理特性を示すグラフである。
図5】実施例2のポリマー1を用いた有機太陽電池の作用スペクトルである。
図6】実施例2のポリマー1を用いた有機太陽電池の電圧−電流密度特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
[一般式(1)で表されるポリマー]
本発明のポリマーは、下記一般式(1)で表される構造単位を有することを特徴とする。
【化8】
一般式(1)において、Zは、O、S、SeまたはTeを表し、OまたはSであることが好ましく、Sであることがより好ましい。
Ar1、Ar2およびAr3は、各々独立に、置換もしくは無置換のアリーレン基、置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基、あるいは、2種以上の置換もしくは無置換のアリーレン基または置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基が連結した連結基を表す。すなわち、Ar1〜Ar3は、1種の置換もしくは無置換のアリーレン基単独であってもよいし、1種の置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基単独であってもよい。また、Ar1〜Ar3は、置換もしくは無置換のアリーレン基が2種以上連結した連結基であってもよいし、置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基が2種以上連結した連結基であってもよいし、1種以上の置換もしくは無置換のアリーレン基と1種以上の置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基が連結した連結基であってもよい。このうち、Ar1〜Ar3は1種の置換もしくは無置換のアリーレン基単独または1種の置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基単独であることが好ましい。Ar1〜Ar3は、同一であっても異なっていてもよいが、Ar1とAr2は同一の基であることが好ましい。
【0014】
Ar1〜Ar3のアリーレン基またはヘテロアリーレン基は、単環構造であってもよいし、2つ以上の環が融合した多環縮合構造であってもよい。アリーレン基としては、炭素数6〜40のアリーレン基であることが好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環を含むものであることが好ましく、ベンゼン環を含むものであることがさらに好ましい。ヘテロアリーレン基としては、環構成原子としてO、SおよびNの少なくともいずれかを含有するものであることが好ましく、環構成原子としてSおよびNの少なくとも一方を含有するものであることがより好ましい。また、ヘテロアリーレン基は、5員環および6員環の少なくともいずれかからなることが好ましく、単環の5員環からなることがより好ましい。ヘテロアリーレン基としては、具体的にはチアゾール環、チオフェン環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、テトラジン環等の残基を挙げることができ、チアゾールの残基であることが好ましい。特に、Ar2がチアゾールの残基であることにより、Ar2がチオフェン環である場合に比べてポリマーの平面性が良好になり、優れた特性を得ることができる。
【0015】
Ar1〜Ar3のアリーレン基またはヘテロアリーレン基に置換しうる置換基として、種々の置換基を挙げることができる。例えば、シアノ基、炭素数1〜40のアルキル基、炭素数1〜40のアルコキシ基、炭素数1〜40のアルキルチオ基、炭素数1〜40のアルキル置換アミノ基、炭素数2〜40のアシル基、炭素数6〜40のアリール基、炭素数3〜40のヘテロアリール基、炭素数2〜40のアルケニル基、炭素数2〜40のアルキニル基、炭素数2〜40のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜40のアルキルスルホニル基、炭素数1〜40のハロアルキル基、アミド基、炭素数2〜40のアルキルアミド基、炭素数3〜40のトリアルキルシリル基、炭素数2〜40のビニル基、炭素数2〜40のエチニル基等が挙げられる。これらの具体例のうち、さらに置換基により置換可能なものは置換されていてもよい。
【0016】
Ar1〜Ar3のアリーレン基またはヘテロアリーレン基に置換しうる置換基として、炭素数4以上のアルキル基を好ましく採用することができる。炭素数4以上のアルキル基(例えば炭素数8以上のアルキル基を含む)を導入することにより、ポリマーの有機溶媒に対する溶解性を上げることができ、例えば塗布プロセス等における取り扱い性が向上する。アルキル基は、直鎖状であってもよいし、t−ブチル基や2−エチルヘキシル基などの分枝状であってもよい。アルキル基の置換位置はAr1〜Ar3のいずれの位置であってもよく、アルキル基の置換数は1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。
【0017】
Ar1〜Ar3のアリーレン基またはヘテロアリーレン基に置換基として電子求引基を置換させることにより、骨格の電子受容性を調整することができる。例えば、Ar3のアリーレン基またはヘテロアリーレン基に置換基として電子求引基を置換させることにより、骨格の電子受容性を低下させることが可能である。電子求引基としては、ハメットのσpが正の値を示すものを挙げることができる。例えば、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、シアノ基などを例示することができる。
【0018】
*は結合位置を表す。結合位置はAr1〜Ar3のアリーレン基内またはヘテロアリーレン基内にあってもよいし、アリーレン基またはヘテロアリーレン基に置換した置換基内にあってもよい。また、アリーレン基内、ヘテロアリーレン基内または置換基内における結合位置は特に限定されないが、5員環であるアリーレン基内またはヘテロアリーレン基内に結合位置があるとき、その結合位置はβ位であることが好ましい。*にはポリマーを構成する構造単位が連結する。但し、Ar3に*で結合するのは水素原子であってもよい。Ar1、Ar2に連結する構造単位は、一般式(1)で表される構造単位であってもよいし、この他の構造単位であってもよいが、一般式(1)で表される構造単位であることが好ましい。Ar1、Ar2に連結する構造単位は、*に単結合で連結してもよいし、*に連結基を介して連結してもよい。連結基としては、特に限定されないがドナー連結基であることが好ましい。ドナー連結基の説明と好ましい例については、下記の一般式(3)のドナー連結基Dの説明と好ましい例を参照することができる。一方、Ar3に連結する構造単位は、一般式(1)で表される構造単位からAr3を除いた残基であってもよいし、この他の構造単位であってもよいが、一般式(1)で表される構造単位からAr3を除いた残基であることが好ましい。
【0019】
以下において、Ar1〜Ar3の好ましい具体例を例示する。下記式において、*は一般式(1)における*と同義であり、**はベンゼン環またはチアゾール環への結合位置を表す。R11は置換基を表す。
【化9】
ポリマーにおける一般式(1)で表される構造単位の数は特に限定されない。一般式(1)のAr1、Ar2、Ar3のそれぞれを構成する環の連結数は、Ar1およびAr2については1〜10であることが好ましく、1〜4であることがより好ましく、1〜2であることがさらに好ましい。Ar3については1〜10であることが好ましく、1〜6であることがより好ましく、1〜4であることがさらに好ましい。ポリマーが一般式(1)で表される構造単位を2つ以上有するとき、複数の一般式(1)で表される構造単位は同一であっても異なっていてもよい。
【0020】
本発明のポリマーは、下記一般式(2)で表される構造単位を有することが好ましい。
【化10】
【0021】
一般式(2)で表される構造単位は、一般式(1)で表される構造単位のAr3に一般式(1)で表される構造単位のAr3を除いた残基が連結した構造に対応する。
一般式(2)において、Ar1〜Ar5は一般式(1)のAr1〜Ar3と同義であり、Zは一般式(1)のZと同義である。Ar1、Ar2、Ar4、Ar5の説明と好ましい範囲については、一般式(1)におけるAr1、Ar2の説明と好ましい範囲を参照することができ、Ar3の説明と好ましい範囲については、一般式(1)におけるAr3の説明と好ましい範囲を参照することができる。Ar1〜Ar5は同一であっても異なっていてもよいが、Ar1とAr2、Ar4とAr5はそれぞれ同じ基であることが好ましく、Ar1、Ar2、Ar4、Ar5の全てが同じ基であることがより好ましい。
【0022】
本発明のポリマーは、下記一般式(3)で表される構造単位を有することも好ましい。
【化11】
一般式(3)で表される繰り返し単位からなる構造は、一般式(1)で表される構造単位がドナー連結基または単結合を介して主鎖方向に複数連結した構造に対応する。
一般式(3)において、Ar1、Ar2、Zは、それぞれ一般式(1)のAr1、Ar2、Zと同義であり、その説明と好ましい範囲については、一般式(1)におけるAr1、Ar2、Zの説明と好ましい範囲を参照することができる。
【0023】
Ar3’は置換もしくは無置換のアリール基、または、置換もしくは無置換のヘテロアリール基を表す。Ar3’のアリール基またはヘテロアリール基を構成する芳香環またはヘテロ芳香環の説明と好ましい範囲については、一般式(1)におけるAr3のアリーレン基またはヘテロアリーレン基を構成する芳香環またはヘテロ芳香環の説明と好ましい範囲を参照することができる。
Ar3’のアリーレン基またはヘテロアリーレン基に置換しうる置換基の説明と好ましい範囲については、一般式(1)のAr3のアリーレン基またはヘテロアリーレン基に置換しうる置換基の説明と好ましい範囲を参照することができる。さらに、上記で説明した置換基に加えて、Ar3’のアリール基またはヘテロアリール基には繰り返し構造を有する置換基が置換してもよい。アリール基またはヘテロアリール基に置換する繰り返し構造を有する置換基は特に限定されないが、一般式(3)で表される繰り返し単位からなる置換基であることが好ましい。
【0024】
一般式(3)において、Dはドナー連結基を表し、mは0または1を表す。本発明において「ドナー連結基」とは、ドナー性(電子供与性)を有する連結基のことを言い、Ar2よりも電子供与性が強い連結基である。
一般式(1)で表される構造単位同士の間にドナー性が強い連結基を導入することで、ポリマーの吸収波長をより長波長化することができる。ドナー連結基としては、有機半導体化合物に採用されているものを広く用いることができ、さらに多環構造を有する連結基も好ましく用いることができる。また、ドナー連結基はAr1およびAr2の環の種類に応じて適宜選択することが好ましく、例えばAr1およびAr2がチアゾール環である場合には比較的ドナー性が強い連結基を用いることが好ましく、Ar1およびAr2がチオフェン環である場合にはドナー性が弱い連結基から強い連結基まで広く選択することができる。
【0025】
以下において、ドナー連結基の好ましい具体例を例示する。下記式において、R12〜R15は、各々独立に置換基を表し、R12、R13は炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましい。このうち、ドナー連結基は、シクロペンタジチオフェン環を有するものが好ましい。
【化12】
【0026】
nは繰り返し単位数を表し、1〜100であることが好ましく、10〜50であることがより好ましく、15〜30であることがさらに好ましい。
【0027】
本発明のポリマーは、下記一般式(4)で表される構造単位を有することも好ましい。
【化13】
一般式(4)で表される繰り返し単位からなる構造は、一般式(3)で表される繰り返し単位のAr3’に一般式(3)で表される繰り返し単位が連結した構造に対応する。
一般式(4)において、Ar1〜Ar5、Zは一般式(2)のAr1〜Ar5、Zと同義であり、その説明と好ましい範囲については、一般式(2)におけるAr1〜Ar5、Zの説明と好ましい範囲を参照することができる。D1、D2は一般式(3)のDと同義であり、その説明と好ましい範囲については、一般式(3)におけるDの説明と好ましい範囲を参照することができる。D1、D2は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
m1、m2は、各々独立に0または1を表す。m1、m2は、両方が0または1であってもよいし、一方が0で他方が1であってもよい。
n1、n2は、各々独立に繰り返し単位数を表し、1〜100であることが好ましく、10〜50であることがより好ましく、15〜30であることがさらに好ましい。n1、n2は同じであっても異なっていてもよい。
【0028】
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマーの分子量は、1000〜100000であることが好ましく、15000〜500000であることがより好ましく、20000〜30000であることがさらに好ましい。
【0029】
以下において、一般式(1)で表されるポリマーの具体例を例示する。ただし、本発明において用いることができる一般式(1)で表される化合物はこの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【化14】
上式において、lは0〜6である。
【0030】
[一般式(1)で表されるポリマーの製造方法]
下記一般式(5)で表される化合物は新規化合物である。一般式(1)で表されるポリマーは、下記一般式(5)で表される化合物を中間体として合成することができる。
【化15】
【0031】
一般式(5)において、Ar11、Ar12およびAr13は、各々独立に、置換もしくは無置換のアリール基、または、置換もしくは無置換のヘテロアリール基を表す。Ar11〜Ar13のアリール基またはヘテロアリール基の説明と好ましい範囲については、一般式(3)におけるAr3’のアリール基またはヘテロアリール基の説明と好ましい範囲を参照することができる。アリール基またはヘテロアリール基に置換しうる置換基の説明と好ましい範囲については、一般式(1)におけるAr1〜Ar3のアリール基またはヘテロアリール基に置換しうる置換基の説明と好ましい範囲を参照することができる。
以下において、一般式(5)で表される化合物の具体例を例示する。ただし、本発明において用いることができる一般式(5)で表される化合物はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。なお、下記の具体例において、R、R2は2−エチルヘキシル基を表し、R1は3,7−ジメトキシオクチル基を表す。
【0032】
【化16】
【0033】
一般式(5)で表される化合物を中間体とするポリマーの合成は、下記反応式で示すように、一般式(5)で表される化合物をハロゲン化してジハロゲン化物を合成し、得られたジハロゲン化物を重合反応させることによって行うことができる。
【化17】
【0034】
上記の反応式において、Xはハロゲン原子を表し、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができ、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましい。Ar11’、Ar12’は、ハロゲン化によって水素原子を失ったAr11、Ar12の残基を表す。
【0035】
また、一般式(5)で表される化合物は、ベンゾチアジアゾールの5−アミド誘導体から下記反応式で示す反応により合成することができる。
【化18】
【0036】
上記の各反応の詳細については、後述の合成例を参考にすることができる。
一般式(1)で表されるポリマーは、一般式(5)で表される中間体のAr11、Ar12を構成する芳香環または複素芳香環をそれぞれハロゲン等の反応性基で置換し、互いに重合させるか、他の共重合成分と組み合わせて共重合させることにより合成することができる。共重合成分としては、前述のドナー連結基Dの両端に共重合可能な原子または基を有する化合物を挙げることができる。
また、一般式(5)で表される中間体や一般式(1)で表される化合物は、公知の反応を組み合わせることにより、上記とは別ルートにより合成することも可能である。また、反応の条件についても、公知な範囲の中から最適なものを適宜選択して用いることができる。
【0037】
[一般式(1)で表される構造単位を有するポリマーの応用]
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマーは、幅広い光吸収特性と高い電荷輸送特性を有する。これは以下の理由によるものと推測される。
すなわち、一般式(1)で表される構造単位を有するポリマーは、アクセプターとして機能するベンゾチアジアゾール骨格にチアゾール環が縮環されていることにより、低いLUMOレベルを有する。このためN型有機半導体と組み合わせたときにHOMO−LUMOエネルギー差(バンドギャップ)が小さくなり、可視領域から近赤外領域(400〜1000nm)に幅広い光吸収を得ることができるものと推測される。また、ベンゾチアジアゾール環およびチアゾール環に結合するアリール基やアリーレン基(Ar1〜Ar5)に様々な置換基を導入することが可能であり、アリール基やアリーレン基、これらに置換させる置換基の種類を変えることにより、LUMOレベルの精密制御および最適化、ポリマーの溶解性の制御を行うことができる。
さらに、ベンゾチアジアゾール環にチアゾール環が縮環された環構造を有する構造単位がポリマーを構成していることにより、この環構造に由来するπ共役が主鎖方向に拡張するとともに、主鎖方向に対して直交する方向にも拡張する。これにより、分子間でのπ軌道の重なりが大きくなり、高い電荷移動度を発現するものと推測される。
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマーは、以上のように幅広い光吸収特性の高い電荷輸送特性を有するため、光吸収材料、光電変換材料、電荷輸送材料として有用である。このため、有機太陽電池の光吸収材料や光電変換材料、有機トランジスタおよび有機電界発光素子の電荷輸送材料として効果的に用いることができる。特に有機太陽電池の光吸収材料や光電変換材料に用いた場合には、太陽光エネルギーを効率よく補集して光電変換に利用することができ、従来の有機太陽電池用材料を用いる場合に比べて光電変換効率を飛躍的に向上させることができる。
【実施例】
【0038】
以下に合成例および実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0039】
(合成例1) 化合物1の合成
(1)化合物1の合成工程
化合物1を、以下のように中間体2〜5を経て合成した。
4,7-dibromo-5-nitrobenzo[c][1,2,5]thiadiazole(中間体2)の合成工程
【化19】
【0040】
4,7−ベンゾチアジアゾール(5.01g,17.1mmol)(1)を200mlの一口ナス型フラスコに入れ、硫酸(40.0ml)を加えて溶かした。この溶液に、NaNO3(2.18g,25.7mmol)をゆっくり加えた。このとき、溶液の初期温度は28.5℃であり、開始10分で40.0℃に到達し、その後、温度は下がり続けた。この溶液を1時間25分撹拌した後、サンプリングを行い、さらにNaNO3(0.201g,2.37mmol)を追加して45分撹拌した。この反応溶液を、氷水(200ml)に滴下した後、ブフナー漏斗でろ過し、得られた固体を、真空乾燥機を用いて60℃で乾燥した。以上の工程により、黄色固体である中間体2を、収量5.65g(16.7mmol)、収率98%で得た。
1H−NMR(300MHz,CDCl3):δ8.28(s,1H),
13C−NMR(75MHz,CDCl3):δ153.0,152.7,149.9,127.4,114.7,109.1.
13C−NMR(75MHz,DMSO):δ152.4,151.9,150.0,126.9,114.1,108.1.
【0041】
5-nitro-4,7-di(thiazol-2-yl)benzo[c][1,2,5]thiadiazole(中間体3)の合成工程
【化20】
【0042】
中間体2(6.61g,19.5mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)(クロロホルム)ジパラジウム(0)(528mg,0.510mmol)、トリフェニルホスフィン(529mg,2.04mmol)を1000ml二口ナス型フラスコに入れ、アルゴンバブリングした脱水トルエン(150ml)を加えて溶かした。この溶液に、2−トリブチルスタニルチアゾール(16.1g,43.0mmol)を加えて3時間30分加熱還流を行った。この反応溶液に蒸留水を加え、トルエンによる抽出を行った。この抽出物に、飽和食塩水による洗浄、Na2SO4による乾燥を行行い、溶媒を減圧留去した。得られた残留物をヘキサンとクロロホルムで洗浄し、橙色固体である中間体3を収量3.11g(8.95mmol)で得た。さらに、Rf=0.30のシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、CHCl3:EtOAc=40:1の混合溶媒を展開溶媒に用いて精製し、橙色固体である中間体3を、収量1.11g(3.20mmol)で得た。得られた中間体3の合計収率は62%であった。
1H−NMR(300MHz,CDCl3):δ8.86(s,1H),8.11(d,3J(H,H)=3.0Hz,1H),8.09(d,3J(H,H)=3.0Hz,1H),7.75(d,3J(H,H)=3.3Hz,1H),7.73(d,3J(H,H)=3.3Hz,1H).
13C−NMR(75MHz,DMSO):δ・206.4,159.1,155.5,151.4,150.7,147.4,144.0,126.5,125.9,125.6,120.7,117.1.
融点:214.8℃で熱分解
【0043】
4,7-di(thiazol-2-yl)benzo[c][1,2,5]thiadiazol-5-amine(中間体4)の合成工程
【化21】
【0044】
中間体3(306mg,0.884mmol)を200ml二口ナス型フラスコ入れ、酢酸(45ml)を加え、浴温度80℃で溶かした。この溶液に、鉄(622mg,10.6mmol)を入れて1時間30分撹拌した。この反応溶液に蒸留水(250ml)を加えて、酢酸エチルによる抽出を行った。得られた抽出物を、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗浄し、Na2SO4で乾燥した。さらにセライトでろ過して鉄を除去した後、溶媒を留去した。以上の工程により、赤色固体である中間体4を、収量258mg(0.814 mmol)、収率92%で得た。
1H−NMR(300MHz,CDCl3):δ8.34(s,1H),8.05(d,3J(H,H)=3.3Hz,1H),7.96(d,3J(H,H)=3.6Hz,1H),7.65(d,3J(H,H)=3.3Hz,1H),7.44(d,3J(H,H)=3.3Hz,1H).
13C−NMR(75MHz,DMSO):δ163.5,160.1,153.8,149.0,146.1,143.4,140.9,125.4,123.9,123.5,118.7,99.9.
APCI-HRMS(-):m/z calcd for C12753(M-),316.9869;found,316.9862.
287.6℃で熱分解。
【0045】
N-(4,7-di(thiazol-2-yl)benzo[c][1,2,5]thiadiazol-5-yl)-5-(2-ethylhexyl)thiophene-2-carboxamide(中間体5)の合成工程
【化22】
【0046】
中間体4(1.01g,3.19mmol)を、トルエン(100ml)とピリジン(20ml)の混合溶媒に溶かし、5−(2−エチルヘキシル)チオフェン−2−カルボン酸塩化物(中間体11)のトルエン溶液(0.92M,4.2ml,3.9mmol)を加えて、7日加熱還流した。この反応溶液から溶媒を減圧留去した残留物を炭酸水素ナトリウム水溶液(50ml)に溶解させ、セライトで濾過した。得られた濾液を、炭酸水素ナトリウム水溶液(0.5M,50ml)、純水(50ml)で洗浄し、Na2SO4で乾燥した後、濾過して溶媒を減圧留去した。得られた残留物を、Rf=0.26のシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、ジクロロメタンを展開溶媒に用いて精製した。以上の工程により、橙色固体である中間体5を、収量1.27g(2.35mmol)、収率74%で得た。
1H−NMR(500MHz,CDCl3):δ10.39(s,1H),8.12(d,3J(H,H)=3.0Hz,2H),7.87(d,3J(H,H)=3.5Hz,1H),7.63(d,3J(H,H)=3.5Hz,1H),7.62(d,3J(H,H)=3.0Hz,1H),6.90(d,3J(H,H)=3.5Hz,1H),2.85(d,3J(H,H)=7.0Hz,2H),1.72-1.63(m,1H),1.43-1.27(m,overlapped,8H),0.96-0.88(m,overlapped,6H).
13C−NMR(125MHz,CDCl3):δ163.4,161.8,161.4,152.8,152.5,148.1,143.6,140.70,140.67,137.6,129.9,126.3,123.6,122.2,121.3,108.7,41.5,34.5,32.4,28.9,25.5,23.0,14.1,10.8.
融点:171.8℃
【0047】
6-(5-(2-ethylhexyl)thiophen-2-yl)-4,8-di(thiazol-2-yl)thiazolo[4',5':4,5]benzo[1,2-c][1,2,5]thiadiazole(化合物1)の合成工程
【化23】
【0048】
中間体5(653mg,1.21mmol)とローソン試薬(298mg,0.737mmol)をシュレンク管に入れ、オルソジクロロベンゼン(200ml)を加えて脱気した後、アルゴン雰囲気下、140℃で62時間加熱した。反応溶液から溶媒を減圧留去し、その残留物を、Rf=0.15の中圧シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、クロロホルムを用いて展開溶媒に用いて精製した。得られたフラクションについて二層拡散(クロロホルム/メタノール)により再結晶を行った後、再度、中圧シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行った。以上の工程により、暗赤色固体である中間体6を、収量356.6mg(0.610mmol)、収率50%で得た。
1H−NMR(500MHz,C66):δ8.13(d,3J(H,H)=3.5Hz,1H),・7.90(d,3J(H,H)=3.0Hz,1H),7.52(d,3J(H,H)=3.5Hz,1H),7.04(d,3J(H,H)=3.0Hz,1H),6.88(d,3J(H,H)=3.0Hz,1H),6.48(d,3J(H,H)=4.0Hz,1H),2.54(d,3J(H,H)=6.5Hz,2H),1.58-1.50(m,1H),1.30-1.13(m,overlapped,8H),0.88(t,3J(H,H)=7.0Hz,3H),0.79(t,J(H,H)=7.5Hz,3H).
13C−NMR(125MHz,CDCl3):δ168.4,160.7,160.0,153.6,152.6,150.4,149.6,143.2,142.3,136.6,134.5,131.7,127.0,122.6,122.3,117.3,116.0,41.5,34.7,32.4,28.8,25.5,23.0,14.1,10.9.
【0049】
(2)中間体11の合成工程
化合物1の合成に用いた中間体11は、以下のように中間体9、10を経て合成した。
2-(2-ethylhexyl)thiophene (中間体9)の合成工程
【化24】
チオフェン(16.2g,193mmol)(8)をテトラヒドロフラン(200ml)に溶解させ、−78℃に冷却した後、n−ブチルリチウムヘキサン溶液(1.6M,120ml,193mmol)を滴下し、2時間撹拌した。この混合物に、1−ブロモ−2−エチルヘキサン(21.8g,129mmol)を滴下した後、室温で2時間撹拌し、続いて70℃で11時間撹拌した。この反応溶液を飽和食塩水で洗浄し、溶媒を減圧留去した。得られた残留物を、200pa、85℃の蒸留によって精製した。以上の工程により、薄い褐色油状物質である中間体9を、収量14.7g(74.9mmol)、収率58%で得た。
1H−NMR(500MHz,CDCl3):δ7.11(dd,3J(H,H)=5.0Hz,4J(H,H)=1.0Hz,1H),6.93-6.90(m,1H),6.77-6.74(m,1H),2.76(d,3J(H,H)=6.5Hz,2H),1.62-1.54(m,1H),1.40-1.25(m,overlapped,8H),0.89(t,3J(H,H)=7.5Hz,6H).
【0050】
5-(2-ethylhexyl)thiophene-2-carboxylic acid(中間体10)の合成工程
【化25】
【0051】
中間体9(14.0g,71.1mmol)をテトラヒドロフラン(350ml)に溶解させ、−78℃に冷却した後、n−ブチルリチウムヘキサン溶液(1.27M,60ml,76.2mmol)を滴下し、1時間30分撹拌した。この混合物に、粉砕したドライアイス(約200ml)を加え、室温で11時間撹拌した。塩酸(2M,60ml)を加えて反応を終了させた後、ジクロロメタンによる抽出を行った。得られた抽出物を、Na2SO4で乾燥した後、濾過して溶媒を減圧留去した。この残留物を、Rf=0.11のシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、ジクロロメタンを展開溶媒に用いて精製した。以上の工程により、褐色油状物質の中間体10を、収量14.6g(58.5mmol)、収率82%で得た。
1H−NMR(500MHz,CDCl3):δ7.72・(d,3J(H,H)=4.0Hz,1H),6.80(d,3J(H,H)=3.5Hz,1H),2.79(d,3J(H,H)=7.0Hz,2H),1.67-1.58(m,1H),1.38-1.25(m,overlapped,8H),0.93-0.96(m,overlapped,6H).
【0052】
5-(2-ethylhexyl)thiophene-2-carbonyl chloride(中間体11)の合成工程
【化26】
中間体10(2.88g,12.0mmol)に、塩化チオニル(4.28g,36.0mmol)を加え、80℃で3時間加熱した。この反応溶液から塩化チオニルを減圧留去し、残留物にトルエン(10ml)を加えた溶液を化合物1の合成に使用した。
【0053】
(合成例2) 化合物2の合成
化合物2を、以下のように中間体13、14を経て合成した。
4,7-di(thiophen-2-yl)benzo[c][1,2,5]thiadiazol-5-amine(中間体13)の合成工程
【化27】
出発物質12(3.01g,8.72mmol)に酢酸(400ml)を加え、80℃に加熱し、溶解させた。この溶液に、鉄(5.84g,105mmol)を加え、80℃で3時間撹拌した。反応溶液を濾過し、純水中へ滴下して黄土色沈殿を生じさせた。この沈殿物を濾取し、純水で洗浄した後、真空下、60℃で乾燥することで、黄土色粉末である中間体13を、収量2.06g(6.54mmol)、収率75%で得た。
1H−NMR(500MHz,CD2Cl2):δ8.13(dd,3J(H,H)=4.0Hz,4J(H,H)=1.5Hz,1H),7.54(dd,3J(H,H)=5.5Hz,4J(H,H)=1.5Hz,1H),7.50(s,1H),7.49(dd,3J(H,H)=5.0Hz,4J(H,H)=1.0Hz,1H),7.41(dd,3J(H,H)=4.0Hz,4J(H,H)=1.0Hz,1H),7.24(dd,3J(H,H)=5.0Hz,3J(H,H)=3.0Hz,1H),7.22(dd,3J(H,H)=5.0Hz,3J(H,H)=3.5Hz,1H).
【0054】
N-(4,7-di(thiophen-2-yl)benzo[c][1,2,5]thiadiazol-5-yl)-5-(2-ethylhexyl)thiophene-2-carboxamide(中間体14)の合成工程
【化28】
中間体13(1.01g,3.21mmol)に、トルエン(100ml)、ピリジン(10ml)、5−(2−エチルヘキシル)チオフェン−2−カルボン酸塩化物(中間体11)のトルエン溶液(0.92M,4.2ml,3.9mmol)を加えて、30時間加熱還流した。この反応溶液から溶媒を減圧留去した残留物を、ジクロロメタン(40ml)に溶解させ、セライトで濾過した。得られた濾液を炭酸水素ナトリウム水溶液(0.5M,100ml)、純水(100ml)で洗浄し、Na2SO4で乾燥した後、濾過して溶媒を減圧留去した。得られた残留物を、Rf=0.27のシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、ジクロロメタン:ヘキサン=1:1の混合溶媒を展開溶媒に用いて精製した。以上の工程により、赤褐色固体である中間体14を、収量1.30g(2.41mmol)、収率75%で得た。
1H−NMR(500MHz,CDCl3):δ9.27(s,1H),8.40(br,1H),8.18(dd,3J(H,H)=3.5Hz,4J(H,H)=1.0Hz,1H),7.68(dd,3J(H,H)=5.0Hz,4J(H,H)=1.0Hz,1H),7.52-7.50(overlapped,2H),7.34(dd,3J(H,H)=5.0Hz,3J(H,H)=3.5Hz,1H),7.27-7.24(overlapped solvent peak,1H),7.22(dd,3J(H,H)=5.0Hz,3J(H,H)=4.0Hz,1H),6.78(d,3J(H,H)=3.5Hz,1H),2.79(d,3J(H,H)=6.5Hz,2H),1.64-1.59(m,1H),1.38-1.28(m,8H),0.92-0.88(m,6H).
【0055】
6-(5-(2-ethylhexyl)thiophen-2-yl)-4,8-di(thiophen-2-yl)thiazolo[4',5':4,5]benzo[1,2-c][1,2,5]thiadiazole(化合物2)の合成工程
【化29】
中間体14のODCB溶液(0.121M,10.0ml,1.21mmol)に、ODCB(190ml)、ローソン試薬(296mg,0.732mmol)を入れ、脱気した後、アルゴン雰囲気下、140℃で73時間、160℃で20時間、180℃で16時間加熱した。この反応溶液から溶媒を減圧留去した残留物を、Rf=0.12のシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、トルエン:ヘキサン=4:1の混合溶媒を展開溶媒に用いて精製し、暗赤色固体である化合物2を、収量38.9mg(0.0705mmol)、収率14%で得た。
1H−NMR(500MHz,CD2Cl2):δ・8.99(dd,3J(H,H)=4.0Hz,4J(H,H)=1.5Hz,1H),8.09(dd,3J(H,H)=3.5Hz,4J(H,H)=1.0Hz,1H),7.69(d,3J(H,H)=4.0Hz,1H),7.66-7.64(m,overlapped,2H),7.33-7.31(m,overlapped,2H),6.93(d,3J(H,H)=3.5Hz,1H),2.88(d,3J(H,H)=7.0Hz,2H),1.75-1.70(m,1H),1.44-1.30(m,overlapped,8H),0.96-0.90(m,overlapped,6H).
【0056】
(合成例3) 化合物3の合成
N-(4,7-di(thiazol-2-yl)benzo[c][1,2,5]thiadiazol-5-yl)-3,5-bis(trifluoromethyl)benzamide(中間体18)の合成工程
【化30】
200ml二口ナスフラスコに中間体4(0.463g,1.46mmol)を入れ、トルエン(100ml)、ピリジン(20.0ml)を加えて80oCに加熱して溶かした。3,5-ビストリフルオロメチルベンゾイルクロライド(0.807g,2.92mmol)を入れて2時間30分加熱還流を行った。クロロホルムで抽出後、Na2SO4で乾燥した。溶媒を減圧留去し、化合物18(814mg,1.46mmol)を赤橙色固体として定量的に得た。
1H-NMR(300MHz,CDCl3):δ10.51(s,1H),8.64-8.52(br,6H),8.14-8.08(m,4H),8.00-7.90(br,2H),7.72(d,3J(H,H)=3.6Hz,1H),7.70(d,3J(H,H)=3.6Hz,1H).
融点:207.5oC-208.5oC
昇華性あり
【0057】
【化31】
6-(3,5-bis(trifluoromethyl)phenyl)-4,8-di(thiazol-2-yl)thiazolo[4',5':4,5]benzo[1,2-c][1,2,5]thiadiazole(中間体19)の合成工程
50ml二口ナスフラスコに18(117mg,0.179mmol)、ローソン試薬(53.9mg,0.133mmol)を入れ、反応容器をアルゴン置換した。2時間アルゴンバブリングを行った脱水トルエン(10ml)を加え8時間加熱還流した。その後、ローソン試薬(77.7mg,0.192mmol)を追加し、さらに12時間加熱還流した。トルエンを展開溶媒に用いてシリカゲルショートカラムクロマトグラフィーを行った。その後、展開溶媒をクロロホルムとトリエチルアミンと変え、(20.4mg,0.0356mmol)の化合物26を赤色固体として収率20%で得た。
1H−NMR(300MHz,CDCl3):δ8.64(s,2H),8.38(d,3J(H,H)=3.3Hz,1H),8.25(d,3J(H,H)=3.3Hz,1H),8.11(s,1H),7.78(d,3J(H,H)=3.3Hz,1H),7.74(d,3J(H,H)=3.3Hz,1H).
APCI-HRMS(-):m/z calcd for C217654 (M-),570.9494; found,570.9486.
【0058】
(合成例4) 化合物4の合成
化合物4を以下の中間体を経て合成する。
【化32】
(合成例5) ポリマー1の合成
ポリマー1を以下のようにジハロゲン化物を経て合成した。
ジハロゲン化物の合成工程
【化33】
[4',5':4,5]benzo[1,2-c][1,2,5]thiadiazole
【0059】
化合物1(302mg,0.545mmol)とN−ブロモスクシンイミド(232mg,1.30mmol)をクロロホルム:ヘキサン=1:1の混合溶液(12ml)に溶解させ、遮光条件下、室温で14時間撹拌した。この反応溶液を、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(100ml)を用いて中和し、クロロホルム(100ml)を加えて分液操作を行った。得られた有機層を、純水(100ml)、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50ml)、飽和食塩水(100ml)を順に用いて洗浄し、Na2SO4で乾燥した後、濾過して溶媒を減圧留去した。得られた残留物を、Rf=0.34の中圧シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、クロロホルムを展開溶媒に用いて精製した後、得られたフラクションについて二層拡散(クロロホルム/メタノール)により再結晶を行った。以上の工程により、赤色固体である化合物1のジハロゲン化物を、収量240mg(0.315mmol)、収率58%で得た。
1H−NMR(500MHz,CDCl3):δ8.17(s,1H),8.03・s・1H),7.79(d,J(H,H)=4.0Hz,1H),6.93(d,J(H,H)=4.0Hz,1H),2.90(d,J(H,H)=7.0Hz,2H),1.80-1.71(m,1H),1.48-1.30(m,overlapped,8H),1.00-0.91(m,overlapped,6H).
13C−NMR(125MHz,CDCl3):δ168.6,161.8,161.0,154.6,152.6,149,7,149.4,144.6,143.7,135.8,134.1,132.3,127.3,116.9,115.5,114.05,113.7,41.5,34.8,32.4,28.8,25.6,23.1,14.2,10.8.
【0060】
ポリマー1の合成工程
【化34】
20mlのシュレンク管に、化合物1のジハロゲン化物(41.4mg,0.0582mmol)とドナー化合物(59.9mg,0.0578mmol)を入れ、トルエン(5ml)を加えて、1時間Arバブリングを行った。ここに、触媒としてトリス(ジベンジリデンアセトン)(クロロホルム)ジパラジウム(0)(0.60mg,0.58μmol)、S−phos(0.95mg,2.3μmol)を加え、140oCで58時間加熱した。その後、2−トリブチルスズチオフェン(216mg,0.578mmol)を加えて4時間、続いてブロモベンゼン(182mg,1.16mmol)を加えて7時間反応させ、キャッピングを行った。反応後、反応溶液をメタノール(100ml)に注いで沈殿を生じさせ、メンブレンフィルタを用いて濾過して、固体を得た。これをソックスレー抽出器を用いて、アセトンで6時間、ヘキサンで12時間抽出した後、ジクロロメタンで32時間、トルエンで21時間それぞれ抽出を行い、このジクロロメタン分画(暗緑色固体、23.3mg)、トルエン分画(暗緑色固体、9.9mg)をそれぞれポリマー1のジクロロメタン分画およびポリマー1のトルエン分画として検討に用いた。
得られたジクロロメタン分画およびトルエン分画の1H−NMRスペクトルを図1に示す。図1(a)がジクロロメタン分画、図1(b)がトルエン分画である。
【0061】
(実験例1) 化合物1の特性評価
化合物1のジクロロメタン溶液1−1と、化合物1とTBAPF6(tetraammonium hexafluorophosphate)のジクロロメタン溶液1−2を調製した。
ジクロロメタン溶液1−1における化合物1の濃度は1.0x10-5mol/Lとし、ジクロロメタン溶液1−2における化合物1の濃度は1.0x10-3mol/L、TBAPF6の濃度は0.1Mとした。
ジクロロメタン溶液1−1について光物理特性を測定した結果を図2に示し、ジクロロメタン溶液1−2で測定されたサイクリックボルタンモグラムを図3に示す。また、化合物1の仕事関数を測定したところ5.72eVであった。
【0062】
(実験例2) 化合物2の特性評価
化合物1の代わりに化合物2を用いること以外は、実験例1と同様にして、化合物2のジクロロメタン溶液2−1および化合物2とTBAPF6のジクロロメタン溶液2−2を調製した。ジクロロメタン溶液2−1について光物理特性を測定した結果を図2に示し、ジクロロメタン溶液2−2で測定されたサイクリックボルタンモグラムを図3に示す。
【0063】
(実験例3) 化合物3の特性評価
化合物1の代わりに化合物3を用いること以外は、実験例1と同様にして、化合物3とTBAPF6のジクロロメタン溶液を調製した。このジクロロメタン溶液で測定されたサイクリックボルタンモグラムを図3に示す。Ar3に相当する芳香環に電子求引基を導入することにより、骨格自体の電子受容性をさらに低下させ得ることがわかる。
【0064】
(比較実験例1) 比較化合物Aの特性評価
化合物1の代わりに比較化合物Aを用いること以外は、実験例1のジクロロメタン溶液1−1と同様にして比較化合物Aのジクロロメタン溶液Aを調製した。ジクロロメタン溶液Aについて光物理特性を測定した結果を図2に示す。
【化35】
【0065】
(比較実験例2、3) 比較化合物B、Cの特性評価
化合物1の代わりに比較化合物BまたはCを用いること以外は、実験例1のジクロロメタン溶液1−2と同様にして、比較化合物BとTBAPF6のジクロロメタン溶液Bおよび比較化合物CとTBAPF6のジクロロメタン溶液Cを調製した。ジクロロメタン溶液B、Cで測定されたサイクリックボルタンモグラムを図3に示す。
【化36】
【0066】
図2より、チアゾール環にチオフェン環が連結した化合物1、2は、チアゾール環にアルキル基が置換した比較化合物Aに比べて吸収の谷が小さく、広い波長領域で吸収が認められた。このことから、チアゾール環に連結する基は、アルキル基よりも芳香族基であることが好ましいことがわかった。
【0067】
(実施例1) ポリマー1の特性評価
ポリマー1のオルソジクロロベンゼン溶液を調製した。オルソジクロロベンゼン溶液におけるポリマー1の濃度は0.01mg/mLとした。
また、ポリマー1のクロロベンゼン溶液を基板上に滴下した後、真空下乾燥することで薄膜を形成した。
作製した各サンプルについて光物理特性を測定した結果を図4に示す。図4より、ポリマー1のオルソジクロロベンゼン溶液および薄膜は、400〜1000nmの広い波長領域で吸収が認められ、特に単量体(化合物1、2)では吸収が認められない長波長領域で大きな吸収を示すことがわかった。また、ポリマー1の仕事関数を測定したところ5.19eVであった。
【0068】
(実施例2) ポリマ−1を用いた有機太陽電池の作製と評価
膜厚330nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成された透明ガラス電極基板を用意した。この基板のITO陽極上に、PEDOT:PSSの溶液を塗布、乾燥することで膜厚50nmの薄膜を形成した。この薄膜上に、ポリマー1のジクロロメタン分画とPC61BM(phenyl C61-Butyric acid Methyl ester)を溶解させたクロロベンゼン溶液を塗布した後、100℃で6分間熱処理して膜厚100nmの薄膜を形成した。ここで、ポリマー1のジクロロメタン分画とPC61BMの質量比は1:2とした。続いて、この薄膜上に、スピンコート法にて酸化チタン(TiO2)からなる薄膜を膜厚5nmで形成した後、真空蒸着法にてアルミニウム(Al)を膜厚100nmで成膜することにより陰極を形成した。以上の工程により、有機太陽電池(実施例電池1)を作製した。
また、上記のポリマー1のジクロロメタン分画とPC61BMのクロロベンゼン溶液(質量比1:2)のかわりに、ポリマー1のトルエン分画とPC61BMのクロロベンゼン溶液(質量比1:2)を用いて、溶液を塗布、乾燥する際に熱処理しないこと以外は、上記と同様にして有機太陽電池(実施例電池2)を作製した。
作製した実施例電池1、2について、作用スペクトルを測定した結果を図5に示し、電圧−電流密度特性を測定した結果を図6に示す。図6中、DCは暗電流(Dark Current)を表す。また、短絡電流密度Jsc、開放電圧Voc、曲線因子FF、変換効率η、直列抵抗Rs、並列抵抗Rshを測定した結果を、表1にまとめて示す。作製した有機太陽電池は、いずれも広い波長領域において大きな外部量子効率を得ることができた。
【0069】
【表1】
【0070】
【化37】
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のポリマーは光吸収材料、光電変換材料、電荷輸送材料として有用である。このため本発明のポリマーは、有機太陽電池用の光吸収材料および光電変換材料、有機トランジスタ用や有機電界発光素子用の電荷輸送材料として効果的に用いられる。このため、本発明は産業上の利用可能性が高い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6