(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する焼成治具の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る焼成治具を示す斜視図である。なお、以下においては、説明を分かり易くするために、互いに直交するX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向を規定し、Z軸正方向を鉛直上向き方向とする。
【0012】
図1に示すように、焼成治具1は、基台10と、セッター20とを備えたセラミックス質の焼成治具であり、セッター20の上面20aに被焼成物Aが載置されている。そして、上記した焼成治具1は、例えば複数段積み上げられた状態で、図示しない窯炉内に配置され、被焼成物Aが焼成される。
【0013】
なお、
図1では、焼成治具1を複数段積層するようにしたが、これに限定されるものではなく、1段であってもよい。また、
図1において、焼成治具1を3段積みとしたが、これは例示であって、2段または4段以上であってもよい。
【0014】
ところで、例えば仮に、焼成治具が複数の構成部材を組み付けることで製作されていた場合、焼成治具自体の生産性が低下するおそれがあった。
【0015】
詳しくは、例えば4本の支柱に複数の連結棒を取り付けてラック形状とし、連結棒の上にセッターを載せることで、焼成治具を製作するようにした場合、支柱等のガタつき防止やセッターの安定性などの観点から、高い組み付け精度が要求されることとなる。また、上記した支柱と連結棒との組み付け作業も煩雑であり、結果として焼成治具自体の生産性が低下するおそれがあった。
【0016】
そこで、本実施形態に係る焼成治具1においては、生産性を向上させることができる構成とした。以下、その焼成治具1について詳しく説明する。
【0018】
図2によく示すように、焼成治具1の基台10は、枠体11と、複数(例えば2つ)の架橋部12a,12bと、複数(例えば4つ)の支持部13とを備える。なお、上記した枠体11と架橋部12a,12bと支持部13とは、一体成型されるが、これについては後に詳説する。
【0019】
枠体11は、
図3Aに示すように、平面視において略矩形状に形成され、中央側に中空部14を有するように構成される。具体的には、枠体11において、上面11a側の空間と下面11b側の空間とが中空部14を介して連通される。
【0020】
また、枠体11は、
図3C,3Dに示すように、Z軸方向における厚さが比較的薄い、薄板状とされる。このように、枠体11が中空部14を有するとともに、薄板状とされることで、枠体11、ひいては焼成治具1自体を軽量化させることができる。
【0021】
枠体11の平面視における各辺は、X軸方向またはY軸方向に対して平行とされる。具体的には、
図3Aの紙面において左側の辺11Lと右側の辺11Rとは、Y軸方向に対して平行とされ、上側の辺11Uと下側の辺11Dとは、X軸方向に対して平行とされる。なお、この明細書において「平行」などの語句は、必ずしも数学的に厳密な精度を必要とするものではなく実質的な公差や誤差などについては許容されるものである。
【0022】
また、本実施形態における枠体11は、上記したように略矩形状に形成されるが、これに限定されるものではなく、例えば正方形や三角形などの多角形、または円形や楕円形などその他の形状であってもよい。
【0023】
架橋部12a,12bはそれぞれ、枠体11から連続して形成されるとともに、枠体11の中空部14に架け渡されるようにして配置される。具体的には、架橋部12aは、枠体11の辺11Lの中点付近と辺11Rの中点付近とを結ぶようにして配置され、長手方向がX軸方向に対して平行とされる。また、架橋部12bは、枠体11の辺11Uの中点付近と辺11Dの中点付近とを結ぶようにして配置され、長手方向がY軸方向に対して平行とされる。
【0024】
架橋部12a,12bは、上記の如く配置されることで、十字状となり、枠体11の中空部14で互いに交差する、換言すれば、平面視における枠体11の中心部分で互いに交差することとなる。なお、上記した架橋部12aと架橋部12bとが交差する部位を、図において符号15で示すとともに、以下では「交差部位15」と称する。
【0025】
また、焼成治具1には、後述する通り、使用時の焼成工程においてセッター20の変形や被焼成物Aの変形が生じるのを防止するために、架橋部12a,12bが配置される。セッター20の変形の場合、中央部を架橋部12a,12bで支えた方が、変形をより抑制できるため、架橋部12a,12bは中央部に配置された方が好ましく、したがって架橋部12a,12bは、十字状になるように配置される方が好ましい。
【0026】
また、架橋部12aおよび架橋部12bは、Z軸方向における厚さが枠体11と略同一な薄板状とされる。また、架橋部12aの上面12a1、架橋部12bの上面12b1、および枠体11の上面11aは、連続する平坦面であり、XY平面に対して平行とされる。これにより、架橋部12a,12bの上面12a1,12b1および枠体11の上面11aにセッター20が載置された場合、セッター20がガタつくことはなく、セッター20を安定して保持することができる。
【0027】
なお、架橋部12aと架橋部12bとが、上記のように配置されることから、枠体11の中空部14は、複数(具体的に例えば4つ)に区画されることとなる。図においては、架橋部12a,12bによって区画された中空部14を符号14a,14b,14c,14dで示した。
【0028】
図3Aなどに示すように、枠体11および架橋部12a,12bにおいて、中空部14a,14b,14c,14dの角部分と接する部位には、アールが付けられる。言い換えれば、複数の中空部14a,14b,14c,14dはそれぞれ、平面視において角部が外方に向けて突出するように湾曲させられた略矩形状に形成される。これにより、例えば焼成治具1を製作する過程(成型時など)、使用する過程において、応力(機械的応力や熱的応力)が局部的に集中するのを緩和でき、よってクラック等の発生を抑制することができる。
【0029】
中空部14a,14b,14c,14dは、焼成治具1の軽量化および後述する熱風の移動、脱バインダーの効率化の面から、XY平面における面積を大きくした方がよい。但し、中空部14a,14b,14c,14dの面積を大きくすると、それに伴い、左側の辺11Lを含む端縁の幅W11L、右側の辺11Rを含む端縁の幅W11R、上側の辺11Uを含む端縁の幅W11U、下側の辺11Dを含む端縁の幅W11D、架橋部12aの幅W12a、架橋部12bの幅W12bは狭くなる。
【0030】
セッター20および被焼成物Aの荷重は、枠体11および架橋部12a,12bで支えられるため、これらが狭くなりすぎると、使用時にたわみが生じ、ガタつきが発生して、継続して使用することができない。したがって、中空部14a,14b,14c,14dの大きさと枠体11、架橋部12a,12bの幅は、それに載せられるセッター20および焼成物Aの荷重によって、適宜調整される。
【0031】
図3Aに示すように、枠体11において、左側の辺11Lを含む端縁の幅W11Lと、右側の辺11Rを含む端縁の幅W11Rと、上側の辺11Uを含む端縁の幅W11Uと、下側の辺11Dを含む端縁の幅W11Dとは、同一または略同一の値となるように設定される。また、架橋部12aの幅W12aと、架橋部12bの幅W12bとは、同一または略同一の値となるように設定される。さらに、枠体11の各端縁の幅W11L,W11R,W11U,W11Dと、架橋部12a,12bの幅W12a,W12bも同一または略同一の値となるように設定される。
【0032】
このように、枠体11の各端縁および架橋部12a,12bはともに、幅が均一または略均一であり、途中で幅広になったり幅狭になったりする形状とされない。これにより、例えば焼成治具1を製作する過程(成型時など)において、応力が局部的に集中するのをより一層緩和でき、よってクラック等の発生を効果的に抑制することができる。
【0033】
さらに、架橋部12a,12bの一部分が幅狭になっている場合、使用時にセッター20と被焼成物Aの荷重が架橋部12a,12bにかかるため、幅狭の部分だけが荷重に耐えられずに、その部分を中心に変形し、継続して使用できなくなる。したがって、架橋部12a,12bの幅は均一または略均一であることが好ましい。
【0034】
支持部13は、
図3B〜
図3Dなどによく示すように、枠体11の下面11bの四隅付近にそれぞれ設けられ、下面11bからZ軸の負方向に突出するように形成される。これにより、支持部13は、枠体11を下面11b側から支持するとともに、基台10の足部として機能する。
【0035】
したがって、支持部13のZ軸方向の高さを適宜に設定することで、例えば焼成治具1を積層する場合、鉛直方向に隣接する枠体11の間に、セッター20や被焼成物Aを配置するための空間を設けることができる。
【0036】
また、支持部13は、枠体11の辺11Uまたは辺11Dに沿って形成される。なお、支持部13が形成される位置は、上記に限定されるものではない。すなわち、例えば支持部13を、枠体11の辺11L,11Rに沿って形成してもよく、また四隅の辺に沿うようにして底面視略L字状となるように形成してもよい。
【0037】
さらには、支持部13を、枠体11の四隅のものに加えて、または、四隅のものに代えて、各辺11U,11D,11L,11Rの適宜な位置、例えば辺11U,11D,11L,11Rのうちの少なくともいずれかの辺の中点付近に設けるようにしてもよい。また、支持部13の数を、上記では4つとしたが、これに限定されるものではなく、3つ以下、あるいは5つ以上であってもよい。
【0038】
支持部13は、
図3Dによく示すように、側面視略台形状に形成され、具体的にはX方向の幅が枠体11の下面11bから離間するに連れて小さくなる、いわゆるテーパ状に形成される。このように、支持部13をテーパ状とすることで、支持部13の成型に用いられる金型(図示せず)に抜き勾配が設けられ、よって基台10をプレス成型(後述)した後の金型からの離型性を向上させることができる。
【0039】
上記した抜き勾配は、たとえば5°以上あればよく、好ましくは10°以上であり、さらに好ましくは15°以上である。抜き勾配が5°より小さい場合は、プレス成型した後、成形体を取り出す際に、支持部13が金型から離型しないなどの、成形不良が発生しやすくなる。
【0040】
また、枠体11の上面11aには、例えば焼成治具1が、
図1に示すように複数段積み上げられて、複数の枠体11が積層される場合に鉛直方向(Z軸方向)において上方に位置された枠体11の支持部13を受ける受け部16が形成される。
【0041】
受け部16は、
図3Aに示すように、支持部13に対応する位置、具体的には枠体11の上面11aの四隅付近にそれぞれ設けられる。受け部16は、枠体11の上面11aからZ軸の負方向に所定深さだけ窪んだ穴であり、支持部13が載置可能な形状とされる。また、受け部16たる穴の側壁において、枠体11の外周側の側壁は形成されないようにする。
【0042】
このように、枠体11の上面11aに他の枠体11の支持部13を受ける受け部16を設けたことから、焼成治具1を容易に位置決めしつつ積み上げることができ、また積層された焼成治具1の位置ズレも防止することができる。
【0043】
また、支持部13と受け部16とが接触する面積、すなわち支持部13のXY平面における断面積は、40mm
2以上が好ましく、さらに好ましくは、60mm
2以上である。支持部13は受け部16との摩耗によって減っていくが、断面積が40mm
2より小さい場合、摩耗量が著しく大きく、ガタつきが発生し、継続して使用できなくなる。断面積が大きくなれば、摩耗量が減少するので、安定的に使用できる。上限は特にないが、支持部13の断面積を大きくしすぎると、セッター20および被焼成物Aを載せるスペースが減少するため、経済的に好ましくなく、よって上限はたとえば400mm
2程度である。
【0044】
また、支持部13の厚み(Y軸方向の長さ)は、2mm〜10mmが好ましく、さらに好ましいのは3〜7mmである。支持部13の厚みが2mmより小さい場合、プレス成型で成形したあと支持部13を離型させることが困難であり、支持部13としての強度が小さくなるため好ましくない。一方、支持部13の厚みが10mmより大きい場合、セッター20および被焼成物Aを載せるスペースが減少するため、経済的に好ましくない。
【0045】
上記のように構成された枠体11、架橋部12a,12bおよび支持部13は、一体成型される、詳しくは耐火物で一体成型される。具体的には、粉状または粘土状の耐火物を図示しない金型に流し込んで加圧する、いわゆるプレス成型によって、枠体11、架橋部12a,12bおよび支持部13が一体に形成された基台10が完成する。耐火物は、例えばアルミナ、ムライト、ジルコニア、コージェライト、スピネル、炭化ケイ素、窒化ケイ素、およびそれらの混合物等であり、比較的高温(例えば1500℃以上)に耐えることが可能な素材である。
【0046】
このように、焼成治具1を構成する枠体11、架橋部12a,12bおよび支持部13が、一体成型されることから、焼成治具1を容易に製作でき、よって複数の構成部材を組み付けて製作する場合に比べて、焼成治具1自体の生産性を向上させることができる。また、枠体11、架橋部12a,12bおよび支持部13が、耐火物で成型されることから、基台10を軽量化でき、耐熱衝撃性も向上させることができる。さらに、耐火物は一般的に製造時の寸法収縮が小さいため、寸法精度を出しやすく、焼成後の加工が無くても、ガタツキを小さくすることができる。
【0047】
次いで、セッター20について説明する。セッター20は、枠体11の上面11aおよび架橋部12a,12bの上面12a1,12b1に載置される。セッター20は、平面視において略矩形状に形成されるとともに、Z軸方向における厚さが枠体11や架橋部12a,12bのそれよりも薄い薄板状とされる。これにより、セッター20の軽量化を図ることができる。
【0048】
ところで、例えば仮に、セッターを薄板状に形成するとともに、セッターの外周のみを枠体で保持するような構成とした場合、焼成工程が行われる環境によっては、セッターは、中央付近が鉛直方向下向きに突出するように湾曲して、変形してしまうことがある。セッターが変形すると、セッターに載置された被焼成物にも変形が生じるおそれがある。
【0049】
そこで、本実施形態に係る焼成治具1にあっては、上記の如く、枠体11の中空部14に、互いに交差する架橋部12a,12bを架け渡すようにした。これにより、セッター20は、例えば中央付近が架橋部12a,12bの交差部位15によって保持されることから、焼成工程においてセッター20の変形や被焼成物Aの変形が生じるのを防止することができる。
【0050】
また、セッター20は、
図1に示すように、枠体11の上面11aおよび架橋部12a,12bの上面12a1,12b1(架橋部12a,12bは
図1で見えず)に載置された状態で、枠体11の受け部16が露出するような大きさに設定される。これにより、焼成治具1が積層される場合であっても、露出した受け部16で支持部13を受けることができるとともに、セッター20と支持部13とが干渉するのを防止することができる。
【0051】
セッター20は、例えば耐火物から製作される。また、セッター20用として、例えば粒子径が均一な耐火物を用いれば、セッター20に通気性を持たせることができる。これにより、焼成工程において、窯炉内の熱風が、セッター20を通って被焼成物Aの下面側にも到達することとなり、被焼成物Aの焼成を効率良く行うことができる。また、セッター20が通気性を有することで、脱バインダーのときに、被焼成物Aからバインダーを効率良く除去することができる。
【0052】
また、セッター20は、耐火物たるセラミックスに多くの気孔が形成された多孔質セラミックスを有するように構成してもよい。
図4Aは、多孔質セラミックスを有するセッター20を説明するための模式断面図である。なお、
図4Aにおいては、理解の便宜のため、セッター20のZ軸方向の厚さや気孔21の大きさなどを誇張して示している。
【0053】
図4Aに示すように、セッター20を構成する多孔質セラミックスは、気孔21が柱状に形成される。具体的に例えば、気孔21の平均アスペクト比が2.0以上、好ましくは3.5以上となるように形成される。
【0054】
このような平均アスペクト比を有する気孔21は、例えば、セッター20において互いに向かい合う一方の面(下面20b)から他方の面(上面20a)に向かって一方向に配向するように形成されるのが好ましい。詳しくは、セッター20における気孔21は、基台10と接する下面20bから被焼成物Aが載置される上面20aへ向かう方向、具体的にはZ軸方向と平行または略平行となる向きに配向するように形成されるのが好ましい。
【0055】
これにより、例えば焼成工程において、窯炉内の熱風が、
図4Aに矢印Bで示すようにセッター20内を通過して被焼成物Aの下面側にも到達し易くなることから、被焼成物Aの焼成をより一層効率良く行うことができる。
【0056】
また、矢印Bのようにセッター20が通気性を有することで、脱バインダーのときにも、被焼成物Aからバインダーを効率良く除去することができ、さらにはセッター20の長寿命化を図ることもできる。
【0057】
すなわち、セッター20は、脱バインダー工程で被焼成物Aと反応してしまうのを防止するため、上面20aなどが図示しない難反応性の膜で被覆されることがある。セッター20が上記の如く通気性を有するように構成されると、被焼成物Aのバインダーはセッター20を通過し易くなることから、膜とバインダーとが接触し難くなって膜の劣化を抑制でき、結果としてセッター20の長寿命化を図ることができる。
【0058】
さらに上記した多孔質セラミックスは、気孔径のばらつきが130%以下であり、好ましくは85%以下である。気孔径のばらつきが130%を超えると、例えば、粗大な気孔を含むことで局所的に機械的強度が低い箇所が生じ、取扱い上の不具合が生じることがある。そこで、気孔径のばらつきを130%以下とすることで、上記した不具合が生じるのを抑制することができる。
【0059】
また、上記した多孔質セラミックスは、平均気孔径が1μm〜500μmであることが被焼成物Aの焼成等を行う上で好ましく、より好ましくは12μm〜102μmである。
【0060】
また、上記した多孔質セラミックの気孔率は、50%〜99%の範囲が好ましく、より好ましくは70%〜99%である。多孔質セラミックスの気孔率が50%未満だと、セッター20の通気性が低下するおそれがある。一方、多孔質セラミックスの気孔率が99%を超えると、所望の強度を確保できないおそれがある。
【0061】
ここで、この明細書における「平均アスペクト比」などの語句について詳説する。多孔質セラミックスの「気孔21のアスペクト比」は、例えば画像解析に基づいて算出することができる。すなわち、気孔21の断面部を撮像し、撮像した断面部を楕円体に近似し、面積、長径および短径を測定したときの長径から短径を除した値を「気孔21のアスペクト比」という。そして、任意に選択した50個の気孔21のアスペクト比の平均値を、「気孔21の平均アスペクト比」と規定する。
【0062】
また、多孔質セラミックスの「平均気孔径」および「気孔径のばらつき」は、次のようにして算出した。
図5は、平均気孔径および気孔径のばらつきの測定方法について説明するための図である。
【0063】
図5に示すように、まず、セッター20を構成する多孔質セラミックスを、幅a
1×b
1=15mm×15mm、厚さc=9mmの試料片Tとして中央(α)と端部(β、γ、δ、ε)の計5ヶ所からそれぞれ切り出した。次に、この5つの試料片についてそれぞれ平均気孔径を算出した。ここで、各試料片の「平均気孔径」とは、接触角140度で水銀圧入法を用いて各試料片についてそれぞれ測定し、気孔21を円柱近似した際の気孔分布に基づいて得られたメジアン径(d50)をいう。
【0064】
そして、各平均気孔径のうち、最大値と最小値との差を求め、この値((最大値)−(最小値))を各平均気孔径の平均値で除した値の百分率を「気孔径のばらつき」(%)とした。また、試料片ごとに得られた平均気孔径の平均値を、多孔質セラミックスの「平均気孔径」と規定する。
【0065】
また、「気孔率」とは、JISR1634:2008に規定する手法に基づき、アルキメデス法により得られた値をいう。かかる測定では、閉気孔は考慮されないため、「見掛け気孔率」とも呼ばれる。なお、この明細書では、「見掛け気孔率」を「気孔率」と称する。
【0066】
なお、上記では、セッター20が多孔質セラミックスを有するとしたが、枠体11および架橋部12a,12bが多孔質セラミックスを有するように構成してもよい。なお、図示は省略するが、枠体11および架橋部12a,12bが上記の多孔質セラミックスを有する場合、気孔は、互いに向かい合う一方の面(例えば下面11bなど)から他方の面(例えば上面11aなど)に向かって一方向に配向するように形成されるのが望ましい。
【0067】
上記の如く、枠体11および架橋部12a,12bとセッター20とのうちの少なくともいずれかが多孔質セラミックスを有していればよく、そのように構成することで、上記した効果を得ることができる。
【0068】
また、多孔質セラミックスの特性は、上記に限定されるものではない。
図4Bは、その他の例の多孔質セラミックスを有するセッター20を説明するための模式断面図である。なお、
図4Bにおいては、
図4Aと同様、セッター20のZ軸方向の厚さや気孔22の大きさなどを誇張して示している。
【0069】
図4Bに示す例のセッター20を構成する多孔質セラミックスは、気孔22がランダムな方向に形成されるよう3次元の網目状にセラミックス骨格23が形成される。ここで、気孔22が「ランダムな方向に形成される」とは、気孔22の平均アスペクト比が1〜2、好ましくは1〜1.4であることをいう。
【0070】
これにより、例えば焼成工程において、窯炉内の熱風が、
図4Bに矢印Cで示すようにセッター20内を通過して被焼成物Aの下面側にも到達し易くなることから、被焼成物Aの焼成をより一層効率良く行うことができる。また、矢印Cのようにセッター20が通気性を有することで、被焼成物Aからバインダーを効率良く除去することができ、さらにはセッター20の長寿命化を図ることもできる。
【0071】
また、
図4Bのセッター20の多孔質セラミックスの気孔率は、50%〜99%の範囲が好ましく、より好ましくは70%〜99%である。多孔質セラミックスの気孔率が50%未満だと、セッター20の通気性が低下するおそれがある。一方、多孔質セラミックスの気孔率が99%を超えると、所望の強度を確保できないおそれがある。
【0072】
また、
図4Bの例の多孔質セラミックスは、平均気孔径が10μm〜300μmであることが被焼成物Aの焼成等を行う上で好ましく、より好ましくは10μm〜100μmである。
【0073】
また、
図4Bの例の多孔質セラミックスは、気孔径のばらつきが10%以下である。気孔22がランダムな方向に形成された多孔質セラミックスにあっては、気孔径のばらつきが10%を超えると、例えば、粗大な気孔を含むことで局所的に機械的強度が低い箇所が生じ、取扱い上の不具合が生じることがある。そこで、気孔径のばらつきを10%以下とすることで、上記した不具合が生じるのを抑制することができる。
【0074】
また、
図4Bの例の多孔質セラミックスは、平均曲げ強度が10MPa以上であることが好ましい。また、
図4Bの例の多孔質セラミックスは、耐熱衝撃性が450℃以上であることが好ましく、より好ましくは600℃以上である。平均曲げ強度および耐熱衝撃性を上記のように設定することで、被焼成物Aの焼成時におけるセッター20の耐久性を向上させることができる。
【0075】
ここで、「平均曲げ強度」は、JISR1601:2008に規定する3点曲げ試験に基づいて測定した値である。また、「耐熱衝撃性」は、以下のようにして測定した。まず、100mm□×厚さ3mmの試料と同サイズの煉瓦質の薄板とを作製する。次に、上下に対向して配置された試料と薄板との間に複数の支柱を配し、試料および薄板を上下方向から挟むようにして加圧する。その状態の試料等を電気炉にて高温加熱して1時間以上所望の温度に保持した後に、電気炉から取り出して室温に晒し、肉眼にて試料の割れの有無を評価した。設定温度を350℃から700℃まで50℃ずつ昇温させながら変更し、割れの生じない温度の上限を「耐熱衝撃性」とした。
【0076】
上述してきたように、第1の実施形態では、焼成治具1は、枠体11と、複数の架橋部12a,12bとを備える。枠体11は、中央側に中空部14を有する。複数の架橋部12a,12bは、枠体11の中空部14に架け渡され、中空部14で互いに交差する。また、枠体11と架橋部12a,12bとは、一体成型される。これにより、焼成治具1自体の生産性を向上させることができる。
【0077】
なお、上記では、架橋部12a,12bの上面12a1,12b1が平坦面となるように構成したが、これに限定されるものではなく、
図3Aにおいて想像線で示す如く、架橋部12a,12bの上面12a1,12b1に通気溝17を形成するようにしてもよい。
【0078】
通気溝17は、例えば架橋部12a,12bによって区画された中空部14a,14b,14c,14d同士を連通する、正確には中空部14aと14b、中空部14aと14c、中空部14bと14d、中空部14cと14dを連通するように構成される。
【0079】
これにより、窯炉内の熱風が、
図3Aに矢印Bで示すように、通気溝17を通って、セッター20の下面付近を循環することとなるため、セッター20の下面側の温度を高温にすることができ、よってセッター20の被焼成物Aを効率良く焼成することができる。
【0080】
なお、上記では、架橋部12a,12bの上面12a1,12b1に通気溝17を設けるようにしたが、それに代えて、あるいはそれに加えて突起を設けるようにしても、同様な効果を得ることができる。
【0081】
また、上記では、焼成治具1において、架橋部12aと架橋部12bとを1本ずつとしたが、これに限定されるものではなく、それぞれ複数本であってもよい。すなわち、架橋部12aをm個(mは2以上の整数)、架橋部12bをn個(nは2以上の整数)としてもよい。
【0082】
図6は、第1の実施形態に係る焼成治具1の基台10の変形例を示す、基台10の平面図である。
図6では、架橋部12aを2本とした場合を示している。このように、架橋部12a,12bを複数本にすることで、セッター20を架橋部12a,12bによってより一層安定して保持するようにしてもよい。
【0083】
また、上記では、焼成治具1において、架橋部12a,12bは、長手方向が対向する枠体11の辺同士を結ぶようにしたが、これに限定されるものではない。
図7は、第1の実施形態に係る焼成治具1の基台10の変形例を示す、基台10の平面図である。
【0084】
図7に示すように、架橋部12c,12dを、長手方向が枠体11の対角線上となるように構成してもよい。このように、架橋部12c,12dを配置した場合であっても、上記と同様な効果を得ることができる。
【0085】
(第2の実施形態)
図8は、第2の実施形態に係る焼成治具1を示す平面図である。なお、以下においては、第1の実施形態と共通の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0086】
第1の実施形態との相違点に焦点をおいて説明すると、第2の実施形態に係る焼成治具1においては、枠体11の上面11aの適宜位置、例えば上面11aにおいて辺11L側に、複数個(2個)の突起部30aが形成される。
【0087】
なお、突起部30aは、例えば円柱状とされるが、これに限定されるものではなく、例えば角柱状や半球状などその他の形状であってもよい。また、突起部30aの個数を2個としたが、これは例示であって、1個あるいは3個以上であってもよい。また、後述する突起部30b,30cについても、形状および個数は、図示のものに限定されるものではない。
【0088】
他方、セッター20において、辺11L側の外周には、突起部30aと対応する切り欠き部31aが形成される。したがって、第2の実施形態においては、基台10の枠体11にセッター20を載置する際、切り欠き部31aを突起部30aに合わせつつ載置することで、セッター20の位置決めを容易に行うことができる。
【0089】
また、セッター20が、突起部30aと切り欠き部31aとが合わさった状態で、基台10に載置されることで、セッター20の基台10に対する位置ズレも防止することができる。
【0090】
なお、上記では、突起部30aを上面11aの辺11L側に設けるようにしたが、これに限定されるものではない。すなわち、
図8に想像線で示すように、突起部30aに代えて、あるいは突起部30aに加えて、上面11aの辺11R側に突起部30bを形成してもよく、また上面11aの辺11Uや辺11D側に突起部30cを形成してもよい。
【0091】
上記した突起部30bや突起部30cを形成した場合、セッター20の外周には、突起部30bと対応する切り欠き部31b、または、突起部30cと対応する切り欠き部31cが形成される。これにより、上記と同様、セッター20を容易に位置決めしつつ、基台10に載置することができるとともに、セッター20の基台10に対する位置ズレも防止することができる。
【0092】
また、上記では、突起部30aを枠体11の上面11aに形成するようにしたが、これに限定されるものではない。すなわち、図示は省略するが、突起部30aを架橋部12a,12bの上面12a1,12b1に形成してもよい。さらには、突起部30aを、枠体11の上面11a、および、架橋部12a,12bの上面12a1,12b1の両方に形成するようにしてもよい。なお、残余の構成および効果は、第1の実施形態と同一であるので、説明を省略する。
【0093】
(第3の実施形態)
図9は、第3の実施形態に係る焼成治具1を示す正面図である。なお、
図9においては、図の簡略化のため、受け部16の図示を省略した。
【0094】
第1の実施形態との相違点に焦点をおいて説明すると、第3の実施形態に係る焼成治具1においては、枠体11の上面11aの適宜位置、例えば上面11aにおいて辺11L側と辺11R側に一つずつ凹部40が形成される。
【0095】
一方、セッター20の下面20bであって、凹部40に対応する位置には、凹部40と嵌合する凸部41が形成される。したがって、第3の実施形態においては、基台10の枠体11にセッター20を載置する際、凸部41を凹部40に嵌合させつつ載置することで、セッター20の位置決めを容易に行うことができる。
【0096】
また、セッター20が、凹部40と凸部41とが嵌合した状態で、セッター20を基台10に載置することで、セッター20が基台10に対して位置ズレするのを防止することができる。
【0097】
なお、上記では、凹部40を上面11aの辺11L,11R側に設けるようにしたが、これは例示であって、個数や位置を限定するものではない。すなわち、例えば凹部40を上面11aの辺11L,11Rのいずれか一方のみに形成してもよく、さらには、辺11Uや辺11D側に形成してもよい。
【0098】
また、図示は省略するが、凹部40を架橋部12a,12bの上面12a1,12b1に形成してもよい。
【0099】
また、上記では、枠体11側に凹部40を、セッター20側に凸部41を形成するようにしたが、この凹凸関係を逆にしてもよい。すなわち、
図9に想像線で示すように、セッター20の下面20bに凹部42を形成し、枠体11の上面11aであって凹部42に対応する位置に、凹部42と嵌合する凸部43を形成してもよい。
【0100】
また、図示は省略するが、凸部43を架橋部12a,12bの上面12a1,12b1に形成してもよい。このようにセッター20側に凹部42を、枠体11または架橋部12a,12b側に凸部43を形成した場合であっても、上記と同様、セッター20の位置決めを容易に行うことができるとともに、枠体11に対する位置ズレも防止することができる。
【0101】
以上の如く、第3の実施形態に係る焼成治具1においては、枠体11および架橋部12a,12bの少なくともいずれかの上面11a,12a1,12b1、および、セッター20の下面20bの一方に凹部40,42が形成され、他方に凹部40,42と嵌合する凸部41,43が形成されるようにした。なお、残余の構成および効果は、従前の実施形態と同一であるので、説明を省略する。
【0102】
(第4の実施形態)
図10は、第4の実施形態に係る焼成治具1を示す平面図である。第1の実施形態との相違点に焦点をおいて説明すると、第4の実施形態に係る焼成治具1においては、枠体11の上面11aの適宜位置、例えば上面11aにおいて辺11L側に、複数個(2個)の規制部50aが形成される。
【0103】
規制部50aは、上面11aからZ軸の正方向に向けて突出するように形成される。したがって、セッター20がX軸の正側から負側に向けて移動させられつつ基台10に載置される場合、セッター20の外周が規制部50aに当接すると、規制部50aは、ストッパーとして機能し、セッター20のそれ以上の移動(ここではX軸の負方向への移動)を規制する。これにより、セッター20の位置決めを容易に行うことができ、さらにセッター20の枠体11に対する位置ズレも防止することができる。
【0104】
なお、規制部50aを、
図10に示すように、平面視略矩形状となるようにしたが、これに限定されるものではなく、例えば円柱状や半球状などその他の形状であってもよい。また、規制部50aの個数を2個としたが、これに限定されるものではなく、1個または3個以上であってもよい。
【0105】
また、上記では、規制部50aを上面11aの辺11L側に設けるようにしたが、これに限定されるものではない。すなわち、規制部50aに代えて、または規制部50aに加え、
図10に想像線で示すように、上面11aの辺11R側に規制部50bを形成してもよく、さらには上面11aの辺11Uや辺11D側に規制部50cを形成してもよい。
【0106】
また、上記では、規制部50aを枠体11の上面11aに形成するようにしたが、これに限定されるものではない。すなわち、図示は省略するが、規制部50aを架橋部12a,12bの上面12a1,12b1に形成してもよい。さらには、規制部50aを、枠体11の上面11a、および、架橋部12a,12bの上面12a1,12b1の両方に形成するようにしてもよい。なお、残余の構成および効果は、従前の実施形態と同一であるので、説明を省略する。
【0107】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。