【文献】
YONEYAMA, Masahide,"The audio spotlight: An application of nonlinear interaction of sound waves to a new type of loudspeaker design",The Journal of the Acoustical Society of America,米国,Acoustical Society of America,1983年 5月,73,p1532-p1536,[オンライン],[検索日 2017.9.14],インターネット:<URL:http://dx.doi.org/10.1121/1.389414>,URL,http://dx.doi.org/10.1121/1.389414
【文献】
MERKLINGER, Harold M.,"Improved efficiency in the parametric transmitting array",The Journal of the Acoustic Society of America 58, 784(1975),米国,Acoustical Society of America,1975年10月,[オンライン],[検索日 2017.9.12],インターネット:<URL:http://dx.doi.org/10.1121/1.380750>,URL,http://dx.doi.org/10.1121/1.380750
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
超音波帯域のキャリア信号を、外部音源からの可聴信号で変調して変調信号を生成する変調手段と、該生成された変調信号を増幅する増幅手段と、該増幅された変調信号に基づいて超音波を放射する超音波放射手段と、を備えるパラメトリックスピーカにおいて、
前記パラメトリックスピーカは、前記超音波放射手段から出力された超音波の音圧を検出し、検出された出力音圧の信号に基づいて、非線形伝搬過程の影響を受けた際の復調可聴信号の波形を非線形伝搬モデルによって予測して生成し、該生成した波形と入力された可聴信号の波形とを比較することで、前記可聴信号の補正を行い、補正した可聴信号を前記変調手段へと送る可聴信号補正手段を、さらに備えることを特徴とするパラメトリックスピーカ。
前記超音波放射手段は、前記キャリア信号に基づいた超音波と、前記サイドバンド信号に基づいた超音波とを、別個の超音波エミッタによって放射することを特徴とする請求項3に記載のパラメトリックスピーカ。
前記超音波エミッタでは、放射された前記キャリア信号に基づいた超音波と、放射された前記サイドバンド信号に基づいた超音波とが、10°以下の角度で交差するように配置されることを特徴とする請求項4に記載のパラメトリックスピーカ。
前記超音波放射手段における周波数特性の減衰帯域を、下側帯域であれば周波数の上昇に伴って周波数の2乗に比例し、上側帯域であれば周波数の2乗に反比例する特性に制御し、前記下側帯域又は前記上側帯域にキャリア信号とサイドバンド信号が存在することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のパラメトリックスピーカ。
前記超音波放射手段によって再生される超音波の周波数特性を、該超音波放射手段の減衰周波数帯域を、該超音波放射手段の周波数特性の下側帯域であれば周波数の上昇に伴って周波数の2乗に比例し、上側帯域であれば周波数の2乗に反比例する特性となるように制御する周波数特性補正手段をさらに備え、前記下側帯域又は前記上側帯域にキャリアとサイドバンド成分が存在することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のパラメトリックスピーカ。
【背景技術】
【0002】
通常のスピーカに比べて格段に指向性の狭い(鋭い)音場を生成できるスピーカとして、パラメトリックスピーカが知られている。このパラメトリックスピーカは、近年、展示物のブースごとの個別案内、交通バリアフリーでの音による注意喚起や誘導等に適用できるように研究開発がなされ実用化も進んでいる。
パラメトリックスピーカの特長としては、指向性が非常に鋭く、特定の空間にいる人だけに限定的に音を聞かせることができる点にある。この特長によって、個別案内や、周囲の静音化を実現できるため、競技場、劇場、学校等の公共施設やアミューズメント施設での案内、鉄道や交通機関等への導入が期待されている。例えば、実際に、観光名所等での導入も行われており、また、駅の特定のホームにいる人にだけアナウンスを流したり、エスカレーターにおいて、乗降する人にのみ注意を促すようなことも可能であり、音の反響、残響が激しいトンネルにおける、災害時の避難誘導への利用も期待されている。さらに、アミューズメント施設における大音量のゲーム機の騒音低下への応用研究や、横断歩道の視覚障害者用音響信号機に設置して、視覚障害者へアナウンスを流し、同時に周辺環境の静音化を実現するための応用研究もされている。
このように、指向性が非常に鋭く、周囲の静音化が実現できるパラメトリックスピーカは、騒音が社会問題となっている近代社会において、様々な分野での応用が期待される技術である。
【0003】
ここで、パラメトリックスピーカの再生原理としては、強力な超音波を放射して、その伝搬過程における空気の非線形性を利用して可聴音を得るというものである。このパラメトリックスピーカの基本構成については、
図1に示すように、外部音源5と、キャリア信号源6と、変調手段2と増幅手段3と超音波放射手段4とを備えるものであり、かかる基本構成において、入力の可聴信号を伝送処理し、超音波放射手段4から放射することで、音源の再生音を得る。
変調手段2は、可聴信号を用いて超音波帯域のキャリア信号の変調処理を行う手段であり、例えば、変調器によって実現される。増幅手段3は、得られた変調信号を増幅して超音波放射手段4へと供給する手段であり、例えば、増幅器によって実現される。また、超音波放射手段4は、単数又は複数の超音波エミッタから構成されるのが一般的である。超音波放射手段4から放射された変調超音波から可聴信号を得るための復調処理は、空気中を伝搬する超音波の自己復調現象を利用する。
【0004】
なお、上述したパラメトリックスピーカについて、概略構成(
図2)に基づいて、可聴信号を変調し、再生音を放射する流れの一例について説明する。
s(t )で外部音源からの可聴信号を表現し、信号を時間領域(t )と角周波数領域(ω)で扱う場合、変調手段で生成された変調信号f(t )は、以下の式(1)によって表される。
ここで、ω
cはキャリア信号の角周波数、e (t )は包絡線関数を示す。
例えば、振幅変調(AM)の場合には、mを変調度として、
と表される。また、位相変調(Phase Modulation, PM)であれば、mを変調指数として、
で表される。
また、増幅手段で増幅された信号v (t )は、時間領域では変調信号f(t )をK' 倍したものとして、v (t ) = K' f (t )と表され、周波数領域ではV(ω) = K' F (ω)と表される。
さらに、超音波放射手段から放射される音源音圧をp(t )と表わし、パラメトリック差音の音圧をp
S(t )と表わす。
【0005】
前記超音波放射手段4は、高音圧の超音波を発生させるため、駆動源とする機械的共振現象を利用した圧電セラミック等の超音波素子を用いることが多い。その場合の超音波エミッタの機械共振付近の等価回路(LCR回路)は
図3(a)に示すことができる。また電気音響特性は共振現象を反映して、
図3(b)のようにピーク状の単峰特性を示す。ここで、C
dは圧電セラミックの静電容量であり、L、C及びRはそれぞれ圧電的機械振動の共振を決定する等価インダクタンス(コイル)、等価容量(コンデンサ)及び等価抵抗である。
図2において、超音波放射手段から放射される音源音圧P(ω)の周波数特性と位相特性は、超音波放射手段の等価抵抗に流れる電流I(ω)に比例すると仮定した場合、その比例定数をK''とすると
図3(a)から、電流I(ω)は超音波放射手段の印加電圧V(=K’F)と、LCR直列回路のインピーダンスとの比で決まり、次の式で表わされる。
ここで、K=K’K”と置き、また、LCR直列回路のアドミッタンスに相当する次のH(ω)を導入する。
これらから、初期音圧P(ω)は、次の式で表わされる。
これから、超音波放射手段の出力P(ω)は、変調手段の出力信号F(ω)に超音波放射手段の伝送特性(伝達関数)H(ω)が掛けられて決定されることが分かる。
【0006】
上述したようなパラメトリックスピーカであるが、今後、応用範囲を広めていくためには、パラメトリックスピーカのさらなる性能向上が望まれている。特に、明瞭度の良い音声・楽音や聞きやすく違和感の無い高音質の再生音を得るためには、パラメトリックスピーカの再生音波中の歪成分をさらに低減することが重要である。なお、歪成分とは、超音波波放射手段4を構成する超音波振動子の非線形特性や、空気の非線形性によって音波波形が歪み、高調波成分が発生する等の非線形復調過程に起因して発生する種々の歪の成分のことである。
図2に示した音伝搬過程は、非線形伝搬過程であるため、パラメトリックスピーカの再生音には、種々の歪成分が含まれると考えられる。一方、従来の動電型スピーカは音源の音の信号のレベルが小さく、音伝搬過程は線形伝搬であるといえる。
【0007】
そのため、パラメトリックスピーカの信号伝送又は音響再生における歪成分の低減を目的として、種々の技術が開発されている。
例えば特許文献1には、可聴音であるオーディオ信号とキャリア波発生手段が生成した超音波帯域のキャリア波となるキャリア信号とを入力し、キャリア信号をオーディオ信号で振幅変調して、超音波放射手段4から放射したとき空気中で可聴音に自己復調する超音波を示す信号を生成する変調器において、オーディオ信号のレベルを調整するゲイン調整手段と、ゲイン調整手段からの出力の振幅を圧縮調整する振幅圧縮手段と、振幅圧縮手段からの出力の包絡線情報を生成する包絡線情報生成手段と、超音波帯域のキャリア波となるキャリア信号及び包絡線生成手段からの包絡線情報を用いた演算を行って包絡線情報を含むキャリア波となる包絡線キャリア波信号を生成する包絡線キャリア波信号生成手段と、オーディオ信号でキャリア信号をSSB変調するSSB変調手段と、を備えることを特徴とする変調器が、開示されている。
この変調器によれば、歪を抑制した可聴音をパラメトリックスピーカで得ることが可能となり、オーディオ信号が無音に等しいときには、キャリア波の発生を抑制して省電力化を図ることができる。
【0008】
また、特許文献2には、超音波振動子により出力された1次音波の非線形パラメトリック作用により可聴音である2次音波を発生させるスピーカ部と、超音波振動子を駆動する駆動信号を出力する駆動信号生成部とを備え、駆動信号生成部は、超音波周波数の搬送波信号を出力する搬送波発振回路と、スピーカ部より発生する2次音波の2分の1の周波数の被変調信号を出力する被変調信号発生回路と、搬送波と被変調信号とが入力されて搬送波抑圧両側帯被変調方式による変調を施した駆動信号をスピーカ部に出力する変調回路とから成ることを特徴とする電気音響変換装置が、開示されている。
この技術によれば、比較的小形でありながら指向性が鋭く、1次音波の照射積算量を低減できるとともに生成された2次音波に歪が少なく、かつ比較的安価に形成できるようにした電気音響変換装置を実現することができる、とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1及び2の技術では、いずれも、上述した歪成分の抑制が十分ではなく、高明瞭度のパラメトリックスピーカを実現するためには、さらなる歪抑制のための技術開発が望まれていた。
【0011】
例えば、特許文献1の技術は、キャリア信号とサイドバンド信号に対し、SSB変調を採用することで、サイドバンド同士の非線形相互作用に起因する2次高調波の発生が低減され、DSB変調に比べ歪の発生を抑制できるが、サイドバンド内の周波数成分に非線形相互作用による歪の発生が依然として残り、空気中の音伝搬の復調過程における歪成分についても低減することが望まれていた。ここで、空気中の音伝搬の復調過程における歪成分とは、主に、パラメトリックスピーカから放射された音波の伝搬過程において、音波波形が歪み、高調波成分が多く発生することによって発生する歪成分である。
【0012】
また、特許文献2の技術では、搬送波抑圧両側帯被変調方式による変調を採用しているため、一方の側波を除去するためのフィルタが不要であって低コストになるが、SSB変調に比べ、搬送波がないため2次高調波の低減が不十分となり、歪の発生の制御が十分できない。また、空気中の音伝搬の復調過程における歪を低減できないため、聞きやすく違和感の無い高音質の再生音を得ることができないという問題があった。
【0013】
上記課題を鑑み、本発明の目的は、空気中の音伝搬の復調過程における歪成分をさらに低減でき、高音質の再生音を得ることができるパラメトリックスピーカを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた。その結果、パラメトリックスピーカから再生された音波に歪成分が含まれることの要因として、媒質である空気が非線形性を有し、高音圧の超音波が伝搬するという有限振幅音波現象により、音波波形が伝搬過程で歪み、高周波成分が多く発生すること、並びに、パラメトリックスピーカの復調の原理上、再生音成分に加え、2成分以上の音波の相互干渉伝搬状態から、高調波成分及び差音・和音の他混変調歪を生じる結合音が多数発生し、さらには、発音体である超音波エミッタ又は超音波素子から歪成分が発生することに着目した。
【0015】
そして、本発明者らは、さらに鋭意研究を重ねた結果、超音波の非線形伝搬過程による影響を加味して可聴信号の補正を行う手段をスピーカ駆動手段中に組み込みことによって、非線形復調過程によって発生する種々の歪み成分をフィードバック処理又はフィードフォワード処理によって低減することが可能となり、高品質の再生音を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明は、このような知見に基づきされたもので、その要旨は以下の通りである。
(1)超音波帯域のキャリア信号を、外部音源からの可聴信号で変調して変調信号を生成する変調手段と、該生成された変調信号を増幅する増幅手段と、該増幅された変調信号に基づいて超音波を放射する超音波放射手段と、を備えるパラメトリックスピーカにおいて、前記パラメトリックスピーカは、
前記超音波放射手段から出力された超音波の音圧を検出し、検出された出力音圧の信号に基づいて、非線形伝搬過程の影響を受けた際の復調可聴信号の波形を非線形伝搬モデルによって予測して生成し、該生成した波形と入力された可聴信号の波形とを比較することで、前記可聴信号の補正を行い、補正した可聴信号を前記変調手段へと送る可聴信号補正手段を、さらに備えることを特徴とするパラメトリックスピーカ。
【0018】
(
2)前記可聴信号が非線形伝搬過程の影響を受けた際の波形モデルは、以下の式によって導出されることを特徴とする上記(
1)に記載のパラメトリックスピーカ。
ここで、tは時間(秒)、e(t)は包絡線関数を示す。
【0019】
(
3)前記変調信号は、前記キャリア信号、及び、該キャリア信号が変調されたサイドバンド信号からなることを特徴とする上記(1)
又は(2)に記載のパラメトリックスピーカ。
【0020】
(
4)前記超音波放射手段は、前記キャリア信号に基づいた超音波と、前記サイドバンド信号に基づいた超音波とを、別個の超音波エミッタによって放射することを特徴とする上記(
3)に記載のパラメトリックスピーカ。
【0021】
(
5)前記超音波エミッタでは、放射された前記キャリア信号に基づいた超音波と、放射された前記サイドバンド信号に基づいた超音波とが、10°以下の角度で交差するように配置されることを特徴とする上記(
4)に記載のパラメトリックスピーカ。
【0022】
(
6)前記超音波エミッタは、複数の超音波素子からなる複数のブロックによって構成され、前記キャリア信号に基づいた超音波と、前記サイドバンド信号に基づいた超音波とを、別個のブロックによって放射することを特徴とする上記(4)に記載のパラメトリックスピーカ。
【0023】
(
7)前記超音波素子からなるブロックは、矩形、市松模様、同心円、又は、放射の形状を有することを特徴とする上記(
6)に記載のパラメトリックスピーカ。
【0024】
(
8)前記超音波放射手段における周波数特性の減衰帯域を、下側帯域であれば周波数の上昇に伴って周波数の2乗に比例し、上側帯域であれば周波数の2乗に反比例する特性に制御し、前記下側帯域又は前記上側帯域にキャリア信号とサイドバンド信号が存在することを特徴とする上記(1)〜(
7)のいずれかに記載のパラメトリックスピーカ。
【0025】
(
9)前記超音波放射手段によって再生される超音波の周波数特性を、該超音波放射手段の減衰周波数帯域を、該超音波放射手段の周波数特性の下側帯域であれば周波数の上昇に伴って周波数の2乗に比例し、上側帯域であれば周波数の2乗に反比例する特性となるように制御する周波数特性補正手段をさらに備え、前記下側帯域又は前記上側帯域にキャリアとサイドバンド成分が存在することを特徴とする上記(1)〜(
7)のいずれかに記載のパラメトリックスピーカ。
【0026】
(
10)
上記(1)〜(9)のいずれか1項に記載のパラメトリックスピーカ用のソフトウエアであって、パラメトリックスピーカに組み込むことで、
パラメトリックスピーカ中の超音波放射手段から出力された超音波の音圧を検出し、検出された出力音圧の信号に基づいて、非線形伝搬過程の影響を受けた際の復調可聴信号の波形を非線形伝搬モデルによって予測して生成し、該生成した波形
と入力された可聴信号の波形とを比較することで、前記可聴信号の補正を行うように機能させるためのソフトウエア。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、空気中の音伝搬の変調及び復調過程における歪を低減することで、高音質の再生音を得ることができるパラメトリックスピーカを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<パラメトリックスピーカ>
本発明に従うパラメトリックスピーカについて、必要に応じて図面を用いて説明する。
本発明によるパラメトリックスピーカ100は、
図4に示すように、超音波帯域のキャリア信号を、外部音源50からの可聴信号で変調して変調信号を生成する変調手段20と、該生成された変調信号を増幅する増幅手段30と、該増幅された変調信号に基づいて超音波を放射する超音波放射手段40と、を備える。
そして、本発明のパラメトリックスピーカ100は、前記超音波の非線形伝搬過程による影響を加味して前記可聴信号の補正を行い、補正した可聴信号を前記変調手段へと送る可聴信号補正手段10を、さらに備えることを特徴とする。
【0030】
ここで、超音波とは、人の耳には聞こえない可聴範囲を超えた音波にことで、例えば、周波数が16キロヘルツ以上の音波等をいう。また、外部音源からの可聴信号とは、パラメトリックスピーカの音源となる信号で、人が鼓膜の振動として感じることができる周波数帯域の信号のことをいう。例えば、人の発する声及び音楽等の信号をいうが、特に限定されない。さらに、キャリア信号とは、一般に可聴信号よりも十分高い周波数の信号で、可聴信号という情報を運ぶ担い手であって、該変調を受ける信号のことである。
【0031】
(可聴信号補正手段)
本発明のパラメトリックスピーカ100は、
図4に示すように、可聴信号補正手段10を備える。可聴信号補正手段10とは、外部音源50からの可聴信号について、超音波の非線形伝搬過程による影響を加味して前記可聴信号の補正を行い、非線形復調過程等によって発生する種々の歪成分を減少させ、該補正した可聴信号を後述する変調手段20へ送るための手段である。
ここで、「超音波の非線形伝搬過程による影響を加味した補正」とは、超音波の波形が空気の非線形伝搬過程で歪んでいき、高周波成分が多く発生し、また、音波の相互干渉伝搬状態から、高調波成分及び差音・和音の他混変調歪を生じる結合音が多数発生すること等による影響を考慮し、該影響をなくすような補正のことである。
可聴信号補正手段10を備えることで、パラメトリックスピーカ100の非線形伝搬過程によって発生する種々の歪成分を低減するためのフィードバック処理(実際に検出した非線形伝搬過程による悪影響を除去する処理)又はフィードフォワード処理(前もって予測される非線形伝搬過程による悪影響を除去する処理)が可能となり、聞きやすく違和感の無い高音質の再生音を実現できる、という効果を奏する。
【0032】
可聴信号補正手段10による補正をしない場合は、例えば、
図5に示すように、入力された可聴信号s(t )(
図5(a))が入力され、s(t )の基本波成分の周波数特性は変化して、空気による非線形伝搬過程を経た後の音圧信号p
s(t)(
図5(b)の実線)が得られる。ここで、
図5(b)の破線は、パラメトリックスピーカの伝送系の過程で発生した高調波や混成調成波の歪を示す。これから、非線形伝搬過程による歪(
図5(b)の破線)により、p
s(t)(
図5(b)の実線)は、入力された可聴信号s(t )(
図5(a))とは異なった周波数特性になることがわかる。
一方、可聴信号補正手段10による補正をした場合は、例えば、
図6(a)に示すように、入力された可聴信号s(t ) (
図5(a)実線)が補正され、補正した可聴信号s’ (t ) (
図6(a)実線)が、前記変調手段に送られ、増幅手段と超音波放射手段を経て空気による音伝搬過程により音再生される。その結果、得られる音圧p
s’(t)の周波数特性は、
図6(b)の実線に示すように、入力された可聴信号s(t ) (
図5(a)実線)と同等又は相似となる。ここで、
図6(b)の破線は、歪の周波数特性であり、可聴信号補正手段10による補正をしない場合の
図5(b)の破線の歪特性に比べて格段のレベル低減が実現できる。
【0033】
なお、超音波帯域のキャリア信号を、外部音源からの可聴信号で変調して変調信号を生成する変調手段と、該生成された変調信号を増幅する増幅手段と、該増幅された変調信号に基づいて超音波を放射する超音波放射手段からなる回路は、以下ではメイン回路と呼ばれる場合がある。また、超音波放射手段の出力音圧を検出する検出手段と、検出された出力音圧の信号に基づいて、非線形伝搬過程の影響を受けた際の非線形伝搬モデルに基づいて予測信号を生成し、該処理された信号と前記入力された可聴信号を比較する比較手段とを有する回路は、サブ回路と呼ばれる場合がある。
【0034】
また、前記可聴信号補正手段10は、上述したように、超音波の非線形伝搬過程による影響を加味したものであれば、補正の方法については特に限定はされないが、例えば、
図7に示すように、前記外部音源から入力された可聴信号が非線形伝搬過程の影響を受けた際の波形モデル(
図7(b))を生成し、該非線形伝搬過程の影響を加味した可聴信号の波形モデル(
図7(b))と、前記入力された可聴信号のレベル調整された波形(
図7(c))とを比較して差分を抽出し、該抽出された差分を、前記入力された可聴信号に付与することで、前記可聴信号の補正を行う(補正を行った波形(
図7(a))を得る)ことが可能である。
その場合、非線形伝搬過程の特性を反映した歪の発生を模擬したモデルをもとに、歪予測等の歪低減処理の帰還処理を行い、前記可聴信号の補正ができるため、パラメトリックスピーカにおける非線形復調過程によって発生する種々の発生される歪成分をより効果的且つ容易に低減でき、聞きやすく違和感のない高音質の再生音を得ることができるため好ましい。
【0035】
さらに、前記可聴信号補正手段10は、
図8に示すように、前記超音波放射手段40から出力された超音波の音圧を、検出手段13によって検出し、検出された出力音圧の信号に基づいて、非線形伝搬過程の影響を受けた際の復調可聴信号の波形を非線形伝搬モデル手段11によって予測して生成し、該生成した波形と前記入力された可聴信号の波形とを比較手段12によって比較することで、前記可聴信号の補正を行うことができる。このような容易な構成で、パラメトリックスピーカ100の非線形伝搬過程によって発生する種々の歪成分を低減するためのフィードバック処理(前記検出手段13によって検出された超音波の音圧をもとに、前もって予測される非線形伝搬過程による悪影響を除去する処理)が可能となり、聞きやすく違和感の無い高音質の再生音を実現できる。
【0036】
ここで、非線形伝搬モデル生成手段11とは、例えば、検出手段13によって検出された出力信号の信号から、非線形伝搬過程のモデル式を回路等で模擬し、可聴信号が非線形伝搬過程の影響を受けた所望の復調可聴信号の波形モデル(
図7(b))を生成するものである。これによって、パラメトリック再生音の生成を模擬し、例えば、
図9に示したように、式(1)をもとにした2乗手段、検波手段、微分手段で構成される。あるいは、KZKの式(鎌倉著、「非線形音響学の基礎」、愛智出版、1996を参照)から得られる入出力関係を組み込む手段でもよい。
なお、2乗手段とは、例えば2乗回路で実現され、包絡線関数を2乗することであり、検波手段とは、例えば検波回路によって実現され、2乗された信号から低周波成分を取り出すことであり、微分手段とは例えば微分回路で実現され、時間に関して微分する回路のことである。
また、検出手段13とは、超音波放射手段40の電気音響動作を検出する手段である。例えば、放射された超音波を検出するマイクロホン及び/又は超音波エミッタ素子の振動を検出するセンサ及び/又は超音波エミッタ素子に流れる電流を検出するセンサ等があるが、特に限定はされない。
さらに、比較手段12とは、該非線形伝搬過程の影響を加味した可聴信号と、前記入力された可聴信号との比較し、補正した可聴信号s’ (t )を変調手段20へ送る手段である。例えばオペアンプによって行われるが、特に限定はされない。前記外部音源から入力された可聴信号s(t)は、前記非線形伝搬モデル生成手段11の信号と比較されて可聴信号s’(t)が出力され、変調手段20へと送られる。このように、前記比較手段12においては、外部音源からの可聴信号s(t)と非線形伝搬モデル生成手段11によって生成された信号との比較信号が生成され、可聴信号s’(t)として前記変調手段20へ送られる。これにより、補正した可聴信号s’(t)が、変調手段及び増幅手段及び超音波放射手段及び空気の非線形音伝搬過程により音再生処理されると、前記可聴信号s(t)と同等の特性でかつ歪を低減した可聴音が得られる。
【0037】
また、非線形伝搬過程のモデル式とは、例えば、以下に示すBerktayのモデル式(5)(H.O.Berktay, Possible exploitation of nonlinear acoustics in underwater transmitting applications, Sound&Vib.,2,pp.435-461(1965))又は、Merklingerの式(H.M.Merklinger, Improved efficiency in the parametric transmitting array, J. Acoust. Soc. Am., 58, pp. 784-787 (1975))又は、KZKの式等のことである。
ここで、tは時間(秒)、e(t)は包絡線関数を示す。
これより、前記可聴信号が非線形伝搬過程の影響を受けた際の波形モデルについては、例えば、前記(5)式によって導出することができる。
前記(1)式を用いて、音源音圧が大きくない条件のもと、非線形音場を数式で扱うことにより歪を予想することができるからである。
【0038】
ここで、超音波の音圧が大きく、大きな振幅を有す場合は、有限振幅超音波と呼ばれる。有限振幅音波に依存した歪成分等は、KZKの式のような波動方程式起源の非線形音場方程式で定式化が可能である。一方、音源音圧がそれほど大きくない場合は、パラメトリック差音p
s(t)は、被変調1次波の包絡の2乗の時間に関する2階微分で与えられる。これから、1次初期波を、p(t)=P
0 e(t)sin[ω
c t +φ(t)]とした場合の2次差音は、前記式(5)で与えられることが知られている。(H.O.Berktay, Possible exploitation of nonlinear acoustics in underwater transmitting applications, Sound&Vib.,2,pp.435-461(1965))
【0039】
(変調手段)
本発明のパラメトリックスピーカ100は、
図4に示すように、変調手段20を備える。変調手段20とは、前記外部音源50からの可聴信号によって前記キャリア信号を変調し、変調信号を生成する手段のことをいう。ここで、前記変調信号は、例えば、外部音源50からの可聴音信号によって、超音波キャリア信号(周波数f
C)を変調し、キャリア信号とサイドバンド信号(周波数f
C+fs及び/又はf
C−fs)の2種類の信号成分を有する信号のことをいう。前記キャリア信号と前記サイドバンド信号からなる変調信号を得るための変調方式としては、変調処理後にキャリア成分の上下周波数帯に2つのサイドバンド成分を備える両側波帯(Double Side-Band,DSB)振幅変調方式(AM変調方式)及び、キャリア成分の上側又は下側の周波数帯に1つのサイドバンド成分を備える単側波帯(Single Side-Band、SSB)振幅変調方式等が挙げられるが、2次高調波が低減され、歪の発生をより抑制できる点から、単側波帯変調方式がより好ましい。例えば、上側波帯の信号を除去して下側波帯のサイドバンド信号のみを用いるとサイドバンド信号同士の相互作用が起こらないことから、両側波帯振幅変調方式に比べ歪成分が小さくなり、外部音源50からの可聴信号に近い再生音を得ることができる。
【0040】
(増幅手段)
増幅手段30とは、前記変調手段20で生成された変調信号を増幅するための手段である。該増幅手段30は、前記変調信号を大きなエネルギーの出力信号に増幅できるものであれば特に限定はされない。
【0041】
(超音波放射手段)
本発明のパラメトリックスピーカ100は、
図4に示すように、前記超音波放射手段40を備える。超音波放射手段40とは、前記増幅手段30によって増幅した変調信号に基づいた超音波を放射する手段のことであり、単数又は複数の超音波エミッタから構成されるのが一般的である。
前記超音波エミッタとは、例えば、振動子として圧電セラミックを用いた空中用超音波センサ等の超音波素子によって構成され、超音波を発生することができる装置のことをいう。また、「放射」とは、パラメトリックスピーカが、超音波の形でエネルギーを放出することを言う。
【0042】
ここで、前記変調信号が、前記キャリア信号、及び、該キャリア信号が変調されたサイドバンド信号からなる場合、前記超音波放射手段は、
図10に示すように、前記キャリア信号に基づいた超音波と、前記サイドバンド信号に基づいた超音波とを、別個の超音波エミッタ41a、41bによって放射すること(分離型駆動方式)が好ましい。
別個のエミッタ41a、41bによって放射することにより、キャリア信号とサイドバンド信号とが混合せず、各超音波エミッタを構成する超音波素子は、キャリア信号及びサイドバンド信号のうち、一つの信号のみを扱うことができるため、キャリア信号及びサイドバンド信号の処理を共通の超音波エミッタを用いた場合に発生するキャリア信号とサイドバンド信号との混変調歪の発生が抑えることができる。また、各エミッタは、キャリア信号又はサイドバンド信号のいずれか一方の信号だけを扱えばいいため、各超音波エミッタ(超音波エミッタを構成する素子)の負担が減り、該超音波素子の耐入力及び耐久性を向上できる、という効果や、キャリア信号を扱う超音波素子は狭帯域で良いため、電気消費パワーを低減できる、という効果もある。
【0043】
ここで、前記分離型駆動方式における超音波エミッタについては、前記キャリア信号に基づいた超音波と、前記サイドバンド信号に基づいた超音波とを、別個の超音波エミッタ41によって放射するものであれば特に限定はされない。例えば、
図10に示すように、キャリア信号とサイドバンド信号を1台ずつの超音波エミッタ41a、41bで駆動する形態が挙げられる。このとき、サイドバンド信号の波形は、例えば、正弦波音源信号の変調によって得られキャリア信号の周波数より上側に存在する上側サイドバンド(USB)のである。また、超音波エミッタ41の形状は、円形又は楕円形又は矩形又はリング形等にすることもできる。さらに、1つの信号を複数の超音波エミッタで駆動することもある。
【0044】
また、前記超音波エミッタは、それぞれ、複数の超音波素子からなる複数のブロックによって構成され、前記キャリア信号に基づいた超音波と、前記サイドバンド信号に基づいた超音波とを、別個のブロックによって放射することが好ましい。超音波エミッタを所望の形状とすることが容易となり、より高音質の再生音を得ることができるからである。前記超音波エミッタを複数の超音波素子からなるブロックにより構成する場合、例えば、
図11に示すように、キャリア信号とサイドバンド信号を、2つにブロック分けした超音波エミッタ43、44に個別に送り、各超音波エミッタを構成する素子のブロック43a〜e、44a〜dは、1台の増幅手段42に相当するように構成されることが好ましい。ここで、1つのブロックは、ひと塊のブロック又は複数のブロックを備える構成が可能である。素子を配列したブロックを近接したエミッタとすることにより、個別のエミッタで分離駆動する場合に比べ、個々のブロックから放射される音波の合成度合が向上し、復調変換効率の低下も少なくなり、差音の音圧レベルの維持が図れるからである。
【0045】
なお、前記超音波素子からなるブロックは、
図12〜15に示すように、矩形(
図12、
図13)、市松模様(
図14(a))、同心円(
図14(b)、
図15(a))、又は、放射(
図15(b))の形状を有することが好ましい。方向依存性の少ない良好な音放射音場を得ることができ、設置時の制約を軽減することができるからである。
【0046】
ここで、前記矩形のブロックとは、
図12に示すように、例えば、単数又は複数の長方形から構成される形状をいう。矩形ブロックは、さらに、「1列ブロック分け」や、「複数本ブロック分け」等に分類できる。1列ブロック分けとは、
図12(a)に示すように、超音波エミッタにおいて、小口径の超音波素子を1列ずつ交互に、それぞれキャリア信号Aとサイドバンド信号Bを入力するブロックから構成されたものである。また、複数本ブロック分けは、
図12(b)に示すように、例えば3本ずつ交互に配列した前記ブロックによって構成されたものである。
なお、前記「1列ブロック分け」及び「複数本ブロック分け」は、超音波素子を1列方向に配列しているため、超音波エミッタ全体として音響特性は縦方向と横方向の音放射特性が異なる。このため、パラメトリックスピーカの使用時に聴取位置を考慮して、パラメトリックスピーカの設置を行う必要がある等の制約を生じる。これを改善するため、超音波素子の配列を、方向性の少ない配列にする方法がある。該方向性の少ない配列としては、
図13(a)に示すように、超音波素子がジグザグに交互に並び配列又は、
図13(b)に示すように、超音波素子を斜めに配列して、縦又は横方向から角度を持たせて配列する方法がある。
ここで、「方向性」とは音放射パターンの状態を言い、個々の超音波素子から放射される音の合成となる超音波エミッタの放射音場が、音軸の方向(0°)から離れる方向に依存して音のレベルが異なることを言う。例えば、
図12において、A又はBどちらか一方の信号を再生する超音波素子は縦一列に並び、他方とは間隔をおいて配列されている為、
図12の超音波エミッタを正面から見て左右に移動する横方向と、上下に移動する縦方向とは音圧レベルの変化が異なる状態となる。このような状態を、音響工学的には、横と縦方向(その他、任意の方向)で音放射パターンが異なり、指向性がつく(指向性に差がある)、と言う。一方、
図13においては、「方向性」は完全に無くならないが解消される配列である。「方向性」又は「指向性」は、超音波素子又はブロックの配列状態と超音波エミッタの外形形状(円形や多角形他)に依存する。例えば、
図12〜15においては、
図15(a)の同心円形の超音波エミッタにおいては方向性ない。
図15(a)以外の超音波エミッタの素子配列や形状では少なからず方向性が存在する。
【0047】
また、さらに方向性が少なくなる配列として、市松模様、同心円、又は放射の形状がある。超音波素子からなるブロックの形状について、前記市松模様の形状とは、
図14(a)に示すように、超音波素子を矩形状に交互に配した模様の形状のことで、それぞれにキャリア信号とサイドバンド信号を交互に入力するものである。
さらに、超音波素子からなるブロックの形状について、前記同心円の形状とは、
図14(b)及び
図15(a)に示すように、中心が同じになるようにブロック分けすることである。また、超音波素子からなるブロックの形状について、前記放射の形状とは、
図15(b)に示すように、放射状にブロック分けすることである。
ブロック分けを方向性が少なくなる配列とすることで、方向依存性の少ない良好な音放射音場を得ることができ、設置時の制約を軽減することができる。
【0048】
また、前記超音波エミッタは、
図16に示すように、音軸aに沿って放射された前記キャリア信号Aに基づいた超音波と、放射された前記サイドバンド信号Bに基づいた超音波とが、10°以下の角度で音軸が交差するように配置されることが好ましい。再生音圧を高めることができ、音場の交差領域が大きくなるからである。なお、2つの超音波エミッタは、
図16に示すように、2つの超音波エミッタの間隔や音軸aの傾斜角度を相互に制御して、集中(焦点)音場を生成できる。
なお、「放射された前記キャリア信号に基づいた超音波と、放射された前記サイドバンド信号に基づいた超音波の角度」とは、
図16に示すように、別個の超音波エミッタから放射される超音波の進行方向(音軸)が交差する角度αのことである。
【0049】
さらに、前記超音波放射手段における周波数特性の減衰帯域を、下側帯域であれば周波数の上昇に伴って周波数の2乗に比例し、上側帯域であれば周波数の2乗に反比例する特性に制御し、前記下側帯域又は前記上側帯域にキャリア信号とサイドバンド信号が存在することが好ましい。これにより、復調差音の中高域特性を、
図19の左の実線の横に平らな線に示されるように、平坦化することができる。これにより、平坦化された帯域においては音源信号と同等の音質が得られる高忠実度の再生ができ、さらには、低域側への帯域拡大を図ることができ、復調再生音の音質は向上するからである。
【0050】
ここで、前記超音波エミッタの代表的な音圧周波数特性は、
図3(b)に示される。前記増幅された変調信号を前記超音波エミッタによって、音に変換する場合、
図17に示すように、キャリア信号の周波数fcは、共振ピークの最大となる周波数に合わせ、サイドバンド信号は共振ピークの上か下のレベル減衰帯域に存在するように設定される。なお、
図17は、超音波エミッタの音圧周波数特性を表わし、サイドバンド信号が共振ピークの上の帯域に存在する場合を例示している。
なお、「周波数特性の減衰帯域」とは、例えば、
図3(b)に示すような周波数特性の山型の頂点から見て、左右のI(ω)が減衰していく帯域である。「下側帯域」とは、左側のI(ω)が減衰していく帯域であり、「上側帯域」とは、右側のI(ω)が減衰していく帯域である。
また、パラメトリックスピーカの復調変換原理に基づく周波数特性を
図18に示す。パラメトリックスピーカの復調変換において、超音波パラメトリックスピーカ帯域に存在するキャリア信号fcとサイドバンド信号fc+fsを同一のレベルで出力して平坦な周波数特性(平坦な破線)を備えるエミッタで再生すると仮定した場合、復調して得られる差音fs(音源可聴信号)の周波数特性は周波数の2乗に比例する。
一方、
図17に示す特性の超音波エミッタを使用する場合は、復調して得られる差音fs(音源可聴信号)の周波数特性は、低域では「周波数のほぼ2乗で上昇する」が、中高域では2乗のラインからレベル低下する傾向となる。すなわち、音源の周波数が低い場合は、キャリア信号とサイドバンド信号は近い周波数帯に存在するため、両者はほぼ同じレベルで再生されることになり、「周波数のほぼ2乗で上昇する」特性に近い傾向となる。しかし、音源周波数が高くなると、サイドバンド信号は、キャリア信号から離れてレベルの低い帯域で復調再生することになるので、
図18の一点鎖線で示すように、「周波数のほぼ2乗で上昇する」ラインから外れ高域に向かってレベル低下し平坦化傾向の特性となる。このように平坦化の方向にはなるが、超音波エミッタ減衰帯域の周波数特性の変動及び/又はレベル低下の傾斜に依存して復調特性が決定されるため、完全には平坦な特性にはならない。
そのため、超音波エミッタの減衰帯域の傾斜を、共振の上側帯域(USB)の場合は「周波数のほぼ2乗分の1で減少(1/f
2)」させ、及び、下側帯域(LSB)の場合は「周波数のほぼ2乗で上昇する(∝f
2)」ように制御し、キャリア信号の周波数fcとサイドバンド信号の周波数fc+fsを、前記傾斜の特性上の帯域に存在するように設定することが好ましい。
【0051】
さらにまた、前記超音波放射手段によって再生される超音波の周波数特性を、該超音波放射手段の減衰周波数帯域を、該超音波放射手段の周波数特性の下側帯域であれば周波数の上昇に伴って周波数の2乗に比例し、上側帯域であれば周波数の2乗に反比例する特性となるように制御する周波数特性補正手段をさらに備え、前記下側帯域又は前記上側帯域にキャリアとサイドバンド成分が存在することが好ましい。これにより、平坦化された帯域においては音源信号と同等の音質が得られる高忠実度の再生ができ、さらには、周波数の低域側への帯域拡大を図ることができ、復調再生音の音質は向上するからである。
【0052】
前記超音波エミッタの音圧周波数特性は
図3(b)のようななだらかな単一共振峰を備えることは稀である。前記超音波エミッタ素子を構成する色々な部材の共振や形状に依存した音放射状態や反射等の影響を受け、例えば、前記超音波エミッタの音圧周波数特性は、
図19の右の破線に示すように、共振の上側と下側の特性は波打つような変動を備えて減衰する傾向となる。ここで、
図19は、USB型のSSB変調の超音波エミッタ周波数特性制御と駆動方法を表わす。
なお、これに対する対策に関連して、USB型のSSB変調の場合は、
図19の右グラフに示すように、超音波エミッタから再生される超音波の再生周波数特性が1/f
2の減衰帯域を持つようにすることが必要となる。これによって、
図18に示したように、復調特性である∝f
2の逆特性を施すことによって補償する方策であり、主要中高音域を平坦な周波数特性にすることができる。
【0053】
これを実現するため、1つ目の方策として、超音波エミッタ自体の共振周波数がコントロールされて製作されたものであること、及び/または、2つ目の方策として、動作帯域の減衰帯域部がフィルタ等で電気的に特性補正されたものであることが必要である。
「前記減衰帯域を電気的に特性補正する」ことは、
図20に示すように、前記可聴信号補正手段10により補正した可聴信号をSSB変調手段27によりSSB変調した後に、周波数特性補正手段53によって実現可能である。好ましくは、さらに、
図20に示すように、レベル調整手段52を備えることが好ましい。主要中高音域を、さらに平坦な周波数特性にすることができるからである。
ここで、周波数特性補正手段53は、サイドバンド信号用の特性補正フィルタリング手段であり、前述の再生音特性を実現するように作られる。キャリア信号側のレベル調整手段52は、サイドバンド信号の再生音特性上の傾斜上にキャリア信号のレベルが存在するように調整するものである。
なお、2つの方策は同時に実施されてもよいが、超音波エミッタ側の方策が実現されれば、2つ目の方策は不要である。
【0054】
超音波エミッタから再生される超音波の再生周波数特性が1/f
2の減衰帯域を持つようにすることが実現された状態において、さらに、サイドバンド信号の周波数が1/f
2(横軸の周波数が対数目盛の場合、直線傾斜)となるように設定する。これにより、復調後の中高音域周波数帯の特性は平坦化する。さらにまた、キャリア信号の周波数も単峰の最大値からずらして、1/f
2の傾斜部(対数目盛の直線部)に存在するように設定すると、
図19の左側特性の実線のように、低域側に平坦部が拡大される。
これにより、平坦化された帯域においては外部音源信号と同等の音が得られる高忠実度の再生ができ、低域側への帯域拡大を図ることができ、復調再生音の音質は向上する。
【0055】
なお、1つ目の方策及び2つ目の方策においてDSB変調又はSSB変調でも構わなく、複合型駆動又は分離型駆動であっても構わない。また、キャリア信号とサイドバンド信号の再生用の超音波エミッタは、同一性能のものであっても良いが、それぞれ専用の素子であっても構わない。例えば、キャリア信号用は、キャリア信号の周波数はほぼ固定であるので、狭帯域で高音圧再生可能な超音波素子、例えば、ボルト締めランジュバン振動子又はコンポジット圧電体振動子等を使用することが考えられる。また、サイドバンド信号用は、帯域特性を制御した超音波エミッタを使用する。
【0056】
<ソフトウエア>
次に、本発明による「前記可聴信号の補正を行うように機能させるためのソフトウエア」について説明する。
本発明の可聴信号の補正を行うように機能させるためのソフトウエアは、パラメトリックスピーカに組み込むことで、前記超音波放射手段から出力された超音波の音圧を検出し、検出された出力音圧の信号に基づいて、非線形伝搬過程の影響を受けた際の復調可聴信号の波形を非線形伝搬モデルによって予測して生成し、該生成した波形と前記入力された可聴信号の波形とを比較することで、前記可聴信号の補正を行うように機能させることを特徴とする。
【0057】
上記構成を具備するソフトウエアをパラメトリックスピーカに組み込むことで、上述した本願発明に係る可聴信号の補正を行う効果を得ることが可能となる。
なお、前記ソフトウエアをインストールする具体的な方法としては、パラメトリックスピーカ製造においてパラメトリックスピーカの回路等に記録する方法や、該ソフトウエアを、媒体を用いてインストールする方法、又は、インターネット等でダウンロードによってインストール方法等がある。ここで、媒体には、例えば、DVD、CD、USBメモリーやハードディスク等があるが、特にこれらに限られない。