(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記緻密な膜が、前記処理剤に含まれるアルミニウムと大気中の酸素との反応により得られるアルミナを含むことを特徴とする請求項1に記載の金属基材の表面処理方法。
前記準備工程において、前記金属基材および前記処理剤が充填された前記容器を密封または半密封状態とすることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の金属基材の表面処理方法。
前記処理剤の合計を100質量%とすると、前記Fe−Al合金粉末の割合が、85〜99.9質量%であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の金属基材の表面処理方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カロライジング処理では、被処理物および混合粉末が充填された容器を密封あるいは半密封処理し、還元雰囲気あるいは真空中において加熱処理を行っている。したがって、容器の密封処理、加熱時の雰囲気調整等が必要となるため、コストが高いという問題があった。
【0006】
容器を密封あるいは半密封して還元雰囲気あるいは真空中において加熱処理を行う理由は、被処理物および混合粉末中のFe−Al合金粉末の酸化、混合粉末の固化を防ぐためである。
【0007】
カロライジング処理において、被処理物およびFe−Al合金粉末が酸化すると、アルミニウム拡散層の形成が困難となり、被処理物の表面改質が困難になるという問題があった。また、混合粉末が固化すると、混合粉末中の埋設されている被処理物の回収が困難となるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされ、カロライジング処理を大気雰囲気下で行っても、被処理物たる金属基材にアルミニウム拡散層を十分に形成できる金属基材の表面処理方法を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
カロライジング処理を行う際に用いられる処理剤(Fe−Al合金粉末および塩化アンモニウム粉末との混合粉末)は粉末状であるため、粒子間に空隙が存在し、いわばポーラスな状態である。したがって、このようなポーラス状態の処理剤が酸化された場合、ポーラスな(空隙が存在する)状態のままで酸化されると考えられる。一方、処理剤の酸化が過剰に進めば、粒子同士が固着して処理剤全体が固化してしまうと考えられる。
【0010】
ところが、本発明者らは、被処理物および処理剤が充填された容器を大気雰囲気下で加熱すると、意外にも、加熱の初期段階において、粉末状の処理剤の表面のみが酸化され、緻密な膜が形成されることを見出した。
【0011】
この緻密な膜は、処理剤と大気との界面に形成されており、処理剤の内部への大気の侵入を遮断する。換言すれば、少なくとも被処理物およびその近傍に存在する処理剤は当該膜により密閉される。その結果、処理剤の内部に埋設された被処理物(金属基材)および処理剤は大気中の酸素により酸化されず、大気雰囲気下であってもカロライジング処理を行うことができるという知見を得た。
【0012】
本発明は、このような知見に基づき、上記の課題を解決してなされたものである。
【0013】
すなわち、本発明の態様は、
(1)金属基材がFe−Al合金粉末と塩化アンモニウム粉末とを
含有し、アルミナ粉末を含まない処理剤中に埋設されて容器内部に充填された容器を準備する準備工程と、
前記容器を加熱して、前記金属基材の表層部にアルミニウム拡散層を形成するカロライジング処理工程と、を有し、
前記カロライジング処理工程は大気雰囲気下で行われ、前記アルミニウム拡散層を形成する前に、前記処理剤と大気との界面に緻密な膜を形成することを特徴とする金属基材の表面処理方法である。
(2)前記緻密な膜が、前記処理剤に含まれるアルミニウムと大気中の酸素との反応により得られるアルミナを含むことを特徴とする(1)に記載の金属基材の表面処理方法である。
(3)前記カロライジング処理において、加熱時の最高温度が650〜1000℃の範囲内であることを特徴とする(1)または(2)に記載の金属基材の表面処理方法である。
(4)前記準備工程において、前記金属基材および前記処理剤が充填された前記容器を密封または半密封状態とすることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の金属基材の表面処理方法である。
(5)前記容器が加熱炉の筐体であることを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の金属基材の表面処理方法である。
(6)前記容器がるつぼであることを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の金属基材の表面処理方法である。
(7)前記処理剤全体を100質量%とすると、前記Fe−Al合金粉末の割合が、85〜99.9質量%であることを特徴とする(1)から(6)のいずれかに記載の金属基材の表面処理方法である。
(8)前記金属基材がFe系材料であることを特徴とする(1)から(7)のいずれかに記載の金属基材の表面処理方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、カロライジング処理を大気雰囲気下で行っても、被処理物たる金属基材にアルミニウム拡散層を十分に形成できる金属基材の表面処理方法を低コストで提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。
1.金属基材の表面処理方法
1−1 準備工程
1−2 カロライジング処理工程
1−3 表面処理後の金属基材
2.本実施形態の効果
3.変形例
【0017】
(1.金属基材の表面処理方法)
本実施形態に係る金属基材の表面処理方法は、Fe系材料からなる金属基材に対して、大気雰囲気下でカロライジング処理を行う。以下、当該表面処理方法について具体的に説明する。
【0018】
(1−1 準備工程)
まず、カロライジング処理の被処理物である金属基材を準備する。金属基材はFe系材料またはNi系材料から構成され、本実施形態では、金属基材はFe系材料である。Fe系材料は、Feおよび不可避的不純物から構成されていてもよいし、Feが主成分である材料であってもよい。Fe系材料には、Fe以外に、C、Cr、Ni等の公知の合金元素が含まれていてもよい。また、金属基材
1は、当該金属基材が用いられる用途に応じて種々の形状を有しており、特に制限されない。
【0019】
続いて、
図1に示すように、準備した金属基材1が、Fe−Al合金粉末と塩化アンモニウム(NH
4Cl)粉末との混合粉末を有する処理剤5中に埋設されるように容器としての加熱炉の筐体10(炉心管)内に充填する。「金属基材を処理剤中に埋設する」とは、当該筐体10内において、金属基材1の表面全体が処理剤5と接触して覆われるように、金属基材1を処理剤5中に配置することをいう。充填容器の内部に対して、処理剤および被処理物が占める容積割合は、大気が占める容積がある程度確保されていれば、特に制限されない。
【0020】
容器の材質は、Fe−Al合金よりも酸化されにくい材質であればよいが、Fe−Al合金は酸素と反応しやすいので、種々の材質を使用することができる。たとえば、Fe系材料であってもよい。なお、後述するカロライジング処理時に、処理剤が膨張するので、その膨張により破損しない程度の強度を有する材質であることが好ましい。本実施形態では、酸化物セラミックスから構成されていることが好ましく、耐火材料として用いられるアルミナ、ムライト等が例示される。
【0021】
本実施形態では、金属基材1および処理剤5を充填した後、筐体10の開口部をグラスウール20等により塞いで、筐体10内部を半密封状態とする。「半密封状態」とは、カロライジング処理における加熱により、筐体内部の温度を均一に保てる程度の気密性が保たれている状態をいう。このような半密封状態とすることにより、筐体外部と筐体内部との間の大気の流通もある程度制限される。その結果、筐体内部への酸素の供給が制限され処理剤の表面の過剰な酸化が生じにくいため、好ましい。このような半密封状態は、筐体10の開口部に蓋を載せることでも実現することができる。
【0022】
筐体内部を密封状態としてもよいが、密封処理にはコスト等が掛かるため、より簡便な手段を用いることにより容易に実現可能な半密封状態とすることが好ましい。なお、筐体内部を密封する場合には、内部を真空状態とする必要はなく、大気が存在している状態で密封すればよい。後述するが、むしろ、筐体内部には、ある程度の酸素が存在している必要がある。
【0023】
本実施形態では、処理剤は、少なくとも、Fe−Al合金粉末および塩化アンモニウム(NH
4Cl)粉末を有していればよい。本発明の効果が得られる範囲であれば、これらの粉末以外の粉末が含まれていてもよいが、
アルミナ粉末を添加すると、後述するように処理剤表面に緻密な膜が形成されないため、処理剤は、
アルミナ粉末を含有せず、また、Fe−Al合金粉末および塩化アンモニウム(NH
4Cl)粉末
のみからなることが好ましい。
【0024】
また、処理剤全体の合計質量を100質量%とした場合に、Fe−Al合金粉末が占める割合は、85〜99.9質量%が好ましい。このような範囲とすることにより、後述するが、加熱時に大気雰囲気下において、処理剤内部および被処理物への大気の接触を遮断できる程度に緻密な膜を処理剤の表面に形成することができる。
【0025】
さらに、Fe−Al合金粉末における、Fe−Al合金中のAlの割合は公知の割合とすればよく、たとえば、10〜90質量%である範囲が例示される。このような範囲とすることにより、Alの拡散を効率的に行うことができる。
【0026】
(1−2 カロライジング処理工程)
続いて、金属基材1および処理剤5が充填された加熱炉を加熱してカロライジング処理を行う。このとき、加熱炉内部の雰囲気は調整せず、大気雰囲気とする。
【0027】
加熱が進行すると、
図2に示すように、処理剤5と大気70との界面Iにおいて、処理剤5に含まれているFe−Al合金粉末のAlと大気70中の酸素とが反応して、当該界面Iにおいて、所定の厚みを有するアルミナ膜5aが形成される。このアルミナ膜5aは、当該界面全体を覆うように緻密な酸化膜として形成される。
【0028】
具体的には、粒子間の空隙が存在する処理剤粉末の表面が大気70中の酸素により酸化され、緻密な酸化膜5aが当該界面I全体に形成される。すなわち、表面の酸化前には、大気70の流通が可能な程度にポーラスであった部分が、表面の酸化後には、処理剤5内部に大気70が侵入することを防止できる程度に緻密な膜5aに変質する。
【0029】
このような緻密な膜5aが形成されることにより、緻密な膜5aよりも内側の部分は大気70から遮断された密閉空間となる。この密閉空間には、被処理物およびその近傍に存在している処理剤が充填されているので、加熱が進行すると、通常のカロライジング処理が行われる。すなわち、被処理物(金属基材)の表層部にAlが拡散して、アルミニウム拡散層が形成される。
【0030】
処理剤の表面のみに、上記のアルミナ膜が緻密な膜として形成される詳細な理由は不明であるが、Fe−Al合金が酸素と反応しやすいこと、容器内の酸素量等が考えられる。
【0031】
なお、加熱炉は縦型を用いることが好ましい。すなわち、加熱炉の開口部が天地方向にあることが好ましい。
図3に示すように、加熱炉が横型である場合、開口部が横方向にあるため、アルミナ膜5aが開口部と加熱炉上部に形成されてしまい、縦型の場合よりも、被処理物1の取り出しが困難となってしまうからである。
【0032】
加熱時の昇温速度は、本実施形態では、500℃未満までは、4〜20℃/分の範囲内であることが好ましく、500℃以上は、1〜18℃/分の範囲内であることが好ましい。
【0033】
また、加熱時の最高温度は、Alを金属基材に十分に拡散させるために、650℃以上であることが好ましく、880℃以上であることがより好ましい。また、形成されるアルミニウム拡散層に生じるクラックを防止する観点から、加熱時の最高温度は、1000℃以下であることが好ましく、900℃以下であることがより好ましい。
【0034】
さらに、最高温度での保持時間は、Alを金属基材に十分に拡散させるために、6時間以上20時間以下とすることが好ましい。
【0035】
最高温度で所定時間保持した後、冷却する。アルミニウム拡散層に生じるクラックを防止する観点から、冷却は自然冷却または徐冷を行えばよい。冷却後、加熱炉からカロライジング処理された金属基材(被処理物)を取り出す。このとき、処理剤の表面には、アルミナ膜が形成されているので、これを除去する。アルミナ膜の内側の処理剤(Fe−Al合金粉末および塩化アンモニウム粉末の混合粉末)は粉末状を維持しており、粉末粒子同士が固着した固化状態ではない。
【0036】
したがって、大気雰囲気下においてカロライジング処理を行ったにもかかわらず、処理剤中に埋設された金属基材を容易に取り出すことができる。さらには、カロライジング処理後の処理剤を粉末として回収できるため、当該処理剤を、カロライジング処理の処理剤として再利用することも可能である。処理剤を再利用することにより、カロライジング処理に要するコストをさらに低減することができる。
【0037】
(1−3 表面処理後の金属基材)
上記の表面処理方法により得られる金属基材は、表層部にアルミニウム拡散層が形成されている。このアルミニウム拡散層は、金属基材の表層部に存在していた金属元素(たとえば、Fe)の一部がAlに置換されることにより形成された層であるため、金属基材と一体化されている。
【0038】
アルミニウム拡散層の厚みは、光学顕微鏡または電子顕微鏡により観察される金属基材とアルミニウム拡散層とのコントラスト差に基づいて測定してもよいし、EPMA等により測定された所定の元素分布に基づいて測定してもよい。アルミニウム拡散層の厚みは、ほぼカロライジング処理条件に依存するので、所望の特性に応じて、処理条件を変化させて当該厚みを制御すればよい。本実施形態では、アルミニウム拡散層の厚みは数μmから100μm程度である。
【0039】
また、アルミニウム拡散層は、さらに、アルミニウム拡散層から金属基材に向かう方向(深さ方向)において、表面層および中間層の2つの層として観察される場合がある。表面層および中間層はいずれもAlが拡散して形成された層であるが、表面層と中間層との違いは、Alの拡散の度合いの違い、結晶構造の違い等によるものである。具体的には、どちらの層も、Fe−Al合金(金属間化合物、固溶体等)から主に構成されており、表面層においては、Alの存在量が多く、かつ深さ方向にほぼ一定の分布を有しており、中間層では、金属基材側に向かうにつれ、Alの存在量が減少している。すなわち、深さ方向において、Alの存在量は次第に減少する傾向にあり、アルミニウム拡散層は傾斜組成を有している。
【0040】
中間層の硬度は、表面層の硬度と金属基材の硬度との間の値を示し、熱膨張係数も、表面層の熱膨張係数と金属基材の熱膨張係数との間の値を示す。したがって、中間層は、表面層と金属基材との間の緩衝の役割を果たすことができ、表面層と金属基材との硬度差および熱膨張係数差に起因するクラックの発生を抑制することができる。
【0041】
本実施形態では、アルミニウム拡散層がFe−Al合金であるため、母材である金属基材よりも硬度が高く、金属基材に優れた耐摩耗性をもたらす。また、高温環境下では、大気中の酸素と反応してアルミニウム拡散層の表面にアルミナを形成するため、優れた耐熱性および耐酸化性を金属基材にもたらす。
【0042】
さらに、アルミニウム拡散層が中間層を有している場合には、表面層におけるクラックの発生を抑制でき、表面層の剥離等を抑制することができる。
【0043】
(2.本実施形態の効果)
本実施形態では、被処理物である金属基材と処理剤とが充填された加熱炉を加熱することにより、処理剤と大気との界面において、処理剤の表面が酸化されて、緻密なアルミナ膜が形成される。一旦形成されたアルミナ膜は大気の進入を遮断するため、アルミナ膜の内側に配置されている被処理物および処理剤には酸素が到達しない。したがって、被処理物およびその近傍に存在している処理剤は酸化されず、大気雰囲気下でカロライジング処理を行っても、被処理物(金属基材)の表層部にAlを十分に拡散させることができる。その結果、表層部が良好な耐摩耗性、耐熱性、耐酸化性等を有するように改質された金属基材を得ることができる。
【0044】
しかも、従来のカロライジング処理のように、雰囲気を中性あるいは還元性雰囲気に調整する必要はなく、大気中で行うことができるため、雰囲気を調整する装置および工程を省略することができる。その結果、金属基材の表面処理に要するコストを低減することができる。
【0045】
さらに、カロライジング処理後に被処理物を取り出す際に、アルミナ膜を除去すれば、アルミナ膜の内側では処理剤は固化することなく粉末状を維持しているので、被処理物を容易に取り出すことができる。また、アルミナ膜を除去すれば、カロライジング処理に用いた処理剤の大部分を、処理前と同様に粉末状として回収できるため、次回のカロライジング処理に処理剤として再利用することができる。
【0046】
このような発明の効果は、上述したように、粒子間に空隙が存在している粉末の表面を酸化させて、緻密な膜を形成するという容易に想到し得ない手法を採用することにより、得ることができる。たとえば、処理剤中にアルミナ粉末を含有させて、カロライジング処理した場
合、カロライジング処理が行われる温度では、アルミナ粉末は緻密な状態で焼結しないため、上述したような、大気の侵入を防止できる程度に緻密な膜は形成できない。
【0047】
(3.変形例)
上記の実施形態では、加熱炉の筐体(炉心管)内部に被処理物および処理剤を充填し、カロライジング処理を行ったが、被処理物および処理剤を充填したるつぼを、加熱炉内部に載置してカロライジング処理を行ってもよい。るつぼに被処理物および処理剤を充填する方法、用いる処理剤等は、上記の実施形態と同様にすればよい。また、「るつぼ」とは、被処理物および処理剤を充填できるように構成された容器状の部材をいう。
【0048】
加熱炉が横型である場合には、被処理物の取り出しを容易とするために、
図4に示すように、るつぼを用いてカロライジング処理することが好ましい。
【0049】
上記の実施形態では、大気雰囲気下でカロライジング処理を行ったが、容器の大きさ、処理剤量等を制御すれば、大気雰囲気下よりも酸素分圧が高い雰囲気においても、カロライジング処理は可能であると考えられる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0052】
実施例では、金属基材として、SUS310Sからなるパイプ(外径27.2mm×内径13.2mm×長さ10mm)を用いた。この金属基材を、処理剤と共に縦型の加熱炉内に配置した。加熱炉内部は、高さ180mmまで処理剤を充填し、高さが90mmとなる位置に金属基材を固定して埋設した。処理剤および被処理物の充填体積は、加熱炉内部の容積に対して、80%程度であった。また、加熱炉の開口部にはグラスウールを配置した。その結果、加熱炉内部には、大気が存在しており、グラスウールにより、加熱炉内部は半密封状態となっていた。
【0053】
処理剤は、99.5質量%のFe−Al合金粉末と0.5質量%の塩化アンモニウム粉末との混合粉末を用いた。また、Fe−Al合金粉末中のAlは50質量%であった。
【0054】
続いて、この金属基材を加熱して大気雰囲気下においてカロライジング処理を行った。カロライジング処理の処理条件は、500℃に到達するまでは、8℃/分とし、500℃から最高温度までの昇温速度を3.75℃/分とし、最高温度および保持時間は表1に示す条件とし、冷却条件は自然冷却とした。
【0055】
カロライジング処理後に、加熱炉の開口部に配置したグラスウールを除去すると、処理剤の表面が白い膜で覆われていることが確認できた。この白い膜を除去して、カロライジング処理後の金属基材(SUS310S製パイプ)を加熱炉から取り出し、以下のようにして試料を作製した。まず、パイプを環状に切断し、さらに露出した断面を扇状に切断して、当該断面を樹脂に埋め込んだ。これを研磨して酸洗浄を行い試料とした。
【0056】
なお、取り出し時に除去した白い膜を粉砕して、X線回折を行ったところ、アルミナに起因するピークが観察され、当該白い膜はアルミナから構成されていることが確認できた。
【0057】
得られた試料について、金属顕微鏡(Nikon社製LV−100)および走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー社製TM−300)を用いて、パイプの外表面に相当する部分と、その近傍と、を観察し、表面層および中間層の厚みを観察像におけるコントラスト差に基づいて測定した。観察像を
図5および6に示し、厚みの測定結果を表1に示す。
【0058】
さらに、表面層、中間層および金属基材部分について、微少硬さ試験機(明石製作所製HM−124)を用いて、マイクロビッカース硬度を測定した。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
図5および6より、最高温度が650〜950℃である場合には、アルミニウム拡散層としての表面層1aが形成されていることが確認できた。特に、750〜950℃である場合には、アルミニウム拡散層としての表面層1aおよび中間層1bの2層が形成されていることが確認できた。また、表1より、表面層1aおよび中間層1bのビッカース硬度は母材1cのビッカース硬度よりも高く、さらに、中間層1bのビッカース硬度は、表面層1aのビッカース硬度とSUS310S(母材1c)のビッカース硬度との間にあることが確認できた。したがって、この中間層の存在により、表面層1aにおけるクラックの発生を抑制できると考えられる。