特許第6274536号(P6274536)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6274536リチウム二次電池用混合活物質の製造方法、リチウム二次電池用電極の製造方法及びリチウム二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6274536
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用混合活物質の製造方法、リチウム二次電池用電極の製造方法及びリチウム二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20180129BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20180129BHJP
【FI】
   H01M4/505
   H01M4/525
【請求項の数】4
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-526146(P2015-526146)
(86)(22)【出願日】2014年6月18日
(86)【国際出願番号】JP2014003271
(87)【国際公開番号】WO2015004856
(87)【国際公開日】20150115
【審査請求日】2016年10月19日
(31)【優先権主張番号】特願2013-144210(P2013-144210)
(32)【優先日】2013年7月10日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-1743(P2014-1743)
(32)【優先日】2014年1月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大輔
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−302248(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/091015(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/084923(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/040383(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/133113(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/123011(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/108106(WO,A1)
【文献】 特開2005−019063(JP,A)
【文献】 特開2002−068747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−NaFeO構造を有し、遷移金属(Me)がCo、Ni及びMnを含み、モル比Mn/MeがMn/Me>0.5であるリチウム遷移金属複合酸化物、及び、α−NaFeO構造を有し、遷移金属(Me)がCo、Ni及びMnを含み、モル比Mn/Meが0<Mn/Me≦0.5であるリチウム遷移金属複合酸化物を含有し、比表面積が4.4m/g以下であり、且つS含有量が0.2〜1.2質量%であるリチウム二次電池用混合活物質の製造方法であって、遷移金属(Me)がCo、Ni及びMnを含み、モル比Mn/Meが0<Mn/Me≦0.5である前記リチウム遷移金属複合酸化物の硫酸を用いた酸処理により前記Sを含有させる、リチウム二次電池用混合活物質の製造方法
【請求項2】
前記遷移金属(Me)がCo、Ni及びMnを含み、モル比Mn/MeがMn/Me>0.5であるリチウム遷移金属複合酸化物と、前記遷移金属(Me)がCo、Ni及びMnを含み、モル比Mn/Meが0<Mn/Me≦0.5であるリチウム遷移金属複合酸化物と、の混合割合は、70:30〜95:5である請求項1に記載のリチウム二次電池用混合活物質の製造方法
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法によって製造されたリチウム二次電池用混合活物質を含有するリチウム二次電池用電極の製造方法
【請求項4】
請求項に記載の製造方法によって製造されたリチウム二次電池用電極を備えたリチウム二次電池の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用混合活物質、その混合活物質を含有するリチウム二次電池用電極及びその電極を備えたリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池、特にリチウム二次電池は、携帯用端末等に広く搭載されている。これらの非水電解質二次電池には、正極活物質として主にLiCoOが用いられている。しかし、LiCoOの放電容量は120〜130mAh/g程度である。
【0003】
また、リチウム二次電池用正極活物質材料として、LiCoOと他の化合物との固溶体が知られている。α−NaFeO型結晶構造を有し、LiCoO、LiNiO及びLiMnOの3つの成分の固溶体であるLi[Co1−2xNiMn]O(0<x≦1/2)」が、2001年に発表された。前記固溶体の一例である、LiNi1/2Mn1/2やLiCo1/3Ni1/3Mn1/3は、150〜180mAh/gの放電容量を有しており、充放電サイクル性能の点でも優れる。
【0004】
上記のようないわゆる「LiMeO型」活物質に対し、遷移金属(Me)の比率に対するリチウム(Li)の組成比率Li/Meが1より大きく、例えばLi/Meが1.25〜1.6であるいわゆる「リチウム過剰型」活物質が知られている(たとえば、特許文献1及び2参照)。このような材料は、Li1+αMe1−α(α>0)と表記することができる。ここで、遷移金属(Me)の比率に対するリチウム(Li)の組成比率Li/Meをβとすると、β=(1+α)/(1−α)であるから、例えば、Li/Meが1.5のとき、α=0.2である。
【0005】
特許文献1及び2には、上記のような活物質が記載されている。また、これらの特許文献には、前記活物質を用いた電池の製造方法として、4.3V(vs.Li/Li)を超え4.8V以下(vs.Li/Li)の正極電位範囲に出現する、電位変化が比較的平坦な領域に少なくとも至る充電を行う製造工程を設けることにより、使用時において、充電時の正極の最大到達電位が4.3V(vs.Li/Li)以下又は4.4V(vs.Li/Li)未満である充電方法が採用された場合であっても、200mAh/g以上の放電容量が得られる電池を製造できることが記載されている。
【0006】
特許文献3には、「リチウム含有酸化物から正極活物質を得る正極活物質の製造方法であって、前記リチウム含有酸化物を酸性水溶液で処理する工程を備え、前記リチウム含有酸化物は、Li1+x(Mn1−y1−x(0<x<0.4、0<y≦1)を含み、前記Mはマンガンを除く少なくとも1種の遷移金属を含み、前記酸性水溶液中の水素イオン量は、前記リチウム含有酸化物1molに対してxmol以上5xmol未満であることを特徴とする正極活物質の製造方法。」(請求項5)の発明が記載され、この発明の目的として、「非水電解質二次電池の優れた負荷特性および高い初期充放電効率を可能にする高容量の正極活物質および正極活物質の製造方法を提供すること」(段落[0009])が示されている。
【0007】
特許文献4には、「組成式:xLi・(1−x)LiM(Mは4価のマンガンを必須とする一種以上の金属元素、Mは1種以上の金属元素、0<x≦1、Liはその一部が水素で置換されていてもよい。)で表される活物質に酸溶液を接触させる酸処理工程と、酸処理を施した前記活物質にリチウム化合物を含むリチウム溶液を接触させるリチウム補填工程とを含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。」(請求項1)及び「前記酸溶液は、硫酸水溶液、硝酸水溶液、及び硫酸アンモニウム水溶液のいずれか1種からなる請求項1記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。」(請求項2)の発明が記載され、この発明の課題として、「正極活物質の活性化による電池容量の低減を抑えることができるリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法を提供すること」(段落[0011])が示されている。
【0008】
特許文献5には、「一般式(2) Li2−0.5xMn1−x1.5x…(2)(式(2)中、Liはリチウム、Mnはマンガン、MはNiαCoβMnγ(Niはニッケル、Coはコバルト、Mnはマンガンを示し、α、β及びγは、0<α≦0.5、0≦β≦0.33、0<γ≦0.5を満足する。)を示し、xは、0<x<1.00の関係を満足する。)で表され、結晶構造が空間群C2/mに帰属される層状遷移金属酸化物を酸性溶液に浸漬して得られることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。」(請求項3)の発明が記載され、この発明の目的として、「優れた初期充放電効率を発揮し得るリチウムイオン二次電池用正極活物質、これを用いたリチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池を提供すること」(段落[0008])が示されている。
【0009】
特許文献6には、「一般式(1)で表される酸化物であって、結晶構造中にLi空孔および酸素空孔を有し、JIS B 0601:2001の規定による一次粒子表面の二乗平均平方根粗さ(RMS)が1.5nm以下であることを特徴とするリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体。 xLiMO・(1−x)LiNO・・・(1)(ここで、xは、0<x<1を満たす数であり、Mは平均酸化数が4である1種類以上の金属元素であり、Nは平均酸化数が3である1種類以上の金属元素である)」(請求項1)及び「リチウム遷移金属系化合物粉体が、pH35の溶媒中で加熱処理した後、200℃度以上900℃以下の温度で24時間以内熱処理することにより得られる化合物からなることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体。」(請求項2)の発明が記載され、この発明の目的として、「初回の効率が高く、レート特性に優れたリチウム二次電池を提供し得るリチウム二次電池用正極材料及びリチウム二次電池用正極とこれらを用いたリチウム二次電池を提供すること」(段落[0010])が示されている。
【0010】
特許文献7には、「正極と、負極と、セパレータと、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池であって、前記正極は、第1の正極活物質及び第2の正極活物質から選ばれる少なくとも1種の正極活物質を含み、前記第1の正極活物質は、一般組成式Li(1+a)MnxNiyCo(1-x-y-z)z2(但し、Mは、Ti、Zr、Nb、Mo、W、Al、Si、Ga、Ge及びSnからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、−0.15<a<0.15、0.1<x≦0.5、0.6<x+y+z<1.0、0≦z≦0.1)で表され、前記第2の正極活物質は、一般組成式Li(1-s-b)MgsCo(1-t-u)AltM’u2(但し、M'は、Ti、Zr及びGeからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、0.01≦s<0.1、0<u<0.1、0.01<t+u<0.1、−0.06≦b<0.05)で表され、前記正極の表面には、−SOn−(1≦n≦4)で表される結合を有する化合物が存在し、前記正極の表面に前記−SOn−(1≦n≦4)で表される結合として存在する硫黄の含有量は、X線光電子分光法で分析した場合に、0.2原子%以上1.5原子%以下であることを特徴とする非水電解質二次電池。」(請求項1)の発明が記載され、この発明の課題として、「高電圧充電による高容量化を実現しつつ、さらにサイクル特性及び貯蔵特性に優れた非水電解質二次電池を提供する」(段落[0011])ことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2012/091015
【特許文献2】WO2013/084923
【特許文献3】特開2009−004285号公報
【特許文献4】特開2012−195082号公報
【特許文献5】特開2012−185913号公報
【特許文献6】特開2012−234772号公報
【特許文献7】特開2008−270086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本明細書では、電池容量とサイクル特性を両立して向上させたリチウム二次電池用混合活物質、その混合活物質を用いた電極及びリチウム二次電池を提供する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本実施形態は、α−NaFeO構造を有し、遷移金属(Me)がCo、Ni及びMnを含み、モル比Mn/MeがMn/Me>0.5であるリチウム遷移金属複合酸化物、及び、遷移金属(Me)がCo、Ni及びMnを含み、モル比Mn/Meが0<Mn/Me≦0.5であるリチウム遷移金属複合酸化物を含有し、比表面積が4.4m/g以下であり、且つS含有量が0.2〜1.2質量%であるリチウム二次電池用混合活物質の製造方法であって、遷移金属(Me)がCo、Ni及びMnを含み、モル比Mn/Meが0<Mn/Me≦0.5である前記リチウム遷移金属複合酸化物の硫酸を用いた酸処理により前記Sを含有させる、リチウム二次電池用混合活物質の製造方法である。
また、本実施形態は、前記リチウム二次電池用混合活物質を含有するリチウム二次電池用電極の製造方法として実現できる。
また、本実施形態は、前記リチウム二次電池用電極を備えたリチウム二次電池の製造方法として実現できる。
【発明の効果】
【0014】
本実施形態によれば、電池容量とサイクル特性を両立して向上させたリチウム二次電池用混合活物質、その混合活物質を用いた電極及びリチウム二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係るリチウム二次電池を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記従来の技術においては、「リチウム過剰型」正極活物質の酸処理により一部のLiを引き抜いておくことで、初期効率が向上し、合わせて容量やサイクル特性なども向上することが知られている。しかし、大幅に比表面積が増大することによる電極作製面でのデメリットがある。また、後述の比較例に示すように、初期効率及び容量は向上するがサイクル特性が低下するなどの課題も併せ持つことがわかった。
また、「LiMeO型」正極活物質については、酸処理により、「リチウム過剰型」正極活物質に比べて比表面籍の増加は大きくないが、容量やサイクル特性などの向上は認められないことがわかった。
【0017】
本実施形態の構成及び作用効果について、技術思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。なお、本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、本明細書の実施形態は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【0018】
上記課題を解決するために、本実施形態においては、以下の手段を採用することができる。
本実施形態は、α−NaFeO構造を有し、遷移金属(Me)がCo、Ni及びMnを含み、モル比Mn/MeがMn/Me>0.5であるリチウム遷移金属複合酸化物、及び、α−NaFeO構造を有し、遷移金属(Me)がCo、Ni及びMnを含み、モル比Mn/Meが0<Mn/Me≦0.5であるリチウム遷移金属複合酸化物を含有するリチウム二次電池用混合活物質であって、比表面積が4.4m/g以下であり、且つS含有量が0.2〜1.2質量%であることを特徴とするリチウム二次電池用混合活物質である。
【0019】
α−NaFeO構造を有し、遷移金属(Me)がCo、Ni及びMnを含み、モル比Mn/MeがMn/Me>0.5であるリチウム遷移金属複合酸化物(以下、「リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物」という。)は、酸処理すると上記のように比表面積が増大するが、遷移金属(Me)がCo、Ni及びMnを含み、モル比Mn/Meが0<Mn/Me≦0.5であるリチウム遷移金属複合酸化物(以下、「LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物」という。)については、酸処理により、リチウム過剰型のリチウム遷移金属複合酸化物ほどの比表面積の増加は認められないことがわかった。
そこで、本実施形態においては、遷移金属(Me)がCo、Ni及びMnを含み、モル比Mn/Meが0<Mn/Me≦0.5であるリチウム遷移金属複合酸化物の酸処理により前記Sを含有させることとしてもよい。比表面積の増加を抑制しつつ、電池容量とサイクル特性を両立して向上させるために、リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物に、酸処理したLiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物を混合することが好ましい。リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物と、酸処理したLiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物の混合割合は、70:30〜95:5が好ましく、80:20〜90:10がより好ましい。
【0020】
本実施形態においては、サイクル特性を向上させるために、リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物とLiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物の混合活物質の比表面積は4.4m/g以下とする。4.2m/g以下であることが好ましく、3.8m/g以下であることがより好ましい。
また、LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物の硫酸を用いた酸処理により、正極活物質にSを含有させることが好ましい。リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物を酸処理すると比表面積が大きくなりすぎる。本実施形態においては、電池容量、サイクル特性を向上させるために、S含有量は0.2〜1.2質量%とし、0.2〜1.0質量%とすることが好ましく、0.2〜0.8質量%とすることがより好ましい。
【0021】
上記リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物は、典型例として、組成式Li1+αMe1−α(但し、MeはCo、Ni及びMnを含む遷移金属元素、(1+α)/(1−α)>1.2、モル比Mn/Me>0.5)で表される。上記LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物は、典型例として、組成式LiMeO(但し、MeはCo、Ni及びMnを含む遷移金属元素、x≦1.2、0<モル比Mn/Me≦0.5)で表される。
【0022】
本実施形態において、前記遷移金属(Me)がCo、Ni及びMnを含み、モル比Mn/MeがMn/Me>0.5であるリチウム遷移金属複合酸化物が組成式Li1+αMe1−αで表されるとき、前記遷移金属元素Meに対するLiのモル比Li/Meは、(1+α)/(1−α)で表される。該モル比Li/Meは、1より大きいこととしてもよい。該モル比Li/Meは、1.2(α=0.09)より大きく、及び1.6(α=0.23)より小さくすることで、放電容量(電池容量)が大きく、サイクル特性及び高率放電性能が優れたリチウム二次電池を得ることができるので、1.2<(1+α)/(1−α)<1.6とすることが好ましい。なかでも、放電容量が特に大きく、サイクル特性及び高率放電性能が優れたリチウム二次電池を得ることができるという観点から、Li/Me比は1.25≦(1+α)/(1−α)≦1.5とすることがより好ましい。
【0023】
本実施形態においては、放電容量が大きく、初期効率及びサイクル特性が優れたリチウム二次電池を得ることができるという点で、リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属元素Meに対するCoのモル比Co/Meは、0.05〜0.40とすることが好ましく、0.10〜0.30とすることがより好ましい。
【0024】
また、放電容量が大きく、高率放電性能及びサイクル特性が優れたリチウム二次電池を得るために、リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属元素Meに対するMnのモル比Mn/Meは0.5より大きくする。LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物では、モル比Mn/Meを0.5より大きくした場合、充電をするとスピネル転移が起こり、α−NaFeO構造に帰属される構造を有さないものとなり、リチウム二次電池用活物質として問題があったのに対し、リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物では、モル比Mn/Meを0.5より大きくして充電をした場合でも、α−NaFeO構造を維持できるものであるから、モル比Mn/Meが0.5より大きいという構成は、いわゆるリチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質を特徴付けるものである。モル比Mn/Meは0.5<Mn/Me≦0.8が好ましく、0.5<Mn/Me≦0.75がより好ましい。
【0025】
本実施形態に係るリチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物は、一般式Li1+α(CoNiMn1−α、但し、α>0、a+b+c=1、a>0、b>0、c>0で表わされるものであり、本質的に、Li、Co、Ni及びMnからなる複合酸化物であるが、放電容量を向上させるために、Naを1000ppm以上含ませることが好ましい。Naの含有量は、2000〜10000ppmがより好ましい。
【0026】
Naを含有させるために、後述する水酸化物前駆体又は炭酸塩前駆体を作製する工程において、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等のナトリウム化合物を中和剤として使用し、洗浄工程でNaを残存させるか、及び、その後の焼成工程において炭酸ナトリウム等のナトリウム化合物を添加する方法を採用することができる。
【0027】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、Na以外のアルカリ金属、Mg,Ca等のアルカリ土類金属、Fe,Zn等の3d遷移金属に代表される遷移金属など少量の他の金属を含有することを排除するものではない。
【0028】
本実施形態に係るリチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物は、α−NaFeO構造を有している。合成後(充放電を行う前)の上記リチウム遷移金属複合酸化物は、空間群P312あるいはR3−mに帰属される。このうち、空間群P312に帰属されるものには、CuKα管球を用いたエックス線回折図上、2θ=21°付近に超格子ピーク(Li[Li1/3Mn2/3]O型の単斜晶に見られるピーク)が確認される。ところが、一度でも充電を行い、結晶中のLiが脱離すると結晶の対称性が変化することにより、上記超格子ピークが消滅して、上記リチウム遷移金属複合酸化物は空間群R3−mに帰属されるようになる。ここで、P312は、R3−mにおける3a、3b、6cサイトの原子位置を細分化した結晶構造モデルであり、R3−mにおける原子配置に秩序性が認められるときに該P312モデルが採用される。なお、「R3−m」は本来「R3m」の「3」の上にバー「−」を施して表記すべきものである。
【0029】
本実施形態に係るリチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物は、エックス線回折パターンを元に空間群R3−mを結晶構造モデルに用いたときに(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.18°〜0.22°の範囲であることが好ましい。こうすることにより、正極活物質の放電容量を大きくし、高率放電性能を向上させることが可能となる。なお、CuKα管球を用いたときに現れる2θ=18.6°±1°の回折ピークは、空間群P312及びR3−mではミラー指数hklにおける(003)面に指数付けされる。
【0030】
また、リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物は、過充電中に構造変化しないことが好ましい。これは、電位5.0V(vs.Li/Li)まで電気化学的に酸化したとき、エックス線回折図上空間群R3−mに帰属される単一相として観察されることにより確認できる。これにより、充放電サイクル性能が優れたリチウム二次電池を得ることができる。
【0031】
さらに、リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物は、エックス線回折パターンを基にリートベルト法による結晶構造解析から求められる酸素位置パラメータが、2V(vs.Li/Li)の放電末において0.262以下、過充電化成後の4.3V(vs.Li/Li)の充電末において0.267以上であることが好ましい。これにより、高率放電性能が優れたリチウム二次電池を得ることができる。なお、酸素位置パラメータとは、空間群R3−mに帰属されるリチウム遷移金属複合酸化物のα―NaFeO型結晶構造について、Me(遷移金属)の空間座標を(0,0,0)、Li(リチウム)の空間座標を(0,0,1/2)、O(酸素)の空間座標を(0,0,z)と定義したときの、zの値をいう。即ち、酸素位置パラメータは、O(酸素)位置がMe(遷移金属)位置からどれだけ離れているかを示す相対的な指標となる(特許文献1及び2参照)。
【0032】
本実施形態に係るリチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物は、炭酸塩前駆体、又は水酸化物前駆体から作製される。
炭酸塩前駆体から作製されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子は、2次粒子の粒度分布における累積体積が50%となる粒子径であるD50が、5μm以上であることが好ましく、5〜18μmであることがより好ましい。また、水酸化物前駆体から作製されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子は、D50が、8μm以下であることが好ましく、8〜1μmであることがより好ましい。
【0033】
本実施形態において、初期効率及びサイクル特性が優れたリチウム二次電池用正極活物質を得るために、炭酸塩前駆体から作製されるリチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物は、窒素ガス吸着法を用いた吸着等温線からBJH法で求めた微分細孔容積が最大値を示す細孔径が30〜40nmの範囲で、ピーク微分細孔容積が0.75mm/(g・nm)以上であることが好ましい(特許文献2参照)。
【0034】
また、本実施形態に係る正極活物質のタップ密度は、サイクル特性及び高率放電性能が優れたリチウム二次電池を得るために、1.25g/cc以上が好ましく、1.7g/cc以上がより好ましい。
【0035】
次に、本実施形態のリチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物を製造する方法について説明する。
本実施形態のリチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物は、基本的に、リチウム遷移金属複合酸化物を構成する金属元素(Li,Mn,Co,Ni)を目的とするリチウム遷移金属複合酸化物の組成通りに含有する原料を調整し、これを焼成することによって得ることができる。但し、Li原料の量については、焼成中にLi原料の一部が消失することを見込んで、1〜5%程度過剰に仕込むことが好ましい。
目的とする組成の酸化物を作製するにあたり、Li,Co,Ni,Mnのそれぞれの塩を混合・焼成するいわゆる「固相法」や、あらかじめCo,Ni,Mnを一粒子中に存在させた共沈前駆体を作製しておき、これにLi塩を混合・焼成する「共沈法」が知られている。「固相法」による合成過程では、特にMnはCo,Niに対して均一に固溶しにくいため、各元素が一粒子中に均一に分布した試料を得ることは困難である。これまで文献などにおいては固相法によってNiやCoの一部にMnを固溶(LiNi1−xMnなど)しようという試みが多数なされているが、「共沈法」を選択する方が原子レベルで均一相を得ることが容易である。そこで、後述する実施形態においては、「共沈法」を採用した。
【0036】
共沈前駆体を作製するにあたって、Co,Ni,MnのうちMnは酸化されやすく、Co,Ni,Mnが2価の状態で均一に分布した共沈前駆体を作製することが容易ではないため、Co,Ni,Mnの原子レベルでの均一な混合は不十分なものとなりやすい。特に本実施形態の組成範囲においては、Mn比率がCo,Ni比率に比べて高いので、水溶液中の溶存酸素を除去することが特に重要である。溶存酸素を除去する方法としては、酸素を含まないガスをバブリングする方法が挙げられる。酸素を含まないガスとしては、限定されるものではないが、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素(CO)等を用いることができる。なかでも、共沈炭酸塩前駆体を作製する場合には、酸素を含まないガスとして二酸化炭素を採用すると、炭酸塩がより生成しやすい環境が与えられるため、好ましい。
【0037】
溶液中でCo、Ni及びMnを含有する化合物を共沈させて前駆体を製造する工程におけるpHは限定されるものではないが、前記共沈前駆体を共沈水酸化物前駆体として作製しようとする場合には、10〜14とすることができ、前記共沈前駆体を共沈炭酸塩前駆体として作製しようとする場合には、7.5〜11とすることができる。タップ密度を大きくするためには、pHを制御することが好ましい。共沈炭酸塩前駆体については、pHを9.4以下とすることにより、タップ密度を1.25g/cc以上とすることができ、高率放電性能を向上させることができる。さらに、pHを8.0以下とすることにより、粒子成長速度を促進できるので、原料水溶液滴下終了後の撹拌継続時間を短縮できる。
【0038】
前記共沈前駆体は、MnとNiとCoとが均一に混合された化合物であることが好ましい。また、錯化剤を用いた晶析反応等を用いることによって、より嵩密度の大きな前駆体を作製することもできる。その際、Li源と混合・焼成することでより高密度の活物質を得ることができるので電極面積あたりのエネルギー密度を向上させることができる。
【0039】
前記共沈前駆体の原料は、Mn化合物としては酸化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン等を、Ni化合物としては、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル等を、Co化合物としては、硫酸コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト等を一例として挙げることができる。
【0040】
本実施形態においては、アルカリ性を保った反応槽に前記共沈前駆体の原料水溶液を連続的に滴下供給して共沈前駆体を得る反応晶析法を採用する。ここで、中和剤として、リチウム化合物、ナトリウム化合物、カリウム化合物等を使用することができるが、前記共沈前駆体を共沈水酸化物前駆体として作製する場合には、水酸化ナトリウム、水酸化ナトリウムと水酸化リチウム、又は、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの混合物を使用することが好ましく、また、前記共沈前駆体を共沈炭酸塩前駆体として作製する場合には、炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウムと炭酸リチウム、又は、炭酸ナトリウムと炭酸カリウムの混合物を使用することが好ましい。Naを1000ppm以上残存させるために、炭酸ナトリウム(水酸化ナトリウム)と炭酸リチウム(水酸化リチウム)のモル比であるNa/Li、又は、炭酸ナトリウム(水酸化ナトリウム)と炭酸カリウム(水酸化カリウム)のモル比であるNa/Kは、1/1[M]以上とすることが好ましい。Na/Li又はNa/Kを1/1[M]以上とすることにより、引き続く洗浄工程でNaが除去されすぎて1000ppm未満となってしまう虞を低減できる。
【0041】
前記原料水溶液の滴下速度は、生成する共沈前駆体の1粒子内における元素分布の均一性に大きく影響を与える。特にMnは、CoやNiと均一な元素分布を形成しにくいので注意が必要である。好ましい滴下速度については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、30ml/min以下が好ましい。放電容量を向上させるためには、滴下速度は10ml/min以下がより好ましく、5ml/min以下が最も好ましい。
【0042】
また、反応槽内に錯化剤が存在し、かつ一定の対流条件を適用した場合、前記原料水溶液の滴下終了後、さらに攪拌を続けることにより、粒子の自転および攪拌槽内における公転が促進され、この過程で、粒子同士が衝突しつつ、粒子が段階的に同心円球状に成長する。即ち、共沈前駆体は、反応槽内に原料水溶液が滴下された際の金属錯体形成反応、及び、前記金属錯体が反応槽内の滞留中に生じる沈殿形成反応という2段階での反応を経て形成される。従って、前記原料水溶液の滴下終了後、さらに攪拌を続ける時間を適切に選択することにより、目的とする粒子径を備えた共沈前駆体を得ることができる。
【0043】
原料水溶液滴下終了後の好ましい攪拌継続時間については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、粒子を均一な球状粒子として成長させるために0.5h以上が好ましく、1h以上がより好ましい。また、粒子径が大きくなりすぎることで電池の低SOC領域における出力性能が充分でないものとなる虞を低減させるため、30h以下が好ましく、25h以下がより好ましく、20h以下が最も好ましい。
【0044】
また、共沈水酸化物前駆体から作製するリチウム遷移金属複合酸化物の50%粒子径(D50)を1〜8μmとするための好ましい攪拌継続時間、共沈炭酸塩前駆体から作製するリチウム遷移金属複合酸化物の50%粒子径(D50)を5〜18μmとするための好ましい攪拌継続時間は、制御するpHによって異なる。例えば、共沈水酸化物前駆体については、pHを10〜12に制御した場合には、撹拌継続時間は1〜10hが好ましく、pHを12〜14に制御した場合には、撹拌継続時間は3〜20hが好ましい。共沈炭酸塩前駆体については、pHを7.5〜8.2に制御した場合には、撹拌継続時間は1〜20hが好ましく、pHを8.3〜9.4に制御した場合には、撹拌継続時間は3〜24hが好ましい。
【0045】
共沈前駆体の粒子を、中和剤として水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等のナトリウム化合物を使用して作製した場合、その後の洗浄工程において粒子に付着しているナトリウムイオンを洗浄除去するが、本実施形態においては、Naが1000ppm以上残存するような条件で洗浄除去することが好ましい。例えば、作製した共沈前駆体を吸引ろ過して取り出す際に、イオン交換水200mlによる洗浄回数を5回とするような条件を採用することができる。
【0046】
共沈前駆体は、80℃〜100℃未満で、空気雰囲気中、常圧下で乾燥させることが好ましい。100℃以上にて乾燥を行うことで短時間でより多くの水分を除去できるが、80℃にて長時間かけて乾燥させることで、より優れた電極特性を示す活物質とすることができる。その理由は必ずしも明らかではないが、炭酸塩前駆体については、以下のように発明者は推察している。すなわち、炭酸塩前駆体は比表面積が50〜100m/gの多孔体であるため、水分を吸着しやすい構造となっている。そこで、低い温度で乾燥させることによって、前駆体の状態において細孔にある程度の吸着水が残っている状態とした方が、Li塩と混合して焼成する焼成工程において、細孔から除去される吸着水と入れ替わるように、その細孔に溶融したLiが入り込むことができ、これによって、100℃で乾燥を行った場合と比べて、より均一な組成の活物質が得られるためではないかと推察している。なお、100℃にて乾燥を行って得られた炭酸塩前駆体は黒茶色を呈するが、80℃にて乾燥を行って得られた炭酸塩前駆体は肌色を呈するので、前駆体の色によって区別ができる。
【0047】
そこで、上記知見された炭酸塩前駆体の差異を定量的に評価するため、それぞれの前駆体の色相を測定し、JIS Z 8721に準拠した日本塗料工業会が発行する塗料用標準色(JPMA Standard Paint Colors)2011年度F版と比較した。色相の測定には、コニカミノルタ社製カラーリーダーCR10を用いた。この測定方法によれば、明度を表すdL*の値は、白い方が大きくなり、黒い方が小さくなる。
また、色相を表すda*の値は、赤色が強い方が大きくなり、緑色が強い方(赤色が弱い方)が小さくなる。また、色相を表すdb*の値は、黄色が強い方が大きくなり、青色が強い方(黄色が弱い方)が小さくなる。
100℃乾燥品の色相は、標準色F05−20Bと比べて、赤色方向に標準色F05−40Dに至る範囲内にあり、また、標準色FN−10と比べて、白色方向に標準色FN−25に至る範囲内にあることがわかった。中でも、標準色F05−20Bが呈する色相との色差が最も小さいものと認められた。
一方、80℃乾燥品の色相は、標準色F19−50Fと比べて、白色方向に標準色F19−70Fに至る範囲内にあり、また、標準色F09−80Dと比べて、黒色方向に標準色F09−60Hに至る範囲内にあることがわかった。中でも、標準色F19−50Fが呈する色相との色差が最も小さいものと認められた。
以上の知見から、炭酸塩前駆体の色相は、標準色F05−20Bに比べて、dL,da及びdbの全てにおいて+方向であるものが好ましく、dLが+5以上、daが+2以上、dbが+5以上であることがより好ましいといえる。
【0048】
本実施形態のリチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物は、前記水酸化物前駆体又は炭酸塩前駆体とLi化合物とを混合した後、熱処理することで好適に作製することができる。
Li化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム等を用いることで好適に製造することができる。但し、Li化合物の量については、焼成中にLi化合物の一部が消失することを見込んで、1〜5%程度過剰に仕込むことが好ましい。
【0049】
本実施形態においては、リチウム遷移金属複合酸化物中のNaの含有量を1000ppm以上とするために、前記水酸化物前駆体又は炭酸塩前駆体に含まれるNaが1000ppm以下であっても、焼成工程においてLi化合物と共にNa化合物を、前記水酸化物前駆体又は炭酸塩前駆体と混合することで活物質中に含まれるNa量を1000ppm以上とすることができる。Na化合物としては炭酸ナトリウムが好ましい。
【0050】
焼成温度は、活物質の可逆容量に影響を与える。
焼成温度が高すぎると、得られた活物質が酸素放出反応を伴って崩壊すると共に、主相の六方晶に加えて単斜晶のLi[Li1/3Mn2/3]O型に規定される相が、固溶相としてではなく、分相して観察される傾向がある。このような分相が多く含まれすぎると、活物質の可逆容量の減少を導くので好ましくない。このような材料では、X線回折図上35°付近及び45°付近に不純物ピークが観察される。従って、焼成温度は、活物質の酸素放出反応の影響する温度未満とすることが好ましい。活物質の酸素放出温度は、本実施形態に係る組成範囲においては、概ね1000℃以上であるが、活物質の組成によって酸素放出温度に若干の差があるので、あらかじめ活物質の酸素放出温度を確認しておくことが好ましい。特に試料に含まれるCo量が多いほど前駆体の酸素放出温度は低温側にシフトすることが確認されているので注意が必要である。活物質の酸素放出温度を確認する方法としては、焼成反応過程をシミュレートするために、共沈前駆体とリチウム化合物を混合したものを熱重量分析(DTA−TG測定)に供してもよいが、この方法では測定機器の試料室に用いている白金が揮発したLi成分により腐食されて機器を痛めるおそれがあるので、あらかじめ500℃程度の焼成温度を採用してある程度結晶化を進行させた組成物を熱重量分析に供するのが良い。
【0051】
一方、焼成温度が低すぎると、結晶化が十分に進まず、電極特性が低下する傾向がある。本実施形態において、共沈水酸化物を前駆体として用いたときには焼成温度は少なくとも700℃以上とすることが好ましい。また、共沈炭酸塩を前駆体として用いたときには焼成温度は少なくとも800℃以上とすることが好ましい。特に、前駆体が共沈炭酸塩である場合の最適な焼成温度は、前駆体に含まれるCo量が多いほど、より低い温度となる傾向がある。このように1次粒子を構成する結晶子を十分に結晶化させることにより、結晶粒界の抵抗を軽減し、円滑なリチウムイオン輸送を促すことができる。
本発明者らは、本実施形態に係る活物質の回折ピークの半値幅を詳細に解析することにより、前駆体が共沈水酸化物である場合においては、焼成温度が650℃未満の温度で合成した試料においては格子内にひずみが残存しており、650℃以上の温度で合成することで顕著にひずみを除去することができること、及び、前駆体が共沈炭酸塩である場合においては、焼成温度が750℃未満の温度で合成した試料においては格子内にひずみが残存しており、750℃以上の温度で合成することで顕著にひずみを除去することができることを確認した。また、結晶子のサイズは合成温度が上昇するに比例して大きくなるものであった。
よって、本実施形態に係る活物質の組成においても、系内に格子のひずみがほとんどなく、かつ結晶子サイズが十分成長した粒子を志向することで良好な放電容量を得られるものであった。
具体的には、格子定数に及ぼすひずみ量が2%以下、かつ結晶子サイズが50nm以上に成長しているような合成温度(焼成温度)及びLi/Me比組成を採用することが好ましいことがわかった。これらを電極として成型して充放電をおこなうことで膨張収縮による変化も見られるが、充放電過程においても結晶子サイズは30nm以上を保っていることが得られる効果として好ましい。
【0052】
上記のように、焼成温度は、活物質の酸素放出温度に関係するが、活物質から酸素が放出される焼成温度に至らずとも、900℃以上において1次粒子が大きく成長することによる結晶化現象が見られる。これは、焼成後の活物質を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより確認できる。900℃を超えた合成温度を経て合成した活物質は1次粒子が0.5μm以上に成長しており、充放電反応中における活物質中のLi移動に不利な状態となり、高率放電性能が低下する。1次粒子の大きさは0.5μm未満であることが好ましく、0.3μm以下であることがより好ましい。
【0053】
以上のことからみて、本実施形態のリチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物において、Li/Meのモル比(1+α)/(1−α)が1.2<(1+α)/(1−α)<1.6である場合、焼成温度は、750〜900℃とすることが好ましく、800〜900℃とすることがより好ましい。
【0054】
本実施形態に係る正極活物質が、高い放電容量を備えたものとするためには、リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属元素が層状岩塩型結晶構造の遷移金属サイト以外の部分に存在する割合が小さいものであることが好ましい。これは、焼成工程に供する前駆体において、前駆体コア粒子のCo,Ni,Mnといった遷移金属元素が十分に均一に分布していること、及び、活物質試料の結晶化を促すための適切な焼成工程の条件を選択することによって達成できる。焼成工程に供する前駆体コア粒子中の遷移金属の分布が均一でない場合、十分な放電容量が得られないものとなる。この理由については必ずしも明らかではないが、焼成工程に供する前駆体コア粒子中の遷移金属の分布が均一でない場合、得られるリチウム遷移金属複合酸化物は、層状岩塩型結晶構造の遷移金属サイト以外の部分、即ちリチウムサイトに遷移金属元素の一部が存在するものとなる、いわゆるカチオンミキシングが起こることに由来するものと本発明者らは推察している。同様の推察は焼成工程における結晶化過程においても適用でき、活物質試料の結晶化が不十分であると層状岩塩型結晶構造におけるカチオンミキシングが起こりやすくなる。前記遷移金属元素の分布の均一性が高いものは、X線回折測定結果を空間群R3−mに帰属した場合の(003)面と(104)面の回折ピークの強度比が大きいものとなる傾向がある。
本実施形態において、X線回折測定による前記(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)は、放電末において1.0以上、充電末において1.75以上であることが好ましい。前駆体の合成条件や合成手順が不適切である場合、前記ピーク強度比はより小さい値となり、しばしば1未満の値となる。
以上、本実施形態のリチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物について説明した。
【0055】
次に、本実施形態のLiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物については、周知のものを用いることができる。典型例は組成式LiMeO(但し、MeはCo、Ni及びMnを含む遷移金属元素、x≦1.2、0<モル比Mn/Me≦0.5)で表される。その一例はLiCo1/3Ni1/3Mn1/3であるが、Co、Ni、Mnの塩の混合溶液をアルカリ溶液中に滴下し、共沈水酸化物を作製し、それをLi塩と混合・焼成するなどの方法により製造することができる。Co、Ni、Mnの比率を変更したLiCo2/3Ni1/6Mn1/6、LiCo0.3Ni0.5Mn0.2等を用いることもできる。
【0056】
LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物は、酸処理をする。酸処理には硫酸を使用することが好ましい。塩酸や硝酸は活物質を溶解させる速度が速いので好ましくない。硫酸を用いた酸処理により、LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物にSが含有される。LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物を硫酸水溶液中に投入し、撹拌した後、濾過、洗浄を行い、乾燥することにより、Sを含有させる。S含有量は、硫酸濃度を制御することにより、変えることができる。
【0057】
上記のようにして作製したリチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物と酸処理したLiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物とを混合して混合活物質とする。本実施形態においては、混合活物質とした後のS含有量を0.2〜1.0質量%とする。また、LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物は、酸処理により比表面積が大きく増大しないので、混合活物質の比表面積を4.2m/g以下にすることができる。
【0058】
負極材料としては、限定されるものではなく、リチウムイオンを析出あるいは吸蔵することのできる形態のものであればどれを選択してもよい。例えば、Li[Li1/3Ti5/3]Oに代表されるスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム等のチタン系材料、SiやSb,Sn系などの合金系材料リチウム金属、リチウム合金(リチウム−シリコン、リチウム−アルミニウム,リチウム−鉛,リチウム−スズ,リチウム−アルミニウム−スズ,リチウム−ガリウム,及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)、リチウム複合酸化物(リチウム−チタン)、酸化珪素の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えばグラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)等が挙げられる。
【0059】
正極活物質の粉体および負極材料の粉体は、平均粒子サイズ100μm以下であることが望ましい。特に、正極活物質の粉体は、非水電解質電池の高出力特性を向上する目的で10μm以下であることが望ましい。粉体を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機が用いられる。例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミルや篩等が用いられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機などが、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0060】
以上、正極及び負極の主要構成成分である正極活物質及び負極材料について詳述したが、前記正極及び負極には、前記主要構成成分の他に、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等が、他の構成成分として含有されてもよい。
【0061】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛,土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅,ニッケル,アルミニウム,銀,金等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種またはそれらの混合物として含ませることができる。
【0062】
これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが望ましい。導電剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して0.1重量%〜50重量%が好ましく、特に0.5重量%〜30重量%が好ましい。特にアセチレンブラックを0.1〜0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると必要炭素量を削減できるため望ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。
そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
【0063】
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリエチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して1〜50重量%が好ましく、特に2〜30重量%が好ましい。
【0064】
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば何でも良い。通常、ポリプロピレン,ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極または負極の総重量に対して添加量は30重量%以下が好ましい。
【0065】
正極及び負極は、前記主要構成成分(正極においては正極活物質、負極においては負極材料)、およびその他の材料を混練し合剤とし、N−メチルピロリドン,トルエン等の有機溶媒又は水に混合させた後、得られた混合液をアルミニウム箔、銅箔などの集電体の上に塗布し、または圧着して50℃〜250℃程度の温度で、2時間程度加熱処理することにより好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが望ましいが、これらに限定されるものではない。
【0066】
本実施形態に係るリチウム二次電池に用いる非水電解質は、限定されるものではなく、一般にリチウム電池等への使用が提案されているものが使用可能である。非水電解質に用いる非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
非水電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO4,LiBF4,LiAsF6,LiPF6,LiSCN,LiBr,LiI,Li2SO4,Li210Cl10,NaClO4,NaI,NaSCN,NaBr,KClO4,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCF3SO3,LiN(CF3SO22,LiN(C25SO22,LiN(CF3SO2)(C49SO2),LiC(CF3SO23,LiC(C25SO23,(CH34NBF4,(CH34NBr,(C254NClO4,(C254NI,(C374NBr,(n−C494NClO4,(n−C494NI,(C254N−maleate,(C254N−benzoate,(C254N−phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0068】
さらに、LiPF6又はLiBF4と、LiN(C25SO22のようなパーフルオロアルキル基を有するリチウム塩とを混合して用いることにより、さらに電解質の粘度を下げることができるので、低温特性をさらに高めることができ、また、自己放電を抑制することができ、より望ましい。
【0069】
また、非水電解質として常温溶融塩やイオン液体を用いてもよい。
【0070】
非水電解質における電解質塩の濃度としては、高い電池特性を有する非水電解質電池を確実に得るために、0.1mol/l〜5mol/lが好ましく、さらに好ましくは、0.5mol/l〜2.5mol/lである。
【0071】
セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。非水電解質電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0072】
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0073】
また、セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
【0074】
さらに、セパレータは、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため望ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
【0075】
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、ラジカル開始剤を併用して加熱や紫外線(UV)を用いたり、電子線(EB)等の活性光線等を用いて架橋反応を行わせることが可能である。
【0076】
本実施形態のリチウム二次電池の構成については特に限定されるものではなく、正極、負極及びロール状のセパレータを有する円筒型電池、角型電池、扁平型電池等が一例として挙げられる。本実施形態のリチウム二次電池を電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)などの自動車用電源として用いる場合には、複数のリチウム二次電池を有するバッテリーモジュール(組電池)として搭載することができる。
【0077】
本実施形態のリチウム二次電池は、組電池や電池パックのような蓄電装置を構成してもよい。図1に示すように、組電池101は、複数のリチウム二次電池100を複数個集合して構成したものである。電池パック102は、複数の組電池101を備えていてもよい。
【0078】
従来の正極活物質も、本実施形態の活物質も、正極電位が4.5V(vs.Li/Li)付近に至って充放電が可能である。しかしながら、使用する非水電解質の種類によっては、充電時の正極電位が高すぎると、非水電解質が酸化分解され電池性能の低下を引き起こす虞がある。したがって、使用時において、充電時の正極の最大到達電位が4.3V(vs.Li/Li)以下となるような充電方法を採用しても、充分な放電容量が得られるリチウム二次電池が求められる場合がある。本実施形態の活物質を用いると、使用時において、充電時の正極の最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)より低くなるような、例えば、4.4V(vs.Li/Li)以下や4.3V(vs.Li/Li)以下となるような充電方法を採用しても、約200mAh/g以上という従来の正極活物質の容量を超える放電電気量を取り出すことが可能である。
本願明細書に記載した合成条件及び合成手順を採用することにより、上記のような高性能の正極活物質を得ることができる。
【実施形態】
【0079】
(実施形態1)[リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物の作製]
硫酸コバルト7水和物14.08g、硫酸ニッケル6水和物21.00g及び硫酸マンガン5水和物65.27gを秤量し、これらの全量をイオン交換水200mlに溶解させ、Co:Ni:Mnのモル比が12.5:20.0:67.5となる2.0Mの硫酸塩水溶液を作製した。一方、2Lの反応槽に750mlのイオン交換水を注ぎ、COガスを30minバブリングさせることにより、イオン交換水中にCOを溶解させた。反応槽の温度を50℃(±2℃)に設定し、攪拌モーターを備えたパドル翼を用いて反応槽内を700rpmの回転速度で攪拌しながら、前記硫酸塩水溶液を3ml/minの速度で滴下した。ここで、滴下の開始から終了までの間、2.0Mの炭酸ナトリウム及び0.4Mのアンモニアを含有する水溶液を適宜滴下することにより、反応槽中のpHが常に7.9(±0.05)を保つように制御した。滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに3h継続した。攪拌の停止後、12h以上静置した。
【0080】
次に、吸引ろ過装置を用いて、反応槽内に生成した共沈炭酸塩の粒子を分離し、さらにイオン交換水を用いて200mlによる洗浄を1回としたときに、5回の洗浄を行う条件で粒子に付着しているナトリウムイオンを洗浄除去し、電気炉を用いて、空気雰囲気中、常圧下、80℃にて20h乾燥させた。その後、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、共沈炭酸塩前駆体を作製した。
【0081】
前記共沈炭酸塩前駆体2.228gに、炭酸リチウム1.022gを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が140:100である混合粉体を調製した。ペレット成型機を用いて、6MPaの圧力で成型し、直径25mmのペレットとした。ペレット成型に供した混合粉体の量は、想定する最終生成物の質量が2gとなるように換算して決定した。前記ペレット1個を全長約100mmのアルミナ製ボートに載置し、箱型電気炉(型番:AMF20)に設置し、空気雰囲気中、常圧下、常温から900℃まで10時間かけて昇温し、900℃で4h焼成した。前記箱型電気炉の内部寸法は、縦10cm、幅20cm、奥行き30cmであり、幅方向20cm間隔に電熱線が入っている。焼成後、ヒーターのスイッチを切り、アルミナ製ボートを炉内に置いたまま自然放冷した。この結果、炉の温度は5時間後には約200℃程度にまで低下するが、その後の降温速度はやや緩やかである。一昼夜経過後、炉の温度が100℃以下となっていることを確認してから、ペレットを取り出し、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、実施形態1に係るNaを2100ppm含むリチウム遷移金属複合酸化物Li1.167Co0.104Ni0.167Mn0.562を作製した。
このリチウム遷移金属複合酸化物がα−NaFeO構造を有することをエックス線回折測定により確認した。
【0082】
[LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物の酸処理]
LiCo0.33Ni0.33Mn0.33を5g秤量し、0.5Mの硫酸水溶液100mLに投入し、マグネチックスターラーを用いて30min室温にて撹拌した。その後、濾過およびイオン交換水による洗浄を行い、110℃にて常圧乾燥を20時間行った。
【0083】
上記のようにして作製したリチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物と酸処理したLiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物を9:1の質量比で混合したものを実施形態1の混合活物質とした。
【0084】
(実施形態2)
LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物の酸処理工程において、LiCo0.33Ni0.33Mn0.33を投入する硫酸水溶液の濃度を、0.5Mから1.0Mに変更した他は、実施形態1と同様にして、実施形態2に係る混合活物質を作製した。
【0085】
(実施形態3)
LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物の酸処理工程において、LiCo0.33Ni0.33Mn0.33を投入する硫酸水溶液の濃度を、0.5Mから1.5Mに変更した他は、実施形態1と同様にして、実施形態3に係る混合活物質を作製した。
【0086】
(実施形態4)
リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物の作製工程において、前記共沈炭酸塩前駆体2.304gに、炭酸リチウム0.943gを加え、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が125:100である混合粉体を調製し、リチウム遷移金属複合酸化物Li1.111Co0.111Ni0.178Mn0.600を作製した他は、実施形態1と同様にして、実施形態4に係る混合活物質を作製した。
【0087】
(実施形態5)
リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物の作製工程において、前記共沈炭酸塩前駆体2.180gに、炭酸リチウム1.071gを加え、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が150:100である混合粉体を調製し、リチウム遷移金属複合酸化物Li1.20Co0.10Ni0.16Mn0.54を作製した他は、実施形態1と同様にして、実施形態5に係る混合活物質を作製した。
【0088】
(実施形態6)
リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物の作製工程において、前記共沈炭酸塩前駆体2.145gに、炭酸リチウム1.107gを加え、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が157.5:100である混合粉体を調製し、リチウム遷移金属複合酸化物Li1.223Co0.087Ni0.155Mn0.525を作製し、かつ、LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物の酸処理工程において、LiCo0.33Ni0.33Mn0.33を投入する硫酸水溶液の濃度を、0.5Mから1.75Mに変更した他は、実施形態1と同様にして、実施形態6に係る混合活物質を作製した。
【0089】
(実施形態7)
リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物の作製工程において、前記共沈炭酸塩前駆体2.157gに、炭酸リチウム1.095gを加え、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が155:100である混合粉体を調製し、リチウム遷移金属複合酸化物Li1.216Co0.098Ni0.157Mn0.529を作製した他は、実施形態6と同様にして、実施形態7に係る混合活物質を作製した。
【0090】
(実施形態8)
リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物の作製工程において、前記共沈炭酸塩前駆体2.168gに、炭酸リチウム1.083gを加え、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が152.5:100である混合粉体を調製し、リチウム遷移金属複合酸化物Li1.208Co0.099Ni0.158Mn0.535を作製した他は、実施形態6と同様にして、実施形態8に係る混合活物質を作製した。
【0091】
(実施形態9)
リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物の作製工程において、前記共沈炭酸塩前駆体2.180gに、炭酸リチウム1.071gを加え、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が150:100である混合粉体を調製し、リチウム遷移金属複合酸化物Li1.20Co0.10Ni0.16Mn0.54を作製した他は、実施形態6と同様にして、実施形態9に係る混合活物質を作製した。
【0092】
(実施形態10)
リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物の作製工程において、前記共沈炭酸塩前駆体2.192gに、炭酸リチウム1.059gを加え、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が147.5:100である混合粉体を調製し、リチウム遷移金属複合酸化物Li1.192Co0.101Ni0.162Mn0.545を作製した他は、実施形態6と同様にして、実施形態10に係る混合活物質を作製した。
【0093】
(比較例1)
リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物の作製工程において、前記共沈炭酸塩前駆体2.204gに、炭酸リチウム1.047gを加え、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が145:100である混合粉体を調製し、リチウム遷移金属複合酸化物Li1.184Co0.102Ni0.163Mn0.551を作製した他は、実施形態6と同様にして、比較例1に係る混合活物質を作製した。
【0094】
(比較例2)
リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物の作製工程において、前記共沈炭酸塩前駆体2.216gに、炭酸リチウム1.034gを加え、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が142.5:100である混合粉体を調製し、リチウム遷移金属複合酸化物Li1.175Co0.103Ni0.165Mn0.557を作製した他は、実施形態6と同様にして、比較例2に係る混合活物質を作製した。
【0095】
(比較例3)
LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物の酸処理工程において、LiCo0.33Ni0.33Mn0.33を投入する硫酸水溶液の濃度を、0.5Mから1.75Mに変更した他は、実施形態1と同様にして、比較例3に係る混合活物質を作製した。
【0096】
(比較例4)
LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物の酸処理工程において、LiCo0.33Ni0.33Mn0.33を投入する硫酸水溶液の濃度を、1.75Mから2Mに変更した他は、実施形態7と同様にして、比較例4に係る混合活物質を作製した。
【0097】
(比較例5)
LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物の酸処理工程において、LiCo0.33Ni0.33Mn0.33を投入する硫酸水溶液の濃度を、1.75Mから2Mに変更した他は、実施形態8と同様にして、比較例5に係る混合活物質を作製した。
【0098】
(比較例6)
LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物の酸処理工程において、LiCo0.33Ni0.33Mn0.33を投入する硫酸水溶液の濃度を、1.75Mから2Mに変更した他は、実施形態9と同様にして、比較例6に係る混合活物質を作製した。
【0099】
(比較例7)
LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物の酸処理工程において、LiCo0.33Ni0.33Mn0.33を投入する硫酸水溶液の濃度を、1.75Mから2Mに変更した他は、実施形態10と同様にして、比較例7に係る混合活物質を作製した。
【0100】
(比較例8)
LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物の酸処理工程において、LiCo0.33Ni0.33Mn0.33を投入する硫酸水溶液の濃度を、1.75Mから2Mに変更した他は、比較例1と同様にして、比較例8に係る混合活物質を作製した。
【0101】
(比較例9)
LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物の酸処理工程において、LiCo0.33Ni0.33Mn0.33を投入する硫酸水溶液の濃度を、1.75Mから2Mに変更した他は、比較例2と同様にして、比較例9に係る混合活物質を作製した。
【0102】
(比較例10)
LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物の酸処理工程において、LiCo0.33Ni0.33Mn0.33を投入する硫酸水溶液の濃度を、1.75Mから2Mに変更した他は、比較例3と同様にして、比較例10に係る混合活物質を作製した。
【0103】
(比較例11)
LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物を酸処理工程において、LiCo0.33Ni0.33Mn0.33を酸処理しない他は、実施形態1と同様にして、比較例11に係る混合活物質を作製した。
【0104】
(比較例12)
リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物の作製工程において、作製したリチウム遷移金属複合酸化物Li1.17Co0.10Ni0.17Mn0.56を5g秤量し、1.75Mの硫酸水溶液100mLに投入し、マグネチックスターラーを用いて30min室温にて撹拌した。その後、濾過およびイオン交換水による洗浄を行い、110℃にて常圧乾燥を20時間行った。この酸処理したLi1.17Co0.10Ni0.17Mn0.56を、酸処理していないLiCo0.33Ni0.33Mn0.33と混合した他は、実施形態1と同様にして、比較例12に係る混合活物質を作製した。
【0105】
(比較例13)
酸処理していないLi1.17Co0.10Ni0.17Mn0.56の代わりに、比較例12の酸処理したLi1.17Co0.10Ni0.17Mn0.56を用いた他は、実施形態1と同様にして、比較例13に係る混合活物質を作製した。
【0106】
(比較例14)
LiCo0.33Ni0.33Mn0.33を混合しない他は、実施形態1と同様にして、比較例14に係る活物質を作製した。
【0107】
(比較例15)
LiCo0.33Ni0.33Mn0.33を混合しない他は、比較例12と同様にして、比較例15に係る活物質を作製した。
【0108】
(比較例16)
LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物を酸処理工程において、LiCo0.33Ni0.33Mn0.33を塩酸処理(0.5Mの硫酸水溶液100mLの代わりに1M100mLの塩酸水溶液を使用)した他は、実施形態1と同様にして、比較例16に係る混合活物質を作製した。
【0109】
(比較例17)
LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物を酸処理工程において、LiCo0.33Ni0.33Mn0.33を硝酸処理(0.5Mの硫酸水溶液100mLの代わりに1M100mLの硝酸水溶液を使用)した他は、実施形態1と同様にして、比較例17に係る混合活物質を作製した。
【0110】
(比較例18)
Li1.17Co0.10Ni0.17Mn0.56を混合しない他は、比較例11と同様にして、比較例18に係る活物質を作製した。
【0111】
(比較例19)
Li1.17Co0.10Ni0.17Mn0.56を混合しない他は、実施形態1と同様にして、比較例19に係る活物質を作製した。
【0112】
<リチウム二次電池の作製及び評価>
実施形態1〜10及び比較例1〜19のそれぞれの活物質を用いて、以下の手順でリチウム二次電池(モデルセル)を作製し、電池特性を評価した。
【0113】
活物質、アセチレンブラック(AB)、およびPVdF(Polyvinylidene Fluoride、#1100、KUREHA)の12mass% NMP溶液を活物質:AB:PVdF=90:5:5の割合になるように混合し、NMP(N-methyl-2-pyrolidon)を固形分濃度43 mass%になるように加え、混練することによってペーストを得た。このようにして得たペーストを、ヨシミツ製のアプリケータを用いて、手動で20μmのアルミニウム箔上に塗工した。さらに、それを120℃ホットプレート上で乾燥させることでNMP溶媒を除去した。続いて電極を5.0 cm×3.0 cmに切り抜き、ロールプレス機に電極を数回通すことにより、多孔度を35%に調整した電極を得た。最後に、その電極を120 ℃で6 時間以上真空乾燥し、水分を完全に除去して正極電極を得た。
【0114】
負極にはグラファイト/PVdFが94:6の重量比となるようにし、銅箔上に合剤を塗布した。その他の条件は正極と同様に行った。
正負極とも活物質重量が60mgとなるように塗布重量を調整した。
【0115】
上で作製した正負極をもちいたモデルセルの作製は以下の手順で行った。なお、水の混入を回避するためにモデルセル製作のすべての作業はドライルーム内で行った。まず、所定の大きさ(5.0 cm×3.0 cm)の正負極のリード取り付け部分の活物質を剥離し、L字カットを行った。続いて、その極板の質量を測定した後に、正極にアルミニウムリードを、負極にニッケルリードを超音波溶着し、1重のPE製セパレータ袋(H6022、旭化成、25μm)に両極が対向するように挿入した。さらに、それをラミネートの袋に入れ、袋の片側を熱溶着(240 ℃×15秒)し、電解液を0.5 ml入れた後に、袋を熱溶着(240℃×5秒)して密閉した。また、電解液にはLiPF6塩を1 mol dm-3となるようにEC:DMC:MEC = 6:7:7(体積比) 混合溶媒に溶解したものを用いた。
【0116】
次に作製したモデルセルをもちいた充放電試験を行った。試験の詳細は以下のとおりである。
【0117】
初期活性化過程においては、0.1Cの定電流で電圧が4.5Vに達するまで走引し、その後電流値が0.02Cに減衰するまで充電を行った。その後、10分間の休止後に0.1Cの定電流にて2.0Vまで放電させ、その後10分間休止した。この充放電サイクルを2回行った。続いて充電電圧を4.2Vに変更した充放電サイクルを行い、その時に得られた放電容量を電池容量とした。また、電流値を1Cレートに変更して30サイクル行った後に、電流値を0.1Cに変更して放電試験を行った。この時のエネルギー密度の維持率をサイクルエネルギー密度維持率とした。
【0118】
<比表面積の測定及びS含有量の分析>
この活物質の比表面積の測定及びS含有量の分析については、試験電池における電極中における活物質を採取することで行った。放電状態にて解体した正極板を取り出し、DMCをもちいて電極に付着した電解液をよく洗浄した。その後Al集電体(アルミニウム箔)上の合剤を採取し、この合剤を前述の小型電気炉を用いて600℃で4時間焼成することで導電剤であるカーボンおよび結着剤であるPVdFバインダーを除去し、混合活物質のみを得た。
比表面積の測定は、BET1点法にて行い、混合活物質重量で割った数値を求めた。
また、S含有量についてはICP測定によって算出した。活物質50mgを35%塩酸水溶液10mlに溶解させ、測定用のサンプルとした。また、別途標準溶液を用いて検量線を作成しておき、それと比較して含有量を求めた。
【0119】
<プレス加工性試験>
上記方法にて解体して得られた正極板をDMCで洗浄後、十分乾燥したのちに20kNの平板プレス(理研製油圧ポンプ TYPE P−1B、プレス台CDM−20M)を行い、Al集電体からの合剤剥離をチェックした。その結果、集電体からの剥離は認められなかった。
【0120】
実施形態1〜10及び比較例1〜19に係る活物質について、混合活物質比表面積の測定結果、S含有量の分析結果、初期効率、電池容量、サイクルエネルギー密度維持率について、上記の活物質をそれぞれ用いたリチウム二次電池の試験結果を表1‐2に示す。
【0121】
【表1】
【0122】
【表2】
【0123】
表1‐2より、リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物と酸処理(硫酸で処理)したLiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物とを混合して、比表面積を4.4m/g以下、且つS含有量を0.2〜1.2質量%とした実施形態1〜10の混合活物質は、初期効率が高く、電池容量が大きく、サイクルエネルギー密度維持率が高いことがわかる。
これに対して、比較例1〜10のように、混合活物質の比表面積が4.4m/gを超える場合、及び/又は、S含有量が1.2質量%を超える(LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物の酸処理の程度が高い)場合、サイクルエネルギー密度維持率が低くなり、比較例11のように、LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物を酸処理しない(S含有量が0である)場合、初期効率が低く、電池容量が小さくなり、比較例12、13及び15のように、酸処理したリチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物を用いた(比表面積が4.4m/gを超える)場合、サイクルエネルギー密度維持率が低くなり、比較例14のように、LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物を含有しない(S含有量が0である)場合、初期効率が低く、電池容量が小さくなり、比較例16のように、LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物を塩酸で処理した(S含有量が0である)場合、電池容量が小さく、サイクルエネルギー密度維持率が低くなり、比較例17のように、LiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物を硝酸で処理した(S含有量が0である)場合、サイクルエネルギー密度維持率が低くなり、比較例18のように、酸処理していないLiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物を用い、リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物を含有しない(S含有量が0である)場合、初期効率が低く、電池容量が小さくなり、比較例19のように、酸処理したLiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物を用い、比表面積を4.4m/g以下、且つS含有量を0.2〜1.2質量%としても、リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物を含有しない場合、電池容量が小さくなる。
【0124】
以上のとおり、本実施形態においては、リチウム過剰型リチウム遷移金属複合酸化物とLiMeO型リチウム遷移金属複合酸化物とを混合して、比表面積が4.4m/g以下であり、且つS含有量が0.2〜1.2質量%であるリチウム二次電池用正極活物質とすることにより、電池容量とサイクル特性が両立して向上するという効果を奏するものである。
【産業上の利用可能性】
【0125】
比表面積の増加を抑制しつつ、電池容量とサイクル特性を両立して向上させた本実施形態の正極活物質を用いたリチウム二次電池は、特にハイブリッド自動車用、電気自動車用のリチウム二次電池として有用である。
【符号の説明】
【0126】
100 リチウム二次電池
101 組電池
102 電池パック
図1