(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6274658
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】ダイナミックヘッドホン
(51)【国際特許分類】
H04R 1/10 20060101AFI20180129BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
H04R1/10 101B
H04R3/00 101
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-54330(P2014-54330)
(22)【出願日】2014年3月18日
(65)【公開番号】特開2015-177485(P2015-177485A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2016年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】
北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−178006(JP,A)
【文献】
特開2011−147010(JP,A)
【文献】
実開平05−053394(JP,U)
【文献】
特開2011−155331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイスコイルが取り付けられた振動板と、前記ボイスコイルに対する磁気ギャップを形成する磁気回路部とが設けられたヘッドホンユニットを有し、前記ヘッドホンユニットにおいて前記ボイスコイルが前記磁気ギャップ内で振動可能に設けられたダイナミックヘッドホンであって、
前記ボイスコイルの両端側に電気的に接続され、オン動作により該ボイスコイルを短絡させる短絡スイッチと、前記短絡スイッチのオンオフ動作を切り換えるスイッチ切換手段とを備え、
前記スイッチ切換手段は、前記短絡スイッチのオンオフ動作を聴者の装脱着に連動して切り換え、聴者の装着により前記短絡スイッチがオフとなり、取り外しにより前記短絡スイッチがオンとなることを特徴とするダイナミックヘッドホン。
【請求項2】
前記スイッチ切換手段は、
前記ヘッドホンユニットを支持する環状のバッフル板と、前記バッフル板上に設けられ、装着の際に聴者の耳部に宛がわれるイヤーパッドと、前記イヤーパッドに一端部が固定され、該イヤーパッドの圧縮復元に連動して前記バッフル板に対して他端部が一方向に進退するスイッチ押圧部材とを有し、
前記短絡スイッチは前記バッフル板に設けられ、
前記イヤーパッドが圧縮されることにより前記スイッチ押圧部材の他端部が前記バッフル板から離間して前記短絡スイッチをオフとし、
前記イヤーパッドが圧縮された状態から復元することにより前記スイッチ押圧部材の他端部が前記バッフル板に近接して前記短絡スイッチを押圧しオンとすることを特徴とする請求項1に記載されたダイナミックヘッドホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイスコイルの振動によって振動板が駆動されるダイナミックヘッドホンに関し、特に、過度の振幅によるボイスコイルの飛び出しや振動板の破損を防止することのできるダイナミックヘッドホンに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1、2にも開示されるように、ダイナミックヘッドホンの基本構造は、
図3のように構成される。
図示するようにダイナミックヘッドホンは、ヘッドホンユニット200を備える。ヘッドホンユニット200は、電気音響変換器であり、振動板10、磁気回路部20、及びユニットフレーム30から構成される。
振動板10は、センタードーム11とサブドーム12とを備える。サブドーム12は、弾性支持部であり、センタードーム11の周りに一体的に連設される。センタードーム11とサブドーム12との境界部分の裏面には、ボイスコイル13が取り付けられている。尚、この振動板10を保護するため、振動板10の前方に網状のプロテクタ40が設けられている。
【0003】
磁気回路部20は、永久磁石21と、ヨーク22とを備える。永久磁石21は円盤状に形成されている。ヨーク22はカップ状に形成されている。永久磁石21は厚さ方向に着磁され、ヨーク22内に配置される。永久磁石21上にはポールピース23が設けられる。ポールピース23とヨーク22との間に磁気ギャップGが形成される。
【0004】
ユニットフレーム30は円盤状に形成されている。ユニットフレーム30の中央部分は、磁気回路部20を支持する。振動板10においては、ボイスコイル13が磁気ギャップG内で前後に振動し得るように、サブドーム12の周縁がユニットフレーム30に対して気密的に支持される。
ユニットフレーム30の周囲には円環状のバッフル板35が設けられる。バッフル板35の後面側(反振動板側)には、ヘッドホンハウジング41が取り付け可能となっている。また、バッフル板35の前面側(振動板側)の周囲には、イヤーパッド42が取り付けられている。
【0005】
また、ヘッドホンハウジング41により、ユニットフレーム30の背面側に第1後部空気室A1が形成される。第1後部空気室A1は、所定容積を有する。また、サブドーム12の周縁がユニットフレーム30に対して気密的に支持される。そのため、振動板10とユニットフレーム30との間にも第2後部空気室A2が形成される。
また、ユニットフレーム30には、複数の開口部31が穿設される。その各開口部31には、音響抵抗材32が設けられている。第1後部空気室A1と第2後部空気室A2は、複数の開口部31を介して、互いに連通する。
この構成において、図示しない音声再生機器からボイスコイル13に音声信号を電流として通電することにより、振動板10が振動する。そして、ヘッドホンユニット20がスピーカとして動作し、音声がヘッドホンユニット20から放音される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−178006号公報
【特許文献2】特開2011−155331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、振動版10においては、その振動により磁気回路部20に当接したり、磁気キャップGから飛び出さないように設計する必要がある。そのため、サブドーム12の弾性等を考慮してヘッドホンの設計がされる。
しかしながら、ヘッドホン非装着時における落下等の強い衝撃により、振動板10には過大な振幅が発生することがある。そのように振動板10に大きな振幅が生じた場合、
図4(a)に示す状態から、
図4(b)に示すように振動板10が前方に大きく移動する。その結果、ボイスコイル13が磁気ギャップGから飛び出し、ボイスコイル13がそのまま元に戻らない不具合が生じることがあった。
また、磁気ギャップGからのボイスコイル13の飛び出しを防止するため、
図5(a)に示すようにプロテクタ40を後方に移動することも提案されている。しかし、プロテクタ40と振動板10との距離を短くすると、振動板10に大きな振幅が生じた場合に、
図5(b)に示すように振動板10がプロテクタ40の裏面に強く衝突する。その結果、この衝突によって、振動板が変形、または破損するという課題があった。
【0008】
本発明は、前記した点に着目してなされたものであり、ボイスコイルの振動によって振動板が駆動されるダイナミックヘッドホンにおいて、非装着時に落下等により強い衝撃等を受けても振動板に過度の振幅を生じさせず、不具合発生や破損を防止することのできるダイナミックヘッドホンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するために、本発明に係るダイナミックヘッドホンは、 ボイスコイルが取り付けられた振動板と、前記ボイスコイルに対する磁気ギャップを形成する磁気回路部とが設けられたヘッドホンユニットを有し、前記ヘッドホンユニットにおいて前記ボイスコイルが前記磁気ギャップ内で振動可能に設けられたダイナミックヘッドホンであって、前記ボイスコイルの両端側に電気的に接続され、オン動作により該ボイスコイルを短絡させる短絡スイッチと、前記短絡スイッチのオンオフ動作を切り換えるスイッチ切換手段とを備え
、
前記スイッチ切換手段は、前記短絡スイッチのオンオフ動作を聴者の装脱着に連動して切り換え、聴者の装着により前記短絡スイッチがオフとなり、取り外しにより前記短絡スイッチがオンとなることに特徴を有する。
また、前記スイッチ切換手段は、前記ヘッドホンユニットを支持する環状のバッフル板と、前記バッフル板上に設けられ、装着の際に聴者の耳部に宛がわれるイヤーパッドと、前記イヤーパッドに一端部が固定され、該イヤーパッドの圧縮復元に連動して前記バッフル板に対して他端部が一方向に進退するスイッチ押圧部材とを有し、前記短絡スイッチは前記バッフル板に設けられ、前記イヤーパッドが圧縮されることにより前記スイッチ押圧部材の他端部が前記バッフル板から離間して前記短絡スイッチをオフとし、前記イヤーパッドが圧縮された状態から復元することにより前記スイッチ押圧部材の他端部が前記バッフル板に近接して前記短絡スイッチを押圧しオンとすることが望ましい。
【0010】
このように構成されたダイナミックヘッドホンによれば、非装着時にはボイスコイルが短絡して磁気ギャップG内に収められる。そのため、ボイスコイルが短絡して閉回路を形成することで、磁気ギャップ内の磁界中においてボイスコイルの振動を妨げるように制動力が働く。これにより振動板の振動が抑制された状態となり、ヘッドホンが強い衝撃等を受けても、振動板に過度の振幅を生じさせない。したがって、ボイスコイルが磁気ギャップから飛び出すなどの不具合の発生や振動板の破損等を防止することができる。
さらに、前記短絡スイッチのオンオフ動作を聴者の装脱着に連動して切り換える前記スイッチ切換手段を備えたダイナミックヘッドホンによれば、聴者が装着すると、イヤーパッドが圧縮されて短絡スイッチがオフ動作をする。そのため、ダイナミックヘッドホンは、通常の動作としてボイスコイルの振動により振動板が駆動し、音声を出力可能な状態となる。
一方、ダイナミックヘッドホンを聴者が取り外すと、イヤーパッドは圧縮状態から復元し、押圧部材の他端部が短絡スイッチに近接して押圧する。その結果、前記短絡スイッチをオン状態とする。
これにより、ボイスコイルが短絡するため、振動板の振動が抑制された状態となる。
このように簡便な構造により、故障に強いヘッドホンを得ることができるため、軍用、高所作業用など、衝撃を受けやすい状況下においても、壊れずに確実な音声通信を提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
ボイスコイルの振動によって振動板が駆動されるダイナミックヘッドホンにおいて、非装着時に落下等により強い衝撃等を受けても振動板に過度の振幅を生じさせず、不具合発生や破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(a)、(b)は、本発明に係るダイナミックヘッドホンの断面図である。
【
図2】
図2(a)、(b)は、
図1のダイナミックヘッドホンの機械的構成を示す回路図である。
【
図3】
図3は、従来のダイナミックヘッドホンの断面図である。
【
図4】
図4(a)、(b)は、従来のダイナミックヘッドホンの不具合を説明するための断面図である。
【
図5】
図5(a)、(b)は、従来のダイナミックヘッドホンの他の不具合を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1(a)、(b)は、本発明に係るダイナミックヘッドホンの断面図である。尚、本発明は、ボイスコイルの振動により振動板を駆動させるダイナミックヘッドホンに適用することができる。また、ヘッドホンユニットに係る部分は、
図3に示した構成と同様の構成を用いることができる。そのため、
図1(a)、(b)においては、
図3の構成と共通にできる部材は同じ符号で示し、その詳細な説明は省略する。
また、
図1(a)、(b)において、
図3に示したヘッドホンハウジング41は図示を省略しているが、実際には同様に設けられるものとする。
【0014】
図1(a)、(b)に示すように、ダイナミックヘッドホン1は、電気音響変換器としてのヘッドホンユニット200を備える。ヘッドホンユニット200は、
図3に示した構成と略同様に、振動板10、磁気回路部20、及びユニットフレーム30を含む。ヘッドホンユニット200は、図示しない音声再生機器からボイスコイル13に音声信号を電流として通電される。そして、ヘッドホンユニット200の振動板10が振動してスピーカとして動作する。その結果、ヘッドホンユニット200は、音声を放音する。
【0015】
ダイナミックヘッドホン1は、環状のバッフル板を有する。このバッフル材は、ヘッドホンユニット200を支持する。前記バッフル板の一方の面側に、イヤーパッド42が設けられている。イヤーパッド42は、ヘッドホン装着の際に聴者の耳部に宛がわれる部分である。また、バッフル板35には貫通孔35aが形成される。この貫通孔35aには、棒状の押圧部材2(スイッチ押圧部材)が挿通されている。押圧部材2の両端はそれぞれフランジ部2a、2bが形成される。一方のフランジ部2bが足となって、イヤーパッド42の表皮42a裏側に固定されている。
尚、イヤーパッド42において、表皮42aの内側には、スポンジ素材の詰め部材42bが設けられている。しかし、詰め物部材42bによって押圧部材2は保持されない。そのため、
図1(b)に示すようにイヤーパッド42が圧縮されると、他方のフランジ部2a側が、バッフル板35に対して後方に突出するようになっている。即ち、フランジ部2aは、イヤーパッド42の圧縮復元動作に連動して、バッフル板35に対して一方向に進退するように構成されている。
【0016】
また、図示するように、バッフル板35には、ピン状の短絡スイッチ3が設けられる。押圧部材2のフランジ部2aが進退動作により短絡スイッチ3に当接し、押圧可能となっている。
具体的には
図1(a)のように、短絡スイッチ3は、イヤーパッド42が圧縮されていないと、押圧部材2のフランジ部2aによって押された状態となる。また、
図1(b)に示すように、イヤーパッド42が圧縮されると、押圧部材2のフランジ部2aから離間し、押されていない状態となる。
尚、この実施の形態においては、前記バッフル板35とイヤーパッド42と押圧部材2とにより、スイッチ切換手段が構成される。
【0017】
図2(a)、(b)に模式的な回路図を示す。短絡スイッチ3は、ボイスコイル13の両端側を電気的に接続する。
図1(a)のように、短絡スイッチ3が押されると、
図2(a)に示すようにボイスコイル13が短絡状態となる(オン動作)ようになっている。
一方、
図1(b)のように短絡スイッチ3が押されないと、
図2(b)に示すようにボイスコイル13が通常動作(オフ動作)するようになっている。
【0018】
このように構成されたダイナミックヘッドホン1によれば、聴者が装着すると、
図1(b)のようにイヤーパッド42が圧縮されて短絡スイッチ3がオフ動作をする。その結果、通常の動作としてボイスコイル13が駆動可能な状態になる。ボイスコイル13の駆動により、振動板10が振動する。そして、ヘッドホンユニット200は、音声を出力できる状態となる。
一方、ダイナミックヘッドホン1を聴者が取り外すと、
図1(a)のようにイヤーパッド42は圧縮状態から復元する。そして、押圧部材2のフランジ部2aが短絡スイッチ3に近接して押圧する。その結果、短絡スイッチ3がオン状態になる。
これにより、ボイスコイル13が短絡して閉回路が形成される。閉回路が形成されると、磁界中においてボイスコイル13の振動を妨げるように制動力が働く。これにより振動板10の振動が抑制された状態となる。そのため、ヘッドホンが強い衝撃等を受けても、ボイスコイル13が磁気ギャップGから飛び出すなどの不具合や振動板10の破損等を防止することができる。
したがって、故障に強いヘッドホンをこのように簡便な構造により、実現することができる。そのため、軍用、高所作業用など、衝撃を受けやすい状況下においても、壊れずに確実な音声通信を提供することができる。
【0019】
尚、前記実施の形態においては、短絡スイッチ3をバッフル板35の後面側に設け、ヘッドホンを取り外しに応じて短絡スイッチ3をオン動作させる構成とした。しかし、本発明に係るダイナミックヘッドホンにあっては、その構成に限定されるものではない。
例えば、短絡スイッチ3をバッフル板35の前面側に設ける。そして、ヘッドホンを取り外した際に、イヤーパッド42の復元に対応して短絡スイッチ3を手前に引く構成にしてもよい。この構成にによっても、短絡スイッチ3をオン動作させることができる。また、短絡スイッチ3をダイナミックヘッドホンの筐体(不図示)に別途設けてもよい。
【符号の説明】
【0020】
1 ダイナミックヘッドホン
2 押圧部材
2a フランジ部
3 押しピンスイッチ
10 振動板
13 ボイスコイル
20 磁気回路部
42 イヤーパッド
200 ヘッドホンユニット
22 後部音響端子
G 磁気ギャップ