【実施例1】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
<上部衝突防止装置の構成>
図1は本発明の上部衝突防止装置を備えた高所作業車を示す正面図である。
図2は高所作業車の操作装置を示す平面図である。
図3は高所作業車の操作装置とフットスイッチを示す側面図である。
実施例1の高所作業車用上部衝突防止装置は、昇降装置1により昇降自在になるバスケット2を備えた高所作業車3において、このバスケット2がその上方の天井、橋梁、高速道路の下部等の上部障害物UOへ衝突することを防止する装置である。
【0023】
この上部衝突防止装置は、バスケット2と上部障害物UOの距離を検出する近接センサ4と、この近接センサ4により検出されたバスケット2と上部障害物UOとの間の距離が所定値よりも接近しているときに、種々制御するコントローラ5と、このコントローラ5からの信号により、バスケット2が上部障害物UOに接近していることを作業者に報知する報知手段6とを備えた装置である。コントローラ5からの信号により、操作装置7における緊急停止スイッチ8を作動させる。
なお、図示していないが、電源は車載したバッテリ又はシガレットライター等を利用するようになっている。
【0024】
<高所作業車の構成>
高所作業車3は、
図1に示すように、走行自在な車体10と、この車体10上に配設された昇降装置1と、この昇降装置1の上端部に水平に支持された作業床11と、作業者が乗るバスケット2とから構成されている作業車である。車体10横にアウトリガー12が設けられている。このアウトリガー12を張り出して接地させることで車体10を安定させるようになっている。更に、
図2に示すような、車体10の移動と昇降装置1の昇降を作動制御する操作装置7を備えている。
【0025】
図1に示す高所作業車3は、シザース型の昇降装置1を備えた作業車である。シザース型の昇降装置1は、互いに平行に配置された一対のシザースリンクが一体となって上下方向に伸縮作動する装置である。このシザースリンクの伸縮作動は、油圧によって伸縮作動を行う伸縮シリンダによってなされる。このため、作業者は、作業に用いる工具、設備等と共に作業床11上のバスケット2に搭乗する。バスケット2内に設けられた操作装置7の操作を行う。車体10の走行制御や昇降装置1の昇降制御を行い、任意の高所に移動して高所作業を行うことができる。
【0026】
なお、本発明の上部衝突防止装置が装備される高所作業車3は、図示例のシザース型昇降装置1を備えた垂直昇降式高所作業車3に限定されない。クレーンのようなブームを備えたブーム式昇降装置を備えた高所作業車にも装備することができる。昇降装置が備えられた高所作業車であれば、本発明の上部衝突防止装置を装備することができる。
【0027】
バスケット2は、車体10の前後方向に伸びる略長方形に形成されており、4面に作業者の腰より高く立ち上げた囲い部材から成る。この囲い部材の上端縁が手すりとなり、この平面視で長方形状の対角に配置されるように近接センサ4を2か所に取り付ける。近接センサ4はその検知方向は上方に向けて取り付ける。なお、図示例では、2個の近接センサ4を取り付けた状態を示しているが、この2個に限定されず、1個又は3個、4個等と取り付けられる。
【0028】
<操作装置の構成>
このような構成の高所作業車3は、
図2に示すような操作装置7により操作する。操作装置7の電源スイッチ13を投入すると、高所作業車3を操作することができる。操作装置7の左側の「前と後」のレバー14は車体10を移動させる操作レバーである。この右側の「上と下」のスイッチ15は昇降装置1の昇降制御を行うスイッチである。その右側の「高速と低速」のスイッチ16は昇降装置1の昇降速度を制御するスイッチである。「ホーン」は注意音を発生させるボタン17である。「ストップ」は昇降装置1の昇降動作を停止させる緊急停止スイッチ8である。なお、この操作装置7は一例であって、この構成に限定されない。
【0029】
<連動フットスイッチの構成>
操作装置7には
図3に示すように、連動フットスイッチ9を備えている。この連動フットスイッチ9は単なる足踏みスイッチではない。操作装置7を操作する際に、この連動フットスイッチ9を踏み込みながら操作すると昇降装置1等の各機能が連動して動作し、足を外すと各動作が停止する構成の連動スイッチである。作業者はバスケット2内において手と足の両方を使用しなければ、昇降装置1等を動作できないようにして、作業者による操作装置7の誤操作を防止するようになっている。
【0030】
<近接センサの構成>
上部衝突防止装置の近接センサ4としては、超音波を利用した検知器がある。この超音波センサは、送波器により超音波を対象物となる上部障害物UOに向け発信し、その反射波を受波器で受信することにより、超音波の発信から受信までに要した時間と音速との関係を演算することで、近接センサ4が取り付けられたバスケット2の上縁位置から対象物の上部障害物UOまでの距離を検出する。この近接センサ4は、既存のバスケット2の手すりに簡単に取り付けられるようにクリップ等を備えている。高所作業が終了したら容易に取り外すことができる。なお、近接センサ4を常時取り付けておくときは、ねじ止め、ボルト止めすることも可能である。
【0031】
図4は近接センサの検知領域を示す説明図である。
近接センサ4は、数段階に分けて対象物となる上部障害物UOの存在を検知する。図示例で近接センサ4の測定範囲を3段階に分けた状態を示す。バスケット2を昇降装置1で上昇させていき、上部障害物UOの下方2m近くまで上昇したときに、1回目の検知をし、そのことを報知する。次に、上部障害物UOの下方1.5m近くまで上昇したときに、2回目の検知をし、そのことを報知する。更に、危険領域である対象物の下方1m近くまで上昇したときに、3回目の検知をし、そのことを報知する。このように3段階の近接を検知して作業者に注意を喚起するようになっている。なお、この3段階は、一例であって2段階又は4段階と分けて報知することができる。なお、1回のみの検知と報知では作業者があわてたときに適切な処置がとれないことがあるので複数回のほうが好ましい。また、2m、1.5mと1mの組み合わせも一例であって、この数値に限定されない。
【0032】
近接センサ4の検知領域(距離)は、全部同じ距離に設定する必要はない。例えば、近接センサ4が検知した位置と、バスケット2内で作業者が操作装置7で昇降操作している位置と上部障害物UOとの距離が相違する場合がある。上部障害物UOの天井、橋梁の下面は平坦な形状のものばかりではなく、凹凸を有することが多いからである。そこで、作業者に近い場所に取り付ける近接センサ4の検知距離は、別の位置に取り付ける近接センサ4より長く設定する。昇降装置1の上昇中に所定の設定距離まで接近したことを最初に報知でき、作業者の位置をより安全に守ることができるからである。
【0033】
<コントローラの構成>
図5は上部衝突防止装置のコントローラを示すブロック図である。
上部衝突防止装置のコントローラ5の入力側には、図示するように、検知距離設定入力部18、増幅処理部19(AMP)及び制御信号入力部20が接続されている。増幅処理部19(AMP)は近接センサ4の検知信号を増幅処理する。検知距離設定入力部18は近接センサ4の上部障害物UOと近接距離を設定する。例えば
図4に示したように、上部障害物UOの下方2m、1.5m又は1mまでの検知距離を設定する。
【0034】
コントローラ5の出力側には、警報出力部21、表示処理部22および動作停止信号出力部23が接続されている。警報出力部21に報知手段6の回転灯24とブザー25が接続されている。回転灯24とブザー25は、バスケット2に搭乗している作業者に対して光とアラーム音を鳴らすことで警告を報知するものである。表示処理部22にはLED等が接続されている。現在の動作状態を知らせるものである。動作停止信号出力部23は操作装置7における緊急停止スイッチ8を作動させ、昇降装置1の上昇動作を緊急停止させる。信号処理部26が、入力側の検知距離設定入力部18、制御信号入力部20及び近接センサ4の検知信号を増幅処理する増幅処理部19(AMP)を処理して、これらの出力側の各動作を行わせる。
【0035】
コントローラ5には、上述した操作装置7の連動フットスイッチ9の信号を取り込むことができる。この信号をトリガーとし、近接センサ4の動作を開始する。また、連動フットスイッチ9がオフとなった場合は近接センサ4の動作が終了する。このように動作させることで高所作業車3が昇降装置1の昇降動作又は車体10の前進後進などの動作させない時間は、即ち作業者が上部障害物UOとバスケット2の間に挟まれ、接触するなどの危険が少ない場合は、コントローラ5は近接センサ4更に報知手段6(回転灯24とブザー25)の動作を停止して、バッテリの動作時間を延ばすことができ、省エネルギーになる。
【0036】
図6は操作装置とコントローラとセイフティ・リレーユニットとを示すブロック図である。
操作装置7の緊急停止スイッチ8にはセイフティ・リレーユニット27が組み込まれている。セイフティ・リレーユニット27は、安全を確認できた場合だけ機械を運転制御する回路である。例えば緊急停止スイッチ8はNC(ノーマル・クローズ)接点を使い、通常は閉じて(オン状態)安全状態を意味する信号(安全信号)を出力する。一方、何らかの異常が起きて緊急停止スイッチ8が押されると、接点が開いて(オフ状態)安全信号を出力しなくなる。また、接点が溶着する場合もあり、制御信号は、NO(ノーマル・オープン)の場合でもよい。
【0037】
この緊急停止スイッチ8からの安全信号(入力信号)を受けるセイフティ・リレーユニット27では、緊急停止スイッチ8からの入力信号が入力され、更に操作装置7の上昇スイッチ15が押された場合に、昇降装置1の駆動モータ28の運転を許可する信号をコンタクタに出力する。コンタクタの接点が閉じて(オン状態)、電源から電力が供給され、昇降装置1の駆動モータ28が運転を始め、バスケット2を上昇させる。
【0038】
作業者によって緊急停止スイッチ8が昇降装置1の駆動モータ28の運転中に押されると、安全信号がセイフティ・リレーユニット27に入力されなくなり、セイフティ・リレーユニット27はコンタクタへの信号(駆動モータ28の運転を許可する信号)の出力を停止する。これを受けて、コンタクタのNC接点も開き(オフ状態)、駆動モータ28を停止させ、バスケット2の上昇を停止させる。
【0039】
一方、近接センサ4が、バスケット2が上部障害物UOの危険領域まで近接したことを検出すると、コントローラ5の動作停止信号出力部23から緊急停止信号が発信され、この緊急停止信号がセイフティ・リレーユニット27に入力されなくなり、セイフティ・リレーユニット27はコンタクタへの信号の出力を停止する。これを受けて、コンタクタのNC接点も開き(オフ状態)、昇降装置1の駆動モータ28を停止させ、バスケット2の上昇を停止させることができる。
【0040】
<検知距離と報知音との関係>
図7は近接センサの検知距離と報知手段のブザーの報知音との組み合わせを示す表であり、(a)は設定最大検知距離2mの場合、(b)は設定最大検知距離1.5mの場合、(c)は設定最大検知距離1mの場合である。
近接センサ4の検知距離を最大検知距離2mに設定した場合は、近接センサ4が上部障害物UOに2m〜0.8mの範囲において検知したときは、報知手段6のブザーは電子音を長い間隔の断続で鳴動させる。
次に、0.8m〜0.6mの範囲において検知したときは、報知手段6のブザーは電子音を短い間隔の断続での鳴動に変える。上部障害物UOにより接近してきたことを作業者に知らせるためである。
更に、0.6m〜0.1mの範囲において検知したときは、報知手段6のブザー音は連続鳴動に変える。直ぐに、昇降装置1を停止させる緊急停止スイッチ8を作動させることを知らせるためである。更に、コントローラ5から緊急停止信号が発信して昇降装置1の駆動モータ28を停止させ、バスケット2の上昇を停止させる。
【0041】
同様に、
図7(b)に示すように最大検知距離1.5mに設定、
図7(c)に示すように最大検知距離1mに設定したときも、報知手段6のブザー音は、「長い間隔の断続鳴動」、「短い間隔の断続鳴動」、「連続鳴動」と切り替え緊急性を作業者に知らせる。
なお、この最大検知距離の設定値とブザー音はそれぞれ一例であって、この数値とブザー音の種類に限定されないことは勿論である。
【0042】
<近接センサ用上下動器具の構成>
図8は近接センサの位置を可変させる上下動器具を示す正面図である。
図9は上下動器具を備えた高所作業車を示す正面図である。
近接センサ4は、上下動器具29と共にバスケット2に取り付けることができる。この上下動器具29はカメラの三脚におけるエレベータ機構に類する構造のものである。ハンドルを回転させ、ギヤ駆動により棒状部材の上部に取り付けられた近接センサ4を上方へ移動させる器具である。これは近接センサ4が検知した位置と、バスケット2内で作業者が操作装置7で昇降操作している位置と上部障害物UOとの距離が相違する場合に使用する。上部障害物UOの天井、橋梁の下面は平坦な形状のものばかりではなく、凹凸を有することが多いからである。
【0043】
この上下動器具29を用いることで、複数の近接センサ4がそれぞれ異なる検知距離を設定することができる。例えば、作業者がいる操作装置7側に取り付けた近接センサ4の検知距離は、その反対側に取り付けた近接センサ4の検知距離より長く設定し、昇降装置1の上昇中に所定の設定距離まで接近したことを最初に報知できるので、作業者をより安全に守ることができる。
なお、図示例の上下動器具29は一例であって、このような構成に限定されない。例えば、バスケット2に取り付けられる棒状部材に長手方向に所定の間隔で穴を開け、これに近接センサ4をクリップ等を着脱自在に取り付ける構成のもでもよい。
【0044】
<緊急停止操作具の構成>
図10は緊急停止操作具の動作状態を示し、(a)は動作前の状態、(b)は指で停止している状態、(c)は自動停止している状態である。
操作装置7における緊急停止スイッチ8を作動させるために、上述したセイフティ・リレーユニット27ではなく、この緊急停止スイッチ8を直接押圧することも可能である。緊急停止操作具30は、より汎用性が高めるために、操作装置7の操作盤に着脱自在に取り付けて使用するようになっている。緊急停止操作具30は、コントローラ5からの信号により、操作装置7における緊急停止スイッチ8を作動させることができる。
【0045】
この緊急停止操作具30は、操作装置7における緊急停止スイッチ8に隣接して摘脱自在に取り付けられる吸着部31を具備した緊急停止操作本体32と、この緊急停止操作本体32に、緊急停止スイッチ8の押圧方向と同方向へは可動するが、その反対方向へは可動しないように取り付けられた舌片部33と、この舌片部33を、緊急停止スイッチ8を押圧する押圧機構34を備えたものである。吸着部31は例えばマグネットで操作装置7の盤面に着脱自在になる。なお、操作装置7の盤面に吸着できない素材のときは、吸盤等にすることも可能である。吸着部31は、その他の盤面に着脱自在になるものであれば、マグネット、吸盤に限定されない。
【0046】
舌片部33の一部は緊急停止スイッチ8とほぼ同大同形状になり、一部は棒状連結部材35から成る。この棒状連結部材35は途中がヒンジ36で連結されている。このヒンジ36により、緊急停止スイッチ8の押圧方向と同方向へは可動するが、その反対方向へは可動しないように取り付けられている。この棒状連結部材35の他端は、押圧機構34により可動するようになっている。この押圧機構34は内部にソレノイド37が取り付けられ、励磁したときに棒状連結部材35の他端を吸引するようになっている。これにより緊急停止操作具30は、コントローラ5からの信号により、押圧機構34が動作して舌片部33で緊急停止スイッチ8を自動で押圧することができる。コントローラ5からの信号により緊急停止信号が発せられたときは、押圧機構34により舌片部33が緊急停止スイッチ8を自動で押すようになっている。
【0047】
押圧機構34の棒状連結部材35は、通常はコイルばね38等で、操作装置7の盤面から離れる方向(上方)に付勢されている。これで緊急停止スイッチ8が誤作動しないようになっている。
舌片部33は棒状連結部材35が、緊急停止スイッチ8の押圧方向と同方向へは可動するので緊急停止スイッチ8を手動で押すときは、この舌片部33の上から該緊急停止スイッチ8を押すことができる。
【0048】
なお、本発明は、コンパクトな装置を既存の高所作業車3に後から取り付けることで、上昇中のバスケット2から上部障害物UOを検知したときに、その報知と共にバスケット2の上昇動作を自動停止させることができれば、上述した発明の実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。