特許第6274668号(P6274668)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6274668
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】アジュバント及びそれを含むワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/39 20060101AFI20180129BHJP
   A61K 31/688 20060101ALI20180129BHJP
   A61K 31/683 20060101ALI20180129BHJP
   A61K 39/02 20060101ALI20180129BHJP
   A61K 39/12 20060101ALI20180129BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20180129BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20180129BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   A61K39/39ZNA
   A61K31/688
   A61K31/683
   A61K39/02
   A61K39/12
   A61K39/00 K
   A61K39/00 H
   A61P37/04
   A61P43/00 121
【請求項の数】5
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2014-543277(P2014-543277)
(86)(22)【出願日】2013年10月21日
(86)【国際出願番号】JP2013078435
(87)【国際公開番号】WO2014065229
(87)【国際公開日】20140501
【審査請求日】2016年5月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-232990(P2012-232990)
(32)【優先日】2012年10月22日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-156352(P2013-156352)
(32)【優先日】2013年7月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】審良 静男
(72)【発明者】
【氏名】河合 太郎
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 拓実
【審査官】 石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−537271(JP,A)
【文献】 Biochimica et Biophysica Acta,1999年,Vol.1440,No.2-3,pp.275-288
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00−39/44
A61K 31/683
A61K 31/688
A61P 37/04
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(2)にて示される化合物
【化1】
を含むアジュバント
【請求項2】
請求項1に記載のアジュバント及び抗原を含むワクチン。
【請求項3】
抗原が、細菌、ウイルス、真菌、寄生性原虫、寄生性蠕虫、がん細胞、がん細胞特異的タンパク質、がん細胞融解物、プリオン、核酸、レニン、アンジオテンシン、及びアンジオテンシン受容体からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項に記載のワクチン。
【請求項4】
以下の工程1及び工程2を含むアジュバント候補物質をスクリーニングする方法;
(1)細胞内成分とIRF3(Interferon regulatory factor 3)とを接触させる工程1、及び
(2)該IRF3をリン酸化させる該細胞内成分を選択する工程2。
【請求項5】
以下の工程1’及び工程2’を含むアジュバント候補物質をスクリーニングする方法;
(I)細胞内成分とIRF3(Interferon regulatory factor 3)とTBK1(TANK binding kinase 1)とを接触させる工程1’、及び
(II)該TBK1と結合し、且つ該IRF3をリン酸化させる該細胞内成分を選択する工程2’。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アジュバント、及びそれを含むワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
免疫賦活化とは、樹状細胞を刺激して活性化させることであり、これによって生体内で、抗体の産生(液性免疫)、T細胞による免疫機能が増強することを意味し、このような機能を発揮させる成分はアジュバント又は免疫賦活化剤、免疫増強剤等と称されている。なお、本明細書では、上記機能を有する成分を「アジュバント」と総称し、その機能を「アジュバンド能」と称する。具体的なアジュバントとしては、例えばリン酸カルシウム、リン酸アルミニウム、酸化アルミニウム等といった沈降性アジュバント;パラフィンオイル、加熱した結核菌の死菌、及び界面活性剤を含むフロイント完全アジュバント;完全フロイントアジュバントから結核菌の死菌を除いたフロイント不完全アジュバント等が挙げられる。
【0003】
従来から、このようなアジュバントとして有用な各種成分が開発されており、中でもワクチンとして抗原と共に用いることのできるアジュバントの精力的な研究が進んでいる。
【0004】
例えば、抗ウイルス自然免疫応答に関連するRIG―I様受容体に対する顕著な数のリガンドが発見されているが、欧州及び米国の医薬品許可機構はこれらのリガンドを、新規のアジュバントとして非臨床毒性研究で評価することを推奨している。また、このようなリガンドの一部は臨床試験に供されている。
【0005】
また、RIG−Iと同様に自然免疫応答に関連するTOLL様受容体のアゴニストとして働くCpG−DNA、ポリI:C、フラジェリン等が、アジュバントとしての機能を有することも知られている(非特許文献1)。
【0006】
現在、具体的に臨床にて使用されるワクチンに含まれているアジュバントとしては、非特許文献2及び非特許文献3に示すワクチンに含まれるアルミニウム塩、ノバルティスファーマ社から販売されているインフルエンザ用ワクチンであるCelura(登録商標)に含まれているMF59(スクワレンを含むオイルインウオーター型アジュバント)等が挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本臨牀 69巻9号(2011)1541−1546
【非特許文献2】沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン 医薬品インタビューフォーム、武田薬品工業株式会社、2009年8月(改定第8版)
【非特許文献3】ビームゲン(登録商標) 医薬品インタビューフォーム、アステラス製薬株式会社、2012年4月(改定第15版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の通り、市販されているワクチンには、アジュバントとしてアルミニウム塩を含まれているが、これは炎症を引き起こし易い事から、人体に悪影響を及ぼすことが懸念されている。殊に、非特許文献1及び2にも記載されているように、アルミニウム塩がアジュバントとして含まれているワクチンは、重大な副作用としてアナフィラキシーショック様症状、多発性硬化症、急性散在性脳延髄炎、ギランバレー症候群等を引き起こす危険性がある。これらは、アルミニウム塩が、病原体の中和反応に働くIgGではなく、IgEを産生してしまうことに起因すると考えられる。
【0009】
また、アルミニウム塩の使用は、透析療法を受けている患者に対しては禁忌であり、これを長期投与する事により、アルミニウム脳症、アルミニウム骨症、アルミニウム腎症、貧血等を引き起こす事も知られている。さらにアルミニウム塩は、免疫作用を増強させる能力としては、十分に強いものであるとはいえない。
【0010】
このように、アジュバントをワクチン成分として接種することによって生命の危険性を脅かす副作用が発生する可能性があるという、使用上の不安があるにも関わらず、アジュバント能を有し、且つ、副作用の危険性の低いアジュバントを提供するための免疫学的知見についてほとんど明らかとなっていないのが現状である。
【0011】
即ち、免疫機能を十分に増強する作用を有しつつ、生体に適用しても副作用の可能性が極めて低いアジュバントを開発する事は、安全で、且つ、十分な発揮するワクチン、特にサブユニットワクチン、ペプチドワクチン、粘膜ワクチン等を開発し製造する上で重要な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、リン脂質が、免疫賦活化に非常に重要なシグナルカスケードであるIRF3−TBK1シグナルカスケードを作動させる重要な成分であることを見出た。さらに、当該リン脂質は、免疫システムにおいて、特にアジュバントとして使用する際に、副作用を引き起こすと考えられる炎症性サイトカインの過剰な産生には関与していないことを見出した。かかる知見に基づいて、実際に当該リン脂質を、抗原と共にマウスに投与したところ、マウス血清中において抗原に対する抗体が十分に産生される事が確認された。
【0013】
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものであり、以下に示す態様を広く包含するものである。
【0014】
項1 リン脂質を含むアジュバント。
【0015】
項2 リン脂質(ただし、3−脱アシル化−4’−モノホスホリルリピッドAを除く)を含む上記項1に記載のアジュバント。
【0016】
項3 リン脂質がアニオン性である上記項1又は項2に記載のアジュバント。
【0017】
項4 リン脂質が、グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質、グリセロホスホノ脂質、スフィンゴホスホノ脂質、これらのアミノ誘導体、又はこれらの塩である、上記項1〜3の何れか1項に記載のアジュバント。
【0018】
項5 リン脂質が、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、ホスファチジン酸、ビスホスファチジン酸、ピロホスファチジン酸、プラズマローゲン、エタノールアミンプラズマローゲン、スフィンゴミエリン、セラミドホスホコリン、セラミドホスホエタノールアミン、セラミドホスホセリン、セラミドホスホグリセロール、セラミドホスホグリセロリン酸、エチルアミンジアシルグリセロホスホン酸、エチルアミンモノアシルグリセロホスホン酸、エチルアミンジアシルグリセロアミノエチルホスホン酸、エチルアミンモノアシルグリセロアミノエチルホスホン酸、エチルアミンジアシルグリセロコリンホスホン酸、エチルアミンモノアシルグリセロコリンホスホン酸、エチルアミンモノアシルグリセロセリンホスホン酸、エチルアミンジアシルグリセロセリンホスホン酸、、セラミドアミノエチルホスホン酸、及びアシルスフィンゴシルアミノエチルホスホン酸、並びにこれらの誘導体及び塩からなる群より選択される上記項1〜4の何れか1項に記載のアジュバント。
【0019】
項6 リン脂質が、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルイノシトールエステル誘導体、又はそれら塩である、上記項1〜項5の何れか1項に記載のアジュバント。
【0020】
項7 ホスファチジルイノシトール又はホスファチジルイノシトールエステル誘導体が、PtdIns、PtdIns(3)P、PtdIns(4)P、PtdIns(5)P、PtdIns(3、4)P、PtdIns(3、5)P、及びPtdIns(3、4、5)Pからなる群より選択される少なくとも1つである上記項6に記載のアジュバント。
【0021】
項8 ホスファチジルイノシトール又はホスファチジルイノシトールエステル誘導体が、下記式(1)にて示される化合物である、上記項6又は項7に記載のアジュバント;
【0022】
【化1】
【0023】
(式中、Rは、アミノ基又は水酸基を有していてもよいアルキル基であり、
該アルキル基は、更に炭素数が3個〜24個のアルカノイルオキシ基又はアミノ酸残基若しくはペプチド残基を1つ以上有していてもよく、
、R、及びRは、同一又は異なって水素原子又は酸と水酸基との脱水縮合反応により得られる該酸の残基である。)。
【0024】
項9 ホスファチジルイノシトールエステル誘導体が、ホスファチジルイノシトールリン酸である、上記項6〜8の何れか1項に記載のアジュバント。
【0025】
項10 ホスファチジルイノシトールリン酸が下記式(2)にて示される化合物である上記項9に記載のアジュバント;
【0026】
【化2】
【0027】
項11 上記項1〜項10の何れか1項に記載のアジュバント及び抗原を含むワクチン。
【0028】
項12 抗原が、細菌、ウイルス、真菌、寄生性原虫、寄生性蠕虫、がん細胞、がん細胞特異的タンパク質、がん細胞融解物、プリオン、核酸、レニン、アンジオテンシン、及びアンジオテンシン受容体からなる群より選択される少なくとも1つである、上記項11に記載のワクチン。
【0029】
項13 抗原がウイルスである、上記項12に記載のワクチン。
【0030】
項14 リン脂質を生体に投与する工程を含む免疫賦活化方法。
【0031】
項15 リン脂質(ただし、3−脱アシル化−4‘−モノホスホリルリピッドAを除く)を生体に投与する工程を含む上記項14に記載の免疫賦活化方法。
【0032】
項16 リン脂質がアニオン性である上記項14又は項15に記載の免疫賦活化方法。
【0033】
項17 リン脂質が、グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質、グリセロホスホノ脂質、スフィンゴホスホノ脂質、これらのアミノ誘導体、又はこれらの塩である、上記項14〜16の何れかに記載の免疫賦活化方法。
【0034】
項18 リン脂質が、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、ホスファチジン酸、ビスホスファチジン酸、ピロホスファチジン酸、プラズマローゲン、エタノールアミンプラズマローゲン、スフィンゴミエリン、セラミドホスホコリン、セラミドホスホエタノールアミン、セラミドホスホセリン、セラミドホスホグリセロール、セラミドホスホグリセロリン酸、エチルアミンジアシルグリセロホスホン酸、エチルアミンモノアシルグリセロホスホン酸、エチルアミンジアシルグリセロアミノエチルホスホン酸、エチルアミンモノアシルグリセロアミノエチルホスホン酸、エチルアミンジアシルグリセロコリンホスホン酸、エチルアミンモノアシルグリセロコリンホスホン酸、、、エチルアミンジアシルグリセロセリンホスホン酸、エチルアミンモノアシルグリセロセリンホスホン酸、セラミドアミノエチルホスホン酸、及びアシルスフィンゴシルアミノエチルホスホン酸、又はこれらの塩からなる群より選択される上記項14〜17の何れか1項に記載の免疫賦活化方法。
【0035】
項19 リン脂質が、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルイノシトールエステル誘導体、又はそれら塩である、請求項14〜項18の何れか1項に記載の免疫賦活化方法。
【0036】
項20 ホスファチジルイノシトールが又はホスファチジルイノシトールエステル誘導体が、PtdIns、PtdIns(3)P、PtdIns(4)P、PtdIns(5)P、PtdIns(3、4)P、PtdIns(3、5)P、及びPtdIns(3、4、5)Pからなる群より選択される少なくとも1つである上記項19に記載の免疫賦活化方法。
【0037】
項21 ホスファチジルイノシトール又はホスファチジルイノシトールエステル誘導体が、下記式(1)にて示される化合物である、上記項19又は項20に記載の免疫賦活化方法;
【0038】
【化3】
【0039】
(式中、Rは、炭素数がアミノ基又は水酸基を有していてもよいアルキル基であり、該アルキル基は更に炭素数が3〜24個のアルカノイルオキシ基又はアミノ酸残基若しくはペプチド残基を一つ以上有していてもよく、
、R、及びRは、同一又は異なって水素原子又は酸と水酸基との脱水縮合反応により得られる該酸の残基である。)。
【0040】
項22 ホスファチジルイノシトールエステル誘導体が、ホスファチジルイノシトールリン酸である、上記項19〜21の何れか1項に記載の免疫賦活化方法。
【0041】
項23 ホスファチジルイノシトールリン酸が下記式(2)にて示される化合物である上記項22に記載の免疫賦活化方法;
【0042】
【化4】
【0043】
項24 リン脂質と共に抗原を投与する事を特徴とする上記項14〜項23の何れか1項に記載の免疫賦活化方法。
【0044】
項25 抗原が、細菌、ウイルス、真菌、寄生性原虫、寄生性蠕虫、がん細胞、がん細胞特異的タンパク質、がん細胞融解物、プリオン、核酸、レニン、アンジオテンシン、及びアンジオテンシン受容体からなる群より選択される少なくとも1つである上記項24に記載の免疫賦活化方法。
【0045】
項26 抗原がウイルスである上記項25に記載の免疫賦活化方法。
【0046】
項27 生体が、ヒトである上記項14〜項26の何れか1項に記載の免疫賦活化方法。
【0047】
項28 以下の工程1及び工程2を含むアジュバント候補物質をスクリーニングする方法;
(1)細胞内成分とIRF3(Interferon regulatory factor 3)とを接触させる工程1、及び
(2)該IRF3をリン酸化させる該細胞内成分を選択する工程2。
【0048】
項29 以下の工程1及び工程2を含むアジュバント候補物質をスクリーニングする方法;(I)細胞内成分とIRF3(Interferon regulatory factor 3)とTBK1(TANK binding kinase 1)とを接触させる工程1、及び
(II)該TBK1と結合し、且つ該IRF3をリン酸化させる該細胞内成分を選択する工程2。
【0049】
項30 細胞内成分が、不水溶性画分に含まれる成分である、上記項28又は29に記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0050】
以下に、本発明の効果について記載する。ただし、本発明は、以下に示す効果の全てを発揮する発明に限定されず、少なくとも何れか1つの効果を発揮すればよい。
【0051】
本発明に係るアジュバントは、樹状細胞に取り込まれやすい作用を有しており、樹状細胞を活性化する効果に優れている。つまり、本発明に係るアジュバントは、このような樹状細胞の活性化を介して、抗体を誘導し、またTh1細胞の応答を増大させる作用を有するものと考えられる。従って、本発明に係るアジュバントは、抗原と共にワクチンを構成する成分として有用である。
【0052】
本発明に係るアジュバントは、炎症性のサイトカインの産生に関与せず、また、それを亢進させ無いので、抗原と共にワクチンを構成する成分としても、副作用を引き起こす可能性が非常に低い。
【0053】
本発明のアジュバントは、元来、生体に存在する化合物を含むので、外来化合物を含むアジュバントとは異なり、炎症以外のその他の発熱、おう吐といった副作用を引き起こす可能性は非常に低い。
【0054】
以上のことから、本発明のアジュバント又はそれを含むワクチンは、人体に安全で、しかも免疫賦活化能に非常に優れている。
【0055】
また、当該本発明のアジュバントを単独または抗原とともに人体に投与する事による免疫賦活化方法は、人体に安全であり、しかも生体の免疫賦活化能を向上させる方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1図1は、インビトロにおいて、PtdIns(5)Pが、TBK1によりIRF3のリン酸化を増強する事を示す実験結果である。(A)、(B)、及び(D)は、種々の試薬を用いた、組み換えIRF3及びTBK1によるインビトロカイネースアッセイ。及び、pS394IRF3抗体を用いたTBK1によるIRF3のリン酸化の同定した実験結果である。(A)は種々の試薬、タンパク質の単離画分若しくは再構成タンパク質によるインビトロカイネースアッセイを示す。(B)図中に示すプラスミドで形質転換し、活性化させたHEK293細胞から抽出した脂質分画を用いたインビトロカイネースアッセイを示す。(C)脂質とTBK1タンパク質-脂質オーバーレイアッセイ(左)、脂質とIRF3タンパク質-脂質オーバーレイアッセイ(右)を示す。(D)PE/PCをベースとしたリポソームと合成したC16ーPtdInsのインビトロカイネースアッセイを示す。
図2図2は、PIKfyveが、IFNβプロモーター又はISREプロモーターを活性化することを示す実験結果である。(A)PtdIn(5)Pの合成に関する模式図とそれに関与する候補遺伝子を示す。(B)陰性対照、PIKfyve、又はカイネース・ネガティブPIKfyveを発現させるプラスミドと、IFNβルシフェラーゼを発現させるプラスミド(Bにおける最上段図)、ISREルシフェラーゼを発現させるプラスミド(Bにおける中段図)、又はNFκBルシフェラーゼを発現させるプラスミド(Bにおける最下段図)で形質転換したHEK293細胞におけるレポーター活性を示す。(C)PtdIn(5)Pの合成に関与すると考えられる遺伝子をコードするプラスミドと、ISREルシフェラーゼを発現させるプラスミドで形質転換したHEK293細胞におけるレポーター活性を示す。
図3】PIKfyveをノックダウンする事によって、サイトカインの産生が抑制されたことを示す実験結果。(A)〜(F)は、siRNAのエレクトロポーレーションする事によって、MEFにおけるPIKfyveのレベルがノックダウンされる事を示している。IFNβ、IP−10、及びIL−6の産生量はELISAを用いて測定した。(A)抗PIKfyve抗体によって細胞内のPIKfyveが濃縮され、抗PIKfyveを用いたウェスタンブロッティングによってPIKfyveが検出された事を示す。(B)ポリI:Cによる刺激、及びNDVによる感染によって刺激されたMEFのELISAによって測定したIFNβ、IP−10、及びIL−6の産生量を示す。(C)ポリI:Cによる刺激後の、QPCRにて測定したIFNβのmRNAの発現量を示す。(D)〜(F)MEF内のPIKfyveのノックダウン下において、ポリI:Cによる形質導入により性化するシグナル分子群の解析を示す。(D)非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって、IRF3が二量体を形成することを示す。(E)ウェスタンブロッティングによるIRF3及びJNKのリン酸化を示す。(F)核画分を単離した後のRelAの局在(上)、コントロールとしての総RelAを示す。(G)〜(I)siRNAのエレクトロポーレーションによるGM−DCにおけるPIKfyveのノックダウン実験結果を示す。(G)ポリI:Cを用いた形質導入によって刺激したGM−DCを示す。(H)SeV(Cm)又はEMCVによる感染刺激したGM−DCを示す。(I)ISDを用いた形質導入によって刺激したGM−DCを示す。
図4】C8−PtdIns(5)Pが、サイトカインを産生し、アジュバントとして働く事の実験結果を示す。(A)図に示すC8脂質で刺激されたGM−DCの、ELISAによって測定したIP−10及びRANTESの産生量を示す。(B)及び(C)野生型、IRF3−/−/IRF7−/−、又はIPS−1−/−マウス由来のGM−DCを、10、25、及び50μMのC8−PtdIns(5)Pで刺激した後の、ELISAによって測定したIP−10、RNATES、及びIFNβの産生量を示す。(D)アルムと共に腹腔内にオバルブミン(OVA)を免疫付与したものを陽性対象とし、PBSとC8−PtdIns(5)P、若しくはC8−PtdIns(4,5)Pと共にOVAを筋肉内に免疫付与し、5週間後に測定した血清中のOVAに特異的なIgGの力価を示す(左)。右側は、経時的に測定した力価である。(E)OVAに特異的なOT−IIトランスジェニックCD4陽性T細胞を単離し、OVAの存在下でC8−PtdIns(5)P、C8−PtdIns(4,5)P、又はポリI:Cで処理したGM−DCを共培養した後に測定した、インターフェロンγ(IFNγ)の産生量を示す。
図5】図に示すC8脂質で刺激されたGM−DCの、ELISAによって測定したIL1βの産生量を示す。
図6-1】本明細書、特許請求の範囲、及び図面にて用いる略語を説明する図。
図6-2】本明細書、特許請求の範囲、及び図面にて用いる略語を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下に本発明について詳細に説明する。なお、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。
【0058】
例えば、Sambrook and Russell,“Molecular Cloning A LABORATORY MANUAL”,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York,2001;Ausubel,F.M.et al.“Current Protocols in Molecular Biology”,John Wiley&Sons,New York,.NY;Molecular Biology of the Cell 5E:Reference Edition Bruce Alberts、Alexander Johnson、Julian Lewis、Martin Raff;Basic and Clinical Pharmacology 12/E(LANGE Basic
Science)by Bertram Katzung,Susan Masters and Anthony Trevor(Dec 13,2011)等の文献を参照すればよい。
【0059】
ワクチン、アジュバンド等の免疫分野においてはWilliam E. Paul“Fundamental Immunology”,Lippincott Williams & Wilkins;2012等の文献を適宜参照すればよい。
【0060】
また、本明細書、図面等にて表記する略語等については、図6−1及び図6−2に示す。
【0061】
<アジュバント>
本発明に係るアジュバントは、免疫増強剤又は免疫賦活化剤等とも呼ばれる。このような呼称は、全てアジュバンドと同じ用途に用いられる剤を意味するものとして通常は用いられるものである。
【0062】
本発明に係るアジュバントはリン脂質を含む。このようなリン脂質の中でも3−脱アシル化−4’−モノホスホリルリピッドA以外のリン脂質を含むアジュバントが好ましい。
【0063】
前記リン脂質は、天然、特に生体内に存在するリン脂質であっても、工業的に製造されるリン脂質であってもよく、特に限定されない。また、工業的に製造されるリン脂質とは、生化学的手法、化学的手法など、具体的な手法は特に限定されない。すなわち、細胞内で合成させて得られたリン脂質であっても、インビトロでの化学反応によって合成させたリン脂質であってもよい。
【0064】
このような具体的なリン脂質として、例えばグリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質、グリセロホスホノ脂質、スフィンゴホスホノ脂質、又はこれらの誘導体等が挙げられる。グリセロリン脂質及びグリセロホスホノ脂質は、当該リン脂質分子中にグリセロール由来の構成アルコール部位を含むリン脂質であり、スフィンゴリン脂質、スフィンゴホスホノ脂質は、スフィンゴシン、セラミド等の長鎖アミノアルコール由来の構成アルコール部位を含むリン脂質である。
【0065】
また、グリセロリン脂質及びスフィンゴリン脂質は、炭素原子とリン酸原子の間に酸素原子の結合した、C−O−P結合(リン酸エステル結合)を含むリン脂質であり、グリセロホスホノ脂質及びスフィンゴホスホノ脂質は、炭素原子に直接リン原子が結合した、C−P結合を含むホスホノ基を含むリン脂質である。
【0066】
具体的なグリセロリン脂質としては、例えば、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルイノシトールリン酸、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、ホスファチジン酸、ビスホスファチジン酸、ピロホスファチジン酸、プラズマローゲン、エタノールアミンプラズマローゲン、これらの誘導体等が挙げられる。
【0067】
また、これらのグリセロリン脂質は、リゾ体であってもよい。ここで、リゾ体とは、グリセロールが有する3つの水酸基のうち、リン酸とエステル結合して形成される上述のC−O−P結合以外に残る2つの水酸基のうち、片方のみが脂肪酸とエステル結合している化合物である。
【0068】
更に、これらのグリセロリン脂質は、上述の2つの水酸基のうち、少なくとも一方に、アミノ酸又はペプチドとエステル結合した、アミノ誘導体であってもよい。これを本発明にてグリセロリン脂質のアミノ誘導体と呼ぶ。
【0069】
上記アミノ酸とは、t−RNAの遺伝情報に基づく20種類のアミノ酸のみならず、セレノシステイン、セレノメチオニン、N−ホルミルメチオニン、ピロリシン、ピログルタミン酸、シスチン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、チロキシン、O−ホスホセリン、β−アラニン、N−メチルグリシン、オルニチン、スタチン、シトルリン、クレアチン、γーアミノ酪酸等のアミノ基及びカルボキシ基を有する化合物といった広義のアミノ酸を意味する。これらのアミノ酸の中でも、リジン、アルギニン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸等の電荷を有する側鎖を含むアミノ酸が好ましい。
【0070】
上記ペプチドとは、上述の2〜10個程度のアミノ酸がペプチド結合したものである。中でも、上述のような電荷を有する側鎖を含むアミノ酸の残基を含むペプチドが好ましい。
【0071】
具体的なスフィンゴリン脂質として、例えば、スフィンゴミエリン、セラミドホスホコリン、セラミドホスホエタノールアミン、セラミドホスホセリン、セラミドホスホグリセロール、セラミドホスホグリセロリン酸、これらの誘導体等が挙げられる。
【0072】
また、これらのスフィンゴリン脂質は、リゾ体であってもよい。ここで、リゾ体とは、スフィンゴシンが有する2つの水酸基のうち、リン酸とエステル結合して形成される上述のC−O−P結合に用いられる他方の水酸基がそのまま残っている化合物である。
【0073】
更に、これらのスフィンゴリン脂質は、上述の残った水酸基に、アミノ酸又はペプチドがエステル結合した、アミノ誘導体であってもよい。これを、本発明にてスフィンゴリン脂質のアミノ誘導体と呼ぶ。
【0074】
上記アミノ酸及びペプチドとは、上述のグリセロリン脂質のアミノ誘導体に関して詳述した通りである。
【0075】
具体的なグリセロホスホノ脂質として、例えば、エチルアミンジアシルグリセロホスホン酸、エチルアミンモノアシルグリセロホスホン酸、エチルアミンジアシルグリセロアミノエチルホスホン酸、エチルアミンモノアシルグリセロアミノエチルホスホン酸、エチルアミンジアシルグリセロコリンホスホン酸、エチルアミンモノアシルグリセロコリンホスホン酸、、、エチルアミンジアシルグリセロセリンホスホン酸、エチルアミンモノアシルグリセロセリンホスホン酸、これらの誘導体等が挙げられる。
【0076】
また、これらのグリセロホスホノ脂質は、リゾ体であってもよい。ここで、リゾ体とは、グリセロールが有する3つの水酸基のうち、リン酸と直接結合して形成される上述のC−P結合の他に残る2つの水酸基のうち、片方のみが脂肪酸とエステル結合している化合物である。
【0077】
更に、これらのグリセロホスホノ脂質は、上述の2つの水酸基のうち、少なくとも一方に、アミノ酸又はペプチドがエステル結合した、アミノ誘導体であってもよい。これを、本発明にてグリセロホスホノ脂質のアミノ誘導体と呼ぶ。
【0078】
上記アミノ酸及びペプチドとは、上述のグリセロリン脂質のアミノ誘導体に関して詳述した通りである。
【0079】
具体的なスフィンゴホスホノ脂質として、例えばセラミドアミノエチルホスホン酸、アシルスフィンゴシルアミノエチルホスホン酸、これらの誘導体等が挙げられる。
【0080】
また、これらのスフィンゴホスホノ脂質は、リゾ体であってもよい。ここで、リゾ体とは、スフィンゴシンが有する2つの水酸基のうち、リン酸と直接結合して形成される上述のC−P結合に用いられる水酸基の他方がそのまま残っている化合物である。
【0081】
更に、これらのスフィンゴホスホノ脂質は、上述の残った水酸基に、アミノ酸又はペプチドがエステル結合した、アミノ誘導体であってもよい。これを、本発明にてスフィンゴホスホノ脂質のアミノ誘導体と呼ぶ。
【0082】
上記アミノ酸及びペプチドとは、上述のグリセロリン脂質のアミノ誘導体に関して詳述した通りである。
【0083】
上述のリン脂質として例えば、下記の表1に示す構造式にて表される化合物が挙げられる。これらの構造式にて表されるリン脂質は、塩の形態としてAvanti polar lipid社から購入可能である(左欄の番号は製品番号を示す。)。
【0084】
【表1】
【0085】
これらのリン脂質の中でも、ホスファチジルイノシトール又はホスファチジルイノシトールエステル誘導体が好ましい。
【0086】
前記ホスファチジルイノシトールエステル誘導体としては、例えば、ホスファチジルイノシトール(3)モノリン酸、ホスファチジルイノシトール(4)モノリン酸、ホスファチジルイノシトール(5)モノリン酸、ホスファチジルイノシトール(3,4)ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール(3,5)ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール(3,4,5)トリリン酸、これらの誘導体等が挙げられる。
【0087】
また、ホスファチジルイノシトール又はホスファチジルイノシトールエステル誘導体として、下記式(1)に示される化合物も挙げられる。
【0088】
【化5】
【0089】
上記式中、Rは、アミノ基又は水酸基を有していてもよいアルキル基である。
【0090】
該アルキル基は、更に炭素数が3個〜24個のアルカノイルオキシ基又はアミノ酸残基若しくはペプチド残基を1つ以上有していてもよい。
【0091】
好ましくは2つ以上のアルカノイルオキシ基又はアミノ酸残基若しくはペプチド残基を更に有するアルキル基である。当該アルキル基が有するアルカノイルオキシ基、又はアミノ酸残基又はペプチド残基の個数の上限は、当該アルキル基の炭素数に従って、それを保有できる範囲において特に限定はされない。
【0092】
前記アルカノイルオキシ基の炭素数は4個程度以上が好ましく、より好ましくは6個程度以上、更に好ましくは8個程度以上である。また、当該アルカノイルオキシ基の炭素数の上限値は20個程度が好ましく、より好ましくは16個程度、更に好ましくは12個程度、最も好ましくは8個程度である。
【0093】
なお、前記アルカノイルオキシ基は、その炭素間結合に二重結合を1つ以上含んでいてもよい。また、二重結合の上限個数はアルカノイルオキシ基の炭素数に従って決定され、好ましくは4個程度の炭素間二重結合を含んでいてもよい。このように炭素間二重結合を含む場合、シス体であってもトランス体であってもよく、何れかに限定はされない。
【0094】
前記アルキル基の炭素数は、特に限定はされないが、通常は2個〜8個であればよく、より好ましくは3個以上である。当該炭素数の上限値は、7個が好ましく、より好ましくは6個、更に好ましくは5個である。
【0095】
前記アルキル基がアルカノイルオキシ基を有する場合、上述のアルカノイルオキシ基における末端のカルボニル炭素原子と単結合している酸素原子が当該アルキル基中の何れかの炭素原子と単結合していればよい。当該アルキル基がアルカノイルオキシ基を2つ以上有する場合、当該アルキル基中の同一の炭素原子に、上述した2つ以上のアルカノイルオキシ基が結合していてもよく、当該アルキル基の異なる炭素原子に上述したアルカノイルオキシ基が結合していてもよい。なお、上述した2つ以上のアルカノイルオキシ基は同一であっても異なっていてもよい。
【0096】
前記アミノ酸残基は、t−RNAの遺伝情報に基づく20種類のアミノ酸のみならず、セレノシステイン、セレノメチオニン、N−ホルミルメチオニン、ピロリシン、ピログルタミン酸、シスチン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、チロキシン、O−ホスホセリン、β−アラニン、N−メチルグリシン、オルニチン、スタチン、シトルリン、クレアチン、γーアミノ酪酸等のアミノ基及びカルボキシ基を有する化合物といった広義のアミノ酸の少なくとも1つのカルボキシ基から、水素原子を除いたものである。これらのアミノ酸の中でも、リジン、アルギニン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸等の電荷を有する側鎖を含むアミノ酸から水素原子を除いたアミノ酸残基が好ましい。
【0097】
また、前記ペプチド残基は、上述の2〜10のアミノ酸がペプチド結合して得られるペプチドの少なくとも1つのカルボキシ基から水素原子を除いて得られたペプチド残基である。この様なペプチド残基には、上述の好ましいアミノ酸の残基が含まれていることが好ましい。
【0098】
また、前記アルキル基には、上述のアミノ酸残基又はペプチド残基におけるカルボニル基と単結合している酸素原子が、当該アルキル基中の何れかの炭素原子と単結合していればよい。当該アルキル基がアミノ酸残基又はペプチド残基を2つ以上有する場合、当該アルキル基中の同一の炭素原子に、上述した2つ以上のアミノ酸残基又はペプチド残基が結合していてもよく、当該アルキル基の異なる炭素原子に上述したアミノ酸残基又はペプチド残基が結合していてもよい。なお、上述した2つ以上のアミノ酸残基又はペプチド残基は同一であっても異なっていてもよい。
【0099】
式中、R、R、及びRは、同一又は異なって水素原子又は酸と水酸基との脱水縮合反応により得られる該酸の残基である。
【0100】
前記の酸は、有機酸であっても無機酸であってもよく、特に限定はされないが、好ましくは無機酸である。このような無機酸としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、ボロン酸等が挙げられ、特に限定はされないが、好ましくはリン酸である。
【0101】
上記の残基として最も好ましいのは、ホスホノ基である。
【0102】
このような上記式(1)にて示される具体的な化合物として、例えば、下記の表2〜表4に示す構造式にて表される化合物が挙げられる。これらの構造式にて表される化合物は塩の形態で、表2から表4についてはechelon bioscience社から、表5及び表6についてはAvanti polar lipid社から購入可能である(左欄の番号はカタログ番号を示す。)。
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
【表5】
【0107】
【表6】
【0108】
なお、上記表2〜6における基HP−の構造は下記式の通りである。
【0109】
【化6】
【0110】
このようなホスファチジルイノシトールエステル誘導体として、ホスファチジルイノシトールリン酸が好ましく、最も好ましい態様のホスファチジルイノシトール誘導体は、下記の化学式(2)に示す化合物である。
【0111】
【化7】
【0112】
上述のリン脂質は、塩の態様であってもよい。
【0113】
このような塩の1つの態様として、具体的には、リン脂質に含まれる、何れか1つ以上のOH基からプロトンを除いたアニオンと、それのカウンターカチオンからなる塩が挙げられる。より好ましくは、リン脂質に含まれるホスホノ基又は1つ以上のアルカノイルオキシ基を有していてもよいアルキルホスホノ基のOH基からプロトンを除いたアニオンと、それのカウンターカチオンからなる塩が挙げられる。
【0114】
アニオンの価数は特に限定はされないが、通常は1価〜7価程度とすればよい。
【0115】
カウンターカチオンの種類は、特に限定はされず、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン等が挙げられる。
【0116】
他の態様の塩として、リン脂質に含まれる何れか1つ以上のアミノ基にプロトンが結合したカチオンと、それのカウンターアニオンからなる塩が挙げられる。
【0117】
カウンターアニオンの種類は、特に限定はされず、例えばフッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン等が挙げられる。
【0118】
上述のリン脂質は、公知の方法を用いて製造する事が可能である。例えば、リン脂質が上述したようなリン酸エステル結合を含むホスホノオキシ基を有するリン脂質である場合、実験化学講座 第5版(16)「カルボン酸・アミノ酸・ペプチド」を適宜参照して製造することができる。また、市販のものを購入して入手する事も可能である。
【0119】
本発明に係るアジュバントに含まれるリン脂質は、アニオン性、カチオン性、ノニオン性のいずれであってもよいが、アニオン性のリン脂質であることが好ましい。
【0120】
本発明に係るアジュバントは、上述のリン脂質を含むものであり、その含有量は、当該アジュバント当たり、通常0.01〜99.99重量%程度である。また、当該リン脂質そのものが本発明に係るアジュバントであってもよい。
【0121】
本発明に係るアジュバントには、上述のリン脂質以外に、通常、アジュバントに含有される公知の成分が、上述した本発明に係るアジュバントの効果を損なわない範囲に限って含まれていてもよい。
【0122】
このような成分として、例えば、防腐剤、緩衝剤、保存剤、不活化剤、等張頂化剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0123】
本発明に係るアジュバントは、上述した本発明に係るアジュバントの効果を損なわない範囲に限り、上述のリン脂質以外に、通常アジュバントに含有される免疫賦活化作用を発揮する公知の成分が、含まれていてもよい。
【0124】
このような成分として、例えば、水酸化アルミニウム、スクワレン、αトコフェロール、ミネラルオイル、パラフィンオイル、1本鎖RNA若しくはそのアナログ、2本鎖RNA若しくはそのアナログ、フラジェリン、トレハロース誘導体、MPL等が挙げられる。
【0125】
本発明に係るアジュバントは、例えば、商業用に抗体を製造する際に、一般的に採用される実験動物に有効に用いられる。即ち、抗体を特異的に認識する抗原を実験動物に投与する際に、本発明に係るアジュバントをそれに混合して同時に、又は抗原とは別に投与して使用する方法が挙げられる。
【0126】
このような実験動物としては、具体的には、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ニワトリ、ロバ、ウマ、ダチョウ、ラクダ、ラマ、アルパカ等が挙げられる。
【0127】
これらの実験動物に対する本発明に係るアジュバントの使用量は、所望する免疫賦活化の程度によって適宜設定すればよく、特に限定はされないが、当該アジュバントに含まれる上述のリン脂質の量に換算して、動物個体1kg当たり、通常0.5mg〜0.5g/回程度とすればよい。
【0128】
また、所望する免疫賦活化の程度に従って、同一の動物個体に対して複数回使用してもよく、通常は2回〜4回程度を上限とすればよい。なお、同一固体に対して本発明に係るアジュバントを複数回使用するさいには、その間隔を適宜設けてもよく、通常は14日〜30日程度とすればよい。
【0129】
本発明に係るアジュバントは、上記動物に使用する際の使用方法は、特に限定される事は無く、例えば、経口投与、経静脈投与、経皮投与、経粘膜投与、経舌下投与、経腹腔投与、経筋肉投与等によって使用すればよい。
【0130】
また、本発明に係るアジュバントは、抗原と共に生体に投与する事により、生体内の樹状細胞が活性化し、獲得免疫効果が発揮される。従って、本発明に係るアジュバントは、抗原と共に臨床的に使用することによって、ワクチンとしての機能を発揮する事が期待される。
【0131】
<ワクチン>
本発明に係るワクチンは、上述のアジュバントと抗原を含むものである。
【0132】
当該抗原とは、液性免疫又は細胞免疫システムに感知され、当該抗原に対して特異的に結合する抗体が産生されるか、或いは白血球、マクロファージ、T細胞等によって捕食されるものである。
【0133】
具体的な抗原としては細菌、ウイルス、真菌、寄生性原虫、寄生性蠕虫、がん細胞、がん細胞特異的タンパク質、がん細胞融解物、プリオン、核酸、レニン、アンジオテンシン、アンジオテンシン受容体等が挙げられ、特に限定はされない。
【0134】
上記の細菌は、ヒト、愛玩動物、家畜等に対して疾患を引き起こす原因となる細菌であれば特に限定されない。具体的には、レンサ球菌(溶連菌、肺炎球菌等)、黄色ブドウ球菌(MSSA、MRSA等)、表皮ブドウ球菌、腸球菌、リステリア属に属する菌(リステリア菌、以下同様に表現することがある。)、髄膜炎球菌、淋菌、病原性大腸菌、肺炎桿菌、プロテウス菌、百日咳菌、緑膿菌、セラチア菌、シトロバクター菌、アシネトバクター菌、エンテロバクター菌、マイコプラズマ菌、クロストリジウム菌、結核菌、コレラ菌、ペスト菌、ジフテリア菌、赤痢菌、炭疽菌、トレポネーマ菌、破傷風菌、らい菌、レジオネラ菌、レプトスピラ菌、ボレリア菌、フランシセラ菌、コクシエラ菌、リケッチア菌、クラミジア菌、鼻疽菌、ピロリ菌等が挙げられる。
【0135】
上記のウイルスは、ヒト、愛玩動物、家畜等に対して疾患を引き起こす原因となるウイルスであれば特に限定されない。具体的にはインフルエンザウイルス、パピロマウイルス、肝炎ウイルス(A型、B型、C型、D型、E型、F型、G型、TT型等)、天然痘ウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、ポリオウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、ノロウイルス、ノーウォークウイルス、サポウイルス、サッポロウイルス、ムンプスウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、ロタウイルス、エイズウイルス、狂犬病ウイルス、Tリンパ好性ウイルス、黄熱病ウイルス、サイトメガロウイルス、SARSウイルス、ポリオーマウイルス、JCウイルス、BKウイルス、ヘルペスウイルス、リンホクリプトウイルス、ロゼオロウイルス、日本脳炎ウイルス、コクサッキーウイルス、デングウイルス、ウエストナイルウイルス、コロナウイルス、パルボウイルス、エプスタイン・バール・ウイルス、マールブルグウイルス、ハンタウイルス、ラッサウイルス、チクングニアウイルス、ハンターンウイルス、跳躍病ウイルス、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス、ボルナウイルス、リフトバレー熱ウイルス、トゴトウイルス、ドーリウイルス、口蹄疫ウイルス、ニューキャッスルウイルス、牛丘疹性口炎ウイルス、牛疫ウイルス、豚水胞病ウイルス、カリシウイルス、トロウイルス、アフリカ馬疫ウイルス、アルテリウイルス、羊痘ウイルス、カプリポックスウイルス、羊随伴型悪性カタル熱ウイルス、ウイルス性出血性敗血症ウイルス、水胞性口炎ウイルス等が挙げられる。
【0136】
上記の真菌は、ヒト、愛玩動物、家畜等に対して疾患を引き起こす原因となる真菌であれば特に限定されない。具体的には、アスペルギルス菌、カンジダ菌、クリプトコッカス菌、白癬菌症、ヒストプラズマ菌、ニューモシスチス菌等が挙げられる。
【0137】
上記の寄生性原虫は、ヒト、愛玩動物、家畜等に対して疾患を引き起こす原因となる寄生性原虫であれば特に限定されない。具体的には、アメーバ赤痢、マラリア、トキソプラズマ、リーシュマニア、クリプトスポリジウム、トリパノソーマ等が挙げられる。
【0138】
上記の寄生性蠕虫は、ヒト、愛玩動物、家畜等に対して疾患を引き起こす原因となる寄生性蠕虫であれば特に限定されない。具体的には、エキノコックス、日本住血吸虫、フィラリア、回虫、広節裂頭条虫等が挙げられる。
【0139】
上記がん細胞は、ヒト、愛玩動物、家畜等が罹患するがんの病巣部における細胞であれば特に限定はされない。このようながんとして、例えば白血病、リンパ腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、脳腫瘍、乳癌、子宮体癌、子宮頚癌、卵巣癌、食道癌、胃癌、虫垂癌、大腸癌、肝癌、肝細胞癌、胆嚢癌、胆管癌、膵臓癌、副腎癌、消化管間質腫瘍、中皮腫、頭頚部癌、喉頭癌、口腔癌、歯肉癌、舌癌、頬粘膜癌、唾液腺癌、副鼻腔癌、上顎洞癌、前頭洞癌、篩骨洞癌、蝶型骨洞癌、甲状腺癌、腎臓癌、肺癌、肺小細胞癌、骨肉腫、前立腺癌、精巣腫瘍、腎細胞癌、膀胱癌、横紋筋肉腫、皮膚癌、肛門癌、脳腫瘍、骨肉腫、軟骨肉腫、滑膜肉腫等が挙げられる。
【0140】
上記の癌細胞特異的タンパク質は、上述のがん細胞において、特異的に発現するタンパク質(腫瘍関連抗原とも呼ばれる。)であれば特に限定されない。このようなタンパク質の中でも、癌細胞の表面にて特異的に発現するタンパク質である事が好ましく、例えば受容体も含まれる。なお、このようなタンパク質は、タンパク質全長であっても、その一部の断片であってもよい。
【0141】
このような、がん細胞特異的タンパク質として、例えば、がんが前立腺癌であれば、PSAが挙げられる。
【0142】
上記がん細胞融解物は、上述のがん細胞を融解させて得られるものである。融解させる方法は、上記がん細胞を単に破砕すればよく、例えば界面活性剤を含む緩衝液を用いて破砕する方法、超音波破砕法、ガラスビーズを用いて破砕する方法、フレンチプレスを用いて破砕する方法等が挙げられ、適宜これらを組み合わせてもよい。
【0143】
上記のプリオンとは、野生型でないタンパク質からなる伝染性因子であり、これがヒト、愛玩動物、家畜等の体内に蓄積する事によって、疾患を引き起こすものである。
【0144】
このような疾患は、特に限定されるものではないが、例えば、海綿状脳症、クールー、クロイツフェルト・ヤコブ病、致死性家族性不眠症、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群、アルツハイマー病等が挙げられ、具体的なプリオンとしては、例えば、βアミロイド等が挙げられる。
【0145】
上記のレニンとは、血圧上昇などに関連するレニン−アンジオテンシン系にて働くものである。
【0146】
上記アンジオテンシンは、I型であっても、II型であってもよく、上述のレニン−アンジオテンシン系にて働くものである。
【0147】
上記のアンジオテンシン受容体は、I型アンジオテンシン及び/又はII型アンジオテンシンの受容体であり、その全長であっても、一部断片であってもよい。
【0148】
なお、上述した細菌、ウイルス、真菌、寄生性原虫、寄生性蠕虫、がん細胞、がん細胞特異的タンパク質、がん細胞融解物、プリオン、核酸、レニン、アンジオテンシン、アンジオテンシン受容体等は、適宜2種類以上組み合わせて、本発明の本発明に係るワクチンに含有される抗原としてもよい。
【0149】
上述の細菌、ウイルス、真菌、寄生性原虫、寄生性蠕虫等は、これらのそのものを抗原としてもよく、これらを不活化したものを抗原としてもよい。
【0150】
不活化する具体的な方法として、例えば加熱、紫外線照射、有機溶媒の添加、界面活性剤の添加等といった処理を施す方法が挙げられる。
【0151】
また、上述の細菌、ウイルス、真菌、寄生性原虫、寄生性蠕虫を抗原とする場合、これらのそのものを抗原とする必要は無く、例えば、これらからDNA、RNA等といった核酸を除去したもの、例えばウイルスであればウイルス外皮(これは、キャプシドとも呼ばれる。)を、抗原としてもよい。
【0152】
さらに、細菌、ウイルス、真菌、寄生性原虫、寄生性蠕虫等が有するタンパク質、糖質、脂質等といった構成成分を抗原としてもよく、これらの一部を抗原としてもよい。このような構成成分は、細菌、ウイルス、真菌、寄生性原虫、寄生性蠕虫等の表面に存在するものが好ましい。
【0153】
例えば、インフルエンザウイルスであれば、その表面に存在する各種HA、NA等といったタンパク質を抗原としてもよく、これらのタンパク質の一部又はそれに含まれる糖鎖若しくはその一部を抗原としてもよい。
【0154】
上記の核酸とは、リボヌクレオチドであっても、デオキシリボヌクレオチドであってもよい。また、このような核酸は、一本鎖の形態に限定されず、二本鎖以上の形態であってもよい。そして、上記の核酸は、アデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシルを塩基として含むものに限定されず、これらの誘導体又は修飾化された塩基を含む核酸であってもよい。
【0155】
本発明に係るワクチンは、感染症や癌等といった疾患を予防するために、通常はヒトに好適に用いられるものではあるが、その他に上述のような愛玩動物(例えば、イヌ、ネコ、フェレット、トリ等)や、上述の様な家畜(ウシ、ブタ、ニワトリ、ヤギ、ダチョウ、ヒツジ、ウマ等)に対しても好適に用いられる。
【0156】
本発明に係るワクチンにおける上述のアジュバントの含有割合は、特に限定はされないが、通常はワクチン100重量%に対して、0.01重量%〜99.99重量%程度である。
【0157】
また、上述の抗原と上述のアジュバントの割合とすれば、抗原1重量部に対して、アジュバントは、通常10重量部〜1000重量部程度である。
【0158】
本発明に係るワクチンの投与方法は、特に限定されることは無いが、例えば、経口投与、経静脈投与、経皮投与、経粘膜投与、経舌下投与、経筋肉投与等が挙げられる。
【0159】
ワクチンの投与量は、所望する免疫賦活化の程度や、投与対象の年齢、性別等によって区々であるため、適宜設定すればよく、特に限定はされないが、例えばリン脂質の量に換算すれば、ヒト、愛玩動物又は家畜の1kg当たり、通常0.5mg〜0.5g/回程度とすればよい。
【0160】
また、所望するワクチンが発揮する効果の程度、投与対象の年齢、性別等に従って、同一のヒト、愛玩動物、又は家畜に対してワクチンを複数回投与してもよく、通常は2回〜4回程度を上限とすればよい。なお、同一のヒト、愛玩動物、又は家畜に対して本発明に係るワクチンを複数回投与する際には、その間隔を適宜設けてもよく、通常は14日〜30日程度とすればよい。
【0161】
このようなワクチンは、十分な疾患(特に感染症)の予防効果を発揮するのみならず、ワクチンの投与によって生じる副作用が、極めて低い効果を発揮する。
【0162】
<免疫賦活化方法>
本発明に係る免疫賦活化方法は、上述のリン脂質を生体に投与する工程を含むものである。
【0163】
生体とは、免疫システムを増強させる必要がある生体である限り、特に限定はされない。具体的には、上記<アジュバント>にて詳述したような、商業用に抗体を製造する際に用いられる実験動物、上記<ワクチン>にて詳述した、疾患(特に感染症)を予防するためのワクチンの投与対象となるヒト、愛玩動物、家畜等が挙げられる。
【0164】
リン脂質の投与量は、特に限定される事は無く、例えば上記<アジュバント>にて詳述した、アジュバントの使用量に基づいて適宜設定される。或いは、上記<ワクチン>にて詳述した、ワクチンの投与量に基づいて設定してもよい。
【0165】
そして同様に、複数回投与の回数及び複数回投与の際の投与間隔についても、上記<アジュバント>又は<ワクチン>にて詳述したものを基に適宜設定すればよい。
【0166】
投与方法については、上記<アジュバント>又は<ワクチン>にて詳述した投与方法から適宜選択すればよい。
【0167】
本発明に係る免疫賦活化方法は、上述の本発明に係るアジュバントと共に抗原を投与する事が好ましい。具体的な抗原は、上記<ワクチン>にて詳述したものと同様にすればよく、投与対象、投与方法、複数回投与の回数並びにその間隔等についても、上記<ワクチン>、<アジュバント>における記載と同様にすればよい。
【0168】
<スクリーニング方法>
本発明に係るスクリーニング方法は、以下の工程1及び2を含む、アジュバント候補のスクリーニング方法である。
工程1
(1)細胞内成分とIRF3(Interferon regulatory factor 3)とを接触させる工程
工程2
(2)該IRF3をリン酸化させる該細胞内成分を選択する工程。
【0169】
また、本発明に係るスクリーニング方法は、以下に示す工程1’及び工程2’を含む態様のアジュバント候補のスクリーニング方法も包含される。
工程1
(I)細胞内成分とIRF3(Interferon regulatory factor 3)とTBK1(TANK binding kinase 1)とを接触させる工程1’
工程2
(II)該TBK1と結合し、且つ該IRF3をリン酸化させる該細胞内成分を選択する工程2’。
【0170】
上記工程1及び1’にて用いる細胞内成分は、公知の方法によって細胞を破砕することにより得ることができる。
【0171】
このような方法として、例えば、界面活性剤を含む緩衝液を用いて破砕する方法、超音波破砕法、ガラスビーズを用いて破砕する方法、フレンチプレスを用いて破砕する方法等が挙げられ、適宜これらを組み合わせてもよい。
【0172】
このような手段によって細胞を破砕して得られる上述の細胞内成分は、破砕して得られたものを、例えばメタノール/クロロホルム混合溶媒にて分画したメタノール画分(水溶性画分)に含まれる成分であっても、クロロホルム画分(不水溶性画分)に含まれる成分であっても、これらの両者に含まれる成分であってもよく、特に限定はされないが、好ましくは、不水溶性画分に含まれる成分である。また、具体的な細胞の由来は特に限定されるものではなく、適宜選択すればよい。
【0173】
上記細胞は、破砕前に予めIRF3がリン酸化されやすいように活性化されていてもよい。具体的な活性化方法としては、例えば当該細胞をIPS−1、TRIF、MyD88、TIRAP等を発現する遺伝子を導入する方法が挙げられる。好ましくは、IPS−1を発現する遺伝子を導入する方法である。
【0174】
上記工程2及び2’における、IRF3をリン酸化させる細胞内成分を選択する方法は、IRF3のリン酸化を公知の方法によって確認することによって、細胞内成分を選択すればよい。具体的な確認方法は、リン酸化IRF3を認識する抗体を用いたウェスタンブロッティング法、フローサイトメトリー法、ELISA等が挙げられる。
【0175】
上記工程2及び2’におけるTBK1と結合し、且つIRF3をリン酸化する方法は、
上記のIRF3のリン酸化を確認する方法に加え、免疫沈降法、QCM(水晶振動子マイクロバランス)法、SPR(表面プラズモン共鳴)法等を組みわせればよい。
【実施例】
【0176】
以下に示す実験例に基づいて、本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明が以下に示す実験例に限定されないのは言うまでもない。
【0177】
まず、後述する実験例で使用する材料及び実験手法等について説明する。
【0178】
(1)細胞及び試薬について
HEK293細胞及びMEF(マウス胎児線維芽細胞)は、10%の非働化FCS(ライフ・テクノロジー社)を含むDMEM培地を用い、5%の二酸化炭素環境下で、37℃で培養を行った。
【0179】
GM−CSFによって誘導される骨髄由来の樹状細胞(GM−DCs)は、マウス骨髄
から採取した細胞を、10%のFCS、100μMの2−ME、及び10ng/mlのマウス由来のGM−CSF(BD バイオサイエンス社)を含むRPMI1640培地で6〜8日間培養して作製した。
【0180】
ISD配列は、以下の通りであり常法に従って作製した。(sense:5′−TACAGATCTACTAGTGATCTATGACTGATCTGTACATGATCTACA;配列番号1)。
【0181】
LPS及びポリI:C及びポリdA:dTは、インビボジェン社から購入し、これらを用いて細胞を刺激する際には、リポフェクタミン2000(ライフ・テクノロジー社)とそれぞれ2:1(2μg:1μl)の割合で混合し、これをOPTI−MEM(ライフ・テクノロジー社)と共に刺激した。
【0182】
PIKfyve阻害剤であるYM−201636はサンタクルーズ社から購入した。
【0183】
以下、抗体の入手先について説明する。抗PIKfyve抗体(Sigma社)、抗pIRF3抗体(Cell Signaling社)、抗pJNK(Cell Signaling社)、抗TBK1(Abcam社)、抗pTBK1(BD Bioscience社)。また、各種ELISA法はR&D Systems社からキットを購入し、マニュアルに従って実験を行った。
【0184】
(2)プラスミド及びレポーターアッセイについて
FLAGタグ付きPIKfyve発現プラスミドは、PIKfyveをPCRによって増幅させた後に、pFLAG−CMV6ベクターに組み込んで作製した。そして、カイネース・ネガティブ変異体(K1831M PIKfyve)発現プラスミドは、KOD(東洋紡)を用いて作製した。
【0185】
FLAGタグ付きのPIP5Kα、β、並びにγ、発現プラスミドは、HEK293細胞のcDNAからこれらをコードする遺伝子断片をそれぞれ増幅し、pFlag−CMV6ベクターに組み込んだ。
【0186】
PI3KIII、PTEN、TMEM55α、TMEM55β、及びPI4K2α発現プラスミドは、pCMV−SPORT6ベクター(Open Biosystems社)に組み込まれたものを使用した。
【0187】
レポーターアッセイは、24ウェルプレートにHEK293細胞を播種し、各種発現プラスミドと、レポータールシフェラーゼプラスミドとを、リポフェクタミン2000(ライフ・テクノロジー社)を用いて播種したHEK293細胞を形質転換し16時間培養の後の細胞を、パッシブ リシス バッファー(プロメガ社)を用いて溶解した。
【0188】
その後、デュアルルシフェラーゼ レポーターアッセイ キット(プロメガ社)を用いてルシフェラーゼ活性を測定した。なお、レポータープラスミドであるIFNα、ISRE、及びNFκBは公知のものを採用した。そして、ウミシイタケ由来ルシフェラーゼを作動させるTKプロモーターを内部コントロールとして用いた。
【0189】
(3)インビトロリン酸化アッセイについて
大腸菌を用いてGSTタグ付きIRF3を製造し、精製の後プレシジョンプロテアーゼ(BDバイオサイエンス社)を用い、プロトコルに従ってGSTタグを切断した。GSTタグ付きTBK1は、HEK293t細胞を用いて製造し、10mMのグルタチオンを用いて精製した。
【0190】
インビトロカイネースアッセイは、反応バッファー(10μMのATP、100mMのNaCl、2mMのMgClを含む5mMのHEPES(pH7.2))中で、20ngのTBK1及び100nmolのIRF3を、30℃で30分インキュベートした。
【0191】
リポソームは、PC:PE:PIをそれぞれ30:8:2で混合し、超音波処理法にて作製した。また、インビトロカイネースアッセイには、これを40μMで使用した。
【0192】
GSTタグ付きSTINGは、HEK293t細胞を用いて製造し、10mMのグルタチオンセファロースビーズを用いて精製した。精製STINGは、アゾレクチン脂質とともに透析環境下で界面活性剤を除去することによりリポソームを形成させることで再構成した。
【0193】
(4)タンパク質脂質オーバーレイアッセイ
100μMの精製IRF3又はGST−TBK1タンパク質を膜脂質ストリップ(Echelon Biosciences;P6001)と共に、TBSーTバッファー(140mMのNaCl、2.5mMのKCl、及び0.05%のTween20を含む25mMのTris(pH8.0))中でインキュベートした。 その後、膜をTBSーTバッファー3回洗浄した後、抗IRF3抗体又は抗TBK1抗体と共にインキュベートして、更に2次抗体で処理した。
【0194】
(5)RNAi及び定量PCR(QPCR)について
2本鎖ステルスRNAはライフサイエンステクノロジー社から入手した。PIKfyveのターゲット配列は以下の通りである。
【0195】
(センス鎖)5’−UUCAGAAUGAAUCUAUCAUCUUCGG−3’〔配列番号2〕。
【0196】
siRNAはAmaxa Nucleofector(Lonza社)又はNEON(ライフ・テクノロジー社)を用いてエレクトロポーレーションした。エレクトロポーレーションから2日後に、MEF及びGM−DCを種々の試薬又はウイルスで刺激した。総RNAはTrizol reagent(ライフ・テクノロジー社)を用いて単離し、逆転写反応はReverTraAce(東洋紡)を用い、プロトコルに従って実験を行った。定量PCRに使用したプライマーは以下の通りである。
【0197】
mIFN;5′−ATGGTGGTCCGAGCAGAGAT−3′〔センス:配列番号3〕:5′−CCACCACTCATTCTGAGGCA−3′〔リバース:配列番号4〕。
【0198】
mIP−10;5′−CCATCAGCACCATGAACCCAAGT−3′:〔センス:配列番号5〕:5′−CACTCCAGTTAAGGAGCCCTTTTAGACC−3′〔リバース:配列番号6〕。
【0199】
mGAPDH:5′−TGACGTGCCGCCTGGAGAAA−3′〔センス:配列番号7〕:5′−AGTGTAGCCCAAGATGCCCTTCAG−3′〔リバース:配列番号8〕。
【0200】
mIL−6;5′−GTAGCTATGGTACTCCAGAAGAC−3′:〔センス:配列番号9〕:5′−ACGATGATGCACTTGCAGAA−3′〔リバース:配列番号10〕。
【0201】
mPIKfyve;5′−AAGTCTTACCCTCACATGAGCTAGTGA−3′〔センス:配列番号11〕:5′−ATCAGCTAGCATTCTACCCAAGGT−3′〔リバース:配列番号12)。
【0202】
(6)マウスへの免疫付与
IPS−1−/−マウス、IRF3−/−/IRF7−/−マウス、及びOT−IIマウスについては既に公知の方法によって作製されたものを用いた。全ての動物実験は、大阪大学微生物病研究所の動物実験委員会の承認を得て行った。
【0203】
マウスの免疫化は、C57BL/6Jマウス(日本クレア株式会社)を、計4回の免疫化のために毎週100μgのOVA(生化学工業株式会社)及び1mgのアラム(シグマ社)で腹腔内注射により免疫化するか、又は100μgのOVA/100μgのC8−PtdInsで筋肉注射により免疫化した。
【0204】
C8−PtdIns(5)P及びC8−PtdIns(4,5)PをPBSに可溶化し、免疫化のためにOVAと混合した。共培養実験については、C8−PtdIns(5)P、C8−PtdIns(4,5)P、又はポリI:Cで処理した1×10個のOVA特異的OT−IIトランスジェニックマウス由来のCD4T細胞及び1×10個のGM−DCを、10μgのOVAタンパク質の存在下で7日間培養し、IFNγの産生量を測定した。
【0205】
実験例1
PtdIns(5)Pの同定
TBK1による転写因子IRF3のリン酸化にともなう、IRF3の活性化が樹状細胞の活性化に必須なシグナルカスケードの一つとして知られている。この様なTBK1−IRF3シグナルカスケードを調節する細胞成分を同定するために、インビトロスクリーニングシステムを構築した。具体的には、組換えTBK1及びIRF3を調製し、これらをATPの存在下で様々な試薬と混合して実験を行った。
【0206】
IRF3の活性化は、インビトロカイネース反応の後、S396リン酸化IRF3に対する抗体を用いたウエスタンブロット法により検出することで評価した。TBK1及びIRF3を既知の免疫活性化剤であるDMXAA、dsDNA、高濃度のKCl、H、既知のDNAウイルスを抗原として樹状細胞が活性化する際に機能するシグナルタンパク質である精製STINGと共にインキュベートしたが、これらのいずれもIRF3リン酸化を増強することはできなかった(図1A)。
【0207】
次いで、細胞内成分がIRF3のリン酸化に関与するか否かを試験した。このために、HEK293t細胞を、クロロホルム/メタノールを用いて水溶性画分と不水溶性画分とに分離した。脂質又はコレステロールを含有する不水溶性画分(クロロホルム側)は、乾燥させ、反応バッファーに再懸濁して用いた。
【0208】
その結果、脂質を含む不溶性画分がIRF3のリン酸化を増大させることを見出した(図1A)。
【0209】
さらに、細胞を活性化させるためにIPS−1、TRIF、MyD88、又はTIRAPで形質転換したHEK293t細胞から単離した不溶性画分を用いて実験を行ったところ、コントロールと比較して、IRF3のリン酸化が強く誘導されることが明らかとなった(図1B)。
【0210】
このことは、活性化した細胞中で増加した不水溶性画分に含まれる成分が、TBK1を介するIRF3の活性化に関与することが示された。このような成分として脂質に着目し、これを検討する為のさらなる実験を行った。
【0211】
IRF3の活性化に関わる脂質を更に同定するために、タンパク質―脂質オーバーレイアッセイを用いてTBK1又はIRF3に結合する脂質を検討した。その結果、TBK1がPtdIns(5)Pに結合し、IRF3がPtdIns(3)P、PtdIns(4)P、及びPtdIns(5)P等の幾つかのアニオン性脂質に結合することを見出した(図1C)。カチオン性脂質又は任意の他の脂質へのこれらのタンパク質の結合は検出不能であった。
【0212】
このような知見から、アニオン性脂質がインビトロでIRF3のリン酸化を促進する能力を有することが示唆される。そこで、アニオン性脂質のIRF3の活性化への関与を調べるために、アニオン性脂質である様々な合成ホスファチジルイノシトールを、ホスファチジルコリン(PC)及びホスファチジルエタノールアミン(PE)と混合してリポソームを形成し、これらをインビトロカイネースアッセイに使用した。
【0213】
その結果、これらの中でも、PtdIns(5)Pを含有するリポソームがIRF3のリン酸化を最も効果的に助長した(図1D)。以上のことから、インビトロの実験においてPtdIns(5)PがTBK1−IRF3シグナルカスケードを調節することで、アジュバンド能を発揮する可能性が示唆された。
【0214】
実施例1にて用いた各種リン脂質は炭素数16の脂肪酸を含むものであり、具体的な出所は、Avanti Polar Lipid社の以下のカタログ番号のである。
【0215】
PC:840035C、
PE:840022C、
PI:850149P、
PI(3)P:850150P、
PI(4)P:840045X、
PI(5)P:850152P、
PI(3,4)P:850153P、
PI(3,5)P:850154P、 PI(4,5)P:850155P、
PI(3,4,5)P:850156P。
【0216】
このような実施例1にて示す方法は、アジュバント候補のスクリーニング方法として有用である。
【0217】
実験例2
PIKfyveの同定
次に、細胞内においてウイルス感染時にPtdIns(5)Pの産生を介したTBK1−IRF3シグナルカスケードを調節するカイネース又はホスファターゼの同定を試みた。
【0218】
候補遺伝子がIRF3の活性化を誘導するか否かは、候補遺伝子の発現プラスミドと共に転写因子であるIRFの活性を直接モニターするために設計されたIFN刺激応答要素(ISRE)を積んだレポータープラスミド(ISREレポータープラスミド)をHEK293細胞に形質転換し、細胞内のルシフェラーゼの発現を指標としたレポーターアッセイによって定量した(図2A)。
【0219】
HEK293細胞におけるPIKfyveの過剰発現は、ISRE及びIFNβのプロモーター活性を増大させたが、PIKfyveのカイネース・ネガティブ突然変異体を過剰発現させてもこれらのプロモーターを活性化しなかった。また、PIKfyveの過剰発現はウイルス感染時の細胞応答に必須な転写因子であるNF−κBのプロモーター活性には影響を与えなかった(図2B)。
【0220】
PIKfyveは、イノシトール環の5位のリン酸化によってPtdIns(5)P又はPtdIns(3,5)Pを合成するカイネースであり、過剰発現によりPtdIns(5)Pの産生が誘導され、特異的にISREのプロモーター活性を増大させたと考えられた(図2C)。
【0221】
抗ウイルス応答に必須なサイトカインであるIFNβの産生が誘導するにはNF−κBとISREが協調的に活性化していることが知られているが、これらの結果から、PIKfyveによるPtdIns(5)Pの産生がTBK1−IRF3シグナルカスケードを特異的に調節することでIFNβ等の産生を制御することが示唆された。これらのことは、PtdIns(5)Pがアジュバンドとして特異的にTBK1−IRF3を標的として働く可能性を示唆している。
【0222】
実験例3
細胞質の病原体由来核酸の検知経路に関わるPIKfyveの役割
実際にPIKfyveを介したPtdIns(5)Pの産生が抗ウイルス先天性免疫応答を調節するか否かを検討するために、PIKfyveをsiRNAを用いてノックダウンしたMEFを用いた実験を行った(図3A)。
【0223】
PIKfyveをノックダウンすることで、ポリI:Cによる刺激及びRNAウイルスであるNDVの感染後のIRF3依存的として知られるIFNβ及びIP−10の産生を抑制したが、IRF3非依存的なIL−6の産生には影響しなかった(図3B)。ポリI:Cによる刺激後のIFNβのmRNAレベルも、PIKfyveノックダウンによって低下した(図3C)。
【0224】
さらに、ポリI:Cによる刺激後のIRF3のリン酸化及びリン酸化よって引き起こされる二量体形成も、PIKfyveのノックダウンによって抑止された(図3D)。
【0225】
これに対し、ウイルス感染に伴って活性化する、その他のシグナルカスケードの影響をJNKのリン酸化及びNF−κBファミリーであるRelAの核内移行により確認したが、PIKfyveのノックダウンによっては妨げられなかった(図3E及び図3F)。また、GM−DC(樹状細胞)におけるPIKfyveのノックダウンは、ポリI:Cによる刺激及びEMCV並びにSeV(Cm)による感染後に、IFNβ及びIP−10の産生も抑止した(図3G及び図3H)。そしてポリI:Cによる刺激後のIL−6産生は、これらの細胞において抑制されなかった(図3G)。
【0226】
これらの結果をまとめると、PtdIns(5)Pが、RNAウイルス感染時に引き起こされるTBK1−IRF3シグナルカスケードの活性化に特異的に必要であることをPtdIns(5)Pの代謝因子であるPIKfyveの抑制により明示している。さらに、PtdIns(5)Pの添加は樹状細胞を活性化しサイトカインの産生を通じてアジュバント能を発揮する可能性を示唆している。
【0227】
実験例4
合成C8−PtdIns(5)Pによるサイトカインの産生とアジュバント効果
PIKfyveは、イノシトール環の5’位のリン酸化によって、PtdInsからPtdIns(5)Pを、PtdIns(3)PからPtdIns(3,5)Pを生じる。
【0228】
TBK1−IRF3シグナルカスケードへのPtdIns(5)Pの関与の直接証拠を得るために、合成したPtdIns(5)Pを外因的に投与することによって、TBK1−IRF3シグナル依存性のサイトカインの産生を誘導することができるか否かを調べた。
【0229】
イノシトール環の5’位でリン酸化したホスファチジルイノシトールの中でも、C8−PtdIns(5)PによってGM−DCの処理することにより、IRF3依存性サイトカインであるIP−10及びRANTESの産生を誘導することが明らかとなった(図4A)。
【0230】
ウイルス応答におけるサイトカインの産生には、TBK1の上流に存在するアダプター因子であるIPS−1を介して、TBK1−IRF3シグナルカスケードを活性化している。そこで、C8−PtdIns(5)Pによるサイトカイン産生の作用点を明らかにするため、IPS−1欠損マウス又はIRF3/IRF7欠損マウスに由来するGM−DCにおけるサイトカインの産生を調べた。
【0231】
その結果、野生型GM−DC及びIPS−1−/−に由来するGM−DCは、C8−PtdIns(5)P刺激の後に、IP−10及びRANTESの産生に影響を与えなかった。一方で、IRF3−/−/IRF7−/−に由来するGM−DCは、IP−10又はRANTESの産生を示さなかった(図4B)。
【0232】
加えて、C8−PtdIns(5)PによるIFNβ産生もIRF3−/−/IRF7−/−に由来するGM−DCにおいて抑止されたが、IPS−1−/−由来のGM−DCにおいては変わらなかった(図4C)。
【0233】
これらの結果から、PIKfyveによって生成されたPtdIns(5)Pは、IPS−1の下流のシグナル分子であるTBK1−IRF3を標的として活性化することが示された。
C8−PtdIns(5)PがGM−DCのサイトカインの産生を誘導することから、MPL AやポリI:Cと同様に生体においてはC8−PtdIns(5)Pがアジュバントとして働くことが強く期待された。
【0234】
そこでC57/BL6マウスに、オボアルブミン(OVA)とPBS、C8−PtdIns(5)P、若しくはC8−PtdIns(4,5)Pとで筋肉注射により免疫化するか、又は陽性対照であるアラムと併せたOVAで腹腔内注射により免疫化し、血清中のOVA特異的総IgGを免疫化後に測定した。
【0235】
OVAとC8−PtdIns(5)Pとで免疫化したマウスは、OVAとPBS又はC8−PtdIns(4,5)Pとで免疫化したマウスよりも高力価のOVA特異的IgGを産生した(図4D)。
【0236】
次に、どのような作用機序でアジュバンド能を発揮しているかを検討するため、C8−PtdIns(5)PによりT細胞活性化が誘導されるか否かを検討した。OVA特異的T細胞レセプターを発現するトランスジェニックCD4T細胞を、OVAタンパク質の存在下でC8−PtdIns(5)P、C8−PtdIns(4,5)P、又はポリI:Cで処理したGM−DCとともに共培養し、T細胞の活性化の指標としてIFNγの産生量を測定した(図4E)。C8−PtdIns(5)Pによる処理ではIFNγ産生を誘導したが、C8−PtdIns(4,5)Pによる処理では誘導しなかった。
【0237】
したがって、これらの知見から、C8−PtdIns(5)Pが、Th2細胞応答を昂進させることにより、アジュバント能を発揮することが明らかとなった。
【0238】
実施例4にて用いた各種リン脂質は炭素数8の脂肪酸を含むものであり、具体的な出所は、PI(3,4,5)Pを除き、Echelon Biosciences社の以下カタログ番号のものである。
【0239】
PI:P−0008a、
PI(3)P:P−3008a、
PI(4)P:P−4008、
PI(5)P:P−5008a、
PI(3,4)P:カタログ番号P−3408a、
PI(3,5)P:カタログ番号P−3508、
PI(4,5)P:カタログ番号P−4508a、
PI(3,4,5)Pは、Avanti Polar Lipid社のカタログ番号が850176Pのものである。
【0240】
上記の実施例1〜4における実験結果を総合的にまとめると、PtdIns(5)Pが、ポリI:Cと同様に免疫活性化シグナルを作動させるものの、ポリI:Cが関与するTBK1−IRF3シグナルカスケードのみを特異的に活性化していることから、PtdIns(5)Pが、ポリI:Cなどが誘起してしまう副作用を軽減しつつも、十分なアジュバント能を発揮することを示している。
【0241】
さらに、C8−PtdIns(5)Pでの免疫後にIgGのレベルの増大が見られたが、IgG、IgG、IgA、又はIgE等の他のサブクラスについては見られなかった。IgEが著量に産生されると、炎症を誘導する可能性が高く、また、免疫効果を発揮するのはIgG等が主役となることから、C8−PtdIns(5)が炎症等の副作用を引き起こさないアジュバント能を有することが明らかとなった。
【0242】
その他、副作用の低減は、C8−PtdIns(5)Pを、野生型GM−DCに作用させても、炎症性サイトカインとして知られるIL−1βの産生を引き起こさないことからもサポートされた(図5)。
【0243】
以上のことより、C8−PtdIns(5)Pは、十分なアジュバント能を有しながらも、特異的な作用機序により副作用のない、安全で有用なアジュバントとなりえることが示唆される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]