(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、陽電子放射断層撮影(Positron Emission Tomography、以下、PETとする)検査と、単一光子放射断層撮影(Single Photon Emission Computed Tomography、以下、SPECTとする)検査が、放射線を利用したがん診断法の趨勢になっている。
【0003】
2016年7月15日の国立ガン研究センターの報告によれば、日本では、2015年で37万人がガンで死亡し、2016年には、101万人が新たにガン患者として発見されると予想されている。保健医療が充実してきた日本におけるガン死亡率は、米国、欧州等と比較しても高いため、上述のPET検査やSPECT検査が頻繁に行われている。
【0004】
そして、PET検査やSPECT検査では、放射性同位元素標識化合物(RI標識化合物)が基本的に使用されている。このRI標識化合物は、ガンの病巣部に集積されやすい化合物の特定の位置にある原子を放射性同位体(RI)で置き換えて通常の化合物と区別出来るようにした化合物である。PET検査では、RI標識化合物の代表例としては、グルコース(ブドウ糖)に18−フッ素同位体(18F)を組み込んだ18F−2−フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(18F−FDGとする)をガン患者に投与し、18F−FDGの18Fから放出される陽電子が電子と対消滅し、511keVのエネルギーを持つ2本のガンマ線を検出することで、体内の18F−FDGの分布を撮影し、グルコースの代謝が著しいガン患部を特定する。一方、SPECT検査では、RI標識化合物として、ガンマ線を放射する99mテクネチウム同位体(99mTc)を組み込んだ標識化合物をガン患者に投与し、99mTcから放出される140keVのガンマ線を検出することで、体内の99mTcの分布を撮影する。99mTcのある標識化合物は、血液中に集積されるため、SPECT検査は、例えば、心筋血流イメージングや脳機能イメージングに用いられる。
【0005】
PET検査でもSPECT検査でも、特殊なRI標識化合物を用いることから、その検査費用が高いという難点がある。例えば、SPECT検査では、2007年に日本で受診した患者は100万人以上であり、その費用は1500億円、99mTcがSPECTのほぼ100%を占め、一方、PET検査は、これの3倍から4倍も掛かる。日本では、PET検査・SPECT検査に毎年、数千億円の費用をかけて、ガン治療のための画像診断を行っている。
【0006】
ところで、PET検査で使用される18F−FDGの18Fは、通常、下記のように製造される。先ず、小型サイクロトロンによる陽子ビームを18−酸素同位体(18O)に照射し、18O(p,n)18F反応を利用することで、18Oから18Fを製造する。
【0007】
ここで、16−酸素同位体(16O)の存在比は、99.762%であり、17−酸素同位体(17O)の存在比は、0.039%であり、18−酸素同位体(18O)の存在比は、0.201%と非常に低い。そのため、PET検査用の18Fの製造では、高価な18O濃縮水が使用されている。例えば、特開2004−59356号公報(特許文献1)には、18Fフッ化物イオン生成原料用の18O濃縮水に関する技術が開示されている。18O濃縮水は、高価であることから、発展途上国では、18O濃縮水を利用することは皆無である。
【0008】
又、18Fを製造するために利用する小型サイクロトロンを利用すると、18Fの製造にかかわる作業者がかなりの放射線被ばくを受けることが避けることが出来ない。つまり、18O濃縮水に小型サイクロトロンからの大強度の陽子ビームを照射させて18Fを製造することから、この陽子ビームの取り出し窓等に大量の放射線物質が必然的に発生する。ビーム取り出し窓は破損のおそれもあり、定期的に交換し、陽子ビームの照射装置の保守を定期的に行う必要がある。この作業により大量の放射線被ばくが必然的に発生する。
【0009】
そのため、近年では、18O濃縮水を用いない18Fの製造方法が各種開発されている。例えば、特開2006−3363号公報(特許文献2)には、18Oの酸素ガスを用いて高収量の18Fのフッ素ガスを製造する技術が開示されている。ターゲットガスを用いた放射性ガス同位体の製造技術として、特開2010−164477号公報(特許文献3)には、反応室内に充填したガスを核反応中に循環させて冷却し、反応室内の圧力低下を図り、荷電粒子ビームを透過させる照射窓の厚みを薄くする放射性ガス同位体製造装置が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明し、本発明の理解に供する。尚、以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係るRI標識化合物製造装置の概念図である。本発明は、
図1に示すように、RI標識化合物を製造するRI標識化合物製造装置1であって、ガス充填部10と、ガス密封部11と、放射線照射部12と、RI標識化合物合成部13と、不純物トラップ部14とを備える。
【0019】
ガス充填部10は、ターゲットガスを核反応容器10aに充填し、ガス密封部11は、前記ターゲットガスが充填された核反応容器10aを密封する。放射線照射部12は、前記ターゲットガスが密封された核反応容器10aに放射線を所定時間照射させ、当該ターゲットガスを核反応させ、RI標識化合物合成部13は、前記核反応容器10aの開放後に、前記核反応後のターゲットガスに含まれる放射性同位体を液状の化合物13aと反応させることで、RI標識化合物を合成する。そして、不純物トラップ部14は、前記反応後のターゲットガスから不純物を除去し、当該除去後のターゲットガスを前記核反応容器10aに戻す。
【0020】
本発明では、放射線の照射によりターゲットガスを核反応させて、放射性同位体を生成させた後、放射性同位体を含むターゲットガスをそのまま液状の化合物13aを反応させる。そのため、放射性同位体の生成とRI標識化合物の合成を一つの装置に一体化することが可能となり、放射性同位体の生成の後、直ぐにRI標識化合物を得ることが出来るため、RI標識化合物の製造効率を高めることが出来る。
【0021】
RI標識化合物の反応後のターゲットガスから不純物を除去し、除去後のターゲットガスを再利用することで、RI標識化合物の製造効率を高めることが出来、更に、低価額で供給可能となる。特に、本発明では、放射性同位体を得るためのターゲットを液体で無く気体とすることで、ターゲットガスの搬送・取扱を容易にし、核反応後のターゲットガスを簡単に核反応容器10aに戻して、ターゲットガスを循環させることが出来る。仮に、ターゲットが液体の場合、ターゲット液体が放射線に照射されると、放射性同位体の核生成に伴ってターゲット液体の放射線分解が生じ、ターゲット液体内に気泡が生じ、気泡により核反応後のターゲット液体の搬送が困難になる場合がある。
【0022】
更に、本発明では、ターゲットガスを循環方式とし、放射性同位体を得て連続的にRI標識化合物を合成する構成とし、これらの制御はコンピュータ等の制御装置で可能な構成としている。つまり、本発明の各構成要素を全自動で行うことが出来るため、遠隔操作でRI標識化合物を得ることが出来る。そのため、作業員が装置に近づく頻度は殆ど無く、放射線被ばくの可能性を低減することが出来る。
【0023】
ここで、ターゲットガスと放射線の種類に特に限定は無いが、目的のRI標識化合物に応じて適宜設計される。例えば、RI標識化合物が18F−FDGの場合、ターゲットガスとしてネオンガスが選択され、放射線としてガンマ線が選択される。ネオン(Ne)は、他の原子、分子と化学反応を起こさない希ガス元素であり、安価である。一方、18Fは、ネオンにガンマ線を照射させることで、20Ne(γ,2n)18Neから18Fへのβ崩壊を経て間接的に製造するか、又は20Ne(γ,pn)18F反応から直接製造することが出来る。又、上述した核反応は光核反応であり、放射性ゴミとなる放射性物質の発生が飛躍的に少ない。そのため、放射線照射後のネオンガスでは、不必要な放射性物質の発生を抑制し、完全に回収して再利用することが出来る。又、高価な18O濃縮水を用いずに、18Fを安価に生成することが出来る。
【0024】
更に、ガス充填部10の構成に特に限定は無いが、例えば、ターゲットガスを循環させることが可能な循環型のコンプレッサーを採用することが出来る。この場合、コンプレッサーからターゲットガスが送出される送出口10bと、核反応容器10aの導入口10cとを連通させる第一の配管10dが設けられる。又、不純物トラップ部14は、RI標識化合物合成部13の排気口13bから排気される反応後のターゲットガスから不純物を除去し、第二の配管14aを用いて、除去後のターゲットガスを前記ガス充填部10のコンプレッサーの第一の供給口10eに導入することで、ターゲットガスの循環を容易にする。
【0025】
核反応容器10aの構成に特に限定は無いが、例えば、熱伝導が優れる素材を採用することが出来る。具体的には、熱伝導が銅と同程度のSiCセラミック容器を採用することにより、ガンマ線等の放射線の吸収により容器内に発熱が生じても、熱伝導により熱が発散して、容器内の圧力増加を防止することが出来る。もちろん、ターゲットガスが高圧ガス規制法の圧縮ガス(常温で圧力が10MPa以上になるガス)に該当しない範囲内でRI標識化合物を製造することが出来る。又、SiCが18Fと化学反応しないことから、製造した18Fの純度を保証することが出来る。その他に、生成されるフッ素の浸蝕性を加味して、耐蝕性に優れるテフロン(登録商標)素材で内面がコーティングされた容器をテスト的に採用しても良い。核反応容器10aの外面には、液体窒素等の冷却媒体を循環させることで冷却する循環冷却部15を備えても良い。
【0026】
ガス密閉部11の構成に特に限定は無いが、例えば、核反応容器10aの導入口10cに接続された第一の圧力バルブ11aと、核反応容器10aの排気口10fに接続された第二の圧力バルブ11bと、排気口10fと第二の圧力バルブ11bとの間に設けられた第一の圧力計11cとを備える。そして、ガス充填部10が核反応容器10aにターゲットガスを充填する際に、ガス密閉部11は、第一の圧力バルブ11aを開き、第二の圧力バルブ11bを閉じて、第一の圧力計11cの圧力値を監視しながら、核反応容器10a内のターゲットガスの圧力が所定の圧力値になるまでターゲットガスを充填させる。次に、第一の圧力計11cの圧力値が所定の値に到達すると、ガス密閉部11は、第一の圧力バルブ11aを閉じて核反応容器10aを密閉する。又、ガス密閉部11は、第一の圧力計11cを監視することで、異常を検出する。そして、ガス密閉部11は、放射線の照射中は、第一の圧力バブル11aと第二の圧力バルブ11bの閉塞を継続し、その間、核反応容器10a内のターゲットガスの核反応が進んで放射性同位体が生成される。その後、ガス密閉部11は、放射線の照射が停止すると、第二の圧力バルブ11bを開放することで、核反応容器10aから核反応後のターゲットガスを放出させる。
【0027】
ここで、核反応容器10a内に充填されるターゲットガスの圧力に特に限定は無いが、例えば、常圧よりも高い圧力であると好ましい。本発明では、ターゲットガスを用いていることから、ターゲット液体に放射線を照射する場合と比較して放射性同位体の生成収率は悪化する。そこで、核反応容器10a内のターゲットガスの圧力を高圧化し、温度を低くすることで、放射性同位体の生成収率を改善することが出来る。核反応容器10a内のターゲットガスの圧力は、高圧ガス規制法の圧縮ガスに該当しない範囲内であれば好ましく、例えば、3MPa〜10MPaの範囲内と設定される。又、核反応容器10a内のターゲットガスの圧力を高圧化することで、第二の圧力バルブ11bの開放時に、核反応後のターゲットガスを容易に吐き出させることが出来る。
【0028】
ガス充填部10の送出口10bと核反応容器10aの導入口10cとの間の第一の配管10dには、第一の圧力バルブ11aの他に、送出口10bから順番に、第二の圧力計10gと、第三の圧力バルブ10hと、圧力調整バルブ10iと、第三の圧力計10jとが設けられる。第二の圧力計10gは、送出口10bと第三の圧力バルブ10hとの間のターゲットガスの圧力を測定する。第三の圧力バルブ10hは、ガス充填部10の送出口10bからのターゲットガスの送出を制御する。圧力調整バルブ10iは、第三の圧力バルブ10gから送出されたターゲットガスの圧力が過大である場合に、当該ターゲットガスの圧力を調整する。第三の圧力計10jは、圧力調整バルブ10iと第一の圧力バルブ11aとの間のターゲットガスの圧力を測定する。
【0029】
放射線照射部12の構成に特に限定は無いが、例えば、放射線がガンマ線である場合、所定のエネルギーを有する電子線を照射する電子線照射部12aと、核反応容器10aの近傍に設けられ、電子線が照射されるとガンマ線を放出するガンマ線放出部12bとを備える。これにより、容易にガンマ線を照射することが出来る。ここで、ガンマ線放出部12bは、例えば、タングステン(W)、白金(Pt)、タンタル(Ta)等の電子線によりガンマ線を生じる標的が選択される。具体的には、30MeVのエネルギーを持つ電子線をタングステンに照射することで、制動輻射のガンマ線が発生し、それを放射線として利用するのである。
【0030】
ここで、陽子線を18O濃縮水に照射する場合、強い核力に基づいて核反応が生じるため、取り出し窓はこの核反応によって強く放射化される。一方、電子線を標的に照射することで、標的の制動輻射のガンマ線を利用する場合、標的窓は、SiやCで出来ており、光核反応によって生成される残留放射性物質の半減期は、ミリ秒程度であるので、事実上、放射化物は無い。又、長寿命残留放射化物は、生じず、標的装置の取り換えの必要が全く無い。従って、本発明では、そのような点でも放射線被ばくの可能性を低減させることが出来る。
【0031】
電子線照射部12aは、例えば、電子線型加速器(電子ライナック)を用いると、スイッチ一つで操作することが可能となり、全自動化、遠隔操作の制御が容易となる。サイクロトロンの陽子線では、取り扱いに知識を十分に有する熟練者が必要であるが、電子線型加速器では、素人でも取り扱うことが可能であるという利点もある。又、サイクロトロンは、設備の更新を行う必要があり、サイクロトロンを放射化物として処理すると、莫大な費用が必要となり、大きな問題となるが、電子線型加速器では、放射化物は殆ど無く、大分が産業廃棄物として処理出来るため、廃棄の点でも、電子線型加速器に利点がある。
【0032】
更に、サイクロトロンの陽子線を用いずに、ガンマ線を用いることで、核反応容器10a(標的ターゲット)を厚く構成することが出来る。例えば、サイクロトロンからの陽子線を18O濃縮水に照射して18Fを生成する場合、つまり、18O(p,n)18F反応を用いる場合、陽子線のエネルギーは15MeVであり、その電流は50mA〜70mAである。そして、陽子線は、サイクロトロンから、一旦、取り出し窓(Harbar foil、主にNi)を介して大気中に取り出す必要があり、且つ、陽子線をターゲットが含まれる容器の標的窓に通過させる必要がある。ここで、15MeVの陽子ビームが停止する厚さは、18O濃縮水で約6mmである。放射線同位体の生成を希望する場合は、ターゲットに対する陽子ビームの電流は増大する。すると、陽子線が照射される取り出し窓及び標的窓が強く放射化されるとともに、各窓毎に破損が生じ、例えば、2週間程度の使用で取り出し窓及び標的窓を取り換える必要がある。この取り換えの作業は手間であり、且つ、取り換えの際に作業者の放射線被ばくが生じ得る。本発明では、放射線としてガンマ線を使用し、且つ、電子線型加速器によりガンマ線を生じさせる構成とすることで、放射線被ばくの可能性を飛躍的に軽減することが出来る。又、ガンマ線は、透過力が高く、4Kの極低温では、20cmのターゲット厚さでも透過する。実用的には、常温のネオンガスで1時間のガンマ線照射により約2人分18F−FGDのPET用のRI標識化合物の量に相当する18Fの生成量を得ることが出来る。
【0033】
又、放射線を放射する所定時間(照射時間)に特に限定は無いが、例えば、生成される放射性同位体の半減期の半分と設定されると好ましい。放射性同位体が18Fである場合、18Fの半減期は110分であるため、例えば、照射時間は55分と設定される。
【0034】
さて、放射線照射部12が放射線の照射を停止し、ガス密閉部11が第二の圧力バルブ11bを開放すると、核反応容器10aから核反応後のターゲットガスが放出され、RI標識化合物合成部13へ送り込まれる。
【0035】
ここで、第二の圧力バルブ11bとRI標識化合物合成部13の第二の供給口13cとを連通させる第三の配管11dが設けられ、この第三の配管11dには、第二の圧力バルブ11bから順番に、減圧バルブ11eと、第四の圧力計11fとが設けられる。減圧バルブ11eは、第二の圧力バルブ11bの開放によりターゲットガスの圧力が過大である場合に、当該ターゲットガスの圧力を減圧する。第四の圧力計11fは、減圧バルブ11eとRI標識化合物合成部13の第二の供給口13cとの間のターゲットガスの圧力を測定する。
【0036】
又、RI標識化合物合成部13の構成に特に限定は無いが、例えば、放射性同位体が18Fであり、RI標識化合物が18F−FDGである場合、RI標識化合物合成部13は、化合物13aとして液状のグルコースを貯留する貯留部13dと、第二の供給口13cと連通され、貯留された化合物13aに核反応後のターゲットガスをバブリングするバブリング部13eとを備えている。これにより、核反応後のターゲットガスを化合物13a(液状のグルコース)内でバブリングすることで、ターゲットガス内の放射性同位体の18Fが化合物13aと反応し、RI標識化合物を簡単に合成することが出来る。具体的には、グルコースのOH基が18Fに置換され、18F−FDGを生成させる。又、ターゲットガスがネオンガスの場合、核反応していないネオンガスは不活性なため、化合物13aにバブリングされても反応することなく通過する。これにより、ネオンガスを回収して、再度、原料として利用することが出来る。
【0037】
又、RI標識化合物合成部13は、貯留部13d内の上方に化合物13aを供給する第三の供給口13fと、貯留部13d内の下方に反応後のRI標識化合物を取り出す取り出し口13gとを備えることで、化合物13aの補充とRI標識化合物の取り出しを容易にする。第三の供給口13fには、化合物13aの供給を制御する供給バルブ13hが設けられ、取り出し口13gには、反応後のRI標識化合物の取り出しを制御する取り出しバルブ13iが設けられる。RI標識化合物合成部13は、必要に応じて、貯留部13dの温度を一定に保つ温度調整部を更に備えても良い。
【0038】
ところで、化合物13aにより放射性同位体が失われたターゲットガスは、RI標識化合物合成部13の排気口13bから排気され、不純物トラップ部14の第二の配管14aを通ってガス充填部10の第一の供給口10eに案内される。
【0039】
ここで、RI標識化合物は18F−FDGに特に限定する必要は無い。例えば、放射性同位体が18Fであり、RI標識化合物はNa−18Fである場合、RI標識化合物合成部13の貯留部13dは、化合物13aとして水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を貯留し、バブリング部13eは、水酸化ナトリウム水溶液に核反応後のターゲットガスをバブリングする。すると、水酸化ナトリウム水溶液中のNaOHのOH基が18Fに置換され、Na−18Fを生成させる。尚、Na−18Fは、水溶液中で、Na+と18F−のイオンとなっている。つまり、18Fと置換可能なOH基を有する液体であれば、この液体をRI標識化合物にすることが出来る。18Fと置換可能なOH基を有する液体は、例えば、アルコール、カルボン酸、アミノ酸等を挙げることが出来る。
【0040】
ここで、不純物トラップ部14の構成に特に限定は無い。不純物トラップ部14は、例えば、反応後のターゲットガスを0度以下まで冷却するガス冷却部14bを備えると好ましい。これにより、反応後のターゲットガスは、0度以下まで冷やされることで、ターゲットガスの密度を高めた状態でターゲットガスを核反応容器10a内に再利用することが可能となる。又、反応後のターゲットガスには、液状の化合物13a(例えば、OH基を有する液体)でバブリングした際に混入される水等の不純物が含まれる可能性が高いため、そのような不純物を除去するために、ターゲットガスを一度0度以下までに冷却することで、不純物を液化し、ターゲットガスから分離させることが出来る。水等の不純物を確実に除去することで、除去後のターゲットガスを核反応容器10aに戻しても、水等の不純物が放射性同位体と反応することが無いことから、放射性同位体の生成効率を維持し、目的のRI標識化合物の収率の低下を防止することが出来る。
【0041】
ガス冷却部14bは、RI標識化合物合成部13の排気口13bから排気された反応後のターゲットガスが供給される第四の供給口14cと、不純物をトラップするトラップ部14dと、当該トラップ部14dを0度以下まで冷却させる冷却媒体14eと、トラップ部14d内の下方に不純物を取り出す取り出し口14fと、トラップ部14dを通過したターゲットガスが排気される排気口14gとを備えている。トラップ部14dは、例えば、第四の供給口14cからのターゲットガスを迂回させる迂回経路を構成し、冷却媒体14eとの接触面積を広げ、不純物の液化を確実にする。
【0042】
冷却媒体14eは、簡便さの点から、例えば、マイナス196度(77K)まで冷却している液体窒素を利用することが出来る。ここで、放射線照射部12が25MeV、1mAの電子線を用いてガンマ線を発生させて常温のネオンガスに1時間照射した場合、約2人分のRI標識化合物の量に相当する18Fの生成量を得ることが出来る。仮に、ターゲットガスの温度を液体窒素の温度まで冷却出来た場合、ターゲットガスの密度が上がり、その放射性同位体の生成収率は、ターゲットガスの温度が常温(27度)の場合の放射性同位体の生成効率と比較して(273+27)/77=3.9倍も増加する。この場合、一時間当たりに約7−8人分のRI標識化合物の量に相当する18Fの生成量を得ることが出来る。1日中、放射性同位体を生成させ続ければ、7人×24時間=168人分のRI標識化合物の量に相当する18Fの生成量を得ることが出来る。尚、冷却媒体14eは、液体窒素に限らず、例えば、ドライアイスを入れたメタノールでも良い。ドライアイスを入れたメタノールは、マイナス30度まで冷却することが出来る。
【0043】
ところで、上述では、不純物トラップ部14が、反応後のターゲットガスを冷却することで、ターゲットガス中の不純物を液化し、ターゲットガスから不純物を除去する方法を採用したが、他の除去方法を採用しても構わない。例えば、不純物トラップ部14は、水や低分子の不純物を吸着し、ターゲットガスのみを通過させる不純物吸着部を備えても良い。不純物吸着部では、多孔質の空孔に分子を吸着し、特に水分子を強く吸着するモレキュラーシーブ(乾燥剤)に反応後のターゲットガスを通過させる。他に、不純物トラップ部14は、触媒を不純物と反応させ、不純物を除去する不純物触媒部を備えても良い。触媒は、例えば、排ガスの浄化装置で使用される、このように、他の除去方法でも良く、除去方法は、単独でも組み合わせでも構わない。
【0044】
さて、不純物が除去され、ガス冷却部14bの排気口14gから排気されたターゲットガスは、コンプレッサーの第一の供給口10eに供給されて、再度、核反応容器10aへ送出される。
【0045】
ここで、ターゲットガスは、RI標識化合物の合成に伴って減少していくため、例えば、ターゲットガスを補充するガス補充部16を更に備えると好ましい。ターゲットガスの補充位置として、例えば、ガス充填部10のコンプレッサーの送出口10bと核反応容器10aの導入口10cとの間の第一の位置と、RI標識化合物合成部13の排気口13bとガス冷却部14bの第四の供給口14cとの第二の位置が好ましい。
【0046】
第一の位置では、例えば、圧力調整バルブ10iと第三の圧力計10jとの間にターゲットガスの第一のガス供給管16aが設けられ、第一のガス供給バルブ16bによりターゲットガスの補充の制御が行われる。又、第二の位置では、RI標識化合物合成部13の排気口13bとガス冷却部14bの第四の供給口14cとの間に、第四の圧力バルブ16cが設けられ、第四の圧力バルブ16cとRI標識化合物合成部13の排気口13bとの間にターゲットガスの第二のガス供給管16dが設けられ、第二のガス供給バルブ16eによりターゲットガスの補充の制御や繰り返し使用されたターゲットガスの追い出し(新規ターゲットガスへの入れ替え)が行われる。特に、ガス補充部16が第二のガス供給管16dを介して補充したターゲットガスは、一度、ガス冷却部14bを通過して核反応容器10aへ送り出されるため、不純物を除去したターゲットガスを核反応容器10aに充填することが出来る。第一のガス供給バルブ16bと第二のガス供給バルブ16eとは、ガス供給口16fと接続され、ガス供給口16fに、図示しないターゲットガスボンベからターゲットガスが送り込まれる。
【0047】
本発明では、ターゲットガスをネオンガスとした場合、安価なネオンガスを用いて18Fを容易に生成し、18Fに置換させた大量のRI標識化合物(例えば、Na−18F、18F−FDG等)を合成することが出来るため、一日当たり数十人分のPET検査用のRI標識化合物を製造することが出来る。本発明では、原料のネオンガスを回収して再利用することが出来るとともに、全て遠隔操作で行うことが出来るため、作業者の放射線被ばくの可能性を全く無くすことが出来る。又、高価な18O濃縮水を使用する必要が無くなるため、開発途上国でもPET検査を安価に利用することが可能となり、先進国以外でも人類のガン撲滅の目標に向かって医療貢献が出来る。その他に、薬剤研究のためのRI標識化合物であっても、同様に、大量に製造することが出来る。
【0048】
<実施例>
以下、実施例等によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0049】
先ず、
図1に示す図面に基づいて、RI標識化合物製造装置1の試作品を作成した。
図2に示すように、RI標識化合物製造装置1は、ネオンガスのターゲットガスを核反応容器10aに充填する循環型のコンプレッサーのガス充填部10と、一対の圧力バルブのガス密封部11と、液状のグルコースを貯留する貯留部13dを有するRI標識化合物合成部13と、液体窒素で冷却して不純物を除去する不純物トラップ部14とを備える。放射線照射部12は、所定の施設のガンマ線照射で代替する。RI標識化合物合成部13には、貯留部13dの温度を一定に保つ温度調整部13jを備える。
【0050】
図3に示すように、ガス充填部10からのターゲットガスを送出する第一の配管10dは、核反応容器10aの導入口10cに接続され、核反応容器10aの導入口10cに第一の圧力バルブ11aと、核反応容器10aの排気口10fに第二の圧力バルブ11bがそれぞれ設けられる。核反応容器10aの排気口10fと第二の圧力バルブ11bとの間には、第一の圧力計11cが設けられる。第一の配管10dには、第二の圧力計10gと、第三の圧力バルブ10hと、第三の圧力計10jとが設けられる。不純物トラップ部14から排出されるターゲットガスは、第二の配管14aによりコンプレッサーへ戻される。第二の圧力バルブ11bに接続された第三の配管11dには、第一の圧力計11cとRI標識化合物合成部13の第二の供給口13cとの間に第四の圧力計11fが設けられる。貯留部13dには、液状の化合物13aの供給バルブ13hと、RI標識化合物の取り出しバルブ13iが設けられる。トラップ部14dは、液体窒素が入れられるガス冷却部14bの内部に固定される。貯留部13dの排気口13bとトラップ部14dの第四の供給口14cとの間に第四の圧力バルブ16cが設けられ、トラップ部14dの排気口14gには、第二の配管14aが接続される。貯留部13dの排気口13bと第四の圧力バルブ16cとの間から第二のガス供給管16dが設けられ、第二のガス供給バルブ16eを介してガス供給口16fに接続される。ガス供給口16fは、第一のガス供給バルブ16bを介して、第一のガス供給管16aに接続され、第一の配管10dへ連通する。
【0051】
このRI標識化合物製造装置1の試作品を、電子線型加速器(電子ライナック)の施設に搬入し、18Fの製造試験を行った。
図4に示すように、電子線型加速器の先端4に対して、RI標識化合物製造装置1の試作品の核反応容器10aを接近させて配置した。ターゲットガスとしてネオンガスを核反応容器10aに封入した。核反応容器10aは、直径が2cm、長さが50cmであり、ネオンガスを9気圧で核反応容器10aに封入した。そのため、ネオンガスの体積は、3.14cm
2×50cm×9気圧=1413cm
3、ネオンガスの物質量は、1314cc/22.4/1000cc=0.059molとなる。RI標識化合物合成部13の貯留部13dに液状の化合物13aとして低濃度の水酸化ナトリウム水溶液を10ccだけ入れた。不純物トラップ部14に液体窒素を入れた。そして、電子線型加速器の先端4には、タングステンを設け、電子線型加速器で電子線をタングステンに照射して、制動輻射のガンマ線を核反応容器10aに照射し、18Fを生成させた。そして、核反応容器10aを開放し、生成した18Fを含むネオンガスを水酸化ナトリウム水溶液に反応させて、18Fを水酸化ナトリウム水溶液に捕集し、RI標識化合物としてNa−18Fを製造した。電子線型加速器の電子線エネルギーは40MeV、電流値は3μA、フォトンフラックスは10
12photon/secであった。製造したNa−18Fは、小瓶に採取し、
図5に示すように、放射線検出用のCdTe検出器5の検出面を、Na−18Fが入った小瓶6の外面に当てて、Na−18Fとから発生する放射線のスペクトルを経時的に測定し、スペクトルの経時変化を求めた。又、放射線のスペクトルの解析は、端末装置7で行った。
【0052】
Na−18Fの製造完了時点における放射線のスペクトルは、
図6に示すように、縦軸に計数(count/keV)、横軸にエネルギー(keV)で表現されるが、エネルギーが511keVのピークのみが見られることが理解される。この511keVのピークは、18Fのβ+崩壊で生じるピークに対応する。従って、製造された製造物は、ほぼNa−18Fであり、その収率が極めて高いことが理解される。
【0053】
尚、
図6に示す放射線のスペクトルには、エネルギーが80keVの付近に2本のピークと、エネルギーが180keVの付近に1本のピークが見られるが、これらのピークは、CdTe検出器に起因するものと考える。
【0054】
次に、経過時間毎に測定された放射線のスペクトルの面積を算出して、放射線量の減衰曲線を作成した。作成した放射線量の減衰曲線は、
図7に示すように、縦軸に全計数(count/10
3sec)、横軸に経過時間(hour)で表現される。ここで、18Fの半減期の109.77分を用いて、減衰曲線の式を挿入すると、時間経過による放射線量の減衰は、2000(count/10
3sec)から300(count/10
3sec)まで、18Fの半減期の減衰曲線にフィットすることが理解される(減衰曲線の半減期は18Fの半減期と一致している)。これにより、製造された製造物は、ほぼ18Fであることを示している。放射線のスペクトルの単純さと18Fの半減期の減衰曲線の一致から考慮すると、不純物が1/1000以下であり、高純度のNa−18F(RI標識化合物)が製造されたと推定している。
【0055】
従って、RI標識化合物製造装置1の試作品では、極めて高い収率でRI標識化合物を製造できることが確認出来た。
【0056】
そして、放射線照射後のネオンガスを完全に回収して、再度、核反応容器に封入し、今度は、水酸化ナトリウム水溶液を液体のグルコースに代えて、ガンマ線を照射して、18Fを生成させ、18F−FDGを製造した。その際の収率は、上述と同様に高かった。そのため、ターゲットガスを再利用可能であり、放射性同位体の製造効率が高いことが分かった。又、放射線被ばくの可能性をゼロに近づけ、低価額で供給することが出来ることが分かった。
【課題】ターゲットガスが再利用可能で、放射性同位体の製造効率が高く、放射線被ばくの可能性をゼロに近づけ、更に、低価額で供給可能なRI標識化合物製造装置及びRI標識化合物製造方法を提供する。
【解決手段】ガス充填部10は、ターゲットガスを核反応容器10aに充填し、ガス密封部11は、前記ターゲットガスが充填された核反応容器10aを密封する。放射線照射部12は、前記ターゲットガスが密封された核反応容器10aに放射線を所定時間照射させ、当該ターゲットガスを核反応させ、RI標識化合物合成部13は、前記核反応容器10aの開放後に、前記核反応後のターゲットガスに含まれる放射性同位体を液状の化合物13aと反応させることで、RI標識化合物を合成する。そして、不純物トラップ部14は、前記反応後のターゲットガスから不純物を除去し、当該除去後のターゲットガスを前記核反応容器10aに戻す。