(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記通電制御部は、前記推定解凍時間がゼロの場合には、前記内燃機関の排気温度が所定の閾値以上になったときに前記コイルへの通電を開始することを特徴とする、請求項1に記載の還元剤噴射装置の制御装置。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるディーゼルエンジン等の内燃機関の排気中にはNO
X(窒素酸化物)が含まれている。かかるNO
Xを還元して窒素や水蒸気等に分解することにより排気を浄化するための装置として、尿素SCR(Selective Catalystic Reduction)システムが実用化されている。尿素SCRシステムは、還元剤として尿素水溶液を使用して、排気中のNO
Xをアンモニアと反応させることにより、NO
Xを分解するシステムである。
【0003】
かかる尿素SCRシステムは、排気通路に配置された選択還元触媒と、選択還元触媒よりも上流側の排気通路に尿素水溶液を噴射するための還元剤噴射装置とを備える。選択還元触媒は、尿素水溶液が分解して生成されるアンモニアを吸着し、流入する排気中のNO
Xとアンモニアとの還元反応を促進する機能を有する触媒である。また、還元剤噴射装置は、貯蔵タンク内に収容された尿素水溶液を圧送するポンプと、ポンプにより圧送される尿素水溶液を噴射する噴射弁と、ポンプ及び噴射弁の制御を行う制御装置とを備える。
【0004】
尿素SCRシステムで使用される尿素水溶液は、濃度によって凝固点が異なる。最も低い凝固点でも、その温度はマイナス11℃程度である。そのため、停車中に尿素水溶液の凝固が発生し、体積が膨張することによって、ポンプや噴射弁、尿素水溶液を流通させる配管等が破損しないように、内燃機関の停止時には尿素水溶液がシステム内から貯蔵タンクに回収される。回収された尿素水溶液は、次回の内燃機関の始動時にシステム内に再充填される。
【0005】
尿素SCRシステムでは、内燃機関の停止時において、排気管から伝達される熱により噴射弁内に残留する尿素水溶液が加熱されると、水分が蒸発して尿素の結晶が析出する場合がある。具体的には、水分の蒸発により尿素の結晶が析出したり、水分の蒸発により尿素水溶液の濃度が上昇した後、噴射弁が大気温度まで低下する際に、水溶液中に溶けきれなくなった尿素の結晶が析出したりする場合がある。かかる尿素の結晶が析出すると、噴射弁の弁体が固着し、次回の内燃機関の始動時における噴射弁の作動不良の原因となる。
【0006】
ただし、結晶化した尿素は水に溶けやすいために、噴射弁に尿素水溶液が供給されることにより噴射弁の作動不良は解消される。また、かかる結晶は高温で融解するために、排気温度が上昇することにより、排気管を介して伝達される熱により噴射弁の作動不良は解消される。しかしながら、内燃機関の始動時に、尿素の結晶が尿素水溶液に溶けるか、あるいは、排気熱によって融解するまでの間にも排気は発生するため、尿素の結晶を速やかに融解させることが望まれる。
【0007】
ここで、結晶化した尿素を融解する技術ではないものの、噴射弁のコイルへの通電によりコイルを発熱させ、噴射弁内で凍結した尿素水溶液を解凍させる技術が知られている。例えば、特許文献1には、貯蔵タンクにおける尿素水溶液の温度があらかじめ設定された下限温度よりも低いとき、尿素水溶液が噴射しない程度の電流を噴射弁のコイルに供給し、コイルを発熱させる技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載された技術は、凍結した尿素水溶液を解凍することを目的とするものであり、噴射弁内に析出した尿素の結晶の融解のための技術ではない。さらに、特許文献1に記載の技術は、貯蔵タンクにおける尿素水溶液の温度が下限温度よりも低い時にコイルに通電されるようになっている。一方、尿素水溶液が解凍状態の温度においても尿素の結晶は存在し得るために、特許文献1に記載の技術は、尿素の結晶を融解させることを意図していない。
【0010】
仮に、特許文献1に記載の技術を尿素の結晶の融解に適用するとすれば、以下のような問題が考えられる。すなわち、内燃機関の始動時に、始動直後からコイルに電流を供給すると、噴射弁に隣接する排気管等の部材も低温であることから、コイルから発生した熱が周囲の部材に奪われることになる。したがって、尿素の結晶を融解させるまでに、長時間コイルへ通電することになり、バッテリの電力消費量が大きくなるおそれがある。また、コイルへの通電時間が長くなると、コイルの熱劣化を生じるおそれもある。
【0011】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、内燃機関の始動時に、噴射弁のコイルに短時間通電することにより、効率よく噴射弁を加熱して、尿素の結晶を早期に融解させることが可能な、新規かつ改良された還元剤噴射装置の制御装置及び制御方法並びに還元剤噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、内燃機関の始動時に還元剤を装置内に充填し、噴射弁により前記還元剤を前記内燃機関の排気通路に噴射させる制御を行う還元剤噴射装置の制御装置において、前記内燃機関の排気温度が所定の閾値以上になった後に、前記噴射弁のコイルに所定時間通電することにより前記噴射弁を昇温させて、前記噴射弁内に析出した前記還元剤の結晶の融解を促進させる通電制御を行う通電制御部を備えることを特徴とする、還元剤噴射装置の制御装置が提供される。
【0013】
また、前記内燃機関の始動時に、凍結した前記還元剤の解凍に要する推定解凍時間を算出する推定解凍時間演算部を備え、前記通電制御部は、前記推定解凍時間がゼロでない場合に、前記内燃機関の排気温度が所定の閾値以上になった後、前記推定解凍時間の経過前に前記噴射弁のコイルへの通電を開始してもよい。
【0014】
また、前記通電制御部は、解凍実施時間が、前記推定解凍時間から前記所定時間を引いた値である閾値に到達したときに前記コイルへの通電を開始してもよい。
【0015】
また、前記通電制御部は、前記推定解凍時間がゼロの場合には、前記内燃機関の排気温度が所定の閾値以上になったときに前記コイルへの通電を開始してもよい。
【0016】
また、前記所定時間は、あらかじめ設定された値であってもよい。
【0017】
また、前記所定時間は、少なくとも外気温に基づいて設定される値であってもよい。
【0018】
また、前記所定時間は、さらに前記噴射弁の電源電圧に基づいて設定される値であってもよい。
【0019】
また、前記推定解凍時間演算部は、少なくとも還元剤の温度に基づいて前記推定解凍時間を算出してもよい。
【0020】
また、前記通電制御部は、前記所定時間の経過後に、前記還元剤の噴射制御の実行を許可してもよい。
【0021】
また、直前の前記内燃機関の停止時に前記噴射弁内に前記結晶が析出したか否かを推定する結晶化推定部を備え、前記通電制御部は、前記結晶の析出が予測されたときに前記コイルへの通電制御を行ってもよい。
【0022】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、内燃機関の始動時に還元剤を装置内に充填し、噴射弁により前記還元剤を前記内燃機関の排気通路に噴射させる制御を行う還元剤噴射装置の制御方法において、前記内燃機関の排気温度が所定の閾値以上になった後に、前記噴射弁のコイルに所定時間通電することにより前記噴射弁を昇温させて、前記噴射弁内に析出した前記還元剤の結晶の融解を促進させる通電制御を行うステップを備えることを特徴とする、還元剤噴射装置の制御方法が提供される。
【0023】
また、上記課題を解決するために、本発明のさらに別の観点によれば、上述したいずれかの制御装置と、貯蔵タンク内の還元剤を圧送するポンプと、前記還元剤を内燃機関の排気通路に噴射する噴射弁と、を備えることを特徴とする、還元剤噴射装置が提供される。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように本発明によれば、内燃機関の始動時に、排気温度が所定の閾値以上になった後に噴射弁のコイルに短時間通電することにより、効率よく噴射弁を加熱して、尿素の結晶を早期に融解させることができるようになる。したがって、バッテリの電力消費量を低減できるとともに、コイルの劣化を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0027】
<1.SCRシステムの全体構成例>
まず、
図1を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかる還元剤噴射装置20を備えた尿素SCRシステム10の全体構成例について説明する。
図1は、尿素SCRシステム10の概略構成を示す図である。尿素SCRシステム10は、還元触媒13と、還元剤噴射装置20とを主たる要素として備えている。
【0028】
尿素SCRシステム10は、還元剤として尿素水溶液を用いて排気中のNO
Xを還元し分解するシステムである。尿素水溶液は、例えば凍結温度が最も低い、32.5%濃度の尿素水溶液とすることができる。この場合の凍結温度は、約マイナス11℃である。また、尿素水溶液は、水分が蒸発する等によって、尿素が結晶化することも知られている。
【0029】
還元触媒13は、エンジン5に接続された排気管11の途中に配設され、エンジン5の排気中に含まれるNO
Xを選択的に還元する機能を有する。本実施形態では、還元剤噴射装置20により噴射される尿素水溶液が分解して生成されるアンモニアが還元触媒13に吸着され、還元触媒13に流入する排気中のNO
Xがアンモニアにより選択的に還元される。
【0030】
還元剤噴射装置20は、還元触媒13よりも上流側の排気管11内に還元剤としての尿素水溶液を噴射する。尿素水溶液の噴射量は、排気中に含まれるNO
Xの濃度や、還元触媒13におけるアンモニアの吸着可能量等に基づいて、還元触媒13の下流側にNO
Xあるいはアンモニアが流出しないように制御される。
【0031】
還元触媒13よりも上流側の排気管11には、排気温度Tgasを検出するための温度センサ15が設けられている。温度センサ15によって検出される排気温度Tgasは、還元触媒13の温度推定にも用いられる。これ以外に、排気管11には、図示しないNO
X濃度センサやアンモニアセンサ等が設けられていてもよい。
【0032】
<2.還元剤噴射装置の構成例>
次に、還元剤噴射装置20の構成について詳細に説明する。
図1に示すように、還元剤噴射装置20は、還元触媒13よりも上流側で排気管11に固定された噴射弁31と、貯蔵タンク50内の尿素水溶液を噴射弁31に向けて圧送するポンプ41を有するポンプモジュール40とを備える。
【0033】
噴射弁31とポンプモジュール40とは第1の供給通路57によって接続されている。第1の供給通路57には、噴射弁31に供給される尿素水溶液の圧力を検出するための圧力センサ43が備えられている。また、貯蔵タンク50とポンプモジュール40とは第2の供給通路58によって接続されている。さらに、ポンプモジュール40と貯蔵タンク50とは循環通路59によっても接続されている。かかる循環通路59は、第1の供給通路57から分岐し、貯蔵タンク50に接続されている。循環通路59の途中にはオリフィス45が備えられている。オリフィス45は、第1の供給通路57内の圧力を保持する一方、余剰の尿素水溶液を貯蔵タンク50側に通過させる機能を有する。
【0034】
また、尿素SCRシステム10は、還元剤噴射装置20の各制御要素の制御を行う制御装置100を備える。制御装置100は、図示しないCAN(Controller Area Network)を介してエンジン制御装置70の情報を取得可能になっている。例えば、制御装置100は、エンジン5の燃料噴射量や噴射タイミング、エンジン回転数等の運転状態に関する情報を取得可能になっている。なお、本実施形態にかかる尿素SCRシステム10では、制御装置100とエンジン制御装置70とが別の制御装置となっているが、一つの制御装置として構成されていてもよい。
【0035】
ポンプモジュール40に備えられたポンプ41は、例えば電動式のダイヤフラムポンプやモータポンプからなる。ポンプ41の出力は、制御装置100の制御信号に基づいて制御される。本実施形態では、制御装置100は、圧力センサ43により検出される尿素水溶液の圧力が所定の目標値に維持されるように、ポンプ41の出力をフィードバック制御するように構成されている。また、エンジン5の始動時において、尿素水溶液が凍結している場合には、尿素水溶液が解凍されるまで待機した後に、ポンプ41の駆動が開始される。
【0036】
噴射弁31は、通電制御により開弁及び閉弁が切り替えられる電磁式噴射弁が用いられる。かかる噴射弁31はコイルを備え、当該コイルへの通電により発生する磁力によって弁体が移動して開弁する構造を有している。上述のとおり、噴射弁31に供給される尿素水溶液の圧力は一定の圧力で維持されており、制御装置100は、尿素水溶液の目標噴射量に応じて開弁時間を調節する。
【0037】
ポンプモジュール40には流路切換弁71が備えられている。流路切換弁71は、ポンプ41により圧送される尿素水溶液が流れる方向を切り換える。尿素水溶液を排気通路内に噴射する場合において、流路切換弁71は、尿素水溶液が貯蔵タンク50側から噴射弁31側に向かうようにする。この場合、ポンプ41の吸入口が第2の供給通路58に接続され、ポンプ41の吐出口が第1の供給通路57に接続される。また、尿素水溶液を貯蔵タンク50に回収する場合において、流路切換弁71は、尿素水溶液が噴射弁31側から貯蔵タンク50側に向かうようにする。この場合、ポンプ41の吸入口が第1の供給通路57に接続され、ポンプ41の吐出口が第2の供給通路58に接続される。
【0038】
ただし、尿素水溶液を貯蔵タンク50に回収する手段は、上記の構成に限られない。例えば、ポンプ41が逆回転可能なポンプであれば、当該ポンプ41を逆回転させて尿素水容液を回収してもよい。あるいは、回収制御用の別のポンプ及び回収通路を設けてもよい。
【0039】
また、還元剤噴射装置20は、エンジン5の冷却水が循環可能に構成された第1の冷却水通路85及び第2の冷却水通路87を備える。第1の冷却水通路85及び第2の冷却水通路87は、エンジン5に設けられたエンジン冷却装置60の冷却通路86から分岐して、再び冷却通路86に合流する。第1の冷却水通路85は貯蔵タンク50及びポンプモジュール40を通って配設される。また、本実施形態において、第1の冷却水通路85は、尿素水溶液の第1の供給通路57及び第2の供給通路58等に沿っても配設される。
【0040】
また、第2の冷却水通路87は噴射弁31の周囲を通って配設される。第1の冷却水通路85における、第2の冷却水通路87の分岐箇所と貯蔵タンク50との間には開閉弁81が設けられている。開閉弁81は制御装置100によって開弁及び閉弁が切り換えられ、第1の冷却水通路85の開閉が制御される。貯蔵タンク50及びポンプモジュール40には、尿素水溶液の温度Tureaを検出するための温度センサ51,52が備えられている。
【0041】
エンジン5が始動すると、第2の冷却水通路87には冷却水が流れる。また、貯蔵タンク50及びポンプモジュール40に設けられた温度センサ51,52、あるいは外気温度を検出する温度センサ等のセンサ値に基づいて尿素水溶液が凍結していると推定される場合には、開閉弁81が開かれ、尿素水溶液の解凍制御が行われる。このときの解凍時間は、各種温度センサのセンサ値に基づいて、適切な時間に設定されてよい。さらに、エンジン5の運転中に、各種センサのセンサ値に基づいて尿素水溶液の再凍結が推定される場合においても、開閉弁81が開かれ、保温制御が行われるようにしてもよい。
【0042】
また、エンジン5の始動後、第2の冷却水通路87には常時冷却水が流れる。したがって、エンジン5の運転中、高温の排気熱等により噴射弁31が加熱される状態において、第2の冷却水通路87に冷却水が流れ、噴射弁31を冷却することができる。
【0043】
なお、
図2に示すように、ポンプモジュール40や第1及び第2の供給通路57,58等の解凍には、エンジン5の冷却水以外にも、電熱ヒータ92等が用いられてもよい。この場合、開閉弁81の制御は、貯蔵タンク50に設けられた温度センサ51のセンサ値に基づいて行われ、電熱ヒータ92のオンオフの制御は、ポンプモジュール40に設けられた温度センサ52のセンサ値に基づいて行われる。かかる電熱ヒータ92への通電、非通電は制御装置100によって制御される。
【0044】
エンジン5の始動時等、温度センサ52により検出される尿素水溶液の温度Tureaが尿素水溶液の凍結温度Tfr以下の場合に、電熱ヒータ92に通電されて、凍結した尿素水溶液の解凍が促進される。また、尿素水溶液の温度Tureaがあらかじめ設定した所定の閾値Thre_turea以上のときには、電熱ヒータ92は非通電状態とされる。ただし、ポンプモジュール40内の尿素水溶液を加熱する装置は、電熱ヒータ92に限られない。
【0045】
このほか、ポンプモジュール40や第1の供給通路57、第2の供給通路58等の適宜の位置に、電熱ヒータ等の加熱装置が備えられていてもよい。ただし、本実施形態にかかる還元剤噴射装置20は、噴射弁31には、第2の冷却水通路87以外の冷却装置を備えていないものとなっている。
【0046】
<3.制御装置>
次に、本実施形態にかかる還元剤噴射装置20の制御に用いられる制御装置100の構成例について説明する。
図3は、制御装置100の構成のうち、噴射弁31内に析出した尿素の結晶の融解を促進させるための制御に関連する部分を機能的に示すブロック図である。かかる制御装置100は、公知のマイクロコンピュータ等を中心に構成される。なお、以下に説明する制御装置100は、
図2に示す電熱ヒータを備えた還元剤噴射装置20の制御に用いる装置の例である。
【0047】
制御装置100は、解凍制御部101と、推定解凍時間演算部103と、通電時間設定部105と、結晶化推定部107と、通電制御部110とを備える。これらの各部は、具体的には、マイクロコンピュータによるプログラムの実行により実現される。また、本実施形態にかかる制御装置100は、外気温度Taの情報、排気温度Tgasの情報、冷却水の温度Tcolの情報、貯蔵タンク50内の尿素水溶液の温度Tureaの情報及び噴射弁31の電源電圧Vbatの情報を読み込み可能になっている。
【0048】
解凍制御部101は、内燃機関の始動時において、温度センサ51,52、あるいは外気温度を検出する温度センサ等のセンサ値に基づいて尿素水溶液が凍結していると推定される場合には、開閉弁81を開くとともに電熱ヒータ92への通電を行う。例えば、解凍制御部101は、上記温度センサのセンサ値が尿素水溶液の凍結温度Tfr以下のときに、開閉弁81を開くとともに電熱ヒータ92への通電を行う。このときの解凍時間は、各種温度センサのセンサ値に基づいて、適切な時間に設定されてよい。
【0049】
また、尿素水溶液の温度Tureaがあらかじめ設定した所定の閾値Thre_turea以上になったときに、解凍制御を終了してもよい。閾値Thre_tureaは、その後に尿素水溶液の温度Tureaが凍結温度Tfr以下に戻るおそれのない範囲で適宜の値に設定される。ただし、閾値Thre_tureaが高すぎると、バッテリの電力消費量が増えてしまうために、閾値Thre_tureaは、例えば凍結温度Tfr+20℃に設定することができる。
【0050】
ただし、解凍制御部101による解凍制御は上記の例示に限られない。例えば、電熱ヒータ92以外の加熱装置を作動するようにしてもよい。また、解凍制御部101は、エンジン5の運転中に、各種センサのセンサ値に基づいて尿素水溶液の再凍結が推定される場合においても、開閉弁81を開くとともに電熱ヒータ92に通電し、保温制御を行うようにしてもよい。
【0051】
結晶化推定部107は、エンジン5の始動時において、噴射弁31内の尿素の結晶化により、噴射弁31の弁体の固着が生じていないかを推定する。尿素の結晶化の推定方法は特に限定されないが、例えば前回のエンジン5の停止時の状況に基づき、噴射弁31内に尿素の結晶が析出しているか否かを推定することができる。以下、尿素の結晶化の推定方法の一例について簡単に説明する。
【0052】
例えば、エンジン5の運転中に、結晶化推定部107は、推定される噴射弁31の受熱量及び放熱量を継続的に記録する。また、エンジン5の停止時に、結晶化推定部107は、その時点での噴射弁31が有する熱量を記憶しておく。エンジン5の始動時に、結晶化推定部107は、記憶された噴射弁31の熱量を読み出し、あらかじめ設定した閾値と比較する。そして、結晶化推定部107は、噴射弁31の熱量が閾値以上の場合には、噴射弁31内で尿素の結晶が析出しているおそれがあると推定する。
【0053】
推定解凍時間演算部103は、凍結した尿素水溶液の解凍に要する推定解凍時間Tdefを算出する。例えば、推定解凍時間演算部103は、貯蔵タンク50又はポンプモジュール40内の尿素水溶液の温度Tureaに基づいて、あらかじめ設定された推定解凍時間Tdefを求めるようにしてもよい。本実施形態にかかる制御装置100では、解凍制御部101が、尿素水溶液の温度Tureaによって電熱ヒータ92等の作動、非作動を決定することから、尿素水溶液の温度Tureaに応じた推定解凍時間Tdefをあらかじめシミュレーション等によって求めることができる。
【0054】
したがって、尿素水溶液の温度Tureaごとに推定解凍時間Tdefを設定した情報を制御装置100に格納しておくことにより、当該情報を参照して、推定解凍時間Tdefを求めることができる。推定解凍時間Tdefは、ゼロの場合もあり得る。この場合、尿素水溶液は解凍状態にあることを意味する。ただし、推定解凍時間Tdefの算出方法は、かかる例示に限られず、尿素水溶液の温度Tureaと併せて外気温等を考慮する等、適宜の方法により推定解凍時間Tdefを算出することができる。
【0055】
通電時間設定部105は、噴射弁31内に析出した尿素の結晶を早期に融解させるために噴射弁31のコイルに通電する時間を設定する。例えば、通電時間設定部105は、外気温度Taに基づいて通電時間T2を設定するようにしてもよい。噴射弁31のコイルへの通電は、コイルを発熱させて噴射弁31内の尿素の結晶の融解を促進させるために行われるものであるが、エンジン5の始動後に、コイルからの発熱及び排気熱により噴射弁31が受け得る熱量はあらかじめ予測することができる。したがって、噴射弁31が加熱され始める時点の温度とみなせる外気温度Taに応じて、噴射弁31の温度が所定温度に到達するまでの時間を推定することができる。
【0056】
設定される通電時間T2は、噴射弁31の温度が尿素の結晶の融解点に到達するまでの時間として設定してもよいが、当該時間よりも短くてもよい。尿素水溶液の解凍後には噴射弁31に尿素水溶液が供給されるが、尿素の結晶は、温度が高いほど、尿素水溶液に溶けやすいことも判明している。したがって、本実施形態において、尿素の結晶の融解を促進させることには、尿素の結晶を高温で融解させることのみならず、噴射弁31を加熱して尿素の結晶が尿素水溶液に溶けやすいようにすることも含まれる。
【0057】
ただし、通電時間T2の設定方法は、かかる例示に限られない。例えば、外気温度Taに変えて、あるいは、外気温度Taに加えて、エンジン5の冷却水の温度Tcolに基づいて、通電時間T2を設定するようにしてもよい。冷却水の温度Tcolも、噴射弁31が加熱され始める時点の温度に関連する値であることによる。
【0058】
さらに、通電時間T2を設定する際には、噴射弁31に供給される電力の供給源の電圧Vbatを考慮するようにしてもよい。例えば、電圧Vbatが低下している場合には、通電時間T2を短く設定するか、あるいは、通電制御を中止するようにしてもよい。電圧Vbatを考慮して通電時間T2を設定するにあたり、電圧Vbatの値に応じた係数をかけたり、電圧Vbatの値に応じて通電時間T2を減算したりすることができる。
【0059】
なお、通電時間T2をその都度設定する代わりに、固定値としてもよい。この場合、制御装置100は、通電時間設定部105を有しない構成とすることができる。外気温度Ta等にかかわらず通電時間T2を固定値とした場合であっても、短時間のみの通電によって噴射弁31の温度を上昇させて、尿素の結晶の融解を促進させることができる。
【0060】
通電制御部110は、排気温度Tgasが所定の第1の閾値Thre_tgas_1以上の状態で噴射弁31への通電を行うようにしている。したがって、噴射弁31への通電開始時には、排気熱によって排気管11等が温められた状態となっており、コイルから発熱した熱量のうち、噴射弁31内の弁体以外の部分や排気管11等に奪われる熱量をさらに低減することができる。第1の閾値Thre_tgas_1は、例えば、尿素SCRシステム10の作動を許可するための第2の閾値Thre_tgas_2よりも数度から数十度低い温度とすることができる。
【0061】
また、本実施形態では、通電制御部110は、尿素の結晶化が推定されており、噴射弁31の弁体の固着が生じている場合において、推定解凍時間演算部103で算出された推定解凍時間Tdefの経過前に噴射弁31のコイルに対して通電時間T2の通電を行う。これにより、コイルが発熱し、噴射弁31を昇温させることができる。その結果、噴射弁31内に析出した尿素の結晶の融解を促進させることができる。このとき、噴射弁31に供給する電流値は、噴射弁31の弁体がリフトしない程度の値とすることが好ましい。かかる通電制御は、噴射弁31に尿素水溶液が供給される前に行われるものであり、弁体をさせると、その後に弁体が弁座面に当接することによって、弁体又は弁座面の摩耗を生じるおそれがあるからである。
【0062】
また、通電制御部110は、推定解凍時間Tdefの終了時期と、通電時間T2の終了時期とが一致するように、噴射弁31への通電を行う。具体的には、通電制御部110は、推定解凍時間Tdefから通電時間T2を差し引いた時間を閾値T1に設定し、解凍制御部101による解凍制御の実行時間(解凍実施時間)が閾値T1に到達したときに、噴射弁31への通電を開始する。
【0063】
これにより、尿素水溶液の解凍終了後、ポンプ41による尿素水溶液の供給を開始させる時期を遅らせないようにすることができる。また、噴射弁31への通電期間をできる限り遅らせることにより、噴射弁31、あるいは、噴射弁31の周囲の排気管11等の温度が上昇した状態で噴射弁31のコイルから発熱させることができる。したがって、噴射弁31内の弁体以外の部分や排気管11等に奪われる熱量を低減することができ、弁体に対する加熱効率を向上させることができる。これにより、結晶が析出した領域を同程度加熱するために必要な通電時間を短くでき、電力量を抑制することができる。また、通電時間が短くなれば、熱によるコイルの劣化を抑制することにもつながる。
【0064】
通電制御部110は、噴射弁31への通電を開始してから通電時間T2が経過したときには、フラグを立てる等により、尿素SCRシステム10の作動を許可する。この場合、尿素水溶液の解凍制御も完了しており、排気温度Tgasが第2の閾値Thre_tgas_2を超えたときに、ポンプ41の駆動が開始され、還元剤噴射装置20内へ尿素水溶液が充填される。このとき、噴射弁31は加熱されており、噴射弁31内の尿素の結晶は融解しているか、あるいは、尿素水溶液が到達することによって速やかに融解する。したがって、噴射弁31による尿素水溶液の噴射制御を速やかに開始させることができる。
【0065】
なお、通電制御部110は、尿素の結晶化が推定されておらず、噴射弁31の弁体が固着していない場合には、即時、尿素SCRシステム10の作動を許可する。この場合、尿素水溶液の解凍制御が完了し、かつ、排気温度Tgasが第2の閾値Thre_tgas_2を超えるのを待って、ポンプ41の駆動が開始され、還元剤噴射装置20内へ尿素水溶液が充填される。
【0066】
<4.還元剤噴射装置の制御方法>
次に、
図4〜
図6を参照して、本実施形態にかかる制御装置100により実行される還元剤噴射装置の制御方法として、エンジン5の始動時における、尿素の結晶の融解促進制御について説明する。以下に説明する制御方法のルーチンは、エンジン5の始動時において毎回実行されるようにしてもよい。
【0067】
図4は、尿素の結晶の融解促進制御を説明するためのタイムチャートを示し、
図5は、尿素の結晶の融解促進制御を説明するためのフローチャートを示す。また、
図6は、通電制御処理を詳細に説明するためのフローチャートを示す。なお、以下の説明では、
図1及び
図3を併せて参照しながら説明する。
【0068】
まず、イグニションスイッチがオンにされると(
図4のt0)、ステップS10において、制御装置100の結晶化推定部107は、前回のエンジン5の停止時に記憶したステータスを読み込み、尿素の結晶化による噴射弁31の固着が生じているか否かを判別する。尿素の結晶化による噴射弁31の固着が生じていない場合には(ステップS10:No)、制御装置100は、尿素SCRシステム10の作動を許可する。この場合には、制御装置100は、尿素水溶液の解凍制御が終了し、かつ、排気温度Tgasが第2の閾値Thre_tgas_2に到達するのを待って、ポンプ41の駆動を開始し、尿素水溶液の噴射制御を開始する。
【0069】
一方、尿素の結晶化による噴射弁31の固着が生じている場合には(ステップS10:Yes)、ステップS20において、制御装置100の推定解凍時間演算部103は、推定解凍時間Tdefを算出する。推定解凍時間演算部103は、上述のとおり、例えば、貯蔵タンク50内の尿素水溶液の温度Tureaに基づいて、推定解凍時間Tdefを求める。次いで、ステップS30において、制御装置100は、通電制御を実行する。
【0070】
通電制御は、例えば
図6に示すように実行される。まず、ステップS41において、制御装置100の通電制御部110は、排気温度Tgasが第1の閾値Thre_tgas_1以上であるか否かを判別する。排気温度Tgasが第1の閾値Thre_thre_1未満の場合(ステップS41:No)、通電制御部110は、排気温度Tgasが第1の閾値Thre_thre_1以上になるまで待機する。
【0071】
排気温度Tgasが第1の閾値Thre_thre_1以上になった場合(ステップS41:Yes)、ステップS42において、通電制御部110は、現在、解凍制御が実行中であるか否かを判別する。解凍制御が実行中である場合(ステップS42:Yes)、ステップS43において、通電制御部110は、これまでの解凍実施時間が閾値T1以上となっているか否かを判別する。閾値T1は、ステップS20で算出された推定解凍時間Tdefから、通電時間T2を引いた値とすることができる。通電時間T2は、外気温度Taや冷却水の温度Tcol、噴射弁31の電源電圧Vbat等に基づいて、通電時間設定部105により設定される。
【0072】
これまでの解凍実施時間が閾値T1未満の場合(ステップS43:No)、ステップS41に戻って、制御装置100はこれまでの各ステップの処理を繰り返す。一方、これまでの解凍実施時間が閾値T1以上の場合(ステップS43:Yes)、ステップS44において、通電制御部110は噴射弁31のコイルへの通電を開始する(
図4のt1)。上記のステップS42において、解凍制御が不要であった場合(解凍実行時間がゼロの場合を含む)や、すでに解凍制御が終了している場合(ステップS42:No)、この時点でステップS44に進み、通電制御部110は噴射弁31のコイルへの通電を開始する。
【0073】
噴射弁31に供給する電流値は、噴射弁31の弁体がリフトしない範囲とされる。噴射弁31のコイルへの通電が開始された後、ステップS45において、通電制御部110は通電時間が閾値T2に到達したか否かの判別を繰り返す(
図4のt1からt2までの期間)。通電時間が閾値T2に到達した場合(ステップS45:Yes)、ステップS46において、通電制御部110は、噴射弁31のコイルへの通電を停止する。これにより、噴射弁31のコイルへの通電制御が終了する(
図4のt2)。
【0074】
通電制御が終了した後は、
図5のステップS40に進み、通電制御部110は、尿素SCRシステム10の作動を許可する。この場合には、尿素水溶液の解凍制御がすでに終了し、かつ、排気温度Tgasが第2の閾値Thre_tgas_2に到達していることから、制御装置100は、速やかにポンプ41の駆動を開始し、尿素水溶液の噴射制御を開始する。このとき、噴射弁31は加熱されており、噴射弁31内の尿素の結晶は融解しているか、あるいは、尿素水溶液によって速やかに融解される。
【0075】
以上、本実施形態にかかる還元剤噴射装置20によれば、噴射弁31のコイルへの通電が、排気温度Tgasが第1の閾値Thre_tgas_1以上になった後に行われる。また、かかる還元剤噴射装置20は、必要な通電時間T2を求めた上で、凍結した尿素水溶液が解凍すると予測される、推定解凍時間の終了時期に合わせて、通電時間T2が終了するようにコイルへの通電を実行する。したがって、排気管11や噴射弁31がある程度温まった状態で、必要最低限の通電時間T2の間コイルに通電することによって、効率よく噴射弁31が加熱される。これにより、バッテリの電力消費量が低減されるとともに、発熱によるコイルの劣化を抑制することができる。
【0076】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。