特許第6274804号(P6274804)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社松風の特許一覧

<>
  • 特許6274804-屈曲部が拡張する粘性材料収容容器 図000002
  • 特許6274804-屈曲部が拡張する粘性材料収容容器 図000003
  • 特許6274804-屈曲部が拡張する粘性材料収容容器 図000004
  • 特許6274804-屈曲部が拡張する粘性材料収容容器 図000005
  • 特許6274804-屈曲部が拡張する粘性材料収容容器 図000006
  • 特許6274804-屈曲部が拡張する粘性材料収容容器 図000007
  • 特許6274804-屈曲部が拡張する粘性材料収容容器 図000008
  • 特許6274804-屈曲部が拡張する粘性材料収容容器 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6274804
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】屈曲部が拡張する粘性材料収容容器
(51)【国際特許分類】
   A61C 5/62 20170101AFI20180129BHJP
   B05C 17/01 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   A61C5/62
   B05C17/01
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-205446(P2013-205446)
(22)【出願日】2013年9月30日
(65)【公開番号】特開2015-66339(P2015-66339A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年9月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【弁理士】
【氏名又は名称】出山 匡
(74)【代理人】
【識別番号】100130720
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
(74)【代理人】
【識別番号】100186819
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 俊尚
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 司
(72)【発明者】
【氏名】武井 亮二
(72)【発明者】
【氏名】中塚 稔之
(72)【発明者】
【氏名】木本 勝也
(72)【発明者】
【氏名】笠場 秀人
【審査官】 佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−71110(JP,A)
【文献】 特開2003−250815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に挿入口を有し該挿入口から第1の仮想中心線に沿って延び且つ横断面形状が前記第1の仮想中心線を中心とする円形をなす第1の通路を囲む第1の内壁面を備えた第1のセクションと、
一端に排出口を有し該排出口から前記第1の仮想中心線と交差する第2の仮想中心線に沿って延び且つ横断面形状が前記第2の仮想中心線を中心とする円形をなす第2の通路を囲む第2の内壁面を備えた第2のセクションと、
前記第1のセクションと前記第2のセクションとの間に位置して、前記第1の通路と前記第2の通路とを連通する第3の通路を囲む第3の内壁面を備えた第3のセクションとを備えたハウジングと、
少なくとも前記第1の通路内を移動して、少なくとも前記第1の通路内に収容された粘性材料を前記第2及び第3の通路を通して前記排出口から押し出すピストンとを備え、
前記第2の内壁面と前記第3の内壁面との境界部には、前記第1の仮想中心線と前記第2の仮想中心線を含む仮想面内に前記第1の仮想中心線と前記第2の仮想中心線との交差角に等しい角度を有する角部分を中心にして周方向両側に延びる連続した角部が形成されている粘性材料収容容器であって、
前記ハウジングは樹脂材料によって一体に成形されており、
前記第2の仮想中心線を中心として前記連続した角部よりも径方向外側に位置し且つ前記連続した角部に沿って延びる前記ハウジングの壁部分が、前記粘性材料が前記排出口から押し出されるときに、前記径方向外側に膨らむように、前記壁部分の厚みが、該壁部分の周囲の壁部分の厚みよりも薄いことを特徴とする粘性材料収容容器。
【請求項2】
前記第1の仮想中心線と前記第2の仮想中心線との前記交差角が130度±15度の範囲内の角度である請求項1に記載の粘性材料収容容器。
【請求項3】
前記粘性材料の流動性の値が14.5mm〜17.5mmの範囲である請求項1に記載の粘性材料収容容器。
【請求項4】
前記連続した角部は、前記第2の仮想中心線を中心にして180度以下の角度範囲で延びている請求項2に記載の粘性材料収容容器。
【請求項5】
前記壁部分には、前記仮想面と交差する部分を中心にして前記周方向両側に延び、前記径方向外側に向かって開口し且つ前記周方向から見た断面形状が弧状を呈する凹部が形成されている請求項1または4に記載の粘性材料収容容器。
【請求項6】
前記樹脂材料はポリプロピレンであり、
前記凹部の開口部の前記幅方向の寸法が、1.0mm以上3.0mm以下であり、
前記凹部の前記周方向の長さ寸法が、5.0mm以上8.0mm以下であり、
前記凹部の底部に対応する前記壁部分の厚みが0.5mm以上0.9mm以下であることを特徴とする請求項に記載の粘性材料収容容器。
【請求項7】
前記ハウジングは、可視光線に対して不透過性を有している請求項1乃至のいずれか1項に記載の粘性材料収容容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘度の高い粘性材料を収容し、適量を排出する粘性材料収容容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科分野において、粘度の高い歯科用充填材料や人工歯用材料、歯冠作製用材料等の歯科用粘性材料を取り扱う場合には、歯科用粘性材料が充填された使い捨ての容器である歯科用粘性材料収容容器等の粘性材料収容容器を専用のハンドル型の押し出し装置にセットし、押し出し装置のハンドルを操作することにより、歯科用粘性材料収容容器から歯科用粘性材料を適量排出する。
【0003】
特許文献1には、従来の粘性材料収容容器の一例が示されている。この粘性材料収容容器は、一端に挿入口を備えた第1の通路を囲む第1の内壁面を備えた第1のセクションと、一端に排出口を備えた第2の通路を囲む第2の内壁面を備えた第2のセクションと、第1のセクションと第2のセクションとの間に位置して、第1の通路と第2の通路とを連通する第3の通路を囲む第3の内壁面を備えた第3のセクションとを備えたハウジングを備えている。そして第2の内壁面と前記第3の内壁面との境界部には、角部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−71110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示された粘性材料収容容器の構造では、粘性材料の粘度が高くなるほど、排出された粘性材料の表面に連続したスジまたは凸凹が形成されることがある。図8(A)及び(B)は、実際に連続する凸凹が発生している状態を示すための写真である。図8(A)は、従来の粘性材料収容容器から排出された粘性材料の表面に現れた連続するスジまたは凸凹の側面写真を示し、図8(B)は、図8(A)の一部(左上)を拡大した写真である。このような連続したスジまたは凸凹が形成された粘性材料を所定箇所に充填すると、スジまたは凸凹が原因となって、充填部に気泡が入り込む問題が発生する。特に、歯科分野においては、このような気泡が入り込むと、粘性材料の見た目の色が変わったり、気泡から細菌が繁殖するといった問題が生じる。
【0006】
本発明の目的は、粘性材料の粘度が高くなっても、排出した粘性材料の表面に連続したスジまたは凸凹が発生し難い粘性材料収容容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者が研究した結果、粘性材料の粘度が高くなるほど、排出した粘性材料の表面に連続したスジまたは凸凹が発生する原因が、第2の内壁面と第3の内壁面との境界部に形成された角部にあることを発明者は発見した。本発明はこの発見に基づいてなされたものである。そこで本発明が改良の対象とする粘性材料収容容器は、一端に挿入口を有し該挿入口から第1の仮想中心線に沿って延び且つ横断面形状が前記第1の仮想中心線を中心とする円形をなす第1の通路を囲む第1の内壁面を備えた第1のセクションと、一端に排出口を有し該排出口から第1の仮想中心線と交差する第2の仮想中心線に沿って延び且つ横断面形状が第2の仮想中心線を中心とする円形をなす第2の通路を囲む第2の内壁面を備えた第2のセクションと、第1のセクション1と第2のセクションとの間に位置して、第1の通路と第2の通路とを連通する第3の通路を囲む第3の内壁面を備えた第3のセクションとを備えたハウジングと、少なくとも第1の通路内を移動して、少なくとも第1の通路内に収容された粘性材料を第2及び第3の通路を通して排出口から押し出すピストンとを備えている。そして第2の内壁面と第3の内壁面との境界部には、第1の仮想中心線と第2の仮想中心線を含む仮想面内に第1の仮想中心線と第2の仮想中心線との交差角に等しい角度を有する角部分を中心にして周方向両側に延びる連続した角部が形成されている。
【0008】
このような構造の粘性材料収容容器において、排出される粘性材料の表面に連続したスジまたは凸凹が形成されるのは、粘性材料を排出する際に、角部に対向する粘性材料の部分に加わる圧力と、角部とは反対側に位置する粘性材料の部分に加わる圧力とに大きな差が生じているためであると推測される。粘性材料の周囲に大きな圧力差が発生すると、粘性材料が角部に強く接触したり、角部から離れる方向に変位したりする挙動が繰り返されているものと推測される。そこで本発明では、ハウジングの第2の内壁面と第3の内壁面との境界部に形成された連続した角部の存在により発生する大きな圧力差の影響を低減するために、第2の仮想中心線を中心として連続した角部よりも径方向外側に位置し且つ連続した角部に沿って延びるハウジングの壁部分が、粘性材料が排出口から押し出されるときに、径方向外側に膨らむように形成した。
【0009】
このような粘性材料から加わる圧力により径方向外側に膨らむ壁部分を形成すると、粘性材料を押し出す際に発生する前述の圧力差が小さくなり、前述の挙動が低減される。そして粘性の高い粘性材料が連続した角部に押しつけられたときに、連続した角部の内角が大きくなるように角部が変形することにより、角部の影響を低減することができる。その結果、排出した粘性材料の表面に連続したスジまたは凸凹が発生することを有効に抑制することができる。
【0010】
好ましい本発明の実施の形態では、第1の仮想中心線と第2の仮想中心線との交差角の角度は130度±15度の範囲内とすることができる。このような交差角の角度は、例えば歯科分野では、患者の口腔内において、排出口を容易に所定の位置に添えることを可能にする。130度±15度の交差角の場合、膨らむ壁部分が周方向に延びる角度範囲は、設計上は180度以下である。
【0011】
なお、交差角を前述の角度範囲にした場合において、本発明の効果が有効に発揮される粘性材料の流動性の値は、14.5mm〜17.5mmの範囲である。ここで流動性の値は、後述する所定の流動性測定方法にしたがって測定された値である。
【0012】
なお、ハウジングは樹脂材料によって一体に成形することができる。この場合には、第2の仮想中心線を中心として前述の連続した角部よりも径方向外側に位置するハウジングの壁部分の厚みは、該壁部分の周囲の壁部分の厚みよりも薄くなるように形成するのが好ましい。このように壁部分を形成することで、該壁部分の強度が他の部分よりも弱くなり、壁部分だけが膨らむようになる。
【0013】
さらに、ハウジングを樹脂材料によって一体に成形する場合には、第2の仮想中心線を中心として連続した角部よりも径方向外側に位置するハウジングの壁部分には、前述の仮想面と交差する部分を中心にして周方向両側に延びる凹部を形成することにより、壁部分の厚みを薄くして、壁部分を膨らむようにすることができる。この凹部は、周方向に延び、径方向外側に向かって開口し且つ周方向から見た断面形状が弧状を呈する形状を有しているのが望ましい。このような凹部を形成することにより、壁部分の厚みを他の部分の厚みよりも薄くすると、粘性の高い粘性材料が押し出される際に加わる圧力で、連続した角部の内角がスムーズに大きくなるように、壁部分を膨らませることができる。壁部分がスムーズに膨らむと、早期に圧力差が小さくなるため、排出される粘性材料の表面に凸凹が形成されることを確実に防止できる。
【0014】
また、ハウジングを形成する樹脂材料がポリプロピレンの場合には、凹部の開口部の幅方向の寸法を、1.0mm以上3.0mm以下とし、凹部の周方向の長さ寸法を、5.0mm以上8.0mm以下とし、凹部の底部に対応する壁部分の厚みを0.5mm以上0.9mm以下とし、第2の仮想中心線を中心として連続した角部よりも径方向外側に位置するハウジングの壁部分の最大厚みを0.7mm以下になるように形成することができる。このように各部の寸法を定めると、粘度の高い粘性材料を押し出す際に、当該壁部分のみを径方向外側に膨らませることができ、当該壁部分が破損して粘性材料が当該壁部分から外部に漏れることを防ぐことができる。
【0015】
また、ハウジングは、可視光線に対して不透過性を有していることが好ましい。こうすることにより、光硬化性の粘性材料を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態の粘性材料収容容器の一種である歯科用粘性材料収容容器の正面図である。
図2図1のA−A線断面図である。
図3】ピストンを押し込んだ状態のA−A線断面図である。
図4図2のB−B線断面図である。
図5】本発明の実施の形態におけるピストンの側面図である。
図6】ピストンの正面図である。
図7】第2の仮想面に沿ってピストンを切断し、円環状接触部の一部とその周囲を拡大した断面図である。
図8】(A)は、従来の粘性材料収容容器から排出された粘性材料の表面に現れた連続するスジまたは凸凹の側面写真であり、(B)は、(A)の一部(左上)を拡大した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明を粘性材料収容容器の一種である歯科用粘性材料収容容器に適用した場合の実施の形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態の歯科用粘性材料収容容器1の正面図であり、図2は、図1のA−A線断面図であり、図3は、ピストンを押し込んだ状態のA−A線断面図であり、図4は、図2のB−B線断面図である。歯科用粘性材料収容容器1は図示しない歯科用粘性材料を収容するハウジング3と歯科用粘性材料を押し出すためのピストン5を有している。ハウジング3とピストン5は、同じ樹脂材料によってそれぞれ一体に形成されている。樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン,ポリアセタール,ポリプロピレン,ポリアミド,塩化ビニル樹脂,ナイロン,フェノール樹脂,ポリウレタン,飽和ポリエステル樹脂,メラミン樹脂,ポリ塩化ビニリデン,不飽和ポリエステル樹脂,ポリブタジエン,ポリスチレン,EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合)樹脂,スチロール樹脂,ポリメチルペンテン,メタクリルスチレン,ABS(アクロルニトリル,ブタジエン,スチレン)樹脂,ポリカーボネート等が用いられる。本実施の形態では、ポリプロピレンが用いられている。また、ハウジング3は、可視光線に対して不透過性を有する材料を用いて形成されている。こうすることにより、光硬化性の歯科用粘性材料をハウジング3に収容した場合であっても、保存時に歯科用粘性材料が硬化してしまうことを防ぐことができる。
【0019】
ハウジング3は、ピストン5を挿入し、図示しない専用のハンドル型の押し出し装置を接続する挿入口7と、歯科用粘性材料を排出する排出口9とを備えている。ハウジング3は、一端に挿入口7を有する第1のセクション11と、一端に排出口9を有する第2のセクション13と、第1のセクション11と第2のセクション13との間に位置する第3のセクション15とから構成されている。第1のセクション11は、挿入口7から第1の仮想中心線L1に沿って延び且つ横断面形状が第1の仮想中心線L1を中心とする円形をなす第1の通路17を囲む第1の内壁面19を備えている。第2のセクション13は、排出口9から第1の仮想中心線L1と交差する第2の仮想中心線L2に沿って延び且つ横断面形状が第2の仮想中心線L2を中心とする円形をなす第2の通路21を囲む第2の内壁面23を備えている。第3のセクション15は、第1の通路17と第2の通路21とを連通する第3の通路25を囲む第3の内壁面27を備えている。
【0020】
第2の内壁面23と第3の内壁面27との境界部には、第1の仮想中心線L1と第2の仮想中心線L2を含む仮想面S内に第1の仮想中心線L1と第2の仮想中心線L2との交差角に等しい角度を有する角部分29aを中心にして周方向両側に延びる連続した角部29が所定の角度範囲にわたって形成されている.本実施の形態では、交差角は135度である。連続した角部の角度は、角部分29aを中心にして周方向両側に離れるにしたがって大きくなる。連続した角部が周方向に延びる所定の角度範囲は、実際の製品から明確に特定することは難しいが、設計上は180度以下になる。
【0021】
特に、第1の仮想中心線L1と第2の仮想中心線L2との交差角を130度±15度の範囲内の角度にすると、患者の口腔内において、排出口9を容易に所定の位置に添えることが可能となる。
【0022】
第2の仮想中心線L2を中心として連続した角部29よりも径方向外側に位置し且つ連続した角部29に沿って延びるハウジング3の壁部分31は、歯科用粘性材料が排出口9から押し出されるときに、径方向外側に膨らむように形成されている。具体的には、後に説明するように、壁部分31の厚みを、壁部分31の周囲の壁部分の厚みよりも薄くなるように形成することで、壁部分31のみが膨らむように形成している。
【0023】
このような粘性材料から加わる圧力により径方向外側に膨らむ壁部分を連続した角部29に沿って形成すると、粘性材料を押し出す際に発生する前述の圧力差が小さくなり、粘性材料が連続した角部29に強く接触したり、連続した角部29から離れる方向に変位したりする挙動の発生が低減される。そして粘性の高い粘性材料が連続した角部29に押しつけられたときに、連続した角部29の内角が大きくなるように連続した角部29が変形することにより、連続した角部29の影響を低減することができる。その結果、排出した粘性材料の表面に連続したスジまたは凸凹が発生することを有効に抑制することができる。
【0024】
本実施の形態においては、壁部分31の厚みが、壁部分31の周囲の壁部分の厚みよりも薄くなるように形成することで、壁部分31のみが膨らむように形成している。具体的には、壁部分31に、仮想面Sと交差する部分(角部分29aに対応する部分)を中心にして周方向両側に延び、径方向外側に向かって開口し且つ周方向と直交する幅方向から見た断面形状が弧状を呈する凹部33が形成されている。このような凹部33を形成することにより、壁部分31の厚みを他の部分の厚みよりも薄くすることができ、歯科用粘性材料が押し出される際に加わる圧力で、角部29の内角がスムーズに大きくなるように、壁部分31を膨らませることができる。
【0025】
本実施の形態において、本発明の効果が有効に発揮される粘性材料の流動性の値は、14.5mm〜17.5mmの範囲である。なお歯科用粘性材料として用いられる歯科用充填材料は、15.2mm〜16.8mmの範囲の流動性を有している。本願明細書における粘性材料の「流動性の値」とは、次のように定義される。本願明細書では、下記の方法で各粘性材料ごとに5回測定し、その平均値を各粘性材料の「流動性の値」とした。
(1)ガラス管固定用架台に円筒ガラス管(内径7.5mm)を挿入した後、スペーサー及びセロハンシート(円盤状)を順に円筒ガラス管上部から挿入し、測定用器具を組み立てる。
(2)円筒ガラス管(内径7.5mm)上部のペースト充填部(容積309mm3)に気泡が入らないように試料を充填し、プラスチック製スパチュラを用いて充填した試料の上面を円筒ガラス管に合わせて平坦にする。
(3)ガラス管を取り出した後、充填部と反対側からガラス棒を入れ、50×50×1mmのガラス板上に試料を静かに押し出す。
(4)このガラス板を荷重器に移し、同じサイズのガラス板を試料上に置くと同時に荷重器の重り(385gf)を静かに加え、3分間放置する。3分経過後、重りを外し、方眼紙を用いてガラス板間で広がった試料の平行接線間の寸法2点を測定する。その2点をAmm及びBmmとし、下記の式から流動性の値を算出する。
【0026】
流動性の値=(A+B)/2 (mm)
第1のセクション11には、挿入口7からピストン5を挿入する際に第1の通路17内の空気を排出する2本の溝部35及び37が第1の通路17と連通するように形成されている。2本の溝部35及び37は挿入口7と連通して第1の仮想中心線L1に沿って延びている。また、溝部35及び37の第1の仮想中心線L1に沿う長さ寸法と、後述するピストン5の非接触部39の長さ寸法とは、ピストン5の円環状接触部43が溝部35及び37を越える位置まで挿入された時点で、ハウジング3内の空気が溝部35及び37を通して外部に排出されるように定められている。このように溝部35及び37を形成すると、挿入口7からピストン5を挿入する際に、第1の通路17内の空気を溝部35及び37に誘導することができ、確実にハウジング3内の空気を排出することができる。なお、本実施の形態では、2本の溝部を形成しているが、ハウジング内の空気を確実に排出できるのであれば、溝部は1本でも3本以上でもよいのはもちろんである。
【0027】
次に、ピストン5の形状について説明する。図5はピストン5の側面図であり、図6はピストン5の正面図であり、図7は第2の仮想面S2に沿ってピストン5を切断し、円環状接触部43の一部とその周囲を拡大した断面図である。ピストン5は、円環状接触部43と一対の非接触部39及び41とを備えている。円環状接触部43は、第1の通路17に挿入された状態で第1の内壁面19と接触する。一対の非接触部39及び41は、円環状接触部43の外径寸法よりも外径寸法が小さく形成されており、第1の通路17に挿入された状態で円環状接触部43を中心にして第1の仮想中心線L1が延びる方向に形成されている。ピストン5に一対の非接触部39及び41を設けることにより、挿入時のピストン5の仮配置をすることができる。さらに、一対の非接触部39及び41を面対称となる形状に形成することにより、挿入口7からピストン5を挿入する際に、どちらの非接触部側からでも挿入することができる。なおピストン5とハウジング3との接触面積が少ないため、ハウジング3とピストン5とは、同じ樹脂材料によって、それぞれ一体に形成しても、ピストン5の滑りが悪くなることはない。
【0028】
一対の非接触部39及び41は、円環状接触部43に隣接する環状の非接触面45を有している。環状の非接触面45は、その直径寸法が、第1の内壁面19の径寸法の90%以上になっている。このように環状の非接触面45を形成することにより、第1の内壁面19への収まりがよくなり、確実にピストン5の仮配置ができるようになる。一対の非接触部39及び41の端部47の形状は、第3の通路25を囲む第3の内壁面27と面接触するように定められている。このように一対の非接触部39及び41の端部47の形状を定めることにより、より多くの量の歯科用粘性材料を無駄なく排出することができる。本実施の形態では、端部47は截頭円錐形状に形成されており、図3に示すように、ピストン5を排出口9側に完全に押し込んだ状態において、第3の内壁面27の上側(角部分29aと向かい合う側)の面27aと、端部47の円錐面の上側の面47aとが面接触をしている。
【0029】
ピストン5の第1の通路17に挿入される側の端面49から円環状接触部43との間の距離は、溝部35及び37の第1の通路17側の端部51及び53と第1のセクション11の挿入口7側の端部55との間の距離と等しい。このように構成することにより、ピストン5が完全に第1の通路17内に挿入された時点において、空気の排出を完了することができる。また、第1の仮想中心線L1を面内に含み且つ第1の仮想面S1と直交する第2の仮想面S2に沿って前記ピストンを切断したときに、円環状接触部43が円弧形状の頂点に位置するように一対の非接触部39及び41の形状が定められている。このように一対の非接触部39及び41を形成することにより、ピストン5とハウジング3の接触面積を減らすことができ、少ない力で歯科用粘性材料を押し出すことができる。
[実施例]
本実施の形態の効果を確認するための実施例を作成した。この実施例では、5回測定を行い粘性材料の流動性の値の平均値が、16.0mmの歯科用粘性材料を容器に充填した。そして、ハウジング3及びピストン5を形成する樹脂材料としてポリプロピレンを用いた。この場合には、凹部33の開口部の幅方向の寸法を、1.0mm以上3.0mm以下(実施例では1.5mm)とし、凹部33の周方向の長さ寸法を、5.0mm以上8.0mm以下(実施例では6.5mm)とし、凹部33の底部に対応する壁部分31の厚みを0.5mm以上0.9mm以下(実施例では0.65mm)になるようにハウジング3を形成した。このように各部の寸法を定めると、粘度の高い歯科用粘性材料を押し出す際に、壁部分31のみを径方向外側に膨らませることができ、壁部分31が破損して歯科用粘性材料が壁部分31から外部に漏れることを防ぐことができた。そして排出口9から排出される粘性材料の表面には、実質的にスジや凸凹は発生しないことを視覚により確認できた。
【0030】
上記実施の形態では、ハウジング3とピストン5を同じ材質で形成したが、両者を異なる材質で形成してもよいのは勿論である。
【0031】
また上記実施の形態では、排出口9を露出させた状態にしてあるが、排出口9を塞ぐことができるキャップを第3のセクション15に嵌めるようにしてもよいのは勿論である。その場合、キャップの脱落を防止するために、第3のセクション15の外周部とキャップとの間に係合構造を設けてもよい。
【0032】
上記実施の形態では、凹部33を設けることにより、径方向外側に膨らむ壁部分31を構成しているが、この壁部分31を他の部分よりも軟らかい材質で形成することにより、粘性材料から加わる圧力により径方向外側に膨らむ壁部分31を構成してもよい。その場合には、壁部分31を構成するものをインサートとしてインサート成形によりハウジング3を成形すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、粘性材料から加わる圧力により径方向外側に膨らむ壁部分を形成したので、粘性材料を押し出す際に発生する圧力差が小さくなり、粘性の高い粘性材料が連続した角部に押しつけられたときに、連続した角部の内角が大きくなるように角部が変形し、角部の影響を低減することができる。その結果、排出した粘性材料の表面に連続したスジまたは凸凹が発生することを有効に抑制することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 歯科用粘性材料収容容器
3 ハウジング
5 ピストン
7 挿入口
9 排出口
11 第1のセクション
13 第2のセクション
15 第3のセクション
17 第1の通路
19 第1の内壁面
21 第2の通路
23 第2の内壁面
25 第3の通路
27 第3の内壁面
27a 面
29 連続した角部
29a 角部分
31 壁部分
33 凹部
35,37 溝部
39,41 非接触部
43 円環状接触部
45 環状の非接触面
47 端部
47a 面
49 端面
51,53 端部
55 端部
L1 第1の仮想中心線
L2 第2の仮想中心線
S 仮想面
S1 第1の仮想面
S2 第2の仮想面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8