特許第6274811号(P6274811)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6274811
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】炭素系複合材料とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/83 20060101AFI20180129BHJP
   C04B 35/52 20060101ALI20180129BHJP
   C01B 32/21 20170101ALI20180129BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20180129BHJP
   B29C 47/08 20060101ALI20180129BHJP
   B29K 105/14 20060101ALN20180129BHJP
【FI】
   C04B35/83
   C04B35/52
   C01B32/21
   C01B32/05
   B29C47/08
   B29K105:14
【請求項の数】11
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-219539(P2013-219539)
(22)【出願日】2013年10月22日
(65)【公開番号】特開2014-141391(P2014-141391A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2016年9月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-283039(P2012-283039)
(32)【優先日】2012年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(72)【発明者】
【氏名】山田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】木野 仁志
(72)【発明者】
【氏名】大野 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】神庭 昇
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−008769(JP,A)
【文献】 特公平01−044671(JP,B2)
【文献】 特開平07−133163(JP,A)
【文献】 特開昭63−055160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/83
B29C 47/08
C01B 32/05
C01B 32/21
B29K 105/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモルファス炭素と、
前記アモルファス炭素中に均一に分散した炭素繊維とを含み、
前記炭素繊維の平均長が10μm以上10mm以下であり、かつ
前記炭素繊維が一方向に配向している、
炭素系摺動軸材
【請求項2】
前記炭素繊維の平均長が50μm以上500μm以下である請求項1記載の炭素系摺動軸材
【請求項3】
φ1mmの前記軸材を試験片とし、支点間距離20mm、ヘッドスピード10mm/minにおける3点曲げ試験で測定される曲げ弾性率が60GPa以上であり、平均摩擦係数が0.15以下である請求項1または2記載の炭素系摺動軸材
【請求項4】
黒鉛粉末、クラスターダイヤモンド、フラーレンおよびカーボンブラックからなる群から選ばれた1種又は2種以上の炭素粉末をさらに含む請求項1〜のいずれか1項記載の炭素系摺動軸材
【請求項5】
二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化硼素、タルクおよびマイカからなる群から選ばれた1種または2種以上の無機フィラーをさらに含む請求項1〜のいずれか1項記載の炭素系摺動軸材
【請求項6】
前記炭素繊維は、PAN系炭素繊維および/またはピッチ系炭素繊維である請求項1〜のいずれか1項記載の炭素系摺動軸材
【請求項7】
前記アモルファス炭素は、アモルファス炭素の出発原料の焼成・炭素化により得られるものである請求項1〜のいずれか1項記載の炭素系摺動軸材
【請求項8】
アモルファス炭素の出発原料に平均長が10μm以上10mm以下の炭素繊維を混合し、押出成形機にて成形して前記炭素繊維を押出方向に配向させて、非酸化性雰囲気中で焼成・炭素化することを含む炭素系摺動軸材の製造方法。
【請求項9】
前記炭素繊維の平均長が50μm以上500μm以下である請求項記載の方法。
【請求項10】
前記成形の前において、黒鉛粉末、クラスターダイヤモンド、フラーレンおよびカーボンブラックからなる群から選ばれた1種又は2種以上の炭素粉末を前記炭素含有樹脂にさらに混合することをさらに含む請求項8または9記載の方法。
【請求項11】
前記成形の前において、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化硼素、タルクおよびマイカからなる群から選ばれた1種または2種以上の無機フィラーを前記炭素含有樹脂にさらに混合することをさらに含む請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素系複合材料とその製造方法、特に、プリンター等のOA機器に使用される摺動軸、カメラ、ビデオ等のレンズ駆動装置のガイド軸や駆動軸、半導体等の製造工程でのプレート昇降用の摺動ピンなど、往復摺動や回転摺動に適した低摩耗、自己潤滑性を要する炭素製摺動材等として好適な炭素系複合材料とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料は、耐熱性、耐薬品性に優れ、軽量である利点を持ち、従来の金属系、高分子系材料が使用できない高温や腐食性などの雰囲気下で使用される。
【0003】
従来からある一般的な炭素材料は主にガラス質の等方性炭素と黒鉛質の異方性炭素とに分類される。ガラス質の等方性炭素は摩擦係数が低く、磨耗量が少ないといった優れた摺動特性を示すが、高硬度で耐衝撃性に弱く加工性が劣る。また、高弾性率化が困難で細く長い形状等で剛性を確保することが困難である。黒鉛質の異方性炭素は自己潤滑性を有するが機械的強度に劣り、磨耗量も多い。
【0004】
一方、下記特許文献1および特許文献2に記載されているように、炭素繊維と炭素からなるC/Cコンポジットは、ガラス状炭素等をバインダーとして複数枚の炭素繊維シートが積層されたものである。したがって、構造としてバインダー炭素リッチな部分と炭素繊維リッチな部分が存在するので、均質性が要求される用途には適さない。特に部材のサイズが小さい場合には構造の不均質性が特性のバラツキを生じてしまう。また、製造工程がバッチ処理であるため、連続生産が困難でコスト高となる欠点がある。
【0005】
特許文献3には、長さが5μmの炭素繊維(カーボンナノファイバー)がアモルファス炭素中に分散した複合材料が記載されている。しかしながら、原材料が高価でありコスト高になることと、繊維長が短いために凝集により充分な量の炭素繊維を均一に分散させることが容易ではなくて欠陥を作り易く、そうなると機械物性が落ち、耐磨耗性にも問題を生じる。また、焼成・炭素化の前の成形の工程において押出成形機により成形することで炭素繊維を押出方向に配向させて、焼成・炭素化後の製品の曲げ弾性率を向上させようとする場合に、ダイスの口径(必要とされる部材の径)と比べて相対的に繊維長が短すぎるとそれを押出成形により配向させることが容易ではない、という問題もある。
【0006】
特許文献4には、アモルファス炭素中に黒鉛粉末やカーボンブラックなどの炭素粉末を均一に分散させた炭素系複合摺動材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−271163号公報
【特許文献2】特許第2783807号公報
【特許文献3】特開2002−20179号公報
【特許文献4】特許第4353550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明の目的は、炭素が本来持つ上記の優れた特性を有し、かつ、機械的強度が改善されるとともに均質性が高く安価である炭素系複合材料とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、アモルファス炭素と、前記アモルファス炭素中に均一に分散した炭素繊維とを含み、前記炭素繊維の平均長が10μm以上、好ましくは50μm以上で10mm以下、好ましくは500μm以下である炭素系複合材料が提供される。
【0010】
繊維長がこれよりも短ければ、前述したように、充分な量の炭素繊維を分散させることが困難であり、必要なサイズの部材を得るためのダイスの口径と比べて著しく短くなる場合には、押出成形により炭素繊維を押出方向に配向させることが困難になる。また、アスペクト比(繊維の平均直径、例えば7μmに対する比)が小さくなるので配向性が損われ、目的とする特性が得にくくなる。長すぎると混合時の作業性が劣り、更に分散・混練時のせん断で結果的に500μm以下になる場合がある。
【0011】
この炭素系複合材料は、炭素繊維が一方向に配向していることで、φ1mmの軸材を試験片とし、支点間距離20mm、ヘッドスピード10mm/minにおける3点曲げ試験で測定される曲げ弾性率が60GPa以上という機械的強度を呈し、平均摩擦係数は0.15以下である。
【0012】
この炭素系複合材料は、黒鉛粉末、クラスターダイヤモンド、フラーレンおよびカーボンブラックからなる群から選ばれた1種又は2種以上の炭素粉末をさらに含むことが好ましい。これら炭素粉末を含むことにより、自己潤滑性、耐機械衝撃性が向上する。炭素粉末に加えて、または炭素粉末に代えて、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化硼素、タルクおよびマイカからなる群から選ばれた1種又は2種以上の無機フィラーを含んでも良い。
【0013】
また、前記炭素繊維は、例えば、PAN系炭素繊維および/またはピッチ系炭素繊維である。
【0014】
前述の炭素系複合材料は、アモルファス炭素の出発原料に平均長が10μm以上、好ましくは50μm以上、10mm以下、好ましくは500μm以下の炭素繊維を混合し、成形して、非酸化性雰囲気中で焼成・炭素化することを含む方法により製造される。
【0015】
前記成形することは、押出成形機にて成形して前記炭素繊維を押出方向に配向させることを含んでも良い。
【0016】
前記成形の前において、黒鉛粉末、クラスターダイヤモンド、フラーレンおよびカーボンブラックからなる群から選ばれた1種又は2種以上の炭素粉末を前記アモルファス炭素の出発原料にさらに混合しても良い。炭素粉末に加えて、または炭素粉末に代えて、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化硼素、タルクおよびマイカからなる群から選ばれた1種又は2種以上の無機フィラーを混合しても良い。
前述のアモルファス炭素の出発原料としては、好ましくは不活性ガス雰囲気中での焼成により5%以上の炭化収率を示す有機物質が使用される。具体的には、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル−ポリ酢酸ビニル共重合体、ポリアミド等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、イミド樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂、リグニン、セルロース、トラカントガム、アラビアガム、糖類等の縮合多環芳香族を分子の基本構造内にもつ天然高分子物質、および前記には包含されない、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、コブナ樹脂等の縮合多環芳香族を分子の基本構造内にもつ合成高分子物質が挙げられる。使用する組成物の種類と量は、目的とする摺動材料の特性、強度、形状により適宜選択され、単独でも2種以上の混合体でも使用することができる。
【実施例1】
【0017】
アモルファス炭素源としての塩化ビニル樹脂30%、フラン樹脂30%、炭素粉末としての天然鱗状黒鉛(平均粒子径5μm)10%、および炭素繊維としてのピッチ系黒鉛質炭素繊維(日本グラファイトファイバー製 HC600−15M、平均直径7μm、平均長さ150μm)30%に、可塑剤としてジアリルフタレートモノマーを添加して、ヘンシェルミキサーで分散させた後、3本ロールにて混練し、ペレタイザーにてペレット化し成形用組成物を得た。これを、口径1.4mmのダイスを有する押出成形機にて棒状に成形して炭素繊維を押出方向に配向させ、180℃のエアオーブン中で3時間処理し炭素前駆体とした。その後窒素ガス中で毎時15℃で昇温し、1400℃で3時間保持し、φ1mmの軸材を得た。
【実施例2】
【0018】
アモルファス炭素源としての塩化ビニル樹脂30%、フラン樹脂30%、炭素粉末としての天然鱗状黒鉛(平均粒子径5μm)10%、および炭素繊維としてのピッチ系黒鉛質炭素繊維(日本グラファイトファイバー製 HC600−15M、平均直径7μm、長さ150μm)20%、等方性ピッチ系炭素繊維(大阪ガスケミカル製 S247、平均直径13μm、長さ1500μm)10%に、可塑剤としてジアリルフタレートモノマーを添加して、実施例1と同様の方法でφ1mmの軸材を得た。
【実施例3】
【0019】
アモルファス炭素源としての塩化ビニル樹脂30%、フラン樹脂30%、炭素粉末としての天然鱗状黒鉛(平均粒子径5μm)10%、および炭素繊維としてのPAN系炭素繊維(三菱レイヨン製 TR066A、平均直径7μm、長さ6000μm)30%に、可塑剤としてジアリルフタレートモノマーを添加して、実施例1と同様の方法でφ1mmの軸材を得た。
(比較例1)アモルファス炭素源としての塩化ビニル樹脂40%、フラン樹脂30%、炭素粉末としての天然鱗状黒鉛(平均粒子径5μm)30%に、可塑剤としてジアリルフタレートモノマーを添加して、実施例1と同様の方法でφ1mmの軸材を得た。
(比較例2)アモルファス炭素源としての塩化ビニル樹脂30%、フラン樹脂30%、炭素粉末としての天然鱗状黒鉛(平均粒子径5μm)10%、気相成長炭素繊維(平均直径0.1μm、長さ5μm)30%に、可塑剤としてジアリルフタレートモノマーを添加して、実施例1と同様の方法でφ1mmの軸材を得た。
【0020】
得られた軸材を試験片とし、曲げ強度、曲げ弾性率、摩擦係数、比磨耗量を測定した。曲げ強度、曲げ弾性率は、支点間距離20mm、ヘッドスピード10mm/minにおける3点曲げ試験により求め、摩擦係数、比磨耗量はロッドオンリング摩擦試験機を用いて、Ra0.1μmのSUS304リングに荷重0.98gf、滑り速度10m/分、摺動距離1000mの条件で摺動試験をし求めた。
【0021】
曲げ強度MPa 曲げ弾性率GPa 平均摩擦係数 比磨耗量mm/N・m
実施例1 270 121 0.13 8×10−6
実施例2 265 89 0.11 1×10−6
実施例3 260 65 0.10 7×10−7
比較例1 280 48 0.20 4×10−6
比較例2 220 29 0.20 3×10−6
【0022】
上記の結果から明らかなように、本発明の一実施例としての炭素複合材料は、炭素繊維を含まない場合(比較例1)や炭素繊維として繊維長5μmの気相成長炭素繊維(カーボンナノファイバ)を使用する場合(比較例2)と比較することで、曲げ弾性率が60GPa以上(ピッチ系炭素繊維を使用した場合は80GPa以上であり、さらに、ピッチ系の中でも黒鉛質炭素繊維、すなわち異方性炭素繊維のみを使用した場合は110GPa以上)であり、平均摩擦係数が0.15以下である。すなわち、従来の炭素材の特性を損なうことなく弾性率、摩擦係数が向上し優れた特性を有している。また、既存の炭素繊維複合炭素材と異なり、後加工することなく任意の形状を得ることが可能なため簡便な工程で安価に製品を提供する事が出来る。
本発明の実施態様の一部を以下の項目〈1〉〜〈13〉に記載する。
〈1〉 アモルファス炭素と、
前記アモルファス炭素中に均一に分散した炭素繊維とを含み、
前記炭素繊維の平均長が10μm以上10mm以下である炭素系複合材料。
〈2〉 前記炭素繊維の平均長が50μm以上500μm以下である項目1記載の炭素系複合材料。
〈3〉 前記炭素繊維が一方向に配向している項目1または2記載の炭素系複合材料。
〈4〉 φ1mmの軸材を試験片とし、支点間距離20mm、ヘッドスピード10mm/minにおける3点曲げ試験で測定される曲げ弾性率が60GPa以上であり、平均摩擦係数が0.15以下である項目3記載の炭素系複合材料。
〈5〉 黒鉛粉末、クラスターダイヤモンド、フラーレンおよびカーボンブラックからなる群から選ばれた1種又は2種以上の炭素粉末をさらに含む項目1〜4のいずれか1項記載の炭素系複合材料。
〈6〉 二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化硼素、タルクおよびマイカからなる群から選ばれた1種または2種以上の無機フィラーをさらに含む項目1〜5のいずれか1項記載の炭素系複合材料。
〈7〉 前記炭素繊維は、PAN系炭素繊維および/またはピッチ系炭素繊維である項目1〜6のいずれか1項記載の炭素系複合材料。
〈8〉 前記アモルファス炭素は、アモルファス炭素の出発原料の焼成・炭素化により得られるものである項目1〜7のいずれか1項記載の炭素系複合材料。
〈9〉 アモルファス炭素の出発原料に平均長が10μm以上10mm以下の炭素繊維を混合し、成形して、非酸化性雰囲気中で焼成・炭素化することを含む炭素系複合材料の製造方法。
〈10〉 前記炭素繊維の平均長が50μm以上500μm以下である項目9記載の方法。
〈11〉 前記成形することは、押出成形機にて成形して前記炭素繊維を押出方向に配向させることを含む項目9または10記載の方法。
〈12〉 前記成形の前において、黒鉛粉末、クラスターダイヤモンド、フラーレンおよびカーボンブラックからなる群から選ばれた1種又は2種以上の炭素粉末を前記炭素含有樹脂にさらに混合することをさらに含む項目9〜11のいずれか1項記載の方法。
〈13〉 前記成形の前において、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化硼素、タルクおよびマイカからなる群から選ばれた1種または2種以上の無機フィラーを前記炭素含有樹脂にさらに混合することをさらに含む項目9〜12のいずれか1項に記載の方法。