特許第6274871号(P6274871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6274871
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】懸架装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/32 20060101AFI20180129BHJP
   F16F 9/06 20060101ALI20180129BHJP
   F16F 1/06 20060101ALI20180129BHJP
   B60G 17/02 20060101ALI20180129BHJP
   B60G 11/58 20060101ALI20180129BHJP
   B62K 25/08 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   F16F9/32 J
   F16F9/06
   F16F1/06 L
   B60G17/02
   B60G11/58
   B62K25/08
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-6527(P2014-6527)
(22)【出願日】2014年1月17日
(65)【公開番号】特開2015-135148(P2015-135148A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2016年9月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】坂脇 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】小倉 秀昭
【審査官】 鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−185571(JP,A)
【文献】 特開2004−286140(JP,A)
【文献】 特開2003−097628(JP,A)
【文献】 特開平05−118372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00−9/58
F16F 1/06
B62K 25/08
B60G 17/02
B60G 11/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側チューブと車輪側チューブとからなるテレスコピック型のチューブ部材と、
上記チューブ部材内に気体を圧縮しながら封入して上記チューブ部材の圧縮量に応じた反力を発揮させるエアばねと、
最伸長時における上記エアばねによる反力を相殺する反力を発揮する弾性体と
最伸長時を含む所定のストローク範囲で上記チューブ部材を収縮させる方向に作用する反力を発揮して最伸長時の衝撃を緩和する伸切ばねとを備えており、
上記弾性体のばね定数は、上記所定のストローク範囲よりも収縮側で変化する
ことを特徴とする懸架装置。
【請求項2】
上記弾性体は、多段コイルばねからなり、第一コイル部と、上記第一コイル部と一続きとなる第二コイル部とを備えており、上記弾性体が圧縮されるとき、上記第一コイル部が上記第二コイル部よりも先に最圧縮される
ことを特徴とする請求項1に記載の懸架装置。
【請求項3】
上記第二コイル部は、上記第一コイル部よりもピッチが大きく、ばね定数が大きく設定される
ことを特徴とする請求項2に記載の懸架装置。
【請求項4】
上記弾性体は、直列または並列に配置される複数のコイルばねからなり、上記弾性体が伸長するとき、一方の上記コイルばねが他方の上記コイルばねよりも先に伸び切る
ことを特徴とする請求項1に記載の懸架装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、懸架装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両において車体と車輪との間に介装される懸架装置の中には、車体を弾性支持して路面凹凸による衝撃を吸収する懸架ばねとして、エアばねを利用するものがある。
【0003】
例えば、特許文献1に開示の懸架装置は、二輪車や三輪車等の鞍乗型車両において、前輪を懸架するフロントフォークであり、車体側チューブと車輪側チューブとからなるテレスコピック型のチューブ部材を備え、このチューブ部材内に気体を圧縮しながら封入して、エアばねからなる懸架ばねとして機能させている。
【0004】
上記懸架装置において、エアばねのばね特性は、図4中実線a及び破線aに示すようになっており、エアばねは、懸架装置の最伸長時においても反力を発揮して懸架装置を伸長方向に附勢するようになっている。このため、上記エアばねをそのまま懸架ばねとして利用した場合、コイルばねからなる懸架ばねを利用する場合と比較して、ばね特性が大きく異なる。
【0005】
そこで、特許文献1に開示の懸架装置では、最伸長時におけるエアばねによる反力を相殺する反力を発揮する弾性体を備え、エアばねのばね特性aと弾性体のばね特性dの合成の特性(図4(b)中実線a,d合成)を、コイルばねからなる懸架ばねのばね特性に近づけている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−185571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した懸架装置において、弾性体がバランスばねと称される一本のコイルばねからなり、ばね定数が変化しないので、弾性体が伸び切るまでのストローク範囲E4と伸び切った後のストローク範囲E5とで、懸架装置のばね特性の変化が大きく搭乗者が違和感を覚える場合がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、最伸長時におけるエアばねによる反力を相殺する反力を発揮する弾性体を備える懸架装置において、弾性体の伸び切りを境にする懸架装置のばね特性の変化を緩やかにし、車両の乗り心地を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段は、車体側チューブと車輪側チューブとからなるテレスコピック型のチューブ部材と、上記チューブ部材内に気体を圧縮しながら封入して上記チューブ部材の圧縮量に応じた反力を発揮させるエアばねと、最伸長時における上記エアばねによる反力を相殺する反力を発揮する弾性体と、最伸長時を含む所定のストローク範囲で上記チューブ部材を収縮させる方向に作用する反力を発揮して最伸長時の衝撃を緩和する伸切ばねとを備えており、上記弾性体のばね定数は、上記所定のストローク範囲よりも収縮側で変化することである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、最伸長時におけるエアばねによる反力を相殺する反力を発揮する弾性体を備える懸架装置において、弾性体の伸び切りを境にする懸架装置のばね特性の変化を緩やかにし、車両の乗り心地を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態に係る懸架装置の主要部を部分的に切欠いて示した正面図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る懸架装置の弾性体を拡大して示した正面図である。
図3】(a)は、本発明の一実施の形態に係る懸架装置のエアばねと、弾性体と、伸切ばねそれぞれのばね特性を示した図である。(b)は、(a)のエアばねのばね特性と、弾性体のばね特性と、エアばね及び弾性体のばね特性の合成の特性を示した図である。(c)は、(a)のエアばねのばね特性と、弾性体のばね特性と、伸切ばねのばね特性と、エアばね、弾性体及び伸切ばねのばね特性の合成の特性を示した図である。
図4】(a)は、従来の懸架装置のエアばねと、弾性体それぞれのばね特性を示した図である。(b)は、(a)のエアばねのばね特性と、弾性体のばね特性と、エアばね及び弾性体のばね特性の合成の特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の一実施の形態に係る懸架装置について、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品か対応する部品を示す。
【0013】
図1に示すように、本実施の形態に係る懸架装置Fは、車体側チューブ10と車輪側チューブ11とからなるテレスコピック型のチューブ部材1と、このチューブ部材1内に気体を圧縮しながら封入して上記チューブ部材1の圧縮量に応じた反力を発揮させるエアばねと、最伸長時における上記エアばねによる反力を相殺する反力を発揮する弾性体2とを備えており、この弾性体2のばね定数は、途中で変化する。
【0014】
上記懸架装置Fは、本実施の形態において、二輪車や三輪車等の鞍乗型車両の前輪を懸架するフロントフォークであり、前輪を両側から支える一対の脚部f1(一方の脚部f1のみを図示し、他方の脚部を省略する)と、これら脚部f1を連結するとともに車体の骨格となる車体フレームに連結される車体側ブラケット(図示せず)と、各脚部f1と前輪の車軸とを連結する車輪側ブラケット12とを備えている。本実施の形態において、本発明は、対となる脚部f1の両方に具現化されているが、一方の脚部f1にのみ具現化されるとしてもよい。
【0015】
対となる脚部f1は、共通の構成を備えているので、以下、一方の脚部f1についてのみ詳細に説明する。脚部f1は、当該脚部f1の外殻となるテレスコピック型のチューブ部材1と、このチューブ部材1内に収容される緩衝器本体Dとを備えており、チューブ部材1と緩衝器本体Dとの間には、作動油を貯留するリザーバRが形成されている。本実施の形態において、減衰力発生用の流体として作動油を利用しているので、リザーバRに作動油を貯留しているが、他の液体を利用するとしてもよい。
【0016】
上記作動油の液面(図示せず)を介して上側には、気体が圧縮されながら封入されて気室Gが形成されている。当該気室Gの圧縮された気体は、チューブ部材1の圧縮量に応じた反力を発揮するエアばねとして機能し、このエアばねは、チューブ部材1を常に伸長方向に附勢して車体を弾性支持する懸架ばねとして機能する。チューブ部材1の圧縮量は、懸架装置Fの圧縮量に等しいので、エアばねは、懸架装置Fの圧縮量に応じた反力を発揮するとともに、懸架装置Fを伸長方向に附勢するともいえる。また、本実施の形態において、気室Gは、リザーバRから緩衝器本体D内にかけて形成されており、リザーバR内の気室を、以下、リザーバ内気室g1とする。
【0017】
チューブ部材1は、図示しない車体側ブラケットに連結される車体側チューブ10と、車輪側ブラケット12に連結されて車体側チューブ10に出入りする車輪側チューブ11とを備えてテレスコピック型となっており、路面凹凸による衝撃が車輪に入力されると、車輪側チューブ11が車体側チューブ10に出入りして伸縮するようになっている。本実施の形態において、懸架装置Fは、車体側チューブ10に車輪側チューブ11が出入りする倒立型のフロントフォークであるが、車輪側チューブ11に車体側チューブ10が出入りする正立型のフロントフォークであるとしてもよい。
【0018】
チューブ部材1の上端開口は、キャップ部材13で塞がれており、チューブ部材1の下端開口は、車輪側ブラケット12で塞がれており、車体側チューブ10と車輪側チューブ11の重複部の間に形成される筒状隙間の下端開口は、車体側チューブ10の下部内周に保持されて車輪側チューブ11の外周面に摺接する環状のオイルシール14とダストシール15とで塞がれているので、チューブ部材1内に収容される作動油や気体がチューブ部材1外に漏れ出ないようになっている。
【0019】
また、キャップ部材13には、エアバルブ16が設けられており、このエアバルブ16を介して気室Gに気体を給排できるようになっている。気室Gは、チューブ部材1の伸縮に伴い膨縮し、気室Gの圧縮比を、リザーバRに貯留される作動油の量により決定することができる。そして、気室Gが所定容積にあるときの圧力を気体の給排で調節することにより、エアばねによるばね特性を所望の特性に設定できる。
【0020】
チューブ部材1に収容される緩衝器本体Dは、キャップ部材13にシリンダ保持筒17を介して吊り下げた状態に保持される筒状のシリンダ3と、このシリンダ3内に軸方向に移動可能に挿入されるピストン4と、このピストン4に連結されて図1中下側に延びシリンダ3から突出して下端が車輪側ブラケット12に固定されるロッド5と、シリンダ3の図1中下端に固定されて上記ロッド5を軸方向に移動自在に軸支する環状のロッドガイド6と、キャップ部材13に吊り下げた状態に保持されてシリンダ3の反ロッド側の軸心部に起立するベースロッド7と、このベースロッド7の図1中下端に固定されるベース部材8と、ベースロッド7の外周に取り付けられてシリンダ3内を軸方向に移動可能なフリーピストン9とを備えている。
【0021】
そして、シリンダ3内には、ピストン4で区画されて作動油が充填される図1中下側の伸側室L1及び図1中上側の圧側室L2と、ベース部材8で圧側室L2と区画されて作動油が充填される液溜室L3と、フリーピストン9で液溜室L3と区画されて気体が収容されるシリンダ内気室g2とが形成されている。ロッドガイド6の内周には、ロッド5の外周面に摺接する環状のベアリング60とシール61が直列に設けられており、このシール61でシリンダ3内の作動油が漏れ出ることを防いでいる。また、フリーピストン9の内周には、ベースロッド7の外周面に摺接するOリング90が設けられ、フリーピストン9の外周には、シリンダ3の内周面に摺接するOリング91が設けられており、気体と作動油とを分離できるようになっている。
【0022】
シリンダ3を保持するシリンダ保持筒17の図1中上部には、当該シリンダ保持筒17の内外を連通する孔17aが形成されており、シリンダ内気室g2はリザーバ内気室g1とともに気室Gを構成する。つまり、本実施の形態において、気室Gは、緩衝器本体Dの外側のリザーバRから、緩衝器本体Dの内側であるシリンダ3内のフリーピストン9の直上部まで延びている。
【0023】
シリンダ内気室g2は、リザーバ内気室g1と圧力が等しく、当該圧力でフリーピストン9を図1中下側に附勢し、液溜室L3を介して圧側室L2及び伸側室L1を加圧できる。このため、減衰力発生応答性を向上させることができる。なお、シリンダ内気室g2とリザーバ内気室g1とを分離するとしてもよく、この場合には、リザーバ内気室g1に気体を給排するエアバルブ16の他に、シリンダ内気室g2に気体を給排するエアバルブを設けることが好ましい。また、フリーピストン9をコイルばねで附勢することにより、減衰力発生応答性を向上させるとしてもよい。
【0024】
ピストン4には、伸側室L1と圧側室L2とを連通する伸側ピストン通路4aと圧側ピストン通路4bとが形成されている。ピストン4の図1中上側には、伸側ピストン通路4aを開閉するリーフバルブ40が積層されており、このリーフバルブ40は、伸長作動時にのみ伸側ピストン通路4aを開く。また、ピストン4の図1中下側には、圧側ピストン通路4bを開閉するリーフバルブ41が積層されており、このリーフバルブ41は、圧縮作動時にのみ圧側ピストン通路4bを開く。
【0025】
ベース部材8には、圧側室L2と液溜室L3とを連通する伸側ベース通路8aと圧側ベース通路8bとが形成されている。ベース部材8の図1中下側には、伸側ベース通路8aを開閉するリーフバルブ80が積層されており、このリーフバルブ80は、伸長作動時にのみ伸側ベース通路8aを開く。また、ベース部材8の図1中上側には、圧側ベース通路8bを開閉するリーフバルブ81が積層されており、このリーフバルブ81は、圧縮作動時にのみ圧側ベース通路8bを開く。
【0026】
上記構成によれば、車輪側チューブ11が車体側チューブ10から退出し、ロッド5がシリンダ3から退出する懸架装置Fの伸長作動時において、縮小される伸側室L1の作動油がピストン4のリーフバルブ40を開き、伸側ピストン通路4aを通って拡大する圧側室L2に移動するとともに、シリンダ3から退出したロッド体積分の作動油がベース部材8のリーフバルブ80を開き、伸側ベース通路8aを通って液溜室L3から圧側室L2に移動する。このため、緩衝器本体Dは、上記作動油が伸側ピストン通路4a及び伸側ベース通路8aを移動する際の抵抗に起因する伸側減衰力を発揮する。また、液溜室L3から作動油が流出すると、フリーピストン9が図1中下側に移動して液溜室L3を縮小させるとともに、シリンダ内気室g2の容積を拡大させてロッド退出体積分のシリンダ内容積変化を補償できる。
【0027】
本実施の形態において、伸側ベース通路8aを開閉するリーフバルブ80の開弁圧が低く設定されて、当該リーフバルブ80が逆止弁として機能するようになっているので、上記伸側減衰力は、主に、伸側ピストン通路4aを開閉するリーフバルブ40の抵抗に起因するものである。このようにすることで、拡大する圧側室L2で作動油が不足することを抑制できるが、上記各リーフバルブ40,80による抵抗は、所望の減衰力の特性に応じて適宜変更することが可能である。また、伸側ピストン通路4aや伸側ベース通路8aを開閉したり、これらを通過する作動油の流れに抵抗を与えたりするための構成として、リーフバルブ40,80以外を採用するとしてもよく、例えば、ポペット弁やオリフィスを代用してもよい。
【0028】
反対に、車輪側チューブ11が車体側チューブ10に進入し、ロッド5がシリンダ3に進入する懸架装置Fの圧縮作動時において、縮小される圧側室L2の作動油がピストン4のリーフバルブ41を開き、圧側ピストン通路4bを通って拡大する伸側室L1に移動するとともに、シリンダ3に進入したロッド体積分の作動油がベース部材8のリーフバルブ81を開き、圧側ベース通路8bを通って圧側室L2から液溜室L3に移動する。このため、緩衝器本体Dは、上記作動油が圧側ピストン通路4b及び圧側ベース通路8bを移動する際の抵抗に起因する圧側減衰力を発揮する。また、液溜室L3に作動油が流入すると、フリーピストン9が図1中上側に移動して液溜室L3を拡大するとともに、シリンダ内気室g2の容積を縮小させてロッド進入体積分のシリンダ内容積変化を補償できる。
【0029】
本実施の形態において、圧側ピストン通路4bを開閉するリーフバルブ41の開弁圧が低く設定されて、当該リーフバルブ41が逆止弁として機能するようになっているので、上記圧側減衰力は、主に、圧側ベース通路8bを開閉するリーフバルブ81の抵抗に起因するものである。このようにすることで、拡大する伸側室L1で作動油が不足することを抑制できるが、上記各リーフバルブ41,81による抵抗は、所望の減衰力の特性に応じて適宜変更することが可能である。また、圧側ピストン通路4bや圧側ベース通路8bを開閉したり、これらを通過する作動油の流れに抵抗を与えたりするための構成として、リーフバルブ41,81以外を採用するとしてもよく、例えば、ポペット弁やオリフィスを代用してもよい。
【0030】
ピストン4とロッドガイド6との間には、懸架装置Fの最伸長時におけるエアばねの反力を相殺する反力を発揮する弾性体2が設けられている。この弾性体2は、図2に示すように、二段の多段コイルばね、即ち、二段コイルばねからなり、ピッチPが小さくばね定数が小さい第一コイル部2aと、この第一コイル部2aと一続きとなり上記第一コイル部2aよりもピッチPが大きくばね定数が大きい第二コイル部2bとを備えている。また、弾性体2が圧縮する過程において、ばね定数の小さい第一コイル部2aが先に最圧縮されように設定されている。
【0031】
この第一コイル部2aが最圧縮されたときの弾性体2の圧縮量をXとすると、弾性体2の圧縮量が零(自然長)からX未満である場合の弾性体のばね定数は、第一コイル部2aのばね定数と第二コイル部2bのばね定数の合成となり、弾性体2の圧縮量がX以上である場合の弾性体2のばね定数は、第二コイル部2bのばね定数となる。
【0032】
図1に示すように、弾性体2の軸方向の端部には、それぞれ、ロッド5の挿通を許容する中心孔を有した環状のホルダ20,21が嵌合されている。弾性体2の図1中下端部に嵌合するホルダ20は、ロッドガイド6に固定されている。他方、弾性体2の図1中上端部に嵌合するホルダ21は、シリンダ3内を軸方向に摺動できるようになっている。ロッド5の外周には、ピストン4の図1中下側に環状のストッパ50が固定されており、懸架装置Fがある程度伸長するとホルダ21がストッパ50に当接して弾性体2を圧縮できるようになっている。このように、上下のホルダ21,20の間で弾性体2が圧縮されると、弾性体2は圧縮量に応じた反力を発揮し、この弾性体2による反力は懸架装置Fを圧縮させる方向に作用する(図3(a)中実線b、図3(b)(c)中一点鎖線b)。懸架装置Fに組み付けられた弾性体2の圧縮量は、懸架装置Fの最伸長時において最も大きくなり、懸架装置Fの全ストローク範囲の中央付近で零となり、弾性体2が伸び切るようになっている。
【0033】
ところで、懸架装置Fの最伸長時においても気室Gは加圧された状態となっており、エアばねによる反力が懸架装置Fを伸長させる方向に作用する(図3(a)中実線a、図3(b)(c)中破線a)。そして、懸架装置Fの最伸長時において、伸長方向に作用するエアばねの反力を、圧縮方向に作用する弾性体2の反力で相殺して、懸架装置Fにかかる荷重が零、または、零に近い値となるように設定されている(図3(b)中実線a,b合成)。このようにすることで、弾性体2のばね特性とエアばねのばね特性の合成の特性を、コイルばねからなる懸架ばねのばね特性に近づけることができる。
【0034】
本実施の形態において、弾性体2の内側に、この弾性体2よりもコイル径が小さく、軸方向長さが短いコイルばねからなる伸切ばねSが設けられている。当該伸切ばねSは、懸架装置Fが最伸長時近傍にあるときに、圧縮されて反力を発揮し、この伸切ばねSによる反力が懸架装置Fを圧縮させる方向に作用する(図3(a)中実線c、図3(b)(c)中二点鎖線c)。当該伸切ばねSを備えることにより、エアばね、弾性体2及び伸切ばねSのばね特性を合成すると、最伸長時近傍の所定のストローク範囲で、懸架装置Fに圧縮方向に荷重がかかるようになっているので、懸架装置Fの伸長作動を抑制し、懸架装置Fの最伸長時の衝撃を緩和できる。
【0035】
以下、本実施の形態に係る懸架装置Fの作動について説明する。
【0036】
図3(c)中実線a,b,c合成で示すように、懸架装置Fの最伸長時から伸切ばねSが伸び切り、自然長となるまでのストローク範囲E1において、懸架装置Fのばね特性は、エアばねのばね特性aと、弾性体2のばね特性bと、伸切ばねSのばね特性cに依存する。当該ストローク範囲E1において、弾性体2の圧縮量はX以上となるように設定されているので、弾性体2のばね定数は第二コイル部2bのばね定数となり、弾性体2のばね特性は第二コイル部2bの特性に依存する。
【0037】
つづいて、伸切ばねSが自然長となった後で、弾性体2が伸び切り自然長となるまでのストローク範囲E2においては、懸架装置Fのばね特性は、エアばねのばね特性aと弾性体2のばね特性bに依存する。当該ストローク範囲E2において、弾性体2の圧縮量がXを超えている前半領域E2aでは、第一コイル部2aが最圧縮された状態となっているので、弾性体2のばね定数は、第二コイル部2bのばね定数となり、弾性体2のばね特性は第二コイル部2bのばね特性に依存する。これに対して、上記ストローク範囲E2において、弾性体2の圧縮量がX以下となる後半領域E2bでは、第一コイル部2aが伸縮できるので、弾性体2のばね定数は、直列される第一コイル部2aと第二コイル部2bのばね定数の合成となって小さくなる。
【0038】
つづいて、弾性体2が自然長となった後のストローク範囲E3において、懸架装置Fのばね特性は、エアばねのばね特性aに依存するが、上記したように、手前のストローク範囲E2において弾性体2のばね定数が途中で変化し、ストローク範囲E3の直前領域(E2b)での弾性体2のばね定数が小さくなって傾きを小さくしているので、弾性体2の伸び切りを境にしたばね定数の変化を小さくできる。したがって、懸架装置F全体としてのばね特性の変化を緩やかにし、車両の乗り心地を向上させることが可能となる。
【0039】
以下、本実施の形態に係る懸架装置Fの作用効果について説明する。
【0040】
本実施の形態において、弾性体2の第二コイル部2bは、第一コイル部2aよりもピッチPが大きく、ばね定数が大きく設定される。
【0041】
上記構成によれば、多段コイルばねを利用した弾性体2において、当該弾性体2が圧縮されるとき、第一コイル部2aを第二コイル部2bよりも先に最圧縮させることが容易であり、多段コイルばねの設計を容易にできる。なお、弾性体2となる多段コイルばねの構成は上記の限りではなく、ばね定数が小さいコイル部のピッチPを、ばね定数が大きいコイル部のピッチPよりも大きくしてもよく、ばね定数が小さいコイル部よりも先にばね定数が大きいコイル部を最圧縮させるようにしてもよい。
【0042】
また、本実施の形態において、弾性体2は、二段の多段コイルばねからなり、第一コイル部2aと、この第一コイル部2aと一続きとなる第二コイル部2bとを備えている。そして、弾性体2が圧縮されるとき、第一コイル部2aが第二コイル部2bよりも先に最圧縮される。
【0043】
上記構成によれば、弾性体2の圧縮量が所定よりも小さい領域、即ち、弾性体2が所定よりも伸びた状態にあるときの弾性体2のばね定数を下げることができる。このため、本実施の形態のように、エアばねのばね定数がそれほど大きくない全ストローク範囲の中ほどで、弾性体2が伸び切り、エアばねのみのばね特性に切り替わる場合において、弾性体2の伸び切りを境にした懸架装置Fのばね特性の変化を効果的に緩やかにできる。
【0044】
また、上記構成によれば、一本の多段コイルばねで弾性体2のばね定数を途中で変化させることができるので、懸架装置Fの部品数を削減することができ、構成を簡易にすることができる。なお、本実施の形態において、弾性体2は二段コイルばねからなるが、三段以上の多段コイルばねからなるとしてもよい。
【0045】
また、弾性体2の構成は上記の限りではなく、弾性体2が、直列または並列に配置される複数のコイルばねからなり、弾性体2が伸長するとき、一方のコイルばねが他方のコイルばねよりも先に伸び切るようにしてもよい。この場合においても、弾性体2のばね定数を途中で変化させ、弾性体2の圧縮量が所定よりも小さい領域で、弾性体2のばね定数を下げることができる。
【0046】
また、本実施の形態において、懸架装置Fは、車体側チューブ10と車輪側チューブ11とからなるテレスコピック型のチューブ部材1と、このチューブ部材1内に気体を圧縮しながら封入して上記チューブ部材1の圧縮量に応じた反力を発揮させるエアばねと、最伸長時における上記エアばねによる反力を相殺する反力を発揮する弾性体2とを備えており、この弾性体2のばね定数は、途中で変化する。
【0047】
上記構成によれば、弾性体2のばね定数を途中で変化させているので、弾性体2の伸び切りを境にする懸架装置Fのばね特性の変化を緩やかにし、車両の乗り心地を向上させることが可能となる。
【0048】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱することなく改造、変形及び変更を行うことができることは理解すべきである。
【符号の説明】
【0049】
F 懸架装置
P ピッチ
1 チューブ部材
2 弾性体
2a 第一コイル部
2b 第二コイル部
10 車体側チューブ
11 車輪側チューブ
図1
図2
図3
図4