(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記断熱材は、プローブ、データロガー及び冷却手段の周囲を囲む内側断熱材と、前記内側断熱材を外側から取り囲むと共に前記内側断熱材より高い耐熱性を備えた外側断熱材とを有する多層構造体から形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の温度測定装置。
【背景技術】
【0002】
従来より、製鋼の製造プロセスにおいて加熱炉等に配備されたワークや雰囲気等の温度を測定する温度測定装置として、耐熱性を有する筐体に温度センサとデータロガーとを組み込んだものが利用されている。この温度測定装置は、ワークと一緒に加熱炉内に投入され、加熱炉内で加熱されるワークの実体温度を計測可能とされている。そのため、この温度測定装置の筐体には、高い耐熱性が要求される。
【0003】
このような温度測定装置としては、例えば、特許文献1に開示されるようなものが知られている。この特許文献1の温度測定装置は、焼き入れ装置の加熱炉内で950℃程度に加熱されたワークの実体温度を計測するためのものである。この温度測定装置は、外ケースの内側に、断熱材で囲まれた断熱ケースを備えている。そして、この断熱ケースの内部に、温度を計測するための計測デバイスが収容されている。
【0004】
この断熱材には、断熱材を厚み方向に貫通するように液体導入路が形成されており、この液体導入路を通じて装置外の浸漬液を断熱ケースの内側まで導入できるようになっている。つまり、温度測定装置を浸漬液に浸漬(液浸)すれば、浸漬液が装置内に導入されて断熱材を冷却することが可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1の温度測定装置では、液浸による冷却を前提として最適化された構造であり、液浸がない場合は十分な耐熱性を発揮することができない。つまり、高温の使用環境で使用して、液浸による冷却効果がなくなると、高温に加熱された雰囲気が液体導入路を通じて断熱ケース内に入り込むため、十分な断熱性能が得られず、断熱ケース内の温度が上昇し、最悪の場合計測デバイスが破損する可能性がある。
【0007】
さらに、特許文献1の温度測定装置では、外ケースに用いる材質によって耐熱性が変化する。例えば、外ケースにステンレス鋼を使用している場合は、ステンレス鋼の融点である1300℃前後が装置の使用上限温度となる。ところが、製鋼のプロセスでは実際に1300℃を超えるような高温環境で温度計測を行うことが必要となる場合があり、製鋼のプロセスなどには実際に適用することができないという問題もあった。
【0008】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、1300℃を超えるような高温環境下においても、対象物の実体温度を正確に測定することができる温度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の温度測定装置は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の温度測定装置は、外部に突出した先端に温度を計測する検温部を有するプローブと、前記プローブの検温部で検知された温度のデータを記録するデータロガーと、前記データロガーを動作させる電力を供給するバッテリと、前記データロガーを冷却する冷却手段と、前記データロガー、バッテリ及び冷却手段を外側から取り囲むと共に外表面が外側環境に直接接する断熱材と、を備えることを特徴とする。
【0010】
なお、好ましくは、前記冷却手段は、前記データロガーの作動温度領域内において複数の相変化を可能とする媒質を有するとよい。
なお、好ましくは、前記プローブ、データロガー及び冷却手段の周囲には、前記断熱材との間の空隙を充填する充填材が充填されているとよい。
なお、好ましくは、前記断熱材は、プローブ、データロガー及び冷却手段の周囲を囲む
内側断熱材と、前記内側断熱材を外側から取り囲むと共に前記内側断熱材より高い耐熱性を備えた外側断熱材とを有する多層構造体から形成されているとよい。
【0011】
なお、好ましくは、前記データロガーに記録された温度のデータを、外部に無線送信する送信手段が設けられているとよい。
また、本発明に係る温度測定装置の最も好ましい形態は、外部に突出した先端に温度を計測する検温部を有するプローブと、前記プローブの検温部で検知された温度のデータを記録するデータロガーと、前記データロガーを動作させる電力を供給するバッテリと、前記データロガーを冷却する冷却手段と、前記データロガー、バッテリ及び冷却手段を外側から取り囲むと共に外表面が外側環境に直接接する断熱材と、を備え、前記プローブ、データロガー及び冷却手段の周囲には、前記断熱材との間の空隙を充填する充填材が充填されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の温度測定装置によれば、1300℃を超えるような高温環境下においても、対象物の実体温度を正確に測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の温度測定装置1の実施形態を、図面に基づき詳しく説明する。
図1は、本実施形態の温度測定装置1を模式的に示したものである。
図1に示すように本実施形態の温度測定装置1は、高温環境でワーク(対象物)の温度を測定するものである。このような高温環境としては、例えば、製鋼プロセスで用いられるキルン炉などが挙げられる。このキルン炉では、ワークが1000℃を超える高温に加熱されている。それゆえ、このキルン炉で加熱中のワークの温度やキルン炉で加熱された直後に冷却されているワークの温度を実測する場合には、本実施形態の温度測定装置1が好適に使用される。また、本実施形態の温度測定装置1は、焼結炉で焼結される焼結物の温度を計測する場合などにも用いることができるようになっている。
【0015】
具体的には、本実施形態の温度測定装置1は、対象物の温度を計測する検温部2を有するプローブ3と、プローブ3の検温部2で検知された温度のデータを記録するデータロガー4と、データロガー4を動作させる電力を供給するバッテリ5と、を備えている。また、この温度測定装置1は、データロガー4を冷却する冷却手段6と、データロガー4、バッテリ5及び冷却手段6を外側から取り囲むと共に外表面が雰囲気に直に接している断熱材7と、を備えている。さらに、上述したプローブ3、データロガー4及び冷却手段6の周囲には、断熱材7との間の空隙を充填する充填材8が充填されている。
【0016】
次に、本実施形態の温度測定装置1を構成するプローブ3、データロガー4、バッテリ5、冷却手段6、断熱材7、及び充填材8について詳しく説明する。
プローブ3は、長尺な棒状に形成されており、温度測定装置1の内部から外部に向かって突出するように配備されている。このプローブ3の外部に突出した先端には温度を計測する検温部2が設けられており、この検温部2には本実施形態では熱電対が配備されている。プローブ3は、この装置外部、詳しくは断熱材7の外側に位置する検温部2で、装置外(断熱材7の外側)の雰囲気の温度やワークの温度を実際に計測可能となっている。また、プローブ3の基端は、断熱材7の内側に位置しており、外側に比べて低温とされた断熱材7の内側でデータロガー4に接続されていて、検温部2で検温された温度のデータをデータロガー4に信号として出力できるようになっている。
【0017】
データロガー4は、上述したプローブ3から入力された温度のデータを取り込んで、記憶する部分である。データロガー4には、温度のデータをデジタルに変換するD/Aコンバータや、変換された温度のデータを記録するメモリなど電子回路が内蔵されている。これらの電子回路は、防水処理された状態でデータロガー4の内部に収容されている。また、このデータロガー4には、データロガー4に作動用の電力を供給するバッテリ5が設けられている。
【0018】
バッテリ5は、データロガー4と同様に断熱材7の内側に配備されてデータロガー4を動作させる電力を供給するものである。本実施形態のバッテリ5には、150℃までの高温に耐えられる耐熱性の電池が用いられている。
上述したデータロガー4には、データロガー4に取り込まれた温度のデータを外部に無線で送信する送信手段9が設けられている。この送信手段9により断熱材7の外側に発信された無線の信号は、設備外に設けられた受信機(基地局)で受信される。このようにすれば、データロガー4を回収することなく温度のデータを入手可能となる。例えば、この
ような送信手段9は、系(測定系)の温度情報をリアルタイムで計測・管理したい場合に特に好ましく用いることができる。また、温度測定装置1を回収しない、言い換えれば温度測定装置1を「使い捨て」状態で使用するような場合にも好ましく用いることができる。
【0019】
上述したデータロガー4は耐熱性をほとんど備えていない半導体素子などで構成されているため、本実施形態の温度測定装置1にはデータロガー4を冷却する冷却手段6が設けられている。この冷却手段6は、データロガー4を半導体素子の作動範囲である0℃〜100℃程度に保持することを可能とする媒質を備えたものとなっている。このような媒質としては、「水」が挙げられる。
【0020】
つまり、「水」は、媒質の中でも熱容量(比熱)が大きな物質であり、冷却手段6の媒質に用いた場合に高い冷却能力を発揮することができる。また、「水」は、固体である「氷」から液体である「水」に相変化(液化)する際や、液体である「水」から気体である「水蒸気」に相変化(気化)する際に大きな潜熱を必要とするため、この潜熱を利用すれば大きな冷却能力を発揮させることができ、センサ内部の熱容量増加は装置の小型化に寄与する。
【0021】
具体的には、冷却手段6は、媒質である「水」を水密で収容する容器10を備えており、温度測定前は容器10内に水を凍らせた「氷」の状態で収容している。そして、データロガー4を冷却する際には、「氷」が「水」に相変化(融解)する際の潜熱と、「水」が「水蒸気」に相変化(沸騰)する際の潜熱とを冷却対象から奪うことにより、冷却対象のデータロガー4を水の融点である0℃〜沸点である100℃までの温度範囲に保持(冷却)できるようになっている。
【0022】
このような0℃〜100℃の温度範囲は、一般的な半導体素子の使用可能な温度範囲と一致しており、半導体素子が安定して使用可能な範囲となっている。
なお、上述した容器10には、気体となった水(水蒸気)を容器10外に逃がして、内圧上昇により容器10が破損することを防止する排気部11が形成されている。この排気部11は、後述する断熱材7を厚み方向に貫通して、容器10内と容器10外(温度測定装置1の外部)とを連通可能な構成とされており、容器10内で発生した水蒸気を装置外に放出できるようになっている。
【0023】
断熱材7は、データロガー4を外側から取り囲むように配備されており、データロガー4を高温環境の熱から保護できるようになっている。つまり、断熱材7は、プローブ3の基端側、データロガー4、送信手段9及び冷却手段6といった部材の周囲を取り囲むように配備されており、断熱材7の外表面は雰囲気(外側環境)に直接に接するようになっている。
【0024】
また、断熱材7は、内側断熱材12と、この内側断熱材12を外側から取り囲むと共に内側断熱材12より高い耐熱性を備えた外側断熱材13とを有する多層構造体から形成されている。このように耐熱性と断熱性とがそれぞれ異なる内側断熱材12及び外側断熱材13を組み合わせて用いるのは、次のような理由からである。
つまり、断熱材7の中でも断熱性が良好な材料として知られるものでも耐熱性が十分でないものは多いし、断熱材7の中でも耐熱性が良好な材料として知られるものでも断熱性が十分でないものは多い。そのため、断熱性が良好な材料で断熱材7を形成すると耐熱性が十分でなくなるし、耐熱性が良好な材料で断熱材7を形成すると断熱性が十分でなくなる。つまり、断熱性と耐熱性とを兼ね備えた断熱材7を得るには、耐熱性が高い断熱材7の周囲を断熱性が高い断熱材7で取り囲んで、両断熱材7を組み合わせて用いることが必要となる。このようにすれば、断熱性と耐熱性とを両立させることが可能となり、結果として温度測定装置1を小型化しつつ断熱性能を向上させることが可能となる。
【0025】
具体的には、上述した内側断熱材12には耐熱性が900℃程度で、断熱性(熱伝導率)に優れるヒュームドシリカ(5-30μm:球状)の成形体が使用されており、また外側断熱材13には耐熱性が1600℃程度のセラミックファイバから形成された断熱材料が使用されている。このような多層構造体の断熱材を用いれば、1300℃を超える高温環境で使用することが可能となる。
【0026】
上述したプローブ3の基端側、データロガー4、送信手段9及び冷却手段6の周囲には、フィルムなどが被覆されており、このフィルムの周囲には断熱材7との間の空隙を充填する充填材8がさらに充填されている。この充填材8は、内部に収容されたプローブ3、データロガー4及び冷却手段6の周囲を充填することで、これらの部材に対する気密性を高める機能を備えている。つまり、上述した部材の周囲を充填材8で充填することにより、断熱材7を通過した高温の雰囲気がデータロガー4に接触することを防止することができ、データロガー4を高温からより確実に保護することが可能となる。隙間を充填材で埋めることは、内部の熱容量を確保する上でも効果がある。
【0027】
次に、上述した温度測定装置1を用いてワークの温度を測定する方法、言い換えれば本発明の温度測定方法について説明する。
上述したプローブ3、データロガー4、バッテリ5、容器10内に水を入れて凍らせた冷却手段6、さらにこれらに必要に応じて送信手段9を加えたものの周囲に充填材8を配設し、これらの部材を充填材8で気密状態に被覆する。そして、気密状態とされたこれらの部材の周囲を内側断熱材12で被覆し、次に内側断熱材12の周囲を外側断熱材13で被覆する。このとき、プローブ3の基端側だけが断熱材7で被覆されるようにし、プローブ3の先端側は断熱材7の外側に露出するようにして温度測定装置1を組み上げる。
【0028】
なお、これらの作業は、冷却手段6内の氷が溶けないように、冷凍室のような低温の環境下で行われる。このようにして温度測定装置1が組み上がったら、組み上がった温度測定装置1を、そのまま冷凍庫などに入れて保管しておく。そして、実際に温度を測定する際には、冷凍庫から温度測定装置1を取り出し、クーラボックスなどの保冷容器10に入れて測定対象の加熱炉などがある場所まで運搬する。
【0029】
そして、上述した温度測定装置1を用いて高温環境下にあるワークの温度を実測する際には、保冷容器10などから温度測定装置1を取り出し、点検口などから加熱炉などの内部に装入する。
炉内の高温環境に置かれた温度測定装置1では、冷却手段6の容器10内の「氷」が「水」に相変化する際の潜熱、融点の「水」がさらに加熱されて沸点に達するのに必要な熱、さらに「水」が「水蒸気」に相変化する際の潜熱により、冷却手段6の近傍に配備されたプローブ3の基端側、データロガー4、バッテリ5、送信手段9などの温度上昇が抑制される。
【0030】
特に、半導体素子を使用したデータロガー4では、相変化により容器10の水が蒸発するまでは、温度が0℃〜100℃に保持されるため、高温に弱い半導体素子を熱から保護することが可能となり、炉内の高温環境下においても温度測定装置1を安定した動作状態に維持することが可能となる。
また、上述した温度測定装置1は、断熱材7の外側にSUSや鋼のような金属のケースを備えていないので、これらの金属の融点による制約を受けることなく、温度を測定することが可能となる。そのため、1300℃を超えるような高温環境下においても、対象物の実体温度を正確に測定することができる。
【実施例】
【0031】
次に、実施例を用いて、本発明の温度測定装置1が有する効果についてさらに詳しく説明する。
実施例に用いた温度測定装置1は、外側断熱材13にイソウール1600、内側断熱材12にWDSを採用した断熱筐体(120mmx120mmx180mm)を用いたものである。これらの外側断熱材13及び内側断熱材12の内部には、冷却手段6の容器10(SUS製)が設けられており、その内部には予め凍らせた水が収容されている。
【0032】
また、上述したプローブ3には白金ロジウムの熱電対(R熱電対)が使用されている。さらに、このプローブ3からのデータを取り込むデータロガー4には、熱電対からのデータを採取・記憶する電子回路と、耐熱電池とが格納されている。さらにまた、電子回路には無線機能(送信手段9)とデータ記憶用のメモリと熱電対の熱起電力を測定する測定部とが設けられている。
【0033】
なお、上述したデータロガー4の周囲は、水によるショートを避けるため、ラップなど
の樹脂フィルムで被覆され、さらにこの樹脂フィルムの周囲を充填材8(ベタック1550)で被覆することで簡易防水処置が施されている。
この実施例の温度測定装置1を、炉内温度が約1350℃の加熱炉へ挿入し、炉内温度を測定した際に、プローブ検温部にて測定される温度と装置内部との温度がどのように変化するかを計測した。結果を
図2に示す。
【0034】
図2に点線で示されるように、加熱炉内温度測定値は、使用開始後約1〜2分で炉内温度の1350℃まで上昇している。そして、温度測定装置1は、13分経過するまで炉内に保持され、その後炉内から取り出し冷却されている。このように1350℃といった高温環境下において、
図2に実線で示される装置内部の温度測定結果を見ると、使用開始から13分経過しても装置内部の温度は半導体素子の使用可能温度範囲である0℃〜100℃を維持している。このことから、実施例のような温度測定装置1では、1450℃に達する高温の使用環境においても十分な断熱性を発揮できていることが分かる。
【0035】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。