特許第6274912号(P6274912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6274912
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】電動ファン付き呼吸用保護具
(51)【国際特許分類】
   A62B 18/08 20060101AFI20180129BHJP
【FI】
   A62B18/08 Z
   A62B18/08 A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-39284(P2014-39284)
(22)【出願日】2014年2月28日
(65)【公開番号】特開2015-163090(P2015-163090A)
(43)【公開日】2015年9月10日
【審査請求日】2017年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000162940
【氏名又は名称】興研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104776
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100119194
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 明夫
(72)【発明者】
【氏名】栗山 智
【審査官】 二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−172779(JP,A)
【文献】 特開昭61−289108(JP,A)
【文献】 特開2002−181767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62B 7/00−33/00
A41D 13/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の少なくとも鼻及び口を覆うように装着される面体及び前記面体内部に空気を送気する電動ファンを備えた本体部と、
装着者の呼吸の状態の変化に依存して変化する前記面体の内部における内圧の変化を検知する圧力検知手段と、
前記圧力検知手段における、前記内圧の検知に基づいて、予め設定された被制御対象の動作状態の切り替え制御を行う動作制御手段とを備え、
該動作制御手段は、前記圧力検知手段において、前記装着者の呼吸に伴って、連続する複数の呼吸における時間方向及び/又は圧力方向のパターンの変化が検知されたときに、前記被制御対象の前記切り替え制御を行うことを特徴とする電動ファン付き呼吸用保護具。
【請求項2】
前記動作制御手段は、前記装着者の呼吸に伴って、所定の時間帯において前記内圧の所定の変化が複数回生じたことが前記圧力検知手段において検知された場合に、前記被制御対象の前記切り替え制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の電動ファン付き呼吸用保護具。
【請求項3】
前記動作制御手段は、所定の時間帯において、前記内圧の上限しきい値と下限しきい値とを設定し、前記内圧が、前記上限しきい値よりも高い値となった後に前記下限しきい値よりも低い値となる変化、又は、前記下限しきい値よりも低い値となった後に前記上限しきい値よりも高い値となる変化、を前記動作制御手段が検知したときに、前記被制御対象の切り替え制御を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の電動ファン付き呼吸用保護具。
【請求項4】
前記圧力検知手段は、前記面体の一部に設けられた通気用の弁体の開閉状態によって前記面体の前記内圧を検知する位置センサであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の電動ファン付き呼吸用保護具。
【請求項5】
前記被制御対象は、前記面体の一部に設けられた拡声器であって、前記動作制御手段は前記拡声器のオンオフ制御を行うことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載の電動ファン付き呼吸用保護具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防塵・防毒用の全面形マスク、半面形マスク等において、電動ファンによって面体内の吸気や排気を補助する構成を有する呼吸用保護具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶接や石材加工の現場等において浮遊する人体に有害な粉塵や、有害ガス等が浮遊する作業環境においては、作業者がそれらを吸気して健康被害を被ることを防ぐことが必要になる。そのため、従来、このような作業者を健康被害から守るために、各種の防塵マスクや防毒マスクが用いられる。この防塵マスクや防毒マスクは、装着者の顔面全面や、鼻と口の部分の周囲を面体で覆い、面体の周縁部分を顔面に密着させて装着させる。通常これらのマスクの吸気部には活性炭等の濾過材が設けられるので、吸気抵抗が大きくなる。そこで、吸気部の濾過剤の前側又は後側に電動ファンを設け、ファンの送気力(吸引力)を利用して呼吸を補助する構成が知られている。一方、これらのマスクは少なくとも鼻と口の部分が面体で覆われており、装着者の発話音声が面体内部にこもって周囲の人に聴き取り難くなる問題がある。そこで、従来、マスク本体部に電気式の拡声器を装着して装着者の発話を明瞭に外部に伝達させる構成が知られている。また、この構成に、装着者の呼吸状態を検出するための構成をさらに設け、装着者が息を吐いている時に拡声器をオンにする構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−172779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の発明は、装着者が息を吐いているか否かで拡声器のオンオフを制御するので、拡声器の音が耳触りで、拡声器をオフにしたい場合でも、オフにすることができない。また、電動ファン付きマスクにおいて、電動ファンのオンオフもハンズフリーで行いたい場合もあるが、上記特許文献1に記載の発明においては、装着者が息を吐いているか否かの検出状態のみで制御を行うため、電動ファンのオンオフと拡声器のオンオフには併用できないという問題がある。また、マスクの使用者が、拡声器以外の各種電動機器や電気機器の制御をハンズフリーで行う需要も潜在的に存在しうるが、上記特許文献1に記載の発明は、マスクに装着された拡声器の使用態様のみを考慮して制御する構成なので、拡声器のオンオフ制御以外への応用が難しいという問題がある。
【0005】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、拡声器等、各種機器のオンオフを任意のタイミングでハンズフリーで行うことができる電動ファン付き呼吸用保護具を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を達成するために、この発明が特徴とするのは、人体の少なくとも鼻及び口を覆うように装着される面体及び前記面体内部に空気を送気する電動ファンを備えた本体部と、装着者の呼吸の状態の変化に依存して変化する前記面体の内部における内圧の変化を検知する圧力検知手段と、前記圧力検知手段における、前記内圧の検知に基づいて、予め設定された被制御対象の動作状態の切り替え制御を行う動作制御手段とを備え、該動作制御手段は、前記圧力検知手段において、前記装着者の呼吸に伴って、連続する複数の呼吸における時間方向及び/又は圧力方向のパターンの変化が検知されたときに、前記被制御対象の前記切り替え制御を行うことである。
【0007】
この発明の好ましい実施形態の一つにおいて、前記動作制御手段は、前記装着者の呼吸に伴って、所定の時間帯において前記内圧の所定の変化が複数回生じたことが前記圧力検知手段において検知された場合に、前記被制御対象の前記切り替え制御を行うように構成されていることである。
【0008】
この発明の好ましい実施形態の更に他の一つにおいて、前記動作制御手段は、所定の時間帯において、前記内圧の上限しきい値と下限しきい値とを設定し、前記内圧が、前記上限しきい値よりも高い値となった後に前記下限しきい値よりも低い値となる変化、又は、前記下限しきい値よりも低い値となった後に前記上限しきい値よりも高い値となる変化、を前記動作制御手段が検知したときに、前記被制御対象の切り替え制御を行うように構成されていることである。
【0009】
この発明の好ましい実施形態の更に他の一つにおいて、前記圧力検知手段は、前記面体の一部に設けられた通気用の弁体の開閉状態によって前記面体の前記内圧を検知する位置センサである。
【0010】
この発明の好ましい実施形態の更に他の一つにおいて、前記被制御対象は、前記面体の一部に設けられた拡声器であって、前記動作制御手段は前記拡声器のオンオフ制御を行うように構成されていることである。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係る電動ファン付き呼吸用保護具では、圧力検知手段が、面体の内部の内圧が、時間方向及び/又は圧力方向への所定のパターンで変化したことを検知したときに、動作制御手段が、被制御対象の動作状態の切り替え制御を行うことにより、装着者が所定のパターンの呼吸を行えば、それによって被制御対象の動作の切り替えが可能になる。即ち、装着者は、マスク本体部を顔に装着した状態で、手でスイッチの操作等を行うことなく、一又は複数の被制御対象の、一又は複数の動作状態を制御できる。これにより、拡声器等、各種機器のオンオフを任意のタイミングでハンズフリーで行うことができる。
【0012】
また、動作制御手段は、所定の時間帯において内圧の所定の変化が複数回生じたことが検知された場合に、被制御対象の切り替え制御を行うことにより、装着者が短時間内に吐気や吸気を複数回、所定のパターンで行えば被制御対象の動作の切り替えを行うことができる。また、呼気と吐気の回数や間隔を変えることで、複数の被制御対象や、複数の動作状態の切り替えを、装着者の呼吸によって簡易かつ確実に行うことができる。
【0013】
また、動作制御手段は、内圧が、上限しきい値よりも高い値となった後に下限しきい値よりも低い値となる変化、又は、下限しきい値よりも低い値となった後に上限しきい値よりも高い値となる変化、を圧力検知手段が検知したときに、被制御対象の切り替え制御を行うことにより、内圧が上限しきい値と下限しきい値よりも大きく変動したときに被制御対象の動作状態を切り替えることとなる。即ち、装着者の吐気や呼気によって面体の内圧が大きく変化したときにのみ被制御対象の動作状態を切り替える。これにより、装着者の呼吸による被制御対象の切り替え制御を、誤操作を防止しつつ、確実に行うことができる。
【0014】
また、圧力検知手段は、面体の一部に設けられた通気用の弁体の開閉状態によって面体の内圧を検知する位置センサであることにより、圧力検知手段を、長寿命、低コストで、高精度の圧力検知を行えるものとして構成できる。特に、面体の内部の内圧の変化を忠実に反映する形状や材質で弁体を構成することで、圧力検知を一層高精度に行うことが可能となる。
【0015】
また、少なくとも装着者の鼻と口部分を密閉する呼吸用保護具において、装着者が、所望の時間帯に拡声器のオン状態を持続させ、電力の浪費を防止しつつ装着者の希望の時間帯において拡声器をオン状態として装着者が円滑に他の作業者等と会話による意志伝達を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明の実施の形態に係る電動ファン付き呼吸用保護具の正面図である。
図2】同上の使い捨てマスクの電動ファン付き呼吸用保護具の濾過部を取り外した状態の斜視図である。
図3】同上の電動ファン付き呼吸用保護具のA−A断面図である。
図4】同上の電動ファン付き呼吸用保護具の、面体の内圧の検知を行う排気弁の部分の拡大図である。
図5】同上の電動ファン付き呼吸用保護具の圧力検知、動作状態の切り替えの機能ブロック図である。
図6】同上の電動ファン付き呼吸用保護具の、圧力検知部における面体の内圧の検知状態を模式的に示す図である。
図7】同上の電動ファン付き呼吸用保護具の、制御部における、面体の内圧の検知状態に基づく制御の原理を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1乃至図7に、この発明の実施の形態を示す。
【0018】
まず構成を説明すると、図1に示す、この実施の形態の、電動ファン付き呼吸用保護具(Powered Air Purifying Respirators)としての呼吸用保護具1Aは、事業場その他で空気中に浮遊する人体に有害な粒子状物質(粉塵、ヒューム、ミストなど)が浮遊する作業現場で各種作業に従事する作業者の呼吸保護のために用いられるものである。具体的には、JIS T 8157:2009(平成21年3月25日改正)において「呼吸補助型PAPR」として規定されている、電動ファンによって面体内部に強制送気するタイプの呼吸用保護具である。この実施の形態の呼吸用保護具1Aは、装着者の顔面略全面を覆う、いわゆる全面型マスクであるが、装着者の鼻と口の部分のみを覆う、いわゆる半面型マスクであってもよい。また、呼吸用保護具1Aは、フード型の防護服と共に用いるタイプ(例えば防護服の一部として構成されているもの等)であってもよい。
【0019】
図1に示す通り、この呼吸用保護具1Aは、マスク本体部10に、面体11と吸排気ユニット12とを有する。
【0020】
面体11は、装着者の顔面略全面を覆う態様に構成されている。この面体11の前面には、装着者の両眼の前方に配設される、硬質の透明樹脂や透明の強化ガラス等にて形成されたアイピース13を備える。アイピース13の周縁部分は、硬質の合成樹脂等で形成された枠型のフレーム14にはめ込まれている。このフレーム14には、軟質の樹脂例えばシリコーンゴム等によって形成された接顔部15が設けられている。この接顔部15は、装着者の顔面部分の起伏に沿って起伏を設けた形状に形成され、上側が装着者の顔面の額部分に、側面部分が顔面の頬部分に、下側が口元部分から顎部分にかけて密着するように構成されている。これにより、面体11を装着者の顔面に装着すると、接顔部15の周縁部略全域が装着者の顔面周縁部に密着し、装着者の顔面を面体11の内部に密閉した状態とすることができる。
【0021】
面体11の内側の、アイピースの下方に位置する部分には、軟質の樹脂例えばシリコーンゴム等によって形成されたノーズカップ16が設けられている。このノーズカップ16は、装着者の顔面方向に向けて開口した略椀型に形成され、装着者の顔面に装着したときに、装着者の鼻と口を覆い、周縁部分が装着者の鼻と口の周囲に密着するように形成されている。
【0022】
面体11の接顔部15には、4片の取付片17が突設されている。この取付片17には、合成ゴム等の弾性体によって形成された締め紐18がそれぞれ取り付けられる。この締め紐18を装着者の側頭部から後頭部に取り付けることで、マスク本体部10は装着者の顔面に装着される。
【0023】
ノーズカップ16の上側には、一対の開口部19,19が形成される。それぞれの開口部19には吸気弁20が配設されている。図3に示す通り、この吸気弁20は、開口部19近傍の弁座21に、シリコーンゴム、天然ゴム等、気密性を有する材質にて形成された弁体22が開閉自在に配設されている。この吸気弁20は、ノーズカップ16の外側方向から内側方向へのみ空気を送気させる一方向弁として機能する。
【0024】
図2に示す通り、面体11の側方には、硬質の樹脂等によって形成された略円筒形のホルダ23が設けられている。このホルダ23には、「被制御対象」としての拡声器24が設けられる。この拡声器24は、装着者が、呼吸用保護具1Aを装着した状態で発話した音声を外部に伝達させるための機器であり、電気増幅器やスピーカ等を備えている。
【0025】
図2に示す通り、面体11の前側下方には、吸排気ユニット12が取り付けられている。この吸排気ユニット12は、面体11に対して着脱可能に設けられている。
【0026】
吸排気ユニット12は、吸排気ユニット本体部26と、濾過部25とを備えている。図2に示す通り、吸排気ユニット本体部26と濾過部25とは着脱自在に構成されている。
【0027】
濾過部25は、硬質の樹脂等によって略円筒形に形成され、前面に開口部27を有する。濾過部25の内部には、活性炭等の濾過剤(図示せず)が充填されている。開口部27の前方から吸気された空気は、この濾過剤(図示せず)において粒子状物質が濾過されて、後方(吸排気ユニット本体部26の内部)へ流出する。
【0028】
吸排気ユニット本体部26は、硬質の樹脂等によって略円筒形に形成されている。吸排気ユニット本体部26は、面体11の前面に設けられた着脱バー28をスライドさせることにより、面体11への固着や離脱を自在に行うことができる。
【0029】
図2に示すように、吸排気ユニット本体部26の前面部には、開口部29が形成されている。この開口部29から、濾過部25を通過した空気が吸排気ユニット本体部26の内部に吸入される。
【0030】
この開口部29の後方には、図3に示す、電動ファン30aが設けられている。この電動ファン30aは、ファン30とモータ31とからなり、ファン30の回転により、吸排気ユニット12から面体11の内部に強制的に吸気される。これにより、装着者の吸気時の吸気抵抗を減らして呼吸しやすくすると共に、面体内部を陽圧に保って、接顔部15と装着者の顔面の隙間から面体11の内部に粉塵等が侵入することを防止できる。
【0031】
また、電動ファン30aの後側には、バッテリ32が配設されている。このバッテリ32は、鉛蓄電池、リチウムイオン電池等の各種蓄電池であり、拡声器24の作動や電動ファン30aの駆動に必要な電力を供給する。
【0032】
図3に示す通り、吸排気ユニット本体部26の、開口部29から電動ファン30aの配設位置を経て、バッテリ32の上方側には吸気路33が形成され、バッテリ32の下方側には排気路34が形成されている。吸気路33は(装着者の吸気により)面体11の内部に流入する空気の流路を形成し、排気路34は(装着者の吐気により)面体11から排出された空気の流路を形成する。
【0033】
図3に示す通り、排気路34には排気弁35が配設されている。この排気弁35は、吸排気ユニット本体部26の一部により形成された弁座36と、シリコーンゴム、天然ゴム等、気密性を有する材質にて形成された、通気用の弁体が開閉自在に配設されている。この排気弁35は、吸排気ユニット本体部26の内側方向から外側方向へのみ空気を送気させる一方向弁として機能する。
【0034】
なお、この実施の形態における弁体37は、装着者の息を吐く強さに略比例して開閉の度合いが変化するような材質、形状に形成されている。具体的には、例えば、図4に示す通り、排気弁35を構成する弁体37の周縁部には、他の部分よりも肉厚のリブ37aが設けられている。これにより、弁体37が単なる板状の形状に形成した場合よりも、(排気時の気圧により排気弁35が開いて)弁体37が湾曲した状態から元の平板状態に戻ろうとする力が強く働き、後述するダブルクリック呼吸における吐気のような素早い圧力変化を弁体37の形状変化として容易に検知することが可能となる。
【0035】
排気弁35の近傍であって、吸排気ユニット本体部26の下側には、排気口38が開口形成されている。この排気口38からは、(装着者の吐気により)面体11から排出された空気が排出される。
【0036】
図3に示す通り、排気弁35の近傍に位置して、吸排気ユニット本体部26の内部には、「動作制御手段」としての制御部39が設けられている。この制御部39は、例えば集積回路(Integrated Circuit)であり、各種の命令に基づいて入力された信号の処理や、接続された各種機器の制御(オンオフ制御等)を行う。
【0037】
図3に示す通り、吸排気ユニット本体部26の内部において、排気弁35の近傍にはフォトインタラプタ40が設けられている。図5に示す通り、このフォトインタラプタ40は、信号検知部42と共に、「圧力検知手段」としての圧力検知部41を形成する。
【0038】
フォトインタラプタ40は、位置センサであって、発光部の発する光を弁体37表面に反射させ、反射光の状態を受光部で検出することで、弁体37の開閉の度合いを検知する。
【0039】
図5に示す、圧力検知部41を形成する信号検知部42は、フォトインタラプタ40の検知した信号の増幅や、信号の量子化(例えば、図6に示すような微少時間単位でサンプリングされた信号を、図7に示すような平滑化された信号に変換すること)等を行う。そして、圧力検知部41が検知した検知信号は、制御部39に入力され、この入力信号により、拡声器24や電動ファン30aのオンオフ制御を行う。
【0040】
ここで、この実施の形態の呼吸用保護具1Aにおける、拡声器24等のオンオフ制御の手順を説明する。
【0041】
この実施の形態の呼吸用保護具1Aにおいて、制御部39は、圧力検知部41において、装着者の呼吸に伴って、面体11の内圧が時間方向及び/又は圧力方向に所定のパターンで変化したことを検知したときに、拡声器24等のオンオフの切り替え制御を行う。つまり、装着者が、所定の、信号となる特定の呼吸を行ったことを検知した場合に、制御部39は拡声器24等のオンオフの切り替え制御を行う。
【0042】
ここでは、装着者の呼吸に伴って、所定の時間帯において面体11の内圧の所定の変化が複数回生じたことが圧力検知部41において検知された場合に、拡声器24等のオンオフの切り替え制御を行う。即ち、装着者が、息を吐く、止める等の動作を短時間に複数回行った場合、これを信号となる特定の呼吸として用い、弁体37の開閉動作に基づいてこれを検知するものとする。
【0043】
例えば、呼吸用保護具1Aの装着者が、所定の短い時間(例えば1秒以内)に2回連続して面体11の内部に強く息を吐く呼吸(以下、本明細書において、この呼吸を「ダブルクリック呼吸」と称する。)を検知したときに、呼吸用保護具1Aは拡声器24をオンにする場合を考える。
【0044】
この場合、例えば、図7に示すように、制御部39には、予め設定された特定の時間帯(例えば1秒以内の時間帯)と、ポイント出力(面体11の内部の圧力に依存する、予め設定された所定の値のこと。例えば、圧力検知部41から出力された信号の電圧値)の上限しきい値43と下限しきい値44とを検出するように設定されている。
【0045】
ここで、呼吸用保護具1Aを装着した装着者が、図6に示す経過時間3秒〜4秒の間にダブルクリック呼吸を行ったとする。制御部39は、ポイント出力が上限しきい値43を越えた時点(図7において、約3.3秒の時点)から特定の時間帯、ここでは1秒間を特定時間帯45とする。そして、この特定時間帯45内にダブルクリック呼吸が行われたか否かの検知を開始する。ここでは、図7に示す通り、ポイント出力が上限しきい値を上回った(約3.3秒〜3.5秒)上限超過区域46ののちに下限しきい値44を下回った(約3.5秒〜3.7秒)下限超過区域47、さらに上限しきい値43を上回った(約3.8秒)上限超過区域48が検知されている。そこで、制御部39は、これにより、装着者がダブルクリック呼吸を行ったものと判定し、拡声器24をオンにする。
【0046】
一方、ポイント出力が上限超過区域46ののち、特定時間帯45内に、下限超過区域47、再度の上限超過区域48が検知できない場合、制御部39は拡声器24をオンにしない。
【0047】
ここで、特定時間帯45内に、下限超過区域47が2回と、上限超過区域46が1回で、ダブルクリック呼吸がされたと判定するような判定方法であってもよい。また、特定時間帯45内に、上限超過区域46や下限超過区域47が3回以上検知された場合(つまり装着者が3回以上息を吐いた場合)に拡声器24をオンにする制御としてもよいし、上限超過区域46や下限超過区域47におけるポイント出力の増加や減少の状態(つまり、装着者の吐く息の強さの変化の状態)を検知対象に含めてもよい。
【0048】
なお、拡声器24等のオンオフ制御を行わせる装着者の呼吸は、通常の呼吸(たとえば、3〜5秒周期でポイント出力が漸増と漸減を繰り返す態様の呼吸)とは異なるものであることが、拡声器24等の誤動作を防止させる上で望ましい。
【0049】
また、制御部39において、複数の呼吸態様を認識させることで、複数の被制御対象の、複数の動作状態を制御させることもできる。さらに、面体11の内部の内圧の、時間方向の変化を検出するような構成とすることで、より多様な制御対象の、多様な動作状態を制御することもできる。例えば、制御部39において、所定の時間帯(例えば1秒以内)における、ポイント出力が上限しきい値43や下限しきい値44を越えた回数と、越えている時間の時間帯(例えば0.25秒以上の長い時間帯と0.25秒未満の短い時間帯)を検知することで、
「短い時間帯2回のダブルクリック呼吸=拡声器24のオン制御」
「長い時間帯1回+短い時間帯1回のダブルクリック呼吸=拡声器24のオフ制御」
「長い時間帯2回のダブルクリック呼吸=電動ファン30aのオン制御」
「短い時間帯1回+長い時間帯1回のダブルクリック呼吸=電動ファン30aのオフ制御」
のように設定する。このようにすれば、装着者がダブルクリック呼吸の態様を変化させるだけで、複数の機器の複数の動作を制御することが可能になる。
【0050】
以上、この実施の形態においては、圧力検知部41が、面体11の内部の内圧が、時間方向や圧力方向に所定のパターンで変化したことを検知したときに、制御部39が、拡声器24等の動作状態の切り替え制御を行うことにより、装着者が所定のパターンの呼吸を行えば、それによって拡声器24等の動作の切り替えが可能になる。即ち、装着者は、マスク本体部10を顔に装着した状態で、手でスイッチの操作等を行うことなく、一又は複数の被制御対象の、一又は複数の動作状態を制御できる。これにより、拡声器24等、各種機器のオンオフを任意のタイミングでハンズフリーで行うことができる。
【0051】
また、この実施の形態においては、制御部39は、所定の時間帯において内圧の所定の変化が複数回生じたことが検知された場合に、拡声器24等のオンオフの切り替え制御を行うことにより、装着者が短時間内に吐気や吸気を複数回、所定のパターンで行えば拡声器24等の動作の切り替えを行うことができる。また、呼気と吐気の回数や間隔を変えることで、複数の被制御対象(例えば拡声器24と電動ファン30a)や、複数の動作状態の切り替え(例えば拡声器24と電動ファン30aそれぞれのオンオフ制御)を、装着者の呼吸によって簡易かつ確実に行うことができる。
【0052】
また、この実施の形態においては、制御部39は、内圧が、上限しきい値43よりも高い値となった後に下限しきい値44よりも低い値となる変化、又は、下限しきい値44よりも低い値となった後に上限しきい値43よりも高い値となる変化、を圧力検知部41が検知したときに、拡声器24等の切り替え制御を行うことにより、内圧が上限しきい値43と下限しきい値44よりも大きく変動したときに拡声器24等の動作状態を切り替えることとなる。即ち、装着者の吐気や呼気によって面体11の内圧が大きく変化したときにのみ拡声器24等の動作状態を切り替える。これにより、装着者の呼吸による拡声器24等の切り替え制御を、誤操作を防止しつつ、確実に行うことができる。
【0053】
また、圧力検知部41は、排気弁35の弁体37の開閉状態を検知するフォトインタラプタ40を有して構成されることにより、圧力検知部41を、長寿命、低コストで、高精度の圧力検知を行えるものとして構成できる。特に、面体11の内部の内圧の変化を忠実に反映する形状や材質で弁体37を構成することで、圧力検知を一層高精度に行うことが可能となる。
【0054】
また、この実施の形態においては、少なくとも装着者の鼻と口部分を密閉する呼吸用保護具1Aにおいて、装着者が、所望の時間帯に拡声器24のオン状態を持続させ、電力の浪費を防止しつつ装着者の希望の時間帯において拡声器24をオン状態として装着者が円滑に他の作業者等と会話による意志伝達を行うことができる。
【0055】
なお、この実施の形態においては、圧力検知部41を、フォトインタラプタ40によって弁体37の開閉状態を検出する構成としたが、これに限らず、他の多様な構成を圧力検知部41に用いることができる。具体的には、例えば、排気弁35の弁体37を通過する空気の流量を検知する流量センサや、弁体37を通過する空気の流速を検知する速度センサを圧力検知部41に用いることもできる。また、感圧導電体等を用いた、内圧の変化を電圧値として出力する圧力センサを面体11の内部に設ける構成としてもよいし、電動ファン30aの回転角センサや回転速度センサが検知した、装着者の吸気や吐気によるファンの回転状態の変化を圧力値として用いてもよい。
【0056】
また、上記実施の形態においては、いわゆる「呼吸補助型PAPR」において本発明に係る呼吸用保護具1Aを用いたが、これに限定されず、いわゆる「標準型PAPR」即ち電動ファンを構成に有しないタイプの呼吸用保護具であって、拡声器のような電気機器や、各種被制御対象を備えた構成において、本発明を適用することもできる。
【0057】
また、上記実施の形態においては、制御部39による被制御対象を、拡声器24と電動ファン30aのみとしたが、他にも、様々な被制御対象の制御に、本発明を適用することができる。具体的には、以下[応用例1]〜[応用例6]のようなものが考えられる。
【0058】
[応用例1]
例えば消防現場での消火活動、救助活動において上記実施の形態の呼吸用保護具1Aを用いる場合、以下[1−1]〜[1−5]のような応用例が考えられる。
[1−1]呼吸用保護具1Aにカメラを装着し、活動時の映像をリアルタイムで送るとき、記録するときに、装着者の特定の呼吸によりカメラの操作を行う。
[1−2]装着者が、自らの声が拡声されてうるさく感じるときに、装着者の特定の呼吸により拡声器24のオンオフ操作をする。
[1−3]呼吸用保護具1Aに無線機を装着する。他の人と話すときに 装着者の特定の呼吸により無線機のオンオフ操作をする。
[1−4]助けを呼ぶ声に耳を澄ませるときに、装着者の特定の呼吸により電動ファン30aをOFFにする。
[1−5]呼吸用保護具1Aにサイレンや回転灯等の警報機を装着する。自らが二次被害にあって動けなくなってしまったときに、装着者の特定の呼吸により警報機を操作する。
【0059】
[応用例2]
例えば原発の廃炉作業や瓦礫処理作業等において上記実施の形態の呼吸用保護具1Aを用いる場合、以下[2−1]のような応用例が考えられる。
[2−1]呼吸用保護具1Aを防護服と共に用い、防護服に送風装置を設ける。防護服内に熱がこもって暑くなったときに、装着者の特定の呼吸により、冷却服の送風装置をONにしたり、風量を調節する制御を行う。
【0060】
[応用例3]
例えば自衛隊の戦闘活動において上記実施の形態の呼吸用保護具1Aを用いる場合、以下[3−1][3−2]のような応用例が考えられる。
[3−1]自らの気配を消すときに、装着者の特定の呼吸により、電動ファン30aをオフにする。
[3−2]呼吸用保護具1Aにカメラを装着し、活動時の映像をリアルタイムで送るとき、記録するときに、装着者の特定の呼吸によりカメラの操作を行う。
【0061】
[応用例4]
例えば各種の作業現場において、作業強度が異なる作業に切り替えるときに、上記実施の形態の呼吸用保護具1Aの以下[4−1]〜[4−5]のようなのような応用例が考えられる。
[4−1]呼吸用保護具1Aを防護服等と共に用い、防護服等に送風装置を設ける。作業強度が変わるとき、装着者の特定の呼吸により、送風モードの切り替えをする。
[4−2]呼吸用保護具1Aにガス検知器や粉塵計の制御装置を設ける。作業環境内におけるガスや粉塵の曝露濃度を確認したいときに、装着者の特定の呼吸により、ガス検知器や粉塵計の操作をする。
[4−3]呼吸用保護具1Aに、作業現場の空調設備の制御装置を設ける。作業現場が暑いときや寒いときに、装着者の特定の呼吸により、空調設備の操作をする。
[4−4]呼吸用保護具1Aに、破過検知装置の制御装置を設ける。作業可能時間の確認をしたいときに、装着者の特定の呼吸により、破過検知装置の操作をする。
[4−5]呼吸用保護具1Aに、警報音を鳴らす警報装置を設ける。警報音がうるさいときに、装着者の特定の呼吸により、警報音の音量調節をする。
【0062】
[応用例5]
例えば各種の作業現場において、安全管理の観点で呼吸用保護具1Aを用いたい場合、 以下[5−1]のような応用例が考えられる。
[5−1]呼吸用保護具1Aに、GPSによる位置検出装置、警報装置、心拍管理装置の制御装置等を設ける。作業中に呼吸停止状態になったとき、呼吸用保護具1AはGPSで位置情報を送信し、警報装置で異常を管理者に通知し、心拍監視装置の情報を送信する。なお、この場合、特定の呼吸は、所定の期間呼吸による圧力変化が検知されないこと等も含まれる。
【0063】
[応用例6]
その他に、以下[6−1]〜[6−4]のような応用例も考えられる。
[6−1]呼吸用保護具1Aに装着された翻訳機のオンオフ制御を行う。
[6−2]呼吸用保護具1Aの額部分に設けられた前照灯の点灯制御を行う。
[6−3]呼吸用保護具1Aのアイピース13に設けられたワイパーの作動及び停止制御を行う。
[6−4]呼吸用保護具1Aの装着者の所持する空気ボンベからマスク内部への強制吸気を開始させる。
【0064】
上記実施の形態は本発明の例示であり、本発明が上記実施の形態のみに限定されることを意味するものではないことは、いうまでもない。
【符号の説明】
【0065】
1A・・・呼吸用保護具(電動ファン付き呼吸用保護具)
10・・・マスク本体部
11・・・面体
24・・・拡声器(被制御手段)
30a・・・電動ファン
35・・・排気弁
37・・・弁体
39・・・制御部(動作制御手段)
40・・・フォトインタラプタ(圧力検知手段)
41・・・圧力検知部(圧力検知手段)
43・・・上限しきい値
44・・・下限しきい値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7