特許 6274921 車輪用軸受装置

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】6274921

(24)【登録日】2018年1月19日

(45)【発行日】2018年2月7日

(54)【発明の名称】車輪用軸受装置

(51)【国際特許分類】

   F16C 33/76 20060101AFI20180129BHJP

   F16C 19/18 20060101ALI20180129BHJP

   F16C 41/04 20060101ALI20180129BHJP

   F16C 41/00 20060101ALI20180129BHJP

   B60B 35/02 20060101ALI20180129BHJP

   B60B 35/18 20060101ALI20180129BHJP

【ＦＩ】

   F16C33/76 A

   F16C19/18

   F16C41/04

   F16C41/00

   B60B35/02 L

   B60B35/18 C

【請求項の数】8

【全頁数】20

(21)【出願番号】特願2014-48278(P2014-48278)

(22)【出願日】2014年3月12日

(65)【公開番号】特開2015-172401(P2015-172401A)

(43)【公開日】2015年10月1日

【審査請求日】2017年2月27日

(73)【特許権者】

【識別番号】000102692

【氏名又は名称】ＮＴＮ株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100095614

【弁理士】

【氏名又は名称】越川 隆夫

(72)【発明者】

【氏名】山田 智哉

【審査官】 前田 浩

(56)【参考文献】

【文献】 国際公開第２０１１／０３４１３４（ＷＯ，Ａ１）

【文献】 特開２０１２−２３２７０８（ＪＰ，Ａ）

【文献】 特開２０１２−２０２４１５（ＪＰ，Ａ）

(58)【調査した分野】（Int.Cl.，ＤＢ名）

Ｂ６０Ｂ ３５／０２

Ｂ６０Ｂ ３５／１８

Ｆ１６Ｃ １９／１８

Ｆ１６Ｃ ３３／７６

Ｆ１６Ｃ ４１／００

Ｆ１６Ｃ ４１／０４

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪とからなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、
前記外方部材と内方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材のインナー側の端部内周に圧入された鋼板製のカップ状の保護カバーと、を備え、この保護カバーが、前記外方部材の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延びる円板状の遮蔽部と、この遮蔽部から屈曲部を介して前記内方部材のインナー側の端部を覆う底部からなる車輪用軸受装置において、
前記保護カバーの嵌合部が、前記外方部材の端部内周に形成された円筒状の嵌合面に金属嵌合される円筒部と、この円筒部から軸方向に延びる円筒状の縮径部で構成され、この縮径部に合成ゴムからなる弾性部材が加硫接着によって一体に接合されると共に、
当該弾性部材が前記円筒部の外径より径方向外方に突出する環状突起と、この環状突起の軸受外方側に径方向外方に傾斜して延びる接触リップを備え、
前記保護カバーの嵌合時、前記環状突起が前記外方部材の嵌合面に弾性変形して圧着され、前記接触リップが前記外方部材の内径端部に弾性接触されると共に、前記弾性部材の接触リップの内径側に円筒状の案内部が一体に形成され、この案内部の外径が前記保護カバーの円筒部の内径よりも径方向の案内すきまを介して小径に形成されていることを特徴とする車輪用軸受装置。

【請求項2】

内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪とからなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、
前記外方部材と内方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材のインナー側の端部内周に圧入された鋼板製のカップ状の保護カバーと、を備え、この保護カバーが、前記外方部材の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延びる円板状の遮蔽部と、この遮蔽部から屈曲部を介して前記内方部材のインナー側の端部を覆う底部からなる車輪用軸受装置において、
前記保護カバーの嵌合部が、前記外方部材の端部内周に形成された円筒状の嵌合面に金属嵌合される円筒部と、この円筒部から軸方向に延びる円筒状の縮径部で構成され、この縮径部に合成ゴムからなる弾性部材が加硫接着によって一体に接合されると共に、
当該弾性部材が前記円筒部の外径より径方向外方に突出する環状突起と、この環状突起の軸受外方側に径方向外方に傾斜して延びる接触リップを備え、
前記保護カバーの嵌合時、前記環状突起が前記外方部材の嵌合面に弾性変形して圧着され、前記接触リップが前記外方部材の内径端部に弾性接触されると共に、前記保護カバーの遮蔽部から前記屈曲部が直角に折り曲げられて形成され、当該保護カバーを積層する際に、前記円筒部が前記弾性部材に当接する前に、金属部同士が当接するような形状・寸法に形成されていることを特徴とする車輪用軸受装置。

【請求項3】

前記内輪に円周方向に特性を交互に変化させたパルサリングが外嵌されると共に、前記保護カバーが非磁性体の鋼板から形成され、この保護カバーを介して回転速度センサが前記パルサリングに軸方向エアギャップにて対峙されている請求項１または２に記載の車輪用軸受装置。

【請求項4】

前記保護カバーの円筒部の先端部が前記弾性部材の接触リップの先端部より小径に設定されている請求項１乃至３いずれかに車輪用軸受装置。

【請求項5】

前記保護カバーの円筒部の端部外径に面取り部が形成され、この面取り部の傾斜角が前記弾性部材の接触リップの傾斜角に対応するように設定されている請求項１乃至４いずれかに記載の車輪用軸受装置。

【請求項6】

前記保護カバーの円筒部の端部外径に円弧状の面取り部が形成されている請求項１乃至４いずれかに記載の車輪用軸受装置。

【請求項7】

前記保護カバーの円筒部の先端部に径方向内方に屈曲した縁曲げ部が形成されている請求項１乃至４いずれかに記載の車輪用軸受装置。

【請求項8】

前記保護カバーが、前記屈曲部からテーパ状の段部を介して軸方向に延びる円筒状の小径部を備えている請求項２に記載の車輪用軸受装置。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、自動車等の車輪を懸架装置に対して回転自在に支承する車輪用軸受装置、特に、外方部材に保護カバーが装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から異物が軸受内部に侵入するのを防止すると共に、この保護カバーを介して車輪の回転速度を検出する回転速度検出センサが配置される車輪用軸受装置に関するものである。

【背景技術】

【0002】

自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支承すると共に、アンチロックブレーキシステム（ＡＢＳ）を制御し、車輪の回転速度を検出する回転速度検出装置が内蔵された回転速度検出装置付き車輪用軸受装置が一般的に知られている。従来、このような車輪用軸受装置は、転動体を介して転接する内方部材および外方部材の間にシール装置が設けられ、円周方向に磁極を交互に並べてなる磁気エンコーダを前記シール装置に一体化させると共に、磁気エンコーダと、この磁気エンコーダに対面配置され、車輪の回転に伴う磁気エンコーダの磁極変化を検出する回転速度センサとで回転速度検出装置が構成されている。

【0003】

前記回転速度センサは、懸架装置を構成するナックルに車輪用軸受装置が装着された後、当該ナックルに装着されているものが一般的である。しかし、この回転速度センサと磁気エンコーダとのエアギャップの調整作業の煩雑さを解消すると共に、よりコンパクト化を狙って、最近では回転速度センサをも軸受に内蔵した回転速度検出装置付き車輪用軸受装置が提案されている。

【0004】

このような回転速度検出装置付き車輪用軸受装置の一例として図１２に示すような構造のものが知られている。この車輪用軸受装置は、外方部材５１と内輪５２間に形成される環状空間の開口部にシール（図示せず）と保護カバー５３が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。

【0005】

内輪５２の外径にはパルサリング５４が圧入され、このパルサリング５４は、鋼板からプレス加工によってＬ字状に、全体として円環状に形成された支持環５５と、この支持環５５に一体に接合された磁気エンコーダ５６とからなる。支持環５５は、内輪５２の外径に圧入される円筒状の嵌合部５５ａと、この嵌合部５５ａから径方向外方に延びる立板部５５ｂとを備え、この立板部５５ｂに磁気エンコーダ５６が加硫接着によって一体に接合されている。

【0006】

外方部材５１に保護カバー５３が圧入され、外方部材５１の開口部を閉塞している。この保護カバー５３は、オーステナイト系ステンレス鋼板からプレス加工によって円環状に形成され、外方部材５１の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部５３ａと、この嵌合部５３ａから径方向内方に延び、磁気エンコーダ５６に僅かな軸方向すきまを介して対峙する円板状の遮蔽部５３ｂと、この遮蔽部５３ｂから屈曲部５３ｃを介して底部５３ｄとを備えている。

【0007】

回転速度センサ５７の検出部は、保護カバー５３の遮蔽部５３ｂに近接または当接され、検出部と磁気エンコーダ５６とは保護カバー５３を介して所定のエアギャップで対向配置されている。また、保護カバー５３の嵌合部５３ａは、外方部材２のインナー側の端部内周に形成された嵌合面５１ａに金属嵌合される円筒部５８と、この円筒部５８から軸方向に延びる縮径部５９で構成されている。そして、縮径部５９に合成ゴムからなる弾性部材６０が加硫接着によって一体に接合されている。この弾性部材６０は、保護カバー５３の遮蔽部５３ｂの側面から突出して回転速度センサ５７に干渉しないように接合され、円筒部５８の外径より径方向外方に突出する環状突起６０ａを備えている。この環状突起６０ａが保護カバー５３の嵌合時に外方部材５１の端部内周に弾性変形して圧着され、嵌合部５３ａの気密性を高めている。

【0008】

こうした保護カバー５３は、製造工程において、図１３（ａ）に示すように、通常、設置スペースを取らないように積層された状態で保管あるいは工程待ちされるが、弾性部材６０の加硫前において、積層された保護カバー５３’同士が嵌り込むのを防止するために、嵌合部５３ａにおける円筒部５８の内径ｄ１は、縮径部５９の外径ｄ２よりも小径（ｄ１＜ｄ２）になるように設定されている。これにより、弾性部材６０の加硫前だけでなく、（ｂ）に示すように、弾性部材６０の加硫後においても、積層された保護カバー５３の製造工程での作業性を一層向上させることができる（例えば、特許文献１参照。）。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0009】

【特許文献1】特開２０１２−２０２４１５号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0010】

このような従来の車輪用軸受装置では、縮径部５９に合成ゴムからなる弾性部材６０が一体に接合されると共に、嵌合部５３ａの円筒部５８の外径より径方向外方に突出する環状突起６０ａを備え、この環状突起６０ａが保護カバー５３の嵌合時に外方部材５１の端部内周に弾性変形して圧着されているので嵌合部５３ａの気密性を高めることができる。然しながら、保護カバー５３の圧入時、弾性部材６０が軸受外方側に押し出されて外方部材５１の端面から膨出し、気密性が低下する恐れがある。これを防止するために弾性部材６０の形状を変更し、外方部材５１の端部内周に弾性接触するリップ等を備えた弾性部材にした場合、この保護カバー５３の製造あるいは運搬する際に積み重ねた場合、保護カバー５３や弾性部材６０の形状によっては、弾性部材６０と金属部分となる保護カバー５３の嵌合部５３ａが接触し、弾性部材６０が傷付いたり、切損したりする恐れがある。

【0011】

本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたもので、保護カバーの圧入性の向上と嵌合部の気密性を高めると共に、保護カバーの製造あるいは運搬工程での作業性の向上と品質の信頼性を高めた車輪用軸受装置を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】

【0012】

係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項１に記載の発明は、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪とからなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、前記外方部材と内方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材のインナー側の端部内周に圧入された鋼板製のカップ状の保護カバーと、を備え、この保護カバーが、前記外方部材の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延びる円板状の遮蔽部と、この遮蔽部から屈曲部を介して前記内方部材のインナー側の端部を覆う底部からなる車輪用軸受装置において、前記保護カバーの嵌合部が、前記外方部材の端部内周に形成された円筒状の嵌合面に金属嵌合される円筒部と、この円筒部から軸方向に延びる円筒状の縮径部で構成され、この縮径部に合成ゴムからなる弾性部材が加硫接着によって一体に接合されると共に、当該弾性部材が前記円筒部の外径より径方向外方に突出する環状突起と、この環状突起の軸受外方側に径方向外方に傾斜して延びる接触リップを備え、前記保護カバーの嵌合時、前記環状突起が前記外方部材の嵌合面に弾性変形して圧着され、前記接触リップが前記外方部材の内径端部に弾性接触されると共に、前記弾性部材の接触リップの内径側に円筒状の案内部が一体に形成され、この案内部の外径が前記保護カバーの円筒部の内径よりも径方向の案内すきまを介して小径に形成されている。
また、請求項２に記載の発明は、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪とからなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、前記外方部材と内方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材のインナー側の端部内周に圧入された鋼板製のカップ状の保護カバーと、を備え、この保護カバーが、前記外方部材の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延びる円板状の遮蔽部と、この遮蔽部から屈曲部を介して前記内方部材のインナー側の端部を覆う底部からなる車輪用軸受装置において、前記保護カバーの嵌合部が、前記外方部材の端部内周に形成された円筒状の嵌合面に金属嵌合される円筒部と、この円筒部から軸方向に延びる円筒状の縮径部で構成され、この縮径部に合成ゴムからなる弾性部材が加硫接着によって一体に接合されると共に、当該弾性部材が前記円筒部の外径より径方向外方に突出する環状突起と、この環状突起の軸受外方側に径方向外方に傾斜して延びる接触リップを備え、前記保護カバーの嵌合時、前記環状突起が前記外方部材の嵌合面に弾性変形して圧着され、前記接触リップが前記外方部材の内径端部に弾性接触されると共に、前記保護カバーの遮蔽部から前記屈曲部が直角に折り曲げられて形成され、当該保護カバーを積層する際に、前記円筒部が前記弾性部材に当接する前に、金属部同士が当接するような形状・寸法に形成されている。

【0013】

このように、外方部材のインナー側の端部内周に圧入された鋼板製のカップ状の保護カバーを備え、この保護カバーが、外方部材の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延びる円板状の遮蔽部と、この遮蔽部から屈曲部を介して内方部材のインナー側の端部を覆う底部からなる車輪用軸受装置において、保護カバーの嵌合部が、外方部材の端部内周に形成された円筒状の嵌合面に金属嵌合される円筒部と、この円筒部から軸方向に延びる円筒状の縮径部で構成され、この縮径部に合成ゴムからなる弾性部材が加硫接着によって一体に接合されると共に、当該弾性部材が円筒部の外径より径方向外方に突出する環状突起と、この環状突起の軸受外方側に径方向外方に傾斜して延びる接触リップを備え、保護カバーの嵌合時、環状突起が外方部材の嵌合面に弾性変形して圧着され、接触リップが外方部材の内径端部に弾性接触されると共に、弾性部材の接触リップの内径側に円筒状の案内部が一体に形成され、この案内部の外径が保護カバーの円筒部の内径よりも径方向の案内すきまを介して小径に形成されているので、保護カバーの圧入性の向上を図ると共に、弾性部材が軸受外方側に押し出されて外方部材の端面から膨出するのを防止し、保護カバーの嵌合部の気密性を高めることができる。さらに、保護カバーを積層する際に、上側の保護カバーの円筒部が下側の保護カバーの案内部によって径方向に案内されて重ね合わせ時の安定性を高め、作業性の向上を図ることができる。
また、請求項２に記載の発明は、外方部材のインナー側の端部内周に圧入された鋼板製のカップ状の保護カバーを備え、この保護カバーが、外方部材の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延びる円板状の遮蔽部と、この遮蔽部から屈曲部を介して内方部材のインナー側の端部を覆う底部からなる車輪用軸受装置において、保護カバーの嵌合部が、外方部材の端部内周に形成された円筒状の嵌合面に金属嵌合される円筒部と、この円筒部から軸方向に延びる円筒状の縮径部で構成され、この縮径部に合成ゴムからなる弾性部材が加硫接着によって一体に接合されると共に、当該弾性部材が円筒部の外径より径方向外方に突出する環状突起と、この環状突起の軸受外方側に径方向外方に傾斜して延びる接触リップを備え、保護カバーの嵌合時、環状突起が外方部材の嵌合面に弾性変形して圧着され、接触リップが外方部材の内径端部に弾性接触されると共に、保護カバーの遮蔽部から屈曲部が直角に折り曲げられて形成され、当該保護カバーを積層する際に、円筒部が弾性部材に当接する前に、金属部同士が当接するような形状・寸法に形成されているので、保護カバーの圧入性の向上を図ると共に、弾性部材が軸受外方側に押し出されて外方部材の端面から膨出するのを防止し、保護カバーの嵌合部の気密性を高めることができ、さらに、上側の保護カバーにおける屈曲部と遮蔽部の角部と、下側の保護カバーにおける底部と屈曲部の角部が当接し、金属部の嵌合部が弾性部材に接触するのを回避することができ、接触リップの傷付きや切損を防止することができる。

【0014】

好ましくは、請求項３に記載の発明のように、前記内輪に円周方向に特性を交互に変化させたパルサリングが外嵌されると共に、前記保護カバーが非磁性体の鋼板から形成され、この保護カバーを介して回転速度センサが前記パルサリングに軸方向エアギャップにて対峙されていれば、エアギャップを小さく設定することができ、検出精度を高めることができる。

【0015】

また、請求項４に記載の発明のように、前記保護カバーの円筒部の先端部が前記弾性部材の接触リップの先端部より小径に設定されていれば、製造工程あるいは運搬時に保護カバーを積層する際、上側の保護カバーの円筒部の先端部が下側の保護カバーの接触リップに接触して傷付いたり切損したりするのを防止し、保護カバーの製造あるいは運搬工程での作業性の向上を図ると共に、品質の信頼性を高めた車輪用軸受装置を提供することができる。

【0016】

また、請求項５に記載の発明のように、前記保護カバーの円筒部の端部外径に面取り部が形成され、この面取り部の傾斜角が前記弾性部材の接触リップの傾斜角に対応するように設定されていれば、外方部材への圧入を容易ならしめると共に、積層した状態の安定性を高め、作業性を向上させることができる。

【0017】

また、請求項６に記載の発明のように、前記保護カバーの円筒部の端部外径に円弧状の面取り部が形成されていれば、外方部材への圧入を容易ならしめると共に、接触リップの傷付きや切損を防止することができる。

【0018】

また、請求項７に記載の発明のように、前記保護カバーの円筒部の先端部に径方向内方に屈曲した縁曲げ部が形成されていれば、外方部材への圧入を容易ならしめると共に、接触リップ１９ｂの傷付きや切損を防止することができる。

【0021】

また、請求項８に記載の発明のように、前記保護カバーが、前記屈曲部からテーパ状の段部を介して軸方向に延びる円筒状の小径部を備えていれば、上側の保護カバーの屈曲部が下側の保護カバーの小径部に嵌挿され、保護カバーを積層する際、金属部の円筒部が弾性部材に当接する前に、上側の保護カバーにおける屈曲部と遮蔽部の角部と、下側の保護カバーにおける段部が当接し、金属部の円筒部が弾性部材に接触するのを回避することができ、接触リップの傷付きや切損を防止することができると共に、嵌挿される保護カバー同士が面接触して重ね合わせ時の安定性をさらに高めて作業性の向上を図ることができる。

【発明の効果】

【0022】

本発明に係る車輪用軸受装置は、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪とからなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、前記外方部材と内方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材のインナー側の端部内周に圧入された鋼板製のカップ状の保護カバーと、を備え、この保護カバーが、前記外方部材の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延びる円板状の遮蔽部と、この遮蔽部から屈曲部を介して前記内方部材のインナー側の端部を覆う底部からなる車輪用軸受装置において、前記保護カバーの嵌合部が、前記外方部材の端部内周に形成された円筒状の嵌合面に金属嵌合される円筒部と、この円筒部から軸方向に延びる円筒状の縮径部で構成され、この縮径部に合成ゴムからなる弾性部材が加硫接着によって一体に接合されると共に、当該弾性部材が前記円筒部の外径より径方向外方に突出する環状突起と、この環状突起の軸受外方側に径方向外方に傾斜して延びる接触リップを備え、前記保護カバーの嵌合時、前記環状突起が前記外方部材の嵌合面に弾性変形して圧着され、前記接触リップが前記外方部材の内径端部に弾性接触されると共に、前記弾性部材の接触リップの内径側に円筒状の案内部が一体に形成され、この案内部の外径が前記保護カバーの円筒部の内径よりも径方向の案内すきまを介して小径に形成されているので、保護カバーの圧入性の向上を図ると共に、弾性部材が軸受外方側に押し出されて外方部材の端面から膨出するのを防止し、保護カバーの嵌合部の気密性を高めることができる。
また、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪とからなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、前記外方部材と内方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材のインナー側の端部内周に圧入された鋼板製のカップ状の保護カバーと、を備え、この保護カバーが、前記外方部材の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延びる円板状の遮蔽部と、この遮蔽部から屈曲部を介して前記内方部材のインナー側の端部を覆う底部からなる車輪用軸受装置において、前記保護カバーの嵌合部が、前記外方部材の端部内周に形成された円筒状の嵌合面に金属嵌合される円筒部と、この円筒部から軸方向に延びる円筒状の縮径部で構成され、この縮径部に合成ゴムからなる弾性部材が加硫接着によって一体に接合されると共に、当該弾性部材が前記円筒部の外径より径方向外方に突出する環状突起と、この環状突起の軸受外方側に径方向外方に傾斜して延びる接触リップを備え、前記保護カバーの嵌合時、前記環状突起が前記外方部材の嵌合面に弾性変形して圧着され、前記接触リップが前記外方部材の内径端部に弾性接触されると共に、前記保護カバーの遮蔽部から前記屈曲部が直角に折り曲げられて形成され、当該保護カバーを積層する際に、前記円筒部が前記弾性部材に当接する前に、金属部同士が当接するような形状・寸法に形成されているので、保護カバーの圧入性の向上を図ると共に、弾性部材が軸受外方側に押し出されて外方部材の端面から膨出するのを防止し、保護カバーの嵌合部の気密性を高めることができ、さらに、上側の保護カバーにおける屈曲部と遮蔽部の角部と、下側の保護カバーにおける底部と屈曲部の角部が当接し、金属部の嵌合部が弾性部材に接触するのを回避することができ、接触リップの傷付きや切損を防止することができる。

【図面の簡単な説明】

【0023】

【図1】本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態を示す縦断面図である。

【図2】図１の検出部を示す要部拡大図である。

【図3】（ａ）は、図２の保護カバーの積層状態を示す説明図、（ｂ）は、（ａ）の要部拡大図、（ｃ）は、（ｂ）の弾性部材の変形例を示す要部拡大図である。

【図4】図２の保護カバーの変形例で、（ａ）は、保護カバーの積層状態を示す説明図、（ｂ）は、（ａ）の要部拡大図である。

【図5】図２の保護カバーの他の変形例で、（ａ）は、保護カバーの積層状態を示す説明図、（ｂ）は、（ａ）の要部拡大図である。

【図6】図２の保護カバーの他の変形例で、（ａ）は、保護カバーの積層状態を示す説明図、（ｂ）は、（ａ）の要部拡大図である。

【図7】図２の保護カバーの他の変形例で、（ａ）は、保護カバーの積層状態を示す説明図、（ｂ）は、（ａ）の要部拡大図である。

【図8】図２の保護カバーの他の変形例で、（ａ）は、保護カバーの積層状態を示す説明図、（ｂ）は、（ａ）の要部拡大図である。

【図9】図２の保護カバーの他の変形例で、（ａ）は、保護カバーの積層状態を示す説明図、（ｂ）は、（ａ）の要部拡大図である。

【図10】図９の保護カバーの変形例で、（ａ）は、保護カバーの積層状態を示す説明図、（ｂ）は、（ａ）の要部拡大図である。

【図11】図９の保護カバーの他の変形例で、（ａ）は、保護カバーの積層状態を示す説明図、（ｂ）は、（ａ）の要部拡大図である。

【図12】従来の車輪用軸受装置の保護カバーの装着部を示す要部拡大図である。

【図13】（ａ）は、図１２の保護カバーのゴム加硫前の積層状態を示す説明図、（ｂ）は、同上、保護カバーのゴム加硫後の積層状態を示す説明図である。

【発明を実施するための形態】

【0024】

外周にナックルに取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面の一方に対向する内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入され、外周に前記複列の外側転走面の他方に対向する内側転走面が形成された内輪からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記内輪に外嵌され、円周方向に特性を交互に、かつ等間隔に変化させたパルサリングと、前記外方部材のインナー側の端部に嵌着され、非磁性体の鋼板からプレス加工によりカップ状に形成された保護カバーと、を備え、この保護カバーが、前記外方部材の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延びる円板状の遮蔽部と、この遮蔽部から屈曲部を介して前記内方部材のインナー側の端部を覆う底部からなり、当該保護カバーを介して回転速度センサが前記パルサリングに所定の軸方向エアギャップで対峙されている車輪用軸受装置において、前記保護カバーの嵌合部が、前記外方部材の端部内周に形成された円筒状の嵌合面に金属嵌合される円筒部と、この円筒部から軸方向に延びる円筒状の縮径部で構成され、この縮径部に合成ゴムからなる弾性部材が加硫接着によって一体に接合されると共に、当該弾性部材が前記円筒部の外径より径方向外方に突出する環状突起と、この環状突起の軸受外方側に径方向外方に傾斜して延びる接触リップを備え、前記保護カバーの嵌合時、前記環状突起が前記外方部材の嵌合面に弾性変形して圧着され、前記接触リップが前記外方部材の内径端部に弾性接触されると共に、前記保護カバーの円筒部の先端部が前記弾性部材の接触リップの先端部より小径に設定されている。

【実施例】

【0025】

以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図１は、本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態を示す縦断面図、図２は、図１の検出部を示す要部拡大図、図３（ａ）は、図２の保護カバーの積層状態を示す説明図、（ｂ）は、（ａ）の要部拡大図、（ｃ）は、（ｂ）の弾性部材の変形例を示す要部拡大図、図４は、図２の保護カバーの変形例で、（ａ）は、保護カバーの積層状態を示す説明図、（ｂ）は、（ａ）の要部拡大図、図５〜９は、図２の保護カバーの他の変形例で、（ａ）は、保護カバーの積層状態を示す説明図、（ｂ）は、（ａ）の要部拡大図、図１０、１１は、図９の保護カバーの変形例で、（ａ）は、保護カバーの積層状態を示す説明図、（ｂ）は、（ａ）の要部拡大図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側（図１の左側）、中央寄り側をインナー側（図１の右側）という。

【0026】

図１に示す車輪用軸受装置は従動輪側の第３世代と呼称され、内方部材１と外方部材２と、これら内方部材１と外方部材２との間に収容された複列の転動体（ボール）３、３とを備えている。内方部材１は、ハブ輪４と、このハブ輪４に固定された別体の内輪５とからなる。

【0027】

ハブ輪４は、アウター側の端部に車輪（図示せず）を取り付けるための車輪取付フランジ６を一体に有し、外周に一方（アウター側）の内側転走面４ａと、この内側転走面４ａから軸方向に延びる小径段部４ｂが形成されている。車輪取付フランジ６の円周等配位置には車輪を固定するためのハブボルト６ａが植設されている。

【0028】

内輪５は、外周に他方（インナー側）の内側転走面５ａが形成され、ハブ輪４の小径段部４ｂに所定のシメシロを介して圧入されて背面合せタイプの複列アンギュラ玉軸受を構成している。そして、小径段部４ｂの端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部７によって所定の軸受予圧が付与された状態で軸方向に固定されている。

【0029】

ハブ輪４はＳ５３Ｃ等の炭素０．４０〜０．８０ｗｔ％を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面４ａをはじめ、後述するシール９のシールランド部となる車輪取付フランジ６のインナー側の基部６ｂから小径段部４ｂに亙って高周波焼入れによって表面硬さを５８〜６４ＨＲＣの範囲に硬化処理されている。なお、加締部７は、鍛造後の素材表面硬さ２５ＨＲＣ以下の未焼入れ部としている。これにより、車輪取付フランジ６に負荷される回転曲げ荷重に対して充分な機械的強度を有し、内輪５の嵌合部となる小径段部４ｂの耐フレッティング性が向上すると共に、微小なクラック等の発生がなく加締部７の塑性加工をスムーズに行うことができる。

【0030】

また、内輪５はＳＵＪ２等の高炭素クロム軸受鋼からなり、ズブ焼入れにより芯部まで５８〜６４ＨＲＣの範囲で硬化処理され、また、転動体３はＳＵＪ２等の高炭素クロム軸受鋼からなり、ズブ焼入れにより芯部まで６２〜６７ＨＲＣの範囲で硬化処理されている。

【0031】

一方、外方部材２は、外周に懸架装置を構成するナックル（図示せず）に取り付けられるための車体取付フランジ２ｂを一体に有し、内周に内方部材１の複列の内側転走面４ａ、５ａに対向する複列の外側転走面２ａ、２ａが一体に形成されている。この外方部材２は、ハブ輪４と同様、Ｓ５３Ｃ等の炭素０．４０〜０．８０ｗｔ％を含む中高炭素鋼で形成され、少なくとも複列の外側転走面２ａ、２ａが高周波焼入れによって表面硬さを５８〜６４ＨＲＣの範囲に硬化処理されている。そして、これら両転走面２ａ、４ａおよび２ａ、５ａ間に保持器８を介して複列の転動体３、３が転動自在に収容されている。

【0032】

外方部材２と内方部材１間に形成される環状空間の開口部のうちアウター側の開口部にシール９が装着されると共に、インナー側の開口部には保護カバー１０が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。

【0033】

アウター側のシール９は、外方部材２のアウター側端部の内周に所定のシメシロを介して圧入された芯金１１と、この芯金１１に加硫接着によって一体に接合されたシール部材１２とからなる一体型のシールで構成されている。芯金１１は、オーステナイト系ステンレス鋼板（ＪＩＳ規格のＳＵＳ３０４系等）や冷間圧延鋼板（ＪＩＳ規格のＳＰＣＣ系等）からプレス加工にて断面略Ｌ字状に形成されている。

【0034】

一方、シール部材１２はＮＢＲ（アクリロニトリル−ブタジエンゴム）等の合成ゴムからなり、径方向外方に傾斜して形成され、断面が円弧状に形成された基部６ｂに所定の軸方向シメシロをもって摺接するサイドリップ１２ａとダストリップ１２ｂ、および軸受内方側（インナー側）に傾斜して形成され、基部６ｂに所定の径方向シメシロを介して摺接するグリースリップ１２ｃとを有している。

【0035】

なお、シール部材１２の材質としては、ＮＢＲ以外にも、例えば、耐熱性に優れたＨＮＢＲ（水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム）、ＥＰＤＭ（エチレンプロピレンゴム）等をはじめ、耐熱性、耐薬品性に優れたＡＣＭ（ポリアクリルゴム）、ＦＫＭ（フッ素ゴム）、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。

【0036】

なお、ここでは、車輪用軸受装置として、転動体３をボールとした複列アンギュラ玉軸受で構成されたものを例示したが、これに限らず転動体に円錐ころを使用した複列円錐ころ軸受で構成されたものであっても良い。ハブ輪４の外周に内側転走面４ａが直接形成された第３世代と呼称される車輪用軸受装置を例示したが、本発明に係る車輪用軸受装置はこうした構造に限定されず、例えば、図示はしないがハブ輪の小径段部に一対の内輪が圧入された第１世代あるいは第２世代構造であっても良い。

【0037】

本実施形態では、内輪５の外径にパルサリング１３が圧入されている。このパルサリング１３は、強磁性体の鋼板、例えば、フェライト系のステンレス鋼板（ＪＩＳ規格のＳＵＳ４３０系等）や防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工によってＬ字状に、全体として円環状に形成された支持環１４と、この支持環１４に一体に接合された磁気エンコーダ１５とからなる。

【0038】

支持環１４は、内輪５の外径に圧入される円筒状の嵌合部１４ａと、この嵌合部１４ａから径方向内方に延びる立板部１４ｂとを備えている。そして、この立板部１４ｂに磁気エンコーダ１５が加硫接着によって一体に接合されている。この磁気エンコーダ１５は、ゴム等のエラストマにフェライト等の磁性体粉が混入され、周方向に交互に磁極Ｎ、Ｓが着磁されて車輪の回転速度検出用のロータリエンコーダを構成している。

【0039】

なお、ここでは、ゴム磁石からなる磁気エンコーダ１５を有するパルサリング１３を例示したが、これに限らず、円周方向に交互に、かつ等間隔に特性が変化する構成であれば良く、複数の透孔や凹凸が形成された鋼板製のパルサリングであっても良いし、焼結合金で形成されたものでも良い。また、プラスチック磁石が接合されたものでも良い。

【0040】

ここで、外方部材２のインナー側の端部内周に保護カバー１０が圧入され、外方部材２のインナー側の開口部を閉塞している。この保護カバー１０は、後述する回転速度センサ１６の感知性能に悪影響を及ぼさないように、耐食性を有する非磁性体の鋼板、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼板が使用されている。

【0041】

保護カバー１０はカップ状に形成され、外方部材２の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部１０ａと、この嵌合部１０ａから径方向内方に延び、磁気エンコーダ１５に僅かな軸方向すきまを介して対峙する円板状の遮蔽部１０ｂと、この遮蔽部１０ｂから屈曲部１０ｃを介して内方部材１のインナー側の端部を覆う底部１０ｄとを備えている。

【0042】

回転速度センサ１６の検出部は、図２に拡大して示すように、保護カバー１０の遮蔽部１０ｂに近接または当接され、検出部と磁気エンコーダ１５とは保護カバー１０を介して所定のエアギャップ（軸方向すきま）で対向配置されている。回転速度センサ１６はＰＡ６６等の射出成形可能な合成樹脂で形成され、ホール素子、磁気抵抗素子（ＭＲ素子）等、磁束の流れ方向に応じて特性を変化させる磁気検出素子およびこの磁気検出素子の出力波形を整える波形整形回路が組み込まれたＩＣ（図示せず）等が包埋され、車輪の回転速度を検出してその回転数を制御する自動車のＡＢＳを構成している。

【0043】

本実施形態では、保護カバー１０の嵌合部１０ａが、外方部材２のインナー側の端部内周に形成された円筒状の嵌合面２ｃに金属嵌合される円筒部１７と、この円筒部１７から軸方向に延びる円筒状の縮径部１８で構成されている。そして、縮径部１８にＮＢＲ等の合成ゴムからなる弾性部材１９が加硫接着によって一体に接合されている。

【0044】

ここで、弾性部材１９は、保護カバー１０の遮蔽部１０ｂの側面からインナー側に突出して回転速度センサ１６に干渉しないように接合されると共に、円筒部１７の外径より径方向外方に突出する環状突起１９ａと、この環状突起１９ａの軸受外方側（インナー側）に径方向外方に傾斜して延びる接触リップ１９ｂを備えている。そして、保護カバー１０の嵌合時、外方部材２の嵌合面２ｃに弾性変形して圧着されると共に、接触リップ１９ｂが外方部材２の内径端部に形成された面取り部２ｄに弾性接触して、所謂ハーフメタル構造をなしている。これにより、保護カバー１０の圧入性の向上を図ると共に、弾性部材１９が軸受外方側に押し出されて外方部材２の端面２ｅから膨出するのを防止し、保護カバー１０の嵌合部１０ａの気密性を高めることができる。

【0045】

なお、外方部材２の嵌合面２ｃと面取り部２ｄが、研削加工あるいは旋削加工等の切削加工によって同時に加工されている。好ましくは、高周波焼入れによる熱処理工程の後、研削工程において、複列の外側転走面２ａ、２ａと総型砥石によって同時研削されていれば、嵌合面２ｃと面取り部２ｄの真円度や同軸度等の精度が向上し、嵌合部１０ａの気密性が一層高くなると共に、同時切削によって加工工数を低減することができ、低コスト化を図ることができる。

【0046】

こうした保護カバー１０は、製造工程において、図３（ａ）に示すように、通常、設置スペースを取らないように同方向に積層された状態で保管あるいは工程待ちされる。ここでは、（ｂ）に示すように、円筒部１７の外径Ｄ１が接触リップ１９ｂの外径Ｄ２よりも小径（Ｄ１＜Ｄ２）に設定されている。これにより、上側の保護カバー１０の円筒部１７の先端が下側の保護カバー１０の接触リップ１９ｂに接触して傷付いたり切損したりするのを防止し、保護カバー１０の製造あるいは運搬工程での作業性の向上を図ると共に、品質の信頼性を高めた車輪用軸受装置を提供することができる。なお、（ｃ）に示すように、保護カバー１０の円筒部１７の先端部を弾性部材１９’の接触リップ１９ｂの先端部から径方向に離反させて小径にし、弾性部材１９’の根元部に接触させるようにしても良い。

【0047】

図４に、図２の保護カバー１０の変形例を示す。この実施形態は、前述したものと基本的には保護カバー１０の嵌合部１０ａの構成が一部異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符合を付して詳細な説明を省略する。

【0048】

この保護カバー２０は、非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼板をプレス成形してカップ状に形成され、図４（ａ）に示すように、図示しない外方部材の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部２０ａと、この嵌合部２０ａから径方向内方に延びる円板状の遮蔽部１０ｂと、この遮蔽部１０ｂから屈曲部１０ｃを介して底部１０ｄを備えている。

【0049】

本実施形態では、保護カバー２０の嵌合部２０ａは、外方部材の嵌合面に金属嵌合される円筒部２１と、この円筒部２１から軸方向に延びる円筒状の縮径部１８で構成されている。そして、縮径部１８にＮＢＲ等の合成ゴムからなる弾性部材１９’が加硫接着によって一体に接合されている。

【0050】

ここで、（ｂ）に拡大して示すように、円筒部２１の端部外径に面取り部２１ａが形成され、この面取り部２１ａが接触リップ１９ｂの根元部に当接するように設定されると共に、その面取り部２１ａの傾斜角は接触リップ１９ｂの傾斜角に対応して略同一になるように設定されている。これにより、外方部材への圧入を容易ならしめると共に、積層した状態の安定性を高め、作業性を向上させることができる。ここで、「略同一」の略とは、例えば、設計の狙い値であって実質的にが角度差がない状態、すなわち、加工誤差等によって生じる角度差は当然許容されるべきものである。

【0051】

図５〜７に、図２の保護カバー１０の他の変形例を示す。この実施形態は、前述したものと基本的には保護カバー１０の嵌合部１０ａの構成が一部異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符合を付して詳細な説明を省略する。

【0052】

図５（ａ）に示す保護カバー２２は、非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼板をプレス成形してカップ状に形成され、図示しない外方部材の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部２２ａと、この嵌合部２２ａから径方向内方に延びる円板状の遮蔽部１０ｂと、この遮蔽部１０ｂから屈曲部１０ｃを介して底部１０ｄを備えている。

【0053】

本実施形態では、保護カバー２２の嵌合部２２ａは、外方部材の嵌合面に金属嵌合される円筒部２３と、この円筒部２３から軸方向に延びる円筒状の縮径部１８で構成されている。そして、縮径部１８にＮＢＲ等の合成ゴムからなる弾性部材１９’が加硫接着によって一体に接合されている。

【0054】

ここで、（ｂ）に拡大して示すように、円筒部２３の端部外径に円弧状の面取り部２３ａが形成され、この面取り部２３ａが接触リップ１９ｂの根元部に当接するように設定されている。これにより、外方部材への圧入を容易ならしめると共に、接触リップ１９ｂの傷付きや切損を防止することができる。

【0055】

図６（ａ）に示す保護カバー２４は、非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼板をプレス成形してカップ状に形成され、図示しない外方部材の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部２４ａと、この嵌合部２４ａから径方向内方に延びる円板状の遮蔽部１０ｂと、この遮蔽部１０ｂから屈曲部１０ｃを介して底部１０ｄを備えている。

【0056】

本実施形態では、保護カバー２４の嵌合部２４ａは、外方部材の嵌合面に金属嵌合される円筒部２５と、この円筒部２５から軸方向に延びる円筒状の縮径部１８で構成されている。そして、縮径部１８にＮＢＲ等の合成ゴムからなる弾性部材１９が加硫接着によって一体に接合されている。

【0057】

ここで、（ｂ）に拡大して示すように、円筒部２５の端部に径方向内方に屈曲した縁曲げ部２５ａが形成され、この縁曲げ部２５ａが接触リップ１９ｂを避けて弾性部材１９に当接するように設定されている。これにより、外方部材への圧入を容易ならしめると共に、接触リップ１９ｂの傷付きや切損を防止することができる。

【0058】

図７（ａ）に示す保護カバー２６は、非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼板をプレス成形してカップ状に形成され、図示しない外方部材の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部２６ａと、この嵌合部２６ａから径方向内方に延びる円板状の遮蔽部１０ｂと、この遮蔽部１０ｂから屈曲部１０ｃを介して底部１０ｄを備えている。

【0059】

本実施形態では、保護カバー２６の嵌合部２６ａは、外方部材の嵌合面に金属嵌合される円筒部２７と、この円筒部２７から軸方向に延びる円筒状の縮径部１８で構成されている。そして、縮径部１８にＮＢＲ等の合成ゴムからなる弾性部材１９が加硫接着によって一体に接合されている。

【0060】

ここで、（ｂ）に拡大して示すように、円筒部２７の端部に径方向内方に直角に屈曲した縁曲げ部２７ａが形成され、この縁曲げ部２７ａの端面が弾性部材１９に当接するように設定されている。これにより、外方部材への圧入を容易ならしめると共に、接触リップ１９ｂの傷付きや切損を防止することができる。

【0061】

図８に、図２の保護カバー１０の他の変形例を示す。この実施形態は、前述したものと基本的には保護カバー１０の弾性部材１９の構成が一部異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符合を付して詳細な説明を省略する。

【0062】

この保護カバー２８は、非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼板をプレス成形してカップ状に形成され、図８（ａ）に示すように、図示しない外方部材の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部１０ａと、この嵌合部１０ａから径方向内方に延びる円板状の遮蔽部１０ｂと、この遮蔽部１０ｂから屈曲部１０ｃを介して底部１０ｄを備えている。

【0063】

本実施形態では、保護カバー２８の嵌合部１０ａは、外方部材の嵌合面に金属嵌合される円筒部１７と、この円筒部１７から軸方向に延びる円筒状の縮径部１８で構成されている。そして、縮径部１８にＮＢＲ等の合成ゴムからなる弾性部材２９が加硫接着によって一体に接合されている。

【0064】

ここで、弾性部材２９は、（ｂ）に拡大して示すように、円筒部１７の外径より径方向外方に突出する環状突起１９ａと、この環状突起１９ａの軸受外方側に径方向外方に傾斜して延びる接触リップ１９ｂを備えると共に、この接触リップ１９ｂの内径側に側面が遮蔽部１０ｂの側面と面一になるように案内部２９ａが一体に形成されている。この案内部２９ａは円筒状に形成され、その外径Ｄ３が保護カバー２８の円筒部１７の内径Ｄ４よりも僅かな径方向すきまを介して小径（Ｄ３＜Ｄ４）に形成されている。これにより、保護カバー２８を積層する際に、上側の保護カバー２８の円筒部１７が下側の保護カバー２８の案内部２９ａによって径方向に案内されて重ね合わせ時の安定性を高め、作業性の向上を図ることができる。

【0065】

図９に、図２の保護カバー１０の他の変形例を示す。この実施形態は、前述したものと基本的には保護カバー１０の金属部分の形状が一部異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符合を付して詳細な説明を省略する。

【0066】

図９（ａ）に示す保護カバー３０は、非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼板をプレス成形してカップ状に形成され、図示しない外方部材の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部１０ａと、この嵌合部１０ａから径方向内方に延びる円板状の遮蔽部１０ｂと、この遮蔽部１０ｂから直角に折り曲げられる屈曲部３０ａと、この屈曲部３０ａから径方向内方に延びる底部１０ｄとを備えている。

【0067】

ここで、保護カバー３０を積層する際に、金属部の円筒部１７が弾性部材１９に当接する前に金属部同士が当接するような形状・寸法に形成されている。具体的には、屈曲部３０ａが遮蔽部１０ｂから直角に折り曲げられているため、まず金属部同士が当接し、かつ、嵌合部１０ａの高さＨ２が、重ね合せた時の上側の保護カバー３０の遮蔽部１０ｂから下側の保護カバー３０の弾性部材１９の側面までの高さＨ３よりも小さくなるように設定されている（Ｈ２＜Ｈ３）。

【0068】

これにより、（ｂ）に拡大して示すように、上側の保護カバー３０における屈曲部３０ａと遮蔽部１０ｂの角部と、下側の保護カバー３０における底部１０ｄと屈曲部３０ａの角部が当接し、金属部の嵌合部１０ａが弾性部材１９に接触するのを回避することができ、接触リップ１９ｂの傷付きや切損を防止することができる。

【0069】

図１０、１１に、図９の保護カバー３０の変形例を示す。この実施形態は、前述したものと基本的には保護カバー３０の金属部分の形状が一部異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符合を付して詳細な説明を省略する。

【0070】

図１０（ａ）に示す保護カバー３１は、非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼板をプレス成形してカップ状に形成され、図示しない外方部材の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部１０ａと、この嵌合部１０ａから径方向内方に延びる円板状の遮蔽部３１ａと、この遮蔽部３１ａから直角に折り曲げられる屈曲部３０ａと、この屈曲部３０ａから径方向内方に延びる底部３１ｂとを備えている。

【0071】

本実施形態では、前述した実施形態（図９）と同様、保護カバー３１を積層する際に、金属部の円筒部１７が弾性部材１９に当接する前に金属部同士が当接するような形状・寸法に形成されている。具体的には、嵌合部１０ａの高さＨ２が、重ね合せた時の上側の保護カバー３１の遮蔽部３１ａから下側の保護カバー３１の弾性部材１９の側面までの高さＨ３よりも小さくなるように設定されている（Ｈ２＜Ｈ３）。

【0072】

さらに、（ｂ）に拡大して示すように、屈曲部３０ａと遮蔽部３１ａの角部３２と、屈曲部３０ａと底部３１ｂの角部３３がテーパ状に形成されている。これにより、上側の保護カバー３１における屈曲部３０ａと遮蔽部３１ａの角部３２と、下側の保護カバー３１における底部３１ｂと屈曲部３０ａの角部３３が当接し、金属部の円筒部１７が弾性部材１９に接触するのを回避することができ、接触リップ１９ｂの傷付きや切損を防止することができると共に、保護カバー３１、３１の角部３２、３３同士が面接触して重ね合わせ時の安定性を高め、作業性の向上を図ることができる。

【0073】

図１１（ａ）に示す保護カバー３４は、非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼板をプレス成形してカップ状に形成され、図示しない外方部材の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部１０ａと、この嵌合部１０ａから径方向内方に延びる円板状の遮蔽部３１ａと、この遮蔽部３１ａから直角に折り曲げられる屈曲部３０ａと、この屈曲部３０ａからテーパ状の段部３４ａを介して軸方向に延びる円筒状の小径部３４ｂと、この小径部３４ｂから径方向内方に延びる底部１０ｄとを備えている。

【0074】

本実施形態では、前述した実施形態（図１０）と同様、保護カバー３４を積層する際に、金属部の円筒部１７が弾性部材１９に当接する前に金属部同士が当接するような形状・寸法に形成されている。具体的には、小径部３４ｂの外径Ｄ５が屈曲部３０ａの内径Ｄ６よりも僅かな径方向すきまを介して小径（Ｄ５＜Ｄ６）に形成され、上側の保護カバー３４の屈曲部３０ａが下側の保護カバー３４の小径部３４ｂに嵌挿されると共に、嵌合部１０ａの高さＨ２が、重ね合せた時の上側の保護カバー３４の遮蔽部３１ａから下側の保護カバー３４の弾性部材１９の側面までの高さＨ３よりも小さくなるように設定されている（Ｈ２＜Ｈ３）。

【0075】

これにより、上側の保護カバー３４における屈曲部３０ａと遮蔽部３１ａの角部３２と、下側の保護カバー３４における段部３４ａが当接し、金属部の円筒部１７が弾性部材１９に接触するのを回避することができ、接触リップ１９ｂの傷付きや切損を防止することができると共に、嵌挿される保護カバー３４、３４同士が面接触して重ね合わせ時の安定性をさらに高めて作業性の向上を図ることができる。

【0076】

以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。

【産業上の利用可能性】

【0077】

本発明に係る車輪用軸受装置は、外方部材に保護カバーが装着され、転動体がボール、円錐ころ等、あらゆる構造の従動輪側の内輪回転タイプの車輪用軸受装置に適用することができる。

【符号の説明】

【0078】

１ 内方部材
２ 外方部材
２ａ 外側転走面
２ｂ 車体取付フランジ
２ｃ 外方部材の嵌合面
２ｄ 外方部材の面取り部
２ｅ 外方部材の端面
３ 転動体
４ ハブ輪
４ａ、５ａ 内側転走面
５ 内輪
６ 車輪取付フランジ
６ａ ハブボルト
６ｂ 車輪取付フランジのインナー側の基部
７ 加締部
８ 保持器
９ シール
１０、２０、２２、２４、２６、２８、３０、３１、３４ 保護カバー
１０ａ、２０ａ、２２ａ、２４ａ、２６ａ 嵌合部
１０ｂ、３１ａ 遮蔽部
１０ｃ、３０ａ 屈曲部
１０ｄ、３１ｂ 底部
１１ 芯金
１２ シール部材
１２ａ サイドリップ
１２ｂ ダストリップ
１２ｃ グリースリップ
１３ パルサリング
１４ 支持環
１４ｂ 立板部
１５ 磁気エンコーダ
１６ 回転速度センサ
１７、２１、２３、２５、２７ 円筒部
１８ 縮径部
１９、１９’、２９ 弾性部材
１９ａ 環状突起
１９ｂ 接触リップ
２１ａ、２３ａ 面取り部
２５ａ、２７ａ 縁曲げ部
２９ａ 案内部
３２、３３ 角部
３４ａ 段部
３４ｂ 小径部
５１ 外方部材
５１ａ 嵌合面
５２ 内輪
５３、５３’ 保護カバー
５３ａ、５５ａ 嵌合部
５３ｂ 遮蔽部
５３ｃ 屈曲部
５３ｄ 底部
５４ パルサリング
５５ 支持環
５６ 磁気エンコーダ
５６ｂ 立板部
５７ 回転速度センサ
５８ 円筒部
５９ 縮径部
６０ 弾性部材
６０ａ 環状突起
ｄ１ 保護カバーの嵌合部の内径
ｄ２ 保護カバーの縮径部の外径
Ｄ１ 円筒部の外径
Ｄ２ 接触リップの外径
Ｄ３ 案内部の外径
Ｄ４ 円筒部の内径
Ｄ５ 小径部の外径
Ｄ６ 屈曲部の内径
Ｈ２ 嵌合部の高さ
Ｈ３ 重ね合せた時の保護カバーの上側の遮蔽部から下側の弾性部材の側面までの高さ
ｔ０ 保護カバーの嵌合部以外の板厚
ｔ１ 保護カバーの嵌合部の板厚

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】