特許第6274953号(P6274953)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6274953-クリヤ塗装ステンレス鋼板 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6274953
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】クリヤ塗装ステンレス鋼板
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20180129BHJP
   B32B 15/082 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   B32B15/08 G
   B32B15/082 Z
【請求項の数】2
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-80375(P2014-80375)
(22)【出願日】2014年4月9日
(65)【公開番号】特開2015-199292(P2015-199292A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2016年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】新日鐵住金ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】有吉 春樹
(72)【発明者】
【氏名】安田 洋一郎
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−127303(JP,A)
【文献】 特開平08−156177(JP,A)
【文献】 特開2011−224975(JP,A)
【文献】 特開平10−193508(JP,A)
【文献】 特開2011−104988(JP,A)
【文献】 特開2005−169857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00− 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼板と、該ステンレス鋼板上に形成されたクリヤ樹脂層と、該クリヤ樹脂層に含有される樹脂ビーズ(D)とを具備し、
前記クリヤ樹脂層は、架橋性官能基を有するアクリル樹脂(a1)を含有する熱硬化性樹脂組成物(A)を含む最下層と、熱硬化性樹脂組成物(B)を含む最上層とを備え、熱硬化性樹脂組成物(A)100質量部に対して、樹脂ビーズ(D)を0.2〜5.0質量部含み、
前記樹脂ビーズ(D)の平均粒子径が、クリヤ樹脂層の膜厚に対して0.7〜1.5倍
である、クリヤ塗装ステンレス鋼板。
【請求項2】
前記樹脂ビーズ(D)が、少なくとも最下層に含まれる、請求項1に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリヤ塗装ステンレス鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼板は、ステンレス特有の美麗な金属光沢を活かした高級感のある外観が得られることから、家庭用や業務用の電化製品の筐体や内装材、表装材に広く使われている。
電化製品に使用されるステンレス鋼板は、非塗装で使用されるものと、表面に塗装を施して使用されるもの(以下、ステンレス鋼板の表面に塗装が施されたものを「クリヤ塗装ステンレス鋼板」という。)とに大別される。電化製品の外装材として使用されるステンレス鋼板は意匠性を付与したり、耐食性や耐汚染性等を高めたりする目的から表面を塗装して使用される場合が多い。
【0003】
しかし、クリヤ塗装ステンレス鋼板には、プレッシャーマークと呼ばれる圧痕が発生するという問題があった。「プレッシャーマーク」とは、クリヤ塗装ステンレス鋼板を複数重ねて積み上げた場合や、長尺なクリヤ塗装ステンレス鋼板をコイル巻き状態で保管する際に、ステンレス鋼板の表面に形成された塗膜(クリヤ樹脂層)に、クリヤ塗装ステンレス鋼板の自重によって圧力が加わり、クリヤ樹脂層が押し潰される形となって生じる圧痕のことである。
【0004】
プレッシャーマークという現象は、発生した圧痕が塗膜表面の光沢ムラとして観察される。光沢ムラとなる原因は、以下のように考えられる。なお、クリヤ塗装ステンレス鋼板を複数重ねたり、長尺なクリヤ塗装ステンレス鋼板をコイル巻き状態にしたときに、任意の層のクリヤ塗装ステンレス鋼板を「下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板」といい、該下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板上に位置するクリヤ塗装ステンレス鋼板を「上側のクリヤ塗装ステンレス鋼板」という。また、下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板のクリヤ樹脂層側の面を「クリヤ塗装ステンレス鋼板の表面」といい、上側のクリヤ塗装ステンレス鋼板のステンレス鋼板側の面を「クリヤ塗装ステンレス鋼板の裏面」という。
【0005】
例えば、クリヤ塗装ステンレス鋼板の表面の粗度が、クリヤ塗装ステンレス鋼板の裏面の粗度よりも高い場合、クリヤ塗装ステンレス鋼板の裏面側からの圧力によって、クリヤ塗装ステンレス鋼板の表面の凹凸が均されることにより、光沢が上昇する。このとき、凹凸を構成する凸部の頂上部のみが均されるため、光沢の上昇にムラが生じ、その結果、光沢ムラとなると考えられる。
一方、クリヤ塗装ステンレス鋼板の表面の粗度が、クリヤ塗装ステンレス鋼板の裏面の粗度よりも低い場合、クリヤ塗装ステンレス鋼板の裏面側からの圧力によって、該裏面の凹凸がクリヤ塗装ステンレス鋼板の表面に転写されることで、光沢が低下する。このとき、凹凸を構成する凸部がより強く転写されるため、光沢の低下にムラが生じ、その結果、光沢ムラとなると考えられる。
このように、プレッシャーマークと呼ばれる圧痕は、クリヤ塗装ステンレス鋼板の表面の全面的もしくは部分的な光沢の低下、または光沢の上昇として観察される。プレッシャーマークが発生すると、これらの光沢の変化がムラ状に発生してしまうことから、クリヤ塗装ステンレス鋼板の意匠性が低下し、商品価値を損ねることとなる。
【0006】
プレッシャーマークに対する対策としては、クリヤ塗装ステンレス鋼板を巻き付けるコイルを軽量化したり、クリヤ塗装ステンレス鋼板を積み上げる枚数を制限したりすることで、かかる圧力そのものを小さくするという方法が一般的である。
しかし、この方法はクリヤ塗装ステンレス鋼板の生産性が大きく下がるだけでなく、クリヤ塗装ステンレス鋼板を保管する際の保管スペースを増やす必要があり、一般的な量産品、とりわけ安価な製品においては、現実的には適用が困難である。
【0007】
そこで、コイルの重さや積み上げ枚数を制限することなく、プレッシャーマークを抑制する方法が検討されている。
例えば、ステンレス鋼板の裏面にも塗装を施し、裏面側の塗膜(クリヤ樹脂層)によるクッション効果により、プレッシャーマークを抑制する方法が知られている。
しかし、この方法では一定の効果を期待できるものの、単にステンレス鋼板の裏面を塗装するだけでは、十分な効果は得られなかった。
【0008】
そこで、鋼板の表面側の塗膜(クリヤ樹脂層)と、裏面側の塗膜(クリア樹脂層)との光沢値や表面粗度を近づけることで、プレッシャーマークを抑制する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
また、鋼板の表面側の塗膜(クリヤ樹脂層)と、裏面側の塗膜(クリア樹脂層)とのガラス転移温度の差を小さくすることで硬度差を小さくし、プレッシャーマークを抑制する方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0009】
しかし、特許文献1、2に記載の方法の場合、鋼板の裏面に必ず塗装を施さなければならず、鋼板の裏面を塗装していない仕様のクリヤ塗装ステンレス鋼板を製造するには不向きであった。
また、特許文献1に記載の方法の場合、クリヤ塗装ステンレス鋼板の表面と裏面の光沢値や表面粗度が近いため、意匠性の面で制限されることがあった。
特許文献2に記載の方法の場合、ガラス転移温度は加工性や耐水性など、表面硬度以外の塗膜性能にも影響を及ぼす。そのため、加工性や耐水性への影響も考慮しつつ、ガラス転移温度の差を小さくするには、塗料の種類が制限されることがあった。
【0010】
そこで、ステンレス鋼板の裏面に塗装を施さなくても耐プレッシャーマーク性に優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板として、クリヤ樹脂層に樹脂ビーズを配合したものが提案されている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−200528号公報
【特許文献2】特許第3157105号公報
【特許文献3】特開2011−224975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、近年、クリヤ塗装ステンレス鋼板には、より高いレベルで耐プレッシャーマーク性に優れることが求められている。
【0013】
本発明の課題は、耐プレッシャーマーク性に優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は以下の態様を有する。
[1] ステンレス鋼板と、該ステンレス鋼板上に形成されたクリヤ樹脂層と、該クリヤ樹脂層に含有される樹脂ビーズ(D)とを具備し、前記クリヤ樹脂層は、架橋性官能基を有するアクリル樹脂(a1)を含有する熱硬化性樹脂組成物(A)を含む最下層と、熱硬化性樹脂組成物(B)を含む最上層とを備え、熱硬化性樹脂組成物(A)100質量部に対して、樹脂ビーズ(D)を0.2〜5.0質量部含み、前記樹脂ビーズ(D)の平均粒子径が、クリヤ樹脂層の膜厚に対して0.7〜1.5倍である、クリヤ塗装ステンレス鋼板
[2] 前記樹脂ビーズ(D)が、少なくとも最下層に含まれる、[1]に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐プレッシャーマーク性に優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板の一実施形態例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板の一実施形態例を模式的に示す断面図である。本実施形態例のクリヤ塗装ステンレス鋼板10は、ステンレス鋼板11と、該ステンレス鋼板11上に形成されたクリヤ樹脂層12と、該クリヤ樹脂層12に含有される樹脂ビーズ(D)15を具備して構成されている。
なお、図1においては、説明の便宜上、寸法比は実際のものと異なったものである。
【0018】
「ステンレス鋼板」
ステンレス鋼板11としては公知のものが使用される。
ステンレス鋼板11の表面(クリヤ樹脂層12と接する側の面)には、クリヤ樹脂層12との密着性を向上させる観点から、化成処理が施されて化成処理膜(図示略)が形成されていてもよい。
【0019】
「クリヤ樹脂層」
本実施形態例のクリヤ樹脂層12は、最下層13と最上層14とからなる2層構造である。また、クリヤ樹脂層12は、樹脂ビーズ(D)15を含有する。
なお、本発明において、「クリヤ」とは、可視光領域の光線透過率が30%以上のことである。可視光領域の光線透過率は、分光光度計を用いて、380nm〜750nmの波長範囲で測定した光線透過率である。
クリヤ樹脂層12の可視光領域の光線透過率が30%未満であると、可視光は僅かに透過しているものの、目視ではステンレス鋼板11を殆ど見ることはできない。そのため、ステンレスの持つ美麗な外観を活かした意匠は得られない。
クリヤ樹脂層12の可視光透過率は40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。
【0020】
<最下層>
最下層13は、ステンレス鋼板11と接する層であり、架橋性官能基を有するアクリル樹脂(a1)を含有する熱硬化性樹脂組成物(A)13aを含む。
【0021】
(熱硬化性樹脂組成物(A))
熱硬化性樹脂組成物(A)13aは、架橋性官能基を有するアクリル樹脂(a1)を含有する。
架橋性官能基を有するアクリル樹脂(a1)はステンレス鋼板11に対する密着性に優れるので、最下層13が熱硬化性樹脂組成物(A)13aを含むことで、ステンレス鋼板11と最下層13とが良好に密着する。
【0022】
架橋性官能基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルコキシシラン基などが挙げられる。
アクリル樹脂(a1)は、非官能性単量体と架橋性官能基を有する重合性単量体とを反応させることで得られる。
非官能性単量体としては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸イソプロピル、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ラウリル等の脂肪族又は環式アクリート;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアクリルアミドなどが挙げられる。
これら非官能性単量体は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
架橋性官能基を有する重合性単量体としては、ヒドロキシ基含有重合性単量体、カルボキシ基含有重合体単量体、アルコキシシラン基含有重合体単量体などが挙げられる。
ヒドロキシ基含有重合性単量体は、1分子中にヒドロキシ基と重合性不飽和二重結合をそれぞれ1つ以上含有する単量体である。このような単量体としては、具体的に、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等のヒドロキシアルキルエステル;ラクトン変性水酸基含有ビニル重合モノマー(例えば、プラクセルFM1、2、3、4、5、FA−1、2、3、4、5(以上、株式会社ダイセル製)等)などが挙げられる。
カルボキシ基含有重合体単量体は、1分子中にカルボキシ基と重合性不飽和二重結合をそれぞれ1つ以上含有する単量体である。このような単量体としては、具体的に、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。
アルコキシシラン基含有重合体単量体は、1分子中にアルコキシシラン基と重合性不飽和二重結合をそれぞれ1つ以上含有する単量体である。このような単量体としては、具体的に、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタアクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
これら架橋性官能基を有する重合性単量体は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
熱硬化性樹脂組成物(A)13aは、イソシアネート樹脂(a2)をさらに含有することが好ましい。
イソシアネート樹脂(a2)は、アクリル樹脂(a1)を硬化させる架橋樹脂である。熱硬化性樹脂組成物(A)13aがイソシアネート樹脂(a2)を含有することで、アクリル樹脂(a1)が架橋構造となり、最下層13の強度が高まるとともに、ステンレス鋼板11に対する最下層13の密着性がより向上する。
【0025】
イソシアネート樹脂(a2)には、常温下でも硬化反応が進行するノンブロックタイプと、イソシアネート基をフェノール類、オキシム類、活性メチレン類、ε−カプロラクタム類、トリアゾール類、ピラゾール類等のブロック剤によって封鎖することで、常温下では反応が進まないが、加熱することによって硬化反応が進行するブロックタイプとがある。
イソシアネート樹脂(a2)としては、ノンブロックタイプおよびブロックタイプのいずれも使用可能であるが、プレコート型塗装による生産を行う場合は、連続生産時の作業性に優れる点で、ブロックタイプが好ましい。
【0026】
ブロックタイプのイソシアネート樹脂(a2)は、分子中に2つ以上のイソシアネート基を有する化合物である。このような化合物としては、具体的に、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート;これらイソシアネートのビューレットタイプの付加物やイソシアヌル環タイプの付加物などが挙げられる。
【0027】
アクリル樹脂(a1)の架橋性官能基(例えば、OH基やCOOH基等)とイソシアネート樹脂(a2)のイソシアネート基(NCO基)との比は、当量比で架橋性官能基/NCO基=1.0/0.2〜1.0/2.0となる範囲が好ましく、1.0/0.2〜1.0/1.5となる範囲がより好ましく、1.0/0.5〜1.0/1.2となる範囲がさらに好ましい。当量比が1.0/0.2以上であれば、熱硬化性樹脂組成物(A)の架橋が十分となるため、ステンレス鋼板11に対する最下層13の密着性が向上するとともに、耐水性や耐薬品性も良好となる。一方、当量比が1.0/2.0以下であれば、イソシアネート基が適量となるため未反応のイソシアネート樹脂(a2)が残りにくくなり、熱硬化性樹脂組成物(A)の硬化性を良好に維持できる。熱硬化性樹脂組成物(A)の硬化性が良好であれば、熱硬化性樹脂組成物(A)の硬度が低下するのを抑制できるので、クリヤ樹脂層に加圧による圧痕が発生するのをより抑制できる。
【0028】
熱硬化性樹脂組成物(A)13aがイソシアネート樹脂(a2)を含有する場合、熱硬化性樹脂組成物(A)13aにはアクリル樹脂(a1)とイソシアネート樹脂(a2)との架橋反応を促進させるための硬化触媒がさらに含まれていてもよい。特に、イソシアネート樹脂(a2)としてブロックタイプを用いる場合、硬化触媒はブロック剤の解離促進剤として作用するため、熱硬化性樹脂組成物(A)13aは硬化触媒を含有することが好ましい。
硬化触媒としては有機錫触媒が好ましく、具体的には、ジ−n−ブチルチンオキサイド、n−ジブチルチンクロライド、ジ−n−ブチルチンジラウリレート、ジ−n−ブチルチンジアセテート、ジ−n−オクチルチンオキサイド、ジ−n−オクチルチンジラウリレート、テトラ−n−ブチルチンなどが挙げられる。
これら硬化触媒は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
硬化触媒の含有量は、アクリル樹脂(a1)とイソシアネート樹脂(a2)の固形分の合計100質量部に対して、0.005〜0.08質量部が好ましく、0.01〜0.06質量部がより好ましい。硬化触媒の含有量が0.005質量部以上であれば、硬化触媒の効果が十分に得られる。一方、硬化触媒の含有量が0.08質量部を超えると、単に硬化触媒の効果が頭打ちするだけでなく、反応性が過剰に高くなることによってイソシネート基(NCO基)が空気中の水分等と反応するなど、アクリル樹脂(a1)の架橋性官能基(例えば、OH基やCOOH基等)との1:1反応をかえって阻害する場合がある。その結果、耐侯性が低下するなど本来の性能を発揮できなくなる恐れがある。また、イソシアネート樹脂(a2)としてノンブロックタイプを用いた場合、塗料の反応性が極端に速くなるために、アクリル樹脂(a1)とイソシアネート樹脂(a2)とを混合した後、直ちに塗装する必要性が生じ、塗装作業性が著しく低下する。
【0029】
(他の成分)
最下層13は、紫外線吸収剤や光安定剤等の耐光性付与剤、透明性を有する有機顔料や無機顔料、各種パール顔料やアルミペースト等の光輝材、分散剤、消泡剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤、湿潤剤、潤滑剤などの添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0030】
(膜厚)
最下層13の膜厚は、2〜15μmが好ましく、3〜10μmがより好ましい。最下層13の膜厚が2μm以上であれば、安定的な生産が容易となる。また、耐磨耗性にも優れるようになる。一方、最下層13の膜厚が15μm以下であれば、透明性を良好に維持できるので、意匠性により優れる。
【0031】
<最上層>
最上層14は、クリヤ樹脂層12の最上に位置する層であり、熱硬化性樹脂組成物(B)14bを含む。
【0032】
(熱硬化性樹脂組成物(B))
熱硬化性樹脂組成物(B)14bに含まれる樹脂としては特に制限されず、最上層14に求められる機能に応じて決定されるが、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。例えば、最上層14に高硬度及び透明性を付与する目的ではアクリル樹脂が好ましく、加工性を付与する目的ではポリエステル樹脂が好ましい。
アクリル樹脂としては、最下層13の説明において先に例示した架橋性官能基を有するアクリル樹脂(a1)などが挙げられる。
【0033】
ポリエステル樹脂としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基等の架橋性官能基を有する樹脂が挙げられ、多価アルコールと多価カルボン酸とを反応させることで得られる。
多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,8−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,3−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピオネート、N,N−ビス−(2−ヒドロキシエチル)ジメチルヒダントイン、ポリエトフメチレンエーテルグリコール、ポリカプロラクトンポリオール、グリセリン、ソルビトール、アンニトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリス−(ヒドロキシエチル)イソシアナートなどが挙げられる。
多価カルボン酸としては、例えばフタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸、無水コハク酸、乳酸、ドデセニルコハク酸、ドデセニル無水コハク酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、無水エンド酸などが挙げられる。
これら多価アルコールや多価カルボン酸は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
熱硬化性樹脂組成物(B)14bは、当該熱硬化性樹脂組成物(B)14bに含まれる熱硬化性樹脂を硬化させる架橋樹脂をさらに含有することが好ましい。熱硬化性樹脂組成物(B)14bが架橋樹脂を含有することで、熱硬化性樹脂が架橋構造となり、最上層14の強度が高まるとともに、最下層13に対する最上層14の密着性が向上する。
【0035】
架橋樹脂は、熱硬化性樹脂組成物(B)14bに含まれる熱硬化性樹脂の種類に応じて決定される。例えば、熱硬化性樹脂組成物(B)14bが熱硬化性樹脂としてアクリル樹脂を含有する場合、架橋樹脂としてはイソシアネート樹脂が好ましい。
イソシアネート樹脂としては、最下層13の説明において先に例示したイソシアネート樹脂(a2)などが挙げられる。
【0036】
熱硬化性樹脂組成物(B)14bに含まれるアクリル樹脂の架橋性官能基(例えば、OH基やCOOH基等)とイソシアネート樹脂のイソシアネート基(NCO基)との比は、当量比で架橋性官能基/NCO基=1.0/0.2〜1.0/2.0となる範囲が好ましく、1.0/0.2〜1.0/1.5となる範囲がより好ましく、1.0/0.5〜1.0/1.2となる範囲がさらに好ましい。当量比が1.0/0.2以上であれば、熱硬化性樹脂組成物(B)の架橋が十分となるため、最下層13に対する最上層14の密着性が向上するとともに、耐水性や耐薬品性も良好となる。一方、当量比が1.0/2.0以下であれば、イソシアネート基が適量となるため未反応のイソシアネート樹脂が残りにくくなり、熱硬化性樹脂組成物(B)の硬化性を良好に維持できる。熱硬化性樹脂組成物(B)の硬化性が良好であれば、熱硬化性樹脂組成物(B)の硬度が低下するのを抑制できるので、クリヤ樹脂層に加圧による圧痕が発生するのをより抑制できる。
【0037】
また、熱硬化性樹脂組成物(B)14bが熱硬化性樹脂としてポリエステル樹脂を含有する場合、架橋樹脂としてはアミノ樹脂やイソシアネート樹脂が好ましい。
イソシアネート樹脂としては、最下層13の説明において先に例示したイソシアネート樹脂(a2)などが挙げられる。
アミノ樹脂は、アミノ化合物(例えばメラミン、グアナミン、尿素など)とホルムアルデヒド(ホルマリン)とを付加反応させ、アルコールで変性した樹脂の総称であり、具体的には、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素樹脂、ブチル化尿素樹脂、ブチル化尿素メラミン樹脂、グリコールウリル樹脂、アセトグアナミン樹脂、シクロヘキシルグアナミン樹脂などがある。これらの中でも、反応速度と加工性の両面を考慮して、メラミン樹脂が好ましい。
また、メラミン樹脂は、変性するアルコールの種類によってメチル化メラミン樹脂、n−ブチル化メラミン樹脂、イソブチル化メラミン樹脂、混合アルキル化メラミン樹脂などに分類される。これらの中でも、反応性に優れ、かつ可とう性とのバランスに優れる点で、メチル化メラミン樹脂が特に好ましい。
【0038】
熱硬化性樹脂組成物(B)14bに含まれるポリエステル樹脂の架橋性官能基とイソシアネート樹脂のイソシアネート基(NCO基)との比は、当量比で架橋性官能基/NCO基=1.0/0.2〜1.0/2.0となる範囲が好ましく、1.0/0.2〜1.0/1.5となる範囲がより好ましく、1.0/0.5〜1.0/1.2となる範囲がさらに好ましい。当量比が1.0/0.2以上であれば、熱硬化性樹脂組成物(B)の架橋が十分となるため、最下層13に対する最上層14の密着性が向上するとともに、耐水性や耐薬品性も良好となる。一方、当量比が1.0/2.0以下であれば、イソシアネート基が適量となるため未反応のイソシアネート樹脂が残りにくくなり、熱硬化性樹脂組成物(B)の硬化性を良好に維持できる。熱硬化性樹脂組成物(B)の硬化性が良好であれば、熱硬化性樹脂組成物(B)の硬度が低下するのを抑制できるので、クリヤ樹脂層に加圧による圧痕が発生するのをより抑制できる。
【0039】
アミノ樹脂の含有量は、熱硬化性樹脂組成物(B)14bに含まれるポリエステル樹脂の固形分100質量部に対して、15〜50質量部が好ましく、25〜40質量部がより好ましい。アミノ樹脂の含有量が15質量部以上であれば、最上層14の架橋密度が上がるので、最下層13に対する密着性がより向上する。また、最上層14の表面硬度が十分なものとなるので、耐傷付き性が高まる。一方、アミノ樹脂の含有量が50質量部以下であれば、最上層14の柔軟性が上がる。よって、最上層14が後述する樹脂ビーズ(D)15を含有する場合、樹脂ビーズ(D)15を保持しやすくなる。また、加工による割れを抑制できる。
【0040】
熱硬化性樹脂組成物(B)14bが架橋樹脂を含有する場合、熱硬化性樹脂組成物(B)14bには熱硬化性樹脂と架橋樹脂との架橋反応を促進させるための硬化触媒がさらに含まれていてもよい。
硬化触媒は、熱硬化性樹脂組成物(B)14bに含まれる熱硬化性樹脂および架橋樹脂の種類に応じて決定される。例えば、熱硬化性樹脂組成物(B)14bがアクリル樹脂およびイソシアネート樹脂を含有する場合、硬化触媒としては有機錫触媒が好ましい。
有機錫触媒としては、最下層13の説明において先に例示した有機錫触媒などが挙げられる。
【0041】
硬化触媒の含有量は、アクリル樹脂とイソシアネート樹脂の固形分の合計100質量部に対して、0.005〜0.08質量部が好ましく、0.01〜0.06質量部がより好ましい。硬化触媒の含有量が0.005質量部以上であれば、硬化触媒の効果が十分に得られる。一方、硬化触媒の含有量が0.08質量部を超えると、単に硬化触媒の効果が頭打ちするだけでなく、反応性が過剰に高くなることによってイソシネート基(NCO基)が空気中の水分等と反応するなど、アクリル樹脂の架橋性官能基(例えば、OH基やCOOH基等)との1:1反応をかえって阻害する場合がある。その結果、耐侯性が低下するなど本来の性能を発揮できなくなる恐れがある。また、イソシアネート樹脂としてノンブロックタイプを用いた場合、塗料の反応性が極端に速くなるために、アクリル樹脂とイソシアネート樹脂とを混合した後、直ちに塗装する必要性が生じ、塗装作業性が著しく低下する。
【0042】
また、熱硬化性樹脂組成物(B)14bがポリエステル樹脂およびをアミノ樹脂含有する場合、硬化触媒としてはスルホン酸系やアミン系の硬化触媒が好ましい。特に、最上層14の表面硬度をより高める目的で、より反応性の高いスルホン酸系の硬化触媒である、p−トルエンスルホン酸やドデシルベンゼンスルホン酸を用いることが好ましい。
また、詳しくは後述するが、最上層14等を形成する際には、通常、熱硬化性樹脂組成物(B)14b等を含む塗料を調製し、この塗料を用いて最上層14を形成する。塗料の貯蔵安定性を向上させる観点から、硬化触媒としては、アミン等によって反応基が封鎖して常温下での反応を抑制されたブロック型酸触媒を用いることもできる。これらブロック型酸触媒としては、上述したスルホン酸系の硬化触媒のアミンブロックタイプなどが挙げられる。
【0043】
硬化触媒の含有量は、ポリエステル樹脂とアミノ樹脂の固形分の合計100質量部に対して、0.1〜4.0質量部が好ましい。硬化触媒の含有量が0.1質量部以上であれば、硬化触媒の効果が十分に得られる。硬化触媒の含有量が4.0質量部を超えても、硬化触媒の効果が頭打ちとなるだけでなく、塗料の貯蔵安定性が低下する場合がある。
【0044】
(他の成分)
最上層14は、紫外線吸収剤や光安定剤等の耐光性付与剤、透明性を有する有機顔料や無機顔料、各種パール顔料やアルミペースト等の光輝材、分散剤、消泡剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤、湿潤剤、潤滑剤などの添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0045】
(膜厚)
最上層14の膜厚は、3〜30μmが好ましく、10〜20μmがより好ましい。最上層14の膜厚が3μm以上であれば、生産上安定してクリヤ樹脂層12を形成でき、且つ最上層14に求められる種々の性能を十分に発揮できる。一方、最上層14の膜厚が30μm以下であれば、透明性を良好に維持できるので、意匠性により優れる。
【0046】
<樹脂ビーズ(D)>
樹脂ビーズ(D)15は、クリヤ樹脂層12に耐プレッシャーマーク性を付与する成分である。
プレッシャーマークの発生を抑制するためには、クリヤ塗装ステンレス鋼板10を複数重ねたり、長尺なクリヤ塗装ステンレス鋼板10をコイル巻き状態にしたりして保管する際(以下、これらを総称して「クリヤ塗装ステンレス鋼板の保管時」ということもある。)に、下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板10のクリヤ樹脂層12と、上側のクリヤ塗装ステンレス鋼板10のステンレス鋼板11との接触面積を小さくすることで達成できる。この接触面積を小さくするには、クリヤ樹脂層12の表面の粗度を上げればよく、クリヤ樹脂層12が樹脂ビーズ(D)15を含有していれば、クリヤ樹脂層12の表面の粗度を上げることができる。
【0047】
樹脂ビーズ(D)15の材料となる樹脂としては特に限定されないが、例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、スチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ビーズ自体の硬度が高く、また透明性を有しており、さらに上述したアクリル樹脂(a1)との相溶性に優れる点で、アクリル樹脂系のビーズ(アクリル樹脂ビーズ)が好ましい。
【0048】
樹脂ビーズ(D)15には、使用される樹脂の種類によって架橋型と非架橋型とがある。
樹脂ビーズ(D)15としては、架橋型および非架橋型のいずれも使用可能である。詳しくは後述するが、樹脂ビーズ(D)15はクリヤ樹脂層12の形成に用いる塗料に配合して用いるが、この塗料が溶剤系である場合、樹脂ビーズ(D)15には耐溶剤性が求められる。架橋型の樹脂ビーズは、塗料に添加された後、長期間貯蔵された場合においても、その形状が維持され、耐プレッシャーマーク性を付与するために必要な形状や弾性を保持し続ける。一方、非架橋型の樹脂ビーズは架橋型の樹脂ビーズに比べて耐溶剤性に劣るため、塗料に添加した初期の段階では耐プレッシャーマーク性を付与するために必要な形状や弾性を保持できるが、時間の経過とともに徐々に膨潤したり溶解したりする傾向にあり、本来の機能を損ねてしまうことがある。
よって、樹脂ビーズ(D)15としては架橋型の樹脂ビーズが好ましい。
【0049】
架橋型のアクリル樹脂ビーズの市販品としては、例えばアートパールA−400、G−200、G−400、G−600、G−800、GR−200、GR−300、GR−400、GR−600、GR−800、J−4P、J−5P、J−7P、S−5P(以上、根上工業株式会社製);テクポリマーMBX−8、MBX−12、MBX−15、MBX−30、MBX−40、MBX−50、MB20X−5、MB20X−30、MB30X−5、MB30X−8、MB30X−20、BM30X−5、BM30X−8、BM30X−12、ARX−15、ARX−30、MBP−8、ACP−8(以上、積水化成品工業株式会社製);ケミスノーMX−150、MX−180TA、MX−300、MX−500、MX−500H、MX−1000、MX−1500H、MX−2000、MX−3000、MR−2HG、MR−7HG、MR−10HG、MR−3GSN、MR−2G、MR−7G、MR−10G、MR−20G、MR−30G、MR−60G、MR−90G、MZ−10HN、MZ−12H、MZ−16H、MZ−20HN(綜研化学株式会社製);スタフィロイドAC−3355、AC−3816、AC−3832、AC−4030、AC−3364、GM−0401S、GM−0801、GM−1001、GM−2001、GM−2801、GM−4003、GM−5003、GM−9005、GM−6292(以上、ガンツ化成株式会社製)などが挙げられる。
架橋型のウレタン樹脂ビーズの市販品としては、例えばアートパールC−100、C−200、C−300、C−400、C−800、CZ−400、P−400T、P−800T、HT−400BK、U−600T、CF−600T、MT−400BR、MT−400YO(以上、根上工業株式会社製)などが挙げられる。
樹脂ビーズ(D)15は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
樹脂ビーズ(D)15の平均粒子径は、クリヤ樹脂層12の膜厚に対して0.7〜1.5倍であり、0.8〜1.2倍が好ましく、0.9〜1.1倍がより好ましい。樹脂ビーズ(D)の平均粒子径が上記範囲内であれば、樹脂ビーズ(D)15の一部がクリヤ樹脂層12の表面(最上層14側の表面)に露出しやすくなり、クリヤ塗装ステンレス鋼板10の保管時に、下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板10のクリヤ樹脂層12と、上側のクリヤ塗装ステンレス鋼板10のステンレス鋼板11との接触面積を小さくできる。しかも、露出した樹脂ビーズ(D)15が、下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板10と上側のクリヤ塗装ステンレス鋼板10との間で、支え(つっかえ棒)の役割を果たす。その結果、下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板10のクリヤ樹脂層12に圧力が加わっても、支えとなっている樹脂ビーズ(D)15によりクリヤ樹脂層12が変形するのを抑制できる。すなわち、クリヤ樹脂層12に圧痕が残りにくく、耐プレッシャーマーク性が向上する。樹脂ビーズ(D)15の平均粒子径がクリヤ樹脂層12の膜厚に対して0.7倍以上であれば、樹脂ビーズ(D)15の一部がクリヤ樹脂層12の表面に露出しやすくなり、上記接触面積を小さくできる。特に、樹脂ビーズ(D)15の平均粒子径がクリヤ樹脂層12の膜厚に対して0.9倍以上であれば、クリヤ樹脂層12に加わる圧力による樹脂ビーズ(D)15の沈み込みが抑制される。よって、樹脂ビーズ(D)が支えとしての役割を十分に発揮でき、クリヤ樹脂層12の変形がさらに抑制され、耐プレッシャーマーク性がより向上する。一方、樹脂ビーズ(D)15の平均粒子径がクリヤ樹脂層12の膜厚に対して1.5倍以下であれば、樹脂ビーズ(D)15がクリヤ樹脂層12の表面に過剰に露出するのを抑制でき、クリヤ樹脂層12の表面のザラツキが抑えられる。また、クリヤ樹脂層12の外観も良好に維持できる。
樹脂ビーズ(D)15の平均粒子径は、レーザー回折散乱法によって測定された値である。
【0051】
樹脂ビーズ(D)15は、平均粒子径が上記範囲内を維持しつつ、クリヤ樹脂層12中に存在していれば、最下層13、最上層14のいずれに含まれていてもよい。上述したように、樹脂ビーズ(D)15はクリヤ塗装ステンレス鋼板10の保管時の上記接触面積を小さくする他、クリヤ樹脂層12に圧力が加わったときにクリヤ樹脂層12が変形するのを抑制する役割も果たす。このクリヤ樹脂層12の変形を抑制する効果(変形抑制効果)を十分に発現させて耐プレッシャーマーク性をより向上させるには、樹脂ビーズ(D)15は少なくとも最下層13に含まれていることが好ましく、最下層13と最上層14の両方に含まれていることがより好ましい。これにより、クリヤ樹脂層12に加わる圧力による樹脂ビーズ(D)15の沈み込みが抑制され、樹脂ビーズ(D)が支えとしての役割を十分に発揮できる。また、変形抑制効果をより高めるには、最下層13に含まれる樹脂ビーズ(D)15の少なくとも一部は、ステンレス鋼板11に接していることが好ましい。樹脂ビーズ(D)15の少なくとも一部がステンレス鋼板11に接していれば、ステンレス鋼板11が支えとなり、クリヤ樹脂層12に加わる圧力による樹脂ビーズ(D)15の沈み込みを効果的に抑制でき、その結果、変形抑制効果がより高まり、耐プレッシャーマーク性をさらに向上する。
【0052】
なお、樹脂ビーズ(D)15が最下層13と最上層14の両方に含まれている場合、最下層13と最上層14とで同じ樹脂ビーズ(D)15を共有していてもよいし、各層毎に異なる平均粒子径の樹脂ビーズ(D)15が含まれていてもよい。最下層13と最上層14とで同じ樹脂ビーズ(D)15を共有させるには、詳しくは後述するが、樹脂ビーズ(D)15を含有する塗料を用い、該樹脂ビーズ(D)15の平均粒子径よりも膜厚の薄い最下層13を形成し、該最下層13上に最上層14を形成すればよい。この方法であれば、最上層14を形成する塗料に樹脂ビーズ(D)15を配合する手間が省け、製造コストも削減できる。しかも、樹脂ビーズ(D)15がステンレス鋼板11に接しやすくなる。
また、各層毎に異なる平均粒子径の樹脂ビーズ(D)15が含まれている場合、少なくとも一方の層に含まれる樹脂ビーズ(D)15の平均粒子径がクリヤ樹脂層12の膜厚に対して0.7〜1.5倍であればよい。特に、最下層13に含まれる樹脂ビーズ(D)15の平均粒子径がクリヤ樹脂層12の膜厚に対して0.7〜1.5倍であることが好ましい。このとき、最上層14に含まれる樹脂ビーズ(D)15の平均粒子径は、クリヤ樹脂層12の表面のザラツキを抑える観点から、最上層14の膜厚に対して1.5倍以下が好ましく、1.0倍以下がより好ましい。
【0053】
クリヤ樹脂層12中の樹脂ビーズ(D)15の含有量は、熱硬化性樹脂組成物(A)13aの固形分100質量部に対して、0.2〜5.0質量部が好ましく、0.5〜3.0質量部がより好ましい。樹脂ビーズ(D)15の含有量が0.2質量部以上であれば、耐プレッシャーマーク性がより向上する。一方、樹脂ビーズ(D)15の含有量が5.0質量部以下であれば、クリヤ樹脂層12の透明性や、クリヤ塗装ステンレス鋼板10の光沢が低下するのを抑制でき、意匠性を良好に維持できる。また、クリヤ樹脂層12の可撓性が低下するのを抑制でき、クリヤ塗装ステンレス鋼板10の加工性を良好に維持できる。
【0054】
<クリヤ塗装ステンレス鋼板の製造方法>
本実施形態のクリヤ塗装ステンレス鋼板10は、ステンレス鋼板11上に最下層13を形成した後、該最下層13上に最上層14を形成すること(クリヤ樹脂層形成工程)で得られる。
なお、ステンレス鋼板11上に最下層13を形成するに先立ち、上述したようにステンレス鋼板11を化成処理することが好ましい(化成処理膜形成工程)。
【0055】
(化成処理膜形成工程)
化成処理膜形成工程は、ステンレス鋼板11の少なくとも一方の面(最下層13が形成される側の面)に化成処理液を塗装し、乾燥させて化成処理膜を形成する工程である。
化成処理液には、クロメートタイプとノンクロメートタイプがあるが、環境に対する配慮の観点からノンクロメートタイプが好ましい。
ノンクロメートタイプの化成処理液は、カップリング剤と、水または溶剤等の溶媒と、必要に応じて架橋剤や液状防錆剤とを含むものである。
化成処理液に用いられるカップリング剤としては、環境問題を考慮してノンクロメートが好ましく、具体的にはN−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン系カップリング剤;2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシシラン系カップリング剤などが挙げられる。
これらカップリング剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
化成処理液に用いられる溶剤としては特に限定されず、例えばトルエン、キシレン、ベンゼン、シクロヘキサン、ヘキサン等の炭化水素;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル化合物;ジエチルエーテル等のエーテル化合物;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒などが挙げられる。
これら溶剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0057】
化成処理は、化成処理液を付着量が2〜50mg/m(蛍光X線にてSiO量を測定)になるようにステンレス鋼板11の表面に塗装し、乾燥することで行われる。
化成処理液の塗装方法としては、スプレー、ロールコート、バーコート、カーテンフローコート、静電塗布等の方法を用いることができる。
化成処理液の乾燥は、ステンレス鋼板11に塗装された化成処理液中の溶媒を蒸発させればよく、その温度はステンレス鋼板11の素材最高到達温度(PMT)が60〜140℃程度が適当である。
なお、化成処理を行うに際し、必要に応じてアルカリ脱脂や酸、アルカリによるエッチング等の公知の前処理をステンレス鋼板11の表面に施してもよい。
【0058】
(クリヤ樹脂層形成工程)
クリヤ樹脂層形成工程は、最下層形成工程と、最上層形成工程とを有する。
最下層形成工程は、ステンレス鋼板11またはステンレス鋼板11の表面に形成された化成処理膜上に、最下層形成用塗料(以下、「塗料(A)」ともいう。)を塗装し、硬化させて最下層13を形成する工程である。
塗料(A)は、熱硬化性樹脂組成物(A)と、溶剤と、必要に応じて耐光性付与剤等の添加剤とを含むものである。また、樹脂ビーズ(D)15を含む最下層13を形成するには、塗料(A)に樹脂ビーズ(D)15を配合する。
塗料(A)に用いられる溶剤としては、化成処理液の説明において先に例示した溶剤が挙げられる。
【0059】
塗料(A)の塗装方法としては、化成処理液の塗装方法と同様の方法が挙げられる。
塗料(A)を塗装した後の硬化条件は、ステンレス鋼板11の素材最高到達温度(PMT)にして200〜270℃となるように加熱することが好ましく、より好ましくは210〜250℃である。素材最高到達温度が200℃未満であると、硬化反応が十分に進まず、最下層13の表面硬度が低下するだけでなく、ステンレス鋼板11と最下層13との密着性が低下することがある。一方、素材最高到達温度が270℃を超えると、最下層13の柔軟性が低下しやすくある。加えて、クリヤ塗装ステンレス鋼板10が黄変して意匠性を低下させることがある。
【0060】
最上層形成工程は、最下層13上に、最上層形成用塗料(以下、「塗料(B)」ともいう。)を塗装し、硬化させて最上層14を形成する工程である。
塗料(B)は、熱硬化性樹脂組成物(B)と、溶剤と、必要に応じて耐光性付与剤等の添加剤とを含むものである。また、樹脂ビーズ(D)15を含む最上層14を形成するには、塗料(B)に樹脂ビーズ(D)15を配合する。ただし、樹脂ビーズ(D)15を含む最下層13を形成する際に、樹脂ビーズ(D)15の平均粒子径よりも膜厚が薄くなるように最下層13を形成しておけば、最下層13の表面に樹脂ビーズ(D)15が露出することになる。最上層14は、この樹脂ビーズ(D)15が露出した最下層13上に塗料(B)を塗装して形成されるので、塗料(B)に樹脂ビーズ(D)15を配合しなくても、樹脂ビーズ(D)15を含む最上層14が得られる。この場合、最下層13と最上層14とで同じ樹脂ビーズ(D)15を共有することになる。
塗料(B)に用いられる溶剤としては、化成処理液の説明において先に例示した溶剤が挙げられる。
塗料(B)の塗装方法、および塗料(B)の塗装した後の硬化条件は、塗料(A)と同様である。
【0061】
<作用効果>
以上説明した本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板によれば、クリヤ樹脂層が多層構造であり、クリヤ樹脂層の最下層が上述した熱硬化性樹脂組成物(A)を含むので、ステンレス鋼板との密着性に優れる。また、クリヤ樹脂層が特定の平均粒子径を有する樹脂ビーズ(D)を含むので、耐プレッシャーマーク性に優れる。耐プレッシャーマーク性に優れる理由は以下のように考えられる。
クリヤ樹脂層が特定の平均粒子径を有する樹脂ビーズ(D)を含むことで、上述したように、樹脂ビーズ(D)の一部がクリヤ樹脂層の表面(最上層側の表面)に露出しやすくなる。その結果、クリヤ塗装ステンレス鋼板の保管時に、下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板10のクリヤ樹脂層12と、上側のクリヤ塗装ステンレス鋼板10のステンレス鋼板11との接触面積を小さくする。また、クリヤ樹脂層12に圧力が加わっても、樹脂ビーズ(D)15が支えとなりクリヤ樹脂層12が変形するのを抑制できる。すなわち、クリヤ樹脂層12に圧痕が残りにくい。よって、耐プレッシャーマーク性が向上するものと考えられる。
【0062】
特に、樹脂ビーズ(D)が少なくとも最下層に含まれていれば、より好ましくは最下層と最上層の両方に含まれていれば、クリヤ樹脂層に加わる圧力による樹脂ビーズ(D)の沈み込みを抑制でき、クリヤ樹脂層に圧力が加わってもクリヤ樹脂層が変形するのをより抑制でき、耐プレッシャーマーク性がより向上する。さらに樹脂ビーズ(D)の少なくとも一部がステンレス鋼板に接していれば、ステンレス鋼板が支えとなり、樹脂ビーズ(D)の沈み込みをより抑制できる。その結果、クリヤ樹脂層の変形抑制効果がより高まり、耐プレッシャーマーク性がさらに向上する。
【0063】
また、本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板のクリヤ樹脂層は多層構造であるため、クリヤ塗装ステンレス鋼板の用途に応じて耐プレッシャーマーク性以外の機能も容易に付与できる。例えば、最上層に耐光性付与剤を含有させれば、耐光性にも優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板が得られる。
近年、家電等はより高い機能性が要求されることが多く、クリヤ塗装ステンレス鋼板に対しても同様に、複数の機能を有するなどの高い機能性が求められている。本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板であれば、異なる機能(例えば耐プレッシャーマーク性と耐光性など)を付与できるので、付加価値の高い商品として提供できる。
【0064】
<用途>
本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板は、家庭用や業務用の電化製品、電子機器製品の筐体や内装材、表装材として好適に使用される。
【0065】
<他の実施形態>
本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板は、上述したものに限定されない。図1に示すクリヤ塗装ステンレス鋼板10は、2層構造のクリヤ樹脂層12を備えているが、最下層13と最上層14との間に1層以上の他の層(中間層)が積層された3層以上のクリヤ樹脂層を備えたものでもよい。
【0066】
また、図1に示すクリヤ塗装ステンレス鋼板10は、ステンレス鋼板11の一方の面にクリヤ樹脂層12が形成されているが、ステンレス鋼板11の他方の面にもクリヤ樹脂層が形成されていてもよい。以下、ステンレス鋼板11の一方の面に形成されたクリヤ樹脂層12を「第一のクリヤ樹脂層」といい、ステンレス鋼板11の他方の面に形成されたクリヤ樹脂層を「第二のクリヤ樹脂層」という。また、第一のクリヤ樹脂層が形成されている側のステンレス鋼板の面を「ステンレス鋼板の表面」といい、第二のクリヤ樹脂層が形成されている側のステンレス鋼板の面を「ステンレス鋼板の裏面」という。
【0067】
上述したように、プレッシャーマークは鋼板の巻取り時等の圧力により発生するものであるが、クリヤ塗装ステンレス鋼板が第二のクリヤ樹脂層をさらに備えていれば、プレッシャーマークをより効果的に改善できる。かかる理由は以下のように考えられる。
ステンレス鋼板の裏面に第二のクリヤ樹脂層が形成されていない場合、クリヤ塗装ステンレス鋼板の保管時に、下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板の第一のクリヤ樹脂層が上側のクリヤ塗装ステンレス鋼板のステンレス鋼板に直接接することになる。一方、ステンレス鋼板の裏面に第二のクリヤ樹脂層が形成されていれば、下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板の第一のクリヤ樹脂層は、上側のクリヤ塗装ステンレス鋼板の第二のクリヤ樹脂層と接することになる。第二のクリヤ樹脂層はステンレス鋼板よりも柔らかく、下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板の第一のクリヤ樹脂層と、上側のクリヤ塗装ステンレス鋼板の第二のクリヤ樹脂層との硬度差が小さくなる。よって、下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板の第一のクリヤ樹脂層に加わる圧力を緩和することができ、プレッシャーマークの発生をより抑制できる。
【0068】
第二のクリヤ樹脂層は、単層構造であってもよいし、多層構造であってもよい。ここでは、単層構造の第二のクリヤ樹脂層について説明する。
第二のクリヤ樹脂層は、熱硬化性樹脂組成物(F)を含む層である。熱硬化性樹脂組成物(F)に含まれる樹脂としては、ステンレス鋼板に対して密着性を有する樹脂であれば特に限定されないが、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。また、熱硬化性樹脂組成物(F)は、これら熱硬化性樹脂を硬化させる架橋樹脂を含んでいてもよい。架橋樹脂としては、最上層14の説明において先に例示した架橋樹脂が挙げられる。
【0069】
第二のクリヤ樹脂層には、樹脂ビーズ(D)が含まれていることが好ましい。第二のクリヤ樹脂層が樹脂ビーズ(D)を含んでいれば、耐プレッシャーマーク性がより向上する。
第二のクリヤ樹脂層に含まれる樹脂ビーズ(D)の平均粒子径は、第二のクリヤ樹脂層の膜厚に対して0.7〜5.0倍が好ましく、1.0〜3.0倍がより好ましい。樹脂ビーズ(D)の平均粒子径が第二のクリヤ樹脂層の膜厚に対して0.7倍以上であれば、樹脂ビーズ(D)の一部が第二のクリヤ樹脂層の表面に露出しやすくなる。よって、クリヤ塗装ステンレス鋼板の保管時に、下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板の第一のクリヤ樹脂層と、上側のクリヤ塗装ステンレス鋼板の第二のクリヤ樹脂層との接触面積を小さくできる。一方、樹脂ビーズ(D)の平均粒子径が第二のクリヤ樹脂層の膜厚に対して5.0倍以下であれば、樹脂ビーズ(D)が第二のクリヤ樹脂層の表面に過剰に露出するのを抑制できる。よって、クリヤ塗装ステンレス鋼板の保管時に、下側のクリヤ塗装ステンレス鋼板の第一のクリヤ樹脂層に、上側のクリヤ塗装ステンレス鋼板の第二のクリヤ樹脂層に含まれる樹脂ビーズ(D)による凹凸痕が残りにくくなる。
第二のクリヤ樹脂層に含まれる樹脂ビーズ(D)としては、第一のクリヤ樹脂層の説明において先に例示した樹脂ビーズ(D)が挙げられる。
【0070】
第二のクリヤ樹脂層の膜厚としては特に制限されないが、第二のクリヤ樹脂層側にも意匠性が求められる場合には、20μm以下が好ましい。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
なお、実施例13は参考例である。
【0072】
「熱硬化性樹脂組成物(A)の調製」
<熱硬化性樹脂組成物(A−1)の調製>
温度計、還流冷却器、攪拌器、滴下ロート、窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコにトルエン25質量部と、酢酸ブチル24質量部とを投入し、110℃まで昇温し窒素ガスを吹き込みながら攪拌し、メタアクリル酸メチル16質量部、スチレン5質量部、メタアクリル酸n−ブチル19.5質量部、メタアクリル酸2−ヒドロキシエチル9質量部、アクリル酸メチル0.5質量部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1質量部からなる原料の混合物を3時間かけて滴下し、滴下終了後さらにAIBNを追加して同温度でさらに3時間反応させることにより、不揮発分50質量%のアクリル系共重合体(アクリル樹脂(a1−1))を得た。このアクリル樹脂(a1−1)100質量部をキシレン60質量部に溶解させ、アクリル樹脂溶液(a1−2)を得た。
【0073】
得られたアクリル樹脂溶液(a1−2)と、イソシアネート樹脂溶液(a2)としてブロックタイプのイシシアネート樹脂溶液(住化バイエルウレタン株式会社製、「デスモジュールVPLS2253」、NCO基含有率10.5%)とを、アクリル樹脂溶液(a1−2)のヒドロキシ基(OH基)と、イソシアネート樹脂溶液(a2)のイソシアネート基(NCO基)との比が、当量比でOH基/NCO基=1/1となるように混合し、熱硬化性樹脂組成物(A−1)を得た。
【0074】
「熱硬化性樹脂組成物(B)の調製」
<熱硬化性樹脂組成物(B−1)の調製>
ポリエステル樹脂溶液(三井化学株式会社製、「アルマテックスP−646」)100質量部と、メチル化メラミン樹脂溶液(三井サイテック株式会社製、「サイメル303」)15質量部とを混合し、熱硬化性樹脂組成物(B−1)を得た。
【0075】
<熱硬化性樹脂組成物(B−2)の調製>
熱硬化性樹脂組成物(A−1)の調製と同様にして得られたアクリル樹脂溶液(a1−2)と、イソシアネート樹脂溶液としてブロックタイプのイシシアネート樹脂溶液(住化バイエルウレタン株式会社製、「デスモジュールVPLS2253」、NCO基含有率10.5%)とを、アクリル樹脂溶液(a1−2)のヒドロキシ基(OH基)と、イソシアネート樹脂溶液のイソシアネート基(NCO基)との比が、当量比でOH基/NCO基=1/1となるように混合し、熱硬化性樹脂組成物(B−2)を得た。
【0076】
<熱硬化性樹脂組成物(B−3)の調製>
ポリエステル樹脂溶液(日本ポリウレタン工業株式会社製、「ニッポラン121E」)と、イソシアネート樹脂溶液としてブロックタイプのイシシアネート樹脂溶液(住化バイエルウレタン株式会社製、「デスモジュールVPLS2253」、NCO基含有率10.5%)とを、ポリエステル樹脂溶液の架橋性官能基(OH基、COOH基)の合計と、イソシアネート樹脂溶液のイソシアネート基(NCO基)との比が、当量比で架橋性官能基/NCO基=1/1となるように混合し、熱硬化性樹脂組成物(B−3)を得た。
【0077】
「熱硬化性樹脂組成物(F)の調製」
<熱硬化性樹脂組成物(F−1)の調製>
エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂溶液(三井化学株式会社製、「エポキー803」)100質量部と、メチル化メラミン樹脂溶液(三井サイテック株式会社製、「サイメル703」)20質量部とを混合し、熱硬化性樹脂組成物(F−1)を得た。
【0078】
「樹脂ビーズ(D)」
樹脂ビーズ(D)として、以下に示す化合物を用いた。
・D−1:架橋型のアクリル樹脂ビーズ(積水化成品工業株式会社製、「テクポリマーMBX−15」、平均粒子径15μm)
・D−2:架橋型のアクリル樹脂ビーズ(綜研化学株式会社製、「ケミスノーMX−2000」、平均粒子径20μm)
・D−3:架橋型のアクリル樹脂ビーズ(根上工業株式会社製、「アートパールGR−200透明」、平均粒子径25μm)
・D−4:架橋型のアクリル樹脂ビーズ(株式会社日本触媒製、「エポスターMA1010」、平均粒子径10μm)
・D−5:架橋型のアクリル樹脂ビーズ(綜研化学株式会社製、「ケミスノーMX−500」、平均粒子径5μm)
・D−6:架橋型のアクリル樹脂ビーズ(積水化成品工業株式会社製、「テクポリマーBX−30」、平均粒子径30μm)
・D−7:架橋型のアクリル樹脂ビーズ(ガンツ化成株式会社製、「ガンツパールGM−5003」、平均粒子径50μm)
・D−8:架橋型のアクリル樹脂ビーズ(綜研化学株式会社製、「ケミスノーMR−2G」、平均粒子径1μm)
・D−9:非架橋型のアクリル樹脂ビーズ(松本油脂製薬株式会社製、「マツモトマイクロスフェアーM−100」、平均粒子径20μm)
・D−10:架橋型のウレタン樹脂ビーズ(根上工業株式会社製、「アートパールC300透明」、平均粒子径20μm)
・D−11:非架橋型のウレタン樹脂ビーズ(DIC株式会社製、「バーノックCFB620−40」、平均粒子径20μm)
【0079】
「実施例1」
<塗料の調製>
熱硬化性樹脂組成物(A−1)を固形分換算で100質量部と、樹脂ビーズ(D−1)を固形分換算で1質量部とを混合し、最下層形成用塗料(塗料(A))を調製した。
別途、熱硬化性樹脂組成物(B−1)を最上層形成用塗料(塗料(B))として用いた。
【0080】
<クリヤ塗装ステンレス鋼板の製造>
(化成処理膜形成工程)
ステンレス鋼板としては、SUS430/No.4研磨仕上げ材を用いた。
このステンレス鋼板上にノンクロメートの化成処理液をロールコーターにて蛍光X線にてSiOが2〜10mg/mになるように塗装し、素材最高到達温度(PMT)が100℃になるよう乾燥させ、化成処理膜を形成した。
【0081】
(クリヤ樹脂層形成工程)
ステンレス鋼板の化成処理膜上に、塗料(A)を乾燥後の膜厚が10μmとなるようにバーコーターにて塗装し、素材最高到達温度(PMT)が210℃になるように乾燥させて、最下層を形成した。
ついで、最下層上に、塗料(B)を乾燥後の膜厚が10μmとなるようにバーコーターにて塗装し、素材最高到達温度が232℃になるように乾燥させて、最上層を形成し、ステンレス鋼板の一方の面(表面)に、最下層および最上層からなるクリヤ樹脂層が形成されたクリヤス塗装テンレス鋼板を得た。
得られたクリヤ塗装ステンレス鋼板について、以下の評価方法に基づき、密着性、加工性、耐プレッシャーマーク性、樹脂ビーズの経時安定性、および外観を調べた。結果を表1に示す。
【0082】
<測定・評価>
(1)密着性の評価
JIS K 5600−5−6/付着性(クロスカット法)に従って、ステンレス鋼板に対するクリヤ樹脂層の密着性を以下の評価基準にて評価した。
5:カットの交差点を含めて、剥離は全く見られない。
4:カットの交差点や縁にごく僅かな剥離が見られる。
3:カットの交差点や縁から、マス目の2割近くが剥離する。
2:カットの縁に沿って大きく欠け、マス目の5割近くが剥離する。
1:カットした部分が全面的に剥離する。
【0083】
(2)加工性の評価
被試験体として、矩形状のクリヤ塗装ステンレス鋼板を用意した。該クリヤ塗装ステンレス鋼板において、その長手方向の中央を境界とした片側を、クリヤ塗装ステンレス鋼板と同じ厚みの2枚の板で挟んだ。次いで、クリヤ塗装ステンレス鋼板を長手方向の中央を折り曲げ部として180度折り曲げて、折り曲げたクリヤ塗装ステンレス鋼板と2枚の板とを重ね合せ、万力でしっかりと締めた。
これにより伸ばされた加工箇所のクラックの程度を30倍ルーペで拡大して目視観察し、以下の評価基準にて加工性を評価した。
5:加工箇所にクラックは見られない。
4:加工箇所に微細なクラックが数箇所見られる。
3:加工箇所に小さなクラックが多数目視確認できる。
2:加工箇所に小さなクラックと合わせて大きなクラックも確認できる。
1:加工箇所に大きなクラックが多数入り、塗膜がめくれ上がっている。
【0084】
(3)耐プレッシャーマーク性の評価
クリヤ塗装ステンレス鋼板を単重2tのステンレスコイルに巻き付けて1週間放置した。放置後のクリヤ塗装ステンレス鋼板を目視にて観察し、以下の評価基準にて耐プレッシャーマーク性を評価した。
5:プレッシャーマークの発生は見られない。
4:僅かなプレッシャーマークが確認できるが、1日以内で消失する。
3:僅かなプレッシャーマークが確認でき、消失しない。
2:強いプレッシャーマークが確認できる。
1:極めて著しいプレッシャーマークが発生し、ブロッキングも発生している。
【0085】
(4)樹脂ビーズの経時安定性の評価
樹脂ビーズの経時安定性は、熱硬化性樹脂組成物に樹脂ビーズを添加して塗料を調製した直後に硬化・乾燥させた塗膜(塗膜α)と、熱硬化性樹脂組成物に樹脂ビーズを添加して塗料を調製した後、一定期間を経た後に硬化・乾燥させた塗膜(塗膜β)のそれぞれに対して、(3)と同様にして耐プレッシャーマーク性の評価を行い、塗膜αと比較して塗膜βの耐プレッシャーマーク性が低下したかどうかを確認し、以下の評価基準にて樹脂ビーズの経時安定性を評価した。
5:熱硬化性樹脂組成物に樹脂ビーズを添加した後、1ヶ月以上経過した後に硬化・乾燥させた塗膜でも耐プレッシャーマーク性に変化がない。
4:熱硬化性樹脂組成物に樹脂ビーズを添加した後、1ヶ月以上経過した後に硬化・乾燥させた塗膜では耐プレッシャーマーク性がわずかに低下していることが確認された。
3:熱硬化性樹脂組成物に樹脂ビーズを添加した後、2週間以上1ヶ月未満経過した後に硬化・乾燥させた塗膜において耐プレッシャーマーク性が低下した。
2:熱硬化性樹脂組成物に樹脂ビーズを添加した後、1週間以上2週間未満経過した後に硬化・乾燥させた塗膜において耐プレッシャーマーク性が低下した。
1:熱硬化性樹脂組成物に樹脂ビーズを添加した後、1週間未満経過した後に硬化・乾燥させた塗膜において耐プレッシャーマーク性が低下した。
【0086】
(5)外観の評価
(5−1)クリヤ樹脂層のザラツキ感
クリヤ樹脂層の表面(最上層側の表面)のザラツキ感を目視等にて観察し、以下の評価基準にてザラツキ感を評価した。
5:全くザラツキ感はない。
4:至近距離で感じる程度の僅かなザラツキ感がある。
3:僅かにザラツキ感があり、触感としても僅かに認識できる。
2:はっきりとしたザラツキ感があり、触感としても明らかに認識できる。
1:全く艶がない。
【0087】
(5−2)クリヤ樹脂層の白濁感
クリヤ樹脂層の外観を目視にて観察し、以下の評価基準にて外観を評価した。
5:照度条件に関係なく、全く白濁感はない。
4:1500lx超の照度下で観察したときのみ、白濁が確認できる。
3:300〜1500lxの照度下で白濁が確認できる。
2:300lx未満の照度下でも白濁が確認できる。
1:照度条件に関係なく、極めて強い白濁が確認できる。
【0088】
「実施例2〜10、13〜28、比較例1〜5、7、8、10、11、13」
表1〜5に示す構成の最下層および最上層となるように、塗料(A)および塗料(B)を調製し、得られた塗料(A)および塗料(B)を用いた以外は、実施例1と同様にしてクリヤ塗装ステンレス鋼板を製造し、各種測定・評価を行った。結果を表1〜5に示す。なお、実施例7、8は塗料(A)について樹脂ビーズの経時安定性を評価し、実施例28、比較例13については塗料(B)について樹脂ビーズの経時安定性を評価した。
【0089】
「実施例11、比較例6、9、12」
表2、4、5に示す構成の最下層および最上層となるように、塗料(A)および塗料(B)を調製し、得られた塗料(A)および塗料(B)を用いた以外は、実施例1と同様にしてステンレス鋼板の一方の面(表面)に、最下層および最上層からなるクリヤ樹脂層(第一のクリヤ樹脂層)を形成した。
ついで、熱硬化性樹脂組成物(F−1)を乾燥後の膜厚が5μmとなるようにステンレス鋼板の裏面にバーコーターにて塗装し、素材最高到達温度が232℃になるように乾燥させて、第二のクリヤ樹脂層を形成し、ステンレス鋼板の両面にクリヤ樹脂層が形成されたクリヤ塗装ステンレス鋼板を得た。
得られたクリヤ塗装ステンレス鋼板について、実施例1と同様にして各種測定・評価を行った。結果を表2、4、5に示す。
【0090】
「実施例12」
熱硬化性樹脂組成物(F−1)を固形分換算で100質量部と、樹脂ビーズ(D−5)を固形分換算で1質量部とを混合したものをステンレス鋼板の裏面に塗装した以外は、実施例11と同様にしてステンレス鋼板の両面にクリヤ樹脂層が形成されたクリヤ塗装ステンレス鋼板を得た。
得られたクリヤ塗装ステンレス鋼板について、実施例1と同様にして各種測定・評価を行った。結果を表2に示す。なお、実施例12は塗料(A)について樹脂ビーズの経時安定性を評価した。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
【0094】
【表4】
【0095】
【表5】
【0096】
なお、表1〜5中の熱硬化性樹脂組成物(A)、(B)、(F)、および樹脂ビーズ(D)の量は、固形分量(質量部)である。
また、「樹脂ビーズ(D)の平均粒子径[倍]」とは、樹脂ビーズ(D)の平均粒子径をクリヤ樹脂層の膜厚に対する倍率で求めたものである。なお、最下層と最上層の両方に樹脂ビーズ(D)が含まれている場合(実施例7、8)、最下層に含まれる樹脂ビーズ(D)の平均粒子径[倍]/最上層に含まれる樹脂ビーズ(D)の平均粒子径[倍]として記載した。また、実施例12は第一のクリヤ樹脂層に含まれる樹脂ビーズ(D)の平均粒子径[倍]のみ記載した。
【0097】
表1〜5の結果より、各実施例で得られたクリヤ塗装ステンレス鋼板は、耐プレッシャーマーク性に優れていた。また、ステンレス鋼板に対するクリヤ樹脂層の密着性にも優れていた。中でも、樹脂ビーズ(D)が最下層に含まれる実施例1〜27のクリヤ塗装ステンレス鋼板は、耐プレッシャーマーク性に特に優れていた。また、架橋型の樹脂ビーズ(D)は、非架橋型の樹脂ビーズ(D)よりも経時安定性に優れていた。
一方、樹脂ビーズ(D)の平均粒子径がクリヤ樹脂層の膜厚の0.05倍、0.5倍、2.5倍のいずれかである各比較例のクリヤ塗装ステンレス鋼板は、耐プレッシャーマーク性に劣っていた。
【符号の説明】
【0098】
10 クリヤ塗装ステンレス鋼板
11 ステンレス鋼板
12 クリヤ樹脂層
13 最下層
13a 熱硬化性樹脂組成物(A)
14 最上層
14b 熱硬化性樹脂組成物(B)
15 樹脂ビーズ(D)
図1