特許第6274957号(P6274957)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6274957斜角超音波探触子のカップリングモニタ方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6274957
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】斜角超音波探触子のカップリングモニタ方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/28 20060101AFI20180129BHJP
   G01N 29/07 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   G01N29/28
   G01N29/07
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-88234(P2014-88234)
(22)【出願日】2014年4月22日
(65)【公開番号】特開2015-206717(P2015-206717A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2016年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100061745
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】和佐 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】福井 利英
【審査官】 田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−261858(JP,A)
【文献】 特開昭59−102158(JP,A)
【文献】 特開2001−056318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状の被検査材を周方向に斜角超音波探触子で探傷するに際して、前記斜角超音波探触子のカップリング状態をモニタする方法であって、
同一構造を有する2つの斜角超音波探触子を、並列で、且つ超音波の送受信方向が前記被検査材の周方向に沿って互いに反対向きになるよう配備し、
前記2つの斜角超音波探触子のうち、一方の斜角超音波探触子が超音波を送信し、他方の斜角超音波探触子が被検査材内部を周回してきた超音波を受信し、
前記他方の斜角超音波探触子にて受信された超音波の強度を基に、前記一方の斜角超音波探触子のカップリング状態を検出し、かつ斜角超音波入力後の幾何学的計算から算出された時間前後において、高強度の周回エコーが観測された場合、一方の斜角超音波探触子と被検査材とのカップリング状態が良好であると判断する
ことを特徴とする斜角超音波探触子のカップリングモニタ方法。
【請求項2】
前記2つの斜角超音波探触子のそれぞれは、交互に超音波の送信を行うものとされ、
前記一方の斜角超音波探触子が超音波を送信した際には、前記他方の斜角超音波探触子が超音波を受信すると共に、前記一方の斜角超音波探触子のカップリングモニタとして機能し、
前記他方の斜角超音波探触子が超音波を送信した際には、前記一方の斜角超音波探触子が超音波を受信すると共に、前記他方の斜角超音波探触子のカップリングモニタとして機能する
ことを特徴とする請求項1に記載の斜角超音波探触子のカップリングモニタ方法。
【請求項3】
前記被検査材の周方向に沿って配備された前記2つの斜角超音波探触子の配備位置を、当該被検査材の周方向に沿って調整可能にしておき、
前記一方の斜角超音波探触子が発射した超音波を、他方の斜角超音波探触子が受信可能となるように、前記2つの斜角超音波探触子の配備位置を調整し、
前記他方の斜角超音波探触子にて受信された超音波の強度を基に、前記一方の斜角超音波探触子のカップリング状態を検出する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の斜角超音波探触子のカップリングモニタ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円柱状の被検査材を斜角超音波探傷にて探傷する際に用いられる斜角超音波探触子のカップリング状況をモニタする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波探傷法は、機械部品や構造物など検査対象の内部に存在するクラックやボイドなどの物理的な欠陥、及び金属組織的な欠陥(以上合わせて単に欠陥と呼ぶ)を、検査対象を破壊することなく検出する非破壊検査の一手法として広く知られる技術である。
このような超音波探傷法には、その利用する超音波モードによって、垂直探傷法、斜角探傷法、表面波探傷法などの手法が存在する。例えば、垂直探傷法は、被検査材の表面に対して垂直(法線)方向に縦波超音波を入射し、被検査材の内部に存在する欠陥からの反射(エコー)を観測することで欠陥の有無を検査する手法である。
【0003】
一方、斜角探傷法は、被検査材の表面に対して45°や60°など予め入射角度を付けた横波超音波を入射し、被検査材の内部に存在する欠陥からの反射エコーを超音波探触子で観測することで欠陥の有無を検査する手法である。
上記した超音波探傷法では、水、油、グリセリンなどの接触媒質と呼ばれる液体を被検査材の外表面と超音波探触子の間に塗布し、その接触媒質が塗布された被検査材の外表面に倣うように、超音波探触子の探傷面(音波の送受信面)を配置している。
【0004】
ところが、まれに接触媒質自身に何らかの問題が発生したりや、超音波探触子の探傷面と接触媒質が塗布された被検査材の外表面とが確実に接触していなかったりといった問題が発生し、超音波探触子が被検査材に対して超音波を送信することができないことがある。そのため、欠陥検査ができないという問題が発生するおそれがある。
超音波探傷法を用いて被検査材の欠陥検査を行う場合、超音波探触子からの超音波が被検査材に十分に入射されていないと、エコーが観測されないこととなり、その被検査材には欠陥が存在しない、言い換えると、その被検査材は、不良品であるにも拘わらず良品であるとされてしまうこともありうる。
【0005】
このことから、検査品質の精度向上という観点で、超音波が被検査材に対して正常に入射されていることを超音波探傷法において保証できるようにする方法、すなわち超音波探触子と被検査材とが、確実に接触していることを判断する方法(以降、カップリングモニタ方法と呼ぶ)が必要となる。
例えば、垂直探傷法を用いて平板形状の被検査材を欠陥検査する場合、被検査材の底面(超音波探触子が接触している面と反対側の面)などからの反射されたエコーが常に観測されるので、この反射されたエコーの受信レベルをモニタリングすることで、カップリングモニタとすることができる。
【0006】
一方で、斜角探傷法を用いて被検査材を検査する場合には、発射された超音波を常に反射する面が存在せず、カップリング状況を正確に把握することが困難であった。
そこで、超音波探触子のカップリング状況を正確に知るための技術として、特許文献1及び特許文献2の技術が開示されている。
特許文献1には、平板形状の被検査材の斜角探傷法において、探傷用の斜角振動子とは別にカップリングモニタ用の垂直超音波を送受信する振動子を同一の探触子に組み込んで被検査材の底面からのエコーをモニタすることで、カップリングモニタとする方法が開示されている(図4参照)。
【0007】
また、特許文献2には、被検査材の材料組織の粒界からの超音波エコー(粒界ノイズと呼ぶ)を受信し、その受信レベルを用いてカップリング状況をモニタする手法が開示されている(第5図参照)。一般に粒界からのエコーは小さいが、超音波の周波数が高く波長が短いほど大きくなるので、特許文献2では、探傷用の振動子とは別に高い周波数の粒界ノイズカップリングモニタ用の斜角超音波振動子を配置するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭64−15651号公報(図4
【特許文献2】特開平1−295160号公報(図5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、超音波探傷法におけるカップリングモニタ方法は、被検査材に存在する欠陥を検出する際に重要であるにもかかわらず、平板の被検査材に対する垂直探傷法や斜角探傷法の一部などでのみ有効な手法が確立しているだけである。
例えば、特許文献1は、斜角超音波探触子とは別に、カップリングモニタ用の振動子が配備されており、このカップリングモニタ用の振動子から垂直超音波を被検査材に対して入射することで、斜角超音波探触子と被検査材とのカップリング状況をモニタする手法である。
【0010】
しかしながら、一般に縦波モードの垂直超音波の入射は、横波モードの斜角超音波よりも容易であるため、カップリングモニタ用の振動子から発射された垂直超音波による底面エコーが観測されたからといって、必ずしも斜角超音波のカップリングが保証できるものではない。また、カップリングモニタ用の振動子を配備する必要があり、欠陥検査のコストが嵩むおそれもある。
【0011】
また、特許文献2の手法に関しては、被検査材の材料組織が緻密で粒界ノイズが非常に小さい場合には、超音波探傷装置の電気ノイズ等に比較して粒界ノイズは十分なS/Nを得ることができずに、カップリングモニタとしては十分に機能し得ない場合も多い。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであって、円柱状の被検査材を斜角超音波探傷にて探傷する際に用いられる斜角超音波探触子のカップリング状況を正確にモニタする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を達成するために、本発明は、以下の技術的手段を採用した。
本発明に係る斜角超音波探触子のカップリングモニタ方法は、円柱状乃至は円筒状の被検査材を周方向に斜角超音波探触子で探傷するに際して、前記斜角超音波探触子のカップリング状態をモニタする方法であって、同一構造を有する2つの斜角超音波探触子を、並列で、且つ超音波の送受信方向が前記被検査材の周方向に沿って互いに反対向きになるよう配備し、前記2つの斜角超音波探触子のうち、一方の斜角超音波探触子が超音波を送信し、他方の斜角超音波探触子が被検査材内部を周回してきた超音波を受信し、前記他方の斜角超音波探触子にて受信された超音波の強度を基に、前記一方の斜角超音波探触子のカップリング状態を検出することを特徴とする。
【0013】
好ましくは、前記2つの斜角超音波探触子のそれぞれは、交互に超音波の送信を行うものとされ、前記一方の斜角超音波探触子が超音波を送信した際には、前記他方の斜角超音波探触子が超音波を受信すると共に、前記一方の斜角超音波探触子のカップリングモニタとして機能し、前記他方の斜角超音波探触子が超音波を送信した際には、前記一方の斜角超音波探触子が超音波を受信すると共に、前記他方の斜角超音波探触子のカップリングモニタとして機能するとよい。
【0014】
好ましくは、前記被検査材の周方向に沿って配備された前記2つの斜角超音波探触子の配備位置を、当該被検査材の周方向に沿って調整可能にしておき、前記一方の斜角超音波探触子が発射した超音波を、他方の斜角超音波探触子が受信可能となるように、前記2つの斜角超音波探触子の配備位置を調整し、前記他方の斜角超音波探触子にて受信された超音波の強度を基に、前記一方の斜角超音波探触子のカップリング状態を検出するとよい。
また、本発明にかかる斜角超音波探触子のカップリングモニタ方法の最も好ましい形態は、円柱状の被検査材を周方向に斜角超音波探触子で探傷するに際して、前記斜角超音波探触子のカップリング状態をモニタする方法であって、同一構造を有する2つの斜角超音波探触子を、並列で、且つ超音波の送受信方向が前記被検査材の周方向に沿って互いに反対向きになるよう配備し、前記2つの斜角超音波探触子のうち、一方の斜角超音波探触子が超音波を送信し、他方の斜角超音波探触子が被検査材内部を周回してきた超音波を受信し、前記他方の斜角超音波探触子にて受信された超音波の強度を基に、前記一方の斜角超音波探触子のカップリング状態を検出し、かつ斜角超音波入力後の幾何学的計算から算出された時間前後において、高強度の周回エコーが観測された場合、一方の斜角超音波探触子と被検査材とのカップリング状態が良好であると判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の斜角超音波探触子のカップリングモニタ方法によれば、円柱状の被検査材を斜角超音波探傷にて探傷する際に用いられる斜角超音波探触子のカップリング状況を正確にモニタすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】本発明の実施形態による斜角超音波探触子を円柱状の被検査材の外表面に接触させた状態を、当該被検査材の長手方向から見た概略図である。
図1B】本発明の実施形態による斜角超音波探触子を円柱状の被検査材の外表面に接触させた状態を、当該被検査材の周方向から見た概略図である。
図2A】斜角超音波探傷を行う際の斜角超音波探触子の構成を示す概略図である。
図2B】カップリング状況をモニタする際の斜角超音波探触子の構成を示す概略図である。なお、この図においては、軸方向に配備される斜角超音波探触子を、理解を容易にするために、あえて周方向に並べた形で記載している。
図3A】本発明のカップリングモニタ方法における一方の斜角超音波探触子の受信波形を模式的に示す図である。
図3B】本発明のカップリングモニタ方法における他方の斜角超音波探触子の受信波形を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をもって本発明の構成を限定するものではない。従って、本発明の技術的範囲は、本実施形態に開示内容だけに限定されるものではない。
例えば、以下の説明において、斜角超音波探触子1は、円柱状の棒鋼である被検査材Wの欠陥Kの検出を行うものとしている。しかしながら、被検査体としては、円筒状の鋼管などが採用可能である。
【0018】
本実施形態の被検査材Wは、回転装置4に載置されていて、周方向に回転するようになっている。また、図示はしていないが、本実施形態の超音波探傷装置は、斜角超音波探触子1が軸方向に移動できる機構を有しており、この移動する機構を用いることで、斜角超音波探触子1が被検査材Wの軸方向に沿った検査を行えるようになっている。つまり、超音波探傷装置は、回転装置4によって回転する被検査材Wに対して、斜角超音波探触子1を被検査材Wの軸方向(長手方向)に移動することにより、被検査材Wの外表面全体を走査、探傷することが可能となっている。
【0019】
まず、本発明のカップリングモニタ方法に用いられる斜角超音波探触子1について、図1A図2Bを参照しながら説明する。
図1Aは、本発明の実施形態による斜角超音波探触子1を円柱状の被検査材Wの外表面に接触(当接)させた状態を、当該被検査材Wの長手方向から見た概略図である。図1Bは、本発明の実施形態による斜角超音波探触子1を円柱状の被検査材Wの外表面に接触(当接)させた状態を、当該被検査材Wの周方向から見た概略図である。
【0020】
また、図2Aは、斜角超音波探傷を行う際の斜角超音波探触子1の構成を示す概略図である。図2Bは、カップリング状況をモニタする際の斜角超音波探触子1の構成を示す概略図である。
本実施形態の斜角超音波探触子1は、被検査材Wの内部に存在する欠陥K(クラックなどの物理的な欠陥や及び金属組織的な欠陥)を検出する超音波探傷装置(図示せず)に備えられているものであって、被検査材Wの内部に所定の角度を付けて超音波U(斜角超音波)を送信するものである。
【0021】
具体的には、斜角超音波探触子1は、超音波探傷装置に備えられた接触媒質供給回収部(図示せず)から適切に供給される接触媒質(例えば、水、油、グリセリンなど)を介して、斜角超音波Uを検査対象の被検査材Wの内部に送信し、被検査材Wの内部に存在する欠陥Kで反射して戻った欠陥エコーUbを受信し、当該探傷で得られた欠陥エコーUbの受波波形を基に、被検査材Wの内部に存在する欠陥Kを高精度に検出する。
【0022】
さて、「発明が解決しようとする課題」で精説しているが、斜角超音波探触子1の場合、この斜角超音波探触子1と被検査材Wとが確実に接触していて、斜角超音波Uが被検査材Wに対して正常に入射されていることを確認する方法、言い換えれば、カップリングモニタの方法が確立されていないのが現状である。
そこで、本実施形態では、2つの斜角超音波探触子1a,1bを以下のように配備し、カップリングモニタを実施している。
【0023】
図1Aに示すように、例えば、角度が約45°の斜角超音波Uを送信する斜角超音波探
触子1を被検査材Wの外表面に当接させた場合、被検査材Wの外表面の3ヵ所で反射し、略正方形形状の軌跡を描いて入射点と同じ場所に後方から戻ってくるようになっている。
そこで、図1Bに示すように、本実施形態では、上記した同一構造を有する2つの斜角超音波探触子1a,1bを被検査材Wの長手方向に沿って並列で、且つ斜角超音波Uの送受信方向が被検査材Wの周方向に沿って互いに反対向きになるよう配備している。
【0024】
例えば、本実施形態では、図1Aにおいて、一方の斜角超音波探触子1aの送信方向が被検査材Wの略上方に向くように、被検査材Wの外表面に配備し、図1Bにおいて、他方の斜角超音波探触子1bの受信方向が被検査材Wの略下方に向くように、一方の斜角超音波探触子1aに隣り合う被検査材Wの外表面に並列配備する。
特に、図1Aに示すように、例えば、角度が上方約45°の斜角超音波Uを送信する一方の斜角超音波探触子1aを被検査材Wの外表面に当接させた場合、被検査材Wの外表面の3ヵ所で反射し、略正方形形状の軌跡を描いて入射点と同じ場所に後方から戻ってくるようになる。それ故、他方の斜角超音波探触子1bが、角度が下方約45°の周回エコーUa(斜角超音波U)を受信できるように被検査材Wの外表面に当接されている。
【0025】
このように配備された2つの斜角超音波探触子1a,1bは、当該2つの斜角超音波探触子1a,1bのうち、一方の斜角超音波探触子1aが斜角超音波Uを送信し、他方の斜角超音波探触子1bが被検査材Wの内部を周回してきた周回エコーUaを受信し、他方の斜角超音波探触子1bにて受信された周回エコーUaの強度を基に、一方の斜角超音波探触子1aのカップリング状態を検出することで、斜角超音波探触子1のカップリングモニタ方法(詳細は後述)に用いられる。
【0026】
なお、図2Aに示すように、一方の斜角超音波探触子1a及び他方の斜角超音波探触子1bに関し、斜角超音波探傷を行うときには、一方の斜角超音波探触子1aは、超音波探傷機(図示せず)の配備された送信部2に接続されると共に、超音波探傷機の配備された受信部3に接続されるようになっている。
送信部2は、所定電圧のパルス電圧が加えられると所定周波数の斜角超音波Uを一方の斜角超音波探触子1aに出力し、受信部3は、欠陥Kから反射してきた欠陥エコーUbを一方の斜角超音波探触子1aで受信すると、その受信した欠陥エコーUbに対応したパルス電流を発生させ、信号記録処理装置(図示せず)に出力する。
【0027】
一方、図2Bに示すように、カップリング状態をモニタするときには、一方の斜角超音波探触子1aは送信部2に接続され、他方の斜角超音波探触子1bは受信部3に接続されている。
送信部2は、所定電圧のパルス電圧が加えられると所定周波数の斜角超音波Uを一方の斜角超音波探触子1aに出力し、受信部3は、被検査材Wの内部を周回して戻った周回エコーUaを他方の斜角超音波探触子1bで受信すると、その受信した周回エコーUaに対応したパルス電圧を発生させ、信号記録処理装置に周回表面波信号として出力する。
【0028】
次に、本発明に係る斜角超音波探触子1のカップリングモニタ方法の詳細について説明する。
前述の繰り返しになるが、本実施形態のカップリング方法においては、同一構造を有する2つの斜角超音波探触子1a,1bを、被検査材Wの長手方向に沿って並列で、且つ斜角超音波Uの送受信方向が被検査材Wの周方向に沿って互いに反対向きになるよう配備し、2つの斜角超音波探触子1a,1bのうち、一方の斜角超音波探触子1aが斜角超音波Uを送信し、他方の斜角超音波探触子1bが被検査材W内部を周回してきた周回エコーUa(斜角超音波U)を受信し、他方の斜角超音波探触子1bにて受信された周回エコーUaの強度を基に、一方の斜角超音波探触子1aのカップリング状態を検出する。
【0029】
図3Aは、本発明のカップリングモニタ方法における一方の斜角超音波探触子1aの受信波形を模式的に示す図である。図3Bは、本発明のカップリングモニタ方法における他方の斜角超音波探触子1bの受信波形を模式的に示す図である。
図3Aに示すように、一方の斜角超音波探触子1aの受信波形には、被検査材Wの外表面からの表面エコーU、被検査材Wの内部に欠陥Kが存在する場合にその欠陥Kから反射した欠陥エコーUb、粒界からのエコーノイズなどが観測される。図3Aにおいては、表
面エコーUが観測された後に、欠陥検出範囲(欠陥ゲート)にて欠陥エコーUbが観測されていることが分かる。このような一方の斜角超音波探触子1aの受信波形は、斜角超音波探傷にて観測される波形である。
【0030】
なお、本実施形態の一方の斜角超音波探触子1aにおける反射超音波Uの受信方向は、実際に被検査材Wの内部を周回した周回エコーUaの方向と異なっているため、一方の斜角超音波探触子1aの受信波形には周回エコーUaが観測されることはない。
図3Bに示すように、他方の斜角超音波探触子1bの受信波形には、一方の斜角超音波探触子1aから送信され、被検査材Wの内部を周回した周回エコーUaが高強度(高S/N比)で観測される。図3Bにおいては、カップリング検出範囲(カップリングチェックゲート)にて周回エコーUaが観測されていることが分かる。この結果により、一方の斜角超音波探触子1aのカップリングがうまくいっており、図3Aの計測波形が正確であることがわかる。
【0031】
例えば、直径が1000mmの円柱状の鋼材を検査対象の被検査材Wとし、当該被検査材Wの内部に存在する欠陥Kを検出する際のカップリング状況をモニタする場合、一方の斜角超音波探触子1aから入射角45°で送信される斜角超音波Uの音速は約3200m/secとなる。また、被検査材Wの内部を周回する周回エコーUaのビーム路程は、幾何学的計算から2828mmとなる。これらより、一方の斜角超音波探触子1aから入射角45°で送信された斜角超音波Uが被検査材Wの内部を周回するのに要する時間は、約883μsecとなる。
【0032】
図3Bにおいて、斜角超音波U入力後の約880μsec後に、高強度の周回エコーUaが観測された場合、一方の斜角超音波探触子1aと被検査材Wとのカップリング状態が良好であることがわかる。
このようなカップリングモニタ法において、図1Aに示すように、一方の斜角超音波探触子1aからの斜角超音波Uの送信角度が45°の場合、被検査材Wの外表面の3ヵ所で反射し、正方形形状の軌跡を描いて入射点と同じ場所に後方から戻ってくるので、2つの斜角超音波探触子1a,1bの配備位置を、当該被検査材Wの周方向に沿って調整しなくても受信することが可能である。
【0033】
また、例えば、送信角度が60°の斜角超音波Uを送信する一方の斜角超音波探触子1aの場合、被検査材Wの外表面を外接円とする正六角形の軌跡を描いて入射点と同じ場所に後方から戻ってくるので、2つの斜角超音波探触子1a,1bの配備位置を、当該被検査材Wの周方向に沿って調整しなくても受信することが可能である。
しかしながら、送信角度が上記角度以外(例えば、70°)の斜角超音波Uを送信する一方の斜角超音波探触子1aの場合、被検査材Wの外表面の複数ヵ所で反射し戻ってくる周回エコーUa(斜角超音波U)は、一方の斜角超音波探触子1aの配備位置とは異なる位置になるため、他方の斜角超音波探触子1bを被検査材Wの周方向に沿って移動させ、一方の斜角超音波探触子1aが発射した斜角超音波Uを、他方の斜角超音波探触子1bが受信可能となるように、2つの斜角超音波探触子1a,1bの配備位置1a,1bを調整する必要がある。
【0034】
また、一方の斜角超音波探触子1aから送信される斜角超音波Uの入射角が45°、60°と設定されていても、何らかの理由で設定された入射角度がずれてしまい、戻ってくる周回エコーUaのビーム中心が入射点に一致しないことがある。
その場合であっても、この周回エコーUaのビーム路程は十分に長く、且つ超音波ビームもかなり広がっているので、ビーム中心が入射点から若干ずれていたとしても、弁別するに必要な強度の周回エコーUaを観測することは可能となる。しかしながら、戻ってくる周回エコーUaをより精確に受信しようとする場合、前述の入射角のズレに応じて、2つの斜角超音波探触子1a,1bを、当該被検査材Wの周方向に沿って近づけたり、離れるように配備することが好ましい。
【0035】
なお、本実施形態では、図2Aに示す斜角超音波探傷を行う際の斜角超音波探触子1の配備構成と、図2Bに示すカップリング状況をモニタする際の斜角超音波探触子1の配備構成を、電気回路によって切り替え可能としている。
詳しくは、図2Bに示すように、被検査材Wと一方の斜角超音波探触子1aとのカップリングの状況をモニタする際には、送信部2を一方の斜角超音波探触子1aに接続すると共に、受信部3を他方の斜角超音波探触子1bに接続して、周回エコーUaをモニタする。そして、図示はしないが、送信部2を他方の斜角超音波探触子1bに接続すると共に、受信部3を一方の斜角超音波探触子1aに接続して、周回エコーUaをモニタする。
【0036】
このように、一方の斜角超音波探触子1aのカップリングの状況をモニタし、他方の斜角超音波探触子1bのカップリングの状況をモニタすることで、これら2つの斜角超音波探触子1a,1bを交互に用いて、被検査材Wの周方向の両方向にむけて斜角超音波探傷を行うことが可能となる。
また、これら2つの斜角超音波探触子1a,1bを用いて斜角超音波探傷を行うことで、斜角超音波Uの入射方向に対して直交する断面積の大きな欠陥Kを検出することができると共に、向きの異なる欠陥Kも検出可能となり、欠陥Kの見逃しを低減させる効果がある。
【0037】
また、斜角超音波探傷を行う際の斜角超音波探触子1の配備構成と、カップリング状況をモニタする際の斜角超音波探触子1の配備構成とを切り替え可能とすることで、斜角超音波探傷とカップリングモニタを交互に繰り返し行えるようになっている。
以上述べたように、同一構造を有する2つの斜角超音波探触子1a,1bを、並列で、且つ斜角超音波Uの送受信方向が被検査材Wの周方向に沿って互いに反対向きになるよう配備することで、一方の斜角超音波探触子1a乃至は他方の斜角超音波探触子1bのいずれかから送信されて被検査材W内部を周回してきた周回エコーUa(斜角超音波U)を、他方の斜角超音波探触子1b又は一方の斜角超音波探触子1aで受信することができる。
【0038】
この他方の斜角超音波探触子1b又は一方の斜角超音波探触子1aのいずれかで受信した周回エコーUaの強度を基に、斜角超音波探触子1a,1bのカップリング状態を正確にモニタすることが可能となる。それ故、円柱状の被検査材Wを斜角超音波探傷にて探傷する際の信頼性を高めることが可能となる。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
【0039】
例えば、本実施形態においては、一方の斜角超音波探触子1aと他方の斜角超音波探触子1bを、被検査材Wの軸心方向に沿ってずらして配備するとしたが、被検査材Wの周方向に沿ってずらして配備してもよい。
また、本実施形態においては、超音波探傷機の受信部3が1チャンネルとして説明しているが、超音波探傷機の受信部3が多チャンネルを有している場合には、それぞれのチャンネルで同時にカップリング状況をモニタしてもよい。
【0040】
特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【符号の説明】
【0041】
1 斜角超音波探触子
1a 一方の斜角超音波探触子
1b 他方の斜角超音波探触子
2 送信部
3 受信部
4 回転装置
W 被検査材
K 欠陥
U 斜角超音波(超音波)
Ua 周回エコー
Ub 欠陥エコー
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B