(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6275008
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】ガイドワイヤ
(51)【国際特許分類】
A61M 25/09 20060101AFI20180129BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20180129BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20180129BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20180129BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20180129BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
A61M25/09 516
A61M25/09 550
A61L31/04 100
A61L31/04 110
A61L31/06
A61L31/10
A61L31/12
A61L31/14
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-187274(P2014-187274)
(22)【出願日】2014年9月16日
(65)【公開番号】特開2016-59447(P2016-59447A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2016年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134326
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 聡
(72)【発明者】
【氏名】二見 聡一
【審査官】
安田 昌司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−192596(JP,A)
【文献】
特開2011−212034(JP,A)
【文献】
特開2011−206494(JP,A)
【文献】
特開2008−237621(JP,A)
【文献】
特開2011−177381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00−25/09
A61L 31/00−31/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシャフトと、
前記コアシャフトを覆うコイル体と、
前記コイル体を構成する素線の外周に形成された、複数の高分子鎖からなるポリマーブラシ部と、
を備え、
前記コイル体を構成する前記素線の外周に形成された前記ポリマーブラシ部を覆うように、前記コイル体から離間して親水性コーティング部が設けられていることを特徴とするガイドワイヤ。
【請求項2】
請求項1に記載のガイドワイヤであって、
前記親水性コーティング部は、上層と下層とから構成されており、
前記下層は、前記上層よりも水に対する親和性が低いことを特徴とするガイドワイヤ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガイドワイヤであって、
前記ポリマーブラシ部を構成する材料と同じ材料が、前記親水性コーティング部に含まれていることを特徴とするガイドワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管などの管腔に挿入されるガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
血管にカテーテルを挿入する際に用いられるガイドワイヤが知られている。カテーテルを挿入する際には、先ずガイドワイヤを血管に挿入し、その後にガイドワイヤに沿ってカテーテルを進行させる。このように、ガイドワイヤはカテーテルを病変部に導くためのガイドとして機能する。
【0003】
このようなガイドワイヤとしては、コアシャフトの先端部がコイル体で覆われたもの(いわゆるコイル式のガイドワイヤ)が一般に用いられている。また、血管内での滑りを良くする目的で、コイル体の表面を親水性コーティング剤で覆ったガイドワイヤが提案されている(特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5840046号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来のガイドワイヤでは、親水性コーティング剤でコイル体を覆うことによって、コイル体の自由な動きが阻害されるという問題があった。その結果、例えば、ガイドワイヤの血管選択性に悪影響を及ぼす虞があるという問題があった。
【0006】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題に対応してなされたものであり、コイル体の自由な動きを維持しつつ、コイル体の表面において潤滑性を発揮することが可能なガイドワイヤの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明のガイドワイヤは次の構成を採用した。すなわち、コアシャフトと、前記コアシャフトを覆うコイル体と、前記コイル体を
構成する素線の外周に形成された、複数の高分子鎖からなるポリマーブラシ部と、を備え、前記コイル体を構成する前記素線の外周に形成された前記ポリマーブラシ部を覆うように、前記コイル体から離間して親水性コーティング部が設けられていることを特徴とする。
【0008】
このような本発明のガイドワイヤにおいては、コイル体
を構成する素線の外周に形成されたポリマーブラシ部を覆うように、コイル体から離間して親水性コーティング部が設けられているので、親水性コーティング部によってコイル体の動きが阻害されることがない。その結果、コイル体(ひいてはガイドワイヤ)の自由な動きを維持しつつ、コイル体の表面において潤滑性を発揮することが可能となる。
【0009】
また、上述した本発明のガイドワイヤにおいては、親水性コーティング部を上層と下層とで構成することとし、上層の水に対する親和性よりも下層の水に対する親和性を低くすることとしてもよい。
【0010】
このような本発明のガイドワイヤにおいても、親水性コーティング部とコイル体との間にポリマーブラシ部を設けることによって、コイル体(ひいてはガイドワイヤ)の自由な動きを維持しつつ、コイル体表面で潤滑性を発揮することができる。
【0011】
また、本発明のガイドワイヤでは、親水性コーティング部が上層と下層とから成り、上層よりも下層のほうが水に対する親和性が低いので、水分が存在する環境下(血管内など)において、下層が膨潤することを抑制できる。下層は、親水性コーティング部とポリマーブラシ部との境界部分に位置しているので、この部分の膨潤による変形が抑制されることにより、親水性コーティング部とポリマーブラシ部との密着性を向上させることが可能となる。
もちろん、親水性コーティング部の上層は、下層よりも水に対する親和性が高いので、水分を吸収して膨潤することにより、コイル体表面での潤滑性を十分に発揮することが可能である。
【0012】
また、本発明のガイドワイヤにおいては、ポリマーブラシ部を構成する材料と同じ材料が、親水性コーティング部に含まれていてもよい。
【0013】
このような本発明のガイドワイヤにおいては、ポリマーブラシ部を構成する材料と同じ材料が親水性コーティング部に含まれているので、相溶によって、ポリマーブラシ部と親水性コーティング部との密着性を確保することができる。その結果、ポリマーブラシ部によってコイル体(ガイドワイヤ)の自由な動きを維持しつつ、コイル体表面での潤滑性を長期間に亘って持続させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態のガイドワイヤの構成を示した説明図である。
【
図2】本発明の第1実施形態のガイドワイヤの親水性コーティング部およびポリマーブラシ部の拡大図である。
【
図3】本発明の第2実施形態のガイドワイヤの親水性コーティング部およびポリマーブラシ部の拡大図である。
【
図4】本発明の第2実施形態のガイドワイヤの親水性コーティング部の吸水前後の様子を示した説明図である。(a)には、親水性コーティング部の吸水前の様子が示されており、(b)には、親水性コーティング部の吸水後の様子が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
A.第1実施形態 :
以下では、上述した本発明の内容を明確にするために、本発明のガイドワイヤの各種実施形態を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態のガイドワイヤ1の構成を示した説明図である。ガイドワイヤ1は、コアシャフト5と、コアシャフト5を覆うコイル体6などから構成されている。コアシャフト5とコイル体6とは、ロウ材などから成る接合部を介して互いに接合されている。本実施形態では、コイル体6の先端部とコアシャフト5の先端部とが接合部8aを介して接続されており、コイル体6の基端部とコアシャフト5の中間部とが接合部8bを介して接続されている。
【0016】
また、本実施形態のガイドワイヤ1では、コイル体6の表面が親水性コーティング部10で覆われている。親水性コーティング部10は、ガイドワイヤ1を血管内に挿入したときに、ガイドワイヤ1の表面と血管内壁との間の摩擦抵抗を低減するために設けられている。
【0017】
尚、本実施形態の親水性コーティング部10は、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルのホモポリマーまたはその共重合体、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピルのホモポリマーまたはその共重合体、アクリル酸4−ヒドロキシブチルのホモポリマーまたはその共重合体、アクリル酸テトラヒドロフルフリルのホモポリマーまたはその共重合体、無水マレイン酸系共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体、(2−(メタクリロイルオキシ)エチル)ジメチル−(3−スルホプロピル)のホモポリマーまたはその共重合体、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンのホモポリマーまたはその共重合体、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタインのホモポリマーまたはその共重合体、(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)―スチレンブロック共重合体、ヘパリン、各種合成ポリペプチド、コラーゲン、ヒアルロン酸、セルロース系ポリマー、およびこれらの混合物などによって形成することができる。
【0018】
更に、本実施形態のガイドワイヤ1では、コイル体6と親水性コーティング部10との間にポリマーブラシ部12が形成されている。
【0019】
図2は、本発明の第1実施形態のガイドワイヤ1の親水性コーティング部10およびポリマーブラシ部12の拡大図である。図示されているように、本実施形態のガイドワイヤ1では、コアシャフト5を覆うコイル体6の素線の表面に、複数の高分子鎖が固定されている。これにより、コイル体6と親水性コーティング部10との間に、ブラシ状の構造(ポリマーブラシ部12)が形成されている。
【0020】
尚、ポリマーブラシ部12を構成する高分子鎖については、各種の高分子鎖を用いることができるが、親水性コーティング部10との親和性を考慮すれば、ポリエチレングリコールやポリアクリル酸などの親水性化合物の高分子鎖を用いてポリマーブラシ部12を構成することが好ましい。また、カルボキシベタインやスルホベタイン、ホスホベタインなどのベタイン系ポリマーから成る高分子鎖は、親水性で且つ、良好な生体適合性を有しているので、ポリマーブラシ部12を構成する高分子鎖としてより好適である。
【0021】
このような本実施形態のガイドワイヤ1では、コイル体6と親水性コーティング部10との間にポリマーブラシ部12が形成されているので、親水性コーティング部によってコイル体6の動きが阻害されることがない。その結果、コイル体6(ひいてはガイドワイヤ1)の自由な動きを維持しつつ、コイル体6の表面で潤滑性を発揮することが可能となる。
【0022】
B.第2実施形態 :
図3は、本発明の第2実施形態のガイドワイヤ2の親水性コーティング部20およびポリマーブラシ部12の拡大図である。第2実施形態のガイドワイヤ2は、上述した第1実施形態のガイドワイヤ1とは以下の点が異なっている。すなわち、ガイドワイヤ2の親水性コーティング部20は、上層21と下層23とによって構成されている。また、下層23の水に対する親和性は、上層21の水に対する親和性と比較して低く設定されている。
【0023】
尚、本実施形態のガイドワイヤ2では、上層21が、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタインを含む共重合体で構成されており、下層23が、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタインとブチルメタクリレート(BMA)との共重合体で構成されている。ブチルメタクリレート(BMA)が比較的大きな疎水性を呈することにより、下層23の水に対する親和性が、上層21の水に対する親和性よりも低くなっている。
【0024】
また、本実施形態のガイドワイヤ2では、ポリマーブラシ部12の高分子鎖が、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタインのポリマーで構成されている。すなわち、親水性コーティング部20には、ポリマーブラシ部12を構成する材料と同じ材料(本実施形態では、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン)が含まれている。
【0025】
上記以外の部分については、第1実施形態のガイドワイヤ1と第2実施形態のガイドワイヤとは同様である。すなわち、コアシャフト5と、コアシャフト5を覆うコイル体6と、コイル体6と親水性コーティング部20との間に設けられたポリマーブラシ部12とから構成されている。
【0026】
図4は、本発明の第2実施形態のガイドワイヤ2の親水性コーティング部20の吸水前後の様子を示した説明図である。(a)には、親水性コーティング部20の吸水前の様子が示されており、(b)には、親水性コーティング部20の吸水後の様子が示されている。
【0027】
図4(a)に示されているように、第2実施形態のガイドワイヤ2は、吸水前の状態では、コイル体6を覆う親水性コーティング部20の上層21と下層23とが所定の膜厚となっている。この状態で、親水性コーティング部20に水分が供給されると、
図4(b)に示されているように、上層21が膨潤して大きく変形する。
一方で、下層23については、上層21よりも水に対する親和性に比べて低いので、親水性コーティング部20に水分が供給されても下層23は殆ど膨潤(変形)しない。
【0028】
このように、本実施形態のガイドワイヤ2では、ポリマーブラシ部12と親水性コーティング部20との境界部分に位置する下層23の変形を抑制することができる。したがって、親水性コーティング部20とポリマーブラシ部12との密着性を向上させることが可能となる。
もちろん、上層21は、下層23よりも水に対する親和性が高いので、水分を吸収して膨潤することにより、コイル体6の表面で潤滑性を十分に発揮することが可能である。
【0029】
また、本実施形態のガイドワイヤ2の親水性コーティング部20には、ポリマーブラシ部12を構成する材料と同じ材料(本実施形態では、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン)が含まれている。このことにより、相溶によって、ポリマーブラシ部12と親水性コーティング部20のとの密着性を確保することができる。その結果、ポリマーブラシ部12によってコイル体6(ひいてはガイドワイヤ2)の自由な動きを維持しつつ、コイル体6の表面での潤滑性を長期間に亘って持続させることが可能となる。
【0030】
以上、各種実施形態のガイドワイヤについて説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。例えば、第2実施形態のガイドワイヤ2では、親水性コーティング部20の上層21(水に対する親和性が比較的高い層)と下層23(水に対する親和性が比較的低い層)とに、同じ材料(第2実施形態では、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン)が含まれているものと説明した。しかしながら、上層21と下層23とには必ずしも同じ材料が含まれていなくてもよい。
【0031】
上層21と下層23とに同じ材料が含まれていなくても、下層23の水に対する親和性が上層21の水に対する親和性よりも低いという関係性を満たしていれば、親水性コーティング部20とポリマーブラシ部12との境界部分の膨潤による変形を抑制することができ、親水性コーティング部20とポリマーブラシ部12との密着性を確保することができるからである。
【0032】
もっとも、上述した第2実施形態のガイドワイヤ2のように、親水性コーティング部20の上層21と下層23とに同じ材料が含まれていると、相溶によって、上層21と下層23との密着性をも確保することができるので、より好ましい。
【符号の説明】
【0033】
1,2・・・ガイドワイヤ
5・・・コアシャフト
6・・・コイル体
8a,8b・・・接合部
10,20・・・コーティング部
12・・・ポリマーブラシ部
21・・・上層
23・・・下層