特許第6275021号(P6275021)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイシン精機株式会社の特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6275021-オイルポンプ 図000002
  • 特許6275021-オイルポンプ 図000003
  • 特許6275021-オイルポンプ 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6275021
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】オイルポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 14/00 20060101AFI20180129BHJP
   F04C 14/20 20060101ALI20180129BHJP
   F04C 2/10 20060101ALI20180129BHJP
   F01M 1/02 20060101ALI20180129BHJP
   F01M 1/16 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   F04C14/00 C
   F04C14/20 B
   F04C2/10 321B
   F04C2/10 341Z
   F01M1/02 G
   F01M1/16 G
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-240101(P2014-240101)
(22)【出願日】2014年11月27日
(65)【公開番号】特開2016-102423(P2016-102423A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】磯田 淳夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 道隆
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】高木 登
【審査官】 所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−134185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 14/00
F01M 1/02
F01M 1/16
F04C 2/10
F04C 14/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の外歯を有し、エンジンから伝達される回転力により第1回転軸心を中心に回転するインナーロータと、
前記外歯に噛み合う複数の内歯を有した環状で形成され、前記第1回転軸心に対して偏心する第2回転軸心で前記インナーロータの回転に応じて回転するアウターロータと、
前記外歯と前記内歯との間にオイルを供給する吸引ポートと、前記インナーロータの回転に伴い前記吸引ポートから供給されたオイルを前記外歯と前記内歯との間から吐出する吐出ポートとが形成され、前記インナーロータと前記アウターロータとを内包するケーシングと、
前記外歯と前記内歯とが噛み合う状態で、前記アウターロータを径方向外側から相対回転自在に支持する調整リングと、
前記調整リングの外周面に設けられ、駆動力が入力されて前記吐出ポートから吐出されるオイルの圧力を増減する操作部と、
前記吸引ポート又は前記吐出ポートに連通し、前記ケーシングと前記調整リングに設けられ、前記操作部に入力される駆動力に応じて前記第2回転軸心が、前記第1回転軸心を中心にして公転するように前記調整リングを案内するガイド部と、
前記操作部に入力される駆動力を制御し、前記エンジンの停止指示があった時は当該エンジンの停止前に前記吐出ポートから吐出されるオイルの圧力を最大側にする駆動力制御部と、
を備えるオイルポンプ。
【請求項2】
前記停止指示は、前記エンジンの回転力が伝達されるトランスミッション機構において前進走行用でないギヤ段が選択された状態である請求項1に記載のオイルポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容量型のオイルポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポンプの吸入量及び吐出量を変更可能な可変容量型のオイルポンプが利用されている。このような可変容量型のオイルポンプとして、例えば外歯を有し駆動回転軸心の周りで駆動させるインナーロータと、このインナーロータと偏心状態で噛み合う内歯を有し従動軸心周りで回転するアウターロータとをケーシングの内部に備えて構成されるものがある。この種のオイルポンプは、インナーロータとアウターロータとが噛み合う状態で、駆動回転軸心を中心にしてアウターロータの従動中心を公転させる調整リングが備えられ、当該調整リングを変位させてアウターロータを公転させることでポンプ容量を変更できるように構成されている。
【0003】
このようにポンプ容量を変更するにあたり、可変容量型のオイルポンプでは、アウターロータがインナーロータに対して公転するように構成されているので、ケーシングとアウターロータとの間に形成される隙間の寸法が変化する。このようなケーシングと調整リングとの間に異物が噛み込まれると、アウターロータの公転可能な範囲が予め設定されている最大範囲に対して制限されるので、オイルポンプの吐出圧が所期の圧力からずれる可能性がある。そこで、このような異物が噛み込まれたか否かを検出する技術が検討されてきた(例えば特許文献1)。
【0004】
特許文献1に記載の内燃機関の油圧制御装置は、圧力段切替機構と検出手段と判定手段とを備えて構成される。圧力段切替機構は、機関の各部位に対して供給するオイルの圧力を高圧状態と低圧状態とに切り替えて、オイルの圧力を制御する。検出手段は、圧力段切替機構により制御された後のオイルの圧力を検出する。判定手段は、圧力段切替機構に対してオイルの圧力を高圧状態にするよう指令が出力されている状態において、検出手段により検出されるオイルの圧力が、高圧状態とされる場合に想定される値と低圧状態とされる場合に想定される値との間の値で設定される所定の異常判定値を下回る場合に圧力段切替機構に異常が生じていると判定する。或いは、判定手段は、圧力段切替機構に対してオイルの圧力を低圧状態にするように指令が出力されている状態において、検出手段により検出されるオイルの圧力が、高圧状態とされる場合に想定される値と低圧状態とされる場合に想定される値との間の値で設定される所定の異常判定値を上回る場合に、圧力段切替機構に異常が生じていると判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−116890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は、圧力段切替機構によるオイルの圧力の制御中に異常(異物の噛み込み等)を検出するものであり、異物の噛み込みによる異常を未然に防止するものではない。このため、例えば、オイルの圧力が低圧状態において、異物を噛み込んでオイルポンプを停止した場合、エンジンを再始動しようとしても必要なオイルの圧力をエンジンに供給することができず、エンジンの再始動ができなくなる可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、異物の噛み込みを未然に防止し、エンジンの再始動を良好に行うことが可能なオイルポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係るオイルポンプの特徴構成は、複数の外歯を有し、エンジンから伝達される回転力により第1回転軸心を中心に回転するインナーロータと、前記外歯に噛み合う複数の内歯を有した環状で形成され、前記第1回転軸心に対して偏心する第2回転軸心で前記インナーロータの回転に応じて回転するアウターロータと、前記外歯と前記内歯との間にオイルを供給する吸引ポートと、前記インナーロータの回転に伴い前記吸引ポートから供給されたオイルを前記外歯と前記内歯との間から吐出する吐出ポートとが形成され、前記インナーロータと前記アウターロータとを内包するケーシングと、前記外歯と前記内歯とが噛み合う状態で、前記アウターロータを径方向外側から相対回転自在に支持する調整リングと、前記調整リングの外周面に設けられ、駆動力が入力されて前記吐出ポートから吐出されるオイルの圧力を増減する操作部と、前記吸引ポート又は前記吐出ポートに連通し、前記ケーシングと前記調整リングに設けられ、前記操作部に入力される駆動力に応じて前記第2回転軸心が、前記第1回転軸心を中心にして公転するように前記調整リングを案内するガイド部と、前記操作部に入力される駆動力を制御し、前記エンジンの停止指示があった時は当該エンジンの停止前に前記吐出ポートから吐出されるオイルの圧力を最大側にする駆動力制御部と、を備えている点にある。
【0009】
このような特徴構成とすれば、操作部に入力される駆動力に応じて、第2回転軸心が第1回転軸心を中心にして公転するようにガイド部が調整リングを案内していた際に、仮に当該ガイド部に異物が噛み込まれた場合であっても、この異物をエンジンの停止前に吸引ポート又は吐出ポートに排出することができる。このため、エンジンを再始動した場合に、異物の噛み込みにより調整リングの可動範囲が制限されることを防止できる。したがって、エンジンを再始動する際にオイルポンプに要求されるオイルの吐出量が大きい場合であっても、異物の噛み込みを未然に防止し、エンジンを良好に再始動することが可能となる。
【0010】
また、前記停止指示は、前記エンジンの回転力が伝達されるトランスミッション機構において前進走行用でないギヤ段が選択された状態であると好適である。
【0011】
このような構成とすれば、駆動力制御部がエンジンの停止指示があったことを容易に特定することができる。したがって、駆動力制御部が、エンジンの停止前に確実に、吐出ポートから吐出されるオイルの圧力を最大側にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ポンプ容量が最大状態におけるオイルポンプの断面図である。
図2】ポンプ容量が最小状態におけるオイルポンプの断面図である。
図3】オイルポンプの制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るオイルポンプは、エンジンの停止直前にオイルポンプ内の可動部が異物を噛み込んだ場合であっても、エンジンの再始動が可能に構成される。以下、本実施形態のオイルポンプ100について、詳細に説明する。図1には、オイルポンプ100の一例として、吐出圧が変更可能な可変容量型のオイルポンプ100が示される。本実施形態では、このオイルポンプ100は車両に搭載され、当該車両のエンジンEで駆動される。その用途は、エンジンEを潤滑するためのオイルの供給や、エンジンEのバルブ開閉時期制御装置等の油圧機器へのオイルの供給にある。
【0014】
本実施形態に係るオイルポンプ100は、インナーロータ12、アウターロータ13、ケーシング1、調整リング14、吸引ポート2、吐出ポート3、操作部50、ガイド部G、駆動力制御部16、吐出圧検出部17、シフト位置検出部18を備えて構成される。特に、駆動力制御部16はオイルポンプ100の容量を変更する種々の処理を行うために、CPUを中核部材としてハードウェア又はソフトウェア或いはその両方で構築されている。
【0015】
インナーロータ12は、複数の外歯12Aを有し、エンジンEから伝達される回転動力により第1回転軸心Xを中心に回転する。インナーロータ12は環状に形成され、その外周面に複数の外歯12Aが形成される。これらの外歯12Aはトロコイド曲線やサイクロイド曲線等に従う歯面形状に構成されている。また、本実施形態では、インナーロータ12にはエンジンE(エンジンEのクランク軸)から回転動力が伝達される。エンジンEとは、本オイルポンプ100が搭載される車両の動力源である。インナーロータ12は、第1回転軸心Xと同軸心で配置され、エンジンEの回転動力が伝達される駆動軸11を介してケーシング1に対して回転自在に支持され、当該駆動軸11と一体回転する。
【0016】
アウターロータ13は、外歯12Aに噛み合う複数の内歯13Aを有した環状で形成され、第1回転軸心Xに対して偏心する第2回転軸心Yでインナーロータ12の回転に応じて回転する。アウターロータ13も、インナーロータ12と同様に環状に形成され、その内周面に複数の内歯13Aが形成される。アウターロータ13の内歯13Aは、インナーロータ12の外歯12Aより1つ多い歯数となるように構成され、アウターロータ13が回転した際に、インナーロータ12の外歯12Aに接触する歯面形状に成形されている。したがって、外歯12Aと内歯13Aとの間には、所定の隙間Qを有して構成される。
【0017】
ケーシング1は、インナーロータ12とアウターロータ13とを内包する。内包するとは、内部に含んで構成することを意味する。
【0018】
また、ケーシング1には、吸引ポート2と吐出ポート3とが形成される。吸引ポート2とは、ケーシング1の壁部1Aに形成された開口部である。具体的には、吸引ポート2は、ケーシング1の内壁のうち、アウターロータ13の軸方向端面に対向する壁部1Aに設けられ、アウターロータ13の径方向に沿って設けられる。このような吸引ポート2からは、外歯12Aと内歯13Aとの間にオイルが供給される。外歯12Aと内歯13Aとの間とは、上述の所定の隙間Qである。これにより、外歯12Aと内歯13Aとの間の隙間Qに、インナーロータ12及びアウターロータ13の軸方向端部の側に設けられた吸引ポート2からオイルが供給される。
【0019】
吐出ポート3も、吸引ポート2と同様に、ケーシング1の壁部1Aに形成された開口部からなる。具体的には、吐出ポート3は、ケーシング1の内壁のうち、アウターロータ13の軸方向端面に対向する壁部1Aに設けられ、アウターロータ13の径方向に沿って設けられる。本実施形態では、吐出ポート3は、吸引ポート2が設けられる側の壁部1Aに設けられる。すなわち、吸引ポート2と吐出ポート3とは、同じ方向を向く壁部1Aに設けられる。また、吐出ポート3を構成する開口部は、吸引ポート2を構成する開口部と離間して、アウターロータ13の径方向に沿って設けられる。このような吐出ポート3からは、インナーロータ12の回転に伴い吸引ポート2から供給されたオイルが外歯12Aと内歯13Aとの間から吐出される。外歯12Aと内歯13Aとの間とは、上述の所定の隙間Qである。これにより、外歯12Aと内歯13Aとの間の隙間Qから、インナーロータ12及びアウターロータ13の軸方向端部の側に設けられた吐出ポート3にオイルが流出する。
【0020】
本オイルポンプ100は、インナーロータ12が矢印Aの方向に駆動回転する。したがって、調整リング14が図1に示す姿勢(初期位置)にある際には、インナーロータ12の外歯12Aとアウターロータ13の内歯13Aとの間でオイルの減圧を行う負圧作用領域に吸引ポート2が対向し、インナーロータ12の外歯12Aとアウターロータ13の内歯13Aとの間でオイルの圧縮を行う正圧作用領域に吐出ポート3が対向する。これにより、吸引ポート2からオイルを吸引し、吐出ポート3からオイルを送り出すように機能する。
【0021】
調整リング14は、外歯12Aと内歯13Aとが噛み合う状態で、アウターロータ13を径方向外側から相対回転自在に支持する。調整リング14は、アウターロータ13を内挿するように第2回転軸心Yと同軸心の内周面を有するリング状に成形される。また、アウターロータ13の外周は第2回転軸心Yを中心とした円形に成形される。これにより調整リング14の内周の中心位置と、アウターロータ13の第2回転軸心Yの位置とが一致し、調整リング14はその内周面でアウターロータ13の外周面を支持する。
【0022】
操作部50は、調整リング14の外周面に設けられ、駆動力が入力されて吐出ポート3から吐出されるオイルの圧力を増減する。本実施形態では、操作部50は調整リング14の外周面から、第2回転軸心Yから離間する方向に突出して設けられる。駆動力とは、後述するようにアウターロータ13の第2回転軸心Yを、インナーロータ12の第1回転軸心X周りに公転させる駆動力である。ここで、アウターロータ13は、調整リング14に相対回転自在に収容される。このため、調整リング14は、第2回転軸心Yの公転に伴い、第1回転軸心X周りに公転する。したがって、操作部50に入力される駆動力は、調整リング14そのものを公転させる駆動力にも相当する。
【0023】
ガイド部Gは、ケーシング1と調整リング14に設けられ、操作部50に入力される駆動力に応じて第2回転軸心Yが、第1回転軸心Xを中心にして公転するように調整リング14を案内する。本実施形態では、ケーシング1の壁部1Aには第1回転軸心Xと平行姿勢となるガイドピン31が突出して形成される。調整リング14の外周部の2箇所にはこれら2つのガイドピン31の突出端が、夫々嵌り込むガイド溝32が形成されている。この2つガイドピン31と2つのガイド溝32とでガイド部Gが構成される。2つのガイドピン31の一方と2つのガイド溝32の一方とで構成される第1ガイド部G1は吸引ポート2に連通し、2つのガイドピン31の他方と2つのガイド溝32の他方とで構成される第2ガイド部G2は吐出ポート3に連通して設けられる。以下では、第1ガイド部G1と第2ガイド部G2とを区別する必要がない場合には、ガイド部Gとして説明する。
【0024】
また、調整リング14の外周部において、第1ガイド部G1と第2ガイド部G2との間には係合凹部36が形成される。ケーシング1と係合凹部36との間にはシールベーン37が配置される。
【0025】
ここで、ケーシング1の内部には、吐出ポート3からの吐出圧が作用する加圧空間1Qが形成され、加圧空間1Qのオイルの圧力が直接的に作用する高圧側の第1圧力室51と、加圧空間1Qのオイルの圧力が電磁弁Vを介して作用する低圧側の第2圧力室52とが形成されている。第1圧力室51のオイルはシールベーン37でシールされ、操作部50には第2圧力室52のオイルの圧力が作用する。操作部50はオイルの圧力を効率良く受けるために受圧面積が広く形成され、オイルの圧力が作用する方向と反対側に圧縮コイルバネ6が配置されている。
【0026】
このオイルポンプ100では、加圧空間1Qのオイルを、オイルフィルタ55を介して電磁弁Vに供給し、この電磁弁Vからのオイルを、油路56を介して第2圧力室52に供給するよう構成されている。油路56はケーシング1に溝状に形成される。
【0027】
このオイルポンプ100では調整リング14の作動時に操作部50の突出端をケーシング1の内周面に摺接させている。この際、第2圧力室52のオイルが摺動部からリークしないように、操作部50の突出端には係合凹部58が形成され、ケーシング1と係合凹部58との間にはシールベーン59が配置される。これにより、第2圧力室52に供給されたオイルがリークすることなく、調整リング14を作動させることができる。
【0028】
吐出圧検出部17は、吐出ポート3から吐出されたオイルの圧力を検出する。吐出圧検出部17は、オイルの圧力を検出する圧力センサにより構成される。吐出ポート3から吐出されたオイルとは、吐出ポート3から吐出直後のオイルや、上述のバルブ開閉時期制御装置等の油圧機器としてのメインギャラリMに供給されたオイルが相当する。本実施形態では、吐出圧検出部17は、メインギャラリMに供給されるオイルの圧力を検出する。以下では、「吐出ポート3から吐出されたオイルの圧力」を「吐出圧」として説明する。吐出圧検出部17による検出結果は、後述する駆動力制御部16に伝達される。
【0029】
駆動力制御部16は、吐出ポート3から吐出されるオイルの圧力が所期の要求油圧になるように操作部50に入力される駆動力を制御する。吐出ポート3から吐出されるオイルの油圧、すなわち吐出圧は、上述の吐出圧検出部17の検出結果として伝達される。所期の要求油圧は、本実施形態では、エンジンEの回転数に応じて予め設定されている。エンジンEの回転数に応じて、メインギャラリMが必要な油圧が異なるからである。このような要求油圧は、エンジン回転数と要求油圧との関係を規定するマップとして駆動力制御部16に予め記憶しておくと好適である。駆動力制御部16には、エンジンEから現在のエンジンEの回転数を示す回転数情報も伝達される。
【0030】
このような駆動力制御部16は、ECU等で構成され、要求油圧に基づいて電磁弁Vを制御する。制御の具体例として、低圧制御モードと、高圧制御モードと、低圧制御と高圧制御とを繰り返し変更するDUTY制御モードとが設定されている。具体的には、低圧制御と高圧制御との間で変更しても良いし、夫々のDUTYを適宜設定して変更しても良い。更には、一定の周期でDUTY設定値を入れ替えても良いし、ランダムに変更しても良い。また、DUTY設定値を入れ替える周期は、適宜、設定しても良い。
【0031】
高圧制御モードでは、電磁弁Vを、加圧空間1Qからのオイルの抜け出しを阻止し、かつ、第2圧力室52を大気開放するポジションに設定する。低圧制御モードでは、電磁弁Vを、加圧空間1Qからのオイルを、油路56を介して操作部50に作用させるポジションに設定する。
【0032】
このように、駆動力制御部16で高圧制御モードに設定することにより、オイルポンプ100からのオイルの吐出量を増加する作動を実現し、駆動力制御部16で低圧制御モードに設定することにより、エンジンEの回転数が低い場合でもオイルポンプ100からのオイルの吐出量を低減することや、エンジンEの回転数が高い場合にのみオイルポンプ100からのオイルの吐出量を低減する作動を実現する。これにより、条件に基づいて過剰な量のオイルを吐出することや、過剰に吐出圧を上昇させて、エンジンEの燃費を悪化させる不都合を抑制する。
【0033】
駆動力制御部16は、吐出圧検出部17の検出結果が、現在のエンジンEの回転数に応じて設定された要求油圧と一致するように、電磁弁Vを制御して、調整リング14に入力する駆動力をフィードバック制御により制御する。
【0034】
これにより、インナーロータ12とアウターロータ13とを図1の状態にしたり、図2の状態にすることが可能となる。すなわち、図1の状態であれば、前述した通り駆動軸11が駆動回転することにより、吸引ポート2からオイルが吸引され、吐出ポート3からオイルが排出される。
【0035】
これに対して、図2の状態であれば、第2回転軸心Yが第1回転軸心X周りで公転する運動が行われると同時に、調整リング14も第2回転軸心Y周りで自転する。したがって、この時にはアウターロータ13も共に移動し、インナーロータ12の外歯12Aにアウターロータ13の内歯13Aが噛み合った状態で第2回転軸心Yが第1回転軸心X周りで公転する。
【0036】
このように、正圧作用領域と負圧作用領域とが第1回転軸心X周りで移動し、負圧作用領域から吸引ポート2に作用する負圧が低下し、正圧作用領域から吐出ポート3に作用する正圧も低下する。この結果、このオイルポンプ100によるオイルの供給量が減少する。
【0037】
調整リング14を図2に示す移動端位置まで移動させた場合には、負圧作用領域と正圧作用領域とが、吸引ポート2と吐出ポート3とに亘る位置関係となる。このため、吸引ポート2には殆ど負圧が作用せず、また、吐出ポート3には殆ど正圧が作用しない。このため、オイルの給排が行われない状態となり、結果としてオイルの吐出量が低減される。
【0038】
このように本オイルポンプ100では、調整リング14が第2回転軸心Y周りで90度公転する。この際、正常状態にあっては、ガイド部Gにおいてガイドピン31とガイド溝32とが互いに所期の範囲に亘って摺動する。このようなガイドピン31とガイド溝32とが摺動する際に、例えばガイドピン31やガイド溝32が削られ、そのカスが異物として噛み込まれると、第2圧力室52のオイルを大気開放しても吐出ポート3からのオイルの吐出量が最大とならない場合がある。
【0039】
すなわち、ガイドピン31とガイド溝32との間で異物が噛み込まれると、調整リング14が図1図2に示されるような位置に移動することができない。よって、一義的に定まる所期の要求油圧を実現することができず、油圧が上がったり下がったりするといった現象が生じる。このため、このような状態においてエンジンEを再始動すると、要求油圧を供給することができず、エンジンEが始動できなくなる可能性がある。
【0040】
そこで、本オイルポンプ100は、エンジンEに対して停止指令があった際に、当該エンジンEを停止する前に、オイルポンプ100の吐出量を最大にするよう構成されている。このような制御は駆動力制御部16が行う。
【0041】
すなわち、駆動力制御部16は、エンジンEの停止指示があった時は当該エンジンEの停止前に吐出ポート3から吐出されるオイルの圧力を最大限にするよう電磁弁Vを制御する。本実施形態ではエンジンEの停止指示があった時は、エンジンEの回転力が伝達されるトランスミッション機構TMにおいて前進走行用でないギヤ段が選択された状態となった時が相当する。前進走行用でないギヤ段とは、トランスミッション機構TMがマニュアルトランスミッション式である場合には「ニュートラルギヤ」や「リバースギヤ」であり、トランスミッション機構TMがオートマチックトランスミッション式である場合には、「ニュートラルギヤ」や「リバースギヤ」や「パーキングギヤ」である。このようなギヤ段が選択されたか否かは、シフト位置検出部18により検出され、その検出結果が駆動力制御部16に伝達される。
【0042】
吐出ポート3から吐出されるオイルの圧力を最大限にするとは、吐出ポート3から吐出されるオイルの量を最大限にすることを意味し、図1における状態となることをいう。したがって、駆動力制御部16は、上述した前進走行用でないギヤ段が選択されると、吐出ポート3から吐出されるオイルが最大となるように、図1の状態になるよう制御し、その後、エンジンEが停止されるようにする。これにより、エンジンEの停止前に、仮にガイド部Gにおいて異物が生じた場合でも、吸引ポート2及び吐出ポート3の何れかに排出することができる。したがって、図1の状態に調整リング14を移行した上で、エンジンEを停止するので、エンジンEを再始動しようとした際に、円滑に始動することが可能となる。
【0043】
また、仮にエンジンEの始動前にガイド部Gから異物が排出されなかった場合でも、極力、吐出ポート3から吐出されるオイルの量を最大となる位置に調整リング14を移行することができる。よって、エンジンEを再始動する際に、オイルの量が増加した状態となり、エンジンEが始動不可となるのを避けることができる。
【0044】
次に、オイルポンプ100の制御を図3のフローチャートを用いて説明する。
車両が走行を中止すると(ステップ#1:Yes)、シフト位置検出部18によりトランスミッション機構TMにおいて選択されているギヤ段の検出が行われる(ステップ#2)。
【0045】
36)。
この時、前進走行用のギヤ段が選択されている場合には(ステップ#3:Yes)、駆動力制御部16はオイルポンプ100から吐出されるオイルの圧力を適正油圧に可変しながら制御する(ステップ#4)。車両は走行を継続し(ステップ#5)、ステップ#1に戻り処理が継続される。
【0046】
ステップ#3において、前進走行用のギヤ段が選択されていない場合には(ステップ#3:No)、駆動力制御部16はオイルポンプ100から吐出されるオイルが最大側となる高圧制御モードに制御する(ステップ#6)。この制御後、エンジンEが停止され(ステップ#7)、処理が終了する。
【0047】
このようにオイルポンプ100は当該オイルポンプ100の動力源であるエンジンEの停止前に吐出量を最大側になるように制御することにより、仮にオイルポンプ100の運転中にガイド部Gに異物が存在していたとしても、エンジンEの停止前にガイド部Gから異物を排出することができる。したがって、ガイド部Gにおける異物の噛み込みを防止することができるので、その後のエンジンEの始動不良を防止することが可能となる。
【0048】
〔その他の実施形態〕
上記実施形態では、駆動力制御部16が吐出ポート3からのオイルの吐出圧に基づき電磁弁Vを制御するとして説明したが、吐出ポート3からのオイルの吐出圧に代えて、エンジンEの回転数やオイルポンプ100の回転数で制御しても良いし、他の方法で制御しても良い。
【0049】
上記実施形態では、エンジンEの停止指示がトランスミッション機構TMにおいて前進走行用でないギヤ段が選択された状態であるとして説明したが、エンジン停止ボタンが押下された状態とすることも可能であるし、エンジンキーをオフにされた状態でも良い。この場合、エンジン停止ボタンが押下された時点や、エンジンキーがオフにされた時点から、オイルポンプ100が吐出ポート3のオイルの吐出量が最大側となるように、調整リング14が作動することができるよう所定時間だけエンジンEの停止を遅延させると好適である。
【0050】
本発明は、可変容量型のオイルポンプに用いることが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1:ケーシング
2:吸引ポート
3:吐出ポート
12:インナーロータ
12A:外歯
13:アウターロータ
13A:内歯
14:調整リング
16:駆動力制御部
100:オイルポンプ
50:操作部
E:エンジン
G:ガイド部
TM:トランスミッション機構
X:第1回転軸心
Y:第2回転軸心
図1
図2
図3