(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6275097
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】レンズ成型用金型
(51)【国際特許分類】
B29C 33/02 20060101AFI20180129BHJP
B29C 45/73 20060101ALI20180129BHJP
B29L 11/00 20060101ALN20180129BHJP
【FI】
B29C33/02
B29C45/73
B29L11:00
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-200642(P2015-200642)
(22)【出願日】2015年10月9日
(65)【公開番号】特開2017-71166(P2017-71166A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2017年6月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000146087
【氏名又は名称】株式会社松浦機械製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100084696
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 直人
(72)【発明者】
【氏名】松原 英人
(72)【発明者】
【氏名】田中 隆三
【審査官】
今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−080035(JP,A)
【文献】
実開平02−015321(JP,U)
【文献】
特開2005−231197(JP,A)
【文献】
特開平09−011238(JP,A)
【文献】
特開平10−081526(JP,A)
【文献】
特開2003−245961(JP,A)
【文献】
特開2008−238687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/02
B29C 45/73
C03B 17/00
B29L 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出装置から射出される溶融プラスチック又は溶融ガラスを通過するスプール、当該スプールから分岐して延設されている複数本のランナーを、ゲートを介して接続している複数個のレンズ成型用キャビティを備えているレンズ成型用金型において、各前記キャビティの表面側及び裏面側の近傍に当該キャビティの外周及び当該外周の内側の一部領域に面した状態にて一巡している各冷却パイプ、又は前記外周及び当該外周の内側の全部領域に面した状態にて当該領域をカバーしている各冷却空洞部が、当該レンズ成型用金型の外側に位置している冷却水循環装置の循環開始端側及び循環終端側と各冷却水ランナー及び当該各冷却水ランナーと接続している冷却水スプールを介して連通しており、各前記キャビティの表面側及び裏面側に配置されている各冷却パイプ又は各冷却空洞部が、各表面側及び各裏面側が各連結パイプによって相互に接続された状態としたうえで、表面側にて、冷却水循環装置の循環開始端側と連通し、裏面側にて、冷却水循環装置の循環終端側と連通しているレンズ成型用金型。
【請求項2】
各前記キャビティと各ランナーとを接続している各ゲートの近傍に、各ゲート冷却用パイプを前記レンズ成型用金型の外側に位置しているゲート用冷却水循環装置に対し、循環開始端側及び循環終端側の双方において連通した状態にて配設している請求項1記載のレンズ成型用金型。
【請求項3】
各ゲート冷却用パイプが、各ランナー及び各ゲートの周囲において螺旋状を形成していることを特徴とする請求項2記載のレンズ成型用金型。
【請求項4】
各ゲート冷却用パイプが、供水側との連通部分及び排水側との連通部分の双方において各ランナーと平行状態を形成し、かつ各ゲートと交差状態を形成していることを特徴とする請求項2記載のレンズ成型用金型。
【請求項5】
各前記キャビティを形成する領域のうち、各ゲートとの接合位置及び当該接合位置から最も離れた状態にある当該キャビティの他の位置の温度を測定し、双方の温度が等しくなるように冷却水循環装置及びゲート用冷却水循環装置における各冷却水の温度及び/又は各冷却水の循環量を設定することを特徴とする請求項2、3、4の何れか一項に記載のレンズ成型用金型における冷却温度制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、均一な冷却を可能とする複数個のレンズを対象とするレンズ成型用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レンズの金型成型を効率的に推進するには、溶融状態にある透明又は半透明のプラスチック又はガラスを収容しているレンズ成型用キャビティの周囲を冷却することを必要不可欠としている。
【0003】
上記冷却の場合には、レンズ成型用キャビティの周囲を均一に冷却することが好ましい。
【0004】
逆に、不均一な冷却が行われた場合には、レンズ内部の歪み応力の分布が不均等な状態と化し、ひいては、光学素子として不良製品という評価を免れることができない。
【0005】
複数個のレンズを一挙に成型する場合には、例えば特許文献1に示すように、射出装置から射出される溶融プラスチック又は溶融ガラスを通過するスプール、当該スプールを中心として半径方向に延設されている複数本のランナーを、ゲートを介して接続している複数個のレンズ成型用キャビティを備えているレンズ成型用金型が採用されている。
【0006】
しかしながら、均一な冷却を実現するようなレンズ成型用金型の構成は、これまで提唱されていない。
【0007】
特に、上記のような複数のレンズを一挙に成型することができるレンズ成型用金型において、複数の各レンズにつき均一な冷却を実現する技術的手法については、何ら技術的課題とされていない状況にある。
【0008】
因みに、特許文献1においては、成型後の冷却工程が必要であることが記載されているが、冷却に関する具体的な構成を開示しておらず、ましてや、均一な冷却を実現するための構成等全く示唆していない。
【0009】
特許文献2は、固定側金型7及び稼動側金型8に、それぞれ温度調節水管14を貫通させることによって冷却可能な金型による光学素子の成形方法の構成を開示しており、当該構成を、複数個のレンズの成型を実現する構成に適用することも不可能ではない。
【0010】
しかしながら、特許文献2においては、均一な冷却を実現するために、前記温度調節水管14をどのように配置すべきかについて全く考察が行われていない。
同様に、特許文献3もまた、レンズ4の成型に寄与している可動型入れ駒5に対し、上下両側からのタンク式冷却孔2による冷却機構が採用されているが、可動型入れ駒5に対する均一な冷却を実現するための具体的な考察、更には技術上の創作は全く行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−211497号公報
【特許文献2】特開2012−240250号公報
【特許文献3】特開平7−266391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、複数個の均一な冷却を可能とするレンズ成型用金型の基本構成を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明の基本構成は、
(1)射出装置から射出される溶融プラスチック又は溶融ガラスを通過するスプール、当該スプールから分岐して延設されている複数本のランナーを、ゲートを介して接続している複数個のレンズ成型用キャビティを備えているレンズ成型用金型において、
各前記キャビティの表面側及び裏面側の近傍に当該キャビティの外周及び当該外周の内側の一部領域に面した状態にて一巡している
各冷却パイプ、又は前記外周及び当該外周の内側の全部領域に面した状態にて当該領域をカバーしている
各冷却空洞部が、当該レンズ成型用金型の外側に位置している冷却水循環装置の循環開始端側及び循環終端側と
各冷却水ランナー及び当該各冷却水ランナーと接続している冷却水スプールを介して連通して
おり、各前記キャビティの表面側及び裏面側に配置されている各冷却パイプ又は各冷却空洞部が、各表面側及び各裏面側が各連結パイプによって相互に接続された状態としたうえで、表面側にて、冷却水循環装置の循環開始端側と連通し、裏面側にて、冷却水循環装置の循環終端側と連通しているレンズ成型用金型、
(2)
各前記キャビティと各ランナーとを接続している各ゲートの近傍に、
各ゲート冷却用パイプを前記レンズ成型用金型の外側に位置しているゲート用冷却水循環装置に対し、循環開始端側及び循環終端側の双方において連通した状態にて配設している前記(1)のレンズ成型用金型、
からなる。
【発明の効果】
【0014】
前記基本構成(1)、(2)に基づく本発明においては、レンズの表面側及び裏面側を一様に冷却し得る一方、レンズと
各ランナーとが接続している
各ゲートの領域をも冷却することによって、更に一様な冷却を可能とし、ひいては、内部歪みが少なく、一様な屈折率を可能とするような凸レンズ又は凹レンズを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】写真の投影によって、スプール、ランナー、レンズ成型用キャビティの接続関係を示す見取り図である。
【
図2】レンズ成型用キャビティの表面側及び裏面側を冷却している状態を示す側断面図及び平面図であって、(a)は、冷却パイプを配置した構成を示しており、(b)は、冷却空洞部を配置した構成を示す。
【
図3】
基本構成(1)を示しており、(a)は、全体の平面図であって、(b)は、当該平面図の一部の領域に対応する側面図である。
【
図4】
基本構成(2)のゲート冷却用パイプを示しており、(a)は、螺旋状パイプを形成している実施形態を示しており、(b)は、循環開始端側及び循環終端側の双方のレンズ部分において
各ランナーと平行状態を形成し、かつ
各ゲートと交差する状態を形成している実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のレンズ成型用金型1は、
図1に示すように、射出装置(図示せず)から射出される溶融プラスチック又は溶融ガラスを通過するスプール31、当該スプール31を中心として半径方向に分岐して延設されている複数本の
各ランナー32を、
各ゲート33を介して接続している複数個のレンズ成型用キャビティ2を備えていることを技術的前提としている。
【0017】
即ち、成型素材である溶融したプラスチック又は溶融したガラスを射出装置からの加圧によって、1本のスプール→複数本の
各ランナー→複数個の
各レンズ成型用キャビティという順序によって供給し、一挙に複数個のレンズの成型を可能としている。
【0018】
レンズの表面側及び裏面側を均一に冷却するために、基本構成(1)においては、
前記キャビティ2の表面側及び裏面側の近傍に、
図2(a)に示すように、当該キャビティ2の外周及び当該外周の内側の一部領域に面した状態にて一巡している冷却パイプ41、又は
図2(b)に示すように、前記外周及び当該外周の内側の全部領域に面した状態にて当該領域をカバーしている冷却空洞部42を、レンズ成型用金型1の外側に位置している冷却水循環装置に対し、循環開始端側及び循環終端側の双方において連通した状態にて配設している(尚、
図2(a)は、レンズが凸レンズの場合を示しており、
図2(b)は、レンズが凹レンズの場合を示すが、その逆の場合も当然実施可能である。)。
【0019】
尚、前記のように、冷却パイプ41は、
前記キャビティ2の周囲及び当該周囲の内側の一部領域に面した状態にあり、かつ冷却空洞部42は、
前記キャビティ2の周囲及び当該周囲の内側の全部領域に面した状態にあるが、
図2(a)、(b)に示すように、冷却パイプ41及び冷却空洞部42は、
前記キャビティ2の周囲より外側領域に存在するような状態とする設計も当然採用可能である。
【0020】
即ち、当該外側領域に面した状態にある設計の場合にも、周囲及び当該周囲の内側の一部領域又は内側の全部領域に対し一様な冷却を実現することができる。
【0021】
本発明において成型の対象となるレンズは、表面及び裏面からの冷却によって全体が冷却可能となる以上、表面と裏面の幅よりも、表面及び裏面の径の方が大きい板状のレンズを成型の対象とすることが効果的であって、例えば、円筒状レンズのように、前記厚みの方が表面及び裏面の厚みよりも大きいような特殊形態のレンズは成型の対象とすることは必ずしも効果的ではない。
【0022】
図2(a)、(b)においては、
前記キャビティ2とレンズの形状とが同一である実施形態を示すが、例えば特許文献1に示すように、レンズ成型領域(有効レンズ領域)の外周部に鍔状の鍔領域(コバ領域)を設け、後の切断によって正確な外周部の成型を実現する実施形態も採用することができる。
【0023】
冷却空洞部42は、
前記キャビティ2の表面側及び裏面側において、平坦面を形成する実施形態だけでなく、レンズの表面及び裏面と平行状態の面を形成する実施形態の何れをも採用可能である。
【0024】
発明者の経験では、冷却空洞部42として、前記平行状態の面による実施形態の方が、平坦面による実施形態よりも確実に均一な冷却を保証する訳ではなく、何れがより均一な冷却を実現するかは、レンズの形状及び冷却温度によって左右され、ケースバイケースであるのが偽らざる実状である。
【0025】
更には、
図2(a)に示す冷却パイプ41の方が、
図2(b)に示す冷却空洞部42の場合よりも、冷却における均一の程度がより著しいという傾向にあるが、その根拠は、必ずしも明らかではない。
【0026】
但し、冷却パイプ41の場合には、当該パイプ41の内側領域から当該パイプ41への熱の拡散が略均一に行われ、その結果、表面側及び裏面側からレンズを均一に冷却し得るのに対し、面状態で冷却している冷却空洞部42の場合には、レンズの外側よりも内側の方が冷却の程度が大きいという状態が生じ易いという根拠を推定することができる。
【0027】
このように、基本構成(1)においては、レンズの表面側及び裏面側に対し、
図2(a)、(b)に示すように、冷却パイプ41及び冷却空洞部42を冷却水循環装置(図示せず)と連通した状態にて配置することによって、レンズの殆どの領域を均一に冷却することが可能となる。
【0028】
基本構成(1)においては、更に図
3(a)、(b)に示すように、
各前記キャビティ2の表面側及び裏面側に配置されている各冷却パイプ41又は各冷却空洞部42が、各表面側及び各裏面側が
各連結パイプ5によって相互に接続された状態としたうえで、表面側にて、冷却水循環装置の循環開始端側と
各冷却水ランナー62及び当該各冷却水ランナー62と接続している冷却水スプール61を介して連通し、裏面側にて、冷却水循環装置の循環終端側と
各冷却水ランナー62及び当該各冷却水ランナー62と接続している冷却水スプール61を介して連通している
。
【0029】
このような連通状態によって、各冷却パイプ41又は各冷却空洞部42の冷却温度を均一の状態とすることが可能である一方、
各連結パイプ5の採用によってシンプルな構成を実現することができる。
【0030】
基本構成(1)の冷却を行った場合、レンズの各領域のうち、特に
各ゲート33との接合部及び近傍領域は、
各ランナー32に溶融状態のプラスチック又は溶融状態のガラスが残存しているため、冷却の程度が低く、その結果、
各ゲート33との接合部及びその近傍によって局所的な歪みが発生することを否定することができない。
【0031】
この点を考慮し、基本構成(2)においては、レンズの表面側及び裏面側における冷却だけでなく、各レンズ成型用キャビティ2と各ランナー32とを接続している各ゲート33の近傍に、
各ゲート冷却用パイプ7をレンズ成型用金型1の外側に位置しているゲート用冷却水循環装置に対し、循環開始端側及び循環終端側の双方において連通した状態にて配設している。
【0032】
このような
各ゲート冷却用パイプ7を設けている基本構成(2)によって、
各ゲート33との接合部及びその近傍を含むレンズの全領域において均一な冷却が可能となる。
【0033】
各ゲート冷却用パイプ7としては、図
4(a)に示すように、
各ランナー32及び
各ゲート33の周囲において螺旋状を形成している実施形態、又は図
4(b)に示すように、供水側との連通部分及び排水側との連通部分の双方において
各ランナー32と平行状態を形成し、かつ
各ゲート33と交差状態を形成している実施形態の何れも採用可能である。
【0034】
図
4(a)、(b)に示す各実施形態は、何れも各ランナー32の周囲にて溶融したプラスチック又は溶融したガラスを速やかに冷却することによって、
各前記キャビティ2の
各ゲート33との接続部及びその近傍につき、他の領域と均一の温度を形成することに寄与することができる。
【0035】
具体的な温度測定を伴った温度条件の設定につき、以下のとおり、実施例に即して説明する。
【実施例】
【0036】
各ゲート33との接合部及びその近傍につき、他の領域と均一な冷却を実現するためには、前記接合部及びその近傍の温度と他の領域の単数又は複数の所定位置における温度を測定しながら、冷却水循環装置及びゲート用冷却水循環装置における各冷却水の温度及び/又は冷却水の循環量を順次設定し、双方の温度が等しくなるような条件を試行錯誤によって把握することにならざるを得ない。
【0037】
上記把握に立脚したうえで、
各ゲート33との接合位置及び当該接合位置から最も離れた状態にある当該キャビティ2の他の位置の温度を測定し、双方の温度が等しくなるように冷却水循環装置及びゲート用冷却水循環装置における各冷却水の温度及び/又は各冷却水の循環量を設定する実施形態の場合には、極めて効率的に温度条件の設定を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、レンズ成型用キャビティに対する均一な冷却によって、内部歪みが少なく、かつ均一な屈折率を有するレンズを効率的に成型することが可能であり、レンズの成型において広範な利用形態を実現することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 レンズ成型用金型
2 レンズ成型用キャビティ
31 スプール
32 ランナー
33 ゲート
41 冷却パイプ
42 冷却空洞部
5 連結パイプ
61 冷却水スプール
62 冷却水ランナー
7 ゲート冷却用パイプ