特許第6275102号(P6275102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6275102-可撓性ヒゲ玉 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6275102
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】可撓性ヒゲ玉
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/32 20060101AFI20180129BHJP
【FI】
   G04B17/32
【請求項の数】10
【外国語出願】
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-222829(P2015-222829)
(22)【出願日】2015年11月13日
(65)【公開番号】特開2016-99350(P2016-99350A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2015年12月21日
(31)【優先権主張番号】14194118.7
(32)【優先日】2014年11月20日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス−ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】マルク・ストランツル
【審査官】 榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−300532(JP,A)
【文献】 特表2009−537813(JP,A)
【文献】 実開昭54−166361(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/00 − 34
G04B 18/06
G04C 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒゲゼンマイ(2)と天真(4)を支えるための通路(10)との取付点(S1)を含む等しい幅のシリコンで形成される時計ヒゲ玉(1)であって、
前記通路(10)は卵形であり、前記通路(10)の軸線に垂直な平面(9)で弾性的に変形し、前記天真(4)を前記通路(10)に嵌入するとき、前記通路(10)の内壁高に広がる少なくとも2本の接触線(11a、11b、11c)により前記天真(4)を弾性的に締め付けるように形成され、
前記天真(4)と前記ヒゲ玉(1)間の凹部(10a、10b、10c)における距離は、0〜50μmである、
ことを特徴とする時計ヒゲ玉(1)。
【請求項2】
前記接触線(11a、11b、11c)は3本であり、該3本の接触線は開口角度α、β、θを有し、前記接触線の1本は前記ヒゲゼンマイへの前記取付点(S1)の正反対に位置する、請求項1に記載のヒゲ玉(1)。
【請求項3】
前記開口角度α、β、θは90°より大きい、請求項2に記載のヒゲ玉(1)。
【請求項4】
前記開口角度α、β、θは120°に等しい、請求項2に記載のヒゲ玉(1)。
【請求項5】
前記天真(4)と前記ヒゲ玉(1)間の凹部(10a、10b、10c)における距離は、0から前記天真(4)径の4分の1である、請求項1に記載のヒゲ玉(1)。
【請求項6】
ヒゲ玉が可変部分を含む請求項1に記載のヒゲ玉(1)。
【請求項7】
請求項1に記載のヒゲ玉(1)を含むヒゲ玉/ヒゲゼンマイ一体型アセンブリ。
【請求項8】
前記ヒゲ玉(1)および前記ヒゲゼンマイ(2)はシリコンで作られる、請求項に記載のヒゲ玉/ヒゲゼンマイ一体型アセンブリ。
【請求項9】
前記ヒゲ玉(1)および前記ヒゲゼンマイ(2)は塑性変形のない原料で作られる、請求項に記載のヒゲ玉/ヒゲゼンマイ一体型アセンブリ。
【請求項10】
請求項に記載のヒゲ玉/ヒゲゼンマイ一体型アセンブリを含む、時計ムーブメントまたは時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軸に固定される弾性ヒゲ玉に関する。また、本発明はヒゲゼンマイ/弾性ヒゲ玉一体型アセンブリ、および当該一体型アセンブリの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ヒゲゼンマイはヒゲ玉により天真に位置し、ヒゲ玉は天真を押さえ、ヒゲゼンマイの内端を受けるよう側面が貫通した環状形状をとる。また、天真をヒゲ玉に溶接しても、はんだづけしてもよい。シリコンDRIE法などの微細加工技術の開発は、新規の外形および幾何学的形状を有するヒゲ玉の製造を可能にしてきた。特に、ヒゲゼンマイと一体型のヒゲ玉を作成することができる。
【0003】
シリコンはヒゲゼンマイ製造に多数の利点を示す原料であり、微細加工技術はヒゲゼンマイ/ヒゲ玉一体型アセンブリの形成を可能にする。シリコンの主な欠点は、塑性変形を有さないことである。このようにヒゲ玉は、応力が弾性限界を超えると簡単に破損することがある。したがって、振動子の動作時、ヒゲゼンマイを天真に保持するように(最小締め付けトルク)、また天真の径およびヒゲ玉の幾何学的変化が所定の許容差範囲内であれば、ヒゲ玉を破損すること(または塑性変形を経ること)なく軸に取り付けられるように、ヒゲ玉の寸法を合わせなければならない。
【0004】
欧州特許第1513029号および欧州特許第2003523号は、三角形の開口を有するヒゲ玉を提案している。三角形の頂点の1つに位置する取付点で、ヒゲゼンマイを固定する。ヒゲ玉は、天真を収容するように変形する可撓性アームが付属した外部補剛構造で形成される。
【0005】
国際公開第2011026725号により、ヒゲゼンマイ−ヒゲ玉アセンブリも知られており、ヒゲ玉は天真を受ける4つの円形支持部を備えた孔を有する。この支持部はヒゲ玉の孔に作成された長手方向の溝により画定される。
【0006】
これらの文献に記載された幾何学的形状は完全に満足のいくものではないため、ムーブメントに据え付ける(シリコン、ダイアモンド、クオーツ…で作られた)ヒゲゼンマイの多くに、天真に接着するヒゲ玉接着剤が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許第1513029号
【特許文献2】欧州特許第2003523号
【特許文献3】国際公開第2011026725号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記欠点のすべてまたは一部を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、本発明はヒゲゼンマイと天真を受ける通路または開口部との取付点を含む時計ヒゲ玉に関する。
【0010】
本発明によれば、通路は実質的に円筒形状であり、通路の軸線に垂直な平面で弾性的に変形し、天真を通路に嵌入するとき、通路の内壁高に広がる少なくとも2本の接触線により天真を弾性的に締め付けるように形成される。
【0011】
したがって、当該ヒゲ玉は天真にヒゲ玉を締め付ける、定格保持トルクを超える変形力で、圧入力および保持トルクを最適化することができると理解される。
【0012】
本発明の1つの利点は、ヒゲ玉全体が変形し、背景技術のヒゲ玉と違って、ヒゲ玉が突出部または他の剛部を有さないことである。本発明の場合、ヒゲ玉の取付点を除いて、事実上ヒゲ玉全体が変形する。
【0013】
本発明の他の有益な変形体に一致して:
− 通路は卵形である;
− 3本の接触線は開口角度α、β、θを有し、接触線のうちの1本がヒゲゼンマイへの取付点の正反対に位置する;
− 開口角度α、β、θは90°より大きい;
− 開口角度α、β、θは120°に等しい;
− 凹部における天真とヒゲ玉間の距離は、0から天真径の4分の1、より好ましくは0〜50μmである;
− ヒゲ玉は可変部分のものである。
【0014】
また、本発明は本発明によるヒゲ玉を含むヒゲ玉/ヒゲゼンマイ一体型アセンブリに関する。
【0015】
本発明の他の有益な変形体に一致して:
− ヒゲ玉およびヒゲゼンマイはシリコンで作られる;
− ヒゲ玉およびヒゲゼンマイは塑性変形のない原料で作られる。
【0016】
また、本発明は本発明によるヒゲ玉/ヒゲゼンマイアセンブリを含む時計ムーブメントまたは時計に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
他の特徴および利点は、付図を参照しつつ、非限定的な例として挙げた以下の記述から明らかになるであろう。
図1図1はヒゲ玉が弾性的に変形する図である。
図2図2は本発明によるヒゲ玉/ヒゲゼンマイアセンブリの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以上説明したように、本発明は有効塑性域を有さない、すなわち非常に限定された塑性域を有する原料で作られたヒゲ玉に関する。
【0019】
図2に示すヒゲ玉/ヒゲゼンマイアセンブリは、単一の一体型部品に作られ、通常はシリコンで作られる。これはヒゲ玉1、およびヒゲゼンマイ内端20によってヒゲ玉1の外周の取付点S1に取り付けられたヒゲゼンマイ2を含む。天真4にヒゲ玉1を押し込むことにより、ヒゲ玉/ヒゲゼンマイアセンブリを円形部分の天真4に保持する。
【0020】
ヒゲ玉1は実質的に円筒形状の通路10を含み、通路10の軸線に垂直な平面Pで弾性的に変形し、こうして天真4を受け、弾性的に締め付けるように形成される。可撓性通路10は卵形、より好ましくは「三角−楕円形」であり、天真4との少なくとも2本の接触線を含む。
【0021】
図に示す好ましい実施形態によれば、可撓性通路10は三角−楕円形であり、天真4との3本の接触線11a、11bおよび11cを有し、3本の接触線は例えば正三角形を形成する。天真4との3本の接触線11a、11b、11cは、その間に角度α、βおよびθを形成する。
【0022】
接触線11a、11bおよび11cは、ヒゲ玉1と天真4間の凹部10a、10bおよび10cを画定し、これらの凹部10a、10bおよび10cは非接触領域である。
【0023】
図1で認められるように、接触線の1本はヒゲゼンマイ2への取付点の正反対に位置するため、ヒゲ玉1は取付点で変形を受けず、ヒゲ玉1が所定の位置に置かれたとき、ヒゲゼンマイ2の取付点の位置は変わらない。
【0024】
本発明によれば、3本の接触線11a、11bおよび11cはその間に角度を形成し、好ましくは90°より大きく、より好ましくは150°未満であり、ここでは実質的に120°に等しい。
【0025】
弾性変形の影響下、通路10は接触線11a、11b、11cで、天真と接触した通路の内壁を戻す弾性回復力を発揮する。
【0026】
本発明によれば、凹部10a、10bおよび10cにおける、天真4とヒゲ玉1間の距離は0より大きい。したがって、3本の接触線11a、11bおよび11cでは締付力があるが、凹部10a、10bおよび10cでは締付力はない。
【0027】
凹部10a、10bおよび10cでの天真4とヒゲ玉1間の距離は、0から天真4径の4分の1であることがが好ましい。凹部10a、10bおよび10cでの天真4とヒゲ玉1間の距離は、0〜50μmであることが、さらにより好ましい。
【0028】
締付力を接触線11a、11bおよび11cに付与するとき、天真4とヒゲ玉1間の距離は、少量のあそびを確保するのが都合がよい。
【0029】
この配置は、天真4に対するヒゲ玉1の通路10の支持範囲を最大にする特有の利点を有する一方、原料の最大許容応力より低い応力レベルで、天真4で十分な保持トルクを確保する。有利なことに、支持範囲が大きいほど、保持トルクは高くなる。
【0030】
通路10への天真4による最大応力が、ヒゲ玉1を形成する原料の弾性限界より低くなるように、ヒゲ玉1が天真4の製作公差に適合するように、また天真4に対するヒゲ玉1の保持(回転トルク、圧入力)が適切であるように、厚みを決定する。
【0031】
図2に示すように、ヒゲゼンマイ2はストリップ3を含み、ストリップ3はコイル状にそれ自体に巻き付き、ヒゲゼンマイ内端20はヒゲ玉1と一体である。
【0032】
図2からわかるように、ヒゲゼンマイ内端20とヒゲ玉1間の取付点S1は、ヒゲ玉1に位置する。なお、ヒゲ玉1はヒゲ玉1の中心Cと取付点S1を通過する軸Aに対して対称である。
【0033】
本発明の好ましい実施形態によれば、ヒゲ玉1およびヒゲゼンマイ2はシリコンで作られる。
【0034】
本発明の別の実施形態によれば、ヒゲ玉1およびヒゲゼンマイ2は、単結晶シリコン、多結晶シリコン、多孔質シリコン、アモルファスシリコン、ドープ単結晶シリコン、ドープ多結晶シリコン、ドープもしくは非ドープシリコンカーバイド、ドープもしくは非ドープ窒化ケイ素、ドープもしくは非ドープの石英もしくはシリカなどの酸化ケイ素、またはセラミックなど、塑性変形のない原料で形成する。
【0035】
ヒゲ玉1およびヒゲゼンマイ2を、アモルファス金属などの原料で作ってもよい。
【0036】
当然、本発明は図示した例に限定されないが、当業者に明らかな様々な変形や変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0037】
1 ヒゲ玉
10 通路
10a 凹部
10b 凹部
10c 凹部
11a 接触線
11b 接触線
11c 接触線
2 ヒゲゼンマイ
3 ヒゲゼンマイストリップ
4 天真
α 角度
β 角度
θ 角度
S1 取付点
C ヒゲ玉の中心
Da 天真径
図1
図2