特許第6275154号(P6275154)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6275154硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物を調製するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6275154
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物を調製するための方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 319/26 20060101AFI20180129BHJP
   C07C 319/20 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   C07C319/26
   C07C319/20
【請求項の数】15
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-543071(P2015-543071)
(86)(22)【出願日】2013年10月29日
(65)【公表番号】特表2015-535009(P2015-535009A)
(43)【公表日】2015年12月7日
(86)【国際出願番号】US2013067188
(87)【国際公開番号】WO2014081538
(87)【国際公開日】20140530
【審査請求日】2016年10月20日
(31)【優先権主張番号】13/682,172
(32)【優先日】2012年11月20日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】598037547
【氏名又は名称】シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マシュー、セドリック
(72)【発明者】
【氏名】ダッタ、リチャード プラン
(72)【発明者】
【氏名】キャンベル、カーティス ビー.
【審査官】 水野 浩之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−075085(JP,A)
【文献】 特開平11−012588(JP,A)
【文献】 特開平07−238291(JP,A)
【文献】 特開平08−193041(JP,A)
【文献】 特開2009−018255(JP,A)
【文献】 特表平09−506904(JP,A)
【文献】 特開昭63−128099(JP,A)
【文献】 特開2009−132719(JP,A)
【文献】 欧州特許第02065367(EP,B1)
【文献】 特開平07−267921(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/066115(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0124539(US,A1)
【文献】 特開平07−150180(JP,A)
【文献】 特開平03−166294(JP,A)
【文献】 特開2007−039457(JP,A)
【文献】 欧州特許第02295405(EP,B1)
【文献】 特表2015−503567(JP,A)
【文献】 特表2014−533316(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0123157(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低減された含量の未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を有する、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物を調製するための方法であって、
(a)(i)硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の塩、(ii)未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及び(iii)アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の未硫化金属塩を含む組成物であり、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物が、プロピレン、ブチレン又はこれらの混合物から選択されるモノマーのC〜C18オリゴマーを含む1つ又は複数のオレフィンによるヒドロキシ芳香族化合物のアルキル化に由来する、前記組成物を提供するステップ、
(b)次いで、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の未硫化金属塩をプロトン化することができる有効量の酸性化合物を、ステップ(a)で得られた組成物に加えることによって、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の未硫化金属塩をプロトン化するステップ、並びに、
(c)未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物、及びアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のプロトン化済み未硫化金属塩を前記組成物から除去するステップ
を含
ステップ(c)で得られた硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物が、2.45重量%以下の未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその金属塩を含む、上記方法。
【請求項2】
ヒドロキシ芳香族化合物がフェノールであり、C〜C18オリゴマーを含む1つ又は複数のオレフィンが、C〜C18プロピレンオリゴマーを含む1つ又は複数のオレフィンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(a)において提供された硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物が、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩を含む組成物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
酸性化合物が、飽和又は不飽和カルボン酸である、請求項1から3までに記載の方法。
【請求項5】
飽和又は不飽和カルボン酸が、飽和又は不飽和脂肪族モノカルボン酸、飽和又は不飽和脂環式モノカルボン酸、飽和又は不飽和芳香族モノカルボン酸、飽和又は不飽和脂肪族ジカルボン酸、飽和又は不飽和脂環式ジカルボン酸、飽和又は不飽和芳香族ジカルボン酸、飽和又は不飽和脂肪族トリカルボン酸、飽和又は不飽和脂環式トリカルボン酸、飽和又は不飽和芳香族トリカルボン酸、及びこれらの混合物から成る群より選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
飽和又は不飽和カルボン酸が、ギ酸、酢酸、フェニル酢酸、プロピオン酸、アラニン、酪酸、ヒドロキシ酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、2−メチルプロピオン酸、2−メチル酪酸、3−メチル酪酸、2−メチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、2−プロピルヘプタン酸、ピバル酸、ネオノナン酸、ネオデカン酸、ネオトリデカン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸(linolic acid)、オレイン酸、ラウリン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸及びこれらの混合物から成る群より選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
飽和又は不飽和カルボン酸が、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、トリデシル酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、ミリストレイン酸、オレイン酸、アラキドン酸、リノール酸(linoleic acid)及びこれらの混合物から成る群より選択されるC〜C22直鎖状飽和又は不飽和モノカルボン酸である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
飽和又は不飽和カルボン酸が、安息香酸、ニトロ安息香酸、サリチル酸、3−ヒドロキシ安息香酸及び4−ヒドロキシ安息香酸から選択されるモノヒドロキシ安息香酸、アルキルヒドロキシ安息香酸、クロロ安息香酸、メトキシ安息香酸、t−ブチル安息香酸、メチル安息香酸、フェニル酢酸、3−フェニルプロピオン酸、4−フェニル酪酸、3−(p−クロロフェニル)ブタン酸及びこれらの混合物から成る群より選択される芳香族モノカルボン酸である、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
飽和又は不飽和カルボン酸が、シュウ酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸及びフマル酸から成る群より選択される脂肪族ジカルボン酸である、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
飽和又は不飽和カルボン酸が、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、トラウマチン酸、ムコン酸及びこれらの混合物から成る群より選択される芳香族ジカルボン酸である、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
飽和又は不飽和カルボン酸が、クエン酸、イソクエン酸、アコニット酸(不飽和)、カルバリル酸、メリト酸(ベンゼンヘキサカルボン酸)及びこれらの混合物から成る群より選択されるトリカルボン酸である、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
酸性化合物が、ポリアルケニルコハク酸若しくはその無水物、又は脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸、若しくはこれらの混合物、又はアンモニウム塩である、請求項1から3までに記載の方法。
【請求項13】
酸性化合物の有効量が、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の中性又は過塩基性塩を含む組成物の合計量に基づいて、1wt%から25wt%までである、請求項1から14までに記載の方法。
【請求項14】
未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物、及びアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のプロトン化済み未硫化金属塩を前記組成物から除去するステップが、未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物、及びアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のプロトン化済み未硫化金属塩をステップ(b)の組成物から蒸留することを含む、請求項1から13までに記載の方法。
【請求項15】
ステップ(c)において得られた硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物が、1.5wt%未満の未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその金属塩又は0.3wt%未満の未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその金属塩を含有する、請求項1から14までに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は、2012年11月20日に出願された米国特許非仮出願第13/682,172号に基づく優先権を主張するものであり、参照によりその内容は本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、一般に、低減された含量の未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を有する、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物を調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
潤滑剤用添加剤産業は一般に、硫化金属アルキルフェナートを含む洗浄剤を調製するためにアルキルフェノール(例えば、テトラプロペニルフェノール、TPP)を使用する。硫化アルキルフェノールの金属塩は、洗浄力特性及び分散力特性を船舶用、自動車用、鉄道用及び空気冷却エンジン用の潤滑油組成物に付与し且つオイル中に予備アルカリ度(alkalinity reserve)をもたらす有用な潤滑油添加剤である。予備アルカリ度は、エンジン動作中に発生する酸を中和するために必要である。この予備アルカリ度無しでは、そのようにして発生した酸が、有害なエンジン腐食をもたらすことになる。しかしながら、硫化金属アルキルフェナート中並びに1つ又は複数の硫化金属アルキルフェナートを含有する潤滑油中にはテトラプロペニルフェノール等、ある程度の未反応のアルキルフェノールが存在し得る。
【0004】
米国化学工業協会石油用添加剤委員会(the Petroleum Additives Panel of the American Chemistry Council)により資金提供された最近のラットにおける生殖毒性研究は、遊離した又は未反応のTPPが男性生殖器及び女性生殖器に悪影響を及ぼし得ることを示している。更に、TPPは、皮膚に対して腐食性であり得又は刺激性であり得ると考えられている。
【0005】
米国特許出願公開第20080070818号(「‘818号公報」)は、C〜C15アルキルフェノール、少なくとも1つの硫化剤、少なくとも1つの金属及び少なくとも1つの過塩基性剤から調製された、少なくとも1つの硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤を含み、この洗浄剤が、合算質量により6.0%未満の未硫化C〜C15アルキルフェノール及びその未硫化金属塩を含む、潤滑油組成物を開示している。‘818号公報で開示されている例A及び例Bにおいては、それぞれ、5.58質量%及び3.84質量%の未硫化アルキルフェノール及びその未硫化カルシウム塩を有する過塩基性洗浄剤が得られている。
【0006】
米国特許出願公開第20090143264号(「‘264号公報」)は、低いアルキルフェノール含量を有する硫化金属アルキルフェナート組成物を開示している。‘264号公報の硫化金属アルキルフェナート組成物は、テトラプロペニルフェノール等のフェノール化合物をアルデヒドと反応させてフェノール系樹脂を形成し、次いでフェノール系樹脂を金属塩基及び第1の硫化剤と同時に反応させることにより調製できる。
【0007】
米国特許第4,328,111号(「‘111号特許」)は、硫化フェナートを含む過塩基性フェナートが、一般的に、生成物からの除去が困難なエチレングリコールの存在下で製造され、これにより原材料が無駄になってしまい、時には、最終的生成物中のグリコールに起因して望ましくない副作用が起きることを開示している。’111号特許は、エチレングリコールを除去するために、酸性化合物を過塩基性金属スルホナート、フェナート又はこれらの混合物を含む塩基性化合物と反応させ、次いで反応生成物を窒素ストリップしてエチレングリコールを除去することを更に開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
利用者へのあらゆる潜在的な健康リスクを低減するため及び潜在的な規制の問題を回避するため、簡単で省コストな方法により、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物中での遊離した未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその金属塩の量を低減する必要性がある。したがって、比較的低レベルの未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその金属塩を有する、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物を調製するための改善された方法を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、低減された含量の未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を有する、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物を調製するための方法であって、
【0010】
(a)(i)硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の塩、(ii)未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及び(iii)アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の未硫化金属塩を含む組成物であり、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物が、プロピレン、ブチレン又はこれらの混合物から選択されるモノマーのC〜C18オリゴマーを含む1つ又は複数のオレフィンによるヒドロキシ芳香族化合物のアルキル化に由来する、前記組成物を提供するステップ、
【0011】
(b)アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の未硫化金属塩をプロトン化することができる有効量の酸性化合物によって、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の未硫化金属塩をプロトン化するステップ、並びに、
【0012】
(c)未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のプロトン化済み未硫化金属塩を前記組成物から除去するステップ。
【0013】
本発明の方法は、簡単で省コストな方法により調製でき、比較的低レベルの未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を含有する、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物を有利に提供する。これは、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の塩を含む組成物中の未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩の存在が、それらの有害なエストロゲン様挙動のため及び環境中へのそれらの潜在的な放出の懸念が大きくなっているため望ましくないという点において、予想外の改善である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
好ましい態様の詳細な説明
本発明を更に詳細に論述する前に、下記の用語を規定する。
定義
【0015】
本明細書で使用されるとき、下記の用語は、特に逆の記載がない限り下記の意味を有する。
【0016】
本明細書で使用される「全塩基価」又は「TBN」という用語は、試料1グラム中のKOHのミリグラムに等価な塩基の量を指す。したがって、より高いTBN値はよりアルカリ性の生成物を反映しており、したがって、より大きな予備アルカリ度を反映する。試料のTBNは、2011年5月15日に発行されたASTM試験番号D2896−11又は他の任意の均等な手法により決定することができる。
【0017】
「フェナート」という用語は、フェノールの金属塩を意味する。
【0018】
「アルキルフェナート」という用語は、アルキルフェノールの金属塩を意味する。
【0019】
「アルキルフェノール」という用語は、フェノールに油溶性を付与するのに十分な数の炭素原子をアルキル置換基の少なくとも1つが有する、1つ又は複数のアルキル置換基を有するフェノールを意味する。
【0020】
「石灰」という用語は、消石灰又は水和石灰としても知られている水酸化カルシウムを指す。
【0021】
「金属」という用語は、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はこれらの混合物を意味する。
【0022】
「アルカリ土類金属」という用語は、カルシウム、バリウム、マグネシウム及びストロンチウムを指す。
【0023】
「アルカリ金属」という用語は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムを指す。
【0024】
「金属塩基」という用語は、金属がアルカリ土類金属又はアルカリ金属である、金属水酸化物、金属酸化物、金属アルコキシド並びにこれらの同類物及び混合物を指す。
【0025】
「過塩基性」という用語は、金属塩又は金属錯体の種類を指す。これらの材料は、「塩基性」、「超塩基性」(superbased)、「非常に大きな塩基性」(hyperbased)、「錯体」、「金属錯体」、「高金属含有塩」等とも呼ばれてきた。過塩基性生成物は、金属及び金属と反応する特定の酸性有機化合物、例えばカルボン酸の化学量論に応じて存在するであろう金属含量より過剰な金属含量を特徴とする、金属塩又は金属錯体である。好適な過塩基性金属には、マグネシウム、カルシウム、バリウム及びストロンチウム等のアルカリ土類金属が挙げられる。好適な過塩基性金属は、対応する金属水酸化物からもたらされ得、例えば、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムは、それぞれアルカリ土類金属についてカルシウム及びマグネシウムの供給源を提供する。更なる過塩基化は、酸性の過塩基性化合物、例えば二酸化炭素及びホウ酸の添加により達成することができる。
【0026】
「アルケニルコハク酸又はアルケニルコハク酸無水物」及び「アルキルコハク酸又はアルキルコハク酸無水物」という用語は、互換可能に用いることができる。
【0027】
本発明は、低減された含量の未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を有する、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物を調製するための方法を対象としている。一般に、本発明の方法は、(a)(i)硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の塩、(ii)未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及び(iii)アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の未硫化金属塩を含む組成物であり、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物が、プロピレン、ブチレン又はこれらの混合物から選択されるモノマーのC〜C18オリゴマーを含む1つ又は複数のオレフィンによるヒドロキシ芳香族化合物のアルキル化に由来する、前記組成物を提供するステップ、(b)アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の未硫化金属塩をプロトン化することができる有効量の酸性化合物によって、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の未硫化金属塩をプロトン化するステップ、並びに、(c)未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のプロトン化済み未硫化金属塩を前記組成物から実質的に除去し、低減された含量の未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を有する組成物を提供するステップを含む。
【0028】
ステップ(a)において、未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を含有する、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物が提供される。一般に、本組成物は、(i)プロピレン、ブチレン又はこれらの混合物から選択されるモノマーのC〜C18オリゴマーを含む1つ又は複数のオレフィンによってヒドロキシ芳香族化合物をアルキル化して、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物を提供すること、(ii)アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物を任意の順序で硫化及び中和して、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物を提供すること、並びに(iii)任意選択により、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物を過塩基化することにより得られる。一実施形態において、未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物は、テトラプロペニルフェノールである。特定の実施形態において、テトラプロペニルフェノールは、p−ドデシルフェノール、m−ドデシルフェノール及びo−ドデシルフェノールの混合物など、テトラプロペニルフェノールの異性体の混合物を含む。
【0029】
本発明において用いられるアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物は、当分野において周知の方法により調製される。アルキル化され得る有用なヒドロキシ芳香族化合物には、1個から4個までの、好ましくは1個から3個までのヒドロキシル基を有する、単核性モノヒドロキシ芳香族炭化水素及びポリヒドロキシ芳香族炭化水素が挙げられる。好適なヒドロキシ芳香族化合物には、フェノール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、ピロガロール、クレゾール、並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。一実施形態において、ヒドロキシ芳香族化合物はフェノールである。
【0030】
ヒドロキシ芳香族化合物をアルキル化するために用いられるアルキル化剤には、プロピレン、ブチレン又はこれらの混合物から選択されるモノマーのC〜C18オリゴマーを含む1つ又は複数のオレフィンが挙げられる。一般に、1つ又は複数のオレフィンは、プロピレン、ブチレン又はこれらの混合物から選択されるモノマーのC〜C18オリゴマーを過半量で含有する。このようなオレフィンの例には、プロピレンテトラマー、ブチレントリマー及び同類物が挙げられる。当業者ならば容易に理解するように、他のオレフィンが存在していてもよい。例えば、C〜C18オリゴマーに加えて使用され得る他のオレフィンには、線形オレフィン、環状オレフィン、ブチレンオリゴマー又はイソブチレンオリゴマー等のプロピレンオリゴマー以外の分岐状オレフィン、アリールアルキレン並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。好適な線形オレフィンには、1−ヘキセン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。特に好適な線形オレフィンは、C16〜C30ノルマルα−オレフィン等の高分子量ノルマルα−オレフィンであり、エチレンオリゴマー化又はワックスクラッキング等の方法から得ることができる。好適な環状オレフィンには、シクロヘキセン、シクロペンテン、シクロオクテン並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。好適な分岐状オレフィンには、ブチレンダイマー若しくはトリマー又はより高分子量のイソブチレンオリゴマー、並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。好適なアリールアルキレンには、スチレン、メチルスチレン、3−フェニルプロペン、2−フェニル−2−ブテン並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。
【0031】
プロピレン、ブチレン又はこれらの混合物から選択されるモノマーのC〜C18オリゴマーを含む1つ又は複数のオレフィンによるヒドロキシ芳香族化合物のアルキル化は、一般に、アルキル化触媒の存在下で実施される。有用なアルキル化触媒には、酸触媒、トリフルオロメタンスルホン酸、及び酸性分子ふるい(モレキュラーシーブ)触媒が挙げられる。酸触媒の代表例には、非限定的に、ルイス酸触媒、固体状酸触媒並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。
【0032】
有用なルイス酸触媒には、限定されはしないが、三塩化アルミニウム、三臭化アルミニウム、三ヨウ化アルミニウム、三フッ化ホウ素、三臭化ホウ素、三ヨウ化ホウ素及び同類物が挙げられる。
【0033】
有用な固体状酸性触媒には、限定されはしないが、ゼオライト、酸性白土、及び/又はシリカ−アルミナが挙げられる。触媒は、分子ふるい(モレキュラーシーブ)であってよい。適格な分子ふるいは、シリカ−アルミノホスファート分子ふるい又は金属シリカ−アルミノホスファート分子ふるいであり、ここで、金属は例えば鉄、コバルト又はニッケルであってよい。一実施形態において、固体触媒は、その酸形態におけるカチオン交換樹脂、例えば架橋スルホン酸触媒である。スルホン化された好適な酸性イオン交換樹脂型触媒には、Rohm and Hass(Philadelphia、ペンシルベニア州)から調達できるAmberlyst 36(登録商標)が挙げられる。酸触媒は、バッチ法又は連続法に使用された場合、リサイクル又は再生することができる。
【0034】
アルキル化用の反応条件は使用される触媒のタイプに依存しており、アルキルヒドロキシ芳香族生成物への高い転化をもたらす任意の好適な一組の反応条件が用いられ得る。一実施形態において、アルキル化反応用の反応温度は、約25℃から約200℃までの範囲である。別の実施形態において、アルキル化反応用の反応温度は、約85℃から約135℃までの範囲である。反応圧力は一般に大気圧であるが、より高い又はより低い圧力を用いてもよい。アルキル化法は、バッチ式、連続式又は半連続式で実施することができる。一実施形態において、ヒドロキシ芳香族化合物と1つ又は複数のオレフィンとのモル比は、約10:1から約0.5:1までの範囲である。別の実施形態において、ヒドロキシ芳香族化合物と1つ又は複数のオレフィンとのモル比は、約5:1から約3:1までの範囲である。
【0035】
アルキル化反応は、溶媒なしで実施してもよいし、又はヒドロキシ芳香族化合物とオレフィン混合物との反応に不活性な溶媒の存在下で実施してもよい。用いられる場合、典型的な溶媒はヘキサンである。
【0036】
反応の完了時、所望のアルキルヒドロキシ芳香族化合物は、従来の技術を用いて単離することができる。典型的には、過剰なヒドロキシ芳香族化合物は、反応生成物から蒸留される。
【0037】
アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のアルキル基は、典型的には、ヒドロキシル基に対して、主にオルト位及びパラ位においてヒドロキシ芳香族化合物に結合している。
【0038】
続いて、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物を任意の順序で硫化及び中和して、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物を提供する。硫化ステップ及び中和ステップは、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物を提供するように、任意の順序で実施することができる。代替的には、中和ステップ及び硫化ステップは、同時に実施することができる。
【0039】
一般に、硫化は、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物と、塩基の存在下でアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物間にS架橋基(式中、xは1から7までである)を導入する硫黄源とを接触させることにより実施される。任意の好適な硫黄源が使用され得、例えば、硫黄元素又はそのハロゲン化物、例としては一塩化硫黄又は二塩化硫黄、硫化水素、二酸化硫黄及び硫化ナトリウム水和物等が使用され得る。硫黄は、溶融した硫黄として用いてもよいし、又は固体(例えば、粉末若しくは粒子)として用いてもよいし、又は相溶性の炭化水素液体中の固体懸濁液として用いてもよい。
【0040】
塩基は、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物に硫黄を取り込む反応を触媒する。好適な塩基には、限定されはしないが、NaOH、KOH、Ca(OH)並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。
【0041】
塩基は、一般に、反応系中のアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物1モル当たり、約0.5モルから約5モルまでで用いられる。一実施形態において、塩基は、反応系中のアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物1モル当たり、約1モルから約1.5モルまでで用いられる。塩基は、反応混合物に固体又は液体として加えることができる。
【0042】
硫黄は、一般に、反応系中のアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物1モル当たり約0.5モルから約4モルまでで用いられる。一実施形態において、硫黄は、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物1モル当たり約0.8モルから2モルまでで用いられる。一実施形態において、硫黄は、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物1モル当たり約1モルから1.5モルまでで用いられる。
【0043】
硫化反応が実施される温度範囲は、一般に、約150℃から約200℃までである。一実施形態において、温度範囲は、約160℃から約180℃までである。反応は、周囲圧力下で(もしくは若干より低くして)実施してもよいし、又は高められた圧力下で実施してもよい。一実施形態において、反応は、HS除去を容易化するために真空下で実施される。反応中に展開される正確な圧力は、システムの設計及び運転、反応温度、並びに、反応物質及び生成物の蒸気圧等の因子に依存しており、反応の途中で変化し得る。一実施形態において、この方法の圧力は、大気圧から約20mmHgまでである。
【0044】
硫化又は未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の中和は、当業者に公知な任意の方法により連続法又はバッチ法で実施することができる。硫化又は未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物を中和するため、及び塩基の供給源の組み込みにより塩基性フェナートを生成するための、数多くの方法が当分野において公知である。一般に、中和は、反応性条件下、好ましくは不活性で相溶性な液体状炭化水素希釈剤中で硫化又は未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物と金属塩基とを接触させることにより実施することができる。所望ならば、反応は不活性ガス下、典型的には窒素下で実施してもよい。金属塩基は、反応中の中間点において、単回の添加又は複数回の添加により加えることができる。
【0045】
好適な金属塩基性化合物には、(1)アルカリヒドロキシド、アルカリオキシド若しくはアルカリアルコキシドから選択される金属塩基に由来するアルカリ金属塩、又は(2)アルカリ土類水酸化物、アルカリ土類酸化物若しくはアルカリ土類アルコキシドから選択される金属塩基に由来するアルカリ土類金属塩等の、金属の水酸化物、酸化物又はアルコキシドが挙げられる。ヒドロキシド官能性を有する金属塩基性化合物の代表例には、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化アルミニウム及び同類物が挙げられる。オキシド官能性を有する金属塩基性化合物の代表例には、酸化リチウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム及び同類物が挙げられる。一実施形態において、アルカリ土類金属塩基は、その取扱いの好都合さ及び例えば酸化カルシウムに対比してのコストのため、消石灰(水酸化カルシウム)である。
【0046】
中和は、典型的には、トルエン、キシレン等の好適な溶媒又は希釈油中で、アルコール、例えば、メタノール、デシルアルコール若しくは2−エチルヘキサノール等のC〜C16アルコール;ジオール、例えば、エチレングリコール等のC〜Cアルキレングリコール;及び/又はカルボン酸等の促進剤を一般的に用いて実施される。好適な希釈油には、ナフテン系オイル及び混合油、例えば100中性油等のパラフィン系オイルが挙げられる。使用される溶媒又は希釈油の量は、最終的生成物中での溶媒又はオイルの量が最終的生成物の約25重量%から約65重量%まで、好ましくは約30%から約50%までを占めるようになっている。例えば、アルカリ土類金属の供給源をスラリーとして(すなわち、アルカリ土類金属石灰、溶媒又は希釈油の供給源の予備混合物として)過剰に加え、次いで硫化又は未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物と反応させる。
【0047】
金属塩基と硫化又は未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の間での中和反応は、典型的には、室温(20℃)より高い温度で実施される。一実施形態において、中和は、約20℃から約150℃の間の温度で実施することができる。しかしながら、低温で中和を実施することが好ましい。一実施形態において、中和は、約25℃から約30℃の間の温度で実施することができる。中和反応自体は、約5分から約60分までのある期間行うのが望ましい。所望ならば、中和反応は、エチレングリコール、ギ酸、酢酸並びにこれらの同類物及び混合物等の促進剤の存在下で実施される。
【0048】
アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の硫化及び中和の完了時、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の中性塩を含む組成物が得られる。所望ならば、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の中性塩を含む組成物を過塩基化して、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩を含む組成物を提供することもできる。過塩基化は、硫化ステップ及び中和ステップの1つの間又は後のいずれかで当業者に公知な任意の方法により実施することができる。代替的には、硫化、中和及び過塩基化は、同時に実施することができる。一般に、過塩基化は、例えば二酸化炭素又はホウ酸等の酸性の過塩基性化合物との反応により実施される。一実施形態において、過塩基化法は、炭酸化、すなわち二酸化炭素との反応による。このような炭酸化は、芳香族溶媒、アルコール又はポリオール等の溶媒、典型的にはアルキレンジオール、例えばエチレングリコールの添加により簡便に行い得る。好都合なことに、反応は、反応混合物の中を通して気体状二酸化炭素をバブリングするという簡単な便法により実施される。過剰な溶媒及び過塩基化反応中に形成されたあらゆる水は、反応の間又は後のいずれかで蒸留により好都合に除去することができる。
【0049】
一実施形態において、過塩基化反応は、二酸化炭素の存在下且つ芳香族溶媒(例えば、キシレン)及びメタノール等のヒドロカルビルアルコールの存在下、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の塩を含む組成物と、石灰(すなわち、アルカリ土類金属水酸化物)等のアルカリ土類金属の供給源とを反応させることにより、反応器中で実施される。好都合なことに、反応は、反応混合物の中を通して気体状二酸化炭素をバブリングするという簡単な便法により実施される。二酸化炭素は、約30℃から約60℃までの範囲の温度において、約1時間から約3時間までのある期間にわたって導入され得る。過塩基化の度合いは、反応混合物に加えられるアルカリ土類金属、二酸化炭素及び反応物質の供給源の量、並びに炭酸化法中に用いられる反応条件により制御することができる。
【0050】
別の実施形態において、過塩基化反応は、ポリオール、典型的には、エチレングリコール等のアルキレンジオール、及び/又はデシルアルコール、2−エチルヘキサノール等のC〜C16アルカノールといったアルカノールの存在下、140℃から180℃の間で実施することができる。過剰な溶媒及び過塩基化反応中に形成されたあらゆる水は、反応の間又は後のいずれかで蒸留により好都合に除去することができる。
【0051】
硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩を含む組成物は、約50から約500までのTBNを有し得る。
【0052】
一般に、得られた硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の中性又は過塩基性塩を含む組成物は、合算質量によるある量の未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を含有し、これは、利用者へのあらゆる潜在的な健康リスクを最小化するため及び潜在的な規制の問題を回避するために更に低減される必要がある。一実施形態において、得られた硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の中性又は過塩基性塩を含む組成物は通常、合算質量により約2wt%から約10wt%までの未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を含有する。
【0053】
更に、当業者ならば容易に理解できるが、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物は、未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩に加えてその他の成分を含有し得る。
【0054】
ステップ(b)において、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の中性又は過塩基性塩を含む組成物のアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の未硫化金属塩は、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の未硫化金属塩をプロトン化することができる有効量の酸性化合物によってプロトン化される。
【0055】
一般に、ステップ(b)において存在する酸性化合物の有効量は、その組成物から十分な量の未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩が除去された硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の中性又は過塩基性塩を含む組成物を結果的に得るために使用される、酸性化合物の種類に必然的に依存することになる。したがって、一実施形態において、酸性化合物の有効量は、約1.5wt%未満の未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を含有する、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の中性又は過塩基性塩を含む組成物が結果的に得られるような量である。別の実施形態において、酸性化合物の有効量は、約0.3wt%未満の未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を含有する、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の中性又は過塩基性塩を含む組成物が結果的に得られるような量である。一般に、酸性化合物の有効量は、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の中性又は過塩基性塩を含む組成物の合計量に基づいて、約1wt%から約25wt%までの範囲のある量である。
【0056】
一実施形態において、酸性化合物は、飽和若しくは不飽和モノカルボン酸、又は飽和若しくは不飽和ポリカルボン酸、例えば飽和若しくは不飽和ジカルボン酸又は飽和若しくは不飽和トリカルボン酸等の飽和又は不飽和カルボン酸である。好適な飽和又は不飽和カルボン酸には、飽和又は不飽和脂肪族モノカルボン酸、飽和又は不飽和脂環式モノカルボン酸、飽和又は不飽和芳香族モノカルボン酸、飽和又は不飽和脂肪族ジカルボン酸、飽和又は不飽和脂環式ジカルボン酸、飽和又は不飽和芳香族ジカルボン酸、飽和又は不飽和脂肪族トリカルボン酸、飽和又は不飽和脂環式トリカルボン酸、飽和又は不飽和芳香族トリカルボン酸及び同類物が挙げられる。
【0057】
一実施形態において、代表的な飽和又は不飽和カルボン酸は、一般式のものであり、
【化1】

式中、Rは、H又は−COOHで且つnが1であるか、或いはRは、線形又は分岐状アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキルアルキル基、アリール基、アルカリール基又はアラルキル基であり、これらのいずれもが、COOH以外の1つ又は複数の官能基、例えば、ヒドロキシル基、置換若しくは無置換C〜C30アルキル、置換若しくは無置換C〜C30アルケニル、置換若しくは無置換C〜C30シクロアルキル、置換若しくは無置換C〜C30シクロアルキルアルキル、置換若しくは無置換C〜C30シクロアルケニル、置換若しくは無置換C〜C30アリール又は置換若しくは無置換C〜C30アリールアルキルにより置換されていても置換されていなくてもよく、且つnが1、2又は3である。
【0058】
好適な脂肪族モノカルボン酸には、約1個から30個までの炭素原子を有する、飽和又は不飽和脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。脂肪族基は、線形又は分岐状であってよく、ヒドロキシル基又はアルコキシ基等の置換基を有し得る。脂肪族モノカルボン酸の例には、限定されはしないが、ギ酸、酢酸、フェニル酢酸、プロピオン酸、アラニン、酪酸、ヒドロキシ酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、2−メチルプロピオン酸、2−メチル酪酸、3−メチル酪酸、2−メチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、2−プロピルヘプタン酸、ピバル酸、ネオノナン酸、ネオデカン酸、ネオトリデカン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸(linolic acid)、リノール酸(linoleic acid)、オレイン酸、ラウリン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。
【0059】
一実施形態において、好適なモノカルボン酸は、C〜C22線形飽和又は不飽和モノカルボン酸であり、限定されはしないが、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、トリデシル酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、ミリストレイン酸、オレイン酸、アラキドン酸、リノール酸(linoleic acid)並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。
【0060】
芳香族モノカルボン酸の例には、安息香酸、ニトロ安息香酸、サリチル、3−ヒドロキシ安息香酸及び4−ヒドロキシ安息香酸等のモノヒドロキシ安息香酸、アルキルヒドロキシ安息香酸、クロロ安息香酸、メトキシ安息香酸、t−ブチル安息香酸、メチル安息香酸並びにフェニルアルキル酸、例えば、フェニル酢酸、3−フェニルプロピオン酸、4−フェニル酪酸、3−(p−クロロフェニル)ブタン酸並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。
【0061】
脂肪族ジカルボン酸の例には、限定されはしないが、シュウ酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸及びフマル酸が挙げられる。芳香族ジカルボン酸の例には、限定されはしないが、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、トラウマチン酸、ムコン酸(不飽和結合が2つ)並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。
【0062】
トリカルボン酸等のポリカルボン酸の例には、限定されはしないが、クエン酸、イソクエン酸、アコニット酸(不飽和)、カルバリル酸 メリト酸(ベンゼンヘキサカルボン酸)並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。
【0063】
一実施形態において、好適な酸性化合物には、ポリアルケニルコハク酸又はその無水物が挙げられる。一般に、ポリアルケニルコハク酸又はその無水物は、ポリアルケニル反応物質と不飽和酸性試薬との反応生成物である。ポリアルケニルコハク酸又はポリアルケニルコハク酸無水物は、例えば、塩素化反応プロセス又は熱反応プロセスで形成され得る。
【0064】
ポリアルケニル反応物質は、1種類のオレフィンのポリマーであってもよいし又は2種類以上のオレフィンのコポリマーであってもよい、ポリアルケンである。ポリアルケニルラジカルの主な供給源には、オレフィンポリマー、特に、2個から約30個までの炭素原子を有するモノ−オレフィンから作製されたポリマーが挙げられる。エチレン、プロペン、1−ブテン及びイソブテン等の1−モノ−オレフィンのポリマーが特に有用である。イソブテンのポリマーが好ましい。
【0065】
コハク酸系化合物のポリアルケニル置換基は、約350〜5000の数平均分子量を有してよい。一実施形態において、ポリアルケニル置換基は、約700から3000までの数平均分子量を有し得る。一実施形態において、ポリアルケニル置換基は、約900から約2500までの数平均分子量を有し得る。一実施形態において、ポリアルケニル置換基は、約1000の数平均分子量を有し得る。一実施形態において、ポリアルケニル置換基は、約2300の数平均分子量を有し得る。これらのポリアルケンの最も一般的な供給源は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブテン等のポリオレフィンである。
【0066】
前記のポリアルケニル反応物質との反応に使用するための不飽和酸性試薬は、任意のエチレン性不飽和カルボン酸又はカルボン酸官能性の供給源であってよい。これらの反応物質は、典型的には、少なくとも1つのエチレン結合、及び、酸化又は加水分解によりカルボン酸基に変換され得る少なくとも1つの、好ましくは2つのカルボン酸基、無水物基又は極性基を含む。一実施形態において、不飽和酸性試薬は、一般式のマレイン酸系又はフマル酸系試薬であってよく、
【化2】

式中、X及びX’の少なくとも1つが、アルコールをエステル化するように、反応性の金属又は基本的に反応する金属化合物との金属塩を形成するように、これら以外の場合はアシル化剤として機能するように、反応することができる基であることを条件にして、X及びX’は同一であり又は異なる。典型的には、X及びX’は、−OHと、−O−R(式中、Rは、1個から6個までの炭素原子の低級アルキルである)の1つ又は複数を含み得る官能基を含み、又は、X及びX’は、一緒になって無水物を形成するように−O−であってもよい。好ましくは、X及びX’は、両方のカルボン酸官能基がアシル化反応に加わることができるようになっているものである。好適な不飽和酸性試薬には、限定されはしないが、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル及びジエステル、フマル酸、並びにフマル酸モノエステル及びジエステル等の電子不足状オレフィンが挙げられる。
【0067】
一実施形態において、好適な酸性化合物には、脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸並びにこれらの同類物及び混合物等の有機スルホン酸が挙げられる。好適な脂肪族スルホン酸には、1個から6個までの炭素原子を有するアルキルスルホン酸、例えばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸並びにこれらの同類物及び混合物等、C〜C20脂肪族スルホン酸が挙げられる。好適な芳香族スルホン酸には、6個から10個までの炭素原子を有する芳香族スルホン酸、並びに、例えばベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、p−メトキシベンゼンスルホン酸並びにこれらの同類物及び混合物等、6個から40個までの炭素原子を有するアルキル芳香族スルホン酸が挙げられる。
【0068】
一実施形態において、好適な酸性化合物には、アミン、又は酢酸アンモニウム等のアンモニウム塩が挙げられる。
【0069】
一実施形態において、好適な酸性化合物は、過酸化水素等の過酸化物であり得る。
【0070】
当業者ならば容易に理解できるが、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の未硫化金属塩をプロトン化するための反応条件は、用いられる反応物質及びそれらのそれぞれの有効量に必然的に依存することになる。一実施形態において、好適な反応条件には、約40℃から約200℃までの範囲の温度、及び約5分から約24時間までの範囲の反応時間が挙げられる。
【0071】
所望ならば、ステップ(b)は、反応生成物から回収できる好適な溶媒の存在下で実施してもよい。好適な溶媒には、例えば、トルエン、ベンゼン及び同類物等の芳香族炭化水素溶媒、メタノール、エタノール、デシルアルコール、2−エチルヘキサノール及び同類物等のアルコール溶媒、並びにこれらの混合物といった有機溶媒が挙げられる。所望ならば、反応は、鉱物性潤滑油中で実施してもよく、得られた生成物は、潤滑油濃縮物として回収される。
【0072】
本発明の方法のステップ(c)は、未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のプロトン化済み未硫化金属塩を実質的に無含有である組成物を提供するために、実質的にすべての未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のプロトン化済み未硫化金属塩を前記組成物から除去するステップを含む。本明細書で使用される「実質的に無含有」(“substantially free”)という用語は、未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のプロトン化済み未硫化金属塩が、ステップ(c)の後に残留するとしても比較的低レベルであることを意味し、例えば、約1.5wt%未満又は約0.3wt%未満であることを意味する。一実施形態において、「実質的に無含有」という用語は、約0.1wt%から約1.5wt%未満までの範囲である。別の実施形態において、「実質的に無含有」という用語は、約0.1wt%から約1wt%未満までの範囲である。別の実施形態において、「実質的に無含有」という用語は、約0.1wt%から約0.3wt%までの範囲である。
【0073】
一実施形態において、未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のプロトン化済み未硫化金属塩は、ステップ(b)の組成物から蒸留により除去することができる。しかしながら、硫化アルキルヒドロキシ芳香族反応生成物は、熱に対して不安定であり、より長鎖のオリゴマーを形成するように転移する傾向があり、より長鎖のオリゴマーは、出発物質のアルキルヒドロキシ芳香族化合物の濃度の増大につながる。こうした転移(rearrangements)は、硫化フェノールに関する文献において、例えば、Nealeら、Tetrahedron、第25巻、4583〜4591ページ(1969)により説明されている。一実施形態において、蒸留ステップは、例えば硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の粘度、例えば100℃において測定された約100cstから約700cstまでの粘度等の因子を考慮に入れて、連続的な流下液膜式蒸留(continuous falling film distillation)又は薄膜蒸発(wiped film evaporation)により実施される。
【0074】
任意選択により、次いで希釈油又は潤滑剤用基油等の不活性液体状溶媒を、反応混合物に加えて、反応混合物の粘度を低減し、且つ/又は生成物を分散させてもよい。好適な希釈油は、当分野において公知であり、例えば、FUELS AND LUBRICANTS HANDBOOK、(George E.Totten編、(2003))の199ページにおいて、「鉱物由来、合成化学物質由来又は生物由来のベース流体(base fluids ・・・ of mineral origin,synthetic chemical origin or biological origin)」と規定されている。
【0075】
蒸留ステップは、典型的には、約1mbarの圧力下において、約180℃から約250℃までの範囲の温度で実施される。
【0076】
得られた硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の中性又は過塩基性塩を含む組成物は、有利には、少なくとも過半量の潤滑粘度のオイルを含有する潤滑油組成物中に用いられる。潤滑油組成物は、また、それらの添加剤が分散又は溶解されている潤滑油組成物に関する望ましい任意の特性を付与又は改善することができる、従来の他の添加剤も含み得る。当業者に公知な任意の添加剤が、本明細書中で開示された潤滑油組成物中に使用され得る。幾つかの好適な添加剤が、Mortierら、「Chemistry and Technology of Lubricants」、第2版、London、Springer、(1996年)、及びLeslie R.Rudnick、「Lubricant Additives:Chemistry and Applications」、New York、Marcel Dekker(2003年)において説明されており、これらの両方が参照により本明細書に組み込まれる。例えば、潤滑油組成物は、抗酸化剤、摩耗防止剤、金属洗浄剤等の洗浄剤、錆止め剤、曇り除去剤(dehazing agent)、解乳化剤、金属不活性化剤、摩擦調整剤、流動点降下剤、消泡剤、共溶媒、パッケージ相溶化剤(package compatibiliser)、腐食防止剤、無灰分散剤、染料、極圧剤並びにこれらの同類物及び混合物とブレンドすることができる。種々の添加剤が公知であり、市販されている。これらの添加剤又はそれらの類似化合物は、通常のブレンド手法による本発明の潤滑油組成物の調製のために用いることができる。
【0077】
下記の非限定的な例は、本発明の例証を目的とする。反応は、より大規模なバッチ用のマグネチックスターラー又はメカニカルスターラーを備え付けた丸底フラスコ中で実施した。化学物質は、Aldrich、Acros、Fisher及びAlfa Aesarから購入し、更なる純化なしで使用した。下記例において使用された市販の硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤は、Chevron Oronite Company LLC製のものである。
【0078】
本明細書において開示されており以下に例示する硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物、並びに硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物を含有する潤滑剤及びオイル添加剤中における、遊離した未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩の合計での濃度(すなわち、「合計TPP」又は「合計残存TPP」)を、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定する。HPLC法においては、80mgから120mgまでの試料を10mlメスフラスコ中に正確に量り取り、塩化メチレンによってレベルマークまで希釈し、試料が完全に溶解されるまで混合することにより、試料を分析用に調製した。
【0079】
HPLC法に使用したHPLCシステムは、HPLCポンプ、サーモスタット付きHPLCカラムコンパートメント、HPLC蛍光検出器及びPCベース型クロマトグラフィーデータ取得システムを備えていた。説明する特定のシステムは、ChemStationソフトウェア付きのAgilent 1200 HPLCに基づいている。HPLCカラムは、Phenomenex Luna C8(2)150×4.6mm 5μm 100Å、P/N 00F4249E0だった。
【0080】
下記のシステム設定が、分析を実施するのに用いられた。
【0081】
ポンプ流量=1.0ml/分
【0082】
最大圧力=200バール
【0083】
蛍光波長:225励起 313発光:ゲイン=9
【0084】
カラムサーモスタット温度=25℃
【0085】
注入サイズ=1μLの希釈済み試料
【0086】
溶離方式:グラジエント(Gradient)、逆相
【0087】
グラジエント:0〜7分 85/15メタノール/水から100%メタノールに切り替わっていく線形グラジエント。
【0088】
運転時間:17分
【0089】
得られるクロマトグラムは、典型的には、幾つかのピークを含む。遊離した未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物によるピークは、典型的には、早い保持時間で一緒に溶離するが、アルキルヒドロキシ芳香族化合物の硫化塩によるピークは、典型的には、より長い保持時間で溶離する。定量化のために、遊離した未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩に関する単一の最大のピークの面積を測定した後、この面積を、遊離した未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物種及びその未硫化金属塩種の合計での濃度を決定するために使用した。仮定としては、アルキルヒドロキシ芳香族化合物のスペシエーション(speciation)は変化しないとするが、何かがアルキルヒドロキシ芳香族化合物のスペシエーションを変化させるのならば、再較正が必要である。
【0090】
選択したピークの面積を較正曲線と比較すると、遊離したアルキルフェノール及び遊離したアルキルフェノールの未硫化塩のwt%に達する。較正曲線は、フェナート生成物を作製するために用いられた遊離した未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物に関して得られたクロマトグラム中の同じピークを用いて展開した。
【0091】
(例1)
80℃に予備加熱しておいた1.36gの硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤(7.1wt%の残存合計TPP、HPLC法により測定)に、38mg(反応混合物の合計重量の2.7wt%)の氷酢酸を滴下した。反応混合物を終夜撹拌し、残存モノアルキルフェノールを減圧下での蒸留により除去すると、基油量の調整後に0.32wt%の残存合計アルキルフェノール(HPLCにより測定)を含んだ洗浄剤が得られた。
【0092】
(例2)
例1にて説明された一般的手順によれば、例1で使用した硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤2gを、182mgの氷酢酸(8wt%)と反応させると、蒸留後に0.03wt%の残存合計アルキルフェノール(HPLCにより測定)を含んだ生成物が得られた。
【0093】
(例3)
例1において説明された一般的手順によれば、例1で使用した硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤362gを、51gのステアリン酸(12wt%、純度97%)と反応させると、蒸留後に0.23wt%の残存合計アルキルフェノール(HPLCにより測定)を含んだ生成物が得られた。
【0094】
(例4)
例1において説明された一般的手順によれば、例1で使用した硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤5.0gを、830mgのパルミチン酸(14wt%、純度95%)と反応させると、蒸留後に0.10wt%の残存合計アルキルフェノール(HPLCにより測定)を含んだ生成物が得られた。
【0095】
(例5)
例1において説明された一般的手順によれば、例1で使用した硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤3.3gを、0.29gのラウリン酸(8wt%、純度99.5%)と反応させると、蒸留後に0.64wt%の残存合計アルキルフェノール(HPLCにより測定)を含んだ生成物が得られた。
【0096】
(例6)
例1において説明された一般的手順によれば、例1で使用した硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤12.1gを、0.51gのシュウ酸(4wt%)と反応させると、蒸留後に1.45wt%の残存合計アルキルフェノール(HPLCにより測定)を含んだ生成物が得られた。
【0097】
(例7)
例1において説明された一般的手順によれば、例1で使用した硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤10.6gを、351mgのクエン酸(3.2wt%)と反応させると、蒸留後に2.45wt%の残存合計アルキルフェノール(HPLCにより測定)を含んだ生成物が得られた。
【0098】
(例8)
例1において説明された一般的手順によれば、例1で使用した硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤6.4gを、0.5gのテレフタル酸(6.6wt%)と反応させると、蒸留後に0.81wt%の残存合計アルキルフェノール(HPLCにより測定)を含んだ生成物が得られた。
【0099】
(例9)
例1において説明された一般的手順によれば、例1で使用した硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤3.2gを、110mgのプロピオン酸(3.4wt%)と反応させると、蒸留後に0.76wt%の残存合計アルキルフェノール(HPLCにより測定)を含んだ生成物が得られた。
【0100】
(例10)
例1において説明された一般的手順によれば、例1で使用した硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤4.3gを、176mgの酪酸(4wt%)と反応させると、蒸留後に0.67wt%の残存合計アルキルフェノール(HPLCにより測定)を含んだ生成物が得られた。
【0101】
(例11)
例1において説明された一般的手順によれば、例1で使用した硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤3.7gを、201mgのカプリル酸(4wt%)と反応させると、蒸留後に0.67wt%の残存合計アルキルフェノール(HPLCにより測定)を含んだ生成物が得られた。
【0102】
(例12)
例1において説明された一般的手順によれば、例1で使用した硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤3.4gを、230mgのカプロン酸(5.2wt%)と反応させると、蒸留後に0.79wt%の残存合計アルキルフェノール(HPLCにより測定)を含んだ生成物が得られた。
【0103】
(例13)
例1において説明された一般的手順によれば、例1で使用した硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤11.0gを、714mgのp−トルエンスルホン酸(8.2wt%)と反応させると、蒸留後に0.18wt%の残存合計アルキルフェノール(HPLCにより測定)を含んだ生成物が得られた。
【0104】
(例14)
例1において説明された一般的手順によれば、例1で使用した硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤10.9gを、974mgのトリエチルアンモニウムクロリド(6.1wt%)と反応させると、蒸留後に0.13wt%の残存合計アルキルフェノール(HPLCにより測定)を含んだ生成物が得られた。
【0105】
(例15)
例1において説明された一般的手順によれば、例1で使用した硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤8.7gを、316mgの酢酸アンモニウム(3.5wt%)と反応させると、蒸留後に1.2wt%の残存合計アルキルフェノール(HPLCにより測定)を含んだ生成物が得られた。
【0106】
(例16)
例1において説明された一般的手順によれば、例1で使用した硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤9.0gを、226mgの塩化アンモニウム(2.4wt%)と反応させると、蒸留後に4.1wt%の残存合計アルキルフェノール(HPLCにより測定)を含んだ生成物が得られた。
【0107】
(例17)
例1において説明された一般的手順によれば、例1で使用した硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤10.3gを、575mgの塩酸ピリジニウム(5.3wt%、純度98wt%)と反応させると、蒸留後に1.05wt%の残存合計アルキルフェノール(HPLCにより測定)を含んだ生成物が得られた。
【0108】
(例18)
例1にて説明された一般的手順によれば、例1で使用した硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤4.0gを、Chevron Oronite Company LLC(Belle Chase、LA)から市販されている1.1g(21wt%)のAS305BD(脱ガスされたアルキル−トルエンスルホン酸)と反応させると、蒸留後に1.07wt%の残存合計アルキルフェノール(HPLCにより測定)を含んだ生成物が得られた。
【0109】
(例19)
例1において説明された一般的手順によれば、硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤4.7gを、Chevron Oronite Company LLC(Bell Chase、LA)から市販されている1.0g(21wt%)のAS305D(脱ガスされたアルキル−トルエンスルホン酸)と反応させると、蒸留後に0.29wt%の残存合計アルキルフェノール(HPLCにより測定)を含んだ生成物が得られた。
【0110】
(例20)
例1において説明された一般的手順によれば、例1で使用した硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤4.1gを、Chevron Oronite Company LLCから市販されている1.21g(23wt%)のAS584(相異なる2つのアルキル−ベンゼンスルホン酸の混合物)と反応させると、蒸留後に0.45wt%の残存合計アルキルフェノール(HPLCにより測定)を含んだ生成物が得られた。
【0111】
(例21)
例1において説明された一般的手順によれば、例1で使用した硫化過塩基性金属フェナート洗浄剤10.1gを、516mgの過酸化水素(4.8wt%、純度31.6wt%)と反応させると、蒸留後に1.93wt%の残存合計アルキルフェノール(HPLCにより測定)を含んだ生成物が得られた。
【0112】
様々な変更が本明細書中で開示された実施形態になされ得ることは理解されよう。したがって、上記の説明は、限定的なものとして解釈すべきではなく、単に好ましい実施形態の例証と解釈すべきである。例えば、本発明を運用するための最良の形態として実施された上述の機能は、説明目的のためのものにすぎない。他の構成及び方法は、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく当業者により実施できる。更に、当業者ならば、本明細書に添付された特許請求の範囲及び趣旨の中の他の変更に想到する。
本発明に包含され得る諸態様は、以下のとおり要約される。
[態様1].低減された含量の未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を有する、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物を調製するための方法であって、
(a)(i)硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の塩、(ii)未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及び(iii)アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の未硫化金属塩を含む組成物であり、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物が、プロピレン、ブチレン又はこれらの混合物から選択されるモノマーのC〜C18オリゴマーを含む1つ又は複数のオレフィンによるヒドロキシ芳香族化合物のアルキル化に由来する、前記組成物を提供するステップ、
(b)アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の未硫化金属塩をプロトン化することができる有効量の酸性化合物によって、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の未硫化金属塩をプロトン化するステップ、並びに、
(c)未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物、及びアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のプロトン化済み未硫化金属塩を前記組成物から除去するステップ
を含む、上記方法。
[態様2].ヒドロキシ芳香族化合物がフェノールであり、C〜C18オリゴマーを含む1つ又は複数のオレフィンが、C〜C18プロピレンオリゴマーを含む1つ又は複数のオレフィンである、上記態様1に記載の方法。
[態様3].ステップ(a)において提供された硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物が、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩を含む組成物である、上記態様1又は2に記載の方法。
[態様4].酸性化合物が、飽和又は不飽和カルボン酸である、上記態様1から3までに記載の方法。
[態様5].飽和又は不飽和カルボン酸が、飽和又は不飽和脂肪族モノカルボン酸、飽和又は不飽和脂環式モノカルボン酸、飽和又は不飽和芳香族モノカルボン酸、飽和又は不飽和脂肪族ジカルボン酸、飽和又は不飽和脂環式ジカルボン酸、飽和又は不飽和芳香族ジカルボン酸、飽和又は不飽和脂肪族トリカルボン酸、飽和又は不飽和脂環式トリカルボン酸、飽和又は不飽和芳香族トリカルボン酸、及びこれらの混合物から成る群より選択される、上記態様4に記載の方法。
[態様6].飽和又は不飽和カルボン酸が、ギ酸、酢酸、フェニル酢酸、プロピオン酸、アラニン、酪酸、ヒドロキシ酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、2−メチルプロピオン酸、2−メチル酪酸、3−メチル酪酸、2−メチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、2−プロピルヘプタン酸、ピバル酸、ネオノナン酸、ネオデカン酸、ネオトリデカン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸(linolic acid)、リノール酸(linoleic acid)、オレイン酸、ラウリン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸及びこれらの混合物から成る群より選択される、上記態様4に記載の方法。
[態様7].飽和又は不飽和カルボン酸が、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、トリデシル酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、ミリストレイン酸、オレイン酸、アラキドン酸、リノール酸(linoleic acid)及びこれらの混合物から成る群より選択されるC〜C22線形飽和又は不飽和モノカルボン酸である、上記態様4に記載の方法。
[態様8].飽和又は不飽和カルボン酸が、安息香酸、ニトロ安息香酸、サリチル、3−ヒドロキシ安息香酸及び4−ヒドロキシ安息香酸等のモノヒドロキシ安息香酸、アルキルヒドロキシ安息香酸、クロロ安息香酸、メトキシ安息香酸、t−ブチル安息香酸、メチル安息香酸、フェニル酢酸、3−フェニルプロピオン酸、4−フェニル酪酸、3−(p−クロロフェニル)ブタン酸及びこれらの混合物から成る群より選択される芳香族モノカルボン酸である、上記態様4に記載の方法。
[態様9].飽和又は不飽和カルボン酸が、シュウ酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸及びフマル酸から成る群より選択される脂肪族ジカルボン酸である、上記態様4に記載の方法。芳香族ジカルボン酸の例には、限定されはしないが、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、トラウマチン酸、ムコン酸及びこれらの混合物が挙げられる。
[態様10].飽和又は不飽和カルボン酸が、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、トラウマチン酸、ムコン酸及びこれらの混合物から成る群より選択される芳香族ジカルボン酸である、上記態様4に記載の方法。
[態様11].飽和又は不飽和カルボン酸が、クエン酸、イソクエン酸、アコニット酸(不飽和)、カルバリル酸、メリト酸(ベンゼンヘキサカルボン酸)及びこれらの混合物から成る群より選択されるトリカルボン酸である、上記態様4に記載の方法。
[態様12].酸性化合物が、ポリアルケニルコハク酸若しくはその無水物、又は脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸、若しくはこれらの混合物、又はアミン若しくはアンモニウム塩である、上記態様1から3までに記載の方法。
[態様13].酸性化合物の有効量が、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の中性又は過塩基性塩を含む組成物の合計量に基づいて、約1wt%から約25wt%までである、上記態様1から14までに記載の方法。
[態様14].未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物、及びアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のプロトン化済み未硫化金属塩を前記組成物から除去するステップが、未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物、及びアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のプロトン化済み未硫化金属塩をステップ(b)の組成物から蒸留することを含む、上記態様1から13までに記載の方法。
[態様15].ステップ(c)において得られた硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物塩を含む組成物が、約1.5wt%未満の未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその金属塩又は約0.3wt%未満の未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその金属塩を含有する、上記態様1から14までに記載の方法。