(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6275166
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】ガスタービン用の燃料を生成するための方法と装置
(51)【国際特許分類】
C10K 1/16 20060101AFI20180129BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20180129BHJP
C10K 3/04 20060101ALI20180129BHJP
F02C 6/00 20060101ALI20180129BHJP
F02C 3/22 20060101ALI20180129BHJP
F02C 7/22 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
C10K1/16
B01D53/14 200
C10K3/04
F02C6/00 E
F02C3/22
F02C7/22 D
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-555605(P2015-555605)
(86)(22)【出願日】2014年1月9日
(65)【公表番号】特表2016-508530(P2016-508530A)
(43)【公表日】2016年3月22日
(86)【国際出願番号】EP2014000030
(87)【国際公開番号】WO2014117911
(87)【国際公開日】20140807
【審査請求日】2017年1月6日
(31)【優先権主張番号】102013001677.0
(32)【優先日】2013年1月31日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】391009659
【氏名又は名称】リンデ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Linde Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ゼーリガー
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー ブランドル
【審査官】
森 健一
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/004335(WO,A1)
【文献】
特開2013−028805(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第102010022501(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10K 1/08
B01D 53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素及び二酸化炭素を含む第1の供給ガス(1)から二酸化炭素を分離するための方法であって、
前記第1の供給ガス(1)から、第1のガススクラバー(A1)において、硫黄を含まない洗浄剤(3)によるスクラビングによって、二酸化炭素の大部分を選択的に除去し、その際に生じる、二酸化炭素及び共吸着された水素が負荷された洗浄剤流(4)を、共吸着された水素を気相(9)に変換するために、膨張容器(D1)において膨張させる方法において、
前記水素を含む気相(9)を、前記膨張容器(D1)から取り出し、前記第1のガススクラバー(A1)に並行して運転される第2のガススクラバー(A2)において、水素及び二酸化炭素を含む第2の供給ガス(14)の分離時に、前記第1の供給ガス(1)の圧力よりも低い圧力で生成物として生じる、硫黄を含まないが水素及び二酸化炭素を含むガス混合物(17)に混合することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記第2のガススクラバー(A2)において生成物として生成された、水素及び二酸化炭素を含む前記ガス混合物(17)を、ガスタービンにガス燃料(26)として供給する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のガススクラバー(A1)及び前記第2のガススクラバー(A2)において処理される、水素及び二酸化炭素を含む前記供給ガス(1,14)を合成粗ガスから獲得し、
前記合成粗ガスを、少なくとも第1の部分流及び第2の部分流に分割し、
前記第1の部分流を水性ガスシフトによる変成後に前記第1のガススクラバー(A1)に供給する一方、前記第2の部分流を直接的に前記第2のガススクラバー(A2)に導入する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のガススクラバー(A1)及び前記第2のガススクラバー(A2)において、同一の洗浄剤(3,18)を使用する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2のガススクラバー(A2)において、前記第2の供給ガス(14)から、二酸化炭素が予め負荷された洗浄剤(16)によって、硫黄成分の大部分を選択的に分離させ、その際に生じる、硫黄成分、二酸化炭素及び共吸着された水素が負荷された洗浄剤流(21)を、共吸着された水素を気相(22)に変換し、該気相(22)を続けて前記第1の供給ガス(1)に混合するため、及び/又は、前記第2の供給ガス(14)に混合するために、別の膨張容器(D3)において膨張させる、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素及び二酸化炭素を含む供給ガスを分解するための方法であって、供給ガスから、第1のガススクラバーにおいて、硫黄を含まない洗浄剤によるスクラビングによって二酸化炭素の大部分を選択的に除去し、その際に生じる、二酸化炭素及び共吸着された水素が負荷された洗浄剤流を、共吸着された水素を気相に変換するために、膨張容器において膨張させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガススクラバーは、液体の洗浄剤を用いたスクラビングによって、ガス混合物から特定の成分を除去し、それによって製品ガスを生成するために使用される。ガススクラバーは、気体の物質を吸収して、溶液中に化学的又は物理的に拘束し続ける、という液体の特性を利用する。ガスがどの程度液体に吸収されるかは溶解度係数によって表される。つまり、ガスが液体に良く溶解するほど、その溶解度係数は高くなっていく。溶解度係数は一般的に、温度の低下及び圧力の上昇と共に高くなる。
【0003】
ガススクラビングに続いて、そのスクラビングによって除去された気体成分は、洗浄剤として使用された液体から取り除かれ、それによって洗浄剤が再生される。スクラビングによって除去された気体成分は廃棄処理されるか、又は経済的に使用されるが、再生された洗浄剤は通常の場合、ガススクラバーにおいて再利用される。
【0004】
水素を大工業規模で獲得するために、従来技術によれば、炭素を含む供給材料がガス化によって合成粗ガスに変換される。その種の合成粗ガスは、所望の水素の他に、一酸化炭素、並びに他の一連の不所望な成分、例えば二酸化炭素(CO
2)、硫化水素(H
2S)及び硫化カルボニル(COS)も含んでいる。水によって一酸化炭素を少なくとも部分的に水素と二酸化炭素に変成した後に、不所望な成分を分離するために、合成粗ガスに対して、有利には、物理的なガススクラビングが行われる。そのような方法はこの目的のために適している。何故ならば、合成粗ガスは今日のところ大抵の場合、高圧下で形成され、また物理的なガススクラビングの効果は、動作圧力と共に、一次近似で線形に大きくなるからである。合成粗ガスの精製にはメタノールスクラビングが非常に有効である。このメタノールスクラビングにおいては、0℃を遙かに下回る温度の液体メタノールが洗浄剤として使用される。1988年12月に刊行された「Gas Separation & Purification」第2巻の第171頁から176頁には、メタノールスクラバーが記載されており、このメタノールスクラバーでは、連続して2回行われるスクラビングステップにおいて、水素、二酸化炭素、H
2S及びCOSを含む合成粗ガスがスクラビングされて、二酸化炭素及び硫黄成分が選択的に除去される。このために、合成粗ガスは吸収塔を下から上に誘導される。吸収塔には、第1のスクラビングセクション及び第2のスクラビングセクションが上下に重ねて配置されている。二酸化炭素を分離するために、上側の第2のスクラビングセクションにおいては、無負荷のメタノールが使用され、それに対し第1のスクラビングセクションにおいては、二酸化炭素を分離する際に既に二酸化炭素が負荷されているメタノールの一部を用いたスクラビングによって硫黄成分が除去される。硫黄成分はメタノールに関して、二酸化炭素の溶解度係数よりも数倍高い溶解度係数を有しているので、その分離には、第2のスクラビングセクションにおいて二酸化炭素が負荷された洗浄剤の量の極一部しか必要としない。
【0005】
水素及び一酸化炭素がメタノールに関して、二酸化炭素の溶解度係数又は合成粗ガスに含まれる硫黄成分の溶解度係数よりも数桁低い溶解度係数を有しているにもかかわらず、合成粗ガスのスクラビング時に、水素及び一酸化炭素も僅かな量ではあるがメタノール洗浄剤によって溶解してしまうことは不可避である。共吸着と称されるこの現象によって、水素又は一酸化炭素の収量が低下することを回避するために、従来技術では、ガススクラビング時に二酸化炭素が負荷された、又は、二酸化炭素及び硫黄成分が負荷された洗浄剤流が、最初の再生ステップにおいて、先行の過冷却後に、その都度別個の膨張容器において、一般的にガススクラビングが実施される圧力の1/3よりも低い圧力に膨張される。膨張容器において支配的な温度条件及び圧力条件では、共吸着された物質の大部分が気相に変換される一方、スクラビングによって合成粗ガスから除去された不所望な成分の大部分は洗浄剤に溶解され続ける。水素及び一酸化炭素の他に、二酸化炭素も含むか、又は二酸化炭素及び硫黄成分も含む、二つの膨張容器からの気相は、続けて圧縮され、ガススクラバーの上流側で、分解すべき合成粗ガスに循環される。そのようにして、確かに高製品収量が達成されるが、しかしながらそれと同時に、特に、循環されるべき気相の必要な圧縮のために生じるコストは、方法の経済性にとって不利に作用する。
【0006】
従って本発明の課題は、従来技術の欠点を克服するように、冒頭で述べた方式の方法を構成することである。
【0007】
この課題は、本発明によれば、水素を含む気相が、膨張容器から取り出され、第1のガススクラバーに並行して運転される第2のガススクラバーにおいて供給ガスの圧力よりも低い圧力で生成物として生じる、硫黄を含まないが水素及び二酸化炭素を含むガス混合物に混合されることによって解決される。
【0008】
合理的には、本発明による方法は、水素を含む気相を混合させることによって、第2のガススクラバーからの、硫黄を含まないが水素及び二酸化炭素を含むガス製品の品質が実質的に劣化せずに維持されるか、又は、それどころか最も好適な場合には改善される場合にのみ使用される。この前提のもとで、本発明は、水素を含む気相の経済的な利用のために生じるコストを従来技術に比べて抑えることができる。このことは特に、気相の圧縮時の比較的低いエネルギ需要に起因していると考えられる。しかしながら、ガススクラバーのために使用される装置を、第1のガススクラバーにおいてスクラビングされるべきガス流の体積が低減されていることに基づき、比較的小さい寸法で設計できることによっても、更なる節約が達成される。
【0009】
特に有利には、水素、一酸化炭素、二酸化炭素並びに硫黄成分を含む合成粗ガスから、少なくとも、ガスタービン用のガス燃料並びに水素が獲得されるべき場合に、本発明による方法を使用することができる。特許明細書DE 19651282では、そのような場合に、合成粗ガスを第1の部分流と第2の部分流とに分割することが提案されている。第1の部分流は、水性ガスシフトによる変成後又は部分変成後に、第1のガススクラバーに供給され、硫黄も二酸化炭素も除去される一方、第2の部分流は、硫黄成分の大部分を選択的に分離し、主として水素、一酸化炭素及び二酸化炭素から成る製品ガスを生成するために、直接的に第2のガススクラバーに導入される。典型的には、未変成のガスは、変成又は部分変成された合成ガスの圧力よりも約3〜7bar高い圧力を有している。二つのガススクラバーを同一の洗浄剤を使用して運転させることができるので、それによって、洗浄剤を再生するための装置を共通して利用することも可能になる。
【0010】
二つのガススクラバーにおいて、洗浄剤として多くの種類の液体を使用することができる。しかしながら有利には、メタノール、DMPEG、NMP、アミン又はアミンベースの洗浄剤、例えばMEA、DEA、DIPA又はそれらの材料から形成された混合物を洗浄剤として使用することができる。
【0011】
本発明による方法の特に有利な変形形態では、第2のガススクラバーに供給された供給ガスから、二酸化炭素が予め負荷された洗浄剤によって、硫黄成分の大部分が選択的に分離され、その際に生じる、硫黄成分、二酸化炭素及び共吸着された水素が負荷された洗浄剤流が、共吸着された水素を気相に変換し、その気相を続けて第1のガススクラバーへの供給ガスに混合するために、別の膨張容器において膨張される。オプションとして、水素を含む気相を完全に又は部分的に、第2のガススクラバーへの供給ガスに循環させることもできる。
【0012】
以下では、
図1に略示した実施例に基づき、本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】変成された合成粗ガス及び未変成の合成粗ガスが、並行して運転される二つのガススクラバーにおいて分解される、メタノールスクラバーを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
水素の他に二酸化炭素及び硫黄成分を含む、変成された合成粗ガスが、管路1を介して熱交換器E1に導入される。この変成された合成粗ガスは、吸収塔として構成されている第1のスクラビング装置A1の下側の領域に管路2を介して供給される前に、熱交換器E1において、予熱されるべきプロセス流7に対して冷却される。典型的には15〜75barの圧力で運転される吸収塔A1は、下部スクラビングセクションS1及び上部スクラビングセクションS2を有しており、それら二つのスクラビングセクションS1,S2はチムニートレイKによって相互に隔てられている。冷たい合成粗ガス2は、吸収塔A1において上方に向かって誘導され、その際に、メタノール洗浄剤と集中的に接触される。メタノール洗浄剤は、無負荷で、管路3を介して再生装置Rから供給され、また熱交換器E2において、部分的に再生されたメタノール洗浄剤13に対して冷却された後に、スクラビングセクションS2に導入される。チムニートレイKからの、既に二酸化炭素が予め負荷されているメタノール洗浄剤が、管路4及び5並びに制御機構aを介して、スクラビングセクションS1へと供給される。メタノール洗浄剤に二酸化炭素及び硫黄成分が負荷されて、吸収塔A1の塔底から留出されて、管路6を介して更に搬送される前に、メタノール洗浄剤は、スクラビングセクションS1において、主として硫黄成分を合成粗ガスから吸収する。吸収塔A1の塔頂からは、大部分が水素から成るガス7が取り出され、このガス7は合成粗ガス1に対して予熱された後に、粗水素8として、例えば更なる精製のためにPSA(図示せず)へと供給される。
【0015】
スクラビングセクションS2において主として二酸化炭素が負荷されたメタノール流4は、熱交換器E3における冷却後に、絞り機構bを介して膨張容器D1において膨張される一方、二つのスクラビングセクションS1及びS2において、二酸化炭素も硫黄成分も負荷されたメタノール流6は絞り機構cを介して膨張容器D2に到達する。吸収塔A1において支配的な動作圧力の約1/3に相当する、膨張容器D1及びD2において支配的な圧力の下、特に合成粗ガス2のスクラビング時に共吸着された水素及び一酸化炭素が、そこで生じている気相に移行し、この気相が管路9及び10を介して取り出される。合成粗ガス2から分離された物質が依然として負荷されているメタノール流11及び12は、更なる再生のために、再生装置Rに導入される。
【0016】
ガスタービン用の燃料を獲得するために、管路14を介して、水素及び一酸化炭素の他に二酸化炭素及び硫黄成分も含む未変成の合成粗ガスが熱交換器E4に導入される。この未変成の合成粗ガスは、やはり吸収塔として構成されているスクラビング装置A2の下側の領域に管路15を介して供給される前に、熱交換器E4において、予熱されるべきプロセス流に対して冷却される。典型的には、20〜80barの圧力で運転され、また第1のスクラビングセクションS3及び第2のスクラビングセクションS4を有している吸収塔A2においては、冷却された合成粗ガス15が上方に向かって流れ、またその際に、メタノール洗浄剤と集中的に接触される。メタノール洗浄剤は、硫黄を含まずに、管路16を介して再生装置Rから供給され、スクラビングセクションS3の上端部において導入される。硫黄を含まないメタノール流16は、予め二酸化炭素が負荷されており、また、スクラビングすべき合成粗ガス15における二酸化炭素分圧よりも高い二酸化炭素分圧でスクラビングセクションS3に流入されるので、従って、合成粗ガス15からは確かに硫黄成分が分離されるが、しかしながら二酸化炭素は分離されないか、又は分離されても極僅かである。従って、水素及び一酸化炭素を含んでおり、大部分が二酸化炭素から成る、脱硫されたガス混合物17を、側方にある取り出し口を介して取り出すことができる。スクラビングセクションS3において脱硫されたガス混合物の一部はスクラビングセクションS4へと供給される。スクラビングセクションS4においては、洗浄塔A2の塔頂部に供給された無負荷のメタノール18によって、二酸化炭素もスクラビングによって除去されるので、その結果、水素及び一酸化炭素から成るガス混合物19を、塔A2から取り出し、冷却すべき合成粗ガス14に対して予熱させた後に、精製された合成ガス20として更なる使用に供することができる。ガススクラバーにおいて共吸着された水素及び一酸化炭素を分離するために、負荷された洗浄剤21が吸収塔A2の塔底から留出され、絞り機構dを介して膨張容器D3において膨張され、その際に、主として水素、一酸化炭素及び二酸化炭素から成る気相22と、二酸化炭素及び硫黄成分が負荷されたメタノール23とが生じる。負荷されたメタノール23は再生装置Rへと導入されるが、それに対し、気相22は膨張容器D2からの気相10と共に圧縮機V1及び管路24を介して、変成された合成粗ガス1に混合される。オプションとして、二つの気相10及び22を完全に又は部分的に、未変成の合成粗ガス14に導入することもできる。殆ど硫黄を含んでいないが、水素、一酸化炭素及び二酸化炭素を含んでいる、膨張容器D1からの気相9は、圧縮機V2を介して、脱硫されたガス混合物17の圧力に調整され、またそのガス混合物17と統合されガス流25となる。ガス流25は、冷却すべき合成粗ガス14に対して予熱された後に、最終的にガスタービン(図示せず)に燃料26として供給される。