(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
筆記芯の前進を許容し後退を阻止するボールチャックが軸筒内に収容され、前記ボールチャックに把持された前記筆記芯が受ける筆記圧による軸方向の後退動作および筆記圧の解除による軸方向の前進動作を受けて前記筆記芯を前方に繰り出す芯繰り出し機構を具備し、
前記ボールチャックに把持された筆記芯が受ける筆記圧による軸方向の後退動作および筆記圧の解除による軸方向の前進動作を受けて、回転子を一方向に回転駆動させる回転駆動機構をさらに具備し、前記芯繰り出し機構は、前記回転駆動機構における前記回転子の回転駆動力を受けて、前記筆記芯を前方に繰り出すように構成され、
前記芯繰り出し機構は、円環状の端面に周方向に沿ってせり上るカム面を備えると共に、前記カム面の出発点と最終点との間に軸方向に段差を備えてなるカム部材と、前記回転駆動機構における回転子の回転駆動力を受けて回転し、一部に前記カム部材のカム面に当接する当接子を備え、かつ軸芯部に前記筆記芯の周面に摺接して筆記芯を保持する保持チャックを内装したスライダとを有し、
前記カム部材のカム面に当接する前記スライダの当接子が、軸方向に形成された前記段差に落ち込む際の前記スライダの前進動作により、前記保持チャックに摺接して保持された筆記芯を前記ボールチャックより引き出すように動作することを特徴とするシャープペンシル。
【発明を実施するための形態】
【0028】
この発明にかかるシャープペンシルの第1の実施の形態について、図に基づいて説明する。なお以下に示す各図においては、同一部分を同一符号で示しているが、紙面の都合により一部の図面においては、その代表的な部分に符号を付け、その詳細な構成はその他の各図面に付けた符号を引用して個々に説明することにする。
【0029】
シャープペンシルの前半部を示す
図1および
図3において、符号1はシャープペンシルの外郭を構成する軸筒、すなわち先軸であり、この先軸1の前端部の内周面に、口先部(以下、クチプラとも言う。)2が螺合されることで着脱可能に取り付けられている。
前記口先部2は前方に向かって内径が段状に細くなるように構成されており、その内部にはスライダ3が軸方向にスライド可能に、また軸回転が可能となるように収容されている。なお、前記スライダ3も前方に向かって外径が段状に細くなるように構成されており、スライダ3の先端部3aは円柱状に形成されて、前記口先部2の前端部に筒状に形成された孔より突出した状態で収容されている。
【0030】
前記スライダ3の先端部3aには、筆記芯4を案内する先端パイプ5が取り付けられている。また、前記スライダ3の内部空間における前記先端部3aの直近には、中央に通孔を形成したゴム製の保持チャック6が収容されており、この保持チャック6の前記通孔が前記筆記芯4の周面に摺接して筆記芯を一時的に保持するように作用する。
【0031】
前記保持チャック6の若干後寄りにおける前記口先部2内には、円環状に形成されたカム部材8が取り付けられており、このカム部材8のカム面には、前記スライダ3に形成された当接子3bが当接した状態になされている。なお、前記カム部材8とスライダ3に形成された当接子3bの関係については、後で
図7および
図8に基づいて詳細に説明する。
【0032】
前記スライダ3の内部空間には、前記筆記芯4を把持するボールチャック9が配置されている。このボールチャック9は、円筒状に形成されて内周面が前方に向かって広がるテーパ面を備えた締め具10と、この締め具10内に収容され、軸芯に沿って前記筆記芯4の通孔が形成されると共に、その先端部が軸方向に沿って複数に分割されたチャック本体部11と、前記チャック本体部11の外周面と前記締め具10の内周面との間に配置された複数のボール12とを備えた構成にされている。
なお、前記締め具10の前端部の内周面には、前記チャック本体部11が所定よりも前進するのを阻止すると共に、前記ボール12が脱落するのを阻止する環状のストッパ部材13が嵌め込まれている。
【0033】
したがって、前記ボールチャック9は、前記筆記芯4に筆記圧が加わった場合には、チャック本体部11がボール12と共に円筒状の締め具10内のテーパ面に当接するために筆記芯4はチャック本体部11によって把持される。これにより、筆記芯4の後退は阻止される。
一方、前記筆記芯4を前方に引き出す力が働く場合には、チャック本体部11は前記締め具10による作用を受けないために、筆記芯4を比較的抵抗なく前方に引き出すことができる。すなわち、ボールチャック9は、前記筆記芯4の前進を許容し後退を阻止するように作用する。
【0034】
前記チャック本体部11は、長さ方向の中央部は外径が縮小され、後端部において大径に成形されている。そして後端の大径部が前記スライダ3の後端部内周面に沿って軸方向にスライドできるように構成されている。
そして、チャック本体部11の長さ方向の中央部を取り囲むようにしてコイル状のスプリング14が配置されており、このスプリング14の前端は前記締め具10の内周面に形成された段部に係合し、スプリング14の後端はチャック本体部11の後端側の大径部に当接した状態になされている。
【0035】
したがって、前記スプリング14は、軸方向の拡開作用によって、前記チャック本体部11を後方に付勢するように働き、これにより前記ボールチャック9は、筆記芯4を把持した状態になされる。よって前記スプリング14を便宜上、チャック用スプリングと称呼する。
【0036】
なお、前記ボールチャック9を構成する締め具10の外周面に対して前記スライダ3は軸方向にスライド可能に構成されており、前記締め具10は、その後端部側において円筒状に形成された第1の中継部材16の内周面に嵌合されて取り付けられている。また前記第1の中継部材16は、その長さ方向のほぼ中央部において円筒状に形成された第2の中継部材17の内周面に嵌合されて取り付けられている。
そして、第2の中継部材17の後端部内周面には、可撓性の素材、例えば合成樹脂により成形された短軸状の中継パイプ18が接続されおり、この短軸状の中継パイプ18は後述する回転駆動機構に連結されている。
【0037】
前記した第2の中継部材17は、その前端部側において内径が若干太く成形され、前記スライダ3の後端部をスライドが可能となるように覆っている。そして、内径が若干太く成形された前記中継部材17の前端部と、前記した第1の中継部材16との間の空間部には、スプリング20が収容されている。
すなわち、このスプリング20は前記スライダ3を前方に押し出すように作用し、後述する芯繰り出し機構を構成するカム部材8のカム面にスライダ3の当接子3bを当接させるように働く。この芯繰り出し機構については後で詳細に説明するが、前記スプリング20を便宜上、カム当接用スプリングと称呼する。
【0038】
一方、前記した第1中継部材16の後端部側の空間内には、筆記芯4の通孔を備えた円筒体22がスライド可能に収容されている。この円筒体22の後端部には、芯ケース23が嵌合されて取り付けられており、後述するノック操作による芯ケース23の前進動作に伴って、前記円筒体22の前端部が前記チャック本体部11に当接し、当該チャック本体部11を前方に押し出すように作用する。したがって、前記円筒体22を便宜上、ノック作動用円筒体と称呼する。
【0039】
図2に示すシャープペンシルの後半部の構成において、前記した先軸1の後端部には、軸筒を構成する後軸25が嵌合されて取り付けられている。また後軸25の外側を覆うようにしてクリップ部26aが一体に成形された外軸26が装着されており、この外軸26は、前記後軸25の後端部に螺着された止めリング27によって取り付けられている。
【0040】
前記後軸25の内部空間には回転駆動機構29が収容されている。この回転駆動機構29はユニット化されており、この回転駆動機構29に前記した合成樹脂により成形された短軸状の中継パイプ18の後端部が接続されている。
そして、前記回転駆動機構29は、
図2に示されているとおり、先軸1の後端部との間に介在された軸スプリング30によって後方に押し付けられ、前記後軸25内の縮径により形成された段部25aに、前記軸スプリング30の付勢力によって押し当てられている。これにより回転駆動機構29は後軸25内に固定されている。
なお、前記した前記回転駆動機構29の構成および作用については、
図4〜6に基づいて後で詳細に説明する。
【0041】
前記後軸25の後端部内には、ノック部材としてのノック棒31が後軸25に対して摺動可能に取り付けられており、後軸25とノック棒31との間の空間部にはノック棒のリターンスプリング32が配置されている。
そして、ノック棒31の中央よりも若干後端部寄りには、筆記芯の補給孔を備えた隔壁部31aが形成されている。なお、ノック棒31の後端部には、消しゴム33が着脱可能に装着されると共に、消しゴム33を覆うノックカバー34がノック棒31の後端部の周面に着脱可能に取り付けられている。
また、前記芯ケース23の後端部には、円筒部材35が取り付けられており、前記ノックカバー34をノック操作することにより前記ノック棒31の隔壁部31aが円筒部材35を前方に押し出し、これに伴って芯ケース23も前進するように動作する。
【0042】
前記したシャープペンシルの構成において、ノックカバー34をノック操作することにより、前記したとおり芯ケース23が前進動作する。これにより、芯ケース23の前端部に取り付けられたノック作動用円筒体22が前進して、前記したチャック本体部11を前方に押し出す。
これに伴い、チャック本体部11に把持された筆記芯4も前進し、筆記芯4を先端パイプ5より繰り出させるように作用する。そして前記したノック操作の解除によりノック棒31は、リターンスプリング32の作用により後退して
図2に示す状態に復帰する。
【0043】
この時、前記チャック本体部11は前記チャック用スプリング14の作用により後退するが、筆記芯4はスライダ3内に収容された前記保持チャック6によって保持されるため、前記したボールチャックの作用として、筆記芯4はチャック本体部11から抵抗なく引き出され、先端パイプ5から繰り出された状態を維持する。したがって、前記したノック操作を繰り返すごとに、筆記芯4を所定量ずつ繰り出すことができる。
また、前記ノックカバー34をノックした状態に維持することで、チャック本体部11は締め具10から突出して芯4の把持は解除される。この状態において、先端パイプ5から繰り出された状態の筆記芯4を指先等で押し戻すことができる。
【0044】
前記したシャープペンシルにおいては、
図2に示したように後軸25内に回転駆動機構29が収容されている。
この回転駆動機構29には、回転子が具備され、前記したボールチャック9に把持された前記筆記芯4が受ける筆記圧による軸方向の後退動作および筆記圧の解除による軸方向の前進動作を受けて前記回転子を一方向に回転駆動させるように作用する。
【0045】
すなわち、前記筆記芯4が筆記圧を受けた場合には、
図1および
図3に示すチャック本体部11が若干後退し、ボール12を介して締め具10も後退する。前記締め具10には、第1中継部材16、第2中継部材17、中継パイプ18が連結されており、筆記圧を受けた場合の筆記芯4の後退動作および前進動作(以下、これをクッション動作とも言う。)は、前記各部材を介して前記した回転駆動機構29に伝達される。
【0046】
図4は、前記回転駆動機構29の全体構成を断面図で示したものである。
図4に示す前記中継パイプ18は前記した芯ケース23を覆うようにして同軸状に配置されており、当該中継パイプ18は、筆記動作に基づく筆記芯の後退および前進動作(クッション動作)を回転駆動機構29に伝達させると共に、前記クッション動作によって生ずる前記回転駆動機構29における回転子の回転運動を前記中継パイプ18を介して前記ボールチャック9およびスライダ3等に伝達させるように作用する。
【0047】
この回転駆動機構29には円筒状に形成された回転子40が具備されており、前記した中継パイプ18は、回転駆動機構29の前端部において、前記回転子40の内周面に嵌合することで結合されている。
前記回転子40は、その前端部付近が若干径を太くした太径部になされ、その太径部の一端面(後端面)には第1のカム面40aが形成されており、太径部の他端面(前端面)には第2のカム面40bが形成されている。
【0048】
一方、前記回転子40の後端部側を覆うようにして円筒状の第1カム形成部材(上カム形成部材とも言う。)41が、前記回転子40を回動可能とするように配置されており、前記上カム形成部材41の前端部外周には、円筒状の第2カム形成部材(下カム形成部材とも言う。)42が、上カム形成部材41に嵌合されて取り付けられている。
【0049】
そして、前記回転子40における第1のカム面40aに対峙する上カム形成部材41の前端面に、固定カム面(第1の固定カム面とも言う。)41aが形成されている。また、前記回転子40における第2のカム面40bに対峙する下カム形成部材42の前端部内面に、固定カム面(第2の固定カム面とも言う。)42aが形成されている。
【0050】
なお、前記回転子40に形成されている第1と第2のカム面40a,40bと、前記第1の固定カム面41a、第2の固定カム面42aとの関係および相互の作用については、
図5および
図6に基づいて後で詳細に説明する。
【0051】
図4に示すように、前記した上カム形成部材41の後端部側には、シリンダー部材44が嵌め込まれており、このシリンダー部材44の後端部には芯ケース23が挿通できる挿通孔44aが形成されている。そして、前記シリンダー部材44内には円筒状に形成されて軸方向に移動可能なトルクキャンセラー45が配置され、当該トルクキャンセラー45の内周面前端と前記シリンダー部材44の内周面後端との間にはコイル状のクッションスプリング46が装着されている。
【0052】
前記クッションスプリング46は、前記トルクキャンセラー45を前方に付勢するように作用し、この付勢力を受けた前記トルクキャンセラー45に押されて前記回転子40は前方に向かうように作用する。
前記した回転駆動機構29は、その中央部が芯ケース23を通す空間部になされて芯ケース23とは隔離されており、前記した符号40〜46で示す各部材により一体に結合されてユニット化されている。
【0053】
前記した回転駆動機構29の構成によると、前記ボールチャック9が筆記芯4を把持した状態で、前記回転子40は中継パイプ18、第2中継部材17および第1中継部材16を介してボールチャック9、スライダ3と共に軸芯を中心にして回転可能になされている。そして、シャープペンシルが筆記状態以外の場合においては、前記クッションスプリング46の作用により前記トルクキャンセラー45を介して回転子40は前方に付勢されている。
【0054】
一方、シャープペンシルにより筆記を行った場合、すなわち先端パイプ5から突出している筆記芯4に筆記圧が加わった場合には、前記ボールチャック9は前記クッションスプリング46の付勢力に抗して若干後退し、これに伴って回転子40も軸方向に後退する。したがって、
図4に示す回転子40に形成された第1のカム面40aは前記第1の固定カム面41aに接合して噛み合い状態になされる。
【0055】
図5(A)〜(C)および
図6(D),(E)は、前記した動作により回転子40を回転駆動させる回転駆動機構29の基本動作を順を追って説明するものである。
図5および
図6において、符号40は前記した回転子を模式的に示したものであり、その一端面(図の上側の面)には、周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第1のカム面40aが円環状に形成されている。また回転子40の他端面(図の下側の面)にも、同様に周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第2のカム面40bが円環状に形成されている。
【0056】
一方、
図5および
図6に示すように、上カム形成部材41の円環状の端面にも周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第1の固定カム面41aが形成されており、下カム形成部材42の円環状の端面にも周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第2の固定カム面42aが形成されている。
【0057】
そして、回転子40に形成された第1のカム面40a、第2のカム面40b、上カム形成部材41に形成された第1の固定カム面41a、下カム形成部材42に形成された第2の固定カム面42aの周方向に沿って鋸歯状に形成された各カム面は、そのピッチが互いにほぼ同一となるように形成されている。なお、
図5および
図6における回転子40の中央部に描いた○印は、回転子40の回転移動状態を示している。
【0058】
図5(A)は、シャープペンシルが筆記状態以外の場合における上カム形成部材41、回転子40、下カム形成部材42の関係を示したものである。この状態においては、
図4に示したクッションスプリング46の付勢力により、回転子40に形成された第2のカム面40bは、下カム形成部材42の第2の固定カム面42a側に当接されている。
この時、前記回転子40側の第1カム面40aと前記第1の固定カム面41aが、軸方向においてカムの一歯に対して半位相(半ピッチ)ずれた関係となるように設定されている。
【0059】
図5(B)は、シャープペンシルの使用により筆記芯4に筆記圧が加わった初期の状態を示している。この場合においては、ボールチャック9および中継パイプ18等を介して、回転子40はクッションスプリング46を収縮させて軸方向に後退する。これにより、回転子40は上カム形成部材41側に移動する。
【0060】
図5(C)は、シャープペンシルの使用により筆記芯4に筆記圧が加わり、回転子40が上カム形成部材41側に当接した状態を示しており、この場合においては回転子40に形成された第1カム面40aが、上カム形成部材41側の第1の固定カム面41aに噛み合う。これにより回転子40は第1カム面40aの一歯の半位相(半ピッチ)に相当する回転駆動を受ける。
この
図5(C)に示す状態においては、前記回転子40側の第2カム面40bと前記第2の固定カム面42aが、軸方向においてカムの一歯に対して半位相(半ピッチ)ずれた関係となるように設定されている。
【0061】
次に
図6(D)は、シャープペンシルによる筆記が終わり、筆記芯4に対する筆記圧が解かれた初期の状態を示しており、この場合においては、前記したクッションスプリング46の作用により回転子40は軸方向に前進する。これにより、回転子40は下カム形成部材42側に移動する。
【0062】
さらに
図6(E)は、前記したクッションスプリング46の作用により、回転子40が下カム形成部材42側に当接した状態を示しており、この場合においては回転子40に形成された第2カム面40bが、下カム形成部材42側の第2の固定カム面42aに噛み合う。これにより回転子40は第2カム面40bの一歯の半位相(半ピッチ)に相当する回転駆動を再び受ける。
【0063】
したがって、回転子40の中央部に描いた○印で示すように、筆記圧を受けた回転子40の軸方向への往復運動に伴って回転子40は、第1および第2カム面40a,40bの一歯(1ピッチ)に相当する回転駆動を受ける。
これにより、前記した中継パイプ18、第2中継部材17および第1中継部材16を介してボールチャック9に把持された筆記芯4も、前記スライダ3と共に回転駆動を受ける。
【0064】
なお、
図4に示した回転駆動機構29において、コイル状のクッションスプリング46の付勢力を受けて回転子40を前方に押し出す円筒状のトルクキャンセラー45は、このトルクキャンセラー45の前端面と前記回転子40の後端面との間ですべりを発生させて、前記回転子40の回転運動をクッションスプリング46に伝達させるのを防止させるように作用する。
【0065】
換言すれば、前記回転子40とクッションスプリング46との間に、トルクキャンセラー45が介在されることにより、前記回転子40の回転運動が前記したすべり作用により前記クッションスプリング46に伝達されるのを阻止するように作用する。これにより、スプリング46の捩じれ戻り(バネトルク)が発生して、回転子40の回転動作に障害を与えるという問題を解消させることができる。
【0066】
次に
図7および
図8は、芯繰り出し機構の構成を説明するものである。この芯繰り出し機構は、前記した回転駆動機構29における回転子40の回転駆動力を受けて、前記筆記芯4を前方に繰り出すように作用する。
なお、
図7は口先部を除いた状態のシャープペンシルの前半部を、一部を破断した状態で示した斜視図であり、
図8は同じく口先部を除いた状態において、主にカム部材とスライダとの関係を示した斜視図である。
【0067】
前記スライダ3に形成された円柱状の先端部3aを囲むようにして円環状に形成されたカム部材8が、前記した口先部2に収容された状態で配置されている。
このカム部材8は、
図8に示されているように円環状の端面に周方向に沿ってせり上るカム面8aを備えると共に、前記カム面8aの出発点(低位置)と最終点(高位置)との間に軸方向に段差8bを備えた構成にされている。
すなわち、前記軸方向の段差8bが前記カム面8aの出発点と最終点とを繋いだ構成にされている。
【0068】
一方、前記スライダ3における円柱状に形成された先端部3aの根元部分に、軸方向に突出する当接子3bがスライダ3と一体に形成されており、前記カム当接用スプリング20の作用を受ける前記スライダ3の前進作用を受けて、当接子3bが前記カム部材8のカム面8aに当接した状態になされている。
【0069】
前記した構成において、回転駆動機構29の回転子40は、筆記芯のクッション動作に基づいて前記スライダ3を徐々に回転駆動する。すなわち、この実施の形態においては前記スライダ3の先端部3aを先にして見た時、スライダ3は右回転される。
これにより、スライダ3に形成された前記当接子3bは、前記カム部材8のカム面8aに沿ってせり上るように動作し、これに伴い前記スライダ3は徐々に軸方向に後退する。この時、ボールチャック9によって把持された筆記芯4は、相対的に先端パイプ5より繰り出されるように作用する。
【0070】
そして、前記スライダ3の当接子3bが、カム部材8に形成された軸方向の段差8bに達すると、前記当接子3bはカム当接用スプリング20の作用により前記段差8bに沿って落ち込み、その瞬間に前記スライダ3も前記段差8bの高低差に相当する前進運動を受ける。
この時、スライダ3内に収容された保持チャック6も同様に前進するので、保持チャック6に摺接して保持された筆記芯4を前記ボールチャック9より引き出すように動作する。
【0071】
以上の動作の繰り返しにより、回転駆動機構29からの回転力を受ける前記芯繰り出し機構は、筆記動作に伴う筆記芯4の摩耗に対応して、筆記芯を徐々に先端パイプ5から繰り出すように作用する。これにより、筆記に伴う芯の摩耗にもかかわらず、先端パイプからの筆記芯の出寸法をほぼ一定に保つことができ、筆記の能率を落とすことのない理想に近いシャープペンシルを提供することができる。
【0072】
この場合、筆記に伴う芯4の摩耗の程度と、前記した芯繰り出し機構による筆記芯4の繰り出し量がほぼ一致するように設定されれば、筆記動作にもかかわらず先端パイプ5からの筆記芯の出寸法を常に一定に保つことができる理想的な動作を期待することができる。しかしながら芯繰り出し量の設定が僅かにずれて、筆記芯4の摩耗量に対して芯4の繰り出し量が大きくなされると、筆記動作に伴い芯4が突出して芯折れを発生させる問題を招来させる。
【0073】
したがって、筆記に伴う芯4の摩耗量に対して、芯4の繰り出し量が僅かに少ない程度に設定することが望ましく、このように芯繰り出し量を設定することで、前記したノックカバー34の一度のノック操作で、長く書き続けることができるシャープペンシルを提供することができる。
【0074】
なお、この実施の形態においては、前記回転駆動機構29における回転子40の回転駆動力を受けて、ボールチャック9に保持された筆記芯4も回転駆動されるように構成されているので、書き進むにしたがって筆記芯4が偏摩耗するのを防止させることができ、描線の太さや描線の濃さが大きく変化するという問題を解消することができる。
【0075】
ところで、前記した芯繰り出し機構を構成するカム部材8は、図に示す実施の形態においては軸筒(先軸)1に対して着脱可能に取り付けられた口先部(クチプラ)2内に収容されており、クチプラ2とカム部材8とは別部品で構成されている。しかし、このカム部材8は前記クチプラ2と一体に、1部品で成形することもできる。
このように、クチプラ2内にカム部材8を収容した前者の構成、またはクチプラ2とカム部材8とを一体に成形した後者の構成を採用するにしても、カム部材8に形成される軸方向の段差8bの大きさを複数種類用意し、使用者がクチプラ2の交換と共に前記段差8bの異なるカム部材8を選択できるようにすることで、芯繰り出し機構における筆記芯の繰り出し量を調整することが可能となる。
【0076】
この構成を利用すれば、使用者個人により個々に異なる筆記圧や、利用される筆記芯4の硬度などの違いによる筆記芯の摩耗の度合いに合わせて、クチプラ2を交換することで筆記芯4の繰り出し量を個々に調整することができる。これによれば、一度のノック操作で長く書き続けることができるという前記した作用効果をより顕著に発揮することが可能なシャープペンシルを提供することができる。
【0077】
次に
図9および
図10は、この発明にかかるシャープペンシルの第2の実施の形態を示したものである。
図9はその前半部の構成を断面図で示したものであり、
図1および
図3に示した第1の実施の形態における各部に相当する部分を同一符号で示しており、したがってその詳細な説明は省略する。
【0078】
図9に示す第2の実施の形態においては、スライダ3とボールチャック9との間にスプリング50が配置されている。このスプリング50は、スライダ3を軸方向の前方に向かって押し出す機能と、ボールチャック9を構成するチャック本体部11を軸方向の後方に向かって付勢して、ボールチャック9によって筆記芯4を把持させる機能を兼用している。すなわち、前記スプリング50は、
図1および
図3に示した第1の実施の形態において、カム当接用スプリング20とチャック用スプリング14の作用を兼ねた動作を実行するものであり、したがって前記スプリング50を便宜上、兼用スプリングと称呼する。
【0079】
なお、この第2の実施の形態においては、先端パイプ5はパイプ支持部材51によって支持され、保持チャック6を軸芯部分に収容したスライダ3とは別の部材により構成されている。
また、スライダ3には
図10に模式図で示したように、スライダ3の本体に対して軸方向に突出するロッド状の当接子3bが形成されており、このロッド状の当接子3bの先端部は、前記兼用スプリング50の作用により、口先部2内に配置されたカム部材8のカム面8aに当接されるように構成されている。
【0080】
加えて、第2の実施の形態におけるカム部材8は、円環状の端面に周方向に沿ってせり上るカム面8aを備えると共に、前記カム面8aの出発点(低位置)と最終点(高位置)との間に、符号8cおよび8dで示すように軸方向に2段にわたる段差を備えた構成にされている。
すなわち、この第2の実施の形態においては、筆記に伴う筆記芯4のクッション動作により前記回転駆動機構29が動作し、これにより前記スライダ3に形成されたロッド状の当接子3bが、段差8cおよび8dに順次落ち込むことで、当接子3bがカム面8aの最終点(高位置)から出発点(低位置)に移動するように動作する。
【0081】
これは、
図5(C)に示すように回転駆動機構における回転子の第1カム面40aが上カム形成部材41側の固定カム面41aに噛み合った状態で、前記スライダ3の当接子3bが前記兼用スプリング50の作用を受けて段差8cに沿って落ち込むように動作する。
続いて
図6(E)に示すように回転子の第2カム面40bが下カム形成部材42側の固定カム面42aに噛み合った状態で、前記スライダ3の当接子3bが前記兼用スプリング50の作用を受けて段差8dに沿って落ち込むように動作する。
【0082】
なお、前記スライダ3の当接子3bが前記段差8cおよび8dを落ち込む際に、スライダ3に配置された保持チャック6がボールチャック9より筆記芯4を引き出すように動作するのは、前記した第1の実施の形態と同様である。
したがって、
図9および
図10に示した第2の実施の形態においても、すでに説明した第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0083】
以上説明した芯繰り出し機構を構成するカム部材8は、環状の端面に形成されたカム面8aが一周する地点において、段差8bまたは二段段差8c,8dを形成しているが、この段差は環状の端面における半周の地点において、もしくはそれ以上に短い地点において形成することもできる。
これは前記した回転駆動機構29を構成する鋸歯状カムの歯数、すなわち鋸歯状カムの回転歩進量との兼ね合いで、その組み合わせを適宜設定することができる。
【0084】
次に
図11ないし
図13は、この発明にかかるシャープペンシルにおける第3の実施の形態を示したものである。
図11はその前半部の構成を断面図で示したものであり、
図12はその前半部を一部破断して示した斜視図であり、
図13は
図11に示す芯繰り出し機構および繰り出し量調整機構60の要部を示した斜視図である。
図1および
図3に示した第1の実施の形態における各部に相当する部分を同一符号で示しており、したがってその詳細な説明は省略する。
【0085】
第3の実施の形態においては、シャープペンシルは、第1の実施の形態および第2の実施の形態において前記した芯繰り出し機構と組み合わせて使用され、芯繰り出し機構による筆記芯の繰り出し量を調整する繰り出し量調整機構60を備えている。繰り出し量調整機構60は、第1の実施の形態および第2の実施の形態における口先部2と類似しているが異なる形状の調整口先部61と、調整口先部61に被せられる調整キャップ62とを備えている。
【0086】
調整口先部61について、第1の実施の形態および第2の実施の形態における口先部2と異なる点を説明する。調整口先部61には、先端の筒状部分とその後方に続くより大径に成形された筒状部分との間の段部に、軸方向に延びるスライド孔61aが形成されている。また、調整口先部61は、前記した大径に成形された筒状部分の外周面に環状に形成された係合突起61bを備えている。なお、係合突起61bは、外周面の全周に亘って形成されている必要はなく、1つ又は周方向に等間隔に設けられた複数の突起であってもよい。
【0087】
調整キャップ62は、その前端面に孔が形成され、該孔より調整口先部61先端の筒状部分が突出している。調整キャップ62は、小径に成形された筒状部分と大径に成形された筒状部分とを備えている。大径の筒状部分の内周面には、調整口先部61の係合突起61bと相補的な形状で環状に設けられた係合溝62aを備えている。
【0088】
調整口先部61に調整キャップ62を被せた状態では、調整キャップ62の前端面の孔と調整口先部61先端の筒状部分との間、及び、調整キャップ62の大径の筒状部分の内周面と対応する調整口先部61の外周面との間は緩く嵌合している。また、調整キャップ62の後端面は、調整口先部61の別の段部と軽く当接している。したがって、調整キャップ62は、調整口先部61に対して、軸方向周りに回転可能である。調整キャップ62の軸方向の動きは、調整口先部61の係合突起61bと調整キャップ62の係合溝62aとの間の係合によって規制されている。
【0089】
調整キャップ62の前端内部には、調整口先部61先端の筒状部分を囲むようにして円環状に形成された調整カム部材63が設けられている。この調整カム部材63のカム面である調整カム面63aに対しては、後述する調整当接子66が当接した状態になされている。調整カム部材63は、第1の実施の形態および第2の実施の形態におけるカム部材8と類似の形状を備えている。すなわち、調整カム面63aは、円環状の端面に周方向に沿ってせり上るように構成にされ、出発点(低位置)と最終点(高位置)とを備えた構成にされている。
【0090】
調整口先部61の前端内部には、スライダ3に形成された円柱状の先端部3aを囲むようにして円環状に形成されたカムベース部材64が設けられている。また、このカムベース部材64の後方には、同じくスライダ3に形成された円柱状の先端部3aを囲むようにして円環状に形成されたカム部材65が設けられている。
【0091】
カム部材65は、カム面65aを備え、カム面65aの出発点と最終点とは離間した構成にされているが、スライダ3の当接子3bの周回移動を阻害する程は離間していない。カム部材65は、カム面65aの出発点もしくは最終点またはそれらの近傍において、接続部65bを介してカムベース部材64に対して固定されている。したがって、カムベース部材64に対して固定されたカム部材65のカム面65aの出発点側または最終点側は、固定端であり、その他方は自由端であり、こうしたカム部材65は梁状部材である。この実施の形態において、カム部材65は、カム面65aの出発点において接続部65bを介してカムベース部材64に対して固定されている。また、カム部材65は、可撓性の材料によって成形されている。
【0092】
調整当接子66は、細長状の部材であり、調整口先部61のスライド孔61aおよび対応するカムベース部材64の部分に設けられた孔または切り欠きを通って、調整カム部材63およびカム部材65に対して両端が当接した状態になされている。すなわち、調整当接子66の一端は、調整カム部材63の調整カム面63aに当接し、その他端は、カム部材65のカム面65aの反対側の面であって固定端から離間した部分に当接する。調整当接子66の長さは、調整当接子66が調整カム部材63の出発点と当接した状態にある場合に、
図11に示したようにカム部材65のカム面65aの出発点と最終点とが同じ高さとなるように、すなわち、カム面65a全体が同一平面上にあるように決定される。
【0093】
繰り出し量調整機構60を、第1の実施の形態に適用する場合にはカム当接用スプリング20によって、第2の実施の形態に適用する場合には兼用スプリング50によって、スライダ3の当接子3bがカム部材65のカム面65aに当接し、カム部材65を前方に付勢している。したがって、この付勢力または可撓性のカム部材65自体の復元力によって、カム部材65は、調整当接子66に対して当接した状態になされている。
【0094】
続いて、繰り出し量調整機構60による筆記芯の繰り出し量の調整方法について説明する。前記したように、調整当接子66が調整カム部材63の出発点と当接した状態にある場合には、カム部材65のカム面65aの出発点と最終点とが同じ高さにあることから、当接子3bは、カム面65aに沿って同一平面上を周回するのみである。したがって、筆記動作による筆記芯のクッション動作に基づいてスライダ3が軸方向に後退することはなく、よって、筆記芯4の繰り出し量はゼロである。
【0095】
この実施の形態においては、例えば
図13参照すると、調整キャップ62を把持しながらスライダ3の先端部3aを先にして見て左回転させた場合には、調整当接子66は、調整カム部材63の調整カム面63aに沿ってせり上るように動作し、これに伴い調整当接子66は徐々に軸方向に後退する。この時、調整当接子66の他端に当接しているカム部材65は、接続部65bによる固定端を支点として、下から押し上げられるようにして自由端側が後退するように変形する。その結果、カム部材65は、第1の実施の形態および第2の実施の形態におけるカム面8aのようなせり上るようなカム面65aを形成する。
【0096】
一方、調整キャップ62を把持しながらスライダ3の先端部3aを先にして見て右回転させた場合には、調整当接子66は、カム当接用スプリング20または兼用スプリング50により付勢されたカム部材65を介して、または、カム部材65自体の弾性による復元力によって、調整カム部材63の調整カム面63aに沿って下るように動作する。その結果、調整当接子66は徐々に軸方向に前進する。この時、カム部材65は、カム当接用スプリング20または兼用スプリング50の作用により、または、カム部材65自体の弾性による復元力によって、接続部65bによる固定端を支点として、自由端側が前進する。調整キャップ62を右回転し続け、調整当接子66が調整カム部材63の出発点に達すると、
図11に示したように、カム面65a全体は同一平面上となる。
【0097】
まとめると、調整キャップ62を回転させることによって調整カム部材63を回転させると、その回転に応じて調整カム面63aを摺動する調整当接子66が前後に動作する。調整当接子66の前後動によってカム部材65の自由端側を前後動させてカム面65aの出発点と最終点との間の段差の高低差が調整される。
【0098】
カム部材65がせり上るようなカム面65aを形成する状態にある場合には、筆記動作による筆記芯のクッション動作に基づいてスライダ3が軸方向に後退し、ボールチャック9によって把持された筆記芯4は、相対的に先端パイプ5より繰り出されるように作用する。このときの筆記芯4の相対的な繰り出し量は、カム面65aの傾斜度合い、すなわち調整キャップ62の回転に応じた調整当接子66の軸方向位置によって決定される。
【0099】
また、スライダ3の当接子3bが、カム面65aの最終点に達すると、当接子3bはカム当接用スプリング20または兼用スプリング50の作用により出発点との間の段差に沿って落ち込み、その瞬間にスライダ3も前記段差の高低差に相当する前進運動を受ける。この時、スライダ3内に収容された保持チャック6も同様に前進するので、保持チャック6に摺接して保持された筆記芯4を前記ボールチャック9より引き出すように動作する。このときの筆記芯4の筆記芯4の繰り出し量は、前記段差の高低差、すなわちカム面65aの傾斜度合い、言い換えると調整キャップ62の回転に応じた調整当接子66の軸方向位置によって決定される。
【0100】
したがって、調整キャップ62の回転位置を調整することによって、芯繰り出し機構における筆記芯4の繰り出し量を調整することが可能となる。この構成を利用すれば、使用者個人により個々に異なる筆記圧や、利用される筆記芯4の硬度などの違いによる筆記芯の摩耗の度合いに合わせて、筆記芯4の繰り出し量を個々に調整することができる。これによれば、一度のノック操作で長く書き続けることができるという前記した作用効果をより顕著に発揮することが可能なシャープペンシルを提供することができる。
【0101】
さらに、この第3の実施の形態による繰り出し量調整機構60によれば、第1の実施の形態において前記したようなカム部材8の交換作業を要することなく、調整キャップ62の回転という容易な方法によって筆記芯4の繰り出し量を調整することが可能となる。繰り出し量調整機構60による筆記芯4の調整可能な最大繰り出し量は、調整カム部材63の調整カム面63aの出発点と最終点との間の段差の高低差により決定される。したがって、通常想定される筆記芯4の摩耗の度合いを超えた長さ(高さ)の前記段差を有するように、調整カム部材63を構成することによって、すべての使用者の好みに応じた筆記芯4の繰り出し量に設定可能となる。当然のことながら、筆記芯4の自動的な繰り出しを好まない使用者は、調整キャップ62を回転させて調整当接子66が調整カム部材63の出発点と当接した位置にすることによって、筆記芯4の繰り出し量がゼロとなるようにすればよい。なお、現在の繰り出し量の程度を使用者が視認可能なように、調整キャップ62の外周面に相対的な回転位置を示す目盛り等を設けてもよい。
【0102】
調整カム部材63は、図に示す実施の形態においては調整キャップ62内に収容されており、調整キャップ62とは別部品で構成されている。しかし、この調整カム部材63は、調整キャップ62と一体に、1部品で成形することもできる。同様に、調整口先部61とカムベース部材64とは一体に1部品に成形してもよく、カムベース部材64とカム部材65とは一体に1部品に成形してもよく、カム部材65と調整当接子66とは一体に、1部品に成形してもよい。また、調整カム部材63の調整カム面63aは、全周に亘るような環状の面を形成する必要はなく、部分的なものであってもよい。
【0103】
次に
図14および
図15は、この発明にかかるシャープペンシルにおける第4の実施の形態を示したものである。
図14はその前半部の構成を断面図で示したものであり、
図15はその前半部の構成を別の断面図で示したものである。
図1および
図3に示した第1の実施の形態および
図11ないし
図13に示した第3の実施の形態における各部に相当する部分を同一符号で示しており、したがってその詳細な説明は省略する。
【0104】
第4の実施の形態においては、シャープペンシルは、第1の実施の形態および第2の実施の形態において前記した芯繰り出し機構と組み合わせて使用され、芯繰り出し機構による筆記芯の繰り出し量を調整する繰り出し量調整機構70を備えている。繰り出し量調整機構70は、第3の実施形態による繰り出し量調整機構60と類似しているが異なる形状の調整口先部71と、調整口先部71に被せられる調整キャップ72とを備えている。
【0105】
第4の実施の形態による繰り出し量調整機構70は、調整カム部材63を有さない。繰り出し量調整機構70は、その代わりに調整キャップ72を軸方向に摺動させることによって、カム部材65のカム面65aの出発点と最終点との間の段差の高低差を調整するように構成されている点で、第3の実施の形態による繰り出し量調整機構60と異なる。したがって前記調整キャップ72を便宜上、調整スライダ72と称呼する。
【0106】
調整口先部71には、第3の実施の形態における調整口先部61と同様に、調整当接子66が内部を摺動するスライド孔71aが形成されている。また、調整口先部71は、第3の実施の形態における調整口先部61と同様に、大径に成形された筒状部分の外周面に環状に形成された係合突起71bを備えている。さらに、調整口先部61先端の筒状部分には、係止突起71cが設けられている。さらに、調整口先部71は、調整スライダ72の外周面を支持するために、環状に形成された環状壁部71dを備えている。なお、係合突起71bおよび係止突起71cは、外周面の全周に亘って形成されている必要はなく、1つ又は周方向に等間隔に設けられた複数の突起であってもよい。
【0107】
調整スライダ72は、その前端面に孔が形成され、該孔より調整口先部71先端の筒状部分が突出している。調整スライダ72は、小径に成形された筒状部分と大径に成形された筒状部分とを備えている。大径の筒状部分の内周面には、調整口先部61の係合突起61bと相補的な形状で環状に設けられた係合溝72aを複数備えている。
【0108】
調整口先部71に調整スライダ72を被せた状態では、調整スライダ72の前端面の孔と調整口先部71先端の筒状部分との間、及び、調整スライダ72の大径の筒状部分の内周面と対応する調整口先部71の外周面との間は緩く嵌合している。したがって、調整スライダ72は、調整口先部71に対して、軸方向に摺動可能である。調整スライダ72の調整口先部71に対する軸方向の相対位置は、調整口先部71の係合突起71bと調整スライダ72の複数の係合溝72aとの間の係合によって段階的に調整可能である。調整口先部71に対する調整スライダ72の最大前進位置は、調整口先部71の前端面の孔の縁部と調整スライダ72の係止突起71cとの間の係止によって決定される。また、最大後退位置は、調整スライダ72の後端面と調整口先部71の別の段部との当接によって決定される。
【0109】
したがって、繰り出し量調整機構70による筆記芯4の調整可能な最大繰り出し量は、調整口先部71に対する調整スライダ72の最大前進位置と最大後退位置との間の距離により決定される。なお、係合突起71bおよび複数の係合溝72aを用いることなく、調整口先部71および調整スライダ72間の嵌合具合を強くする等によって、前記相対位置を無段階的に調整可能にしてもよい。それによってより細かい繰り出し量の調整が可能となる。
【0110】
調整当接子66は、調整口先部71のスライド孔71aおよび対応するカムベース部材64の部分に設けられた孔または切り欠きを通って、調整スライダ72およびカム部材65に対して両端が当接した状態になされている。すなわち、調整当接子66の一端は、調整スライダ72の前端部内壁に当接し、その他端は、カム部材65のカム面65aの反対側の面であって固定端から離間した部分に当接する。調整当接子66の長さは、調整スライダ72が最大前進位置にある場合に、
図15に示したようにカム部材65のカム面65aの出発点と最終点とが同じ高さとなるように、すなわち、カム面65a全体が同一平面上にあるように決定される。
【0111】
続いて、繰り出し量調整機構70による筆記芯の繰り出し量の調整方法について説明する。前記したように、調整スライダ72が最大前進位置にある場合には、カム部材65のカム面65aの出発点と最終点とが同じ高さにあることから、当接子3bは、カム面65aに沿って同一平面上を周回するのみである。したがって、筆記動作による筆記芯のクッション動作に基づいてスライダ3が軸方向に後退することはなく、よって、筆記芯4の繰り出し量はゼロである。
【0112】
この実施の形態においては、調整スライダ72を把持しながら押し込んで軸方向に後退させた場合には、これに伴い調整当接子66も軸方向に後退する。この時、調整当接子66の他端に当接しているカム部材65は、接続部65bによる固定端を支点として、下から押し上げられるようにして自由端側が後退するように変形する。その結果、カム部材65は、第1の実施の形態および第2の実施の形態におけるカム面8aのようなせり上るようなカム面65aを形成する。
【0113】
一方、調整スライダ72を把持しながら引っ張って軸方向に前進させた場合には、調整当接子66は、カム当接用スプリング20または兼用スプリング50により付勢されたカム部材65を介して、または、カム部材65自体の弾性による復元力によって、軸方向に前進する。この時、カム部材65は、カム当接用スプリング20または兼用スプリング50の作用により、または、カム部材65自体の弾性による復元力によって、接続部65bによる固定端を支点として、自由端側が前進する。調整スライダ72を引っ張り続け、最大前進位置に達すると、
図15に示したように、カム面65a全体は同一平面上となる。
【0114】
まとめると、調整スライダ72を前後動させると、その前後動に応じて調整当接子66が前後に動作する。調整当接子66の前後動によってカム部材65の自由端側を前後動させてカム面65aの出発点と最終点との間の段差の高低差が調整される。したがって、
図14および
図15に示した第4の実施の形態においても、すでに説明した第3の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。なお、現在の繰り出し量の程度を使用者が視認可能なように、調整スライダ72の外周面に相対的な調整スライダ72の位置を示す目盛り等を設けてもよい。
【0115】
調整スライダ72は、図に示す実施の形態においては調整当接子66とは別部品で構成されている。しかし、調整スライダ72と調整当接子66とは一体に、1部品で成形することもできる。同様に、カム部材65と調整当接子66とは一体に、1部品に成形してもよい。
【0116】
次に
図16ないし
図18は、この発明にかかるシャープペンシルにおける第5の実施の形態を示したものである。
図16はその前半部の構成を断面図で示したものであり、
図17はその前半部の構成を別の断面図で示したものであり、
図18はその前半部の一部を判断して示した斜視図で示したものである。
図1および
図3に示した第1の実施の形態および
図11ないし
図13に示した第3の実施の形態における各部に相当する部分を同一符号で示しており、したがってその詳細な説明は省略する。
【0117】
第5の実施の形態においては、シャープペンシルは、第1の実施の形態および第2の実施の形態において前記した芯繰り出し機構と組み合わせて使用され、芯繰り出し機構による筆記芯の繰り出し量を調整する繰り出し量調整機構80を備えている。繰り出し量調整機構80は、第4の実施形態による繰り出し量調整機構70と類似しているが異なる形状の調整口先部81と、調整口先部81に取り付けられる調整スライダ82とを備えている。
【0118】
第5の実施の形態による繰り出し量調整機構80は、調整キャップ72および調整当接子66を有さず、その代わりに調整スライダ82を軸方向に摺動させることによって、カム部材65のカム面65aの出発点と最終点との間の段差の高低差を直接的に調整するように構成されている点で、第4の実施の形態による繰り出し量調整機構70と異なる。
【0119】
調整口先部81には、先端の筒状部分とその後方に続くより大径に成形された筒状部分において、内部のカム部材65にアクセス可能なように長手方向に矩形に延びる調整スライド孔81aが形成されている。
【0120】
調整スライダ82は、調整口先部81の調整スライド孔81aを通って配置され、調整口先部81に対して軸方向に摺動可能に取り付けられている。調整口先部81に対して取り付けた状態において、調整スライダ82の外面には使用者の指が滑らないように複数の突起が設けられており、その内面には内方に向かって延びて且つカム部材65をカム面65aの反対側の面側から支持する支持子82aが形成されている。
【0121】
調整スライダ82の調整口先部81に対する最大前進位置および最大後退位置は、調整口先部81の調整スライド孔81aの形状によって規制される。具体的には、調整スライダ82が軸方向に最大前進位置にある場合に、
図17に示したようにカム部材65のカム面65aの出発点と最終点とが同じ高さとなるように、すなわち、カム面65a全体が同一平面上にあるように決定される。
【0122】
したがって、繰り出し量調整機構80による筆記芯4の調整可能な最大繰り出し量は、調整口先部81に対する調整スライダ82の最大前進位置と最大後退位置との間の距離である。
【0123】
続いて、繰り出し量調整機構80による筆記芯の繰り出し量の調整方法について説明する。前記したように、調整スライダ82が最大前進位置にある場合には、カム部材65のカム面65aの出発点と最終点とが同じ高さにあることから、当接子3bは、カム面65aに沿って同一平面上を周回するのみである。したがって、筆記動作による筆記芯のクッション動作に基づいてスライダ3が軸方向に後退することはなく、よって、筆記芯4の繰り出し量はゼロである。
【0124】
この実施の形態においては、調整スライダ82を指で押さえながら軸方向に後退させた場合には、これに伴い支持子82aに支持されながらカム部材65のカム面65aも軸方向に後退する。この時、カム部材65は、接続部65bによる固定端を支点として、下から押し上げられるようにして自由端側が後退するように変形する。その結果、カム部材65は、第1の実施の形態および第2の実施の形態におけるカム面8aのようなせり上るようなカム面65aを形成する。
【0125】
一方、調整スライダ82を指で押さえながら軸方向に前進させた場合には、カム部材65は、カム当接用スプリング20または兼用スプリング50の作用により、または、カム部材65自体の弾性による復元力によって、接続部65bによる固定端を支点として、自由端側が前進する。調整スライダ82を前進させ続け、最大前進位置に達すると、
図17に示したように、カム面65a全体は同一平面上となる。
【0126】
まとめると、調整スライダ82を前後動させると、その前後動に応じてカム部材65の自由端側も前後動し、カム面65aの出発点と最終点との間の段差の高低差が調整される。したがって、
図16ないし
図18に示した第5の実施の形態においても、すでに説明した第3の実施の形態および第4の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。なお、現在の繰り出し量の程度を使用者が視認可能なように、調整口先部81の調整スライド孔81a近傍の外周面に相対的な調整スライダ82の位置を示す目盛り等を設けてもよい。
【0127】
前記した第3の実施の形態ないし第5の実施の形態は、いずれカム部材65のカム面65aの出発点側を固定端とし、最終点側を後退させることで筆記芯4の繰り出し量を調整可能とした。しかしながら、いずれカム部材65のカム面65aの最終点側を固定端とし、出発点側を前進させることで筆記芯4の繰り出し量を調整可能とするようにしてもよい。
【0128】
この発明にかかるシャープペンシルにおける第1ないし第5の実施の形態は、回転駆動機構29における回転子40の回転駆動力を受けて回転するボールチャック9と共に、筆記芯4が回転駆動されるように構成されていた。しかし、当然のことながら、これらの実施の形態における芯繰り出し機構および繰り出し量調整機構を、筆記芯が回転駆動しないシャープペンシルにおいても適用可能である。以下、筆記芯が回転駆動しないシャープペンシルの機構について、前記した第3の実施の形態におけるシャープペンシルに適用した場合を例に簡単に説明する。前記機構を、非回転駆動機構90と称呼する。
【0129】
図19ないし
図21は、筆記芯4が回転駆動しないシャープペンシルの非回転駆動機構90を示したものである。
図19は回転子40の回転駆動作用にもかかわらず、ボールチャック9および筆記芯4が回転しない機構を示した断面図で示したものであり、
図20は
図19の断面図に対して軸方向周りに90度回転させた別の断面図で示したものであり、
図21は非回転駆動機構90前半部を一部破断して示した斜視図で示したものである。
図1および
図3に示した第1の実施の形態および
図11ないし
図13に示した第3の実施の形態における各部に相当する部分を同一符号で示しており、したがってその詳細な説明は省略する。非回転駆動機構90を有するシャープペンシルは、筆記芯の回転を好まない使用者にとって有利である。
【0130】
非回転駆動機構90は、第1の実施の形態による第1の中継部材16と第2の中継部材17とノック作動用円筒体22とに類似しているがそれぞれ異なる形状の第1の中継部材91と第2の中継部材92とノック作動用円筒体93とを備えている。
【0131】
第1の中継部材91は、その外周面に環状に形成された摺接突起91aを備えている。また、第1の中継部材91は、摺接突起91aの後端側の筒状部分に軸方向に延び且つ軸芯に対して対向する位置に配置された一対の保持孔91bが設けられている。第2の中継部材92は、その内周面に、第1の中継部材91の摺接突起91aに対応する位置で且つそれに相補的な形状で環状に設けられた摺接溝92aを備えている。ノック作動用円筒体93は、その外周面に、第1の中継部材91の一対の保持孔91bに対応する位置に、一対の保持突起93aが設けられている。
【0132】
第1の実施の形態では、前記したように、第1の中継部材16は、その長さ方向のほぼ中央部において円筒状に形成された第2の中継部材17の内周面に嵌合されて取り付けられている。このため、回転駆動機構29に連結された中継パイプ18による回転運動は、第2の中継部材17および第1の中継部材16を介して、ボールチャック9、スライダ3と共に筆記芯4を回転させる。しかしながら非回転駆動機構90では、第1の中継部材91と第2の中継部材92とは嵌合されておらず、したがって第2の中継部材92の回転運動は第1の中継部材91に伝達しない。すなわち第2の中継部材92の回転運動は、その摺接溝92aと第1の中継部材91の摺接突起91aとの間の摺動によって吸収されることから、第1の中継部材91の回転運動は抑制される。
【0133】
さらに摺接突起91aと摺接溝92aとの間の摩擦によって回転運動が伝達される可能性があるが、ノック作動用円筒体93の保持突起93aが第1の中継部材91の一対の保持孔91b内に配置されることで、回転運動の伝達が防止される。すなわち、ノック作動用円筒体93の保持突起93aは、第1の中継部材91の一対の保持孔91b内に延びるため、ノック作動用円筒体93の軸方向の摺動運動は許容するが軸方向周りの回転運動は許容しない。また、ノック作動用円筒体93の保持突起93aは、第2の中継部材92の内周面に当接しない程度の高さに調整されている。したがって、ノック作動用円筒体93の保持突起93aがノック操作を阻害するようなこともない。