(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6275243
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】リチウム−硫黄電池の充電方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/44 20060101AFI20180129BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20180129BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20180129BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
H01M10/44 A
H01M10/052
H01M10/48 P
H02J7/00 B
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-504739(P2016-504739)
(86)(22)【出願日】2014年3月21日
(65)【公表番号】特表2016-521436(P2016-521436A)
(43)【公表日】2016年7月21日
(86)【国際出願番号】GB2014050891
(87)【国際公開番号】WO2014155070
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2017年2月1日
(31)【優先権主張番号】13160790.5
(32)【優先日】2013年3月25日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】315014590
【氏名又は名称】オキシス エナジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス カバシク
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド エインスワース
【審査官】
古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】
特表2003−518713(JP,A)
【文献】
特許第4988974(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 10/36−10/48
H02J 7/00− 7/12
H02J 7/34− 7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電−放電サイクルn中の電池の放電容量Qnを決定するステップ、
a=1.05〜1.4として、a×Qnの値を計算するステップ、
xを1〜5の整数として、後の充電−放電サイクルn+xにおいて、a×Qnと等しい容量Qn+xまで電池を充電するステップ、
電池の閾値放電容量Qtを決定するステップ、
後の放電サイクルにおいて電池の放電容量Qを決定するステップ、および
電池の放電容量Qmが0.8Qt未満に低下した場合、(i)bを1.05〜1.3として、b×Qt、または(ii)2.45Vのどちらか低いほうまで電池を充電するステップ
を含むリチウム−硫黄電池の充電方法。
【請求項2】
xが1、2または3から選択される整数である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
xが1である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
aが1.1〜1.3から選択される値である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
aが1.1〜1.2から選択される値である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記電池の閾値容量がその第1放電サイクル中の容量である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
bが1.1〜1.2である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム−硫黄電池の充電方法に関する。本発明はまた、リチウム−硫黄電池を充電するための電池管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なリチウム−硫黄電池は、リチウム金属またはリチウム金属合金から形成されるアノード(陰極)、および硫黄元素または他の電気活性硫黄材料から形成されるカソード(陽極)からなる。硫黄または他の電気活性硫黄含有材料は、その導電性を向上させるため、炭素のような導電性材料と混合してもよい。一般的には、炭素および硫黄は粉砕した後、溶剤およびバインダーと混合し、スラリーを形成する。スラリーは集電体に塗布した後、乾燥させ、溶剤を除去する。得られる構造物はカレンダー加工して複合構造物を形成し、これを所望の形状に切断してカソードを形成する。セパレータはカソード上に配置され、リチウムアノードはセパレータ上に配置される。電解質を次に組立電池中に導入し、カソードおよびセパレータを湿潤させる。
【0003】
リチウム−硫黄電池は二次電池であり、外部電流を電池に印加することにより再充電してもよい。一般的には、電池は、例えば、2.45〜2.8Vの、固定カットオフ電圧まで充電される。しかしながら、循環を長期間繰り返すと、電池の容量は低下し得る。したがって、電池を選択されるカットオフ電圧まで繰り返し充電することにより、電池は最終的には繰り返し過充電され得る。望ましくない化学反応は、例えば、電池の電極および/または電解質の損傷を引き起こし得るので、これは電池の寿命に悪影響を及ぼし得る。
【0004】
リチウム−硫黄電池の充電を終止する方法は特許文献1に記載される。具体的には、この特許文献1は硝酸リチウムのようなN−O添加剤を電池の電解質に添加するステップについて記載する。この特許文献1の16ページ、第29〜31行の記述によると、添加剤は完全充電の点で電圧が急増する充電プロファイルをもたらすのに効果的である。したがって、充電中の電池の電圧をモニターすれば、この電圧の急増が見られた後に充電を終止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/111988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法は、電池が完全容量に達する際の電池の電圧の急増に基づく。しかし
ながら、すべてのリチウム−硫黄電池がこうした充電プロファイルを示すわけではない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、
充電−放電サイクルn中の電池の放電容量Q
nを決定するステップ、
a=1.1〜1.3として、a×Q
nを計算するステップ、および
xを1〜5の整数として、後の充電−放電サイクルn+xにおいて、a×Q
nと等しい容量Q
n+xまで電池を充電するステップ
からなるリチウム−硫黄電気化学電池の充電方法が提供される。
【0008】
好適には、xは、1、2または3、より好適には、1または2、もっとも好適には1である。好適な実施形態では、したがって、電池は、前サイクルの放電容量の関数として決定される容量まで充電される。
【0009】
好適には、aは、1.1〜1.2から選択される値である。
【0010】
好適な実施形態では、xは、1または2、好適には1であり、aは、1.1〜1.2である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】充電−放電サイクル数と充電(放電)容量との関係を示す図である。
【
図2】充電−放電サイクル数と充電(放電)容量との関係を示す図である。
【0012】
本発明の方法では、電池の充電容量は前の(好適には直前の)サイクルの放電容量に基づき決定される。電池の放電容量はモニターされるので、電池が行った充電−放電サイクルの回数に応じたレベルまで電池を充電することができる。この方法では、容量低下の結果としての過充電のリスクを回避または低減するように電池を充電することができる。過充電のリスクを低減することにより、容量低下のリスクも低減され得る。有利なことに、これは全体的な電池の寿命を向上させることができる。これは、電池の容量低下の程度に関係なく所定の電圧または容量まで電池を充電する、従来のリチウム硫黄電池の充電方法とは対照的である。
【0013】
1つの実施形態では、本発明の方法は電池の第1放電サイクルから適用される。換言すると、放電容量Q
nは電池の寿命初期放電容量(Q
bol)である。代替の実施形態では、本発明の方法は、電池が2回以上充電された後に適用される。1つの実施形態では、本方法は、容量低下の兆候が見られた後、例えば、電池の5回以上のサイクル後に適用してもよい。1つの実施形態では、本発明の方法は、電池の10回以上のサイクル後に適用される。本発明の方法を実施する前に、電池は異なる方法を用いて、例えば、一定電流を用いて固定の所定電圧まで電池を充電することにより充電してもよい。
【0014】
1つの実施形態では、本方法は、電池の閾値放電容量Q
tを決定するステップをさらに含む。この閾値放電容量は、電池の寿命における早期サイクルの、例えば、容量低下のいずれかの考えられる兆候が見られる前の電池の放電容量であってもよい。これは、第5サイクル以前、例えば、第4、第3、第2または第1サイクルの放電容量であってもよい。1つの実施形態では、これは、電池組立後のその第1放電サイクル中の電池の容量(すなわち寿命初期放電容量Q
bol、または第1サイクルの放電容量)であってもよい。好適な実施形態では、閾値放電容量は、第1または第2サイクルの電池の放電容量である。
【0015】
閾値放電容量が決定された後、その後の放電サイクルにおける電池の放電容量Qがモニターされる。電池の放電容量Q
mが0.8Q
t未満(例えば0.7Q
t未満または0.6Q
t未満)まで低下した場合、電池は、(i)bを1.05〜1.3として、b×Q
t、または(ii)2.45Vのどちらか低いほうまで充電してもよい。電池がb×Q
tまで充電される場合、bは、好適には1.1〜1.2、より好適には約1.1である。電池の放電容量が0.8Q
t未満に低下した後、上記ステップ(i)または(ii)によって電池を充電することにより、電池にもたらされた充電の増大はより大きな割合の短鎖多硫化物をより長鎖の多硫化物に変換し得る。これは電池の充電不足によるその後の容量の損失の割合を低減することができる。
【0016】
電池が上記ステップ(i)または(ii)によって充電されると、その後のサイクルの放電容量はQ
m+1となる。Q
m+2サイクルの充電容量は、好適には、aを1.1〜1.3、好適には1.1〜1.2として、a×Q
m+1である。その後のサイクルの充電容量は、電池の放電容量が再度0.8Q
t未満(例えば0.7Q
tまたは0.6Q
t未満)に低下するまで、この方法で前サイクルの放電容量に基づいてもよい。この点で、ステップ(i)または(ii)を繰り返してもよい。
【0017】
本発明はまた上述した方法を行うための電池管理システムを提供する。さらなる態様では、本発明は
充電−放電サイクル(n)中の電池の放電容量Q
nを決定するための手段、
a=1.1〜1.3として、a×Q
nを計算するための手段、および
xを1〜5の整数として、後の充電−放電サイクルn+xにおいて、a×Q
nと等しい容量Q
n+xまで電池を充電するための手段
を備えるリチウム−硫黄電池のための電池管理システムを提供する。
【0018】
本システムは、本システムをリチウム−硫黄電池に接続するための手段をさらに備える。1つの実施形態では、本システムはリチウム硫黄電池を備える。
【0019】
好適な実施形態では、リチウム−硫黄電池は、一定電流で電気エネルギーを供給することにより充電される。電流は、30分〜12時間、好適には8〜10時間の範囲の時間で電池を充電するように供給してもよい。電流は、0.1〜3mA/cm
2、好適には0.1〜0.3mA/cm
2の範囲の電流密度で供給してもよい。一定電流での充電の代替として、適切な容量に達するまで、リチウム−硫黄電池を一定電圧まで充電することも可能であり得る。適切な電圧は、2.35V〜2.8Vの範囲である。
【0020】
電気化学電池は、いずれかの適切なリチウム−硫黄電池であってもよい。電池は、一般的にはアノード、カソード、および電解質を備える。有利には、多孔質セパレータをアノードとカソードとの間に配置してもよい。アノードは、リチウム金属またはリチウム金属合金で形成してもよい。好適には、アノードは、リチウム箔電極のような、金属箔電極である。リチウム箔は、リチウム金属またはリチウム金属合金で形成してもよい。
【0021】
電気化学電池のカソードは、電気活性硫黄材料および導電性材料の混合物を含む。この混合物は電気活性層を形成し、これは集電体と接触して配置してもよい。
【0022】
電気活性硫黄材料および導電性材料の混合物は、集電体に溶剤(例えば水または有機溶剤)中のスラリーの形態で塗布してもよい。溶剤は、その後除去してもよく、得られる構造物はカレンダー加工して複合構造物を形成してもよく、これを所望の形態に切断してカソードを形成してもよい。セパレータは、カソード上に配置してもよく、リチウムアノードはセパレータ上に配置してもよい。電解質を次に組立電池中に導入し、カソードおよびセパレータを湿潤させてもよい。
【0023】
電気活性硫黄材料は、硫黄元素、硫黄ベースの有機化合物、硫黄ベースの無機化合物および硫黄含有ポリマーからなっていてもよい。好適には、硫黄元素が用いられる。
【0024】
固体導電性材料は、いずれかの適切な導電性材料であってもよい。好適には、この固体導電性材料は、炭素で形成してもよい。例としては、カーボンブラック、カーボンファイバーおよびカーボンナノチューブが挙げられる。他の適切な材料は、金属(例えば薄片、充填材および粉末)および導電性ポリマーを含む。好適には、カーボンブラックが用いられる。
【0025】
電気活性硫黄材料(例えば硫黄元素)の導電性材料(例えば炭素)に対する重量比は、1〜30:1;好適には2〜8:1、より好適には5〜7:1であってもよい。
【0026】
電気活性硫黄材料および導電性材料の混合物は、粒子状混合物であってもよい。混合物は、50nm〜20ミクロン、好適には100nm〜5ミクロンの平均粒径を有してもよい。
【0027】
電気活性硫黄材料および導電性材料の混合物(すなわち電気活性層)は、任意でバインダーを含んでもよい。適切なバインダーは、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ポリビニリデン、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、メタクリレート(例えばUV硬化性メタクリレート)、およびジビニルエステル(例えば熱硬化性ジビニルエステル)の少なくとも1つから形成してもよい。
【0028】
上述したように、電気化学電池のカソードは、電気活性硫黄材料および固体導電性材料の混合物と接触した集電体をさらに備えてもよい。例えば、電気活性硫黄材料および固体導電性材料の混合物は、集電体上に堆積される。セパレータも、電気化学電池のアノードとカソードとの間に堆積される。例えば、セパレータは、電気活性硫黄材料および固体導電性材料の混合物と接触してもよく、ひいては集電体と接触する。
【0029】
適切な集電体は、金属または金属合金で形成される箔、シートまたはメッシュのような、金属基板を含む。好適な実施形態では、集電体はアルミニウム箔である。
【0030】
セパレータは、電池の電極間でのイオンの移動を可能にするいずれかの適切な多孔質基板であってもよい。基板の多孔性は、少なくとも30%、好適には少なくとも50%、例えば、60%超でなければならない。適切なセパレータは、ポリマー材料で形成されるメッシュを含む。適切なポリマーは、ポリプロピレン、ナイロンおよびポリエチレンを含む。不織布ポリプロピレンがとくに好ましい。多層セパレータを用いることが可能である。
【0031】
好適には、電解質は、少なくとも1つのリチウム塩および少なくとも1つの有機溶剤からなる。適切なリチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF
6)、過塩素酸リチウム(LiClO
4)、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiN(CF
3SO
2)
2)、ホウフッ化リチウムおよびトリフルオロメタンスルホン酸リチウム(CF
3SO
3Li)の少なくとも1つを含む。好適には、リチウム塩は、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムである。
【0032】
適切な有機溶剤は、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルプロピルプロピオネート、エチルプロピルプロピオネート、酢酸メチル、ジメトキシエタン、1,3−ジオキソラン、ジグリム(2−メトキシエチルエーテル)、テトラグリム、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、γ−ブチロラクトン、ジオキソラン、ヘキサメチルホスホアミド、ピリジン、ジメチルスルホキシド、リン酸トリブチル、リン酸トリメチル、N,N,N,N−テトラエチルスルファミド、ならびにスルホンおよびそれらの混合物である。好適には、有機溶剤は、スルホンまたはスルホンの混合物である。スルホンの例はジメチルスルホンおよびスルホランである。スルホランは、単独の溶剤としてまたは、例えば、他のスルホンと組み合わせて用いてもよい。
【0033】
電解質に用いられる有機溶剤は、例えば、電池の放電中に電気活性硫黄材料が還元される場合に形成される、n=2〜12として、式S
n2−の、多硫化物種を溶解することができなければならない。
【0034】
電解質中のリチウム塩の濃度は、好適には0.1〜5M、より好適には0.5〜3M、例えば、1Mである。リチウム塩は、好適には飽和の少なくとも70%、好適には少なくとも80%、より好適には少なくとも90%、例えば、95〜99%の濃度で存在する。
【0035】
1つの実施形態では、電解質は、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムおよびスルホランからなる。
【0036】
電気活性硫黄材料および導電性材料の総量に対する電解質の重量比は、1〜15:1、好適には2〜9:1、より好適には6〜8:1である。
【実施例】
【0037】
比較例1
この例では、リチウム−硫黄電池は固定電圧まで200サイクル以上充電される。
図1は、電池の寿命にわたる充電および放電容量曲線を示す。図からわかるように、容量は、サイクル寿命の増加に伴い低下する。
【0038】
実施例2
この例では、サイクル15の終わりに容量低下の初期兆候が見られるまで、リチウム−硫黄電池は、固定電圧まで充電される。サイクル15の放電容量Q
15が決定され、サイクル16では、電池はa=1.10として、a×Q
15である容量まで充電される。サイクル16の放電容量、Q
16を次に決定し、サイクル17では、電池はa×Q
16まで充電され、このように続けていく。
図2からわかるように、容量低下の割合は、この充電方法を用いることにより低減される。