(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
位置指令が入力される位置制御部を有する位置フィードバックループの内側に、速度指令が入力される速度制御部を有する速度フィードバックループを設けてカスケード結合を形成し、速度制御部から出力されたトルク指令に応じて送り軸駆動用のサーボモータを制御する工作機械の送り軸の制御方法であって、
サーボモータの出力に対応する位置に対して振動する機械構造物およびサーボモータの出力に対応する位置に対して振動する軸送り機構のうち少なくとも一方に状態センサを配置し、
状態センサは、機械構造物に取り付けられた加速度検出器および軸送り機構に取り付けられた位置検出器のうち少なくとも一方を含み、
状態センサの出力信号に基づいて加速度を取得し、取得した加速度に予め定められた第1のゲインを乗じた加速度のフィードバック信号を速度制御部から出力されるトルク指令から減算し、状態センサの出力信号に基づいて速度を取得し、取得した速度に予め定められた第2のゲインを乗じた信号を加速度のフィードバック信号に加算し、
更に、状態センサの出力信号に基づいて速度を取得し、取得した速度に予め定められたゲインを乗じた信号を位置制御部から出力される速度指令に加算する制御および状態センサの出力信号に基づいて位置を取得し、取得した位置に予め定められたゲインを乗じた信号を位置制御部に入力される位置指令に加算する制御のうち、少なくとも一方の制御を実施する、送り軸の制御方法。
位置指令が入力される位置制御部を有する位置フィードバックループの内側に、速度指令が入力される速度制御部を有する速度フィードバックループを設けてカスケード結合を形成し、速度制御部から出力されたトルク指令に応じて送り軸駆動用のサーボモータを制御する工作機械の送り軸の制御方法であって、
サーボモータの出力に対応する位置に対して振動する機械構造物およびサーボモータの出力に対応する位置に対して振動する軸送り機構のうち少なくとも一方に状態センサを配置し、
状態センサは、機械構造物に取り付けられた加速度検出器および軸送り機構に取り付けられた位置検出器のうち少なくとも一方を含み、
状態センサの出力信号に基づいて加速度を取得し、取得した加速度に予め定められたゲインを乗じた加速度のフィードバック信号を速度制御部から出力されるトルク指令から減算し、
更に、状態センサの出力信号に基づいて速度を取得し、取得した速度に予め定められたゲインを乗じた信号を加速度のフィードバック信号に加算する制御および状態センサの出力信号に基づいて位置を取得し、取得した位置に予め定められたゲインを乗じた信号を加速度のフィードバック信号に加算する制御のうち、少なくとも一方の制御を実施する、送り軸の制御方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
工作機械の各軸を駆動するサーボモータを制御する制御装置においては、位置制御器が位置指令に基づいて速度指令を生成し、速度制御器が速度指令に基づいてトルク指令を生成する。そして、トルク指令に基づいてモータが駆動される。更に、工具やワークを移動する移動装置に位置検出器を配置し、位置検出器から出力された位置の信号を位置指令から減算する位置フィードバックループを設けることが知られている。また、サーボモータの出力軸等に速度検出器を配置し、速度検出器から出力された速度の信号を速度指令から減算する速度フィードバックループを設けることが知られている。
【0006】
工作機械にてワークを加工するときには、ワークや工具を移動する移動装置に対して外乱力が作用して、ワークまたは工具に振動が生じる場合がある。例えば、ワークに工具が接触している加工点において切削荷重等がワークや工具に作用して振動が生じる場合がある。加工精度を向上させるためには、このようなワークや工具の振動を抑制することが好ましい。
【0007】
上記の特開2006−158026号公報の制御装置では、被駆動体の加速度をモータのトルク指令にフィードバックして振動を抑制している。ところが、この回路においては、加速度検出手段が被駆動体に配置されている。すなわち、加速度検出手段は、モータの出力軸から離れた位置に配置されている。このために、被駆動体の加速度のフィードバックにより、位置制御器から出力される位置指令に位置偏差が生じたり、速度検出器から出力される速度指令に速度偏差が生じたりする。これらの偏差はモータに供給する電流の制御にも影響し、振動を抑制する効果が低くなるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の送り軸の制御方法は、位置指令が入力される位置制御部を有する位置フィードバックループの内側に、速度指令が入力される速度制御部を有する速度フィードバックループを設けてカスケード結合を形成し、速度制御部から出力されたトルク指令に応じて送り軸駆動用のサーボモータを制御する工作機械の送り軸の制御方法である。
送り軸の制御方法では、サーボモータの出力に対応する位置に対して振動する機械構造物およびサーボモータの出力に対応する位置に対して振動する軸送り機構のうち少なくとも一方に状態センサを配置する。状態センサは、機械構造物に取り付けられた加速度検出器および軸送り機構に取り付けられた位置検出器のうち少なくとも一方を含む。送り軸の制御方法は、
状態センサの出力信号に基づいて加速度を取得し、取得した加速度に予め定められた第1のゲインを乗じた加速度のフィードバック信号を速度制御部から出力されるトルク指令から減算
し、状態センサの出力信号に基づいて速度を取得し、取得した速度に予め定められた第2のゲインを乗じた信号を加速度のフィードバック信号に加算する。送り軸の制御方法は、状態センサの出力信号に基づいて速度を取得し、取得した速度に予め定められたゲインを乗じた信号を位置制御部から出力される速度指令に加算する制御および状態センサの出力信号に基づいて位置を取得し、取得した位置に予め定められたゲインを乗じた信号を位置制御部に入力される位置指令に加算する制御のうち、少なくとも一方の制御を実施する。
【0010】
上記発明においては、位置制御部から出力される速度指令に予め定められた第3のゲインを乗じた信号を、第2のゲインを乗じた信号から減算することができる。
【0011】
上記発明においては、状態センサの出力信号に基づいて位置を取得し、取得した位置に予め定められた第4のゲインを乗じた信号を加速度のフィードバック信号に加算することができる。
【0012】
上記発明においては、位置制御部に入力される位置指令に予め定められた第5のゲインを乗じた信号を、第4のゲインを乗じた信号から減算することができる。
【0013】
上記発明においては、速度制御部から出力されるトルク指令に予め定められた第6のゲインを乗じた信号を、加速度のフィードバック信号から減算することができる。
【0014】
上記発明においては、第1のゲインの2乗と第2のゲインの2乗との加算値が予め定められた設定値になるように第1のゲインおよび第2のゲインを設定することができる。
【0015】
本発明の第2の送り軸の制御方法は、位置指令が入力される位置制御部を有する位置フィードバックループの内側に、速度指令が入力される速度制御部を有する速度フィードバックループを設けてカスケード結合を形成し、速度制御部から出力されたトルク指令に応じて送り軸駆動用のサーボモータを制御する工作機械の送り軸の制御方法である。
送り軸の制御方法では、サーボモータの出力に対応する位置に対して振動する機械構造物およびサーボモータの出力に対応する位置に対して振動する軸送り機構のうち少なくとも一方に状態センサを配置する。状態センサは、機械構造物に取り付けられた加速度検出器および軸送り機構に取り付けられた位置検出器のうち少なくとも一方を含む。送り軸の制御方法は、
状態センサの出力信号に基づいて加速度を取得し、取得した加速度に予め定められたゲインを乗じた加速度のフィードバック信号を速度制御部から出力されるトルク指令から減算する。送り軸の制御方法は、状態センサの出力信号に基づいて速度を取得し、取得した速度に予め定められたゲインを乗じた信号を加速度のフィードバック信号に加算する制御および状態センサの出力信号に基づいて位置を取得し、取得した位置に予め定められたゲインを乗じた信号を加速度のフィードバック信号に加算する制御のうち、少なくとも一方の制御を実施する。
【0016】
本発明の第1の数値制御工作機械は、
サーボモータの出力に対応する位置に対して振動する機械構造物およびサーボモータの出力に対応する位置に対して振動する軸送り機構のうち少なくとも一方に取り付けられた状態センサと、位置指令が入力される位置制御部を有する位置フィードバックループの内側に、速度指令が入力される速度制御部を有する速度フィードバックループが設けられてカスケード結合が形成され、速度制御部から出力されたトルク指令に応じて送り軸駆動用のサーボモータを制御する制御装置
とを備える。
状態センサは、機械構造物に取り付けられた加速度検出器および軸送り機構に取り付けられた位置検出器のうち少なくとも一方を含む。制御装置は、
状態センサの出力信号に基づいて加速度を取得し、取得した加速度に予め定められた
第1のゲインを乗じた
加速度のフィードバック信号を速度制御部から出力されるトルク指令から減算する回路
、および状態センサの出力信号に基づいて速度を取得し、取得した速度に予め定められた第2のゲインを乗じた信号を加速度のフィードバック信号に加算する回路を含む。制御装置は、状態センサの出力信号に基づいて速度を取得し、取得した速度に予め定められたゲインを乗じた信号を位置制御部から出力される速度指令に加算する回路および状態センサの出力信号に基づいて位置を取得し、取得した位置に予め定められたゲインを乗じた信号を位置制御部に入力される位置指令に加算する回路のうち、少なくとも一方の回路を含む。
【0017】
本発明の第2の数値制御工作機械は、
サーボモータの出力に対応する位置に対して振動する機械構造物およびサーボモータの出力に対応する位置に対して振動する軸送り機構のうち少なくとも一方に取り付けられた状態センサと、位置指令が入力される位置制御部を有する位置フィードバックループの内側に、速度指令が入力される速度制御部を有する速度フィードバックループが設けられてカスケード結合が形成され、速度制御部から出力されたトルク指令に応じて送り軸駆動用のサーボモータを制御する制御装置
とを備える。
状態センサは、機械構造物に取り付けられた加速度検出器および軸送り機構に取り付けられた位置検出器のうち少なくとも一方を含む。制御装置は、
状態センサの出力信号に基づいて加速度を取得し、取得した加速度に予め定められたゲインを乗じた加速度のフィードバック信号を速度制御部から出力されるトルク指令から減算する回路を含む。制御装置は、状態センサの出力信号に基づいて速度を取得し、取得した速度に予め定められたゲインを乗じた信号を加速度のフィードバック信号に加算する回路および状態センサの出力信号に基づいて位置を取得し、取得した位置に予め定められたゲインを乗じた信号を加速度のフィードバック信号に加算する回路のうち、少なくとも一方の回路を含む。
【0018】
上記発明においては、
機械構造物は、ワークを固定するテーブルと、工具を支持する工具支持部材と
を含むことができる。数値制御工作機械は、テーブルおよび工具支持部材を移動させる移動装置
を備えることができる。状態センサは、テーブルに配置された加速度検出器と、工具支持部材に配置された加速度検出器とを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、加工点における振動を抑制する工作機械の送り軸の制御方法および数値制御工作機械を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施の形態1)
図1から
図7を参照して、実施の形態1における工作機械の送り軸の制御方法および数値制御工作機械について説明する。工作機械としては、主軸が水平方向に延びている横形マシニングセンタを例示して説明する。
【0022】
図1は、本実施の形態の数値制御工作機械の概略側面図である。工作機械10は、工具22とワーク1とを相対移動させる移動装置を備える。移動装置は、複数の移動軸の方向に被駆動物を移動させる。複数の移動軸は、直線送り軸として互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸を含む。
【0023】
工作機械10は、工場等の床面に設置されるベッド12を備える。ベッド12の上面には、Z軸ガイドレール28が固定されている。Z軸ガイドレール28は、Z軸方向(
図1において左右方向)に延びている。Z軸ガイドレール28の上面には、テーブルベース13が配置されている。テーブルベース13は、Z軸ガイドレール28に案内され、Z軸方向に移動可能に配置されている。テーブルベース13には、テーブル14が固定されている。テーブル14には、ワーク1が固定されている。
【0024】
ベッド12の上面には、X軸ガイドレール36が固定されている。X軸は、Z軸に直交し、更に水平方向(
図1の紙面に垂直方向)に延びる。X軸ガイドレール36は、X軸に沿って延びている。コラム16は、X軸ガイドレール36に案内され、X軸方向に移動可能に配置されている。
【0025】
コラム16において、ワーク1に対向する前面には、Y軸ガイドレール32が固定されている。Y軸は、X軸およびZ軸に直交する方向に延びる。Y軸ガイドレール32は、Y軸に沿って延びている。Y軸ガイドレール32上には、主軸ヘッド18が配置されている。主軸ヘッド18は、Y軸ガイドレール32に案内され、Y軸方向に移動可能に形成されている。主軸ヘッド18は、主軸20を支持する。
【0026】
移動装置は、ワーク1に対して工具22をZ軸方向に相対移動させるZ軸移動装置を含む。ベッド12の内部には、Z軸送りねじおよびナットを含むボールねじ機構が配置されている。テーブルベース13の下面には、ナットが固定されている。ナットは、Z軸送りねじに螺合する。Z軸送りねじの一方の端部にはZ軸サーボモータ25が連結されている。Z軸サーボモータ25を駆動することにより、テーブルベース13がZ軸ガイドレール28に沿って移動する。この結果、ワーク1がZ軸方向に移動する。
【0027】
移動装置は、ワーク1に対して工具22をX軸方向に相対移動させるX軸移動装置を含む。X軸移動装置は、Z軸移動装置と同様に、X軸送りねじおよびナットを有するボールねじ機構を含む。X軸送りねじの一端にはX軸サーボモータ38が連結されている。コラム16の下面にはX軸送りねじに螺合するナットが固定されている。X軸サーボモータ38を駆動することにより、コラム16がX軸ガイドレール36に沿って移動する。この結果、工具22がX軸方向に移動する。
【0028】
移動装置は、ワーク1に対して工具22をY軸方向に相対移動させるY軸移動装置を含む。Y軸移動装置は、Z軸移動装置と同様に、Y軸送りねじおよびナットを有するボールねじ機構を含む。主軸ヘッド18には、Y軸送りねじに螺合するナットが固定されている。Y軸送りねじの上端にはY軸サーボモータ31が連結されている。Y軸サーボモータ31が駆動することにより、主軸ヘッド18がY軸ガイドレール32に沿って移動する。この結果、工具22がY軸方向に移動する。
【0029】
主軸20の先端には工具ホルダ21を介して工具22が装着されている。主軸20は、工具22を支持する工具支持部材として機能する。主軸20には、工具22を回転させるためのモータが内蔵されている。このモータが駆動することにより、工具22は、主軸20の中心軸を回転軸として回転する。
【0030】
このように、工作機械10は、コラム16、主軸ヘッド18、およびテーブルベース13を移動軸に沿って移動させることにより、ワーク1に対して工具22を相対的に移動させることができる。なお、工作機械としては、直線送り軸の他に、所定の軸線の周りに回転する回転送り軸を有していても構わない。
【0031】
工作機械10は、各軸の速度検出器を含む。Z軸サーボモータ25には、Z軸サーボモータ25の回転速度を検出する速度検出器29が取り付けられている。速度検出器29は、例えばロータリーエンコーダを含み、ロータリーエンコーダの出力に基づいて速度を検出することができる。また、Y軸サーボモータ31には速度検出器33が取り付けられている。X軸サーボモータ38には、速度検出器39が取り付けられている。各軸の速度検出器29,33,39が配置されることにより、各軸方向の移動速度を検出することができる。
【0032】
工作機械10は、各軸の位置検出器を含む。Z軸の位置検出器は、テーブルベース13取り付けられたスライダ13aと、ベッド12に取り付けられたZ軸リニアスケール30とを含む。スライダ13aがZ軸リニアスケール30上を移動することにより、Z軸方向の位置を検出することができる。また、Y軸の位置検出器は、主軸ヘッド18に取り付けられたスライダ18aと、コラム16に取り付けられたY軸リニアスケール34を含む。スライダ18aがY軸リニアスケール34上を移動することにより、Y軸方向の位置を検出することができる。また、X軸の位置検出器は、コラム16に取り付けられたスライダ16aと、ベッド12に取り付けられたX軸リニアスケール40とを含む。スライダ16aがX軸リニアスケール40上を移動することにより、X軸方向の位置を検出することができる。
【0033】
更に、工具22を支持する主軸20には加速度検出器45が配置されている。加速度検出器45は、工具22の加工点に近接して配置されることが好ましい。また、テーブル14には加速度検出器46が配置されている。加速度検出器46は、ワーク1の加工点に近接して配置されることが好ましい。加速度検出器45,46は、各軸ごとの加速度を検出することができる。すなわち、加速度検出器45,46は、X軸方向の加速度、Y軸方向の加速度、Z軸方向の加速度を個別に検出することができる。なお、工作機械が回転送り軸を有する場合には、回転送り軸の移動装置が動作しても、回転軸に対して検出器の方向が変化しない位置に加速度検出器を配置する。
【0034】
これらの各軸の速度検出器29,33,39、位置検出器および加速度検出器45,46の出力信号は、制御装置50に入力される。
【0035】
図2に、本実施の形態における工作機械のブロック図を示す。工作機械10は、制御装置50を備える。制御装置50は、移動装置のサーボモータ55に接続されている。制御装置50がサーボモータ55を制御することにより、ワーク1に対して工具22を相対的に移動させることができる。
【0036】
制御装置50は、読取解釈部52、補間演算部53およびサーボモータ制御部54を含む。読取解釈部52は、入力プログラム51を読み込んで移動指令を補間演算部53に送出する。補間演算部53は、例えば移動指令に基づいて所定の時間間隔ごとの位置指令qrを出力する。サーボモータ制御部54は、位置指令qrに基づいて各軸のサーボモータ55を駆動する。本実施の形態において、各軸のサーボモータ55は、X軸サーボモータ38、Y軸サーボモータ31またはZ軸サーボモータ25に相当する。
【0037】
各軸のサーボモータ55は、軸送り機構56を介して機械構造物57を駆動する。機械構造物57は、工具22を保持する構造物またはワーク1を保持する構造物に相当する。本実施の形態では、機械構造物57は、主軸20またはテーブル14に相当する。また、軸送り機構56は、機械構造物57を駆動する機構に相当する。本実施の形態では、軸送り機構56は、各軸のサーボモータ55に接続されたボールねじ機構に相当する。軸送り機構56としては、ボールねじ機構の他に、サーボモータに取り付けられた減速機等を例示することができる。
【0038】
図3は、本実施の形態における第1の制御装置のサーボモータ制御部および機械構造物の駆動機構のブロック図である。
図3に示す制御回路は、それぞれの移動軸ごとに形成することができる。たとえば、X軸移動装置において、X軸サーボモータ38を駆動するために、
図3に示す1つの制御回路を形成することができる。この場合に、サーボモータ55は、X軸サーボモータ38に相当する。速度検出器58は、X軸サーボモータ38に取り付けられた速度検出器39に相当する。位置検出器59は、スライダ16aおよびX軸リニアスケール40を含むX軸の位置検出器に相当する。加速度検出器60は、工具22を保持する主軸20に取り付けられた加速度検出器45に相当する。本実施の形態では、加速度検出器45を状態センサとして用いる。状態センサは、送り軸の指令に関係なく所定の構造物の状態、すなわち、所定の構造物の加速度、速度、または位置等を検出するセンサである。
【0039】
補間演算部53から出力された位置指令qrは、位置制御部としての位置制御器71に入力される。位置制御器71は、位置指令qrに基づいて速度指令ωrを生成する。位置制御器71から出力される速度指令ωrは、速度制御部としての速度制御器72に入力される。速度制御器72は、速度指令ωrに基づいてトルク指令τrを生成する。トルク指令τは、電流制御器73に入力される。電流制御器73は、入力されたトルク指令τrに対応するトルクを発生させるように、サーボモータ55の電流を制御する。
【0040】
機械構造物57を駆動する駆動機構には、軸送り機構56が含まれる。軸送り機構56は、機械構造物57を支持している。
図3に示す例では、軸送り機構56と機械構造物57との間に弾性要素62が介在する。弾性要素62は、剛性が低く自由端になる部分が揺れることを示すモデルである。弾性要素62は、軸送り機構56と機械構造物57との間の剛性が低く、軸送り機構56に対して機械構造物57が振動することを示している。これに対して、サーボモータ55と軸送り機構56とは高い剛性で接続されている。
【0041】
弾性要素62は、弾性体62aおよび減衰体62bを含む。弾性体62aは、機械構造物が振動する周期や振幅等を定めるモデルである。減衰体62bは振動を減衰させるモデルである。駆動機構に弾性要素62が含まれることにより、機械構造物57が振動する。また、機械構造物57の位置、速度または加速度がサーボモータ55の出力に対して遅れたり偏差が生じたりする。
【0042】
軸送り機構56に取り付けられた位置検出器59は、所定の軸の位置を検出し、位置信号qを加算器74にフィードバックする。加算器74は、位置指令qrから位置信号qを減算し、位置制御器71に送出する。位置制御器71は、入力される信号にゲインCpを乗算して速度指令ωrを算出する。ゲインCpは、ラプラス演算子sの関数である。本実施の形態では、この位置指令qrを補正する回路を位置フィードバックループと称する。
【0043】
サーボモータ55に取り付けられた速度検出器58は、所定の軸における速度を検出する。速度検出器58は、速度信号ωを加算器75にフィードバックする。加算器75は、速度指令ωrから速度信号ωを減算し、速度制御器72に送出する。速度制御器72は、入力される信号にゲインCvを乗算してトルク指令τrを算出する。ゲインCvは、ラプラス演算子sの関数である。本実施の形態では、この速度指令ωrを補正する回路を速度フィードバックループと称する。
【0044】
このように、位置指令qrが入力される位置制御部を有する位置フィードバックループの内側に、速度指令ωrが入力される速度制御部を有する速度フィードバックループが設けられて、カスケード結合が形成されている。この制御では、サーボモータ55の出力に対応する現在の位置や速度を検出し、送り軸の指令に対する遅れを補正することができる。この制御は、サーボ制御とも称される。なお、制御回路に含まれるそれぞれの補償器のゲインは、予め定められており、最適値が採用されることが好ましい。
【0045】
ここで、本実施の形態の参考例の制御装置について説明する。
図4は、本実施の形態の参考例におけるサーボモータ制御部と機械構造物の駆動機構とのブロック図である。
図4に示す参考例においても、軸送り機構56と機械構造物57との間に弾性要素62が介在している。機械構造物57に取り付けられた加速度検出器60からは、加速度の信号が出力される。加速度の信号は、補償器91においてゲインK1が乗じられて加算器141に出力される。
【0046】
一方で、加速度検出器60から出力された加速度の信号は、積分器77において積分されて速度の信号に変換される。そして、加算器142において、積分器77から出力された速度の信号から位置制御器71が出力した速度指令が減算される。加算器142においては、機械構造物57の速度と速度指令ωrとの速度偏差を算出することができる。加算器142の出力信号は、補償器92に入力される。補償器92においてはゲインK2が乗じられる。補償器92の出力は加算器141に入力される。
【0047】
加算器141においては、補償器91の出力信号と補償器92の出力信号が加算される。加算器141の出力信号は、フィルタ81を介して加算器144に入力される。加算器144においては、速度制御器72から出力されるトルク指令τrから加算器141の出力信号が減算される。
【0048】
補償器91を通る回路は、機械構造物57の加速度をフィードバックする回路である。補償器92を通る回路は、機械構造物の速度をフィードバックする回路である。これらの回路により、機械構造物57の振動を抑制することができる。特に、ゲインK1とゲインK2との値を変化させることにより、加速度のフィードバックの位相に対する速度のフィードバックの位相を調整して、機械構造物57の振動を抑制することができる。
【0049】
ところが、加速度検出器60が配置されている機械構造物57と、サーボモータ55との間には、弾性要素62が介在している。加速度のフィードバック信号により速度制御器72から出力されるトルク指令τrが補正されると、位置指令qrや速度指令ωrに偏差が生じる場合があった。特に、機械構造物57の加速度が変化した時には、位置指令qrまたは速度指令ωrの偏差が大きくなり、位置フィードバックループおよび速度フィードバックループによりサーボ制御を行っているので、機械構造物の振動を抑制する加速度のフィードバック信号をサーボ制御が打ち消す場合があった。
【0050】
本実施の形態の制御装置では、各軸の指令に関係なく機械構造物の加速度等を検出して各軸の指令に反映し、機械構造物の駆動を安定化する安定化制御を実施する。
図3を参照して、本実施の形態の制御装置は、機械構造物の安定化補償回路121を含む。機械構造物の安定化補償回路121は、機械構造物57の振動を抑制する。機械構造物の安定化補償回路121には、加速度検出器60から出力される信号が入力される。
【0051】
加速度検出器60にて検出された加速度の信号は、補償器91に入力される。補償器91において第1のゲインとしてのゲインK11が乗じられる。補償器91の出力信号は、加算器141およびフィルタ81を通って加算器144に入力される。この回路は、加速度のフィードバック回路である。すなわち、速度制御器72から出力されるトルク指令τrは、機械構造物57の加速度がフィードバックされて補正される。
【0052】
加速度検出器60にて検出された加速度の信号は、積分器77aにおいて速度の信号に変換される。速度の信号は、補償器101に入力される。補償器101においては、ゲインKa3が乗じられる。補償器101の出力信号は、フィルタ81を介して加算器151に入力される。加算器151においては、位置制御器71から出力される速度指令ωrに補償器101の出力信号が加算される。なお、本実施の形態のゲインKa3は、負のゲインとしている。
【0053】
この制御回路により、補償器91を含む加速度をフィードバックする回路により生じる速度偏差を打ち消すことができる。速度偏差を打ち消した速度指令τrを速度制御器72に送出することができる。すなわち、速度偏差を消失させた信号を制御目標とすることができる。従って機械構造物57の振動を抑制することができる。
【0054】
さらに、積分器77aから出力される速度の信号は積分器77bにおいて積分される。積分器77bからは位置の信号が出力される。位置の信号は、補償器102に入力される。補償器102においては、ゲインKa5が乗じられる。補償器102の出力信号は、フィルタ81を介して加算器152に入力される。加算器152においては、位置指令qrに補償器102の出力信号が加算される。なお、本実施の形態のゲインKa5は、負のゲインとしている。
【0055】
この制御回路により、補償器91を含む加速度をフィードバックする回路により生じる位置偏差を打ち消すことができる。位置偏差を打ち消した位置指令qrを位置制御器71に送出することができる。すなわち、位置偏差を消失させた信号を制御目標とすることができる。従って機械構造物57の振動を抑制することができる。
【0056】
本実施の形態では、補償器101を含む速度偏差を打ち消す回路と、補償器102を含む位置偏差を打ち消す回路の両方の回路が配置されているが、この形態に限られず、いずれか一方の回路が配置されていても機械構造物57の振動を抑制することができる。
【0057】
本実施の形態の送り軸の制御方法としては、加速度検出器60の出力信号に基づいて速度を取得し、取得した速度に予め定められたゲインKa3を乗じた信号を位置制御器71から出力される速度指令に加算する制御、および加速度検出器60の出力信号に基づいて位置を取得し、取得した位置に予め定められたゲインKa5を乗じた信号を位置制御器71に入力される位置指令qrに加算する制御のうち、少なくとも一方の制御を実施している。この方法により、機械構造物57の振動を抑制することができる。
【0058】
また、本実施の形態の第1の制御装置は、加速度のフィードバック信号に加えて、機械構造物57の速度のフィードバック信号および機械構造物57の位置のフィードバック信号に基づいてトルク指令τrを補正する。積分器77aから出力された速度の信号は、補償器92に入力される。補償器92においては、第2のゲインとしてのゲインKa21が乗じられる。補償器92の出力信号は、加算器142を介して加算器141に入力される。さらに、積分器77bから出力された位置の信号は、補償器93に入力される。補償器93においては、第4のゲインとしてのゲインKa41が乗じられる。補償器93の出力信号は、加算器143,142を介して加算器141に入力される。
【0059】
加算器141では、補償器91から出力される加速度のフィードバック信号、補償器92から出力される速度のフィードバック信号、および補償器93から出力される位置のフィードバック信号を加算する。そして、このフィードバックの信号を、フィルタ81を介して加算器144に入力する。加算器144においては、このフィードバック信号をトルク指令τrから減算する。
【0060】
本実施の形態の制御装置では、加速度のフィードバック信号に対して、速度のフィードバック信号および位置のフィードバック信号を加算している。それぞれのフィードバック信号の回路では、補償器91のゲインKa11と、補償器92のゲインKa21と、補償器93のゲインKa41とを独立して設定可能である。このために、ゲインKa11により加速度の影響を調整し、ゲインKa21により速度の影響を調整し、更に、ゲインKa41により位置の影響を調整することができる。ゲインKa11,Ka21,Ka41の値を適正な値に設定することにより、機械構造物57の振動を効果的に抑制することができる。更に、ゲインKa11,Ka21,Ka41の値を調整することにより、弾性要素62を有さずに、機械構造物57が剛構造で軸送り機構56に支持されている場合の制御も実施することができる。
【0061】
更に、加速度をフィードバックする回路では、速度制御器72から出力されるトルク指令τrが補償器94に入力される。補償器94では第6のゲインとしてのゲインKa12が乗じられる。ゲインKa11とゲインKa12は、例えば同じ値を採用することができる。補償器94の出力信号は、加算器141に入力される。加算器141においては、補償器91の出力信号にから補償器94の出力信号が減算される。このように、加速度のフィードバック回路では、補償器94を配置し、加速度のフィードバック信号とトルク指令τrとの偏差を算出している。
【0062】
速度をフィードバックする回路では、位置制御器71から出力される速度指令ωrが補償器95に入力される。補償器95では、第3のゲインとしてのゲインKa22が乗じられる。ゲインKa21とゲインKa22とは、例えば同じ値を採用することができる。加算器142においては、補償器92の出力信号から補償器95の出力信号が減算される。このように、速度のフィードバック回路では、補償器95を配置し、速度のフィードバック信号と速度指令ωrとの偏差を算出し、この偏差が加算器141に入力されている。
【0063】
位置をフィードバックする回路では、位置指令qrが補償器96に入力される。補償器96では、第5のゲインとしてのゲインKa42が乗じられる。ゲインKa41とゲインKa42とは、例えば同じ値を採用することができる。加算器143においては、補償器93の出力信号から補償器96の出力信号が減算される。このように、位置のフィードバック回路では、位置のフィードバック信号と位置指令qrとの偏差を算出し、この偏差は、加算器142を介して加算器141に入力されている。
【0064】
加速度検出器60から取得される信号には、本来の目標値となる加速度等を示す成分と、機械構造物57の振動に起因する振動成分が含まれる。それぞれのフィードバック回路において、検出値に基づく値から指令値を減算することにより、本来の目標値となる加速度等を示す成分を差し引くことができる。すなわち、振動成分のみを抽出することができる。そして、加速度に関する振動成分、速度に関する振動成分、および位置に関する振動成分を加算した信号に基づいてトルク指令τrを補正している。機械構造物の状態をフィードバックする回路において、抽出した振動成分のみをフィードバックすることができる。このために、高い制振効果を発揮することができる。
【0065】
本実施の形態では、補償器92を含む速度をフィードバックする回路と補償器93を含む位置をフィードバックする回路の両方の回路が配置されているが、この形態に限られず、いずれか一方の回路が配置されていても構わない。また、それぞれのフィードバックする回路において、補償器94,95,96を含む偏差を算出する回路は配置されていなくても構わない。
【0066】
特に、機械構造物の安定化補償回路121は、補償器91および補償器94の2つの補償器と、加算器141と、フィルタ81とにて構成することができる。この場合にも、加速度のフィードバック回路では、加算器141において、加速度のフィードバック信号とトルク指令τrとの偏差を算出し、この加速度の振動成分を加算器144に送出できるために機械構造物57の振動を抑制することができる。
【0067】
フィルタ81としては、所望の周波数帯域の信号以外の信号を減衰させることが好ましい。例えば、フィルタ81は、工作機械10の共振周波数の帯域の信号を通過させるフィルタであることが好ましい。工作機械10の共振周波数は、工作機械10の構造等に依存する。フィルタ81としては、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、ノッチフィルタおよびバンドパスフィルタ等の所望のフィルタを用いることができる。又は、これらのフィルタを組み合わせることにより、所望の周波数帯域の信号を通過させることができる。
【0068】
次に、
図4を参照して、補償器91のゲインK1と補償器92のゲインK2との設定方法について説明する。ゲインK1が第1のゲインに相当し、ゲインK2が第2のゲインに相当する。積分器77から出力される速度の信号は、加速度の信号に対して位相差を有する。ここで、ゲインK1とゲインK2とを変化させることにより、加速度のフィードバック信号に対する速度のフィードバック信号の位相を変化させることができる。
【0069】
補償器92の回路がない場合、すなわちゲインK2が零の場合に、ゲインK1を大きくすることにより、加速度のフィードバックの効果を大きくすることができる。ところが、ゲインK1を大きくしすぎると発振してしまう。そこで、発振しない程度まで大きなゲインK1を選定することができる。このゲインK1では、発振を抑制しながら加速度のフィードバックの効果を大きくすることができる。この最大のゲインK1を設定値Rと称する。設定値Rは予め定めておくことができる。次に、加算器141からの出力値が設定値Rを超えないようにゲインK1とゲインK2とを定める。ゲインK1およびゲインK2は、次式を満たすように設定することができる。
【0071】
そして、仮想的な角度θを用いて、ゲインK1およびゲインK2は、次式で表すことができる。
【0072】
K1=Rcosθ …(2)
K2=Rsinθ …(3)
【0073】
角度θを選定することにより、加速度のフィードバック信号に対する速度のフィードバック信号の位相を任意に設定することができる。角度θは、機械構造物57の振動が最小になるように設定することができる。または、式(1)の関係を満たし、機械構造物57の振動が最小になるようにゲインK1およびゲインK2を設定することができる。このようにゲインK1およびゲインK2を設定することにより、ゲインの設定値による発振を抑制すると共に、機械構造物57の振動を効果的に抑制することができる。
【0074】
図3に示す本実施の形態の制御装置では、上記と同様に、補償器91のゲインKa11と補償器92のゲインKa21とを設定することができる。すなわち、以下の式を満たすように、ゲインKa11およびゲインKa21を設定することができる。なお、前述のように、ゲインKa11は第1のゲインに相当し、ゲインKa21は第2のゲインに相当する。
【0075】
Ka11
2+Ka21
2=R
2 …(4)
【0076】
または、次式の様に仮想的な角度θを用いてゲインKa11およびゲインKa21を設定することができる。
【0077】
Ka11=Rcosθ …(5)
Ka12=Rsinθ …(6)
【0078】
次に、本実施の形態の第1の制御装置および参考例の制御装置について、工作機械の加工のシミュレーションを実施した結果を示す。
【0079】
図5は、
図4に示す参考例の制御装置にて駆動したシミュレーションの結果のグラフである。一点鎖線は速度指令値を示し、実線は機械構造物の加速度の検出値を示している。時刻t0では、速度指令値および加速度ともに零である。そして、加速度を変化させた後には指令の加速度が一定の区間でも、加速度の検出値が振動していることが分かる。例えば、時刻t1において速度指令値を変化させて加速している。時刻t1から時刻t2までは指令の加速度が一定にも関わらず、加速度の検出値が振動している。また、時刻t2,t3,t4,t5において加速度を変化させた後にも、加速度の検出値が振動している。さらに、時刻t6において速度指令値を零にしたにも関わらず、残留振動が生じている。
【0080】
図6に、
図3に示す本実施の形態の第1の制御装置にて駆動したシミュレーションの結果のグラフを示す。なお、シミュレーションでは
図3の回路において、補償器93,96,102のゲインを零にしている。すなわち、位置偏差を消失させる回路および位置をフィードバックする回路を使用せずにシミュレーションを実施している。時刻t1から時刻t2の区間や時刻t2から時刻t3の区間等において、加速度の検出値の振動が参考例の制御装置よりも抑制されていることが分かる。加速度の検出値は、略一定の値を示していることが分かる。さらに、時刻t6以降における残留振動も参考例の制御装置よりも抑制されていることが分かる。このように、本実施の形態の制御装置を採用することにより、機械構造物の振動を抑制することができる。
【0081】
図7は、本実施の形態における第2の制御装置と機械構造物の駆動機構とを示すブロック図である。
図3を参照して、第1の制御装置では、加速度のフィードバック回路、速度のフィードバック回路、または位置のフィードバック回路において、補償器94,95,96には、それぞれの送り軸の指令が入力されている。たとえば、補償器95には、速度指令ωrが入力されている。しかしながら、補償器94,95,96に入力される指令は、他の回路により補正された指令である。たとえば、補償器96に入力される位置指令qrは、位置偏差を打ち消す回路の補償器102の出力により補正された指令である。
【0082】
図7を参照して、第2の制御装置では、補償器94,95,96に補正が加えられていない位置指令qrに基づく信号を入力する。補償器96には、補間演算部53から出力された位置指令qr、すなわち、補正が加えられていない位置指令qrを入力する。換言すると、加算器152にて補正が加えられる前の信号を補償器96に入力する。加算器152にて補正が加えられる前の信号を微分器78aにて微分して、補償器95に入力する。更に、微分器78aの出力信号を微分器78bにて微分して、補償器94に入力する。
【0083】
本実施の形態の第2の制御装置では、補間演算部53から出力される位置指令qrを用いているために、加速度、速度または位置のフィードバック信号と、送り軸の指令との偏差をより正確に算出することができる。加算器141においては、加速度のフィードバック信号とトルク指令との偏差を正確に算出することができる。加算器142では、速度のフィードバック信号と速度指令との偏差を正確に算出することができる。加算器143では、位置のフィードバック信号と速度指令との偏差を正確に算出することができる。この結果、加速度検出器60の出力信号から得られる信号に含まれる振動成分を正確に抽出することができる。この結果、機械構造物57の振動の抑制効果が向上する。その他の構成、作用および効果は、第1の制御装置と同様である。
【0084】
本実施の形態の工作機械10は、テーブル14を移動させる移動装置および工具支持部材としての主軸20を移動させる移動装置を備える。そして、状態センサとしての加速度検出器45,46がテーブル14および主軸20に配置されている。移動装置にて移動される2つの機械構造物のそれぞれに加速度検出器が配置されている。そして、それぞれの移動軸の移動装置を制御するサーボモータ制御部に本発明を適用することにより、テーブル14に固定されているワーク1の振動を抑制することができる。また、主軸20に支持されている工具22の振動を抑制することができる。ワーク1および工具22の両方の被駆動物の振動を抑制することができるために、高精度の加工を実施することができる。
【0085】
(実施の形態2)
図8および
図9を参照して、実施の形態2における工作機械の送り軸の制御方法および数値制御工作機械について説明する。本実施の形態における工作機械は、弾性要素の位置が実施の形態1の工作機械と異なる。
【0086】
図8に、本実施の形態における第1の制御装置および機械構造物の駆動機構のブロック図を示す。本実施の形態の工作機械は、機械構造物57と軸送り機構56との間の剛性は高い構造を有する。一方で、工作機械は、軸送り機構56とサーボモータ55との間の剛性が低い構造を有する。この工作機械のモデルでは、サーボモータ55と軸送り機構56との間に弾性要素63が存在する。弾性要素63は、弾性体63aと減衰体63bとを有する。機械構造物57に外乱力が加わると、機械構造物57および軸送り機構56とが一体的に振動する。
【0087】
このような機械構造物57の駆動機構としては、例えば、各軸の移動装置のボールねじ機構の構成部材が弾性変形する場合が相当する。なお、サーボモータ55が直接的に機械構造物57を駆動する場合には、このモデルは相当しない。例えば、機械構造物57の内部にモータが配置されているダイレクトドライブ方式の駆動機構である場合には、本実施の形態の駆動機構に相当せずに、実施の形態1における駆動機構に相当する。
【0088】
本実施の形態においては、軸送り機構の駆動を安定化させる安定化制御を実施する。制御装置50のサーボモータ制御部54は、軸送り機構の安定化補償回路122を含む。軸送り機構の安定化補償回路122には、軸送り機構56に取り付けられた位置検出器59にて出力される位置の信号が入力される。本実施の形態においては、位置検出器59が軸送り機構56の状態を検出する状態センサとして機能する。
【0089】
位置検出器59にて検出された軸送り機構56の位置の信号は、微分器78に入力される。微分器78からは加速度の信号が出力される。そして、加速度の信号は、補償器91および積分器77aに入力される。本実施の形態の第1の制御装置の軸送り機構の安定化補償回路122のその他の回路は、実施の形態1における第1の制御装置の機械構造物の安定化補償回路121と同様である。補償器91〜96,101,102は、実施の形態1の第1の制御装置における補償器と同様である(
図3参照)。それぞれの補償器におけるゲインKp11,Kp21等は、本実施の形態の制御回路に対応して設定されている。
【0090】
補償器101,102を含む回路により、送り軸の指令の速度偏差および位置偏差を打ち消すことができる。また、補償器91を含む回路により、軸送り機構56の加速度をフィードバックする回路が構成されている。補償器92,93を含む回路により、軸送り機構56の速度をフィードバックする回路および軸送り機構56の位置をフィードバックする回路が構成されている。補償器92,93を含む回路により、速度のフィードバック信号および位置のフィードバック信号を補償器91から出力される加速度のフィードバック信号に加えることができて、加速度の影響の他に速度の影響および位置の影響を個別に調整することができる。この結果、機械構造物57の振動を容易に抑制することができる。
【0091】
図9に、本実施の形態における第2の制御装置および機械構造物の駆動機構のブロック図を示す。本実施の形態の第2の制御装置では、実施の形態1における第2の制御装置と同様に、補償器94,95,96に補正が加えられていない位置指令qrに基づく信号を入力する。補償器96には、補間演算部53から出力される位置指令qrを入力する。また、加算器152にて補正が加えられる前の信号を微分器78aにて微分して補償器95に入力する。更に、微分器78aの出力信号を微分器78bにて微分して補償器94に入力する。その他の制御回路の構成は、本実施の形態の第1の制御装置と同様である。
【0092】
本実施の形態の第2の制御装置においては、加速度、速度または位置のフィードバック信号と送り軸の指令との偏差を第1の制御装置よりも正確に算出することができる。この結果、振動を抑制する効果が向上する。
【0093】
本実施の形態の制御装置においては、位置検出器59により検出された位置を加速度に変換した後に、速度および位置に変換しているが、この形態に限られず、速度のフィードバック信号は、位置検出器59の出力信号を微分した後にゲインKp21を乗じても構わない。また、位置のフィードバック信号は、位置検出器59の出力信号にゲインKp41を乗じても構わない。
【0094】
その他の構成、作用および効果については、実施の形態1と同様であるので、ここでは説明を繰り返さない。
【0095】
(実施の形態3)
図10および
図11を参照して、実施の形態3における工作機械の送り軸の制御方法および数値制御工作機械について説明する。本実施の形態の制御装置は、サーボモータの駆動を安定化させる安定化制御を実施する。
【0096】
図10に、本実施の形態における制御装置と機械構造物の駆動機構のブロック図を示す。サーボモータ55、軸送り機構56および機械構造物57は、高い剛性にて互いに接続されている。速度検出器58にて検出された速度が加算器75に入力されて、速度フィードバックループが構成されていることは、実施の形態1と同様である。位置フィードバックループにおいては、速度検出器58にて検出された速度の信号が積分器77に入力されている。積分器77から出力される位置の信号が加算器74に入力されている。
【0097】
図11に、本実施の形態における参考例の制御装置と機械構造物の駆動機構のブロック図を示す。参考例の制御装置では、速度検出器58から出力される速度の信号は微分器78に入力される。微分器78から出力される加速度の信号が補償器103に入力される。補償器103においてゲインK1が乗じられる。補償器103の出力信号が加算器144に入力される。加算器144では、トルク指令τrから補償器103の出力信号が減算される。
【0098】
参考例の制御装置は、サーボモータ55の加速度をフィードバックする回路を備え、トルク指令τrの振動を抑制することができる。ところが、位置制御器71や速度制御器72の応答性を上昇させると、サーボモータ55の駆動が不安定になる場合がある。例えば、位置制御器71におけるゲインまたは速度制御器72におけるゲインを大きくすると、発振する場合がある。また、補償器103における最適のゲインK1は、機械構造物57の種類に依存して変化するためにゲインK1の設定が難しかった。
【0099】
図10を参照して、本実施の形態の制御装置50のサーボモータ制御部54は、モータの安定化補償回路123を備える。また、サーボモータ55の速度を検出する速度検出器58を状態センサとして用いる。速度検出器58から出力される速度の信号を微分器78に入力している。微分器78は、加速度の信号を出力する。加速度の信号は、補償器91にてゲインKv1が乗じられている。補償器91の出力信号は、加算器141およびフィルタ81を介して、加算器144に入力されている。加算器144においては、速度制御器72から出力されるトルク指令τrから加算器141の出力信号が減算される。すなわち、サーボモータ55の加速度をフィードバックする回路が構成されている。フィルタ81としては、ローパスフィルタ等の所望の周波数帯を通過させるフィルタを用いることができる。
【0100】
さらに、微分器78から出力される加速度の信号は、積分器77aを通ることにより速度の信号になる。速度の信号は、補償器92にてゲインKv2が乗じられる。補償器92の出力信号は、加算器142を介して加算器141に入力される。すなわち、サーボモータ55の速度をフィードバックする回路が構成されている。
【0101】
積分器77aから出力される速度の信号は、積分器77bに入力される。積分器77bから出力される位置の信号は、補償器93にてゲインKv3が乗じられる。補償器93の出力信号は、加算器142を介して加算器141に入力される。すなわち、サーボモータ55の位置をフィードバックする回路が構成されている。
【0102】
加算器142では、補償器92の出力信号と補償器93の出力信号が加算される。加算器141では、補償器91の出力信号に、加算器142の出力信号が加算される。すなわち、サーボモータの加速度のフィードバック信号に、速度のフィードバック信号および位置をフィードバック信号が加算されている。このように、サーボモータ55の状態をフィードバックすることができて、モータの駆動の安定化を図ることができる。この結果、機械構造物57の振動を抑制することができる。また、位置制御器71および速度制御器72の応答性を上げることができる。
【0103】
また、それぞれのフィードバック信号の回路では、補償器91のゲインKv1と、補償器92のゲインKv2と、補償器93のゲインKv3とを独立して設定可能である。このために、ゲインKv1により加速度の影響を調整し、ゲインKv2により速度の影響を調整し、更に、ゲインKv3により位置の影響を調整することができる。ゲインKv1,Kv2,Kv3の値を適正な値に設定することにより、サーボモータ55の駆動を効果的に安定にすることができて、機械構造物57の振動を効果的に抑制することができる。
【0104】
本実施の形態の制御装置においては、速度検出器58から検出された速度を加速度に変換した後に、再び速度に変換しているが、この形態に限られず、速度のフィードバック信号は、速度検出器58の出力信号にゲインKv2を乗じても構わない。また、位置のフィードバック信号は、速度検出器58の出力信号を積分し、ゲインKv3を乗じても構わない。
【0105】
その他の構成、作用および効果については、実施の形態1と同様であるので、ここでは説明を繰り返さない。
【0106】
(実施の形態4)
図12および
図13を参照して、実施の形態4における工作機械の送り軸の制御方法および数値制御工作機械について説明する。
【0107】
本実施の形態の制御装置は、実施の形態1から実施の形態3の制御回路の構成を組み合わせた構成を備える。すなわち、制御装置は、実施の形態1における機械構造物の安定化補償回路121と、実施の形態2における軸送り機構の安定化補償回路122と、実施の形態3におけるモータの安定化補償回路123とを備える。
【0108】
図12に、本実施の形態における第1の制御装置および機械構造物の駆動機構のブロック図を示す。サーボモータ55と軸送り機構56との間には、弾性要素63が介在している。軸送り機構56と機械構造物57との間には、弾性要素62が介在している。すなわち、本実施の形態の工作機械は、機械構造物57と軸送り機構56とがばね結合され、さらに、軸送り機構56とサーボモータ55との間がばね結合されている3つの慣性系を有する。
【0109】
本実施の形態の第1の制御装置は、実施の形態1の第1の制御装置の構成、実施の形態2の第1の制御装置の構成、および実施の形態3の第1の制御装置の構成を組み合わせた構成を備える。位置フィードバックループには、位置検出器59からの位置の信号が用いられている。
【0110】
機械構造物57には、加速度検出器60が配置されている。加速度検出器60から出力される加速度の信号は、機械構造物の安定化補償回路121に送信される。軸送り機構56には、位置検出器59が配置されている。位置検出器59から出力される位置の信号は、軸送り機構の安定化補償回路122に送信される。さらに、サーボモータ55には、速度検出器58が取り付けられている。速度検出器58から出力される速度の信号は、モータの安定化補償回路123に送信される。
【0111】
それぞれの安定化補償回路121,122,123において、加速度に関する補正信号が生成されて、加算器161,162において加算される。加速度のフィードバック回路が構成されている。加算器162の出力信号は、加算器144においてトルク指令τrから減算される。
【0112】
また、機械構造物の安定化補償回路121および軸送り機構の安定化補償回路122において、加速度のフィードバック回路により生じる速度偏差を打ち消すための速度に関する補正信号が生成され、加算器163において加算される。加算器163の出力信号は、加算器151において速度指令ωrに加算される。また、機械構造物の安定化補償回路121および軸送り機構の安定化補償回路122において、加速度のフィードバック回路により生じる位置偏差を打ち消すための位置に関する補正信号が生成され、加算器164において加算される。加算器164の出力信号は、加算器152において位置指令qrに加算される。
【0113】
図13に、本実施の形態における第2の制御装置および機械構造物の駆動機構のブロック図を示す。本実施の形態の第2の制御装置は、実施の形態1の第2の制御装置の構成、実施の形態2の第2の制御装置の構成および実施の形態3の第2の制御装置の構成を組み合わせた構成を備える。
【0114】
第2の制御装置では、機械構造物の安定化補償回路121および軸送り機構の安定化補償回路122に入力される送り軸の指令として、補正が加えられていない位置指令qrを入力する。機械構造物の安定化補償回路121および軸送り機構の安定化補償回路122には、補間演算部53から出力される位置指令qrが入力される。その他の構成は、本実施の形態の第1の制御装置と同様である。
【0115】
このように、3つの慣性系を有する工作機械においては、実施の形態1の制御回路および実施の形態2の制御回路を組み合わることにより、機械構造物57の振動を抑制することができる。更に、実施の形態3のサーボモータ55の駆動を安定化する制御回路を組み合わせることにより、サーボモータ55の駆動の安定化も含めた安定化制御を実施することができる。
【0116】
本実施の形態の制御装置は、機械構造物の安定化補償回路121、軸送り機構の安定化補償回路122、およびモータの安定化補償回路123の3つの安定化補償回路を含むが、この形態に限られず、3つの安定化補償回路のうち、任意の2つの安定化補償回路が含まれていても構わない。
【0117】
その他の構成、作用および効果については、実施の形態1から3のいずれかと同様であるので、ここでは説明を繰り返さない。
【0118】
上記の実施の形態は、適宜組み合わせることができる。上述のそれぞれの制御においては、機能および作用が変更されない範囲において適宜ステップの順序を変更することができる。
【0119】
上述のそれぞれの図において、同一または相等する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、請求の範囲に示される形態の変更が含まれている。