【実施例】
【0027】
下記の非限定的な実施例は、当業者に本発明をより全面的に理解させるためのものであって、本発明を限定するものではない。
【0028】
実施例1
蛍光プローブ化合物BClOの合成
【化7】
2,4−ジメチルピロール(2.8g、30mmol)をジクロロメタン250mLが入れられた500mLの一口フラスコに加え、さらに塩化アクリル(0.9g、10mmol)を加え、遮光、窒素ガス雰囲気下で、50℃で一晩攪拌した。氷浴下で、トリエチルアミン10mLと三フッ化ホウ素エチルエーテル錯体10mLを滴下し、さらに1時間撹拌した。溶剤を減圧留去し、カラムクロマトグラフィーによる単離を行い、オレンジ色の固体BClO(9.6 %)を得た。
1H NMR(400MHz,CDCl
3),δ:1.96(s,3H),2.17(s,3H),2.35(s,6H),2.53(s,6H),2.84(t,J=8Hz,2H),3.17(t,J=8Hz,2H),5.62(s,1H),6.04(s,2H),7.43(s,1H);
13C NMR(100MHz,CDCl
3),δ:11.1,13.0,14.6,16.2,27.4,29.9,107.8,114.5, 121.9,124.0,126.3,131.5,141.2,145.5,154.1ppm;TOF MS:m/z calcd for C
21H
27BF
2N
3+ [M+H]
+:370.2216,found:370.2255.
【0029】
BClO特性測定実験1
次亜塩素酸イオンに対する蛍光プローブ化合物BClOの蛍光滴定実験
1μMのプローブ化合物BClOをPBS緩衝液(染料の助溶剤として10%容量比のアルコールを含む。pH=7.4)に加え、次亜塩素酸イオンの濃度がそれぞれ0、1、2、3、4、5、6、7μMになるように、徐々に次亜塩素酸ナトリウム溶液を加え、応答する蛍光強度を記録した。励起波長を480nmとした。測定結果は、
図1aおよび
図1bに示す。図からわかるように、プローブ化合物の最大発光ピーク505nmにおける蛍光強度は、次亜塩素酸ナトリウム濃度の増加に伴って徐々に増加し、次亜塩素酸ナトリウムの濃度が5μMである時に飽和する。
【0030】
BClO特性測定実験2
次亜塩素酸イオンに対する蛍光プローブ化合物BClOの吸収滴定実験
1μMのプローブ化合物BClOをPBS緩衝液(染料の助溶剤として10%容量比のアルコールを含む。pH=7.4)に加え、次亜塩素酸イオンの濃度がそれぞれ0、1、2、3、4、5、6、7μMになるように、徐々に次亜塩素酸ナトリウム溶液を加え、吸収強度を記録した。測定結果は
図2に示す。図からわかるように、プローブ化合物の吸収スペクトルは、次亜塩素酸ナトリウム濃度の増加に伴っても殆ど変化しない。
【0031】
BClO特性測定実験3
次亜塩素酸イオンに対する蛍光プローブ化合物BClOの選択性実験
上記合成された化合物BClOを用いて、次亜塩素酸イオンおよび活性酸素に対する選択性を評価した。1μMの化合物BClOを、5μMの次亜塩素酸イオンまたは10μMのその他の活性酸素(H
2O
2、O
2−、TBHP、HO・、TBO・、
1O
2、NO・)を含有するPBS緩衝液(染料の助溶剤として10%容量比のアルコールを含む。pH=7.4)に加え、励起波長を480nmとし、発光波長を505nmとし、それぞれの蛍光強度を記録した。測定結果は
図3に示す。図からわかるように、蛍光プローブ化合物BClOは、次亜塩素酸ナトリウムに対する選択性が非常に高く、5μMの次亜塩素酸ナトリウムでは蛍光強度が顕著に増加する(100倍)が、その他の活性酸素が添加されても蛍光強度が殆ど変化しない。
【0032】
BClO特性測定実験4
次亜塩素酸イオンに対する蛍光プローブ化合物BClOの検出感度
上記合成された化合物BClOを用いて、ナノモルレベル濃度の次亜塩素酸イオンに対する応答を評価した。化合物BClO(1μM)を、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10nM各濃度の次亜塩素酸ナトリウムを含有するPBS緩衝液(染料の助溶剤として10%容量比のアルコールを含む。pH=7.4)に加え、480nmで励起し、蛍光スペクトルおよび505nmにおける蛍光強度を記録した。測定結果は
図4に示す。図からわかるように、蛍光プローブ化合物BClOは、次亜塩素酸イオンの濃度が0〜10nMの範囲において蛍光強度が顕著に増加し、且つ蛍光強度が次亜塩素酸ナトリウムの濃度と良好な直線性関係を示す(R
2=0.99724)。従って、蛍光プローブ化合物BClOは、低濃度の次亜塩素酸ナトリウムの検出にも応用できる。3σ/kにより算出した検出限界が0.56nMであった。
【0033】
BClO特性測定実験5
次亜塩素酸イオンに対するプローブ化合物BClOの応答時間測定
図5は、次亜塩素酸イオンに対するプローブ化合物BClOの時間関数を示す図である。プローブ化合物BClOの濃度を1μMとし、測定システムをPBS緩衝液(染料の助溶剤として10%容量比のアルコールを含む。pH=7.4)とし、励起波長を480nmとし、BClOの505nmにおける経時的蛍光強度を記録した。
図5からわかるように、BClOは次亜塩素酸イオンに対する応答が非常に迅速であり、1秒以内に平衡に達する。横軸に時間(秒)、縦軸に蛍光強度を表示する。
【0034】
BClO特性測定実験6
プローブ化合物BClOによる次亜塩素酸イオンの検出に対するpHの影響に関する研究
上記合成された化合物BClOを用いて、pHに対する応答を評価した。化合物BClO(1μM)を含有するPBS緩衝液(染料の助溶剤として10%容量比のアルコールを含む)を約pH4.0に調整し、励起波長を480nmとし、プローブの蛍光強度および5μMの次亜塩素酸ナトリウムを加えた後の蛍光強度を測定した。その後、塩基溶液を加え、約pH9.0へ徐々に増加し、それぞれの蛍光強度変化を記録した。測定結果は
図6に示す。図からわかるように、pH4.0〜9.0の範囲において、pHの変化が蛍光プローブ化合物BClO自身の蛍光発光および次亜塩素酸ナトリウムを加えた後の蛍光発光にはほぼ影響を与えない。従って、プローブ化合物BClOはこのpH範囲において次亜塩素酸イオンの検出に用いられる。横軸にpH、縦軸に蛍光強度を表示する。実験では、NaOH(1M)またはHCl(1M)を用いてpHを調整した。
【0035】
BClO特性測定実験7
プローブ化合物BClOによる、MCF−7細胞における各濃度の次亜塩素酸イオンの検出に関する研究
MCF−7細胞を10%のFCS(invitrogen)を含有するDEME(invitrogen)で培養した。共焦点蛍光イメージング実験を行う前日、細胞を専用の細胞共焦点培養皿に播種した。翌日、その中に1μMのプローブ化合物BClOを加え、37℃、5%CO
2の条件下で20分間インキュベーションした後、リン酸緩衝液で3回洗浄し、共焦点イメージングを行った。同様の条件で、さらに3μMまたは5μMの次亜塩素酸ナトリウムを加え、直ちに共焦点イメージングを行った。
【0036】
細胞の培養密度を2×10
5個細胞/mLとした。イメージング機器として、Olympus FV1000−IX81倒立顕微鏡、油浸レンズ100倍を用いた。488nmで蛍光を励起し、490〜550nm波長範囲の蛍光を収集した。
【0037】
図7a〜cは、それぞれBClOに次亜塩素酸ナトリウムを加えた前後の生細胞の染色写真である。細胞におけるBClOの蛍光強度変化を定量化するため、各図から10箇所の領域を選び、これらの相対蛍光強度の平均値を算出した。結果は
図7dに示す。図からわかるように、次亜塩素酸ナトリウムを加える前に、プローブ化合物BClOは細胞において微弱な緑色蛍光を発光した。これは、MCF−7細胞には活性酸素が多少含まれるからである。一方、次亜塩素酸ナトリウムを加えた後、プローブ化合物BClOの蛍光強度が迅速で顕著に増加した。これは、プローブ化合物BClOが生細胞における次亜塩素酸の検出へ適用可能であることを示す。
【0038】
BClO特性測定実験8
プローブ化合物BClOによる、Raw264.7細胞における内因性次亜塩素酸の検出に関する研究
Raw264.7細胞を10%のFCS(invitrogen)を含有するDEME(invitrogen)で培養した。共焦点蛍光イメージング実験を行う前日、細胞を専用の細胞共焦点培養皿に播種した。翌日、その中に1μMのプローブ化合物BClOを加え、37℃、5%CO
2の条件下で20分間インキュベーションした後、リン酸緩衝液で3回洗浄し、共焦点イメージングを行った。同様の条件で、Raw264.7細胞を1μg/mLのLPS(リポ多糖)と12時間インキュベーションし、さらに1μg/mLのPMA(ホルボールミリステート酢酸塩)と1時間インキュベーションした後、1μMのプローブ化合物BClOを加え、37℃、5%CO
2の条件下で20分間インキュベーションした。その後、リン酸緩衝液で3回洗浄し、共焦点イメージングを行った。
【0039】
細胞の培養密度を2×10
5個細胞/mLとした。イメージング機器として、Olympus FV1000−IX81倒立顕微鏡、油浸レンズ100倍を用いた。488nmで蛍光を励起し、490〜550nm波長範囲の蛍光を収集した。
【0040】
図8a〜bは、それぞれLPSおよびPMAによりRaw264.7細胞に刺激を与える前後のBClOの染色写真である。細胞におけるBClOの蛍光強度変化を定量化するため、各図から4箇所の領域を選び、これらの相対蛍光強度の平均値を算出した。結果は
図7cに示す。図からわかるように、次亜プローブ化合物BClOは、マクロファージ細胞において微弱な緑色蛍光を発光した。これは、Raw264.7細胞における活性酸素の含有量が低いからである。一方、細胞にLPSおよびPMAによる刺激を与えた後、プローブ化合物BClOの蛍光強度が顕著に増加した。これは、プローブ化合物BClOが生細胞における内因性次亜塩素酸の検出へ適用可能であることを示す。