特許第6275256号(P6275256)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6275256ボロンジピロメテン蛍光プローブ、その製造方法及び応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6275256
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】ボロンジピロメテン蛍光プローブ、その製造方法及び応用
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/02 20060101AFI20180129BHJP
   C09B 23/00 20060101ALI20180129BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   C07F5/02 D
   C09B23/00 L
   G01N21/64 F
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-535729(P2016-535729)
(86)(22)【出願日】2014年11月26日
(65)【公表番号】特表2017-504574(P2017-504574A)
(43)【公表日】2017年2月9日
(86)【国際出願番号】CN2014092299
(87)【国際公開番号】WO2015081803
(87)【国際公開日】20150611
【審査請求日】2016年6月2日
(31)【優先権主張番号】201310643027.8
(32)【優先日】2013年12月2日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513324321
【氏名又は名称】大連理工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【弁理士】
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】樊 江莉
(72)【発明者】
【氏名】朱 浩
(72)【発明者】
【氏名】彭 孝軍
(72)【発明者】
【氏名】王 静云
【審査官】 新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−520895(JP,A)
【文献】 特開2000−001509(JP,A)
【文献】 特開2000−039716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C09B
G01N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式Iで表される構造を有するボロンジピロメテン蛍光プローブ。
【化1】
[式I中、R、R及びRは、それぞれ独立にH、C1〜8のアルキル基及び置換もしくは無置換のフェニル基からなる群より選ばれるものであり、前記置換フェニル基は、CN、COOH、NH、NO、OH、SH、C1〜6のアルコキシ基、C1〜6のアルキルアミノ基、C1〜6のアミド基、ハロゲン及びC1〜6のハロアルキル基からなる群より選ばれる1種または2種以上の基で任意の位置において置換されたフェニル基である。]
【請求項2】
前記R及びRは、それぞれ独立にHおよびメチル基からなる群より選ばれるものである請求項1に記載のボロンジピロメテン蛍光プローブ。
【請求項3】
前記R及びRは、いずれもメチル基である請求項2に記載のボロンジピロメテン蛍光プローブ。
【請求項4】
前記Rは、水素原子またはエチル基である請求項1〜3のいずれか一項に記載のボロンジピロメテン蛍光プローブ。
【請求項5】
前記Rは、水素原子である請求項4に記載のボロンジピロメテン蛍光プローブ。
【請求項6】
下記一般式IIで表される構造を有する化合物と塩化アクリルを1〜5:1のモル比で反応させて、次いで、塩基の存在下で三フッ化ホウ素と錯形成反応させてボロンジピロメテン蛍光プローブを得る工程を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のボロンジピロメテン蛍光プローブの製造方法。
【化2】
【請求項7】
前記一般式IIで表される構造を有する化合物と塩化アクリルを3:1のモル比で反応させる請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のボロンジピロメテン蛍光プローブを用いて、次亜塩素酸イオン検出する方法
【請求項9】
前記ボロンジピロメテン蛍光プローブを用いて、生細胞における次亜塩素酸イオン検出する請求項8に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファインケミカル分野における蛍光プローブ、その製造方法及び用途に関し、特にボロンジピロメテン蛍光プローブ、その製造方法及び次亜塩素酸イオン検出への応用に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光プローブは、機能性染料として、科学技術の各分野において広く用いられ、特にライフサイエンス、臨床医療診断、免疫分析アッセイなどにおける研究が盛んに行われている。数多くの蛍光染料の中、ボロンジピロメテン(BDP)蛍光染料は、大きなモル吸光係数、高い蛍光量子収率、安定なスペクトル性質、優れた光熱安定性、優れた化学安定性、小さい分子量および低い細胞毒性などの長所を持っているため、生体分子用蛍光プローブや蛍光イメージング試薬などとして広く用いられている。
【0003】
次亜塩素酸(HClO)は、生体内における重要な活性酸素であり、生理学的に、主にミエロペルオキシダーゼによる触媒作用で塩素イオンと過酸化水素との反応により生成する。次亜塩素酸/次亜塩素酸イオンは、強い酸化力により、細胞環境において外来細菌を殺菌しそれらの侵入を阻止し、細胞のライフサイクルを制御する。人体内における次亜塩素酸の濃度は、加齢に伴って徐々に増加する。しかし、過剰の次亜塩素酸/次亜塩素酸イオンは骨関節炎や心血管疾患など一連の疾患を引き起こす恐れがあるため、次亜塩素酸を有効にモニタリングできる方法の開発が研究者達の注目を集めている。
【0004】
近年、研究者達は、水溶液または生体内における次亜塩素酸/次亜塩素酸イオンの検出に用いられるいくつかの蛍光プローブを開発した。これらのプローブは、主に次亜塩素酸の強い酸化力、例えば、ジベンゾイルヒドラジン酸化メカニズム、ヒドロキサム酸化メカニズム、脱オキシム反応メカニズム、p-メトキシフェノール酸化メカニズム、硫黄原子酸化メカニズムなどに基づいて開発されたものである。しかし、これらのプローブは、通常、応答時間が長く、感度が低く、選択性に劣り、pHの影響を受けやすいなどの欠点を持っている。ピロールは、BDPを合成する重要な原料である。我々は、ピロールが次亜塩素酸により選択的に酸化されるが、その他の活性酸素(例えば、H、・OHなど)に対して感度が低いことを見出した。また、ピロールは芳香族性を持ち、かつ窒素原子における非共有電子対が環状π結合共役系の形成に寄与するため、プロトンとの結合能が弱められ、pHからの影響を受けにくい。さらに、ピロールは電子リッチであるため、いくつかの蛍光団に対して光誘起電子移動(PET)効果を有効に引き起こすことができる。その結果、バックグラウンド蛍光が低減し、プローブ感度が向上する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した従来技術における次亜塩素酸イオン検出用蛍光プローブが持っている応答時間が長く、感度が低く、選択性に劣り、pHの影響を受けやすいなどの欠点を解決すべく、2,4−ジメチルピロールを識別基とし、ボロンジピロメテン染料を蛍光団とするものであって、選択性(その他の活性酸素やpHの影響を受けにくい)および感度が向上し、応答時間が短く、かつ生物分野への応用が期待できるボロンジピロメテン蛍光プローブを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、以下の手段により達成できる。
下記一般式Iで表される構造を有するボロンジピロメテン蛍光プローブ。
【化1】
[式I中、R、R及びRは、それぞれ独立にH、C1〜8のアルキル基及び置換もしくは無置換のフェニル基からなる群より選ばれるものであり、前記置換フェニル基は、CN、COOH、NH、NO、OH、SH、C1〜6のアルコキシ基、C1〜6のアルキルアミノ基、C1〜6のアミド基、ハロゲン及びC1〜6のハロアルキル基からなる群より選ばれる1種または2種以上の基で任意の位置において置換されたフェニル基である。]
【0007】
本発明に係るボロンジピロメテン蛍光プローブの製造方法は、下記一般式IIで表される構造を有する化合物と塩化アクリルを1〜5:1のモル比で反応させて、次いで、塩基の存在下で三フッ化ホウ素と錯形成反応させて前記ボロンジピロメテン蛍光プローブを得る工程を含む。
【化2】
【0008】
本発明に係るボロンジピロメテン蛍光プローブは、次亜塩素酸イオンの検出に応用できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るボロンジピロメテン蛍光プローブは、以下の優れた特性を有する。
(1)水溶液において蛍光を殆ど発しないため、検出過程においてバックグラウンド蛍光による影響が低減する。
(2)感度が高く、ナノモル濃度の次亜塩素酸/次亜塩素酸イオンの存在下でも蛍光が顕著に強くなり、かつ蛍光強度が次亜塩素酸の濃度と良好な直線性関係を示す。
(3)選択性が良好であり、その他の活性酸素、例えば、H、・OHなどに対しては殆ど応答しない。
(4)応答が迅速であり、次亜塩素酸を加えると、数秒間以内に蛍光強度が平衡状態になる。
(5)pH4.0〜9.0の範囲において、次亜塩素酸に対する検出結果が正確であり、pHの影響を受けにくい。
(6)合成が簡便で、製品を得やすい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本明細書には、7枚の図面が含まれる。
図1】BClO特性測定実験1において各濃度の次亜塩素酸イオンに対する蛍光プローブ化合物BClOの蛍光強度応答図である。プローブ化合物BClOの濃度は1μMであり、次亜塩素酸ナトリウムの濃度はそれぞれ0、1、2、3、4、5、6、7μMであり、測定システムはPBS緩衝液(染料の助溶剤として10%容量比のアルコールを含む。pH=7.4)である。図1aは次亜塩素酸ナトリウムに対するBClOの蛍光滴定スペクトルであり、励起波長は480nmである。図1bは次亜塩素酸ナトリウムに対するBClOの滴定曲線であり、励起波長は480nmである。
図2】BClO特性測定実験2において各濃度の次亜塩素酸イオンに対する蛍光プローブ化合物BClOの吸収滴定測定結果である。蛍光プローブ化合物BClOの濃度は1μMであり、次亜塩素酸ナトリウムの濃度はそれぞれ0、1、2、3、4、5、6、7μMである。
図3】BClO特性測定実験3において各種の活性酸素に対する蛍光プローブ化合物BClOの蛍光選択性を示す柱状グラフである。蛍光プローブ化合物BClOの濃度は1μMであり、次亜塩素酸ナトリウムの濃度は5μMであり、その他の活性酸素の濃度は10μMである。
図4】BClO特性測定実験4において低濃度の次亜塩素酸イオンに対する蛍光プローブ化合物BClOの蛍光強度応答図である。蛍光プローブ化合物BClOの濃度は1μMであり、次亜塩素酸ナトリウムの濃度はそれぞれ0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10nMである。
図5】BClO特性測定実験5において次亜塩素酸ナトリウムに対する蛍光プローブ化合物BClOの応答時間図である。蛍光プローブ化合物BClOの濃度は1μMであり、加えた次亜塩素酸ナトリウムの濃度は5μMである。横軸に時間(s)、縦軸に蛍光強度を表示する。
図6】BClO特性測定実験6において各pH値条件下で次亜塩素酸イオンに対するプローブ化合物BClOの蛍光強度応答図である。横軸にpH、縦軸に蛍光強度を表示する。蛍光プローブ化合物BClOの濃度は1μMであり、加えた次亜塩素酸ナトリウムの濃度は5μMである。NaOH(1M)またはHCl(1M)を用いてpHを調整する。
図7】BClO特性測定実験7においてプローブ化合物BClOのヒト乳癌(MCF−7)細胞での蛍光イメージングである。蛍光プローブ化合物BClOの濃度は1μMである。図7a、b、cは、それぞれBClOで染色された細胞に0、3、5μMの次亜塩素酸ナトリウムを加えた後に収集した490nm〜550nm波長範囲の蛍光写真である。励起波長は488nmである。二標本検定により統計的解析を行い、次亜塩素酸ナトリウムが0μMである時の蛍光強度を基準とする。***P<0.001、エラーバーは標準誤差を表示する(n=10)。
図8】BClO特性測定実験8においてプローブ化合物BClOのマウスマクロファージ(Raw 264.7)細胞での蛍光イメージングである。蛍光プローブ化合物BClOの濃度は1μMである。図8aはBClOのみを加えて得た細胞染色蛍光写真である。図8bはRaw 264.7細胞を1μg/mLのLPS(リポ多糖)と12時間インキュベーションし、さらに1μg/mLのPMA(ホルボールミリステート酢酸塩)と1時間インキュベーションした後、BClOを加えて得た細胞染色蛍光写真である。490nm〜550nm波長範囲の蛍光を収集する。励起波長は488nmである。二標本検定により統計的解析を行い、BClOのみを加えた時の蛍光強度を基準とする。***P<0.001、エラーバーは標準誤差を表示する(n=4)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、下記一般式Iで表される構造を有するボロンジピロメテン蛍光プローブを提供する。
【化3】
[式I中、R、R及びRは、それぞれ独立にH、C1〜8のアルキル基及び置換もしくは無置換のフェニル基からなる群より選ばれるものであり、前記置換フェニル基は、CN、COOH、NH、NO、OH、SH、C1〜6のアルコキシ基、C1〜6のアルキルアミノ基、C1〜6のアミド基、ハロゲン及びC1〜6のハロアルキル基からなる群より選ばれる1種または2種以上の基で任意の位置において置換されたフェニル基である。]
【0012】
好ましい実施形態では、本発明に係るボロンジピロメテン蛍光プローブを示す一般式I中、RおよびRは、それぞれ独立にHおよびメチル基からなる群より選ばれるものであり、メチル基であることがより好ましい。
【0013】
は、水素またはエチル基であることが好ましく、水素であることがより好ましい。
【0014】
最も好ましい実施形態では、本発明に係るボロンジピロメテン蛍光プローブは、下記の構造式を有するBClOである。
【化4】
【0015】
さらに、本発明は、下記一般式IIで表される構造を有する化合物と塩化アクリルを1〜5:1のモル比で反応させて、次いで、塩基の存在下で三フッ化ホウ素と錯形成反応させてボロンジピロメテン蛍光プローブを得る工程を含むボロンジピロメテン蛍光プローブの製造方法を提供する。
【化5】
【0016】
本発明に係る製造方法のより具体的な実施形態は、下記の通りである。
【化6】
(1)一般式IIで表される構造を有する化合物と塩化アクリルから中間体化合物IIIを製造する。中間体化合物IIと塩化アクリルとの仕込みモル比は0.1〜1000:1であり、0.5〜100:1であることが好ましく、0.5〜10:1であることがより好ましく、1〜5:1であることがさらに好ましく、3:1であることが最も好ましい。両者は縮合反応が起こり、一般式IIIで表される構造を有する化合物が生成する。
【0017】
前記反応は、水含有の有機溶剤または無水の有機溶剤のいずれかの中に行ってもよいが、無水の有機溶剤中に行うことが好ましい。溶剤におけるピロール原料のモル濃度は、0.012〜0.4mol/Lである。有機溶剤としては、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、アセトニトリルなどが挙げられるが、これらに限定されない。反応過程において、ピロール原料と塩化アクリルは2回の縮合反応を経て、活性中間体IIIを生成する。生成物は不安定であるため、単離せずにそのまま次の反応に用いてもよい。反応過程において、薄層クロマトグラフィー(TLC)により反応終了点をモニタリングする。
【0018】
反応温度を15℃〜120℃に制御する。高温の場合、ピロール分子は自己重合しやすくなり、褐色の粘稠物質を生成するため、主反応に影響を及ぼし、収率が著しく低下する場合がある。一方、反応温度が低すぎると、反応を十分に行うため長い時間を要する。従って、反応温度は30℃〜100℃であることが好ましく、30℃〜80℃であることがより好ましく、40℃〜60℃であることが最も好ましい。
【0019】
(2)前記ボロンジピロメテン蛍光プローブを合成する。有機塩基の存在下で、前記工程(1)で得られた中間体IIIを三フッ化ホウ素化合物と反応させ、脱フッ化水素することにより、生成物である式Iの化合物を生成する。使用できる三フッ化ホウ素化合物は、三フッ化ホウ素気体、三フッ化ホウ素エチルエーテル錯体、または、常温溶液において三フッ化ホウ素を放出できるその他のいかなる化合物のいずれでもよい。
【0020】
前記反応温度は−10℃〜100℃であり、好ましくは0℃〜10℃である。三フッ化ホウ素化合物(例えば、三フッ化ホウ素気体または三フッ化ホウ素錯体)を加える場合、反応を促進するため有機塩基を加える必要がある。前記有機塩基はトリエチルアミンであることが好ましい。
【0021】
本発明に係るボロンジピロメテン蛍光染料の精製方法は、特に限定されず、公知の方法で精製すればよい。通常、反応終了後、溶剤を留去する。好ましくは、溶出液として石油エーテル/酢酸エチルを用いたカラムクロマトグラフィーにより生成物を単離・精製する。
【0022】
得られた蛍光染料は、当該分野における公知の単離・精製手段により回収し、必要な純度に達せばよい。
【0023】
本発明で用いられる原料は、いずれも市販から入手可能であり、或いは、当該分野における公知の原料から、当業者にとって公知の方法または従来技術に開示される方法により簡便に製造できる。
【0024】
なお、本発明の化合物の環における各置換基は、前記工程を行う前または終了直後に、標準的な芳香族置換反応により導入するか、常法の官能基修飾により生成してもよく、これらの反応および修飾はいずれも本発明の方法に含まれる。前記反応および修飾としては、例えば、芳香族置換反応による置換基の導入、置換基の還元、置換基のアルキル化および置換基の酸化が挙げられる。これらの工程に用いられる試薬および反応条件は、化学分野において公知である。芳香族置換反応の具体例としては、濃硝酸によるニトロ基の導入、例えばハロゲン化アシルおよびルイス酸(例えば、三塩化アルミニウム)を用いてフリーデル・クラフツ(Friedel Crafts)の条件下で行われるアシル基の導入、ハロゲン化アルキルおよびルイス酸(例えば、三塩化アルミニウム)を用いてフリーデル・クラフツの条件下で行われるアルキル基の導入、およびハロゲンの導入が挙げられる。修飾の具体例としては、例えば、ニッケル触媒を用いて水素添加反応を触媒することにより、または、鉄を用いて塩酸の存在下で加熱処理を行うことにより、ニトロ基をアミノ基に還元することによる修飾;および、アルキルチオ基をアルキルスルフィニル基またはアルキルスルホニル基に酸化することによる修飾が挙げられる。
【0025】
特に明記しない限り、本明細書に使用される用語は、下記の意味を有する。
本明細書に使用される用語「アルキル基」には、直鎖状アルキル基および分岐状アルキル基が含まれるが、単一のアルキル基、例えば「プロピル基」を言及する場合、直鎖状アルキル基のみを意味し、単一の分岐状アルキル基、例えば「イソプロピル基」を言及する場合、分岐状アルキル基のみを意味する。例えば、「C1〜4のアルキル基」には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基およびt-ブチル基などが含まれる。このような規則は、本明細書に使用されるその他の官能基にも適用する。
【0026】
本発明に係るボロンジピロメテン蛍光プローブは、次亜塩素酸イオンの検出に応用でき、特に生細胞における次亜塩素酸イオンの検出に応用できる。
【実施例】
【0027】
下記の非限定的な実施例は、当業者に本発明をより全面的に理解させるためのものであって、本発明を限定するものではない。
【0028】
実施例1
蛍光プローブ化合物BClOの合成
【化7】
2,4−ジメチルピロール(2.8g、30mmol)をジクロロメタン250mLが入れられた500mLの一口フラスコに加え、さらに塩化アクリル(0.9g、10mmol)を加え、遮光、窒素ガス雰囲気下で、50℃で一晩攪拌した。氷浴下で、トリエチルアミン10mLと三フッ化ホウ素エチルエーテル錯体10mLを滴下し、さらに1時間撹拌した。溶剤を減圧留去し、カラムクロマトグラフィーによる単離を行い、オレンジ色の固体BClO(9.6 %)を得た。H NMR(400MHz,CDCl),δ:1.96(s,3H),2.17(s,3H),2.35(s,6H),2.53(s,6H),2.84(t,J=8Hz,2H),3.17(t,J=8Hz,2H),5.62(s,1H),6.04(s,2H),7.43(s,1H);13C NMR(100MHz,CDCl),δ:11.1,13.0,14.6,16.2,27.4,29.9,107.8,114.5, 121.9,124.0,126.3,131.5,141.2,145.5,154.1ppm;TOF MS:m/z calcd for C2127BF+ [M+H]+:370.2216,found:370.2255.
【0029】
BClO特性測定実験1
次亜塩素酸イオンに対する蛍光プローブ化合物BClOの蛍光滴定実験
1μMのプローブ化合物BClOをPBS緩衝液(染料の助溶剤として10%容量比のアルコールを含む。pH=7.4)に加え、次亜塩素酸イオンの濃度がそれぞれ0、1、2、3、4、5、6、7μMになるように、徐々に次亜塩素酸ナトリウム溶液を加え、応答する蛍光強度を記録した。励起波長を480nmとした。測定結果は、図1aおよび図1bに示す。図からわかるように、プローブ化合物の最大発光ピーク505nmにおける蛍光強度は、次亜塩素酸ナトリウム濃度の増加に伴って徐々に増加し、次亜塩素酸ナトリウムの濃度が5μMである時に飽和する。
【0030】
BClO特性測定実験2
次亜塩素酸イオンに対する蛍光プローブ化合物BClOの吸収滴定実験
1μMのプローブ化合物BClOをPBS緩衝液(染料の助溶剤として10%容量比のアルコールを含む。pH=7.4)に加え、次亜塩素酸イオンの濃度がそれぞれ0、1、2、3、4、5、6、7μMになるように、徐々に次亜塩素酸ナトリウム溶液を加え、吸収強度を記録した。測定結果は図2に示す。図からわかるように、プローブ化合物の吸収スペクトルは、次亜塩素酸ナトリウム濃度の増加に伴っても殆ど変化しない。
【0031】
BClO特性測定実験3
次亜塩素酸イオンに対する蛍光プローブ化合物BClOの選択性実験
上記合成された化合物BClOを用いて、次亜塩素酸イオンおよび活性酸素に対する選択性を評価した。1μMの化合物BClOを、5μMの次亜塩素酸イオンまたは10μMのその他の活性酸素(H、O、TBHP、HO・、TBO・、、NO・)を含有するPBS緩衝液(染料の助溶剤として10%容量比のアルコールを含む。pH=7.4)に加え、励起波長を480nmとし、発光波長を505nmとし、それぞれの蛍光強度を記録した。測定結果は図3に示す。図からわかるように、蛍光プローブ化合物BClOは、次亜塩素酸ナトリウムに対する選択性が非常に高く、5μMの次亜塩素酸ナトリウムでは蛍光強度が顕著に増加する(100倍)が、その他の活性酸素が添加されても蛍光強度が殆ど変化しない。
【0032】
BClO特性測定実験4
次亜塩素酸イオンに対する蛍光プローブ化合物BClOの検出感度
上記合成された化合物BClOを用いて、ナノモルレベル濃度の次亜塩素酸イオンに対する応答を評価した。化合物BClO(1μM)を、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10nM各濃度の次亜塩素酸ナトリウムを含有するPBS緩衝液(染料の助溶剤として10%容量比のアルコールを含む。pH=7.4)に加え、480nmで励起し、蛍光スペクトルおよび505nmにおける蛍光強度を記録した。測定結果は図4に示す。図からわかるように、蛍光プローブ化合物BClOは、次亜塩素酸イオンの濃度が0〜10nMの範囲において蛍光強度が顕著に増加し、且つ蛍光強度が次亜塩素酸ナトリウムの濃度と良好な直線性関係を示す(R=0.99724)。従って、蛍光プローブ化合物BClOは、低濃度の次亜塩素酸ナトリウムの検出にも応用できる。3σ/kにより算出した検出限界が0.56nMであった。
【0033】
BClO特性測定実験5
次亜塩素酸イオンに対するプローブ化合物BClOの応答時間測定
図5は、次亜塩素酸イオンに対するプローブ化合物BClOの時間関数を示す図である。プローブ化合物BClOの濃度を1μMとし、測定システムをPBS緩衝液(染料の助溶剤として10%容量比のアルコールを含む。pH=7.4)とし、励起波長を480nmとし、BClOの505nmにおける経時的蛍光強度を記録した。図5からわかるように、BClOは次亜塩素酸イオンに対する応答が非常に迅速であり、1秒以内に平衡に達する。横軸に時間(秒)、縦軸に蛍光強度を表示する。
【0034】
BClO特性測定実験6
プローブ化合物BClOによる次亜塩素酸イオンの検出に対するpHの影響に関する研究
上記合成された化合物BClOを用いて、pHに対する応答を評価した。化合物BClO(1μM)を含有するPBS緩衝液(染料の助溶剤として10%容量比のアルコールを含む)を約pH4.0に調整し、励起波長を480nmとし、プローブの蛍光強度および5μMの次亜塩素酸ナトリウムを加えた後の蛍光強度を測定した。その後、塩基溶液を加え、約pH9.0へ徐々に増加し、それぞれの蛍光強度変化を記録した。測定結果は図6に示す。図からわかるように、pH4.0〜9.0の範囲において、pHの変化が蛍光プローブ化合物BClO自身の蛍光発光および次亜塩素酸ナトリウムを加えた後の蛍光発光にはほぼ影響を与えない。従って、プローブ化合物BClOはこのpH範囲において次亜塩素酸イオンの検出に用いられる。横軸にpH、縦軸に蛍光強度を表示する。実験では、NaOH(1M)またはHCl(1M)を用いてpHを調整した。
【0035】
BClO特性測定実験7
プローブ化合物BClOによる、MCF−7細胞における各濃度の次亜塩素酸イオンの検出に関する研究
MCF−7細胞を10%のFCS(invitrogen)を含有するDEME(invitrogen)で培養した。共焦点蛍光イメージング実験を行う前日、細胞を専用の細胞共焦点培養皿に播種した。翌日、その中に1μMのプローブ化合物BClOを加え、37℃、5%COの条件下で20分間インキュベーションした後、リン酸緩衝液で3回洗浄し、共焦点イメージングを行った。同様の条件で、さらに3μMまたは5μMの次亜塩素酸ナトリウムを加え、直ちに共焦点イメージングを行った。
【0036】
細胞の培養密度を2×10個細胞/mLとした。イメージング機器として、Olympus FV1000−IX81倒立顕微鏡、油浸レンズ100倍を用いた。488nmで蛍光を励起し、490〜550nm波長範囲の蛍光を収集した。
【0037】
図7a〜cは、それぞれBClOに次亜塩素酸ナトリウムを加えた前後の生細胞の染色写真である。細胞におけるBClOの蛍光強度変化を定量化するため、各図から10箇所の領域を選び、これらの相対蛍光強度の平均値を算出した。結果は図7dに示す。図からわかるように、次亜塩素酸ナトリウムを加える前に、プローブ化合物BClOは細胞において微弱な緑色蛍光を発光した。これは、MCF−7細胞には活性酸素が多少含まれるからである。一方、次亜塩素酸ナトリウムを加えた後、プローブ化合物BClOの蛍光強度が迅速で顕著に増加した。これは、プローブ化合物BClOが生細胞における次亜塩素酸の検出へ適用可能であることを示す。
【0038】
BClO特性測定実験8
プローブ化合物BClOによる、Raw264.7細胞における内因性次亜塩素酸の検出に関する研究
Raw264.7細胞を10%のFCS(invitrogen)を含有するDEME(invitrogen)で培養した。共焦点蛍光イメージング実験を行う前日、細胞を専用の細胞共焦点培養皿に播種した。翌日、その中に1μMのプローブ化合物BClOを加え、37℃、5%COの条件下で20分間インキュベーションした後、リン酸緩衝液で3回洗浄し、共焦点イメージングを行った。同様の条件で、Raw264.7細胞を1μg/mLのLPS(リポ多糖)と12時間インキュベーションし、さらに1μg/mLのPMA(ホルボールミリステート酢酸塩)と1時間インキュベーションした後、1μMのプローブ化合物BClOを加え、37℃、5%COの条件下で20分間インキュベーションした。その後、リン酸緩衝液で3回洗浄し、共焦点イメージングを行った。
【0039】
細胞の培養密度を2×10個細胞/mLとした。イメージング機器として、Olympus FV1000−IX81倒立顕微鏡、油浸レンズ100倍を用いた。488nmで蛍光を励起し、490〜550nm波長範囲の蛍光を収集した。
【0040】
図8a〜bは、それぞれLPSおよびPMAによりRaw264.7細胞に刺激を与える前後のBClOの染色写真である。細胞におけるBClOの蛍光強度変化を定量化するため、各図から4箇所の領域を選び、これらの相対蛍光強度の平均値を算出した。結果は図7cに示す。図からわかるように、次亜プローブ化合物BClOは、マクロファージ細胞において微弱な緑色蛍光を発光した。これは、Raw264.7細胞における活性酸素の含有量が低いからである。一方、細胞にLPSおよびPMAによる刺激を与えた後、プローブ化合物BClOの蛍光強度が顕著に増加した。これは、プローブ化合物BClOが生細胞における内因性次亜塩素酸の検出へ適用可能であることを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8