特許第6275297号(P6275297)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルパイン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6275297-音響装置 図000002
  • 特許6275297-音響装置 図000003
  • 特許6275297-音響装置 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6275297
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】音響装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 7/02 20060101AFI20180129BHJP
   H04R 9/02 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   H04R7/02 G
   H04R9/02 101A
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-15339(P2017-15339)
(22)【出願日】2017年1月31日
【審査請求日】2017年11月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000101732
【氏名又は名称】アルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(72)【発明者】
【氏名】田辺 景
【審査官】 岩田 淳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−077740(JP,A)
【文献】 特開2014−127846(JP,A)
【文献】 特開昭62−278899(JP,A)
【文献】 特開2005−223807(JP,A)
【文献】 特開2016−178561(JP,A)
【文献】 特開2007−043610(JP,A)
【文献】 実開昭60−145787(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 7/00− 9/10
9/18
31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に貫通する環状開口部を有するフレームと、
可撓性エッジ部材を介して前記環状開口部に取り付けられ、前記軸線方向に沿って振動可能に支持された振動板と、
前記振動板の中心部において前記振動板に接続され、前記軸線方向に沿う駆動力を前記振動板に付与する駆動手段と、を備えた音響装置であって、
前記振動板は、前記軸線方向から見たときの形状が、前記軸線周りの回転対称性を有する形状であって、
前記振動板は、形状異方性を有するフィラーが所定の1方向にその長軸を配向させた状態で樹脂内に分散する配向分散構造を有する繋ぎ目のない一枚のシート材から形成され、
前記振動板の機械特性は、前記軸線周りに2回回転対称性を有すること
を特徴とする音響装置。
【請求項2】
軸線方向に貫通する環状開口部を有するフレームと、
可撓性エッジ部材を介して前記環状開口部に取り付けられ、前記軸線方向に沿って振動可能に支持された振動板と、
前記振動板の中心部において前記振動板に接続され、前記軸線方向に沿う駆動力を前記振動板に付与する駆動手段と、を備えた音響装置であって、
前記振動板は、前記軸線方向から見たときの形状が、前記軸線周りの回転対称性を有する形状であって、
前記振動板は、形状異方性を有するフィラーが所定の1方向にその長軸を配向させた状態で樹脂内に分散する配向分散構造を有する繋ぎ目のない一枚のシート材から形成され、
前記振動板は、前記フィラーの配向方向が中心部から外周部に向かう方向と平行して前記振動板の中心部と外周部との間を折り曲げようとするときの曲げ剛性が高い高剛性領域と、前記フィラーの配向方向が中心部から外周部に向かう方向と直交して前記振動板の中心部と外周部との間を折り曲げようとするときの曲げ剛性が低い低剛性領域とを有し、前記高剛性領域から前記低剛性領域に向かって前記曲げ剛性が連続的に小さくなることを特徴とする音響装置。
【請求項3】
前記振動板は、前記軸線方向から見たときの形状が、前記軸線周りの連続的回転対称性を有する、請求項1または2に記載の音響装置。
【請求項4】
前記振動板は、熱可塑性樹脂内に前記フィラーが分散するシート材から形成された真空成形品または圧空成形品であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の音響装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響特性、特に高域の音響特性が改善された音響装置(スピーカ)に関する。
【背景技術】
【0002】
音響装置(スピーカ)は、原音を可能な限り忠実に再生できることが求められ、その要求に応えるべく、振動板などスピーカの構成要素には様々な改良が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、高縦弾性率を有する強化繊維と、これら繊維を結合するマトリクス材とによって構成された複合材シートを複数枚積層して一体的に結合する振動板であって、各複合材シートの強化繊維は、振動板の振動方向に対して放射方向に配列されている振動板が開示されている。かかる振動板では、高い縦弾性率を有する強化繊維が樹脂などのマトリクス材に分散しているため、密度が小さく、比縦弾性率(縦弾性率/密度)が大きくなって、広帯域の周波数特性を有する振動板が得られるとされている。
【0004】
特許文献1に開示されるような振動板を用いることにより、マグネシウムなどの軽金属を用いた振動板のような優れた特性を得ることができるが、このような比縦弾性率が大きい材料を用いると、振動板の形状の対称性が高い場合に、軸対称モードに基づく鋭い共振ピーク(他の周波数帯域よりも特徴的に音圧が高くなる帯域)を高域に有する周波数特性がみられることがある。対象が高い振動板の形状の具体例として、回転対称における回転角が小さい形状が挙げられ、その典型例は軸線周りの連続的回転対称性を有する形状である。かかる形状は、軸線方向から見たときに、中心軸が揃った複数の円形によってその形状を表現できる形状である。軸線周りの回転角が無限小となって、連続的な回転対称性を有する。
【0005】
このような高域での共振ピークの先鋭化を抑制する方法の一例として、軸線方向から見たときの形状の対称性を低下させる方法が挙げられ、具体例として、特許文献2に示されるオブリコーン型の振動板や特許文献3に示される異形断面形状を有する振動板が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭63−59638号公報
【特許文献2】特開平2005−254013号公報
【特許文献3】特開平2009−088727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、オブリコーン型の振動板および異形断面形状を有する振動板は、いずれも、複雑な形状となるため製造・組立が難しく、偏心していることや異形断面形状であることに起因して新たな共振モードが発生し、音圧の周波数依存性を測定すると、特徴的なピークやディップ(他の周波数帯域よりも特徴的に音圧が低くなる帯域)を有するスペクトルが得られる場合がある。
【0008】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、高域における共振ピークの先鋭化が適切に抑制され、音響特性に優れる音響装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために提供される本発明は、一態様において、軸線方向に貫通する環状開口部を有するフレームと、可撓性エッジ部材を介して前記環状開口部に取り付けられ、前記軸線方向に沿って振動可能に支持された振動板と、前記振動板の中心部において前記振動板に接続され、前記軸線方向に沿う駆動力を前記振動板に付与する駆動手段と、を備えた音響装置であって、前記振動板は、前記軸線方向から見たときの形状が、前記軸線周りの回転対称性を有し、前記振動板は、形状異方性を有するフィラーが所定の1方向にその長軸を配向させた状態で樹脂内に分散する配向分散構造を有する繋ぎ目のない一枚のシート材から形成され、前記振動板の機械特性は、前記フィラーの配向方向および前記軸線を含む面を対称面とする面対称性を有することを特徴とする音響装置(スピーカ)である。
【0010】
上記のように、オブリコーン型の振動板や異形断面形状を有する振動板は、振動板の形状を一般的な形状(具体例として、前述の軸線周りで連続的回転対称性を有する形状が挙げられる。)から部分的に変更して軸線方向から見たときの形状の対称性を低下させることにより、高周波において共振ピークが先鋭化することを抑制している。振動板の形状を部分的に変更することにより、振動板の形状は軸線周りで部分的なばらつきを有することになる。このような形状を有する振動板に駆動手段が外力を加えたときに、振動板の形状のばらつきに対応して、外力により生じる振動板の変形にもばらつきが生じることになる。その結果、振動板を駆動手段により振動させたときに、振動板に生じる振動の対称性が低下して、共振周波数が分散することが期待され、共振周波数の分散が適切に生じることにより、鋭い共振ピークの発生が抑制される。また、繋ぎ目のない一枚のシート材なので、特殊な細工を施すことなく音響特性を向上させることができる。
【0011】
本発明の一態様に係るスピーカの振動板は、振動板の形状の対称性を低下させることではなく、振動板を構成する部材の機械的強度に異方性を与えることによって、振動板の振動の対称性を低下させている。具体的には、振動板を構成するシート材が配向分散構造を有し、配向方向に沿った方向の機械特性と、配向方向に直交する方向の機械特性とが異なっているため、機械特性について、軸線周りで回転角が180度の2回回転対称を有する。したがって、振動板の形状の対称性を低下させることなく、共振周波数を効率的に分散させることができる。それゆえ、本発明の一態様に係るスピーカでは、鋭い共振ピークの発生が効率的に抑制される。
【0012】
あるいは、上記の音響装置(スピーカ)において、前記振動板は、前記フィラーの配向方向が中心部から外周部に向かう方向と平行して前記振動板の中心部と外周部との間を折り曲げようとするときの曲げ剛性が高い高剛性領域と、前記フィラーの配向方向が中心部から外周部に向かう方向と直交して前記振動板の中心部と外周部との間を折り曲げようとするときの曲げ剛性が低い低剛性領域とを有し、前記高剛性領域から前記低剛性領域に向かって前記曲げ剛性が連続的に小さくなるものであってもよい。
【0013】
上記の音響装置(スピーカ)において、前記振動板は、前記軸線方向から見たときの形状が、前記軸線周りの連続的回転対称性を有することが好ましい。前述のとおり、軸線周りの連続的回転対称性を有する形状とは、軸線方向から見たときに、中心軸が揃った複数の円形によってその形状を表現できる形状である。かかる形状を有する振動板は、一般的には、軸線周りで等方的な機械特性を有しやすいため、共振ピークの先鋭化が生じやすい。しかしながら、上記のとおり、本発明の一態様に係るスピーカの振動板は、スピーカを構成するシート材が配向分散構造を有するため、機械特性について、軸線周りで回転角が180度の2回回転対称を有する。したがって、振動板の形状が軸線周りの対称性が高い形状であっても、振動板を軸線方向に振動させたときに鋭い共振ピークが生じにくい。しかも、上記のような形状的な対称性が高い振動板は製造しやすいうえに、オブリコーン型の振動板や異形断面形状を有する振動板との対比で、音圧の周波数特性において、形状に起因するピークやディップが生じにくい。
【0015】
上記の音響装置(スピーカ)において、前記振動板は、熱可塑性樹脂内に前記フィラーが分散するシート材から形成された真空成形品または圧空成形品であることが望ましい。熱可塑性樹脂は取り扱いが容易であり、加熱することにより真空成形や圧空成形が可能となる。真空成形や圧空成形は射出成形等と比べて型費を抑えることができ、製造原価を抑えることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の音響装置は、振動板を構成するシート材として配向分散構造を有する部材を用いて機械特性に異方性を与えることにより、高域における共振ピークの先鋭化が適切に抑制され、音響特性に優れる。しかも、振動板の形状の対称性を一般的な振動板のように高めておくことにより、形状の対称性が低いことに起因する不具合(音圧の周波数特性にピークやディップが現れること)が生じにくい。したがって、振動板が比較的製造しやすい形状でありながら、音響特性に優れる音響装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)本発明の第一実施形態に係るスピーカの構造を概念的に示す断面図、および(b)このスピーカが備える振動板の構造を示すX1−X2方向からの部分平面図である。
図2】本実施形態に係るスピーカの振動板の構造を説明するための(a)断面斜視図、および(b)X1−X2方向からの平面図である。
図3】本発明の第一実施形態の変形例に係るスピーカの周波数特性を、他の構造のスピーカの周波数特性とともに示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、(a)本発明の第一実施形態に係るスピーカの構造を概念的に示す断面図、および(b)このスピーカが備える振動板の構造を示すX1−X2方向からの部分平面図である。この平面図では、Y1−Y2方向Y1側に現れる形状とY1−Y2方向Y2側に現れる形状とが共通するため、Y2側のみ示している。図3以降の部分平面図も同様である。図2は、本実施形態に係るスピーカの振動板の構造を説明するための(a)断面斜視図、および(b)X1−X2方向からの平面図である。断面斜視図の断面は、スピーカの振動板の断面積が最大になる面である。
【0019】
図1に示すように、本発明の第一実施形態例に係るスピーカ1は、略円錐台状の形状を有するフレーム11に各種部材が取り付けられている。フレーム11は外周縁側に円環状の環状開口部11aおよび環状開口部11aから延設されるスポーク状の支持部11cを有する。この支持部11cは、図面上は便宜的に切欠き孔11bを有する点線で描かれている。
【0020】
スピーカ1において音圧を発生させる振動板12は、外周縁側に可撓性エッジ部材12aを備える。この可撓性エッジ部材12aを介して前記環状開口部11aに取り付けられ、軸線方向(図1におけるX1−X2方向)に沿って振動可能に支持されている。
【0021】
振動板12は略円錐台形状を有し、軸線方向(X1−X2方向)から見たときの外形は円形である。振動板12は外周縁側に可撓性エッジ部材12aを備え、この可撓性エッジ部材12aを介してフレーム11の環状開口部11aに取り付けられている。図1に示すスピーカ1では、具体的には、可撓性エッジ部材11aはフレーム12の環状開口部12aに接着剤により接着されている。このようにフレーム11に支持されることにより、振動板12はX1−X2方向に沿って振動可能とされている。振動板12は、軸線方向(X1−X2方向)で見たときの中心部に開口(振動板開口)12bを有する。この振動板開口12bの内周面において、振動板12は、後述する駆動手段の一部であるボビン15と接続している。
【0022】
振動板開口12を覆うように、振動板12のX1−X2方向X2側に、円椀形状の形状を有するダストキャップ13が設けられている。ダストキャップ13は、振動板開口12からX1−X2方向X1側に異物が入り込んで、ボビン15の動作が不安定化することを抑制する部材である。
【0023】
フレーム11の円錐台形状を有する支持部11cにおける頂部(磁気回路取付部11d)には、磁気回路部14が取り付けられている。磁気回路部14は、柱状のセンターポール部14aを有し、センターポール部14aの中心軸は振動板の振動方向(軸線方向、(X1−X2方向))を向いている。センターポール部14aの後方(X1−X2方向X1側)の周囲にはボトムプレート部14bが一体的に設けられ、ボトムプレート部14b部の前側(X1−X2方向X2側)に環状のマグネット14cが取り付けられている。マグネット14cの前側(X1−X2方向X2側)には環状のトッププレート部14dが取り付けられている。このマグネット14cが設けられていることにより、センターポール部14aとトッププレート部14dとの間には、環状の磁気ギャップ14eが形成される。なお、ボトムプレート部14bとトッププレート部14dがヨーク部を形成している。
【0024】
振動板12の後側(X1−X2方向X1側)には筒状のボビン15が固定される。図1に示されるように、ボビン15は、振動板12の後側(X1−X2方向X1側)に位置する磁気回路部14の磁気ギャップ14eに挿入されている。ボビン15における磁気ギャップ14eに挿入されている部分の側面には、ボイスコイル16が巻かれている。磁気ギャップ14e内に位置するボイスコイル16に流れる電流に応じてボビン15が軸線方向(X1−X2方向)に往復動することによって、振動板12が振動して、振動板12から音圧が発生する。
【0025】
軸線方向(X1−X2方向)で振動板12と磁気回路部14との間にはダンパ17が位置する。ダンパ17は、外周側がフレーム11の支持部11cに支持され、内周側においてボビン15を支持している。上記のボビン15の往復動に伴い、振動板12のみならず、ダンパ17も軸線方向(X1−X2方向)に往復動する。ダンパ17は弾性部材から形成され、ボイスコイル16に電流が流れていない状態において、弾性回復力によってボビン15を中立位置に戻す機能を有する。
【0026】
このような構成を備えるスピーカ1では、上記のとおり、ボイスコイル16に電流を流して振動板12を振動させることにより、軸線方向X1(X1−X2方向)音圧を発生させることができる。ボイスコイル16に流された電流の大きさと発生する音圧の大きさとの比例係数は、いずれの周波数においても等しいことが理想的である。しかしながら、現実には、スピーカ1の共振周波数の影響などを受けて、音圧の周波数依存性は特定の音域にピーク(音圧が高くなる帯域)やディップ(音圧が低くなる帯域)を有する。特に、図1に示されるスピーカ1のように、振動板12が軸線(X1−X2方向の線)周りの連続的回転対称性を有する形状である場合、つまり、X1−X2方向から見たときに、振動板が、中心が揃った複数の円で表されうる形状である場合には、高域の共振ピークが先鋭化しやすい。
【0027】
図3は、本発明の第一実施形態の変形例に係るスピーカの周波数特性を、他の構造のスピーカの周波数特性とともに示すグラフである。図3において灰色の破線により示されるグラフは、図1に示される形状を有し、振動板の機械特性が軸線(X1−X2方向の線)周りで等方的である、すなわち、形状および機械特性について、軸線(X1−X2方向の線)周りで連続的回転対称性を有するスピーカ(以下、「参照用スピーカ」ともいう。)の周波数特性を示すグラフである。図3に示されるように、おおむね5kHzに音圧が局所的に高くなるピークが認められる。このピークは振動板の共振に基づくピークである。
【0028】
このような共振ピークの強度を低下させることを目的として、本発明の一態様に係るスピーカ1の振動板12は、図2に示されるように、形状異方性を有するフィラーFBが所定の1方向(具体的には、Y1−Y2方向に沿った方向である配向方向D1)にその長軸を配向させた状態で樹脂内に分散する配向分散構造を有するシート材からなる。
【0029】
このように、振動板12が配向分散構造を有するシート材から構成されることにより、フィラーFBを含有しない場合に比べて、それぞれの機械特性を高めることが実現される。その結果、振動板12の機械特性を高めることができる。
【0030】
形状異方性を有するフィラーFBとしては、カーボン繊維、カーボンナノチューブなどの炭素系材料、ガラスファイバーなどの酸化物系材料などが例示される。フィラーFBの長さは任意である。限定されない例として、0.01mm〜10mmの範囲が挙げられ、0.1mm〜数mmの範囲が取り扱い性に優れる観点などから好ましい場合がある。フィラーFBにおける最長軸長の最短軸長に対する比、アスペクト比は任意である。フィラーFBのアスペクト比は5以上であることが好ましい場合がある。シート材に含まれる樹脂の種類は限定されない。限定されない例として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;6,6−ナイロン等のポリアミド;ポリ塩化ビニル;ポリイミドなどが挙げられる。
【0031】
シート材の製造方法は、配向分散構造を適切に有することができる限り、任意である。シート材の製造方法の具体例として、押出成形、展開法、ブロー成形などが挙げられる。シート材はフィラーを含み、その分散配向性が高く、面内均一性が高いことが好ましい場合があり、その場合には、シート材は押出成形品であることが好ましい。シート材が押出成形品であることにより、振動板12の構成材料としてのシート材の均一性が高くなって、品質の均一性に優れるスピーカ1が得られやすくなる場合もある。
【0032】
このようなシート材を備えて振動板12は形成される。振動板12の製造方法は限定されない。典型的には、排気孔を備えた金型を用いてシート材を成形する真空成形または圧空成形である。真空成形等の際にシート材を加熱することにより、成形性が向上する場合もある。
【0033】
シート材は、上記のとおり配向分散構造を有するため、機械特性に異方性を有する。具体的には、配向方向D1に沿った方向の機械特性と、配向方向D1に直交する方向の機械特性とが異なる。一般的には、縦弾性率や固有振動数は配向方向D1に沿った方向の方が相対的に高くなり、引張伸度は配向方向D1に直交する方向の方が高くなる。
【0034】
このようにして、シート材を備えて形成された振動板12は、シート材が分散配向構造を有することから、フィラーが分散していないシート材から形成された振動板に比べると、機械特性、特に縦弾性率が向上する。また、シート材の機械特性の異方性に基づき、振動板12としての機械特性についても、シート材の配向方向D1に沿った方向と、この配向方向D2に直交する方向とで相違する。その結果、振動板12の機械特性は、軸線(X1−X2方向の線)周りで回転角が180度の2回回転対称を有する。したがって、本発明の一実施形態に係るシート1の振動板12は、その形状については、軸線(X1−X2方向の線)周りで連続的回転対称性を有するが、機械特性としては2回回転対称性を有する。回転対称において、2回回転対称は対称性が最も低い。それゆえ、振動板12を振動させたときに、音圧の周波数特性において高域の共振ピークが先鋭化しにくい。
【0035】
言い換えると、振動板12は、フィラーの配向方向が中心部から外周部に向かう方向と平行して振動板の中心部と外周部との間を折り曲げようとするときの曲げ剛性が高い高剛性領域と、フィラーの配向方向が中心部から外周部に向かう方向と直交して振動板の中心部と外周部との間を折り曲げようとするときの曲げ剛性が低い低剛性領域とを有し、高剛性領域から低剛性領域に向かってその曲げ剛性が連続的に小さくなっている。これにより、高域の共振ピークが連続的に分散された状態となっている。
【0036】
図3では、本発明の一態様に係るスピーカ1の周波数特性は実線で表されている。図3に示されるように、灰色の破線のグラフ(参照用スピーカの周波数特性)では明確にピークが認められる5kHz程度の帯域に強いピークは認められない。
【0037】
図3には、対比の目的で、基本的な形状は本発明の一態様に係るスピーカ1と共通するが、オブリコーン型の振動板を有するスピーカの周波数特性(黒色の破線)と、異形断面形状の振動板を有するスピーカの周波数特性(黒色の細い点線)とを示した。また、異形断面形状の振動板の外形は、特許文献2のようなS字型の稜線が設けられた形状であって、軸線(X1−X2方向の線)周りで8回回転対称となる形状であった。
【0038】
オブリコーン型の振動板を有するスピーカの場合には、ディップが5kHz程度に生じておる。これは、偏心した形状を有する振動板のローリングに起因すると考えられる。異形断面形状の振動板を有するスピーカの場合には、参照用スピーカの場合よりも若干強度は低いものの5kHzに強いピークが認められる。これは、振動板が軸線(X1−X2方向の線)周りで依然として対称性の高い形状を有しているためと考えられる。
【0039】
上記に本実施形態およびその適用例を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。例えば、前述の各実施形態またはその適用例に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、各実施形態の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含有される。
【0040】
例えば、振動板12は、上記の配向分散構造を有するシート材と外装シートとの積層構造体の成形品であってもよい。外装シートを有することにより振動板の意匠性を向上させることができるが、振動板の重量が増加することにより、音響特性の低下(例えば、高域での音圧の低下)がもたらされる場合もある。
【符号の説明】
【0041】
1,1A,2,2A スピーカ
11 フレーム
11a 環状部
11b 切欠き孔
11c 支持部
11d 磁気回路取付部
12 振動板
D1 振動板12の配向方向
FB フィラー
12a 可撓性エッジ部材
12b 振動板開口
13 ダストキャップ
14 磁気回路部
14a センターポール部
14b ボトムプレート部
14c マグネット
14d トッププレート部
14e 磁気ギャップ
15 ボイスコイル
16 ボビン
17 ダンパ
【要約】
【課題】高域における共振ピークの先鋭化が適切に抑制され、音響特性に優れる音響装置を提供する。
【解決手段】軸線方向に貫通する環状開口部を有するフレームと、可撓性エッジ部材を介して環状開口部に取り付けられ、軸線方向に沿って振動可能に支持された振動板と、振動板の中心部において振動板に接続され、軸線方向に沿う駆動力を振動板に付与する駆動手段と、を備えた音響装置であって、振動板は、軸線方向から見たときの形状が、軸線周りの回転対称性を有する形状であって、振動板は、形状異方性を有するフィラーが所定の1方向にその長軸を配向させた状態で樹脂内に分散する配向分散構造を有するシート材を備えてなることにより、振動板の機械特性は、軸線周りに2回回転対称性を有することを特徴とする音響装置。
【選択図】図1
図1
図2
図3