特許第6275307号(P6275307)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6275307
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】水系電極用塗工液およびその利用
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1391 20100101AFI20180129BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20180129BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20180129BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20180129BHJP
【FI】
   H01M4/1391
   H01M4/62 Z
   H01M4/131
   H01M4/485
【請求項の数】18
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2017-75979(P2017-75979)
(22)【出願日】2017年4月6日
【審査請求日】2017年4月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康平
(72)【発明者】
【氏名】山本 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓也
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−041821(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/159198(WO,A1)
【文献】 特開2011−192644(JP,A)
【文献】 特開2014−132591(JP,A)
【文献】 特開2010−177079(JP,A)
【文献】 特開2016−152169(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/133069(WO,A1)
【文献】 特開2014−232704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36− 4/13
H01M 4/13− 4/1399
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地層を有さない金属集電体に塗布するための電極用塗工液であり、電極活物質と、導電助剤と、バインダーと、水とを含み、電極活物質がアルカリ性を示し、バインダーが、酸性官能基を有する化合物(A)、及び、樹脂微粒子(B)または水溶性高分子(ただし(A)を除く)(D)のうち少なくとも1つを含み、酸性官能基を有する化合物(A)が、アクリル酸からなる構造単位を30mol%以上有する、重量平均分子量が500以上100万以下の水溶性高分子である電極用塗工液であって、
導電助剤が、BET比表面積が200〜1500m2/gのカーボンブラックまたはカーボンナノチューブであり、
電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100質量部としたとき、電極活物質が90質量部以上97.4質量部以下、導電助剤が1.5質量部以上6質量部以下、酸性官能基を有する化合物(A)が1質量部以上3質量部以下、樹脂微粒子(B)が0質量部以上3質量部以下、水溶性高分子(D)が0質量部以上2質量部以下(ただし樹脂微粒子(B)と水溶性高分子(D)は同時に0質量部にはならないであり、かつ、下記式(1)のKが0.02≦K≦0.24の範囲内であることを特徴とする、電極用塗工液。
式(1) [α−(0.2×β)]÷総比表面積=
ただし、αは電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100質量部としたときの(A)の質量部、βは電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100質量部としたときの(B)の質量部である。また、総比表面積は、導電助剤のBET比表面積をSC2/g、電極活物質のBET比表面積をSA2/gとし、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100質量部としたときの導電助剤の量をGC質量部、電極活物質の量をGA質量部としたとき、下記式(2)に基づいて算出される値である。
式(2) ((SC×GC)+(SA×GA×0.2))×0.01=(総比表面積)
【請求項2】
電極活物質が、Li(NixM1yM2z)O2(x=0.3〜0.9、y=0.01〜0.69、z=0.01〜0.69、x+y+z=1。M1、M2はそれぞれ、Al、Ti、Mn、FeおよびCoからなる群より選ばれる元素であって、M1とM2は異なる元素)、チタン酸リチウム、コバルト酸リチウムおよびマンガン酸リチウムからなる群より選ばれた1種以上の電極活物質であり、かつ、精製水40質量部と活物質60質量部のみからなる混合液の、液温25℃におけるpHが10以上となる電極活物質であることを特徴とする、請求項1に記載の電極用塗工液。
【請求項3】
導電助剤であるカーボンブラックが、中空カーボンブラック、または、BET比表面積が500〜1500m2/gの中空カーボンブラックとBET比表面積が30〜100m2/gのカーボンブラックを0.2:0.8〜0.8:0.2の比率で混合したカーボンブラックであり、
下記一般式(A)で算出される導電助剤のBET比表面積が、200〜1500m2/gであることを特徴とする、請求項1または2記載の電極用塗工液。
式(A) (混合導電助剤のBET比表面積)=Σ(Si・Gi
ただし、ある導電助剤iのBET比表面積をSi2/g、ある導電助剤iが全導電助剤中に占める比率をGiとする。
【請求項4】
導電助剤がカーボンブラックであることを特徴とする、請求項1ないし3いずれか記載の電極用塗工液。
【請求項5】
酸性官能基を有する化合物(A)が、ポリアクリル酸であることを特徴とする、請求項1ないし4いずれか記載の電極用塗工液。
【請求項6】
樹脂微粒子の平均粒子径が0.1〜1μmであることを特徴とする、請求項1ないし5いずれか記載の電極用塗工液。
【請求項7】
樹脂微粒子が、架橋型樹脂微粒子であって、非フッ素系のアクリル系樹脂微粒子であることを特徴とする、請求項1ないし6いずれか記載の電極用塗工液。
【請求項8】
電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100質量部としたとき、電極活物質が92質量部以上97.4質量部以下、導電助剤が1.5質量部以上5質量部以下、樹脂微粒子(B)が0.1質量部以上3質量部以下、であることを特徴とする、請求項1ないし7いずれか記載の電極用塗工液。
【請求項9】
電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100質量部としたとき、酸性官能基を有する化合物(A)が1質量部以上2.5質量部以下、かつ、酸性官能基を有する化合物の量(α)が樹脂微粒子の量(β)以上であることを特徴とする、請求項1ないし8いずれか記載の電極用塗工液。
【請求項10】
電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100質量部としたとき、導電助剤が1.5質量部以上4質量部以下のときに、(導電助剤の量/バインダーの量)の比が0.65以上4以下(ただし、バインダーの量は、酸性官能基を有する化合物(A)、樹脂微粒子(B)、水溶性高分子(D)の量の和である)であることを特徴とする、請求項1ないし9いずれか記載の電極用塗工液。
【請求項11】
式(1)のKが0.02≦K≦0.18の範囲内であることを特徴とする、請求項1ないし10いずれか記載の電極用塗工液。
【請求項12】
請求項1ないし11いずれか記載の電極用塗工液を塗布してなる電池電極合材層。
【請求項13】
電池電極合材層の質量が、金属集電体1cm2当たり15〜30mgであることを特徴とする、請求項12記載の電池電極合材層。
【請求項14】
電池電極合材層の乾燥後膜厚が、50μm以上500μm以下であることを特徴とする、請求項12または13記載の電池電極合材層。
【請求項15】
集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備するリチウムイオン二次電池であって、正極および負極の少なくとも一方が、請求項12ないし14いずれか記載の電池電極合材層を具備してなるリチウムイオン二次電池。
【請求項16】
(I)導電助剤を溶媒中に分散処理して、平均分散粒子径が100〜800nmの導電助剤分散液を製造する第一の工程、
(II)電極活物質を上記導電助剤分散液中に添加して分散処理する第二の工程、
を経て製造することを特徴とする、請求項1ないし11いずれか記載の電極用塗工液の製造方法。
【請求項17】
(I)導電助剤を溶媒中に分散処理して、平均分散粒子径が100〜800nmの導電助剤分散液を製造する第一の工程、
(II)電極活物質を溶媒中に添加して分散処理して、電極活物質分散液を製造する第二の工程、
(III)(I)と(II)の工程で得た各分散液を混合する第三の工程、
を経て製造することを特徴とする、請求項1ないし11いずれか記載の電極用塗工液の製造方法。
【請求項18】
導電助剤と電極活物質を溶媒中で同時に分散処理する工程を経て電極用塗工液を製造する方法であって、導電助剤を単独で溶媒中に分散処理して導電助剤の平均分散粒子径が100〜800nmとなるときと同等の分散処理工程を経て製造することを特徴とする、請求項1ないし11いずれか記載の電極用塗工液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工性、製膜性に優れた電極用塗工液に関する。また、該電極用塗工液を使用した電池電極合材層およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非水電解液二次電池はデジタルカメラや携帯電話のような小型携帯型電子機器や、自動車等に広く用いられるようになってきた。これらの電子機器は、機器の容積を最小限にし、かつ重量を軽くすることが常に求められており、搭載される電池においても、小型、軽量かつ大容量、安全で長寿命の電池の実現が求められている。
【0003】
そのような要求に応えるため、リチウムイオン二次電池などの二次電池の開発が活発に行われている。例えば、Liと、Niと、主としてAl、Ti、Mn、FeおよびCoからなる群から選ばれる1つ以上の金属元素とからなる金属酸化物材料等を正極活物質として使用することで、小型かつ大容量な電池を実現できることが、マンガン酸リチウムやチタン酸リチウム等を電極活物質として使用することで、安全で長寿命な電池を実現できることが、それぞれ知られている。
【0004】
また、近年、特に環境や生産コストへの配慮から、電極用塗工液に使用する溶媒を、N−メチル−2−ピロリドンから水へと切り替えることが強く求められている。N−メチル−2−ピロリドンは、一般的な溶剤と比較して単に高価なだけでなく、沸点が200℃以上と非常に高いために溶剤を乾燥する際に多くのエネルギーを必要とし、さらには生体に対して特に有害である懸念が各国で指摘され始めている。
【0005】
これらの二次電池分野において、生産プロセスを効率化して短縮するためには、導電助剤や電極活物質を溶媒中に、いかに高濃度かつ均一に分散して、集電体基材に容易に塗工可能とするかが重要である。
【0006】
一般に、Liと、Niと、主としてAl、Ti、Mn、FeおよびCoからなる群から選ばれる1つ以上の金属元素からなる金属酸化物材料や、マンガン酸リチウム、チタン酸リチウム等を電極活物質として使用する場合、集電体としては安価なアルミニウム箔が使用される。しかし、これらの電極活物質を水溶媒中で使用した場合、塗工液のpHが10以上となるためにアルミニウムの腐食が起こり、集電体基材の腐食劣化や、発生した気泡によって、良好な塗膜を得ることができないという問題がある。より大容量な電極活物質ほどアルカリ性が強い傾向にあり、アルミニウム箔等の集電体基材の腐食の解決が強く求められている。
【0007】
電極活物質のアルカリ性による、集電体基材の腐食を抑制する方法として、集電体基材上に下地層を形成した後で電極用塗工液を塗工する方法が知られている。この方法は腐食を抑制する方法として特に有効だが、一般に水系塗工液に対する下地層用塗工液の作製には有機溶剤を使用し、また、下地層を作製する工程を要することから、水系塗工液を基材に直接塗工する場合よりも環境や生産コストへの影響が大きい。
【0008】
また、電極活物質のアルカリ性による、集電体基材の腐食を抑制するその他の方法として、炭酸ガス等の揮発性酸性ガスにより中和する方法や、不揮発性の酸性化合物により中和する方法が知られている。アルカリ性の中和に要する処理時間や設備の観点からは、不揮発性の酸性化合物による中和がより容易である。
【0009】
しかしその一方で、一般に、高容量な電池を作製するためには、体積及び重量中に占める電極活物質の比率をできるだけ高く設定する必要があり、導電助剤やバインダー成分の比率は、導電性や塗膜の強度、密着性を満たす範囲でできるだけ低減することが強く求められる。そのため、高容量だがアルカリ性の強い電極活物質を使用したときに、如何に導電助剤やバインダー成分の比率を低減して導電性や製膜性を満たすかが特に重要である。
【0010】
例えば特許文献1には、水溶媒中でBET比表面積が2〜30m2/gのリチウム複合金属酸化物を電極活物質として使用し、酸性官能基を有する水溶性高分子として特にポリアクリル酸を用いて、アルカリに対する中和剤として作用させた電極合材が開示されている。しかし、電極活物質のアルカリ性が強くなるほど中和に要するポリアクリル酸量が増大し、ポリアクリル酸に由来した塗膜の硬さのために柔軟性が悪くなり、電極合材層塗膜が板状にヒビ割れる問題があることを発明者は見出した。
【0011】
ポリアクリル酸等のバインダー材料に由来した塗膜の硬さを緩和するための方法としては、特許文献2や特許文献3に記載があるように、柔軟性が良好なエチレンーアクリル酸共重合体、エチレンーメタクリル酸共重合体や、アクリロニトリル・ブタジエンゴム等で緩和する方法が一般的である。しかし、ポリアクリル酸等の硬いバインダー材料の量が増えるほど、必要となる前記共重合体や前記ゴム等の必要量が増大し、その結果として電極合材層中に占める電極活物質や導電助剤の比率が減少するため、電池の高容量化を実現することは難しい。
【0012】
また、特許文献4には、水溶媒中でニッケル原子を含む正極活物質を使用し、不飽和カルボン酸成分を0.1〜10重量%含有する酸変性ポリオレフィン樹脂粒子と、ポリアクリル酸を併せて使用した正極用水系ペーストが開示されている。アルカリ性を中和し、製膜することはできているが、その一方で、特許文献2や特許文献3の場合と同様に必要となる樹脂粒子の量が多くなり、高容量となる組成下での導電助剤比率が非常に限定されるため、電池の放電電圧や高レートでの特性が低くなり、使用条件が大幅に限定されることを発明者は見出した。
【0013】
電極用塗工液から形成された電極合材層は、柔軟性が悪くてヒビ割れが起こると、電極の均一な導電ネットワークが崩壊してしまうため、電極の導電性低下を引き起こして電池寿命劣化に繋がってしまう。
【0014】
また、水系電極用塗工液から形成された電極合材層は、形成された後、基材たる金属箔ごと所望の大きさ・形状の切片に切り分けられたり、打ち抜かれたりする。そこで、切り分け加工や打ち抜き加工によって、傷つかない堅さと割れたり剥がれたりしない柔軟性と密着性が、電極合材層には要求される。
【0015】
さらに、電極の密着性が悪いと、充放電時のリチウムイオンのインターカレーション・デインターカレーションに伴う活物質の膨張・収縮による電極構造の崩壊や集電体からの電極剥離を引き起こしてしまい、電池寿命劣化に繋がってしまう。
【0016】
特許文献1〜4に開示された方法では、ポリアクリル酸等の酸性材料を使用してアルカリ性を中和することや、柔軟な高分子バインダー等を使用して塗膜の柔軟性をそれぞれ解決することは可能であった。しかし、アルカリ性の強い電極活物質を使用して、かつ導電性や製膜性、塗膜の安定性が良好で、さらに高容量化可能な電極合材層を設計することはできておらず、これらを両立する手段については何ら示唆されていないのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2011−192644号公報
【特許文献2】国際公開第2006/075446号
【特許文献3】特開H04−370661号公報
【特許文献4】特開2014−063676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
以上の状況を鑑み、本発明では、従来公知の電極活物質とポリアクリル酸を用いて得た水系電極用塗工液と比較して、塗工性、製膜性や強度に優れた電極合材塗膜を得ることができる水系電極用塗工液を提供することが課題である。また、導電性が良好で、かつ長期使用環境下においても安定な電池電極合材層を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、電極活物質、導電助剤、バインダー成分の物理的、化学的性質に着目し、それらの量的関係についてまで詳細に検討した結果、バインダーとして酸性官能基を有する化合物(A)、及び、樹脂微粒子(B)または水溶性高分子(D)のうち少なくとも1つを含み、式(1)のKが特定の範囲内の値を取るとき、アルカリ性の強い電極活物質を使用した場合でも、集電体の腐食を防止しつつ、塗工性、製膜性に優れた水系電極用塗工液を得ることができることを見出した。さらに、塗膜の強度や導電性、長期使用環境下での安定性に優れた電池電極合材層を得ることができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0020】
即ち、本発明の実施態様は、下地層を有さない金属集電体に塗布するための電極用塗工液であり、電極活物質と、導電助剤と、バインダーと、水とを含み、電極活物質がアルカリ性を示し、バインダーが、酸性官能基を有する化合物(A)、及び、樹脂微粒子(B)または水溶性高分子(ただし(A)を除く)(D)のうち少なくとも1つを含み、酸性官能基を有する化合物(A)が、アクリル酸からなる構造単位を30mol%以上有する、重量平均分子量が500以上100万以下の水溶性高分子である電極用塗工液であって、導電助剤が、BET比表面積が200〜1500m2/gのカーボンブラックまたはカーボンナノチューブであり、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100質量部としたとき、電極活物質が90質量部以上97.4質量部以下、導電助剤が1.5質量部以上6質量部以下、酸性官能基を有する化合物(A)が1質量部以上3質量部以下、樹脂微粒子(B)が0質量部以上3質量部以下、水溶性高分子(D)が0質量部以上2質量部以下(ただし樹脂微粒子(B)と水溶性高分子(D)は同時に0質量部にはならない)であり、かつ、下記式(1)のKが 0.02≦K≦0.24の範囲内であることを特徴とする、電極用塗工液に関する。式(1) [α−(0.2×β)]÷総比表面積=
ただし、αは電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100質量部としたときの(A)の質量部、βは電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100質量部としたときの(B)の質量部である。また、総比表面積は、導電助剤のBET比表面積をSC2/g、電極活物質のBET比表面積をSA2/gとし、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100質量部としたときの導電助剤の量をGC質量部、電極活物質の量をGA質量部としたとき、下記式(2)に基づいて算出される値である。
式(2) ((SC×GC)+(SA×GA×0.2))×0.01=(総比表面積)
【0021】
また、本発明の実施態様は、電極活物質が、Li(NixM1yM2z)O2(x=0.3〜0.9、y=0.01〜0.69、z=0.01〜0.69、x+y+z=1。M1、M2は、それぞれ、Al、Ti、Mn、FeおよびCoからなる群より選ばれる元素であって、M1とM2は異なる元素)、チタン酸リチウム、コバルト酸リチウムおよびマンガン酸リチウムからなる群より選ばれた1種以上の電極活物質であり、かつ、精製水40質量部と活物質60質量部のみからなる混合液の、液温25℃におけるpHが10以上となる電極活物質であることを特徴とする、上記電極用塗工液に関する。
【0022】
また、本発明の実施態様は、導電助剤であるカーボンブラックが、中空カーボンブラック、または、BET比表面積が500〜1500m2/gの中空カーボンブラックとBET比表面積が30〜100m2/gのカーボンブラックを0.2:0.8〜0.8:0.2の比率で混合したカーボンブラックであり、下記一般式(A)で算出される導電助剤のBET比表面積が、200〜1500m2/gであることを特徴とする、上記電極用塗工液に関する。
式(A) (混合導電助剤のBET比表面積)=Σ(Si・Gi
ただし、ある導電助剤iのBET比表面積をSi2/g、ある導電助剤iが全導電助剤中に占める比率をGiとする。

【0023】
また、本発明の実施態様は、導電助剤がカーボンブラックであることを特徴とする、上記電極用塗工液に関する。
【0024】
また、本発明の実施態様は、(I)導電助剤を溶媒中に分散処理して、平均分散粒子径が100〜800nmの導電助剤分散液を製造する第一の工程、(II)電極活物質を上記導電助剤分散液中に添加して分散処理する第二の工程、を経て製造することを特徴とする、上記電極用塗工液の製造方法に関する。
【0025】
また、本発明の実施態様は、酸性官能基を有する化合物(A)が、ポリアクリル酸であることを特徴とする、上記電極用塗工液に関する。
【0026】
また、本発明の実施態様は、樹脂微粒子の平均粒子径が0.1〜1μmであることを特徴とする、上記電極用塗工液に関する。
【0027】
また、本発明の実施態様は、樹脂微粒子が、官能基含有架橋型樹脂微粒子であって、非フッ素系のアクリル系樹脂微粒子であることを特徴とする、上記電極用塗工液に関する。
【0028】
また、本発明の実施態様は、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100質量部としたとき、電極活物質が92質量部以上97.4質量部以下、導電助剤が1.5質量部以上5質量部以下、樹脂微粒子(B)が0.1質量部以上3質量部以下、であることを特徴とする、上記電極用塗工液に関する。
【0029】
また、本発明の実施態様は、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100質量部としたとき、酸性官能基を有する化合物(A)が1質量部以上2.5質量部以下、かつ、酸性官能基を有する化合物の量(α)が樹脂微粒子の量(β)以上であることを特徴とする、上記電極用塗工液に関する。
【0030】
また、本発明の実施態様は、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100質量部としたとき、酸性官能基を有する化合物(A)が1質量部以上2.5質量部以下、かつ、酸性官能基を有する化合物の量(α)が樹脂微粒子の量(β)以上であることを特徴とする、上記電極用塗工液に関する。
【0031】
また、本発明の実施態様は、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100質量部としたとき、導電助剤が1.5質量部以上4質量部以下のときに、(導電助剤の量/バインダーの量)の比が0.65以上4以下(ただし、バインダーの量は、酸性官能基を有する化合物(A)、樹脂微粒子(B)、水溶性高分子(D)の量の和である)であることを特徴とする、上記電極用塗工液に関する。
【0032】
また、本発明の実施態様は、式(1)のKが0.02≦K≦0.18の範囲内であることを特徴とする、上記電極用塗工液に関する。
【0033】
また、本発明の実施態様は、上記電極用塗工液を塗布してなる電池電極合材層に関する。
【0034】
また、本発明の実施態様は、電池電極合材層の質量が、金属集電体1cm2当たり15〜30mgであることを特徴とする、上記電池電極合材層に関する。
【0035】
また、本発明の実施態様は、電池電極合材層の乾燥後膜厚が、50μm以上500μm以下であることを特徴とする、上記電池電極合材層に関する。
【0036】
また、本発明の実施態様は、集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備するリチウムイオン二次電池であって、正極および負極の少なくとも一方が、上記電池電極合材層を具備してなるリチウムイオン二次電池に関する。
【0037】
また、本発明の実施態様は、(I)導電助剤を溶媒中に分散処理して、平均分散粒子径が100〜800nmの導電助剤分散液を製造する第一の工程、
(II)電極活物質を上記導電助剤分散液中に添加して分散処理する第二の工程、
を経て製造することを特徴とする、上記電極用塗工液の製造方法に関する。
【0038】
また、本発明の実施態様は、(I)導電助剤を溶媒中に分散処理して、平均分散粒子径が100〜800nmの導電助剤分散液を製造する第一の工程、
(II)電極活物質を溶媒中に添加して分散処理して、電極活物質分散液を製造する第二の工程、
(III)(I)と(II)の工程で得た各分散液を混合する第三の工程、
を経て製造することを特徴とする、上記電極用塗工液の製造方法に関する。
【0039】
また、本発明の実施態様は、導電助剤と電極活物質を溶媒中で同時に分散処理する工程を経て電極用塗工液を製造する方法であって、導電助剤を単独で溶媒中に分散処理して導電助剤の平均分散粒子径が100〜800nmとなるときと同等の分散処理工程を経て製造することを特徴とする、上記電極用塗工液の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0040】
本発明により、アルカリ性による集電体基材の腐食を抑制しつつ、顕著に良好な製膜性を有し、塗工性に優れた電極用塗工液を得ることができ、その結果、乾燥後の外観や強度、均質性が良好な塗膜を作製することが可能となる。
【0041】
また、該電極用塗工液を用いて二次電池用電極合材層を調製した場合、基材に対する密着性や柔軟性に優れ、均質で良好な塗膜を得ることができ、その結果、従来より厳しい塗工条件下でも良好で安定した塗膜を得、湾曲や巻き取りに対して安定な塗膜を得ることが可能となる。
【0042】
また、該電極用塗工液を用いて調製した二次電池用電極合材層を電極として使用した場合、電極活物質の高容量な性質を維持したままで、導電性に優れ、かつ電極の膨潤・収縮や長期使用環境下での安定性に優れた良好な電極を得ることができ、その結果、従来より厳しい充放電条件下でも良好に使用することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の詳細を説明する。尚、本明細書では、「正極活物質または負極活物質」を「電極活物質」、「金属集電体」を「集電体」と略記することがある。
【0044】
本発明では、電極用塗工液中に含まれる電極活物質および導電助剤の比表面積と、バインダー成分の量比とが、特定の数値範囲を満たすことが特に重要である。
【0045】
一般に、電極活物質のアルカリ性を中和するために酸性のバインダー材料等が、電極用塗工液の製膜性のために樹脂微粒子等が使用できることが知られているが、中和と製膜性を両立しようとしたときに、電極合材層中に占める電極活物質または導電助剤の構成比率が低下するため、電池としての容量や導電性が低下する、トレードオフの関係の問題がある。
【0046】
この問題を、下記式(1)を満たす材料構成とすることによって解決できることを見出した。
【0047】
<式(1)>
式(1) [α−(0.2×β)]÷総比表面積=K
(ただし、αは電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100質量部としたときの(A)の質量部、βは電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100質量部としたときの(B)の質量部である。また、総比表面積は、導電助剤のBET比表面積をSC、電極活物質のBET比表面積をSAとし、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100質量部としたときの導電助剤の量をGC質量部、電極活物質の量をGA質量部としたとき、下記式(2)に基づいて算出される値である。
式(2) ((SC×GC)+(SA×GA×0.2))×0.01=(総比表面積)
【0048】
一般に、比表面積が大きな微粒子を使用すると微粒子間の結着に要するバインダー量が増大するために塗膜が脆弱になり、ヒビ割れや剥落を起こさない良好な塗膜を得るためには必要となるバインダー成分の量が大幅に増大すると考えられている。しかし本発明では、比表面積が大きな電極活物質微粒子および導電助剤微粒子、特に導電助剤微粒子を使用することで、少ないバインダー成分比率で良好な塗膜を得ることができる。
【0049】
本発明の作用機構は明確ではないが、酸性官能基を有する化合物(A)を用いた塗膜の硬さは、その分子間の強固な相互作用によって発現しており、比表面積が大きな電極活物質微粒子および導電助剤微粒子、特に導電助剤微粒子が、酸性官能基を有する化合物(A)を吸着して酸性官能基を有する化合物(A)同士の分子間相互作用を阻害することによって、塗膜の硬さが緩和されたものと推察している。
酸性官能基を有する化合物(A)を使用した塗膜は、巨視的には非常に硬く、容易にヒビ割れる性質を有するが、その一方で、微視的に見たときの微粒子間の結着状態は良好であるため、比表面積の大きな微粒子で酸性官能基を有する化合物(A)同士の分子間相互作用を適度に阻害することによって、柔軟でヒビ割れのない塗膜を得られるだけでなく、微粒子間の結着状態も良好な塗膜を得ることができると推察している。
【0050】
また、酸性官能基を有する化合物(A)を用いてヒビ割れた塗膜は、破片の形状を保ったままで集電体から容易に界面剥離して剥落するが、これは、塗膜内での結着力の方が塗膜と金属集電体との間の密着性よりも大幅に強いために金属集電体から容易に剥離することが選択された結果であり、比表面積が大きな微粒子で塗膜の硬さを緩和して柔軟でヒビ割れない塗膜とすることによって、酸性官能基を有する化合物(A)と金属集電体との間の密着性も同時に良好になったものと推察している。
【0051】
本発明を用いることによって、酸性官能基を有する化合物(A)を用い、かつ、バインダー成分比率を低く、電極活物質や導電助剤を高比率に設定した場合においても、柔軟性に優れ、かつ、集電体との密着性や塗膜内の結着性に優れた塗膜を得ることができる。また、この塗膜を用いることによって、長期的な電池使用環境下における、電解液による膨潤や、電極活物質の膨潤、収縮に対して安定した電池電極合材層を得ることができる。
【0052】
また、本発明では、電極活物質微粒子と導電助剤微粒子、特に導電助剤微粒子の分散処理状態が重要である。本願で用いる比表面積の値は窒素吸着によりBET法で測定された比表面積だが、これらの微粒子が均質に解されずに数百μmオーダーの凝集粒子が多量に残存する場合、上記比表面積は、酸性官能基を有する化合物(A)との吸着、相互作用に寄与する比表面積とは異なる場合があり、本願の良好な効果を得ることができない場合がある。
【0053】
また、式(1)の総比表面積における、電極活物質と導電助剤がそれぞれ有するBET比表面積の重みづけは異なる。この理由として、電極活物質微粒子と導電助剤微粒子の一次粒子径は一般に大きく異なること、または、微粒子の表面状態が大きく異なるために、酸性官能基を有する化合物(A)との相互作用の強さに大きな差異が生じたことが考えられる。
【0054】
本発明において、式(1)のKは0.02以上であり、0.025以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましい。また、0.24以下であり、0.18以下であることが好ましく、0.15以下であることがより好ましい。Kがこの数値範囲内にあるとき、集電体の腐食を抑制して塗工することができるだけでなく、柔軟性に優れたヒビ割れのない塗膜を得ることができる。また、集電体との密着性に優れ、かつ、長期の電池使用環境下における安定性が特に良好な電池電極合材層を得ることができる。
【0055】
<導電助剤>
本発明では、導電助剤としてカーボンブラックが専ら使用されるが、これに限定されない。本発明に用いる導電助剤としては、市販の中空カーボンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなど各種のカーボンブラックを用いることができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、黒鉛化処理されたカーボンブラック、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーなども使用できる。
【0056】
電極用塗工液の製造に用いる導電助剤の平均一次粒子径としては、一般的な塗料に用いられる導電助剤の平均一次粒子径範囲と同様に0.01〜1μmが好ましく、特に、0.01〜0.2μmが好ましく、0.01〜0.1μmがさらに好ましい。また、一次粒子の形状は球状であることが特に好ましい。ここでいう平均一次粒子径とは、電子顕微鏡で測定された算術平均粒子径を示し、この物性値は一般に導電助剤の物理的特性を表すのに用いられている。
【0057】
導電助剤の物理的特性を表すその他の物性値としては、BET比表面積やpHが知られている。BET比表面積は、窒素吸着によりBET法で測定された比表面積(以下、単に比表面積と記載)を指し、この比表面積はカーボンブラックの表面積に対応しており、一般に、比表面積が大きいほど均質かつ安定な塗工液とすることが難しくなる。pHはカーボンブラック表面の官能基や含有不純物の影響を受けて変化する。
【0058】
本発明で用いる導電助剤は、BET比表面積が20〜1500m2/gのものが好ましく、200〜1500m2/gのものがより好ましく、400〜1500m2/gのものがさらに好ましく、600〜1000m2/gのものが特に好ましい。上記BET比表面積の導電助剤であれば、各種の市販品、合成品を単独で、もしくは2種以上の導電助剤を併せて使用することができる。
【0059】
また、2種以上の導電助剤を混合して調製された導電助剤のBET比表面積は、ある導電助剤iのBET比表面積をSi、ある導電助剤iが全導電助剤中に占める比率をGiとしたときの、各導電助剤種のBET比表面積とその比率の積の総和として、下記一般式(A)に基づいて算出することができる。
式(A) (混合導電助剤のBET比表面積)=Σ(Si・Gi
例えば、BET比表面積800m2/gのカーボンブラックと、1200m2/gのカーボンブラックとを、質量比1対1で混合して調製したカーボンブラックの比表面積は、1000m2/gである。
【0060】
例えば2種の導電助剤を使用する場合、1種目の導電助剤のBET比表面積は30〜100m2/gであり、2種目の導電助剤のBET比表面積は500〜1500m2/gであることが好ましい。1種目の導電助剤と2種目の導電助剤の比率は、0.1:0.9〜0.9:0.1であることが好ましく、0.2:0.8〜0.8:0.2であることがより好ましく、0.2:0.8〜0.4:0.6であることが特に好ましい。
【0061】
電極用塗工液中の導電助剤の平均分散粒子径は、電極用塗工液中での粒子の安定性や、塗膜の均質性、導電性の観点から、0.05〜5μmであることが好ましく、0.05〜1μmであることがより好ましく、100〜800nmであることがさらに好ましく、100〜600nmであることがさらに好ましく、200〜500nmであることが特に好ましい。なお、本発明における導電助剤の平均分散粒子径とは、動的光散乱法により測定されたD50値である。
【0062】
また、本発明で用いる導電助剤は、前記比表面積のものであれば特に限定されるものではないが、アセチレンブラック、ファーネスブラック、中空カーボンブラックや黒鉛化処理されたカーボンブラックなど、高い導電性を有し、かつ工業的に生産されるカーボンブラックが特に好適に用いられる。これらのカーボンブラックの中でも、質量当たりの導電性が優れ、かつ、BET比表面積が大きい中空カーボンブラックが特に好適に用いられる。中空カーボンブラックとしては、例えば、ケッチェンブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)等が挙げられ、種々のグレードを市場より入手することが出来る。
【0063】
本発明において、導電助剤の添加量は、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量100質量部に対して、1.5質量部以上6質量部以下であり、1.5質量部以上5質量部以下が好ましく、2質量部以上5質量部以下がより好ましく、2.5質量部以上5質量部以下がさらに好ましい。
【0064】
本発明において、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量100質量部に対する導電助剤の量が1.5質量部以上4質量部以下のとき、導電助剤量とバインダー成分量(酸性官能基を有する化合物、水溶性高分子、樹脂微粒子の量の和)の比率は(導電助剤成分量/バインダー成分量)0.65以上4以下であることが好ましく、0.8以上3以下であることがより好ましく、0.8以上2以下であることが特に好ましい。
特に導電助剤の構成比率が低いとき、導電助剤量とバインダー成分量の比率が0.65未満の場合、導電助剤の導電パスがバインダーによって分断されて高抵抗になることがあり、比率が4を超過する場合、導電助剤粒子間の結着力不足に起因して塗膜が剥落する場合がある。
【0065】
<バインダー>
本発明で用いるバインダーとは、酸性官能基を有する化合物(A)、及び、樹脂微粒子(B)または水溶性高分子(ただし(A)を除く)(D)のうち少なくとも1つを成分として含むものである。以下、それぞれのバインダー成分について記述する。
【0066】
<酸性官能基を有する化合物(A)>
本発明では、酸性官能基を有する化合物(A)としてアクリル酸からなる構造単位を30mol%以上有する、 重量平均分子量が500以上100万以下の水溶性高分子を用いる。
【0067】
本発明で使用される酸性官能基を有する化合物(A)とは、25℃の精製水である媒体99g中に酸性官能基を有する化合物(A)1gを混合して撹拌し、25℃で24時間放置した後、分離・析出せずに水媒体中で完全に溶解可能なものである。
【0068】
本発明で使用する酸性官能基を有する化合物(A)は、ポリアクリル酸が専ら使用されるが、これに限定されない。上記した範囲内の化合物であれば、ポリアクリル酸やその共重合体の各種の市販品、合成品を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。
【0069】
酸性官能基を有する化合物(A)は、アクリル酸からなる構造単位を30mol%以上有するものであり、50mol%以上有するものが好ましく、75mol%以上有するものがより好ましく、ポリアクリル酸であることがさらに好ましい。なお、例えばアクリル酸からなる構造単位中に含まれるカルボキシ基がアルカリ金属やアミン類等と塩を形成している場合は、酸性を有さないため、アクリル酸からなる構造単位には含まない。
【0070】
酸性官能基を有する化合物(A)は、重量平均分子量が500〜1000000のものであり、1000〜500000のものが好ましく、2000〜150000のものがより好ましく、3000〜50000のものがさらに好ましい。上記重量平均分子量のものであれば、各種の市販品、合成品を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。
重量平均分子量が500未満のものはカーボンブラックに対する分散剤として有効ではない場合があり、また、1000000超過のものは凝集剤として機能して電極用塗工液の保存安定性を悪化させる場合がある。
【0071】
上記酸性官能基を有する化合物(A)に含まれる市販の化合物しては、例えば、アクアリック(日本触媒社製ポリアクリル酸)や、ジュリマー(東亞合成社製ポリアクリル酸)などの商品名で、種々のグレードを市場より入手することが出来る。
【0072】
本発明において、酸性官能基を有する化合物(A)の添加量は、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量100質量部に対して、1質量部以上3質量部以下であり、1質量部以上2.5質量部以下が好ましく、1質量部以上2質量部以下がより好ましい。
酸性官能基を有する化合物(A)の添加量が1質量部未満の場合、アルカリ性の中和が充分ではなく集電体基材の腐食が起こることがあり、3質量部を超過する場合は塗膜が非常に硬く、製膜直後にヒビ割れたり、電池セル内での膨潤や収縮でヒビ割れることがある。
【0073】
<樹脂微粒子(B)>
本発明では、バインダー成分の1つとして樹脂微粒子を用いることができる。
【0074】
本発明で使用される樹脂微粒子(B)は、バインダー樹脂が水中で溶解せずに、微粒子の状態で分散された水性エマルションの形態として、電極用塗工液に添加して使用することができる。
【0075】
使用する樹脂微粒子(B)の水性エマルションは特に限定されないが、(メタ)アクリル系エマルション、ニトリル系エマルション、ウレタン系エマルション、ジエン系エマルション(スチレンブタジエンゴム)など)、フッ素系エマルション(ポリフッ化ビニレンデンやポリテトラフルオロエチレンなど)等が挙げられる。水溶性高分子と異なり、エマルションは粒子間の結着性と柔軟性(膜の可とう性)に優れるものが好ましい。
【0076】
樹脂微粒子(B)は、官能基含有架橋型樹脂微粒子であることが好ましい。また、非フッ素系の樹脂微粒子であることがより好ましく、(メタ)アクリル系の樹脂微粒子であることが特に好ましい。非フッ素系樹脂微粒子を用いることで、質量あたりの粒子体積や粒子数を大きくすることができ、より良好な結着性、密着性や柔軟性を得ることができる。
【0077】
(樹脂微粒子(B)の粒子径)
使用される樹脂微粒子(B)の水性エマルションの平均粒子径は、塗膜の結着性や電極用塗工液中での粒子の安定性の観点から、0.05〜5μmであることが好ましく、0.1〜1μmであることがより好ましく、10〜500nmであることがさらに好ましく、30〜350nmであることがさらに好ましく、50〜300nmであることが特に好ましい。
なお、本発明における樹脂微粒子(B)の平均粒子径とは、体積平均粒子径のことを表し、動的光散乱法により測定された値である。
【0078】
(メタ)アクリル系エマルションを使用する場合、以下で説明する架橋型樹脂微粒子を含むことが好ましい。架橋型樹脂微粒子とは、内部架橋構造(三次元架橋構造)を有する樹脂微粒子を示す。架橋型樹脂微粒子が架橋構造をとることにより耐電解液溶出性を確保することができ、粒子内部の架橋を調整することでその効果を高めることができる。また、架橋型樹脂微粒子が特定の官能基を含有することにより、集電体との密着性に寄与することができる。さらには架橋構造や官能基の量を調整することで、蓄電デバイスの耐久性に優れた電極用塗工液を得ることができる。
【0079】
本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系の官能基含有架橋型樹脂微粒子は、エチレン性不飽和単量体を水中にて界面活性剤の存在下、ラジカル重合開始剤によって乳化重合して得られる樹脂微粒子である。そして、エチレン性不飽和単量体(C1)および(C2)を下記割合で乳化重合することにより得ることが好ましい。
(C1)単官能または多官能アルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和単量体(c1)、および1分子中に2つ以上のエチレン性不飽和基を有する単量体(c2)からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体であり、全エチレン性不飽和単量体の量100質量部に対して、0.1〜20質量部
(C2)前記単量体(c1)〜(c2)以外のエチレン性不飽和単量体(c3)であり、全エチレン性不飽和単量体の量100質量部に対して、80〜99.9質量部
【0080】
本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の架橋型樹脂微粒子を構成するエチレン性不飽和単量体のうち(c1)、(c3)は、特に断らない限り、1分子中に1つのエチレン性不飽和基を有する単量体のことを示す。
【0081】
(単量体群(C1)について)
単量体群(C1)に含まれる単量体の有する官能基(アルコキシシリル基、エチレン性不飽和基) は、自己架橋型反応性官能基であり、主に粒子合成中における粒子内部架橋を形成する効果がある。粒子の内部架橋を十分に行うことで、耐電解液性を向上させることができる。したがって、単量体群(C1)に含まれる単量体を使用することで架橋型樹脂微粒子とすることができる。また、粒子架橋を十分に行うことで、耐電解液性を向上させることができる。また、粒子内部または表面に残存したアルコキシシリル基、またはエチレン性不飽和基は、バインダー組成物の粒子間架橋に寄与する。特にアルコキシシリル基は集電体への密着性向上に寄与する効果があるため好ましい。
【0082】
本発明では、単量体群(C1)に含まれる単量体は、乳化重合に使用するエチレン性不飽和単量体全体(合計100質量%)中に0.1〜20質量%使用されることを特徴とする。好ましくは0.2〜10質量%である。
【0083】
(単量体群(C2)について)
本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の架橋型樹脂微粒子は、上述した1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、アルコキシシリル基とを有する単量体(c1)、および/または、1分子中に2つ以上のエチレン性不飽和基を有する単量体(c2)に加えて、単量体群(C2)として、単量体(c1)、(c2)以外の、エチレン性不飽和基を有する単量体(c3)を同時に乳化重合することで得ることができる。
【0084】
この単量体(c3)としては、単量体(c1)、(c2)以外であって、エチレン性不飽和基を有する単量体であれば特に限定されないが、例えば、1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、単官能または多官能エポキシ基とを有する単量体(c4)、1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、単官能または多官能アミド基とを有する単量体(c5)、および1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、単官能または多官能水酸基とを有する単量体(c6)からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体、および、単量体(c1)、(c2)、(c4)〜(c6)以外の、エチレン性不飽和基を有する単量体(c7)を使用することができる。単量体(c4)〜(c6)を使用することにより、エポキシ基、アミド基、または水酸基を架橋型樹脂微粒子の粒子内や表面に残存させることができ、これにより集電体の密着性などの物性を向上させることができる。単量体(c4)〜(c6)は、粒子合成後でもその官能基が粒子内部や表面に残存しやすく、少量でも集電体への密着性効果が大きい。また、その一部が架橋反応に使用されてもよく、これらの官能基の架橋度合いを調整することで、耐電解液性と密着性のバランスをとることができる。
【0085】
単量体(c4)〜(c6)に含まれる単量体の官能基は、その一部が粒子重合中に反応し、粒子内架橋に使われても構わない。本発明では、単量体(c4)〜(c6)に含まれる単量体は、乳化重合に使用するエチレン性不飽和単量体全体(合計100質量%)中に0.1〜20質量%使用されることが好ましく、より好ましくは1〜15質量%であり、特に好ましくは1〜10質量%である。
【0086】
単量体(c7)としては、単量体(c1)、(c2)、(c4)〜(c6)以外であって、エチレン性不飽和基を有する単量体であれば特に限定されないが、例えば、1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、炭素数8〜18のアルキル基とを有する単量体(c8)、1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、環状構造とを有する単量体(c9)などがあげられる。単量体(c7)として、該単量体(c8)および/または単量体(c9)を乳化重合に使用する場合には(単量体(c7)としてそれら以外の単量体を含んでいてもよい)、該単量体(c8)および(c9)が、エチレン性不飽和基を有する単量体全体((c1)、(c2)、(c4)〜(c6)および(c7))中に合計で30〜95質量%含まれることが好ましい。単量体(c8)や単量体(c9)を使用することで粒子合成時の粒子安定性や耐電解液性に優れるため好ましい。
【0087】
上記単量体(c8)、単量体(c9)以外の単量体(c7)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレートなどのアルキル基含有エチレン性不飽和単量体;(メタ)アクリロニトリルなどのニトリル基含有エチレン性不飽和単量体;パーフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルメチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロイソノニルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロノニルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロデシルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルアミル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルウンデシル(メタ)アクリレートなどの炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基を有するパーフルオロアルキル基含有エチレン性不飽和単量体;パーフルオロブチルエチレン、パーフルオロヘキシルエチレン、パーフルオロオクチルエチレン、パーフルオロデシルエチレンなどのパーフルオロアルキル、アルキレン類などのパーフルオロアルキル基含有エチレン性不飽和単量体;ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、n−ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、n−ペンタキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、n−ブトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、n−ペンタキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、ヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのポリエーテル鎖を有するエチレン性不飽和単量体;ラクトン変性(メタ)アクリレートなどのポリエステル鎖を有するエチレン性不飽和単量体;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、トリメチル−3−(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)アンモニウムクロライド、トリメチル−3−(1−(メタ)アクリルアミドプロピル)アンモニウムクロライド、およびトリメチル−3−(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルエチル)アンモニウムクロライドなどの四級アンモニウム塩基含有エチレン性不飽和単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニルなどの脂肪酸ビニル系単量体;ブチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル系エチレン性不飽和単量体;1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセンなどのα−オレフィン系エチレン性不飽和単量体;酢酸アリル、シアン化アリルなどのアリル単量体;シアン化ビニル、ビニルシクロヘキサン、ビニルメチルケトンなどのビニル単量体;アセチレン、エチニルトルエンなどのエチニル単量体などがあげられる。
【0088】
また、上記単量体(c8)、単量体(c9)以外の単量体(c7)としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、または、これらのアルキルもしくはアルケニルモノエステル、フタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、イソフタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、テレフタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、コハク酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸などのカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体;ターシャリーブチル(メタ)アクリレートなどのターシャリーブチル基含有エチレン性不飽和単量体;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸などのスルホ基含有エチレン性不飽和単量体;(2−ヒドロキシエチル)メタクリレートアッシドホスフェートなどのリン酸基含有エチレン性不飽和単量体;ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、アクロレイン、N−ビニルホルムアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシブチル(メタ)アクリレートなどのケト基含有エチレン性不飽和単量体(1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、ケト基とを有する単量体)などがあげられる。
【0089】
また、単量体(c7)の中でもカルボキシル基、ターシャリーブチル基(熱によりターシャリーブタノールが脱離してカルボキシル基になる)、スルホ基、およびリン酸基を有するエチレン性不飽和単量体を共重合して得られた樹脂微粒子は、重合後にも粒子内や表面に前記官能基が残存し、集電体の密着性などの物性を向上させる効果があると同時に、合成時の凝集を防いだり、合成後の粒子安定性を保持したりする場合あるため好ましく使用することができる。
【0090】
カルボキシル基、ターシャリーブチル基、スルホ基、およびリン酸基は、その一部が重合中に反応し、粒子内架橋に使われても構わない。カルボキシル基、ターシャリーブチル基、スルホ基、およびリン酸基を含む単量体を用いる場合には、乳化重合に使用するエチレン性不飽和単量体全体(合計100質量%)中に0.1〜10質量%含まれることが好ましく、さらには1〜5質量%含まれることがより好ましい。さらにこれらの官能基は、乾燥時に反応して粒子内や粒子間の架橋に使われても構わない。
【0091】
これらの単量体(c7)は、粒子の重合安定性やガラス転移温度、さらには成膜性や塗膜物性を調整するために、上記にあげたような単量体を2種以上併用して用いることができる。また、例えば(メタ)アクリロニトリルなどを併用することでゴム弾性が発現する効果がある。
【0092】
(本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の架橋型樹脂微粒子の製造方法)
本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の架橋型樹脂微粒子は、従来既知の乳化重合方法により合成される。
【0093】
本発明において乳化重合の際に用いられる乳化剤としては、エチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤やエチレン性不飽和基を有しない非反応性乳化剤など、従来公知のものを任意に使用することができる。
【0094】
エチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤はさらに大別して、アニオン系、非イオン系のノニオン系のものが例示できる。特にエチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性乳化剤若しくはノニオン性反応性乳化剤を用いると、共重合体の分散粒子径が微細となるとともに粒度分布が狭くなるため、二次電池電極用バインダーとして使用した際に耐電解液性を向上することができ好ましい。このエチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性乳化剤若しくはノニオン性反応性乳化剤は、1種を単独で使用しても、複数種を混合して用いてもよい。
また、乳化重合反応の際に使用する乳化剤の量を変更することによって、樹脂微粒子(B)の粒子径を調整することができる。例えば一般に、乳化剤の量を増やすことで粒子径を小さくすることができる。
【0095】
本発明において用いられる乳化剤の使用量は、必ずしも限定されるものではなく、架橋型樹脂微粒子が最終的なバインダーとして使用される際に求められる物性にしたがって適宜選択できる。例えば、エチレン性不飽和単量体の合計100質量部に対して、乳化剤は通常0.1〜30質量部であることが好ましく、0.3〜20質量部であることがより好ましく、0.5〜10質量部の範囲内であることがさらに好ましい。
【0096】
本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の架橋型樹脂微粒子の乳化重合に際しては、水溶性保護コロイドを併用することもできる。水溶性保護コロイドとしては、例えば、部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール類;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩などのセルロース誘導体;グアガムなどの天然多糖類などがあげられ、これらは、単独でも複数種併用の態様でも利用できる。水溶性保護コロイドの使用量としては、エチレン性不飽和単量体の合計100質量部当り0.1〜5質量部であり、さらに好ましくは0.5〜2質量部である。
【0097】
(乳化重合で用いられる水性媒体)
本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の架橋型樹脂微粒子の乳化重合に際して用いられる水性媒体としては、水があげられ、親水性の有機溶剤も本発明の目的を損なわない範囲で使用することができる。
【0098】
(乳化重合で用いられる重合開始剤)
本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の架橋型樹脂微粒子を得るに際して用いられる重合開始剤としては、ラジカル重合を開始する能力を有するものであれば特に制限はなく、公知の油溶性重合開始剤や水溶性重合開始剤を使用することができる。これら重合開始剤は、エチレン性不飽和単量体100質量部に対して、0.1〜10.0質量部の量を用いるのが好ましい。
【0099】
(乳化重合の条件)
なお、前記した重合開始剤によらずとも、光化学反応や、放射線照射などによっても重合を行うことができる。重合温度は各重合開始剤の重合開始温度以上とする。例えば、過酸化物系重合開始剤では、通常70℃ 程度とすればよい。重合時間は特に制限されないが、通常2〜24時間である。
【0100】
(反応に用いられるその他の材料)
さらに必要に応じて、緩衝剤として、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどが、また、連鎖移動剤としてのオクチルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、チオグリコール酸オクチル、ステアリルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類が適量使用できる。
【0101】
本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の架橋型樹脂微粒子の重合にカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体などの酸性官能基を有する単量体を使用した場合、重合前や重合後に塩基性化合物で中和することができる。中和する際、アンモニアもしくはトリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミンなどのアルキルアミン類;2−ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノールなどのアルコールアミン類;モルホリンなどの塩基で中和することができる。ただし、乾燥性に効果が高いのは揮発性の高い塩基であり、好ましい塩基はアミノメチルプロパノール、アンモニアである。エマルションの分散安定性の観点から、中和することが特に好ましい。
【0102】
本発明において、樹脂微粒子(B)の添加量は、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量100質量部に対して、0.1質量部以上3質量部以下が好ましく、0.25質量部以上3質量部以下がより好ましく、0.25質量部以上2質量部以下がさらに好ましく、0.5質量部以上1.5質量部以下が特に好ましい。特に樹脂微粒子(B)の添加量が0.25質量部以上のとき、柔軟性に優れた電極合材層を得ることができる。
【0103】
また、樹脂微粒子(B)の添加量は、酸性官能基を有する化合物(A)の添加量以下であることが特に好ましい。樹脂微粒子(B)の添加量が多いほど、塗工における製膜性は良好になるが、想定する産業上の利用方法から、製膜性を満たす範囲でバインダー成分の量はできるだけ少なくすることが望ましい。
【0104】
<水溶性高分子(D)>
本発明では、バインダーとして水溶性高分子を用いることができる。
【0105】
本発明で使用される水溶性高分子(D)とは、25℃の精製水である媒体99g中に水溶性高分子(D)1gを混合して撹拌し、25℃で24時間放置した後、分離・析出せずに水媒体中で完全に溶解可能なものである(ただし、酸性官能基を有する化合物(A)を除く)。
【0106】
水溶性高分子(D)としては、エマルション状態以外の樹脂、及び、酸性官能基を有する化合物(A)以外の高分子であれば特に限定されるものではないが、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリルアミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、カルボキシメチルセルロース等の多糖類の樹脂を含む高分子化合物が挙げられる。また、これらの樹脂の変性物、混合物、又は共重合体でも良い。これらバインダーは、1種または複数を組み合わせて使用することも出来る。
【0107】
水溶性高分子(D)としては、カルボキシメチルセルロースやメチルセルロース等の多糖類の樹脂、及び、その金属塩またはアンモニウム塩が好適に用いられる。これらの高分子の中でも、分散剤や増粘剤として水中で良好に機能し、塗膜の結着性、密着性に優れる、カルボキシメチルセルロース、及び、その金属塩またはアンモニウム塩が特に好適に用いられる。
【0108】
水溶性高分子(D)は、1%水溶液の粘度が20mPa・s以上10000mPa・s以下であることが好ましく、20mPa・s以上5000mPa・s以下であることがより好ましく、30mPa・s以上2000mPa・s以下であることがさらに好ましく、30mPa・s以上1000mPa・s以下であることが特に好ましい。
【0109】
1%水溶液の粘度が10000mPa・s超過のものは、酸性官能基を有する化合物(A)に由来する酸性によって、析出または分解する場合があり、一方20mPa・s未満のものは分散剤または増粘剤としての機能が充分ではない場合がある。
【0110】
本発明において、水溶性高分子(D)の添加量は、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量100質量部に対して、0.1質量部以上2質量部以下が好ましく、0.25質量部以上2質量部以下がより好ましく、0.25質量部以上1.5質量部以下がさらに好ましく、0.25質量部以上1質量部以下が特に好ましい。
【0111】
<電極活物質>
本発明では、アルカリ性を示す電極活物質を用いる。本発明で使用する電極活物質とは、精製水40質量部と活物質60質量部のみからなる混合液の、液温25℃におけるpHが10以上となるものであることが特に好ましい。
【0112】
本発明では、電極活物質としてLi(NixM1yM2z)O2(x=0.3〜0.9、y=0.01〜0.69、z=0.01〜0.69、x+y+z=1。M1、M2はそれぞれ、Al、Mn、FeおよびCoからなる群より選ばれる元素であって、M1とM2は異なる元素)が専ら使用されるが、これに限定されない。上記した範囲内の電極活物質であれば、各種の市販品、合成品を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。
【0113】
本発明で使用する電極活物質の合成方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、特開2011−192644公報、特開2012−146639公報、特開2016−143527公報等に記載されている方法で合成することができる。
【0114】
本発明における電極活物質は、Li(NixM1yM2z)O2(x=0.3〜0.9、y=0.01〜0.69、z=0.01〜0.69、x+y+z=1。M1、M2はそれぞれ、Al、Mn、FeおよびCoからなる群より選ばれる元素であって、M1とM2は異なる元素)、チタン酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウムからなる群より選ばれた1種以上であることが好ましく、Li(NixM1yM2z)O2(x=0.3〜0.9、y=0.01〜0.69、z=0.01〜0.69、x+y+z=1。M1、M2はそれぞれ、Al、Mn、FeおよびCoからなる群より選ばれる元素であって、M1とM2は異なる元素)であることがさらに好ましく、Li(NixMnyCoz)O2(x=0.2〜0.6、y=0.01〜0.39、z=0.01〜0.39、x+y+z=1)またはLi(NixCoyAlz)O2(x=0.6〜0.9、y=0.09〜0.3、z=0.01〜0.1、x+y+z=1)であることが特に好ましい。
【0115】
これらの電極活物質は、平均一次粒子径が0.05〜20μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜10μmの範囲内であることがより好ましく、0.2〜10μmの範囲内であることがさらに好ましく、0.3〜10μmの範囲内であることが特に好ましい。本明細書でいう電極活物質の平均粒子径とは、電極活物質を電子顕微鏡で測定した一次粒子径の平均値である。
【0116】
また、これらの電極活物質の造粒体または凝集体は、平均粒子径が0.05〜100μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜50μmの範囲内であることがより好ましく、0.2〜20μmの範囲内であることが特に好ましい。本明細書でいう電極活物質の平均粒子径とは、電極活物質を電子顕微鏡で測定した、造粒体または凝集体の粒子径の平均値である。
【0117】
これらの電極活物質は、BET比表面積が0.1〜20m2/gのものが好ましく、0.2〜10m2/gのものがより好ましく、0.2〜5m2/gのものがさらに好ましく、0.2〜3m2/gのものが特に好ましい。上記BET比表面積の電極活物質であれば、各種の市販品、合成品を単独で、もしくは2種以上の電極活物質を併せて使用することができる。
【0118】
本発明において、電極活物質の添加量は、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量100質量部に対して、90質量部以上97.4質量部以下であり、92質量部以上97.4質量部以下が好ましく、92質量部以上96質量部以下が特に好ましい。想定する産業上の利用方法から、高アルカリ性活物質は電池容量を向上させるために使用する場合が多いため、導電性や塗膜強度を損なわない範囲で電極活物質量が多いことが望ましい。
【0119】
<水>
水は、リチウムイオン二次電池等の二次電池の電極製造に用いられている。本発明では、酸性官能基を有する化合物(A)、水溶性高分子(D)の溶解性や、樹脂微粒子(B)の分散安定性、これらのバインダーの化学的安定性や電池性能を損なわない範囲で、他の溶剤を1種類以上併用しても良い。本発明の想定する産業上の利用可能性から、溶媒中における水の比率は、70%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましく、水を単独で用いることが特に好ましい。
【0120】
<電極用塗工液の製造方法>
本発明の電極用塗工液は、材料を一括して混練する方法や、導電助剤を分散処理してから各種バインダー材料や電極活物質を順次添加して溶解・分散処理する方法で作製することができる。
【0121】
本発明の電極用塗工液は、導電助剤を分散処理してからバインダー材料や電極活物質を順次添加して溶解・分散処理して作製することが特に好ましい。
分散処理に時間がかかる導電助剤を先に分散処理しておくことで、水中での電極活物質と酸性官能基を有する化合物(A)の接触時間を最低限にし、電極活物質からのアルカリ成分の溶出を防ぐことで、中和されるアルカリ成分の量を最低限にとどめることができる。
【0122】
導電助剤を溶媒中に分散処理して導電助剤分散液としてから、電極活物質を添加して分散処理をする場合、導電助剤分散液中に含まれる粗大粒子は、100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましく、20μm以下であることが特に好ましい。残存する粗大粒子が大きい、または多量に残存する場合、良好な塗膜を得ることができない場合がある。これは、粗大粒子によって塗膜が粗くなるだけでなく、粗大粒子中に含まれる導電助剤の粒子表面は酸性官能基を有する化合物(A)との吸着にほとんど寄与せず、柔軟な塗膜が得られないためと考えられる。なお、本発明における導電助剤分散液中に含まれる粗大粒子とは、グラインドゲージによって測定した、粒子が密集し始める粒子径である。
【0123】
また、本発明において、電極用塗工液は、(I)導電助剤を溶媒中に分散処理して、平均分散粒子径が100〜800nmの導電助剤分散液を製造する第一の工程、(II)電極活物質を上記導電助剤分散液中に添加して分散処理して電極用塗工液を製造する第二の工程、を経て製造されることが特に好ましい。また、(I)で製造する導電助剤分散液の平均分散粒子径は、100nm以上600nm以下であることがより好ましく、200nm以上500nm以下であることが特に好ましい。
【0124】
また、本発明において、電極用塗工液は、(I)導電助剤を溶媒中に分散処理して、平均分散粒子径が100〜800nmの導電助剤分散液を製造する第一の工程、(II)電極活物質を溶媒中に添加して分散処理して、電極活物質分散液を製造する第二の工程、(III)(I)と(II)の工程で得た各分散液を混合する第三の工程、を経て製造されることが特に好ましい。また、(I)で製造する導電助剤分散液の平均分散粒子径は、100nm以上600nm以下であることがより好ましく、200nm以上500nm以下であることが特に好ましい。
【0125】
また、本発明において、電極用塗工液は、導電助剤と電極活物質を溶媒中で同時に分散処理する工程を経て電極用塗工液を製造する方法であって、導電助剤を単独で溶媒中に分散処理して導電助剤の平均分散粒子径が100〜800nmとなるときと同等の分散処理工程を経て製造されることが特に好ましい。(ただし、同等の分散処理工程とは、電極用塗工液を分散処理する分散処理機の形状や運転速度を、導電助剤を単独で分散して導電助剤の平均分散粒子径が100〜800nmの導電助剤分散液を製造することができる条件と同一に設定し、かつ、電極用塗工液中の導電助剤の濃度を分散処理時間で除した値が、上記導電助剤分散液中の導電助剤の濃度を分散処理時間で除した値と同一であることである。)また、設定する電極用塗工液の製造条件は、導電助剤を単独で溶媒中に分散処理したときの平均分散粒子径が100nm以上600nm以下となる条件と同一であることがより好ましく、200nm以上500nm以下となる条件と同一であることが特に好ましい。
一般に、屈折率、一次粒子径や二次粒子径が大きく異なる異種の微粒子を、光学的な粒度分布測定によって適切に解析することは困難である。そのため、本願の電極用塗工液中に含まれる導電助剤微粒子の粒度分布を適切な解析値として得ることは困難だが、上記製造方法をとることによって、導電助剤と電極活物質を同時に分散処理した場合においても、導電助剤の分散状態を好ましい状態で管理することができる。
【0126】
分散装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機を使用することができる。例えば、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、ホモジナイザー(エム・テクニック社製「クレアミックス」、PRIMIX社「フィルミックス」等、シルバーソン社製「アブラミックス」等)類、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、コロイドミル(PUC社製「PUCコロイドミル」、IKA社製「コロイドミルMK」)類、コーンミル(IKA社製「コーンミルMKO」等)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS−5」、奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0127】
<電極>
本発明の電極用塗工液を、金属集電体上に塗工・乾燥することで、電池電極合材層を形成し、電極を得ることができる。
【0128】
(金属集電体)
電極に使用する金属集電体の材質や形状は特に限定されず、各種二次電池にあったものを適宜選択することができる。例えば、集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、又はステンレス等の金属や合金が挙げられる。また、形状としては、一般的には平板上の箔が用いられるが、表面を粗面化したものや、穴あき箔状のもの、及びメッシュ状の集電体も使用できる。本発明の効果は、アルカリ性領域で容易に腐食されるアルミニウム箔集電体を用いたときに、特に好適な効果を得ることができる。
【0129】
集電体上に電極用塗工液を塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等を挙げることができ、乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0130】
本発明において、金属集電体に塗工後、水分を完全に乾燥させて得た電池電極合材層の金属集電体1cm2あたりの質量は、10〜40mgであることが好ましく、15〜30mgであることがより好ましく、20〜30mgであることが特に好ましい。
【0131】
本発明において、金属集電体に塗工後、水分を完全に乾燥させて得た電池電極合材層の乾燥後膜厚は、50〜500μmであることが好ましく、50〜300μmであることがより好ましく、70〜250μmであることがさらに好ましく、100〜200μmであることが特に好ましい。なお、乾燥後膜厚とは圧延処理をしていない状態での膜厚であり、例えばデジマイクロ(ニコン社製)等の接触式膜厚形で測定して得た値である。酸性官能基を有する化合物(A)の硬さによるヒビ割れは、膜厚が厚いほど顕著に起こるため、本発明の効果は膜厚が厚い領域で特に好適に得られる。
【0132】
また、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行っても良い。圧延処理後の電極合材層の厚みは、一般的には1μm以上、500μm以下であり、好ましくは10μm以上、300μm以下である。
【0133】
<二次電池>
本発明の電極用塗工液から作製した電池電極合材層は、特にリチウムイオン二次電池で好適に使用することができる。
【0134】
(電解液)
リチウムイオン二次電池の場合を例にとって説明する。電解液としては、リチウムを含んだ電解質を非水系の溶媒に溶解したものを用いる。電解質としては、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、Li(CF3SO22N、LiC49SO3、Li(CF3SO23C、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF2、LiSCN、又はLiBPh4(ただし、Phはフェニル基である)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0135】
非水系の溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、及びγ−オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,2−メトキシエタン、1,2−エトキシエタン、及び1,2−ジブトキシエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、及びメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で使用しても良いが、2種以上を混合して使用しても良い。
【0136】
(セパレーター)
セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布及びこれらに親水性処理を施したものが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0137】
(電池構造・構成)
本発明の電極用塗工液を用いたリチウムイオン二次電池は、少なくとも、集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備する。
また、本発明の電極用塗工液を用いたリチウムイオン二次電池の構造については特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとから構成され、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【0138】
本発明では、上記課題に支障を及ぼさない範囲で、塗膜物性等の調整等の目的で、従来公知の分散剤や樹脂、添加剤等を併用しても良い。
【実施例】
【0139】
以下、実施例に基づき、本発明を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。本実施例中、部は質量部を、%は質量%を、それぞれ表す。
実施例及び比較例で使用した導電助剤(カーボンブラックを「CB」と略記することがある)、酸性官能基を有する化合物(A)、樹脂微粒子(B)、水溶性高分子(D)、電極活物質等を以下に示す。また、各表には、各原料の組成のみを記載しているが、特に記載の無い残りの成分は、水である。
【0140】
<樹脂微粒子(B)の合成>
[合成例1−1]
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水40部と乳化剤としてアデカリアソープSR−10(株式会社ADEKA製)0.2部とを仕込み、別途、メチルメタクリレート48.5部、ブチルアクリレート50部、アクリル酸1部、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.5部、イオン交換水53部および界面活性剤としてアデカリアソープSR−10(株式会社ADEKA製)2部をあらかじめ混合しておいたプレエマルションのうちの1質量%をさらに加えた。内温を70℃に昇温し十分に窒素置換した後、過硫酸カリウムの5質量%水溶液10部のうちの10質量%を添加し重合を開始した。反応系内を70℃で5分間保持した後、70℃に保ちながらプレエマルションの残りと過硫酸カリウムの5質量%水溶液の残りを3時間かけて滴下し、さらに2時間攪拌を継続した。固形分測定にて転化率が98%超えたことを確認後、温度を30℃まで冷却した。25質量%アンモニア水を添加して、pHを8.5とし、さらにイオン交換水で固形分を40質量%に調整して、樹脂微粒子(B)を40質量%含む水性エマルションを得た(以下、B−1と略記する)。なお、固形分は、150℃20分焼き付け残分により求めた。樹脂微粒子(B)の分散粒子径は0.155μmだった。
【0141】
[合成例1−2]
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水40部と界面活性剤としてアデカリアソープSR−10( 株式会社ADEKA製)0.2部とを仕込み、別途、スチレン50部、2−エチルヘキシルアクリレート45部、メチルメタクリレート1.5部、アクリル酸1部、ダイアセトンアクリルアミド2部、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.5部、イオン交換水53部および界面活性剤としてアデカリアソープSR−10(株式会社ADEKA製)1.8部をあらかじめ混合しておいたプレエマルションのうちの1%をさらに加えた。内温を70℃に昇温し十分に窒素置換した後、過硫酸カリウムの5%水溶液10部の10%を添加し重合を開始した。反応系内を70℃で5分間保持した後、内温を70℃に保ちながらプレエマルションの残りと過硫酸カリウムの5%水溶液の残りを3時間かけて滴下し、さらに2時間攪拌を継続した。固形分測定にて転化率が98%超えたことを確認後、温度を30℃まで冷却した。25%アンモニア水を添加して、pHを8.5とし、さらにイオン交換水で固形分を48%に調整して、樹脂微粒子(B)を48質量%含む水性エマルションを得た(以下、B−2と略記する)。なお、固形分は、150℃20分焼き付け残分により求めた。樹脂微粒子(B)の分散粒子径は0.211μmだった。
【0142】
[合成例1−3]
界面活性剤の量を変更した以外は、合成例1−1と同様の方法で合成し、樹脂微粒子(B)を40質量%含む水性エマルションB−3、B−4およびB−5を得た。樹脂微粒子(B)の分散粒子径は、B−3が0.102μm、B−4が0.297μm、B−5が0.488μmだった。
【0143】
<導電助剤>
・デンカブラックHS−100(デンカ社製):アセチレンブラック、平均一次粒子径48nm、比表面積39m2/g、以下HS−100と略記する。
・デンカブラック粒状品(デンカ社製):アセチレンブラック、平均一次粒子径35nm、比表面積69m2/g、以下粒状品と略記する。
・ケッチェンブラック EC−300J(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製):中空カーボンブラック、平均一次粒子径40nm、比表面積800m2/g、以下300Jと略記する。
・ケッチェンブラック EC−600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製):中空カーボンブラック、平均一次粒子径34nm、比表面積1270m2/g、以下600JDと略記する。
・#5(三菱化学社製):ファーネスブラック、平均一次粒子径76nm、比表面積29m2/g、以下#5と略記する。
・Flotube9000(C−nano社製):平均直径11nm、平均長さ10μm、比表面積250m2/g。以下FloTubeと略記する。
【0144】
<酸性官能基を有する化合物(A)>
・ポリアクリル酸5000(和光純薬工業社製、重量平均分子量5000)。 以下、A−1と略記する。
・ポリアクリル酸25000(和光純薬工業社製、重量平均分子量25000)。以下、A−2と略記する。
【0145】
<樹脂微粒子(B)>
・ポリテトラフルオロエチレン30−J( 固形分60% 水分散液、平均粒子径0.2μm)(三井・デュポンフロロケミカル社製)、以下、PTFEと略記する。
・LA−132、平均粒子径5.8μm(Chengdu Indigo Power Sources社製)
・B−1、平均粒子径0.155μm
・B−2、平均粒子径0.211μm
・B−3、平均粒子径0.102μm
・B−4、平均粒子径0.297μm
・B−5、平均粒子径0.488μm
【0146】
<水溶性高分子(D)>
・CMCダイセル#1120、1%水溶液粘度20〜50mPa・s(25℃、60rpm)、エーテル化度0.6〜0.8(ダイセルファインケム社製):カルボキシメチルセルロースナトリウム、以下、#1120と略記する。
・CMCダイセル#1140、1%水溶液粘度100〜200mPa・s(25℃、60rpm)、エーテル化度0.6〜0.8(ダイセルファインケム社製):カルボキシメチルセルロースナトリウム、以下、#1140と略記する。
・CMCダイセル#1240、1%水溶液粘度30〜40mPa・s(25℃、60rpm)、エーテル化度0.8〜1.0(ダイセルファインケム社製):カルボキシメチルセルロースナトリウム、以下、#1240と略記する。
・CMCダイセル#1260、1%水溶液粘度80〜150mPa・s(25℃、60rpm)、エーテル化度0.8〜1.0(ダイセルファインケム社製):カルボキシメチルセルロースナトリウム、以下、#1260と略記する。
・CMCダイセル#1350、1%水溶液粘度200〜300mPa・s(25℃、60rpm)、エーテル化度1.0〜1.5(ダイセルファインケム社製):カルボキシメチルセルロースナトリウム、以下、#1350と略記する。
【0147】
<電極活物質>
・RL−05(Hunan Reshine New Material社製):正極用三元系活物質(LiNi0.5Mn0.3Co0.22)、平均粒子径11.5μm、比表面積0.3m2/g。以下、NCM523と略記する。
・HEDTM NCM−111 1040(BASF戸田バッテリーマテリアルズ社製):正極用三元系活物質(LiNi1/3Mn1/3Co1/32)、平均粒子径5.3μm、比表面積0.5m2/g、以下、NCM111と略記する。
・NFM:正極用三元系活物質(LiNi0.47Mn0.48Fe0.052)、一次粒子径0.2μm、比表面積8.0m2/g、以下NFMと略記する。
・NCM−A:正極用三元系活物質(LiNi0.5Mn0.3Co0.22)、平均粒子径5μm、比表面積1.02m2/g。
・NCM−B:正極用三元系活物質(LiNi0.5Mn0.3Co0.22)、平均粒子径1.5μm、比表面積4.0m2/g。
・チタン酸リチウム(Li4Ti512)、一次粒子径700nm、比表面積7m2/g。以下
LTOと略記する。
【0148】
<導電助剤分散液、樹脂微粒子(B)の水性エマルションの評価>
実施例および比較例で使用した導電助剤分散液および樹脂微粒子(B)の水性エマルションの評価は、平均粒子径を測定することにより行った。
【0149】
導電助剤の平均分散粒子径、および樹脂微粒子(B)の平均粒子径の測定は、導電助剤分散液または樹脂微粒子(B)の水性エマルションを精製水により適切な濃度に希釈した後に、超音波処理を施した液を測定サンプルとして用い、動的光散乱法方式の粒度分布計(日機装社製「ナノトラックUPA−EX」、光源波長780nm)を用いて平均粒子径(導電助剤の場合はD50値、樹脂微粒子の場合は体積平均粒子径)を測定することにより行った。各種測定条件は、上記方法により精製水希釈した分散液のローディングインデックス値を0.7以上1.3以下に、粒子条件を、導電助剤がカーボンブラックの場合は吸収性粒子、粒子形状非球形、密度1.80とし、樹脂微粒子の場合は透過性粒子、粒子形状球形、密度1.2、屈折率1.50(但し、フッ素系の樹脂微粒子の場合、吸収性粒子、粒子形状球形、密度2.2)として、溶媒条件を、溶媒屈折率1.33、液温20℃における溶媒粘度1.00mPa・s、液温25℃における溶媒粘度0.89mPa・sと設定し、得られたメジアン径をD50値として表記した。測定結果は、液温25℃の精製水溶媒についてバックグラウンド値を測定した後、上記方法にて調製した液温25℃のサンプルを測定容器に充填し、上記測定条件にて測定を行うことにより得た。
【0150】
<電極活物質のpHの評価>
電極活物質のpHの評価は、電極活物質60質量部を精製水40質量部に添加し、超音波処理を施して電極活物質を分散した液を測定サンプルとして用い、pHメーターを用いて液温25℃で行った。各電極活物質のpHの値を表1に示した。
【0151】
<電極用塗工液の調製>
[実施例1−1〜実施例1−18、実施例1−20〜1−41]
表1に示す組成に従い、ガラス瓶に精製水と酸性官能基を有する化合物(A)とを仕込み、充分に混合溶解、または混合分散した後、各種導電助剤を加え、1.25mmφジルコニアビーズをメディアとして、ペイントコンディショナーで2時間分散し、各導電助剤分散液を得た。次いで、樹脂微粒子(B)の水性エマルションと水溶性高分子(D)を仕込み、充分に混合溶解、または混合分散し、各種バインダー成分を含む各導電助剤分散液を得た。その後、各導電助剤分散液に対し、電極活物質を仕込み、ディスパーにより充分に混合し、各電極用塗工液を得た。得られた電極用塗工液は、粗大粒子が十分に小さく、粘性および粘度が良好で、かつ、貯蔵安定性試験後も良好な状態を保っていた。
【0152】
[比較例1−1〜比較例1−16]
表1に示す組成に従い、ガラス瓶に精製水と酸性官能基を有する化合物(A)とを仕込み、充分に混合溶解、または混合分散した後、各種導電助剤を加え、1.25mmφジルコニアビーズをメディアとして、ペイントコンディショナーで2時間分散し、各導電助剤分散液を得た。次いで、樹脂微粒子(B)の水性エマルションと水溶性高分子(D)を仕込み、充分に混合溶解、または混合分散し、各種バインダー成分を含む各導電助剤分散液を得た。その後、各導電助剤分散液に対し、電極活物質を仕込み、ディスパーにより充分に混合し、各電極用塗工液を得た。
【0153】
[実施例1−19]
表1に示す組成に従い、導電助剤、酸性官能基を有する化合物(A)、樹脂微粒子(B)と水溶性高分子(D)を仕込み、正極活物質を均質に混合した粉体混合品を調製後、精製水に対して粉体混合品全量の半分を添加し、プラネタリーミキサーにて30分間処理を行った。次いで、残った粉体混合品の半分を添加してプラネタリーミキサーにて30分間処理し、その後、残った粉体混合品を全て添加してプラネタリーミキサーにて1時間処理することにより、電極用塗工液を得た。
【0154】
【表1】


【0155】
<電池電極合材層の作製>
[実施例2−1〜実施例2−41、比較例2−1〜比較例2−16]
上記の各実施例、比較例で得られた各電極用塗工液を、集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にドクターブレードを用いて塗布した後、ホットプレートを用いて70℃で10分間加熱し、その後減圧下120℃で30分間加熱乾燥し、表2に示す乾燥後膜厚(μm)、目付量(mg/cm2)となる各塗膜(電池電極合材層)を作製した。得られた電池電極合材層の評価は、塗膜外観と塗膜の折り曲げ試験、密着性(剥離強度試験)、及び、体積抵抗測定により行った。
【0156】
(塗膜評価)
塗膜外観と塗膜の折り曲げ試験は、目視で、◎:問題なし(良好)、○:問題なし(可、強く折り曲げるとわずかにヒビ割れる)、△:問題なし(可、強く折り曲げるとヒビ割れる)、×:乾燥した時点で塗膜全体がヒビ割れる(極めて不良)、または、集電体が腐食されて塗膜に腐食発生ガスの気泡の痕が残るとした。
なお、剥離強度の測定には卓上型引張試験機(東洋精機製作所製、ストログラフE3)を用い、180度剥離試験法により評価した。具体的には、100mm×20mmサイズの両面テープ(No.5000NS、ニトムズ(株)製)を金属板上に貼り付け、作製した電池電極合材層を両面テープのもう一方の面に密着させ、一定速度(50mm/分)で上方に引っ張り、剥離試験を行った。剥離強度試験の結果は、◎:問題なし(特に良好、剥離強度100mN/cm以上)、○:問題なし(良好、剥離強度50mN/cm以上)、△:〇の場合よりは剥離強度が低いが問題なし(可、剥離強度30mN/cm以上)、△△:△の場合よりも剥離強度が低いが使用可能(可、剥離強度20mN/cm以上)、×:強度が弱く、剥がれやすい(極めて不良、剥離強度20mN/cm未満または評価不可)、とした。
【0157】
(体積抵抗測定)
先に作製した電池電極合材層をローラープレス機にて圧延処理し、合材層の密度が3.1g/cm3となる電極合材層を作製した。これを直径20mmの円形に打ち抜き、体積抵抗測定用試料とした。なお、体積抵抗の測定には4端子法貫通抵抗測定機を用いた。具体的には、測定端子(直径1.8cm、円形)と、打ち抜いた正極合材層とを19.3N/cm2の荷重で密着させ、10mA、30mA、50mAの3点の電流値で電圧値を測定し、その値から体積抵抗値を算出した。実施例2−1の電池電極合材層を基準として、以下の基準で評価を実施した。
◎:「同等または同等以上。優れている」
○:「抵抗値が1.1倍以上、1.5倍未満。問題無し」
△:「抵抗値が1.5倍以上、2倍未満。使用可能」
△△:「抵抗値が2倍以上、3倍未満。高速充放電でなければ使用可能」
×:「抵抗値が3倍以上。充放電は可能だが実用性がない、または使用不可」
【0158】
電極用塗工液として、実施例1−1〜実施例1−41、および比較例1−1〜比較例1−16で得た電極用塗工液を使用して、電池電極合材層を作製した。評価結果を表2に示した。
【0159】
【表2】
【0160】
表2より、実施例2−1〜実施例2−41の電池電極合材層は、比較例2−1〜比較例2−10、比較例2−12〜比較例2−13、および、比較例2−15〜比較例2−16の電池電極合材層と比較して塗膜外観や塗膜の折り曲げ試験結果が良好であり、さらに、塗膜の密着性(剥離強度試験結果)や体積抵抗値が優れていることが明らかとなった。比較例2−15では、使用した塗工液のpHが高いために集電体表面が腐食され、良好な塗膜を得ることができなかった。また、比較例2−1〜比較例2−7では、乾燥が終了した時点で塗膜が板状にヒビ割れてしまい、一方で比較例2−8〜比較例2−10および比較例2−12では、塗膜の結着力が不足しているために折り曲げ時に塗膜が剥落し、良好な塗膜を得ることができなかった。また、比較例2−14および比較例2−16では、外観や折り曲げ試験結果が良好な塗膜を得ることはできたが、集電体から容易に剥離する、密着性に劣る塗膜となった。比較例2−14では、塗膜の結着力不足によると推察される塗膜内での凝集破壊が、比較例2−16では、塗膜が硬いことによると推察される基材からの界面剥離が観察された。
【0161】
<リチウムイオン二次電池正極評価用セルの組み立て>
[実施例3−1〜実施例3−40、比較例3−1〜比較例3−2]
先に作製した電池電極合材層(実施例2−1〜実施例2−40、比較例2−11および比較例2−13の電池電極合材層)を、ローラープレス機にて圧延処理し、合材層の密度3.1g/cm3となる正極合材層を作製した。これを直径16mmの円形に打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極および対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレーター(多孔質ポリオレフィンフィルム)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを容量比1:1で混合した混合溶媒にLiPF6を1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝泉社製HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立ては、アルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。
【0162】
(レート特性)
上述したセルについて、充放電装置(北斗電工社製SM−8)を用い、25℃で充放電測定を行った。各Cレートの充放電電流値は、電極活物質の構成比率や電極合材層の目付量、電極活物質の公開容量によって適宜変更されるが、例えば実施例3−1では、充電電流1.6mA(0.2C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流0.16mAを行った後、放電電流1.6mA(0.2C)および16mA(2C)で放電終止電圧3.0Vに達するまで定電流放電を行って、それぞれ放電容量を求めた。レート特性は0.2C放電容量と2C放電容量の比、つまり以下(式A)で表される。
(式A)レート特性=2C放電容量/0.2C放電容量×100(%)
以下の基準で評価した結果を表3に示す。
・レート特性
◎:「レート特性が80%以上。特に優れている。」
○:「レート特性が75%以上、80%未満。優れている。」
△:「レート特性が70以上、75%未満」
△△:「レート特性が70%未満」
×:「レート特性が65%未満、または測定不可。劣っている。」
【0163】
(サイクル特性)
作製した正極評価用セルを25℃で、充放電装置(北斗電工社製SM−8)を使用して、充電レート1.0Cの定電流定電圧充電(上限電圧4.3V)で満充電とし、充電時と同じレートの定電流で、放電下限電圧3.0Vまで放電を行う充放電を1サイクル(充放電間隔休止時間30分)とし、このサイクルを合計50サイクル行い、充放電を行った。アルゴンガス置換したグローブボックス内で評価後のセルを分解し、電極塗膜の外観(50サイクル後の塗膜外観)を目視にて確認した。塗膜外観の評価基準は、集電体からの剥がれが認められず外観に全く変化が無い場合を○(極めて良好)、剥がれてはいないが外観に変化が認められる場合を△(良好)、部分的に合材が集電体より剥がれが認められる場合を×(不良)とした。また、容量維持率は、1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の百分率であり、数値が100%に近いものほど良好であることを示す。集電体からの塗膜の剥離やショート等により正常な充放電曲線が得られず、容量が求められなかった場合は数値無し(−)とした。評価結果を表3に示した。
【0164】
【表3】
【0165】
表3より、本発明の電極を使用した実施例3−1〜実施例3−40は、比較例3−1〜比較例3−2と比較して、放電電圧やレート特性、50サイクル後の容量維持率についても、良好な結果であった。一方、比較例1−1〜比較例1−10、比較例1−12および比較例1−14〜比較例1−16の電極用塗工液を使用した場合は、良好な塗膜を得ることが出来なかったため、電極特性を評価することが出来なかった。
【要約】
【課題】塗工性、製膜性や強度に優れた電極合材塗膜を得ることができる水系電極用塗工液を提供すること。また、導電性が良好で、かつ長期使用環境下においても安定な電池電極合材層を提供すること。
【解決手段】
下地層を有さない金属集電体に塗布するための電極用塗工液であり、電極活物質と、導電助剤と、バインダーと、水とを含み、電極活物質がアルカリ性を示し、バインダーが、酸性官能基を有する化合物(A)、及び、樹脂微粒子(B)または水溶性高分子(D)のうち少なくとも1つを含み、酸性官能基を有する化合物(A)が、アクリル酸からなる構造単位を30mol%以上有する、重量平均分子量が500以上100万以下の水溶性高分子である電極用塗工液であって、
電極用塗工液中に含まれる各成分がそれぞれ特定量であり、かつ、式(1)のKが、0.02≦K≦0.24の範囲内であることを特徴とする、電極用塗工液。
【選択図】なし