特許第6275405号(P6275405)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6275405多孔質積層体、吸着緩衝材、及び吸着方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6275405
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】多孔質積層体、吸着緩衝材、及び吸着方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/83 20060101AFI20180129BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20180129BHJP
   B65G 49/06 20060101ALI20180129BHJP
   H01L 21/677 20060101ALI20180129BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20180129BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   C04B41/83 A
   H01L21/68 P
   B65G49/06 A
   H01L21/68 B
   C04B38/00 303Z
   B32B9/00 A
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-144702(P2013-144702)
(22)【出願日】2013年7月10日
(65)【公開番号】特開2015-17008(P2015-17008A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2016年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】東 直弘
(72)【発明者】
【氏名】加茂 弘
(72)【発明者】
【氏名】出口 隆宏
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−149856(JP,A)
【文献】 特開平11−243135(JP,A)
【文献】 特開昭63−312035(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/80−41/91
B32B 9/00
B65G 49/06
H01L 21/677
H01L 21/683
C04B 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着ステージの吸着面に装着される吸着緩衝材であって、
無機焼結体及び/又は金属焼結体を含む焼結体(a)を有し、
該焼結体(a)の少なくとも片面に、通気性を有し、表面粗さ(Ra)が0.1〜20μmであるシート(b)が積層されている、
吸着緩衝材
【請求項2】
前記焼結体(a)の平均気孔径が、5〜600μmである、請求項1に記載の吸着緩衝材
【請求項3】
前記シート(b)が、織布、不織布、細孔シート、又は多孔質膜のいずれかである、請求項1又は2に記載の吸着緩衝材
【請求項4】
前記シート(b)の表面粗さ(Ra)が、0.1〜10μmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸着緩衝材
【請求項5】
厚さが1〜20mmである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の吸着緩衝材
【請求項6】
通気量が0.01〜60cm3/cm2/sである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の吸着緩衝材
【請求項7】
シート(b)の厚さが0.001〜0.08mmである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の吸着緩衝材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の吸着緩衝材を用いて薄膜を吸着する、吸着方法。
【請求項9】
前記吸着緩衝材を吸着ステージの吸着面に装着し、前記吸着緩衝材上に前記薄膜を吸着する、請求項8に記載の吸着方法。
【請求項10】
焼結体(a)を吸着ステージの吸着面に装着し、シート(b)を前記焼結体(a)にさらに積層させて前記吸着緩衝材とし、該吸着緩衝材上に前記薄膜を吸着する、請求項8に記載の吸着方法。
【請求項11】
前記薄膜がセラミックグリーンシートである、請求項8〜10のいずれか1項に記載の吸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質積層体、該多孔質積層体を含む吸着緩衝材、及び該吸着緩衝材を用いた吸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶用ガラス板や積層セラミックコンデンサ用のグリーンシート等、薄膜状、板状、又はフィルム状の物を固定又は搬送するための手段のひとつに、減圧吸引により上記薄膜等を吸着ステージ上に吸着固定又は吸着搬送する方法がある。その吸着ステージには、吸着面に吸着緩衝材として通気性を有する無機焼結体が装着される。これにより、被吸着部材に歪みが生じるのを防ぐことができる。このような無機焼結体としては、剛性等の観点から、セラミック粉末を焼結成形して得られる焼結成形体が用いられることがある。
【0003】
近年、液晶や積層セラミックコンデンサは小型化及び高性能化が急激に進行しており、その原料であるガラス板やセラミックグリーンシートの薄型化が進んでいる。このため非常に精密な吸着固定又は吸着搬送を行う必要が生じている。したがって、減圧吸引での吸着ステージに装着する吸着緩衝材としても、優れた表面平滑性や傷を防ぐ表面構造等が求められている。
【0004】
このような、表面平滑性に優れる多孔質シートとして、細孔層と粗孔層からなる多孔質焼結体が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、強度剛性に優れ、吸引物の変形を防ぐ吸着固定板として、吸着孔を有する金属板あるいは樹脂板に網目スクリーンを添着させた吸着固定板の提案もなされている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−129111号公報
【特許文献2】特開平9−57561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液晶やセラミックコンデンサ等の精密部品の吸着固定又は吸着搬送では、被吸着部材に傷が付かないよう細心の注意が払われる。そのため、吸着面の表面構造にシャープエッジがないこと、つまり、切削や研削、研磨等の表面仕上げを行わないことが求められている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている多孔質焼結体は、表面構造に関する検討がなされていない。また、上記特許文献2に開示されているフィルム吸着保持治具は、表面平滑性に関する検討がなされていない。
【0008】
また、液晶やセラミックコンデンサ等の精密部品の吸着固定又は吸着搬送では、吸着緩衝材の目詰まりによる減圧吸引時の圧損が高まることや、汚染により精密な着脱が出来なくなることも問題となる。そのため、吸着緩衝材には使用後、目詰まりや汚染のない状態に容易に戻せることも求められている。しかしながら、吸着緩衝材を切削や研削、研磨をし、洗浄すると原料粒子の切削屑や研削屑が発生する。そのため、吸着緩衝材の吸着面部分のみ交換できる技術も求められている。
【0009】
さらに、被吸着部材に歪みが生じるのを防ぐことができる多孔質積層体も求められている。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、優れた表面平滑性を有し、その表面構造に切削又は研削又は研磨面がなく、かつ原料粒子の脱落のない多孔質積層体、該多孔質積層体を含む吸着緩衝材、及び該吸着緩衝材を用いた吸着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、焼結体の少なくとも片面に通気性を有し表面平滑性に優れたシートが積層された多孔質積層体であれば、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の通りである。
〔1〕
無機焼結体及び/又は金属焼結体を含む焼結体(a)を有し、
該焼結体(a)の少なくとも片面に、通気性を有し、表面粗さ(Ra)が0.1〜20μmであるシート(b)が積層されている、
多孔質積層体。
〔2〕
前記焼結体(a)の平均気孔径が、5〜600μmである、前項〔1〕に記載の多孔質積層体。
〔3〕
前記シート(b)が、織布、不織布、細孔シート、又は多孔質膜のいずれかである、前項〔1〕又は〔2〕に記載の多孔質積層体。
〔4〕
前記シート(b)の表面粗さ(Ra)が、0.1〜10μmである、前項〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の多孔質積層体。
〔5〕
厚さが1〜20mmである、前項〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の多孔質積層体。
〔6〕
通気量が0.01〜60cm/cm/sである、前項〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の多孔質積層体。
〔7〕
前項〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の多孔質積層体を含む、吸着緩衝材。
〔8〕
前項〔7〕に記載の吸着緩衝材を用いて薄膜を吸着する、吸着方法。
〔9〕
前記吸着緩衝材を吸着ステージの吸着面に装着し、前記吸着緩衝材上に前記薄膜を吸着する、前項〔8〕に記載の吸着方法。
〔10〕
焼結体(a)を吸着ステージの吸着面に装着し、シート(b)を前記焼結体(a)にさらに積層させて前記吸着緩衝材とし、該吸着緩衝材上に前記薄膜を吸着する、前項〔8〕に記載の吸着方法。
〔11〕
前記薄膜がセラミックグリーンシートである、前項〔8〕〜〔10〕のいずれか1項に記載の吸着方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた表面平滑性を有し、その表面構造に切削又は研削又は研磨面がなく、かつ原料粒子の脱落のない多孔質積層体、該多孔質積層体を含む吸着緩衝材、及び該吸着緩衝材を用いた吸着方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1の多孔質積層体の断面曲線を示す図である。
図2】実施例2の多孔質積層体の断面曲線を示す図である。
図3】実施例3の多孔質積層体の断面曲線を示す図である。
図4】比較例1の多孔質積層体の断面曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
〔多孔質積層体〕
本実施形態に係る多孔質積層体は、
無機焼結体及び/又は金属焼結体を含む焼結体(a)を有し、
該焼結体(a)の少なくとも片面に、通気性を有し、表面粗さ(Ra)が0.1〜20μmであるシート(b)が積層されている。
【0017】
〔無機焼結体及び/又は金属焼結体を含む焼結体(a)〕
本実施形態に係る多孔質積層体は、無機焼結体及び/又は金属焼結体を含む焼結体(a)を有する。焼結体は連続気孔を有する多孔質体のため、減圧吸引時の空気の流路が複雑となり、吸引圧力を分散させることができる。そのため、このような焼結体(a)を有することにより、被吸着部材に歪みが生じるのを防ぐことができる。また、パンチングシートよりも焼結体の方が気孔径を小さくすることが容易であり、焼結体の気孔径は使用する原料粒子の粒径を変更するだけで調整することができるという利点もある。
【0018】
無機焼結体を構成する材質としては、特に限定されないが、例えば、セラミックスまたはガラスが挙げられる。無機焼結体としては、特に限定されないが、具体的には、アルミナ、ジルコニア、コージライト、イットリア、窒化珪素、炭化珪素、窒化アルミ、ムライト、チタニアや、セラミックスと金属の複合材料であるサーメット等が挙げられる。
【0019】
金属焼結体を構成する材質としては、特に限定されないが、例えば、金属、又は合金が挙げられる。このような金属又は合金としては、特に限定されないが、具体的には、マルテンサイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、オーステナイト・フェライト二相ステンレス鋼、析出硬化ステンレス鋼等のステンレス鋼;青銅や黄銅等の銅合金;鉄、銅等が挙げられる。
【0020】
また、焼結体(a)は、黒鉛、モリブテン、二硫化モリブテン、炭化タングステン、コバルト、ニッケル、マンガン、チタン、タンタル、ジルコニウム、フッ化ストロンチウムなどに代表される金属フッ化物、バリウム、カルシウム等を含んでもよい。このような成分を含むことにより、焼結体(a)の硬度がより向上し、耐熱性、耐食性、及び切削性がより向上する傾向にある。
【0021】
焼結体(a)の形成方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば、プレス成形、冷間静水圧加圧成形、押出成形、射出成形、鋳込成形、粉末冶金等で成形し、真空中、大気中、不活性ガス雰囲気中など目的に応じて焼結することで形成することが可能である。また焼結方法としては、特に限定されないが、例えば、ホットプレス法、反応焼結法、常圧焼結法、反応焼結法と常圧焼結法の組合せである2段焼結法、熱間静水圧プレス法、ガス圧焼結法、化学気層析出法等が挙げられる。また、寸法精度や表面平滑性を向上させるため、切削や研削、研磨加工を行うこともできる。なお、本実施形態に係る多孔質積層体は、後述するシート(b)を有し、シート(b)が被吸着部材と接触するように使用できるため、焼結体(a)自体が切削又は研削又は研磨面を有していたとしてもそれにより被吸着部材に傷がつくことを回避することができる。
【0022】
焼結体(a)の平均気孔径は、5〜600μmが好ましく、10〜300μmがより好ましく、20〜150μmがさらに好ましく、20〜100μmがよりさらに好ましい。焼結体(a)の平均気孔径が5μm以上であることにより、焼結体(a)の通気性がより優れ、被吸着部材の吸着性がより向上する傾向にある。また、焼結体(a)の平均気孔径が600μm以下であることにより、減圧吸引時にシート(b)が焼結体(a)焼結体の内部に吸引され撓んでしまうことをより抑制でき、さらにコストにも優れる傾向にある。なお、平均気孔径は、ポロシメータ(株式会社島津製作所社製「オートポアIV9500」)を用い、測定して得ることができる。
【0023】
焼結体(a)の平均気孔径は原料粒子の粒径によって調整することができる。焼結方法や条件、粒子の形状によっても異なるが、焼結体(a)を構成する原料粒子の平均粒径を10〜1000μmとすることにより平均気孔径を5〜600μmに制御することができ、20〜600μmとすることにより平均気孔径を10〜300μmに制御することができ、40〜300μmとすることにより平均気孔径を20〜150μmに制御することができ、80〜200μmとすることにより平均気孔径を40〜100μmに制御することができる。ここで、「原料粒子の平均粒径」とは、累積重量が50%となる粒子径、すなわちメディアン径をいう。原料粒子の平均粒径は、レーザ回析式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所社製「SALD−2100」)を用い、メタノールを分散媒として測定することができる。
【0024】
焼結体(a)の厚さは、1〜20mmが好ましく、2〜15mmがより好ましく、2〜10mmがさらに好ましく、2〜6mmがよりさらに好ましい。焼結体(a)の厚さが上記範囲内であることにより、取扱い性の簡便さとコストにより優れる傾向にある。ここで言う焼結体(a)の厚さとは、シート(b)を積層する前の厚さであってもいいし、シート(b)を積層した後に焼結体(a)のみの厚さを測ったものであってもよい。なお、焼結体(a)のみの厚さは実施例に記載の方法により測定することができる。
【0025】
〔通気性を有するシート(b)〕
本実施形態に係る多孔質積層体は、上記焼結体(a)の少なくとも片面に、通気性を有し、表面粗さ(Ra)が0.1〜20μmであるシート(b)が積層されたものである。このようなシート(b)を用いることにより、優れた表面平滑性を有し、その表面構造に切削又は研削又は研磨面がないため被吸着部材に傷がつくことを抑制でき、焼結体(a)からの原料粒子の脱落をより抑制することができる。
【0026】
また、液晶やセラミックコンデンサ等の精密部品の吸着固定又は吸着搬送において、吸着緩衝材の目詰まりによる減圧吸引時の圧損が高まった場合や、汚染により精密な着脱が出来なくなった場合には、多孔質積層体のシート(b)のみ交換することにより、目詰まりや汚染のない状態に容易に戻すことができる。これにより、吸着緩衝材を切削や研削、研磨をし、洗浄すること等による原料粒子の切削屑や研削屑の発生をより抑制することができる。
【0027】
ここで「通気性」とは、シート(b)の片面側とその反対の面側に空気の圧力差があるとき、高い圧力の面側から低い圧力の面側に空気が通過する性質(空気を通す性質)をいう。
【0028】
また、ここで、「切削面」とは、ドリル、バイト、フライス、エンドミル、リーマー、タップ、ホブ、ピニオンカッタ、ダイス、ブローチ、トリマ、ルータ等の切削工具を用いて削った面、のことをいう。
【0029】
また、「研削面」とは、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、セリウム、ジルコニウム、ガーネット、ダイヤモンド、CBN等の砥石を高速回転させて削った面、のことをいう。
【0030】
「研磨面」とは、ラッピング、ポリッシング、バフ等の加工に代表される、砥粒が固定されていない状態で削った面、のことをいう。
【0031】
シート(b)としては、特に限定されないが、織布、不織布、細孔シート、多孔質膜が挙げられる。一般に、織布、不織布、細孔シート、多孔質膜に対しては、切削又は研削又は研磨を行わないため、これらをシート(b)として用いることにより、表面構造が切削又は研削又は研磨面ではない多孔質積層体を得ることができる。
【0032】
「織布」とは、繊維を経緯に組み合わせて作った織物、もしくは繊維を編みあげた編物をいう。織布は従来公知の方法により得ることができる。
【0033】
「不織布」とは、繊維同士を織らないで積層して重ね合わせ、種々の方法により結合させて得たシートをいう。上記不織布を製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、湿式法、スパンレース法、メルトブロー法、電気紡糸法等が挙げられる。不織布のなかでも、脱落繊維がないことから、耐摩耗性に優れ、強度の高い長繊維不織布が好ましい。
【0034】
「細孔シート」とは、薄膜、板状、又はフィルム状のシートにパンチ等を用いて穴を打つことにより製造したものをいう。細孔シートの細孔は特に限定されず、円状のほか、多角形等の種々の形状であってよい。配列も格子状、千鳥状等の種々の配列であってよい。
【0035】
「多孔質膜」とは、相分離法、抽出法、化学処理法、延伸法、照射エッチング法、融着法、発泡法等の従来公知の方法により、連通した細孔を形成したものである。
【0036】
なかでも、織布や細孔シートは、篩の篩網として使用されることが広く知られている。さらに織布の中でも繊維を経緯に組み合わせて作った織物は、スクリーン印刷の版にも使用されていることが広く知られている。
【0037】
織布又は不織布の場合にシート(b)に用いられる材質としては、特に限定されないが、例えば、ナイロン6、ナイロン66、共重合ポリアミド等のポリアミド系繊維;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、共重合ポリエステル等のポリエステル系繊維;ポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維;ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリジンフルオリド、ペルフルオロポリマー等のフッ素系繊維;ポリエーテルウレタン等のポリウレタン繊維;ビニロン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、アクリル繊維、ポリイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリカーボネート繊維、ポリ乳酸繊維、ポリオキシド繊維、ポリエチレンオキシド繊維、ポリスチレン繊維、ポリエチレングリコール誘導体繊維、ポリホスファゼン繊維等に代表される合成繊維;セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、プロミックス等に代表される半合成繊維;ガラス繊維、炭素繊維等に代表される無機繊維;レーヨン、キュプラ等に代表される再生繊維;綿、木綿、石綿、羊毛、麻、絹等に代表される天然繊維;あるいは金属繊維が挙げられる。これらは単独で用いても2種類以上混合して用いてもよい。また、鞘部分がポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリエステル等からなり、芯部分がポリプロピレン、ポリエステル等からなる複合繊維等であってもよい。さらに、繊維の互いに交差する部分が、溶融させることで接合されていてもよく、接着物質で接合されていてもよい。
【0038】
また、細孔シート又は多孔質膜の場合にシート(b)に用いられる材質としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、環状オレフィンコポリマー、ポリメチルペンテン等に代表されるポリオレフィン系樹脂;エチレン−四フッ化エチレン共重合体、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等に代表されるフッ素系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、共重合ポリアミド等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、共重合ポリエステル等のポリエステル系樹脂;アイオノマー、ポリウレタン、セロファン、ポリ乳酸、セルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロース、トリアセチルセルロース、ポリケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いても2種類以上混合して用いてもよい。
【0039】
本実施形態に用いるシート(b)の表面粗さ(Ra)は、0.1〜20μmであり、0.1〜10μmが好ましく、0.1〜5μmがより好ましく、0.1〜3μmがさらに好ましい。表面粗さ(Ra)が上記範囲内であることにより、表面平滑性の部分的なバラつきが少なく、表面平滑性により優れる。なお、表面粗さ(Ra)は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0040】
シート(b)の表面粗さ(Ra)は、織布であれば用いる繊維の繊維径やメッシュ数で、不織布又は多孔質膜であれば気孔径で、細孔シートであれば細孔の形状やサイズによって調整することができる。
【0041】
用いる材質によっても異なるが、平織の織布であればメッシュ数を150メッシュ以上とすることにより、表面粗さ(Ra)を20μm以下にすることができる。
【0042】
繊維を経緯に組み合わせて作った織布であれば、メッシュ数は150メッシュ以上が好ましく、250メッシュ以上がより好ましく、420メッシュ以上がさらに好ましい。メッシュ数が150メッシュ以上であることにより、表面平滑性により優れる傾向にある。さらに、420メッシュ以上の織物に表面平滑性を向上させるカレンダー加工や開口部を小さくするシュリンク加工を行ったシート(b)も好ましい。このような加工を施したシート(b)を用いることにより、表面平滑性にさらに優れる傾向にある。ここでいう「メッシュ数」とは、1インチあたりの糸の本数である。
【0043】
また、不織布又は多孔質膜であればポロシメータにて測定できる平均気孔径を100μm以下とすることにより、表面粗さ(Ra)を20μm以下にすることができる。
【0044】
また、細孔シートであればシートの厚みによっても異なるが、例えば厚み0.05mmであれば開口径100μm以下とすることにより、表面粗さ(Ra)を20μm以下にすることができる。
【0045】
シート(b)の厚さは、0.001〜5mmが好ましく、0.01〜2mmがより好ましく、0.01〜0.5mmがさらに好ましく、0.02〜0.2mmがよりさらに好ましい。厚さが上記範囲内にあることにより、取扱の簡便さ、及びコストにより優れる傾向にある。多孔質積層体中のシート(b)の厚みは実施例に記載の方法により測定することができる。
【0046】
通気性を有するシート(b)は、同じ開口部の面積でも空隙率の異なる仕様で製造することが容易である。また、その開口部の面積や厚みの安定性という観点で、シート(b)を用いることは産業上極めて有効である。
【0047】
〔多孔質積層体の製造方法〕
焼結体(a)とシート(b)を積層させるには、接着剤等を用いて接着してもよいし、熱によって融着させてもよい。
【0048】
通気性を確保するために、焼結体(a)とシート(b)とを部分的に接着及び/又は熱による融着をすることが好ましい。このような積層方法としては、特に限定されないが、例えば、スプレー式粘着剤等の接着剤を用いて点状、繊維状等の接着面の形成する方法、グラビアコータ、ロールコータ、スクリーン印刷機等を用いて点状、網目状、筋状等に接着面を形成する方法、粒子形状、ネット形状の熱可塑性樹脂を介して、加圧加熱して融着させる方法、超音波ウエルダー機、超音波ミシン等を用いスポット溶接させる方法、焼結体(a)と接するシート(b)の面をわずかに溶融することで融着させる方法等が挙げられる。中でも、スプレー式接着剤を用い点状、繊維状等の接着面を形成する方法は簡便であるため好ましい。
【0049】
スプレー式粘着剤等の接着剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、α−オレフィン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、エーテル系セルロース、ニトロセルロース、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリベンズイミダソール系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、レゾルシノール系樹脂、エチレン酢酸ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、クロロプレンゴム系樹脂、スチレンブタジエンゴム系樹脂、ニトリルゴム系樹脂、シアノアクリレート系樹脂、水性高分子、イソシアネート系樹脂、シリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、フェノール系樹脂、フッ素系樹脂、もしくはエチレン酢酸ビニル樹脂ホットメルト、反応性ホットメルト、ポリアミド樹脂ホットメルト、ポリウレタンホットメルト、ポリオレフィンホットメルト等の既存のものを採用可能である。
【0050】
焼結体(a)とシート(b)を積層させるには、接着剤付き織布を使用することもできる。この場合、接着剤層を織布の線状部分上のみに設ける公知の方法(例えば、特開2009−167275号公報に記載)を用いることもできる。
【0051】
本実施形態に係る多孔質積層体の厚さは、1〜20mmが好ましく、2〜15mmがより好ましく、2〜10mmがさらに好ましく、2〜6mmがよりさらに好ましい。厚さが上記範囲内であることにより、取扱の簡便さやコストにより優れる傾向にある。なお、多孔質積層体の厚さは、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0052】
本実施形態に係る多孔質積層体の通気量は、0.01〜60cm/cm/sが好ましく、0.1〜30cm/cm/sがより好ましく、0.3〜10cm/cm/sがさらに好ましく、1〜10cm/cm/sがよりさらに好ましい。通気量が上記範囲内であることにより、吸着緩衝材としての通気性により優れる傾向にある。なお、多孔質積層体の通気量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0053】
〔吸着緩衝材〕
本実施形態に係る吸着緩衝材は、上記多孔質積層体を含む。本実施形態に係る多孔質積層体は、優れた表面平滑性を有し、その表面構造に切削又は研削又は研磨面がなく、原料粒子の脱落がないことから、吸着緩衝材として好適に用いることができる。「吸着緩衝材」とは、液晶用ガラス板や積層セラミックコンデンサ用のシート等の、薄膜状、板状、又はフィルム状の物を固定又は搬送するために、減圧吸引での吸着ステージで吸着固定又は吸着搬送する方法において、その吸着ステージの吸着面に装着するものである。
【0054】
吸着緩衝材としては、上記多孔質積層体をそのまま用いてもよい。また、吸着緩衝材として加工する方法としては、特に限定されないが、例えば、吸着ステージに装着する際、必要に応じて、吸着ステージに粘着加工を施すことや、多孔質積層体を所定のサイズにカットする方法が挙げられる。
【0055】
〔吸着方法〕
本実施形態に係る吸着方法は、吸着緩衝材を用いて薄膜を吸着する工程を有する。より具体的には、吸着緩衝材を吸着ステージの吸着面に装着し、吸着緩衝材上に薄膜状、板状、又はフィルム状の物を固定し、搬送することができる。吸着緩衝材の装着は減圧吸引などにより行なうことができるが、特に限定されない。
【0056】
なお、吸着緩衝材を装着する方法としては、特に限定されないが、例えば、(I)焼結体(a)とシート(b)を積層した多孔質積層体を吸着ステージの吸着面に装着する方法の他に、(II)焼結体(a)を吸着ステージの吸着面に装着した後にシート(b)を焼結体(a)にさらに積層させて吸着緩衝材を装着する方法、(III)吸着ステージの吸着面に装着する直前に、焼結体(a)にシート(b)を積層させる方法、(IV)シート(b)を吸着ステージの吸着面に装着した後に焼結体(a)をシート(b)にさらに積層させて吸着緩衝材を装着する方法等が挙げられる。本実施形態に係る吸着方法では、このように装着された吸着緩衝材上に薄膜を吸着することができる。なお、被吸着部材を吸着する吸着面はシート(b)側であることが好ましい。これにより、被吸着部材に傷がつくことをより抑制できる。
【0057】
また、シート(b)は織布、不織布、細孔シート、又は多孔質膜のいずれか単独で装着しても、2種類以上の複層として装着してもよい。
【0058】
ここで、固定又は搬送される薄膜としては、特に限定されないが、例えば、セラミックグリーンシートが挙げられる。セラミックグリーンシートは、通常、セラミック粉体、バインダ(アクリル系樹脂、ブチラール系樹脂等)、可塑剤(フタル酸エステル類、グリコール類、アジピン酸、燐酸エステル類)及び有機溶剤(トルエン、MEK、アセトン等)からなるセラミック塗料を準備し、このセラミック塗料を、ドクターブレード法等によりキャリアシート上に塗布し、加熱乾燥させたものである。
【実施例】
【0059】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本実施形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
各材料の各物性の測定は以下のとおりに行った。
【0061】
[平均気孔径]
平均通気量の測定は、ポロシメータ(株式会社島津製作所社製「オートポアIV9500」)を用いて行なった。
【0062】
[表面粗さ(Ra)]
表面粗さ(Ra)の測定は、触針式表面粗さ計(株式会社東京精密社製「ハンディサーフE−35B」)を用い、先端径R:5μm、速度:0.6mm/s、測定長:12.5mm、カットオフ値λc:2.5mmの条件にて行なった。測定位置は、被測定物の面の中心付近1箇所とした。上記測定の算術平均粗さを、表面粗さ(Ra)として求めた。
【0063】
[表面構造]
表面構造として、触針式表面粗さ計(株式会社東京精密社製「ハンディサーフE−35B」)を用い、先端径R:5μm、速度:0.6mm/s、測定長:1.3mm、カットオフ値λc:0.25mm、測定位置:被測定物の面の中心付近の条件にて測定したときの断面曲線を観察した。その結果を図1〜4に示す。
【0064】
[粉落ち性]
粉落ち性の測定は、原料粒子の色と反対色の紙の上で、200mm×200mmサイズの1枚の多孔質積層体をバイブレータ(神鋼電機株式会社製「バイブレートリパッカVP−15D」)を用いて2分間振動を加えた後、反対色の紙の上に原料粒子があるか否かを目視で確認し、以下の判定基準に基づき、評価した。
◎:原料粒子の脱落が殆どなかった。
○:原料粒子の脱落が極少量であった。
×:原料粒子の脱落が多数あった。
【0065】
[通気量]
通気量の測定は、通気度測定機(TEXTEST社製「FX3360PORTAIR」)を用い、測定範囲20cm、測定差圧125Paの条件にて行なった。
【0066】
[厚さ]
多孔質積層体の厚さは、1/1000mm読みのマイクロメータ(株式会社ミツトヨ社製「MDC−SB」)を用いて測定した。なお、測定数値は、小数点以下第3位まで測定し、小数点以下第3位の値を四捨五入した。
【0067】
積層された後の焼結体(a)と、シート(b)の厚さは、積層された多孔質積層体を厚さ方向に沿って切断し、その切断面を光学顕微鏡(株式会社キーエンス社製「マイクロスコープVH−Z100UR」)を用い観察することで測定した。なお、測定数値は、小数点以下第3位まで測定し、小数点以下第3位の値を四捨五入した。
【0068】
[実施例1]
焼結体(a)として、セラミック焼結体(材質:アルミナ)FA220(富士ケミカル株式会社社製)を用いた。160℃に設定したホットメルトアプリケーターを用い、焼結体(a)にポリオレフィン系ホットメルト接着剤(Tex Year Industries Inc.社製、製品名966P)を20g/mで繊維状にスプレー塗布した。シート(b)として、織布(経糸/緯糸:ポリエチレンテレフタレートモノフィラメント)L−screen165−027/420PW(株式会社NBCメッシュテック社製)を焼結体(a)上に積層させることで実施例1の多孔質積層体を得た。多孔質積層体の特性を表1と図1に示す。
【0069】
[実施例2]
シート(b)として、L−screen165−027/420PW(株式会社NBCメッシュテック社製)の代わりに、織布(経糸/緯糸:ステンレス材)BS−300/30(アサダメッシュ株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例2の多孔質積層体を得た。実施例1と同様の評価を行った。その測定結果を表1と図2に示す。
【0070】
[実施例3]
シート(b)として、L−screen165−027/420PW(株式会社NBCメッシュテック社製)の代わりに、織布(経糸/緯糸:ステンレス材)BS−200/40(アサダメッシュ株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例3の多孔質積層体を得た。実施例1と同様の評価を行った。その測定結果を表1と図3に示す。
【0071】
[比較例1]
焼結体(a)として、セラミック焼結体(材質:アルミナ)FA220(富士ケミカル株式会社社製)を用いた。該焼結体にシート(b)を積層させずにそのまま用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1と図4に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1と図1〜4が示す結果より、焼結体において、少なくとも片面に通気性を有し表面平滑性に優れたシートを実質一体化されて成る多孔質積層体は、優れた表面平滑性、通気性を有し、その表面構造に切削又は研削又は研磨面がなく、原料粒子の脱落が少ないことが分かった。
【0074】
特に、図1〜3では、多孔質積層体の表面がに鋭い凹凸が無かったことに対し、図4では、表面に削ったことによる小さい凹凸や、鋭い凹凸があった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の多孔質積層体は、液晶用ガラス板や積層セラミックコンデンサ用のグリーンシート等、薄膜状、板状、又はフィルム状の物を固定又は搬送するための方法に用いる吸着緩衝材として産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4