(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記パイプは、該パイプの上端から上方に向かって延びる延長部を有し、該延長部は白金又は白金基合金からなることを特徴とする請求項1に記載のガラス溶解用スターラー。
【背景技術】
【0002】
ガラスの製造工程において、ガラスを溶融する溶解炉内は、例えば1400〜1600℃の高温酸素含有ガス雰囲気となる。ガラス溶解用のスターラーに使用する材料には、高温酸素含有ガス雰囲気で高い強度を有すること、寿命が長いことが求められる。1000℃以上の高温で使用できる材料としては、白金、イリジウムが知られている。白金は1000℃以上の酸素含有ガス雰囲気であっても極めて安定であり、酸化揮発消耗が少ない。しかし、1500℃を超える高温域では粒成長しやすく、強度が低下する問題がある。一方、イリジウムは、1000℃以上の高温域において白金よりも高い強度を有する。しかし、イリジウムの酸化揮発量は白金の約100倍であり、高温酸素含有ガス雰囲気で使用すると寿命が短いという問題がある。
【0003】
本出願人は、ガラス溶融に使用できる部材として、イリジウム又はイリジウム基合金からなる構造体の表面を、白金又は白金ロジウム合金からなる外側層と金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側層とが接合されてなり、かつ、内側層は外側層側とは反対側の表面に、金属種の酸化物粒子が分散状態で析出している二層構造のカバーで被覆した複合構造体を提案している(例えば、特許文献1を参照。)。特許文献1の複合構造体では、構造体のイリジウムとカバーの白金との接触によって電位差が生じ、ガラス融液中で白金側から気泡が発生する問題があった。そこで、本出願人は、構造体とカバーとの間に生じる電位差を、逆電位を印加して打ち消すガラス融液の均質化方法を提案している(例えば、特許文献2を参照。)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2の方法では、スターラーの形状によっては均一に逆電位をかけることができず、ガラス融液中での気泡の発生を防止することができない場合があった。
【0006】
本発明の目的は、高温酸素含有ガス雰囲気に長時間暴露される環境であっても、高い強度を保ちながら長寿命で使用でき、ガラス融液中に気泡が混入することを抑制できるガラス溶解用スターラー及びそれを備えるガラス溶解炉を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るガラス溶解用スターラーは、イリジウム又はイリジウム基合金からなり、回転軸と該回転軸の下端部に設けられた攪拌部とを有し、前記回転軸の表面のうち前記攪拌部よりも上方の表面領域が筒状のカバーで被覆され、該カバーは、白金又は白金ロジウム合金からなる外側層と金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側層とが接合された二層構造をなし、かつ、該内側層は、前記外側層に接する面とは反対側の表面に、前記金属種の酸化物粒子が分散状態で析出しているガラス溶解用スターラーにおいて、少なくとも前記カバーの下端から所定の高さにわたる該カバーの表面領域を、間隔をあけて包囲するパイプを有し、該パイプは、イリジウム又はイリジウム基合金からなることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るガラス溶解用スターラーでは、前記パイプは、該パイプの上端から上方に向かって延びる延長部を有し、該延長部は白金又は白金基合金からなることが好ましい。ガラス融液中に気泡が混入することをより確実に抑制することができる。
【0009】
本発明に係るガラス溶解用スターラーでは、前記パイプは、前記カバーの表面のうち使用時にガラス融液に浸漬される表面領域を包囲することが好ましい。パイプのイリジウムが酸化揮発することを抑制することができる。また、ガラス融液中に気泡が混入することをより確実に抑制することができる。
【0010】
本発明に係るガラス溶解用スターラーでは、前記パイプは、前記カバーの下端よりも下方に閉塞部を有することが好ましい。ガラス融液中に気泡が混入することをより確実に抑制することができる。
【0011】
本発明に係るガラス溶解炉は、本発明に係るガラス溶解用スターラーを備えるガラス溶解炉であって、ガラス融液の液面に対する前記パイプの上端の高さを調整する高さ調整手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、高温酸素含有ガス雰囲気に長時間暴露される環境であっても、高い強度を保ちながら長寿命で使用でき、ガラス融液中に気泡が混入することを抑制できるガラス溶解用スターラー及びそれを備えるガラス溶解炉を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0015】
本実施形態に係るガラス溶解用スターラー10は、
図1に示すように、イリジウム又はイリジウム基合金からなり、回転軸11と回転軸11の下端部に設けられた攪拌部12とを有し、回転軸11の表面のうち攪拌部12よりも上方の表面領域S1が筒状のカバー20で被覆され、カバー20は、
図2に示すように、白金又は白金ロジウム合金からなる外側層22と金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側層21とが接合された二層構造をなし、かつ、内側層21は、外側層22に接する面21aとは反対側の表面21bに、金属種の酸化物粒子23aが分散状態で析出しているガラス溶解用スターラーにおいて、少なくともカバー20の下端から所定の高さにわたるカバー20の表面領域S2を、間隔をあけて包囲するパイプ30を有し、パイプ30は、イリジウム又はイリジウム基合金からなる。
【0016】
ガラス溶解用スターラー10は、ガラス融液を攪拌するための攪拌棒であり、回転軸11と攪拌部12とを有する。
【0017】
回転軸11は、
図1に示すように筒状であるか、又は棒状であってもよい(不図示)。回転軸11を筒状とする場合は、筒の内部が酸素含有ガスに晒されないように筒内を真空封じしておくか、又は密封化しておくことが好ましい。回転軸11の下端部には攪拌部12が設けられ、回転軸11の上端部にはモーター(不図示)が接続される。
【0018】
回転軸11は、イリジウム又はイリジウム基合金からなる。イリジウム基合金は、主成分をイリジウムとする合金である。イリジウム基合金においてイリジウムと合金を構成する金属成分は、ロジウム(Rh)、レニウム(Re)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、Ta(タンタル)、Zr(ジルコニウム)及びHf(ハフニウム)から選択される少なくとも1種であることが好ましい。イリジウム基合金中のイリジウムの含有量は、例えば90質量%以上である。
【0019】
攪拌部12は、
図1では一例として複数本の丸棒状の攪拌翼12aを有する形態を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、らせん状の攪拌翼を有する形態(不図示)、ヘリカルリボン状の攪拌翼を有する形態(不図示)であってもよい。
【0020】
攪拌部12は、イリジウム又はイリジウム基合金からなる。イリジウム基合金は、主成分をイリジウムとする合金である。イリジウム基合金においてイリジウムと合金を構成する金属成分は、ロジウム(Rh)、レニウム(Re)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、Ta(タンタル)、Zr(ジルコニウム)及びHf(ハフニウム)から選択される少なくとも1種であることが好ましい。イリジウム基合金中のイリジウムの含有量は、例えば90質量%以上である。回転軸11と攪拌部12とは、一体であるか、又は別体であってもよい。回転軸11と攪拌部12とが別体であるとき、回転軸11及び攪拌部12は、同じ材質で形成することが好ましい。
【0021】
カバー20は、回転軸11の外周形状に合わせた筒状をなす。カバー20が設けられる表面領域S1は、回転軸11の表面のうち攪拌部12よりも上方の表面領域である。本明細書において、「上方」とは、回転軸11のモーター(不図示)が接続された側の端部に向かう方向をいう。また、「下方」とは、回転軸11の攪拌部12が設けられた側の端部に向かう方向をいう。
【0022】
表面領域S1は、少なくとも使用時に高温酸素含有ガス雰囲気に晒される表面領域であることが好ましい。ここで、高温とは、例えば1000℃以上である。酸素含有ガス雰囲気とは、例えば酸素ガス雰囲気、大気雰囲気、酸素分圧が調整されたガス雰囲気である。回転軸11の表面が高温酸素含有ガス雰囲気に晒されるとイリジウムの酸化揮発消耗が生じるところ、カバー20で被覆することで酸素との接触を制限し、イリジウムの酸化揮発消耗を抑制できる。使用時に高温酸素含有ガス雰囲気に晒される表面領域は、具体的には回転軸11の表面のうちガラス融液に浸漬されない表面領域である。
【0023】
カバー20は、
図2に示すように、白金又は白金ロジウム合金からなる外側層22と金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側層21とが接合された二層構造をなす。白金ロジウム合金はロジウム含有量を、例えば30質量%以下とすることが好ましい。ここで、外側層22は、内側層21が酸素含有ガス雰囲気と接触することを防止し、更に回転軸11が酸素含有ガス雰囲気と接触することを防止する。一方、内側層21は、回転軸11との相互拡散を抑制する拡散遮断層となる。内側層21の表面21bに分散状態で析出している金属種の酸化物粒子23aは、
図2に示すように、表面21bから突出していることが好ましく、この突出によって、回転軸11の表面11aと内側層21の表面21bとは、非接触となるか、又は接触してもその接触面積は小さくなる。つまり、内側層21の表面21bに分散状態で析出している金属種の酸化物粒子23aは、スペーサーの役割を果たしている。そして、回転軸11の表面11aと内側層21の表面21bとの接触が制限されることによって、回転軸11(イリジウム又はイリジウム基合金)と内側層21(主成分としては白金)との相互拡散を抑制してカーケンダルボイドの生成を抑制する。なお、内側層21と回転軸11とは一部が接触していてもよい。この場合、金属種の酸化物粒子23aの存在によって、内側層21の白金と回転軸11のイリジウムとが相互拡散可能な箇所の面積は限られ、また、金属種の酸化物粒子23a自体が相互拡散の進行を抑制する。このように、内側層21は拡散遮断層の役割を果たしていることから、その厚さは、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましい。0.1mm未満であると、高温、酸素含有ガス雰囲気下に1000時間以上晒された場合、内側層21の白金と回転軸11のイリジウムとの接触が金属種の酸化物粒子23aによって無い場合は、相互拡散の進行のおそれがないが、仮に接触箇所があった場合、多少なりとも相互拡散の進行のおそれはあるが、接触されていても拡散層は、ほとんどみられない。
【0024】
金属種の酸化物粒子23aは、カバー20を酸化処理して、内側層21に含有されている金属種が酸化されて析出し、粒成長したものであることが好ましい。イリジウム又はイリジウム基合金からなる回転軸11の表面とカバー20とを接触させず、かつ、その隙間空間の容積を小さくすることができる。このような白金に合金として含有させておき、酸化処理によって容易に金属種の酸化物粒子23aを表面に析出させることができる金属種としては、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、チタン(Ti)、イットリウム(Y)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)、クロム(Cr)から選択される少なくともいずれか1種であることが好ましい。この金属種の選択については、従来、酸化物分散強化型白金に適用できる金属種と同じ種類が使用可能である。
【0025】
なお、金属種の酸化物粒子は、
図2に示すように、内側層21の内部に酸化物粒子23bとして分散していてもよく、この場合、内側層21は、21b側の表面に酸化物が密集した酸化物粒子分散型強化白金となっている。また、金属種の酸化物粒子23aのスペーサー的の役割によって、内側層21と回転軸11との間には、僅かな隙間空間24が存在することもある。この隙間空間24には酸素が含まれ、回転軸11のイリジウムの酸化揮発消耗に消費されることもあるが、その酸素量は微量であることから、隙間空間24に新たな酸素が流入してこないように制限すれば、回転軸11のイリジウムの酸化揮発消耗が問題となるほど生じることはない。
【0026】
隙間空間24に新たな酸素が流入してこないようにするための対策について説明する。カバー20は、縁部(上端及び下端)で全周にわたって回転軸11に溶接されていることが好ましく、溶接部25a,25bの表面が白金肉盛溶接で覆われていることがより好ましい。カバー20を縁部で全周にわたって回転軸11に溶接することで、隙間空間24は密閉され、酸素が流入してこない。溶接部25a,25bでは、カバー20の外側層22(白金)と、内側層21(白金)と回転軸11(イリジウム)とをそれぞれ構成する材料が溶接によって合金化しており、具体的には、イリジウム‐白金合金となっている。溶接部25a,25bによる隙間空間24への酸素の流入は防止されることとなったが、溶接部25a,25bはイリジウム‐白金合金化しているため、酸素含有ガス雰囲気に晒されれば、イリジウムの酸化揮発消耗が生じやすくなる。そこで、溶接部25a,25bを白金肉盛溶接で被覆することによって、酸素含有ガス雰囲気との接触を遮断し、揮発消耗を防止することができる。
【0027】
回転軸11にカバー20を溶接する場合、隙間空間24を真空封じすることが好ましい。回転軸11のイリジウムの酸化揮発消耗をより一層防ぐことが可能である。また、高温使用時に残留ガスによる膨れも生じにくくなる。例えば、カバー20に隙間空間24に連通する排気管26を設け、カバー20の縁部の溶接を行った後、排気管26を通じて隙間空間24を真空引きし、その後、排気管26にて封止することで隙間空間24を真空封じできる。
【0028】
隙間空間24に新たな酸素が流入してこないようにするための別の対策について説明する。カバー20の縁部を酸素含有ガス雰囲気に晒されない領域、例えば、ガラス融液中に配置することで、カバー20の縁部などから隙間空間24に新たな酸素が流入してこず、回転軸11の揮発消耗を防止することができる。
【0029】
このように、カバー20は、回転軸11のイリジウムの酸化揮発消耗とカーケンダルボイドの生成を抑制することから、カバー20を取り付けた回転軸11は、例えば、1000時間以上の高温酸素含有ガス雰囲気において、高い強度を保ちながら長時間安定的に使用できる。
【0030】
カバー20の下端は使用時にガラス融液中に配置され、かつ、カバー20の上端は炉外に配置されることが好ましい。回転軸11のカバー20で覆われていない表面が高温酸素含有ガス雰囲気に晒されることをより確実に抑制することができる。なお、カバー20の下端が使用時にガラス融液中に配置される場合は、カバー20の下端の溶接部25bには白金肉盛溶接をしなくてもよい。もちろん、白金肉盛溶接をしてもよい。
【0031】
回転軸11のカバー20で被覆された部分がガラス融液内に浸漬されると、回転軸11とカバー20との接合箇所又は接触箇所が、ガラス融液によって高温となり、熱起電力が発生する。所謂熱電対による熱起電力と同様の現象(ゼーベック効果)である。イリジウムと白金の組合せであれば、例えば、1500℃において、23mV程度の熱起電力が発生する。この熱起電力によって、カバー20側で電解泡(気泡)が発生する。この電解泡がガラスに混入すると、ガラスの歩留まりが低下し、生産性を著しく損なうこととなる。そこで、本実施形態では、カバー20の表面領域S2をパイプ30で包囲して、パイプ30とカバー20との間に存在するガラス融液中で発生した気泡を大気中に逃がし、気泡が槽内のガラス全体に拡がることを防止する。
【0032】
パイプ30は、少なくとも上端に開口部31を有し、周方向にわたって切れ目がない筒状部材である。パイプ30は、
図1に示すように下方が縮径した筒状であるか、寸胴の筒状であるか(不図示)、又は上方に向かって拡径するテーパー状であってもよい(不図示)。パイプ30は、イリジウム又はイリジウム基合金からなる。イリジウム基合金は、回転軸11及び攪拌部12の材料として例示したものを使用できる。パイプ30は、回転軸11と同じ材質であることが好ましい。
【0033】
パイプ30は、カバー20の表面領域S2を、間隔をあけて包囲する。間隔をあけて包囲するとは、パイプ30がカバー20の外側の全周にわたって、カバー20に対して非接触で配置されることをいう。カバー20とパイプ30との間隔は、カバー20側で発生した気泡がカバー20の外周面とパイプ30の内周面との間の空間内を上方に向かって移動できる間隔であればよく、特に限定されないが、例えばカバー20の外周面とパイプ30の内周面との距離が1〜20mmであることが好ましく、3〜10mmであることがより好ましい。
【0034】
表面領域S2は、少なくともカバー20の下端から所定の高さにわたるカバー20の表面領域S2aを含む。所定の高さは、カバー20の下端から使用時にガラス融液の液面L1上に配置される位置までの長さである(
図3に図示)か、カバー20の下端から使用時にガラス融液の液面L1より下方に配置される位置までの長さである(不図示)か、又はカバー20の下端から使用時にガラス融液の液面L1より上方に配置される位置までの長さである(不図示)。このうち、カバー20の下端から使用時にガラス融液の液面L1上に配置される位置までの長さであることがより好ましい。パイプ30がカバー20の下端から使用時にガラス融液の液面L1上に配置される位置にわたってカバー20を包囲することで、パイプ30の上端が使用時にガラス融液の液面L1上に配置される。その結果、ガラス融液への気泡の混入を抑制し、かつ、パイプ30のイリジウムの酸化揮発を抑制することができる。パイプ30がカバー20の下端から使用時にガラス融液の液面L1よりも下方に配置される位置にわたってカバー20を包囲することで、パイプ30の上端が使用時にガラス融液の液面L1よりも下方に配置される。その結果、ガラス融液への気泡の混入を最小限とし、かつ、パイプ30のイリジウムの酸化揮発を抑制することができる。パイプ30がカバー20の下端から使用時にガラス融液の液面L1よりも下方に配置される位置にわたってカバー20を包囲する場合は、ガラス融液の液面L1からパイプ30の上端までの距離は、10mm以下とすることが好ましく、5mm以下とすることがより好ましい。パイプ30がカバー20の下端から使用時にガラス融液の液面L1よりも上方に配置される位置にわたってカバー20を包囲することで、パイプ30の上端が使用時にガラス融液の液面L1よりも上方に配置される。その結果、ガラス融液への気泡の混入をより確実に抑制することができる。なお、パイプ30の上端が使用時にガラス融液の液面L1よりも上方に配置されると、パイプ30のガラス融液の液面L1よりも上方部分でイリジウムが酸化揮発するが、パイプ30のガラス融液の液面L1よりも上方部分に要求される強度は、回転軸11に要求される強度よりも弱く、酸化揮発による強度低下の影響は小さい。
【0035】
パイプ30は、カバー20の下端から所定の高さにわたるカバー20の表面領域S2aに加えて、
図1に示すように、カバー20の下端よりも下方で、かつ、攪拌部12よりも上方の回転軸11の表面領域S2bも包囲することが好ましい。パイプ30の下端を回転軸11に接合させることができる。さらに、パイプ30と回転軸11を同じ材質とすることで、パイプ30と回転軸11との接合部分で起電力が生じないため、気泡の発生を防止することができる。
【0036】
パイプ30は、カバー20の表面のうち使用時にガラス融液に浸漬される表面領域を包囲することが好ましい。パイプ30のイリジウムが酸化揮発することを抑制することができる。また、ガラス融液中に気泡が混入することをより確実に抑制することができる。
【0037】
パイプ30は、カバー20の下端よりも下方に閉塞部32を有することが好ましい。ガラス融液中に気泡が混入することをより確実に抑制することができる。閉塞部32は、例えば、
図1に示すように、パイプ30の下方を、回転軸10の外周面に接するように縮径させた部分である。閉塞部32では、パイプ30を回転軸11の外周面に例えば溶接によって接合することが好ましく、パイプ30の下端で全周にわたって回転軸11に接合することがより好ましい。本実施形態では閉塞部32の形態は
図1に示す形態に限定されず、例えば閉塞部32は、パイプ30の内周面と回転軸11の外周面との間をシール部材(不図示)で塞いで形成してもよい。
【0038】
パイプ30は、パイプ30の上端から上方に向かって延びる延長部33を有することが好ましい。延長部33は、上端及び下端が開放し、周方向にわたって切れ目がない筒状部材である。延長部33を設けることで、ガラス融液中に気泡が混入することをより確実に抑制することができる。延長部33の下端は、パイプ30の上端に、例えば溶接によって接合される。
【0039】
延長部33は、白金又は白金基合金からなることが好ましい。白金基合金は、主成分を白金とする合金である。白金基合金において白金と合金を構成する金属成分は、ロジウム(Rh)、レニウム(Re)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、Ta(タンタル)、Zr(ジルコニウム)及びHf(ハフニウム)から選択される少なくとも1種であることが好ましい。白金基合金中の白金の含有量は、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。パイプ30は、白金‐ロジウム合金からなることがより好ましい。
【0040】
本実施形態に係るガラス溶解炉は、本実施形態に係るガラス溶解用スターラー10を備えるガラス溶解炉であって、ガラス融液の液面L1に対するパイプ30の上端の高さを調整する高さ調整手段を備える。高さ調整手段は、例えば、ガラス溶解用スターラー10の上下取付位置の調整機構、ガラス融液の液量の調整機構、ガラス溶解炉の高さ調整機構である。このうち、ガラス溶解用スターラー10の上下取付位置の調整機構及び/又はガラス融液の液量の調整機構であることが好ましい。