(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明に係る固体酸化物形燃料電池の一実施態様について
図1〜
図3を参照しつつ説明する。固体酸化物形燃料電池は、燃料ガスと酸化剤ガスとの供給を受けて発電を行う装置である。
図1において示された固体酸化物形燃料電池スタック100は、発電単位である板状の単セル1が直列に複数積層されることによって形成される。
図2に示されるように、単セル1を積層する際には、単セル1にセパレータ51を接合し、このセパレータ51を介して単セル1が積層される。また、単セル1と単セル1との間にはインターコネクタ5が設けられ、単セル1の積層方向の両側には、エンドプレート52及び53が設けられる。
図1に示されるように、単セル1の積層方向に、エンドプレート52及び53を貫くように、4つの柱状の固定部材12〜15が、単セル1に接合されたセパレータ51の横断面の略矩形における4つの角に、1つずつ設けられる。また、隣り合う固定部材12〜15と固定部材12〜15との間において、単セル1の積層方向に、中空柱状の燃料ガス導入管16、燃料ガス導出管17、酸化剤ガス導入管18、及び酸化剤ガス導出管19が設けられる。固体酸化物形燃料電池スタック100は、その他の機器等と共に、収納容器に収められることにより、発電が可能な固体酸化物形燃料電池を形成する(図示なし)。収納容器は、固体酸化物形燃料電池スタック100の発電性能を損なわない限りにおいて、従来公知の容器を用いることができる。
【0020】
前記固体酸化物形燃料電池スタック100は、固定部材12〜15、燃料ガス導入管16、燃料ガス導出管17、酸化剤ガス導入管18、及び酸化剤ガス導出管19において、それぞれ、例えばナットのような締付部材を用いて、エンドプレート52及び53に押圧力を加えることによって、複数の単セル1の積層体が一体化されている。燃料ガス導入管16、燃料ガス導出管17、酸化剤ガス導入管18、及び酸化剤ガス導出管19は、ガスの導出入の機能に加えて、前記固定部材12〜15と同様に、複数の単セル1の積層体を一体化する機能をも有する。
【0021】
図3に示されるように、単セル1は、固体電解質層2と前記固体電解質層2の一方の面に形成された燃料極3と前記固体電解質層2の他方の面に形成された空気極4とを備える。この実施態様の固体酸化物形燃料電池における単セル1は、方形板状体であるが、その形状は特に限定されず、円盤状体であってもよい。前記空気極4とインターコネクタ5との間には集電部6が設けられ、接合層7を介して空気極4と集電部6とが接合されている。この発明に係る接合体11は、単セル1と接合層7と集電部6とを有する。
【0022】
前記固体電解質層2は、固体酸化物形燃料電池の運転時に、空気極4に導入される酸化剤ガスをイオンとして移動させることができるイオン電導性を有する。固体電解質層2は、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、サマリア添加セリア(SDC)、及びガドリア添加セリア(GDC)等の少なくとも一種により形成されることができる。
【0023】
前記燃料極3は、固体電解質層2の空気極4が形成されている面とは反対側の面に形成されている。燃料極3は、水素ガス等の燃料ガスと接触して燃料電池におけるアノードとして機能する限り、その構造及び材料等は特に限定されない。燃料極3は、多孔質構造を有し、燃料ガスが通過できるように形成されている。燃料極3を形成する材料としては、例えば、Ni及びFe等の金属とY及びSc等の希土類元素のうちの少なくとも一種により安定化されたジルコニア等のジルコニア系セラミック等が挙げられる。
【0024】
前記空気極4は、固体電解質層2の燃料極3が形成されている面とは反対側の面に形成されている。前記空気極4は、空気等の酸化剤ガスと接触して燃料電池におけるカソードとして機能する限り、その構造及び材料等は特に限定されない。空気極4は、多孔質構造を有し、酸化剤ガスが通過できるように形成されている。空気極4を形成する材料としては、例えば、金属、金属の酸化物、金属の複合酸化物等を挙げることができる。金属としては、Pt、Au、Ag、Pd、Ir、Ru、Ru等の金属及び2種以上の金属を含有する合金等が挙げられる。金属の酸化物としては、La、Sr、Ce、Co、Mn、Fe等の酸化物、例えば、La
2O
3、SrO、Ce
2O
3、Co
2O
3、MnO
2、FeO等が挙げられる。複合酸化物としては、La、Pr、Sm、Sr、Ba、Co、Fe、Mn等のうちの少なくとも1種を含有する複合酸化物、例えば、La
1−xSr
xCoO
3系複合酸化物(LSC)、La
1−xSr
xFeO
3系複合酸化物(LSF)、La
1−xSr
xCo
1−yFe
yO
3系複合酸化物(LSCF)、La
1−xSr
xMnO
3系複合酸化物、Pr
1−xBa
xCoO
3系複合酸化物(PBC)、Sm
1−xSr
xCoO
3系複合酸化物(SSC)等が挙げられる。前記空気極4は、例えば前述した材料からなる複数の層により形成されてもよい。前記空気極4の厚さは、30μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0025】
前記セパレータ51は、単セル1の周囲に設けられる。
図1に示されるように、固体酸化物形燃料電池スタック100の横断面の外形が矩形である場合、セパレータ51は、固体酸化物形燃料電池スタック100の横断面において示される矩形の4辺に沿って枠板状に形成される。セパレータ51は、燃料ガスが流通する燃料ガス室31と酸化剤ガスが流通する酸化剤ガス室41とを隔てるように設けられる。セパレータ51は、例えば、SUS430等のステンレス鋼、ニッケル基合金、クロム基合金、導電性セラミック等により形成される。
【0026】
前記インターコネクタ5は、板状体であり、隣接する単セル1の間に設けられ、単セル1で発生した電流を外部回路へ取り出す機能を有する。インターコネクタ5は、セパレータ51と同様の材料により形成される。
【0027】
前記集電部6,8は、空気極4とインターコネクタ5とを電気的に接続する空気極4側の集電部6と、燃料極3とインターコネクタ5とを電気的に接続する燃料極3側の集電部8とを有する。前記集電部6,8は、空気極4及び燃料極3それぞれとインターコネクタ5との間に設けられ、両者を電気的に接続することができる限り、その構造及び材料等は特に限定されない。前記集電部6,8は、空気極4又は燃料極3における一方の面の少なくとも一部に接合可能な形状を有し、そのような形状として、例えば、積層方向に直交する方向から見てインターコネクタ5と接合された状態で櫛形であり、積層方向から見て複数の方形体が所定の間隔をあけて整列された碁盤目状、及び積層方向に直交する方向から見て波型である波付板形状等が挙げられる。前記集電部6,8は、インターコネクタ5と同一の材料により一体に形成されていてもよいし、またインターコネクタ5とは異なる導電性材料により形成されて、ろう材等によりインターコネクタ5に接合されていてもよい。前記集電部6,8は、各部材の熱膨張率の差によって生じる応力を緩和するために、多孔質構造を有する、金属発泡体、金属フェルト、金属メッシュ、導電性セラミック多孔体等により形成されるのが好ましい。
【0028】
空気極4側の集電部6と燃料極3側の集電部8とは、同一の構造及び同一の材料により形成されてもよいし、互いに異なっていてもよい。
図3に示すように、空気極4側の集電部6は、例えば、インターコネクタ5の一方の面から突出する複数の凸部を形成し、インターコネクタ5の一方の面に、複数の方形体が所定の間隔をあけて碁盤目状に整列するように設けられ、凸部と凸部との間の凹部を酸化剤ガスが流通するように形成される。燃料極3側の集電部8は、インターコネクタ5における空気極4側の集電部6が設けられている側とは反対側に、空気極4側の集電部6と同様に、複数の方形体が所定の間隔をあけて碁盤目状に整列するように設けられ、凹部を燃料ガスが流通するように形成される。
【0029】
前記燃料極3と前記燃料極3側の集電部8とは、燃料極3側の接合層7’により接合され、両者は電気的に接続されている。燃料極3側の接合層7’は、導電性材料により形成され、導電性材料としては、例えば、Ni等の金属、導電性セラミック等が挙げられる。
【0030】
前記空気極4と前記空気極4側の集電部6(以下、単に集電部と称することもある)とは、空気極4側の接合層7(以下、単に接合層と称することもある)により接合され、両者は電気的に接続され、空気極4と集電部6との対向する面の少なくとも一部に接合層7が介在している。
【0031】
以下において、この発明に係る接合体11の特徴部分である、前記空気極4と前記集電部6とを接合する接合層7について詳細に説明する。
図4は、
図3に示す接合体における接合層を拡大して示す要部断面概略説明図である。
【0032】
前記接合層7は、コア部22と該コア部22を覆う導電性スピネル型酸化物を含む表面層23とを有するコア内包粒子21を含み、前記コア内包粒子21が前記空気極4と前記集電部6とを導通可能に配置されている。
図4に示すように、前記接合層7に含まれるコア内包粒子21は、接合層7と空気極4との界面9から接合層7と集電部6との界面10まで、複数のコア内包粒子21bが互いに接するように連続して配置されている状態にあってもよいし、接合層7と空気極4との界面9から接合層7と集電部6との界面10まで延在する一つのコア内包粗大粒子21aが配置されている状態にあってもよい。前記コア内包粒子21は、表面層23が導電性を有するスピネル型結晶構造の酸化物を含むので、少なくとも表面層23は導電性を有する。したがって、複数のコア内包粒子21bが互いに接するように連続して配置されている部分では、複数のコア内包粒子21bの表面層23が電流の流路となって空気極4から集電部6まで電流が流れ、また、一つのコア内包粗大粒子21aが配置されている部分では、一つのコア内包粗大粒子21aの表面層23が電流の流路となって空気極4から集電部6まで電流が流れるので、空気極と集電部との間は電気的接続が確保される。
【0033】
前記接合層7は、接合層7を接合層7の厚み方向すなわち単セル1同士が対向する方向に切断したときの断面に現れるコア内包粒子21の接合層7の厚み方向の長さが、同じ断面における接合層7の厚みの6分の1以上であるコア内包粒子21を含むのが好ましく、3分の1以上であるコア内包粒子21を含むのがより好ましく、2分の1以上であるコア内包粒子21を含むのが特に好ましい。特に、前記接合層7に含まれるコア内包粒子21のほとんど全てが前記範囲の大きさを有し、例えば、90%以上のコア内包粒子が前記範囲の大きさを有するのが好ましい。また、前記コア内包粒子21は、接合層7の厚みと同じ長さを有するコア内包粒子を含むのが好ましい。すなわち、接合層7は、コア内包粗大粒子21aを含むのが好ましく、コア内包粗大粒子21aが接合層7内に分散して存在するのがより好ましい。例えば、接合層7の厚みが30μmである場合には、コア内包粒子21の接合層7の厚み方向の長さが5〜30μmの範囲にあるのが好ましく、コア内包粒子21の接合層7の厚み方向の長さが30μmのコア内包粗大粒子21aを少なくとも含むのが好ましい。
【0034】
前記接合層7に含まれるコア内包粒子21は、後述するように、金属の粗粉末と金属の微粉末とを含む接合ペーストを空気極4と集電部6との間に配置して加熱することにより形成されることができる。表面層23は前記粗粉末の表面部分と前記微粉末とが反応して形成された部分であり、コア部22は前記粗粉末が前記微粉末と反応していない部分である。したがって、コア内包粒子21の大きさは、接合ペーストに含まれる金属の粗粉末の大きさに依存する。金属の微粉末のみを含む接合ペーストにより接合層を形成すると、金属の微粉末が完全に反応焼結して緻密化され、接合層の厚みが接合ペーストの塗布層の厚みよりも減少する。一方、本発明における接合層7は、金属の粗粉末を含む接合ペーストにより形成され、コア部22を有するコア内包粒子21を含むから、このコア内包粒子21が支柱のような役割を果たし、接合ペーストに対して接合層7の厚みがほとんど変化しない。すなわち、空気極4と集電部6との間に配置された接合ペーストの厚みと、これを加熱して形成した接合層7の厚みとは、ほとんど変化がなく、厚みが減少したとしてもその減少量が小さい。
【0035】
固体酸化物形燃料電池スタック100を形成する際、後述するように、接合体11をインターコネクタ5を介して複数積層して、固定部材12〜15に取り付けられた締付部材で接合体11の積層方向に所定の圧力で締付けた状態で加熱して、接合体11の積層体が一体化される。このとき、空気極4と集電部6との間に配置された接合ペーストの厚みに対して接合層7の厚みの減少量が大きいと、固体酸化物形燃料電池スタック100における固定部材12〜15と締付部材とによる積層方向の締付け力が緩み、空気極4と接合層7と集電部6との間の互いの接触圧が小さくなり、これらの界面9及び10で剥離し易くなってしまう。一方、本発明における接合層7は、固体酸化物形燃料電池スタック100の加熱の前後で、接合ペーストに対する接合層7の厚みの減少量が小さく、ほとんど変化がない。さらに、固体酸化物形燃料電池スタック100を長期間にわたって通常運転した後においても接合層7の厚みにほとんど変化がない。したがって、空気極4と接合層7と集電部6とが互いに密着して空気極4と接合層7と集電部6との間の互いの接触圧が維持されるので、これらの界面9、10で剥離し難く、それによって接触抵抗の上昇が抑制され、長期間にわたって電気的接続を確保できる。
【0036】
前記接合層7の厚み及び前記コア内包粒子21の接合層7の厚み方向の長さは、次のようにして求めることができる。空気極4と接合層7と集電部6とを含む部分を、単セル1同士が対向する方向における任意の面で切断する。得られた切断面をSEM(走査型電子顕微鏡)等により画像を得て、得られた画像において、空気極4と接合層7との界面9と集電部6と接合層7との界面10との距離を任意の少なくとも5箇所について測定する。この測定値の算術平均を算出し、これを接合層7の厚さとすることができる。また、コア内包粒子21の接合層7の厚み方向の長さは、前記画像上に存在するすべてのコア内包粒子21について接合層7の厚み方向の最大長さを測定することにより求めることができる。
【0037】
前記表面層23は、コア部22の表面に設けられ、導電性スピネル型酸化物を含む。導電性スピネル型酸化物は、スピネル型の結晶構造を有する金属酸化物であり、導電性を有する限り特に限定されない。導電性スピネル型酸化物は、AB
2O
4の組成式で示される酸化物であり、結晶中にAサイトとBサイトと称する陽イオンが配置される2つのサイトを有する。Aサイト及びBサイトを占める各金属元素としては、Cu、Mn、Co、Fe、Cr、Ni、Zn等からなる群より選択される少なくとも一種を挙げることができる。導電性スピネル型酸化物としては、例えば、CuMn
2O
4、MnCo
2O
4、CoMn
2O
4、MnFe
2O
4、ZnMn
2O
4、CuFe
2O
4、NiMn
2O
4、CoCr
2O
4等を挙げることができる。これらの中でも導電性が高い点で、CuMn
2O
4が表面層23に含有されているのが好ましい。なお、Aサイト及びBサイトは、その一部が前述した金属元素以外の金属元素により置換されていてもよい。また、表面層23は、その全部又は大部分が導電性スピネル型酸化物により形成されるが、前述した金属元素からなる金属及び/又はスピネル型酸化物以外の酸化物を含んでいてもよい。
【0038】
前記コア部22は、後述するように、接合ペーストに含まれる金属の粗粒子が加熱されて形成されることができる。したがって、前記コア部22は、前記粗粒子を形成する金属、及び/又は前記金属が酸化されて形成された金属酸化物を含む。前記コア部22は、前記金属又は前記金属酸化物によって均一に形成されていてもよいし、前記コア部22が、前記金属と前記金属酸化物とを含む場合には、前記金属と前記金属酸化物とが互いに混じり合って分散状態にあってもよい。また、前記コア部22は、前記金属又は前記金属酸化物により形成された中心部を覆うように、前記中心部を形成する前記金属又は前記金属酸化物とは組成及び結晶構造等の形態の異なる1以上の層が形成されていてもよい。例えば、コア部22の中心部が前記金属により形成され、この中心部の外周部が前記金属酸化物により形成されていてもよい。前記金属としては、Cu、Mn、Co、Fe、Cr、Ni、Zn等の元素からなる群より選択される少なくとも一種の元素を含む金属又は合金を挙げることができる。前記金属酸化物は、前記金属として例示した金属の酸化物を挙げることができる。前記金属酸化物として、例えば、CuO、MnO
2、Mn
3O
4、CoO、Co
2O
3、FeO、Fe
2O
3、Cr
2O
3、NiO、ZnO等を挙げることができる。また、コア部22は、その全部又は大部分が前記金属及び/又は前記金属酸化物により形成されるが、その一部に表面層23に含まれる導電性スピネル型酸化物が含まれる場合もある。
【0039】
前記コア内包粒子21と前記コア内包粒子21との間の領域24は、後述するように、接合ペーストに含まれる金属の微粒子が加熱されて形成されることができる。前記微粒子は、ほとんど完全に反応焼結するので、前記領域24は、その全部又は大部分が前記微粒子を形成する金属が酸化されて形成された金属酸化物により形成される。前記金属酸化物としては、Cu、Mn、Co、Fe、Cr、Ni、Zn等の元素からなる群より選択される少なくとも一種の元素を含む金属酸化物を挙げることができる。前記金属酸化物として、例えば、CuO、MnO
2、Mn
3O
4、CoO、Co
2O
3、FeO、Fe
2O
3、Cr
2O
3、NiO、ZnO等を挙げることができる。前記微粒子が完全に反応焼結せずに残っている場合には、前記領域24に前記微粒子を形成する金属が含まれる場合もある。また、表面層23に含まれる導電性スピネル型酸化物が前記領域24に含まれる場合もある。前記領域24は、導電性を有する材料により形成されているのが好ましいが、接合層7は、前述したように、表面層23に含まれる導電性スピネル型酸化物によって電流が流れる流路が確保されているので、導電性を有していなくてもよい。
【0040】
前記コア部22、前記表面層23、及び前記領域24を形成する物質は、次のようにして特定することができる。まず、空気極4と接合層7と集電部6とを含む部分を、単セル1同士が対向する方向における任意の面で切断し、得られた切断面をEPMAにて画像の撮影と元素マッピング分析とを行う。得られた画像により、コア部22及び表面層23を有するコア内包粒子21とコア内包粒子21の周辺にある領域24とが確認される。元素マッピング後の元素濃度の定量化により、前記コア部22、前記表面層23、及び前記領域24それぞれに存在する元素の濃度が測定される。次いで、前記切断面をX線回折装置(XRD)にて分析し、接合層7に含まれる物質の同定を行う。接合層7に含まれる物質の同定は、XRD分析により得られたX線回折チャートと例えばJCPDSカードとを対比することにより行う。次いで、EPMAにより検出された元素とXRD分析により同定された物質とに基づいて、前記コア部22、前記表面層23、及び前記領域24それぞれを形成する物質を特定する。例えば、EPMAによる元素マッピング分析により表面層23にA元素とB元素とが検出され、XRDによりA元素とB元素とを含むスピネル型酸化物の回折ピークが確認された場合には、表面層23がA元素とB元素とを含むスピネル型酸化物を含むと判断することができる。
【0041】
前記領域24は多孔質である。前記領域24が多孔質であるので、接合層7と空気極4との界面9において、多孔質である空気極4の空隙を接合層7によって閉塞してしまうことがなく、接合層7においても酸化剤ガスの通気性が確保され、酸化剤ガスを空気極4に十分に供給することができる。
【0042】
前記接合層7は、15〜35%の気孔率を有するのが好ましい。接合層7における気孔率が低くなるにしたがって、接合層7と空気極4との界面9において酸化剤ガスの通気性が悪くなり、気孔率が高くなるにしたがって、接合層7と空気極4との界面9における接触抵抗が高くなり、導電性が低下する傾向にある。気孔率が前記範囲内にあると、接合層7における酸化剤ガスの通気性の確保と導電性の維持とを両立することができる。
【0043】
前記接合層7における気孔は、その大部分がコア内包粒子21同士の間の領域24に存在する。接合ペーストに含まれる金属の粗粉末及び金属の微粉末が反応焼結されると、前記粗粉末はコア部22を有するコア内包粒子21となって接合層7の骨格を形成するように配置される。骨格を形成するように配置されたコア内包粒子21同士の間の領域24では前記微粉末が反応焼結して体積が減少し、気孔が形成される。したがって、前記気孔率は、前記粗粉末及び前記微粉末それぞれの粒度分布、焼結条件等を変更することにより調整することができる。
【0044】
前記気孔率は、次のようにして求めることができる。まず、接合層7の厚みを測定するときと同様にして接合層7の切断面の画像を得る。得られた画像において、画像の一端から他端まで線分を引き、この線分に並行な複数の線分を、例えば1〜2μm間隔で引く。線分の間隔は気孔の大きさに応じて適宜設定すればよい。全ての線分上に存在する気孔の長さの合計Lと全ての線分の長さの合計Ltとを測定し、全ての線分の長さの合計Ltに対する気孔の長さの合計Lを算出し[(L/Lt)×100](%)、これを気孔率とする。
【0045】
前記接合層7は、接合層7の切断面において、コア内包粒子21を10〜35%の面積割合で含有するのが好ましい。前記接合層7が前記範囲の面積割合でコア内包粒子21を含有すると、固体酸化物形燃料電池スタック100の加熱の前後で、接合ペーストに対する接合層7の厚みの減少量がより一層小さくなり、それによって長期間にわたって空気極4と集電部6との間の導電性を維持することができる。
【0046】
前記コア内包粒子21の面積割合は、次のようにして求めることができる。まず、接合層7の厚みを測定するときと同様にして接合層7の切断面の画像を得る。得られた画像において、コア内包粒子21とその他の部分すなわち領域24とを区別してこれらを2値化処理する。コア内包粒子21として特定された面積の合計Sと画像全体の面積Stとを測定し、画像内の接合層7における気孔を含んだ面積Stに対するコア内包粒子21の面積の合計Sを算出し[(S/St)×100](%)、これをコア内包粒子21の面積割合とする。
【0047】
前記接合層7は、コア部22と表面層23とを有するコア内包粒子21を含み、これらのコア内包粒子21は空気極4と集電部6とを導通可能に配置されている。したがって、前記接合層7は、固体酸化物形燃料電池スタック100の加熱の前後で、接合ペーストに対する接合層7の厚みの減少量が小さく、ほとんど変化がない。さらに、固体酸化物形燃料電池スタック100を長期間にわたって通常運転した後においても接合層7の厚みにほとんど変化がない。したがって、空気極4と接合層7と集電部6とが互いに密着して空気極4と接合層7と集電部6との間の互いの接触圧が維持される。したがって、これらの界面9、10で剥離し難く、それによって接触抵抗の上昇が抑制される。よって、前記接合体11備えた固体酸化物形燃料電池は、所望の性能を長期間にわたって発揮することができる。
【0048】
次に、この発明に係る固体酸化物形燃料電池の製造方法の一例を以下に説明する。
【0049】
この実施態様の固体酸化物形燃料電池の製造方法は、金属の粗粉末と金属の微粉末とを含む接合ペーストを前記空気極と前記集電部との間に配置して加熱する接合工程を含む。
【0050】
前記接合工程の前工程には、接合ペーストを調製する調製工程、及び単セル1と集電部6を備えたインターコネクタ5とを接合ペーストを介して積層して積層体を形成する積層工程を含む。
【0051】
前記調製工程では、金属の粗粉末と金属の微粉末とを含む接合ペーストを調製する。前記粗粉末の金属と前記微粉末の金属とは酸素と反応して導電性スピネル型酸化物を形成可能な金属である。前記粗粉末及び前記微粉末の金属としては、AB
2O
4の組成式で示されるスピネル型酸化物におけるAサイトとBサイトとの少なくとも一方のサイトを占有可能な元素を含む金属の粉末を挙げることができ、例えば、Cu、Mn、Co、Fe、Cr、Ni、Zn等からなる群より選択される少なくとも一種の元素を含む金属粉末が挙げられる。例えば、前記粗粉末の金属として、Aサイトを占有し易い元素からなる金属を採用した場合には、前記微粉末の金属として、Bサイトを占有し易い元素からなる金属を採用する。したがって、前記粗粉末の金属の種類と前記微粉末の金属の種類とは、通常、異なる。また、前記微粉末は、前記粗粉末よりも融点の低い金属であるのが好ましい。前記微粉末が前記粗粉末よりも融点が低いと、接合ペーストを加熱して反応焼結させる際に、微粉末の金属が溶けて液相になり易く、粗粉末の表面部分と微粉末とが反応し易くなる。前記粗粉末の金属と前記微粉末の金属との組合せとして、例えば、MnとCu、MnとCo等を挙げることができる。
【0052】
前記粗粉末は、前記微粉末よりもメジアン径が大きい。前記粗粉末のメジアン径は、例えば、6〜15μmである。前記粗粉末が前記微粉末よりもメジアン径が大きく、メジアン径が6μmよりも大きいと、接合ペーストを加熱して反応焼結する際に、粗粒子の表面部分のみが微粉末と反応し易くなり、コア部22と表面層23とを有するコア内包粒子21を形成し易くなる。接合ペーストが特定の粒度の粗粉末を含有すると、接合ペーストの塗布層の厚みに対して接合層7の厚みを変化し難くすることができる。すなわち、粗粉末の粒度に応じて接合ペーストの塗布層の厚みに対して接合層7の厚みを変化し難くすることのできる接合層7の厚みが変わる。したがって、要求される接合層7の厚みに応じて前記粗粉末のメジアン径を適宜決定すればよい。例えば、要求される接合層7の厚みが30μmである場合には、粗粉末のメジアン径は6〜10μmであるのが好ましい。前記微粉末のメジアン径は、前記粗粉末の表面部分と反応可能であればよく、例えば、前記微粒子のメジアン径は0.5〜5μmである。前記粗粉末と前記微粉末とのメジアン径は、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。前記メジアン径は、粉末の粒度分布を累積分布として表したときの累積50%に相当する粒子径であり、体積を基準とする。前記粗粉末と前記微粉末とを含む金属粉末の粒度分布をレーザ回折式粒度分布測定装置により測定した場合には、2つのピークが出現する程度に粗粉末と微粉末との粒度が異なるのが好ましい。
【0053】
前記粗粉末と前記微粉末とは、2:1(質量比)〜1:2(質量比)の比率で配合されるのが好ましい。前記粗粉末と前記微粉末とが前記比率で配合されると、コア部22と表面層23とを有するコア内包粒子21を形成し易く、また、接合層7に所定割合のコア内包粒子21が含まれるから、コア内包粒子21が接合層7の支柱となって接合ペーストの厚みに対する接合層7の厚みの減少量が小さくなる。
【0054】
前記接合ペーストには、必要に応じて、バインダー、溶剤、他の添加剤を添加してもよい。前記バインダーとしては、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等を挙げることができる。前記溶剤としては、エタノール、ブタノール、テルピネオール、アセトン、キシレン、トルエン、ビヒクル等を挙げることができる。前記他の添加剤としては、分散剤、可塑剤等を挙げることができる。
【0055】
前記積層工程では、まず、従来公知の手法により単セル1を製造し、この単セル1における空気極4の外表面及び集電部6における空気極4に対向する面の少なくとも一方に、前記接合ペーストをスクリーン印刷等により塗布し、必要に応じて80℃〜150℃で乾燥して塗布層を形成した後に、単セル1と接合ペーストの塗布層と集電部6を備えたインターコネクタ5とを積層して積層体を形成する。
【0056】
単セル1の製造方法の一例として、まず、前述した燃料極3の構成成分を有する原料粉末と造孔材である有機ビーズとブチラール樹脂と可塑剤と分散剤と溶剤とを混合してスラリーを調製し、得られたスラリーをドクターブレード法等により支持体上に塗布して乾燥させることで、燃料極用グリーンシートを作製する。また、固体電解質層用グリーンシートを燃料極用グリーンシートと同様にして作製する。次いで、得られた燃料極用グリーンシートと得られた固体電解質層用グリーンシートとを積層し、これを焼結して、焼結積層体を作製する。次いで、前記焼結積層体における固体電解質層2の上に、前述した空気極4の構成成分を有する原料粉末により調製したペーストをスクリーン印刷等により塗布してペースト層を形成し、このペースト層を焼結して空気極4を形成する。このようにして、単セル1が製造される。
【0057】
前記接合工程では、前記積層工程で得られた積層体を加熱して、空気極4と集電部6を備えたインターコネクタ5とを接合層7を介して接合する。
【0058】
前記接合工程では、例えば、前記積層工程で得られた積層体を所望により複数積層して組付体とする。この組付体を積層体の積層方向に貫通している固定部材12〜15に取り付けられた締付部材により締め付けて、組付体に積層方向の圧力をかける。圧力をかけた状態で組付体を電気炉等に入れて昇温して、600℃以上900℃以下、好ましくは750℃以上850℃以下の温度範囲における所定の温度に維持して、燃料極3に燃料ガスを流しながら、また空気極4に酸化剤ガスを流しながら2時間〜10時間保持し、接合ペーストを反応焼結法により焼結させて、空気極4と集電部6とを接合層7で接合する。接合ペーストの塗布層は、前記接合工程を経て、接合ペーストに含まれる前記粗粉末の粒子の表面部分と前記微粉末とが反応して、導電性スピネル型酸化物を含む表面層23を有するコア内包粒子21が形成され、また、前記微粉末同士が反応して金属酸化物を含む多孔質の領域24が形成されて、接合層7になる。
【0059】
前記接合工程は、少なくとも単セル1と接合ペーストと集電部6とインターコネクタ5とを積層した積層体に対して行ってもよいし、複数の前記積層体を積層した組付体に対して行ってもよい。
また、前記接合工程は、前記積層体又は前記組付体を電気炉等で加熱してもよいが、固体酸化物形燃料電池スタック100を組み上げた後に、固体酸化物形燃料電池スタック100を運転させ、自身の発熱によって固体酸化物形燃料電池スタック100を加熱して、空気極4と集電部6を備えたインターコネクタ5とを接合層7を介して接合してもよい。
【0060】
この実施態様の固体酸化物形燃料電池の製造方法によると、コア部22と表面層23とを有するコア内包粒子21が、空気極4と集電部6とを導通可能に配置されている接合層7を容易に製造することができる。したがって、この実施態様の固体酸化物形燃料電池の製造方法によると、接合ペーストの厚みに対する接合層7の厚みの減少量を小さくすることができ、それによって長期間にわたって空気極4と集電部6との間の電気的接続を確保することのできる固体酸化物形燃料電池を容易に製造することができる。
【0061】
この発明の固体酸化物形燃料電池は、高電圧の出力が可能な電池として、各種用途に用いることができる。この発明の固体酸化物形燃料電池は、例えば、家庭用の小型コージェネレーションシステムにおける発電源として、又は業務用の大型コージェネレーションシステムにおける発電源として、用いることができる。
【0062】
この発明の固体酸化物形燃料電池は、前述した実施形態に限定されることはなく、この発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、前記固体酸化物形燃料電池における単セル1は方形板状体であるが、
図5に示すように、円筒状体でもよいし、
図6に示すように、扁平筒状体でもよい。
【0063】
図5に示すように、円筒状体の固体酸化物形燃料電池の単セル101は、例えば、円筒状の燃料極103の外周面に固体電解質層102、空気極104がこの順に積層されて単セル101が形成され、固体電解質層102及び空気極104によって覆われていない燃料極103の表面にインターコネクタ105が設けられている。単セル101と単セル101との間には集電部106が設けられ、この集電部106は一方の単セル101の燃料極103にインターコネクタ105を介して接合され、他方の単セル101の空気極104にこの発明の接合層107を介して接合され、これによって、隣り合う単セル101は直列に接続されて固体酸化物形燃料電池スタック110を形成する。
【0064】
図6に示すように、扁平筒状体の固体酸化物形燃料電池における単セル201は、略楕円柱状であり、平坦部と平坦部の両側の弧状部とからなる支持基板211を備えている。平坦部の両面は互いにほぼ平行に形成され、支持基板211の平坦部における一方の面と両側の弧状部を覆うように燃料極203、固体電解質層202がこの順に積層され、平坦部の一方の面の固体電解質層202の上に空気極204が積層されて単セル201が形成されている。また、燃料極203及び固体電解質層202によって覆われていない平坦部の表面にインターコネクタ205が設けられている。単セル201と単セル201との間には集電部206が設けられ、この集電部206は支持基板211にインターコネクタ205を介して接合され、他方の単セル201の空気極204にこの発明の接合層207を介して接合され、これによって、隣り合う単セル201は直列に接続されて固体酸化物形燃料電池スタック210を形成する。
【0065】
この発明の固体酸化物形燃料電池は、逆の反応を行わせることで、水を電気分解し、水素を製造する水電解装置として使用することができる。例えば、燃料極側に水蒸気を供給し、燃料極と空気極との間に電力を供給することにより、燃料極の水蒸気が電気分解して、空気極側に酸素が発生し、燃料極側に水素が発生する。したがって、本発明の接合体を備えた固体酸化物形燃料電池は、水電解装置として使用することができる。
【実施例】
【0066】
<実施例1>
[サンプルの作製]
(接合ペーストの作製)
粗粉末としてMnを20g(メジアン径8μm)と、微粉末としてCuを30g(メジアン径2.7μm)と、溶剤としてビヒクルを50gとをスパチュラで撹拌後、三本ロールで3回混合して接合ペーストを得た。ビヒクルは、エトセル 4CPSとブチルカルビトールとを1:4の割合で混合して作製した。粗粉末と微粉末とのメジアン径はレーザ回折粒度分布測定装置(HORIBA LA−750)により測定した。
【0067】
(単セルの作製)
YSZ粉末(100重量部)に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調整した。得られたスラリーをドクターブレード法により、厚さ10μmの固体電解質層用グリーンシートを作製した。
【0068】
NiO粉末(60重量部)とYSZ粉末(40重量部)との混合粉末(100重量部)に対して、造孔材である有機ビーズ(混合粉末に対して10重量%)と、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調整した。得られたスラリーをドクターブレード法により、厚さ250μmの燃料極用グリーンシートを作製した。
【0069】
前記燃料極用グリーンシートと前記固体電解質層用グリーンシートとを積層し、これを焼結して、焼結積層体を作製した。
【0070】
前記焼結積層体の固体電解質層の上に、LSCF微粉末と有機バインダーとしてエトセルと溶剤としてブチルカルビトールとにより調製したペーストを前記焼結積層体における固体電解質層の表面にスクリーン印刷により塗布してペースト層を形成し、このペースト層を1000℃で焼結して、厚さ30μmの空気極を形成した。このようにして単セル1を得た。
【0071】
(集電部を備えたインターコネクタの作製)
ステンレス鋼からなる板材を切削して板材の片面に角柱状の凸部が碁盤目状に所定の間隔で整列されてなる集電部6を備えたインターコネクタ5を作製した。
【0072】
(接合ペーストの塗布)
インターコネクタ5の集電部6における空気極4に対向する面の全面に、スクリーン印刷により、接合ペーストを印刷した。次いで、100℃で30分間乾燥し、接合ペーストが印刷された集電部6を備えたインターコネクタ5を得た。接合ペーストの厚みをマイクロメータにより測定したところ、32μmであった。
【0073】
(固体酸化物形燃料電池スタックの作製)
単セル1における空気極4と接合ペーストと集電部6とインターコネクタ5とがこの順になるように積層して積層体を形成した。6体の積層体を積層して組付体とし、この組付体を積層方向に貫通している固定部材に取り付けられた締付部材により締め付けて、組付体に積層方向の圧力をかけた。この組付体を電気炉等に入れて昇温し、燃料極3に水素を、空気極4に空気を流しつつ850℃で3時間保持し、空気極4と集電部6とが接合層7で接合されたサンプルとしての固体酸化物形燃料電池スタック100を得た。
【0074】
[耐久試験]
固体酸化物形燃料電池の通常運転を想定して、雰囲気温度750℃の電気炉にサンプルを入れて、電流密度0.3〜0.6A/cm
2の範囲で通電処理を1000時間行う耐久試験を行った。
【0075】
[接合層の観察]
図7に示すように、耐久試験後にサンプルを積層方向の面で切断して得られた切断面をSEMにより画像撮影し(1000倍)、得られたSEM画像において、空気極4と接合層7との界面9と集電部6と接合層7との界面10との距離を任意の20箇所について測定した。これらの測定値の算術平均を接合層7の厚みとして算出したところ、30μmであった。接合層7の厚みは接合ペーストの厚みよりも2μm減少していた。この厚みの減少は、接合ペーストに含まれる溶剤の揮発による。
【0076】
図7に示すように、SEM画像において、コア部22と表面層23とを有するコア内包粒子21が複数確認された。これらのコア内包粒子21の中には、空気極4と接合層7との界面9から接合層7と集電部6との界面10まで延在するコア内包粗大粒子21aが確認された。SEM画像中に観察されるコア内包粒子21の接合層7の厚み方向の長さは、4〜32μmの範囲にあった。また、これらのコア内包粒子21の面積の合計Sの、画像内の接合層7における気孔を含んだ面積Stに対する面積割合[(S/St)×100](%)は、39面積%であった。
【0077】
また、SEM画像によりコア内包粒子21の周辺の領域24は多孔質であることが確認された。SEM画像において、2μm間隔で複数の線分を引き、前述したように気孔率を測定したところ、22.5%であった。
【0078】
[接合層の分析]
サンプルを積層方向の面で切断して得られた切断面をEPMAにて画像撮影と元素マッピング分析とを行った。
図8(a)は切断面をEPMAで撮影した画像であり、
図8(b)は切断面におけるCuの濃度を示す図であり、
図8(c)は切断面におけるMnの濃度を示す図であり、
図8(d)は切断面における酸素(O)の濃度を示す図である。
図8(a)に示されるように、切断面にコア部22と表面層23とを有するコア内包粒子21が観察され、
図8(b)、(c)及び(d)に示されるように、コア部22にはMnの酸化物、表面層23にはMnの酸化物及びCuの酸化物、コア内包粒子21の周辺の領域24にはCuの酸化物が検出された。
さらに、切断面における接合層7をXRD(株式会社リガク製 型式:RINT−TTRIII)により2θ=10°から80°まで分析した。その結果、CuOとスピネル型酸化物(例えば、CuMn
2O
4、Mn
3O
4)に相当する回折ピークが得られた。
マッピング分析により表面層23にMn、Cu及びOが検出され、XRD分析によりCuMn
2O
4の回折ピークが確認されたことから、表面層23には導電性スピネル型酸化物であるCuMn
2O
4が含まれると判断される。
マッピング分析によりコア部22はMn及びOが検出され、XRD分析によりMn
3O
4の回折ピークが確認されたことから、コア部22にはMn
3O
4が含まれると判断される。
マッピング分析によりコア内包粒子21の周辺の領域24はCu及びOが検出され、XRD分析によりCuOの回折ピークが確認されたことから、前記領域にはCuOが含まれると判断される。
【0079】
[導電性の評価]
耐久試験前後において、サンプルを700℃の雰囲気温度で、燃料極3側に室温(25℃)で加湿3%の水を含む水素1L/min、空気極4側に空気2L/minを供給して、電流遮断法によって、空気極4側の集電部6と燃料極3側の集電部との間に電流を通電したときの電圧と、電流を切ったときの電圧との差を測定した。電流遮断法計測機は、KIKUSUI FC IMPEDANCE METER KFM2150を用いた。負荷を差し引くために、同じくKIKUSUI PLZ 1004Wの負荷器を用いた。負荷器で20Aの負荷をサンプルから差し引きながら、電流遮断法によって電圧を計測し、6つの積層体の測定値の平均値を平均電圧として求めた。電圧が大きいことは電気抵抗が小さいことを意味する。耐久試験前のサンプルの平均電圧は802mV、耐久試験後のサンプルの平均電圧は800mVであり、平均電圧劣化率は0.25%であった。
【0080】
<比較例1>
前記「接合ペーストの作製」において、出発原料としてMnの微粉末(メジアン径:3.2μm)とCuの微粉末(メジアン径:2.7μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてサンプルを作製した。
実施例1と同様にして接合ペーストの厚みを測定した結果、29μmであった。
【0081】
実施例1と同様にして耐久試験を行い、耐久試験後の接合層の厚みを測定した結果、16μmであった。耐久試験後の接合層の切断面をSEMで観察したところ、実施例1の接合層で観察されたコア内包粒子を確認することができず、緻密な構造になっていた。
【0082】
実施例1と同様にして耐久試験前後のサンプルについて導電性の評価を行った。耐久試験前のサンプルの平均電圧は802mV、耐久試験後のサンプルの平均電圧は777mVであり、平均電圧劣化率は3.11%であった。
【0083】
実施例1のサンプルは、金属の粗粉末と金属の微粉末とを含む接合ペーストを用いて接合層7を形成し、接合層7がコア部22と表面層23とを有するコア内包粒子21を含んでいるので、接合ペーストと接合層7との厚みの減少量が小さかった。前記コア内包粒子21は比較的大きく、接合層7の厚さ方向と同等の大きさを有するコア内包粒子21も存在し、これらのコア内包粒子21が支柱のような役割を果たすことにより、接合層7の厚さの減少量が小さくなっている。また、前記コア内包粒子21はコア部22を有し、焼結し難いので耐久試験後においてもコア内包粒子21の外形が維持され、厚さの減少量が小さくなっている。
一方、比較例1のサンプルは、金属の微粉末のみで金属の粗粉末を含まない接合ペーストを用いて接合層を形成しているので、接合ペーストが焼結により緻密化し、接合ペーストと接合層との厚みの減少量が実施例1に比べて大きかった。
実施例1のサンプルは、耐久試験前後の平均電圧劣化率が小さく、導電性が維持されているのに対し、比較例1のサンプルは、実施例1のサンプルに比べて平均電圧劣化率が大きく、導電性が低下している。
これらの結果から、耐久試験前後において接合層の厚みの減少量の大きい比較例1のサンプルに比べて、接合層の厚みの減少量の小さい実施例1のサンプルは、平均電圧劣化率が小さく、導電性が維持されることが分る。