特許第6275592号(P6275592)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6275592層状複水酸化物配向緻密板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6275592
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】層状複水酸化物配向緻密板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/00 20060101AFI20180129BHJP
   C04B 35/622 20060101ALI20180129BHJP
   C04B 35/443 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   C01F7/00 C
   C04B35/622
   C04B35/443
【請求項の数】16
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-173861(P2014-173861)
(22)【出願日】2014年8月28日
(65)【公開番号】特開2016-47791(P2016-47791A)
(43)【公開日】2016年4月7日
【審査請求日】2017年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(72)【発明者】
【氏名】横山 昌平
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−191523(JP,A)
【文献】 特開2007−031189(JP,A)
【文献】 特開2003−034583(JP,A)
【文献】 特開2005−104133(JP,A)
【文献】 特開2013−219332(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/161516(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 1/00−17/00
C04B 35/443
C04B 35/622
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
90%以上の相対密度を有し、かつ、一般式:M2+1−x3+(OH)n−x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4である)で示される層状複水酸化物からなる板である層状複水酸化物配向緻密板であって、
前記配向緻密板の板面に対してX線回折を行った場合に、(003)面のピークの積分強度に対する(110)面のピークの積分強度の比率(110)/(003)が0.7以上である、層状複水酸化物配向緻密板。
【請求項2】
前記配向緻密板の板面に対して広角X線回折法のインプレーン(In−Plane)測定を入射角0.24°及び回折角2θχ=11.2°で行った場合に、(003)面のピークが面内回転角φで180°の周期で観察される、請求項1に記載の層状複水酸化物配向緻密板。
【請求項3】
前記配向緻密板の板面に対して広角X線回折法のインプレーン(In−Plane)測定を入射角0.24°及び回折角2θχ=11.2°で行った場合に、(003)面のピークの半値幅が50°以下である、請求項1又は2に記載の層状複水酸化物配向緻密板。
【請求項4】
前記配向緻密板の板面と垂直方向における伝導度が、30℃、相対湿度90%で4端子法により測定した場合に、0.5mS/cm以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の層状複水酸化物配向緻密板。
【請求項5】
前記一般式のうち、M2+がMg2+を、M3+がAl3+を含み、An−がOH及び/又はCO2−を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の層状複水酸化物配向緻密板。
【請求項6】
前記配向緻密板が1〜1000μmの厚さを有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の層状複水酸化物配向緻密板。
【請求項7】
クラックを含まない、請求項1〜6のいずれか一項に記載の層状複水酸化物配向緻密板。
【請求項8】
前記層状複水酸化物のみから実質的になる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の層状複水酸化物配向緻密板。
【請求項9】
層状複水酸化物配向緻密板の製造方法であって、
(a)一般式:M2+1−x3+(OH)n−x/n・mH
(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4である)で表される層状複水酸化物の板状粒子を含んでなる原料粉末を用意する工程と、
(b)前記原料粉末を、せん断力を用いた手法により配向させて、前記板状粒子の(003)面がシート面と平行に配向されてなる複数枚の配向シートを作製する工程と、
(c)前記複数枚の配向シートを積層して配向積層体を得る工程と、
(d)前記配向積層体を焼成して配向焼成体を得る工程と、
(e)前記配向焼成体に水熱処理を施して層状複水酸化物を再生させ、それにより層状複水酸化物配向再生体を得る工程と、
(f)前記層状複水酸化物再生体を乾燥させて、層状複水酸化物緻密体を得る工程と、
を含んでなり、前記積層工程(c)後で、かつ、前記焼成工程(d)、前記再生工程(e)及び前記乾燥工程(f)のいずれかの工程の前、中又は後において、前記配向積層体、前記配向焼成体、前記層状複水酸化物配向再生体、又は前記層状複水酸化物緻密体を前記シート面に由来する面と垂直に切断して、前記板状粒子の(003)面が板面に対して垂直に配向してなる板を得る工程(g)をさらに含んでなり、その結果、最終結果物として層状複水酸化物配向緻密板が得られる、方法。
【請求項10】
前記せん断力を用いた手法による配向が、前記原料粉末をスラリー化してテープ成形又は押出成形に付することにより行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記配向シートが、1〜300μmの厚さを有する、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記配向緻密板が、0.001〜1mmの厚さを有する、請求項9〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記配向積層体が、前記焼成前に、50〜1000kgf/cmの成形圧でプレスされる、請求項9〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記焼成が700〜800℃の温度で行われる、請求項9〜13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
前記水熱処理が20〜200℃で行われる、請求項9〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記配向工程前に、前記原料粉末を800℃以下で仮焼する工程をさらに含んでなる、請求項9〜15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状複水酸化物配向緻密板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロタルサイトに代表される層状複水酸化物(Layered Double Hydroxide)(以下、LDHという)は、水酸化物の層と層の間に交換可能な陰イオンを有する物質群であり、その特徴を活かして、触媒や吸着剤、あるいは耐熱性向上のための高分子中の分散剤等として利用されている。また、近年、水酸化物イオンを伝導する材料として注目され、アルカリ型燃料電池の電解質や亜鉛空気電池の触媒層への添加についても検討されている。例えば、特許文献1(国際公開第2010/109670号)には、直接アルコール燃料電池のアルカリ電解質膜として、層状複水酸化物の膜を用いることが提案されている。
【0003】
従来の適用分野である触媒等を考えた場合、高比表面積が必要であることから、粉末状での合成及び使用で十分であった。一方、アルカリ型燃料電池等の水酸化物イオン伝導性を活かした電解質への応用を考えた場合、燃料ガスの混合を防ぎ、十分な起電力を得るためにもその緻密性は重要である。
【0004】
しかしながら、層状複水酸化物は水酸化物イオン伝導体として近年注目されているものの、水酸化物であるため焼成による緻密化が不可能であり、その殆どは粉末として合成されている。そのため、これまでのアルカリ型燃料電池の電解質評価はその粉末を固めただけの圧粉体で実施されているのが現状である。実際、特許文献1に開示されるアルカリ電解質膜もハイドロタルサイト粉末をコールドプレスでペレット状に成形して得た圧密体にすぎない。したがって、ハイドロタルサイトに代表される層状複水酸化物を十分な緻密性を有する形態で安定的に得るための簡便な手法が望まれる。
【0005】
この点、特許文献2(国際公開第2013/073292号)及び特許文献3(国際公開第2013/118561号)には、90%以上の相対密度を有し、層状複水酸化物からなる無機固体電解質体を亜鉛空気二次電池、ニッケル亜鉛二次電池等に用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2010/109670号
【特許文献2】国際公開第2013/073292号
【特許文献3】国際公開第2013/118561号
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、今般、高度な緻密性のみならず、板厚方向の高度な配向性をも備えた、層状複水酸化物配向緻密板を安定的且つ効率的に提供及び製造できることを知見した。
【0008】
したがって、本発明の目的は、高度な緻密性のみならず、板厚方向の高度な配向性をも備えた、層状複水酸化物配向緻密板を安定的且つ効率的に提供及び製造することにある。
【0009】
本発明の一態様によれば、90%以上の相対密度を有し、かつ、一般式:M2+1−x3+(OH)n−x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4である)で示される層状複水酸化物からなる板である層状複水酸化物配向緻密板であって、
前記配向緻密板の板面に対してX線回折を行った場合に、(003)面のピークの積分強度に対する(110)面のピークの積分強度の比率(110)/(003)が0.7以上である、層状複水酸化物配向緻密板が提供される。
【0010】
本発明の別の一態様によれば、層状複水酸化物配向緻密板の製造方法であって、
(a)一般式:M2+1−x3+(OH)n−x/n・mH
(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4である)で表される層状複水酸化物の板状粒子を含んでなる原料粉末を用意する工程と、
(b)前記原料粉末を、せん断力を用いた手法により配向させて、前記板状粒子の(003)面がシート面と平行に配向されてなる複数枚の配向シートを作製する工程と、
(c)前記複数枚の配向シートを積層して配向積層体を得る工程と、
(d)前記配向積層体を焼成して配向焼成体を得る工程と、
(e)前記配向焼成体に水熱処理を施して層状複水酸化物を再生させ、それにより層状複水酸化物配向再生体を得る工程と、
(f)前記層状複水酸化物再生体を乾燥させて、層状複水酸化物緻密体を得る工程と、
を含んでなり、前記積層工程(c)後で、かつ、前記焼成工程(d)、前記再生工程(e)及び前記乾燥工程(f)のいずれかの工程の前、中又は後において、前記配向積層体、前記配向焼成体、前記層状複水酸化物配向再生体、又は前記層状複水酸化物緻密体を前記シート面に由来する面と垂直に切断して、前記板状粒子の(003)面が板面に対して垂直に配向してなる板を得る工程(g)をさらに含んでなり、その結果、最終結果物として層状複水酸化物配向緻密板が得られる、方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の層状複水酸化物配向緻密板の一例を模式的に示す斜視図である。
図2】層状複水酸化物(LDH)板状粒子を示す模式図である。
図3】層状複水酸化物配向緻密板の製造方法の一例を示す工程流れ図である。
図4】例3において試料1及び7について得られたXRDプロファイルである。
図5】例4において試料1及び7について得られた広角X線回折法測定のプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
層状複水酸化物配向緻密板
本発明の層状複水酸化物配向緻密板(以下、LDH配向緻密板)は、一般式:M2+1−x3+(OH)n−x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4である)で示される層状複水酸化物(以下、LDH)からなる板である。LDH配向緻密板は、90%以上の相対密度を有し、それ故、高度な緻密性を有している。その上、LDH配向緻密板は、配向緻密板の板面に対してX線回折を行った場合に、(003)面のピークの積分強度に対する(110)面のピークの積分強度の比率(110)/(003)が0.7以上である。これは、配向緻密板が板厚方向の高度な配向性を有することを意味する。すなわち、層状複水酸化物(LDH)は図2に示されるような層状構造を持った複数の板状粒子(すなわちLDH板状粒子)の集合体で構成されるものであるところ、(003)面が属するc軸方向(00l)面(lは3及び6である)はLDH板状粒子の層状構造と平行な面である。このため、図1に示されるようにLDH板状粒子1がLDH配向緻密板10の板面に対して略垂直方向(すなわち略板厚方向)に配向しているとLDH層状構造も略垂直方向を向くこととなる結果、セパレータ層表面をX線回折法により測定した場合に(00l)面(lは3及び6である)のピークが無配向状態と比べて小さく現れる(場合によっては実質的に現れない)。特に(003)面のピークは、それが存在する場合、(006)面のピークよりも強く出る傾向があることから、(006)面のピークよりも垂直方向の配向の有無を評価しやすいといえる。一方、(110)面のピークはLDH板状粒子が略垂直方向(すなわち略板厚方向)に配向しているとむしろ強く表れる傾向がある(このことは後述する図4におけるLDH配向緻密板に相当する試料1のXRDプロファイルと、無配向試料である試料7のXRDプロファイルを比較することでより良く理解される)。したがって、(003)面のピークの積分強度に対する(110)面のピークの積分強度の比率(110)/(003)の値が大きいほど、(003)面の板面垂直方向(すなわち板厚方向)への高度な配向を意味するといえる。すなわち、本発明によれば、高度な緻密性のみならず、板厚方向の高度な配向性をも備えた、LDH配向緻密板を提供することができる。
【0013】
上記板厚方向の高度な配向性は、LDH配向緻密板にとって極めて有利な特性である。というのも、LDH配向緻密板には、LDH板状粒子が配向する方向(即ちLDHの層と平行方向)の水酸化物イオン伝導度が、これと垂直方向の伝導度よりも格段に高いという伝導度異方性があるためである。実際、本発明者らは、LDHの配向バルク体において、配向方向における伝導度(S/cm)が配向方向と垂直な方向の伝導度(S/cm)と比べて1桁高いとの知見を得ている。すなわち、本発明のLDH配向緻密板における板厚方向の配向は、LDH配向体が持ちうる伝導度異方性を板厚方向に最大限または有意に引き出すものであり、その結果、板厚方向への伝導度を最大限又は有意に高めることができる。このような配向性を備えたLDH配向緻密板は、板厚方向に水酸化物イオンを伝導させやすくなる。その上、緻密化されているため、板厚方向への高い伝導度及び緻密性が望まれる水酸化物イオン伝導セパレータに極めて適する。例えば、本発明のLDH配向緻密板は、配向緻密板の板面と垂直方向における伝導度が、30℃、相対湿度90%で4端子法により測定した場合に、0.5mS/cm以上であるのが好ましく、より好ましくは0.75mS/cm以上であり、さらに好ましくは1.0mS/cm以上であり、特に好ましくは2.0mS/cm以上である。伝導度は高ければ高い方が良く、その上限値は特に限定されるべきではないが、典型的には20mS/cm以下でありうる。
【0014】
本発明のLDH配向緻密板は、配向緻密板の板面に対して広角X線回折法のインプレーン(In−Plane)測定を入射角0.24°及び回折角2θχ=11.2°で行った場合に、(003)面のピークが面内回転角φで180°の周期で観察されるのが好ましい。上述のとおり、LDH配向緻密板は板面垂直方向に(003)面が配向しているのであるが、それだけではなく、図1に示されるように板面面内方向においても所定の方向に配向しているのが好ましい。この特有の配向状態は、板状粒子の(003)面が板面面内方向の一方向に揃った状態で、板面垂直方向に立っている状態と表現することもできる。この配向状態は、上述のインプレーン(In−Plane)測定により(003)面のピークが面内回転角φで180°の周期で観察されることにより確認することができる(このことは後述する図5におけるLDH配向緻密板に相当する試料1のXRDプロファイルと、無配向試料である試料7のXRDプロファイルを比較することでより良く理解される)。つまり、(003)面が板面面内方向の一方向に揃っているため、上記インプレーン測定時に試料を板面面内方向に回転させた場合、180°ごとに(003)面のピークが極大化する。このような特有の配向性を備えることで、板面面内方向の伝導性が向上し、これがバイパスとなりうるため、結果として、板面垂直方向の伝導度が向上する。また、板面垂直方向のみならず、板面面内方向の所定の一方向においても伝導性が高い(すなわち2方向に伝導度が高い)という特有の異方性により、LDH配向緻密板の新たな用途が期待できる。LDH配向緻密板は、配向緻密板の板面に対して広角X線回折法のインプレーン(In−Plane)測定を入射角0.24°及び回折角2θχ=11.2°で行った場合に、(003)面のピークの半値幅が50°以下であるのが好ましく、より好ましくは40°以下であり、さらに好ましくは35°以下であり、特に好ましくは30°以下である。この半値幅が小さいほど、(003)面の面内配向が強いといえ、上述した特有の異方性をより高度に呈することができる。より正確には、上記インプレーン測定は、全自動水平型多目的X線回折装置(リガク社製、SmartLab(回転対陰極型))を用い、出力:45kV、200mA、スキャン方式:φ連続スキャン(φ=0〜360°)、入射角:0.24°、回折角:2θχ=11.2°((003)ピーク)、測定ステップ:1°、スキャン速度:100°/分の条件にて行うことができる。なお、この測定に用いるスリット系は、上流側(X線入射側)から下流側(検出器側)に向けて、1)0.5°入射縦発散防止ソーラースリット、2)0.1mm高さ×10mm幅スリット、3)試料、4)20mm幅スリット、5)0.5°受光縦発散防止ソーラースリット、及び6)20mm幅スリットをこの順に配置して構成すればよい。
【0015】
本発明のLDH配向緻密板は、一般式:M2+1−x3+(OH)n−x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4である)で示される層状複水酸化物(LDH)からなり、好ましくは上記LDHのみから実質的になる(又はのみからなる)。上記一般式において、M2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg2+、Ca2+及びZn2+が挙げられ、より好ましくはMg2+である。M3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl3+又はCr3+が挙げられ、より好ましくはAl3+である。An−は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH及びCO2−が挙げられる。したがって、上記一般式は、M2+がMg2+を、M3+がAl3+を含み、An−がOH及び/又はCO2−を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1〜0.4であるが、好ましくは0.2〜0.35である。mは任意の実数である。
【0016】
本発明のLDH配向緻密板は、極めて高い相対密度、好ましくは90%以上、より好ましくは94%以上の相対密度を有する。このように高い相対密度が極めて高いLDH配向緻密板は十分な気密性(ガスタイト性)や液密性を有する。すなわち、LDH配向緻密板は通気性及び透水性を有しないほどに緻密化されうる。その上、この配向緻密板はLDH本来の性質として水酸化物イオンを伝導する性質をも有する。このため、アルカリ型燃料電池等の用途においては、多孔性に由来するガスリークを抑制しながら発電性能の向上が見込める。また、電解液を用いる亜鉛空気電池の二次電池化の大きな技術的障壁となっていた亜鉛デンドライトの伸展や二酸化炭素の侵入を阻止しうるセパレータ等への新たな適用も期待できる。また、同様に亜鉛デンドライト進展が実用化の大きな障壁となっているニッケル亜鉛電池にも適用が期待される。これらの用途を鑑みれば、本発明のLDH配向緻密板はクラックを実質的に含まないのが好ましく、より好ましくはクラックを含まない。
【0017】
本発明のLDH配向緻密板は、1〜1000μmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは2〜1000μmであり、さらに好ましくは2〜500μmであり、特に好ましくは3〜250μmであり、最も好ましくは5〜100μmである。配向緻密板の好ましいサイズは5mm×5mm以上であり、より好ましくは10mm×10mm〜200mm×200mmであり、さらに好ましくは20mm×20mm〜100mm×100mmである。別の表現をすれば、LDH配向緻密板の好ましいサイズは25mm以上であり、より好ましくは100〜40000mmであり、さらに好ましくは400〜10000mmである。
【0018】
本発明のLDH配向緻密板は、示差熱分析において300℃以下に明確な吸熱ピークが観察されないLDH粒子から構成されるのが好ましい。すなわち、示差熱分析において主に200℃近辺に観測される明確な吸熱ピークは層間水の脱離によるものと言われており、それに伴って急激に層間距離が変化するなどの大きな構造変化があるとされ、安定な温度領域が狭い可能性が推測されるからである。
【0019】
本発明のLDH配向緻密板は、その両面をJIS R 6001(1998)に規定される#8000の粒度を有する研磨布紙で研磨して厚さ1mmとした場合に、600nmにおける直線透過率が20%以上である透明性を有するのが好ましく、より好ましくは30%以上であり、より好ましくは40%以上である。
【0020】
製造方法
本発明のLDH配向緻密板は、あらゆる方法によって作製されたものであってもよいが、以下に好ましい製造方法の一態様を説明する。この製造方法は、図3にその一例が示されるように、(a)LDHの板状粒子を含んでなる原料粉末を用意し、(b)原料粉末を、せん断力を用いた手法により配向させて、板状粒子の(003)面がシート面と平行に配向されてなる複数枚の配向シートを作製し、(c)これらの配向シートを積層し、(d)得られた配向積層体を焼成し、(e)得られた配向焼成体に水熱処理を施してLDHを再生させ、(f)得られたLDH再生体を乾燥させて、LDH緻密体を得る工程を含む。そして、積層工程(c)後で、かつ、焼成工程(d)、再生工程(e)及び乾燥工程(f)のいずれかの工程の前、中又は後において、配向積層体、配向焼成体、LDH配向再生体、又はLDH緻密体をシート面に由来する面と垂直に切断して、板状粒子の(003)面が板面に対して垂直に配向してなる板を得る工程(g)をさらに含んでなり、その結果、最終結果物としてLDH配向緻密板が得られる。この方法によれば、高度な緻密性のみならず、板厚方向の高度な配向性をも備えた、LDH配向緻密板を安定的且つ効率的に製造することができる。
【0021】
(a)準備工程
一般式:M2+1−x3+(OH)n−x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4である)で表されるLDHの板状粒子を含んでなる原料粉末を用意する。上記一般式において、M2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg2+、Ca2+及びZn2+が挙げられ、より好ましくはMg2+である。M3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl3+又はCr3+が挙げられ、より好ましくはAl3+である。An−は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH及びCO2−が挙げられる。したがって、上記一般式は、少なくともM2+がMg2+を、M3+がAl3+を含み、An−がOH及び/又はCO2−を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1〜0.4であるが、好ましくは0.2〜0.35である。mは任意の実数である。このような原料粉末は市販のLDH製品であってもよいし、硝酸塩や塩化物を用いた液相合成法等の公知の方法にて作製した原料であってもよい。原料粉末の粒径は、所望のLDH配向緻密板が得られる限り限定されないが、体積基準D50平均粒径が0.1〜1.0μmであるのが好ましく、より好ましくは0.3〜0.8μmである。
【0022】
所望により、配向工程前に、原料粉末を仮焼してもよい。仮焼を行うことにより、焼成時におけるクラックの発生を効果的に抑制することができる。この際の仮焼温度は、800℃以下が好ましく、より好ましくは400〜800℃、さらに好ましくは500〜750℃である。仮焼温度の最高温度は、原料粒径が大きく変化させることなく、かつ、結晶構造がMgAlスピネルとMgOに変化しないような温度とするのが好ましい。こうすることで後の再生工程でLDHへの再生を望ましく行うことができる。仮焼温度の最低温度は特に限定されないが、400℃以上であるとLDHの熱分解(すなわち脱水やCO脱離に伴うガス発生)が生じるため、焼成時におけるガス発生が有意に低減され、クラックの発生をより効果的に抑制することができる。
【0023】
(b)配向工程
原料粉末を、せん断力を用いた手法により配向させて、板状粒子の(003)面がシート面と平行に配向されてなる複数枚の配向シートを作製する。せん断力を用いた手法による配向は、原料粉末をスラリー化してテープ成形又は押出成形に付することにより行われるのが好ましい。特に好ましい配向手法はテープ成形であり、典型的なテープ成形法としてはドクターブレード法が挙げられる。せん断力を用いた配向手法は、上記例示したいずれの手法においても、板状酸化亜鉛粉末にバインダー、可塑剤、分散剤、分散媒等の添加物を適宜加えてスラリー化し、このスラリーをスリット状の細い吐出口を通過させることにより、基材上にシート状に吐出及び成形するのが好ましい。吐出口のスリット幅は10〜400μmとするのが好ましい。なお、分散媒の量はスラリー粘度が4000〜100000cPとなるような量にするのが好ましく、より好ましくは5000〜60000cPである。配向シートの厚さは1〜300μmであるのが好ましく、より好ましくは5〜200μmであるのが好ましく、さらに好ましくは10〜100μmである。
【0024】
(c)積層工程
複数枚の配向シートを積層して所望の厚さを有する配向積層体を得る。積層される配向シートの枚数、すなわち積層体の層数は、最終的に得ようとする配向緻密板の面積を確保するに足る厚さを与える枚数とすればよく、例えば100層以上、500層以上、800層以上、又は1000層以上でありうる。
【0025】
配向積層体は、焼成前に、50〜1000kgf/cmの成形圧でプレスされるのが好ましい。こうして配向シートを十分に圧着させることで、配向シートに由来する高い配向性を持ちながら緻密性を高めることができる。このプレスは前駆積層体を真空パック等で包装して、50〜95℃の温水中で50〜2000kgf/cmの圧力で温間等方圧プレスにより好ましく行うことができる。また、押出し成形を用いる場合には、金型内の流路の設計により、金型内で細い吐出口を通過した後、シート状の成形体が金型内で一体化され、積層された状態で成形体が排出されるようにしても良い。得られた成形体には公知の条件に従い脱脂を施すのが好ましい。
【0026】
(d)焼成工程
前記配向積層体を焼成して配向焼成体を得る。配向焼成体を得るための好ましい焼成温度は400〜850℃であり、より好ましくは700〜800℃である。この範囲内の焼成温度で1時間以上保持されるのが好ましく、より好ましい保持時間は3〜10時間である。また、急激な昇温により水分や二酸化炭素が放出して成形体が割れるのを防ぐため、上記焼成温度に到達させるための昇温は100℃/h以下の速度で行われるのが好ましく、より好ましくは5〜75℃/hであり、さらに好ましくは10〜50℃/hである。したがって、昇温から降温(100℃以下)に至るまでの全焼成時間は20時間以上確保するのが好ましく、より好ましくは30〜70時間、さらに好ましくは35〜65時間である。
【0027】
(e)再生工程
前記配向焼成体に水熱処理を施してLDHを再生させ、それによりLDH配向再生体を得る。すなわち、上記工程で得られた配向焼成体を上述したn価の陰イオン(An−)を含む水溶液中又はその直上に保持してLDHへと再生し、それにより水分に富むLDH配向再生体を得る。すなわち、この製法により得られるLDH配向再生体は必然的に余分な水分を含んでいる。なお、水溶液中に含まれる陰イオンは原料粉末中に含まれる陰イオンと同種の陰イオンとしてよいし、異なる種類の陰イオンとしてもよい。酸化物焼成体の水溶液中又は水溶液直上での保持は密閉容器内で水熱合成の手法により行われるのが好ましく、そのような密閉容器の例としてはテフロン(登録商標)製の密閉容器が挙げられ、より好ましくはその外側にステンレス製等のジャケットを備えた密閉容器である。水熱処理は、少なくとも酸化物焼成体の一面が水溶液に接する状態に保持することにより行われるのが好ましい。水熱処理は20〜200℃で行われるのが好ましく、より好ましい温度は50〜180℃であり、さらに好ましい温度は100〜150℃である。このようなLDH化温度で酸化物焼結体が1時間以上保持されるのが好ましく、より好ましくは2〜50時間であり、さらに好ましくは5〜20時間である。このような保持時間であると十分にLDHへの再生を進行させて異相が残るのを回避又は低減できる。なお、この保持時間は、長すぎても特に問題はないが、効率性を重視して適時設定すればよい。
【0028】
LDHへの再生に使用するn価の陰イオンを含む水溶液の陰イオン種として空気中の二酸化炭素(炭酸イオン)を想定する場合は、イオン交換水を用いることが可能である。なお、密閉容器内の水熱処理の際には、酸化物焼成体を水溶液中に水没させてもよいし、治具を用いて少なくとも一面が水溶液に接する状態で処理を行ってもよい。少なくとも一面が水溶液に接する状態で処理した場合、完全水没と比較して余分な水分量が少ないので、その後の工程が短時間で済むことがある。ただし、水溶液が少なすぎるとクラックが発生しやすくなるため、焼成体重量と同等以上の水分を用いるのが好ましい。
【0029】
(f)乾燥工程
上記工程で得られたLDH再生体を乾燥させて、LDH緻密体を得る。すなわち、上記工程で得られたLDH再生体は水分に富むため、乾燥により余剰の水分を除去する。こうして本発明のLDH緻密体が得られる。この余剰の水分を除去する工程は、300℃以下、除去工程の最高温度での推定相対湿度25%以上の環境下で行われるのが好ましい。LDH固化体からの急激な水分の蒸発を防ぐため、室温より高い温度で脱水する場合はLDHへの再生工程で使用した密閉容器中に再び封入して行うことが好ましい。その場合の好ましい温度は50〜250℃であり、さらに好ましくは100〜200℃である。また、脱水時のより好ましい相対湿度は25〜70%であり、さらに好ましくは40〜60%である。脱水を室温(例えば20〜30℃)で行ってもよく、その場合の相対湿度は通常の室内環境における40〜70%の範囲内であれば問題はない。
【0030】
(g)切断工程
積層工程(c)後で、かつ、焼成工程(d)、再生工程(e)及び乾燥工程(f)のいずれかの工程の前、中又は後において、配向積層体、配向焼成体、LDH配向再生体、又はLDH配向緻密板をシート面に由来する面と垂直に切断して、板状粒子の(003)面が板面に対して垂直に配向してなる板を得る。その結果、最終結果物として本発明のLDH配向緻密板が得られる。配向緻密板は、0.001〜1mmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは0.002〜1mmであり、さらに好ましくは0.002〜0.5mmであり、特に好ましくは0.003〜0.25mmであり、最も好ましくは0.005〜0.1mmである。配向緻密板の好ましいサイズは5mm×5mm以上であり、より好ましくは10mm×10mm〜200mm×200mmであり、さらに好ましくは20mm×20mm〜100mm×100mmである。別の表現をすれば、LDH配向緻密板の好ましいサイズは25mm以上であり、より好ましくは100〜40000mmであり、さらに好ましくは400〜10000mmである。
【0031】
(h)研磨工程
所望により、最終結果物として得られたLDH配向緻密板には研磨を更に施してもよい。研磨を行うことにより、表面を平坦にするだけでなく、LDH配向緻密板を所望の厚さに加工することができる。DH配向緻密板の強度が不足する場合には、LDH配向緻密板を多孔質基材に接合させた上で、LDH配向緻密板の表面を研磨してもよい。いずれにしても、LDH配向緻密板に研磨を施すことで、薄膜形態のLDH配向緻密膜を得てもよい。
【実施例】
【0032】
例1:LDH配向緻密板の作製
表1に示される各種条件に従い、LDHの一種であるハイドロタルサイトの緻密板である試料1〜7を作製した。各試料の具体的な作製手順は以下のとおりである。
【0033】
(試料1‐テープ成形)
(a)原料粉末の用意
原料粉末として、市販のLDHであるハイドロタルサイト粉末(DHT−6、協和化学工業株式会社製)を用意した。この原料粉末の組成はMg2+0.75Al3+0.25(OH)COn−0.25/n・mHOであった。
【0034】
(b)シート成形体の作製
原料粉末100重量部に対して、分散媒(キシレン:ブタノール=1:1)100重量部、バインダー(ポリビニルブチラール:積水化学工業株式会社製BM−2)7重量部、可塑剤(DOP:黒金化成株式会社製)3.5重量部、及び分散剤(花王株式会社製レオドールSP−O30)2重量部を混合し、この混合物を減圧下で攪拌して脱泡することにより、スラリーを得た。得られたスラリーの粘度を測定したところ、30000cPであった。このスラリーを、テープ成型機を用いてPETフィルム上に、乾燥後膜厚が25μmとなるようにシート状に成型してシート成形体を得た。
【0035】
(c)シート成形体の積層
得られたシート成形体を25mm×25mmに切り出し、これを1000層積み重ねた。得られた積層体を、温間等方圧プレスにより80℃、300kg/cm、20分間保持の条件で圧着することで、25mm×25mm×25mmの寸法の積層体を得た。
【0036】
(d)焼成
こうして得た積層体をアルミナサヤ中に設置し、蓋を開けた状態で大気雰囲気にて焼成した。この焼成は、急激な昇温により、バインダーやハイドロタルサイト粉末が熱分解し、水分や二酸化炭素を放出して成形体が割れることを防ぐため、30℃/h以下の速度で昇温を行い、750℃で5時間保持した後、冷却することにより行った。
【0037】
(e)再生
こうして得られた焼成体を、外側にステンレス製ジャケットを備えたテフロン(登録商標)製の密閉容器に大気中でイオン交換水と共に封入し、100℃で5時間水熱処理を施して、試料を得た。室温まで冷めた試料は余分な水分を含んでいるため、ろ紙等で軽く表面の水分を拭き取った。
【0038】
(f)自然脱水(乾燥)
こうして得られた試料を20〜30℃、相対湿度が40〜60%程度の室内で自然脱水(乾燥)して乾燥体を得た。
【0039】
(g)切り出し加工
こうして得られた乾燥体を、シート積層時の積層面に対して板面が垂直になるように、20mm×20mm×厚さ1mmの板を切り出して試料1を得た。
【0040】
(試料2‐テープ成形)
シート成形体の作製(工程(b))において分散媒の添加量を120部にし、それによりスラリーの粘度を10000cPとしたこと以外は、試料1と同様にして、試料2を作製した。
【0041】
(試料3‐テープ成形)
シート成形体の作製(工程(b))において分散媒の添加量を150部にし、それによりスラリーの粘度を2000cPとしたこと以外は、試料1と同様にして、試料3を作製した。
【0042】
(試料4‐テープ成形)
工程(a)で用意される原料粉末として、ハイドロタルサイト粉末(DHT−6、協和化学工業株式会社製)を600℃で20時間仮焼した粉末を用いたこと以外は、試料1と同様にして、試料4を作製した。
【0043】
(試料5‐一軸プレス成形/比較)
i)シート成形体の作製及び積層(工程(b)及び(c))の代わりに、原料粉末を直径30mmの金型に充填して300kgf/cmの成形圧で一軸プレス成形することにより(積層体の代わりに)プレス成形体を得たこと、及びii)切り出し加工(工程(g))において、一軸プレス面に対して板面が平行方向になるように、乾燥体から20mm×20mm×厚さ1mmの板を切り出したこと以外は、試料1と同様にして、試料5を作製した。
【0044】
(試料6‐一軸プレス成形/比較)
一軸プレス成形を500kgf/cmの成形圧で行ったこと以外は、試料5と同様にして、試料6を作製した。
【0045】
(試料7‐CIP成形/比較)
i)シート成形体の作製及び積層(工程(b)及び(c))の代わりに、原料粉末をゴム製容器中に入れて真空封じした後、500kgf/cmの成形圧で冷間等方圧加圧(CIP)により成形を行うことにより(積層体の代わりに)プレス成形体を得たこと、及びii)切り出し加工(工程(g))において、乾燥体から任意の方向で20mm×20mm×厚さ1mmの板を切り出しこと以外は、試料1と同様にして、試料7(無配向試料)を作製した。
【0046】
例2:相対密度の測定
例1で作製された試料1〜7の試料の寸法及び重量から密度を算出し、この密度を理論密度で除することにより決定した。なお、理論密度の算出にあたり、Mg/Al=3のハイドロタルサイト理論密度としてJCPDSカードNo.22−0700に記載の2.06g/cmを、Mg/Al=2のハイドロタルサイトの理論密度としてJCPDSカードNo.70−2151に記載される2.09g/cmとを用いた。結果は表1及び2に示されるとおりであった。
【0047】
例3:(003)面の板面垂直方向の配向度評価
例1で作製された試料1〜7の板状試料の板面に対してX線回折を行った。試料1及び7に対して行ったXRDプロファイルを図4に示す。試料7ではカード情報とほぼ同一のピーク強度からなるピーク群が認められ、狙い通り無配向状態になっていたと思われる。これに対し、試料1では、板面における(003)面のピーク強度が弱くなっていることから、試料1においては、(003)面が板面に対して垂直方向に並んでいる(すなわち配向している)ものと認められる。ここで、この配向度の指標として、(003)面のピークの積分強度に対する、(003)面と垂直な面である(110)面のピークの積分強度の比率(110)/(003)を用いた。この値が大きいほど、(003)面が板面に対して垂直方向に配向しているといえる。試料1〜7について求めた(110)/(003)比を表1及び2に示す。
【0048】
例4:(003)面の板面面内方向の配向度評価
例1で作製された試料1〜7について、(003)面の板面面内方向の配向度を調べるため、広角X線回折法(In−Plane法)による測定を行った。この測定は、全自動水平型多目的X線回折装置(リガク社製、SmartLab(回転対陰極型))を用い、出力:45kV、200mA、スキャン方式:φ連続スキャン(φ=0〜360°)、入射角:0.24°、回折角:2θχ=11.2°((003)ピーク)、測定ステップ:1°、スキャン速度:100°/分の条件にて測定を行った。なお、この測定に用いたスリット系は、上流側(X線入射側)から下流側(検出器側)に向けて、1)0.5°入射縦発散防止ソーラースリット、2)0.1mm高さ×10mm幅スリット、3)試料、4)20mm幅スリット、5)0.5°受光縦発散防止ソーラースリット、及び6)20mm幅スリットをこの順に配置して構成した。
【0049】
試料1及び7に対して行った広角X線回折法測定のプロファイルを図5に示す。図5において、試料1では(003)面のピークが面内回転角φで180°の周期で観察されたことから、(003)面が(例3で確認された板面垂直方向のみならず)板面の面内方向にも配向していることが認められた。一方、試料7については、ピークは確認されず、板面面内方向において(003)面が配向していないものと考えられる。ここで、(003)面の面内配向度の指標として、ピークの半値幅を用いた。この半値幅が小さいほど、(003)面の面内配向が強いといえる。試料1〜7について求めた半値幅を表1及び2に示す。
【0050】
例5:伝導度の測定
試料1〜7について、4端子法により伝導度の測定を行った。なお、4端子法では試料にある程度の厚さが必要となることから、各試料の板の切り出し加工工程(g)前の乾燥体から、新たに伝導度の測定用として切り出した。試料1〜4については積層面に対して板面が垂直方向になるように、また試料5〜7については一軸プレス面に対して板面が平行方向になるように、20mm×20mm×厚さ10mmの板状に切り出し、板面と垂直方向(プレス面あるいは一軸プレス面方向)の伝導度を測定した。
【0051】
各試料の板面にPtが担持されたカーボンクロスと発泡ニッケルで電流導入端子を形成し、試料中央部付近にはPt線で電圧端子を形成した。測定はソーラトロン社製1287及び1260を用いて、直流法及び交流インピーダンス法にて求めた。測定は恒温恒湿槽内で、温度30〜85℃、相対湿度は90%の環境下で実施した。直流法では電圧を−0.3〜0.3Vで掃引し、交流インピーダンス法では、AC電圧振幅を100mV、測定周波数範囲は0.1〜1MHzとした。直流法及び交流インピーダンス法ともに同じ伝導率が測定された。温度30℃の測定結果を表1及び2に示す。スラリー条件において、分散媒部数が最も小さく、粘度が最も高いスラリーでテープ成形を行った試料1において、8.3mS/cmと非常に高い伝導度が実現された。また、30〜85℃の温度を変化させた測定から、その活性化エネルギーは0.2〜0.4eVの範囲内であることが分かった。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5