(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(1)カルボキシメチル化セルロースファイバー、(2)第1級アミノ基を有する高分子化合物、(3)酸変性されたポリオレフィン、及び(4)ポリオレフィン樹脂を含有する複合材料。
前記カルボキシメチル化セルロースファイバーは、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度が0.01〜0.40であり、且つセルロースI型の結晶化度が60%以上である、請求項1に記載の複合材料。
(1)カルボキシメチル化セルロースファイバー、(2)第1級アミノ基を有する高分子化合物、(3)酸変性されたポリオレフィン、及び(4)ポリオレフィン樹脂を混練する工程を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合材料の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.複合材料
本発明の複合材料は、(1)カルボキシメチル化セルロースファイバー(以下、「CM化セルロースファイバー」と略記することがある)、(2)第1級アミノ基を有する高分子化合物、(3)酸変性されたポリオレフィン、及び(4)ポリオレフィン樹脂を含む。
【0012】
(1)CM化セルロースファイバー
本発明の複合材料に含有されるセルロースファイバーは、カルボキシメチル基を含む。セルロースにカルボキシメチル置換基を導入することで、セルロースファイバーと、(2)第1級アミノ基を有する高分子化合物のアミノ基との静電相互作用が大きくなる。このことによって、(1)CM化セルロースファイバー同士のネットワーク構造が補強される。また、(3)酸変性されたポリオレフィンの親水基部分が(1)CM化セルロースファイバーと、疎水基部分が(4)ポリオレフィン樹脂とそれぞれ反応して、(1)CM化セルロースファイバーと(4)ポリオレフィン樹脂との界面相互作用が補強される。CM化セルロースファイバーは、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01〜0.40であることが好ましく、0.05〜0.20であることがより好ましい。また、CM化セルロースファイバーにおけるセルロースI型の結晶化度は60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。なお、無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換基が0.01より小さいと、十分に効果を発揮することができない場合がある。一方、無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換基が0.40より大きいと、CM化セルロースファイバーが膨潤あるいは溶解するため、繊維形態を維持できなくなり、ファイバーとして得られなくなる場合がある。また、セルロースI型の結晶化度が60%未満であるとセルロースファイバーの強度が低下し、ポリオレフィン樹脂の補強材としての十分な補強効果が得られなくなる場合がある。
【0013】
CM化セルロースファイバーの製造方法は特に限定されるものではないが、セルロース原料をカルボキシメチル化することによって得ることができる。
【0014】
(セルロース原料)
セルロース原料としては、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするものが知られており、本発明ではそのいずれも使用できる。好ましくは植物又は微生物由来のセルロースであり、より好ましくは植物由来のセルロースである。
【0015】
(カルボキシメチル化)
セルロース原料のカルボキシメチル化は公知の方法を用いて行うことができ、特に限定されない。また、市販のCM化セルロースファイバーを用いてもよい。本発明では、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度が0.01〜0.40であり、セルロースI型の結晶化度が60%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上となるように調整することが好ましい。その一例として次のような製造方法を挙げることができる。発底原料としてセルロースを使用する。溶媒として、3〜20重量倍の水及び/又は低級アルコール、具体的にはメタノール、エタノール、N−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N−ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、又は2種以上の混合媒体を使用する。なお、溶媒における低級アルコールの混合割合は、60〜95重量%である。マーセル化剤として、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5〜20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用する。発底原料、溶媒、及びマーセル化剤を混合し、反応温度0〜70℃、好ましくは10〜60℃、かつ反応時間15分〜8時間、好ましくは30分〜7時間、マーセル化処理を行う。その後、カルボキシメチル化剤(例えば、モノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ナトリウムなど)をグルコース残基当たり0.05〜10.0倍モル添加し、反応温度30〜90℃、好ましくは40〜80℃、かつ反応時間30分〜10時間、好ましくは1時間〜4時間、エーテル化反応を行う。
【0016】
(解繊)
本発明の複合材料に含有されるCM化セルロースファイバーの平均繊維径は4nm〜50μmであることが好ましく、200nm〜50μmであることがより好ましく、500nm〜20μmであることがより一層好ましい。また、CM化セルロースファイバーの平均繊維長は、0.5mm〜5.0mmであることが好ましい。CM化セルロースファイバーの平均繊維径及び平均繊維長を上記範囲内に調整すると、CM化セルロースファイバーによるポリオレフィン樹脂の補強効果が高まる。
【0017】
CM化セルロースファイバーの繊維径および繊維長は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、またはデジタルCCD顕微鏡を用いて、代表的な繊維100本を測定し、平均値を算出した。
【0018】
本発明では、CM化セルロースファイバーの繊維径及び繊維長が上記の範囲になるように、必要に応じて解繊を行う。解繊は、セルロース原料のカルボキシメチル化の後に行ってもよいし、セルロース原料を上記の範囲になるように解繊してからカルボキシメチル化を行ってもよい。解繊をする場合には、これに限定されないが、取扱い容易性から、CM化セルロースファイバーの水分散体を用いることが好ましい。
【0019】
解繊用の装置は特に限定されず、必要に応じて、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの装置や、マスコロイダーを用いることができる。また、後述する他の成分との混合に際して、例えば二軸押出機(二軸混練機)中で解繊と他の成分との混合とを同時に行ってもよい。CM化セルロースファイバーを微細に解繊する場合には、前記水分散体に50MPa以上の圧力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いてもよい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザーでの解繊・分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサーなどの公知の混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて、上記のCM化セルロースファイバーに予備処理を施してもよい。
【0020】
本発明の複合材料において、CM化セルロースファイバーの配合量は、複合材料全体量中、通常1〜94質量%程度、好ましくは2〜92質量%程度である。
【0021】
(2)第1級アミノ基を有する高分子化合物
本発明の複合材料は、分子内に第1級アミノ基を有する高分子化合物を含む。
【0022】
第1級アミノ基を有する高分子化合物の重量平均分子量は、通常1000〜100万程度、好ましくは1200〜70万程度である。
【0023】
なお、本発明において、重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法(PEG換算)、GPC法(プルラン換算)又はGPCカラムに多角度光散乱検出器を接続したGPC−MALLSのいずれかの方法で測定した値である。
【0024】
第1級アミノ基を有する高分子化合物のアミノ基は、有機酸又は無機酸と塩を形成していてもよい。該アミノ基が塩を形成し得る無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等が挙げられ、有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
【0025】
第1級アミノ基を有する高分子化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。第1級アミノ基を有する高分子化合物は、公知の方法で合成してもよく、市販品を使用してもよい。
【0026】
第1級アミノ基を有する高分子化合物としては、例えば下記一般式(A):
【0027】
【化4】
で表されるアリルアミン単位を繰り返し単位として有する化合物及びその塩が挙げられる。
【0028】
一般式(A)で表される繰り返し単位を有する化合物は、前記一般式(A)で表される繰り返し単位の他に、他の繰り返し単位を含む共重合体、グラフト重合体であってもよい。
【0029】
前記一般式(A)で表される繰り返し単位と結合して共重合体、グラフト重合体を形成する他の繰り返し単位としては、例えばポリアクリレート単位、ポリメタクリレート単位、ポリアクリルアミド単位、ポリジアリルアミン単位のような2級アミンを含む単位、ポリメチルジアリルアミン単位のような3級アミンを含む単位、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩単位のような4級アンモニウム塩を含む単位等が挙げられる。各繰り返し単位の結合順は限定されず、ランダムでもブロックでもよい。
【0030】
ただし、一般式(A)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位量が多くなり過ぎると、単位重量当たりの第1級アミノ基の数が減るので好ましくない。一般式(A)で表される繰り返し単位を含む化合物は、一般式(A)で表される繰り返し単位のみを含むホモポリマー又はその塩であることがより好ましい。
【0031】
一般式(A)で表される繰り返し単位を有する化合物の重量平均分子量は、第1級アミノ基を有する高分子化合物として上記したように、通常1000〜100万程度、好ましくは1200〜70万程度である。
【0032】
一般式(A)で表される繰り返し単位を有する化合物の塩としては、塩酸塩、硫酸塩、リン酸、臭化水素酸塩等の無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩等の有機酸塩が挙げられる。一般式(A)で表される繰り返し単位を有する化合物は、アリルアミン等を原料として公知の重合方法で合成することができる。市販品も入手可能である。
【0033】
また、第1級アミノ基を有する高分子化合物としては、例えば下記一般式(B):
【0034】
【化5】
で表されるビニルアミン単位を繰り返し単位として有する化合物及びその塩も挙げられる。
【0035】
一般式(B)で表される繰り返し単位を有する化合物は、前記一般式(B)で表される繰り返し単位の他に、他の繰り返し単位を含む共重合体、グラフト重合体であってもよい。
【0036】
前記一般式(B)で表される繰り返し単位と結合して共重合体、グラフト重合体を形成する他の繰り返し単位としては、ポリアクリレート単位、ポリメチルメタクリレート単位、ポリアクリルアミド単位、ポリビニルホルムアミド単位、ポリビニルアセトアミド単位、ポリジアリルアミン単位のような2級アミンを含む単位、ポリメチルジアリルアミン単位のような3級アミンを含む単位、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩単位のような4級アンモニウム塩を含む単位等が挙げられる。各繰り返し単位の結合順は限定されず、ランダムでもブロックでもよい。
【0037】
ただし、一般式(B)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位量が多くなり過ぎると、単位重量当たりの1級アミノ基の数が減るので好ましくない。一般式(B)で表される繰り返し単位を含む化合物は、一般式(B)で表される繰り返し単位のみを含むホモポリマー又はその塩であることがより好ましい。
【0038】
一般式(B)で表される繰り返し単位を有する化合物の重量平均分子量は、第1級アミノ基を有する高分子化合物について上記したように、通常1000〜100万程度、好ましくは1200〜70万程度である。
【0039】
一般式(B)で表される繰り返し単位を有する化合物の塩としては、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩等の無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩等の有機酸塩が挙げられる。
【0040】
一般式(B)で表される繰り返し単位を有する化合物は、例えばNービニルホルムアミドやN−ビニルアセトアミド等のN置換アミド類の重合体を加水分解するか、またはポリアクリルアミドをホフマン変性する等の公知の重合方法で合成することができる。市販品も入手可能である。
【0041】
さらに、第1級アミノ基を有する高分子化合物としては、例えば下記一般式(C):
【0042】
【化6】
で表される繰り返し単位を有する化合物及びその塩も挙げられる。
【0043】
一般式(C)で表される繰り返し単位を有する化合物は、前記一般式(C)で表される繰り返し単位が直鎖上に伸びていても良いし、分岐構造を取っていても良い。また一般式(C)の他に、他の繰り返し単位を含むグラフト重合体であってもよい。
【0044】
ただし、一般式(C)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位量が多くなり過ぎると、単位重量当たりの1級アミノ基の数が減るので好ましくない。一般式(C) で表される繰り返し単位を含む化合物は、一般式(C)で表される繰り返し単位のみを含むホモポリマー又はその塩であることがより好ましい。このような好ましいホモポリマー又はその塩としては、ポリエチレンイミン又はその塩が挙げられる。
【0045】
一般式(C)で表される繰り返し単位を有する化合物の重量平均分子量は、第1級アミノ基を有する高分子化合物として上記したように、通常1000〜100万程度、好ましくは1200〜70万程度である。
【0046】
一般式(C)で表される繰り返し単位を有する化合物の塩としては、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩等の無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩等の有機酸塩が挙げられる。
【0047】
一般式(C)で表される繰り返し単位を有する化合物は、力チオンポリマーとして知られており、アジリジンを原料として公知の重合方法で合成することができる。市販品も入手可能である。
【0048】
本発明の複合材料は、上記一般式(A)、(B)及び(C)で表される繰り返し単位を有する化合物、並びにこれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0049】
本発明の複合材料において、第1級アミノ基を有する高分子化合物の配合量は、(1)CM化セルロースファイバー100質量部に対して、通常1〜30質量部程度、好ましくは5〜30質量部程度、特に好ましくは10〜20質量部程度である。
【0050】
(3)酸変性されたポリオレフィン
本発明の複合材料は、酸変性されたポリオレフィンを含む。
【0051】
酸変性されたポリオレフィンとしては、α、β−不飽和カルボン酸又はその酸無水物、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、アリルコハク酸、メサコン酸、アニコット酸、及びこれらの酸無水物等で変性されたポリオレフィンを例示することができる。特に、反応効率の点から安価に製造可能な無水マレイン酸変性ポリオレフィンが好ましい。
【0052】
酸変性されたポリオレフィンは、重量平均分子量で通常1万〜10万程度、好ましくは2万〜8万程度の分子量のものを使用すればよい。また、酸で変性されたポリオレフィンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。酸変性されたポリオレフィンは、公知の方法で合成してもよく、市販品を使用してもよい。
【0053】
無水マレイン酸変性ポリオレフィンとしては、例えば、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリブタジエン、無水マレイン酸変性ポリスチレン、無水マレイン酸変性ポリメタクリレート等が挙げられる。また、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の直鎖状オレフィン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン等の分岐状オレフィン、ブタジエン、スチレンなどを有する共重合体の無水マレイン酸変性体も挙げられる。
【0054】
無水マレイン酸で変性されたポリオレフィンは、通常、後述の(4)ポリオレフィン樹脂と同様の骨格を有することが好ましい。すなわち、例えば、(4)ポリオレフィン樹脂としてポリプロピレン樹脂を用いる場合は、(3)酸で変性されたポリオレフィンとして、無水マレイン酸変性ポリプロピレンなどの酸変性ポリプロピレン樹脂を使用することが特に好ましい。
【0055】
酸変性されたポリオレフィンの酸変性率は、通常0.2〜10質量%程度、好ましくは3〜7質量%程度である。
【0056】
本発明の複合材料において、酸変性された高分子化合物の配合量は、(1)CM化セルロースファイバー100質量部に対して、通常4〜50質量部程度、好ましくは10〜30質量部程度である。
【0057】
(4)ポリオレフィン樹脂
本発明の複合材料は、主成分としてポリオレフィン樹脂を含む。ポリオレフィン樹脂は、公知のものを使用すればよい。ポリオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン等の直鎖状αオレフィン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン等の分岐状オレフィン、スチレン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、イソブチレン、イソプレンなどの単独重合体又は共重合体、ノルボルネン骨格を有する環状ポリオレフィン等が挙げられる。
【0058】
ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、通常10万〜40万程度、好ましくは20万〜30万程度である。また、ポリオレフィン樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。ポリオレフィン樹脂は、公知の方法で合成してもよく、市販品を使用してもよい。
【0059】
本発明の複合材料において、ポリオレフィンの配合量は、複合材料全体量中、通常1〜98質量%程度、好ましくは2〜96質量%程度である。
【0060】
本発明の複合材料は、(1)CM化セルロースファイバー、(2)第1級アミノ基を有する高分子化合物、(3)酸変性されたポリオレフィン、及び(4)ポリオレフィン樹脂に加えて、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、水;水酸化ナトリウム、水駿化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ;クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイ力、二酸化チタン、酸化亜鉛等の無機填料;カーボンブラック、グラファイト、ガラスフレーク等の有機填料;ベンガラ、アゾ顔料、フタロシアニン等の染料又は顔料;分散剤、滑剤、可塑剤、離型剤、難燃剤、酸化防止剤(フェノール系酸化防止剤、リン酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤)、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、金属不活性剤、結晶化促進剤(造核剤)、発泡剤、架橋剤、抗菌剤等の改質用添加剤等が挙げられる。
【0061】
(1)CM化セルロースファイバー、(2)第1級アミノ基を有するアミン系高分子化合物、及び(3)酸変性されたポリオレフィンを併用することにより、(1)CM化セルロースファイバーと(4)ポリオレフィン樹脂とを複合材料中でそれぞれ均一に分散させることができ、また、高強度及び高弾性率の複合材料を得ることができる。また、このようにして得られた複合材料を加熱処理することにより、後述の通り、高強度、高弾性率のCM化セルロースファイバー含有成形体を得ることができる。
【0062】
2.複合材料の製造方法
複合材料の製造方法は特に限定されず、(1)CM化セルロースファイバー、(2)第1級アミノ基を有する高分子化合物、(3)酸変性されたポリオレフィン、及び(4)ポリオレフィン樹脂、及び必要に応じて他の成分を混合すればよい。(1)〜(4)の各成分及び他の成分の混練順序は特に限定されない。
【0063】
また、前記(1)〜(4)の各成分及び他の成分の混合方法は、特に限定されず、公知の方法を用いればよい。例えば、前記(1)〜(4)の各成分及び他の成分を二軸押出機(二軸混練機)等で混練することによって、各成分を均一に分散させることができる。前記の通り、本発明においては、(2)第1級アミノ基を有するアミン系高分子化合物、及び(3)酸変性されたポリオレフィンの両者を複合材料中に混合することにより、複合材料に含まれる各成分を均一に分散させることができる。各成分の混合の際の温度は特に限定されず、通常0〜300℃程度である。
【0064】
例えば、CM化セルロースファイバーを二軸押出機等で解繊して、これに前記(2)、(3)、(4)の各成分及び必要に応じて使用される水等の他の成分を加え、攪拌して本発明の複合材料を得てもよい。また、リファイナ一、二軸押出機等を用いて解繊したCM化セルロースファイバーを得る際に、(2)、(3)、(4)の各成分と、必要に応じて使用される他の成分とを一緒に混合し、カルボキシルメチル化したセルロース原料の解繊によるCM化セルロースファイバーの製造と各成分の攪拌とを同時に行ってもよい。
【0065】
3.成形体
本発明の成形体は、後述の通り、前記複合材料を加熱処理することによって得られる。複合材料を加熱処理(加熱、溶融、混練等の処理)する際の温度は、通常100〜300℃程度、好ましくは110〜250℃程度、特に好ましくは110〜220℃程度である。
【0066】
加熱処理する際の温度は、通常、複合材料に含まれる(4)ポリオレフィン樹脂の融点以上の温度とすることが好ましい。
【0067】
成形体は、公知の樹脂成形方法により目的とする形状にすることができる。例えば、通常の熱可塑性樹脂組成物の製造方法と同様の方法を適用することができる。例えば、複合材料を加熱、溶融、混練、ペレタイザ一等によりペレット化した後、得られたペレットを射出成形、金型成形等に供することにより、目的の形状に成形できる。その他、押出成形、中空成形、発泡成形等も採用することができる。
【0068】
複合材料に上記加熱処理によって蒸発する成分がほとんど含まれていなければ、加熱処理の前の複合材料と加熱処理後の成形体に含まれる各成分の量は実質的に同じであると考えられる。すなわち、本発明の成形体中の各成分の量は、前記複合材料における各成分の配合量と同じであると考えることができる。
【0069】
上記の通り、本発明においては、(1)CM化セルロースファイバー、(2)第1級アミノ基を有する高分子化合物、及び前記(3)酸変性されたポリオレフィンを併用することにより、CM化セルロースファイバーとポリオレフィン樹脂とを複合材料中に均一に分散させることができる。また、CM化セルロースファイバー間の結合強度を向上させ、また、親水性の高いCM化セルロースファイバーと疎水性の高いポリオレフィン樹脂との間の界面接着強度を向上させることができる。また、このようにして得られた複合材料を加熱処理することにより、高強度、高弾性率のポリオレフィン系成形体を得ることができる。
【0070】
本発明の成形体においては、(1)CM化セルロースファイバー表面に存在するカルボキシル基およびカルボキシメチル基、(2)成分中の第1級アミノ基、及び(3)成分中の酸変性部位は、加熱により一部又は全部が反応し、結合していると考えられる。これらの結合が、樹脂材料の強度、弾性率の向上に貢献していると考えられる。
【0071】
本発明の成形体は、既存のガラス繊維強化材料におけるガラス繊維をCM化セルロースファイバーに代替したようなものであり、ガラス繊維強化材料に比して軽く、また、廃棄時の焼却灰を低減させることができると考えられる。また、高い強度を有しているので、例えば、パソコン、携帯電話等の家電製品の筐体(ハウジング)に用いることができるし、文具等の事務機器、家具等の生活用品、スポーツ用品、自動車のダッシュボード等の内装、飛行機の荷物入れ、輸送用機器の構造部材、住宅におけるサッシ等の建材等にも使用することができる。更に、絶縁性に優れるので、電気・電子・通信機器への応用が期待できる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
<カルボキシメチル化セルロースファイバーの製造1>
パルプを混ぜることが出来る撹拌機に、パルプ(LBKP、日本製紙社製)を乾燥重量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥重量で88g加え、パルプ固形濃度が15%になるように水を加えた。その後、30℃で30分攪拌した後に70℃まで昇温し、モノクロロ酢酸ナトリウムを117g(有効成分換算)添加した。1時間反応した後に、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.05、結晶化度84%、平均繊維径20.0μm、平均繊維長1.2mmのカルボキシルメチル化したセルロースを得た。
【0074】
(結晶化度の測定)
セルロースI型の結晶化度は、試料のX線回折を測定することで求めた。X線回折は、試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD−6000、島津製作所製)を用いて測定した。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10°〜30°の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6°の002面の回折強度と2θ=18.5°のアモルファス部分の回折強度から次式により算出した。
X
c=(I
002c―I
a)/I
002c×100
X
c:セルロースのI型の結晶化度(%)
I
002c:2θ=22.6°の002面の回折強度
I
a:2θ=18.5°のアモルファス部分の回折強度
【0075】
(カルボキシメチル置換度の測定方法)
試料約2.0gを精秤して、300mL共栓付き三角フラスコに入れた。硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(CMC)をH−CMCにした。その絶乾H−CMCを1.5〜2.0g精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れた。80%メタノール15mLでH−CMCを湿潤し、0.1N−NaOHを100mL加え、室温で3時間振とうした。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1N−H
2SO
4で過剰のNaOHを逆滴定した。カルボキシメチル置換度(CM−DS)は、次式によって算出した。
A=[(100×F’−0.1N−H
2SO
4(mL)×F)×0.1]/(H−CMCの絶乾重量(g))
CM−DS=0.162×A/(1−0.058×A)
A:H−CMCの1gの中和に要する1N−NaOH量(mL)
F’:0.1N−H
2SO
4のファクター
F:0.1N−NaOHのファクター
【0076】
<カルボキシメチル化セルロースファイバーの製造2>
モノクロロ酢酸ナトリウムの量を187g(有効成分換算)に変更した以外は製造1と同様に製造した。得られたカルボキシメチル化セルロースファイバーのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は0.08、結晶化度は83%、平均繊維径は19.1μm、平均繊維長は1.1mmであった。
【0077】
<カルボキシメチル化セルロースファイバーの製造3>
モノクロロ酢酸ナトリウムの量を468g(有効成分換算)に変更した以外は製造1と同様に製造した。得られたカルボキシメチル化セルロースファイバーのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は0.20、結晶化度は73%、平均繊維径は18.6μm、平均繊維長は1.1mmであった。
【0078】
<カルボキシメチル化セルロースファイバーの製造4>
モノクロロ酢酸ナトリウムの量を468g(有効成分換算)、水酸化ナトリウムを乾燥重量で104gに変更した以外は製造1と同様に製造した。得られたカルボキシメチル化セルロースファイバーのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は0.20、結晶化度は62%、平均繊維径は18.5μm、平均繊維長は1.1mmであった。
【0079】
<カルボキシメチル化セルロースファイバーの製造5>
製造1におけるパルプ(LBKP、日本製紙社製)を、パルプ(NBKP、日本製紙社製)に変更した以外は、製造1と同様にした。得られたカルボキシメチル化セルロースファイバーのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は0.05、結晶化度は84%、平均繊維径は19.0μm、平均繊維長2.9はmmであった。
【0080】
<カルボキシメチル化セルロースファイバーの製造6>
製造5で得たカルボキシメチル化したセルロースを、高圧ホモジナイザーで処理し、平均繊維径1.2μm、平均繊維長2.5mmに調整した。
【0081】
<カルボキシメチル化セルロースファイバーの製造7>
製造5で得たカルボキシメチル化セルロースファイバーを、マスコロイダーで処理し、平均繊維径1.1μm、平均繊維長1.2mmに調整した。
【0082】
<実施例1>
製造1で得られたCM化セルロースファイバー(成分(1))、アリルアミン重合体(日東紡株式会社製:商品名「PAA(登録商標)−15C」)(成分(2))、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(三洋化成工業株式会社製:商品名「ユーメックス(登録商標)1010」)(成分(3))、及びポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製:商品名「プライムポリプロ(登録商標)J105」)(成分(4))を添加してミキサーにて15分間攪拌した(各々の成分の固形分比(質量比)は次の通りである。CM化セルロースファイバー:アリルアミン重合体:無水マレイン酸変性ポリプロピレン:ポリプロピレン=30:6:8:56)。
【0083】
得られた混合物を二軸押出機(MFU15TW−45HG、スクリュー直径:15mm、株式会社テクノベル製)で溶融、混練(回転数200rpm、温度180℃)した後、ペレット化した。更に得られたペレットを射出成型機に投入しダンベル型の成型物を得た。成形温度は190℃とした。得られた成型物の引張強度及び引張弾性率を表1に示す。
【0084】
(引張強度の測定)
JIS K7161(プラスチックの引張り試験方法)に基づき1BA形試験片(ダンベル型厚さ2mm)を用いて測定した。
【0085】
(引張弾性率の測定)
株式会社エー・アンド・デイ製「テンシロン万能試験機RTG−1210」を用いて測定した
【0086】
<実施例2>
製造2で得られたCM化セルロースファイバーを用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0087】
<実施例3>
製造3で得られたCM化セルロースファイバーを用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0088】
<実施例4>
製造4で得られたCM化セルロースファイバーを用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0089】
<実施例5>
製造5で得られたCM化セルロースファイバーを用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0090】
<実施例6>
製造6で得られたCM化セルロースファイバーを用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0091】
<実施例7>
製造7で得られたCM化セルロースファイバーを用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0092】
<比較例1>
カルボキシメチル化していないパルプ(LBKP、日本製紙社製)を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0093】
<比較例2>
成分(4)のみで射出成型して得られた成型物の引張強度及び弾性率を測定した。
【0094】
【表1】