(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記直流電流の印加の間、前記第一区画に、水及びZnOの減少に応じた量の水及びZnOを随時補充する工程をさらに含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
前記直流電流の印加の間、前記第二区画から、水の増加に応じた量の水又は前記アルカリ金属水酸化物水溶液を随時除去する工程をさらに含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
前記層状複水酸化物が複数の板状粒子の集合体で構成され、該複数の板状粒子がそれらの板面が前記緻密膜と略垂直に又は斜めに交差するような向きに配向してなる、請求項14又は15に記載の方法。
前記多孔質基材が、セラミックス材料で構成され、該セラミックス材料が、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項17に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、亜鉛二次電池用セパレータの評価方法に関する。本発明で想定される亜鉛二次電池は、ニッケル亜鉛二次電池、亜鉛空気二次電池、酸化銀亜鉛二次電池、酸化マンガン亜鉛二次電池、及びその他各種の亜鉛二次電池であることができる。特に好ましくはニッケル亜鉛二次電池及び亜鉛空気二次電池である。亜鉛二次電池用セパレータは、亜鉛二次電池において正極と負極を隔離するための膜状又は板状の部材であり、水酸化物イオンを通過させ且つそれ以外の望ましくない物質をできるだけ通さない材料であれば、水酸化物イオン伝導性固体電解質(例えばLDH等の水酸化物イオン伝導性無機固体電解質)、多孔質材料(例えばセラミックス多孔体)等のいかなる材料で構成されてもよいが、水酸化物イオン伝導緻密膜を含んでなるものが好ましい。水酸化物イオン伝導緻密膜は、好ましくは層状複水酸化物緻密膜(LDH緻密膜)であるが、これに限定されず、水酸化物イオン伝導性を有するあらゆる緻密膜であってよく、例えば水酸化物イオン伝導性を有する無機材料及び/又は有機材料を含んでなる膜であることができる。いずれにしても、水酸化物イオン伝導緻密膜は透水性を有しない程に緻密な膜であることの好ましい。この緻密膜は水酸化物イオン伝導性を有するが透水性を有しないことで、亜鉛二次電池用セパレータとしての望ましい機能を呈することができる。特に、電池用固体電解質セパレータとしてLDHの適用を考えた場合、バルク形態のLDH緻密体では高抵抗であるとの問題があったが、緻密膜の形態とすることで厚みを薄くして低抵抗化を図ることができる。すなわち、緻密膜は、上述したような各種亜鉛二次電池に適用可能な固体電解質セパレータとして、極めて有用な材料となりうる。もっとも、局所的且つ/又は偶発的に透水性を有する欠陥が緻密膜に存在する場合には、当該欠陥を適当な補修剤(例えばエポキシ樹脂等)で埋めて補修することで水不透性を確保してもよく、そのような補修剤は必ずしも水酸化物イオン伝導性を有する必要はない。
【0013】
本発明の方法は、
図1に模式的に示されるように、(1)容器12内に第一亜鉛極14a及び第二亜鉛極14bを設け、それらの間に評価されるべきセパレータ16を配置する工程と、(2)セパレータ16の一部又は全部をアルカリ金属水酸化物水溶液18に浸漬させる工程と、(3)ZnOを添加する工程と、(4)第一亜鉛極14aと第二亜鉛極14bの間に直流電流を印加し続け、亜鉛デンドライト短絡に起因する急激な電圧低下の有無を確認する工程とを含む。これらの各工程は技術的な整合性を確保できる範囲内で順序の変更や工程の統合を適宜行ってよい。このように、二つの亜鉛極14a,14bの間にセパレータ16を配置して第一亜鉛極14aがカソードとなり且つ第二亜鉛極14bがアノードとなるように直流電流を印加することで、以下の反応:
- 第一亜鉛極14a(カソード): ZnO+H
2O+2e
−→Zn+2OH
−
- 第二亜鉛極14b(アノード): 4OH
−→O
2+2H
2O+4e
−
が起こり、第一亜鉛極14aで亜鉛が析出して亜鉛デンドライトDを成長させる。そして、この直流電流を印加し続けることで、第一亜鉛極14aから亜鉛デンドライトDをセパレータ16及び第二亜鉛極14bに向かって過度に成長させることができる。すなわち、直流電流の印加により亜鉛二次電池において亜鉛デンドライトの成長が起こる充電時の電極反応を疑似的且つ加速的に行わせることにより、亜鉛二次電池に使用された場合に起こるであろう亜鉛デンドライトDの成長挙動を確実かつ高精度に知ることができる。具体的には、セパレータ16のデンドライト抑制性能が低い場合、デンドライトDがセパレータ16で十分に阻止されず、亜鉛デンドライトDがセパレータ16を貫通して第二亜鉛極14bに到達して亜鉛デンドライト短絡を引き起こす。この場合、亜鉛デンドライト短絡に起因する急激な電圧低下が生じるため、この急激な電圧低下を電圧計で検知することで評価対象のセパレータ16のデンドライト抑制性能が劣ることを知ることができる。一方、セパレータ16のデンドライト抑制性能が高ければ、デンドライトDがセパレータ16で効果的に阻止されて、亜鉛デンドライトDの第二亜鉛極14bへの到達が阻止されるか又は有意に遅延される。この場合、亜鉛デンドライト短絡に起因する急激な電圧低下が所定の時間内で生じないため、この急激な電圧低下が無いことを電圧計において確認することで評価対象のセパレータ16のデンドライト抑制性能に優れることを知ることができる。特に、本発明の方法は、二つの亜鉛極14a,14b間の電圧値をモニタリングすることによりデンドライト抑制性能を電気的に感度良く知ることができるので、極めて簡便な手法であるといえる。このように、本発明によれば、二つの亜鉛極14a,14b間における亜鉛デンドライト短絡に起因する急激な電圧低下の有無を確認することにより、亜鉛デンドライトDに起因する正負極間の短絡の可能性を簡便な手法でありながら確実かつ高精度に評価することができる。
【0014】
以下、各工程の詳細について
図1に示される測定装置10を参照しながら説明する。
【0015】
(1)亜鉛極及びセパレータの設置
本発明の方法においては、容器12内に第一亜鉛極14a及び第二亜鉛極14bを互いに離間し且つ対向するように設け、かつ、容器12内にセパレータ16又はセパレータ16を含むセパレータ構造体を配置する。このとき、第一亜鉛極14aを含む第一区画15aと第二亜鉛極14bを含む第二区画15bとを互いにセパレータ16以外の箇所で液体連通を許容しないように隔離する。すなわち、セパレータ16の亜鉛デンドライト抑制能力を正確に評価するためには、第一区画15aと第二区画15bの間でセパレータ16以外の箇所で液体連通させないことが望まれる。これは、亜鉛イオンないし亜鉛錯イオンを含む水溶液がセパレータ16以外の部分を通過してしまうと、仮にセパレータ16が高い亜鉛デンドライト抑制能力を有していても両亜鉛極14a,14b間で亜鉛デンドライト短絡を生じかねないためである。上記のとおり、セパレータ16はセパレータ構造体の形態で配置されてよい。セパレータ構造体は、セパレータ16と、このセパレータ16を担持する支持部材(例えばセパレータ16の外周縁に配設される外枠や治具、或いはセパレータ16の少なくとも一方の側に配設される枠状又は格子状の補強部材や板状、枠状又は格子状の多孔質基材)であることができる。このようなセパレータ構造体の場合であっても、セパレータ16が存在する領域(すなわち通電領域)以外の箇所で液体連通を許容しないことが望まれる。
【0016】
第一亜鉛極14a及び第二亜鉛極14bはともに亜鉛を含む電極であれば特に限定されない。亜鉛は金属亜鉛、亜鉛合金及び/又は亜鉛化合物のいずれの形態で亜鉛極14a,14bに含まれてもよいが、好ましくは金属亜鉛の形態で含まれる。第一亜鉛極14a及び第二亜鉛極14bとして亜鉛板(例えば金属亜鉛板)を用いるのが安価で且つ亜鉛デンドライトの成長を促進しやすい点で好ましい。第一亜鉛極14aと第二亜鉛極14bの間隔は0.05〜1cmであるのが好ましく、より好ましくは0.05〜0.8cm、さらに好ましくは0.1〜0.8cm、特に好ましくは0.1〜0.6cmである。このように短い間隔であると比較的短時間でセパレータ16のデンドライト抑制能力を評価することができる。容器12は、好ましくは樹脂製容器であり、樹脂製容器を構成する樹脂は水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物に対する耐性を有する樹脂であるのが好ましく、より好ましくはポリオレフィン樹脂及びABS樹脂であり、さらに好ましくはABS樹脂である。容器12の内壁には矩形状のセパレータ16及び/又はセパレータ構造体の外縁3辺が市販の接着剤を用いて又は熱融着により固定されるのが好ましく、その際、セパレータ16及び/又はセパレータ構造体と容器12の接合部分は液体連通を許容しないように封止されるのが好ましい。接着剤はエポキシ樹脂系接着剤が耐アルカリ性に特に優れる点で好ましい。
【0017】
(2)アルカリ電解液への浸漬
本発明の方法においては、セパレータ16又はセパレータ構造体を配置する前又は後に、容器12内又は第一区画15a及び第二区画15bに、アルカリ金属水酸化物水溶液18をセパレータ16又はセパレータ構造体の高さを超えない水位で注入してセパレータ16の一部又は全部をアルカリ金属水酸化物水溶液18に浸漬させる。アルカリ金属水酸化物水溶液18をセパレータ16又はセパレータ構造体の高さを超えない水位で注入することで、アルカリ金属水酸化物水溶液18がセパレータ16又はセパレータ構造体の高さを超えて溢れ出て第一区画15a内の液と第二区画15b内の液とが互いに混ざり合うのを防止することができる。例えば、セパレータ16の外周縁に外枠や治具が配設されてセパレータ構造体として構成される場合には、セパレータ構造体を構成する外枠や治具の高さを超えない限り、セパレータ16の高さを超える水位でアルカリ金属水酸化物水溶液18が注入されてよい。いずれにしても、アルカリ金属水酸化物水溶液18に浸漬させるセパレータ16の部分は、セパレータ16の全部であってもよいし、一部であってもよい。セパレータ16の全部をアルカリ金属水酸化物水溶液18に浸漬させる場合には、セパレータ16の全体的なデンドライト抑制能力をより確実に知ることができる。また、セパレータ16の全部ではないとしても、実際に亜鉛二次電池に使用される場合に電解液に接触することが見込まれる主要部分のみを評価することでも、セパレータ16のデンドライト抑制能力を十分に知ることができる。さらに、セパレータ16のごく限られた一部のみをアルカリ金属水酸化物水溶液18に浸漬させる場合には、セパレータ16を局所的に評価するだけで、全体的なデンドライト抑制能力をある程度合理的に予測することができる。
【0018】
アルカリ金属水酸化物水溶液18におけるアルカリ金属水酸化物の濃度は、亜鉛デンドライト成長を促進できる限り特に限定されないが、好ましくは1〜10mol/L、より好ましくは2〜9mol/Lであり、さらに好ましくは3〜9mol/Lであり、特に好ましくは5〜9mol/Lである。アルカリ金属水酸化物の例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム等が挙げられるが、水酸化カリウムがより好ましい。水酸化カリウム水溶液等のアルカリ金属水酸化物水溶液は亜鉛二次電池等のアルカリ電池において使用される典型的な電解液であるため、かかる電解液と近い又は同等の組成の水溶液を用いることで、亜鉛二次電池用セパレータとしての使用態様に近い又は同等の条件にてセパレータ16の亜鉛デンドライト抑制能力を高精度に評価することができる。
【0019】
また、アルカリ金属水酸化物水溶液18にAlを含む化合物が溶解されてなるのが好ましく、第一区画15a及び第二区画15bの両方において互いに同濃度で溶解されてなるのがより好ましい。水酸化カリウム水溶液等のアルカリ金属水酸化物水溶液にLDH緻密膜を接触させた場合、LDHの典型的な構成元素であるAlが水溶液中に溶出して緻密膜の劣化を招くことがあるが、Alを含む化合物を第一及び第二の水溶液に添加しておくことでそのようなAlの溶出及びそれによる緻密膜の劣化を防止することができる。このAlは、何らかの形態で電解液に溶解されていればよく、典型的には、金属イオン、水酸化物及び/又はヒドロキシ錯体の形態で電解液に溶解されうる。例えば、Alが溶解される形態としては、Al
3+、Al(OH)
2+、Al(OH)
2+、Al(OH)
30、Al(OH)
4−、Al(OH)
52−等が挙げられる。Alを含む金属化合物の好ましい例としては、水酸化アルミニウム、γアルミナ、αアルミナ、ベーマイト、ダイアスポア、ハイドロタルサイト、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、より好ましくは水酸化アルミニウム及び/又はγアルミナであり、最も好ましくは水酸化アルミニウムである。Alを含む化合物はアルカリ金属水酸化物水溶液18におけるAl濃度が0.001mol/L以上となるように添加するのが好ましく、より好ましくは0.01mol/L以上、さらに好ましくは0.1mol/L以上、特に好ましくは1.0mol/L以上であり、例えば2.0mol/L以上、3.0mol/L超、又は3.3mol/L以上であってもよい。電解液におけるAlの濃度の上限値は特に限定されず、Al化合物の飽和溶解度に達していてもよいが、例えば20mol/L以下又は10mol/L以下である。
【0020】
(3)ZnOの添加
本発明の方法においては、セパレータ16又はセパレータ構造体の配置後で且つアルカリ金属水酸化物水溶液18の添加前、中又は後に、第一区画15aにZnOを添加する。前述のとおり、第一亜鉛極14aでは直流電流の印加に伴い、ZnO+H
2O+2e
−→Zn+2OH
−の反応が起こってZnOが消費される。そこで、第一区画15a内におけるアルカリ金属水酸化物水溶液18にはZnOが添加されることが望まれる。一方、第二区画15b内におけるアルカリ金属水酸化物水溶液18にはZnOが添加される必要は無い。その意味で、第一区画15a内におけるアルカリ金属水酸化物水溶液18は、ZnOが溶解されていることを除いて、第二区画15b内におけるアルカリ金属水酸化物水溶液18と同種かつ同濃度のアルカリ金属水酸化物水溶液でありうる。
【0021】
直流電流の印加の間、第一区画15aに、水及びZnOの減少に応じた量の水及びZnOを随時補充するのが好ましい。第一区画15aにおいては、第一亜鉛極14aで直流電流の印加に上記のとおりH
2O及びZnOが消費されることから、水及びZnOの減少に応じた量の水及びZnOを随時補充することで、継続的な亜鉛デンドライト成長を促すことができる。一方、直流電流の印加の間、第二区画15bから、水の増加に応じた量の水又はアルカリ金属水酸化物水溶液18を随時除去するのが好ましい。第二亜鉛極14bでは直流電流の印加に伴い、4OH
−→O
2+2H
2O+4e
−の反応が起こってH
2Oが生成することから、水の増加に応じた量の水又はアルカリ金属水酸化物水溶液18を随時除去することで、増量したアルカリ金属水酸化物水溶液18が第二区画15b外に溢れ出て第一区画15a流入したり或いは容器12外に流出するのを防止することができる。
【0022】
(4)直流電流の印加と急激な電圧低下の有無の確認
本発明の方法においては、第一亜鉛極14aと第二亜鉛極14bの間に、第一亜鉛極14aがカソードとなり且つ第二亜鉛極14bがアノードとなるように直流電流を印加し続ける。これにより、第一亜鉛極14aから亜鉛デンドライトDをセパレータ16及び第二亜鉛極14bに向かって過度に成長させ、第一亜鉛極14aと第二亜鉛極14bとの間における亜鉛デンドライト短絡に起因する急激な電圧低下の有無を確認する。急激な電圧低下の有無は
図1に示されるように第一亜鉛極14aと第二亜鉛極14bの間に設けられた電圧計により簡便に知ることができる。このように二つの亜鉛極14a,14b間の電圧値をモニタリングすることによりデンドライト抑制性能を電気的に感度良く知ることができるので、極めて簡便な手法であるといえる。したがって、本発明によれば、二つの亜鉛極14a,14b間における亜鉛デンドライト短絡に起因する急激な電圧低下の有無を確認することにより、亜鉛デンドライトDに起因する正負極間の短絡の可能性を簡便な手法でありながら確実かつ高精度に評価することができる。
【0023】
また、直流電流の印加中又は印加後に、セパレータ16の第二亜鉛極14b側の面における亜鉛痕の有無を判定することをさらに行うのが好ましい。セパレータ16の第二亜鉛極14b側の面に亜鉛痕が存在するということは、亜鉛デンドライト短絡が起きていなかったとしても、セパレータ16を亜鉛イオンないし亜鉛錯イオンが通過したことを示唆するため、将来的に亜鉛デンドライト短絡を引き起こす可能性が少なからずあることを意味する。換言すれば、セパレータ16の第二亜鉛極14b側の面に亜鉛痕が無いということは、デンドライト抑制効果がより一層長期間にわたって期待できることを意味する。亜鉛痕の存在は、セパレータ16の第二亜鉛極14b側の面を目視及び光学顕微鏡観察にて観察して、黒い斑点等で特定される亜鉛痕の有無を判定すればよい。
【0024】
第一亜鉛極14aと第二亜鉛極14bの間に印加される直流電流はセパレータ16の通電面積に対し1〜200mA/cm
2であるのが好ましく、より好ましくは5〜200mA/cm
2、さらに好ましくは5〜100mA/cm
2、特に好ましくは10〜100mA/cm
2、最も好ましくは20〜50mA/cm
2である。第一亜鉛極14aと第二亜鉛極14bの間に印加される直流電流は定電流であることが望ましく、第一亜鉛極14aと第二亜鉛極14bは定電流電源の負極と正極にそれぞれ接続すればよい。
【0025】
本発明の好ましい態様によれば、直流電流を200時間印加しても急激な電圧低下が見られないものを良品と判定することができる。本発明の評価方法によれば直流電流の印加により亜鉛二次電池において亜鉛デンドライトの成長が起こる充電時の電極反応を疑似的且つ加速的に行わせるため、200時間の電流印加を行うことで、亜鉛二次電池に使用された場合に起こるであろう亜鉛デンドライトDの成長挙動を確実かつ高精度に知ることができる。したがって、本発明の一態様によれば、上記方法により評価した場合に直流電流を200時間印加しても急激な電圧低下が見られない、亜鉛二次電池用セパレータが提供される。もっとも、より高い基準で亜鉛デンドライト抑制能力を判断するためには200時間よりも長い時間(例えば300時間、500時間或いは700時間)直流電流を印加することにより良品か否かの判定を行ってもよい。
【0026】
本発明のより好ましい態様によれば、直流電流を200時間印加しても急激な電圧低下が見られず、かつ、直流電流を200時間印加しても亜鉛痕が見られないものを良品と判定することができる。前述のとおり、200時間通電しても急激な電圧低下のみならず亜鉛痕が見られないものは、デンドライト抑制効果がより一層長期間にわたって期待できるためである。すなわち、本発明の評価方法によれば直流電流の印加により亜鉛二次電池において亜鉛デンドライトの成長が起こる充電時の電極反応を疑似的且つ加速的に行わせるため、200時間の電流印加を行い且つ亜鉛痕の有無も確認することで、亜鉛二次電池に使用された場合に起こるであろう亜鉛デンドライトDの成長挙動をより一層確実かつ高精度に知ることができる。したがって、本発明の別の一態様によれば、上記方法により評価した場合に直流電流を200時間印加しても200時間後においても、急激な電圧低下が見られず、かつ、セパレータの第二亜鉛極側の面に亜鉛痕が見られない、亜鉛二次電池用セパレータが提供される。もっとも、前述のとおり、より高い基準で亜鉛デンドライト抑制能力を判断するためには200時間よりも長い時間(例えば300時間、500時間或いは700時間)直流電流を印加することにより良品か否かの判定を行ってもよい。
【0027】
水酸化物イオン伝導緻密膜
上述のとおり、セパレータ16として好ましく用いられる水酸化物イオン伝導緻密膜は、水酸化物イオン伝導性を有するあらゆる緻密膜であってよく、例えば水酸化物イオン伝導性を有する無機材料及び/又は有機材料を含んでなる膜であることができる。水酸化物イオン伝導性を有する無機材料は、一般式:M
2+1−xM
3+x(OH)
2A
n−x/n・mH
2O(式中、M
2+は2価の陽イオン、M
3+は3価の陽イオンであり、A
n−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4であり、mは0以上である)で表される層状複水酸化物を含んでなるのが好ましい。すなわち、好ましい水酸化物イオン伝導緻密膜は層状複水酸化物緻密膜、すなわちLDH緻密膜(以下、LDH膜という)である。水酸化物イオン伝導緻密膜は透水性を有しない膜であることが望まれる。
【0028】
LDH膜は、一般式:M
2+1−xM
3+x(OH)
2A
n−x/n・mH
2O(式中、M
2+は2価の陽イオン、M
3+は3価の陽イオンであり、A
n−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4であり、mは0以上である)で表される層状複水酸化物(LDH)を含んでなり、好ましくはそのようなLDHから主としてなる。上記一般式において、M
2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg
2+、Ca
2+及びZn
2+が挙げられ、より好ましくはMg
2+である。M
3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl
3+又はCr
3+が挙げられ、より好ましくはAl
3+である。A
n−は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH
−及びCO
32−が挙げられる。したがって、上記一般式は、少なくともM
2+にMg
2+を、M
3+にAl
3+を含み、A
n−にOH
−及び/又はCO
32−を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1〜0.4であるが、好ましくは0.2〜0.35である。mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数ないし整数である。
【0029】
LDH膜に含まれる層状複水酸化物は複数の板状粒子(すなわちLDH板状粒子)の集合体で構成され、当該複数の板状粒子がそれらの板面がLDH膜ないし多孔質基材の表面(基材面)と略垂直に又は斜めに交差するような向きに配向してなるのが好ましい。すなわち、LDH結晶は
図2に示されるような層状構造を持った板状粒子の形態を有することが知られているが、上記略垂直又は斜めの配向は、LDH膜にとって極めて有利な特性である。というのも、配向されたLDH膜には、LDH板状粒子が配向する方向(即ちLDHの層と平行方向)の水酸化物イオン伝導度が、これと垂直方向の伝導度よりも格段に高いという伝導度異方性があるためである。実際、本発明者らは、LDHの配向バルク体において、配向方向における伝導度(S/cm)が配向方向と垂直な方向の伝導度(S/cm)と比べて1桁高いとの知見を得ている。すなわち、LDH膜における上記略垂直又は斜めの配向は、LDH配向体が持ちうる伝導度異方性を層厚方向(すなわちLDH膜又は多孔質基材の表面に対して垂直方向)に最大限または有意に引き出すものであり、その結果、層厚方向への伝導度を最大限又は有意に高めることができる。その上、LDH膜は層形態を有するため、バルク形態のLDHよりも低抵抗を実現することができる。このような配向性を備えたLDH膜は、層厚方向に水酸化物イオンを伝導させやすくなる。その上、緻密化されているため、層厚方向への高い伝導度及び緻密性が望まれる電池用セパレータ等の機能膜の用途(例えば亜鉛空気電池用の水酸化物イオン伝導性セパレータ)に極めて適する。
【0030】
特に好ましくは、LDH膜においてLDH板状粒子が略垂直方向に高度に配向してなる。この高度な配向は、LDH膜の表面をX線回折法により測定した場合に、(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出されることで確認可能なものである(但し、(012)面に起因するピークと同位置に回折ピークが観察される多孔質基材を用いた場合には、LDH板状粒子に起因する(012)面のピークを特定できないことから、この限りでない)。この特徴的なピーク特性は、LDH膜を構成するLDH板状粒子がLDH膜に対して略垂直方向(すなわち垂直方向又はそれに類する斜め方向、好ましくは垂直方向)に配向していることを示す。すなわち、(003)面のピークは無配向のLDH粉末をX線回折した場合に観察される最も強いピークとして知られているが、配向LDH膜にあっては、LDH板状粒子がLDH膜に対して略垂直方向に配向していることで(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出される。これは、(003)面が属するc軸方向(00l)面(lは3及び6である)がLDH板状粒子の層状構造と平行な面であるため、このLDH板状粒子がLDH膜に対して略垂直方向に配向しているとLDH層状構造も略垂直方向を向くこととなる結果、LDH膜表面をX線回折法により測定した場合に(00l)面(lは3及び6である)のピークが現れないか又は現れにくくなるからである。特に(003)面のピークは、それが存在する場合、(006)面のピークよりも強く出る傾向があるから、(006)面のピークよりも略垂直方向の配向の有無を評価しやすいといえる。したがって、配向LDH膜は、(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出されるのが、垂直方向への高度な配向を示唆することから好ましいといえる。この点、特許文献1及び2並びに非特許文献1にも開示されるLDH配向膜は(003)面のピークが強く検出されるものであり、略垂直方向への配向性に劣るものと考えられ、その上、高い緻密性も有してないものと見受けられる。
【0031】
水酸化物イオン伝導緻密膜(好ましくはLDH膜)は100μm以下の厚さを有するのが好ましく、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下、最も好ましくは5μm以下である。このように薄いことで緻密膜の低抵抗化を実現できる。上記のような厚さであると、電池用途等への実用化に適した所望の低抵抗を実現することができる。緻密膜の厚さの下限値は用途に応じて異なるため特に限定されないが、セパレータ等の機能膜として望まれるある程度の堅さを確保するためには厚さ1μm以上であるのが好ましく、より好ましくは2μm以上である。
【0032】
水酸化物イオン伝導緻密膜(好ましくはLDH膜)は、少なくとも一方の側に非平坦表面構造を有していてもよい。この非平坦表面構造は隙間及び/又は起伏に富んだものであり、それによって表面積の極めて高い構造となっている。したがって、セパレータとして使用すべく電解液と接触させた場合に、電解液との界面の面積が増加し、その結果、界面抵抗を低くすることができる。そして、このような表面構造を有しつつ、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性を有しない緻密な層構造を備えることで、電解液との界面抵抗が低いLDHセパレータを提供することが可能となる。非平坦表面構造は、緻密膜から遠ざかる方向(典型的には緻密膜に対して略垂直方向)に突出した針状粒子を含むのが好ましい。針状粒子の存在により表面積を有意に高くすることができ、それにより電解液と接触させた場合における界面抵抗をより効果的に有意に低減することができる。針状粒子の断面径は、0.01〜0.5μmが好ましく、より好ましくは0.01〜0.3μmである。針状粒子の高さは0.5〜3.0μmが好ましく、より好ましくは1〜3μmである。なお、本明細書において針状粒子の高さとは緻密膜の表面を基準とし、その表面から突出した部分の高さを意味する。非平坦表面構造は、空隙に富んだ開気孔性粗大粒子を含むのも好ましい。開気孔性粗大粒子の存在により表面積を有意に高くすることができ、それにより電解液と接触させた場合における界面抵抗をより効果的に低減することができる。特に好ましい開気孔性粗大粒子は、複数の針状又は板状粒子が互いに絡み合って複数の空隙を形成するように凝集してなる凝集粒子であり、この形態の凝集粒子はマリモ(毬藻)状粒子と表現することができ、表面積の増大効果に特に優れる。開気孔性粗大粒子は、緻密膜と平行方向に0.5〜30μmの直径を有するのが好ましく、より好ましくは0.5〜20μmである。開気孔性粗大粒子の高さは、0.5〜30μmが好ましく、より好ましくは1〜30μmである。なお、本明細書において開気孔性粗大粒子の高さとは緻密膜の表面を基準とし、その表面から突出した部分の高さを意味する。なお、非平坦表面構造は、針状粒子と開気孔性粗大粒子の両方を含むものであるのも好ましい。
【0033】
複合材料
水酸化物イオン伝導緻密膜(好ましくはLDH膜)は多孔質基材の少なくとも一方の表面に設けられるのが好ましい。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、緻密膜が、多孔質基材の少なくとも一方の表面に設けられた複合材料の形態で用意される。ここで、多孔質基材の表面とは、多孔質基材の概形を板として巨視的に見た場合の板面の最表面を主として指すが、多孔質基材中における微視的に見て板面最表面の近傍に存在する孔の表面をも付随的に包含しうるのはいうまでもない。
【0034】
多孔質基材は、その表面にLDH膜を形成できるものが好ましく、その材質や多孔構造は特に限定されない。多孔質基材の表面にLDH膜を形成するのが典型的ではあるが、無孔質基材上にLDH膜を成膜し、その後公知の種々の手法により無孔質基材を多孔化してもよい。いずれにしても、多孔質基材は透水性を有する多孔構造を有するのが、電池用セパレータとして電池に組み込まれた場合に電解液をLDH膜に到達可能に構成できる点で好ましい。
【0035】
多孔質基材は、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましい。多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。この場合、セラミックス材料の好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、より好ましくは、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの任意の組合せであり、特に好ましくはアルミナ、ジルコニア(例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ))、及びその組合せである。これらの多孔質セラミックスを用いると緻密性に優れたLDH膜を形成しやすい。金属材料の好ましい例としては、アルミニウム及び亜鉛が挙げられる。高分子材料の好ましい例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。上述した各種の好ましい材料はいずれも電池の電解液に対する耐性として耐アルカリ性を有するものである。
【0036】
多孔質基材は0.001〜1.5μmの平均気孔径を有するのが好ましく、より好ましくは0.001〜1.25μm、さらに好ましくは0.001〜1.0μm、特に好ましくは0.001〜0.75μm、最も好ましくは0.001〜0.5μmである。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性を確保しながら、透水性(望ましくは透水性及び通気性)を有しない程に緻密なLDH膜を形成することができる。なお、本明細書において「透水性を有しない」とは、後述する例B5で採用される「緻密性判定試験」又はそれに準ずる手法ないし構成で透水性を評価した場合に、測定対象物(すなわちLDH膜及び/又は多孔質基材)の一面側に接触した水が他面側に透過しないことを意味する。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行うことができる。この測定に用いる電子顕微鏡画像の倍率は20000倍以上であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得ることができる。測長には、電子顕微鏡のソフトウェアの測長機能や画像解析ソフト(例えば、Photoshop、Adobe社製)等を用いることができる。
【0037】
多孔質基材の表面は、10〜60%の気孔率を有するのが好ましく、より好ましくは15〜55%、さらに好ましくは20〜50%である。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性を確保しながら、透水性(望ましくは透水性及び通気性)を有しない程に緻密なLDH膜を形成することができる。ここで、多孔質基材の表面の気孔率を採用しているのは、以下に述べる画像処理を用いた気孔率の測定がしやすいことによるものであり、多孔質基材の表面の気孔率は多孔質基材内部の気孔率を概ね表しているといえるからである。すなわち、多孔質基材の表面が緻密であれば多孔質基材の内部もまた同様に緻密であるといえる。本発明において、多孔質基材の表面の気孔率は画像処理を用いた手法により以下のようにして測定することができる。すなわち、1)多孔質基材の表面の電子顕微鏡画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールの電子顕微鏡画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とする。なお、この画像処理による気孔率の測定は多孔質基材表面の6μm×6μmの領域について行われるのが好ましく、より客観的な指標とするためには、任意に選択された3箇所の領域について得られた気孔率の平均値を採用するのがより好ましい。
【0038】
製造方法
LDH膜及びLDH含有複合材料は、(a)多孔質基材を用意し、(b)所望により、この多孔質基材に、LDHの結晶成長の起点を与えうる起点物質を均一に付着させ、(c)多孔質基材に水熱処理を施してLDH膜を形成させることにより、好ましく製造することができる。
【0039】
(a)多孔質基材の用意
多孔質基材は、前述したとおりであり、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましい。多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。この場合、セラミックス材料の好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、より好ましくは、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの任意の組合せであり、特に好ましくはアルミナ、ジルコニア(例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ))、及びその組合せである。これらの多孔質セラミックスを用いるとLDH膜の緻密性を向上しやすい傾向がある。セラミックス材料製の多孔質基材を用いる場合、超音波洗浄、イオン交換水での洗浄等を多孔質基材に施すのが好ましい。
【0040】
上述のとおり、多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。セラミックス材料製の多孔質基材は、市販品であってもよいし、公知の手法に従って作製したものであってもよく、特に限定されない。例えば、セラミックス粉末(例えばジルコニア粉末、ベーマイト粉末、チタニア粉末等)、メチルセルロース、及びイオン交換水を所望の配合比で混練し、得られた混練物を押出成形に付し、得られた成形体を70〜200℃で10〜40時間乾燥した後、900〜1300℃で1〜5時間焼成することによりセラミックス材料製の多孔質基材を作製することができる。メチルセルロースの配合割合はセラミックス粉末100重量部に対して、1〜20重量部とするのが好ましい。また、イオン交換水の配合割合はセラミックス粉末100重量部に対して、10〜100重量部とするのが好ましい。
【0041】
(b)起点物質の付着
所望により、多孔質基材に、LDHの結晶成長の起点を与えうる起点物質を均一に付着させてもよい。このように起点物質を多孔質基材の表面に均一に付着させた後に、後続の工程(c)を行うことで、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH膜をムラなく均一に形成することができる。このような起点の好ましい例としては、LDHの層間に入りうる陰イオンを与える化学種、LDHの構成要素となりうる陽イオンを与える化学種、又はLDHが挙げられる。
【0042】
(i)陰イオンを与える化学種
LDHの結晶成長の起点は、LDHの層間に入りうる陰イオンを与える化学種であることができる。このような陰イオンの例としては、CO
32−、OH
−、SO
3−、SO
32−、SO
42−、NO
3−、Cl
−、Br
−、及びこれらの任意の組合せが挙げられる。したがって、このような起点を与えうる起点物質を、起点物質の種類に応じた適切な手法で均一に多孔質基材の表面に付着させればよい。表面に陰イオンを与える化学種が付与されることで、Mg
2+、Al
3+等の金属陽イオンが多孔質基材の表面に吸着してLDHの核が生成しうる。このため、後続の工程(c)を行うことで、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH膜をムラなく均一に形成することができる。
【0043】
本発明の好ましい態様によれば、起点物質の付着を、多孔質基材の表面にポリマーを付着させた後、このポリマーに陰イオンを与える化学種を導入することにより行うことができる。この態様においては、陰イオンはSO
3−、SO
32−及び/又はSO
42−であるのが好ましく、このような陰イオンを与える化学種のポリマーへの導入がスルホン化処理により行われるのが好ましい。使用可能なポリマーはアニオン化(特にスルホン化)可能なポリマーであり、そのようなポリマーの例として、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。特に、芳香族系ポリマーがアニオン化(特にスルホン化)しやすい点で好ましく、そのような芳香族系ポリマーの例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。最も好ましいポリマーはポリスチレンである。多孔質基材へのポリマーの付着は、ポリマーを溶解させた溶液(以下、ポリマー溶液という)を多孔質基材の表面(好ましくは多孔質基材の板状概形の最表面を構成する粒子)に塗布することにより行われるのが好ましい。ポリマー溶液は、例えば、ポリマー固形物(例えばポリスチレン基板)を有機溶媒(例えばキシレン溶液)に溶解することにより容易に作製することができる。ポリマー溶液は多孔質基材の内部にまで浸透させないようにするのが、均一な塗布を実現しやすい点で好ましい。この点、ポリマー溶液の付着ないし塗布はスピンコートにより行うのが極めて均一に塗布できる点で好ましい。スピンコートの条件は特に限定されないが、例えば1000〜10000rpmの回転数で、滴下と乾燥を含めて60〜300秒間程度行えばよい。一方、スルホン化処理は、ポリマーを付着させた多孔質基材を、硫酸(例えば濃硫酸)、発煙硫酸、クロロスルホン酸、無水硫酸等のスルホン化可能な酸に浸漬すればよく、他のスルホン化技術を用いてもよい。スルホン化可能な酸への浸漬は室温又は高温(例えば50〜150℃)で行えばよく、浸漬時間は特に限定されないが、例えば1〜14日間である。
【0044】
本発明の別の好ましい態様によれば、起点物質の付着を、陰イオンを与える化学種を親水基として含む界面活性剤で多孔質基材の表面を処理することにより行うことができる。この場合、陰イオンがSO
3−、SO
32−及び/又はSO
42−であるのが好ましい。そのような界面活性剤の典型的な例として、陰イオン界面活性剤が挙げられる。陰イオン界面活性剤の好ましい例としては、スルホン酸型陰イオン界面活性剤、硫酸エステル型陰イオン界面活性剤、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。スルホン酸型陰イオン界面活性剤の例としては、ナフタレンスルホン酸Naホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンスルホコハク酸アルキル2Na、ポリスチレンスルホン酸Na、ジオクチルスルホコハク酸Na、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミンが挙げられる。硫酸エステル型陰イオン界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルNaが挙げられる。多孔質基材の界面活性剤での処理は、多孔質基材の表面に界面活性剤を付着させることができる手法であれば特に限定されず、界面活性剤を含む溶液を多孔質基材に塗布する、又は界面活性剤を含む溶液に多孔質基材を浸漬することにより行えばよい。界面活性剤を含む溶液への多孔質基材の浸漬は、溶液を撹拌しながら室温又は高温(例えば40〜80℃)で行えばよく、浸漬時間は特に限定されないが、例えば1〜7日間である。
【0045】
(ii)陽イオンを与える化学種
LDHの結晶成長の起点は、層状複水酸化物の構成要素となりうる陽イオンを与える化学種であることができる。このような陽イオンの好ましい例としては、Al
3+が挙げられる。この場合、起点物質が、アルミニウムの酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物及びヒドロキシ錯体からなる群から選択される少なくとも1種のアルミニウム化合物であるのが好ましい。したがって、このような起点を与えうる起点物質を起点物質の種類に応じた適切な手法で均一に多孔質部材の表面に付着させればよい。表面に陽イオンを与える化学種が付与されることで、LDHの層間に入りうる陰イオンが多孔質基材の表面に吸着してLDHの核が生成しうる。このため、後続の工程(c)を行うことで、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH膜をムラなく均一に形成することができる。
【0046】
本発明の好ましい態様によれば、起点物質の付着を、多孔質部材にアルミニウム化合物を含むゾルを塗布することにより行うことができる。この場合、好ましいアルミニウム化合物の例として、ベーマイト(AlOOH)、水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)、及び非晶質アルミナが挙げられるが、ベーマイトが最も好ましい。アルミニウム化合物を含むゾルの塗布はスピンコートにより行うのが極めて均一に塗布できる点で好ましい。スピンコートの条件は特に限定されないが、例えば1000〜10000rpmの回転数で、滴下と乾燥を含めて60〜300秒間程度行えばよい。
【0047】
本発明の別の好ましい態様によれば、起点物質の付着を、少なくともアルミニウムを含む水溶液中で、多孔質基材に水熱処理を施して多孔質基材の表面にアルミニウム化合物を形成させることにより行うことができる。多孔質基材の表面に形成させるアルミニウム化合物は好ましくはAl(OH)
3である。特に、多孔質基材(特にセラミックス製多孔質基材)上のLDH膜は成長初期段階で結晶質及び/又は非晶質Al(OH)
3が生成する傾向があり、これを核としてLDHが成長しうる。そこで、このAl(OH)
3を予め水熱処理により多孔質基材の表面に均一に付着させた後に、同じく水熱処理を伴う工程(c)を行うことで、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH膜をムラなく均一に形成することができる。本態様においては、工程(b)及び後続の工程(c)を同一の密閉容器内で連続的に行ってもよいし、工程(b)及び後続の工程(c)をこの順で別々に行ってもよい。
【0048】
工程(b)及び工程(c)を同一の密閉容器内で連続的に行う場合には、後述する工程
(c)で用いる原料水溶液(すなわちLDHの構成元素を含む水溶液)をそのまま工程(b)に用いることができる。この場合であっても、工程(b)における水熱処理を密閉容器(好ましくはオートクレーブ)中、酸性ないし中性のpH域(好ましくはpH5.5〜7.0)にて50〜70℃という比較的低温域で行うことにより、LDHではなく、Al(OH)
3の核形成を促すことができる。また、Al(OH)
3の核形成後、核形成温度での保持又は昇温により、尿素の加水分解が進むことで原料水溶液のpHが上昇していくため、LDHの成長に適したpH域(好ましくはpH7.0超)で工程(c)にスムーズに移行することができる。
【0049】
一方、工程(b)及び工程(c)をこの順で別々に行う場合には、工程(b)と工程(c)とで異なる原料水溶液を用いるのが好ましい。例えば、工程(b)では、Al源を主として含む(好ましくは他の金属元素を含まない)原料水溶液を用いてAl(OH)
3の核形成を行うのが好ましい。この場合、工程(b)における水熱処理を工程(c)とは別の密閉容器(好ましくはオートクレーブ)中、50〜120℃で行えばよい。Al源を主として含む原料水溶液の好ましい例としては、硝酸アルミニウムと尿素を含み、マグネシウム化合物(例えば硝酸マグネシウム)を含まない水溶液が挙げられる。Mgを含まない原料水溶液を用いることでLDHの析出を回避してAl(OH)
3の核形成を促すことができる。
【0050】
本発明の更に別の好ましい態様によれば、起点物質の付着を、多孔質基材の表面にアルミニウムを蒸着した後に、水溶液中で、該アルミニウムを水熱処理によりアルミニウム化合物に変換することにより行うことができる。このアルミニウム化合物は好ましくはAl(OH)
3である。特に、Al(OH)
3に変換することで、これを核としてLDHの成長を促進させることができる。そこで、このAl(OH)
3を水熱処理により多孔質基材の表面に均一に形成させた後に、同じく水熱処理を伴う工程(c)を行うことで、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH膜をムラなく均一に形成することができる。アルミニウムの蒸着は物理蒸着及び化学蒸着のいずれであってもよいが、真空蒸着等の物理蒸着が好ましい。また、アルミニウムの変換のための水熱処理に用いる水溶液は、既に蒸着により与えられているAlと反応してAl(OH)
3を生成可能な組成であればよく、特に限定されない。
【0051】
(iii)起点としてのLDH
結晶成長の起点は、LDHであることができる。この場合、LDHの核を起点としてLDHの成長を促すことができる。そこで、このLDHの核を多孔質基材の表面に均一に付着させた後に、後続の工程(c)を行うことで、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH膜をムラなく均一に形成することができる。
【0052】
本発明の好ましい態様によれば、起点物質の付着を、LDHを含むゾルを多孔質部材の表面に塗布することにより行うことができる。LDHを含むゾルは、LDHを水等の溶媒に分散させて作製したものであってよく、特に限定されない。この場合、塗布はスピンコートにより行われるのが好ましい。スピンコートにより行うのが極めて均一に塗布できる点で好ましい。スピンコートの条件は特に限定されないが、例えば1000〜10000rpmの回転数で、滴下と乾燥を含めて60〜300秒間程度行えばよい。
【0053】
本発明の別の好ましい態様によれば、起点物質の付着を、多孔質基材の表面にアルミニウムを蒸着した後に、アルミニウム以外のLDHの構成元素を含む水溶液中で、(蒸着された)アルミニウムを水熱処理によりLDHに変換することにより行うことができる。アルミニウムの蒸着は物理蒸着及び化学蒸着のいずれであってもよいが、真空蒸着等の物理蒸着が好ましい。また、アルミニウムの変換のための水熱処理に用いる原料水溶液は、既に蒸着により与えられているAl以外の成分を含む水溶液を用いて行えばよい。そのような原料水溶液の好ましい例として、Mg源を主として含む原料水溶液が挙げられ、より好ましくは、硝酸マグネシウムと尿素を含み、アルミニウム化合物(硝酸アルミニウム)を含まない水溶液が挙げられる。Mg源を含むことで、既に蒸着により与えられているAlとともにLDHの核を形成することができる。
【0054】
(c)水熱処理
LDHの構成元素を含む原料水溶液中で、多孔質基材(所望により起点物質が付着されうる)に水熱処理を施して、LDH膜を多孔質基材の表面に形成させる。好ましい原料水溶液は、マグネシウムイオン(Mg
2+)及びアルミニウムイオン(Al
3+)を所定の合計濃度で含み、かつ、尿素を含んでなる。尿素が存在することで尿素の加水分解を利用してアンモニアが溶液中に発生することによりpH値が上昇し(例えばpH7.0超、好ましくは7.0を超え8.5以下)、共存する金属イオンが水酸化物を形成することによりLDHを得ることができる。また、加水分解に二酸化炭素の発生を伴うため、陰イオンが炭酸イオン型のLDHを得ることができる。原料水溶液に含まれるマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンの合計濃度(Mg
2++Al
3+)は0.20〜0.40mol/Lが好ましく、より好ましくは0.22〜0.38mol/Lであり、さらに好ましくは0.24〜0.36mol/L、特に好ましくは0.26〜0.34mol/Lである。このような範囲内の濃度であると核生成と結晶成長をバランスよく進行させることができ、配向性のみならず緻密性にも優れたLDH膜を得ることが可能となる。すなわち、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンの合計濃度が低いと核生成に比べて結晶成長が支配的となり、粒子数が減少して粒子サイズが増大する一方、この合計濃度が高いと結晶成長に比べて核生成が支配的となり、粒子数が増大して粒子サイズが減少するものと考えられる。
【0055】
好ましくは、原料水溶液に硝酸マグネシウム及び硝酸アルミニウムが溶解されており、それにより原料水溶液がマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンに加えて硝酸イオンを含んでなる。そして、この場合、原料水溶液における、尿素の硝酸イオン(NO
3−)に対するモル比(尿素/NO
3−)が、2〜6が好ましく、より好ましくは4〜5である。
【0056】
多孔質基材は原料水溶液に所望の向きで(例えば水平又は垂直に)浸漬させればよい。多孔質基材を水平に保持する場合は、吊るす、浮かせる、容器の底に接するように多孔質基材を配置すればよく、例えば、容器の底から原料水溶液中に浮かせた状態で多孔質基材を固定としてもよい。多孔質基材を垂直に保持する場合は、容器の底に多孔質基材を垂直に設置できるような冶具を置けばよい。いずれにしても、多孔質基材にLDHを略垂直方向又はそれに近い方向(すなわちLDH板状粒子がそれらの板面が多孔質基材の表面(基材面)と略垂直に又は斜めに交差するような向きに)に成長させる構成ないし配置とするのが好ましい。
【0057】
原料水溶液中で、多孔質基材に水熱処理を施して、LDH膜を多孔質基材の表面に形成させる。この水熱処理は密閉容器(好ましくはオートクレーブ)の中、60〜150℃で行われるのが好ましく、より好ましくは65〜120℃であり、さらに好ましくは65〜100℃であり、特に好ましくは70〜90℃である。水熱処理の上限温度は多孔質基材
(例えば高分子基材)が熱で変形しない程度の温度を選択すればよい。水熱処理時の昇温速度は特に限定されず、例えば10〜200℃/hであってよいが、好ましくは100〜200℃/hである、より好ましくは100〜150℃/hである。水熱処理の時間はLDH膜の目的とする密度と厚さに応じて適宜決定すればよい。
【0058】
水熱処理後、密閉容器から多孔質基材を取り出し、イオン交換水で洗浄するのが好ましい。
【0059】
上記のようにして製造されたLDH膜は、LDH板状粒子が高度に緻密化したものであり、しかも伝導に有利な略垂直方向に配向したものである。すなわち、LDH膜は、典型的には、高度な緻密性に起因して透水性(望ましくは透水性及び通気性)を有しない。また、LDH膜を構成するLDHが複数の板状粒子の集合体で構成され、該複数の板状粒子がそれらの板面が多孔質基材の表面と略垂直に又は斜めに交差するような向きに配向してなるのが典型的である。したがって、十分なガスタイト性を有する緻密性を有するLDH膜を亜鉛空気電池等の電池に用いた場合、発電性能の向上が見込めると共に、従来適用できなかった電解液を用いる亜鉛空気電池の二次電池化の大きな障壁となっている亜鉛デンドライト進展阻止及び二酸化炭素侵入防止用セパレータ等への新たな適用が期待される。また、同様に亜鉛デンドライト進展が実用化の大きな障壁となっているニッケル亜鉛電池にも適用が期待される。
【0060】
ところで、上記製造方法により得られるLDH膜は多孔質基材の両面に形成されうる。このため、LDH膜をセパレータとして好適に使用可能な形態とするためには、成膜後に多孔質基材の片面のLDH膜を機械的に削るか、あるいは成膜時に片面にはLDH膜が成膜できないような措置を講ずるのが望ましい。
【実施例】
【0061】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0062】
例A1
本例では、多孔質基材上に層状複水酸化物(LDH)膜を形成したLDH含有複合材料試料として試料A1〜A3を以下のようにして作製した。また、LDH膜を形成しない多孔質基材そのものを試料A4として作製した。
【0063】
(1)多孔質基材の作製
ベーマイト(サソール社製、DISPAL 18N4−80)、メチルセルロース、及びイオン交換水を、(ベーマイト):(メチルセルロース):(イオン交換水)の質量比が10:1:5となるように秤量した後、混練した。得られた混練物を、ハンドプレスを用いた押出成形に付し、2.5cm×10cm×厚さ0.5cmの大きさに成形した。得られた成形体を80℃で12時間乾燥した後、1150℃で3時間焼成して、厚さ200μmのアルミナ製多孔質基材を得た。
【0064】
得られた多孔質基材について、画像処理を用いた手法により、多孔質基材表面の気孔率を測定したところ、40%であった。この気孔率の測定は、1)表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察して多孔質基材表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とすることにより行った。この気孔率の測定は多孔質基材表面の6μm×6μmの領域について行われた。
【0065】
また、多孔質基材の平均気孔径を測定したところ約1μmであった。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行った。この測定に用いた電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得た。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能を用いた。
【0066】
(2)多孔質基材の洗浄
得られた多孔質基材をアセトン中で5分間超音波洗浄し、エタノール中で2分間超音波洗浄、その後、イオン交換水中で1分間超音波洗浄した。こうして得られた多孔質基材単体を試料A4とした。
【0067】
(3)ポリスチレンスピンコート及びスルホン化
試料A1及びA2についてのみ、以下の手順により多孔質基材に対してポリスチレンスピンコート及びスルホン化を行った。すなわち、ポリスチレン基板0.6gをキシレン溶液10mlに溶かして、ポリスチレン濃度0.06g/mlのスピンコート液を作製した。得られたスピンコート液0.1mlを多孔質基材上に滴下し、回転数8000rpmでスピンコートにより塗布した。このスピンコートは、滴下と乾燥を含めて200秒間行った。スピンコート液を塗布した多孔質基材を95%硫酸に25℃で4日間浸漬してスルホン化した。
【0068】
(4)原料水溶液の作製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO
3)
2・6H
2O、関東化学株式会社製)、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO
3)
3・9H
2O、関東化学株式会社製)、及び尿素((NH
2)
2CO、シグマアルドリッチ製)を用意した。カチオン比(Mg
2+/Al
3+)が2となり且つ全金属イオンモル濃度(Mg
2++Al
3+)が0.320mol/Lとなるように、硝酸マグネシウム六水和物と硝酸アルミニウム九水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO
3−=4の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0069】
(5)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に上記(4)で作製した原料水溶液と上記(3)でスルホン化した多孔質基材(試料A1及びA2)又は上記(2)で洗浄した多孔質基材(試料A3)を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度70〜75℃で168〜504時間水熱処理を施すことにより基材表面に層状複水酸化物配向膜の形成を行った。このとき、水熱処理の条件を適宜変更することにより、様々な緻密性を有する10種類の配向膜を作製した。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、層状複水酸化物(以下、LDHという)の緻密膜(以下、膜試料という)を基材上に得た。得られた膜試料の厚さは約1.0〜2.0μmであった。こうして、LDH含有複合材料試料(以下、複合材料試料という)として試料A1〜A3を得た。なお、LDH膜は多孔質基材の両面に形成されていたが、セパレータとしての形態を複合材料に付与するため、多孔質基材の片面のLDH膜を機械的に削り取った。
【0070】
例A2:膜試料の同定
X線回折装置(リガク社製 RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:10〜70°の測定条件で、膜試料の結晶相を測定してXRDプロファイルを得る。得られたXRDプロファイルについて、JCPDSカードNO.35−0964に記載される層状複水酸化物(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて同定を行った。その結果、膜試料A1〜A3のいずれも層状複水酸化物(LDH、ハイドロタルサイト類化合物)であることが確認された。
【0071】
例A3:He透過測定
He透過性の観点から膜試料A1〜A3の緻密性を評価すべくHe透過試験を以下のとおり行った。まず、
図3A及び
図3Bに示されるHe透過度測定系40を構築した。He透過度測定系40は、Heガスを充填したガスボンベからのHeガスが圧力計42及び流量計44(デジタルフローメーター)を介して試料ホルダ46に供給され、この試料ホルダ46に保持された緻密膜48の一方の面から他方の面に透過させて排出させるように構成した。
【0072】
試料ホルダ46は、ガス供給口46a、密閉空間46b及びガス排出口46cを備えた構造を有するものであり、次のようにして組み立てた。まず、緻密膜48の外周に沿って接着剤52を塗布して、中央に開口部を有する治具54(ABS樹脂製)に取り付けた。この治具54の上端及び下端に密封部材56a,56bとしてブチルゴム製のパッキンを配設し、さらに密封部材56a,56bの外側から、フランジからなる開口部を備えた支持部材58a,58b(PTFE製)で挟持した。こうして、緻密膜48、治具54、密封部材56a及び支持部材58aにより密閉空間46bを区画した。なお、緻密膜48は多孔質基材50上に形成された複合材料の形態であるが、緻密膜48側がガス供給口46aに向くように配置した。支持部材58a,58bを、ガス排出口46c以外の部分からHeガスの漏れが生じないように、ネジを用いた締結手段60で互いに堅く締め付けた。こうして組み立てられた試料ホルダ46のガス供給口46aに、継手62を介してガス供給管64を接続した。
【0073】
次いで、He透過度測定系40にガス供給管64を経てHeガスを供給し、試料ホルダ46内に保持された緻密膜48に透過させた。このとき、圧力計42及び流量計44によりガス供給圧と流量をモニタリングした。Heガスの透過を1〜30分間行った後、He透過度を算出した。He透過度の算出は、単位時間あたりのHeガスの透過量F(cm
3/min)、Heガス透過時に緻密膜に加わる差圧P(atm)、及びHeガスが透過する膜面積S(cm
2)を用いて、F/(P×S)の式により算出した。Heガスの透過量F(cm
3/min)は流量計44から直接読み取った。また、差圧Pは圧力計42から読み取ったゲージ圧を用いた。なお、Heガスは差圧Pが0.05〜0.90atmの範囲内となるように供給された。得られた結果は表1に示されるとおりであった。
【0074】
例A4:デンドライト短絡確認試験
セパレータ試料A1〜A4のデンドライト抑制能力を評価すべく、
図1に示されるような測定装置10を構築して亜鉛デンドライトを連続的に成長させる加速試験を行った。具体的には、ABS樹脂の直方体型の容器12を用意して、その中に第一亜鉛極14a及び第二亜鉛極14bを互いに0.5cm離間し且つ対向するように配置した。第一亜鉛極14a及び第二亜鉛極14bは共に金属亜鉛板である。一方、セパレータ試料A1〜A4についてはその外周に沿ってエポキシ樹脂系接着剤を塗布して、中央に開口部を有するABS樹脂製の治具に取り付けて、セパレータ16を含むセパレータ構造体とした。このとき、治具とセパレータ試料の接合箇所で液密性が確保されるように上記接着剤で十分に封止した。そして、容器12内にセパレータ構造体としてセパレータ試料を配置して、第一亜鉛極14aを含む第一区画15aと第二亜鉛極14bを含む第二区画15bとを互いにセパレータ16以外の箇所で液体連通を許容しないように隔離した。このとき、エポキシ樹脂系接着剤を用いて矩形状のセパレータ構造体の外縁3辺(すなわちABS樹脂製の治具の外縁3辺)を容器12の内壁に液密性を確保できるように接着させた。すなわち、セパレータ16を含むセパレータ構造体と容器12の接合部分は液体連通を許容しないように封止された。第一区画15aにアルカリ金属水酸化物水溶液18として6mol/LのKOH水溶液を飽和溶解度相当のZnO粉末とともに入れるとともに、第二区画15bにもアルカリ金属水酸化物水溶液18として6mol/LのKOH水溶液を入れた。また、第一区画15a及び第二区画15bのいずれにおいてもアルカリ金属水酸化物水溶液18には水酸化アルミニウムを1mol/L溶解させた。第一亜鉛極14a及び第二亜鉛極14bを定電流電源の負極と正極にそれぞれ接続するとともに、定電流電源と並列に電圧計を接続した。第一区画15a及び第二区画15bのいずれにおいてもアルカリ金属水酸化物水溶液18の水位はセパレータ試料の全領域がアルカリ金属水酸化物水溶液18に浸漬されるようにし、かつ、セパレータ構造体(治具を含む)の高さを超えない程度とした。
【0075】
こうして構築された測定装置10において、第一亜鉛極14a及び第二亜鉛極14bの間に20mA/cm
2の定電流を最大200時間にわたって継続的に流した。その間、第一区画15aに、水及びZnOの減少に応じた量の水及びZnOを随時補充する一方、第二区画15bから、水の増加に応じた量のアルカリ金属水酸化物水溶液18を随時除去して溢れ出ないようにした。なお、第一区画15aにおいて飽和してこれ以上溶けなくなったZnOについては除去せずにそのまま放置した。このような操作を行いながら、二つの亜鉛極14a,14b間に流れる電圧の値を電圧計でモニタリングしつつ、以下の評価1及び2を行った。
【0076】
<評価1:短絡現象の有無>
2枚の亜鉛板間における亜鉛デンドライト短絡に起因する急激な電圧低下の有無を確認した。その結果、試料A1及びA2については、200時間通電させた時点においても亜鉛デンドライト短絡による急激な電圧降下が無かったことから、デンドライト抑制効果が高いものとして判定した。一方、試料A3は120時間通電させて時点で亜鉛デンドライト短絡による急激な電圧降下が生じたため、デンドライト抑制効果に劣るものとして判定した。試料A4についてはわずか5時間通電させただけで亜鉛デンドライト短絡による急激な電圧降下が生じたため、デンドライト抑制効果に極度に劣るものとして判定した。
【0077】
<評価2:亜鉛痕の有無>
評価1を行った後、セパレータのデンドライト成長側と反対側の面を目視及び光学顕微鏡観察にて観察して、黒い斑点等で特定される亜鉛痕の有無を判定した。試料A1及びA2については200時間通電しても亜鉛痕が見られず表面は白いセラミックスの色のみが観察されたことから、デンドライト抑制効果が特に高いもの(すなわちその後も長期間にわたってデンドライト抑制効果が期待できるもの)として判定した。試料A3については120時間通電して電圧降下が生じた時点では、亜鉛痕は見られず表面は白いセラミックスの色のみが観察された。試料A4については5時間通電して急激な電圧降下が生じた時点で既に、亜鉛痕に相当する黒い斑点が数か所観察された。
【0078】
【表1】
【0079】
例B1〜B5
以下に示される例は本発明によるデンドライト短絡確認試験を行った例ではないが、各種多孔質基材上にLDH緻密膜を形成できることを示す参考例である。
【0080】
例B1
(1)多孔質基材の作製
<試料B1〜B3>
ベーマイト(サソール社製、DISPAL 18N4−80)、メチルセルロース、及びイオン交換水を、(ベーマイト):(メチルセルロース):(イオン交換水)の質量比が10:1:5となるように秤量した後、混練した。得られた混練物を、ハンドプレスを用いた押出成形に付し、2.5cm×10cm×厚さ0.5cmの大きさに成形した。得られた成形体を80℃で12時間乾燥した後、表2に示される温度で3時間焼成して、アルミナ製多孔質基材を得た。焼成後、アルミナ製多孔質基材を2cm×2cm×0.3cmの大きさに加工した。
【0081】
<試料B4及びB5>
ジルコニア(東ソー社製、TZ−3YS(試料B4の場合)又はTZ−8YS(試料B5の場合))、メチルセルロース、及びイオン交換水を、(ジルコニア):(メチルセルロース):(イオン交換水)の質量比が10:1:5となるように秤量した後、混練した。得られた混練物を、ハンドプレスを用いた押出成形に付し、2.5cm×10cm×厚さ0.5cmの大きさに成形した。得られた成形体を80℃で12時間乾燥した後、表2に示される温度で3時間焼成して、ジルコニア製多孔質基材を得た。焼成後、ジルコニア製多孔質基材を2cm×2cm×0.3cmの大きさに加工した。
【0082】
得られた多孔質基材について、画像処理を用いた手法により、多孔質基材表面の気孔率を測定したところ、表2に示されるとおりであった。この気孔率の測定は、1)表面微構造を試料B1に対しては電界放出型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を、試料B2〜B5に対して走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて所定の加速電圧(試料B1では1kV、試料B2〜B5では10〜20kV)で観察して多孔質基材表面の電子顕微鏡画像(倍率10000倍以上、試料B1の場合は100,000倍)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールの電子顕微鏡画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とすることにより行った。この気孔率の測定は多孔質基材表面の試料B1に対して600nm×600nmの領域について、試料B2〜B5に対しては6μm×6μmの領域について行われた。
【0083】
また、多孔質基材の平均気孔径を測定したところ、表2に示されるとおりであった。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(FE−SEM又はSEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行った。この測定に用いた電子顕微鏡(FE−SEM又はSEM)画像の倍率は試料B1では100,000倍、試料B2〜B5では20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得た。測長には、FE−SEM又はSEMのソフトウェアの測長機能を用いた。
【0084】
(2)多孔質基材の洗浄
得られた多孔質基材をアセトン中で5分間超音波洗浄し、エタノール中で2分間超音波洗浄、その後、イオン交換水中で1分間超音波洗浄した。
【0085】
(3)原料水溶液の作製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO
3)
2・6H
2O、関東化学株式会社製)、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO
3)
3・9H
2O、関東化学株式会社製)、及び尿素((NH
2)
2CO、シグマアルドリッチ製)を用意した。カチオン比(Mg
2+/Al
3+)が2となり且つ全金属イオンモル濃度(Mg
2++Al
3+)が0.320mol/Lとなるように、硝酸マグネシウム六水和物と硝酸アルミニウム九水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO
3−=4の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0086】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に上記(3)で作製した原料水溶液と上記(2)で洗浄した多孔質基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度70℃で168時間(7日間)水熱処理を施すことにより基材表面に層状複水酸化物配向膜の形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、層状複水酸化物(以下、LDHという)の緻密膜(以下、膜試料B1〜B5という)を基材上に得た。得られた膜試料の厚さは約1.5μmであった。こうして、層状複水酸化物含有複合材料試料(以下、複合材料試料B1〜B5という)を得た。なお、LDH膜は多孔質基材の両面に形成されていたが、セパレータとしての形態を複合材料に付与するため、多孔質基材の片面のLDH膜を機械的に削り取った。
【0087】
例B2:膜試料の同定
X線回折装置(リガク社製 RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:10〜70°の測定条件で、膜試料B2の結晶相を測定したところ、
図4に示されるXRDプロファイルが得られた。得られたXRDプロファイルについて、JCPDSカードNO.35−0964に記載される層状複水酸化物(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて同定した。その結果、膜試料B2は層状複水酸化物(LDH、ハイドロタルサイト類化合物)であることが確認された。なお、
図4に示されるXRDプロファイルにおいては、膜試料B2が形成されている多孔質基材を構成するアルミナに起因するピーク(図中で○印が付されたピーク)も併せて観察されている。膜試料B1及びB3〜B5についても同様に層状複水酸化物(LDH、ハイドロタルサイト類化合物)であることが確認された。
【0088】
例B3:微構造の観察
膜試料B2の表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察した。得られた膜試料B2の表面微構造のSEM画像(二次電子像)を
図5に示す。
【0089】
また、複合材料試料B2の断面をCP研磨によって研磨して研磨断面を形成し、この研磨断面の微構造を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察した。こうして得られた複合材料試料B2の研磨断面微構造のSEM画像を
図6に示す。
【0090】
例B4:気孔率の測定
膜試料B2について、画像処理を用いた手法により、膜の表面の気孔率を測定した。この気孔率の測定は、1)表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察して膜の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とすることにより行った。この気孔率の測定は膜試料表面の6μm×6μmの領域について行われた。その結果、膜の表面の気孔率は19.0%であった。また、この膜表面の気孔率を用いて、膜表面から見たときの密度D(以下、表面膜密度という)をD=100%−(膜表面の気孔率)により算出したところ、81.0%であった。
【0091】
また、膜試料B2について、研磨断面の気孔率についても測定した。この研磨断面の気孔率についても測定は、例B3に示される手順に従い膜の厚み方向における断面研磨面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得したこと以外は、上述の膜表面の気孔率と同様にして行った。この気孔率の測定は膜試料断面の膜部分について行われた。こうして膜試料B2の断面研磨面から算出した気孔率は平均で3.5%(3箇所の断面研磨面の平均値)であり、多孔質基材上でありながら非常に高密度な膜が形成されていることが確認された。
【0092】
例B5:緻密性判定試験(参考)
膜試料B1〜B5が透水性を有しない程の緻密性を有することを確認すべく、緻密性判定試験を以下のとおり行った。まず、
図7Aに示されるように、例B1において得られた複合材料試料120(1cm×1cm平方に切り出されたもの)の膜試料側に、中央に0.5cm×0.5cm平方の開口部122aを備えたシリコンゴム122を接着し、得られた積層物を2つのアクリル製容器124,126で挟んで接着した。シリコンゴム122側に配置されるアクリル製容器124は底が抜けており、それによりシリコンゴム122はその開口部122aが開放された状態でアクリル製容器124と接着される。一方、複合材料試料120の多孔質基材側に配置されるアクリル製容器126は底を有しており、その容器126内にはイオン交換水128が入っている。すなわち、組み立て後に上下逆さにすることで、複合材料試料120の多孔質基材側にイオン交換水128が接するように各構成部材が配置されてなる。これらの構成部材等を組み立て後、総重量を測定した。なお、容器126には閉栓された通気穴(図示せず)が形成されており、上下逆さにした後に開栓されることはいうまでもない。
図7Bに示されるように組み立て体を上下逆さに配置して25℃で1週間保持した後、総重量を再度測定した。このとき、アクリル製容器124の内側側面に水滴が付着している場合には、その水滴を拭き取った。そして、試験前後の総重量の差を算出することにより緻密度を判定した。その結果、25℃で1週間保持した後においても、イオン交換水の重量に変化は見られなかった。このことから、膜試料B1〜B5(すなわち機能膜)はいずれも透水性を有しない程に高い緻密性を有することが確認された。
【0093】
【表2】