特許第6275669号(P6275669)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6275669
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】樹脂製品
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/70 20060101AFI20180129BHJP
   A47K 13/30 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   B29C65/70
   A47K13/30 A
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-118529(P2015-118529)
(22)【出願日】2015年6月11日
(65)【公開番号】特開2017-1315(P2017-1315A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2016年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180885
【氏名又は名称】児玉化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 弘
(72)【発明者】
【氏名】関山 政義
【審査官】 関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−113785(JP,A)
【文献】 特開平11−147265(JP,A)
【文献】 特開2002−225080(JP,A)
【文献】 特開2003−245940(JP,A)
【文献】 特開平09−290437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/70
A47K 13/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂部品同士を接合することにより形成される樹脂製品であって、
一方の樹脂部品の接合部と、他方の樹脂部品の接合部とを当接して接合されており、
一方の樹脂部品の接合部には、溝部と、溝部の一側に沿って延びる嵌合壁部が形成され、
他方の樹脂部品の接合部には、溝部と、溝部の一側に沿って延びる嵌合凹部が形成され、
一方の樹脂部品と他方の樹脂部品との当接状態において、一方の樹脂部品の溝部と他方の樹脂部品の溝部とによって空洞部が形成されるとともに、空洞部の一側において嵌合壁部と嵌合凹部とが嵌合し、前記空洞部の外周側に前記空洞部と外部とを連通する連通部が形成され、一方の樹脂部品の溝部及び他方の樹脂部品の溝部の外周壁を外周側に1〜3度傾斜させた
ことを特徴とする樹脂製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、内部にヒータ等を配置することができる中空部を有する便座等、樹脂部材同士を射出により接合して形成される樹脂製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、便座に中空部を形成して内部にヒータ等を配置してなる便座が開発されており、中空部を形成するために便座を上側部品と下側部品とにより構成し、上側部品と下側部品とを接合することにより便座を形成することが行われている。
このような便座の上側部品と下側部品等の樹脂部品同士の接合は、振動溶着(特許文献1)によって行われるか、もしくは、上側部品と下側部品との間の隙間(通路)に溶着用の樹脂を射出して固着する(特許文献2)ことによって行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5351489号公報
【特許文献2】特許第3733778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示された振動溶着による接合方法は、溶着によって生じたバリ等を削るなどの仕上げ工程が大幅に必要となり、全体として製造工程が増加してしまった。一方、上記特許文献2に開示された樹脂を射出して固着する接合方法は、射出部分の入口に突起を設けて射出時の樹脂漏れを防いでおり、射出後突起を潰すことから、突起の潰しにばらつきが生じて段差が残ってしまうことがあった。
【0005】
本発明は、上記事情を鑑みたものであり、製造工程を増やすことなく、樹脂部材の接合を確実に行うことができる樹脂製品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、樹脂部品同士を接合することにより形成される樹脂製品であって、一方の樹脂部品の接合部と、他方の樹脂部品の接合部とを当接して接合されており、一方の樹脂部品の接合部には、溝部と、溝部の一側に沿って延びる嵌合壁部が形成され、他方の樹脂部品の接合部には、溝部と、溝部の一側に沿って延びる嵌合凹部が形成され、一方の樹脂部品と他方の樹脂部品との接合状態において、一方の樹脂部品の溝部と他方の樹脂部品の溝部とによって空洞部が形成されるとともに、空洞部の一側において嵌合壁部と嵌合凹部とが嵌合していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
樹脂部品同士の接合面を当接させて、接合部に樹脂を射出することにより接合する際に、射出した樹脂が接合面の当接部分から漏れ出すことなく充填することができ、樹脂部品同士を確実に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(a)は、本発明の実施形態に係る便座の平面図であり、(b)は、図1(a)におけるx−x部分の断面図である。
図2】(a)は、本発明の実施形態に係る便座の図1におけるx−x部分の部品断面図であり、(b)は、その接合部分の拡大図である。
図3】(a)は、本発明の実施形態に係る便座の図1におけるx−x部分の上側部品と下側部品とを接合した状態の図であり、(b)は、その接合部分の拡大図である。
図4】(a)は、本発明の実施形態に係る便座の図1におけるx−x部分の上側部品と下側部品とを接合して型に収納して樹脂を射出している状態の図であり、(b)は、上側部品の接合部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の樹脂製品の実施形態として、中空部を備える便座を示しながら、図面を参考にして説明する。
−便座(樹脂製品)の構成−
図1(a)に示すように、本発明の樹脂製品の実施形態に係る便座1は、全体として平面視で半楕円形状を有し、その中央部に前後方向に長い略楕円形状の開口1aが形成されており、後側辺に設けたヒンジ部1bにより便器本体の上面に対して、回動自在に取り付けられている。
便座1は、例えばポリプロピレン等の樹脂からなる樹脂部品である上側部品11と下側部品12とを、その側端部に形成された接合部において上下方向に接合することにより形成されており、中空部14内にはヒータ1c等が配置されている。
なお、以下の説明において、図1(b)に示すように、開口1a側(左側)を「内周側」といい、反開口側(右側)を「外周側」という。
【0010】
図2に示すように、便座1の上側部品11は、中央の開口1aに向かって下方に傾斜する上面部111と、上面部111の外周側から下方に向けて延設される上外壁部112と、上面部111の内周側から下方に向けて延設される上内壁部113とから形成されており、一方、便座1の下側部品12は、略平坦な下面部121と、下面部121の外周側から上方に向けて延設される下外壁部122と、下面部121の内周側に形成される下内壁部123とから形成されている。そして、上側部品11の上外壁部112と上内壁部113の下端部分、下側部品12の下外壁部122と下内壁部123の上端部分が上側部品と下側部品とを接合する接合部(図2のA,B,C,Dで示す部分)として構成されている。
【0011】
上側部品11の上外壁部112の接合部Aは略水平な接合面112aを有しており、接合面112aの外周側に下方に開口する上溝部112bが形成されており、上溝部112bを構成する外周側の外周壁112cの下面は接合面112aに比べて上方に位置している。接合面112aの内周側には下方に延設する嵌合壁部112dが形成されており、嵌合壁部112dの内面は便座1の中空部の内面と連続している。
下側部品12の下外壁部122の接合部Bは略水平な接合面122aを有しており、接合面122aの外周側に上方に開口する下溝部122bが形成され、下溝部122bを構成する外周側の外周壁122cの上面は接合面122aに比べて下方に位置している。接合面122aの内周側には下方にへこむ嵌合凹部122dが形成されている。
なお、上側部品11の上内壁部113の接合部C及び下側部品12の下内壁部123の接合部Dの構成は、上外壁部112及び下外壁部122の構成と略同様であるので、説明を省略する。
【0012】
−上側部品と下側部品との接合−
上側部品11と下側部品12とからなる便座1は、上側部品11と下側部品12とを上下方向に当接させた状態で型内に収容し、上側部品11と下側部品12の接合部の当接部分に形成される空洞部に対して接合用の樹脂を射出(注入)することにより形成される。
以下、便座1の形成方法について、接合部Aと接合部Bとの接合部分を用いて、詳細に説明する。
【0013】
図3に示すように、上側部品11と下側部品12の接合部同士を当接した状態においては、上側部品11の接合部Aの接合面112aと下側部品12の接合部Bの接合面122aとが上下方向に水平な当接面をもって当接しており、当接面の外周側には上側部品11の上溝部112bと下側部品12の下溝部122bとによって便座1の長手方向に沿って延びる空洞部13が形成されている。
そして、上溝部112b及び下溝部122bの外周側の外周壁112c,122cはともに接合面112a,122aよりも上下方向で短く形成されていることから、空洞部13の外周側は当接することなく、空洞部13と外部とを連通する連通部13aが形成されている。
一方、空洞部13の内周側には、上側部品11の接合面112aから延設される嵌合壁部112dが、下側部品12の接合面122aに形成された嵌合凹部122dに嵌まりこみ、上側部品11と下側部品12とが空洞部13の内周側(中空部側)で重複して接合されており、接合面112a,122a同士が当接して形成される接合面が便座1の中空部に対して直線的に連続しないように形成されている。
なお、上側部品11と下側部品12との接合に際して、両者の接合部に、図1(a)に点線で示すように、便座の中空部に向かって部分的に突出するように肉厚部を形成するか、もしくは全周に亘って接合部の肉厚を大きくするなどし、該肉厚部、もしくは肉厚を大きくした接合部に凸部と凹部とによる位置決め部1dを設けることにより、上側部品11と下側部品12の接合部の長手方向の位置決めを行うことができ、製造精度を向上させることができる。
【0014】
図4に示すように、上下方向に当接して組み立てられた上側部品11及び下側部品12は、上型51及び下型52により形成される収納空間内に収納される。収納空間は、便座1の外形と略同様の形状をなしており、収納空間内で便座1ががたつくことがないように収容される。空洞部13と外部とを連通する連通部13aは、上型51及び下型52の当接部付近に配置され、図1(a)に三角の印aで示すように、便座1の外周側及び内周側の複数箇所において、上型51と下型52の当接部に連通部13aに連通する樹脂供給口51aが形成される。そして、上型51及び下型52を型締めした後、樹脂供給口51aより接着用樹脂を射出(注入)することにより、空洞部13の内部に接着用樹脂が供給される。接着用樹脂としては、便座1の材料と同じ例えばポリプロピレン等の熱可塑性樹脂を用いることができ、溶融状態とした接着用樹脂を空洞部13内に射出(注入)することにより、溶融状態の接着用樹脂が接触した部位の上側部品11及び下側部品12が溶融し、注入した樹脂と共に冷却して硬化することで上側部品11と下側部品12とが強固に接合される。
接着用樹脂の冷却硬化後、上下の型51,52を外して便座1を取り出し、表面を磨くなどの仕上げ処理をすることで便座1が形成される。
【0015】
なお、接合部の構成をより理解するために各部分の寸法を図4(b)に例示すると、嵌合壁部112dの厚み寸法a=1.5mm、接合面112aの厚み寸法b=1.5mm、上溝部112b(空洞部13)の厚み寸法c=2mm、外周壁112cの厚み寸法d=1mm、連通部13aの高さ寸法e=1mm、空洞部13の高さ寸法f=5mmとしている。
このように、外周壁112cの厚み寸法dを1mm程度の比較的薄い板状に形成することにより、射出された接着用樹脂が優先的に空洞部13内を充填するように流れた際に、空洞部13内に充填された接着用樹脂の圧力によって外周壁112c,122cが撓むなどして上型51及び下型52に対して押しつけられるので、外周壁112c,122cと上、下型51,52との間に接着用樹脂が漏れることを防ぎ、成型後の便座1の表面に樹脂漏れよるヒケや変形が生じることを抑制することができる。
なお、上側部品11の外周壁112c及び下側部品12の外周壁122cをそれぞれ図3(b)に点線で示すように1〜3度程度傾斜させることで、上側部品11及び下側部品12に成形変動や収縮率変動等により寸法変動が生じても、両外周壁112c,122cの上、下型51,52への当たりむらを無くし、両外周壁112c,122cと上、下型51,52との間に隙間が生じて接着用樹脂が漏れることを一層防止することができる。
【0016】
また、溶融状態の接着用樹脂を射出(注入)する際には、樹脂の射出(注入)によって空洞部13の内周を構成する接合面112a,122aの当接部が離間して接着用樹脂が漏れ出す可能性があるが、本実施形態の便座1においては、空洞部13の内周側は、上側部品11の接合面112aから延設される嵌合壁部112dが下側部品12の接合面122aに形成された嵌合凹部122dに嵌まりこみ、空洞部13の内周側において上側部品11と下側部品12とが重複するように接合しているので、射出によって上側部品11と下側部品12とに若干の反り等が発生した場合であっても、上側部品11と下側部品12との間に中空部に直線的に連通する連通路が形成されることがない。
【0017】
また、空洞部に射出(注入)された溶融状態の接着用樹脂は、接合面112a,122aの間を通って便座1の中空部内に侵入しようとするが、接合面112a,122a同士が当接して形成される当接面は、嵌合壁部112dと嵌合凹部122dとの嵌まり込みによって形成される嵌合面に連続して、当接面の内周側が下方に屈曲した後内周に屈曲する屈曲路として形成されているので、射出された溶融状態の接着用樹脂が直線的に中空部内に侵入することがなく、屈曲路によって侵入の勢いが抑えられ、中空部内に達することなく冷却硬化されるので、中空部(裏面)への接着用樹脂の漏れを起こし難い。
【0018】
さらに、空洞部13及び空洞部13に連通する連通部13aは、接合面112aと接合面122aとの当接面を挟んで上下に対称となっており、連通部13aより射出された接着用樹脂は、空洞部13において上側部品11の上溝部112b及び下側部品12の下溝部122bに対して均一に射出され、どちらか一方に偏って射出されることで一方の部品が大きく変形することを防止している。
【0019】
以上のように、本発明の実施形態に係る便座においては、便座を構成する上側部品と下側部品との接合状態において、接合面を中心とする空洞部を形成するとともに、空洞部の外周側の外周壁が比較的薄く形成されているので、空洞部内に射出されて空洞部内に充填される接着用樹脂の圧力により、外周壁が撓むなどして型に押しつけられて樹脂部材と型との間に接着用樹脂が漏れ出すことが防止される。
また、空洞部の中空部側を上側部材の嵌合壁部と下側部材の嵌合凹部との嵌まり込みにより接合させ、上側部品と下側部品とが空洞部の中空部側で重複して接合されているので、溶融状態の接着用樹脂の射出による空洞部の中空部側が変形することを抑制することができ、上側部品と下側部品との接合部が離間することなく、接着用樹脂が便座の中空部内に漏れ出すことを防止することができる。
また、空洞部に射出される接着用樹脂が空洞内で上側部品と下側部品とに対して均一に射出(注入)されるために、上側部品もしくは下側部品の一方に偏って射出されることによって大きく変形されることを防止できるので、上側部品と下側部品との接合部の離間をさらに抑制し、接着用樹脂が便座の中空部内に漏れ出すことを防止することができる。
【0020】
以上、本発明の実施形態として、中空部を備える便座を参考に説明したが、本発明の樹脂製品は、便座に限定されるものではなく、射出により接合されて形成されるものであれば、どのようなものであってもよく、本発明の樹脂製品に用いられている接合構造を備えることにより、接合面の外観がよく、特に仕上げ処理を行う必要がないという格別の作用効果を備えるものである。
そして、特に、便座として採用することにより、接合部の隙間がなく、汚水や汚物等が付着しても容易に拭き取りができ、衛生的で好ましい。
なお、上記実施形態において例示された樹脂部品の接合部の寸法は、一例に過ぎず、例えば、位置決め部1dを設けるために接合部の全周に亘って肉厚を大きくする場合などには、嵌合壁部112d(嵌合凹部122d)の寸法を2.0mm以上とするなど、適宜決定することができる。
また、上記実施形態において、型の構成は、特に上下二つに分割するものに限るものではなく、横方向に分割するものでも、また、三つ以上の複数に分割するものでもよい。
【符号の説明】
【0021】
1 :便座
11 :上側部品
111 :上面部
112 :上外壁部
112a :接合面
112b :上溝部
112c :外周壁
112d :嵌合壁部
113 :上内壁部
12 :下側部品
121 :下面部
122 :下外壁部
122a :接合面
122b :下溝部
122c :外周壁
122d :嵌合凹部
123 :下内壁部
13 :空洞部
13a :連通部
14 :中空部
51 :上型
51a :樹脂供給口
52 :下型
図1
図2
図3
図4