【実施例1】
【0024】
図1ないし
図5を参照して、本発明の実施例1に係る摺動部品について説明する。
なお、以下の実施例においては、摺動部品の一例であるメカニカルシールを例にして説明する。また、メカニカルシールを構成する摺動部品の外周側を高圧流体側(被密封流体側)、内周側を低圧流体側(大気側)として説明するが、本発明はこれに限定されることなく、高圧流体側と低圧流体側とが逆の場合も適用可能である。
【0025】
図1は、メカニカルシールの一例を示す縦断面図であって、摺動面の外周から内周方向に向かって漏れようとする高圧流体側の被密封流体を密封する形式のインサイド形式のものであり、高圧流体側のポンプインペラ(図示省略)を駆動させる回転軸1側にスリーブ2を介してこの回転軸1と一体的に回転可能な状態に設けられた一方の摺動部品である円環状の回転環3と、ポンプのハウジング4に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で設けられた他方の摺動部品である円環状の固定環5とが設けられ、固定環5を軸方向に付勢するコイルドウェーブスプリング6及びベローズ7によって、ラッピング等によって鏡面仕上げされた摺動面S同士で密接摺動するようになっている。すなわち、このメカニカルシールは、回転環3と固定環5との互いの摺動面Sにおいて、被密封流体が回転軸1の外周から大気側へ流出するのを防止するものである。
なお、
図1では、回転環3の摺動面の幅が固定環5の摺動面の幅より広い場合を示しているが、これに限定されることなく、逆の場合においても本発明を適用出来ることはもちろんである。
【0026】
図2は、本発明の実施例1に係る摺動部品の摺動面を示したものであって、ここでは、
図2の固定環5の摺動面に流体循環溝が形成される場合を例にして説明する。
なお、回転環3の摺動面に流体循環溝が形成される場合も基本的には同様であるが、その場合、流体循環溝は被密封流体側に連通すればよいため、摺動面の外周側まで設けられる必要はない。
【0027】
図2(a)において、固定環5の摺動面の外周側が高圧流体側であり、また、内周側が低圧流体側、例えば大気側であり、相手摺動面は反時計方向に回転するものとする。
固定環5の摺動面には、高圧流体側に連通されると共に低圧流体側とは摺動面の平滑部R(本発明においては、「ランド部」ということがある。)により隔離された流体循環溝10が周方向に複数設けられている。
【0028】
流体循環溝10は、高圧流体側から入る入口部10a、高圧流体側に抜ける出口部10b、及び、入口部10a及び出口部10bとを周方向に連通する連通部10cから構成されている。流体循環溝10は、摺動面において腐食生成物などを含む流体が濃縮されることを防止するため、積極的に高圧流体側から被密封流体を摺動面上に導入し排出するという役割を担うものであり、相手摺動面の回転方向に合わせて摺動面上に被密封流体を取り入れ、かつ、排出しやすいように入口部10a及び出口部10bが形成される一方、漏れを低減するため、低圧流体側とはランド部Rにより隔離されている。
【0029】
なお、流体循環溝10は低圧流体側とはランド部Rにより隔離されているとはいっても、低圧流体側と圧力勾配が存在する限り微量の漏れは避けられず、
図2(a)に示す流体循環溝10のように低圧流体側に近い連通部10cにおいては最も圧力勾配が大きいため、連通部10cから流体の漏洩が発生しやすいものである。
【0030】
本例では、流体循環溝10は、入口部10a及び出口部10bの傾斜角度が大きく設定され、両者は低圧流体側(
図2においては内周側)において交差するように略V字状に配設され、この交叉部が連通部10cを形成している。入口部10aと出口部10bとの交叉角度は鈍角(例えば、約150°)であるが、特にこれに限定されるものではなく、入口部10a及び出口部10bの傾きをさらに大きくしてもよく、また、直線状ではなく曲線状(円弧状など)にしてもよい。また、流体循環溝10の幅及び深さは、被密封流体の圧力、種類(粘性)などに応じて最適なものに設定されるが、この点については、後に、詳細に説明する。
なお、本明細書において、「入口部及び出口部の傾斜角度が大きく」とは、例えば
図2において、入口部及び出口部のそれぞれの傾斜角度が入口部及び出口部と固定環の中心を結ぶ線よりも高圧流体側に向かうにつれてより大きく開くように傾斜していることを意味する。
【0031】
図2(a)に示す流体循環溝10は、入口部10a及び出口部10bの傾斜角度が大きいため、入口部10aへの流体の流入及び出口部10bからの流体の排出が容易である。 また、流入低圧流体側に近い連通部10cの長さが短いことから、連通部10cから低圧流体側への漏洩は減少される。
【0032】
図2(b)に示す固定環5は、流体循環溝10の形状が略直線状をなしている点で
図2(a)と異なると共に、流体循環溝10が周方向に3等配で設けられている点で相違するが、その他の基本構成は
図2(a)と同じである。
図2(b)に示す流体循環溝10は、入口部10a、連通部10c及び出口部10bが略直線状をなしているため、入口部10aから出口部10bへの流体の流通が容易であり、さらに、連通部10cから低圧流体側への漏洩も少ない。
【0033】
図3(a)に示す固定環5は、流体循環溝10の形状が略U字状をなしている点で
図2(a)と異なると共に、流体循環溝10が周方向に8等配で設けられている点でも相違するが、その他の基本構成は
図2(a)と同じである。
図3(a)に示す流体循環溝10は、入口部10a及び出口部10bが固定環の中心を通るように高圧流体側に向けて開かれ、入口部10a及び出口部10bの内周側端部が固定環5の中心を中心とする円弧状の連通部10cにより接続されている。
【0034】
図3(b)に示す固定環5は、主に、流体循環溝が周方向に連通するように設けられている点で
図3(a)と異なると共に、流体循環溝10が周方向に12等配で設けられている点でも相違するが、その他の基本構成は
図3(a)と同じである。
図3(b)において、
図3(a)と同様に、高圧流体側に連通されると共に低圧流体側とは摺動面の平滑部Rにより隔離された流体循環溝10の入口部10a及び出口部10bが対をなすように周方向に複数設けられ、連通部10cは、対をなす入口部10a及び出口部10bを内周側端部において連通すると共に、全周に延び、すべての流体循環溝10の連通部を連通している。また、流体循環溝10の入口部10a及び出口部10bは、例えば、中心線O−Oを基準にして高圧流体側に向けて開かれると共に、対称に形成され、入口部10a及び出口部10bの交差角は鈍角(例えば、約120°)をなすように設定されている。
【0035】
次に、
図4及び
図5を参照しながら流体循環溝の断面形状について説明する。
図4は、
図2(a)のA−A断面図であって、流体循環溝の入口部の縦断面形状を示している。
図4(a)において、流体循環溝の入口部10aの溝深さh1は高圧流体側に面する入口面において連通部10c及び出口部10bの溝深さhより小さく設定されている。この場合、入口部10a、連通部10c及び出口部10bの溝幅は一定とされている。
図4(a)に示す入口部10aは、高圧流体側に面する入口面においてランド部Rから溝底面10dまでの溝深さがh1に設定され、連通部10cに向かってなだらかに深くなるように底面10dがテーパ形状に形成されている。
【0036】
図4(b)に示す入口部10aは、高圧流体側に面する入口面から一定の距離mにおいてランド部Rから溝底面10dまでの溝深さがh1に設定され、その後、連通部10cに向かってなだらかに深くなるテーパ形状に形成されている。
【0037】
図4(c)に示す入口部10aは、高圧流体側に面する入口面から一定の距離mにおいてランド部Rから溝底面10dまでの溝深さがh1に設定され、その後、段差部により溝深さhまで深くなるように形成されている。
【0038】
以上のように、
図4に示す流体循環溝10の入口部10aの溝深さh1は連通部10c及び出口部10bの溝深さhより小さく設定されていることにより、溝幅が一定とされている場合であっても、溝の断面積が入口部10aにおいて連通部10c及び出口部10bより小さい。そのため、流体循環溝10の断面積が連通部10c及び出口部10bと同じ大きさで一定とされている場合に比べて、流体循環溝10への流体の流入量が減少し、低圧流体側に最も近い連通部10cにおける流体の圧力も低減される。その結果、連通部10cと低圧流体側との圧力勾配も小さくなり、低圧流体側に最も近い連通部10cからの漏れが減少されることになる。
【0039】
次に、
図5を参照しながら、流体循環溝10の溝幅の大小により溝の断面積が変更される場合について説明する。
図5(a)は、入口部10aの溝幅b1が連通部10c及び出口部10bの溝幅bより小さく設定されている場合を示している。この場合、入口部10a、連通部10c及び出口部10bの溝深さは一定とされている。
図5(a)に示す入口部10aは、高圧流体側に面する入口面において溝幅がb1に設定され、連通部10cに向かってなだらかに拡大して溝幅bになるようにテーパ形状に形成されている。
【0040】
入口部10aの溝幅b1が連通部10cに向かって拡大する態様としては、高圧流体側に面する入口面から一定距離までは溝幅b1とし、その後、連通部10cに向かってなだらかに拡大するように設定される場合の他、高圧流体側に面する入口面から一定の距離までは溝幅b1とし、その後、段差部により急激に溝幅bまで拡大されるように設定されてもよい。
【0041】
図5(b)は、出口部10bの溝幅b2が連通部10c及び入口部10aの溝幅bより大きく設定されている場合を示している。この場合、入口部10a、連通部10c及び出口部10bの溝深さは同じである。
図5(b)に示す出口部10bは、連通部10cから出口部10bに向けてなだらかに拡大され、高圧流体側に面する出口面において溝幅がb2になるようにテーパ形状に形成されている。
【0042】
出口部10bの溝幅b2が連通部10cから出口部10bに向かって拡大する態様としては、高圧流体側に面する出口面から一定距離までは溝幅b2とし、その後、連通部10cに向かってなだらかに縮小するように設定される場合の他、高圧流体側に面する出口面から一定の距離までは溝幅b2とし、その後、段差部により急激に溝幅bまで縮小されるように設定されてもよい。
【0043】
以上のように、
図5(a)に示すように、流体循環溝10の入口部10aの溝幅b1は連通部10c及び出口部10bの溝幅bより小さく設定されている場合、溝深さが一定とされている場合であっても、溝の断面積が入口部10aにおいて連通部10c及び出口部10bより小さい。そのため、流体循環溝10の入口部に10aにおける断面積が連通部10c及び出口部10bと同じ大きさで一定とされている場合に比べて、流体循環溝10への流体の流入量が減少し、低圧流体側に最も近い連通部10cにおける流体の圧力も低減される。その結果、連通部10cと低圧流体側との圧力勾配も小さくなり、低圧流体側に最も近い連通部10cからの漏れが減少されることになる。
また、
図5(b)に示すように、出口部10bの溝幅b2が連通部10c及び入口部10aの溝幅bより大きく設定されている場合、溝深さが一定とされている場合であっても、溝の断面積が出口部10bにおいて連通部10c及び出口部10bより大きい。そのため、流体循環溝10の出口部10bにおける断面積が連通部10c及び入口部10aと同じ大きさで一定とされている場合に比べて、出口部10bでの流体の排出抵抗が小さくなり、連通部10cにおける流体の圧力が低減される。その結果、連通部10cと低圧流体側との圧力勾配も小さくなり、低圧流体側に最も近い連通部10cからの漏れが減少されることになる。
【0044】
なお、上記においては、溝深さ及び溝幅のいずれか一方を一定として他方を変化させる場合について説明したが、溝深さ及び溝幅の両方を変化させてもよく、要は、断面積が所望のとおりに変化されればよい。
【0045】
以上説明したように、実施例1の構成によれば、流体循環溝10により摺動面に流体が積極的に導かれ排出されることにより摺動面間の流体が循環し、堆積物発生原因物質などを含む流体の濃縮および摩耗粉や異物の滞留が防止され、ひいては堆積物の形成が防止され、長期間にわたり摺動面の密封機能を維持することができる。その際、流体循環溝10を流れる流体の連通部10cにおける圧力が低下されるように、少なくとも、入口部10aまたは出口部10bにおける溝の断面積が連通部10cにおける溝の断面積と異なるように設定、より具体的には、入口部10aの溝の断面積が連通部10cおよび出口部10bの溝の断面積より小さく、あるいは、出口部10bの溝の断面積が連通部10cおよび入口部10aの溝の断面積より大さく設定されるているため、流体循環溝10のもっとも低圧流体側に近い部分に位置する連通部10cから低圧流体側への流体の漏洩をより一層低減できる
【実施例2】
【0046】
図6及び
図7を参照して、本発明の実施例2に係る摺動部品について説明する。
実施例2に係る摺動部品は、摺動面の流体循環溝と高圧流体側とにより囲まれる部分に正圧発生機構を付加的に設けた点で実施例1の摺動部品と相違するが、その他の基本構成、すなわち、流体循環溝10を流れる流体の連通部10cにおける圧力が低下されるように、少なくとも、入口部10aまたは出口部10bにおける溝の断面積が連通部10cにおける溝の断面積と異なるように設定、より具体的には、入口部10aの溝の断面積が連通部10cおよび出口部10bの溝の断面積より小さく、あるいは、出口部10bの溝の断面積が連通部10cおよび入口部10aの溝の断面積より大さく設定されるているため、流体循環溝10のもっとも低圧流体側に近い部分に位置する連通部10cから低圧流体側への流体の漏洩をより一層低減できるようにすることは実施例1と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0047】
図6(a)に示す固定環5において、流体循環溝10が設けられた摺動面には、流体循環溝10と高圧流体側とで囲まれる部分に流体循環溝10より浅い正圧発生溝11aを備える正圧発生機構11が設けられている。
正圧発生溝11aは流体循環溝10の入口部に連通し、出口部10b及び高圧流体側とはランド部Rにより隔離されている。
本例では、正圧発生機構11は、流体循環溝10の入口部10aに連通するグルーブ11a及びレイリーステップ11bを備えたレイリーステップ機構から構成されるが、これに限定されることなく、例えば、ダム付きフェムト溝で構成してもよく、要は、正圧を発生する機構であればよい。
なお、レイリーステップ機構については、後に、詳しく説明する。
【0048】
図6(b)に示す固定環5は、流体循環溝10の形状が略直線状をなしている点で
図6(a)と異なると共に、流体循環溝10が周方向に3等配で設けられている点でも相違するが、その他の基本構成は
図6(a)と同じである。
【0049】
図7(a)に示す固定環5は、流体循環溝10の形状が略U字状をなしている点で
図6(a)と異なると共に、流体循環溝10が周方向に8等配で設けられている点でも相違するが、その他の基本構成は
図6(a)と同じである。
本例に示す流体循環溝10は、入口部10a及び出口部10bが固定環5の中心を通るように高圧流体側に向けて開かれ、入口部10a及び出口部10bの内周側の部分が固定環の中心を中心とする円弧状の連通部10cにより接続されている。
【0050】
図7(b)に示す固定環5は、主に、流体循環溝が周方向に連通するように設けられている点で
図7(a)と異なると共に、流体循環溝10が周方向に12等配で設けられている点でも相違するが、その他の基本構成は
図7(a)と同じである。
図7(b)において、
図7(a)と同様に、高圧流体側に連通されると共に低圧流体側とは摺動面の平滑部Rにより隔離された流体循環溝10の入口部10a及び出口部10bが対をなすように周方向に複数設けられ、連通部10cは、対をなす入口部10a及び出口部10bを内周側端部において連通すると共に、全周に延び、すべての流体循環溝10の連通部を連通している。また、流体循環溝10の入口部10a及び出口部10bは、例えば、中心線O−Oを基準にして高圧流体側に向けて開かれると共に、対称に形成され、入口部10a及び出口部10bの交差角は鈍角(例えば、約120°)をなすように設定されている。
【0051】
本実施例2において、正圧発生機構11は、その上流側において流体循環溝10の入口部10aを介して高圧流体側から流体を吸い込み、正圧を発生し、発生した正圧により相対摺動す摺動面の間隔を広げ、該摺動面に液膜を形成し、潤滑性を向上させるものである。
【実施例3】
【0052】
図8を参照して、本発明の実施例3に係る摺動部品について説明する。
実施例3に係る摺動部品は、摺動面の流体循環溝と高圧流体側とにより囲まれる部分の外側には、負圧発生機構が付加的に設けられた点で実施例2の摺動部品と相違するが、その他の基本構成、すなわち、流体循環溝10を流れる流体の連通部10cにおける圧力が低下されるように、少なくとも、入口部10aまたは出口部10bにおける溝の断面積が連通部10cにおける溝の断面積と異なるように設定、より具体的には、入口部10aの溝の断面積が連通部10cおよび出口部10bの溝の断面積より小さく、あるいは、出口部10bの溝の断面積が連通部10cおよび入口部10aの溝の断面積より大さく設定されるているため、流体循環溝10のもっとも低圧流体側に近い部分に位置する連通部10cから低圧流体側への流体の漏洩をより一層低減できるようにすることは実施例2と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0053】
図8(a)において、流体循環溝10が設けられた摺動面には、流体循環溝10と高圧流体側とで囲まれる部分に流体循環溝10より浅い正圧発生溝11aを備える正圧発生機構11が設けられ、さらに、流体循環溝10と高圧流体側とで囲まれた部分の外側、すなわち、隣接する流体循環溝10、10の間には、流体循環溝10より浅い負圧発生溝12aを備える負圧発生機構12が設けられている。負圧発生溝12aは入口部10aに連通し、出口部10b及び低圧流体側とはランド部Rにより隔離されている。
本例では、負圧発生機構12は、流体循環溝10の入口部10aに上流側において連通するグルーブ12a及び逆レイリーステップ12bを備えたレイリーステップ機構から構成されるが、これに限定されることなく、要は、負圧を発生する機構であればよい。
逆レイリーステップ機構については、後に、詳しく説明する。
【0054】
図8(b)は、流体循環溝10が周方向に4等配に配設され、隣接する流体循環溝10、10の間に設けられる逆レイリーステップ機構12のグルーブ12aが
図8(a)のグルーブ12aより周方向に長く形成される点で
図8(a)と相違するが、その他の構成は
図8(a)と同じである。
【0055】
本実施例3において、負圧発生機構12は、負圧の発生により高圧流体側から低圧流体側に漏洩しようとする被密封流体を負圧発生溝12aに取り込み、流体循環溝10を介して高圧流体側に戻し、密封性を向上させる役割を果たすもので、正圧発生機構11の設けられていない部分であるところの隣接する流体循環溝10と10との間における漏洩を防止し、摺動面全体の密封性を向上させるものである。
なお、正圧発生機構11及び負圧発生機構12の等配数や正圧発生機構11と負圧発生機構12の長さの比は、適宜最適なものを選定できる。
【実施例4】
【0056】
図9を参照して、本発明の実施例4に係る摺動部品について説明する。
前述した実施例と同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0057】
実施例4に係る摺動部品は、摺動面の高圧側には正圧発生溝11aを備えた正圧発生機構11が、低圧側には負圧発生溝12aを備えた負圧発生機構12が設けられ、正圧発生溝11aと負圧発生溝12aとの間に流体循環溝10の連通部10cが全周にわたって配設され、正圧発生溝11aの上流側及び連通部10cを高圧流体側に連通するように入口部10aが配設され、負圧発生溝12aの下流側及び連通部10cを高圧流体側に連通する出口部10bが配設されている。入口部10a及び出口部10bは低圧側から高圧側に向かってそれぞれ開く方向に傾斜されている
【0058】
本実施例4において、正圧発生溝11aと負圧発生溝12aとの間に配設される流体循環溝10の連通部10cは、正圧発生機構11側から負圧発生機構12側に流入しようとする流体を取り込み、高圧流体側に排出する役割を持つものであり、摺動面における漏洩を防止し、密封性を向上させるものである。
また、流体循環溝10を流れる流体の連通部10cにおける圧力が低下されるように、少なくとも、入口部10aまたは出口部10bにおける溝の断面積が連通部10cにおける溝の断面積と異なるように設定、より具体的には、入口部10aの溝の断面積が連通部10cおよび出口部10bの溝の断面積より小さく、あるいは、出口部10bの溝の断面積が連通部10cおよび入口部10aの溝の断面積より大さく設定されるているため、流体循環溝10のもっとも低圧流体側に近い部分に位置する連通部10cから低圧流体側への流体の漏洩をより一層低減できるようにすることは前述の実施例と同じである。
【0059】
次に、
図10を参照しながら、レイリーステップ機構などからなる正圧発生機構及び逆レイリーステップ機構などからなる負圧発生機構を説明する。
図10(a)において、相対する摺動部品である回転環3、及び、固定環5が矢印で示すように相対摺動する。例えば、固定環5の摺動面には、相対的移動方向と垂直かつ上流側に面してレイリーステップ11bが形成され、該レイリーステップ11bの上流側には正圧発生溝であるグルーブ部11aが形成されている。相対する回転環3及び固定環5の摺動面は平坦である。
回転環3及び固定環5が矢印で示す方向に相対移動すると、回転環3及び固定環5の摺動面間に介在する流体が、その粘性によって、回転環3または固定環5の移動方向に追随移動しようとするため、その際、レイリーステップ11bの存在によって破線で示すような正圧(動圧)を発生する。
なお、10a、10bは流体循環溝の入口部、出口部を、また、Rはランド部を示す。
【0060】
図10(b)においても、相対する摺動部品である回転環3、及び、固定環5が矢印で示すように相対摺動するが、回転環3及び固定環5の摺動面には、相対的移動方向と垂直かつ下流側に面して逆レイリーステップ12bが形成され、該逆レイリーステップ12bの下流側には負圧発生溝であるグルーブ部12aが形成されている。相対する回転環3及び固定環5の摺動面は平坦である。
回転環3及び固定環5が矢印で示す方向に相対移動すると、回転環3及び固定環5の摺動面間に介在する流体が、その粘性によって、回転環3または固定環5の移動方向に追随移動しようとするため、その際、逆レイリーステップ12bの存在によって破線で示すような負圧(動圧)を発生する。
なお、10a、10bは流体循環溝の入口部、出口部を、また、Rはランド部を示す。
【0061】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0062】
例えば、前記実施例では、摺動部品をメカニカルシール装置における一対の回転用密封環及び固定用密封環のいずれかに用いる例について説明したが、円筒状摺動面の軸方向一方側に潤滑油を密封しながら回転軸と摺動する軸受の摺動部品として利用することも可能である。
【0063】
また、例えば、前記実施例では、外周側に高圧の被密封流体が存在する場合について説明したが、内周側が高圧流体の場合にも適用できる。
【0064】
また、例えば、前記実施例では、摺動部品を構成するメカニカルシールの固定環に流体循環溝、正圧発生機構及び負圧発生機構を設ける場合について説明したが、これとは逆に、回転環に流体循環溝、正圧発生機構及び負圧発生機構を設けてもよい。その場合、流体循環溝は回転環の外周側まで設けられる必要はなく、被密封流体側と連通すればよい。