特許第6275903号(P6275903)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6275903金属皮膜形成品及び金属皮膜形成品の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6275903
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】金属皮膜形成品及び金属皮膜形成品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/38 20060101AFI20180129BHJP
   H05K 3/12 20060101ALI20180129BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20180129BHJP
   B22F 7/04 20060101ALI20180129BHJP
   C23C 24/08 20060101ALI20180129BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20180129BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   H05K3/38 A
   H05K3/12 610C
   H05K3/12 610D
   H01F41/04 C
   B22F7/04 D
   C23C24/08 B
   C23C26/00 J
   H01F17/00 A
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-105579(P2017-105579)
(22)【出願日】2017年5月29日
【審査請求日】2017年8月30日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)発行者名:IEEE 刊行物名:Proceedings of the 2016 IEEE 18th Electronics Packaging Technology Conference(EPTC) 発行年月日:平成28年11月30日 (2)集会名:18th Electronics Packaging Technology Conference 開催日:平成28年12月1日(開催期間:平成28年11月30日〜12月3日) (3)ウェブサイト名:IEEE Xplore▲R▼ Digital Library ウェブサイト掲載アドレス:http://ieeexplore.ieee.org/document/7861494/ 掲載年月日:平成29年2月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】711010688
【氏名又は名称】株式会社アルファ・ジャパン
(73)【特許権者】
【識別番号】512136400
【氏名又は名称】株式会社 M&M研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】園田 久也
(72)【発明者】
【氏名】御田 護
(72)【発明者】
【氏名】山崎 和彦
(72)【発明者】
【氏名】前川 克廣
【審査官】 ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−112028(JP,A)
【文献】 特開2007−116154(JP,A)
【文献】 特開2014−011199(JP,A)
【文献】 特開2005−131940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/12
H05K 3/38
B22F 7/04
C23C 24/08
C23C 26/00
H01F 17/00
H01F 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂及び前記樹脂に分散された無機粒子を含む基材と、
前記基材の表面に形成された表面改質膜と、
前記表面改質膜の表面に形成され、導電性の金属からなる導電性金属皮膜と、を有し、
前記表面改質膜は、前記基材に含まれる前記無機粒子が空隙を含みながら溶融凝集体を構成してなる組織を有することを特徴とする金属皮膜形成品。
【請求項2】
前記基材に含まれる前記無機粒子の平均粒径が0.5〜30μmであり、前記表面改質膜の前記溶融凝集体を構成する前記無機粒子の平均粒径が10〜50μmであることを特徴とする請求項1記載の金属皮膜形成品。
【請求項3】
前記樹脂が熱硬化性エポキシ系樹脂であり、前記無機粒子が金属、金属酸化物、石英又はこれらの混合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属皮膜形成品。
【請求項4】
前記金属皮膜形成品が電子機器を構成する部品であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の金属皮膜形成品。
【請求項5】
前記部品がインダクタ、アンテナ又はコネクタであることを特徴とする請求項4記載の金属皮膜形成品。
【請求項6】
樹脂及び前記樹脂に分散された無機粒子を含む基材の表面にレーザ光を照射し、前記基材に含まれる前記無機粒子が空隙を含みながら溶融凝集体を構成してなる組織を有する表面改質膜を形成する工程と、
前記表面改質膜の表面に導電性の金属を含む導電性ペーストを塗布し、塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を乾燥する工程と、
乾燥した塗布膜にレーザ光を照射し、前記乾燥した塗布膜に含まれる導電性の金属を焼結して金属皮膜を形成する工程と、を有することを特徴とする金属皮膜形成品の製造方法。
【請求項7】
前記基材は、前記表面改質膜を形成する工程の前に、前記樹脂、前記無機粒子、及び硬化剤を混合し、金型に設置し、前記樹脂を熱硬化することによって得られた成形加工品であることを特徴とする請求項6記載の金属皮膜形成品の製造方法。
【請求項8】
前記表面改質膜を形成する工程は、前記基材の表面の全面又は前記金属皮膜を形成する部分を選択して行うことを特徴とする請求項6又は7に記載の金属皮膜形成品の製造方法。
【請求項9】
表面に接着フィルムを設けた前記基材と、前記金属皮膜形成品と、を準備し、前記接着フィルムによって前記基材と前記金属皮膜形成品とを接合して積層体を作製する工程と、
前記基材の前記接着フィルムが設けられた面と反対側の表面に前記表面改質膜を形成する工程と、
前記表面改質膜の一部にビア穴を形成する工程と、
前記ビア穴及び前記表面改質膜に導電性ペーストを塗布し、塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を乾燥する工程と、
乾燥した塗布膜にレーザ光を照射し、前記乾燥した塗布膜に含まれる導電性の金属を焼結して金属皮膜を形成する工程と、を有することを特徴とする請求項6ないし8のいずれか1項に記載の金属皮膜形成品の製造方法。
【請求項10】
前記金属皮膜を形成する工程における前記レーザ光は、波長が532nmのパルスレーザ光であることを特徴とする請求項6ないし9のいずれか1項に記載の金属皮膜形成品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属皮膜形成品及び金属皮膜形成品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等のデジタル電子機器の伝送信号の高周波ノイズを除去するノイズフィルターには、磁性フェライトコアに導電回路を形成した積層型の面実装タイプインダクタが用いられている。この面実装型インダクタに用いられるフェライトコアは、酸化鉄(Fe)の粒子(通常Φ1〜5μmの粒子径)に2価の金属酸化物微粒子を添加したものを熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂)に分散混合したフェライト含有熱硬化性樹脂成形品が用いられる。このようなフェライト含有熱硬化性樹脂成形品は、樹脂硬化前に成形金型に注入し、その後樹脂を加熱硬化することで樹脂成形品の製造が可能である。このフェライト含有熱硬化性樹脂基板に導電性配線を直接形成することでインダクタとすることができる。また、配線を形成した基板を積層することにより、積層型の面実装タイプインダクタも製造できる。
【0003】
現在、積層型の面実装タイプのインダクタは、主に厚膜導電性Cu(銅)ペーストの印刷法で製造されている。この方法は、銅粒子と未硬化のエポキシ樹脂を含むCuペーストをディスペンサやスクリーン印刷等によりフェライト含有熱硬化性樹脂基板の表面にスパイラル印刷してから、150℃で30〜60分程度加熱しペーストを硬化させる手法である。また、インダクタの別の製法として、フェライト粒子をバインダーと混合した炉焼成用グリーンシートを作製し、このグリーンシートの表面に銅や銀等の炉焼成タイプの導電性ペーストをスパイラル印刷し、800〜900℃の温度で焼成する方法がある。いずれの方法も導電性ペースト印刷後に長時間の加熱工程が必要である。
【0004】
また、別の方法としては、フェライト含有熱硬化性樹脂基板の全面にセミアデイティブ銅めっきをしてから、フォトリソグラフィ法でスパイラル配線を形成する方法がある。この方法では、焼成や熱硬化のための炉は必要としないが、セミアデイティブ銅めっきプロセスの他に、感光性レジスト印刷、露光、現像、ケミカルエッチング及びレジストの剥離等の複雑な工程を必要とする。また、化学薬品の廃液処理及び洗浄水の排水処理の問題がある。
【0005】
このフォトリソグラフィ法では配線を微細化でき、より小型の面実装タイプインダクタを製造できる特徴があるが、工程が複雑で、かつ製造設備も高価であり、コストアップとなることから、超小型で高性能タイプの用途以外には適さない。一方、導電性ペーストを用いる方式では、基板にビア穴を形成し導電性ペーストを充填してから積層することで積層型インダクタを製造することができるが、フォトリソグラフィ法同様に工程が長く、コストアップとなる。
【0006】
このように、従来の方法では、工程が複雑で長いことから、1ラインでのインダクタの製造が不可能であると言う大きな問題がある。現在製造工程から排出されるCO起因の地球温暖化が問題になっており、製造プロセスを究極まで単純化することが世界的に求められている。具体的には、例えばインダクタの製造においては、フェライト含有熱硬化性樹脂基板へのビア穴加工、導電性ペースト印刷及び導電性ペーストの焼結の3工程が1ラインで終了するのが望ましい。
【0007】
基材へのビア穴加工、導電性ペースト印刷及び導電性ペースト焼結を1ラインで実施可能な技術として、特許文献1がある。特許文献1には、電気絶縁性の基板上に導電性配線を形成する配線基板の製造方法において、基板上に、銅マイクロ粒子と、揮発性の有機溶剤と、結着剤と、を含有する分散液を塗布して塗布膜を得る塗布膜形成工程と、塗布膜を加熱処理して有機溶剤を乾燥除去する乾燥工程と、乾燥工程後の塗布膜に、大気中において、波長300〜600nmのレーザ光を照射して結着剤を分解し、かつ銅マイクロ粒子を焼結し基板に密着させることにより、銅マイクロ粒子焼結膜を得るレーザ光照射工程と、を有することを特徴とする配線基板の製造方法が開示されている。
【0008】
特許文献1に記載の配線基板の製造方法は、HLP(High speed Laser Plating:高速レーザめっき、登録商標)を用いたものであり、ビア穴加工及び導電性ペースト焼結にレーザ光を用いることで、基材へのビア穴加工、導電性ペースト印刷及び導電性ペースト焼結を1ラインで実施することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5859075号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1記載の技術では、導電性配線を形成する基板として、ガラス繊維に液状エポキシ樹脂を含浸して熱硬化させたガラスエポキシ基板を使用する。このような基板を用いた場合、レーザ光照射工程において、ガラス繊維のレーザエネルギー吸収率は低いのでガラス繊維の温度は上昇せず、またエポキシ樹脂もレーザ光の吸収率が低いため、基板がアブレーションされることは無い。このため、無機粒子(金属酸化物粒子、金属粒子及び石英等)を含まないガラスエポキシ基板を用いた場合、特許文献1の実施例にあるように、密着性のある導電性銅焼結膜が得られる。
【0011】
しかしながら、特許文献1記載の技術は、樹脂基板に対して密着性のある配線膜の形成が可能であるが、インダクタの基材として用いられる樹脂に無機粒子を分散した熱硬化性樹脂を基材とした場合、十分な密着性が得られない。その理由は、無機粒子のレーザエネルギーの吸収率が高く、これらの粒子表面でプラズマが発生し、粒子近傍の樹脂がアブレーションされ、界面に分解ガスが発生するためである。一方、フェライト等の無機粒子の融点は通常1000℃以上と高く、銅マイクロ粒子ペースト塗布膜下の無機粒子が溶融するまでには至らない。このため、基材と導電性金属皮膜の高い密着性は得られない。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑み、基材と導電性金属皮膜との密着性が高く、導電性に優れた金属皮膜形成品及び金属皮膜形成品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するため、樹脂及び樹脂に分散された無機粒子を含む基材と、基材の表面に形成された表面改質膜と、表面改質膜の表面に形成され、導電性の金属からなる導電性金属皮膜と、を有し、表面改質膜は、前記基材に含まれる無機粒子が空隙を含みながら溶融凝集体を構成してなる組織を有することを特徴とする金属皮膜形成品を提供する。
【0014】
また、本発明は、樹脂及び樹脂に分散された無機粒子を含む基材の表面にレーザ光を照射し、基材に含まれる無機粒子が空隙を含みながら溶融凝集体を構成してなる組織を有する表面改質膜を形成する工程と、表面改質膜の表面に導電性の金属を含む導電性ペーストを塗布し、塗布膜を形成する工程と、塗布膜を乾燥する工程と、乾燥した塗布膜にレーザ光を照射し、乾燥した塗布膜に含まれる導電性の金属を焼結して金属皮膜を形成する工程と、を有することを特徴とする金属皮膜形成品の製造方法を提供する。
【0015】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲に記載される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、基材と導電性金属皮膜との密着性が高く、導電性に優れた金属皮膜形成品及び金属皮膜形成品の製造方法を提供することができる。
【0017】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の金属皮膜形成品の一例を模式的に示す断面図である。
図2A】本発明の金属皮膜形成品を用いた電子機器の部品の第1の例(積層型の面実装タイプインダクタ)を模式的に示す断面図である。
図2B図2Aの基材の積層体の模式図である。
図3】本発明の金属皮膜形成品を用いた電子機器の部品の第2の例(アンテナ)を模式的に示す斜視図である。
図4】本発明の金属皮膜形成品を用いた電子機器の部品の第3の例(コネクタ)を模式的に示す斜視図である。
図5】本発明の金属皮膜形成品の製造方法フローの第1の例を示す図である。
図6】本発明の金属皮膜形成品を製造するシステムの一例を示す模式図である。
図7】本発明の金属皮膜形成品の製造工程の第2の例を示す模式図である。
図8】本発明の金属皮膜形成品の製造工程の第3の例を示す模式図である。
図9】実施例1の基材の表面のSEM観察写真である。
図10】実施例1の表面改質膜のSEM観察写真である。
図11】実施例1の基材の反射及び吸収スペクトルである。
図12】実施例1の表面改質膜の表面のEDX分析の結果を示すグラフである。
図13】実施例1の導電性ペースト中の銅マイクロ粒子のSEM観察写真である。
図14】実施例1の塗布膜乾燥後の基材の断面SEM観察写真である。
図15】実施例1の乾燥後の塗布膜の反射、吸収及び透過スペクトルである。
図16】実施例1の金属皮膜形成工程後(銅マイクロ粒子焼結後)の基材の表面の光学顕微鏡観察写真である。
図17】実施例1の金属皮膜形成工程後(銅マイクロ粒子焼結後)の基材の断面SEM観察写真である。
図18】実施例2の導電性金属皮膜形成工程後の基材の表面の光学顕微鏡観察写真である。
図19】実施例3の基材の表面の光学顕微鏡観察写真である。
図20】実施例3の表面改質膜形成工程後の基材の表面の光学顕微鏡観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[本発明の基本思想]
上述したように、インダクタ等の電子機器を構成する部品に用いられる基材は、無機粒子(金属粒子、酸化物粒子及び石英等)を含む熱硬化性樹脂からなるものであるが、本発明者は、このような基材の表面に密着性の優れた導電性金属皮膜を形成する方法について鋭意検討を行った。その結果、基材の表面に導電性金属皮膜を形成する前に、基材の表面改質処理工程として、基材の表面に所定の条件でレーザ光を照射して基材の表面に予めアブレーション処理を行うことで、基材と導電性金属皮膜との密着性が格段に向上することを見出した。
【0020】
より具体的に説明すると、基材の表面に所定条件のレーザ光を照射すると、レーザ光を照射した箇所の樹脂がレーザアブレーションによって除去される。また、この際、レーザを照射した箇所の無機粒子が溶融する。したがって、レーザ光照射部分には、基材を構成する無機粒子が、樹脂のアブレーションによって生じた空隙を含みながら溶融凝集体を構成している組織が形成される。この組織を有する表面に導電性金属粒子を含む導電性ペーストを塗布すると、樹脂のアブレーションによって生じた空隙に導電性ペーストが侵入することで、導電性金属皮膜と基材とが機械的に強固に結合する(メカニカルロッキング)。つまり、上記空隙を含みながら溶融凝集体を構成している組織を有する層(表面改質膜)は、基材と導電性金属皮膜とを接合する接合層の役割を果たすものとなる。本発明は、該知見に基づくものである。
【0021】
上述したように、基材と導電性金属皮膜との間に、無機粒子の溶融凝集体と空隙とで構成される組織を有する表面改質膜を有する金属皮膜形成品の構成は、従来には無かった画期的なものである。また、このような構成を有する金属皮膜形成品を製造することができる製造方法も新規なものである。
【0022】
以下に本発明の実施するための形態について、図面を用いて詳細にする。
【0023】
[金属皮膜形成品]
図1は本発明の金属皮膜形成品の一例を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本発明の金属皮膜形成品10は、樹脂及び樹脂に分散された無機粒子を含む基材1と、基材1の表面に形成された表面改質膜2と、表面改質膜2の表面に形成され、導電性の金属からなる導電性金属皮膜3を有する。
【0024】
基材1としては、前述したように、インダクタ等の電子機器を構成する部品に用いられるものを使用する。具体的には、熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂)に、金属酸化物(例えば、Fe粒子)又は金属(例えば、Fe粒子)を添加(分散混合)したものを用いることができる。さらに、熱硬化性樹脂にフィラー(例えば、球形状又は短繊維状の石英ガラスフィラー)を添加した熱硬化性樹脂も用いることができる。基材1に含まれる金属、金属酸化物及びフィラー等(以下、これらを「無機粒子」と称する。)は、後述する表面改質処理工程で照射するレーザ(単パルスレーザ)光照射で溶融凝集するものであれば良い。上述した無機粒子を複数種類混合したものであっても良い。
【0025】
より具体的には、平均粒子径数μmの無機粒子を60〜90mass%含有する熱硬化性樹脂ペレットを用意し、これを用いて所定の形状に射出成形してから、150〜160℃で1h程度加熱処理した無機粒子含有熱硬化性樹脂の成形加工品を基材1として用いることができる。上記成形加工品は、通常、樹脂成形メーカーで作製された市販品として手に入れることができる。
【0026】
基材1に分散される無機粒子の平均粒径は、0.5〜30μmが好ましい。0.5μm未満では、後述する表面改質膜形成工程において、粒子の粗大化を十分にすることができず、空隙の多い三次元溶融凝集体を形成することが困難となる。また30μmより大きいと、三次元溶融凝集体が荒くなり過ぎて、金属皮膜との接触面積が減少し、高い密着性が得られないためである。基材に分散される無機粒子の平均粒径が0.5〜30μmであると、表面改質膜形成工程後の溶融凝集体の平均粒径は略10〜50μmとなる。
【0027】
成形加工品の形状は、面実装タイプのインダクタとする場合には、厚さ0.5〜2.0mm程度の板状に成形する。また、積層型の多層配線インダクタとする場合には、厚さ0.2〜0.5mm程度に成形する。さらに、パッケージタイプのインダクタの場合は、中央部分に凹形状のキャビティを有する異形の形状とする。中央部に導電性配線を形成して、凹部を液状熱硬化性樹脂でポッティング封止することで、封止構造のインダクタパッケージを製造することができる。
【0028】
表面改質膜2は、上述したように、基材1を構成する無機粒子が、樹脂のアブレーションによって生じた空隙を含みながら溶融凝集体(複雑構造の三次元溶融凝集体層)を構成している組織を有する。導電性金属皮膜3は、Cu、銀(Ag)等の導電性金属のレーザ焼結膜で構成される。
【0029】
[電子部品]
図2Aは本発明の金属皮膜形成品を用いた電子機器の部品の第1の例(積層型の面実装タイプインダクタ)を模式的に示す断面図である。また、図2B図2Aの基材の積層体の模式図である。図2Aに示すように、インダクタ200は、筐体27の表面に、金属皮膜形成品の積層体20が設けられている。図2Bに示すように、積層体20は、金属皮膜(内部電極)23が形成された基材(金属皮膜形成品)21が積層されて構成されている。それぞれの基材21には、ビア穴24が設けられており、各基材21はビア穴24部分で互いに電気的に接続されている。基材21の端部には外部電極25が設けられており、はんだ26によって筐体27に接合されている。本発明のインダクタ200は、上述したように、基材21と金属皮膜23との密着性が高く、導電性に優れたものである。
【0030】
図3は本発明の金属皮膜形成品を用いた電子機器の部品の第2の例(アンテナ)を模式的に示す斜視図である。図3に示すアンテナは、RFID(Radio Frequency Identifier)等に搭載されるものである。図3に示すように、アンテナ30は、基材31と導電性金属皮膜(配線)33とを有する。
【0031】
図4は本発明の金属皮膜形成品を用いた電子機器の部品の第3の例(コネクタ)を模式的に示す斜視図である。コネクタは、電子回路等において配線を接続するために用いられるものであり、種々の形状のものがある。図4では箱型のメス端子を示している。図4に示すように、コネクタ40は、基材41と、導電性金属皮膜43とを有する。基材41は、オス端子挿入孔42を有する。図2A図4に示すように、本発明の金属皮膜形成品は、様々な電子機器を構成する部品に適用することができる。さらに、本発明の金属皮膜形成品は、フェライト等の磁性体粒子や、銅や銀等の反磁性体粒子を含有させた熱硬化性樹脂成形品を用いることで、モーターや振動子等にも適用可能である。
【0032】
[金属皮膜形成品の製造方法]
図5は本発明の金属皮膜形成品の製造方法フローの第1の例を示す図である。図5では金属皮膜形成品の断面図とともに製造フローを図示している。後述する図7及び図8でも同様である。以下、図5に沿って、本発明の金属皮膜形成品の製造方法について説明する。
【0033】
(a)基材準備工程
まず初めに、基材51を準備する。基材51の具体的な構成は、既に述べたとおりであり、樹脂に無機粒子を分散したものを用いる。
【0034】
(b)表面改質膜形成工程(レーザアブレーション及び溶融凝集体形成工程)
次に、基材51の表面に対してレーザ光(パルスレーザ)50を図の矢印方向に走査して照射する。レーザ光50は、基材51の全面又は後述する導電性金属皮膜形成工程において導電性金属皮膜(導電性配線)を形成する部分に照射し、基材51の表面の樹脂のレーザアブレーションと、無機粒子の溶融凝集体の形成を同時に行い、表面改質膜52を形成する。基材51の全面にパルスレーザを照射する場合は、基材51の全面に対して導電性配線を形成できる。また、基材51の表面の一部分に選択的にパルスレーザを照射する場合は、パルスレーザ照射した部分に導電性配線を形成する。パルスレーザの条件は、熱硬化性樹脂のアブレーション除去と、無機粒子の溶融凝集が同時に行える最適な条件を選定する。レーザ条件は、具体的には、レーザ波長、周波数、ビーム径、パワー(又はエネルギー)、走査速度、レーザビーム焦点位置及び照射雰囲気等である。照射雰囲気は、熱硬化性樹脂のアブレーション除去と無機物添加粒子の溶融凝集が行える雰囲気であれば良く、不活性雰囲気でも大気中でも構わない。
【0035】
例えば、基材51として、フェライトを含む熱硬化性樹脂基板を用いた場合、レーザ波長:400〜600nm、周波数:10〜50kHz、ビーム直径:10〜50μm、レーザパワー:1〜6W、走査速度:50〜1000mm/s、レーザビーム焦点位置(デフォーカス):なしとし、照射雰囲気は大気中とすることが好ましい。
【0036】
(c)ビア穴形成工程
図2A及び図2Bに示すような積層体(多層の導電性配線)を形成する場合は、上下の配線を電気的に導通させるビア穴23の形成が必要である。ビア穴の開口には、前述した表面改質膜形成工程(b)と、後述する導電性金属皮膜形成工程(f)において用いるレーザ装置(パルスレーザ発振装置)を共用できる。ビア穴形成におけるレーザ照射条件は、上述した(b)表面改質膜形成工程における条件(アブレーション条件)と同一である。パルスレーザ50を図中矢印方向に走査し、基材51にビア穴54を形成する。
【0037】
(d)導電性ペースト塗布膜形成工程
次に、導電性金属皮膜の原料となる金属粒子を含む導電性ペーストを、塗布装置58を用いてパルスレーザ照射した部分(表面改質膜52)に印刷し、塗布膜55を形成する。金属粒子を含む導電性ペーストには、例えば、平均粒子径が1−3μmの銅等の高導電性金属マイクロ粒子を、有機溶剤、バインダー及び粘度調整剤等を混合した粘性体に均一分散させたものを用いることができる。
【0038】
導電性ペーストの印刷方法には、スクリーンマスク印刷及びディスペンサ印刷等によるパターン印刷を用いることができる。また、スキージーを用いた全面印刷を行い、後述する導電性金属皮膜形成工程後に、パルスレーザを照射した部分以外の部分の導電性ペーストを溶剤で除去する方法でも構わない。
【0039】
導電性ペーストの粘度は、2500〜3500mPa・sが好ましい。粘度が2500mPa・s未満であると、金属粒子の含有量が少なくなり、溶剤成分が多くなるため、後述する乾燥工程における乾燥時間が長くなる。また、3500mPa・sを超えると、粘度が高くなり過ぎて、印刷性が悪くなる。より具体的には、表面改質膜2の空隙に導電性ペーストが侵入しづらく、ペーストの焼結後の金属皮膜に空隙が出やすくなる。
【0040】
塗布膜55の膜厚(導電性ペーストの印刷厚さ)は、後述する導電性金属皮膜形成工程で得られる最終の必要膜厚より厚く塗布する。導電性ペーストの中の金属粒子の容積比率によるが、容積比率が30%の場合には、目標とする焼結膜の厚さの3倍程度の厚さを塗布する。
【0041】
塗布装置56には、高速ジェットディスペンサー(武蔵エンジニアリング株式会社製、型式:MEET−H)等を用いることができる。このディスペンサは、空間を高速で吐出できるノズルを有しており、表面改質膜52を構成する無機粒子の溶融凝集体及び空隙への印刷と、ビア穴54への導電性ペーストの充填も可能である。表面改質層と表面改質溝の相違は、表面改質層の深さで区別できる。例えば銅マイクロ粒子焼結膜による導電性配線層の厚さを7μm程度とする場合には、その3倍である約21μmの深さの溝形状のパターンを形成することで、成形品表面から完全に埋没した導電性配線層を形成できる。また成形品表面に対して導電性配線層を高くしたい場合には、表面改質層の溝深さを浅く加工する。
【0042】
導電性ペーストの塗布膜55の線幅は、目的とする電子部品の要求性能を満たす値に設定する。例えば、パワーインダクタ等の場合は、0.5〜1.0mm程度である。また、携帯電子機器の高周波信号伝送ノイズフィルター等では、小型軽量化が必要となるので、0.1〜0.2mmの線幅とする。
【0043】
(e)塗布膜乾燥工程
導電性ペーストの印刷後、印刷した導電性ペーストに含まれる余分な有機溶剤を除去する目的で加熱乾燥を行う。乾燥温度と時間の条件は、大気中での乾燥における金属粒子の酸化を抑制するために、温度は100〜120℃とし、時間は1〜15minとすることが好ましい。乾燥処理は、大気圧の1/2程度(0.05MPa)の弱い減圧下で行うと時間を短縮することができる。また、金属粒子が酸化しない窒素気流中等の不活性ガスの雰囲気下で乾燥を行う場合、乾燥温度を熱硬化性樹脂を主成分とする基材51の耐熱温度(230℃程度)まで上げることが可能で、乾燥時間を1分以内に短縮することができる。
【0044】
(f)導電性金属皮膜形成工程(導電性ペースト焼結工程)
次に、乾燥処理を行った塗布膜56の表面にパルスレーザ50を照射し、導電性ペースト中に含まれる金属粒子を焼結して導電性金属皮膜53の形成を行う。ここでのパルスレーザは、上述した基材の表面改質膜形成工程(b)及びビア穴形成工程(c)で用いたパルスレーザ装置を用いることができる。乾燥した塗布膜56に含まれる金属粒子焼結のためのレーザ照射条件は、周波数、ビーム径、パワー(又はエネルギー)、走査速度及びレーザビーム焦点位置等を、無機粒子を含む熱硬化性樹脂と導電性皮膜の密着が得られ、また導電性金属粒子が焼結する値に設定する。
【0045】
例えば、基材51として、フェライトを含む熱硬化性樹脂基板を用い、導電性金属として銅マイクロ粒子を用いた場合、レーザ波長:400〜600nm、周波数:10〜50kHz、ビーム直径:10〜300μm、レーザパワー(又はエネルギー):1〜6W、走査速度:0.5〜200mm/s、レーザビーム焦点位置:基板下方向へ0〜8mm(デフォーカス)とすることが好ましい。照射雰囲気は、大気中でも不活性ガス雰囲気でも構わない。
【0046】
図6は本発明の金属皮膜形成品の製造システムの一例を示す模式図である。図6は、上記(a)〜(f)の工程を1ライン化した構成を示している。図6に示すように、レーザ光照射装置を、ビア穴形成装置、表面改質膜形成装置及び導電性金属皮膜形成装置の3装置で共用した場合、レーザ光照射装置62を中央に固定し配置することで、上記(a)〜(f)の全工程を大きく分けて3構成とすることができる。基材搬入及び金属皮膜形成品の搬出は、基材セット室61を共用することができる。導電性ペースト塗布装置及び導電性ペースト乾燥装置を、温度設定したホットプレート63上で行うことで、1つのステージで2つの工程を実施することが可能となり、成形品の搬送を簡単に行える。
【0047】
図7は本発明の金属皮膜形成品の製造工程の第2の例を示す模式図である。図7は多層配線を有する導電性配線基板や電子部品を製造する場合の工程図を示す。基材71aの表面(裏面、すなわち導電性金属皮膜を設ける面と反対側の面)に熱硬化性接着フィルム77を貼り付ける。熱硬化性接着フィルム77には、例えば株式会社巴川製紙所製の配線基板積層接着用の熱硬化性接着フィルムを使用することができる。この接着フィルムは、Bステージのエポキシ系樹脂であり、160℃で1h程度加熱硬化することで、基材71a,71b同士を積層接着することができる。また、加熱硬化前に一旦液状化するために、配線基板間への濡れ性と充填性に優れ、低い圧力で貼り付けることができ、基材71a,71b同士間(配線基板間)のボイドも発生しない。接着フィルム70の貼付後に導電性ペーストを印刷して塗布膜75を形成し(工程(7d))し、乾燥し(図示せず)、レーザ光を照射して導電性金属皮膜73を形成することで(工程(7f))、基材71a,71bをビア穴74を介して電気的に導通させることができる。
【0048】
図8は本発明の金属皮膜形成品の製造工程の第3の例を示す模式図である。図8に示すように、基材81bが両面配線基板の場合には、3層の配線形成が可能となる。
【0049】
本発明には以下の多くの効果がある。
【0050】
(1)導電性配線形成プロセスの1ライン化
図6に示すように、従来の方法(厚膜導電性ペースト法やフォトリソグラフィ法)と比較して、プロセスの1ライン化が可能である。具体的には、無機粒子含有熱硬化性樹脂成形品へのレーザ照射による導電回路形成における、(i)表面改質膜形成(樹脂のレーザアブレーションと無機粒子の溶融凝集体形成)、(ii)銅導電性ペースト塗布、(iii)導電性ペースト乾燥(溶剤除去)、及び(iv)導電性金属皮膜形成(レーザ焼結)の4プロセスを1ラインとすることができる。従来の導電性ペーストの熱硬化法では、30〜60minの加熱炉による熱硬化処理が必要であり、この工程で全体のプロセスが停滞するために1ライン化ができない。ここで、ライン化とは、基板が搬送路上を移動し、その搬送路上に各プロセスに用いられる装置が連結して配置されており、基板が停滞することなく製品が完成することを言う。本発明は、上記(i)〜(iv)の処理時間は、それぞれ15min以内で完了するので、1ライン化が可能である。
【0051】
(2)製造時間の短縮
上述したように、各プロセスが短時間で完了するので、全体の完成までの時間を短縮できる。
【0052】
(3)安価
高額の製造設備費用がかからず、製造時間も短縮が可能であり、金属皮膜形成品を安価に製造できる。
【0053】
(4)レーザ光照射装置の共用
通常、多層配線基板のビア穴形成加工は、炭酸ガスレーザやYAGレーザを用いるが、本発明では表面改質処理用レーザ及び導電性ペースト焼結用レーザと共用できる。したがって、レーザ光照射装置1台を3工程で共用できる製造設備を構築することができる。
【0054】
(5)環境対応
二酸化炭素の発生を極限まで抑えることができるので、地球温暖化を抑制でき、地球環境保全に寄与できる。
【0055】
インダクタの製造に関する技術が開示されている文献としては、例えば特開平5−283235号公報、特開平5−304019号公報及び特開平6−84648号公報があるが、いずれも導電性ペーストをレーザ焼結して導電性金属皮膜を形成する本発明とは異なるものである。
【0056】
また、レーザアブレーションに関しては、以下の文献がある:
岡田,杉岡 レーザアブレ−ション応用の現状と今後の展開 J. Plasma Fusion Res. Vol.79, No.12 (2003)1278‐1286
本技術文献によれば、レーザアブレーションの現在の主たる応用分野は下記の通りである。
【0057】
(イ)基板上への機能性薄膜形成
レーザアブレーションによる薄膜作製は、一般にはPulsed−Laser Deposition(PLD)と呼ばれており、ターゲットにパルスレーザを照射してアブレーションし、そのアブレーション粒子を対向する基板に成膜させる方法である。この方法は超硬材料を用いた金属加工部品へのDLC(Diamond Like Carbon)耐摩耗性膜形成に応用されている。
【0058】
(ロ)ナノ構造体の創製
この応用はグラファイトへのレーザアブレーションによって、カーボンナノファイバーが生成されることでも知られるように、アブレーションによりターゲットから直接放出された放出物の中には、原子や分子などに混じって、さまざまな大きさのクラスターやナノ微粒子も存在しており、それを回収することにより、ナノ構造体を創製できる。
【0059】
(ハ)材料加工
レーザアブレーションでは、高エネルギーの中性粒子、ラジカル、イオンが固体材料から放出されプラズマを形成し、放出プラズマにより固体表面はエッチング加工される.赤外レーザによる材料の加熱・蒸発現象も広義のレーザアブレーションであり、大出力の炭酸ガスレーザ(波長10.6μm)を用いた金属(鉄鋼)板の穴開けや切断は、最も普及している材料加工の応用の一つである。一方エレクトロニクス分野では、携帯電話用プリント基板の穴開けが大きな市場となっている。その他レーザアブレーションは,SiウェハやICパケージのマーキング、フォトマスクやIC回路の修正、ハイブリッドICの抵抗トリミング、インクジェットプリンターノズルの穴開け等広く利用される。
【0060】
上記のうちの多くは、赤外のNd:YAGレーザ(波長1.06μm)が用いられている。材料をより精密かつ微細に加工しようとした時、加工部周辺に極力熱影響を与えないようにしなくてはならない。そのためには、波長が短く、かつパルス幅も短いレーザを用いることが望ましい。波長が短くなればなるほど材料に対する吸収係数は増加し、加工領域に効率良くエネルギーを注入できる。逆に吸収係数が小さい場合、レーザ光は材料内部深くまで侵入し、加工されなかった領域でもエネルギーが吸収され加工部周辺に熱影響を与える。また、波長が短くなれば光子エネルギーも大きくなるため、固体内の原子や分子の光解離現象を誘起でき、非熱的加工を実現することができる。一方レーザを照射した時の熱拡散長Dは、D=2(k・t)1/2の式で表すことができる。したがってパルス幅が短くなるとDも短くなり、加工部周辺への熱影響も少なくなる。ここでκは材料の熱拡散係数、tはパルス幅である。上記のような理由で、今日微細加工を行うには紫外のナノ秒パルスレーザであるエキシマレーザが主に用いられている。
【0061】
本発明は、レーザ光を、無機粒子含有熱硬化性樹脂基材の表面改質に応用するものである。レーザとして、材料の穴開け加工用の赤外のNd:YAGレーザー(波長1.06μm)や炭酸ガスレーザー(波長10.6μm)を用いる場合、大気中照射において、樹脂の燃焼分解によるスミア(熱分解残渣)を生じ、完全な蒸発飛散であるアブレーションが得られない。また、完全なアブレーション目的には、D=2(k・t)1/2の関係から、単パルスレーザが好ましい。しかし、本発明は、無機粒子含有熱硬化性樹脂基板の樹脂をアブレーション除去すると共に無機粒子を溶融し、三次元凝集体とするものである。このような目的の場合レーザ光には、例えばレーザマーキング用のグリーンレーザ(波長532nm)のパルスレーザが好ましい。
【0062】
上述した文献において、本発明のように、目的とする無機粒子含有樹脂基板の樹脂のアブレーション除去及び無機粒子の三次元溶融凝集体化を1回のレーザ照射で同時に行う技術について開示しているものは無い。
【実施例】
【0063】
以下、実施例に基づき、本発明をより具体的に説明する。
【実施例1】
【0064】
本実施例では、基材としてフェライト含有熱硬化性エポキシ樹脂成形体(厚さ:2mm、一辺が11mmの正方形状)を用いて、パワーインダクタ用の配線(銅マイクロ粒子焼結膜)形成実験を行った。図9は実施例1の基材の表面のSEM(Scanning Electron Microscope)観察写真である。図9に示すように、基材は、平均粒子径約5μmのフェライト粒子91が熱硬化性樹脂90に分散されている構成を有している。
【0065】
フェライト粒子91には、FeSiCr系のフェライトを用いた。この成形体全面に対して、まず表面改質膜の形成を行った。表面改質膜の形成には、グリーンレーザマーカ(株式会社キーエンス製、型式:MD−S9900A、波長:532nm、最大出力:6W、走査速度範囲:1〜1000m/s、ビームスポット径:25μm)を用いた。表面改質膜の形成は、大気中において、エポキシ樹脂のアブレーションとフェライト粒子の溶融凝集が同時に起こる条件(出力3.7W、周波数30kHz、走査速度800mm/s及びデフォーカスなし)とした。
【0066】
図10は実施例1の表面改質膜のSEM観察写真である。図10に示すように、エポキシ樹脂はレーザアブレーションにより除去されて空隙102を形成している。また、フェライト粒子は溶融凝集し、直径10〜50μm程度の三次元構造の溶融凝集体101を形成している。空隙102は最大10μm程度あり、表面改質層の表面から奥(基材の厚さ方向)に入り組んだ構成となっている。
【0067】
図11は実施例1の基材の反射及び吸収スペクトルである。図11に示すように、基材のグリーンレーザマーカの波長532nmにおける吸収率は85%であり、基材は高い吸収率を持っている。図12は実施例1の表面改質膜の表面のEDX(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)分析の結果を示すグラフである。EDX分析には、SEM装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、型式:S−4300)を使用した。また、図12のグラフから得られた元素の組成を以下の表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
図12及び表1の結果から、表面改質膜形成後は、エポキシ樹脂起因のCが減少し、フェライト成分であるFe,Cr,Siの成分が増えており、エポキシ樹脂のアブレーションとフェライトの溶融凝集が効果的に行われていることが解る。
【0070】
表面改質膜形成後、以下の表2に示す組成の銅マイクロ粒子ペーストを基材の表面全面にスキージー法により印刷した。このペーストの粘度は、3000mPa・sであった。塗布膜の厚さは50μmとした。銅マイクロ粒子には、日本アトマイズ加工株式会社製のHXR−Cu(平均粒子径:1μm)を使用した。図13は実施例1の導電性ペースト中の銅マイクロ粒子のSEM観察写真である。
【0071】
【表2】
【0072】
導電性ペースト印刷後、溶剤の乾燥処理を、大気中、110℃×15minで行った。図14は実施例1の塗布膜乾燥後の基材の断面SEM観察写真である。図14に示すように、フェライト粒子が溶融凝集した溶融凝集体141´の空隙に銅マイクロ粒子が深く侵入して銅マイクロ粒子塗布膜146が形成されていることがわかる。
【0073】
図15は、実施例1において塗布膜乾燥後の反射、吸収、透過スペクトルである。図13に示すように、溶剤を乾燥除去した塗布膜は、波長532nmにおいて90%以上の吸収率を有し、この波長のグリーンレーザで銅マイクロ粒子の焼結が効果的に行われることが解る。
【0074】
次に、塗布膜にグリーンレーザを照射した。グリーンレーザによる焼結は、大気中において、出力2.7W、周波数40kHz、走査速度1mm/s、デフォーカス量:基板下方向6mmの条件で行った。1mm/sの走査速度において、1回のレーザ照射により、線幅約0.6mm、厚さ約27μmの配線を形成できた。焦点ビーム径0.025mmに対し0.6mmの線幅の配線が得られたのは、デフォーカスによるものである。
【0075】
図16は実施例1の金属皮膜形成工程後(銅マイクロ粒子焼結後)の基材の上面の光学顕微鏡観察写真であり、図17図16の断面SEM写真である。図16に示すように、レーザを照射しない部分は未焼結部(導電性ペースト乾燥後の状態)166となり、この部分はエチルアルコール等の溶剤により容易に除去することが可能である。焼結膜163の密着性を接着テープによる貼り付け引き剥がし試験(接着力:2N/cm)を行った結果、剥離は生じなかった。また、配線の比抵抗値を4端子法によって測定した結果、15.6μΩcmの値が得られた。この値は、未硬化エポキシ系樹脂に銅や銀の粒子を混合して硬化させる方式の導電性金属ペーストと比較して約1/2から1/3の値である。
【実施例2】
【0076】
本実施例では、表面改質膜の形成を、基材の全面ではなく、ライン状(線幅:300μm、深さ:50μm)に設定して行い、その他の条件は実施例1と同様に行った。線幅300μmは、レーザ焼結におけるビーム幅200μmに対して100μm大きく、また、深さは厚さ27μmのレーザ焼結膜配線が完全に埋没する深さとしたものである。表面改質膜形成工程におけるレーザ光照射を300μm線幅で行ってから、導電性ペーストをスキージーにより溝に充填し、溶剤乾燥後にグリーンレーザを照射した。図18は実施例2の導電性金属皮膜形成工程後の基材の表面の光学顕微鏡観察写真を示す。図18に示すように、表面改質処理した溝に埋没した配線を形成できた。
【実施例3】
【0077】
本実施例では、基材として、黒色の熱硬化性エポキシ樹脂に球形石英フィラーを含有させた半導体パッケージ用封止樹脂(住友ベークライト株式会社製、製品名:G600)を用いた。半導体パッケージに使用される黒色の封止樹脂は、微量のカーボン粉末を添加することで、封止樹脂の帯電を抑制し、半導体チップの静電破壊を防止するのが目的である。上記G600は、米国難燃性規格UL−94においてV0レベルの難燃性を有しまた、260℃までの耐熱温度を有している。
【0078】
図19は実施例3の基材の表面の光学顕微鏡写真である。図19に示すように、この封止樹脂のフィラーは、粒子径10〜50μm程度の球形フィラー分布を有している。
【0079】
図20は実施例3の表面改質膜形成工程後の光学顕微鏡写真である。表面改質処理工程は、グリーンレーザにより、出力0.9W、周波数20kHz、走査速度100mm/s、デフォーカスなしの条件で行った。図20に示すように、フィラーの微細な粒子は消失し、50μm程度の粗大粒子の溶融凝集体になっている。この表面改質膜の上に銅マイクロ粒子ペーストを50μmの厚さにスキージーを用いて塗布し、グリーンレーザ照射したところ、基材上に密着性及び導電性に優れた金属皮膜を形成することができた。本実施例の結果より、フェライト含有熱硬化性エポキシ樹脂成形体のみならず、熱硬化性エポキシ樹脂に球形石英フィラーを含有したものも基材として使用できることが実証された。
【0080】
以上、説明したように、本発明によれば、密着性と導電性に優れた導電性金属皮膜を有する金属皮膜形成品、それを用いた電子部品及び金属皮膜形成品の製造方法を提供することができることが示された。
【0081】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0082】
1,21,31,41,51,71a,71b,81,81b…基材、2,52,72,82,…表面改質膜、3,23,33,43,53,73,83,163,173,183…導電性金属皮膜、10,30,40…金属皮膜形成品、20…金属皮膜形成品の積層体、24,54,74,84…ビア穴、25…外部電極、27…筐体、28…はんだ、200…電子部品(インダクタ)、30…アンテナ、40…コネクタ、43…オス端子挿入孔、50,70,80アンテナ、55,75,85…導電性ペースト塗布膜,56…導電性ペースト塗布装置、56,146,166,186…塗布膜を乾燥した膜、58…塗布装置、61…基材セット室、62…レーザ光照射装置、63…ホットプレート、77,87…接着フィルム、90,140,170…樹脂、91,141,…無機粒子、101,141´,171´…無機粒子の溶融凝集体、102…空隙、
【要約】
【課題】
無機粒子を含有する樹脂製の基板の表面に、密着性と導電性に優れた導電性金属皮膜を有する金属皮膜形成品及び金属皮膜形成品の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明の金属皮膜形成品(10)は、樹脂及び樹脂に分散された無機粒子を含む基材(1)と、基材(1)の表面に形成された表面改質膜(2)と、表面改質膜(2)の表面に形成され、導電性の金属からなる導電性金属皮膜(3)と、を有し、表面改質膜(2)は、基材(1)に含まれる無機粒子が空隙を含みながら溶融凝集体を構成してなる組織を有することを特徴とする。
【選択図】図1
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20