(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれらの具体的な実施形態には限定されない。
【0010】
A.光拡散素子
A−1.全体構成
本発明の光拡散素子は、第1の屈折率を有する第1の領域と第2の屈折率を有する第2の領域とを有する。本発明の光拡散素子は、第1の領域と第2の領域との屈折率差により、光拡散機能を発現する。本発明においては、第1の領域および第2の領域が微細凹凸状でかつ球殻状の境界を形成している。したがって、本発明の光拡散素子においては、外見的には、微細凹凸状でかつ球殻状の境界で包囲された第1の領域が、第2の領域に分散した状態となっている。当該境界の微細凹凸のサイズは、好ましくは光の波長以下である。すなわち、屈折率の異なる第1の領域と第2の領域との間に光の波長以下のサイズの微細凹凸状の境界を形成することにより、凹凸の高さに応じた実質的な屈折率の変調領域が形成される。
【0011】
第1の領域、第2の領域および境界(実質的な屈折率変調領域)は、任意の適切な手段により形成され得る。例えば、以下のような手段が挙げられる:(1)微粒子の中心部から外側に向かって連続的に屈折率が変化する屈折率傾斜微粒子(例えば、いわゆるGRIN微粒子)の屈折率傾斜部分の外郭が凹凸形状となるように形成し、当該微粒子を樹脂中に分散させること。この場合、凹凸の屈折率傾斜部分が境界に対応する。さらに、外郭は、例えば微粒子の表面を溶媒で処理することにより凹凸形状とすることができる;(2)マトリクスに樹脂成分と超微粒子成分とを用い、超微粒子成分の分散濃度の実質的な勾配により、マトリクスと光拡散性微粒子との界面またはその近傍に屈折率の異なる2つの領域が微細凹凸状でかつ球殻状に境界を形成すること。以下、マトリクスに樹脂成分と超微粒子成分とを用いる実施形態について主に説明し、その他の実施形態については、その特徴的な部分のみを簡単に説明する。
【0012】
1つの実施形態においては、本発明の光拡散素子は、マトリクスと該マトリクス中に分散された光拡散性微粒子とを有する。本実施形態の光拡散素子は、マトリクスと光拡散性微粒子の屈折率差により、光拡散機能を発現する。本実施形態においては、マトリクスと光拡散性微粒子との界面またはその近傍に屈折率の異なる2つの領域が微細凹凸状でかつ球殻状に境界を形成している。当該境界の微細凹凸のサイズは、好ましくは光の波長以下である。すなわち、屈折率の異なる2つの領域間に光の波長以下のサイズの微細凹凸状の境界を形成することにより、凹凸の高さに応じた実質的な屈折率の変調領域がマトリクスと光拡散性微粒子との界面またはその近傍に形成される。本明細書において「マトリクスと光拡散性微粒子との界面またはその近傍」とは、光拡散性微粒子表面、表面付近の外部および表面付近の内部を包含する。すなわち、微細凹凸状の表面を有する光拡散性微粒子と、当該光拡散性微粒子と屈折率の異なるマトリクスとの界面において、当該光拡散性微粒子の表面性状に起因した微細凹凸状の境界を形成してもよく;マトリクスが光拡散性微粒子の表面を溶解浸食した結果、光拡散性微粒子の表面が微細凹凸状となり、当該表面性状に起因した微細凹凸状の境界を形成してもよく;光拡散性微粒子の内部に屈折率の異なる2つの領域の界面が存在し、当該界面が微細凹凸状の境界を形成してもよく;光拡散性微粒子の表面近傍外部のマトリクスに屈折率の異なる2つの領域の界面が存在し、当該界面が微細凹凸状の境界を形成してもよい。マトリクスと光拡散性微粒子との界面またはその近傍にて屈折率の異なる2つの領域が微細凹凸状に境界を形成し、それにより屈折率が実質的に連続的に変化する場合、マトリクスは、実質的には、光拡散性微粒子との界面またはその近傍の当該屈折率変調領域とその外側の屈折率一定領域とを有する。屈折率変調領域においては、屈折率は実質的に連続的に変化する。本明細書において「屈折率が実質的に連続的に変化する」とは、屈折率変調領域において少なくとも光拡散性微粒子表面から屈折率一定領域まで屈折率が実質的に連続的に変化すればよいことを意味する。
【0013】
図1Aは、本実施形態による光拡散素子の概略断面図であり、
図1Bは、光拡散性微粒子の表面近傍に形成された微細凹凸状の境界による屈折率変調領域を説明するための模式図であり、
図1Cは、
図1Bの微細凹凸状の境界の詳細を説明するための模式図であり、
図1Dは、
図1Bの微細凹凸状の境界を形成し得るようなマトリクスの状態を説明するための模式図である。マトリクスは、好ましくは、樹脂成分および超微粒子成分を含む。
図1Aの光拡散素子100は、樹脂成分11および超微粒子成分12を含むマトリクス10と、マトリクス10中に分散された光拡散性微粒子20とを有する。好ましくは、マトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍において、マトリクス10中に超微粒子成分が分散している領域と分散していない領域との境界が存在し、当該境界が微細凹凸状である。本実施形態においては、
図1Aに示すように、マトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍外部に屈折率変調領域30が形成されている。
図1Bおよび
図1Cに示すように、屈折率変調領域30は、上記のような微細凹凸状の境界25により、屈折率変調機能を発現する。上記のように、屈折率変調領域30においては、屈折率が実質的に連続的に変化する。さらに、微細凹凸状の境界25は、マトリクスと光拡散性微粒子との界面またはその近傍に形成されるので、実質的に球殻状となる。なお、本実施形態においては、光拡散性微粒子およびマトリクス中の超微粒子成分が分散していない領域が上記第1の領域に対応し、マトリクス中の超微粒子成分が分散している領域が上記第2の領域に対応する。
【0014】
図1Bおよび
図1Cに示すように、上記微細凹凸状の境界は、好ましくは、凹凸のピッチ、凹部の深さまたは凸部の高さ、ならびに、凹部および凸部の形状が、それぞれ不均一である。このような不均一な凹凸構造をマトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍に形成することにより、屈折率変調領域を良好に形成することができる。上記微細凹凸状の境界における凹凸の平均高さは、好ましくは10nm〜500nmであり、さらに好ましくは10nm〜60nmである。上記微細凹凸状の境界の平均ピッチは、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは30nm以下である。平均ピッチの下限は、好ましくは5nmであり、より好ましくは10nmである。このような平均ピッチおよび平均高さであれば、屈折率変調領域において屈折率を実質的に連続的に変化させることができ、かつ、屈折率変化の勾配を急峻にすることができる。その結果、ヘイズ値が高く、強い拡散性を有し、かつ、後方散乱が抑制された薄膜の光拡散素子を得ることができる。ここで、平均ピッチとは、所定の範囲において隣接する凸部同士の頂点と頂点との水平距離の統計的平均をいい、平均高さとは、所定の範囲における凸部の高さ(谷底から頂点までの垂直距離)の統計的平均をいう。例えば、上記のような微細凹凸状の境界は、
図1Cに示すように、光拡散性微粒子からマトリクスに向けて錐状および/または針状の微細な突起群を有する(なお、微細凹凸状の境界は、マトリクス側から見ても同様であり、光拡散性微粒子に向けて錐状および/または針状の微細な突起群を有する)。このような微細凹凸状の境界を形成することにより、反射率の低い光拡散素子が得られ得る。
【0015】
上記のように、マトリクス10は、好ましくは樹脂成分11および超微粒子成分12を含む。好ましくは、
図1Dに示すように、上記マトリクス10中の上記超微粒子成分12が分散している領域と分散していない領域とが微細凹凸状の境界を形成しており、マトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍において、超微粒子成分の分散濃度の実質的な勾配を形成している。ここで、屈折率変調機能は、微細凹凸状の境界全体の形状に起因して発現し得るが、さらに微視的に見た場合、境界における上記突起群のそれぞれの突起内においても、超微粒子成分の分散濃度は実質的な勾配を形成し得る。以下、境界における超微粒子成分の分散濃度の勾配を、透過型電子顕微鏡(TEM)画像を用いて説明する。
図2Aは、光拡散性微粒子近傍の超微粒子成分の分散状態を示す2次元TEM画像であり、
図2Bおよび
図2Cは、それぞれ異なる方向から見た
図2AのTEM画像からの3次元再構成像であり、
図2Dは、
図2Bの3次元再構成像を2値化したものである。
図3は、
図2A〜
図2CのTEM画像から算出した光拡散性微粒子表面からの距離と超微粒子成分の分散濃度(存在比率)との関係を示すグラフである。
図3のグラフは、
図2Dのマトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍部分を5つの解析エリアに分けて、5つの解析エリアそれぞれについて画像処理を行い、それぞれの解析エリアにおける光拡散性微粒子表面からの距離と超微粒子成分の分散濃度(存在比率)との関係を算出したものを平均し、グラフ化したものである。
図2A〜
図2Cに示すように、微細凹凸状の境界によれば、マトリクス10の屈折率一定領域から遠ざかるにつれて、超微粒子成分12の分散していない領域(または分散濃度の低い領域)の割合が増加する。好ましくは、
図3に示すように、超微粒子成分の分散濃度は、その濃度変化の勾配が光拡散性微粒子20に近接する側では小さく、屈折率一定領域に近接する側では大きく、光拡散微性粒子側から屈折率一定領域側に実質的な勾配を形成しながら変化する。言い換えれば、超微粒子成分12の分散濃度は、その濃度変化の勾配が光拡散性微粒子から遠ざかるにつれて大きくなる。1つの実施形態においては、
図2Dに示すように、微細凹凸状の境界は、光拡散性微粒子からマトリクスに向けて錐状および/または針状の微細な突起群を有する。
図2DにおけるAは光拡散性微粒子表面に対応する位置を表し、Bは屈折率変調領域と屈折率一定領域との界面に対応する位置を表す。なお、上記のような微細凹凸状の境界の凹凸の平均ピッチおよび凹凸の平均高さは、
図2Eに示すように、
図2Bおよび
図2Cに示すような3次元再構成像から光拡散性微粒子とマトリクスとの界面(実界面)を抽出し、当該実界面に対して近似曲面によるフィッティングを行い、実界面において近似曲面から30nm以上突出している凸部間の距離および凸部の平均高さから算出することができる。以上のように、本実施形態によれば、マトリクスと光拡散性微粒子との界面またはその近傍に超微粒子成分12の等濃度界面が微細凹凸状の境界を形成し、超微粒子成分の分散濃度の実質的な勾配を形成することで、屈折率変調領域30とすることができるので、簡便な手順で、かつ、低コストで光拡散素子を製造することができる。さらに、超微粒子成分の分散濃度の実質的な勾配を利用して屈折率変調領域を形成することにより、屈折率変調領域30と屈折率一定領域との境界において屈折率を滑らかに変化させることができる。さらに、樹脂成分および光拡散性微粒子と屈折率が大きく異なる超微粒子成分を用いることにより、光拡散性微粒子とマトリクス(実質的には、屈折率一定領域)との屈折率差を大きく、かつ、屈折率変調領域の屈折率勾配を急峻にすることができる。その結果、ヘイズ値が高く、強い拡散性を有し、かつ、後方散乱が抑制された薄膜の光拡散素子を得ることができる。
【0016】
上記微細凹凸状の境界は、マトリクスの樹脂成分および超微粒子成分ならびに光拡散性微粒子の構成材料、ならびに化学的および熱力学的特性を適切に選択することにより形成することができる。例えば、樹脂成分および光拡散性微粒子を同系の材料(例えば有機化合物同士)で構成し、超微粒子成分を樹脂成分および光拡散性微粒子とは異なる系の材料(例えば無機化合物)で構成することにより、微細凹凸状の境界(結果として屈折率変調領域)を良好に形成することができる。さらに、例えば、樹脂成分および光拡散性微粒子を同系材料の中でも相溶性の高い材料同士で構成することが好ましい。微細凹凸状の境界の形状(結果として、屈折率変調領域の厚みおよび屈折率勾配)は、マトリクスの樹脂成分および超微粒子成分ならびに光拡散性微粒子の化学的および熱力学的特性を調整することにより制御することができる。なお、本明細書において「同系」とは、化学構造や特性が同等または類似であることをいい、「異なる系」とは、同系以外のものをいう。同系か否かは、基準の選択の仕方によって異なり得る。例えば、有機か無機かを基準にした場合、有機化合物同士は同系の化合物であり、有機化合物と無機化合物とは異なる系の化合物である。ポリマーの繰り返し単位を基準にした場合、例えばアクリル系ポリマーとエポキシ系ポリマーとは有機化合物同士であるにもかかわらず異なる系の化合物であり、周期律表を基準にした場合、アルカリ金属と遷移金属とは無機元素同士であるにもかかわらず異なる系の元素である。
【0017】
より具体的には、上記のような超微粒子成分の分散濃度の実質的な勾配は、以下の(1)〜(2)またはそれらの適切な組み合わせにより実現され得る:(1)マトリクス中の超微粒子成分の分散濃度を調整すること。例えば、超微粒子成分の分散濃度を大きくすることにより、超微粒子成分同士の電気的な反発が大きくなり、結果として、光拡散微粒子近傍まで超微粒子成分が存在することになり、屈折率変調領域において急峻な屈折率勾配を形成することができる(屈折率変調領域の厚みが小さくなる)。(2)光拡散性微粒子の架橋度を調整すること。例えば、架橋度が低い光拡散性微粒子では、微粒子表面の構成ポリマー分子の自由度が高くなるので、超微粒子成分が近寄りにくくなる。その結果、屈折率変調領域において緩やかな屈折率勾配を形成することができる(屈折率変調領域の厚みが大きくなる)。好ましくは、上記(1)および(2)を適切に組み合わせることにより、上記のような超微粒子成分の分散濃度の実質的な勾配が実現され得る。例えば、ジルコニアの超微粒子成分とPMMAの光拡散性微粒子とを用い、当該超微粒子成分の分散濃度をマトリクス100重量部に対して30重量部〜70重量部に設定し、かつ、後述の樹脂成分前駆体に対する膨潤度が100%〜200%である光拡散性微粒子を用いることにより、マトリクス10中の超微粒子成分12の分散濃度が、光拡散性微粒子20に近接する側では小さく、屈折率一定領域に近接する側では大きく、光拡散微粒子側から屈折率一定領域側に実質的な勾配を形成しながら変化するような、分散濃度勾配を実現することができる。さらに、光拡散性微粒子表面の位置によって厚みが異なる(例えば、金平糖の外郭形状のような)屈折率変調領域を形成することができる。ここで、「膨潤度」とは、膨潤前の粒子の平均粒径に対する膨潤状態の粒子の平均粒径の比率をいう。
【0018】
上記屈折率変調領域30の平均厚みLは、好ましくは10nm〜500nm、より好ましくは12nm〜400nm、さらに好ましくは15nm〜300nmである。本発明によれば、従来のGRIN微粒子に比べて格段に小さい厚みの屈折率変調領域でありながら光拡散性微粒子とマトリクスとの屈折率差を大きくし(屈折率勾配を急峻にし)、かつ、当該屈折率変調領域において屈折率を実質的に連続的に変化させることができる。なお、当該平均厚みLは、光拡散性微粒子表面近傍から屈折率一定領域までの屈折率が変化する領域の厚みである。
【0019】
上記のように、屈折率変調領域30においては、好ましくは、屈折率が実質的に連続的に変化し得る。さらに好ましくは、これに加えて、上記屈折率変調領域の最外部の屈折率と上記屈折率一定領域の屈折率とが実質的に同一である。言い換えれば、本実施形態の光拡散素子においては、屈折率変調領域から屈折率一定領域にかけて屈折率が連続的に変化し、好ましくは光拡散性微粒子から屈折率一定領域にかけて屈折率が連続的に変化する(
図4)。さらに好ましくは、当該屈折率変化は、
図4に示すように滑らかである。すなわち、屈折率変調領域と屈折率一定領域との境界において、屈折率変化曲線に接線が引けるような形状で変化する。好ましくは、屈折率変調領域において、屈折率変化の勾配は、上記光拡散性微粒子から遠ざかるにつれて大きくなる。本実施形態によれば、光拡散性微粒子とマトリクスの樹脂成分と超微粒子成分とを適切に選択することにより、実質的に連続的な屈折率変化を実現することができる。上記のように急峻で、かつ、このような実質的に連続的な屈折率変化を実現したことが本発明の特徴の1つである。その結果、マトリクス10(実質的には、屈折率一定領域)と光拡散性微粒子20との屈折率差を大きくしても、マトリクス10と光拡散性微粒子20との界面の反射を抑えることができ、後方散乱を抑制することができる。さらに、屈折率一定領域では、光拡散性微粒子20とは屈折率が大きく異なる超微粒子成分12の重量濃度が相対的に高くなるので、マトリクス10(実質的には、屈折率一定領域)と光拡散性微粒子20との屈折率差を大きくすることができる。その結果、薄膜であっても高いヘイズ(強い拡散性)を実現することができる。したがって、本実施形態の光拡散素子によれば、屈折率差を大きくして高ヘイズを実現しつつ、後方散乱を顕著に抑制することができる。このような特徴は、コリメートバックライトフロント拡散システムに使用される光拡散素子のように強い拡散性(ヘイズが90%以上)が要求される用途において特に好適である。一方、屈折率変調領域が形成されない従来の光拡散素子によれば、屈折率差を大きくすることにより強い拡散性(高ヘイズ値)を付与しようとすると、界面での屈折率のギャップを解消することができない。その結果、光拡散性微粒子とマトリクスとの界面での反射による後方散乱が大きくなってしまうので、外光の存在下で黒表示が十分に黒くならない(いわゆる黒が浮いてしまう)場合が多い。本発明によれば、上記微細凹凸状の境界を形成し、結果として屈折率が連続的に変化する屈折率変調領域を形成することにより、上記従来技術の問題を解決し、ヘイズ値が高く、強い拡散性を有し、かつ、後方散乱が抑制された薄膜の光拡散素子を得ることができる。
【0020】
本実施形態の光拡散素子においては、好ましくは、マトリクスの平均屈折率n
Mが光拡散性微粒子の屈折率n
Pよりも大きい(n
M>n
P)。
図5(a)および
図5(b)に比較して示すように、n
M>n
Pである場合には、n
M<n
Pである場合に比べて、屈折率変調領域の屈折率勾配が急峻であっても後方散乱をより良好に抑制することができる。Δn(=n
M−n
P)は、好ましくは0.08以上、さらに好ましくは0.10以上である。Δnの上限は、好ましくは0.2である。
【0021】
本発明の光拡散素子の光拡散特性は、代表的にはヘイズと光拡散半値角によって表される。ヘイズとは、光の拡散の強さ、すなわち入射光の拡散度合いを示すものである。一方、光拡散半値角とは、拡散光の質、すなわち拡散させる光の角度範囲を示すものである。本発明の光拡散素子は、ヘイズが高い場合にその効果が十分に発揮される。光拡散素子のヘイズは、好ましくは90%〜99.9%であり、より好ましくは92%〜99.9%であり、さらに好ましくは95%〜99.9%であり、特に好ましくは97%〜99.9%である。ヘイズが90%以上であることにより、コリメートバックライトフロント拡散システムにおけるフロント光拡散素子として好適に用いることができる。本発明によれば、このような非常に高いヘイズを有し、かつ、後方散乱が抑制された光拡散素子が得られ得る。なお、コリメートバックライトフロント拡散システムとは、液晶表示装置において、コリメートバックライト光(一定方向に集光された、輝度半値幅の狭い(例えば、3°〜35°もしくは±1.5°〜±17.5°の)バックライト光)を用い、上側偏光板の視認側にフロント光拡散素子を設けたシステムをいう。
【0022】
上記光拡散素子の光拡散特性は、光拡散半値角で示すならば、好ましくは10°〜150°(片側5°〜75°)であり、より好ましくは10°〜100°(片側5°〜50°)であり、さらに好ましくは30°〜80°(片側15°〜40°)である。光拡散半値角が小さすぎると、斜めの視野角(例えば、白輝度)が狭くなる場合がある。光拡散半値角が大きすぎると、後方散乱が大きくなる場合がある。
【0023】
光拡散素子は、後方散乱率が低ければ低いほど好ましい。具体的には、後方散乱率は、好ましくは0.5%以下である。
【0024】
上記光拡散素子の厚みは、目的や所望の拡散特性に応じて適切に設定され得る。具体的には、上記光拡散素子の厚みは、好ましくは4μm〜50μm、より好ましくは4μm〜20μmである。本発明によれば、このように非常に薄い厚みにもかかわらず、上記のような非常に高いヘイズを有する光拡散素子が得られ得る。さらに、このような薄い厚みであれば折り曲げても割れたりせず、ロール状での保管が可能となる。加えて、後述するように、本発明の光拡散素子は塗工により形成され得るので、例えば、光拡散素子の製造と偏光板への貼り合わせとをいわゆるロール・トゥ・ロールで連続的に行うことができる。したがって、本発明の光拡散素子は、光拡散素子自体の生産性が従来の光拡散素子に比べて格段に優れ、かつ、偏光板のような他の光学部材との貼り合わせの製造効率もきわめて高い。なお、ロール・トゥ・ロールとは、長尺のフィルム同士をロール搬送しながら、その長手方向を揃えて連続的に貼り合わせる方法をいう。
【0025】
上記光拡散素子は、液晶表示装置に好適に用いられ、コリメートバックライトフロント拡散システムに特に好適に用いられる。上記光拡散素子は、単独でフィルム状または板状部材として提供してもよく、任意の適切な基材や偏光板に貼り付けて複合部材として提供してもよい。また、光拡散素子の上に反射防止層が積層されてもよい。
【0026】
A−2.マトリクス
上記のとおり、マトリクス10は、好ましくは樹脂成分11および超微粒子成分12を含む。上記のように、ならびに、
図1Aおよび
図1Bに示すように、超微粒子成分12は、マトリクス10と光拡散性微粒子20との界面近傍に屈折率変調領域30を形成するようにして、樹脂成分11に分散している。
【0027】
A−2−1.樹脂成分
樹脂成分11は、上記微細凹凸状の境界(結果として屈折率変調領域)が形成される限りにおいて、任意の適切な材料で構成される。好ましくは、上記のように、樹脂成分11は、光拡散性微粒子と同系の化合物であってかつ超微粒子成分とは異なる系の化合物で構成される。これにより、マトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍(光拡散性微粒子の表面近傍)に屈折率変調領域を良好に形成することができる。さらに好ましくは、樹脂成分11は、光拡散性微粒子と同系の中でも相溶性の高い化合物で構成される。これにより、所望の屈折率勾配を有する屈折率変調領域を形成することができる。
【0028】
上記樹脂成分は、好ましくは有機化合物で構成され、より好ましくは電離線硬化型樹脂で構成される。電離線硬化型樹脂は、塗膜の硬度に優れているため、後述する超微粒子成分の弱点である機械強度を補いやすい。電離線としては、例えば、紫外線、可視光、赤外線、電子線が挙げられる。好ましくは紫外線であり、したがって、樹脂成分は、特に好ましくは紫外線硬化型樹脂で構成される。紫外線硬化型樹脂としては、例えば、アクリレート樹脂(エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、アクリルアクリレート、エーテルアクリレート)などのラジカル重合型モノマーもしくはオリゴマーから形成される樹脂が挙げられる。アクリレート樹脂を構成するモノマー成分(前駆体)の分子量は、好ましくは200〜700である。アクリレート樹脂を構成するモノマー成分(前駆体)の具体例としては、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA:分子量298)、ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPGDA:分子量212)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA:分子量632)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(DPPA:分子量578)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA:分子量296)が挙げられる。前駆体には、必要に応じて、開始剤を添加してもよい。開始剤としては、例えば、UVラジカル発生剤(BASFジャパン社製イルガキュア907、同127、同192など)、過酸化ベンゾイルが挙げられる。上記樹脂成分は、上記電離線硬化型樹脂以外に別の樹脂成分を含んでいてもよい。別の樹脂成分は、電離線硬化型樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。別の樹脂成分の代表例としては、脂肪族系(例えば、ポリオレフィン)樹脂、ウレタン系樹脂が挙げられる。別の樹脂成分を用いる場合、その種類や配合量は、上記屈折率変調領域が良好に形成されるよう調整される。
【0029】
上記樹脂成分は、代表的には、下記式(1)を満足する:
|n
P−n
A|<|n
P−n
B|・・・(1)
式(1)中、n
Aはマトリクスの樹脂成分の屈折率を表し、n
Bはマトリクスの超微粒子成分の屈折率を表し、n
Pは光拡散性微粒子の屈折率を表す。さらに、樹脂成分は下記式(2)も満足し得る:
|n
P−n
A|<|n
A−n
B|・・・(2)
樹脂成分の屈折率は、好ましくは1.40〜1.60である。
【0030】
上記樹脂成分の配合量は、マトリクス100重量部に対して、好ましくは10重量部〜80重量部であり、より好ましくは20重量部〜65重量部である。
【0031】
A−2−2.超微粒子成分
超微粒子成分12は、上記のように、好ましくは上記樹脂成分および後述の光拡散性微粒子とは異なる系の化合物で構成され、より好ましくは無機化合物で構成される。好ましい無機化合物としては、例えば、金属酸化物、金属フッ化物が挙げられる。金属酸化物の具体例としては、酸化ジルコニウム(ジルコニア)(屈折率:2.19)、酸化アルミニウム(屈折率:1.56〜2.62)、酸化チタン(屈折率:2.49〜2.74)、酸化ケイ素(屈折率:1.25〜1.46)が挙げられる。金属フッ化物の具体例としては、フッ化マグネシウム(屈折率:1.37)、フッ化カルシウム(屈折率:1.40〜1.43)が挙げられる。これらの金属酸化物および金属フッ化物は、光の吸収が少ない上に、電離線硬化型樹脂や熱可塑性樹脂などの有機化合物では発現が難しい屈折率を有しているので、光拡散性微粒子との界面から離れるにつれて超微粒子成分の重量濃度が相対的に高くなることにより、屈折率を大きく変調させることができる。光拡散性微粒子とマトリクスとの屈折率差を大きくすることにより、薄膜であっても高ヘイズを実現でき、かつ、屈折率変調領域が形成されるので後方散乱防止の効果も大きい。特に好ましい無機化合物は、酸化ジルコニウムである。
【0032】
上記超微粒子成分もまた、上記式(1)および(2)を満足し得る。上記超微粒子成分の屈折率は、好ましくは1.40以下または1.60以上であり、さらに好ましくは1.40以下または1.70〜2.80であり、特に好ましくは1.40以下または2.00〜2.80である。屈折率が1.40を超えまたは1.60未満であると、光拡散性微粒子とマトリクスとの屈折率差が不十分となり、光拡散素子がコリメートバックライトフロント拡散システムを採用する液晶表示装置に用いられた場合に、コリメートバックライトからの光を十分に拡散できず視野角が狭くなるおそれがある。
【0033】
上記超微粒子成分の平均1次粒子径は、屈折率変調領域の平均厚みLに比べて小さいことが好ましい。より具体的には、平均1次粒子径は、平均厚みLに対して好ましくは1/50〜1/2、より好ましくは1/25〜1/3である。平均1次粒子径が平均厚みLに対して1/2を超えると、屈折率変調領域における屈折率変化が実質的に連続的にならない場合がある。1/50未満である場合、屈折率変調領域の形成が困難になる場合がある。上記平均1次粒子径は、好ましくは1nm〜100nmであり、より好ましくは1nm〜50nmである。超微粒子成分は2次凝集していてもよく、その場合の平均粒子径(凝集体の平均粒子径)は、好ましくは10nm〜100nmであり、より好ましくは10nm〜80nmである。このように、光の波長より小さい平均粒径の超微粒子成分を用いることにより、超微粒子成分と樹脂成分との間に幾何光学的な反射、屈折、散乱が生じず、光学的に均一なマトリクスを得ることができる。その結果、光学的に均一な光拡散素子を得ることができる。
【0034】
上記超微粒子成分は、上記樹脂成分との分散性が良好であることが好ましい。本明細書において「分散性が良好」とは、上記樹脂成分と超微粒子成分と(必要に応じて少量のUV開始剤と)揮発溶剤とを混合して得られた塗工液を塗布し、溶剤を乾燥除去して得られた塗膜が透明であることをいう。
【0035】
好ましくは、上記超微粒子成分は、表面改質がなされている。表面改質を行うことにより、超微粒子成分を樹脂成分中に良好に分散させることができ、かつ、上記屈折率変調領域を良好に形成することができる。表面改質手段としては、本発明の効果が得られる限りにおいて任意の適切な手段が採用され得る。代表的には、表面改質は、超微粒子成分の表面に表面改質剤を塗布して表面改質剤層を形成することにより行われる。好ましい表面改質剤の具体例としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等のカップリング剤、脂肪酸系界面活性剤等の界面活性剤が挙げられる。このような表面改質剤を用いることにより、樹脂成分と超微粒子成分との濡れ性を向上させ、樹脂成分と超微粒子成分との界面を安定化させ、超微粒子成分を樹脂成分中に良好に分散させ、かつ、屈折率変調領域を良好に形成することができる。
【0036】
上記超微粒子成分の配合量は、マトリクス100重量部に対して、好ましくは15重量部〜80重量部であり、より好ましくは20重量部〜70重量部である。
【0037】
A−3.光拡散性微粒子
光拡散性微粒子20もまた、上記微細凹凸状の境界(結果として屈折率変調領域)が良好に形成される限りにおいて、任意の適切な材料で構成される。好ましくは、上記のように、光拡散性微粒子20は、上記マトリクスの樹脂成分と同系の化合物で構成される。例えば、マトリクスの樹脂成分を構成する電離線硬化型樹脂がアクリレート系樹脂である場合には、光拡散性微粒子もまたアクリレート系樹脂で構成されることが好ましい。より具体的には、マトリクスの樹脂成分を構成するアクリレート系樹脂のモノマー成分が例えば上記のようなPETA、NPGDA、DPHA、DPPAおよび/またはTMPTAである場合には、光拡散性微粒子を構成するアクリレート系樹脂は、好ましくは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリメチルアクリレート(PMA)、およびこれらの共重合体、ならびにそれらの架橋物である。PMMAおよびPMAとの共重合成分としては、ポリウレタン、ポリスチレン(PS)、メラミン樹脂が挙げられる。特に好ましくは、光拡散性微粒子は、PMMAで構成される。マトリクスの樹脂成分および超微粒子成分との屈折率や熱力学的特性の関係が適切であるからである。さらに、好ましくは、光拡散性微粒子は、架橋構造(三次元網目構造)を有する。架橋構造の粗密(架橋度)を調整することにより、光拡散性微粒子表面において微粒子を構成するポリマー分子の自由度を制御することができるので、超微粒子成分の分散状態を制御することができ、結果として、所望の形状を有する微細凹凸状の境界により屈折率変調領域を形成することができる。例えば、後述の塗工液を塗布する際の光拡散性微粒子の樹脂成分前駆体(溶媒を含んでいてもよい)に対する膨潤度は、好ましくは100%〜200%である。ここで、「膨潤度」とは、架橋度の指標であり、膨潤前の粒子の平均粒径に対する膨潤状態の粒子の平均粒径の比率をいう。
【0038】
上記光拡散性微粒子は、平均粒径が、好ましくは1.0μm〜5.0μmであり、より好ましくは1.0μm〜4.0μmである。光拡散性微粒子の平均粒径は、好ましくは、光拡散素子の厚みの1/2以下(例えば、1/2〜1/20)である。光拡散素子の厚みに対してこのような比率を有する平均粒径であれば、光拡散性微粒子を光拡散素子の厚み方向に複数配列することができるので、入射光が光拡散素子を通過する間に当該光を多重に拡散させることができ、その結果、十分な光拡散性が得られ得る。
【0039】
光拡散性微粒子の重量平均粒径分布の標準偏差は、好ましくは1.0μm以下であり、より好ましくは0.5μm以下である。重量平均粒径に対して粒径の小さい光拡散性微粒子が多数混在していると、拡散性が増大しすぎて後方散乱を良好に抑制できない場合がある。重量平均粒径に対して粒径の大きい光拡散性微粒子が多数混在していると、光拡散素子の厚み方向に複数配列することができず、多重拡散が得られない場合があり、その結果、光拡散性が不十分となる場合がある。
【0040】
上記光拡散性微粒子の形状としては、目的に応じて任意の適切な形状が採用され得る。具体例としては、真球状、燐片状、板状、楕円球状、不定形が挙げられる。多くの場合、上記光拡散性微粒子として真球状微粒子が用いられ得る。
【0041】
上記光拡散性微粒子もまた、上記式(1)および(2)を満足し得る。上記光拡散性微粒子の屈折率は、好ましくは1.30〜1.70であり、さらに好ましくは1.40〜1.60である。
【0042】
上記光拡散性微粒子の配合量は、マトリクス100重量部に対して、好ましくは10重量部〜100重量部であり、より好ましくは10重量部〜40重量部、さらに好ましくは10重量部〜35重量部である。例えばこのような配合量で上記好適範囲の平均粒径を有する光拡散性微粒子を含有させることにより、非常に優れた光拡散性を有する光拡散素子が得られ得る。
【0043】
A−4.光拡散素子の製造方法
本実施形態の光拡散素子の製造方法は、マトリクスの樹脂成分またはその前駆体と超微粒子成分と光拡散性微粒子とを揮発性溶剤中に溶解または分散させた塗工液を基材に塗布する工程(工程Aとする)と、該基材に塗布された塗工液を乾燥させる工程(工程Bとする)と、を含む。
【0044】
(工程A)
樹脂成分またはその前駆体、超微粒子成分、および光拡散性微粒子については、それぞれ、上記A−2−1項、A−2−2項およびA−3項で説明したとおりである。代表的には、上記塗工液は前駆体および揮発性溶剤中に超微粒子成分および光拡散性微粒子が分散した分散体である。超微粒子成分および光拡散性微粒子を分散させる手段としては、任意の適切な手段(例えば、超音波処理、攪拌機による分散処理)が採用され得る。
【0045】
上記揮発性溶剤としては、上記各成分を溶解または均一に分散し得るかぎりにおいて、任意の適切な溶剤が採用され得る。揮発性溶剤の具体例としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、2−ブタノン(メチルエチルケトン)、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、トルエン、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、シクロペンタン、水が挙げられる。
【0046】
上記塗工液は、目的に応じて任意の適切な添加剤をさらに含有し得る。例えば、超微粒子成分を良好に分散させるために、分散剤が好適に用いられ得る。添加剤の他の具体例としては、紫外線吸収剤、レベリング剤、消泡剤が挙げられる。
【0047】
上記塗工液における上記各成分の配合量は、上記A−2項〜A−3項で説明したとおりである。塗工液の固形分濃度は、好ましくは10重量%〜70重量%程度となるように調整され得る。このような固形分濃度であれば、塗工容易な粘度を有する塗工液が得られ得る。
【0048】
上記基材としては、本発明の効果が得られる限りにおいて任意の適切なフィルムが採用され得る。具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ナイロンフィルム、アクリルフィルム、ラクトン変性アクリルフィルムなどが挙げられる。上記基材は、必要に応じて、易接着処理などの表面改質がなされていてもよく、滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤が含まれていてもよい。当該基材は、後述の光拡散素子付偏光板において、保護層として機能し得る場合がある。
【0049】
上記塗工液の基材への塗布方法としては、任意の適切なコーターを用いた方法が採用され得る。コーターの具体例としては、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、グラビアコーター、ダイコーター、コンマコーターが挙げられる。
【0050】
(工程B)
上記塗工液の乾燥方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体例としては、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥が挙げられる。好ましくは、加熱乾燥である。加熱温度は、例えば60℃〜150℃であり、加熱時間は、例えば30秒〜5分である。
【0051】
(工程C)
好ましくは、上記製造方法は、上記塗布工程の後に上記前駆体を重合させる工程(工程C)をさらに含む。重合方法は、樹脂成分(したがって、その前駆体)の種類に応じて任意の適切な方法が採用され得る。例えば、樹脂成分が電離線硬化型樹脂である場合には、電離線を照射することにより前駆体を重合する。電離線として紫外線を用いる場合には、その積算光量は、好ましくは50mJ/cm
2〜1000mJ/cm
2である。電離線の光拡散性微粒子に対する透過率は、好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上である。また例えば、樹脂成分が熱硬化型樹脂である場合には、加熱することにより前駆体を重合する。加熱温度および加熱時間は、樹脂成分の種類に応じて適切に設定され得る。好ましくは、重合は電離線を照射することにより行われる。電離線照射であれば、屈折率変調領域を良好に保持したまま塗膜を硬化させることができるので、良好な拡散特性の光拡散素子を作製することができる。前駆体を重合することにより、光拡散性微粒子との界面近傍において屈折率の異なる2つの領域が微細凹凸状の境界を形成し、それにより屈折率変調領域30が形成されているマトリクス10が形成される。
【0052】
上記重合工程(工程C)は、上記乾燥工程(工程B)の前に行ってもよく、工程Bの後で行ってもよい。
【0053】
以上のようにして、基材上に、
図1Aおよび
図1Bに示すような光拡散素子が形成される。
【0054】
本実施形態の光拡散素子の製造方法が、上記工程A〜工程Cに加えて、任意の適切な時点で任意の適切な工程、処理および/または操作を含み得ることは言うまでもない。そのような工程等の種類およびそのような工程等が行われる時点は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0055】
以上のようにして、上記A−1項〜A−3項で説明したような光拡散素子が基材上に形成される。
【0056】
A−5.別の実施形態
図6は、本発明の別の実施形態による光拡散素子の概略断面図である。
図6の光拡散素子100’は、マトリクス10と、マトリクス10中に分散された光拡散性微粒子20とを有する。光拡散性微粒子20は、その外郭が微細凹凸形状に形成されており、当該外郭部分により微細凹凸形状でかつ球殻状の境界が形成され、当該境界が屈折率変調領域30を構成する。すなわち、本実施形態においては、微細凹凸形状でかつ球殻状の境界(したがって、屈折率変調領域)は、光拡散性微粒子の表面の凹凸により形成されている。光拡散性微粒子の表面の凹凸は、任意の適切な手段により形成され得る。例えば、光拡散性微粒子の表面を適切な溶媒で処理することにより、微細な凹凸形状を形成することができる。表面処理に用いられる溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)のようなケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルのようなエステル系溶媒が挙げられる。マトリクス10は、例えば、超微粒子成分を用いる形態の樹脂成分に関して上記A−2−1項に記載したような樹脂で構成され得る。なお、本実施形態においては、マトリクス10は、超微粒子成分を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。また、微細凹凸形状でかつ球殻状の境界は、光拡散性微粒子の表面の凹凸のみにより形成されてもよく、光拡散性微粒子の表面の凹凸と超微粒子成分の分散濃度の勾配との組み合わせにより形成されてもよい。屈折率変調領域30においては、好ましくは、屈折率が実質的に連続的に変化する。なお、本実施形態においては、光拡散性微粒子が上記第1の領域に対応し、マトリクスが上記第2の領域に対応する。
【0057】
本実施形態については、構造の特徴的な部分についてのみ簡単に説明した。本実施形態の光拡散素子の全体的な特徴は、樹脂成分および超微粒子成分を含むマトリクスを用いる実施形態に関して上記したとおりである。
【0058】
本発明のさらに別の実施形態による光拡散素子(図示せず)は、マトリクスと、マトリクス中に分散された光拡散性微粒子とを有する。光拡散性微粒子は、中心部から外側に向かって屈折率が変化する屈折率傾斜粒子(例えば、GRIN微粒子)であり、屈折率傾斜部分が屈折率変調領域を構成する。代表的には、屈折率傾斜粒子は、中心部と当該中心部を覆う表層部とからなるポリマー粒子である。このようなポリマー粒子を構成するポリマーの具体例としては、ビニル系ポリマー、(メタ)アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマーが挙げられる。ポリマーを適切に選択することにより、屈折率傾斜を制御することができる。このようなポリマー粒子は、例えば、屈折率の異なる複数のモノマーを用い、それらの共重合において、重合の進行にしたがってモノマー量を変化させることにより、屈折率を段階的にまたは連続的に変化させることができる。このようなポリマー粒子およびその製造方法の詳細は、例えば、特開2006−227279号公報に記載されており、その記載は本明細書に参考として援用される。
【0059】
本発明の光拡散素子は、基材から剥離して単一部材として用いてもよく、基材付光拡散素子として用いてもよく、基材から偏光板等に転写して複合部材(例えば、光拡散素子付偏光板)として用いてもよく、基材ごと偏光板等に貼り付けて複合部材(例えば、光拡散素子付偏光板)として用いてもよい。基材ごと偏光板等に貼り付けて複合部材(例えば、光拡散素子付偏光板)として用いる場合には、当該基材は偏光板の保護層として機能し得る。本発明の光拡散素子は、上記で説明したコリメートバックライトフロント拡散システムを採用した液晶表示装置の視認側拡散素子以外に、例えば、液晶表示装置のバックライト用部材、照明器具(例えば、有機EL、LED)用拡散部材として用いられ得る。
【0060】
ここまで本発明の特定の実施形態を説明したが、本発明はこれらの実施形態には限定されず、第1の屈折率を有する第1の領域と第2の屈折率を有する第2の領域とを有し、該第1の領域および該第2の領域が微細凹凸状でかつ球殻状の境界を形成している光拡散素子を包含する。
【0061】
B.光拡散素子付偏光板
B−1.光拡散素子付偏光板の全体構成
本発明の光拡散素子付偏光板は、代表的には、液晶表示装置の視認側に配置される。
図7は、本発明の好ましい実施形態による光拡散素子付偏光板の概略断面図である。この光拡散素子付偏光板200は、光拡散素子100と偏光子110とを有する。光拡散素子100は、上記A−1項〜A−5項に記載した本発明の光拡散素子である。光拡散素子100は、光拡散素子付偏光板が液晶表示装置の視認側に配置された場合に最も視認側となるように配置されている。1つの実施形態においては、光拡散素子100の視認側に低反射層または反射防止処理層(アンチリフレクション処理層)が配置されている(図示せず)。図示例においては、光拡散素子付偏光板200は、偏光子の両側に保護層120および130を有する。光拡散素子、偏光子および保護層は、任意の適切な接着剤層または粘着剤層を介して貼り付けられている。保護層120および130の少なくとも1つは、目的、偏光板の構成および液晶表示装置の構成に応じて省略されてもよい。例えば、光拡散素子を形成する際に用いられる基材が保護層として機能し得る場合には、保護層120が省略され得る。本発明の光拡散素子付偏光板は、コリメートバックライトフロント拡散システムを採用した液晶表示装置における視認側偏光板として特に好適に用いられ得る。
【0062】
B−2.偏光子
上記偏光子110としては、目的に応じて任意の適切な偏光子が採用され得る。例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等が挙げられる。これらのなかでも、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素などの二色性物質を吸着させて一軸延伸した偏光子が、偏光二色比が高く特に好ましい。これら偏光子の厚さは特に制限されないが、一般的に、1〜80μm程度である。
【0063】
ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を吸着させて一軸延伸した偏光子は、例えば、ポリビニルアルコールをヨウ素の水溶液に浸漬することによって染色し、元長の3〜7倍に延伸することで作製することができる。必要に応じてホウ酸や硫酸亜鉛、塩化亜鉛等を含んでいてもよいし、ヨウ化カリウムなどの水溶液に浸漬することもできる。さらに必要に応じて染色の前にポリビニルアルコール系フィルムを水に浸漬して水洗してもよい。
【0064】
ポリビニルアルコール系フィルムを水洗することでポリビニルアルコール系フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるだけでなく、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤させることで染色のムラなどの不均一を防止する効果もある。延伸はヨウ素で染色した後に行ってもよいし、染色しながら延伸してもよいし、また延伸してからヨウ素で染色してもよい。ホウ酸やヨウ化カリウムなどの水溶液中や水浴中でも延伸することができる。
【0065】
B−3.保護層
上記保護層120および130は、偏光板の保護層として使用できる任意の適切なフィルムで形成される。当該フィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等が挙げられる。また、(メタ)アクリル系、ウレタン系、(メタ)アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等も挙げられる。この他にも、例えば、シロキサン系ポリマー等のガラス質系ポリマーも挙げられる。また、特開2001−343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムも使用できる。このフィルムの材料としては、例えば、側鎖に置換または非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換または非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が使用でき、例えば、イソブテンとN−メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物が挙げられる。当該ポリマーフィルムは、例えば、上記樹脂組成物の押出成形物であり得る。
【0066】
上記保護層(内側保護層)130は、光学的に等方性を有することが好ましい。具体的には、内側保護層の厚み方向の位相差Rth(550)は、好ましくは−20nm〜+20nm、さらに好ましくは−10nm〜+10nm、特に好ましくは−6nm〜+6nm、最も好ましくは−3nm〜+3nmである。内側保護層の面内位相差Re(550)は、好ましくは0nm以上10nm以下、さらに好ましくは0nm以上6nm以下、特に好ましくは0nm以上3nm以下である。このような光学的に等方性を有する保護層を形成し得るフィルムの詳細は、特開2008−180961号公報に記載されており、その記載は本明細書に参考として援用される。
【0067】
B−4.光拡散素子付偏光板の製造方法
図8を参照して、本発明の光拡散素子付偏光板の製造方法の一例について簡単に説明する。
図8において、符号111および112は、それぞれ、偏光板および光拡散素子/基材の積層体を巻回するロールであり、符号122は搬送ロールである。図示例では、偏光板(保護層130/偏光子110/保護層120)と、光拡散素子100/基材101の積層体とを矢印方向に送り出し、それぞれの長手方向を揃えた状態で貼り合わせる。その際、光拡散素子100と偏光板の保護層120とが隣接するように貼り合わせる。その後、必要に応じて基材101を剥離することにより、
図7に示すような光拡散素子付偏光板200が得られ得る。図示しないが、例えば、偏光板(保護層130/偏光子110)と光拡散素子100/基材101の積層体とを、基材101と偏光子110とが隣接するように貼り合わせ、基材が保護層として機能する光拡散素子付偏光板を作製することもできる。このように、本発明によれば、いわゆるロール・トゥ・ロールを採用することができるので、光拡散素子付偏光板を非常に高い製造効率で製造することができる。さらに、このロール・トゥ・ロール工程は、上記A−4項に記載の光拡散素子の製造工程から連続して行うことができるので、このような手順を採用すれば、光拡散素子付偏光板の製造効率をさらに向上させることができる。
【0068】
C.液晶表示装置
図9は、本発明の好ましい実施形態による液晶表示装置の概略断面図である。液晶表示装置500は、液晶セル510と、液晶セルの両側に配置された偏光板520および530と、偏光板530の外側に設けられたバックライトユニット540と、偏光板520の外側(視認側)に設けられた光拡散素子100とを備える。目的に応じて任意の適切な光学補償板(位相差板)が、液晶セル510と偏光板520および/または530との間に配置され得る。液晶セル510は、一対の基板(代表的には、ガラス基板)511および512と、基板511および512間に配された、表示媒体としての液晶を含む液晶層513とを有する。
【0069】
光拡散素子100は、上記A−1項〜A−5項に記載した本発明の光拡散素子である。あるいは、光拡散素子100および視認側偏光板520の代わりに、上記B項に記載した本発明の光拡散素子付偏光板を配置してもよい。光拡散素子は、液晶セルを通過した光(代表的には、後述のようなコリメート光)を透過および拡散させる。
【0070】
上記バックライトユニット540は、液晶セル510に向かってコリメート光を出射する平行光光源装置である。バックライトユニットは、コリメート光を出射し得る任意の適切な構成を有し得る。例えば、バックライトユニットは、光源と、光源から出射された光をコリメートする集光素子とを有する(いずれも図示せず)。この場合、集光素子としては、光源から出射された光をコリメートし得る任意の適切な集光素子が採用され得る。光源自体がコリメート光を出射し得る場合には、集光素子は省略され得る。バックライトユニット(平行光光源装置)の具体的構成としては、例えば、以下のようなものが挙げられる:(1)レンチキュラーレンズまたは砲弾型レンズの平坦面側のレンズの焦点以外の部分に遮光層または反射層を設けた集光素子を、光源(例えば、冷陰極蛍光ランプ)の液晶セル側に配置した構成(例えば、特開2008−262012号公報);(2)サイドライト型LED光源と、その導光板と、導光板側に凸面が形成され、該導光板の液晶セル側に配置された変角プリズムとを有する構成(本構成においては、必要に応じて異方性拡散素子がさらに用いられ得る;例えば、特許第3442247号);(3)光吸収性樹脂と透明性樹脂が交互にストライプ状に形成されたルーバー層をバックライトとバックライト側偏光板との間に配置した構成(例えば、特開2007−279424号公報);(4)光源として砲弾型LEDを用いた構成(例えば、特開平6−130255号公報);(5)フレネルレンズと必要に応じて拡散板とを用いた構成(例えば、特開平1−126627号公報)。これらの詳細な構成を記載した上記公報は、本明細書に参考として援用される。以下、一例として、(5)の構成について説明する。
【0071】
図10Aは、上記(5)の平行光光源装置の概略図である。該平行光光源装置7は、光源1、プロジェクションレンズ2、レンチキュラーレンズ3、反射板4、およびフレネルレンズ5を備える。光源1から照射された光線は、プロジェクションレンズ2およびレンチキュラレンズ3を透過し、反射板4の鏡面で反射される。反射された光線は、フレネルレンズ5を透過し、平行光として照射される。
【0072】
上記(5)の形態の平行光光源装置は、投影型バックライトユニットのフレネルレンズの光源側もしくは液晶セル側に所望の拡散性を付与する拡散板を配置するのが好ましい。
図10Bは、拡散板6がフレネルレンズ5の液晶セル側に配置された形態を示す。光源1から照射された光線は、プロジェクションレンズ2およびレンチキュラレンズ3を透過し、反射板4の鏡面で反射される。反射された光線は、フレネルレンズ5を透過し、平行光として照射される。照射された平行光は、さらに拡散板6を透過し、拡散照射される。
【0073】
上記拡散板の拡散性は、ヘイズとしては、好ましくは2%〜92%であり、より好ましくは30%〜80%である。また、該拡散板の拡散性は、光拡散半値角としては、好ましくは1°〜30°であり、より好ましくは5°〜20°である。ただし、拡散板は、直進透過成分があってもよく、その場合の光拡散半値角は、直進透過成分を除いた拡散光について半値角が1°〜30°であることが好ましい。
【0074】
このような性質を有する拡散板としては、任意の適切なものを用いることができる。具体的には、透明基板フィルム上に微粒子を含むバインダーを塗工した表面凹凸型拡散フィルムもしくは内部拡散フィルム;非相溶の樹脂を配合し押成形した相分離押出シート;エンボスロールにて表面に凹凸パターンを形成したエンボスシート;フレネルレンズの片面または両面に、微粒子を含むバインダーを塗工するなどして微細凹凸形状を付与した、レンズと拡散板との一体構造が挙げられる。
【0075】
バックライトユニット540の拡散性能は、半値角が好ましくは1°〜40°であり、より好ましくは2°〜30°であり、さらに好ましくは2.5°〜20°である。半値角が1°未満であると、光拡散素子の拡散性能を向上させても、グレア(眩しさ)を低減することができないおそれがある。半値角が40°を超えると、黒表示で、完全に補償されない斜め光が発生し、それが光拡散素子により正面にも拡散するため、黒輝度が上昇し、正面コントラスト比を低下させるおそれがある。なお、本発明において、半値角とは、
図11に示すように、輝度が極大となる方向から、角度を振ったときの輝度が1/2となる角度の半値全幅のことをいう。ただし、半値角が1°未満であっても、拡散の裾が広がっているようであれば、1°以上であるのと同じ効果が得られる場合がある。例えば、以下の式で示される平均拡散角度θdが1°以上であれば、多重拡散する光拡散素子との組み合わせにより、グレア(眩しさ)を低減することができる。
【数1】
【0076】
好ましくは、液晶層513は、黒表示時に垂直配向した液晶分子を含む。このような液晶層を有する液晶セルの駆動モードとしては、例えば、MVA(マルチドメイン垂直配向)モード、PVA(パターンVA)モード、TN(ツイスティッドネマティック)モード、ECB(電界制御複屈折)モード、OCB(光学補償ベンド)モードが挙げられる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。実施例における評価方法は下記の通りである。また、特に明記しない限り、実施例における「部」および「%」は重量基準である。
【0078】
(1)光拡散素子の厚み
マイクロゲージ式厚み計(ミツトヨ社製)にて基材と光拡散素子との合計厚みを測定し、当該合計厚みから基材の厚みを差し引き、光拡散素子の厚みを算出した。
(2)微細凹凸状の境界の確認ならびに凹凸平均ピッチおよび凹凸平均高さの算出
透過型電子顕微鏡(TEM)(日立製作所製、商品名「H−7650」、加速電圧100kV)を用いて、2次元および3次元の画像を観察した。2次元画像については、実施例および比較例で得られた光拡散素子と基材との積層体を液体窒素で冷却しながら、ミクロトームにて0.1μmの厚さにスライスして測定試料とし、当該測定試料の光拡散素子部分の微粒子の状態および当該微粒子とマトリクスとの界面の状態を観察した。3次元画像については、上記で得られた測定試料に撮影位置補正用のマーカーとして直径5nmの金粒子を付着させ、−60°から60°にわたって1°ごとに連続傾斜TEM画像(121枚)を撮影した。この121枚のTEM画像について、Fiducial Marker法により位置補正を行い、3次元画像を再構成した。再構成ソフトとしてIMOD 3.9.3 1を、表示ソフトとしてMercuury Computer Systems,Amiraを用いた。上記のようにして得られた3次元再構成像から、光拡散性微粒子とマトリクスとの界面(実界面)を抽出し、当該実界面に対して近似曲面によるフィッティングを行い、実界面において近似曲面から30nm以上突出している凸部間の距離および凸部の平均高さから微細凹凸状の境界の凹凸の平均ピッチおよび凹凸平均高さを求めた。なお、フィッティングの近似曲線には下記の式を用いた。
z=ax
2+by
2+cxy+dx+ey+f
(3)ヘイズ
JIS 7136で定める方法により、ヘイズメーター(村上色彩科学研究所社製、商品名「HN−150」)を用いて測定した。
(4)光拡散半値角
光拡散素子の正面からレーザー光を照射し、拡散した光の拡散角度に対する拡散輝度を、ゴニオフォトメーターで1°おきに測定し、
図12に示すように、レーザーの直進透過光を除く光拡散輝度の最大値から半分の輝度となる拡散角度を、拡散の両側で測定し、当該両側の角度を足したもの(
図12の角度A+角度A’)を光拡散半値角とした。
(5)後方散乱率
実施例および比較例で得られた光拡散素子と基材との積層体を、透明粘着剤を介して黒アクリル板(住友化学社製、商品名「SUMIPEX」(登録商標)、厚み2mm)の上に貼り合わせ、測定試料とした。この測定試料の積分反射率を分光光度計(日立計測器社製、商品名「U4100」)にて測定した。一方、上記光拡散素子用塗工液から微粒子を除去した塗工液を用いて、基材と透明塗工層との積層体を作製して対照試料とし、上記と同様にして積分反射率(すなわち、表面反射率)を測定した。上記測定試料の積分反射率から上記対照試料の積分反射率(表面反射率)を差し引くことにより、光拡散素子の後方散乱率を算出した。
【0079】
<実施例1:光拡散素子の作製>
超微粒子成分としてのジルコニアナノ粒子(平均1次粒子径10nm、平均粒子径60nm、屈折率2.19)を62%含有するハードコート用樹脂(JSR社製、商品名「オプスターKZ6661」(MEK/MIBK含有))100部に、樹脂成分の前駆体としてのペンタエリスリトールトリアクリレート(大阪有機化学工業社製、商品名「ビスコート#300」、屈折率1.52)の50%メチルエチルケトン(MEK)溶液を11部、光重合開始剤(BASFジャパン社製、商品名「イルガキュア907」)を0.5部、レベリング剤(DIC社製、商品名「GRANDIC PC 4100」)を0.5部、および、光拡散性微粒子としてのポリメタクリル酸メチル(PMMA)微粒子(積水化成品工業社製、商品名「SAX−102」、平均粒径2.5μm、屈折率1.495)を15部添加した。攪拌機(浅田鉄工株式会社製、商品名「デスパ(DESPA)」)を用いてこの混合物を30分間攪拌して分散処理を行い、上記の各成分が均一に分散した塗工液を調製した。この塗工液の固形分濃度は55%であった。当該塗工液を調製後ただちに、バーコーターを用いてTACフィルム(富士フィルム社製、商品名「フジタック」、厚み40μm)からなる基材上に塗工し、100℃にて1分間乾燥後、積算光量300mJ/cm
2の紫外線を照射し、厚み11μmの光拡散素子を得た。得られた光拡散素子におけるマトリクスの平均屈折率n
Mと光拡散性微粒子の屈折率n
Pとの差は0.12(n
M>n
P)であった。得られた光拡散素子を上記(1)〜(5)の評価に供した。結果を、後述の実施例2〜10および比較例1〜3の結果と併せて表1に示す。さらに、得られた光拡散素子をTEMで観察した。結果を
図13に示す。当該TEM画像から3次元画像を再構成し、さらに当該3次元再構成像を2値化した。その結果、
図2B〜
図2Eに示すような微細凹凸状の境界が形成されていることを確認した。加えて、当該TEM画像から、光拡散性微粒子表面からの距離と超微粒子成分の分散濃度(存在比率)との関係を算出した。その結果、
図3に示すように、超微粒子成分の分散濃度の勾配が形成されていることを確認した。
【0080】
【表1】
【0081】
<実施例2:光拡散素子の作製>
光拡散性微粒子としてポリメタクリル酸メチル(PMMA)微粒子(積水化成品工業社製、商品名「XX−131AA」、平均粒径2.5μm、屈折率1.495)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚み10μmの光拡散素子を得た。得られた光拡散素子を実施例1と同様の評価に供した。結果を上記表1に示す。形成された微細凹凸状の境界において、凸部間の最大距離は32nm、であり、平均ピッチは19nmであった。また、凹凸の最大高さは78nmであり、凹凸平均高さは52nmであった。
【0082】
<実施例3:光拡散素子の作製>
光拡散性微粒子としてのポリメタクリル酸メチル(PMMA)微粒子(根上工業社製、商品名「アートパールJ4P」、平均粒径2.5μm、屈折率1.495)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚み10μmの光拡散素子を得た。得られた光拡散素子を実施例1と同様の評価に供した。結果を上記表1に示す。
【0083】
<実施例4:光拡散素子の作製>
超微粒子成分としてチタニアナノ粒子(平均1次粒子径10nm、平均粒子径60nm、屈折率2.3)を60%含有するハードコート用樹脂(JSR社製、MEK/PGME含有)100部を用いたこと以外は実施例3と同様にして、厚み11μmの光拡散素子を得た。得られた光拡散素子を実施例1と同様の評価に供した。結果を上記表1に示す。
【0084】
<実施例5:光拡散素子の作製>
樹脂成分の前駆体としてヒドロキシエチルアクリルアミド(株式会社興人製、商品名「HEAA」、屈折率1.52)の50%MEK溶液11部を用いたこと以外は実施例3と同様にして、厚み11μmの光拡散素子を得た。得られた光拡散素子を実施例1と同様の評価に供した。結果を上記表1に示す。
【0085】
<実施例6:光拡散素子の作製>
樹脂成分の前駆体としてアクリロイルモルホリン(株式会社興人製、商品名「ACMO」、屈折率1.52)の50%MEK溶液11部を用いたこと以外は実施例3と同様にして、厚み10μmの光拡散素子を得た。得られた光拡散素子を実施例1と同様の評価に供した。結果を上記表1に示す。
【0086】
<実施例7:光拡散素子の作製>
光拡散性微粒子としてポリメタクリル酸メチル(PMMA)に親水基を付与した微粒子(積水化成品工業製、商品名「XX−157−AA」、平均粒子径2.5μm、屈折率1.495)15部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚み10μmの光拡散素子を得た。得られた光拡散素子を実施例1と同様の評価に供した。結果を上記表1に示す。
【0087】
<実施例8:光拡散素子の作製>
光拡散性微粒子としてポリメタクリル酸メチル(PMMA)とポリスチレン(PS)の共重合微粒子(積水化成品工業製、商品名「XX−164−AA」、平均粒子径2.5μm、屈折率1.495)15部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚み10μmの光拡散素子を得た。得られた光拡散素子を実施例1と同様の評価に供した。結果を上記表1に示す。
【0088】
<実施例9:光拡散素子の作製>
超微粒子成分としてのジルコニアナノ粒子のハードコート用樹脂中の含有量を25%としたこと以外は実施例1と同様にして、厚み9μmの光拡散素子を得た。得られた光拡散素子を実施例1と同様の評価に供した。結果を上記表1に示す。
【0089】
<実施例10:光拡散素子の作製>
超微粒子成分としてシリカナノ粒子(平均1次粒子径10nm、平均粒子径40nm、屈折率1.49)を30%含有するハードコート用樹脂(JSR社製、商品名「Z7540」)100部に、光拡散性微粒子としてポリスチレン(PS)微粒子(綜研化学社製、商品名「SX−350H」、平均粒子径3.5μm、屈折率1.595)15部を添加したこと、ならびに、当該PS微粒子の表面をMEKで処理して微細凹凸形状としたこと(PS微粒子を金平糖のような形状としたこと)以外は実施例1と同様にして、厚み10μmの光拡散素子を得た。得られた光拡散素子を実施例1と同様の評価に供した。結果を上記表1に示す。さらに、得られた光拡散素子の光拡散性微粒子近傍のTEM画像を
図14に示す。このTEM画像から、微細凹凸状の境界が形成されていることを確認した。
【0090】
<比較例1>
光拡散性微粒子としてPMMA微粒子の代わりにシリコーン樹脂微粒子(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、商品名「トスパール120」、平均粒径2.0μm、屈折率1.43)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚み13μmの光拡散素子を得た。得られた光拡散素子を実施例1と同様の評価に供した。結果を上記表1に示す。
【0091】
<比較例2>
超微粒子成分としてのジルコニアナノ粒子を含まないハードコート用樹脂を用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚み10μmの光拡散素子を得た。得られた光拡散素子を実施例1と同様の評価に供した。結果を上記表1に示す。さらに、得られた光拡散素子の光拡散性微粒子近傍のTEM画像を
図15に示す。このTEM画像から、光拡散性微粒子とマトリクスとの界面は明確であり、微細凹凸状の境界は形成されていないことがわかる。
【0092】
<比較例3>
光拡散性微粒子としてシリカにメチル修飾を施した微粒子(日本触媒製、商品名「シーホスターKE−250」)15部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚み10μmの光拡散素子を得た。得られた光拡散素子を実施例1と同様の評価に供した。結果を上記表1に示す。
【0093】
<実施例11:液晶表示装置の作製>
マルチドメイン型VAモードの液晶セルを備える市販の液晶テレビ(SONY社製、ブラビア20型、商品名「KDL20J3000」)から液晶セルを取り出した。当該液晶セルの両側に、市販の偏光板(日東電工社製、商品名「NPF−SEG1423DU」)を、それぞれの偏光子の吸収軸が直交するようにして貼り合わせた。より具体的には、バックライト側偏光板の偏光子の吸収軸方向が垂直方向(液晶パネルの長辺方向に対して90°)となり、視認側偏光板の偏光子の吸収軸方向が水平方向(液晶パネルの長辺方向に対して0°)となるようにして貼り合わせた。さらに、視認側偏光板の外側に、実施例1の光拡散素子を基材から転写して貼り合わせ、液晶パネルを作製した。
【0094】
一方、PMMAシートの片面に、レンチキュラーレンズのパターンを、転写ロールを用いて溶融熱転写した。レンズパターンが形成された面とは反対側の面(平滑面)に、レンズの焦点のみ光が透過するよう、アルミニウムのパターン蒸着を行い、開口部の面積比率7%(反射部の面積比率93%)の反射層を形成した。このようにして、集光素子を作製した。バックライトの光源として冷陰極蛍光ランプ(ソニー社製、BRAVIA20JのCCFL)を用い、当該光源に集光素子を取り付けて、コリメート光を出射する平行光光源装置(バックライトユニット)を作製した。
【0095】
上記液晶パネルに上記バックライトユニットを組み込み、コリメートバックライトフロント拡散システムの液晶表示装置を作製した。得られた液晶表示装置について暗所にて白表示および黒表示を行い、その表示状態を目視にて観察した。その結果、斜め方向から見た場合、明所での黒表示が黒くかつ暗所の白表示の輝度が高いという良好な表示特性を示した。
【0096】
<比較例4>
比較例1の光拡散素子を用いたこと以外は実施例11と同様にして液晶表示装置を作製した。得られた液晶表示装置について暗所にて白表示および黒表示を行い、その表示状態を目視にて観察した。その結果、斜め方向から見た場合、暗所の白表示の輝度は高かったが、明所での黒表示は白ぼけて見えた。
【0097】
<比較例5>
比較例2の光拡散素子を用いたこと以外は実施例11と同様にして液晶表示装置を作製した。得られた液晶表示装置について暗所にて白表示および黒表示を行い、その表示状態を目視にて観察した。その結果、斜め方向から見た場合、暗所の白表示の輝度は高かったが、明所での黒表示は白ぼけて見えた。
【0098】
<実施例12:液晶表示装置の作製>
実施例1の光拡散素子の代わりに実施例2の光拡散素子を用いたこと以外は実施例11と同様にして液晶表示装置を作製した。得られた液晶表示装置について暗所にて白表示および黒表示を行い、その表示状態を目視にて観察した。その結果、斜め方向から見た場合、明所での黒表示が黒くかつ暗所の白表示の輝度が高いという良好な表示特性を示した。
【0099】
<実施例13:液晶表示装置の作製>
実施例1の光拡散素子の代わりに実施例3の光拡散素子を用いたこと以外は実施例11と同様にして液晶表示装置を作製した。得られた液晶表示装置について暗所にて白表示および黒表示を行い、その表示状態を目視にて観察した。その結果、斜め方向から見た場合、明所での黒表示が黒くかつ暗所の白表示の輝度が高いという良好な表示特性を示した。
【0100】
<評価>
表1から明らかなように、微細凹凸状の境界が形成された実施例の光拡散素子は、ヘイズが高く、かつ、後方散乱率が低かった。また、実施例の光拡散素子は、厚みが9μm〜11μmであり、非常に薄い。さらに、実施例の光拡散素子は、コリメートバックライトフロント拡散システムの液晶表示装置のフロント拡散素子として用いた場合に、非常に優れた表示特性を示した。一方、微細凹凸状の境界が形成されない比較例1の光拡散素子は、ヘイズは高いが後方散乱率が高く、比較例2の光拡散素子は、後方散乱率は低いがヘイズはきわめて不十分であった。比較例の光拡散素子は、コリメートバックライトフロント拡散システムの液晶表示装置のフロント拡散素子として用いた場合に、明所での黒表示が白ぼけるという問題が認められた。