【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の一実施例であるオルゴール10における演奏機構部100の構成を斜め上方から視た様子を例示する斜視図である。本実施例において、オルゴール10の上方とは、オルゴール10が図示しない設置平面部に設置される際の上方(略鉛直上方)をいう。
図1に示すように、本実施例のオルゴール10は、第1軸12を中心として回転可能に設けられた複数(例えば、40個)のスターホイール14を備えている。第1軸12に沿って設けられた振動板16を備えている。振動板16には、複数のスターホイール14にそれぞれ対応する複数の振動弁18が第1軸12に沿って設けられている。第1軸12と並んで第2軸20が設けられている。好適には第1軸12と平行に第2軸20が設けられている。第2軸20を中心として回動可能に設けられた、複数のスターホイール14にそれぞれ対応する複数の係止部材22を備えている。複数の係止部材22にそれぞれ対応する複数の電磁石24を備えている。第1軸12と平行に第3軸26が設けられている。第3軸26に相対回転不能に設けられてその第3軸26と一体的に回転させられる、複数のスターホイール14にそれぞれ対応する複数のサンホイール28を備えている。第1軸12及び第3軸26をそれぞれの軸心まわりの回転可能に、第2軸20を回転不能に支持すると共に、複数の電磁石24等が組み付けられるフレーム29を備えている。振動板16が固定される台座30を備えている。第1軸12及び第3軸26をそれぞれの軸心まわりに同期して回転駆動するための駆動力を発生させるモータ32を備えている。複数の振動弁18は、予め定められた複数の音高(音階)にそれぞれ対応し、後述するようにスターホイール14の爪36により弾かれることで対応する音階の音を奏でるように構成されている。オルゴール10において、
図1のように構成された演奏機構部100は、フレーム29及び台座30等が後述する筐体34に組み付けられることで、その筐体34の内部に収容される。
【0015】
図7は、
図1に示す本実施例のオルゴール10における演奏機構部100が筐体34内に収容された様子を説明する概略図である。
図7に示すように、オルゴール10は、第1軸12、複数のスターホイール14、振動板16、第2軸20、複数の係止部材22、複数の電磁石24、第3軸26、複数のサンホイール28等の構成を収容する筐体34を備えている。すなわち、
図1のように構成された演奏機構部100は、フレーム29及び台座30等が筐体34に組み付けられることで、筐体34の内部に収容されている。筐体34は、底板として、共鳴板34aを備える。共鳴板34aは、振動弁18の振動に共振する機能を有する。台座30は、共鳴板34aに直接又は間接して固定されている。好適には、台座30と、共鳴板34aとが、振動伝達部材である魂柱35を介して接続されていることにより、間接して固定されている。或いは、台座30が共鳴板34aに載置され、直接固定されたものであってもよい。
図7に一点鎖線Lで示すように、好適には、第2軸20の中心と、複数の電磁石24のうち少なくとも一部は、筐体34の共鳴板34aに沿った同一平面上に配置されたものである。なお、全ての電磁石24が、筐体34の共鳴板34aに沿った同一平面上に配置されたものでなくともよい。筐体34の上側平面部には、その筐体34内部の様子を視認するためののぞき窓34bが設けられている。こののぞき窓34bには、ガラス板等の透明な材料による蓋部(非図示)が設けられる。
図7に示すように、オルゴール10は、複数の電磁石24それぞれの励磁乃至非励磁を制御する制御部としてのECU(Electric Control Unit)60を備えている。
【0016】
図2は、オルゴール10の演奏機構部100におけるスターホイール14、係止部材22、及びサンホイール28等の構成を説明するために、それらの構成を第1軸12の軸心方向に視た図である。
図3は、
図2に示すスターホイール14、係止部材22、及びサンホイール28等の構成を斜め上方から視た様子を示す斜視図である。
図3においては、複数のスターホイール14のうち2つのスターホイール14a、14bと、それらに対応する係止部材22a、22b及び電磁石24a、24b等を例示している。スターホイール14a、14bに対応するサンホイール28a、28bを例示すると共に、そのサンホイール28bに隣接するサンホイール28cを併せて示している。隣接するサンホイール28とは、第3軸26に沿ってその軸を中心に並んで配置されているサンホイール28をいう。
図3以外の図面である
図1及び
図2等において、個々のスターホイール14a、14bを特に区別しない場合には単にスターホイール14として図示している。個々の係止部材22a、22bを特に区別しない場合には単に係止部材22として図示している。個々のサンホイール28a、28b、28cを特に区別しない場合には単にサンホイール28として図示している。スターホイール14と係止部材22とが対応するとは、その係止部材22の係止状態においてそのスターホイール14の回転が係止されることをいう。スターホイール14とサンホイール28とが対応するとは、そのスターホイール14のギヤ部38とそのサンホイール28の外周歯40とが相互に噛み合うことをいう。
図2においては、フレーム29及び魂柱35等の図示を省略している。
図6においても同じである。
図3においては、振動板16、フレーム29、及び台座30等の図示を省略すると共に、第1軸12、第2軸20、及び第3軸26それぞれの一部を省略(切断)して示している。
【0017】
図2及び
図3に示すように、スターホイール14は、複数の爪36を備えている。爪36は、スターホイール14の径方向外側に向けて放射状に形成された突起部である。好適には、スターホイール14の周方向に等位相で4つの爪36を備えている。すなわち、スターホイール14の周方向に90°毎に爪36が設けられている。スターホイール14は、爪36よりも内周側(径方向内側)に複数のギヤ部38を備えている。好適には、各爪36に対応する位置に2歯ずつの突出部としてのギヤ部38を備えている。ギヤ部38は、複数のスターホイール14が第1軸12に沿って配置される間に配置されている。すなわち、ギヤ部38は、第1軸12の軸方向に関して、爪36とは異なる位置に配置される。具体的には、軸方向に関して相互に隣接する爪36相互間に配置される。サンホイール28は、径方向外側に向けて複数の外周歯40を備えて構成されている。
図2に示すように、スターホイール14が第1軸12に組み付けられた状態において、爪36は、第1軸12の軸心を中心とするその回転軌跡が対応する振動弁18の少なくとも一部に接触する位置に設けられている。且つ、対応する係止部材22の後述する係止状態においてその係止部材22に係止される位置に設けられている。この係止される位置とは、爪36が係止部材22に当接されられた状態において、スターホイール14の第1軸12の回転への追従回転を阻止する位置である。すなわち、爪36は、振動板16における振動弁18を弾くと共に、係止部材22と接触することで、スターホイール14の第1軸12の回転に伴う追従回転を阻止するストッパとして機能する。ギヤ部38は、第1軸12の軸心を中心とするその回転軌跡が対応するサンホイール28の外周歯40と噛み合わされる位置に設けられている。
【0018】
図2に一部(破線で囲繞した部分)を拡大して示すように、サンホイール28の外周歯40には面取り68が付けられている。面取り68は、好適には、外周歯40の先端部における軸方向の両側部に施されたものである。スターホイール14の外周部には面取り70が付けられている。面取り70は、好適には、スターホイール14の外径稜線に施されたものである。スターホイール14の外径稜線とは、スターホイール14における外周面72における軸方向両端部である。サンホイール28の面取り68及びスターホイール14の面取り70の少なくとも一方が施されたものであればよい。スターホイール14の外周面72における端部の面取り70に加えて、爪36の稜線(軸方向両端部)等に面取りが施されたものであってもよい。
【0019】
図2に示すように、係止部材22は、好適には、係止部材22が第2軸20を中心にしてスターホイール14に向けて回動させられることでスターホイール14における少なくとも1つの爪36に当接させられる板部材50を備えている。電磁石24の励磁状態において、その電磁石24の磁力により係止部材22を第1回動方向すなわちスターホイール14から離隔させられる方向へ回動させる作用を発生させる磁性部材52を備えている。磁性部材52は、例えば、鉄、コバルト、ニッケル等の鉄属元素を主成分とする金属である。磁性部材52は、好適には特に磁化されていない鉄板であるが、磁化された所謂永久磁石であってもよい。係止部材22において、磁性部材52は、板部材50と一体的に設けられたエンジニアリングプラスチック等の合成樹脂部材54にインサート成形されたものであり、斯かる構成により電磁石24の吸引による磁性部材52のビビリが抑制される。
【0020】
電磁石24は、好適には、鉄等の磁性材料である鉄芯の周囲に円筒状のコイルを備えている。そのコイルに電流が流されることで励磁状態とされ磁力(磁場)を発生させる。一方、コイルに電流が流されないと非励磁状態とされるよく知られた一般的な電磁石である。本実施例においては、電磁石24のコイルに電流が流された状態が、電磁石24が励磁された第1状態に相当する。電磁石24のコイルに電流が流されない状態が、第1励磁状態より磁力が弱い第2状態に相当する。
【0021】
図8は、ECU60に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。この
図8に示す楽譜データベース62は、オルゴール10による演奏の対象となる曲にそれぞれ対応する複数の楽譜データを記憶する。楽譜データベース62は、よく知られたSDカード(Secure Digital Card)等の記憶媒体に納められ、ECU60が記憶媒体に記録されたデータを読み取り可能であってもよい。楽譜データは、例えば、MIDI(Musical Instrument Digital Interface)形式のデータであり、予め定められた複数種類の楽器毎に、その楽器に対応する音の出力タイミング及び音階等が定められた複数のトラック(チャンネル)を含んでいる。本実施例のオルゴール10は、例えば、MIDIデータにおけるガイドメロディすなわち主旋律に相当するトラック(チャンネル)の出力タイミング及び音階に基づいて以下に詳述する演奏制御を行う。
【0022】
係止解除タイミング判定部64は、複数の係止部材22それぞれによるスターホイール14における爪36の係止を解除するタイミングを判定する。換言すれば、複数の係止部材22それぞれに対応する電磁石24の励磁乃至非励磁を切り替えるタイミング(電磁石24の通電を実行乃至停止するタイミング)を判定する。例えば、楽譜データベース62に記憶された複数の楽譜データのうち所定の楽譜データに対応する曲の演奏において、その楽譜データに定められた音の出力タイミング及び音階に基づいて前記判定を行う。具体的には、各音階に対応する複数の振動弁18を楽譜データに定められた出力タイミングで弾くために、係止部材22によるスターホイール14における爪36の係止を解除するタイミングを判定する。第1軸12及び第3軸26それぞれの回転速度が一定の値に定まる場合、各スターホイール14に対応する係止部材22による係止が解除されてからそのスターホイール14の爪36により対応する振動弁18が弾かれるまでのタイムラグは予め求められる。係止解除タイミング判定部64は、演奏対象となる楽譜データに基づいて前記判定を行う。楽譜データにおいては、各振動弁18に対応する音階の出力タイミングが定められている。その出力タイミングよりも前記タイムラグに相当する時間前に、その振動弁18に対応する係止部材22によるスターホイール14における爪36の係止が解除されるように前記判定を行う。
【0023】
電磁石励磁/非励磁制御部66は、係止解除タイミング判定部64による判定結果に基づいて、複数の電磁石24それぞれの励磁乃至非励磁を切り替える。すなわち、係止解除タイミング判定部64による判定結果に基づいて、複数の電磁石24それぞれの通電を実行乃至停止する制御を行う。具体的には、係止解除タイミング判定部64により係止部材22によるスターホイール14における爪36の係止を解除するタイミングが判定された場合、そのタイミングで対応する電磁石24を非励磁状態から励磁状態へ切り替える。すなわち、斯かるタイミングで電磁石24の通電を開始する。電磁石励磁/非励磁制御部66は、好適には、電磁石24を非励磁状態から励磁状態へ切り替えた後、予め定められた規定時間経過後にその電磁石24を励磁状態から非励磁状態へ切り替える。すなわち、斯かるタイミングで電磁石24の通電を停止させる。
【0024】
図2に示すように、電磁石24は、各係止部材22に対応して設けられている。好適には、係止部材22における磁性部材52が埋設された合成樹脂部材54の近傍に設けられている。電磁石24は、磁性部材52と非接触に設けられている。すなわち、電磁石24と係止部材22とは、相互に最も接近した状態において非接触とされるものである。換言すれば、係止部材22は、後述する係止状態及び非係止状態の何れにおいても、磁性部材52と電磁石24との間に所定の間隔があくように構成されたものである。この間隔は、好適には、電磁石24の励磁状態において、その電磁石24の磁力作用を磁性部材52に及ぼし得る範囲内とされる。例えば、電磁石24と係止部材22とが相互に最も離隔させられた状態においても、電磁石24の励磁状態においてはその電磁石24の磁力により磁性部材52が引き寄せられるように間隔が設計される。すなわち、係止部材22をスターホイール14から離隔させる方向に回動させる引力が発生させられるように、間隔が設計される。好適には、電磁石24の軸心(鉄芯の中心軸)は、係止部材22の回動中心すなわち第2軸20の軸心と交わる位置関係とされる。
【0025】
図2及び
図3に示すように、係止部材22は、好適には、スナップばね(ねじりコイルばね)56を備えている。スナップばね56は、係止部材22をスターホイール14に向けて回動させる方向に付勢する付勢部材である。係止部材22及び板部材50は、好適には、電磁石24の非励磁状態においては、スナップばね56により付勢されることでスターホイール14に向けて回動させられる。そして、板部材50は、スターホイール14に設けられた複数の爪36の少なくとも1つを係止する係止状態(
図2等を参照)とされる。一方、電磁石24の励磁状態においては、係止部材22及び板部材50は、電磁石24の磁力によりスナップばね56による付勢に逆らって第2軸20を中心として第1回動方向、すなわち、スターホイール14から離隔させられる方向に回動させられる。そして、電磁石24による磁力に応じた磁性部材52を引き寄せる力(引力)とスナップばね56の付勢力が釣り合った位置において係止部材22が停止される。すなわち、板部材50による爪36の係止が解除される非係止状態(後述する
図6を参照)とされる。すなわち、本実施例においては、係止部材22及び電磁石24が、スターホイール14の駆動を制御する駆動制御部に対応する。
【0026】
図2及び
図3に示すように、複数の電磁石24及び各電磁石24に対応する係止部材22は、好適には、第1群に属する複数の電磁石24及び係止部材22と、第2群に属する複数の電磁石24及び係止部材22とが、第1軸12の軸心を中心とする周方向に90°の位相差で(すなわち相互に90°の角度を成す位置に)配設されている。好適には、複数の電磁石24のうち最も端に設けられた電磁石24から他端側へ向かって1からn(他端における電磁石24に対応)までの数値を付した場合、奇数を付された複数の電磁石24が前記第1群に、偶数を付された複数の電磁石24が前記第2群にそれぞれ属する。すなわち、本実施例のオルゴール10において、好適には、例えば
図3に示すスターホイール14a、14bのように、相互に隣接するスターホイール14にそれぞれ対応する電磁石24(
図3においては電磁石24a、24b)が、第1軸12の軸心を中心とする周方向に90°の位相差で交互に配設されている。斯かる構成とすることで、オルゴール10における演奏機構部100の構成(特に、複数の電磁石24)の配設スペースを可及的に小さくすることができ、装置を小型化することができる。
【0027】
図2及び
図6は、以上のように構成されたオルゴール10における演奏機構部100の具体的な作動について説明する図である。オルゴール10による演奏時において、第1軸12及び第3軸26は、
図6等に矢印で示すように、モータ32の駆動により常時それぞれの軸心まわりに同期的に回転させられている。第1軸12及び第3軸26は、相互に逆回りに回転駆動されており、好適には、第1軸12はスターホイール14に設けられた爪36が振動板16の振動弁18を下方から上方に向けて弾く方向に回転される。第3軸26はサンホイール28の外周歯40とスターホイール14のギヤ部38とが噛み合った状態において、スターホイール14を回転駆動する方向すなわち
図6に矢印で示す方向にそれぞれ回転させられている。複数のサンホイール28は、第3軸26に対して相対回転不能に設けられているため、オルゴール10による演奏時においては、第3軸26の軸心まわりの回転に伴い常時それぞれの軸心まわりに回転させられている。
【0028】
図2を用いて係止部材22が係止状態とされた場合における作動を説明する。
図2に示すように、対応する電磁石24に対する通電が行われず、電磁石24が非励磁状態とされている場合には、係止部材22の板部材50は、スナップばね56により付勢される。これにより、係止部材22は、スターホイール14側に回動させられ、スターホイール14に設けられた複数の爪36の少なくとも1つを係止する係止状態とされる。すなわち、複数の爪36の少なくとも1つにおける第1軸12の回転方向側(回転が進む側)に、板部材50における先端部が当接させられる。スターホイール14は、第1軸12との接触部位における摩擦力により、第1軸12に追従回転させられるように構成されている。
図2に示すような状態においては、係止部材22が係止状態とされていることで、接触部位における摩擦力に逆らってスターホイール14の第1軸12に対する追従回転が阻止される。換言すれば、第1軸12の軸心を中心とするスターホイール14の位相(振動弁18等に対する位置関係)が固定されたまま、そのスターホイール14における組付穴部46と第1軸12との接触面が軽い負荷をもって滑りつつそれらが相対回転させられる状態となる。斯かる状態においては、スターホイール14におけるギヤ部38はサンホイール28における外周歯40と噛み合わない位置とされ、サンホイール28の回転はスターホイール14の回転に影響しない。
【0029】
次に、係止部材22が、
図2に示す係止状態から
図6に示す非係止状態へ切り替えられる場合における作動を説明する。
図2に示す状態から、電磁石24に対する通電が行われると、通電された電磁石24が励磁状態とされる。そして、係止部材22の板部材50が電磁石24の磁力によりスナップばね56による付勢に逆らって第2軸20を中心としてスターホイール14から離隔させられる方向(第1回動方向)に回動させられる。これにより、板部材50による爪36の係止が解除される非係止状態とされる。すなわち、スターホイール14が、第1軸12との接触部位における摩擦力によりその第1軸12に追従回転させられる状態とされる。
【0030】
電磁石24が励磁状態となり、磁性部材52と、電磁石24における軸心の先端とが最も接近させられるとき、電磁石24と磁性部材52との間には空間が存在し、非接触とされる。好適には、磁性部材52における電磁石24側の面は第2軸20を中心とする部分円筒状の曲面とされている。このため、係止部材22が第2軸20まわりに回動させられても、電磁石24と磁性部材52との空間間隔が変化しないように構成されている。
【0031】
図6は、スターホイール14の爪36が振動板16の振動弁18を弾いて音を発生させる作動を説明している。係止部材22が非係止状態とされ、板部材50による爪36の係止が解除される。その後、スターホイール14が、第1軸12との接触部位における摩擦力によりその第1軸12に追従回転させられる。すると、
図6に示すように、複数の爪36のうち1つの爪36が振動板16の振動弁18に接触させられる位相付近において、爪36に隣接する回転方向側(すなわち回転方向に90°の位相差で設けられた)爪36に対応するギヤ部38がサンホイール28の外周歯40と噛み合わされる。この状態においては、サンホイール28の回転によりスターホイール14が
図6に矢印で示す方向すなわち爪36が振動板16の振動弁18を下方から上方に向けて弾く方向に駆動される。斯かる作動によって振動弁18が爪36により弾かれ、振動弁18に対応する音階の音が奏でられる。そのようにして振動弁18を弾いた後、スターホイール14が更に第1軸12に追従回転させられることでギヤ部38とサンホイール28の外周歯40とが再び噛み合わない状態となる。電磁石24が通電され、ギヤ部38と外周歯40とが噛み合う状態となってから、再びギヤ部38と外周歯40とが噛み合わない状態となるまでの移行過程において電磁石24の通電が停止され、電磁石24が非励磁状態とされる。これにより、スナップばね56の付勢により係止部材22がスターホイール14に向けて回動させられ、再び
図2に示す状態に復帰させられる。
【0032】
図4は、振動板16及び台座30の構成を詳しく説明する平面図である。
図5は、
図4のV-V視断面図である。
図4及び
図5に示すように、振動板16は、複数の振動弁18が備えられた一端とは異なる部分において台座30に固定されている。好適には、複数の振動弁18が備えられた側と反対側の端部において台座30に固定されている。好適には、
図4及び
図5に示すように、台座30における振動板16が取り付けられる部分(上面部)に複数(本実施例では8本)のねじ穴(雌ねじ)30aが形成されている。振動板16における各ねじ穴30aに対応する部分には貫通穴16aが設けられている。振動板16は、複数(本実施例では8本)のねじ(雄ねじ)42が各貫通穴16aに挿通された状態で各ねじ穴30aに締結(螺合)されることで台座30に対して固定(ねじ止め)されている。振動板16の台座30に対する固定は、ねじ止め固定の他、溶接、ろう接、接着剤による接着等により行われるものであってもよい。
【0033】
図4に示すように、振動板16には、複数(例えば、40本)の振動弁18が設けられている。なお、本実施形態では、複数の振動弁18は、振動板16と一体形成されている。振動板16は、各振動弁18が、一端を自由端、他方を固定端として形成されている。台座30は、固定部を備えている。固定部は、複数の振動弁18の固定端側を、台座30に対して固定するために備えられる。振動弁18それぞれの固定端に沿って、一定距離離れた間隔で、複数の固定部が備えられる。本実施例においては、ねじ穴30a及びねじ42等が斯かる固定部に対応する。複数の振動弁18は、
図1等に示すように、複数のスターホイール14にそれぞれ対応する。振動弁18がスターホイール14に対応するとは、スターホイール14に備えられた爪36が振動弁18を弾くことが可能な位置に配置されたことを言う。振動板16が台座30に組み付けられることで、複数の振動弁18が第1軸12に沿って設けられる構成となる。複数の振動弁18は、予め定められた複数の音階にそれぞれ対応する。後述するようにスターホイール14の爪36により弾かれることで対応する音階の音を奏でるように構成されている。すなわち、振動弁18は、オルゴール10における発音体である。換言すれば、複数の振動弁18は、スターホイール14の爪36により弾かれることで、それぞれ異なる周波数の音を発生させる。このため、複数の振動弁18は、それぞれの特性が異なる。例えば、
図4に示すように、各振動弁18が複数配列される寸法が音高に応じて異なる。以下、各振動弁18の寸法を、弁長さ寸法と呼ぶ。弁長さ寸法は、複数の振動部弁18が配列される配列方向と交差する方向における振動弁18の長さである。また、複数の振動部弁18が配列される配列方向における振動弁18の長さを、幅寸法と呼ぶ。例えば、振動弁18に対応する音高が高いほど弁長さ寸法が短く、音高が低いほど弁長さ寸法が長い。すなわち、最高音に対応する振動弁18は、最短の弁長さ寸法を備えた振動弁となる。最低音に対応する振動弁18が、最長の弁長さ寸法を備えた振動弁になる。
図4に示すように、振動板16に、複数の振動弁18が、弁長さ寸法の長さ順に配列される。すなわち、振動板16に配列された複数の振動弁18は、一端に、最高音に対応する最短の弁長さ寸法を備えた振動弁が設けられる。また、他端に、最低音に対応する振動弁18が最長の弁長さ寸法を備えた振動弁が設けられる。そして、一端に備えられた最短の弁長さ寸法の振動弁から順に、弁長さ寸法の長さが長くなるように、配列方向に複数の振動弁が備えられる。さらに、幅寸法が短くなる、すなわち細くなるほど、音高が高くなる。また、幅寸法が長くなる、すなわち太くなるほど、音高が低くなる。
図4に示すように、本実施例において各振動弁18は、複数の振動弁18の先端側すなわちスターホイール14に対向する側が揃えられているが、逆側すなわち根本側が揃えられたものであってもよい。
【0034】
台座30は、円柱状の魂柱35を介して共鳴板34aに固定されている。すなわち、魂柱35は、台座30と共鳴板34aとの間に配置され、台座30に固定され且つ共鳴板34aに固定される振動伝達部材に相当する。魂柱35は、例えば中空管状の部材であり、好適には木製である。例えば、スプルース(トウヒ)等の木材が好適に用いられる。或いは、魂柱35は金属製であってもよい。好適には、
図5及び
図7に示すように、台座30における魂柱35が取り付けられる部分(底面部)にねじ穴(雌ねじ)30bが形成されている。台座30の底面30dにおけるねじ穴30bの周囲には、魂柱35の外径寸法に合わせて円形の窪み30cが形成されている。共鳴板34aには、魂柱35が取り付けられる部分に対応して貫通穴34cが形成されている。魂柱35における一方の端部が台座30の窪み30cに嵌め入れられ、他方の端部が共鳴板34aの貫通穴34cと中空が略一致する位置関係とされた状態で、ねじ(雄ねじ)44が貫通穴34c及び魂柱35の中空に挿通されて台座30のねじ穴30bに締結(螺合)されることで、台座30、魂柱35、及び共鳴板34aが相互に固定されている。好適には、台座30と共鳴板34aとの間に1本の魂柱35が設けられたものであるが、複数本の魂柱35が設けられたものであってもよい。魂柱35は必ずしも円柱状ではなく、角柱状等に構成されたものであってもよい。魂柱35は中空管状に形成されたものでなくともよい。斯かる構成において、魂柱35は、その一方の端部において台座30にねじ止めされ、他方の端部において他のねじで共鳴板34aにねじ止めされるものであってもよい。
【0035】
図4及び
図5に示すように、台座30は、その台座30から鍔状に突出して設けられたフランジ部30fを備えている。フランジ部30fは、好適には、台座30と同一の部材から一体に形成されたものである。好適には、振動弁18の振動により発生させられる振動を伝達或いは反射するために十分な剛性を備えた材料から成るものであり、例えば亜鉛ダイキャスト等により台座30と一体成形されたものである。フランジ部30fの厚み寸法tすなわち上下方向(フランジ部30fと振動弁18との最短距離に相当する方向)の寸法は、台座30の厚み寸法よりも薄い。例えば、フランジ部30fの厚み寸法tは、台座30の厚み寸法の1/4未満である。フランジ部30fの幅寸法wすなわち配列方向(複数の振動弁18が配列された方向)の寸法は、少なくとも振動板16よりも長いものとされる。フランジ部30fは、好適には、台座30における上面側すなわち振動板16が固定された側に設けられている。換言すれば、フランジ部30fの下側面と台座30の底面30dとの間の距離Dは0よりも大きい。フランジ部30fは、台座30に設けられた固定部すなわち振動板16と台座30との接触面より下方に設けられる。フランジ部30fは、好適には、魂柱35が固定された位置の近傍に設けられている。換言すれば、台座30において振動弁18の延伸方向を考えた場合、魂柱35は、台座30の中央よりもフランジ部30f側に固定されている。
【0036】
フランジ部30fの突出方向は、台座30に固定された振動板16から複数の振動弁18が延びる方向と同方向とされている。好適には、振動板16とフランジ部30fとは略平行に設けられている。すなわち、フランジ部30fは、複数の振動弁18が設けられる面と略平行である。
図4及び
図5に示すように、フランジ部30fは、複数の振動弁18と接触しない位置であり且つ複数の振動弁18と対向する位置にわたって設けられている。換言すれば、
図4に示す平面視において、少なくとも複数の振動弁18に対応する位置にわたってフランジ部30fが設けられている。フランジ部30fは、好適には、複数の振動弁18のうち最長の振動弁18の弁長さ寸法に対応する突出長さ寸法で形成されたものである。すなわち、複数の振動弁18のうち最低音の振動弁18の弁長さ寸法に対応して、最低音の振動弁18の弁長さ寸法とほぼ等しい突出長さ寸法、または最低音の振動弁18の弁長さ寸法より少し短い突出長さ寸法で形成されたものである。スターホイール14の爪36により振動弁18が弾かれた際、
図5に破線で示すように振動弁18は上下方向に振動することにより音を発生させる。この場合、振動弁18の弁長さ寸法が短い方が同じ振り幅を上げるのに荷重が必要であり、同じ高さで離した場合にエネルギが大きく、速度が速くなる。すなわち、振動弁18の弁長さ寸法が短い方が周期が短くなり、高周波数となる。フランジ部30fは、好適には、複数の振動弁18のうち最長の振動弁18がスターホイール14の爪36により弾かれて振動した際に、その振動弁18に接触しない突出長さ寸法で形成されたものである。
【0037】
以上に説明したように、本実施例のオルゴール10は、台座30に備えられたフランジ部30fであって、複数の振動弁18が振動板16から延びる方向に突出し、複数の振動弁18と対向する位置にわたって設けられたフランジ部30fを備えている。振動板16の振動は、振動板16と直接固定された台座30に伝達される。このフランジ部30fが設けられていることで、台座30における振動板16根元部の剛性が増加し、振動の伝達効率が高められる。この結果、振動弁18の振動により発生させられた音の音響が向上する。換言すれば、振動弁18の振動に対応して、オルゴール10の外部に伝達される音が大きくなる。振動弁18の振動は、台座30から魂柱35を介して共鳴板34aに伝達される。複数の振動弁18と対向する位置にわたってフランジ部30fが設けられていることで、振動弁18の振動がフランジ部30fにより拾われ、そのフランジ部30fから台座30に伝達される。従って、振動弁18の振動により発生させられた音が、台座30及び魂柱35を介して共鳴板34aに伝達されやすくなる。振動弁18の振動により発生させられた音は、筐体34の上方すなわちのぞき窓34bが設けられている側にも響く。複数の振動弁18と対向する位置にわたってフランジ部30fが設けられていることで、振動弁18の振動がフランジ部30fにより反射させられ、筐体34の上方側に伝達されやすくなる。以上のような原理により、台座30にフランジ部30fが設けられていることで、振動弁18の振動により発生させられた音の音響が向上するものと考えられる。すなわち、本実施例のオルゴール10において、台座30に備えられたフランジ部30fは、振動弁18の振動により発生させられた音をオルゴール10全体に共鳴させる共鳴部(増音部、反響板)として機能する。
【0038】
振動弁18の振動により発生させられた音の音響を更に向上させるため、複数の振動弁18とフランジ部30fとの間隔(距離)が、各振動弁18に対応する音高(音階)に対応して定められたものであってもよい。すなわち、各振動弁18の振動により発生させられる音の振動数(波長)に合わせて、振動弁18とフランジ部30fとの間隔が設定されたものであってもよい。好適には、各振動弁18の振動により発生させられる音と、その音がフランジ部30fにより反射された音とが強め合うように、振動弁18とフランジ部30fとの間隔が設定される。従って、各振動弁18とフランジ部30fとの間隔は必ずしも一定でなくともよく、振動弁18に対応する音の波長が大きくなるほど間隔が広くなる等の構成をとるものであってもよい。フランジ部30fは、振動弁18に対応する音の音高が低くなるほどその厚み寸法tが厚くなるように構成されたものであってもよい。
【0039】
前述のように、本実施例のオルゴール10は、スターホイール14の駆動を制御する駆動制御部としての係止部材22及び電磁石24を備えている。
図7等に示すように、複数のスターホイール14、係止部材22、及び電磁石24は、台座30に対して振動板16の延伸方向に設けられたものである。換言すれば、複数のスターホイール14、係止部材22、及び電磁石24は、フランジ部30fに対してその突出方向に設けられたものである。
図11は、従来一般的であったオルゴール200の構成を概略的に示す図である。
図11に示すオルゴール200は、台座202と、台座202に固定された振動板204と、振動板204に備えられた複数の振動弁206と、複数の振動弁206を弾く爪を備えたシリンダ208とを、備えている。斯かる従来のオルゴール200では、
図11に示すように、シリンダ208の下方に台座202を延伸して設けることができる。しかし、本実施例のオルゴール10のごとき構成では、複数のスターホイール14及びその駆動制御部が台座30に対して振動弁18の延伸方向に存在するため、それらの下に台座30を延伸して設けることが構成上困難である。従って、
図4等を用いて前述したように、台座30に備えられたフランジ部30fであって、複数の振動弁18が振動板16から延びる方向に突出し、複数の振動弁18と対向する位置にわたって設けられたフランジ部30fを備えていることで、
図2及び
図6を用いて前述したような作動を可能としつつ、振動弁18の振動により発生させられた音の音響を向上させることができるのである。
【0040】
続いて、本発明の他の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。音を鳴らす機構である振動弁18や爪36の構成(仕様)や、オルゴールの筐体34の材質や構造によっては、低音側の振動弁18、中音域の振動弁18、及び高音側の振動弁18においてそれぞれ音の大きさや共鳴の特性が異なる場合がある。このような場合には、音響特性の向上を図るために、振動板の特性に合わせて、台座30のフランジ部30fの形状を変えてもよい。以下の説明において、実施例相互に共通する部分については同一の符号を用いてその説明を省略する。