特許第6275995号(P6275995)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6275995
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】保水性ブロック
(51)【国際特許分類】
   E01C 5/06 20060101AFI20180129BHJP
【FI】
   E01C5/06
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-224865(P2013-224865)
(22)【出願日】2013年10月30日
(65)【公開番号】特開2015-86563(P2015-86563A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】松本 健一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 真幸
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−031697(JP,A)
【文献】 特開2008−308858(JP,A)
【文献】 特開2011−016689(JP,A)
【文献】 特開2004−225283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 1/00〜 17/00
E04C 1/00〜 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、細骨材、粗骨材、コンクリート用混和剤および水を含み、単位体積当たりのセメントの配合量が420〜460kg/mで、かつ、充填率が80〜90%であるセメント組成物の硬化体からなる保水性ブロックであって、
上記セメント組成物の単位体積当たり、上記細骨材の配合量が900〜1,150kg/m、上記粗骨材の配合量が850〜1,100kg/m、上記コンクリート用混和剤の配合量が0.1〜6kg/m、上記水の配合量が80〜120kg/mであり、
水セメント比が20〜25%であり、
5.5MPa以上の曲げ強度を有し、保水量が0.19g/cm以上であり、吸上げ高さが70%以上であることを特徴とする保水性ブロック。
【請求項2】
細骨材率が47〜57%である請求項1に記載の保水性ブロック。
【請求項3】
保水性材料を含まない請求項1又は2に記載の保水性ブロック。
【請求項4】
上記保水性ブロックが、インターロッキングブロックである請求項1〜3のいずれか1項に記載の保水性ブロック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保水性ブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒートアイランド現象による夏季の市街地の温度上昇が問題となっている。ヒートアイランド現象は、主として、コンクリートからなるビルや、アスファルト、コンクリート等からなる舗装が、直射日光を照り返すこと等によって発生するものである。このヒートアイランド現象を抑制するために、近年、保水性ブロックの開発が行われている。
【0003】
一般的に、保水性ブロックは、保水能力の高い材料をブロックの構成材料に用いることによって水分を保持し、該水分の気化熱によって保水性ブロックで舗装された路面等の温度上昇を抑制するものである。
保水能力の高い材料を用いた保水性ブロックとして、特許文献1に、連続空隙を有するブロック体の前記連続空隙内に保水材が保持され、該保水材は少なくとも、粉末粒子間で保水を行う無機粉末とその結合材とを含むものである保水性ブロックが記載されている。
また、特許文献2に、木粉と砂を混合し、バインダーによって固めた舗装用ブロックが記載されている。
【0004】
一方、保水材を用いずに、コンクリートブロックの連続空隙内に水を溜める保水性ブロックとして、特許文献3に、透水性コンクリートブロックの底面及び側面の表面部を目詰まりさせてなる保水性コンクリートブロックが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−8040号公報
【特許文献2】特開2006−161335号公報
【特許文献3】特開2003−268706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された保水性ブロックは、保水材を保水性ブロックに充填するため、製造に手間がかかるという問題がある。また、特許文献2に記載された舗装用ブロックは、曲げ強度が小さいため、車道の舗装の用途に使用することができないという問題がある。特許文献3に記載された保水性コンクリートブロックは、ブロックの底面及び側面の表面部をモルタル等で覆う必要があり、製造に手間がかかるという問題がある。
本発明は、簡易に製造することができ、保水材を用いなくても保水性に優れ、かつ、側面等をモルタル等で覆わなくても曲げ強度が大きい保水性ブロックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメント、細骨材、粗骨材、コンクリート用混和剤および水を含み、かつ、特定の単位セメント量及び特定の充填率であるセメント組成物の硬化体からなる保水性ブロックであって、5MPa以上の曲げ強度を有し、保水量が0.15g/cm3以上であり、吸上げ高さが70%以上である保水性ブロックが実現可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、以下の[1]〜[4]を提供するものである。
[1] セメント、細骨材、粗骨材、コンクリート用混和剤および水を含み、単位体積当たりのセメントの配合量が360〜550kg/m3で、かつ、充填率が80〜90%であるセメント組成物の硬化体からなる保水性ブロックであって、5.0MPa以上の曲げ強度を有し、保水量が0.15g/cm3以上であり、吸上げ高さが70%以上であることを特徴とする保水性ブロック。
[2] 上記セメント組成物の単位体積当たり、細骨材の配合量が900〜1,150kg/m3、粗骨材の配合量が850〜1,100kg/m3、コンクリート用混和剤の配合量が0.1〜6kg/m3、水の配合量が80〜120kg/m3である、上記[1]に記載の保水性ブロック。
[3] 保水性材料を含まない、上記[1]又は[2]に記載の保水性ブロック。
[4] 上記保水性ブロックが、インターロッキングブロックである、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の保水性ブロック。
【発明の効果】
【0009】
本発明の保水性ブロックは、該ブロックの空隙に保水材を充填したり、該ブロックの側壁等をモルタル等で覆うなどの特別な作業を行う必要がないため、簡易に製造することができる。
また、本発明の保水性ブロックは、保水材を用いなくても、保水性に優れている。
さらに、本発明の保水性ブロックは、該ブロックの側壁をモルタルで覆うなどの補強を行わなくても、大きな曲げ強度を有し、車道の路面を形成するためのインターロッキングブロック等として用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の保水性ブロックは、セメント、細骨材、粗骨材、コンクリート用混和剤および水を含み、単位体積当たりのセメントの配合量が360〜550kg/m3で、かつ、充填率が80〜90%であるセメント組成物の硬化体からなる保水性ブロックであって、5MPa以上の曲げ強度を有し、保水量が0.15g/cm3以上であり、吸上げ高さが70%以上の保水性ブロックである。
本発明で用いられているセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメントや、エコセメント等が挙げられる。
【0011】
細骨材としては、川砂、山砂、海砂、砕砂、珪砂等が挙げられる。
粗骨材としては、川砂利、山砂利、海砂利、砕石等が挙げられる。
コンクリート用混和剤としては、即時脱型製品用混和剤を用いることができ、例えば、ポリサッカライド系、エーテル系、アルキルスルホン酸塩系、非イオン系等の界面活性剤等を用いることができる。また、該混和剤として、コンクリート用減水剤を使用することもできる。コンクリート用減水剤としては、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系等の減水剤、AE減水剤、高性能減水剤又は高性能AE減水剤等を用いることができる。
水としては、工業用水、水道水等が挙げられる。
【0012】
次に、保水性ブロックを形成するセメント組成物の単位体積当たりの各材料の配合量について説明する。
セメントの配合量は、強度および保水性の観点から、360〜550kg/m3、好ましくは380〜530kg/m3、より好ましくは400〜500kg/m3、特に好ましくは420〜460kg/m3である。セメントの配合量が360kg/m3未満では、曲げ強度が低下する。セメントの配合量が550kg/m3を超えると、充填率を80〜90%に調整することが困難となり、保水性(例えば、保水量等)が低下する。
【0013】
細骨材の配合量は、強度及び保水性の観点から、好ましくは900〜1,150kg/m3、より好ましくは950〜1,100kg/m3、特に好ましくは1,000〜1,050kg/m3である。
粗骨材の配合量は、強度及び保水性の観点から、好ましくは850〜1,100kg/m3、より好ましくは900〜1,050kg/m3、特に好ましくは950〜1,000kg/m3である。
細骨材率は、強度及び保水性の観点から、好ましくは47〜57%、より好ましくは48〜56%、特に好ましくは49〜55%である。
コンクリート用混和剤の配合量は、強度及び保水性の観点から、好ましくは0.1〜6kg/m3、より好ましくは0.2〜5kg/m3、特に好ましくは0.3〜4kg/m3である。コンクリート用混和剤が、即時脱型製品用混和剤である場合、即時脱型製品用混和剤の配合量は、例えば、0.2〜1kg/m3である。
水の配合量は、強度及び保水性の観点から、好ましくは80〜120kg/m3、より好ましくは85〜115kg/m3、特に好ましくは90〜110kg/m3である。
水セメント比は、強度及び保水性の観点から、好ましくは20〜25%、より好ましくは21〜24%、特に好ましくは22〜24%である。
【0014】
本発明の保水性ブロックの充填率は、強度及び保水性の観点から、80〜90%、好ましくは82〜90%、より好ましくは84〜90%である。充填率を前記範囲にすることによって、本発明の保水性ブロックは、保水材を用いなくても保水性に優れたものとすることができるうえ、大きな曲げ強度を発現することが可能となる。
該充填率が80%未満では、保水性ブロック内の個々の空隙の径が大きくなり、保水性が低下するとともに曲げ強度も低下する。該充填率が90%を超えると、保水性ブロック内の空隙量が少なくなり、保水量が低下する。
なお、充填率は、保水性ブロックの全体積中の空隙以外の部分の体積割合であり、次のようにして求めることができる。
充填率(%)={成形後の単位体積当たりの質量/示方配合から算出される単位体積当たりの質量}×100(%)
【0015】
本発明の保水性ブロックの曲げ強度は、好ましくは5.0MPa以上、より好ましくは5.5MPa以上、特に好ましくは6.0MPa以上である。
該曲げ強度の上限は、特に限定されないが、優れた保水性を得る観点から、好ましくは8.0MPa、より好ましくは7.5MPa、特に好ましくは7.0MPaである。
本発明の保水性ブロックの保水量は、好ましくは0.15g/cm3以上、より好ましくは0.17g/cm3以上、特に好ましくは0.19g/cm3以上である。
該保水量の上限は、特に限定されないが、大きな強度を得る観点から、好ましくは0.30g/cm3、より好ましくは0.28g/cm3、さらに好ましくは0.25g/cm3、特に好ましくは0.23g/cm3である。
本発明の保水性ブロックの吸上げ高さは、好ましくは70%以上、より好ましくは77%以上、特に好ましくは84%以上である。
該吸上げ高さの上限は、大きな強度を得る観点から、好ましくは90%、より好ましくは88%、特に好ましくは87%である。
【0016】
上述の曲げ強度、保水量および吸上げ高さは、「JIS A 5371:2010」の附属書Bの「舗装・境界ブロック類」中の「推奨仕様B−3 インターロッキングブロック」の「B.5.2 曲げ強度試験」、「B.5.4.1 保水性試験」、「B.5.4.2 吸水性試験」に記載された方法で測定される値であり、具体的には、次のようにして求められる。
曲げ強度は、「JIS A 5363」による。
保水量は、次の式によって算出される。
保水量(g/cm3)={湿潤質量(g)−絶乾質量(g)}÷供試体の体積(cm3
吸上げ高さは、次の式によって算出される。
吸上げ高さ(%)={30分後の吸上げ質量(g)−絶乾質量(g)}×100÷{湿潤質量(g)−絶乾質量(g)}
【0017】
次に、本発明の保水性ブロックの製造方法について説明する。
本発明において、上述の材料の混練方法は、特に限定されるものではなく、例えば、全ての材料を一括して混練装置内に投入し、混練してもよく、あるいは、水と減水剤(例えば、液状のもの)以外の材料を混練装置内に投入して空練りした後に、水と減水剤を追加で投入して混練してもよい。
混練装置も、特に限定されるものではなく、二軸練りミキサ、傾胴ミキサ、パン型ミキサ、オムニミキサ、ホバートミキサ、アイリッヒミキサ等の慣用のミキサを用いることができる。
成形方法も、特に限定されるものではなく、例えば、上述の各材料を混練してなる混練物を型枠内に投入した後、必要に応じて加圧しつつ、外部振動を与えて締め固め、即時脱型する方法等を採用することができる。
養生方法も、特に限定されるものではなく、気中養生、水中養生、蒸気養生等で養生することができる。
本発明の保水性ブロックは、インターロッキングブロック、コンクリート平板、境界ブロック等の形態を有することができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
使用材料は、以下に示すとおりである。
(1)セメント:太平洋セメント社製の普通ポルトランドセメント(密度:3.16g/cm3
(2)細骨材:山砂
(3)粗骨材A:石英斑岩の砕石と砂岩の砕石の混合物
(4)粗骨材B:砕石7号
(5)保水材:ALC破砕骨材(オートクレーブ養生した軽量気泡コンクリートを破砕したもの;吸水率:67%)
(6)即時脱型製品用混和剤:BASFジャパン社製の「ルブリリス100」(商品名)
(7)高性能AE減水剤:BASFジャパン社製の「マスターグレニウムSP−8SV」(商品名)
(8)水:上水道水
【0019】
[実施例1]
上述の材料を使用し、表1に示す配合に従って、混練物を調製した。混練は、アイリッヒミキサ(容量:18リットル)を用いて、4分間行った。得られた混練物を、縦20cm×横10cm×厚さ8cmの型枠内に投入した後、20℃で7日間、気中養生して、保水性ブロックを得た。
充填率、曲げ強度、保水量および吸上げ高さを、上述の方法で求めた。
なお、表1中、「製品用混和剤」は、即時脱型製品用混和剤を略記したものである。
[比較例1〜2]
表1に示す配合に従った以外は実施例1と同様にして、保水性ブロックを得た。また、得られた保水性ブロックについて、実施例1と同様に充填率等を求めた。
以上の結果を表2に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
表2中、本発明の保水性ブロック(実施例1)は、保水材を用いなくても保水性(保水量、吸上げ高さ)に優れ、かつ、側面等をモルタル等で覆わなくても曲げ強度が大きいことがわかる。
一方、コンクリート用混和剤を用いず、かつ、充填率が本発明で規定する範囲を超えている比較例1では、曲げ強度は実施例1と同程度であるものの、保水性(保水量、吸上げ高さ)が実施例1に比べて劣るため、優れた保水性を得るために保水材が必要であることがわかる。
保水材を用い、かつ、単位セメント量が本発明で規定する範囲より少ない比較例2では、保水性(保水量、吸上げ高さ)は実施例1と同程度であるものの、曲げ強度が実施例1に比べて小さいため、大きな曲げ強度を得るために、例えば、側面をモルタルで覆うなどの補強が必要であることがわかる。