(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下に述べる寸法、形状、材質等は、説明のための例示であって、回転電機ステータの仕様等により、適宜変更が可能である。また、以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1、
図2は、車両に搭載される回転電機に用いられる回転電機ステータ10の構成を示す図である。以下では、回転電機ステータ10を特に断らない限り、ステータ10と呼ぶ。
図1(a)は、ステータコア11の斜視図で、(b)は(a)のステータコア11の1つのティース14に配置されるインシュレータ30の斜視図である。
図2(a)は、1つのティース14の上面図で、(b)は、
図1のA面におけるインシュレータ30の断面図で、(c)は、インシュレータ30を介してティース14に挿入される集中巻のコイル20の上面図である。
図1,2に、ステータ10の周方向θ、径方向R、高さ方向Zをそれぞれ示した。+R方向は外径側から内径側に向かう方向、+θ方向は、紙面の左側から右側に向かう方向である。以下の図でも同様である。
【0018】
ステータ10が用いられる回転電機は、車両が力行するときは電動機として機能し、車両が制動時にあるときは発電機として機能するモータ・ジェネレータで、三相同期型回転電機である。回転電機は、
図1に示される固定子であるステータ10と、ステータ10の内周側に所定の隙間を隔てて配置されて配置される円環状の回転子であるロータとで構成される。
図1ではロータの図示を省略した。
【0019】
ステータ10は、ステータコア11における円環状のヨーク部12と、周方向に並んでヨーク部12から内径側に突き出す複数のティース13,14と、ティース13,14の間の空間である複数のスロット15,16と、ティース13,14の外周壁面に沿って配置されるインシュレータ30と、インシュレータ30が配置されたティース13,14の内径側から挿入される集中巻のコイル20を有する。
【0020】
ヨーク部12は、ステータコア11における外径側部分で、円環状形状を有する。ヨーク部12の内径側には、周方向に並んでティース13,14とスロット15,16が交互に複数配置される。ティース13,14はコイル20が巻回されて磁極となる突出部である。各ティース13,14は、それぞれのR方向に沿った中心線C−C’に対し対称形で、+R方向に先細りの形状を有する。隣接するティース13,14の中心線C−C’は、互いにθ
0=(360/ティースの数)の角度で傾斜する。例えば、ステータコア11に10個のティースが配置されると、θ
0=30度である。
【0021】
図1(b)では、ティース14のθ方向の2つの側壁を、スロット15側の側壁面18
Lと、スロット16側の側壁面18
Rとして区別した。側壁面18
L,18
Rには、インシュレータ30が覆うようにして配置される。
【0022】
かかるステータコア11は、ティース13,14とスロット15,16を含んで所定の形状に成形された円環状の磁性体薄板を複数積層したものが用いられる。磁性体薄板としては、電磁鋼板を用いることができる。磁性体薄板の積層体に代えて、磁性粉末を所定の形状に一体化成形したものを用いることもできる。
【0023】
集中巻のコイル20は、ティース13,14の断面形状に対応する略台形の断面形状を有する巻き型を用いて、絶縁皮膜付きの導体を所定の巻数と積層数で巻回し、巻き終わったものを巻き型から取り外すことで形成される。
図2(c)の例では、6巻きの内周巻線22と、内周巻線22の外周側面に沿って積層して巻回された6巻きの外周巻線24が示される。内周巻線22のコイル内周側面26
L,26
Rは、インシュレータ30の外周壁面に沿うようにして、スロット15,16に配置される。
【0024】
図2に示されるように、ティース14にインシュレータ30が配置され、インシュレータ30の外周にコイル20が配置されるとき、コイル20の中心線はティース14の中心線C−C’と一致する。したがって、コイル内周側面26
L,26
Rは、巻回されるティース14の中心線C−C’に平行な壁面である。
【0025】
絶縁皮膜付き導線としては、銅線、銅錫合金線、銀メッキ銅錫合金線等を素線として用いることができる。素線としては、断面形状が矩形の平角線が用いられる。絶縁皮膜としては、ポリアミドイミドのエナメル皮膜が用いられる。これに代えて、ポリエステルイミド、ポリイミド、ポリエステル、ホルマール等を用いることができる。
【0026】
インシュレータ30は、ステータコア11とコイル20との間を電気的に絶縁する絶縁体である。
図1に示されるように、インシュレータ30は、複数のティース13,14のそれぞれに1つずつ配置されるフランジ付枠形部材である。フランジ32
Cは、スロット15,16の底部の内壁面に対応する張出部である。枠形のうち、ティース14の側壁面18
Lに対応する側壁面を側壁面32
L、ティース14の側壁面18
Rに対応する側壁面を側壁面32
Rと呼ぶ。側壁面32
L,32
Rには、それぞれ、コイル20の各巻きに対応する段差面が設けられる。
【0027】
段差面は2種類の壁面で構成され、異なる壁面の間では互いに傾斜するようにして設けられる。2種類の壁面は、コイル接触面34
L,34
Rと、R方向に沿って隣接するコイル接触面の間を接続するテーパ面36
L,36
Rである。側壁面32
Lには、コイル接触面34
Lとテーパ面36
LがR方向に沿って外
径側から内
径側に向かって交互に設けられ、側壁面32
Rには、コイル接触面34
Rとテーパ面36
RがR方向に沿って外周側から内周側に向かって交互に設けられる。
【0028】
段差面の一部を構成するコイル接触面34
L,34
Rは、インシュレータ30のR方向に沿った中心線に平行な壁面で、ティース14にインシュレータ30が配置され、インシュレータ30の外周に沿ってスロット15,16にコイル20が挿入されるとき、ティース14の中心線C−C’に平行な壁面で、コイル内周側面26
L,26
Rに平行な壁面である。したがって、コイル接触面34
L,34
Rにはコイル内周側面26
L,26
Rが接触する。そこで、この壁面をコイル接触面34
L,34
Rと呼ぶことにした。
【0029】
段差面の一部を構成するテーパ面36
L,36
Rは、R方向に沿って隣接するコイル接触面の間を接続する壁面である。ティース14にインシュレータ30が配置され、インシュレータ30の外周に沿ってスロット15,16にコイル20が挿入されるとき、テーパ面36
L,36
Rはコイル内周側面26
L,26
Rに接触せず離間する。コイル接触面34
L,34
Rに対するテーパ面36
L,36
Rの傾斜角度は、コイル20のスロット15,16への挿入性を考慮して設定することができる。挿入性を考慮した傾斜角度の設定の詳細については、
図7において後述する。
【0030】
図3から
図6は、ステータ10において、複数のティース13,14にそれぞれインシュレータ30を配置し、集中巻のコイル20を順次配置する手順を示す図である。これらの図はすべて上面図である。以下では、ステータ10の一部として、複数のティースについては2つのティース13,14に代表させ、複数のスロットについてはティース14の両側のスロット15,16に代表させ、また、複数のインシュレータ30と複数のコイル20は、区別せずに同じ符号を用いて説明する。
【0031】
図3は、複数のティース13,14に、それぞれインシュレータ30が配置された状態を示す図である。
図3に示されるように、1つのスロットには、2つのインシュレータのそれぞれの左側部分または右側部分が配置される。
【0032】
図4は、インシュレータ30が配置された複数のティースについて、その両側のスロットに、コイル20を順次挿入して行き、挿入すべき残りのティースが2つのティース13,14になり、そのうちのティース13にコイル20を配置する状態を示す図である。ティース13の左隣のティースには既にコイル20が配置されているが、右隣のティース14にはまだコイル20が配置されていない。つまり、ティース13の右側のスロット15には、コイル20が全く配置されていない。したがって、ティース13の中心線C−C’に対し、コイル20の中心線C
20をスロット15側に寄せることで、集中巻のコイル20を変形させることなく、そのままの形状でティース13に配置することができる。
【0033】
図5は、
図4の作業が終了し、挿入すべき残りのティースがティース14のみになり、そのティース14にコイル20を配置する状態を示す図である。ティース13の左隣のティースにも右隣のティースにも既にコイル20が配置されているので、ティース14の左側のスロット15にも、右側のスロット16にもコイル20が既に存在する。したがって、これから配置しようとするコイル20は、集中巻されたままの形状では、略台形の断面形状における幅広の辺の角部が、既に配置されているコイル20に干渉し、そのままでは、スロット15,16に挿入できない。
図5(a)では、その様子を干渉状態I
1として示した。
【0034】
図5(b)は、その干渉状態I
1が生じないように変形させたコイル21を示す図である。コイル21における変形は、例えば、次のようにして行うことができる。まず、スロット15に既に配置されているコイル20のコイル外周側面27
Rとコイル21のコイル外周側面27
Lが平行になるように、ティース14の中心線C−C’に対しコイル21を傾斜させる。この時点では、コイル21はまだ変形が行われていない。次に、その状態のコイル21のコイル外周側面27
Rが、スロット16に既に配置されているコイル20のコイル外周側面27
Lに干渉しないように、コイル21を変形させる。変形は、弾性変形の範囲で行う。
【0035】
上記の変形作業は一例であって、要するに、配置しようとするコイル21が、既に配置されている2つのコイル20のいずれにも干渉しないように、変形させればよい。
図6は、変形されたコイル21が、スロット15,16に挿入された状態を示す図である。挿入作業を続けて、コイル21を構成する巻線がスロット15,16に配置されると、変形をさせていた外力がなくなるので、巻線の弾性によって変形が元に戻り、ティース14には変形前の形状でコイル20が配置される。
【0036】
図7は、
図5の状態における拡大図で、挿入されるべき最後のティース14にコイル20が配置される前におけるティース13,14とインシュレータ30とコイル20の関係を示す図である。ここでは、ティース14にインシュレータ30が挿入された状態が示される。また、ティース13にインシュレータ30を介してコイル20が配置されたときのインシュレータ30の側壁面18
Rのコイル接触面34
Rとテーパ面36
Rとコイル内周側面26
Rの関係が示される。
【0037】
図7の右側部分を用いて、ティース14に挿入されたインシュレータ30を説明する。ティース14の側壁面18
Lには、インシュレータ30の側壁面32
Lが接触し、ティース14の側壁面18
Rには、インシュレータ30の側壁面32
Rが接触して配置される。インシュレータ30の側壁面32
Lのスロット15側には、R方向に沿って外径側から内径側に向かって、コイル接触面34
Lとテーパ面36
Lが交互に設けられる。すなわち、外径側から内径側に向かって、コイル接触面34
L、テーパ面36
L、コイル接触面34
L、テーパ面36
L、コイル接触面34
L、テーパ面36
L、コイル接触面34
L、テーパ面36
L、コイル接触面34
Lの順に配置される。
【0038】
同様に、インシュレータ30の側壁面32
Rのスロット16側にも、R方向に沿って外径側から内径側に向かって、コイル接触面34
Lとテーパ面36
Lが交互に設けられる。すなわち、外径側から内径側に向かって、コイル接触面34
R、テーパ面36
R、コイル接触面34
R、テーパ面36
R、コイル接触面34
R、テーパ面36
R、コイル接触面34
R、テーパ面36
R、コイル接触面34
Rの順に配置される。
【0039】
このように、インシュレータ30の側壁面32
L、32
Rにおいて、端部からR方向に沿った同じ位置には、共にコイル接触面34
L,34
Rが設けられるか、または共にテーパ面36
L,36
Rが設けられる。
【0040】
次に、
図7の左側の部分を用いて、ティース13にインシュレータ30を介してコイル20が挿入されたときについて説明する。インシュレータ30にコイル20が挿入された状態では、コイル内周側面26
Rは、インシュレータ30のコイル接触面34
Rに接触しているがテーパ面36
Rには接触せず離間している。
【0041】
同じスロット15において互いに向かい合う2つのインシュレータ30についてみると、ティース13の側壁面32
Rのテーパ面36
Rは、ティース14の側壁面32
Lのコイル接触面34
Lと、互いに平行関係P
1にある。この平行関係P
1は、ティース13のR方向に沿った中心線C−C’(図示していない)と平行である。
【0042】
また、ティース1
4の側壁面32
Lの
テーパ面3
6Lは、ティース1
3に配置されたコイル20のコイル外周側面27
Rと平行関係P
2にある。
図7では図示を省略しているが、ティース13の側壁面32
Rの
テーパ面3
6Rも、ティース14に配置されたコイル20のコイル外周側面27
Lと平行関
係にある。この平行関係P
2は、
図6において、変形されたコイル21がティース14に配置されるときの挿入性改善のために設定されたものである。
【0043】
ティース1
3に配置されたコイル20のコイル外周側面27
Rは、ティース13に配置されたコイル20のコイル内周側面26
Rと平行関係P
3にあり、ティース13に配置されたコイル20のコイル内周側面26
Rは、ティース13の側壁面32
Rのコイル接触面34
Rに接触して配置される。平行関係P
3は平行関係P
2と平行関係にある。したがって、平行関係P
2は、ティース13の側壁面32
Rのコイル接触面34
Rと、ティース14の側壁面32
Lのテーパ面36
Lとが平行であることを示す。
【0044】
これらの関係について
図7を用いて整理すると、ティース13の側壁面32
Rの
テーパ面3
6Rと、ティース14の側壁面32
Lのコイル接触面34
Lとは平行関係P
1にある。また、ティース13の側壁面32
Rの
コイル接触面3
4Rと、ティース14の側壁面32
Lの
テーパ面3
6Lとは平行関係P
4にある。したがって、平行関係P
1に対する平行関係P
4の間の傾斜角度θ
0は、隣接するティース13,14の中心線C−C’の間の角度と同じとなる。
【0045】
すなわち、インシュレータ30は、コイル内周側面26
L,26
Rと接触するコイル接触面34
L,34
Rを有し、また、同じスロット15,16に配置される他の集中巻のコイル外周側面27
L,27
Rに平行で、コイル接触面34
L,34
Rに対し傾斜角度θ
0で傾斜するテーパ面36
L,36
Rを有する。
【0046】
かかる回転電機ステータ10の作用効果を
図8と
図9を用いて説明する。
図8と
図9は、ステータコア11の1つのスロット15において向かい合って隣接するティース13,14に、それぞれコイル20を挿入するときのコイル挿入性を比較したものである。
図8は、本発明に係るインシュレータ30を用いた場合を示す図で、
図9は、従来技術の段付きインシュレータ31を用いた場合を示す図である。これらの図において、ティース13にはすでにコイル20が配置済みである。ティース14については、これから
図5,6に示す手順で、インシュレータ31またはインシュレータ30を介して、スロット15,16にコイル21が挿入される。
【0047】
図8では、ティース13,14に、それぞれ本発明に係るインシュレータ30が配置されている。本発明に係るインシュレータ30は、R方向に沿って、コイル接触面34
L,34
Rの間をテーパ面36
L,36
Rで接続した構造となっている。なお、インシュレータ30の最小厚さは、絶縁性能を確保することができるd
0に設定されている。また、テーパ面36
L,36
Rの部分はインシュレータ30の厚さが薄くなっているが、コイル内周側面26
Lはテーパ面36
Lから離間しているので、インシュレータの絶縁性能が低下することがない。
【0048】
ここで、ティース14についてインシュレータ30を介してスロット15,16にコイル20を挿入すると、インシュレータ30には、R方向に沿ってコイル接触面34
L,34
Rに続いてテーパ面36
L,36
Rが設けられていて、
図8で説明したように、ティース14のそのテーパ面36
Lは、ティース13に配置されるコイル20のコイル外周側面27
Rに平行である。したがって、ティース14に変形されたコイル21を配置するために、コイル21をスロット15の内径側から外径側に向かって押し込んでも、インシュレータ30には直角部を有する段差がなく、テーパ面36
Lに沿ってコイル21を滑らかに移動させることができる。また、テーパ面36
Lに沿ってコイル21を移動させるときに、隣り合うコイル20の側にコイル21が寄せられるが、テーパ面36
Lは、コイル20のコイル外周側面27
Rに平行であるので、隣り合うコイル20との干渉も生じない。
【0049】
図9において、ティース13,14には、それぞれ従来技術のインシュレータ31が配置されている。従来技術のインシュレータ31は、本発明に係るインシュレータ30と異なり、テーパ面36
L,36
Rを備えず、コイル接触面34
L,34
Rのみで段付き構造が構成されている。例えば、ティース14に配置されるインシュレータ31は、スロット15において、複数のコイル接触面34
Lの間には直角部の段差が存在する。なお、インシュレータ31の最小厚さd
0は、絶縁性能を確保できる厚さに設定されている。
【0050】
ここで、変形されたコイル21をティース14にティース14に配置するために、コイル21をスロット15の内径側から外径側に向かって押し込むと、インシュレータ31の直角部を有する段差のところで、コイル21のコイル内周側面26
Lの角部が干渉することが生じる。
図9では、その様子を干渉状態I
2として示した。したがって、この干渉状態I
2が生じないように、コイル21の配置作業を注意深く行うことが必要である。また、干渉状態I
2が生じないように注意しても、直角部を有する段差のところで、段差の大きさの分だけ隣り合うコイル20の側にコイル21が寄せられるので、隣り合うコイルとの干渉も生じ得る。このように、従来技術では、コイル21の配置に注意が必要で、そのためにコイル21の挿入作業性が低下する。
図8の構造では、テーパ面36
Lが設けられるので、このようなことがないので、
図9の従来技術に比べ、コイル21の挿入作業性が向上する。