特許第6276041号(P6276041)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6276041
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】回転電機ステータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20180129BHJP
【FI】
   H02K3/34 C
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-8486(P2014-8486)
(22)【出願日】2014年1月21日
(65)【公開番号】特開2015-139243(P2015-139243A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2016年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 知彦
(72)【発明者】
【氏名】辻 赳
(72)【発明者】
【氏名】中島 大
【審査官】 安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−222944(JP,A)
【文献】 特開2012−257409(JP,A)
【文献】 特開2008−220093(JP,A)
【文献】 特開2013−223288(JP,A)
【文献】 特開2013−162565(JP,A)
【文献】 特開2007−215364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/30−3/52
H02K 15/00−15/02
H02K 15/04−15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状のヨークと、
周方向に並んでヨーク部から内径側に向かって突き出す複数のティース、及びティース間の空間である複数のスロットを有するステータコアと、
ティースの外周壁面に沿って配置されインシュレータと、
インシュレータが配置されたティースの内径側から挿入され集中巻のコイルと、
を備え、
インシュレータは、
インシュレータ外周にコイルを配置した状態で、コイル内周側面と接触する複数のコイル接触面、及びコイル接触面の間を接続する複数のテーパ面を有し、コイル内周側面は複数のコイル接触面のみに接触していることを特徴とする回転電機ステータ。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機ステータにおいて、
テーパ面は、
隣り合うティースに配置され他の集中巻のコイルのコイル外周側面に対して平行であることを特徴とする回転電機ステータ。
【請求項3】
請求項1に記載の回転電機ステータにおいて、
コイル接触面とテーパ面との間の傾斜角度は、隣接するティースの径方向に沿った中心線の間の傾斜角度に基づいて設定されることを特徴とする回転電機ステータ。
【請求項4】
請求項1に記載の回転電機ステータにおいて、
コイル1巻きの内周側面は、その一部がコイル接触面に接触し、残りの部分がテーパ面から離間していることを特徴とする回転電機ステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機ステータに係り、特に、インシュレータを介してコイルが巻回される回転電機ステータに関する。
【背景技術】
【0002】
インシュレータを介して平角線のコイルが巻回される場合、巻線の占積率を向上させるため、インシュレータは、絶縁性能を確保しながらできるだけ薄い方が好ましい。
【0003】
特許文献1には、ステータコアのヨーク部から内径側に突き出すティースにインシュレータを介して平角線を巻回するステータにおいて、インシュレータの厚さが平角線とティースとの相対位置関係によって異なる段付きインシュレータが開示されている。
【0004】
特許文献2には、矩形断面を有するコイル巻線を予め巻き型を用いて巻回された集中巻コイルをステータコアの内径側からティース部の周囲に挿入して装着することが述べられている。
【0005】
特許文献3には、一体型のステータコアのヨーク部から内径側に突き出す複数のティースのそれぞれに集中巻のコイルを順次挿入する際に、挿入すべき最後のティースにはその両側のスロットに既にコイルが配置済みであるので、そのままではコイルが挿入できないことを述べている。そこで、コイルを空芯状態で変形させて挿入することで、分割コアを用いずに占積率の向上を図ることが開示されている。
【0006】
特許文献3に関連して、特許文献4には、多層多段の集中巻コイルを用いるときに、挿入すべき最後のティースについてコイルを変形させると、その変形によって多層の巻線の間で隙間が生じ、あるいは干渉が生じることを指摘している。ここでは、干渉が生じないように、多層のコイルの間に予め所定の隙間を設けることが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−222944号公報
【特許文献2】特開2013−162565号公報
【特許文献3】特開2008−220093号公報
【特許文献4】特開2013−223288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
インシュレータの絶縁性能を確保しながらコイルの占積率の向上を図るには、特許文献1に述べられているような段付きインシュレータを用いることが好ましい。この場合に、一体型のステータに集中巻コイルを用いると、特許文献3に述べられているように、最後に挿入すべきティースには、コイルを変形させて挿入作業を行うことが必要になる。そのときに、段付きインシュレータであると、インシュレータの段差部分に変形されたコイルの角部とが干渉することが生じ得る。したがって、干渉しないように注意深くコイルを挿入する必要があり、コイル挿入性が低下する。コイル挿入性を上げようとしてティース幅を小さくするとコイル占積率が低下し、回転電機の性能低下等が生じることがある。
【0009】
本発明の目的は、段付きインシュレータの絶縁性能を確保しながらコイル挿入性を向上できる回転電機ステータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る回転電機ステータは、円環状のヨークと、周方向に並んでヨーク部から内径側に向かって突き出す複数のティース、及びティース間の空間である複数のスロットを有するステータコアと、ティースの外周壁面に沿って配置されインシュレータと、インシュレータが配置されたティースの内径側から挿入され集中巻のコイルと、を備え、インシュレータは、インシュレータ外周にコイルを配置した状態で、コイル内周側面と接触する複数のコイル接触面、及びコイル接触面の間を接続する複数のテーパ面を有し、コイル内周側面は複数のコイル接触面のみに接触していることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る回転電機ステータにおいて、テーパ面は、隣り合うティースに配置され他の集中巻のコイルのコイル外周側面に対して平行であることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る回転電機ステータにおいて、コイル接触面とテーパ面との間の傾斜角度は、隣接するティースの径方向に沿った中心線の間の傾斜角度に基づいて設定されることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る回転電機ステータにおいて、コイル1巻きの内周側面は、その一部がコイル接触面に接触し、残りの部分がテーパ面から離間していることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記構成の回転電機ステータによれば、インシュレータは、インシュレータ外周にコイルを配置した状態で、コイル内周側面と接触する複数のコイル接触面、及びコイル接触面の間を接続する複数のテーパ面を有するので、例えば、コイルを最後に挿入すべきティースのように、既に他のコイルが配置されていて狭くなっているスロットの空間にコイルの挿入作業を行う場合でも、テーパ面によってコイルとインシュレータとの間の干渉が生じない。また、コイル内周側面はコイル接触面のみに接触するので、テーパ面を設けてもインシュレータの絶縁性能が低下することがない。したがって、インシュレータの絶縁性能を確保しながらコイル挿入性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係る回転電機ステータにおいて、ステータコアとインシュレータの関係を示す斜視図である。
図2】本発明の実施の形態に係る回転電機ステータにおいて、ティースとインシュレータと集中巻のコイルの関係を示す図である。
図3】本発明の実施の形態に係る回転電機ステータにおいて、ティースにインシュレータを配置した状態を示す図である。
図4】本発明の実施の形態に係る回転電機ステータにおいて、ティースに集中巻のコイルが配置されるときを示す図である。
図5】本発明の実施の形態に係る回転電機ステータにおいて、集中巻のコイルを最後に挿入すべきティースを示す図で、(a)は既に配置済みのコイルと最後のコイルとの間の干渉を示し、(b)は干渉を避けて変形させたコイルを示す図である。
図6】本発明の実施の形態に係る回転電機ステータにおいて、最後に挿入すべきティースに変形させたコイルが配置されることを示す図である。
図7】本発明の実施の形態に係る回転電機ステータにおいて、ティースとインシュレータと集中巻のコイルの関係を示す拡大図である。
図8】本発明の実施の形態に係る回転電機ステータにおけるコイル挿入性を示す図である。
図9】比較のために従来技術の段付きインシュレータを用いたときのコイル挿入性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下に述べる寸法、形状、材質等は、説明のための例示であって、回転電機ステータの仕様等により、適宜変更が可能である。また、以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1図2は、車両に搭載される回転電機に用いられる回転電機ステータ10の構成を示す図である。以下では、回転電機ステータ10を特に断らない限り、ステータ10と呼ぶ。図1(a)は、ステータコア11の斜視図で、(b)は(a)のステータコア11の1つのティース14に配置されるインシュレータ30の斜視図である。図2(a)は、1つのティース14の上面図で、(b)は、図1のA面におけるインシュレータ30の断面図で、(c)は、インシュレータ30を介してティース14に挿入される集中巻のコイル20の上面図である。図1,2に、ステータ10の周方向θ、径方向R、高さ方向Zをそれぞれ示した。+R方向は外径側から内径側に向かう方向、+θ方向は、紙面の左側から右側に向かう方向である。以下の図でも同様である。
【0018】
ステータ10が用いられる回転電機は、車両が力行するときは電動機として機能し、車両が制動時にあるときは発電機として機能するモータ・ジェネレータで、三相同期型回転電機である。回転電機は、図1に示される固定子であるステータ10と、ステータ10の内周側に所定の隙間を隔てて配置されて配置される円環状の回転子であるロータとで構成される。図1ではロータの図示を省略した。
【0019】
ステータ10は、ステータコア11における円環状のヨーク部12と、周方向に並んでヨーク部12から内径側に突き出す複数のティース13,14と、ティース13,14の間の空間である複数のスロット15,16と、ティース13,14の外周壁面に沿って配置されるインシュレータ30と、インシュレータ30が配置されたティース13,14の内径側から挿入される集中巻のコイル20を有する。
【0020】
ヨーク部12は、ステータコア11における外径側部分で、円環状形状を有する。ヨーク部12の内径側には、周方向に並んでティース13,14とスロット15,16が交互に複数配置される。ティース13,14はコイル20が巻回されて磁極となる突出部である。各ティース13,14は、それぞれのR方向に沿った中心線C−C’に対し対称形で、+R方向に先細りの形状を有する。隣接するティース13,14の中心線C−C’は、互いにθ0=(360/ティースの数)の角度で傾斜する。例えば、ステータコア11に10個のティースが配置されると、θ0=30度である。
【0021】
図1(b)では、ティース14のθ方向の2つの側壁を、スロット15側の側壁面18Lと、スロット16側の側壁面18Rとして区別した。側壁面18L,18Rには、インシュレータ30が覆うようにして配置される。
【0022】
かかるステータコア11は、ティース13,14とスロット15,16を含んで所定の形状に成形された円環状の磁性体薄板を複数積層したものが用いられる。磁性体薄板としては、電磁鋼板を用いることができる。磁性体薄板の積層体に代えて、磁性粉末を所定の形状に一体化成形したものを用いることもできる。
【0023】
集中巻のコイル20は、ティース13,14の断面形状に対応する略台形の断面形状を有する巻き型を用いて、絶縁皮膜付きの導体を所定の巻数と積層数で巻回し、巻き終わったものを巻き型から取り外すことで形成される。図2(c)の例では、6巻きの内周巻線22と、内周巻線22の外周側面に沿って積層して巻回された6巻きの外周巻線24が示される。内周巻線22のコイル内周側面26L,26Rは、インシュレータ30の外周壁面に沿うようにして、スロット15,16に配置される。
【0024】
図2に示されるように、ティース14にインシュレータ30が配置され、インシュレータ30の外周にコイル20が配置されるとき、コイル20の中心線はティース14の中心線C−C’と一致する。したがって、コイル内周側面26L,26Rは、巻回されるティース14の中心線C−C’に平行な壁面である。
【0025】
絶縁皮膜付き導線としては、銅線、銅錫合金線、銀メッキ銅錫合金線等を素線として用いることができる。素線としては、断面形状が矩形の平角線が用いられる。絶縁皮膜としては、ポリアミドイミドのエナメル皮膜が用いられる。これに代えて、ポリエステルイミド、ポリイミド、ポリエステル、ホルマール等を用いることができる。
【0026】
インシュレータ30は、ステータコア11とコイル20との間を電気的に絶縁する絶縁体である。図1に示されるように、インシュレータ30は、複数のティース13,14のそれぞれに1つずつ配置されるフランジ付枠形部材である。フランジ32Cは、スロット15,16の底部の内壁面に対応する張出部である。枠形のうち、ティース14の側壁面18Lに対応する側壁面を側壁面32L、ティース14の側壁面18Rに対応する側壁面を側壁面32Rと呼ぶ。側壁面32L,32Rには、それぞれ、コイル20の各巻きに対応する段差面が設けられる。
【0027】
段差面は2種類の壁面で構成され、異なる壁面の間では互いに傾斜するようにして設けられる。2種類の壁面は、コイル接触面34L,34Rと、R方向に沿って隣接するコイル接触面の間を接続するテーパ面36L,36Rである。側壁面32Lには、コイル接触面34Lとテーパ面36LがR方向に沿って外側から内側に向かって交互に設けられ、側壁面32Rには、コイル接触面34Rとテーパ面36RがR方向に沿って外周側から内周側に向かって交互に設けられる。
【0028】
段差面の一部を構成するコイル接触面34L,34Rは、インシュレータ30のR方向に沿った中心線に平行な壁面で、ティース14にインシュレータ30が配置され、インシュレータ30の外周に沿ってスロット15,16にコイル20が挿入されるとき、ティース14の中心線C−C’に平行な壁面で、コイル内周側面26L,26Rに平行な壁面である。したがって、コイル接触面34L,34Rにはコイル内周側面26L,26Rが接触する。そこで、この壁面をコイル接触面34L,34Rと呼ぶことにした。
【0029】
段差面の一部を構成するテーパ面36L,36Rは、R方向に沿って隣接するコイル接触面の間を接続する壁面である。ティース14にインシュレータ30が配置され、インシュレータ30の外周に沿ってスロット15,16にコイル20が挿入されるとき、テーパ面36L,36Rはコイル内周側面26L,26Rに接触せず離間する。コイル接触面34L,34Rに対するテーパ面36L,36Rの傾斜角度は、コイル20のスロット15,16への挿入性を考慮して設定することができる。挿入性を考慮した傾斜角度の設定の詳細については、図7において後述する。
【0030】
図3から図6は、ステータ10において、複数のティース13,14にそれぞれインシュレータ30を配置し、集中巻のコイル20を順次配置する手順を示す図である。これらの図はすべて上面図である。以下では、ステータ10の一部として、複数のティースについては2つのティース13,14に代表させ、複数のスロットについてはティース14の両側のスロット15,16に代表させ、また、複数のインシュレータ30と複数のコイル20は、区別せずに同じ符号を用いて説明する。
【0031】
図3は、複数のティース13,14に、それぞれインシュレータ30が配置された状態を示す図である。図3に示されるように、1つのスロットには、2つのインシュレータのそれぞれの左側部分または右側部分が配置される。
【0032】
図4は、インシュレータ30が配置された複数のティースについて、その両側のスロットに、コイル20を順次挿入して行き、挿入すべき残りのティースが2つのティース13,14になり、そのうちのティース13にコイル20を配置する状態を示す図である。ティース13の左隣のティースには既にコイル20が配置されているが、右隣のティース14にはまだコイル20が配置されていない。つまり、ティース13の右側のスロット15には、コイル20が全く配置されていない。したがって、ティース13の中心線C−C’に対し、コイル20の中心線C20をスロット15側に寄せることで、集中巻のコイル20を変形させることなく、そのままの形状でティース13に配置することができる。
【0033】
図5は、図4の作業が終了し、挿入すべき残りのティースがティース14のみになり、そのティース14にコイル20を配置する状態を示す図である。ティース13の左隣のティースにも右隣のティースにも既にコイル20が配置されているので、ティース14の左側のスロット15にも、右側のスロット16にもコイル20が既に存在する。したがって、これから配置しようとするコイル20は、集中巻されたままの形状では、略台形の断面形状における幅広の辺の角部が、既に配置されているコイル20に干渉し、そのままでは、スロット15,16に挿入できない。図5(a)では、その様子を干渉状態I1として示した。
【0034】
図5(b)は、その干渉状態I1が生じないように変形させたコイル21を示す図である。コイル21における変形は、例えば、次のようにして行うことができる。まず、スロット15に既に配置されているコイル20のコイル外周側面27Rとコイル21のコイル外周側面27Lが平行になるように、ティース14の中心線C−C’に対しコイル21を傾斜させる。この時点では、コイル21はまだ変形が行われていない。次に、その状態のコイル21のコイル外周側面27Rが、スロット16に既に配置されているコイル20のコイル外周側面27Lに干渉しないように、コイル21を変形させる。変形は、弾性変形の範囲で行う。
【0035】
上記の変形作業は一例であって、要するに、配置しようとするコイル21が、既に配置されている2つのコイル20のいずれにも干渉しないように、変形させればよい。図6は、変形されたコイル21が、スロット15,16に挿入された状態を示す図である。挿入作業を続けて、コイル21を構成する巻線がスロット15,16に配置されると、変形をさせていた外力がなくなるので、巻線の弾性によって変形が元に戻り、ティース14には変形前の形状でコイル20が配置される。
【0036】
図7は、図5の状態における拡大図で、挿入されるべき最後のティース14にコイル20が配置される前におけるティース13,14とインシュレータ30とコイル20の関係を示す図である。ここでは、ティース14にインシュレータ30が挿入された状態が示される。また、ティース13にインシュレータ30を介してコイル20が配置されたときのインシュレータ30の側壁面18Rのコイル接触面34Rとテーパ面36Rとコイル内周側面26Rの関係が示される。
【0037】
図7の右側部分を用いて、ティース14に挿入されたインシュレータ30を説明する。ティース14の側壁面18Lには、インシュレータ30の側壁面32Lが接触し、ティース14の側壁面18Rには、インシュレータ30の側壁面32Rが接触して配置される。インシュレータ30の側壁面32Lのスロット15側には、R方向に沿って外径側から内径側に向かって、コイル接触面34Lとテーパ面36Lが交互に設けられる。すなわち、外径側から内径側に向かって、コイル接触面34L、テーパ面36L、コイル接触面34L、テーパ面36L、コイル接触面34L、テーパ面36L、コイル接触面34L、テーパ面36L、コイル接触面34Lの順に配置される。
【0038】
同様に、インシュレータ30の側壁面32Rのスロット16側にも、R方向に沿って外径側から内径側に向かって、コイル接触面34Lとテーパ面36Lが交互に設けられる。すなわち、外径側から内径側に向かって、コイル接触面34R、テーパ面36R、コイル接触面34R、テーパ面36R、コイル接触面34R、テーパ面36R、コイル接触面34R、テーパ面36R、コイル接触面34Rの順に配置される。
【0039】
このように、インシュレータ30の側壁面32L、32Rにおいて、端部からR方向に沿った同じ位置には、共にコイル接触面34L,34Rが設けられるか、または共にテーパ面36L,36Rが設けられる。
【0040】
次に、図7の左側の部分を用いて、ティース13にインシュレータ30を介してコイル20が挿入されたときについて説明する。インシュレータ30にコイル20が挿入された状態では、コイル内周側面26Rは、インシュレータ30のコイル接触面34Rに接触しているがテーパ面36Rには接触せず離間している。
【0041】
同じスロット15において互いに向かい合う2つのインシュレータ30についてみると、ティース13の側壁面32Rのテーパ面36Rは、ティース14の側壁面32Lのコイル接触面34Lと、互いに平行関係P1にある。この平行関係P1は、ティース13のR方向に沿った中心線C−C’(図示していない)と平行である。
【0042】
また、ティース1の側壁面32Lテーパ面3Lは、ティース1に配置されたコイル20のコイル外周側面27Rと平行関係P2にある。図7では図示を省略しているが、ティース13の側壁面32Rテーパ面3Rも、ティース14に配置されたコイル20のコイル外周側面27Lと平行関係にある。この平行関係P2は、図6において、変形されたコイル21がティース14に配置されるときの挿入性改善のために設定されたものである。
【0043】
ティース1に配置されたコイル20のコイル外周側面27Rは、ティース13に配置されたコイル20のコイル内周側面26Rと平行関係P3にあり、ティース13に配置されたコイル20のコイル内周側面26Rは、ティース13の側壁面32Rのコイル接触面34Rに接触して配置される。平行関係P3は平行関係P2と平行関係にある。したがって、平行関係P2は、ティース13の側壁面32Rのコイル接触面34Rと、ティース14の側壁面32Lのテーパ面36Lとが平行であることを示す。
【0044】
これらの関係について図7を用いて整理すると、ティース13の側壁面32Rテーパ面3Rと、ティース14の側壁面32Lのコイル接触面34Lとは平行関係P1にある。また、ティース13の側壁面32Rコイル接触面3Rと、ティース14の側壁面32Lテーパ面3Lとは平行関係P4にある。したがって、平行関係P1に対する平行関係P4の間の傾斜角度θ0は、隣接するティース13,14の中心線C−C’の間の角度と同じとなる。
【0045】
すなわち、インシュレータ30は、コイル内周側面26L,26Rと接触するコイル接触面34L,34Rを有し、また、同じスロット15,16に配置される他の集中巻のコイル外周側面27L,27Rに平行で、コイル接触面34L,34Rに対し傾斜角度θ0で傾斜するテーパ面36L,36Rを有する。
【0046】
かかる回転電機ステータ10の作用効果を図8図9を用いて説明する。図8図9は、ステータコア11の1つのスロット15において向かい合って隣接するティース13,14に、それぞれコイル20を挿入するときのコイル挿入性を比較したものである。図8は、本発明に係るインシュレータ30を用いた場合を示す図で、図9は、従来技術の段付きインシュレータ31を用いた場合を示す図である。これらの図において、ティース13にはすでにコイル20が配置済みである。ティース14については、これから図5,6に示す手順で、インシュレータ31またはインシュレータ30を介して、スロット15,16にコイル21が挿入される。
【0047】
図8では、ティース13,14に、それぞれ本発明に係るインシュレータ30が配置されている。本発明に係るインシュレータ30は、R方向に沿って、コイル接触面34L,34Rの間をテーパ面36L,36Rで接続した構造となっている。なお、インシュレータ30の最小厚さは、絶縁性能を確保することができるd0に設定されている。また、テーパ面36L,36Rの部分はインシュレータ30の厚さが薄くなっているが、コイル内周側面26Lはテーパ面36Lから離間しているので、インシュレータの絶縁性能が低下することがない。
【0048】
ここで、ティース14についてインシュレータ30を介してスロット15,16にコイル20を挿入すると、インシュレータ30には、R方向に沿ってコイル接触面34L,34Rに続いてテーパ面36L,36Rが設けられていて、図8で説明したように、ティース14のそのテーパ面36Lは、ティース13に配置されるコイル20のコイル外周側面27Rに平行である。したがって、ティース14に変形されたコイル21を配置するために、コイル21をスロット15の内径側から外径側に向かって押し込んでも、インシュレータ30には直角部を有する段差がなく、テーパ面36Lに沿ってコイル21を滑らかに移動させることができる。また、テーパ面36Lに沿ってコイル21を移動させるときに、隣り合うコイル20の側にコイル21が寄せられるが、テーパ面36Lは、コイル20のコイル外周側面27Rに平行であるので、隣り合うコイル20との干渉も生じない。
【0049】
図9において、ティース13,14には、それぞれ従来技術のインシュレータ31が配置されている。従来技術のインシュレータ31は、本発明に係るインシュレータ30と異なり、テーパ面36L,36Rを備えず、コイル接触面34L,34Rのみで段付き構造が構成されている。例えば、ティース14に配置されるインシュレータ31は、スロット15において、複数のコイル接触面34Lの間には直角部の段差が存在する。なお、インシュレータ31の最小厚さd0は、絶縁性能を確保できる厚さに設定されている。
【0050】
ここで、変形されたコイル21をティース14にティース14に配置するために、コイル21をスロット15の内径側から外径側に向かって押し込むと、インシュレータ31の直角部を有する段差のところで、コイル21のコイル内周側面26Lの角部が干渉することが生じる。図9では、その様子を干渉状態I2として示した。したがって、この干渉状態I2が生じないように、コイル21の配置作業を注意深く行うことが必要である。また、干渉状態I2が生じないように注意しても、直角部を有する段差のところで、段差の大きさの分だけ隣り合うコイル20の側にコイル21が寄せられるので、隣り合うコイルとの干渉も生じ得る。このように、従来技術では、コイル21の配置に注意が必要で、そのためにコイル21の挿入作業性が低下する。図8の構造では、テーパ面36Lが設けられるので、このようなことがないので、図9の従来技術に比べ、コイル21の挿入作業性が向上する。
【符号の説明】
【0051】
10 (回転電機)ステータ、11 ステータコア、12 ヨーク部、13,14 ティース、15,16 スロット、18L,18R (ティースの)側壁面、20,21 (集中巻の)コイル、22 内周巻線、24 外周巻線、26L,26R コイル内周側面、27L,27R コイル外周側面、30,31 インシュレータ、32C フランジ、32L,32R (インシュレータの)側壁面、34L,34R コイル接触面、36L,36R テーパ面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9