特許第6276086号(P6276086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6276086-有機ELパネルを備える鏡装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6276086
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】有機ELパネルを備える鏡装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/26 20060101AFI20180129BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20180129BHJP
   H05B 33/06 20060101ALI20180129BHJP
   H05B 33/04 20060101ALI20180129BHJP
   H05B 33/22 20060101ALI20180129BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20180129BHJP
   H05B 33/24 20060101ALI20180129BHJP
   G02B 5/08 20060101ALI20180129BHJP
   A47G 1/00 20060101ALI20180129BHJP
   F21V 33/00 20060101ALI20180129BHJP
   F21W 131/302 20060101ALN20180129BHJP
   F21Y 115/20 20160101ALN20180129BHJP
【FI】
   H05B33/26 Z
   H05B33/14 A
   H05B33/06
   H05B33/04
   H05B33/22 Z
   H05B33/10
   H05B33/24
   G02B5/08 A
   A47G1/00 F
   A47G1/00 Z
   F21V33/00 130
   F21W131:302
   F21Y115:20
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-66940(P2014-66940)
(22)【出願日】2014年3月27日
(65)【公開番号】特開2015-191736(P2015-191736A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2017年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】林 克彦
(72)【発明者】
【氏名】松田 国治
【審査官】 辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−192314(JP,A)
【文献】 特開2005−332616(JP,A)
【文献】 特開2005−216712(JP,A)
【文献】 特開2006−011043(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0049640(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0299472(US,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2010−0090448(KR,A)
【文献】 中国特許出願公開第103035667(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/26
A47G 1/00
F21V 33/00
G02B 5/08
H01L 51/50
H05B 33/04
H05B 33/06
H05B 33/10
H05B 33/22
H05B 33/24
F21W 131/302
F21Y 115/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明ガラス板の一方の主面上に、有機ELパネルであって対向する2つの電極層間に挟持された発光可能な有機化合物を含有する発光層を含む機能層を備える有機ELパネルを備え、かつ、他方の主面からみて非発光の鏡領域と、該発光可能な鏡領域と、を含む鏡装置であって、
該鏡装置の鏡面を形成する鏡金属層が、該一方の主面上に形成されてなり該非発光鏡領域に相当する鏡非発光金属層と、一方の該電極層であり該発光可能鏡領域に相当する鏡発光金属電極層と、を含み、
該鏡非発光金属層と該鏡発光金属電極層とが、該他方の主面からみて重なり合う重畳領域を有し、かつ、
該重畳領域において、厚みが1μm以上、10μm以下の薄膜層であって、該鏡非発光金属層側から該鏡発光金属電極層に向かって順に、他方の該電極層である透明電極層、及び該機能層を含む薄膜層のみを、該有機ELパネルの一部として含む鏡装置。
【請求項2】
前記有機ELパネルが、絶縁基板の他方の主面上に形成された、前記鏡発光金属電極層、前記機能層、及び前記透明電極層を含み、かつ、
該絶縁基板の一方の主面上に、前記鏡発光金属電極層と電気接続された裏面金属層を備える、請求項1に記載の鏡装置。
【請求項3】
前記有機ELパネルが、前記絶縁基板の他方の主面上に形成され、前記他方の主面からみて前記鏡非発光金属層に覆われた金属パッド層であって、
前記透明電極層と電気接続された金属パッド層を備える、請求項2に記載の鏡装置。
【請求項4】
前記金属パッド層が、前記鏡非発光金属層と電気接続されてなる、請求項3に記載の鏡
装置。
【請求項5】
前記薄膜層が、前記鏡非発光金属層と接する、透明絶縁封止層を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の鏡装置。
【請求項6】
前記透明ガラス板と前記有機ELパネルとの間に、透明屈折率調整樹脂層を備える、請求項1〜5のいずれかに記載の鏡装置。
【請求項7】
少なくとも、前記鏡非発光金属層、及び前記裏面金属層に接する熱硬化性樹脂封止壁を備える、請求項に記載の鏡装置。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の鏡装置の製造方法であって、
シャドーマスク1を用いて前記機能層を形成する工程、及び、
シャドーマスク1とは異なるシャドーマスク2を用いて、前記機能層の露出面の全面を覆おうように、前記透明電極層を形成する工程、を含む、鏡装置の製造方法。
【請求項9】
請求項5に記載の鏡装置の製造方法であって、
前記透明絶縁封止層を形成した後、その一部をリフトオフする工程を含む、鏡装置の製
造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELパネルを備える鏡装置に関し、特に、鏡発光領域と鏡非発光領域の境界が目立たない連続した鏡領域を備える鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、白熱灯や蛍光灯に変わる照明光源として有機EL光源が注目され、多くの研究がなされている。また、テレビに代表されるディスプレイ部材においても液晶方式やプラズマ方式に変わる方式として有機EL方式が注目されている。
【0003】
ここで有機EL光源は、ガラス基板や透明樹脂フィルム等の基材に、有機EL素子を積層したものである。また、有機EL素子は、一方又は双方が透光性を有する2つの電極を対向させ、この電極の間に有機化合物からなる発光層を積層したものである。有機EL素子は、電気的に励起された電子と正孔との再結合のエネルギーによって発光する。有機EL光源は、自発光デバイスであるため、ディスプレイ材料として使用すると高コントラストの画像を得ることができる。また、発光層の材料を適宜選択することにより、種々の波長の光を発光することができる。また白熱灯や蛍光灯に比べて厚さが極めて薄く、且つ面上に発光するので、設置場所の制約が少ない。
【0004】
有機EL光源の代表的な層構成は、ボトムエミッション型と称される構成であり、一般に、ガラス基板に、透明電極層と、機能層と、裏面電極層が積層され、これらが封止部によって封止されたものである。ここで、機能層は、複数の有機化合物を含む薄膜が積層されたものである。代表的な機能層の構成は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、ブロック層、電荷発生層等を含む構成であり、この中で、発光に寄与する発光層が必須の構成である。このような層構成の中で、対向する電極層及びこれに挟持された機能層について、これらの層の重畳部分の両電極層を含む部分が有機EL素子であり、両電極層間への電圧の印加により、発光層が発光する。
【0005】
このような有機EL光源の応用製品として、特許文献1は、暗い場所で鏡を使って対象物を観察する場合に、新たに照明を用意する必要がないようにするために、鏡に極めて薄くて、かさばらない、照明用EL素子を内蔵することによって対象物を明るく照らし容易に対象物を鏡で観察できるようにした携帯や設置が便利なEL照明内蔵の鏡装置として、超薄型電界発光素子である有機EL素子を用いて、その有機EL装置の一部として、ガラスまたはプラスチック製のその基板の一部に非発光部分を形成し、その部分より裏側の有機EL素子の鏡面状陰極部分が透けて見えるような構造(特許文献1の図1図2)とした鏡装置や、通常の鏡の一部を透明とし、その裏面に接するように、ボトムエミッション型の有機EL光源のガラス基板を貼りつけた構造(特許文献1の図3)の鏡装置を提案している。
【0006】
また、特許文献2は、使用者に眩しさを感じさせることなく顔に影をでき難くするとともに、使用者が鏡本体に近づいた場合でも十分な明るさで顔を照らすことのできる鏡装置として、少なくとも周縁部がハーフミラーとして構成された鏡本体と、この鏡本体の周縁部の裏側に、外側から内側に向かって複数列に並んで配設される発光パネルと、鏡本体2と使用者との間の距離を計測可能なセンサと、このセンサの計測した距離に応じて、発光パネルの列ごとの点灯または消灯を行う制御部7とを備える鏡装置であって、ハーフミラーとするために薄くした周縁部の金属層に接して、ボトムエミッション型の有機ELパネル(BEP)を備える鏡装置を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−329418号公報
【特許文献2】特開2008−018058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような先行技術における問題点を解消するために為されたものであり、大面積鏡の有する均一性・簡明性の特徴を活かすことができ、明朗な空間が実現できる壁部材としての有機ELパネルを備える鏡装置を実現することを目的とする。具体的には、非発光鏡領域と発光可能鏡領域の境界が目立たない連続した鏡領域を備えることで良好な外観を有し、かつ、大面積の鏡装置として安価・簡便に製造可能な鏡装置を提供することを目的としている。
【0009】
このような本発明の目的に対して、特許文献1の有機EL装置の基板の一部にその鏡面状陰極部分が透けて見えるようにした鏡装置は、BEPの一般的特性である、そのままの状態で、BEPの陰極金属層が鏡面となることを利用するものであるが、鏡面に視認可能な境界が存在しない大面積鏡とするためには、BEP自体を大面積とする必要があり、製造コストの面で現実的でない。
【0010】
また、特許文献1の通常の鏡の一部を透明としそこにBEPを貼りつけた鏡装置は、BEPの透明基板は、少なくとも10μmを超える厚みがあるため、周囲の非発光鏡領域とBEPによる発光可能鏡領域の境界が目立たない連続した鏡領域とすることができないという問題がある。
【0011】
さらに、特許文献2の鏡装置は、特許文献1の通常の鏡の一部を透明としそこにBEPを貼りつけた鏡装置において、透明とした部分をハーフミラーをした鏡装置であるが、鏡面における境界発生の問題が、ハーフミラーの使用により一定程度軽減されることが期待できるものの完全ではなく、また、ハーフミラー部には2層の金属層が反射層として存在するため、鏡面に映る像がぼやけた像となる懸念があり、また、そもそもハーフミラーを介してBEPが外部に光を放射するため、有機EL素子からの発光がハーフミラーで邪魔されて外部に放射されることとなり、発光ロスが大きいという問題がある。
【0012】
以上のことから、大面積鏡の均一性・簡明性を活用し、かつ、明朗な空間が実現できる壁部材を、現実的に提供する技術が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の状況に鑑み、本発明者は、いわゆるトップエミッション有機ELパネル(TEP)では、一般に、発光面に物理的又は化学的に成膜した薄膜層のみが形成されている点に注目した。すなわち、透明ガラス板に鏡金属層を形成した鏡と同様な構成を、透明ガラス板にTEPをその発光面を透明ガラス板に対向させて載置することで実現すること、即ち、TEPの金属電極層に、鏡装置におけるガラス板上の鏡金属層と同様の機能を持たせることを試みた。そして、このような構成とすることで、上述のように発光面に薄膜層しか存在せず、有機EL素子への水分等の侵入を十分に防止できず、ダークスポット(DS)の発生や成長を十分に防止できないないというTEPの一般的な弱点を、水蒸気バリア性が高い透明ガラス板で補強することができるのではないかと考えた。
【0014】
このような考えのもと導き出された本発明は、透明ガラス板10の一方の主面上に、有機ELパネル13であって対向する2つの電極層間に挟持された発光可能な有機化合物を含有する発光層を含む機能層22を備える有機ELパネル13を備え、かつ、他方の主面からみて非発光の鏡領域3と、該発光可能な鏡領域4と、を含む鏡装置1であって、
該鏡装置1の鏡面を形成する鏡金属層2が、該一方の主面上に形成されてなり該非発光鏡領域3に相当する鏡非発光金属層11と、一方の該電極層21であり該発光可能鏡領域4に相当する鏡発光金属電極層21と、を含み、
該鏡非発光金属層11と該鏡発光金属電極層21とが、該他方の主面からみて重なり合う重畳領域5を有し、かつ、
該重畳領域5において、厚みが1μm以上、10μm以下の薄膜層6であって、該鏡非発光金属層側11から該鏡発光金属電極層21に向かって順に、他方の該電極層23である透明電極層23、及び該機能層22を含む薄膜層6のみを、該有機ELパネル13の一部として含む鏡装置1である。
【0015】
上記、及び以下の記載において、説明の為に、図1における符号を付して記載するが、この符号の記載により、本発明が何らの制限を受けるものではない。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態における鏡装置1の、有機ELパネル13配置部における、断面概念図である。
【0017】
本発明の構成によれば、非発光鏡領域3と発光可能鏡領域4の境界が目立たない連続した鏡領域を備えるため良好な外観を有し、かつ、有機ELパネル13からの発光をロスなく放射可能な、大面積の発光鏡付きガラス板である本発明の鏡装置1を、安価・簡便に提供できる。
【0018】
また、本発明の鏡装置1は、有機ELパネル13への給電領域を非発光鏡領域3で覆い隠している。そのため、給電領域内の配線等の内部構造が外観に現れない。それ故に、良好な外観を得ることができる。
【0019】
さらに、消灯時において、非発光鏡領域3との境界部位が目立たないので、発光可能鏡領域4と一体的な鏡面を形成するため、統一性が高く、見栄えがよい。
【0020】
また、前記有機ELパネル13は、絶縁基板20の他方の主面上に形成された、前記鏡発光金属電極層21、前記機能層22、及び前記透明電極層23を含み、かつ、
該絶縁基板20の一方の主面上に、前記鏡発光金属電極層21と電気接続された裏面金属層15を備えることが好ましく、外部から鏡金発光金属電極層21に、確実、かつ、簡便に給電できる構造となる。
【0021】
TEPにおいては、その発光面に発光領域と隣接して給電領域を設けることが一般的であるが、このような構造のTEPでは、その鏡発光金属電極層21を透明ガラス板10に、本発明に係る薄膜層6のみを介して載置することは困難であり、本発明に係る境界の連続性効果を得ることは困難であり、また、本発明に係るTEPへの水分侵入抑制効果を得ることも簡単ではなくなる。
【0022】
これに対して、本発明では、本発明に係る裏面金属層15を有し、これが、鏡発光金属電極層21と電気接続されている、具体的には、絶縁基板20面内のスルー正孔内の導電材料、好ましくは、裏面金属層15材料、又は、鏡発光金属電極層21材料を介して電気接続されている、ので、本発明に係る境界の連続性効果や本発明に係るTEPへの水分侵入抑制効果を容易に得ることができる。
【0023】
また、本発明の構成によれば、鏡発光金属電極層21に外部から給電するための配線等を新たに設ける必要がない。
【0024】
また、前記有機ELパネル13は、前記絶縁基板20の他方の主面上に形成され、前記他方の主面からみて前記鏡非発光金属層11に覆われた金属パッド層24であって、
前記透明電極層23と電気接続された金属パッド層24を備えることが好ましく、外部から透明電極層23に、確実、かつ、簡便に給電できる構造となる。
【0025】
より好ましくは、絶縁基板20面内において、機能層22を形成する全領域を覆い、かつ、金属パッド層24の面内にのみその面内端部が形成されるように透明電極層23を形成することであり、透明電極層23の形成と同時に、その金属パッド層24への電気接続が実現されると同時に、有機EL素子30への水分の侵入を阻止し易い構造となる。
【0026】
また、前記金属パッド層24は、前記鏡非発光金属層11と電気接続されいることが好ましく、外部から透明電極層23に、確実、かつ、簡便に給電できる構造となる。すなわち、このように本発明に係る有機ELパネル13に、透明ガラス板10に形成した鏡金属層2である鏡非発光金属層11を介して、外部から給電することで、パネル給電用の配線を別に設ける必要が無くなり、特に、大面積の鏡装置とする場合に安価、簡便であり、また、パネルだけでなく、非発光鏡領域3となる鏡非発光金属層11にも通電することとなるので、水蒸気付着による曇りを防止する機能を、その鏡面全体に付与することが可能となる。また、このような本発明の構成によれば、鏡非発光金属層11は、パネルに関係する給電領域を隠すだけではなく、給電部材の一部としても使用可能となっている。このような前記金属パッド層24を、前記鏡非発光金属層11と電気接続するための導電性材料部17としては、銀ペースト等の導電性ペーストを用いることができる。
【0027】
また、前記薄膜層6は、前記鏡非発光金属層11と接する、透明絶縁封止層7を含むことが好ましく、さらに有機EL素子30への水分の侵入が防止される構造とすることができる。
【0028】
また、前記透明ガラス板10と前記有機ELパネル13との間に、透明屈折率調整樹脂層12を備える鏡装置とすることが好ましく、さらに境界が目立たないようにできると共に、発光ロスが防止することもできる。
【0029】
また、少なくとも、前記鏡非発光金属層11、及び前記裏面金属層15に接する熱硬化性樹脂封止壁16を備える鏡装置1とすることが好ましく、有機EL素子30への水分侵入を、さらに効果的に阻止可能となる。このような熱硬化性樹脂封止壁16は、水分の侵入をより効果的に阻止しつつ、装置全体の電気特性の確認後に通電経路を保護することで、製品歩留りを確保しつつ製造工程を簡便にする観点から、導電性材料部17により有機ELパネル13を透明ガラス板10に載置して接着した後に、その周囲に熱硬化性樹脂を塗布・硬化し形成し、有機EL素子30側から、導電性材料部17および金属パッド層24の外側に、これらに接して形成されていることが好ましい。
【0030】
さらに、本発明は、本発明の鏡装置1の製造方法であって、
シャドーマスク1を用いて前記機能層22を形成する工程、及び、
シャドーマスク1とは異なるシャドーマスク2を用いて、前記機能層22の露出面の全面を覆おうように、前記透明電極層23を形成する工程、を含む、鏡装置の製造方法に関する。
【0031】
本発明の構成によれば、透明電極層23の存在により、有機EL素子30への水分の侵入が防止されると共に、透明電極層23への給電経路が透明電極層23の形成と同時にその材料により確保される。
【0032】
また、前記透明絶縁封止層7を含む鏡装置1を製造する場合には、
透明絶縁封止層7を形成した後、その一部をリフトオフする工程を含む製造方法とすることが好ましく、より好ましくは、各層形成後の絶縁基板20の全面に透明絶縁封止層7を形成した後、透明電極層23の外側においてリフトオフすることであり、さらに好ましくは、金属パッド層24の表面が露出するようにリフトオフすることであり、特に好ましくは、絶縁基板20の全周端部においてリフトオフすることであり、さらに有機EL素子30への水分の侵入が防止可能となると共に、鏡非発光金属層11から透明電極層23への給電経路が導電性材料部17により確保し易くなる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の効果は、大面積の鏡に、鏡面の連続性や均一性を維持しつつ、安価・簡便に鏡発光領域を形成することができることであり、その発光ロスを抑えつつ有機ELパネルを大面積鏡に適用可能となる。すなわち、鏡発光領域と鏡非発光領域の境界が目立たない連続した鏡領域を備え、かつ、有機ELパネルからの発光をロスなく放射可能な大面積の発光鏡付きガラス板を安価・簡便に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の一実施形態における鏡装置1の、有機ELパネル13配置部における、断面概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、当業者の技術常識内で種々変更が可能である。
【0036】
(鏡装置1)
本実施形態の鏡装置1は、図1のように、その他方の主面である図1の上方からみて、非発光の鏡領域3と発光可能な鏡領域4とを含み、透明ガラス板10をその本体とする。
【0037】
鏡装置1の一方の主面、即ち、透明ガラス板10の一方の主面には、他方の主面からみて鏡となるように、その鏡面を形成する鏡金属層2が配されており、この鏡金属層2が、前記非発光鏡領域3に対応して透明ガラス板10に形成された鏡非発光金属層11と、前記発光可能鏡領域4に対応して有機ELパネル13の一部として形成された鏡発光金属電極層21とを含むことが本発明の特徴の一つである。
【0038】
すなわち、鏡装置1はその一方の主面上に、有機ELパネル13を光源として含み、図1のように、少なくともその一方の主面の一部に鏡非発光金属層11が形成された透明ガラス板10と、鏡発光金属電極層21を含む少なくとも1枚の有機ELパネル13とによって形成されている。
【0039】
有機ELパネル13を、透明ガラス板10の鏡非発光金属層11が形成されていない領域である発光可能鏡領域4に、その発光面である透明電極層23側が透明ガラス板10に対向するように載置し、接着することで、鏡装置1は形成される。この際、鏡非発光金属層11と鏡発光金属電極層21とが、21他方の主面からみて重なり合う重畳領域5を有するようにすることで、非発光鏡領域3と発光可能鏡領域4とが連続して鏡領域を形成するようにしていることが本発明の特徴の一つである。鏡装置1の他方の主面からみて、発光可能鏡領域4の周囲の一部のみに重畳領域5を設けて、その部分のみ連続した鏡となるようにすることもできるが、発光可能鏡領域4の全周に亘って重畳領域5を設けることで、発光可能鏡領域4全体がその周囲の非発光鏡領域3と連続した鏡となるようにすることが好ましい。
【0040】
有機ELパネル13の透明ガラス板10への接着は、これらの鏡装置部材の間に接着性材料を挟み込んで実施することで可能である。その方法としては、鏡装置部材である、後述する透明屈折率調整樹脂層12、後述する導電性材料部17、及び後述する熱硬化性樹脂封止壁16からなる群から選ばれる1種以上を、前記接着性材料とすることで実施することが好ましい。より好ましくは、以下の(1)から(3)の3つの方法のいずれかを実施することであり、特に好ましくは、これらを組み合わせて実施することであり、これら全部を実施することが最も好ましい。
(1)粘着性材料とした透明屈折率調整樹脂層12となる樹脂液を、透明ガラス板10の発光可能鏡領域4の中央に、当該領域に確実に万遍なくいきわたるようにしつつ、その周囲の非発光鏡領域3になるべく広がらない最低限の量滴下して、さらに好ましくは、パネルとガラス板との間への気泡の混入を防止しながら仮止めした後、接着すること
(2)有機溶剤の蒸発により乾燥固化して一定の接着性を有しつつ多孔性の導電性被膜が形成可能なペーストとして導電性材料部17となる導電性ペーストを、有機ELパネル13の給電部に塗布して接着すること、
(3)接着性材料とした熱硬化性樹脂封止壁16となる硬化性樹脂の硬化前の樹脂液を、ガラスにパネルを載置した状態で、有機ELパネル13の非発光面の周囲、さらに好ましくはその全周を含み、その周囲の透明ガラス板10の非鏡面側に亘って塗布・硬化して接着すること
このような本発明の鏡装置1は、複数の有機ELパネル13を、透明ガラス板10の面内に平面的に分布して載置し、すなわち、前記鏡非発光金属層11を、2以上の有機ELパネル13に跨がって設けることで、大面積の、複数の発光可能鏡領域4を有する鏡装置1とした場合に、特に有効であり、鏡非発光金属層11は2以上の有機ELパネル13に跨がって配されているため、共通の鏡非発光金属層11によって隣接する複数の有機ELパネル13の給電領域を覆い隠せるため、部品点数を少なくすることができる。
【0041】
(鏡ガラス板)
本発明に係る鏡非発光金属層11が形成された透明ガラス板10は、その発光可能鏡領域4に相当する部分の少なくとも一部、好ましくはその領域に一致する部分に、完全な鏡面とすることができる程度の鏡金属層2が形成されていないことを除いては、通常のガラス鏡と同じものである。本発明に係る有機ELパネル13が放射する光を、ロスなく鏡装置1から放射せしめる観点からは、この領域が透明ガラス板10が本来有する透明性を有することが好ましい。
【0042】
今後、この本発明に係る「鏡非発光金属層11が形成された透明ガラス板10」のことを「鏡ガラス板」と記載することとする。すなわち、本発明に係る「鏡ガラス板」には、その非発光鏡領域3に相当する部分にのみ、完全な鏡面とすることができる程度の鏡金属層2が、鏡非発光金属層11として、形成されている。
【0043】
非発光鏡領域3と、消灯時の発光可能鏡領域4との鏡面外観、特に明るさ、をほぼ同等のものとするための調整をするために、また、鏡ガラス板の鏡面の長期信頼性を確保するために、透明ガラス板10と、鏡非発光金属層11との間には、透明調整層19を設けることが好ましく、その材料としては、透明な材料を用いることができる。
【0044】
(透明ガラス板10)
本発明に係る透明ガラス板10は、その一方の主面上に鏡非発光金属層11が形成されて、本発明に係る鏡装置1の本体となる板である。本発明の効果を十部に奏さしめる観点からは、大面積のガラス板であることが好ましく、反射率が高い明るい鏡面の鏡装置1とする観点からは、可視光領域で吸収が無いガラス板であることが好ましい。
【0045】
そのガラス材料としては、目的に応じていかなるガラス材料を用いることもできるが、大面積かつ低下コストの鏡装置とする観点からは、白板ガラス、青板ガラス等を用いることができ、より好ましくは大面積の青板ガラスを用いることである。
【0046】
一般に有機EL素子は、その基板からのアルカリ成分の侵入により劣化する虞があり、関係する部材として、コンタミ成分の素子への悪影響が発生しない、高価な高品質部材を用いる必要がある。
【0047】
これに対して本発明の鏡装置1は、有機EL素子30を含むものの、その基板20と、鏡装置1の透明ガラス板10とは、別物であり、透明ガラス板10の材料としてアルカリガラスを用いることで低コストかつ大面積としつつ、有機EL素子30に関係する部材としては、その発光可能領域4の占める面積が小さければ、高品質部材を用いても高コストとならない。このことが本発明の特徴の一つである。
【0048】
同様の理由で、本発明に係る透明ガラス板10として、化学強化ガラスを用いることができ、大面積かつ高強度の鏡装置とする観点から好ましい。勿論、通常の熱強化ガラスを用いることも好ましい。
【0049】
(鏡非発光金属層11)
鏡非発光金属層11の材料としては、反射率や導電性が高い銀又はアルミニウムでが好ましく、より好ましくは銀である。
【0050】
(有機ELパネル13)
本発明に係る有機ELパネル13は、例えば、図1に示すように、絶縁基板20の他方の主面上に、一方の電極層として金属電極層21を形成し、その上に機能層22として電子注入層、電子輸送層、発光層,正孔輸送層,正孔注入層を形成し、その上に他方の電極層として透明電極層23を形成し、このようにすることで有機EL素子30を含む構造を形成し、さらにその上に透明絶縁封止層7を設けて完成させたものである。絶縁基板20の一方の主面上に裏面金属層15を備えていたり、絶縁基板20の他方の主面上の有機EL素子30が形成されていない領域に金属パッド層24を備えていたり、することができる。
【0051】
(鏡発光金属電極層21)
鏡発光金属電極層21、特に少なくともその内の機能層22と接する鏡機能層21−2、の材料としては、前記鏡非発光金属層11と同一の材料とすることが、鏡金属層2全体の反射率を統一し、本発明に係る境界の連続性効果を奏さしめる観点から好ましく、また、点灯等において有機EL素子30に電子を供給する陰極(カソード)であることが、特性の高い素子を形成する観点から好ましく、銀で形成されていることがより好ましい。
【0052】
鏡発光金属電極層21、特に少なくともその内の機能層22と接する鏡機能層21−2は、真空蒸着やスパッタ等の真空中で形成された薄膜であることが好ましく、表面を容易に鏡面とすることができる。
【0053】
(機能層22)
機能層35は、透明電極層23と鏡発光金属電極層21との間に設けられ、少なくとも一層の有機化合物を含む発光可能な発光層を備えた層である。機能層22は、主に有機化合物からなる複数の層から構成されている。この機能層22は、一般的な有機EL装置に用いられている低分子系色素材料や、共役系高分子材料などの公知のもので形成することができる。また、この機能層22は、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層、電子注入層などの複数の層からなる積層多層構造であることが一般的である。
【0054】
一般に、機能層22は、消灯時において、透明あるいはほぼ透明であり、本発明に係る機能層22は透明である。
【0055】
機能層22は、その一部である正孔注入層として、かつ、透明電極層23に接する層として、酸化モリブデン(MoO)を含む層を備えることが好ましく、その形成後に形成される透明電極層23形成時の素子へのダメージを軽減することができある。
【0056】
(透明電極層23)
透明電極層23の素材は、透明であって、導電性を有していれば、特に限定されるものではなく、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、酸化錫(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)等の透明導電性酸化物などが採用される。透明電極層23は、点灯等において有機EL素子30に正孔を供給する陽極(アノード)であることが、特性の高い素子を形成する観点から好ましく、ITOで形成されていることがより好ましい。
【0057】
透明電極層23は、その透明性を維持しつつその層内での電圧降下の発生を防止する観点から、その中に、超薄膜金属層や金属細線を備えるようにすることができる。
【0058】
(透明絶縁封止層7)
透明絶縁封止層7の材質は、透明性、絶縁性及び封止性を有していれば、特に限定されるものではないが、酸素、炭素、窒素の中から選ばれた1種類以上の元素と、ケイ素元素とからなるシリコン合金により形成されていることが好ましく、Si−O、Si−N、Si−H、N−H等の結合を含む窒化珪素や酸化珪素、及び両者の中間固溶体である酸窒化珪素であることが特に好ましい。
【0059】
また、透明絶縁封止層7としては、封止性能を高める観点から、多層構造の絶縁封止層を使用することが好ましい。30側から乾式法によって形成される第1透明絶縁封止層と、湿式法によって形成される第2透明絶縁封止層がこの順に積層されて形成されていることが好ましい。
【0060】
第1透明絶縁封止層は、化学気相蒸着によって形成される層であり、さらに詳細にはシランガスやアンモニアガス等を原料としてプラズマCVD法で成膜される層とすることが好ましい。このような第1透明絶縁封止層は、水分含量が少ない雰囲気下で実施される有機EL素子30の形成工程に引き続き成膜できる。
【0061】
第2透明絶縁封止層は、液体状又はゲル状の原料を塗布した後、化学反応を介して成膜される層である。第2透明絶縁封止層は、より詳細には、緻密性を有したシリカを素材としていることが好ましい。また、第2透明絶縁封止層はポリシラザン誘導体を原料とするのが好ましい。ポリシラザン誘導体を用いてシリカ転化によって第2透明絶縁封止層を成膜した場合、シリカ転化時に重量増加を生じ、体積収縮が小さい。また、シリカ膜転化時(固化時)に樹脂の耐え得る温度で十分にしかもクラックを生じ難くすることができる。
【0062】
なお、ここでいうポリシラザン誘導体は、珪素−窒素結合を持つポリマーであり、Si−N、Si−H、N−H等からなるSiO2、Si34、及び両者の中間固溶体SiOxNy等のセラミック前駆体ポリマーである。また、このポリシラザン誘導体は、Siと結合する水素部分が一部アルキル基等で置換された誘導体も含む。
【0063】
ポリシラザン誘導体の中でも特に側鎖が全て水素であるペルヒドロポリシラザンや、珪素と結合する水素部分が一部メチル基に置換された誘導体が好ましい。
【0064】
また、このポリシラザン誘導体は、有機溶媒に溶解した溶液状態で塗布し使用することが好ましい。この溶解する有機溶媒としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類が使用できる。
【0065】
このように、第2透明絶縁封止層は、第1絶縁封止層とは異なる材料を封止層として積層したものであることが好ましく、相互の欠陥を補完することにより、封止性能を高め、経時的な新たなダークスポットの発生を防止したり、発生したダークスポットの拡大化を抑制したりすることができる。
【0066】
絶縁封止層7の平均厚みは、1μmから9μmであることが好ましく、2μmから5μmであることがより好ましい。
【0067】
透明絶縁封止層7の一部を担う第1透明絶縁封止層の厚みは、1μmから5μmであることが好ましく、1μmから2μmであることがより好ましい。
【0068】
また、透明絶縁封止層7の一部を担う第2透明絶縁封止層の厚みは、好ましくは1μmから5μmであることが好ましく、1μmから3μmであることがより好ましい。
【0069】
(TEP基板)
このような本発明に係る有機ELパネル13は、図1に示すような本発明に係るTEP基板に形成されたものであることが好ましい。ここで、本発明にTEP基板とは、その一方の主面上に裏面金属層15を備え、かつ、その他方の主面上の、中央に鏡発光金属電極層21の少なくとも一部を、周囲に金属パッド層24を備える絶縁基板20であって、その面内中央付近に前記裏面金属層15と前記鏡発光金属電極層21の少なくとも一部とを接続するスルーホール25を少なくとも1つ以上有する基板である。
【0070】
ところで、鏡発光金属電極層21の機能層22と接触する表面は、有機EL素子30を高性能の素子とし、かつ、その表面を十分な鏡面とする観点から、nmオーダーで平滑であることが好ましく、また、上述したように、この最表面の鏡機能層21−2は、薄膜として形成されたものであることが好ましい。そして、この鏡機能層21−2の表面の平滑性は、その下地である、鏡発光金属電極層21の内の、鏡基礎層21−2の表面状態に依存することとなる。従って、このような鏡基礎層21−2としては、表面が研磨された金属フィルムや金属板が好ましいこととなる。
【0071】
このような研磨金属表面を含む部材を含む、本発明に係るTEP基板の形成手順は、次のようになる。即ち、この部材の研磨金属表面の裏側にスルーホール25となる貫通孔を有する絶縁基板20を貼り付け、前後してあるいは同時に、この絶縁基板20のこの部材を貼り付ける領域の周囲に金属パッド層24となる金属層を形成する。その後、好ましくは研磨金属表面や金属パッド層24の表面を保護しながら、絶縁基板20のこの部材が貼り付けられていない側の表面に、裏面金属層15を、好ましくは周辺を除いて、形成する手順である。
【0072】
鏡基礎層21−2や裏面金属層15、金属パッド層24の材質は、電気伝導性を有していれば、特に限定されるものではなく、例えば、アルミニウムやSUS、銅、銀、鉄、金、白金などが採用できる。
【0073】
鏡基礎層21−2と金属パッド層24との間には、その底面が絶縁基板20の表面に至る絶縁性材料部29を形成しておくことが、素子の正負極の短絡防止の観点からは好ましく、その材料としては、絶縁性熱硬化性樹脂材料が好ましい。
【符号の説明】
【0074】
1 鏡装置
2 鏡金属層
3 非発光鏡領域
4 発光可能鏡領域
5 重畳領域
6 薄膜層
7 透明絶縁封止層
10 透明ガラス板
11 鏡非発光金属層
12 透明屈折率調整樹脂層
13 有機ELパネル
15 裏面金属層
16 熱硬化性樹脂封止壁
17 導電性材料部
19 透明調整層
20 絶縁基板
21 鏡発光金属電極層(一方の電極層)
22 機能層(発光層含む)
23 透明電極層(他方の電極層)
24 金属パッド層
25 スルー正孔
29 絶縁性材料部
30 有機EL素子(積層体)
図1