(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
低強度部は、金属管を局部で軸線に対して直交する一つの直線の方向をカシメ方向としてカシメを施すことによって形成されていることとする請求項1に記載の土砂崩落検知システム。
光ファイバケーブルが巻回あるいは湾曲して形成された易変位部は、該易変位部を含む一定の平面に対して直角方向で光ファイバケーブルが変位することを抑制して上記易変位部を上記平面内に留める抑制部材が設けられていることとする請求項3に記載の土砂崩落検知システム。
光ファイバケーブルは、土砂が崩落した際に、土砂の荷重を受ける受圧部材が受圧力を低強度部に伝達可能に取り付けられていて、光ファイバケーブルの変形を促進することとする請求項1ないし請求項4のうちの一つに記載の土砂崩落検知システム。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面にもとづき、本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
<第一実施形態>
図1(A)は土砂崩落検知システムとしての本実施形態装置の使用状態を示す図、
図1(B)は光ファイバケーブルを後述の係留部材で支持した状態を示す図である。
図2は本実施形態装置の概要構成図、
図3は
図2装置が有する複数の検知ユニットのうちの一つを光ファイバケーブルとともに示す概要構成図である。
【0021】
本実施形態装置は、駅舎等に設置された監視基地局としての土砂崩落監視装置10を有し、該土砂崩落監視装置10は、多数の検知ユニット11(
図2では4つの検知ユニット11A,11B,11C,11Dのみが示されている)と、これらを制御するとともに検知ユニット11からの出力を判定する制御装置12と、その結果を表示する表示装置13とを有している。上記制御装置12は、列車14に連絡する無線連絡装置15に接続されている。
【0022】
各検知ユニット11A,11B,11C,11Dからは光ファイバケーブル16A,16B,16C,16Dが延出していて、これらの光ファイバケーブル16A,16B,16C,16Dは、好ましい形態として、一つの幹線ケーブル17としてまとめられて、土砂崩落を検知すべき斜面に向け延びている。既述したように、検知ユニット11は多数設けられているので、一つの幹線ケーブル17には、それに対応する数だけの光ファイバケーブル16が挿通されている。
図2に見られるように、一つの幹線ケーブル17は、土砂崩落を監視すべき区域を数百mから数km毎に区分した複数の区間(
図2では、例として、区間1、区間2、区間3、区間4の4つの区間が示されている)に対し、光ファイバケーブル16A,16B,16C,16Dが順次設置するように上記幹線ケーブル17から引き出されて延びている。また、幹線ケーブル17に複数の光ファイバケーブル16を挿通させるのに代えて、例えば、幹線ケーブル17に複数の光ファイバ心線を収容するとともに、光ファイバ心線を金属管に挿通させた光ファイバケーブル16を幹線ケーブル17から各区間に対して分岐させることとしてもよい。
【0023】
上記斜面は、一般に、例えば、
図1(A)に見られるごとく、鉄道線路Pが敷設されている平坦な線路敷設帯域Qに対し、高地側となる一方の側の切土斜面R、そして低地側となる他方の側の盛土斜面Sとが存在している。上記線路敷設帯域Qは、道路となることもある。
【0024】
図1(A)の例では、線路敷設帯域Qの両側、すなわち該線路敷設帯域Qと切土斜面Rとの境界部付近そして盛土斜面Sとの境界部付近に、それぞれ、幹線ケーブル17から延出する光ファイバケーブル16が設置されている。上記線路敷設帯域Qは、その長手方向で、複数の区分、例えば、
図2に見られるように、区間1、区間2、区間3、区間4に区分されている。
図2に見られるように、上記幹線ケーブル17から引き出された光ファイバケーブル16A,16B,16C,16Dは、それぞれの区間、すなわち区間1、区間2、区間3、区間4にて、地面に対して係留部材18により支持されて、上記区間1、区間2、区間3、区間4のそれぞれの範囲にわたり延びている。
【0025】
本実施形態では、上記光ファイバケーブル16A,16B,16C,16Dは、切土斜面R側のみならず、幹線ケーブル17から他の光ファイバケーブル16を引き出して上記区間1,区間2,区間3、区間4に対して、盛土斜面S側にも同様に設けることにより、両斜面のいずれでも土砂崩落を検知できるようになっている。
【0026】
係留部材18は、例えば、
図1(B)に見られるように、光ファイバケーブル16を側方から掛止可能なフック部18Aで該光ファイバケーブル16を長手方向に移動可能な状態で支持しており、杭状をなしていて上記長手方向で間隔をもって複数位置で地面に対して打ち込まれる。該係留部材18は、上記長手方向にて、後述する光ファイバケーブル16の金属管21の低強度部21Aの位置に設けられていることが好ましい。このように係留部材18を低強度部21Aの位置に設けることにより、光ファイバケーブル16が崩落土砂からの荷重を受けた際に、該係留部材18が支点となって低強度部21Aが容易に変形するようになる。なお、係留部材18は、地面に対して光ファイバケーブル16を支持するようになっていればよく、
図1(B)に示される形状のものには限定されない。
【0027】
また、低強度部21Aを光ファイバケーブル16に予め形成しておくことは必須ではなく、金属管21に低強度部21Aが形成されていない光ファイバケーブル16を係留部材18で支持した後に、該係留部材18に支持された位置で金属管21をカシメて低強度部21Aを形成することとしてもよい。係留部材18による光ファイバケーブルの支持の形態としては、例えば、
図1(B)に示される形態の他、係留部材18としてのワイヤやインシュロック等による光ファイバケーブルの捕縛などが挙げられる。上記光ファイバケーブル16A,16B,16C,16Dは、既述のように、一つの幹線ケーブル17としてまとめられているが、駅舎内では、それぞれ対応する検知ユニット11A,11B,11C,11Dに接続されている。
【0028】
各光ファイバケーブル16A,16B,16C,16Dのそれぞれ(各光ファイバケーブルは同一形態なので、
図3では光ファイバケーブル16として、したがって検知ユニットも検知ユニット11として示されている。)は、
図3(A)に示されているように、金属管21内に二本の光ファイバ心線22A,22Bが挿通されていて、光伝送路として一方が往路部をそして他方が復路部をなしている。二つの光ファイバ心線22A,22Bは一端(
図3にて右端)で折返しループ部22Cをなすように、適宜手段により接続されており、他端では、往路部をなす一方の光ファイバ心線22Aが光源部23に接続され、復路部をなす他方の光ファイバ心線22Bが受光部24に接続されている。光ファイバ心線22A,22Bが挿通されている金属管21は一端部でキャップ状または箱状の保護部材25が取り付けられていて、上記折返しループ22Cが保護されている。金属管21内の両光ファイバ心線22A,22Bは、作業の便宜上、一端同士が折返しループをなすようにして接続されているが、長く連続した一つの光ファイバ心線を折り返して往路部と復路部をもつようにしてもよい。本実施形態では、光源部23そして受光部24が一つの検知ユニット11としてまとめられている。該検知ユニット11は、光信号(以下、単に「光」ともいう)の変化程度ではなく、有無(遮断)を検知することとしているので、光の変動量の計測によるOTDRやBOTDRに比し、きわめて簡単な構成で安価となる。
【0029】
上記金属管21は、その長手方向で間隔を持った複数位置に低強度部21Aが形成されている。この低強度部21Aは、金属管21に外力が作用した場合に、他部よりも優先的に変形し易くするため、局部的に強度が低くなるように加工された部位である。例えば、
図3(A)の例では、金属管21の軸線に対して直交する一つの直線(以下、「直径線」ともいう)の方向をカシメ方向として金属管21にカシメ加工(圧潰加工)を施して扁平部を形成することで、強度低下を図っている。勿論のことながら、カシメ加工は、金属管21内の光ファイバ心線22A,22Bに影響を与えないような加工寸法範囲でなされる。低強度部は、上記カシメ加工によらずとも、例えば、該当部分を薄肉とするなど、他の手法も可能である。かかる低強度部21Aが形成された金属管21に、外力として斜面における土砂崩落による土砂からの力を受けると、該金属管21は、光ファイバケーブル16の後述の変位しろ(
図4(A),(B)参照)の範囲で光ファイバケーブルが移動することにより、
図3(B)の状態から
図3(C)の状態へ変形し、特に、低強度部21Aが大きく変形する。金属管21内の光ファイバ心線22A,22Bは、金属管21に比し、強度が大幅に低く、また、脆性を有していることから、容易に折れて断線する。すなわち、上記外力を受けたときに、光ファイバ心線22A,22Bを通っていた光が遮断されるようになっている。
図3(C)では、光ファイバ心線22A,22Bの両方が断線する例を示しているが、光が遮断されるためには、光ファイバ心線22A,22Bの少なくとも一方が断線していればよい。
【0030】
上記金属管21の材料としては、ステンレス鋼、ニッケル合金、銅、チタン、アルミニウム等を用いることができる。また、光ファイバケーブル16は、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ナイロン、ウレタン等で被覆されていたり、金属管21内部にエポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の樹脂や炭化水素系ポリマーの合成油を充填しておくことができる。
【0031】
本実施形態では、光ファイバケーブル16の他端、すなわち、駅舎に設けられた土砂崩落監視装置10に接続される側の端部で、金属管21内の二つの光ファイバ心線22A,22Bのうちの一方の光ファイバ心線22Aが光源部23に、そして他方の光ファイバ心線22Bが受光部24にそれぞれ接続されている。したがって、斜面で土砂崩落が生じていない平常時では、光源部23から発せられた光は往路部としての一方の光ファイバ心線22Aを進行し、一端側の折返しループ部22Cを経て、復路部としての他方の光ファイバ心線22Bに入り受光部24にて受光されている。
【0032】
本実施形態では、光ファイバケーブル16は、低強度部21Aの変形を許容する「変位しろ」をもった長さとなっている。この「変位しろ」とは、直線状態の光ファイバケーブルに曲げ変位を許容するための余裕長さのことである。
図4(A)に見られるように、光ファイバケーブル16には、該光ファイバケーブルを局部で巻回した
巻回部32が形成されており、該
巻回部32の全長が上記変位しろとして確保されている。本実施形態では、該
巻回部32は、低強度部を含まない範囲で形成されている。
【0033】
光ファイバケーブル16が土砂崩落からの荷重を受けると、
図4(B)に見られるように、
巻回部32を形成する光ファイバケーブル16が該
巻回部32の長さ範囲内で上記荷重に応じて低強度部21A側へ移動することにより、該低強度部21Aを含む範囲において光ファイバケーブル16の曲げ変位を生じることが可能となる。この結果、既述したように、該低強度部21Aの位置で光ファイバ心線22A,22Bが容易に折れて断線する。
【0034】
光ファイバケーブル16の変形前を示す
図3(B)と変形後を示す
図3(C)とを比べると判るように、
図3(C)に示される光ファイバケーブル16の変形後における低強度部21A近傍の範囲の長さ(l
2+l
3)と、
図3(B)に示される光ファイバケーブル16の変形後における低強度部21A近傍の範囲の長さl
1との差分、すなわち長さ(l
2+l
3−l
1)が変位しろでの移動分の長さとなる。
【0035】
仮に金属管21にこのような変位しろが与えられていないと、該金属管21は直線状の形態を維持せねばならず曲げ変位が困難となり、直線状態のままでの剪断による切断でしか光ファイバ心線22A,22Bを断線させることができないが、本実施形態のように変位しろを予め設けておくことにより、崩落土砂からの荷重が金属管21の剪断に至らない程度の荷重であったとしても、低強度部21Aで金属管21が容易に曲げ変位するので、該金属管21内の光ファイバ心線22A,22Bを容易に断線させて、土砂の崩落を確実に検知することができる。
【0036】
本実施形態では、上記変位しろは、光ファイバケーブル16を局部で
巻回させた
巻回部32によって形成されることとしたが、変位しろの形態はこれに限られず、例えば、光ファイバケーブル16を局部で湾曲させて形成されていてもよい。
【0037】
本実施形態では、土砂崩落が生じたときに光ファイバケーブル16の低強度部21Aの変形を促進するために、後述する受圧部材27によって崩落土砂を受け、その受圧力を低強度部21Aに伝達するように構成することも可能である。
図1に見られるように、線路敷設帯域Qと盛土斜面Sとの境界部付近に設置された光ファイバケーブル16の金属管21の各低強度部21Aには、盛土斜面Sに沿って下方へ延びる索条体としてのワイヤ26が懸吊されている。該ワイヤ26には、該ワイヤ26の長手方向での複数位置で、崩落土砂の荷重を受ける受圧部材27が係止して取り付けられている。該受圧部材27は、崩落土砂の流れを受け止めるための受面が形成されており、該受面が盛土斜面Sの傾斜方向に対してほぼ直角をなした姿勢を維持している。したがって、盛土斜面Sの土砂が崩落して、受圧部材27が上記受面で崩落土砂の流れからの荷重を受けると、その受圧力がワイヤ26に張力を生じ、この張力が光ファイバケーブル16の低強度部21Aに伝達され、該低強度部21Aの変形ひいては光ファイバ心線22A,22Bの断線が促進される。すなわち、低強度部21Aは他部に比して、外力により変形を生じる感度が高められている。
【0038】
また、受圧部材27とともに、あるいは該受圧部材27に代えて、ワイヤ26に錘(図示せず)を係止させてもよい。このように錘を係止させておくことにより、土砂崩落時、土砂が不在となった領域にて、該錘の自重による荷重がワイヤ26に作用し、ワイヤ26にその荷重の分の張力が生じる。その結果、該張力が光ファイバケーブル16の低強度部21Aに伝達されて該低強度部21Aが変形し、光ファイバ心線22A,22Bの断線が促進される。
【0039】
また、
図1で示される形態では、線路敷設帯域Qと切土斜面Rとの境界部付近に設置された光ファイバケーブル16には、上述したワイヤ26、受圧部材27や錘は設けられておらず、切土斜面Rが崩落した際、光ファイバケーブル16が崩落土砂の流れを受け止めて変形するようになっている。しかし、例えば、
図1に示される位置よりも上方の切土斜面Rに光ファイバケーブル16を設置した場合には、該光ファイバケーブル16にワイヤ26、受圧部材27や錘を設けることも可能である。
【0040】
次に、このような構成の土砂崩落検知システムの作動原理を説明する。既述したように、土砂崩落が生じていない平常時では、光源部23から発せられた光は一方の光ファイバ心線22A(往路部)、折返しループ部22Cそして他方の光ファイバ心線22B(復路部)を進行して受光部24にて受光されている。そして、制御装置12は、受光部24が受光している間、光ファイバ心線22A,22Bが断線していない、すなわち区間1〜4のいずれにおいても土砂崩落は生じていないと判定し、その判定結果に対応する信号を表示装置13へ送信する。この結果、表示装置13は、土砂崩落が生じていないという判定結果を表示する。
【0041】
一方、例えば盛土斜面Sの区間2にて土砂崩落が生じた場合には、既述したように、該区間2内に位置する受圧部材27が、該受圧部材27の受面で崩落土砂の流れを受け止めることにより崩落土砂からの荷重を受け、その受圧力で張力を生じたワイヤ26を介して区間2の光ファイバケーブル16Bの低強度部21Aに上記張力が伝達される。その結果、
図3(C)や
図4(B)に見られるように、金属管21、特に低強度部21Aが大きく屈曲変形し、金属管21内の光ファイバ心線22A,22Bが折れて断線する。また、このとき、光ファイバケーブル16は、低強度部21Aで係留部材18により支持されているので、地面に打ち込まれている該係留部材18が支点となって、ワイヤ26からの張力を受ける低強度部21Aが容易に変形する。
【0042】
光ファイバ心線22A,22Bが断線すると、該光ファイバ心線22A,22Bを通っていた光が遮断(途絶)されるので、区間2に対応する検知ユニット11Bの受光部24が受光しない状態となる。したがって、制御装置12は、区間2にて光ファイバ心線22A,22Bが断線した、すなわち土砂崩落が生じたと判定し、その判定結果に対応する信号を表示装置13及び無線連絡装置15へ送信する。そして、表示装置13は盛土斜面Sの区間2で土砂崩落が生じたことを表示する。また、無線連絡装置15は、上記判定結果に対応する無線信号を列車14へ向けて送信して、上記区間での土砂崩落の発生を該列車14の乗務員に報知する。この結果、列車14を適宜停止させることにより、土砂崩落による列車への被害の発生を確実に防止することが可能となる。また、道路については、車輌の通行を止めて事故を未然に防止できる。
【0043】
ここでは、盛土斜面Sで土砂崩落が生じた場合について説明したが、切土斜面Rで土砂崩落が生じた場合においても、光ファイバケーブル16が崩落土砂からの荷重を直接受けて変形する点を除き、土砂崩落検知システムの作動原理は、既述の盛土斜面Sの場合と同様であるので説明を省略する。
【0044】
このような本実施形態では、監視区域を複数に区分してそれぞれに対応して光ファイバケーブルを配設しているので、どの区間で断線が生じたかすぐに検知できる。本実施形態では、光信号の有無のみを検知するので断線位置を検知することはできないが、どの区間で断線が生じたのかを検知することはできるので、これによって、土砂崩落が生じた位置を容易に特定することができる。また、後方散乱光を用いる従来の検知方式では、歪や光損失の変化量により土砂崩落を検知するので、検知限界を設定する変化量や閾値の設定にあいまいさが生じるが、本実施形態では、光信号の有無のみを検知するので土砂崩落を確実に検知することができる。
【0045】
また、土砂崩落の可能性の高い区域での区間数を多く(区間長を短く)し、可能性の低い区域での区間数を少なくすることで、監視レベルを向上させることができる。また、本実施形態では、土砂崩落が生じた区間についてのみ、光ファイバケーブルを交換すればよいので、事後の修復が容易である。幹線ケーブルに上記区間数よりも多い数の光ファイバケーブル予め収めておけば、余分な光ファイバケーブルを交換用の光ファイバケーブルとして使用でき、この点でも修復が楽になる。
【0046】
本実施形態では、複数の区間に配設される光ファイバケーブルのそれぞれに対応して複数の検知ユニットを設ける例を図示したが、検知ユニットを複数とせずに、各光ファイバケーブルに対して共通として一つだけ設けて、この共通な検知ユニットが各光ファイバケーブルに順次切り替わり接続されるようにしてもよい。こうすることで検知ユニットを設けることに関してコストの大幅低減が可能となる。
【0047】
また、本実施形態に係る土砂崩落検知システムでは、往路部及び復路部が形成された光ファイバ心線を有する光ファイバケーブルを使用して、受光部で受光される光の有無、すなわち光が遮断されたかどうかで、光ファイバ心線の断線ひいては土砂崩落の発生を検知することとしたが、これに代えて、例えば、光ファイバ心線に圧力変化や曲がり、破断等が生じた場合にその部位からの後方散乱光を分析する光送受信装置(BOTDRやOTDR)を使用して、歪などの物理量、光損失などの変動を土砂崩落として認識して土砂崩落を検知することとしてもよい。このような検知を行う場合には、光ファイバ心線を折り返して往路部及び復路部を形成することは必須でなく、単一の光ファイバ心線を折り返すことなく使用することが可能である。
【0048】
<第二実施形態>
本実施形態は、低強度部を含んだ所定範囲で該所定範囲外よりも金属管が容易に変位する易変位部が設けられている点で、該易変位部が設けられていない第一実施形態と異なっている。本実施形態では、金属管の低強度部が易変位部の範囲内に位置しているので、該易変位部での変位により低強度部での変形が誘発されるようになっている。以下、第一実施形態と異なる点を中心に本実施形態を説明する。
【0049】
図5に見られるように、光ファイバケーブル16に設けられた易変位部28は、光ファイバケーブル16のケーブル長手方向における低強度部21Aを含んだ所定範囲を略円形状に
巻回して形成されている。このように光ファイバケーブル16の一部を
巻回して易変位部28を形成することにより、該易変位部28を光ファイバケーブル16の変位しろとしても使用することも可能となる。
【0050】
土砂が崩落して易変位部28が
図5での下方へ向けた荷重を土砂から受けたとき、該易変位部28は、
図5に見られるように、略円形状部分の幅寸法(
図5にて横方向寸法)を狭めるように変位する。この結果、易変位部28の範囲内でその最下部に位置する低強度部21Aでの屈曲変形が誘発され、該低強度部21Aの位置で光ファイバ心線22A,22Bが容易に断線するので、土砂の崩落を確実に検知することができる。
【0051】
易変位部28の範囲内に位置する低強度部21Aで金属管21を変形させるためには、該易変位部28を含む平面(
図5にて紙面に対して平行な面)内に該易変位部28を留めた状態、すなわち光ファイバケーブル16同士の交差部分(
図5での易変位部28の最上部分)が上記平面に対して直角な方向で光ファイバケーブル16同士が近接した状態を維持したまま、易変位部28を幅方向(
図5にて横方向)に変位させることが好ましい。仮に上記交差部分で光ファイバケーブル16同士が上記直角方向に離反すると、上記易変位部28が上記幅方向で変位しても、低強度部21Aにかかるべき応力が低強度部21Aに集中せずにその周辺に逃げてしまうので、該低強度部を十分に変形させることができなくなる。
【0052】
易変位部28を上記略円形状部分の幅方向で確実に変位させるためには、光ファイバケーブル16同士の交差部分(
図5での易変位部28の最上部分)に、該易変位部28を含む平面に対して直角な方向で光ファイバケーブル16同士が離反することを抑制しつつ、光ファイバケーブルの長手方向での変位(移動)を許容する遊びをもつ抑制部材が設けられていることが好ましい。
【0053】
上記抑制部材は、種々の形態を採用することが可能である。
図6ないし
図8(A),(B)は、それぞれ抑制部材の一例を示す図である。これらの図では低強度部21Aの図示は省略されている。
図6に示される抑制部材29は、易変位部28の上記交差部分に線材を複数回
巻回することにより該交差部分を束ねる結束部材として構成されている。また、
図7に示される抑制部材30は、上記交差部材を挿通させた管状部材として構成されている。また、
図8(A),(B)に示される抑制部材31は、易変位部28全体を収容する薄型箱状部材として構成されている。これらの抑制部材によると、易変位部28における上記交差部分での光ファイバケーブル16同士の離反を防止しつつ下方へ向けた変位を可能として低強度部21Aでの金属管21の変形を容易とする。
【0054】
本実施形態で
図5〜8に図示の易変位部28は、紙面に対して直角方向に見たときに、光ファイバケーブルを、閉ループをなすように湾曲させて形成されているが、易変位部28は、これに限定されず、種々の形態で形成されることが可能である。例えば、易変位部28は、光ファイバケーブル16を湾曲させて、
図9に示されるような略Ω状に形成されてもよく、また、波形等に形成されてもよい。易変位部28をこれらの形状で形成する場合においても、例えば、易変位部28全体を薄型箱状の抑制部材(
図8(A),(B)参照)に収容するなどして、易変位部28を含む平面内に該易変位部28を留めた状態を維持したまま変形させることが好ましい。
【0055】
また、易変位部のさらなる他の形態として、例えば、光ファイバケーブル16の低強度部21Aの変形を促進させるための押圧部材(図示せず)を光ファイバケーブル16に取り付けてもよい。上記押圧部材は、例えば、低強度部21Aのほぼ全周を囲む略リング状をなし、その内縁に低強度部へ向けて突出する楔形状の押圧部が形成された部材として構成することができる。このような押圧部材の内縁内に光ファイバケーブル16を挿通することにより、崩落土砂から荷重を受けたとき、上記押圧部材の押圧部が低強度部21Aに喰い込んで該低強度部21Aをより確実に変形させることができる。例えば、既述したワイヤ26、受圧部材27や錘が設けられている場合には、上記押圧部材にワイヤ26を懸吊させることにより、土砂崩落時、ワイヤ26に張力が作用したときに、押圧部材が下方へ移動して該押圧部材の押圧部が低強度部21Aに喰い込み、該低強度部21Aを変形させる。また、例えば、係留部材18に上記押圧部材を固定することにより、土砂崩落時、光ファイバケーブル16が下方へ移動したときに、上記押圧部材の押圧部が低強度部21Aに喰い込み、該低強度部21Aを変形させる。
【0056】
<第三実施形態>
本実施形態は、光ファイバケーブルの金属管に形成された複数の低強度部のカシメ方向の直径線同士が互いに異なっている点で、全ての低強度部のカシメ方向の直径線が同一方向に位置している第一及び第二実施形態と異なっている。以下、第一及び第二実施形態との相違点を中心に、
図10(A),(B)に基いて本実施形態を説明する。
【0057】
金属管21の低強度部21Aは、崩落土砂からの荷重をカシメ面に対して直角な方向で受けたときに最も容易に変形する。換言すると、全ての低強度部21Aを同方向でカシメて形成した場合、低強度部21Aが、上記カシメ面に対してほとんど角度をもたない方向、例えばカシメ面に対して平行な方向で崩落土砂からの荷重を受けたときには、これらの低強度部21Aが容易には変形しないという事態が生じ得る。これは、光ファイバケーブル16の低強度部21Aにおける変形容易性に金属管の周方向位置で方向性が生じてしまうことを意味する。
【0058】
そのような事態に対処すべく、本実施形態における低強度部21Aは、複数箇所の低強度部21Aにおけるカシメ方向の直径線同士が、金属管21を長手方向に見たときに互いに交差角をもつように形成されている。例えば、
図10(A)に示される形態では、カシメ方向の直径線同士の上記交差角が略90°をなす低強度部21Aが金属管21の長手方向で交互に形成されている。このように、カシメ方向の異なる低強度部21Aを設けておくことにより、崩落土砂からの荷重による曲げ応力を金属管21の周方向のどの位置で受けても、いずれかの低強度部21Aにて、上記荷重をカシメ面に対して略直角方向で受けることができるので、これらの異なる低強度部21Aがともに検知区域の同一区間内に位置していれば、どのような方向から崩落土砂を受けても、該低強度部21Aを容易かつ確実に変形させて光ファイバ心線22A,22Bを断線させることになり、土砂崩落の発生を確実に検知することができる。
【0059】
また、本実施形態では、上記交差角が略90度として大きく設定されているので、どのような方向から崩落土砂を受けても、いずれかの低強度部21Aにおいて、より確実にカシメ面に対して略直角方向に外力を受けることができ、低強度部21Aの変形ひいては光ファイバ心線22A,22Bの断線を促進することができる。
【0060】
カシメ方向の異なる低強度部21Aを形成する位置は、
図10(A)に示されているように低強度部21A同士が離れて位置する形態に限られず、例えば、金属管21の長手方向での複数箇所において、
図10(B)に示されるように、カシメ方向の異なる低強度部21Aを隣接させてもよい。このような構成とすることにより、崩落土砂の荷重を受けるのが上記複数箇所のうちのいずれの箇所であっても、上記荷重を受けた箇所におけるいずれかの低強度部21Aが、カシメ面に対して略直角方向に上記荷重を受けて確実に変形する。
【0061】
本実施形態では、カシメ方向の異なる低強度部21Aについて、カシメ方向の直径線同士の交差角が略90°であることとしたが、該交差角はこれに限られず、任意に設定することができる。また、本実施形態では、互いに交差角をもつ二種類の低強度部21Aが設けられることとしたが、これに代えて、互いに交差角をもつ三種類以上の低強度部21Aが設けられていてもよい。
【0062】
<第四実施形態>
本実施形態では、金属管の低強度部の範囲内に、さらに強度が低い応力集中部が形成されている点で、かかる応力集中部が形成されておらず、低強度部の強度が全範囲で一定である第一ないし第三実施形態と異なっている。以下、第一ないし第三実施形態と異なる点を中心に、
図11に基いて本実施形態を説明する。なお、
図11では、金属管21のみが図示されており、光ファイバ心線22A,22Bの図示は省略されている。
【0063】
本実施形態における低強度部21Aは、上述したように、該低強度部21Aの強度をさらに低くするための応力集中部が低強度部21Aの範囲内に局部的に形成されている。
図11に示される形態では、該応力集中部21Bは、低強度部21Aのカシメ面に、
図11の紙面に対して直角な方向へ延びる切れ込みとしてのノッチが複数形成されている。このように応力集中部21Bを形成しておくことにより、低強度部21Aが土砂からの荷重を受けたとき、各応力集中部21Bに応力が集中するので、低強度部21Aの変形が促進され、光ファイバ心線22A,22Bをより確実に断線させて、土砂崩落の発生を検知することができる。
【0064】
応力集中部の形状は、
図11のようなノッチに限られず、例えば、
図11の紙面に対して直角に延びる溝、凹部、凹凸等によって形成することができる。該応力集中部は、例えば、低強度部を形成するためのカシメ工具の加工面を該応力集中部に対応した形状としておくことにより、低強度部及び応力集中部の両方を一度のカシメ加工で形成することが可能となる。
【0065】
<第五実施形態>
本実施形態は、崩落土砂の流れを受け止める受圧部材の構成に特徴を有している。本実施形態における受圧部材27は、
図12(A)に示されるように、盛土斜面S(
図1参照)の土砂に打ち込まれ崩落土砂の流れを受け止める受面27A−1が形成された受圧本体部27Aと、光ファイバケーブル16に懸吊されたワイヤ26等の索条体に係止する一つの係止部27Bとが一体となって形成されている。
【0066】
図12(A)〜(C)に見られるように、受圧本体部27Aは、板状部材を
図12(A),(B)における幅方向(
図10(A)にて左右方向)の中央位置で板厚方向に屈曲して断面が緩いV字状をなすように作られており、内側の凹面をなす板面が、崩落土砂の流れを受け止める受面27A−1として形成されている。このように受面27A−1を凹面とすることにより、崩落土砂が該受面27A−1に集積しやすくなっている。また、
図12(A),(C)に見られるように、受圧本体部27Aは、その先端縁(
図12(A),(B)にて下縁)が尖っており、受圧本体部27Aを該先端縁から土砂に突き刺して打ち込むことにより、該受圧本体部27Aを容易に土砂に埋め込むことができる(
図14参照)。このとき、受圧本体部27Aは、
図14に見られるように、受面27A−1が盛土斜面Sの傾斜方向に対してほぼ直角をなす姿勢で土砂に埋め込まれる。
【0067】
図12(A)によく見られるように、係止部27Bは、受面27A−1の図心位置に一つ形成されている。該係止部27Bは、
図12(C)によく見られるように、索条体としてのワイヤ26の端部に係止するための係止孔27B−1が貫通形成されている。このように本実施形態では、一つの係止部27Bが受面27A−1の図心位置に設けられているので、受圧部材27の受面27A−1が崩落土砂からの荷重を受けたとき、係止部27Bからの力によりワイヤ26に生ずる張力は上記図心を通る一方向で作用する。
【0068】
したがって、崩落土砂から荷重(圧力)を受けた際、
図14に見られるように、受圧部材27は、係止部27Bまわりに回転することがなく、上記荷重を受面27A−1全域においてほぼ均等に受けることとなり、土砂崩落発生前の平常時における受圧部材27の設置姿勢(
図14の実線部分参照)を維持したまま崩落土砂に追随して下方へ移動することとなる(
図14の二点鎖線位置参照)。この結果、受圧部材27が崩落土砂からの荷重を逃すことなく完全に受け止めて、係止部27Bが係止しているワイヤ26に大きな張力が生じ、該張力がワイヤ26を介して光ファイバケーブル16Bの低強度部21Aに伝達されて、該低強度部21Aが屈曲変形し、光ファイバ心線22A,22Bが折れて確実に断線する。
【0069】
図12(A)〜(C)の形態では、受圧部材27の係止部27Bは受面27A−1の図心位置に一つだけ設けられていることとしたが、係止部27Bの位置及び数はこれに限られず、ワイヤ26に生じる張力の合力が受面の図心を通っているのであれば、適宜設計可能である。例えば、
図13(A)〜(C)に示される形態では、係止部27Bが受圧本体部27Aの二つの側縁(
図13(A)にて上下方向に延びる縁部)にそれぞれ二つずつ(合計四つ)、該側縁を切り欠いて形成されている。これら四つの係止部27B同士の中心位置は、受面27A−1の図心と一致している。
【0070】
この
図13(A)〜(C)の形態では、一つのワイヤ26の下端を四つに分岐させ、それらを上記四つの係止部27Bのそれぞれに係止しておけば、四つの係止部27B同士の中心位置が受面27A−1の図心と一致しているので、受圧部材27の受面27A−1が崩落土砂からの荷重を受けたとき、係止部27Bからの力によりワイヤ26に生ずる張力の合力は上記図心を通る一方向で作用する。したがって、既述した
図12(A)〜(C)の形態と同様に、受圧部材27は平常時における受圧部材27の設置姿勢を維持したまま崩落土砂に追随して移動し、ワイヤ26に生じた張力より光ファイバケーブル16Bの低強度部21Aが屈曲変形し、光ファイバ心線22A,22Bが折れて確実に断線する。
【0071】
本実施形態では、
図12〜14にもとづいて、受圧部材を板状部材で構成する例について説明したが、受圧部材は、崩落土砂を受け止められる形状であればよく、板状であることに限定されず、例えば、籠状部材で構成することも可能である。また、受圧部材は、土砂を受け止めるための受圧面がメッシュや網状に形成されていてもよい。このように受圧面をメッシュや網状に形成することにより、水分が該受圧面を透過するので、例えば、雨水が受圧部材に溜まってその重みでワイヤに生じた張力が光ファイバケーブルに伝達されることにより誤作動を生じることを防止することができる。
【0072】
既述した第一ないし第五形態をそれぞれ別個に説明したが、これらの実施形態のうちの複数の形態が組み合わせて実施することも可能である。