【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、上記課題を解決する手段として本発明に係る農作物の成長観察システムは、農作物が栽培されてなる育成空間と、前記農作物の中から選択された一の観察対象植物と、前記観察対象植物の地上構成部分の一端部である測定目標と、前記観察対象植物の茎に取り付けられた基点標識とを含んでなる画像取得領域と、前記観察対象領域を撮像するカメラ部と、前記カメラ部に接続され、情報記憶部を有する情報処理部を備え、前記カメラ部は撮像した前記画像取得領域の画像情報を前記情報処理部に送信する画像情報送信手段を有し、前記情報処理部は、前記カメラ部から送信された画像情報を受信する画像情報受信手段と、前記画像情報から前記基点標識を認識する基点認識手段と、前記画像情報から前記測定目標を認識する測定目標認識手段と、認識された前記基点標識から前記測定目標までの成長長さL1を取得する成長長さ取得手段と、取得した成長長さL1を前記情報記憶部に記憶する成長長さ記憶手段とを有することを特徴とする。
【0006】
本発明は、農作物全般に適用することができ、農作物として好ましくは、トマト、ナス、じゃがいも、ピーマン等のナス科、及びウリ、キュウリ、かぼちゃ、スイカ、メロン、ゴーヤ等のウリ科から選ばれる果菜類が挙げられ、より好ましくはトマト、キュウリ、ナスであり、さらに好ましくはトマトである。
【0007】
育成空間は農作物を育成させる施設園芸が実施されている空間を指すが、例えば、畑、田、ハウス栽培施設、水耕栽培施設、若しくは植物工場等が挙げられる。より好ましくは、ハウス栽培施設、水耕栽培施設、若しくは植物工場である。ハウス栽培施設、水耕栽培施設、若しくは植物工場であれば、本発明で得られた測定結果に基づき、農作物の周辺温度、周辺湿度、二酸化炭素濃度、並びに農作物に対する光照射時間、光照射量、肥料濃度等から選択できる一若しくは複数の農作物生育条件を人工的に調整することが可能だからである。
【0008】
本発明が用いられる農作物は、水耕栽培されてなるものが好ましい。水耕栽培される農作物は、土耕栽培により根が土に埋設される代わりに、液肥を貯留した容器に根が浸された状態で栽培される。これにより、土に埋設されることで受けるストレスから根を解放させることができ、土耕栽培する場合と比較して肥料成分を植物体へ輸送する能力を向上させることができる。
【0009】
そのため、水耕栽培で栽培されてなる農作物は土耕栽培する場合よりも成長が早く、農作物の成長点付近の部分についての成長管理がより重要となる。
【0010】
特に観察するために重要な部分としては、観察対象植物の茎頂部から10cm程度の部分が50cm程度に成長するまでの一定時間当たりの成長長さについて観察することであり、これにより対象となる観察対象植物が育成環境から受ける育成状態の変化を的確に把握することができる。ここで育成状態の変化の例としては、一定時間当たりの茎の成長長さの変化若しくは茎径の変化が挙げられる。特に、水耕栽培されてなるトマトは土耕栽培の場合と比較して植物体を速く大きく育成させることができるため、前記観察対象植物の茎頂部から10cm程度の部分が50cm程度に成長するまでの一定時間当たりの成長長さを一若しくは複数回取得して観察することが有効である。
【0011】
本発明によれば、水耕栽培で栽培されてなる農作物が特に生育環境に影響されやすい一部分の成長に伴う変化を選択的に観察して、当該変化に基づく情報を農作物に対して非侵襲で取得することができ、その結果から環境条件を変化させ、最適な生育環境を実現することができる。なお、農作物が水耕栽培されてなるものである場合は、観察対象植物の地上構成部分とは、観察対象植物の水面より上を構成する部分をいう。
【0012】
カメラ部は、カメラ本体及びレンズを備え、レンズを介してカメラ本体内部で結像させた画像をカメラ本体内部に設けられたイメージセンサーで画像情報化できるものが好ましく、当該画像情報を画像情報送信手段によって、情報処理部等の外部機器に送信できる機能を備えている。
【0013】
情報処理部は、カメラ部から送信された画像情報が受信可能な画像情報受信手段、情報記憶部、及び演算部を備えている。情報処理部は、カメラ部から受信した画像情報、取得した成長長さL1等を情報記憶部で記憶することができる。情報記憶部は、ハードディスクドライブ、若しくはフラッシュメモリ等の情報の書き込み、読み取りが可能な一時記憶装置を使用することができ、また、これらの一時記憶装置を複数組み合わせて使用することができる。情報処理部は、演算部により画像情報から基点標識の認識、及び測定目標の認識等を行うと共に、成長長さL1等を取得することができる。演算処理部には、一般にCPUと呼ばれる中央処理装置を用いることができる。情報処理部に用いることができる具体的機器の例として、パーソナルコンピュータ、携帯型情報端末を挙げることができる。情報処理部は、画像情報、並びに取得した成長長さL1、基準長さL0、茎部径L2及び単位長さD0等の必要な情報を表示する表示画面を備えていることが好ましい。
【0014】
画像取得領域は、選択された一の観察対象植物全体ではなく、当該観察対象植物の一部分である。これにより、不要な周辺の画像情報を極力排除し、使用者が観察するために重要であると判断した画像取得領域に含まれる基点標識、及び測定目標の認識精度を上げることができると共に、成長長さL1の正確性を向上させることができる。そのためより好ましくは、画像取得領域内の上端には測定目標に定められた観察対象植物の一端部が配置され、画像取得領域内の下端には基点標識が配置されるように画像取得領域を設定する。
【0015】
基点標識は、観察対象植物の茎に着脱自在に直接取り付けることができる取付部を備えてなることが好ましい。取付部は、観察対象植物の表面に粘着層を介して貼付け可能なシール、若しくは観察対象植物の茎、枝、若しくは葉等を挟持可能なクリップであることが好ましい。なお本発明において茎は、観察対象植物がきゅうり、若しくはウリ等の蔓性植物の場合には親蔓を指す。
【0016】
基点標識は、観察対象植物がトマトである場合には、茎頂部から根元方向に数えて3つ目の花房に至るまでの茎に取り付けられてなることが好ましい。これにより取得される成長長さL1は、観察対象植物が成長するにあたって育成空間内の環境条件の影響を強く発現する部分の情報であり、観察対象植物の環境条件が最適かどうかの判断を行うために有用な情報を得ることができるからである。
【0017】
本発明は、観察対象植物が成長し、測定目標が基点標識から遠ざかった場合には、取付部を観察対象植物から離脱させ、基点標識を取り付けなおすことができる。これにより、画像取得領域を必要以上に広くすることなく、成長長さL1を正確に取得することができる。
【0018】
基点認識手段は、あらかじめ基点標識全体の形状情報を情報処理部内の記憶装置に記憶しておき、画像情報に取り込まれた基点標識の形状と比較して形状一致を判断することで認識することとしても良い。
【0019】
また、他の基点認識手段として、基点標識に基点記号を付加しておき、前記基点記号を認識することにより行われるものであっても好ましい。基点記号は、前記取付部の表面若しくは取付部と一体に連接して設けられてなることが好ましい。基点標識が観察対象植物に取り付けられた位置と、情報処理部が基点記号を認識する位置との差異を小さくして、成長長さL1の測定精度を向上させることができるからである。従って、基点記号は前記取付部と一体に形成されていることがより好ましい。
【0020】
前記基点記号を用いた基点認識手段は、あらかじめ情報処理部内の記憶装置に記憶しておいた前記基点記号の形状情報と画像情報に取り込まれた基点記号の形状とを比較して形状一致を判断することで認識することとしても良い。前記基点記号としては、例えば十字型、×型、若しくは星型等の単純で中心位置が分かりやすい記号であることが好ましい。なお当該基点記号を用いた基点認識手段には、既知のOCR(Optical Character Recognition)機能を利用して画像情報から基点記号を認識することとしても好ましい。
【0021】
さらに他の基点認識手段として、画像情報を情報処理部に設けられた表示画面に表示し、当該表示された画像情報中の基点標識を表示画面上において使用者が選択することによって認識することとしても良い。当該表示画面上における基点標識の選択は、カーソル操作に行う、若しくは表示画面がタッチパネル機能を備えている場合には使用者が表示画面に表示されている基点標識箇所を指で触れて行うことができる。
【0022】
前記測定目標は、前記観察対象植物の成長に伴う変化が検出できる部分を設定することができるが、特に茎頂部、若しくは枝の先端部であることが好ましい。特に測定目標として好ましいのは、観察対象植物の茎頂部もしく枝の先端に存在する成長点と呼ばれる細胞分裂が活発な部分である。なお、枝は茎の側面から分かれ出ている葉若しくは花が付く部分である。
【0023】
測定目標認識手段は、あらかじめ測定目標の形状情報を情報処理部と接続された情報記憶部に記憶しておき、画像情報に取り込まれた測定目標の形状と前記測定目標の形状情報とを比較して、情報処理部が形状一致を判断することで認識することとしてもよい。
【0024】
また他の測定目標認識手段として、測定目標の画像情報を情報処理部に設けられた表示画面に表示し、当該表示された画像情報中の測定目標を表示画面上において使用者が選択することによって認識することとしても良い。当該表示画面上における測定目標の選択は、カーソル操作によって行うことができ、また表示画面がタッチパネル機能を備えている場合には使用者が表示画面に表示されている測定目標箇所を指で触れて行うこととしても好ましい。
【0025】
成長長さ取得手段は、例えば、基点認識手段によって認識された基点標識を原点として、測定目標認識手段によって認識された測定目標が基点標識からどの程度離れているかを情報処理部がピクセル単位で取得する手段とすることができる。ここで、ピクセルとは画素のことをいい、画像情報を構成する最小単位の描画点を示す。
【0026】
なお、成長長さ取得手段が機能するにあたり、認識された基点標識及び測定目標表示画面上で一定の面積を有する領域である場合には、それぞれの領域内の特定の画素を基点標識及び測定目標とすることができる。前記特定の画素の例としては、それぞれの領域内の中心にあたる画素とすることができる。
【0027】
得られた成長長さL1は、観察対象植物の環境条件が最適かどうかの判断を行うために有用な情報とすることができる。
【0028】
また前記情報処理部は、前記成長長さL1を一定時間ごとに取得し、各成長長さL1を前記成長長さ記憶手段によって情報記憶部に記憶することとしても好ましい。
【0029】
さらに前記情報処理部は、前記情報記憶部に記憶された複数の成長長さL1から、時間を前後して記憶された異なる二つの成長長さL1を選択して、成長長さL1の変化値である成長管理情報を取得する成長管理情報取得手段を有することとしても好ましい。成長管理情報は、取得時間の遅い成長長さL1を取得時間の早い成長長さL1で割った変化比率とすることができる。また前記変化値は、成長管理情報として取得時間の遅い成長長さL1から取得時間の早い成長長さL1を差し引いた差引値としても良い。
【0030】
また本発明は、前記カメラ部から前記基点標識までの撮影距離と同じ距離に設けられた基準長さ指標を備え、前記情報処理部は、前記情報記憶部に記憶された前記基準長さ指標の実際の長さ情報である単位長さD0と、前記画像情報から前記基準長さ指標を認識する長さ指標認識手段と、認識した長さ指標から基準長さL0を取得する基準長さ取得手段と、前記成長長さL1、前記基準長さL0、及び単位長さD0から、D1=(D0/L0)×L1で示される式より求められる標準化成長長さD1を取得する標準化成長長さ取得手段とを有することとしても好ましい。
【0031】
長さ指標認識手段は、あらかじめ基準長さ指標の形状情報を情報処理部と接続された情報記憶部に記憶しておき、画像情報に取り込まれた基準長さ指標の形状と前記基準長さ指標の形状情報とを比較して、情報処理部が形状一致を判断することで認識することとしてもよい。
【0032】
また他の長さ指標認識手段として、基準長さ指標の画像情報を情報処理部に設けられた表示画面に表示し、当該表示された画像情報中の基準長さ指標を表示画面上において使用者が選択することによって認識することとしても良い。当該表示画面上における基準長さ指標の選択は、カーソル操作によって行うことができ、また表示画面がタッチパネル機能を備えている場合には使用者が表示画面に表示されている基準長さ指標箇所を指で触れて行うことができる。
【0033】
基準長さ取得手段は、例えば、長さ指標認識手段によって認識された基準長さ指標上の特定の2点間がどの程度離れているかを情報処理部がピクセル単位で取得する手段とすることができる。基準長さ指標上の特定の2点としては、例えば基準長さ指標を棒状としてその両端を特定の2点とすることができる。また、他の例として、基準長さ指標が、直線上において相反する両頭の矢印記号を象ったものであり、その二つの矢印の先端を特定の2点とすることができる。
【0034】
また前記情報処理部は、前記標準化成長長さD1を一定時間ごとに取得し、各標準化成長長さD1を前記標準化成長長さ記憶手段によって情報記憶部に記憶することとしても好ましい。
【0035】
さらに前記情報処理部は、前記情報記憶部に記憶された複数の標準化成長長さD1から、時間を前後して記憶された異なる二つの標準化成長長さD1を選択して、標準化成長長さD1の変化値である標準化成長管理情報を取得する標準化成長管理情報取得手段を有することとしても好ましい。標準化成長管理情報は、取得時間の遅い標準化成長長さD1を取得時間の早い標準化成長長さD1で割った変化比率とすることができる。なお、標準化成長管理情報として取得時間の遅い標準化成長長さD1から取得時間の早い標準化成長長さD1を差し引いた差引値としても良い。
【0036】
さらにまた、前記情報処理部は、前記基点標識に隣接する観察対象植物の茎部を認識する茎部認識手段と、認識した茎部径L2を取得する茎部径取得手段とを有することとしても好ましい。ここで茎部径は、情報処理部が認識した茎部の直径をいう。
【0037】
また、前記カメラ部から前記基点標識までの撮影距離と同じ距離に設けられた基準長さ指標を備え、前記情報処理部は、前記情報記憶部に記憶された前記基準長さ指標の実際の長さ情報である単位長さD0と、前記画像情報から前記基準長さ指標を認識する長さ指標認識手段と、認識した長さ指標から基準長さL0を取得する基準長さ取得手段と、前記茎部径L2、前記基準長さL0、及び単位長さD0から、D2=(D0/L0)×L2で示される式より求められる標準化茎部径D2を取得する標準化茎部径取得手段とを有することとしても好ましい。
【0038】
さらに前記情報処理部は、前記茎部径L2を一定時間ごとに取得することとしても好ましく、さらにまた、時間の経過によって変化する前記茎部径L2の変化値である茎部成長管理情報を取得する茎部成長管理情報取得手段を有することとしても好ましい。茎部成長管理情報は、取得時間の遅い茎部径L2を取得時間の早い茎部径L2で割った変化比率とすることができる。なお、茎部成長管理情報として取得時間の茎部径L2から取得時間の早い茎部径L2を差し引いた差引値としても良い。
【0039】
なお、前記茎部径取得手段は、単独で行うこともできることとしても好ましい。すなわち、農作物が栽培されてなる育成空間と、前記農作物の中から選択された一の観察対象植物と、前記観察対象植物の地上構成部分の一端部である測定目標と、前記観察対象植物の茎に取り付けられた基点標識とを含んでなる画像取得領域と、前記観察対象領域を撮像するカメラ部と、前記カメラ部に接続され、情報記憶部を有する情報処理部を備え、前記カメラ部は撮像した前記画像取得領域の画像情報を前記情報処理部に送信する画像情報送信手段を有し、前記情報処理部は、前記カメラ部から送信された画像情報を受信する画像情報受信手段と、前記画像情報から前記基点標識を認識する基点認識手段と、前記画像情報から前記測定目標を認識する測定目標認識手段と、前記基点標識に隣接する観察対象植物の茎部を認識する茎部認識手段と、認識した茎部径L2を取得する茎部径取得手段とを有することを特徴とする農作物の成長観察システムであってもよい。
【0040】
また前記基点標識には、測定事項指示記号が付加されてなり、前記情報処理部は、前記画像情報から前記測定事項指示記号を認識する指示記号認識手段と、認識した前記測定事項指示記号に対応して前記成長長さ取得手段若しくは前記茎部径取得手段のいずれかを選択する測定事項選択手段を備えることとしても好ましい。ここで、測定事項とは、成長長さ取得手段を実行して成長長さを取得すること、若しくは、茎部径取得手段を実行して茎部径を取得することのいずれかを指す。
【0041】
測定事項指示記号としては、平仮名、片仮名、アルファベット、及び数字から選択された任意の文字の組み合わせであることが好ましい。測定事項指示記号が前記文字の組み合わせであることによって、例えばOCR機能を用いて情報処理部が認識することによって対応する測定事項を間違いなく選択して認識させることができる。また、測定事項指示記号の形状情報をあらかじめ情報処理部内の記憶装置に記憶しておき、当該測定事項指示記号の形状情報と画像情報に取り込まれた測定事項指示記号の形状とを比較して形状一致を判断することで認識することとしても良い。なお、測定事項指示記号にはアルファベット一文字と数字一文字の組み合わせ等、単純な組み合わせとすることで認識の誤認率を抑えることができる。
【0042】
また、前記カメラ部及び情報処理部が、前記画像情報を出力可能な表示画面を備えた携帯情報端末に組み込まれていることとしても好ましい。