特許第6276104号(P6276104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 一般社団法人マリノフォーラム21の特許一覧

特許6276104有用二枚貝の繁殖促進方法、および着底促進ユニット
<>
  • 特許6276104-有用二枚貝の繁殖促進方法、および着底促進ユニット 図000002
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6276104
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】有用二枚貝の繁殖促進方法、および着底促進ユニット
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/54 20170101AFI20180129BHJP
【FI】
   A01K61/54
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-90719(P2014-90719)
(22)【出願日】2014年4月24日
(65)【公開番号】特開2015-208259(P2015-208259A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2017年3月28日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年2月24日に農林水産省でなされた平成25年度アサリ・干潟関連調査研究事業合同報告会議で説明した。
(73)【特許権者】
【識別番号】591036631
【氏名又は名称】一般社団法人マリノフォーラム21
(74)【代理人】
【識別番号】100093986
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 雅男
(74)【代理人】
【識別番号】100128864
【弁理士】
【氏名又は名称】川岡 秀男
(72)【発明者】
【氏名】森田 健二
(72)【発明者】
【氏名】林 成年
(72)【発明者】
【氏名】坂本 裕昭
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 政幸
(72)【発明者】
【氏名】井上 隆彦
【審査官】 門 良成
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−116619(JP,A)
【文献】 特開2013−158318(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0040684(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アサリ等の有用二枚貝の生息干潟の地面上に海水の流れにより往復移動する紐状の掃引体を配置し、地面表層への有害・競合貝類の着生を規制して生息干潟における有用二枚貝の繁殖を促進する有用二枚貝の繁殖促進方法。
【請求項2】
前記掃引体は、両端が往復移動自在に支持される請求項1記載の有用二枚貝の繁殖促進方法。
【請求項3】
前記地面には、表面がメッシュ状の覆いにより覆われた多数の着底促進基材が配置される請求項1または2記載の有用二枚貝の繁殖促進方法。
【請求項4】
前記着底促進基材がメッシュ状の袋体に予め袋詰めされて地面上に敷設される請求項3記載の有用二枚貝の繁殖促進方法。
【請求項5】
前記掃引体がメッシュ状の覆いに連結される請求項3または4記載の有用二枚貝の繁殖促進方法。
【請求項6】
メッシュ状の袋体に着底促進基材の多数を袋詰めするとともに、掃引体を袋体表面上で移動自在に連結した着底促進ユニット。
【請求項7】
前記袋体内部を複数に区画した請求項6記載の着底促進ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有用二枚貝の繁殖促進方法、および着底促進ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アサリ等の繁殖の促進としては、従来、例えば特許文献1に記載されるように、所定の粒径の製鋼スラグを着底材として浜辺などに散布等することが知られている。着底材としての製鋼スラグをアサリの幼生が着底を好む粒径にすることにより、その着底性が向上される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-055177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来例は、有害・競合貝類によって効率が低下するおそれがある。
【0005】
例えば、アサリとともに干潟に生息することの珍しくないホトトギスガイは、互いに足糸により絡み合って地面表層を覆うマット状の集団を形成し、アサリの生息する底質環境に悪影響を与えることがある。
【0006】
本発明は以上の問題を解消すべくなされたもので、有害・競合貝類による生息環境の悪化を防止してアサリ等の繁殖促進をより効率的にすることのできる有用二枚貝の繁殖促進方法の提供を目的とする。また、本発明の他の目的は、良好な生息環境の維持によりアサリ等の幼生の着底を促進することのできる着底促進ユニットの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、上記目的は、
アサリ等の有用二枚貝1の生息干潟の地面2上に海水の流れにより往復移動する紐状の掃引体3を配置し、地面2表層への有害・競合貝類4の着生を規制して生息干潟における有用二枚貝1の繁殖を促進する有用二枚貝の繁殖促進方法を提供することにより達成される。
【0008】
例えば、アサリ1は負の走光性があるために、その幼生は生息干潟の地面2に着底すると、底質を構成する砂に潜ることが知られている。一方、ホトトギスガイ4は、反対に正の走光性があるために、着底後に底質の表面に止まることが知られている。したがって往復移動する掃引体3を生干潟の地面2上に配置することにより、底質中へと潜るアサリ1にはあまり影響することなく、底質表面に止まるホトトギスガイ4の着生を規制することができる。これにより、上述したマット状の集団の形成を防止してアサリ1の生育環境を良好に維持することができる。
【0009】
このように、本発明において有用二枚貝1とは、食用になるなど有用な二枚貝であって干潟の底質中に潜るものを、一方、有害・競合貝類4とは、人間にとって有害、あるいは上記有用二枚貝1と同じ生息環境で競合することのある貝類であって干潟の地面2上に着生し、有用二枚貝1の生育を阻害することのあるものを指す。
【0010】
また、干潟には河川から流れてくる細かい泥が堆積してしまうこともあるが、上述の掃引体3による往復移動、すなわち掃引によれば、このような泥の堆積をも防止、抑制することができ、これにより有用二枚貝1の幼生の着底環境を良好に維持することができる。
【0011】
上記掃引体3は、海水の流れ、すなわち波や潮流により往復移動して有害・競合貝類4の干潟の地面2上への着生を妨げることができるものであれば足り、具体的には例えば、後述する実施の形態に示すように1.3前後の比重の素材により構成することが可能である。また、掃引体3の移動は、例えば潮汐により一日当たり二回往復する程度であれば、有用二枚貝1の着底や潜砂行動をあまり妨げる心配はない。また、このような潮汐に伴って干潟の地面2に潮が満ちる際や潮が引く際の波によってさらに複数回一時的に往復しても同様である。
【0012】
さらに、掃引体3は紐状に形成されるため、例えば、その一端に重錘を取り付けたり、アンカーボルトで地面2に固定等すれば、妄りに干潟外に流されることはない。また、その両端を往復移動自在に支持しておけば、所定の地面2範囲をある程度の頻度で確実に掃引することが可能になる。なお、掃引体3を往復移動自在にする方向は、潮流や波の動揺によって掃引体3を効率的に移動させることを重視する場合には、潮の満ち引きが生じる方向にできる限り合致させることが望ましい。
【0013】
加えて、以上の掃引体3が配置される干潟の地面2上に上述した従来例と同様に着底促進基材6を散布すれば、この着底促進基材6による幼生の着底促進を通じて有用二枚貝1の繁殖をより促進することができる。この場合において、多数の着底促進基材6、6、・・の表面をメッシュ状の覆い5により覆っておけば、掃引体3による掃引によって着底促進基材6が流失してしまうのを簡単に防止、抑制することが可能になる。この場合、覆い5は具体的には着底促進基材6が通過不能、あるいは通過困難なメッシュサイズにされる。また、メッシュサイズをより小さくすれば、有用二枚貝1の幼生の進入をあまり妨げることなく、その外敵による食害を防止することも可能になる。
【0014】
加えてまた、このように多数の着底促進基材6、6、・・・の表面を覆い5によって覆うようにするために、着底促進基材6をメッシュ状の袋体7に予め袋詰めして地面2上に敷設した場合には、この袋体7を持ち運ぶ等して移動させることにより有用二枚貝1を生育段階に応じた適切な育成環境に移送したり、さらには、成長した成貝を袋体7を利用して容易に収穫することも可能になる。なお、収穫に利用する場合には、メッシュサイズを一般的な成貝の大きさよりも小さくすれば足りる。
【0015】
さらにまた、上記掃引体3をメッシュ状の覆い5に連結すれば、掃引体3の掃引範囲を覆い5の表面に、言い換えれば着底促進基材6の表面側への掃引体3による掃引を確実にすることが可能になる。
【0016】
また、以上の有用二枚貝の繁殖促進方法において使用可能であって、良好な生息環境の維持によりアサリ等の幼生の着底を促進することのできる着底促進ユニットAは、
メッシュ状の袋体7に着底促進基材6の多数を袋詰めするとともに、掃引体3を袋体7表面上で移動自在に連結して構成することができる。
【0017】
この場合において、袋体7内部を複数に区画した場合には、着底促進基材6の多数が袋体7内で偏ってしまうのを防止することが可能になり、良好な着底環境をより広い範囲で簡単に確保することができる上に、袋体7を地面2に置いたときには、着底促進基材6が充填されない区画の境界部分の厚さが他の部分よりも薄くなるために、干潟の地面2のいわゆる砂廉を擬似的に形成することができ、有用二枚貝1の着底性を向上させることが可能になる。すなわち、干潟の地面2には微少な凹凸が形成されており、この上を海水が流
れることにより、波浪の遮蔽効果、より具体的に言えば、凹部で大小の渦が発生し、これにより水平方向に流速の変化が生じる上に、このような流速変化の推移の小さな領域も形成される。経験上、このような領域においてアサリの着底性が高いことが認められている。
【発明の効果】
【0018】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、有害・競合貝類による生息環境の悪化を防止して有用二枚貝の繁殖促進をより効率的にすることができ、近年減少傾向にあるアサリ等の有用二枚貝の資源復活、再生を効率的に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】着底促進ユニットの設置状態を示す図で、(a)は平面図、(b)は(a)の1B-1B線断面図であって有用二枚貝の繁殖促進機能を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に本発明の実施の形態を示す。この実施の形態において、着底促進ユニットAは、図1(a)に示すように、支持体11によって両端を往復移動自在に支持される掃引体3を有する。
【0021】
上記掃引体3は、比重が1.3の材料を紐状にして形成される。この実施の形態においては例えばこのような材料として、ビニロン等の合成樹脂材が用いられる。この掃引体3の両端には、支持体11に連結される連結具12が各々取り付けられる。この連結具12は、この実施の形態においては掃引体3のより戻しを可能にするものであり、例えばより戻し(猿環)により構成することが可能で、この場合には一方の環が掃引体3の端部に取り付けられる。
【0022】
一方、支持体11は、この実施の形態においては一対の平行な索状部材、例えばワイヤであり、索状部材11、11間は掃引体3の両端と同じ程度の間隔を隔てる。したがって上述の連結具12を各索状部材11に連結、例えば上述したより戻しの他方の環に索状部材11を通すことにより、掃引体3が索状部材11に直交する姿勢で索状部材11の長手方向に往復移動自在に支持される。
【0023】
また、着底促進ユニットAは、図1(b)に示すように、以上の掃引体3の往復移動可能な領域に配置される着底促進基材6の多数を有する。この着底促進基材6は、干潟の地面2上に散布することによりアサリ1の幼生の着底を促すことのできる適度の大きさを備えたもので、この実施の形態においては具体的には直径および長さがそれぞれ10ミリ程度の円柱形状に形成される。
【0024】
また、上記着底促進基材6は、大型低気圧の襲来時などに生じる強い波によって干潟の底質が液状化したときにも埋没しない1.1から1.7の範囲の嵩比重、言い換えれば砂よりも小さい程度の水中嵩比重を備える。以上の着底促進基材6は、この実施の形態においては陶土と比重調整材料を約80%と約20%の割合で混合したものを粉砕、成形、焼成して形成される。より具体的には陶土には木節粘土を、比重調整材料には貝殻を用い、粉砕はボールミルにより粘土を30ミクロン以下、貝殻を300ミクロン以下にし、成形および焼成は、粉砕後に得られる粉体に水を加えて泥状にした上でフィルタープレスにより濾過、脱水した後、ニーダーで混練してから押し出し成形機により押し出し成形し、得られた成形体を乾燥後に、ロータリーキルン等で高温焼成してなされる。
【0025】
さらに、着底促進ユニットAは、図1(a)および(b)に示すように、以上の着底促進基材6の多数を収容するメッシュ状の袋体7と、この袋体7を所定の位置に固定するた
めの固定部材13を有する。上記袋体7は、例えば合成繊維を上述した着底促進基材6が通り抜けにくいメッシュサイズの袋状に編み込むことにより形成され、平面視矩形状をなす。この袋体7の少なくとも四隅部分には、上述した固定部材13に取り付けるための取付部7aが形成される。この取付部7aは、例えば紐により構成することが可能である。
【0026】
また、以上の袋体7は、その内部が複数のブロック7b、7b、・・に区画される。袋体7は例えば、平面視において一辺が1メートル程度の長さに形成され、その区画は、特定の一辺と平行に袋体7の内部を複数に仕切ることによりなされる。これにより各ブロック7bは一定の方向に長尺に形成される。
【0027】
一方、固定部材13は、この実施の形態においては上述の袋体7の平面視におけるサイズよりもひとまわり大きい矩形の枠材13aと、この矩形の枠材13aを所定の位置に固定するための図外のアンカーボルトとを有する。上記枠材13aは、例えば塩ビ管を継ぎ手により枠組みして形成することができる。一方、アンカーボルトは、例えば、先端が鋭利な金属の棒材の後端部を枠材13aに係止可能に折り曲げて構成することができる。
【0028】
加えて、着底促進ユニットAは、図1(a)に示すように、上述した枠材13aの複数を相互に連結して格子状に枠組みするとともに、その目の内部にそれぞれ袋体7を取り付けて形成される。さらに、このように袋体7、すなわち着底促進基材6が方形に並べられる、言い換えればm×n行列のように配置されることに伴い、索状部材11は、枠材13aとほぼ同じように格子状に索状部材11を並べて構成される。このように索状部材11を掃引体3と平行方向にも配設することにより、掃引体3の両端に対応する索状部材11、11間の間隔を長い距離範囲で良好に維持することができる。
【0029】
以上の着底促進ユニットAは、図1に示すように、アサリ1の生息干潟の地面2上に設置される。設置は、着底促進基材6を収容する袋体7を取り付けた固定部材13と、掃引体3を連結した支持体11とをそれぞれ地面2に固定してなされる。支持体11の地面2への固定に際しては、掃引体3が袋体7の表面上を往復移動できるように、袋体7や枠材13aと位置合わせされる。具体的には例えば、掃引体3を取り付けない状態で支持体11のみを地面2に敷設した後、この支持体11の上面に、該支持体11と枠材13aのそれぞれの格子の目が重なるように位置合わせして枠材13aを重ねた上で、枠材13aをアンカーボルトにより固定すれば、支持体11を固定部材13を介して地面2に固定することもできる。なお、図1(a)において矢印は潮流の方向である。
【0030】
図1(b)に示すように、設置状態において着底促進基材6は袋体7の各ブロック7bの内部にまとまり、ブロック7b、7bの境界部分と相まって全体として表面側に凹凸を生じるように配置される。満潮の際に砂等の細粒分が着底促進ユニットAへと潮流によって運ばれると、細粒分と着底促進基材6を適度に含む底質が形成される。
【0031】
また、潮汐の際しては、図1(b)に二点鎖線の矢印で示すように、潮流によって掃引体3が袋体7の表面を掃引するように移動し、その表面上への細粒分の堆積を防止して着底促進基材6を底質表層に露出させるとともに、このようにして露出する着底促進基材6の表面に着生しようとした有害・競合貝類4の幼生も掃引体3に押されるようにして取り除かれる。一方、着底促進基材6の隙間の細粒分に潜るようにして着底する有用二枚貝1の幼生は、掃引体3に邪魔されることなくその場に止まる。さらに、上述した着底促進基材6の配置により生じる凹部14には、図1(b)に示すように潮流によって大小の渦15が生じ、これにより同図において実線の矢印で模式的に示すように、着底促進ユニットA上で海水の流速が不均一になる上に、凹部14周辺では流速がなだらかに変化することから、当該領域への有用二枚貝1の幼生の着底が促される。
【0032】
この後、有用二枚貝1が成長して正貝になったら、枠材13aから袋体7を取り外して開けば、簡単に採取することができる。ブロック7bは袋体7の特定の一辺に平行な長尺に形成されるために、単に袋体7全体にマトリクス状に形成した場合に比べて採取にあまり手間取ることもない。また、採取に際しては、着底促進基材6が通過可能な網目を備えた篩等を用いることにより、着底促進基材6と有用二枚貝1とを容易に仕分けることができ、また、貝殻のカルシウム分の水和反応によって着底促進基材6、6同士が癒着していても、篩等を適度に震動させることによってこれらを容易に分離させることが可能である。
【0033】
以上の着底促進ユニットAは、例えば、レーキを使って干潟を耕してから設置すれば、既に干潟に生息しているホトトギスガイ4を設置領域から予め除去することができる。発明者がこのようにして春に設置したところ、アサリの繁殖が比較的盛んな夏には、干潟内の着底促進ユニットAを設置していない場所に比べてより多くのアサリ1の幼生の着底が確認されるとともに、より少ないホトトギスガイ4の幼生の着生が確認された。
【0034】
なお、アサリ1の幼生の着底が安定した後などに、袋体7をアサリ1の餌が豊富な海面付近に移設すれば、アサリ1の成長を促進させることも可能である。例えば、アサリ1と養殖域が近似する海苔の養殖場において、海苔を支持するために海中に立設される支柱を活用してアサリ1を海面付近に保持することもできる。この場合、採取は袋体7を船上に引き上げれば足りるために、冬場などの海水温が低いときの漁労をより楽にすることが可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 有用二枚貝
2 地面
3 掃引体
4 有害・競合貝類
5 覆い
6 着底促進基材
7 袋体

図1