(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
吐出器に属するインク充填可能な吐出チャンバ内に圧力波を誘発するように、圧電駆動素子を制御するように構成された吐出器制御ユニットを用いて前記吐出器に属する前記圧電駆動素子を付勢するステップであって、前記誘発された圧力波の強度は、標準サイズのインク滴を前記吐出器が吐出するのに必要なしきい値を下回ることを特徴とする前記付勢するステップと、
前記誘発された圧力波に対する流体圧応答を検知するステップであって、前記検知するステップに基づいて電気信号を発生させることを特徴とする検知するステップと、
前記吐出器の吐出性能を決定するために、前記電気信号の1つまたは複数の特性を分析するステップと、
を備え、
前記特性は、高速フーリエ変換(FFT)のピーク幅を含む、方法。
前記電気信号の1つまたは複数の特性を分析するステップは、インク粘度、ノズル閉塞、前記吐出チャンバへのインク供給不足、前記吐出チャンバおよびインク供給流路内の気泡、ならびにインク・ジェット・ノズルの前面の濡れのうちの少なくとも1つを検出するステップを備える、請求項1に記載の方法。
前記電気信号の1つまたは複数の特性を分析するステップは、時間領域及び周波数領域の少なくとも1つにおいて前記電気信号を分析するステップを含む、請求項1に記載の方法。
前記付勢するステップ、検知するステップ、および分析するステップは、連続するページを印刷する間にまたは印刷パターンが印刷されていない行を要求するときに起こる時間間隔で実行される、請求項1に記載の方法。
前記付勢するステップ、検知するステップ、および分析するステップは、880ノズルを有するインクジェットプリントヘッドに対して、連続するページを印刷する間に起こる時間間隔で実行され、前記時間間隔は100ms未満である、請求項1に記載の方法。
前記圧力波を誘発するように、前記圧電駆動素子を付勢するステップは、通常のサイズのインク滴を吐出するのに必要なエネルギーレベルの80%から20%の間のエネルギーレベルで前記圧電駆動素子を付勢することを含む、請求項1に記載の方法。
前記圧力波を誘発するように、前記圧電駆動素子を付勢するステップが、前記圧電駆動素子を付勢する駆動信号の時間および電圧形状を変更して、前記流体圧応答の最適な検知を提供することおよび前記電気信号の1つまたは複数の特性の分析を含む、請求項1に記載の方法。
前記分析器は、インク粘度、ノズル閉塞、前記吐出チャンバへのインク供給不足、前記吐出チャンバおよびインク供給流路内の気泡、ならびにインク・ジェット・ノズルの前面の濡れのうちの少なくとも1つを検出するように構成される、請求項12に記載の装置。
前記分析器は、各吐出器の前記電気信号を1つまたは複数の周知の時間領域特性波形と比較して、前記プリントヘッドの吐出性能を決定するように構成される、請求項19に記載のプリントヘッド。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図面は、必ずしも一定の縮尺ではない。図面に使用された類似の番号は、類似の部品を参照する。しかしながら、所与の図内の一部品を参照するために番号を使用しても、同一の番号でラベル付けされた別の図内の部品を限定するようには意図されていないことを理解されたい。
【0010】
高解像度多重ノズル圧電インク・ジェット・プリント・ヘッドにおいて、ほとんどまたは実質的にすべての吐出器は、プリンタ仕様書に従って受け入れ媒体上に液滴が置かれるように適切に実行する必要がある。いくつかの物体は、ノズル閉塞、吐出チャンバへのインク供給不足、吐出チャンバおよびインク供給流路内の気泡、ならびにインク・ジェット・ヘッドの前面の濡れなどの、液滴吐出を妨げる間違った方向に向かうことがある。
【0011】
本明細書で説明される実施形態は、吐出器の吐出効率を低減する可能性があるプリントヘッド状態を検出するための診断手法を含む。本明細書で説明される実施形態によれば、標準サイズのインク滴を吐出するのには不十分な圧力波が、吐出器吐出チャンバ内に作り出される。発生した圧力波は、吐出器内に流体圧応答を作り出す。流体圧応答は検知されて、電気信号に変換される。流体圧応答に対応する電気信号が分析されて、インク噴出口の状態を特定する。本明細書で説明される実施形態によれば、吐出器内に発生した圧力波は、標準サイズのインク滴を吐出するのには不十分である。用語「標準サイズのインク滴」は、インクジェット印刷に有用なインク滴である。いくつかの実施形態において、吐出器内に発生した圧力波は、吐出器からインクを吐出するのには不十分である。
【0012】
吐出器の正常性を診断するためにインクが吐出されると、診断目的に使用されるインク量が浪費される。さらにその上、テスト中にインクを吐出すると、吐出された診断用インクを廃棄する部品またはプロセスの追加を招く可能性がある。例えば、診断用インクがテストシート上へ吐出される場合、テストの後でテストシートは廃棄する必要がある。診断用インクがプリントヘッドのまたは本システム内のどこか他の所の溝内へ向う場合、吐出された診断用インクを収集するために、入れ物を必要とすることがある。本明細書で説明されるようにしきい値を下回る吐出テストを用いると、廃棄物を低減し、かつシステムの複雑性を低減する。
【0013】
いくつかの実施形態において、吐出器に属する圧電変換器(PZT)によって圧力波が発生し、圧力波を発生させる同一の吐出器PZTによって流体圧応答が検知される。流体応答を検知するためのPZTを用いる実施形態は、本明細書において「自己検知」と呼ばれる。いくつかの実装形態において、本明細書で説明される吐出器診断手法は「オン・ザ・フライ」で実行され、すなわちこれは、圧力波を発生させるステップおよび流体応答を検知するステップが、複数のページを印刷する間におよび/または印刷対象のパターンが印刷されていない「空白」行を要求するときに、インク・ジェット・プリンタによって実行されることを意味する。いくつかの実施形態において、インク・ジェット・プリンタは、プリントヘッド吐出器に関する問題の検出に応じて、エラーメッセージを発生させることができおよび/またはインクジェット印刷機能をオフすることができる制御エレメントを含むことができる。例えば、印刷品質のための所定のしきい値を越える相当数の印刷不良を招くことになる、微弱なインク噴出、インク噴出不足および/または間欠性インク噴出、を引き起こす可能性がある状態を、プリントヘッドに属する1つまたは複数の吐出器が有することを、本明細書で説明される診断手法が指し示すとき、プリントヘッドに関する問題を検出することができる。
【0014】
本明細書で説明される実施形態は、吐出器から標準サイズの滴(または任意の滴)を吐出するのには不十分な吐出器内に、圧力波を誘発することに依存する吐出器診断手法を含む。吐出器の流体圧応答は、誘発された圧力波に応じて検知される。流体圧応答に対応する電気信号は分析されて、吐出器問題を診断する。
図1Aおよび
図1Bは、本明細書で説明される実施形態に従う吐出器診断手法を実装するのに用いることができるインク・ジェット・プリンタ100の部分的内部図を提供する。プリンタ100は、プリントヘッド130に対してドラム120を動かすように構成され、かつドラム120に対して用紙140を動かすように構成された搬送機構110を含む。プリントヘッド130は、ドラム120の長さに沿っていっぱいにまたは部分的に広がることができる。ドラム120が搬送機構110によって回転しながら、プリントヘッド130に属する吐出器は、吐出器開口部を通してドラム120上へ所望のパターンでインクの液滴を堆積させる。用紙140がドラム120の周りを移動しながら、ドラム120上のインクのパターンは、圧力ニップ160を通して用紙140に転写される。
【0015】
図2Aおよび
図2Bは、典型的なプリントヘッドの、より詳細な図を提供する。当初は容器内に含有されていたインクの経路は、ポート210の中を通ってプリントヘッドの主要多岐管220内へ流れる。
図2Bにもっともよく見られるように、場合によっては、重ね合わされた4つの主要多岐管220があり、インクカラー当たり1つの多岐管220になっており、これらの多岐管220のそれぞれは、織り交ぜられた指状多岐管230に接続する。インクは、指状多岐管230の中を通過し、次いでインク噴出口240へ流れる。
図2Bに図示された多岐管およびインク噴出口の形状は、所望のプリントヘッド長、例えばドラムの全幅のヘッド長、を達成するために、矢印の方向に繰り返される。
図1A、
図1Bから
図2A、
図2Bに図示されたインク・ジェット・プリンタ100およびプリントヘッドの具体的な構成は例として提供され、インク・ジェット・プリンタおよび/またはインク・ジェット・プリント・ヘッドは本明細書で説明される診断手法に適用可能なさまざまな構成を有することを理解されたい。
【0016】
図3は、いくつかの実施形態に従う吐出器テストシステム300のブロック図である。テストシステム300は、単一の吐出器を用いて図示されるが、大部分のインク・ジェット・プリント・ヘッドは多重吐出器を含み、システム300は多重吐出器プリントヘッドを分析し診断するように構成することができることを理解されたい。例えば、1つのプリントヘッドに属する、多重吐出器のそれぞれまたは複数吐出器の1サンプルは、複数のページを印刷する間におよび/または印刷対象のパターンが印刷されていない「空白」行を要求するときに、
図3に図示されたシステム300と類似したテストシステムを用いてテストすることができる。
【0017】
図3に示すように、各吐出器301は、PZTアクチュエータ342などのアクチュエータを含み、同アクチュエータは、吐出チャンバ344およびノズル343の内部に圧力波を誘発するように、電気的に起動することができる。PZTアクチュエータ342は、吐出器コントローラ360からの信号によって起動される。吐出器300がインクジェット印刷に用いられるとき、吐出器コントローラ360は、PZT342を起動する信号を提供して、吐出チャンバ344内に、ノズル343および吐出器開口部345を通してインク滴を吐出させるのに十分な圧力波を発生させる。診断テスト中に、吐出器コントローラは、PZT342を起動して吐出チャンバ内に圧力波を発生させるが、結果的にインクの吐出をもたらさない、または印刷に用いられるインク滴と比較すると結果的に標準サイズを下回るインク滴の吐出をもたらす。例えば、診断テストに用いられる圧力は、インクジェット印刷に用いられる圧力の約20%から約60%までの範囲内にあるとすることができる。
【0018】
自己検知テストモードで作動するとき、PZT342が吐出チャンバ344内に圧力波を誘発した後で、PZT342は、検知モードにおいて、吐出チャンバ344の流体圧応答を電気信号に変換するためのセンサとして用いられる。流体圧応答は、例えば約20kHzから約400kHzまでの範囲にある周波数を有する信号とすることができる。分析器350は、時間領域および/または周波数領域においてPZT342からの電気信号を分析して、吐出器300の状態を特定する。
【0019】
いくつかの実施形態において、インク・ジェット・コントローラ360からPZT342への駆動信号は、吐出器テスト用に、検知された流体圧応答を強化する信号形態特性を有する。例えば、駆動信号形態は、検知された信号の信号対雑音比(SNR)を増加させるように適応することができ、および/または所望の共振周波数作用を強化するように選択することができる。検知された流体圧応答を強化するように調整することができる駆動信号形態特性は、周波数、デューティサイクル、立ち上がり時間、立ち下がり時間、パルス幅、パルス振幅、パルス形状、例えば正弦波、四角形、三角形、のこぎり歯、などの信号特性を含むことができる。そういうわけで、インク噴出に用いられる駆動信号の信号形態は、しきい値を下回るインク吐出器テストに用いられる駆動信号の信号形態とは異なるとすることができる。
【0020】
分析器350は、分析より前にPZT342によって発生した信号に、種々の信号処理技術を適用することができる。信号処理は、例えば、増幅処理、フィルタ処理、および/またはアナログ信号をデジタル形式に変換する処理を含むことができる。インク噴出口の状態を決定するために信号を分析するステップは、時間領域分析、周波数領域分析、またはこれらの組み合わせを含む。
【0021】
数ある状態の中で種々の状態が、噴出の完全なまたは部分的な閉塞、インクの粘度、吐出チャンバおよび/もしくはプリントヘッド多岐管内の気泡の存在、吐出チャンバへのインク供給不足、インク粘度、ならびに/またはプリントヘッドの前面の濡れなどの吐出性能に影響を及ぼすことがある。これらの状態のそれぞれは、吐出チャンバの流体圧応答を変化させる。誘発された圧力波に対する吐出器の流体圧応答は、これらのおよび別の状態を特定する種々の特徴に対して分析することができる。
【0022】
図4は、例えば、
図3に示されたシステム300によって実装することができるプロセスのフローチャートである。PZT342は、吐出チャンバ344内に圧力波を誘発するように、吐出器コントローラ360によって付勢される410。誘発された圧力波は、吐出チャンバ344からインクを吐出するのに必要なしきい値を下回る(例えば、標準サイズの滴を吐出するのに必要なしきい値を下回る、または任意のインクを吐出するのに必要なしきい値を下回る)強度を有する。誘発された圧力波に対する吐出チャンバ流体圧応答は、吐出チャンバ内部の変化する圧力に起因して、PZTによって生み出された電荷変動を作り出す。この電荷変動が検知され420、吐出性能を決定するためにこの電気信号の1つまたは複数の特性が分析される430。
【0023】
いくつかの実施形態において、付勢するステップ、検知するステップ、および分析するステップから成るプロセスステップが、規則的な間隔で実行される。少なくとも付勢するステップおよび検知するステップが短期間にわたって起こることができるので、プリントヘッドの診断テストのこれらの部分は、連続するページを印刷する間に規則的な間隔で行うことができる。付勢するステップおよび検知するステップは、複数のページが印刷される間に、ページ実行の直前に、および/または印刷対象のパターンが印刷されていない「空白」行を要求するときに、行われることもできる。
【0024】
例えば、一度に1つまたは複数の行を印刷することができるプリントヘッドに対して、印刷対象のパターンが少なくとも1つの印刷されていない「空白」行を要求する時間中に、吐出器診断を実行することができる。多くのページにおいて、印刷パターンは、比較的希薄であり、ページ上の1つまたは複数の行に対して吐出すべきものを何も要求しない。これらの印刷されていない「空白」行は、本明細書で説明される診断プロセスを用いて吐出器診断に使用することもできる。これらのプロセスがインクを吐出しないので、診断プロセスは、印刷ページに印刷しないことになる。これらの実施形態によれば、吐出器診断は、印刷プロセスの全体を通して実行することもできる。印刷コントローラは、どの行が印刷されていない「空白」行かを動的に決定するように構成することができ、印刷されていない行を用いてしきい値を下回る吐出テストを調整するように構成することができる。
【0025】
いくつかの実施形態において、付勢するステップ、検知するステップおよび分析するステップは、複数のページが印刷される間に、ページ実行の直前に、および/または印刷対象のパターンが印刷されていない「空白」行を要求するときに、すべて成し遂げることができる。本明細書で説明される診断手法によって、プリントヘッドの吐出器ごとの正常性を、極めて迅速にかつインクを吐出せずに決定することが可能となる。
【0026】
診断テストに用いられる圧力は、吐出チャンバ内に圧力波を誘発するのに十分であるが、インク滴を吐出するのには不十分である。これらの制約の範囲内にある具体的な圧力は、相互に関係付けることができる相当数の要因に依存する。これらの要因は、例えば吐出器の物理的な構成、例えば吐出チャンバ、吐出器ノズル、開口部、および/またはインク噴出口多岐管の物理的な構成、を含むことができる。要因は、例えば相変化インクまたは室温で液体のインクなどのインクの物理的特性、吐出中のインクの粘度および温度も含むことができる。一般に圧力波を誘発するのに用いられるエネルギーレベルは、一滴のインクを吐出するのに必要な値をちょっと下回る値から、分析器によって検出しかつ特徴付けることができる値をちょっと上回る値までの間のいずれかのレベルとすることができる。いくつかの実施形態において、これは、標準サイズのインク滴を吐出するのに必要なエネルギーレベルの80パーセントと30パーセントの間のエネルギーレベルである。いくつかの実施形態においてこのレベルは、80パーセントを上回るが、100パーセントを下回る。いくつかの実施形態においてこのレベルは、30パーセントを下回る。
【0027】
図5A、
図5B、
図5Cは、誘発された圧力波に対する吐出器応答を自己検知することによって生み出された特性時間領域減衰共振信号波形を図示する。これらの波形は、種々の吐出器状態のために誘発された圧力波に対する流体応答を代表する。
図5Aは、正常な吐出器の特性である。
図5Bは、吐出器が閉塞されると起こる特性波形を図示する。
図5Cは、気泡が吐出器チャンバまたはノズル内に存在していると起こる特性信号を図示する。分析器は、
図5A〜
図5Cに図示された、特定の種類の吐出器用の波形などの特性波形間の相関係数を計算するように構成することができ、この相関係数に基づいて吐出器の状態を決定するように構成することができる。
【0028】
図6は、相当数の吐出器を有するプリントヘッドを診断するために、本システムによって実装することができるプロセスを図示するフローチャートである。いくつかのシナリオにおいて、種々の吐出器状態と関連付けられた相当数の特性波形、例えば、
図5A〜
図5Cに図示したように正常な状態、閉塞された状態、気泡存在の状態などの状態に対する時間領域特性流体応答を、分析器のメモリに記憶することができる。別のシナリオにおいて、分析器は、初期化プロセス中に1つまたは複数の特性波形から成るグループを発生させることができる。任意選択で、分析器は、1つまたは複数の追加の吐出器状態と関連付けられた1つまたは複数の追加の特性波形を特定して、追加の特性波形を同グループに加えることができる。
【0029】
プリントヘッドに属する各吐出器内に圧力波を誘発するステップ、および吐出器ごとに流体圧応答を検知するステップを含む診断テストが、実行される610。各吐出器から得られた流体圧応答の波形が、複数の特性波形から成るグループ内の1つまたは複数の特性波形と比較される630。いくつかの実装形態において、例えば、この比較は、特性波形とテスト波形との相関係数を計算するステップを含むことができる。吐出器テスト波形と特性波形との類似性がしきい値を上回る場合640、同吐出器の状態は特定されており、同吐出器の診断は完了する650。分析するための吐出器テスト波形がさらにある場合、分析器は、全部のプリントヘッド用の診断が完了する670まで、追加の吐出器ごとに続けて波形を分析する660。
【0030】
しかしながら、吐出器テスト波形と特性波形との類似性がしきい値を下回る場合640、かつ比較するための特性波形がさらにある場合、分析器は、次の特性波形を吐出器テスト波形と比較する630。このプロセスは、すべての特性波形がテスト波形と比較されるまで継続する。場合によっては、吐出器によって生み出されたテスト波形は、複数の特性波形のうちのいずれとも整合させることができなくて、分析器は、吐出器の状態を特定することができない690。
【0031】
いくつかの実装形態において、分析器は、種々の吐出器状態を「学習」しながら、追加の特性波形を加えるように構成することができる。例えば、分析器は、特定されていないテスト波形を新たな特性波形としてグループに加えることができる。次の吐出器波形は、今では新たな特性波形を含むグループ内の特性波形と比較することになる。場合によっては、新たな特性波形を操作者に提示することができ、同操作者は新たな特性波形と関連付けられた説明用ラベルを入力することができる。
【0032】
図7は、テストに基づくプリントヘッドの相関マップによって示された、プリントヘッド用吐出器テストの結果を提供する。本例において、正常な吐出器は、90%を上回る、特性標準波形との相関係数を有するものとして、明記されていた。
図7に描写されるように、相関係数は、85%〜100%までの範囲でスケーリングする。特性標準波形に対する相関係数が85%を下回る吐出器は、
図7において白色で示される。
【0033】
図8は、相変化インクの粘度が温度とともに変化するにつれて変化する吐出器流体応答を説明するグラフである。流体応答は、
図8に図示された時間領域減衰共振波形を生み出す。これらの波形は、吐出チャンバ内のインクの4つの温度、115℃、90℃、83℃、および81℃、で発生していた。
図8に示された各グラフは、良好な(標準の)噴出状態の波形と指し示された温度の波形とを比較する。グラフの右側の目盛りは、良好な噴出波形(破線)とテストに基づく波形(実線)との相関関係の計算値を指し示す。この個々のインクおよびインク・ジェット・プリント・ヘッド構成にとって、この分析は、良好に噴出するのに適正となるインクの粘度の温度が115℃、噴出を困難にする始まりの粘度の温度が90℃、噴出が不満足な温度が83℃、および81℃、であることを示す。
【0034】
吐出器の流体応答は、一定の条件下でシフトするまたは変化することができる特性共振周波数を有する。標準のまたは問題の多い状態にある吐出器の特性共振周波数は、同吐出器の状態を診断するために、テスト波形の共振周波数と比較することができる。
図9Aから
図9Dは、共振データを分析する2つのやり方で、すなわち時間領域減衰共振分析によって、ならびに高速フーリエ変換(FFT)中心ピーク周波数分析および/またはFFTピーク幅分析によって、作動中の吐出器および非作動中の吐出器を示すグラフを提供する。
図9Aは、適切に作動中の吐出器の時間領域減衰共振信号のグラフであり、
図9Bは、対応するFFT応答を示す。
図9BのFFTは、本例では165kHzの近くで比較的狭い周波数ピークを示す。
【0035】
図9Cは、非作動中の吐出器の時間領域減衰共振信号のグラフであり、
図9Dは、対応するFFT応答を示す。
図9Dに示されたFFT応答は、
図9Bに示された標準のFFT応答と比較すると、より幅広いピークおよびより低い中心周波数162.5kHzへのシフトを有する。共振周波数のシフトおよび/または共振周波数ピークの幅の変化は、吐出器の機能性の欠如または標準を下回る機能性を示す指標である。
【0036】
図10は、880個の吐出器についての周波数対FFTピーク高さマップを図示する。正常な吐出器は、約160kHz〜170kHzに一団となったFFTピークを有する。著しく異なるピーク高さおよび/または著しく異なるピーク中心周波数を有する吐出器は、このプロット上において同吐出器の問題の原因を示している配置によって、特定することができる。大部分の吐出器は、かなりの作動範囲である160kHzと170kHzの間で一団になっているが、正常なプリントヘッドは、本例において単一周波数、通例は165.7kHz、の極めて近くで作動するすべての吐出器を有することになる。
【0037】
本明細書で説明されるようにプリント・ヘッド・テストは、信号を分離し、増幅し、デジタル化するテスト電子機器を通して共振応答を記録しながら、プリントヘッドに属する吐出器を個々に連続して作動させる分析器の制御下で、実装することができる。電子機器を組み込むと、プリントヘッド電子機器内のデジタル化および分析アルゴリズムは、880個の吐出器プリントヘッドのための取得時間および分析時間を、約200ミリ秒を下回るまでまたは100ミリ秒をも下回るまで、例えば吐出器当たり約0.25ミリ秒を下回るまでまたは吐出器当たり約0.1ミリ秒をも下回るまで、低減することができる。
【0038】
本明細書で説明される実施形態は、吐出チャンバ、吐出器ノズル、インク吐出に用いられるおよび任意選択で自己検知モードにおけるセンサとして用いられる圧電素子、圧電駆動コントローラ、ならびに分析器、を含むインク充填可能インク吐出器を備える。非自己検知の実施形態にとっては、吐出器PZTとは別個のセンサを用いることができる。ノズルは、吐出チャンバに流体で接続される。圧電素子は、吐出チャンバに結合され、同圧電素子は、ノズルを通して標準サイズのインク滴を吐出するのに必要なしきい値を下回る圧力波を発生させるように構成される。センサは、誘発された圧力波に対する吐出チャンバ流体圧応答を検知するように構成され、かつ検知された流体圧応答に基づいて電気信号を発生させるように構成される。分析器は、インク・ジェット・ヘッド・インク滴吐出性能を決定するために、電気信号の1つまたは複数の特性を分析するように構成される。
【0039】
分析手法は、種々の解像度およびノズル数構成のインク・ジェット・プリント・ヘッドを診断するのに用いることができる。本明細書で説明される分析手法は、しばしばより高い品質イメージと関連付けられた高解像度/多重ノズル・インク・ジェット・ヘッドを診断するのに、特に有用であるとすることができる。
【0040】
分析器は、インク・ジェット・ヘッドのインク滴吐出性能を決定するために、電気信号の少なくとも1つの特性を分析するように構成される。このように、分析器は、ノズル閉塞、吐出チャンバへのインク供給不足、吐出チャンバおよびインク供給流路内の気泡、ならびにインク・ジェット・ノズルの前面の濡れのうちの例えば1つまたは複数を含むリストから、少なくとも1つの吐出問題を検出するように設計される。これらの問題と関連付けられた電気的特性は、例えば、周知の良好な信号との時間領域比較、高速フーリエ変換(FFT)中心ピーク周波数、振動減衰の大きさ、またはFFTピーク幅、を含むさまざまな形で観察することができる。いくつかの実施形態において、分析器は、さらに、不都合な問題が発生する場合に印刷を停止させるように構成され、かつ実行すべき次のステップに関するエラーメッセージを送るように構成される。
【0041】
診断システムは、インク・ジェット・プリント・ヘッドのインク吐出器の正常性決定を比較的迅速に実行することができる。いくつかの実施形態において、本装置は、圧力波を発生させ、流体圧応答を検知し、かつ約100ミリ秒を下回る時間で信号を分析するように構成される。この速度およびインク吐出不足によって、印刷対象のパターンが印刷されていない「空白」行を要求するときに、複数のページ間に、および/または実行の始まりもしくは実行の終わりに、本システムが吐出器の正常性検査を実行することが可能となる。このような速度によって、本システムが、正常性テストを定期的に実行することが可能となり、それゆえに印刷された不満足なページ数および/または吐出器の正常性を検出するのに用いられるインクの量が低減される。
【0042】
以下は、本開示における実施形態のリストである。
【0043】
項目1.
吐出器に属するインク充填可能吐出チャンバ内に圧力波を誘発するように、前記吐出器に属する圧電駆動素子を付勢するステップであって、前記誘発された圧力波の強度は、標準サイズのインク滴を前記吐出器が吐出するのに必要なしきい値を下回る、付勢するステップと、
前記誘発された圧力波に対する流体圧応答を検知するステップであって、前記検知するステップに基づいて電気信号を発生させる、検知するステップと、
前記吐出器の吐出性能を決定するために、前記電気信号の1つまたは複数の特性を分析するステップとを備える、方法。
【0044】
項目2.
前記インク・ジェット・ヘッドは、高解像度/多重ノズル・インク・ジェット・ヘッドである、項目1に記載の方法。
【0045】
項目3.
前記流体圧応答を検知するステップは、前記圧電駆動素子を用いて自己検知するステップを備える、項目1から2のうちのいずれかに記載の方法。
【0046】
項目4.
前記信号の特性を分析するステップは、インク粘度、ノズル閉塞、前記吐出チャンバへのインク供給不足、前記吐出チャンバおよびインク供給流路内の気泡、ならびに前記インク・ジェット・ノズルの前面の濡れのうちの少なくとも1つを検出するステップを備える、項目1から3のうちのいずれかに記載の方法。
【0047】
項目5.
前記信号の前記特性を分析するステップは、時間領域および周波数領域のうちの少なくとも1つの領域内の前記信号を分析するステップを備える、項目1から4のうちのいずれかに記載の方法。
【0048】
項目6.
前記特性は、周知の良好な信号との時間領域比較、高速フーリエ変換(FFT)中心ピーク周波数、振動減衰の大きさ、またはFFTピーク幅のうちの少なくとも1つを備える、項目1から5のうちのいずれかに記載の方法。
【0049】
項目7.
前記付勢するステップ、検知するステップ、および分析するステップは、連続するページを印刷する間にまたは印刷対象の前記パターンが印刷されていない行を要求するときに起こる時間間隔で実行される、項目1から6のうちのいずれかに記載の方法。
【0050】
項目8.
前記付勢するステップ、検知するステップ、および分析するステップは、約880ノズルを有するインク・ジェット・プリント・ヘッドに対して、連続するページを印刷する間に起こる時間間隔であって約100ミリ秒を下回る時間間隔で実行される、項目1から7のうちのいずれかに記載の方法。
【0051】
項目9.
分析するステップは、不都合な問題が検出される場合に前記印刷を停止させるステップ、およびエラーメッセージを送るステップをさらに含む、項目1から8のうちのいずれかに記載の方法。
【0052】
項目10.
圧力波を誘発するように前記圧電駆動素子を付勢するステップは、標準サイズのインク滴を吐出するのに必要なエネルギーレベルの約80パーセントと20パーセントの間にあるエネルギーレベルで、前記圧電駆動素子を付勢するステップを備える、項目1から9のうちのいずれかに記載の方法。
【0053】
項目11.
圧力波を誘発するように前記圧電駆動素子を付勢するステップは、前記流体圧応答を最適に検知して前記電気信号の1つまたは複数の特性を分析するために、前記圧電駆動素子を付勢する駆動信号の時間および電圧形状を修正するステップを備える、項目1から10のうちのいずれかに記載の方法。
【0054】
項目12.
インク吐出器に属するインク充填可能吐出チャンバと、
吐出チャンバに流体で接続されたノズルと、
前記インク・ジェット・ヘッド吐出チャンバに結合された素子であって、前記ノズルを通して標準サイズのインク滴を吐出するのに必要なしきい値を下回る圧力波を発生させるように構成された圧電駆動素子と、
前記誘発された圧力波に対する吐出チャンバ流体圧応答を検知するように構成され、かつ前記検知された流体圧応答に基づいて電気信号を発生させるように構成されたセンサと、
前記インク吐出器の吐出性能を決定するために、前記電気信号の1つまたは複数の特性を分析するように構成された分析器とを備える、装置。
【0055】
項目13.
前記センサは、検知モードで作動する前記圧電駆動素子である、項目12に記載の装置。
【0056】
項目14.
前記分析器は、インク粘度、ノズル閉塞、前記吐出チャンバへのインク供給不足、前記吐出チャンバおよびインク供給流路内の気泡、ならびに前記インク・ジェット・ノズルの前面の濡れのうちの少なくとも1つを検出するように構成される、項目12から13のうちのいずれかに記載の装置。
【0057】
項目15.
前記装置は、前記圧力波を発生させるように構成され、前記流体圧応答を検知するように構成され、かつ約100ミリ秒を下回る時間後に前記信号を分析するように構成される、項目12から14のうちのいずれかに記載の装置。
【0058】
項目16.
前記分析器は、前記吐出性能を決定するために、前記電気信号を時間領域特性波形と比較するように構成される、項目12から15のうちのいずれかに記載の装置。
【0059】
項目17.
前記分析器は、前記吐出性能を決定するために、前記電気信号を周波数領域信号と比較するように構成される、項目12から15のうちのいずれかに記載の装置。
【0060】
項目18.
前記分析器は、前記吐出性能を決定するために、前記電気信号の高速フーリエ変換(FFT)のピーク周波数もしくはピーク幅のうちの一方または両方を所定のしきい値と比較するように構成される、項目1から15のうちのいずれかに記載の装置。
【0061】
項目19.
複数の吐出器を含むプリントヘッドを備えるインク・ジェット・プリンタ用プリントヘッドであって、
各吐出器は、
インク充填可能吐出チャンバと、
吐出チャンバに流体で接続されたノズルと、
前記吐出チャンバに結合された素子であって、前記ノズルを通して標準サイズのインク滴を吐出するのに必要なしきい値を下回る圧力波を発生させるように構成され、前記誘発された圧力波に応答して吐出チャンバ流体圧を検知するように構成され、かつ前記検知された流体圧応答に基づいて電気信号を発生させるように構成された圧電素子と、
前記複数の吐出器に属する複数の圧電駆動素子を制御するように構成された吐出器制御ユニットと、
プリントヘッド吐出性能を決定するために、前記複数の吐出器に属する複数の圧電素子によって発生した前記電気信号の1つまたは複数の特性を分析するように構成された分析器とを備える、プリントヘッド。
【0062】
項目20.
前記分析器は、前記プリントヘッド吐出性能を決定するために、各吐出器の前記電気信号を1つまたは複数の周知の時間領域特性波形と比較するように構成される、項目19に記載のプリントヘッド。
【0063】
項目21.
前記分析器は、前記プリントヘッド吐出性能を決定するために、各吐出器の前記電気信号の高速フーリエ変換(FFT)のピーク周波数もしくはピーク幅のうちの一方または両方を所定のしきい値と比較するように構成される、項目19に記載のプリントヘッド。
【0064】
別段の指示がない限り、本明細書および請求項で用いられる加工寸法、量、および物理的性質を表すすべての数は、すべての場合において用語「約」によって修正されていると理解すべきである。したがって、反対の指示がない限り、上述の明細書および添付の請求項に説明した数値パラメータは、本明細書で開示された教示を利用して当業者が得ようとする所望の性質に依存して、変化することが可能な概算である。端点によって数値範囲を用いると、その範囲内のすべての数(例えば1から5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、および5を含む)およびその範囲内の任意の範囲が含まれる。
【0065】
上述した種々の実施形態は、個々の結果を提供するように相互作用する回路構造および/またはソフトウェアモジュールを用いて実装することができる。コンピュータ技術分野の当業者は、このように説明された機能性を、一般に当技術分野で周知の知識を用いて、モジュールのレベルでまたは全体として容易に実装することができる。例えば、本明細書で説明されたフローチャートは、プロセッサによって実行するためのコンピュータ読み取り可能な命令/コードを作り出すのに用いることができる。このような命令は、コンピュータ読み取り可能媒体に記憶して、当技術分野で周知のように実行するためのプロセッサに転送することができる。上述した構造および処理手順は、上述したようにインクジェット吐出器診断を容易にするのに用いることができる実施形態の代表例にすぎない。
【0066】
例示的な実施形態の上述した説明は、例示および説明のために提示されている。網羅的であるように、または本発明の概念を開示された正確な形状に限定するようには意図されていない。多くの修正形態および変形形態が、上述した教示を考慮して可能である。本開示の実施形態の任意のまたはすべての機能は、個々にまたは任意の組み合わせで適用することができ、限定するように意味するものではなく、単に例示的な意味にすぎない。当該の範囲は、本明細書に添付された請求項によって限定されるが、詳細な説明が原因では限定されないように意図されている。